真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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疎まれ、蔑まれ、虐げられる生活が続く中で勇者の力を手に入れた紗夜。
それは人生を180度変えるものであり、その日から村人達の対応も180度変わる。
だが、それは余りに儚く砂上の楼閣の様な脆いものだった。




遺恨-いこん-

 

戦いの後も、友希那達の生活は変わらず続いていく。翌日の昼休み、食堂で一緒に食事を取っていると、あこが言い出した。

 

あこ「友希那さん、みんなで話し合ったんですけど。」

 

友希那「どうしたの?」

 

あこ「やっぱり友希那さんがリーダーをやってるのが一番良いと思うんです。昨日の戦いではっきり分かりました。」

 

友希那「……急にどうしたの?」

 

あこ「友希那さんが先頭に立って戦ってくれたから、あこ達は戦う事が出来たんです。そうじゃなかったら、誰かが大怪我してたか……死んでたかもしれません。」

 

事実昨日の戦いで、友希那はバーテックスの三分のニ程を殲滅している。友希那の奮闘がなければ、燐子や紗夜は危険だったかもしれない。あこに続けて燐子も言う。

 

燐子「私も…友希那さんがリーダーをやるのが良いと思います……!」

 

香澄「うんうん。友希那ちゃんって、いかにもリーダーって雰囲気あるしね。」

 

紗夜「………反論はありません。湊さんの活躍は確かでしたし。」

 

暫しの沈黙の後、友希那は全員を見て頭を下げた。

 

友希那「ありがとう。」

 

今まで、自分がリーダーであっていいのか、確信が持てなった。だけど、これでやっと肩の荷が一つ降りたのだと思うと気が楽になった。

 

リサ「良かったね、友希那。」

 

友希那(これが、結束というものなのね…。)

 

リサ「それじゃあ、みんなで記念撮影をしよう!友希那のリーダー着任記念!……コレクションがまた一つ増えるよ。」

 

友希那「リサ!まだそんな収集してたの!?」

 

あこ「秘蔵コレクション?」

 

香澄「面白そう!リサちゃん、私にも見せて!」

 

友希那「あこ、香澄!興味を持たないで頂戴!」

 

燐子「私も見たいです…!」

 

紗夜「……どうでも良いですね。」

 

食堂の中でワイワイ騒ぐみんなの姿を、リサは写真に収めるのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

月日が経ち、季節は十月。田園に囲まれた道を一台のバスが走っていた。紗夜の傍らには、武器である大鎌が布袋に収めて置いてある。紗夜は特別休暇を利用して、地元である高知へ帰ってきていた。

 

紗夜「……………。」

 

窓の風景から目を逸らし、紗夜は鞄から携帯ゲーム機を取り出し、イヤホンを付けて電源をいれた。外界と遮断され、紗夜はゲームに集中する。ゲームは紗夜のたった一つの趣味だ。

 

紗夜(私が勇者になった事は……もう四国中の人が知っているんでしょうね…。)

 

初めてのバーテックス襲来後の騒がしかった数日を紗夜は思い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

紗夜達の初陣が勝利に終わった後、バーテックスに対する"勇者"の存在は大々的に報道された。大社はマスコミの取材を受け入れ、寧ろ勇者の存在をアピールする事で、四国の人々を安心させる方針に舵を切ったのだ。

 

テレビ、新聞、ネット、週刊誌。あらゆる媒体で連日のように五人の勇者のニュースが実名付きで取り上げられた。勇者達が年端も行かない少女である事も話題になり、四国中の子供から大人まで、誰もが勇者という存在に注目していた。

 

香澄「この雑誌と新聞、友希那ちゃんのインタビューが載ってるよ!」

 

燐子「凄い騒ぎになってますね……。」

 

リサ「むむむ……この写真じゃ友希那の魅力が表現出来てないなぁ…。次からは私が撮った写真をーー」

友希那「絶対にしないで頂戴!」

 

リサ「それはフリだよね?」

 

あこ「それより、どれもこれも勝手な事書いてるよね。」

 

そして暫くの間、一種の祭りの様な勇者のお披露目騒ぎが続き、それが終わると順番に休暇を取る事が許されたのだ。

 

勇者システムは精神状態にも大きく左右される。その為、適度な休暇は欠かせない。特に香澄は、精霊の力を自らに憑依させて戦う"切り札"を使った為、その影響を検査するために入院する必要があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「………着いてしまったわね。」

 

ゲームの電源を切り、紗夜はバスを降りる。バス停から数分程歩くと、一階建ての小さな借家に着く。ここが紗夜の実家だ。

 

玄関を開けると、悪臭が鼻につく。廊下の端には埃が溜まり、空き缶や空き瓶がそこら中に転がっている。隅に置かれたゴミ袋は、回収日に出される事を忘れられ、もう何週間も放置されているのが容易に想像出来た。

 

紗夜「……ただいま。」

 

返事は返ってこない。家に上がり居間に入ると、そこには布団に伏せっている母親の姿があった。そして向かいの襖が開き、父親が入ってくる。

 

紗夜父「紗夜、帰ってたんだね。久しぶり、元気にしてたかい?」

 

紗夜「…ええ。それよりお父さん、掃除くらいちゃんとして。」

 

紗夜父「あぁ…。けどな、母さんの看病で忙しくてね…。すまない、紗夜。母さんがこんな事になって。」

 

紗夜「いえ…丁度休暇を貰えたから…。」

 

紗夜が実家に帰ってきたのは、母親の容態が悪化したからだった。バーテックス襲来以降、多くの人が発症した"天空恐怖症候群"。その症状は重さによって四段回のステージに分けられる。最も軽いステージ1は空を見上げるのを恐れ、外出を嫌うくらいだが、ステージ2以降ではバーテックス襲来時のフラッシュバック等が起こり、精神不安定となって日常生活に支障を来す。

 

紗夜の母親は、以前はステージ2だったが、つい先日ステージ3にまで症状が悪化した。ここまで進んだらフラッシュバックと幻覚が頻繁に起こり、薬を手放せなくなってしまう。勿論外出等は論外だ。

 

更に症状が悪化すれば最悪のステージ4。自我の崩壊、記憶の混濁、発狂に至る。ステージ3から4に至るまでの時間はそれ程かからないという。

 

病の進行の為、母親は間も無く専門の病院は入院する事となる。その前に実家に戻って顔を見せてあげてほしいと、父親が紗夜に伝えたのだ。母親が寝ていると知った紗夜は、踵を返し玄関へと向かう。

 

紗夜父「どこへ行くんだ?」

 

紗夜「折角帰って来たんだから、友人に会って来ます。」

 

紗夜父「そうか……。」

 

何か言いたげな父親を無視し、紗夜は部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜(やはり帰ってくるんじゃなかった………。)

 

来た事を後悔しながら、紗夜は畦道を歩いていた。友達に会ってくると言うのはただの言い訳である。この村に会いたい友人など、紗夜にはいない。氷川家の澱んだ空気から抜け出したかっただけ。

 

紗夜はあの家が嫌いだった。疲れ果ててしまっている両親も嫌いだった。

 

紗夜(どうして……こんな風になってしまったんでしょう…。)

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

紗夜の両親は恋愛結婚だったという。親族には反対されていたらしく、安く小さな家を借りて二人だけで暮らし始めた。そして間も無く紗夜が生まれる。その存在を両親は心から祝福した。二人だけだった家族は三人に増え、小さな幸せの日々が続いていくーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いていく筈だったーー

 

 

 

 

 

 

 

紗夜の父親は無邪気な子供がそのまま大人になった様な性格で、夫や父親としては問題があった。自分の自由を優先する反面、家事や育児を面倒臭がりら家族への思いやりに欠けた。

 

ある日、母親が高熱を出して倒れた。幼い紗夜ではどうする事も出来ず、父親に助けを求め電話をした事があった。だが、彼の口から出た言葉は"薬を飲ませて寝かせてろ"の一言のみ。帰ってきたのは午前の二時過ぎ。酒に酔っ払って帰ってきたのだ。

 

そして時が経つにつれ、家族に確執が出来ていく。母親の不倫が発覚したのだ。話題の少ない田舎だからか、その醜聞は瞬く間に村中へと拡散されていく。父親も母親も、村の中での立場は非常に悪くなってしまったのだ。

 

紗夜も同じだった。外を歩いている時は陰口が絶えなかった。学校にいる時には蔑まれ虐げられた。そんな中、母親は不倫関係だった男と家を出て行く。そんな状況になっても両親は離婚をしなかった。紗夜をどちらが引き取るか、話し合いがつかず、二人とも紗夜を押し付け合ったのだ。

 

紗夜がいなければ、両親は過去を完全に切り捨てて新しい生活が出来る。紗夜の存在を、父親も母親も心から呪ったのだ。

 

紗夜(……私は、無価値で疎ましいだけの存在なんだ…。)

 

紗夜は幼心でそう自覚する。両親から疎まれ、村の住人からは蔑まれ、学校では虐げられる生活が続くのだった。

 

しかし、そんな紗夜に転機が訪れた。バーテックスが襲来したあの日の事だ。

 

紗夜に勇者としての力が発言した。バーテックスの襲撃地にいなかった為、戦いこそしなかったが、紛れもなく勇者の力を有していると大社は認定。紗夜はすぐに香川へ招集された。

 

それから流される様に事は進む。勇者という存在の説明を受け、同じ力を持つ少女達と出会い、大社管理下の学校へ転入させられた。

 

様々な手続きが終わり、勇者としての生活に慣れた頃、紗夜は一度だけ実家へ帰省した。そこには母親の姿があった。母親は本州でバーテックスに襲われ、辛うじて四国へ逃げ戻ってきたのだ。一緒にいた男はバーテックスに殺されたらしい。

 

紗夜父「母さんは天恐だそうだ……。」

 

天空恐怖症候群の発症。既にステージ2に達していた。外に出るのも働くのも困難。不倫騒動と醜聞のせいで両親は親族からも絶縁状態になっており、父親が一人で母親の看病をするしかなかった。天恐患者も多すぎる為、ステージ2では入院させる事も出来ず、父親はパートをし、収入は減ったが、治療の為にはお金がかかる。生活はギリギリだった。

 

紗夜(自業自得よ………。)

 

 

 

ーー

ーーー

 

 

 

氷川家はひたすら息苦しく、閉塞している。

 

紗夜はあの家が嫌いだった。

 

行き詰まって疲れ果てた両親の姿が嫌いだった。

 

そして何よりも、無価値で疎ましいだけの自分が嫌いだった。

 

 

 

 

 

 

 

物思いに沈みながら歩いていると、かつての小学校の前に来ていた。

 

紗夜(………昔の癖ですね…。)

 

この学校には嫌な思い出ばかりが残っている。学校内に味方はいなかった。いつも一人、自分の席で俯いて過ごしていた。クラスメイト達は紗夜を"阿婆擦れの子"や"淫乱女"と罵りながら呼んでいた。言葉の意味も分かっていないのに。

 

職員室に入ると、教師達の碌でもない嘲りが聞こえた。

 

毎日のように持ち物がなくなった。

 

女子に囲まれて来ていた服を脱がされ、焼却炉で燃やされた。

 

鋏で髪を切られ、その時一緒に耳まで傷付けられた。

 

遊びと称して階段から突き落とされたりもした。

 

紗夜が自分の心を守る方法は、ひたすらに内に閉じこもる事だけだった。その為の方法の一つがゲームに熱中する事だった。画面に集中し、イヤホンで耳を塞いでしまえば、周りから切り離され、自分の世界を作る事が出来たから。この中では罵倒の声も虐げられる痛みも、届かない。何も聞こえないし、感じない、痛くない。

 

 

 

 

 

『親がアレじゃ…。』

 

『ウザい』

 

『根暗』

 

 

 

 

何も聞こえないーー

 

 

 

 

『鬱陶しい髪…!』

 

『先生、知らなかったわ。』

 

 

 

 

何も感じないーー

 

 

 

 

 

『ゲーム止めろ!』

 

『キモい』

 

 

 

 

 

何も痛くないーー

 

 

 

 

 

『落ちちゃった…。』

 

『先生に面倒かけないで!』

 

 

 

 

何もーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「痛くないわけ………ない……!」

 

耳を押さえた。昔クラスメイトに鋏で切られた部分がジンジンと痛む。どんなにゲームに没頭しても、蔑みの声は聞こえ、悪意は伝わり、痛みは感じるのだ。紗夜は、ずっと独りで傷付いてきた。

 

紗夜「どうして………。」

 

どうして思い出してしまうのだろうか。香川にいた頃は何一つ思い出さなかったのに。

 

紗夜(帰ろう…。)

 

一秒でも早く、ここから離れたかった。

 

紗夜(高嶋さんに……会いたい…。)

 

その時だった。

 

?「あなた…氷川さん?」

 

背後から声が聞こえ、紗夜は振り返る。そこにいたのは、かつての担任の先生だった。

 

元担任「どうしてこんな所にいるの?みんなもう、あなたの家に行っているわよ?」

 

紗夜「私の……家?」

 

元担任「そうよ。あなたが地元へ帰ってきた事、みんなに伝わっているから。」

 

紗夜(みんなって……何の事…?)

 

頭の中が混乱する。困惑する紗夜の手を取り、先生は引っ張る様にして紗夜の自宅へと連れて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜の自宅には人だかりが出来ていた。その情景に紗夜は益々混乱する。紗夜が近付くと、集まっていた人々は一斉に紗夜の周りを取り囲んだ。何が起こっているか分からない。だが、人々は一様に紗夜に対して興奮と尊敬の眼差しを向けていた。

 

元クラスメイト「私達友達だよね?恨んでないよね?」

 

村人「勇者様は村の誇りよ!」

 

お店屋「勇者様。食事する時は、是非うちの店へ寄ってくれよ。」

 

次々と浴びせられる無数の声。紗夜を虐げたクラスメイト達が媚びへつらい、薄気味悪い子だと陰口を叩いた村人は褒めちぎり、尻軽女の娘と罵声を浴びせた商店街の店主は、ゴマを擦り頭を下げる。

 

初め、紗夜はこの状況にただ呆然としていた。そして段々とこの状況の意味に気付きだす。

 

紗夜(そう…そうですか……これは……。)

 

紗夜は布袋に入れたままの大鎌の柄で、地面を叩いた。乾いた音が反響し、一瞬で取り囲んでいた取り巻きは静まり返る。

 

紗夜「……皆さんに…聞きたい事があります……。」

 

全員が紗夜に注目している。

 

紗夜「…私は……価値のある人間でしょうか………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人々は怪訝そうな顔をして、やがて一人の人が口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村人「勿論よ。だってあなたは勇者様だもの。」

 

 

 

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