真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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バーテックスは進化する。多数の個を一つにする事によって。しかし、人類もただ指を加えて眺めているわけではない。年月を重ね、叡智を結集させ、人類は神の喉元に刃を突き立てる手段を手に入れたのだ。




反旗-はんき-

 

単騎で敵の中に飛び込み、次々とバーテックスを屠る友希那。その後ろ姿を見ながら、あこは思わず声を漏らした。

 

あこ「友希那さん……凄い!」

 

香澄「それじゃあ、私も行くよ!」

 

友希那に続いて香澄も飛び出した。

 

あこ「りんりんはここにいて。バーテックス全部倒して、戻ってくるから!」

 

怯えている燐子を一瞥し、あこも飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

香澄「はあっ!」

 

風のような速さと重みのある拳がバーテックスの体を貫いた。香澄の専用武器は手甲。勇者の持つ武器は全て、友希那の刀と同じ様な神社の奉納具、もしくは奉納具を加工して作られた物である。そして各地の土地神に由来する霊力を持っている。

 

次第に香澄の周りをバーテックスが取り囲む。しかし、香澄は落ち着いていた。この三年、香澄は自らの武器を有効活用出来るように、空手や拳法、ボクシング等の打撃系格闘技を徹底的に教え込まれてきたからだ。

 

香澄「てやぁっ!」

 

香澄の拳はバーテックスの巨体をものともせず撃ち抜いていった。

 

 

 

 

 

 

あこ「こっちはあこに任せて!」

 

香澄から一足遅れ、あこもバーテックスの群へ接近する。あこの武器は旋刃盤。二人とは違い、ある程度離れた敵にも攻撃出来るのが強みだ。大きく振りかぶって投げると、旋刃盤は回転する刃でバーテックスを切り裂き、あこが握っているワイヤーで手元に戻ってくる。

 

あこ「へへっ!どんなもんだい。」

 

あこにとってバーテックスを倒す事は、燐子を守る為でもある。

 

 

---

ーー

 

 

あこ「くっ、誰か。まだ生きている人は誰かいないの!?」

 

あこ「………あっ!危ない!」

 

あこ「大丈夫!?」

 

?「………。」

 

あこ「安心して。あこが必ずあなたを…えーっと…。」

 

燐子「燐子…。白金燐子…です…。」

 

 

ーー

---

 

 

二人は出身地が近く、三年前のバーテックス襲来の際も燐子を守りながら戦ってきたのだ。

 

あこ「全部倒して、りんりんには一匹も近付けさせない!」

 

意気込むあこ。しかし初めての戦闘、あこには油断があった。三年前もバーテックスに対しては勝てていたし、実際に今も旋刃盤を使いバーテックスを次々に倒している。今のあこは、バーテックスなど敵じゃないと、心の何処かでそう思っていた。

 

あこが使う旋刃盤には致命的な欠点がある。遠くへ投げれば投げるほど、自分の手元に戻ってくるまでに時間がかかる。戻ってくるまでの間、あこはバーテックスに対して攻撃する手段が無いのだ。

 

敵はそこを見逃さなかった。バーテックスはあこが旋刃盤を投げた隙を突き、あこの周りを取り囲んだのである。

 

あこ「えっ!?」

 

その場を離れようとするが、バーテックスが退路を塞いでいる。先に戦っている二人とも距離がある。助けは期待出来そうにない。

 

あこ「しまった……。」

 

あこの顔から余裕が消え、喉元に死が突き付けられる。勇者といえど、一歩間違えれば簡単に命を失ってしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間ーー

 

 

 

 

あこの目の前にいたバーテックスの体に幾つもの矢が刺さっていたのである。

 

燐子「無事で良かった……あこちゃん…。」

 

あこの目の前には金弓箭を構えた白く紫羅欄花を思わせる勇者装束を身に纏った燐子が立っていたのだ。

 

あこ「りんりん…その格好は…。」

 

燐子「変身出来たよ…あこちゃんが危ないって思ったら……助けないとって思ったら……アプリが起動したんだ…。」

 

目にはまだ涙を浮かべているが、体の震えは収まっていた。あこはやっと戻ってきた旋刃盤を掴み、笑顔を向ける。

 

あこ「ありがと、りんりん!あこが前に立つから、りんりんは援護お願い!」

 

燐子「うん……!」

 

 

 

 

 

他の勇者達が戦線へ向かっている中、一人後方で動かない者がいた。紗夜である。高みの見物を決め込んでいる訳ではない。恐怖で動けないのだ。

 

変身する事は出来た。敵に対抗出来る武器も持っている。それなのに体が言う事を聞いてくれないのだ。

 

紗夜「くっ………。」

 

焦りや悔しさ、疎外感が募る。自分よりも怯えていると思っていた燐子は、恐怖を振り払い戦線に突入した。紗夜が燐子を非難していたのも、本当は自分の恐怖心の反動だった。

 

香澄「紗夜ちゃん!」

 

その時、紗夜の元に駆け寄ってくる香澄の姿が見えた。

 

紗夜「高嶋……さん?」

 

香澄のところどころにはバーテックスとの戦いで負った擦り傷が出来ている。しかし香澄は自分よりも紗夜を気遣った。

 

香澄「大丈夫、紗夜ちゃん?」

 

紗夜「す、すみません……戦う事が…怖くなってしまって……。あんなに白金さんの事を言っておいて…私が戦えないなんて……。」

 

そんな紗夜に香澄は笑顔で手を差し出して言う。

 

香澄「そんな顔しないで。私が傍にいるから。」

 

紗夜「高嶋……さん…。」

 

香澄「行こう。手、握ってて!」

 

紗夜………はい!」

 

 

 

 

 

 

 

紗夜(これが……勇者の力……。)

 

数百メートルを一気に跳躍する凄まじさに、紗夜は戸惑う。何も支えが無い状態で、繋いだ香澄の手だけが紗夜にとって確かなものだった。

 

香澄「紗夜ちゃん、見てて!」

 

繋いでいない手を握り締め、向かってくるバーテックスに戦闘態勢を取る。

 

香澄「私達は戦える。人間はあんな化け物になんか負けない!」

 

人の意志で振われた神力の拳は、香澄達に襲いかかったバーテックスを一撃で粉砕する。

 

香澄「紗夜ちゃんも、自分の力を信じて。きっと出来るよ!」

 

紗夜(……高嶋さんが傍にいてくれるなら、戦える…!)

 

紗夜は大鎌を振りかぶり、目の前のバーテックスを両断した。

 

紗夜「出来ました…!」

 

香澄「凄いよ!その調子!」

 

褒めてくれる香澄の言葉が、紗夜には何よりも嬉しかった。更に前方からバーテックスが三体迫ってくる。

 

香澄「紗夜ちゃん、次行くよ!」

 

紗夜「はい!」

 

繋いだ手を離し、香澄は左の一体を。紗夜は右側にいた二体を葬る。バーテックスを倒した事により、紗夜は自分の力を確信出来た。そしてこれまで敵に感じていた恐怖心が、逆に怒りへと転化する。

 

紗夜(こんなのに怯えていただなんて……!)

 

香澄「紗夜ちゃん、見て!」

 

香澄の指す方向を紗夜は見る。そこにはバーテックスと戦っている友希那の姿があった。四人が二人一組で戦っているのに対し、友希那はたった一人で最前線に切り込み、多くのバーテックスを相手取っている。

 

香澄「友希那ちゃんが先頭に立って敵を引きつけてるから、私達は戦えてるんだと思う。やっぱり友希那ちゃんは凄いよ。紗夜ちゃんも……認めてあげても良いんじゃないかな?」

 

紗夜「………………。」

 

紗夜は何も答えなかった。戦っている友希那の姿を見ながら、紗夜は少しだけ悔しさを感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

敵の数が四分の一をきった頃、バーテックスの動きに変化が起こる。何体かが一箇所に集まり"進化"を始めたのだ。"進化"によってバーテックスの力は更に増していく。三年前、友希那はその個体に太刀打ちが出来なかった。

 

融合したバーテックスは、巨大な棒状の一個の個体に姿を変えた。あこと燐子は、そのバーテックスを少し離れた場所から見ていた。

 

あこ「何あれ……?」

 

燐子「"進化型"とでも言うべきかな……まずは私が……!」

 

燐子が金弓箭を向け、矢を何本か放つ。だが、当たる直前に"進化型"は板状の組織を形成し、矢を跳ね返してしまう。放ったままの速さと威力の矢があこ達に迫ろうとしていた。

 

燐子「っ!?」

 

あこ「危ない!!」

 

あこは旋刃盤に神力を込め、巨大な楯に変化させ矢を吹き飛ばす。

 

燐子「あ…ありがとう、あこちゃん……。」

 

あこ「さっき助けてもらったお返しだよ。」

 

あこは旋刃盤を構えるが、投げるのを躊躇ってしまう。燐子が放った矢を正確に反射できるのなら、あこが旋刃盤を投げたところで結果は同じだろう。あの"進化型"に飛び道具は相性が悪かった。

 

あこ(投げても反射させるなら、直接旋刃盤の刃で攻撃すれば……でも矢が通らないなら…。)

 

思案していると、香澄がその身一つで"進化型"に突っ込んでいく姿が見えた。

 

香澄「勇者パーーーーンチ!!」

 

渾身の正拳が反射板に叩きつけられる。しかし通常のバーテックスなら一撃のところ、反射板には傷一つ付いていない。

 

香澄「一回で効かないなら……何十回、何百回でも叩きつけるだけ!」

 

香澄は意識を集中させた。強力な"進化型"と戦う為に勇者達が使う"切り札"を使うためだ。

 

 

 

 

 

 

勇者の存在は神樹に繋がっている。神樹には地上のあらゆるものが概念的記録として蓄積されている。その記録にアクセス、抽出し、自らの体に顕現させるーー

 

 

 

 

 

香澄「行くよ、"一目連"!」

 

暴風の具現化である"一目連"が香澄に宿る。その力は竜巻の勢いと力を香澄に与え、勇者装束も変化する。

 

香澄「千回……勇者パンチーーーー!

 

竜巻の勢いを得た香澄の拳が、絶え間なく反射板に撃ち込まれる。その数が八百発を超えたところで、反射板にヒビが入り、九百発で亀裂が大きく広がり、千発目で"進化型"は粉々に砕け散った。

 

一方で、他のバーテックスと対峙しながら、友希那は香澄の戦いを見ていた。勇者の"切り札"は、肉体に大きな負担がかかる。それ故に大社からは出来るだけ使用は控えるよう言われていた。

 

友希那「………香澄ってば…。」

 

戦いの最中友希那は思っていた。この三年間、バーテックスは侵攻対象を諏訪に定めていたお陰で、四国は平和だった。それだけの時間があったから、友希那達は訓練を積む事が出来き、勇者装束を作り、神樹の力を利用した"切り札"を編み出す事が出来たのだ。

 

友希那(美竹さん、諏訪の人々……あなた達がいてくれたから、私達の力はバーテックスに届いた。今日の戦果は、全てあなた達のお陰よ。)

 

一瞬戦う手が鈍る。その僅かな隙を狙ってバーテックスが友希那に接近するのだがーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「…………不味いわね。とても食べるようなものじゃないわ。」

 

喰われたのはバーテックスの方だった。友希那はバーテックスの突進を最小限の動きで避け、同時にバーテックスの体の一部を歯で噛みちぎったのだ。バーテックスの肉を飲み込み、最後に一刀の下斬り捨てた。

 

あこ「…………あこ、これからは友希那さんに怒られないよう頑張る…。」

 

燐子「そ、そうだね………。」

 

こうして友希那達勇者の初陣は勝利で幕が閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ「もう、友希那!変なもの食べちゃダメじゃん!」

 

バーテックスを掃討し、丸亀城に戻った友希那は、リサの説教を受けていた。

 

友希那「でも…。」

 

リサ「でもじゃないの!」

 

友希那「三年前の仕返しのつもりだったのよ……。何事にも報いをが湊家の……。」

 

リサ「お腹壊したらどうするの!」

 

友希那「うっ………。」

 

説き伏せられる友希那。香澄達はその様子を少し離れた所で見ていた。

 

燐子「戦ってる時はあんなに凛々しかった友希那さんが……。」

 

あこ「一番怖いのは、リサ姉だったね…。」

 

 

 

 

 

 

 

その夜、バーテックスの侵攻と、それを勇者達が撃退した事を報じるニュースが四国中に流れた。人々はその勝利に、安堵と歓喜の声を上げる。それと同時に四国と諏訪の通信記録も公表された。壁の外にも生き残っている人達がいる事、必死に抗っているという事は四国の人々に、希望と力を与えた。だがその報道では、諏訪との通信記録が途絶えた事は伝えられなかった。友希那達だけが、諏訪の状況が絶望的であることを知っている。

 

報道を見ながら、友希那は一人蕎麦を食べていた。

 

友希那「………美竹さん。やっぱり蕎麦よりもうどんの方が美味しいと思うわ。やっぱり………蕎麦は少ししょっぱいわね…。」

 

 

 

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