紗夜がいた証を、軌跡を、消させない為に友希那達はとある行動に移す。
彼女達は"五人"で勇者なのだーー
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六人の勇者達が丸亀城で一緒に生活するようになっても、紗夜は誰にも心を開かなかった。教室にいる時、休み時間はずっとイヤホンをつけてゲームをしている。昼休みになると姿を消し、どこかで一人だけで食事をしているようだった。放課後になればすぐに寮の自室へ帰り、誰とも言葉を交わさない。
あこや香澄は昼休みに時々話しかけるが、イヤホンを付けてゲームに集中している紗夜は無反応で、一度も返事をしなかった。
そんなある日、年末が近くなり、街中にもクリスマスの装いが見られるようになる。
香澄「私達も何かクリスマスらしい事しようよ!」
香澄がそんな事を言い出した。
紗夜「クリスマス……?」
その時、紗夜がゲームをする手を止め、ポツリと呟いた。小さな声だったが、クラスメイトの言葉に反応することが滅多に無かったから、全員の視線が紗夜に集中する。
紗夜は気不味そうに目を逸らし、再びゲームを始めるが、香澄が話しかける。
香澄「クリスマスパーティーやろうよ、紗夜ちゃん!」
紗夜「………。」
香澄「ねえねえ!」
紗夜「………クリスマスパーティーは良く分からないんです…。私の家では、クリスマスの時に、何かをやった事なんてありませんでしたから……。」
その言葉にあこ、友希那、燐子は驚いた。リサだけは勇者付きの巫女として紗夜の過去を知らされていたから、紗夜の荒んだ過去ならあり得るかもしれないと思った。
香澄「クリスマスパーティーはね、おっきな木を飾り付けて、ケーキと鳥を食べて、帽子を被って、パーンって鳴らすんだよ!」
紗夜「………?木は…クリスマスツリーですよね…?鳥………骨付鳥?パーンとは……銃?帽子を被った人が……骨付鳥を食べながら、銃で撃ち合うって事ですか……?」
紗夜の頭の中では、帽子を被ったマフィアの様な格好で、骨付鳥を片手で貪りながら銃を撃ち合うような図が浮かんでいたのかもしれない。
香澄「違う違う!火薬でね、糸を引っ張ったら、すっごい音が鳴るの!帽子はえっと……こう、三角なんだよ!」
香澄は拙い言葉で、一生懸命にクラッカーやパーティー様のトンガリ帽子を説明しようとするが、紗夜にはあまり伝わってないようだ。
香澄「兎に角やってみようよ、クリスマスパーティー!やれば分かるから!ね!」
結局香澄に強引に押し切られる形で、丸亀城の教室でクリスマスパーティーをやろうと決まり、紗夜も参加することになった。
小学生達だけで準備するパーティーだから、大した事は出来ない。せいぜい小さなクリスマスツリーを用意して、教室に飾り付けをして、ケーキと持ち寄ったお菓子を食べるだけのパーティー。それでも、みんなは結構楽しんでいた。
パーティーの準備中から、香澄はずっと紗夜の側にいて、紗夜も少しずつ香澄と話すようになった。
紗夜「高嶋さん……私、人と話すことが上手く出来ないんです…ずっとゲームばかりやってますし……。」
教室の飾り付けをしながら、紗夜が言った。
香澄「ゲーム好きなの?」
紗夜「はい……これだけが私の特技です…。」
ほんの少しだけ、紗夜が嬉しそうに言った。
香澄「そっか。じゃあ、紗夜ちゃんがやってるゲーム、私も買おっと。一緒に遊んだり出来るのかな?」
紗夜「それでしたら、オススメのゲームがあります…。協力プレーも出来るのをあげます。それで一緒に遊べますから。」
香澄「え?貰っちゃうのは悪いよ!」
紗夜「良いんです。今日はクリスマスでしょ?クリスマスはプレゼントをあげるものだと聞いたことがありますから……。」
香澄「じゃあ私も、何か紗夜ちゃんにプレゼントあげるね!」
紗夜は照れたように微笑んだ。
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香澄「でも、結局ゲームじゃ紗夜ちゃんの足を引っ張ってたなぁ…。」
リサ「でも、紗夜は結構楽しんでたみたいだったよ。」
そしてまた次々に写真を見ていく。食堂でみんなと一緒に撮った写真が表示された。バーテックスが初めて攻め込んできた時、初陣の後に撮ったものだ。
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リサ「それじゃあ、みんなで記念撮影をしよう!友希那のリーダー着任記念!……コレクションがまた一つ増えるよ。」
友希那「リサ!まだそんな収集してたの!?」
あこ「秘蔵コレクション?」
香澄「面白そう!リサちゃん、私にも見せて!」
友希那「あこ、香澄!興味を持たないで頂戴!」
燐子「私も見たいです…!」
紗夜「……どうでも良いですね。」
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友希那「あの時から、もう一年になろうとしているのね……。」
更に続けて見ていくと、年始に温泉旅館に行った写真が表示される。
みんなで温泉に入って、夜遅くまでゲームをする。何にも替え難い大切な時間だった。
四国外へ調査遠征に行く前に、記念で撮った写真が表示される。
あこや燐子は、前日にまるで部活みたいだと、眠れない程はしゃいだそうだ。調査の結果は悲惨なものだったが、出発前まではまるで遠足に行くようで楽しかった。
この頃は、六人みんなが揃っていた。
しかし、今はもうーー
香澄「ねえ、友希那ちゃん、リサちゃん。私達は六人いたんだよね……。」
友希那「ええ………そうよ。」
五人の勇者と一人の巫女。
香澄「紗夜ちゃんは…ちゃんといたんだよ……。」
勇者の数は、決して四人では無い。
リサ「友希那、香澄……探してみない?紗夜を。紗夜がどうやって埋葬されたのか。お墓参りくらいは出来るように。
あこと燐子については、葬儀が行われた後、どこに埋葬されたのか知らされている。友希那達は時々、墓参りに行っていた。
しかし紗夜については、実家に遺体が渡された後、どうなったのか全く教えられなかった。まるで氷川紗夜という存在を、完全に友希那達から切り離そうとしているかのように。
香澄「うん……探そう!私、紗夜ちゃんにお別れも言えなかったから。」
香澄は顔を上げ、そう言った。
放課後、三人は紗夜の行方を探し始めた。学校や勇者行きつけの病院の職員達は、大社から口止めされているのか、頑なに何も教えようとはしなかった。
調査は早速行き詰まったが、リサがふと思い付く。
リサ「確か、紗夜は家族とここに引っ越してきて一緒に暮らしてるはずだよ。その家が分かれば、家族から紗夜の事を教えてもらえるかも。」
氷川という名字で、六月初頭に丸亀市に引っ越してきた、これである程度は絞れる筈である。三人は手分けして住民達に書き込みを開始するのだった。
そして何日か掛かり、やっと氷川家を見つけることが出来た。だが、その家を教えてくれた人は、こうも言っていた。
"氷川家にはもう誰も住んでいない"と。
紗夜の父親は夜逃げし、"天恐"だった母親はどこかの病院へ保護されたらしい。紗夜の父が人間性に問題がある人だという事を、リサは聞いていた。娘が勇者から除名され、大社からの援助を与えられなくなった彼は、全てを投げ出して逃げたのだろう。
友希那達はその家に行ってみたが、言われた通り、もぬけの殻だった。そんな中、部屋の中が滅茶苦茶にされている一室を見つける。
家具、洋服、本、ゲーム機、パソコン、あらゆる物が壊されている。部屋の惨状に、三人は驚かされた。まるで竜巻でも発生したようであった。室内にある物から考えて、紗夜の部屋だろう。
彼女の心情をそのまま表したような、凄惨な部屋。
友希那「紗夜が、自分で荒らしたのかもしれないわね……。」
友希那にはそう思えた。滅茶苦茶になった部屋の中で、たった一つだけ綺麗なままの物があったから。
綿をズタズタに裂かれたベッドの片隅に置かれた一枚の紙。それだけが、全てが破壊された中で、手付かずのままだった。
それは三人にとっても見覚えのある用紙。
香澄がそれを拾い上げる。
香澄「………みんなで紗夜ちゃんに渡した、卒業証書……。」
まだ六人が全員揃っていた頃、みんなで紗夜に渡した卒業証書だった。
リサ「ずっと持ってたんだね……紗夜は。」
リサが声を震わせながら言う。紗夜は部屋の全部を壊しても、これだけは壊せなかったのだ。
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友希那がレクレーションの模擬戦を学校に提案した後のことーー
卒業証書を作ろうと言い出したのは、燐子だった。
燐子は、折角だから紗夜に卒業の記念になる物を贈ろうと言い、みんなも賛成して作成したのだった。
あこ「友希那さん!!絶対に失敗しないでくださいね?」
友希那「気が散るわ、あこ!」
燐子「あこちゃん…友希那さんは真剣に書いてるんだから、邪魔しちゃダメだよ……。」
リサ「そうそう、友希那は紗夜の事を思って書いてるんだから。」
あこ「そうなんですか!?友希那さん。」
友希那「え、ええ…当たり前じゃない。」
香澄「これを受け取ったら紗夜ちゃん絶対嬉しそうな顔するだろうなー。」
燐子「そうですね…その顔が目に浮かびます……。」
友希那「…よし、出来たわ。」
リサ・香澄・あこ・燐子「「「おおーーーっ!!」」」
模擬戦で勇者した人が、この卒業証書を紗夜に渡す。もし優勝者が紗夜だったら、みんなで渡す。五人でそう取り決めた。
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燐子「実は…紗夜さんにはもう一つだけ、命令があるんです…。」
紗夜「え……?」
燐子「命令は………これを受け取ってください…です…。」
紗夜「これは……。」
香澄「よく考えたら、紗夜ちゃんは三年生だから、本当はもう卒業なんだよね。だから卒業証書、私達で作ったんだ。」
あこ「でも、学年が一つ上がるだけで、学校もここから変わりませんけどね。」
友希那「だけど、形だけでもこういうのはやった方が良いわ。」
リサ「そうだね。」
紗夜「そう…ですか……。命令なら、仕方ありませんね……。」
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香澄「紗夜ちゃん……。」
香澄の顔から涙が溢れる。
香澄「紗夜ちゃんは…仲間で……勇者で……確かに…っ…ここにいたんだよ……。うぅ………っ!!」
丸亀城の仲間達で作った証書。
それは氷川紗夜という少女が、確かにそこにいたという証だった。
結局、紗夜の足跡を辿れるのはそこまでだった。
"勇者である"、"巫女である"ということ以外に、特別な力を持たない少女達だけでは、出来る事に限界がある。
しかし、紗夜を見つけられなかった代わりに、友希那達は一つの決意を固めていた。
ある日大社から友希那に、再び市民に向けて演説をして欲しいという依頼がきた。
紗夜が命を落とし、勇者の戦力は友希那と香澄のみ。だから市民を安心させ、奮い立たせる必要があるという。また、紗夜が死んだのは勇者として人格面で相応しくなかったためであり、友希那と香澄は能力面・精神面共に優れているから、バーテックスに敗れることは無い。故に四国は安全だと告げて欲しいという。
友希那は丸亀城で、再び人々の前に立った。
勇者の言葉を聞きに来た人々。
勇者の演説を生中継するメディア。
大社が用意した演説文と、それを述べる際の振る舞い方を、友希那は完全に暗記している。前回も今回も、過去の名演説とされるものを分析して作られた演説だ。ストーリー仕立ての論理展開と、レトリックで装飾された言葉の数々。心理的効果を狙った身振り手振り、発声や話し方。
全て聴取の心理を操作する事を第一目的とした計算づくの演説である。今回も話し始めのうちは、友希那は大社から言われたままの演説を行っていた。
だが、友希那は途中でそれをかなぐり捨てる。
友希那「氷川紗夜は、紛れもなく勇者だったわ!!」
友希那はそう叫んだのだ。
友希那「確かに彼女は心のバランスを崩していた!だけど、最期の時、紗夜は私を守ってくれた!紗夜が守ってくれなかったら、私が死んでいたわ!自分の命を犠牲にしても人を守ろうとする、それが勇者じゃなくて何だと言うの!!例え全ての人間が認めなくても、紗夜の友達である私達は、彼女は勇者だと言い続ける!!」
友希那「あこも!燐子も!紗夜も!私達は五人で……共に戦い続ける勇者だったのよ!!」
テレビ中継は途中で打ち切られたが、友希那は自分の本当の思いを叫び続けた。
香澄「カッコ良かったよ、友希那ちゃん!」
リサ「うんうん、アタシもスッキリしたよ。」
演説を終えた後、三人は大社に紗夜を勇者として扱うよう訴えを出した。紗夜の扱いは一時保留となり、今のところ勇者から除名はされていない。
そして七月ーー
間も無くバーテックスの大侵攻が起こるという神託が下った。
壁の外で融合を続ける"完成型"への対処法は、未だ見つからず。
残る勇者は、たった二人。