真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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守られている側は時に身勝手になる。守ってもらえる事が当たり前だと感じるようになるからだ。

だから勇者が負けた時、一斉にそれを叩いてしまう。

そしてそれは、勇者を傷付ける刃となるのだ。




憎悪-ぞうお-

 

 

海に落ちた香澄を救出した後、友希那と紗夜は結界の中へ退却した。香澄の症状は、精霊の力に肉体が耐え切れなかったためらしく、すぐさま再入院となった。

 

友希那と紗夜では"完成型"に一切ダメージを与えられず、唯一有効な攻撃手段を持つ香澄は戦闘不能。今の段階では、結界の外の"完成型"を倒す手段が無い。"完成型"は体の形成を優先していて、四国へ攻めてくる気配は無いため、それまでに対策を立てようという結論を大社は下した。

 

友希那(燐子が生きていれば……何か良い作戦を考えてくれたかもしれないわね………。)

 

友希那の中で悔しさと悲しさが渦巻く。行き詰まった現状を打開する方法は、全く見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

その夜、紗夜は自室の机に勇者の記事が載った古い週刊誌や新聞を積み上げた。拠り所であった香澄は再び入院し、会うことも出来ない。今の紗夜にとって心の支えになるものは、"自分が勇者である"という事のみ。勇者である自分の価値を認めてくれる人々の声だけだ。

 

今まで発行されてきた新聞や週刊誌には、勇者を賞賛する記事が沢山載っている。記事の内容の多くは友希那を中心としたものだが、勿論紗夜も勇者の一人として讃えられている。それらの言葉は、今にも崩れそうな紗夜の心をギリギリで保たせてくれる。ある種の麻薬の様なものだ。

 

紗夜はノートパソコンを起動し、更に勇者を賞賛する記事をネットから探す。四国の人々にとって勇者は偶像的存在。ネットにも彼女達を賞賛する声は多いはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「……………そんな……!?」

 

 

 

ネットを見ている紗夜は目を疑うものを見つける。大社は勇者の敗北をまだ公表していなかった筈なのに、一部の者が噂話のようにそのことをが話しているのだ。

 

 

 

 

『新しいタイプの化け物が出てきて、全く歯が立たずに何人か勇者が殺されたんだって。』

 

 

『死んだのは宇田川あこと白金燐子。』

 

 

『政府と大社は真実を隠蔽している!』

 

 

『勇者負けたってマジかよ。役立たねぇな。』

 

 

『この前凄い竜巻あったじゃん。あれってその新しいタイプの化け物のせいだよ。』

 

 

『勇者が化け物を倒せなくて、詳しい事は分からんが、そのせいで竜巻が起こった。』

 

 

『我々市民には真実は何も伝えられないのだ!』

 

 

『俺達を守れてねぇじゃん勇者。』

 

 

『しょせんこの程度。』

 

 

『俺は前から言ってたんだがな。勇者なんて役に立たねぇって。』

 

 

『持ち上げられすぎたんだよ。メッキが剥がれたな。』

 

 

『使えねぇ。』

 

 

 

ネット上に溢れるそれらの言葉を見ながら、紗夜の手は震えていた。

 

紗夜「どうして………ですか……。」

 

四国の人々を守るために、命を危険に晒して戦ってきた。それなのにーー

 

 

 

紗夜「………………。」

 

紗夜の瞳に、暗い憎悪の光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

バーテックスの出現は頻発するようになった。"完成型"が攻めてくることは無いが、通常個体や"進化型"が絶え間なく四国に侵入してくる。

 

あこと燐子はもういない。香澄は入院中で、戦闘に参加することは出来ない。現在、戦力となる勇者は友希那と紗夜だけである。侵攻してくる敵群の規模はそれ程大きくはないが、たった二人分の戦力しかないため、勇者達は毎回苦戦を強いられていた。

 

紗夜「くたばりなさい……!」

 

"七人御先"の力で七人になった紗夜達は、"進化型"を一斉に切り裂き消滅させる。

 

紗夜「はぁ……はぁ………。」

 

体力を消耗し切って、"切り札"を解除、紗夜は一人の姿に戻る。疲労で足から力が抜け、その場に膝を付く。ふと顔を上げると、"義経"を身に宿した友希那が、侵攻してきたバーテックスの最後の一体を切り捨てるところだった。

 

友希那「ふぅ……。やっと終わったわね。だけど、今月に入ってこれで何度目かしら。」

 

紗夜「もう数えるのは止めました…。」

 

友希那「侵攻の起こる回数が、あまりにも多すぎるわね。」

 

二人の体に生傷が目立つ。"進化型"の矢が掠って出来た傷や、敵の突撃を受けて出来た打撲傷である。

 

友希那「………今回も侵食が起こってる…。」

 

樹海の一部が変色し、腐ったようになっている。ここ最近、襲来してくるバーテックスは、"完成型"でなくても樹海を侵食する力を持っている。樹海へのダメージを減らすためには戦いを早く終わらせる必要があるが、勇者側の戦力が二人だけではどうしても戦いは長引いてしまう。そして樹海が侵食される度に、四国の市民に被害が出ている。

 

紗夜「問題は、樹海の侵食だけではありません………。」

 

壁の向こうでは、あこと燐子を殺した"完成型"以上の力を持つバーテックスが、今まさに形成されている途中なのだ。未だに大社も勇者も、それに対抗する術を見出せていない。

 

最近、紗夜はよく死ついて考える。あこと燐子の死を経験し、そして絶対に勝てない敵が出現したせいだ。いつか自分も、あの二人と同じように殺されるかもしれない。それは現実味の無い未来ではない。

 

紗夜(私は……一体何のために戦っているのでしょうか………。)

 

人々の間に流れている、勇者への批判の言葉が脳裏に過ぎる。

 

『役立たず』

 

『無価値』

 

『不要』

 

『消えろ』

 

『いなくていい』

 

『無能』

 

『ふざけるな』

 

『弱すぎ』

 

『戦えよ』

 

『なに負けてんの』

 

 

 

紗夜(死にそうな危険を冒して…精霊の力で、体を擦り減らし続けて……何のために………。)

 

 

 

ーーー

 

 

 

樹海化が解けた後、友希那と紗夜はいつも通り病院で検査を受ける。リサも付き添いで一緒に来て、二人の検査が終わるまで待合室まで待っていた。

 

バーテックスの襲来が頻発するようになり、待合室で時間を過ごすことが日常化していたが、リサはこの時間が苦痛だった。自分が勇者達に対し、何の力にもなれないことを痛感してしまうからだ。

 

気を紛らわそうと、待合室に置かれている新聞を手に取る。そこには、樹海の侵食によって起こった災害と、大社が対処法を模索中であることについての記事が書かれている。度重なる樹海の腐食と、その影響による事故や災害。そして一般の人々に漏れてしまったあこと燐子の死。

 

情報を隠すことが不可能と判断した大社は、勇者の戦死と、頻発する災害や事故がバーテックスの攻撃によるものである事を公表した。新聞やテレビ等は、大社の情報統制によって、勇者の勝利と大社の活動を前向きな語調で伝えている。

 

しかし、人々の間では、不安の声が溢れ返っていた。絶望して自殺する者や犯罪に走る者も増え、治安が悪化している。

 

友希那「待たせたわね、リサ。」

 

検査を終えた友希那が、待合室に姿を現した。

 

リサ「ううん、アタシが勝手に待ってるだけだから。」

 

友希那「………被害者がまた出てしまったわ…。」

 

リサ「友希那が責任を感じること無いよ。寧ろ友希那と紗夜のお陰で、被害は最小限で済んでるんだから。」

 

リサは優しい口調で励ますが、友希那の顔は晴れない。

 

友希那「医者から言われたわ。"切り札"の使いすぎだと。体にかなり無理が来てるみたい。だけど、侵食を少なくする為に早期決着を望めば、"切り札"は使わざるを得ない……。」

 

リサ「そう……だよね………。」

 

一般人への被害は、出来る限り出さないようにしなければならない。だが、このまま"切り札"を使い続ければ、勇者が先に潰れてしまう。

 

その後、友希那から少し遅れて紗夜が待合室に戻ってきた。

 

リサ「体は大丈夫だった?」

 

紗夜「大丈夫な訳…ありません。それに、"切り札"を使うのは控えてくださいと言われました。」

 

友希那「紗夜も同じね…。」

 

紗夜「………あいつらは…何も分かってません…。何のために、こんな体をボロボロにしてまで、"切り札"を使ってると思ってるんですか………。全部、少しでも被害を減らすためなのに……。」

 

紗夜は俯いて、苛立たしげに言う。

 

紗夜「だったら、"切り札"なんて使いません……そして、それでどれだけの犠牲が出るか、身をもって知れば良い。四国の人達も、大社の人間も…安全な場所で勝手なことを言うだけ!だいたいーー」

 

友希那「紗夜、もう良いでしょ。」

 

友希那が紗夜の言葉を遮る。リサが悲しげな顔をしているのに気が付いたからだ。"安全な場所で"という言葉は、自分の立場に罪悪感を持っているリサを傷付ける。だけど、リサは優しく紗夜の手を握る。

 

リサ「良いんだよ。全部吐き出して。悲しい思いも、苛立つ気持ちも……それで少しでも紗夜の気が楽になるなら、アタシがいくらでも受け止めるから……。」

 

紗夜は数秒無言になり、やがてリサの手を乱暴に振り払った。

 

紗夜「放っておいてください!私のことは……巫女のあなたには関係無いことです…。」

 

そう言い捨て、病院の出口へ向かう。

 

友希那「待って、紗夜!その言い方はないわ!」

 

友希那が去っていく紗夜の肩に手を置き止める。

 

友希那「こんな状況だから苛立つのは仕方ないわ!だからって、人を傷付けて良い訳じゃない。苦しい時だからこそ結束しなーー」

 

紗夜「あなたは正論しか言いませんね。」

 

友希那「え?」

 

紗夜「正論だけで生きていけるのは……強くて、無神経な人間だけです…。私はあなた程、強くはありません。無神経でもありません…………あなたに、弱い人間の気持ちは、分からないでしょう……!」

 

友希那「………こんな時に弱音を吐かないで!」

 

紗夜「うるさいですねっ!」

 

紗夜は友希那を突き飛ばす。不意を突かれ、友希那は傍にあった観葉植物ごと床に倒れ込む。植木鉢が割れて破片が友希那の手に突き刺さり、血が滴る。

 

友希那「うっ……!」

 

リサ「友希那っ!」

 

苦痛に顔を歪める友希那に、リサが駆け寄った。

 

紗夜「あっ………。」

 

友希那の怪我を見て、紗夜の顔に動揺が浮かぶ。衝動的に突き飛ばしただけで、傷付けるつもりまではなかったのだ。紗夜は逃げる様に病院から出て行く。

 

友希那「紗夜!!」

 

リサ「待って!手の治療が先だよ!」

 

友希那は追おうとするが、リサがそれを止める。

 

友希那「………。」

 

リサに強く言われ、友希那は踏み止まらざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

紗夜は病院から、寮の自室へ駆け戻ってきた。

 

紗夜「はぁ…はぁ……。」

 

ドアに鍵をかけ、ベッドに突っ伏した。

 

紗夜「高嶋さん…高嶋さん、高嶋さん、高嶋さん………会いたい……。」

 

香澄は今もまだ面会謝絶となっており、会うことは出来ない。前に"酒呑童子"を使った時よりも、面会謝絶となっている期間が長い。まだ完治していない状態で、無理をしたせいだろう。心の支えを失い、紗夜の思考は暗く陰鬱な方向へ傾いていく。

 

紗夜「うぅぅ……私は、悪くない…悪くないんです……。病院の事も……湊さんが……。」

 

怪我をさせてしまった事はわざとでは無い。友希那から逃げようとして、つい突き飛ばしてしまっただけ。倒れるとは思っていなかった。植木鉢があった事も、それが割れて破片が友希那の手に突き刺さった事も、全て不幸な偶然だ。

 

紗夜「運が悪かっただけです………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?『全く持ってその通り。あなたは悪くありません。』

 

 

 

 

 

 

 

突如、耳元で声が聞こえ、紗夜は驚き顔を上げた。いつの間にか、ベッドのすぐ横に人がーー紗夜と全く同じ姿をした人がいたのだ。

 

紗夜(………これは夢ね…気分の悪い夢……。)

 

紗夜の姿をした彼女は、口を三日月型に吊り上げ、作り物のような笑みを浮かべる。

 

紗夜?『それに病院での湊さんの怪我、不自然ではなかったかしら?あの強い湊さんが、あんなに簡単に倒れて、しかも図ったように植木鉢があって……。』

 

紗夜「な…何が言いたいんですか……?」

 

夢だと分かっているのに、紗夜は自分と同じ姿をした彼女に問いかけていた。

 

紗夜?『わざとではないかしら?』

 

紗夜「…………。」

 

紗夜?『湊さんはわざと派手に倒れて、怪我をして、あなたを悪者に仕立て上げようとしたのよ。』

 

紗夜「何の…ために……?」

 

紗夜?『決まっています。正義の名の下に悪者であるあなたを攻撃するためです。彼女は昔、あなたを傷付けていた連中と同じなんですよ。』

 

昔、いじめられていた時の記憶が蘇る。紗夜と同じ顔をした少女は、耳元で囁いた。

 

紗夜?『湊さんは、あなたの敵です。』

 

紗夜「…………。」

 

紗夜?『あなたの敵ーー』

 

 

 

 

 

その時、スマホからメールの着信音が鳴った。紗夜は我に返りベッドから起き上がって周囲を見回した。自分と同じ顔をした少女はどこにもいない。窓の外はいつの間にか夜の帷が降りて、帰ってから既に数時間が経っていた。先程の事は夢だったのだろうか。

 

テーブルの上に置いたスマホを手に取ると、メールは大社からだった。またカウンセリングを受けろとの内容だったら無視するつもりだったが、違っていた。

 

 

 

[現在、大社内で一つの提案が上がっています。あなたの両親を丸亀市に移住させ、あなたと一緒に暮らせるようにしてはどうか。]

 

 

 

 

それは、かなり唐突な文面だった。

 

 

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