真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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険悪になりたく無いから、香澄は本音を隠した。だから後悔した。

もう後悔しないよう、香澄は一歩を踏み出す。




心根-こころね-

 

 

香澄「はぁ…ふぅ……。大分調子戻ってきた感じ!」

 

友希那「ええ。体力も入院前と変わらないくらいに戻ってきたわね。」

 

二人は丸亀城の敷地内のランニングを終え、一息ついていた。入院期間が長引いたため香澄の体力は落ちていたが、この一月程ですっかり取り戻したようだ。

 

友希那「はい、リサが作ってくれた特製のスポーツドリンクよ。熱中症には気をつけて。」

 

香澄「うん!」

 

今は夏真っ盛り。二人も、少しランニングしただけで汗だくになり、周囲の木々からは、騒がしい程の蝉の声が響いていた。

 

香澄「そういえば友希那ちゃん、聞いた?」

 

友希那「何をかしら?」

 

香澄「結界の強化の話。」

 

友希那「ええ……大社が進めてる計画よね。」

 

七月下旬、間も無くバーテックスの大侵攻が起こるという神託が下った。だが、未だに壁の外で融合を続ける"完成型"への対処法は見つかっていない。規格外の化け物は人類を嘲笑うかのように、緩やかに成長を続けている。

 

また壁の外には、その"完成型"以外にも、複数の"完成型"の存在が確認されていた。

 

もう一ヶ月以上の間、バーテックスは四国内へ侵攻していない。それは壁の外で、"完成型"の成長を待ち続けているためなのだろう。神樹の神託によれば、敵は間も無く完全に戦闘準備を終え、四国へ一斉侵攻を仕掛けてくるという。大社はそれら"完成型"への対抗手段を、未だに見出せていない。香澄の"酒呑童子"とて、自殺行為に近い諸刃の剣だから、決して有効な手段とは言えないのである。

 

しかし次の総攻撃さえ乗り切れば、敵の侵攻を食い止める対策を二つ用意出来ると大社は言う。

 

その一つが、以前から計画されていた結界の強化である。

 

ドリンクを飲み終え、友希那は海の方を見つめる。遠くに海と夏空と神樹の壁が広がっている。壁の内側からは見えないが、実際は壁の向こうに"完成型"が今も存在している。結界に施された視界遮断の機能のせいで、見えないようになっているだけだ。

 

友希那「今度は視界の遮断だけじゃなく、結界の防御力そのものを強化するらしいわね……。」

 

香澄「今もすっごく沢山儀式とかして、準備してるんだよね。」

 

友希那「ええ。後数ヶ月で完了するみたいだけど……結界の強化が終われば、今までのようにバーテックスの侵入を許すことは無くなる。」

 

香澄「うん。でも…"もう一つの対策"って何だろう?」

 

香澄は首を傾げる。大社が行う二つの対策のうち"もう一つ"については、友希那や香澄、そしてリサも聞かされていなかった。その事が友希那に一抹の不安を与える。何故大社は"対策"の内容を秘密にするのか。

 

香澄「兎に角、次の戦いに勝てば、対策が全部整うんだよね!そしたら、バーテックスはもう来なくなる。平和になる!」

 

香澄は明るい声で言う。前向きな彼女の声に、友希那は不安を振り払った。

 

友希那「そうね。」

 

遠くの空に、白く大きな入道雲が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

大社の言葉を信じるなら、次が最後の戦いになる。絶望的な戦いだが、その先に僅かな希望を信じるしかない。

 

二人は、次の戦いに備えて生活を送っていく。格闘と基礎体力の訓練を続け、充分な休養と栄養を取って過ごす。

 

友希那は次の戦いに向けて、大社に勇者システム強制解除の改善を申請していた。紗夜が命を落とした時、勇者システムが解除されていなければ、まだ助かる道があったかもしれなかったからだ。例え勇者達がどんな状況に陥ろうと、仲間がフォローしたり、自力で何とか出来るかもしれない。しかし、戦う力を奪われては、その可能性すら潰されてしまう。

 

 

ーーー

ーー

 

 

友希那「神樹様の御意思であろうと、強制解除は起こらないようにしてほしい。私達を信じて任せてほしい。」

 

 

ーー

ーーー

 

 

その申請は受理され、勇者システムのアップデートが行われた。

 

またその他に、友希那にはもう一つの準備が必要とされた。今まで使用を禁じられていた精霊。香澄の"酒呑童子"に並ぶ、強力な精霊を身に宿す為の準備である。

 

 

 

 

 

香澄とのトレーニングを終えた後、部屋に戻ってきた友希那を待っていたのは、リサだった。

 

リサ「じゃあ、勉強を始めるよ!」

 

机の上には、様々な本が積まれている。その全てが神話や神事に関わる文献だった。

 

友希那「……今日はまた随分と多いわね。こんなに必要なの?」

 

リサ「色んな文献に触れて、精霊のイメージを強く掴んでおく……そうする事で、精霊の力を宿しやすくなるって、大社の人から言われてたでしょ?」

 

友希那「確かにそうだけれど……。」

 

次の戦いで友希那が身に宿すのは、"酒呑童子"に匹敵する精霊。準備は万全にしておくに越したことはない。友希那も本を読むのは嫌いではない。だが既に一般的な文献は全て読み終わり、最近リサが持ってくるのは、取り扱いに気を使う程の古書ばかり。書かれている文字は読み辛い草書体で、文献も古語。これらの文献に目を通すのは、読むと言うより解読すると言った方が正しい。

 

友希那「今日は香澄と鍛錬もしてきたから、疲れたわ……もう本は懲り懲りよ…。」

 

リサ「ふんだ!香澄との訓練の方が、アタシとの勉強よりも大切なんだね、友希那は。」

 

友希那「そ、そんな事無いわよ、リサ。」

 

リサ「良いもん良いもん!」

 

二人が痴話喧嘩をしていると、部屋のドアが突然開けられる。

 

香澄「友希那ちゃん、リサちゃん、明日ーー」

 

友希那・リサ「「あっ………。」」

 

ドアを開けた香澄は、二人が互いの頬を引っ張りあっている姿を見て、一瞬だけ硬直。そしてそっとドアを閉じようとした。

 

香澄「ごめんね。また後で来るね。」

 

友希那「待っへ、かふみ!あほじゃなふて良い!今で良いわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那に呼び止められ、香澄は部屋の中へ入ってきた。

 

友希那「………コホン、ごめんなさい。見苦しい姿を見せてしまったわね。」

 

香澄「気にしないで!いきなり入ってきた私が悪いんだから。」

 

リサ「そんな緩んだ友希那も、可愛いんだけどね。」

 

友希那「もう…リサったら…!」

 

リサ「あはは。ところで、何か用事があって来たんじゃないの?」

 

香澄「そうそう!ねえ、明日一緒に出かけない?」

 

友希那「明日?ええ、良いわよ。明日は鍛錬も休みだし。」

 

リサ「アタシもオッケーだよ。」

 

今は夏休み中で授業は行われていないから、鍛錬と次の戦いの準備以外に日課は無い。

 

香澄「じゃあ、決まりだね!」

 

香澄の提案により、明日は三人で出かけることになった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、三人は丸亀城の大手一の門前に集合することになった。一番早く集合場所にやって来たリサは、友希那と香澄が来るのを待つ。

 

リサ「変だなぁ。待ち合わせだったら、友希那はいつも集合時間の十分前には来てるはずなのに…。」

 

そんな事を思っていると、友希那がやって来た。

 

友希那「待たせてしまったわね、リサ。」

 

リサ「ううん、まだ集合時間前だから………って、その格好は何?」

 

友希那は大きなサングラスと大きなマスクを付け、帽子を被り、ジャージを着て、刀を携えていた。

 

友希那「変装よ。あまり勇者が街を歩き回っていると、目立ってしまうわ。刀は有事の為ね。」

 

リサ「友希那………。」

 

そうこうしていると、香澄もやって来る。

 

香澄「二人とも早いね!」

 

リサ「あっ、香澄………って、香澄もなの!?」

 

香澄はお面を被っていた。祭りの縁日で売られているような、特撮ヒーロー番組のお面だった。

 

香澄「変装だよ!街の人達に勇者だって分からないように!」

 

リサは二人の方に手を置いて、静かな声で言う。

 

リサ「二人とも………折角のお出かけにその格好は却下だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

結局、リサが二人の服装をコーデし直し、出かけることにした。ただし友希那は、有事の為と言って刀を手放そうとしなかったので、相変わらず刀を携えたままである。

 

丸亀城の敷地内から出て、人通りがある場所を歩いてみたが、通行人は友希那達を気に留めるものの、それで騒ぎ立てたりはしなかった。

 

リサ「二人は有名人だけど、悪い事してるわけじゃないから、堂々としてれば良いんだよ。」

 

香澄「あはは、そうだね。」

 

友希那「ところで香澄、何処か行きたい場所とか、目的地とかはあるの?」

 

香澄「ううん、そういうのは別に無いけど……三人で街の中を散歩出来たら良いなって。ダメかな?」

 

香澄の言葉に、二人は微笑む。

 

友希那「いいえ、良いと思うわ。たまにはそういうのも。」

 

リサ「うん。目的なんか無くても、友達だからね。一緒にいられるだけでも楽しいし。」

 

 

 

 

 

 

丸亀城から、特に目的も無く、駅の方へ向かい、商店街へとやって来た三人。商店街は人通りが多く、賑わっている。四年前、本州や九州から四国へ人々が避難してきたため、四国の人口は以前よりも増加した。その為商店街や駅前などは、普段から多くの人々の姿が見られる。

 

商店街の中には、至る所にお祭りのポスターが貼られていた。八月下旬に行われるようだ。

 

香澄「あ、手作り団扇だ!」

 

雑貨屋の前を通った香澄が内側を見つけ立ち止まる。三人で団扇を買い、再び商店街を歩いていく。

 

リサ「こうして団扇を持って歩いてると、何かが足りないよね……。」

 

リサは眉間に皺を寄せ、考え込む。友希那は何か嫌な予感がした。

 

リサ「そうだ!団扇と夏が揃ったら、浴衣だよ。友希那、香澄、浴衣を買おう!そして今から着替えて行こう!」

 

友希那「えぇ……祭りでも無いのに浴衣を着て歩くのは変じゃないかしら?」

 

香澄「そ、そうだね……また今度にしようよ。」

 

リサの勢いに圧倒されつつ、二人は答える。

 

リサ「仕方ないね……じゃあ祭りの時は、二人ともに一番似合う浴衣を、アタシが選ぶよ。」

 

 

 

 

 

 

その後、商店街を歩いて、うどんを食べて。駅を通り過ぎて、海の方へ向かった。この通りの先には、香川で最も有名な神社である金比羅宮まで続いている。

 

香澄「金比羅宮かぁ……そういえば私、小さい時はよく神社に行ってたんだ。」

 

友希那「神社に?珍しいわね。」

 

香澄「うん。金比羅宮みたいな、大きなのじゃないけど。」

 

リサ「そういえば、香澄がここに来る前の話は、あまり聞いた事が無いよね。」

 

友希那「香澄はいつも自分よりも他人を優先して、話の聞き手に回る事ばかりだものね。」

 

リサ「気遣い屋だからね、香澄は。だからみんなに好かれるんだろうね。」

 

香澄「ありがとう………でも…。」

 

香澄は言いかけた言葉を途中で飲み込み、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

三人が海に着いた時には、日が傾き始めていた。空気が茜色に染まっていき、港に停泊しているフェリーの姿がどこか哀しげに見える。

 

香澄は夕暮れの海を見ながら、話し始めた。

 

香澄「本当はね、そんなに褒められることじゃないんだ。」

 

香澄の言葉に、二人は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

香澄「よく、みんなの事を気にかけてるとか、気遣い屋って言われるけど……褒められることじゃないよ。ただ…嫌なんだ、気まずくなったり、誰かと言い争ったりするのが……辛いから。だから、相手の話を聞くばっかで………全然、自分を出せなくて。でもーー」

 

いつも明るく、他人のことを優先し、勇者達の和を取り持つムードメーカーだった少女。

 

そんな香澄は、夕陽を背にして、二人の方を振り返った。その表情は少しだけ寂しげで。

 

香澄「あこちゃん、燐子ちゃん、紗夜ちゃんに………自分のことを話せなかったのが、何だか悲しくなって……もっと自分のこと話してたら良かったなって………今更、思っちゃったんだ。」

 

友希那「香澄………。」

 

香澄「だから、友希那ちゃんとリサちゃんには………知っておいて欲しいんだ。私のこと。」

 

二人は香澄を見つめ、優しい顔で頷く。

 

友希那「ええ、話してほしい。香澄のことを。」

 

リサ「そうだね。アタシももっと香澄のこと知りたい。」

 

香澄「…………ありがとう。」

 

香澄は微笑んで、まるで自己紹介をするように、少しだけ緊張しているように、語り始める。

 

香澄「私は勇者、高嶋香澄。奈良県出身で誕生日は7月14日。好きな食べ物はフライドポテトと白いご飯。勇者になる前………小さい頃は、よく自然の中で遊んでたよ。それと家の近くの小さな神社に行って、ボランティアで掃除を手伝ったり、境内で遊んでたりしてた。神社の境内ってね、かくれんぼにぴったりなんだ。隠れる場所がいっぱいあって。でも、入ったらいけない所に入って、神主さんから怒られたりもしたっけ。」

 

懐かしむように、取り留めもなく、香澄は自分の事を話し続ける。香澄の語る言葉を、二人は静かに聞いていた。

 

香澄「だから私にとって、神社とか神主さんって凄く身近で………そのせいで、大社の雰囲気とか、そういうのをみんなより自然に受け入れられているのかも。」

 

リサ「香澄は小さい時から神社っ子で、昔はもっとやんちゃだったんだね。」

 

香澄「やんちゃ………うん、ちょっとだけそうかも。」

 

照れる香澄を見ながら、リサは巫女の教養として大社の神官から教えられた事を思い出す。

 

清浄、穢れ、神威、神秘など、そういった目に見えないものは、接触によって人の身に蓄積されていく。文化人類学では"感染呪術'と呼ばれるもので、一度触れ合ったものは離れた後も影響し合うという法則がある。その法則も、接触によって目に見えない何かが人の身に蓄積されるからこそだ。

 

香澄が幼い頃から神社の空気に触れ続けていたことは、もしかしたら彼女の勇者としての力に、何かしらの影響を与えているのかもしれない。

 

香澄「でもあこちゃんみたいに、コスプレに興味持ったり、燐子ちゃんみたいに頭が良かったりって訳じゃ無いし、すっごく普通だった。だから勇者になった時はどうして私なんだろうって驚いたし、戦うのも怖かった。でも…………家族とか友達を失うのは、もっと怖かった。私、本当はね、怖いから戦ってるんだ………臆病なんだよ。だから勇者って言葉に憧れるのかも。」

 

香澄はちょっとだけ苦笑気味に言った。

 

 

 

 

 

 

それから、香澄は他にも沢山の事を語った。幼稚園や小学校時代の事、当時の友達の事、どうやって四国までやって来たのかという事を。

 

 

 

 

 

 

 

ひとしきり語り終えた後、香澄は一息ついた。

 

香澄「なんだかこんなに沢山話したの、生まれて初めてかも。」

 

二人は微笑む。

 

友希那「私は嬉しいわ。香澄がこんなに自分のことを話してくれて。」

 

リサ「うん。香澄のことが、今までよりもっと分かった気がする。」

 

海から丸亀城に帰る道の途中でも、友希那達は色々なことを話し合い、笑い合った。本当に些細なことを話しているだけで、楽しかった。

 

友希那「香澄。これからも何か思うところがあれば、遠慮なく話してちょうだい。場合によっては、私はそれで怒るかもしれない。香澄と議論するかもしれない。だけど、そんなことがあっても、友達よ。変わらないものは変わらない。私はそう信じているわ。」

 

リサ「勿論アタシもね。………だけど何でだろう、こうして腹を割って話すのは、清々しいね。」

 

夕暮れの中、並んで歩く三人の長い影。

 

もうこれ以上、一人でも欠けることが無いようにーー

 

 

三人はそう願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それから間も無くーー

 

 

 

 

 

 

 

 

バーテックスが四国へ襲来した。

 

 

 

 

 

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