真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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友希那と紗夜。賞賛と非難。光と影。

全てを奪われた者は、羨望の眼差しを光らせながら、狂気に身を委ねた。




光影-ひかりとかげ-

 

紗夜「戦いなさい……!戦え……私達の苦しみを、知れ………!」

 

紗夜は少女の脳天目掛けて大葉刈を振り下ろすーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金属同士の打ち合う音が響いた。

 

 

 

 

 

 

友希那「止めなさい、紗夜!」

 

紗夜の大葉刈を、友希那の生太刀が受け止めていた。

 

紗夜「湊……さん…?」

 

紗夜(どうしてここに……何故止めるんですか…?)

 

幾つか疑問が湧き上がるが、今は冷静に考える気にはなれなかった。

 

紗夜「邪魔しないでください!」

 

武器を持つ手に力が入る。だが、友希那も引き下がらなかった。大葉刈を押し返し、紗夜は数歩後ずさる。

 

友希那「落ち着いて、紗夜!あなたは今、冷静な状態じゃないわ!」

 

紗夜「そんな事は分かってます!私は裏切られました……命をかけて、人を守ってきたのに…冷静でいられるわけ無いじゃないですか!」

 

苛立ちのままに紗夜は大葉刈を振るい、友希那はそれを捌いていく。

 

友希那「違うわ!その怒りはあなたの感情じゃない!精霊の力の影響よ!」

 

紗夜「どういう…意味ですか!?」

 

友希那が何を言っているのか紗夜には分からない。紗夜はただ、勇者に守られておきながら身勝手な人達を許せないだけだ。

 

紗夜は断罪の続きをやろうとするが、友希那は退かなかった。友希那は強く、紗夜の攻撃は全て防がれてしまう。

 

友希那「もうやめて!」

 

紗夜「うるさい……。」

 

友希那「人を傷つければ、取り返しがつかなくなってしまう!」

 

紗夜「うるさい……黙れぇ!!」

 

紗夜は怒りを込めて武器を振るい続ける。

 

紗夜「ふざけてる…みんなふざけてる!何のために……何のために私達は戦ってるんですか!?守ってきたのに…!人を守ってきたのに……!何故蔑まれないといけないんですか………!?こんな事になるなら、戦う意味なんか……人を守る意味なんか無いじゃないですか!!」

 

友希那「それでも!守らなければならないの!!力無き人達を、私達が!」

 

紗夜「うるさい…!これじゃ昔と同じ…蔑まれて……傷付けられて……!勇者になったのに!なんで、こんな………!」

 

友希那「紗夜………。」

 

紗夜「何で、何でなんですか……!う、ううう………!」

 

振るいながら、紗夜の目から涙が溢れる。

 

紗夜「どうして反撃しないんですか!?本気を出せば、私より強い筈なのに!」

 

友希那「攻撃なんて……するわけ無いじゃない……!」

 

友希那はただ紗夜の攻撃をいなすのみ。病院で紗夜と諍いを起こした時のことを、友希那は悔やんでいた。精霊の影響で心が不安定になっていたとは言え、仲間を傷付けようとしてしまった事を。

 

友希那「私はもう、仲間を傷付ける刃は持たない!」

 

紗夜「あなたは……本当に気に食わない…!」

 

紗夜は友希那が嫌いだった。

 

彼女はいつも正しくて、強くて、自分に自信があって、みんなの中心にいる。

 

彼女の正しさが、強さが、人気が、しが、紗夜には妬ましかった。

 

だから、気に食わない。

 

だから、苛立つ。

 

紗夜は友希那に大葉刈を振るい続ける。

 

友希那「紗夜、自分を見失わないで……!」

 

紗夜「……うるさい………!」

 

友希那「香澄に頼まれたの……紗夜を助けてくれって。」

 

紗夜「っ!?」

 

香澄の名前を聞いた瞬間、紗夜の手が止まる。

 

友希那「香澄は誰よりもあなたを心配していた……だから、私はあなたを止める。あなたのためにも、香澄のためにも!」

 

攻撃の手が鈍る紗夜。その僅かな時間で紗夜は周りが騒がしい事に気が付いた。騒ぎを聞きつけたのか、いつの間にか村の人達が何十人も、紗夜と友希那の周りに集まっていたのだ。

 

人々は紗夜に恐怖と嫌悪と怒りの視線を向けている。

 

無数の目が紗夜を苛む。それはまるで、監視の檻。

 

紗夜「やめて………やめて……そんな目で見ないで……。」

 

紗夜は足元がぐらつき、立っていることが出来なくなる。大葉刈が手から滑り落ち、その場に座り込んで頭を抱えて嗚咽を漏らした。

 

紗夜「嫌わないで……お願い….お願いだから……私を好きでいて………。」

 

後に残ったのは、勇者装束のまま、子供のように弱々しく涙を流す少女だけだった。

 

 

 

 

そして、紗夜は連れ戻され、勇者システムの剥奪と謹慎が決まった。

 

 

 

 

 

 

六月某日午後六時、丸亀城。本丸の天守閣前の広場を人々が埋め尽くしていた。後方には、ビデオカメラを持った報道関係者も待機している。

 

暫くすると、天守閣の出入り口から友希那が姿を現す。人々の前に立ち、友希那は口を開く。

 

友希那「"7.30天災"の悲劇から、間も無く四年が経とうとしています。私達はあの日、多くのものを奪われました。人命、国土、自由に見上げることが出来る空。あの日、空から出現した人類の敵は、余りにも強大でした。ですが、私達は決して無抵抗で終わりませんでした。力は弱くとも、人間には智慧と勇気という、他の何者も持たない武器がーー」

 

友希那は自らの声で語り続ける。バーテックスという化け物から受けた被害の無残さ。化け物に立ち向かう人々の努力。そして"勇者"という土地神からの恩恵を人類の智慧によって強化し、化け物に対抗する力を得た事。

 

四国の人々にとって偶像的な人気を持つ友希那の言葉に、人々は聞き入っていた。

 

友希那「ーーそして今、敵もまた自らの力を強化し、再び人類は苦境に立たされています。その中で、宇田川あこと白金燐子は命を落としました。」

 

"勇者の死"という事実に、聴衆の表情が曇る。

 

友希那「だけど、私達はまだ敗北していない!必ず、奪われたものは取り返すことが出来る!そのために今、大社と私達は対策を講じています。間も無く戦況を覆す方法が見つかるでしょう!」

 

友希那は精一杯に声を張り上げ、言葉を続ける。

 

友希那「思い出してください!私達人間の本来の在り方を!日本という国土を踏み締め、天敵に怯えること無く、友人や家族や恋人と日々を過ごす!それが私達が送っていた日常なはず!本来あるべき人間の生き方です!私達は閉じた檻の中で飼われる化け物の餌なんかじゃない!」

 

天守閣と夕陽を背にして、訴え続ける。人々に少しでも希望を与えるために。

 

友希那「私達はこれまでも、これからも天敵と戦い続けます!だけど、それは特別なことなのでしょうか?それは違う!私は知っています。もし子供が敵に襲われそうになったら、親は身を挺して子供を守り、戦おうとすることを!私は知っています。もし四国の外から助けを求める友がいれば、自らを危険に晒してまでも助けに行く人がいることを!私達一人一人が敵に立ち向かえる勇気を持つ勇者です!四国の人々全てが勇者なら、化け物に負けやしない!」

 

聴衆の中から、拍手と歓声があがる。

 

友希那「敵に立ち向かう勇気を!仲間を助ける勇気を!私達一人一人が勇者であり、侵略者から全てを奪い返す未来のために!!」

 

ここで一瞬、友希那の言葉が途切れる。その顔には激しい怒りと悔恨が浮かんでいた。

 

友希那「……そして私は、私の友を奪った者達を絶対に許しはしない。この報いは必ず受けさせる。」

 

今までの張り上げた声とは違う、自分に言い聞かせるような声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方から始まった、友希那による演説は、三十分程続いた。

 

リサ「お疲れ様、友希那。叫びっぱなしで大変だったよね。」

 

演説を終え、友希那は自室に戻っていた。リサも一緒である。

 

友希那「そうね……あれで少しでも人々が前向きになってくれるのなら、やる意味はあるわ。だけど……。」

 

今日の演説は、勇者の死とバーテックスによる被害の拡大によって、意気消沈としている人々の士気を上げるためのもの。演説の下書きは友希那が作ったが、文章は全て大社が書き直した。丸亀城という舞台や、開始時間も、大社が演出の一部として決めたことだ。更に身振り手振り、言葉の間の取り方や発生まで含めて、友希那は細かく指導を受けた。全て聴衆への心理的な効果を狙って考えたものらしい。

 

その演出が功を奏したのか、聴衆は盛り上がっていた。涙を流す人もいたという。

 

だが、友希那は人々を騙しているという感覚が拭えなかった。大社が書き直した演説文の中で、諏訪に付いて触れ、"間も無く諏訪の勇者との共闘も可能になる"という一節があった。だが、友希那はその部分を意図的に話さなかった。大社は諏訪の壊滅を市民に知らせていない。それも士気高揚の材料として使おうとしたのだろうが、蘭を利用して人々を欺くことだけは言えなかった。

 

そして、途中で言ってしまったバーテックスへの復讐を誓う言葉は、大社ではなく、紛れもなく友希那自身の声だった。

 

リサ「友希那の演説、ニュースで何度も流れてる。明日の新聞でも、一面で取り上げられるって。」

 

友希那「ええ……。」

 

内心、リサ自身も複雑だった。友希那が友希那、香澄、紗夜だけとなり、香澄は負傷で入院中、紗夜は勇者としての力を奪われてしまった。今、勇者の役目を果たせるのは友希那だけである。

 

大社は、友希那を亡き勇者と入院中の勇者の思いを背負った、希望の象徴として祭り上げようとしている。その為、友希那の四国内での人気を利用し、各メディアへの情報操作も行なっている。全ては四国の人々を絶望させないため。

 

友希那「紗夜はどうしているかしら……。」

 

リサ「大丈夫だよ、きっと……。」

 

友希那「紗夜の暴走は精霊の影響よ。紗夜だけが悪い訳じゃないわ。大社にはそう言ってるのだけど…。」

 

友希那は紗夜の処罰を軽くし、これ以上彼女を追い詰めないように訴えを出した。だが、大社がその訴えをどのように判断したのかは、友希那には教えられていない。リサもそうだった。

 

リサ(私も大社から、あまり信頼されてないんだろうな…。勇者に近付きすぎたから……。)

 

リサに何か伝えれば、それは自然と勇者達に伝わってしまう。だから、大社は彼女にも多く伝えようとしない。

 

 

 

 

 

 

氷川一家は丸亀市の一軒家を与えられ、三人で暮らしていた。母親は現在、天恐のステージ3であり、薬無しでは生活出来ない。一日の半分は精神を沈静化させる薬を飲んで眠っている。そんな母親を紗夜と父親と大社から派遣されてきた人間で介護している。

 

精神不安定な母親を見るのも、母親の介護でストレスを溜める父親を見るのも、紗夜にとっては苦痛でしかない。だから必要な時以外は、出来るだけ部屋に閉じ籠った。

 

今日も部屋の中で、ベッドに寝転んでぼんやりとテレビを見ている。部屋の外からは、時折母親が喚く声や、それを止めようとする父親と介護人の声が聞こえた。

 

テレビのニュースで、丸亀城で演説をしている友希那の姿が流れる。紗夜は自分の惨めさを痛感していた。故郷の村で起こした紗夜の暴走は、スマホの動画で撮影されネット上にアップされてしまっていた。その動画の中で、紗夜を止めて村人を守ろうとする友希那の姿は、まさに正義と勇敢さの象徴だった。

 

更に、勇者と大社を代表として人々を奮い立たせようとする友希那の演説は、ここ数日で何度もニュースで流れ、新聞でも取り上げられている。彼女は今、四国の人々から神格化に近い扱いを受けていた。

 

人々の間ではまだ勇者と大社に対する批判はあるが、今やそれは友希那を賞賛する声に比べて、極僅かである。友希那は追い詰められた人類を率いて戦うカリスマとなった。愛され、憧れられ、希望とされる存在。

 

紗夜(それに比べて……私は………。)

 

力は奪われ、何も持たない。暴走した勇者として人々から忌み嫌われている。謹慎中で誰にも会うことが出来ない。勇者としての価値も、賞賛も、仲間も失った。

 

紗夜「うぅ………。」

 

どうしてこんな事になってしまったんだろうか。

 

いつから間違いが始まってしまったんだろうか。

 

紗夜「く……うぅ……っ!」

 

涙で視界が歪む。

 

紗夜「高嶋さん…高嶋さん……高嶋さん………。」

 

自分の気持ちを分かってくれる存在が欲しい。

 

心の支えになる人と話をしたい。

 

紗夜はふらつく足取りで部屋を出た。香澄が入院している病院へ行こうと思った。もう香澄の面会謝絶は解けているから、会う事は出来る筈だ。

 

家から出た紗夜は、人目を避けて人通りの無い道を歩いた。謹慎中は基本的に外出を許されていないからだ。それに暴走事件で人々から恐れられているから、見つかったら騒ぎになってしまう。こそこそと日陰を歩くしかなかった。

 

紗夜(惨め…ですね……。)

 

勇者としての価値を賞賛され、人から愛されることは、もう永遠に無いのだろうか。

 

それならば、一体何のために生きているのだろうか。

 

もし自分が死んでも、あこや燐子が死んだ時のように悲しんでくれる人は、きっといないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

正面から病院に入ると受付で見つかってしまうため、紗夜は裏口から入った。院内スタッフに見つからないよう、注意して歩く。香澄の病室は既に知っているから、なんとか誰にも気付かれずに病室の前まで来て、ドアをノックした。だが、中から返事は無い。そっとドアを開けたが、室内には誰もいなかった。

 

紗夜(外出してるのでしょうか…。)

 

とはいえ、まだ香澄は病院の外へ出られるほど回復はしていない筈である。せいぜい庭などを散歩するくらいだろう。長くせず戻ってくるだろうから、病室の中で待っていようと思った矢先、廊下から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

香澄「あはは…でも……よーし、頑張るよ!」

 

香澄の声だ。その声を聞くだけで紗夜の陰鬱な気分が薄れていく。香澄の声が聞こえてきたのは、"機能訓練室"。リハビリのために使われる部屋だ。紗夜は出入り口から中を覗き込む。

 

紗夜「高嶋さーー」

 

しかし紗夜の言葉は、途中で喉の奥へ飲み込まれてしまう。部屋の中にいたのは香澄だけではなく、友希那も一緒だったのだ。香澄は腕のリハビリなのか、手のひらサイズのボールを何度も握る。香澄の傍で友希那が、ボールを握る回数を数えているようだった。

 

紗夜は思わず、出入り口の壁の陰に隠れた。

 

紗夜(どうして…私は隠れているの……?)

 

気軽に声をかければ良い筈だ。しかし何故か、声をかけるのを躊躇ってしまう。出入り口の陰から二人の様子を覗き込む。二人が話している内容ははっきりとは聞こえず、断片的に声が聞こえてくる。

 

友希那「だけど……仕方ない事よ。だから……。」

 

香澄「もう、友希那ちゃんは……うん、私も、……きっとみんなで………だよね。」

 

友希那は考えたり、困ったような顔をしながら何かを話している。香澄は腕のリハビリをしながら、友希那の言葉に笑顔で相槌を打っていた。友希那が何か相談事を持ちかけ、香澄がそれに答えているのだろう。

 

その光景を見て、紗夜はあまりにも深く大きな断絶を感じた。友希那と香澄は一緒の勇者であり、強くて勇敢で魅力的で、対等な立場だ。

 

紗夜(でも………私は違う……。)

 

陰鬱で、弱く、そして今や勇者でさえ無い。

 

紗夜(私は……二人の場所へは行けない…。)

 

その時だった。出入り口の気配に気付いたのか、友希那が後ろを振り返り紗夜の方を見た。

 

友希那「紗夜……?」

 

香澄「紗夜ちゃん!?」

 

香澄も紗夜に気が付き、椅子から立ち上がろうとする。しかし身体が万全では無かった為、バランスを崩してしまう。

 

紗夜「危なーー」

 

紗夜は反射的に香澄の方へ駆け寄ろうとしたが、傍にいた友希那が香澄の身体を支える。

 

友希那「香澄、大丈夫?」

 

香澄「うん。ありがとう、友希那ちゃん。」

 

その様子を見て、紗夜は逃げるようにその場から走り去ってしまう。

 

友希那「紗夜!何処へ行くの!?」

 

友希那は紗夜に呼びかけたが、彼女は立ち止まる事なく去って行ってしまった。

 

香澄「どうしのかな、紗夜ちゃん……。」

 

友希那「分からないわ…私も紗夜と話したいことがあったのだけれど。」

 

友希那も紗夜とずっと会えていなかったので、紗夜のことを心配していた。

 

香澄「紗夜ちゃんは悪くないって、みんなで大社に言いに行こうって話してたのに。」

 

友希那「そうね……。」

 

今日、友希那が香澄に会いに来ていたのは、それが理由だった。香澄とリサと友希那で、もう一度大社に紗夜の処罰を軽くするよう陳情しようと話していたのである。

 

 

 

 

 

 

紗夜は機能訓練室から走り去っていく。身を隠さなければならないという事も、すっかり頭の中から消え去っていた。

 

楽しそうに話す友希那と香澄ーー

 

香澄を支える友希那の姿ーー

 

紗夜(あの場所にいるのは…私の筈だったのに……!)

 

紗夜は勇者の力も賞賛も信頼も全て失い、最後に残っていた居場所さえも友希那に奪われてしまった。

 

憎悪が紗夜の心を覆い尽くしていく。

 

看護師A「あなた…氷川さん!?」

 

廊下を走っている途中で、看護師に見つかってしまった。

 

看護師A「どうして此処にいるの!?」

 

看護師B「氷川さん、待ちなさい!誰か来て!」

 

病院のスタッフが次々に集まってきて、紗夜を捕まえようとする。紗夜は警備員を押し除けて逃げようとしたが、勇者になれない状態の紗夜は、あっさりと捕まってしまう。

 

大勢に囲まれ、取り押さえられる。まるで逃亡犯の捕物劇ではないか。

 

紗夜(どうして……何で、こんな事に……なるんですか………!)

 

 

 

 

 

 

 

大社の警備員に取り押さえられ、紗夜は自宅に帰される。父親は何か言いたげな表情を浮かべていたが、紗夜は何も話す気になれず、そのまま自室に閉じ籠った。

 

紗夜「うぅあああああああああっ!!!」

 

床に蹲り、絞り出すように叫んだ。その後、ゆらりと立ち上がった紗夜は、部屋中の物を壊していく。ゲーム機を床へ投げつけ、カッターでベッドや布団を引き裂いた。本棚を引き倒し、床に散らばった本を何度も何度もぐしゃぐしゃになるまで踏みつけた。椅子をテーブルに叩きつけ、ノートパソコンをテレビに叩きつけた。

 

紗夜「はぁ、はぁ、はぁ…………!!」

 

滅茶苦茶になった部屋で、紗夜は佇む。

 

紗夜「…….全部…失くした……。全部、奪われた………!」

 

そして今、紗夜が失ったものを全て持っている人物がいる。

 

紗夜「取り返す……取り返すんです………私は……。」

 

紗夜は大社から貸与されたスマホを取り出し、メールを書き始める。

 

 

 

 

[充分な休息を取り、このところは落ち着いて来ました。先日、私が起こしてしまった事件に対しても、今は深く反省しておりーー]

 

 

 

 

 

メールを打つ紗夜の瞳からは、既に光は消え、口元は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

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