真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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勝てば好きな命令が出来る。模擬戦も兼ねて始まったバトルロワイヤルの火蓋が切られた。

勝者は、願いを叶えるのは誰だーー




決闘-けっとう-

 

丸亀城、二の丸ーー

 

草むらに身を隠しながら、紗夜は目の前で行われている戦いを見守っていた。

 

対峙しているのは友希那と香澄。共に幼い頃から武術の訓練を受け、戦闘能力は抜きん出ている。今回のバトルロワイヤルでも、優勝候補筆頭の二人だ。

 

友希那「香澄、あなたとは一度全力で戦ってみたかったわ。」

 

香澄「うん、私も!手加減はしないからね!」

 

友希那の武器は、中に鉄芯を入れて強度と重量を上げた木刀。居合い用に鞘も付いている。

 

香澄の武器は鉄製の手甲だが、攻撃を受けた相手が怪我をしないよう、鉄の周りには布が巻かれている。

 

自らの前を認めるか、若しくは本来の武器であれば致命傷となる攻撃を受けた場合、プレイヤーはリタイアとなる。

 

紗夜(…………。)

 

紗夜は息を飲み、二人の対決を見守る。紗夜の作戦は、最初のうちは身を隠し、他プレイヤーが戦いあって人数が減るのを待つ。そして疲労したところを一気に狙い撃つ作戦だ。

 

紗夜(湊さんも高嶋さんも、強敵…どちらかがリタイアになればありがたいわね。)

 

真剣な表情で向かい合う二人。友希那が木刀の柄に手をかけた。

 

友希那「先手必勝よ!」

 

香澄「どりゃあああっ!」

 

その瞬間、香澄は間合いを詰め、正拳突きを叩き込む。しかし香澄の一撃に完璧なタイミングを合わせ、友希那は木刀を鞘走らせる。香澄の拳と友希那の木刀が、重い音を立ててぶつかり合う。

 

友希那「はぁあああっ!」

香澄「うぉおおおっ!」

 

木刀と拳が何度も交差する。実力は伯仲していた。両手を使う分、手数は香澄の方が多い。だが、一撃の重さは友希那の方が上である。

 

香澄「てやあっ!」

 

香澄の拳が、友希那の木刀を弾き飛ばす。

 

友希那「くっ!」

 

香澄「これで終わりだよ!」

 

トドメの一撃が叩き込まれる寸前、友希那は鞘を武器に持ち変え、香澄の胴へ振るう。

 

香澄「うわっ!?」

 

不意を突かれた攻撃だったが、香澄は咄嗟に左腕でガードし、カウンターを防御する。しかし重い重量のため、香澄は吹き飛ばされてしまう。

 

友希那は追撃しようと迫るが、そこに紗夜が割って入ってきたのだった。

 

紗夜「させません!」

 

模擬戦用の大鎌を、友希那に向けて振るう。間一髪で友希那はその攻撃を躱すが、香澄への追撃は止められてしまった。

 

紗夜(どちらかがリタイアするまで、出ていくつもりは無かったのですが……高嶋さんのピンチについ体が…。)

 

香澄「ありがとう、紗夜ちゃん。助かったよ。」

 

紗夜「気にしないでください…。」

 

最初は後悔した紗夜だが、香澄の笑顔を見ると後悔など無いと思い直す。その間に友希那は弾かれた木刀を拾い直し距離を取った。

 

友希那「仕切り直しね。」

 

紗夜「ですが、二対一です。あなたに勝ち目はありませんよ。」

 

あこ「いや、三対一です!」

 

戦いの音を聞きつけて来たのか、あこも二の丸に姿を現したのだ。あこは今回の戦いで、一番の強敵は友希那だと判断していた。

 

あこ(実力的には友希那さんと香澄は拮抗してるけど、香澄は性格的に"仲間同士の戦い"じゃ本気を出せない。一方で友希那さんは容赦はしない……なら、先に三人で友希那さんを倒しておくべき!)

 

友希那「良いわ………三人まとめて来なさい!居合いには一対多を想定した戦い方が多くあるわ。」

 

友希那は腰を落とし、納刀した木刀の柄に触れ、香澄達もそれぞれ構えを取った。

 

そこから決着が着くまでに掛かった時間は、ほんの数秒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、跳躍して上から鎌を振り下ろした紗夜を、友希那の一刀目がカウンターで切り捨てる。氷川紗夜、リタイア。

 

香澄「紗夜ちゃーー」

 

斬られた紗夜を心配し、香澄の動きが一瞬だけ鈍る。友希那はその隙を見逃さず、一刀目から流れるような動きで香澄を斬る。高嶋香澄、リタイア。

 

直後のあこの判断は速かった。一対一での正面対決では友希那に勝てないと結論付け、全力で踏み留まり、踵を返してその場を離れる。

 

友希那「あこ、逃げる気?」

 

あこ「撤退も戦略です!」

 

あこは石垣から飛び降り、林の中に飛び込んで姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

友希那は天守閣の屋根に立ち、あこの姿を探していた。そして天守閣で双眼鏡を覗きながら戦況を見ているリサに友希那は問いかける。

 

友希那「リサ、残ってるのは誰?」

 

リサ「友希那とあこだけだよ。」

 

友希那「燐子はリタイア?」

 

リサ「うん、最初にね。あこと戦って負けちゃった。」

 

友希那「なら、残りはあこだけ……。」

 

遠距離からの攻撃に気をつけ、接近戦に持ち込めば、あこに負けることはないだろう。あこの旋刃盤よりも、友希那の刀の方が接近戦は圧倒的に有利だ。

 

 

 

 

 

 

 

突如、天守閣の下の木々の間から旋刃盤が飛び出し、友希那に向かって飛来する。周囲に気配を張り巡らせていた為、不意を突かれることは無く、友希那は難なくその一撃を躱し、旋刃盤がやって来た方向へ跳躍した。その先にはあこがいる筈だ。

 

あこ「しまった!」

 

あこは旋刃盤を手元に戻そうとするが、遅かった。旋刃盤が戻るよりも早く、友希那はあことの距離を詰め、鞘から抜き放った木刀で斬るーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「っ!?」

 

ーーよりも早く、精密な狙いで放たれた矢が、友希那の右手に当たった。矢の先端にはゴムの保護材が付いているので刺さりはしないが、衝撃で木刀を落としてしまう。更に間髪入れずに放たれた二本目の矢が鞘も弾き飛ばした。

 

友希那「矢……!?燐子はリタイアした筈…!?」

 

友希那はその答えを知る間も無く、引き戻されたあこの旋刃盤を背中に受け、地面に落ちていく。

 

落下した後、友希那はあこの旋刃盤のワイヤーで縛られ、動きを完全に封じられてしまう。あこ、そして燐子が拘束された友希那の前に立ち、燐子はクロスボウを友希那へ向けていた。

 

友希那「くっ…….燐子は先にリタイアしたって聞いたけど…。」

 

燐子「今井さんに協力してもらいました…。もし誰かが戦況を尋ねてきたら、私はリタイアしたと伝えて欲しいって……。」

 

友希那「何ですって……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「友希那……ごめんね。」

 

その頃、丸亀城天守閣にいるリサは、申し訳なさそうに呟いた。

 

リサ「アタシは別に審判じゃないから、本当の事を言うって義務は無いんだ。」

 

リサはスマホに目を向ける。そこに写っていたのは、戦闘訓練中の友希那の姿。普段、勇者の訓練中、リサは別室で巫女用の訓練を受けている。そのため、リサは友希那の訓練姿を撮ることが出来ない。この写真は、燐子に協力する代わりに受け取った報酬だった。

 

リサ「これで友希那コレクションがまた一つ充実したなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「………私の負けね。トドメを刺して。」

 

友希那は潔く敗北を認める。

 

あこ「あこ達のチームワークの勝利だね!」

 

思えば三対一の際、二人がやられあこが撤退した時から、既に作戦の一環だったのだ。あこと燐子は最初から組んでいた。あこが敵を引きつけ、その隙に燐子がクロスボウで倒す。模擬戦が始まる前から二人で話し合ってそう決めていた。

 

燐子「では友希那さん…これで決着です……。」

 

燐子はゆっくりとクロスボウのトリガーを引く。だが、その矢は友希那に当たることは無かった。

 

あこ「痛いっ!」

 

放たれた矢はあこの額に当たったのだ。

 

友希那・あこ「「……………え?」」

 

二人は同時にキョトンとする。

 

燐子「これであこちゃんもリタイアです……。友希那さんも先程負けを認めたのでリタイアですね……。私の優勝です…。」

 

あこ「ええええええええっ!?」

 

どうやら燐子に騙されていたのは、友希那だけではなかったようだ。

 

友希那「………やはり燐子は策士ね。」

 

あこ「一番最初に倒しといた方が良かったのは……りんりんだった……。」

 

あこはがっくりと肩を落として呟くのだった。

 

 

 

 

---

 

 

 

こうして、第一回バトルロワイヤル模擬戦は、燐子の勝利に終わった。勝者の権利として、燐子は他の勇者達に命令を下せるのだが。

 

あこ「優勝者はりんりんで決まったけど…。」

 

友希那「何かしたい事はある?」

 

燐子「えっと、じゃあ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

燐子以外「「「バンドをやってみたい!?」」」

 

燐子「はい…。以前、テレビで見てみんなでやってみたいなって…ダメ、でしょうか…。」

 

紗夜「優勝者のお願いは絶対だから拒否する権利はありません。」

 

リサ「面白そうっ!やってみよう!!」

 

リサは大社へ連絡して楽器を用意してもらった。

 

 

 

 

 

楽器が届くまでの間、友希那達はそれぞれのパートを決める為に話し合いをしていた。

 

リサ「まずはパートをどうしようか。」

 

あこ「はいっ!あこはドラムが良いです!何か縁の下の力持ち的な感じで。」

 

燐子「じゃあ、私はキーボードにします…。」

 

香澄「ねぇ紗夜ちゃん、私とギターやらない?」

 

紗夜「高嶋さんがそう言うなら、やりましょう…。」

 

香澄「残りは…ベースとボーカルだね。」

 

リサ「私がベースやるから、友希那はボーカルやって。」

 

友希那「えっ!?何で私が…。」

 

リサ「友希那はリーダーだし、いつもみんなを鼓舞してるからボーカル似合ってるって。」

 

友希那「でも…。」

 

迷っている友希那に燐子が頭を下げる。

 

燐子「友希那さん…お願いします…。」

 

リサ「だって。優勝者のお願いは絶対でしょ。」

 

友希那「…分かったわ……。」

 

 

 

 

 

こうしてそれぞれのパート以下に決まる。

 

 

ドラム・あこ

キーボード・燐子

ベース・リサ

リードギター・紗夜

ギター・香澄

ボーカル・友希那

 

 

 

 

そして友希那達は早速曲作りと楽器練習に取り掛かかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後ーー

 

リサ「よし、合わせてみよっか。」

 

リサがみんなを集め、演奏の準備をする。せっかくだからと明日香にお客として来てもらった。

 

あこ「来てくれてありがとね、明日香。」

 

燐子「忙しくなかった…?」

 

明日香「大丈夫だよ。せっかくあこと燐子さんが誘ってくれたんだから。無理矢理にでも時間作るよ。」

 

友希那「それじゃあ、みんな準備は良いかしら?」

 

リサ「オッケー!」

 

あこ「はい!」

 

燐子「大丈夫です…!」

 

香澄「バッチリ!」

 

紗夜「問題ありません。」

 

友希那「それじゃあ行くわよ--"HEROIC ADVENT"」

 

 

 

 

〜♩

 

 

 

 

 

 

友希那「どうだったかしら?」

 

明日香は立ち上がって拍手し、みんなを褒め讃えた。

 

明日香「最高でした。たった1週間でこれだけの完成度はさすが勇者ですね。」

 

リサ「みんな必死で練習したもんね。」

 

あこ「あこ、頑張りすぎてマメ出来ちゃいました。」

 

燐子「頑張った証拠だよ…。」

 

香澄「紗夜ちゃんも完璧だったよ!」

 

紗夜「高嶋さんも上出来でした。」

 

みんながみんなを褒め合った。

 

友希那「燐子…。満足出来た?」

 

友希那が燐子に尋ねる。

 

燐子「はい…っ!!大満足です…!」

 

燐子は笑顔で答える。

 

あこ「もう一回、もう一回演奏しよう!」

 

あこが言った。

 

リサ「良いね、アンコールってやつだね。」

 

友希那「仕方ないわね…。」

 

こうして七人は束の間のひと時を満喫したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日香が帰った後、燐子は紗夜に声をかける。

 

燐子「実は…紗夜さんにはもう一つだけ、命令があるんです…。」

 

紗夜「え……?」

 

怪訝そうな顔をしていると、燐子は机の中から白い用紙を取り出して、紗夜に差し出した。用紙には"卒業証書"と書かれている。

 

燐子「命令は………これを受け取ってください…です…。」

 

紗夜「これは……。」

 

紗夜が呆然としてその卒業証書を見つめていると、香澄が微笑みながら言う。

 

香澄「よく考えたら、紗夜ちゃんは三年生だから、本当はもう卒業なんだよね。だから卒業証書、私達で作ったんだ。」

 

同じ教室で授業を受けているため、お互いに殆ど意識はしないが、紗夜は中学三年生。普通の学校であれば、卒業式を迎えている時期なのだ。

 

あこ「でも、学年が一つ上がるだけで、学校もここから変わりませんけどね。」

 

友希那「だけど、形だけでもこういうのはやった方が良いわ。」

 

リサ「そうだね。」

 

学校も変わらないから、意味を感じなかったりから、紗夜自身は"卒業"という行事を忘れていた。だけどーー

 

 

 

紗夜「そう…ですか……。命令なら、仕方ありませんね……。」

 

そう言って、紗夜は卒業証書を受け取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日の中、友希那達は寄宿舎へ帰っていく。

 

あこ「あーあ、バトルロワイヤル模擬戦、りんりんに騙されなかったら勝ってたのにぃ!」

 

燐子「でも…あこちゃんだけだったら、友希那さんには勝てなかったかも…。」

 

あこ「えー!りんりん酷いよー!」

 

友希那「香澄、次は全力で来なさい。」

 

香澄「え?全力だったよ?」

 

友希那「いいえ、バーテックスと戦ってる時より、明らかに動きが鈍かったわ。」

 

紗夜「今度同じ戦いをやったら負けません。」

 

リサ「紗夜は香澄の戦いに飛び出してなかったら、優勝出来てたかもしれないね。燐子に対抗出来る戦術だったし。」

 

和気藹々としながら、歩く勇者達。

 

友希那「また、近いうちにこうして、みんなで遊べる機会を持ちましょう。」

 

その言葉に全員が頷いた。

 

あこ「そうだ!あこ達のバンド名どうしましょうか?」

 

友希那「そう言えばまだ付けてなかったわね。」

 

リサ「何か良い案無い?」

 

友希那「うーん、紗夜どう?」

 

紗夜「そうですね…私達勇者は花をモチーフにした勇者装束を着ています。その事から考えると…。」

 

あこが丸亀城を見回した。

 

あこ「周りに植わってる花は薔薇と椿ぐらいですねー。」

 

紗夜「薔薇と椿。"Rose"と"Camellia"………いっその事合わせて"Roselia"なんてどうでしょう…。」

 

あこ「良いですね、"Roselia"!」

 

香澄「カッコいいよ、紗夜ちゃん!!」

 

燐子「私は、依存無しです…。」

 

リサ「あも。紗夜も中々やるねー。」

 

友希那「そうね…。私達らしいわ。」

 

 

丸亀城から見える瀬戸内海は、いつもと変わらぬ穏やかな姿を見せている。

 

 

 

 

 

バーテックスの襲撃は、まだ起こらないーー

 

 

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