真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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絶望に染まる世界で、一人の少女が"勇者"の力に選ばれたーー




混沌-こんとん-

星の様に見えたものの一つが、神楽殿の屋根に落下する。それはやはり鳥などでは無かった。全身が不自然な程に白く、人よりも遥かに巨大で、不気味な口の様なものを持つ"何か"。

 

深海生物や不完全な無脊椎動物の様にも見て取れる。しかし、それは明らかに人知を超えた"何か"。コレに敢えて名前をつけるとしたらこうだろう---"化け物"。

 

それは一匹では無かった。二匹、三匹と次々に落ちてきて、神楽殿の屋根や壁を食い破り、中に侵入していく。

 

友希那「なんなの……あれ…!」

 

目の前に映る異常な光景に友希那は呆然と立ち尽くすしかなかった。すると、さっきまで青ざめ震えていたリサがゆっくりと立ち上がる。リサの目にはどこか異様な光が宿り、口からは呪詛の様な言葉が漏れていた。

 

リサ「…………………………。」

 

声をかけようとした途端、神楽殿の中から、悲鳴と共に人々が次々に逃げ出してきた。

 

友希那「まずい!」

 

咄嗟に友希那が神楽殿へ駆け出そうとすると、リサがその手を掴んだ。

 

リサ「アタシも行く。」

 

リサの目からはさっきの異様な光は消え、代わりに強い意志が感じられた。口調も元に戻っている。リサの状況を考えるのを後に回し、友希那達は神楽殿へと駆け出すのだった。

 

 

 

 

---

 

 

 

神楽殿へと辿り着く2人。そこで目の当たりにした光景はーー喰らわれる人間達の凄惨な姿だった。

 

白い化け物は、その口の様な器官で逃げ遅れた人達を貪っている。化け物の口は血で真っ赤に染まり、巨体の下には喰い散らかされた人間だったものが辺り一面に残っていた。そしてその中には友希那達のクラスメイトの、変わり果てた姿もあった。

 

友希那「あ……あぁ………。」

 

目の前の光景が信じられなかった。つい数十分程前まで楽しく話していたクラスメイト達が、今は物言わぬ姿に成り果てているのだ。

 

友希那「うぅ………ううああああああぁっ!!」

 

友希那は化け物に向かって駆け出した。友達を殺されたという怒りと、これ以上誰も殺させないという使命感が、友希那を突き動かしたのだ。走りながら、屋根の残骸である木材の切れ端を手に取り、化け物の一匹に突き刺す。しかし、手応えは全く無かった。そして虫でも払うかの様に、巨体によって友希那は吹き飛ばされてしまう。小さな体は、社殿奥にある祭壇の上に落下。祭壇が壊れ、友希那の全身に衝撃と痛みが走った。

 

友希那「うっ………く……。」

 

衝撃で体が動かない。頭だけを動かして周りを見た。反応が早かった人達は既に神楽殿の外に逃げていたが、他の生徒達の一部は怯えて動けなくなってしまっていた。

 

友希那「に………げて……。」

 

呼び掛けるものの、擦れて声にならない。やがて逃げ遅れた生徒達、そして友希那の元にも化け物が迫ってきた。

 

その時、リサの声が響く。

 

リサ「友希那!右手を伸ばして!そこにある筈だよ!」

 

友希那(手を………?)

 

友希那は言われるがままに右手を伸ばす。そこには確かに何かがあった。

 

それは刀だった。錆び付いた古い刀と鞘が、壊れた祭壇の中にあったのだ。

 

友希那(どうしてこんな所に……?)

 

何かに引き寄せられるかの様に友希那は刀の柄を握る。

 

 

 

 

 

 

 

友希那「っ!?」

 

ドクンと、急激に血が全身を駆け巡った。それと同時に、身体が別のものに作り替えられる感覚になり、感じた事の無い力が湧き出してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

古の時代、"無数の武器"の名を持つ地の神の王がいた。

 

 

彼は仲間の神と共に、自らの国と子達を守ろうとした。

 

 

かの王の持つ神器の中に、冥府に由来する一本の刀がある。

 

 

単純で。それ故に美しく。並ぶものなき殺傷力を持つ武器。その名はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「"生太刀(いくたち)"………!」

 

 

気がつくと、友希那はその刀を持って立ち上がっていた。錆びていた筈の刀身は、いつの間にか生きているかの様な瑞々しい輝きを帯びている。

 

友希那は刀身を鞘に収め、左足を踏み出して柄を握り、化け物の姿を見据える。友希那の姿を見た化け物の巨体が迫る。

 

次の瞬間、化け物はひと断ちの下斬り伏せられ、形容し難い声を上げながら消滅した。すぐ様友希那は神楽殿で蠢く化け物を次々に消滅させていく。まるで昔からこの生太刀を使っていたかの様な不思議な感覚。刀が自分の手足と同じに扱え、身体は風の様に速く動かす事が出来た。

 

リサ「友希那!外にも変なのが溢れてる!」

 

リサが友希那に駆け寄り叫ぶ。すぐ様友希那は神楽殿の外に駆け出すのだった。

 

 

 

---

 

 

いつの間にこれ程湧いたのか、神楽殿の外には大量の化け物が蠢いていた。逃げようとした人々は、退路を無くし絶望にくれている。

 

友希那「…………あれは……!?」

 

化け物に駆け寄ろうとした瞬間、突如化け物に異変が起こる。複数の個体が一纏めに固まり、まるで粘土の様にその姿を変化させたのだ。

 

ある個体はムカデの様に長い体形となり、ある個体は体表面に矢の様なものを発生させ、ある個体は体組織の一部が角の様に硬質化して隆起している。

 

友希那(進化してる………とでも言うの?)

 

化け物は単体では友希那に勝てないと学習したのだろう。化け物が自分達より強力な存在に対抗する為に選んだ手段は"進化"であった。

 

生物の進化とは、最も単純な形態である単細胞生物から始まり、それが集まって群体生物となり、それが最終的に複雑な身体機能を持つ多細胞生物へと辿り着いたという。今友希那の目の前で起こっている事は正に生物の進化そのもの。しかし、その速度は異常だった。地球上の生物が単細胞生物から多細胞生物へと至った時間は数十億年。それをあの化け物は僅か数分で成し遂げている。

 

ある意味、この化け物は生物を超えた何か。"神"若しくは"悪魔"の様な。

 

集合し大型化した個体の一匹が、その体に発生した矢を射出する。矢は進行方向にいた数人の人間を貫き、神楽殿を破壊する。その間にも化け物の小型体は次々とその数を増やし、集合と合体を繰り返しながら大型の個体へと進化していく。最早友希那の頭の中から、勝てるなどという考えは消え失せていた。桁外れの破壊力を持ち、無尽蔵に増え続ける化け物にどう立ち向かえば良いのか。

 

眼前に広がる絶望に全身が[[rb:頽 > くずお]]れそうになった時、友希那を支えたのは一番の親友だった。

 

リサ「諦めないで、友希那!」

 

友希那「リサ………。」

 

リサ「友希那やみんなを死なせたりはしない!」

 

その言葉からは、はっきりとした確証があるかのような自信に満ちている。そして、リサはその場にいる人々全員に向かって叫ぶ。

 

リサ「これからアタシについて来て!安全な場所に誘導するから!」

 

リサは迷いのない歩調で歩き出す。その姿からはとても同い年とは思えない凛とした空気があった。

 

友希那「リサ、何処へ……?」

 

リサ「友希那は露払いをお願い。」

 

質問には答えず雄弁に答えるリサ。今の彼女には、有無を言わさぬ雰囲気があった。

 

友希那「………分かったわ。」

 

迷っている暇は無かった。今は一番の親友を信じるしかないから。

 

友希那「死にたくない人は、私達について来て!」

 

先頭に立って走り出す友希那とリサに、戸惑いながらも他の人々は動向する。進む先にいる化け物は友希那が斬り伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして友希那達が辿り着いたのは、神社の本殿だった。本殿は周囲を門と壁に囲まれていて、何故か化け物達はこの中には一匹も現れていなかった。

 

リサ「ここならあの化け物は入ってこれないよ。」

 

肩の荷が下りたのか、ホッとした表情でリサが言う。ついて来た人達も不安気な表情をしながらも、力が抜けた様にその場に座り込んだ。

 

友希那「どうして此処が安全だって分かったのかしら?」

 

リサ「えっとね……何となく…かな。」

 

首を傾げ、リサは答えた。

 

友希那「な、何となくなのね……。」

 

思わず笑みが溢れてしまう。

 

リサ「でも、いつまでも此処にいる訳にはいかないね。」

 

友希那「そうね……。」

 

リサ「だけど大丈夫。こっから先も、安全な道は分かるから。」

 

友希那「それも、何となくかしら?」

 

リサ「うん。」

 

リサは微笑み頷いた。その迷いの無い口調は、不思議と信じても良いと思えた。友希那自身に戦う力が宿ったのと同じ様に、リサにも何か特別な力が宿ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

休息を取った後、友希那達は避難者と共に本殿を出た。リサの指示通りに進むと、何故か化け物と遭遇する事は殆どなく、たまに出会ったとしても、友希那がそれを斬り伏せた。

 

友希那達は南東へ進んでいた。何日も歩き続けた。しかし、その間一度として太陽が昇る事は無く、世界全体が闇に包まれていた。あらゆる建物が崩壊し、町は半ば水没状態、化け物に喰い殺されたであろう無数の死体、地平の彼方は巨大な炎が絶えず燃え続け、大気は死臭で満ちている。

 

友希那(私達の世界は………奪われてしまったのね…。)

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ歩いただろうか。友希那達は海に辿り着いた。海の向こうは故郷である四国。本州と四国を繋ぐ大橋は、人々を導くかの様に、破壊される事なく元の形を保っていた。

 

 

 

 

---

 

 

 

あの絶望から三年が経った。友希那は中学二年生になっていた。

 

リサ「ゆーきな。」

 

背後から聞こえたリサの声で友希那は我に返る。友希那とリサの関係は今も変わってはいない。二人は一番の親友同士である。ふと、リサは真剣な表情で海の向こうを見る。

 

リサ「今日も此処に来てたんだね。」

 

友希那「…………ええ。」

 

三年前の今日、友希那達が見た白い異形の化け物ーー後に"バーテックス"と名付けられたそれは、世界中に出現し、人類を蹂躙した。四国や長野、ごく限られた一部の地域だけが、何故かその侵攻から逃れられているらしい。裏を返せば、そこ以外の場所は今や人類のものではなく、バーテックスの支配下に置かれてしまったと言ってもいい。その異常事態の中で、極々僅かな少女達が特殊な力を発揮したのだ。友希那とリサもその一人である。その力があったからこそ、二人は神社に避難していた多くの人々を救う事が出来た。

 

しかし、あの時に失われてしまった命も沢山あった。神楽殿で逃げ遅れ、バーテックスに殺されてしまった人達。その殆どが友希那達と同学年の修学旅行に来ていた生徒達だった。

 

 

 

---

ーー

 

 

クラスメイトB「あはは、面白い!大丈夫だよ。私達、もう湊さんとは友達だし。」

 

 

ーー

---

 

 

あの夜、そう言ってくれたクラスメイト達ももういない。彼女達の笑顔を、友希那は今でも忘れてはかった。

 

生き残った生徒達も、目の前で友人を惨殺された精神的なショックは大きく、日常生活に支障をきたしている人も少なくない。

 

友希那「…………バーテックスは罪のない多くの人々を、そして私の親友の命を奪った。」

 

"何事にも報いを"。それは湊家の生き様である。

 

友希那「必ずバーテックスに報いを受けさせる。そして、奪われた世界を取り戻す。」

 

リサ「そうだね。アタシも、友希那について行くよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2018年ーー

 

 

湊友希那は、神の力を使う"勇者"。

 

 

今井リサは、神の声を聞く"巫女"。

 

 

その役目を担っている。

 

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