真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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たった3人だけの教室。彼女達はもう戻らないけれど、思い出はちゃんと残っている。

写真を見ながら、友希那達は思いを馳せた。




追憶-ついおく-

 

 

月明かりの下、巫女服を着たリサは砂浜の浅瀬に足をつけ、祝詞を奏上していた。禊の儀式である。

 

紗夜の遺体は、今回もリサが清めを行うよう申し出た。その為に、まずリサが自らの身体を禊がなければならない。紗夜の死が報告された後、すぐさま大社本部から神官達が派遣され、事後処理が始まった。今晩一晩かけて紗夜の遺体は清められ、明日から葬儀が行われる予定だ。

 

祝詞を唱えるリサの声は、僅かに震えていた。

 

リサ(何で……何でこんなに残酷なんだろう…。)

 

樹海化した世界での紗夜の行動は、友希那から伝えられていた。だが紗夜の暴走は、決して彼女だけのせいでは無かった筈である。

 

あこ、燐子、紗夜。

 

失われた三人の少女の命。

 

普通の時代で、普通に生きていたらーー

 

 

 

いつも騒がしいあこに、燐子は優しく微笑み、紗夜は一線を引きながらも結局は一緒にいる。

 

そんな三人の姿が、今でも在った筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、友希那は香澄の病室にいた。

 

香澄「紗夜ちゃんが………。」

 

友希那「…………。」

 

香澄はベッドの中で半身を起こし、友希那の言葉を聞いていた。紗夜の死を報せる言葉を。

 

香澄は俯いて、その表情を見せない。ただ、拳を強く握りしめていた。

 

香澄「もうすぐ退院だから……また一緒に遊べるって思ってたのに………。」

 

友希那「……ごめんなさい………。」

 

友希那は紗夜の死に責任を感じていた。紗夜の心の危うさにもっと気を配っていれば、こんな事にはならなかった。自分がもっと強く、バーテックスから紗夜を完全に守れれば、こんな事にはならなかった。

 

香澄「友希那ちゃんは、何も悪くないよ。」

 

香澄はぎこちない笑顔でそう言い、すぐにまた俯いてしまう。

 

香澄「ごめん……友希那ちゃん。今日は、もう………。」

 

友希那「……分かったわ…。」

 

友希那は椅子から立ち上がり、病室を出た。

 

ドアを閉めた後、友希那は壁を背にして座り込む。病室のドアの向こうから、香澄の嗚咽が聞こえた。

 

夜の病院の廊下は、人工の明かりで不自然なまでに白く染められている。その純粋過ぎる白が、友希那達を嘲笑っているように見えた。

 

友希那「くっ………うぅ…………!」

 

友希那は立ち上がる気力も無く、その場に座り込んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、友希那は一人で丸亀城の教室にいた。今日は紗夜の葬儀のため授業は無いが、いつもの習慣で黒板のチョークを揃えたり、花瓶の水を換えたりする。

 

友希那はいつも教室に来るのが一番早かった。そんな友希那にあこが対抗心を燃やして、毎朝教室に一番乗りしようと意気込む。しかし早起きが得意で無いのか、あこが友希那より早く登校出来た事はなかった。

 

 

ーーー

ーー

 

 

あこ「あー!また友希那さんが一番乗りかぁ…。今日こそはあこが一番だって思ってたのにぃ!」

 

燐子「また明日頑張ろう…あこちゃん…。」

 

あこ「よーし、頑張るぞ!!」

 

 

ーー

ーーー

 

 

二人がいなくなってもう二ヶ月程経つが、今でも勢い良くドアを開けて、あこが駆け込み、その後ろから燐子が来そうな気がしていた。

 

その時、教室のドアが開く。入ってきたのはリサだった。

 

友希那「リサ…。おはよう。」

 

普段通りの顔で言えたかは分からない。

 

リサ「おはよう、友希那……。」

 

そう言いながら、リサの顔には困惑と憤りが浮かんでいた。リサがこんな表情をしているのは珍しい。

 

友希那「何かあったの、リサ?」

 

リサ「紗夜の葬儀が、取り止めになった。」

 

友希那「え…!?どうして!?」

 

リサ「紗夜を勇者として送葬する事は出来ない……そう大社は判断を下したんだ。だから葬儀は大社じゃなく、実家で個人的に行って欲しいって………。」

 

友希那「そんな………。」

 

樹海化中の紗夜の凶行を友希那は大社には伝えなかったのだが、大社はそれを把握していたのである。

 

紗夜は地元で起こした事件もあり、勇者としての資格を剥奪されそうになっていた。そこに加えて、今回の友希那への凶行。紗夜が命を落とす直前、勇者としての力を喪失してしまったのは、彼女が神樹に見放されてしまったからだと、大社は結論付けたのだ。

 

その為、紗夜は勇者から除名させることが決定されたらしい。

 

友希那「それは馬鹿げてるわ!あれは紗夜だけの責任じゃない!どうして!?」

 

リサ「アタシだって納得出来ない……!だけど、大社は"勇者"という存在の神聖性を汚したくないんだよ………。」

 

友希那「…………!」

 

リサ「もう、決まった事なんだよ……。」

 

友希那は机に拳を叩きつける。

 

紗夜は"自分が勇者である"事を誰よりも誇りに思い、心の拠り所にしていた。それなのに命を落とした後、その拠り所まで奪われてしまったのだ。

 

友希那(なんて惨い仕打ちなの………。)

 

紗夜の遺体は既に家族へ引き渡され、その後彼女がどう扱われたのか、友希那達には分からない。いつ、どのような形で葬儀が行われたのかも大社は教えてくれず、友希那達は紗夜を弔うことさえ出来なかった。

 

 

 

 

 

 

そしてそれから数日が経ち、香澄が退院して教室に戻ってきた。

 

香澄「おはよう!友希那ちゃん!リサちゃん!」

 

教室に入って来た香澄の第一声は、元気な挨拶だった。数日間、友希那とリサだけの教室を覆っていた重い空気を、その一声で吹き飛ばすように。

 

友希那「香澄、退院したのね。」

 

香澄「うん!もう体調もバッチリだよ!」

 

リサ「良かった。お帰り、香澄。」

 

香澄「ただいま!!もう、入院中に体が鈍っちゃった!すぐにでも訓練したいから、後で友希那ちゃん、付き合ってね!」

 

不自然なまでに香澄は明るかった。紗夜の死で落ち込もうとする自分を、無理矢理にでも奮い立たせるかのように。ならば、二人もそれに乗ろうと思った。空元気でも、元気には違いないから。

 

友希那「任せて、香澄。病み上がりとはいえ、手加減はしないわよ!」

 

香澄「ドーンと来いだよ!」

 

リサ「じゃあ、香澄の回復祝いに、記念写真を………あれ?」

 

リサはスマホを取り出し写真を撮ろうとするが、首を傾げた。

 

リサ「……あ、メモリーの容量がいっぱいになってた。」

 

そう言うと、リサは机の上に幾つものメモリーカードを置いた。

 

香澄「凄い量!」

 

友希那「これ……全部写真が入ってるの…?」

 

リサ「勿論!赤ちゃんの頃の友希那から、全部入ってるよ!」

 

リサは自慢げに言う。

 

友希那「赤ちゃんって……その頃はリサもでしょ?どうやって……。」

 

リサ「友希那の家にあるアルバムの写真も、全部データ化したからだよ。」

 

友希那「いつの間に……。」

 

メモリーカードの三分のニ程は、年月と"友希那"という名前が小さく書かれている。残りの三分の一は年月しか書かれていなかった。それらのカードは2015年以降のものしかないようだ。

 

香澄「友希那ちゃんの名前が書いてないのは?」

 

リサ「それに入ってるのは、アタシ達みんなで撮った写真だよ。」

 

リサはカードをスマホに差し込み、中の写真を一枚一枚見ていく。

 

香澄「あ!これ、私達が初めて丸亀城に来た時の写真だ!懐かしい!」

 

香澄がスマホに表示された写真を見ながら、嬉しそうに言う。写真に写っているのは、丸亀城の教室にいる六人の姿。その頃はまだ全員、小学生だった。

 

事情を完全に飲み込めないまま、丸亀城に連れて来られた六人。みんな困惑が表情に浮かんでいる。出会ったばかりの少女達は、まだお互いに会話をすることも少なかった。

 

リサが画面をスワイプする。次に表示されたのは、初めてみんなでうどん屋に行った時の写真だった。

 

 

ーーー

ーー

 

 

友希那「ここよ。今や香川でも少なくなってきた、本物の手打ち店よ。」

 

友希那とリサは、市内にあるうどん屋に香澄、あこ、燐子、紗夜を連れてきた。四人は県外の出身だった為、香川でうどんを食べるのは初めてだった。

 

香澄が香川のソウルフードであるうどんが食べたいと言い出し、友希那とリサがオススメの店にみんなを連れて来たのである。

 

この頃、まだ勇者達はメディアに顔出しをしていなかったから、他の客から騒がれることは無かったが、六人もの小学生が入って来た為、注目は浴びていた。

 

二人に薦められるまま、うどんを注文した四人は、一口食べて驚愕する。

 

香澄達「「「………っ!?」」」

 

全員が一瞬、時間が停まったように硬直する。真っ先に口を開いたのはあこだった。

 

あこ「お、美味しいーー!!頬っぺたが落ちるくらいに美味しいですよ、このうどん!!」

 

紗夜「これは……ズルズル…本当に……むぐむぐ……うどんなのですか……!?私が知っているうどんとは……ズルズル…まるで、別の食べ物です………ゴクゴク……ふぅ。」

 

食べながら話す紗夜は動揺を隠せない。

 

香澄「美味しい!具だって出汁だって、見た目は全然普通なのに……これで一杯350円!絶妙な歯応え、喉越し、食感………!これが讃岐うどん!!」

 

麺の入った丼を見つめリポートする香澄。

 

燐子「…口の中で麺が踊るようです……。とある小説の人物が、マドレーヌから遥かな過去の記憶を旅したように…いずれ将来…私もうどんから過去の記憶を旅することになりそうです……。」

 

燐子に至っては最早何を言っているのか分からないが、感動しているらしいことは伝わってくる。

 

結局あこは二杯、香澄は一杯、うどんをお代わりした。それ以来、勇者達がメディアに顔出しするようになるまでは、時々街のうどん屋にみんなで行くようになったのだ。

 

 

ーー

ーーー

 

 

友希那「思えば、あの頃からだったわね。私達が少しずつ打ち解けていったのは。」

 

昔の事を思い出し、友希那は口元が緩む。

 

香澄「本当に美味しすぎてびっくりしたよ!」

 

リサ「あんなにみんなが喜んでくれて、良かったよ。」

 

友希那「ええ。それに、私達が仲良くなる切っ掛けを作ってくれたのは、香澄だったのね……ありがとう。」

 

 

一緒にうどんを食べに行こうーー

 

 

そう香澄が言ってくれたから、みんなでうどん屋に行くようになり、お互いに少しだけ打ち解けることが出来た。あの頃から香澄は、勇者達のムードメーカーだったのだ。

 

香澄「え!?私はただ香川のうどんを食べたかっただけだよ、寧ろ食い意地が張ってるって言われちゃう。」

 

友希那「香澄を食い意地が張ってると言うなら、あこはどうなるの?」

 

苦笑する友希那。

 

リサ「そうだね、近いうちにまた、あの店に行こうよ。」

 

リサが嬉しそうに言う。

 

友希那「だけど、今の私達が行ったら、騒ぎになりそうだけど。」

 

香澄「だったら変装して行くとか!私、サングラス掛けて行くよ!」

 

リサ「香澄、サングラスだけじゃバレちゃうよ。」

 

三人で笑いながら、再び画面をスワイプさせ、次々に写真を表示させていった。たった六人しかいない学校だから、普通の学校のように運動会や文化祭といった大イベントは無い。

 

それでも、リサが撮ってきた写真には、六人の日常が切り取られていた。

 

スマホの画面に、眠っている燐子と嬉しそうに頭を撫でているあこの写真があった。

 

リサ「こんな事もあったよね。」

 

香澄「燐子ちゃん行方不明事件だね。」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

これも四国へバーテックスが攻め込むようになる随分前の事。

 

ある日、燐子が帰宅時間になっても帰って来ないことがあった。

 

学校の教師達と友希那達で、街中を探し回ったのだ。特にあこは、燐子が誘拐されたのではないかと酷く取り乱していた。

 

あこ「あこは、りんりんを守るって決めたのに……!」

 

あこは自分自身に憤りながら、燐子を探し続ける。

 

 

 

 

 

すっかり日も落ちて夜になり、行方不明になった燐子を見つけたのは、あこだった。燐子は公園のベンチで、本を膝に置いて眠っていたそうだ。読みながらいつの間にか眠ってしまったのだろう。寝ている燐子の頬に、涙の跡が一筋あった。

 

あこ「りんりんみたいな女の子が夜遅くに公園で眠ってるって、何かあったらどうするの!起きたら怒るんだからね!」

 

そんな事を言いつつも、あこは微笑んでいた。燐子を怒る気持ちよりも、無事だった喜びの方が勝っているのだろう。

 

そうしているうちに燐子は目を覚ました。

 

燐子「あ……あれ…?私寝ちゃってた…。」

 

友希那「おはよう、燐子。随分眠ってたようね。」

 

燐子「え……あっ…本を読んでたらそのまま……。」

 

リサ「その本を読んでたの?」

 

リサは燐子が手に持っている本に目を向ける。燐子は眠ったままでも、ずっとその本を手放さなかったようだ。

 

燐子「はい……この話は、滅びていく世界の中で、終わりの時までずっとずっと…普段通りの生活を続けていく人達のお話なんです……。読んでたら凄く悲しくなって……読むのをやめられなくて…。私達は…大丈夫ですよね……。ずっと……。」

 

あこ「絶対大丈夫だよ!あこ達の世界は滅びたらなんかしない。だから終わりの時なんてらそんなものは無いよ。あこに任せて!世界とりんりんを守ってみせる!」

 

 

 

ーー

ーーー

 

 

友希那「良い事や希望が持てることが見つかるとは限らないけど、それでも、そう努めることには楽しみがある……。」

 

写真を見ながら友希那は呟いた。

 

香澄「友希那ちゃん、それって?」

 

友希那「その時に燐子が読んでいた本で主人公が言っていた言葉よ。あの後、燐子から借りて読んでみたの。」

 

その小説は、世界が滅びてしまう悲しい物語。だけど最後の最後まで、人々は普段通りの仕事を続け、子育てや家事をして、家族や恋人と日常を過ごすーー

 

 

世界が滅亡の危機さえ迎えていなければ、きっと平凡すぎる程平凡で、幸せな物語。

 

もしも、友希那達の世界が滅びの危機を迎えていなければ、きっとこの日々も平凡で幸せなものだったのだろう。

 

 

香澄「………次の写真見よう!」

 

画面をスワイプすると、次に写ったのはクリスマスツリーを飾り付けているみんなの写真だった。これもバーテックスが出現する前のものだった。

 

香澄「そういえば………この時から私、紗夜ちゃんと仲良くなったんだ。」

 

 

 

 

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