真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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最後の戦いが始まる。三体の"完成型"を前に、香澄は勇者として、世界を守る為に全てを賭して立ち向かう。




勇者-ゆうしゃ-

 

樹海に覆われた四国の地で、戦う勇者はたった二人。友希那と香澄は丸亀城本丸城郭に立ち、遠く壁の方から迫ってくるバーテックスの大群を見据える。

 

無数のバーテックスの中に、一際巨大なバーテックスの姿が複数あった。

 

友希那「"完成型"が六体………。」

 

香澄「瀬戸大橋の近くで見た、あのライオンみたいなのはいないね。」

 

友希那「そうね。まだ完成していないというの……?」

 

四国に侵入してきた六体の"完成型"は、以前のサソリ型の"完成型"と同等の大きさである。

 

友希那「でも、それはそれで好都合よ。先に"完成型"を六体倒して、敵の戦力を削る。そうしておけば、後であのバーテックスが現れても、二人がかりで対処出来るわ。」

 

香澄「うん!それじゃあ、一人三体ずつ倒せばオッケーだね。」

 

これが最後の戦い。友希那も香澄も一切の出し惜しみはしないし、する余裕もない。侵入してきたバーテックスにより、早速樹海に腐食が現れ始めていた。

 

二人は目を閉じ、体の内側に意識を集中させる。神樹の概念的記録にアクセスし、そこから精霊の力を引き出し、自らに宿す。

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄「来いーー"酒呑童子"!!」

 

香澄が身に宿すのは、比類無き力の権化、鬼の王、これまでの戦いの中で"完成型"を唯一屠った実績を持つ"酒呑童子"。

 

香澄の勇者装束が変化し、武器である手甲が巨大化していく。強化された香澄の手甲は、敵対するあらゆるものを打ち砕くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「降りよーー"大天狗"!!」

 

そして友希那が身に宿すのは、神にも比肩する大妖、魔縁の王、とある伝承によれば天上世界を一夜にして灰燼に帰したという"大天狗"。

 

友希那の勇者装束が変化し、背中から巨大な翼が生える。

 

 

 

"酒呑童子"、"大天狗"ーー二つの人の身に余る力を宿した少女達は、閉じていた瞳を開ける。そして人の世を滅ぼさんとする天敵達を見据えた。

 

まずは通常個体のバーテックスの群れが、先遣隊のように丸亀城に到達する。しかし既に通常個体程度では、一年もの間その身を削りながら戦い続けた勇者達の敵では無い。

 

香澄が拳を振るい、友希那が刀を一閃する度に、通常個体のバーテックスは次々に討ち倒されていった。

 

香澄の拳は一撃で数十体もの通常個体を粉砕する。討ち漏らした敵がいても、翼を得たことによる圧倒的機動力を持つ友希那が、余さず一刀両断する。

 

パワーとスピード。お互いがお互いを補い合い、一切の過不足無く、二人の勇者は敵を滅ぼし尽くす。

 

突如、接近してくる六体の"完成型"のうち一体が、地中へと潜っていった。

 

友希那「っ!?地面を移動してる……!?」

 

友希那は片手で刀を振るい、スマホのマップで"完成型"の移動方向を確認した。

 

友希那「狙いは神樹ね!」

 

香澄「友希那ちゃん、地面に潜ったのは、私がやっつけてくるよ!」

 

香澄は本丸城郭から跳躍する。

 

友希那「任せたわ、香澄。ここの敵は私が食い止める!」

 

香澄を見送った友希那に、他の"完成型"が襲いかかる。

 

 

 

無数の節に分かれた長い体を持つ羊の様な"完成型"ーー

 

 

凶悪な角を持つ牡牛の様な"完成型"ーー

 

 

 

二体の"完成型"は、友希那に向かって突撃する。単純すぎる攻撃だが、体格の差は即ち破壊力と耐久力の差であり、直撃すれば友希那の体は原型も留めずに粉砕されるだろう。

 

しかし、今の友希那の機動力に、そのような攻撃は通用しない。二体の突撃を一瞬で回避し、刀を手に天敵達を見据える。

 

友希那「バーテックス………ここがお前達の墓場だと知りなさい!」

 

 

 

 

 

 

友希那が"完成型"の攻撃を回避したのを見て、香澄はホッと息をつく。

 

香澄(友希那ちゃんなら……きっと大丈夫だよね。)

 

香澄はそう信じ、地中へ潜った"完成型"を追う。"完成型"は刻一刻と神樹へ近づいているが、全く地面の上に出てこない。

 

香澄「うう、出てこなきゃ倒せない……!このままじゃ、神樹が………。」

 

バーテックスによって神樹が破壊されれば、四国は滅んでしまう。

 

香澄「こうなったら………最後の手段!!」

 

香澄は"完成型"が潜伏して移動している辺りの地面を、拳で思いっきり殴りつけた。その一撃で大地が割れ、地面にクレーターが出来るが、敵は未だ負傷せず。

 

香澄「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

香澄は凄まじい速度と威力で、地面を何回も叩きつけた。無数の地鳴りが続き、大地が抉れ、やがて潜伏する"完成型"の一部が見えてきた。香澄の拳がついに"完成型"に直撃し、体の一部が粉砕される。だが尚も"完成型"は

地中を進み続けようとする。

 

香澄「このおーーーーーっ!!」

 

香澄は"完成型"のヒレのような部分を掴み、力ずくで地面から引きずり出した。やっと地上に全身を晒した"完成型"にトドメの一撃を喰らわそうとするが、香澄が拳を振るうよりも早く、白い巨大な帯が香澄を吹き飛ばした。

 

香澄「きゃあっ!」

 

香澄の体が地面に叩き付けられる。巨大な帯は、別の"完成型"ーー膨らんだ下腹部を持つ乙女の様な"完成型"。

 

香澄は地中を進んでいく"完成型"に気を取られ、他の敵の接近に気が付いていなかった。

 

乙女の様な"完成型"は、膨らんだ下腹部から卵型の爆弾を発射。帯の一撃を喰らったせいで、意識が朦朧としている香澄は、避けることも出来ずに爆弾の直撃を全て喰らってしまう。その度に、香澄の体は木の葉の様に宙を舞った。

 

香澄「あ………うぅ……。」

 

ボロボロになり、香澄は樹海の巨大な蔓の上に突っ伏してしまう。

 

香澄(うぅ……っ、体が……………動かない……。)

 

視界が暗くなっていく。狭まっていく視界の中で、神樹へ向かって空中を移動していく三体の"完成型"の姿が見えた。

 

 

倒し損ねた地中に潜る魚の様な"完成型"ーー

 

 

下腹部が膨らんだ乙女の様な"完成型"ーー

 

 

そして、巨大な板を周囲に展開させた蟹の様な"完成型"ーー

 

 

 

三体はこのまま神樹に辿り着き、四国を滅ぼすだろう。

 

香澄の全身は、バラバラになりそうな苦痛に包まれていた。バーテックスからの攻撃を受けた事、そして人の身に余る"酒呑童子"の力を使った反動のためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄(もう……いいや………。)

 

 

 

 

急に全てが馬鹿馬鹿しくなってしまった。同時に激しい憤りと苛立ちを感じた。

 

何故こんな苦痛を受けながら戦わなければいけないのか。

 

自分を戦わせようとする大人達への憤り。バーテックスへの憎悪。壊れてしまった世界そのものへの嫌悪感。

 

もうこの世界は終わってしまっている。死にそうな苦痛に耐えてまで守る価値があるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄(馬鹿みたい……こんな痛い思いをして、苦しい思いをして戦って………紗夜ちゃん、あこちゃん、燐子ちゃん……私、何で今まで一生懸命に戦ってきたんだか、分からなくなっちゃったよ…………勇者なんて、ただ痛いだけで、苦しいだけで……なんで…………。)

 

不条理への憤りを抱えながら、香澄は意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄(ーー何で戦うのかって?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄「勇者だからだよ!!理由なんて、それで充分だ!!」

 

香澄は声をあげ、全身の力を振り絞り、立ち上がる。意識を失っていた時間は、ほんの僅かだけだった。

 

香澄「また私……凄い悪い事考えてた…。」

 

"酒呑童子"という強力な精霊を使う反動。一瞬だけだが、暗い感情に心を支配されていた。これまでも"酒呑童子"を使った後は、暫く強い負の感情が消えなかった。

 

香澄「友希那ちゃんだって……頑張ってるのに………。」

 

遠くで戦っている友希那の姿が見える。友希那は小型バーテックスの群れと、"完成型"に囲まれていた。神樹へ向かった"完成型"が三体。残りの"完成型"三体は全て友希那が相手をしているのだ。その状況ではら香澄を助けに来ることも、神樹を守ることも出来ないだろう。

 

今神樹を守ることが出来るのは、香澄だけだ。

 

香澄「う、ううう………。」

 

体が重い。

 

目が眩む。

 

頭が朦朧とする。

 

 

 

 

だけど、それでも、まだ生きている。動くことが出来る。

 

"酒呑童子"の力は、まだ香澄の体に宿っている。

 

ならば、彼女は歯を食いしばり、何度でも立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄「私は…………!」

 

 

 

 

 

香澄は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

香澄「私は………高嶋香澄は、みんなが大好きだーーーーーーーー!!」

 

 

生み、育ててくれた両親ーー

 

 

幼稚園や小学校の頃、仲良く遊んだ友達ーー

 

 

子供の頃に神社で出会った神主達ーー

 

 

四国に来るまでに出会った人々ーー

 

 

四国で暮らす人々ーー

 

 

商店街で働く人達ーー

 

 

諏訪の美竹蘭と青羽モカーー

 

 

 

 

そしてーー湊友希那、今井リサ、氷川紗夜、宇田川あこ、白金燐子。

 

 

 

たった十四年程度しか生きていないが、色々な人に出会ってきた。世界が滅茶苦茶になって絶望しかない世の中でも、多くの人が一生懸命に生きていた。善人ばかりでなくとも、それでも誰もが一生懸命だった。

 

 

強い人。弱い人。優しい人。臆病な人。勇敢な人。明るい人。暗い人。頭が良い人。運動が得意な人。素直な人。強情な人。熱血な人。冷静な人。

 

香澄は、この時代を生きていこうとするみんなの事が、大好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄「だから、絶対に、この世界を守るんだああああああああっ!!」

 

香澄は地を蹴り、神樹へ向かう三体の"完成型"へ跳躍した。既に"完成型"は、神樹の近くまで辿り着いている。

 

香澄が真っ先に追いついたのは、最初に倒し損ねた魚の様な"完成型"だ。敵は香澄の接近に気付き、再び地面に潜ろうとするが、香澄の攻撃が速かった。残った力の全てを拳に込め、打ち付ける。

 

香澄「うおおおおおおおおっ!!」

 

一撃で"完成型"の巨体が破壊される。そしてその勢いのまま、香澄は他の二体へ迫る。

 

膨らんだ下腹部を持つ"完成型"に接近し、拳を打ち込もうとするが、蟹の様な"完成型"がそれを阻む。反射板を発生させ、香澄の拳を防いだのだ。反射板は硬く、今まで"完成型"を屠ってきた香澄の拳が止められる。

 

だが香澄は諦めない。

 

香澄「お前達なんかに、これ以上奪われてたまるかあああああっ!!」

 

反射板に連続で拳を叩き付けた。

 

 

 

 

 

 

高嶋香澄の手甲に宿る霊力の名はーー"天ノ逆手(あまのさかて)"。

 

それは地の神の王子の一人が、天の神から殺された時に放った呪詛。天を憎み、恨み、呪い、それらを尽く滅せよと願った、彼の憤怒そのもの。

 

香澄の手甲に宿った地の神の呪詛は、天に属する存在を侵食し、崩壊へと導く。

 

香澄はバーテックス襲来の日、避難している途中、通い慣れた神社でその手甲を手に入れた。それ以来、香澄は神の力を宿したこの武具と共に戦い続けてきたのだ。

 

 

 

 

 

拳の一撃を受けた反射板は、罅割れ、砕け散った。だが、一枚で終わりではない。他の反射板が再び香澄の攻撃を防ぐ。

 

香澄「何度だって、何度だってーー」

 

香澄は拳を打ち込み続ける。手甲に守られてるとはいえ、香澄の拳は"酒呑童子"の力の反動で砕けていった。手甲から溢れた血飛沫が、空を舞う。それでも香澄は、攻撃を止めなかった。

 

やがて全ての反射板を打ち壊し、遂に本体に拳が届く。

 

香澄「何度だって、私達は立ち向かう!それが私達、人間だあああああああっ!!」

 

蟹の様な"完成型"の本体を、香澄の一撃が粉砕した。だが反射板に手間取っているうちに、残る一体の"完成型"が神樹に近付いていた。爆弾を放ち爆発させるが、神樹の周囲に透明な防護壁が発生し、攻撃が通らない。遠距離攻撃は通用しないと判断し、"完成型"は神樹に更に近付いていく。

 

 

 

 

 

香澄「勇者あああ、パーーーーーーンチッ!!」

 

 

追いついた香澄が、拳の一撃を"完成型"に打ち込んだ。これまでの力の酷使のせいで、香澄の腕は骨が折れて内出血で全体が黒ずみ、拳も砕けて手甲の中は血と肉塊だけという惨状だ。本来、こんな状態では拳を振るうことなど出来る筈がない。それでも香澄が戦い続けているのは、最早奇跡だった。

 

香澄の拳は、一撃で"完成型"の下腹部を破壊する。敵は白い帯を振るって香澄を弾き飛ばした。

 

飛ばされた香澄は樹海の蔓に叩き付けられ、赤黒い血を大量に吐いた。内臓が幾つか壊されただろう。だが一瞬も停まること無く、香澄は再び"完成型"へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄「私は!!勇者、高嶋香澄だああああああああああっ!!!」

 

 

 

 

 

香澄の拳は"完成型"の白い帯を貫き、そして本体を打ち砕く。"完成型"は奇妙な声をあげて消滅した。

 

これで三体。神樹に近付く"完成型"は全て倒した。

 

力を使い果たした香澄は、地面に落下する。落ちた場所は、神樹のすぐ根本だった。

 

通常個体のバーテックスも、香澄が倒していないもう三体の"完成型"も、神樹の方へは一匹も近付いて来ていない。きっと友希那が足止めしているのだろう。

 

香澄(流石………友希那ちゃん…だね……。)

 

香澄は誰よりも頼もしい友達のことを誇らしく思った。香澄は倒れたまま、もう指一本動かすことさえ出来ない。

 

 

 

 

 

 

視界が暗くなっていくーー

 

 

 

 

 

このまま目を閉じたら、再び意識が戻ることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、自分の体が温かいものに包まれているように感じた。何かと溶け合っていくような、不思議な感覚。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄(神樹……様………?私…神樹様の中に……入っていってる………?)

 

しかし、不思議と恐怖心は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄(友希那ちゃん、リサちゃん………一人でも欠けることが無いようにって……ごめんね…出来そうにないや………。だけど、良かった………みんなを守ることが…出来たから………。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄は安堵の笑みを浮かべて、最後の意識を手放すのだった。

 

 

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