真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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空が堕ち、理が書き換えられ、炎の海に残された人類は天に赦しを得るしかなかった。

それでも友希那とリサは仲間の思いを胸に、人類の明日を、未来に託すべく歩み続ける。

"湊友希那は勇者である"、最終回ーー



明日-みらい-

 

世界が、落ちてきた巨大な炎の光と熱に染め上げられていく。もう友希那の目には何も見えない、光だけの白い世界。

 

 

 

 

 

世界は天に喰われたのだーー

 

 

 

 

 

 

 

ただ、友希那の右手には、繋いでいるリサの手の感触がある。

 

友希那「リサっ!!」

 

何も見えない中、咄嗟の判断で友希那はリサの手を引き、彼女を抱きかかえて後ろへ跳躍した。

 

友希那の背後は、結界の中。結界内に戻ると、世界が変わる。

 

また普段の瀬戸内海の風景が視界に広がっていた。

 

友希那「さっきのは何だったの……?」

 

抱きかかえたリサを下ろしながら、友希那は青ざめていた。リサの顔色も悪い。

 

リサ「分からない……だけど、今は結界の外には出ない方が良いと思う………。」

 

友希那「……そうね………。」

 

友希那は全身から力が抜けてしまい、その場に膝をついた。

 

この世界で何が起ころうとしてるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く時間が経った後、二人は躊躇いながら結界の外に出てみる。

 

友希那・リサ「「………そんな…っ!?」」

 

二人は驚きを隠せない。そこに広がっていたのは、以前とは全く異なる世界。大地が紅く不気味に脈打ち、溶岩の様なものに包まれている。時々弾けるように、紅い炎が大地から噴き上がる。

 

そして世界は我が物だと言わんばかりに、大地にも空中にも無数のバーテックスが蠢いている。ただ、"完成型"は何故か全て消滅していた。

 

以前の地球の姿は、もう跡形も残っていなかった。

 

友希那は呆然とその光景を見つめる。

 

友希那「世界が……壊された………?」

 

リサ「違う……破壊なんてものじゃない。これは世界の理そのものが書き換えられたんだ………。」

 

既にこの世界には、人類が残してきたもの、生み出してきたものは、一切存在しない。人間が暮らしていた民家も、大都市のビル群も、蘭が残した畑も、全て失われてしまった。

 

完全なる根絶。生き残りがいる可能性は絶たれてしまったのだ。

 

リサ「人類の再起の可能性を……徹底的に潰してるんだね…。」

 

リサは拳を握りしめ、変わってしまった世界を見つめていた。もうこの世界に残っているのは、結界に守られた四国のみ。

 

友希那「そん…な………。」

 

友希那は歯を食いしばる。怒り、無念、後悔、絶望、悲嘆、あらゆる感情が混ざり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界内に戻った後、リサは大社に結界外で起こった事を報告した。世界が書き換えられたのと同時刻に、他の巫女達も神託を受けており、大社も事態を把握していた。

 

結界の強化が間に合ったお陰で、なんとか四国は崩壊を免れたらしい。神樹の結界内は、天敵達が書き換えて造り出した世界の理の外にある。"根之堅洲國"という呼び名は、適当なのかもしれない。

 

友希那達勇者が敵と戦い、四国への侵攻を食い止めてくれたお陰で、結界の強化が間に合った。そして人類は全滅を免れた。

 

だが、神樹が力尽きた瞬間に、人類は死滅するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

結界外の調査任務を終えた後、友希那はこれ以上に鍛錬に打ち込むようになった。他の仲間はいなくなってしまったが、友希那はたった一人、刀を振るい、身体を鍛え続ける。

 

"完成型"は全部で十二体確認され、大社は便宜上、その十二体に星座の名前を与えた。天から来たものには、星座の名前を冠するのが相応しいと。

 

結界が強化されたとはいえ、今後も永久に安全だとは限らない。十二体の"完成型"は一度姿を消したが、バーテックス自体がいなくなった訳では無い。いずれ再び出現するだろう。その時は、強化された結界でも、侵攻を防げなくなるかもしれない。

 

もし、あの十二体の"完成型"が一斉に攻め込んできたら、友希那一人で立ち向かわなければならない。絶望的な戦いになるだろう。

 

友希那(だけど、やるしかない。私が挫けたら、今までの仲間達の戦いが、命が、全て無駄になってしまう……。私がこの世界と人々を守り続けないと…絶対に……!)

 

悲壮な決意を胸に、今日も友希那は鍛錬を続ける。日が暮れるまで刀を振るい、疲労で腕が動かなくなってきた頃、リサが姿を現した。

 

リサ「今日も訓練してるんだね。」

 

友希那「ええ……生き残った者の義務よ。」

 

リサが友希那を見つめる。その瞳には、どこか感情の読めない冷たさがあった。

 

リサ「…………少し話があるんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮の友希那の部屋でリサが話し始める。

 

リサ「友希那はもう戦う必要はなくなったよ。」

 

友希那「………そんな事無いわ!」

 

友希那は殆ど反射的に、否定の声を発していた。結界が強化されたから、もうバーテックスが攻めて来ることが無いと言うのだろうか。だが、結界の力も絶対とは言えない。友希那がそう言おうとしたが、リサが淡々と言葉を続ける。

 

リサ「今は結界で持ち堪えても、神樹様の力が尽きた時、アタシ達は炎の海に飲まれ、全てが終わる。もう人類の根絶は完了したって言える。そう………ここまで絶望的だからこそ、活路があった。」

 

友希那「………それは?」

 

リサ「初めての試みだったけど、成功したよ。この神事をアタシ達は"奉火祭"って名付けた。」

 

友希那「何の事……?」

 

友希那の疑問に、リサは答えること無く、感情を消した声で語り続ける。

 

リサ「大社は祭りを行った。壁の外で……。そして、天に話し、願った。今後、この地から出ないことを条件に、侵攻を赦してもらいたい……ってね。」

 

友希那「話って……そんな事が…。」

 

リサ「神代の時、それで赦されたって前例がある。………()葦原中国(あしはらなかつくに)は、(みこと)のままに既に(たてまつ)らむ。ただ(やつがれ)住所(すみか)は、天つ神の御子の天津日継(あまつひつぎ)知らしめす、とだる天の御巣の如くして、底つ石根(いはね)に宮柱ふとしり、高天原に氷木(ひぎ)たかしりて治め賜はば、僕は百足(ももた)らず八十坰手(やそくまで)に隠りて(はべ)らむ……かつて土地神の王が、天の神にそう誓ったことがある。自らの住処から出ない事を代償に、その地を不可侵として赦してほしいって。今、アタシ達はその模倣をしたんだ。」

 

神事や儀式とは、神話の再現である。"国譲り"として神話に伝わる出来事を模倣し、大社は天の神に赦しを願ったのだ。

 

リサ「地に棲まう者達、つまりアタシ達の根絶こそが、恐らく敵の目的。それがほぼ成就している今、このタイミングだからこそ、可能だったんだ。アタシ達巫女は神託を受け取る者。神の声を聞き得る者。その巫女達に、こっちの声を届けてもらった………天に。」

 

友希那「……どうやって?」

 

巫女は神の声を聞く。だが、今まで神樹との交信でさえ、神から人への一方通行だった。まして神樹よりも遠い存在である天の者達に、どうやって人の言葉を届けるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「ーー炎の中へ……。」

 

友希那「……っ!?」

 

リサ「六人の巫女が選ばれた。」

 

友希那「まさか…生贄にしたというの……!?」

 

リサ「友希那が絶対に反対するだろうから、こうして終わった後にアタシが話してるんだ。」

 

無表情に、淡々と、リサは言葉を続ける。

 

友希那「リサ……あなた!」

 

友希那は思わず、リサの肩を強く掴んでしまう。痛みはあったはずだけど、リサは眉一つ動かさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「本当だったら、アタシも生贄に選ばれるはずだった。」

 

友希那「え………っ!?」

 

リサ「でも上手く立ち回って、人選から外れることが出来た……死ぬのは嫌だったし。ズルいんだよ、アタシは。」

 

リサはそう言って、薄い笑みを浮かべる。普段のリサとは別人の様な酷薄な顔。冷たく、事務的で、利己的な少女の姿。

 

だが、だからこそ、友希那には分かった。幼馴染の友希那だけには分かった。

 

友希那「そんな言い方をしないで!リサは………私でしょ?私の気を遣って、残ってくれたんでしょ?もしリサまでいなくなったら、私は………ごめんなさい、あなただって辛いはずなのに……私はあなたに……。」

 

友希那がそう言った瞬間、リサの目から一筋の涙が頬を伝った。表情を変えず、感情を変えず、リサは泣く。

 

リサ「………もう、こうするしか、道は残ってなかった。友希那でも……一人であの敵と戦い続けるのは無理だから……。今までは、勇者が頑張ってきた。だから、今度は巫女が頑張ったんだ。」

 

友希那は無言で拳を握りしめる。

 

リサ「儀式が終わった後、神託が来たんだ。この地から出ずに、勇者の力を放棄すれば、もう攻められる事は無いって。」

 

友希那「力を放棄しろ………ね。」

 

リサ「人が神の力を使うことは禁忌……って事なんだと思う。」

 

友希那「くっ…………!」

 

友希那は何も言えなかった。他に方法は無かったのだから。自分に人々を守る力が無い以上、何も言う資格はない。

 

友希那「ううう……ううぅぅ、うああああああああああっ!!」

 

友希那は膝から頽れ、叫び、泣いた。勇者として生きてきた四年間、どれほど厳しい訓練を受けても、こんなに苦しくはなかった。戦いの中でどれほど傷を負っても、こんなに痛くはなかった。どれほど先の見えない日々を強いられても、こんなに悲しくはなかった。

 

友達を守れなかったーー

 

 

多くの人々を犠牲にしてしまったーー

 

 

奪われた幸せを取り返すことも出来なかったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「……なんて、無力なの……私は……っ!ううぅ………っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那は長い間、泣き続けた。リサは何も言わず、ただ友希那の隣に座っていた。

 

日が落ちて、夜になって。やがて友希那は涙も声も枯れ果てて。

 

一生分泣いた後、やっと友希那は顔を上げた。いつの間にか夜は明け、部屋の窓から朝日が差し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那とリサは二人で丸亀城本丸に立っていた。朝焼けの中、人々の住む街と、その向こうに瀬戸内海が見える。もう友希那の顔には、絶望も悲哀も無かった。一生分泣いたから、もう涙を流すことは無い。これからも、ずっと。

 

友希那「リサ。私達はあまりにも多くのものを失ってしまった……。」

 

リサ「だね。」

 

友希那「だけど、命は繋いだ。」

 

リサ「だね!」

 

友希那「なら、戦いはまだ終わってないという事よ。」

 

リサ「アタシも同じ考えだよ。」

 

リサは毅然として答える。そんなリサを見て、友希那の口元に笑みが浮かぶ。二人の意思は同じだった。

 

友希那「………それじゃあ、現在の状況を最新の神託も踏まえて、初めから整理してみましょう。」

 

友希那の言葉に、リサは頷く。」

 

友希那「敵は、神よ。天の神。………私達人間を根絶しようとしている。その理由は分からないけれど、少なくとも人が神の力を使うのを嫌っている。」

 

リサ「そして、味方も神様だね。アタシ達を天の神の根絶から守ろうとしている、土地神達。それらが集まったものが、神樹様……。」

 

友希那「四年前、運命の七月。天変地異が起こった時、天の神と土地神は戦っていた。そして土地神は敗北した………その結果、勝者である天の神がバーテックスを降らせた。土地神達は力を合わせて神樹となり、人に神の力を与えた。」

 

リサ「うん。そして神が造りしバーテックスに対抗出来るのは、神の力を持った勇者のみ。」

 

勇者の力は神樹ーー即ち土地神由来の力。土地神の力を持って、天の神の尖兵に対抗する。それが勇者という存在だ。

 

友希那「私達はバーテックスに対抗したけれど、ここまで追い込まれてしまった……。そして…和睦し今に至る………。」

 

リサ「圧倒的劣勢だね。だけど、多くの犠牲を経て……人類は命を繋いだ。」

 

二人の口調は共に重い。だが、それは単なる悲観では無い。

 

友希那「これは一時の和睦に過ぎない。絶滅を免れた勢力が、力を蓄え、悲願を成し遂げる……歴史上、珍しくは無いことよ。確かに今の私達では勝てない。それは認めざるを得ない。だったら……勝てる力を付けないと。」

 

リサ「そうだね。アタシも怒ってるから。絶対に挽回しよう。神樹様が消えれば四国も消えるとはいえ、寿命は数百年は保つはず。その間に対抗策を見つけよう。」

 

人が天の存在に対抗する力を得るために、どれ程の時間が必要だろうか。そもそも、そんな事が可能なのたろうか。道は果てしなく困難で、余りにも険しい。しかし、成し遂げなくてはならない。

 

友希那「………香澄に関してだけど…。」

 

リサ「生体反応が消えた後に、神樹様の一部になった……で間違いないと思う…。神樹様の結界が強固になったのは、そのせいもあるかもしれない。」

 

リサは言葉を選びながら答える。

 

友希那「そうね……香澄は何度も私達を助けてくれた。その精神はまさに神か仏か……といった感じね。神にまで力を与えるだなんて。」

 

だけど、香澄ならあり得るかもしれないと、友希那もリサもどこか納得していた。

 

勇者だった時、香澄は仲間達に力を与え続けた。神樹の一部となった今は、神々に力を与え続ける。

 

リサ「その想いが四国を守ってくれたんだろうね。まさに現人神(あらひとがみ)だよ。」

 

友希那「……ねえ、リサ。神樹の一部になったのなら……もしかして巫女なら、会話出来たりするんじゃない?」

 

ほんの微かな期待を込めて、友希那は尋ねる。しかしリサは首を横に振った。

 

リサ「………そんな事が起こると嬉しいけど……起こったって罰は当たらないのに……残酷なほど、神樹様の様子は以前と変わらないよ。」

 

友希那「そうなのね……。どうしても可能性を模索してしまうわ。何か不思議な力で、みんなが戻る可能性を……。」

 

しかし二人とも、頭の中では分かっていた。失われた命が戻ることは無い、と。

 

友希那は気持ちを切り替え、話を現実的なところへと戻していく。

 

友希那「問題は、この流れだと勇者システムを放棄しなければいけない、という事ね。」

 

リサ「表立って大掛かりな研究は出来なくなるだろうね……。悟られないよう、細く長く根気よくやってくしかないよ。まずは徹底した恭順を見せることが大事だから。」

 

友希那「そうね………。」

 

人類は戦う力を放棄する。だが、全ての力を棄てるのでは無い。永遠に手放すのでは無い。

 

友希那「差し当たって、私達は何をすれば良い?」

 

リサは既に今後の計画を頭の中に立てていたのだろう。友希那の問いかけに迷うこと無く答える。

 

リサ「まずは大社の名前を"大赦"に改める。赦された者としての自覚を表すんだ。そして慎ましく生きていくことを示そう。」

 

友希那「大赦……屈辱的な名前ね。だけど、だからこそ忘れないでいられる。敗れたことの絶望を。全て奪われた悲痛を。」

 

リサ「うん。そして名前を変えることの最大の目的は、それを口実に組織改革をすることだよ。今のままでは、あまりに組織としてお粗末すぎる。もっと、秘密をしっかり隠せるような組織を作り上げる必要がある。」

 

友希那「………。」

 

リサ「これはアタシや明日香………残った巫女達の仕事だね。神託を受ける立場として、上手く立ち回ってみせるよ。アタシは、ズルい女だからさ。」

 

友希那「……なら私の役割は、人々の安定ね。人が生きていく導き手となる。その裏でら私達は力を蓄える。やらなければならない事は多いわね。まずは勇者システムの基礎戦闘力を向上させる。それも大幅にね。」

 

リサ「時間をかければ人間の学習力で、きっと敵を倒せるまでにシステムを進化出来るし、世界の理を戻す術だった見つけられるはずだよ。こっちにも神様がいるんだから。」

 

天の神達を欺いてみせる。いずれ人類は力を備え、彼らと対等な存在まで昇りつめよう。そしてその時を伏して待つ。

 

友希那「それと……私は"湊家"の名前を改めるわ。」

 

リサ「えっ?それどういう事。」

 

友希那「私の中にみんなが生きていた証を残す。」

 

そう言って友希那は丸亀城の周りに目をやった。

 

友希那「………"花園"。それがこれからの湊家の新たな名前。」

 

リサ「何か意味があるの?」

 

友希那「私達勇者は花がモチーフになってるって以前紗夜が言っていたでしょ?私が桔梗、あこが姫百合、燐子は紫羅欄花、香澄は桜、紗夜は彼岸花……私達の後にも勇者はこの世界を守っていく。勇者が集まり花園になっていく…そんな意味がこもってるのよ。その花園がある限り私はみんなの事をずっと心に思っていられるわ。」

 

花園友希那、それがこれからの友希那の名前。そして共に戦ってきた仲間を決して忘れないための、決意の表れ。

 

友希那「今は和睦する……だけど、必ず……。」

 

リサ「うん。必ず取り返そう。人々の日常を。」

 

二人はお互いの存在を確かめるように、手を繋いだ。

 

犠牲の上に生き残った者達の義務。命を失った者達の遺志を継ぎ、未来の道を拓いていくこと。まだ幼い少女達には、あまりにも重い使命だ。だが、二人にはその覚悟が出来ている。

 

リサ「……怖いのは、長い戦いのうちに、この反逆の志が薄れていくこと……それを今心配してても、仕方ないかもしれないけどね………。」

 

友希那「やるだけの事はやっておきましょう。未来の勇者達に何かを残したりとかね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夕方、友希那とリサは放送室に来ていた。未来の勇者に託す言葉を、一先ず録音する為である。友希那の音声データは、リサ達の尽力もあり、後に大赦内で霊的な処理が施され、勇者システムに組み込まれる事となる。

 

正座する友希那の前にマイクが置かれ、マイクはノートパソコンに繋がっている。リサはパソコンに向かい、録音ソフトを調整していた。

 

友希那「……このマイクを使うのは久しぶりね。美竹さんと通信をしていた時は、毎日のように使っていたのだけれど…。」

 

少しだけ寂しさを感じた。

 

リサ「そうだね…もう随分と昔の事のように感じるね。」

 

いつまで経っても、死した友人の事を思うと胸が痛む。ずっとこの悲しみに浸っていたい甘い感情に駆られる。だが、過去に溺れてはならない。

 

リサ「生きてる限り、アタシ達は歩き続けないといけないんだよね…友希那。」

 

友希那「ええ、その通りよ。」

 

そしてソフトの調整が終わり、準備が整った。

 

リサ「よし、マイクに向かって話して。」

 

友希那「……。」

 

友希那は少し緊張した顔で話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「初めまして、未来の勇者達。私は湊友希那。西暦2019年、いえ、神世紀元年において、勇者の御役目を担っている者よ。何十年、もしかしたら何百年も先のあなたに、未来の希望を託した者よ。バーテックスが出現した日、私達は多くのものを奪われた。それを取り返す為に、私達は強大な敵に立ち向かい、戦った。」

 

 

 

友希那「一番初めは美竹蘭と青葉モカ。その次が私達。高嶋香澄、氷川紗夜、宇田川あこ、白金燐子、今井リサ、湊友希那。神世紀元年の今、四国は戦いから免れているけれど、この声を聞いているあなたの時代に至るまで、バーテックスとどれ程の戦いが起こるのか、何人の勇者が生まれるのか、私には分からない。」

 

 

 

友希那「だけれど、全ての勇者達が、時に恐怖して、悩んで、苦しんで…守りたいものの為に戦っていくのだろうと信じている。私達の代の勇者は、美竹蘭からバトンを引き継いだ。そのバトンはいずれ次の世代に渡される。そして次の次の代へ……何代でも、何度でも、どれ程の時間が経とうと…引き継いで行かれるだろうと、私は思っているわ。」

 

 

 

友希那「そのバトンの名は"勇気"。または"希望"、"願い"とも言うの。今の未来のあなたに対し、何もしてあげる事が出来ない。せいぜい、こうして声をかけてあげる事しか出来ないわ。だけど、信じて欲しいの。あなたの後ろには、バトンを引き継いできた沢山の人達がいる事を。」

 

 

 

友希那「見回して欲しい。あなたの隣には、今まで貴方が一緒に過ごしてきた友達や家族がいる事を。あなたは決して1人では無い事を知って欲しい。多分、今のあなたはとても苦しんでいると思う。痛い事、悲しい事、絶望する事…頑張って、頑張って、それでも耐えられないくらい、辛い事があったでしょう。」

 

 

 

友希那「だからこそ、私の声が届いている筈よ。そんなあなたに、私が言いたい事は、"もっと戦いなさい"や"もっと頑張りなさい"でもないわ。」

 

 

 

 

友希那「"生きて"--」

 

 

 

 

 

友希那「"ただ、生きて"--」

 

 

 

 

 

友希那「大切な人がいるのなら、その人の事を思い出して欲しいの。あなたが生きるのを諦めてしまったら、その人が悲しむ事を思い出して欲しい。私は多くの大切な友達を失ってしまった。あなたの大切な人に、私と同じ思いをさせないで。その人のところへ、必ず戻ってあげて--」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「……ふぅ。」

 

友希那はため息をつき、満足げな笑みを浮かべた。

 

友希那「ちょっと長くなってしまったけど、伝えたい事は言えたと思うわ。」

 

リサ「あはは、ただ勇者システムを残すだけじゃなくて、隠し味を入れる事が出来たね。」

 

友希那「…ええ。未来の勇者の為に、システムはもっと強化していきたいわね。」

 

リサ「そうだね。でも、敵を欺きながら事を進めるのは慎重にならないと。基礎能力の向上だけでも途方もない時間がかかると思ってて。……危なくなれば、一時的に凍結する事だってありえるからね。」

 

勇者システムが残っている事を天の神に悟られ、敵が攻めて来ては元も子もない。

 

友希那「分かっているわ。細く長く研究する、という話でしょ。これ以上の機能を追加する必要も無いわ。」

 

リサ「だね。何よりも基礎戦闘力の向上に重点を置くよ。」

 

友希那「急いでも仕方ないわ。基盤を固めながらやっていきましょう。」

 

リサ「アタシ達人間は地に住み、天に見下され監視されながら生きていく……人間は弱いけど、だからこそ諦めが悪いんだよ。」

 

リサの言葉に友希那が微笑んだ。

 

友希那「そうね。長い長い戦いになるだろうけど、一歩一歩進んで行きましょう。リサ、あなたが一緒にいてくれれば、私はずっと前を向いて行ける。これまでも、これからも。」

 

リサ「アタシも同じだよ。」

 

友希那「ありがとう、リサ。」

 

リサ「こちらこそ。どんな困難な目標でも、成せば大抵何とかなるもんだよ。」

 

友希那「そうね……。」

 

 

 

 

 

どんなに遅い歩みでも、戦う力と牙を必ず未来に残す--

 

それが友希那とリサの誓いである。

 

 

 

 

 

かくして、花園友希那は唯一生き残った勇者として、引き続きーー否、それまで以上の英雄として人類の先頭に立つ。

 

バーテックスの侵攻は止み、仮初だが、人類は平和の時を迎えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神世紀元年ーー

 

生き残ることを赦された人類は、大社を"大赦"へと変更し、年号も神樹を中心とした"神世紀"へと改めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神世紀七十二年ーー

 

バーテックス襲来を実体験した最後の生き残りが老衰で死去。

 

 

 

 

 

 

 

 

神世紀百年ーー

 

平和の時代は百年目を迎える。

 

神世紀以降、バーテックスの侵攻は皆無。バーテックスや勇者、天空恐怖症候群などという言葉は現実感を失い、歴史上の用語としてのみ人々に語られるようになる。

 

ただ、独特な習慣は続いていた。産まれた時に逆手を打った女の子には、大赦から英雄・高嶋香澄の名に肖り、"香澄"という名前が贈られる。天の神に対する、ささやかな反骨なのだろう。

 

また大赦は新たなる百年を記念し、人々の精神的安寧を守るためにも、バーテックスの脅威をあらゆる記録から削除。危険度の高いウィルスによって四国外は壊滅したという説を流布し、定着させていく。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、人類でさえ殆どの者が知らない秘密裏に、勇者システムの研究は続いていた。

 

長い年月の後、それが大きな意味を持つことになる。

 

 

 

 

希望は、バトンは未来に託されたのだーー

 

 

 

 

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