真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

8 / 35
どんなに自分が傷付いても、大切な人だけは必ず守る。勇者になったあの日、あこは自分にそう誓ったのだ。




約束-やくそく-

 

燐子「あこちゃんは…すぐ近くにある別の神社で勇者の力に目覚めて……巫女である明日香さんに言われて私を助けにきてくれたらしくて…。」

 

リサ「うぅ……良い話じゃん…!」

 

燐子「え…今井さん……!泣くほどの話では無いと思いますが……。」

 

リサ「そんな事無いよ。今の話は書籍化しても良いくらいだよ!」

 

燐子「あはは……。」

 

リサ「つまり燐子にとって、あこは自分を助け出してくれる王子様だったって訳だ。」

 

燐子「はい…。私には無い強さと凛々しさを持った人で……学年とかに左右されない絆を与えてくれる人です…。」

 

燐子はあこについて語る時、自分の事の様に誇らしげに語る。そんな燐子に優しく微笑んだ後、前を歩いているあこに少しからかい口調で言う。

 

リサ「………って燐子は思ってるみたいだけど、あこはどう思ってるの?」

 

あこ「っ!?」

 

あこは顔を真っ赤にして立ち止まった。二人は今まであこのすぐ後ろで話していたのだから、当然この話はあこも聞いていた筈である。

 

あこ「恥ずかしいから聞こえないフリしてたのにぃ……!」

 

リサ「どうなの〜?」

 

あこ「り、りんりんはすっごく可愛いんだよ!だからあこが守ってあげないとね!」

 

徐にあこは燐子を抱き締めてそういうのだった。

 

 

 

 

 

バーテックスとの戦いが無い時の勇者達には、平和な日常があった。しかし、いざ戦いが始まれば、人類を守る楯となり、矛となる。

 

バーテックスの侵攻が再び起こったのは、その日の午後の事だった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

巨大な植物に覆われた丸亀城の城郭に、武器を装備した勇者達は立っていた。壁のある方向から、バーテックスの群れが進行しているのが小さく確認出来る。マップを確認すると、その数はざっと百体程だ。

 

友希那「………これは…。」

 

マップに表示されたバーテックスのマークの中で、一体だけ他と動きが違うものがいた。他のバーテックスよりも圧倒的にスピードが速いのだ。それは群れから突出して、友希那達の方へ向かって来ている。

 

目を凝らすと、彼方から凄まじい速度で駆けていく"何か"が見える。その姿は、人の胴から下だけを残した様な姿で、二足歩行で突進してきていた。その速度は他のバーテックスの比ではない。

 

香澄「……変態だ…!」

 

友希那「"進化型"のようね。」

 

これまでと違い、バーテックスは初めから"進化型"を形成して侵入してきたのだろう。

 

友希那「あれは……食べれないわね。」

 

燐子「食べれるかどうかで考えない方が……。」

 

あこ「ふっふっふ………。」

 

他のみんなが困惑する中、あこは不敵な笑みを浮かべていた。

 

香澄「どうしたの、あこちゃん?」

 

あこ「今回、あこは秘密兵器を持ってきたんだよ……これだぁ!」

 

そう言ってあこが掲げた物は、最高級のうどん玉だった。

 

紗夜「それをどうするつもりですか……?」

 

あこ「大社の人が言うには、バーテックスには知性があるんですよね?そしてあの、人の下半身みたいな姿……あのバーテックスはもしかしたら人間に近いのかもしれません!」

 

香澄「そっか!だったら、うどんに反応して隙が出来るかも!」

 

あこ「そうなんだよ、香澄!この最高級讃岐うどんを前にして、人なら冷静でいられないよ!そりやぁぁぁあっ!」

 

あこは大きく振りかぶり、突進してくる"進化型"目掛けてうどん玉を投げた。弧を描き飛んでいくうどん玉は、狙い通り"進化型"の進行方向に落ちた。しかしーー

 

 

 

 

 

"進化型"は、うどん玉には目もくれず、速度を緩める事無く通り過ぎて行った。

 

友希那達「「「っ!?!?」」」

 

全員に衝撃が走った。

 

友希那「うどんに……何の反応も示さないなんて…!?」

 

友希那は驚愕と怒りで手が震える。

 

あこ「釜揚げじゃなかったから!?」

 

香澄「ううん、あこちゃん……釜揚げじゃなかったとしても…最高級のうどんを無視するなんて………!」

 

今、全員の気持ちが一つになった。バーテックスには人間性など欠片も存在しない。分かり合う事は決して出来ないだろう。

 

あこ「……後で絶対に回収する。最高級うどんの仇!アレはあこが倒す!」

 

まずあこが、真っ先に"進化型"に突っ込んでいった。

 

あこ「そりゃあああっ!」

 

旋刃盤を投げるが、"進化型"はあっさりとそれを避ける。

 

あこ「まだまだ!」

 

負けずに二度、三度と投げるが、全て躱されてしまう。

 

あこ「全然当たらない!すばしっこすぎるよ!」

 

今までのバーテックスとはまるで性質が違う。バーテックスは巨大で頑丈な体を持つが、動きは鈍重で、攻撃を当てる事自体は簡単だった。だが、この"進化型"にはそもそも攻撃自体が当たらない。

 

燐子「あこちゃん……!援護するよ…!」

 

燐子が矢を放ち援護するが、やはり"進化型"はこれを全て躱し、燐子に狙いを定め突進してきた。

 

燐子「っ……!」

 

燐子の武器は接近戦には向かない。たじろぐ燐子に向かって"進化型"は飛び蹴りを仕掛けるが、あこがそれを受け止めた。

 

あこ「りんりんに、触れるなぁ!!」

 

攻撃は楯で防げたが、勢いを殺す事は出来ず、二人は吹き飛ばされてしまう。

 

あこ「うわっ!?」

燐子「きゃあっ!」

 

二人は地面に叩きつけられるが、あこが燐子を庇うように下敷きになった事で、ダメージはあこ一人が受けてしまう。

 

燐子「あこちゃん…!?」

 

あこ「痛たたたた……っ!」

 

燐子「あこちゃん、肩が…!」

 

あこの肩は、左肩の鎖骨辺りが目に見えて分かるほど隆起していた。脱臼、あるいは骨折したのかもしれない。勇者装束は防御力を上げるが、ダメージを完全に防ぎ切る事は出来ない。

 

燐子「どうして……。」

 

燐子は自分が情けなくなってしまう。自分を庇ったりしなければ、あこがこんな怪我を負うことは無かったから。戦力としては、燐子よりもあこの方がずっと優れている。燐子が怪我をして、あこが無傷だった方が良かったのだ。

 

あこは苦痛に顔を歪めながらも、笑って言う。

 

あこ「良いんだよ……あこが自分で守りたいから、そうしたんだ。」

 

燐子を守る事ーー

 

 

 

それは、あこが燐子に出会った日に誓った事だった。

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

物心ついた時から、あこはガサツだと言われ続けていた。

 

あこ母「どうしてこの子は、もっと女の子らしくしないのかしら……。」

 

母親はいつも困った様な表情を浮かべていた。

 

"女の子らしい"とはどういう事なのか、あこにはよく分からなかった。だから、勇者としての力に目覚めた時、あこは自分にぴったりだと思ったのだ。

 

敵に怯える事無く、戦う事に迷いも無かった。

 

あこ(自分らしくて、カッコいい!)

 

化け物を沢山倒せば、女の子らしく無くても、みんなは喜んでくれる。母親に困った顔をさせることもない。

 

だから、巫女として覚醒した明日香の言葉に従って燐子を助けに行った時、あこは燐子が自分とあまりに違っている事に少し驚いたのだ。

 

燐子はバーテックスに怯えて座り込んでいるだけで、戦う意志が全く無かった。

 

あこ(勇者なのに、戦わないの……?)

 

そんな事を思ったが、とにかく助けなければならない。楯を駆使し、バーテックスを倒していった。

 

あこ「安心して。あこが必ずあなたを…えーっと…。」

 

燐子「燐子…。白金燐子…です…。」

 

あこ「じゃあ、りんりんだね!安心してりんりん、これからはあこが守ってあげるから!」

 

あこは燐子を見つめる。弱くて、怖がりで、戦う事なんて全く向いてない少女。だけど、どこか惹かれるところがあった。

 

あこ(………やっぱ、あこには無理だなぁ…。)

 

心の中でそう思った。きっとこういう少女を"女の子らしい"と言うのだろう。あこがどんなに頑張っても、きっと燐子のようにはなれないだろう。それならばーー

 

あこ(だったら、何があってもあこがりんりんを守る!)

 

自分がなれないのなら、せめて憧れを抱くこの少女を守ろう。代替行為に過ぎないけれど、あこはあの時、そう誓ったのだ。

 

 

 

ーー

ーーー

 

 

 

そして今、あこは肩の痛みに耐えながら、何とか立ち上がる。

 

あこ(痛たた…痛めたのが左で良かった……。右が無事ならまだ戦える……りんりんを守れる…!)

 

あこは燐子の前に立ち、旋刃盤を握りしめる。

 

燐子「あこちゃん…無理しないで……!」

 

泣きそうな顔で燐子が言う。あこは燐子にそんな顔をさせたくないのに。

 

あこ「大丈夫だって。あんな敵なんかに、あこが負けるわけ無い……!」

 

痛みを押し殺して強気に答える。二足歩行の"進化型"は友希那が一人で立ち向かっていた。敵があこ達の方へすぐに来なかったのは、ずっと友希那が食い止めていたからだ。

 

友希那「怪我をしたなら下がってなさい!」

 

あこ「大丈夫です!まだ戦えます!」

 

あこの返事に友希那は無言で頷いた。"進化型"に対し、友希那が刀を振るう。凄まじい速度で放たれる斬撃ですら、"進化型"には擦り傷しか負わせることが出来ない。逆に友希那も"進化型"の攻撃を紙一重で躱している。戦況は膠着状態だったが、あろう事か"進化型"はあらぬ方向へと走り出したのだ。

 

友希那「何っ!?」

 

呆気に取られる友希那。"進化型"の意図にいち早く気が付いたのは燐子だった。

 

燐子「あの"進化型"は神樹様を狙ってます……!」

 

神樹は今の四国を支えている全ての基盤。神樹に何かがあれば、四国という箱舟が崩壊する可能性だってある。

 

急いで"進化型"を追う友希那だったが、接近戦に特化した友希那では、素早く動く敵に狙いをつけるのは不可能に近い。この状況に一番適しているのは、飛び道具を持ち、遠近両方に対応出来るあこだった。

 

あこ「だったらあこが……!りんりんは此処で待ってて。」

 

燐子「え……?」

 

あこ「あんな敵、すぐに倒す!!」

 

あこは燐子を置いて、"進化型"を追いかける。振動で左肩に激痛が走るが、勇者装束のお陰で走れない程では無い。

 

あこ「友希那さん!アレはあこに任せて!」

 

旋刃盤を構え、投げるタイミングを伺う。闇雲に攻撃しても避けられるのは目に見えていた。その時、背後から燐子の声が聞こえる。燐子はあこの言葉を無視して後をついて来ていたのだ。

 

あこ(待っててって言ったのに…。)

 

燐子「あこちゃん!旋刃盤を力一杯投げて…!大丈夫、あこちゃんの武器は"進化型"に当たるから…!」

 

あこ「………分かった!」

 

燐子を信じ、あこは旋刃盤を全力で投げる。同時に燐子が金弓箭から矢を打ち放った。

 

あこ「てやああああっ!」

燐子「行って……!」

 

旋刃盤と金色の矢が"進化型"に迫る。だが、"進化型"はそれを難なく躱してしまう。

 

燐子「掛かった…!」

 

しかし燐子の狙いは違った。燐子はこの状況を予測し、"進化型"を狙ったのでは無く、旋刃盤に繋がっているワイヤーを射抜いたのだ。ワイヤーが歪められた為、旋刃盤は軌道を変え、再び"進化型"に襲いかかった。

 

燐子「あこちゃん、旋刃盤を楯状に…!」

 

あこ「うん!」

 

軌道変更に加え、楯状にする事で攻撃面積を増加させる。流石の"進化型"でもこれは避けきれず、直撃を喰らってその動きを止めた。

 

あこ「りんりん、ナイス!」

 

燐子「私も…守られてばっかじゃないから…!」

 

あこ「一気に決めるよ!」

 

燐子「うん…!」

 

足を止めた"進化型"に燐子が追い討ちで矢を連射し、あこは旋刃盤を回収し、投擲する。二人からの連撃を受け、"進化型"は奇妙な鳴き声と共に消滅するのだった。同時に、友希那達三人が他のバーテックを全て掃討し、今回の戦いも勇者側の勝利で幕が降りる。

 

勇者側の被害は、あこの左肩脱臼。他は擦り傷程度だった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

翌日、あこは左腕をアームホルダーで固定されていた。骨折では無かったが、暫く左腕を使うことは出来ないだろう。

 

あこ「うぅ……これ窮屈だよぉ…取っちゃいたい!」

 

燐子「ダメだよあこちゃん…。怪我が長引いちゃう…。」

 

昼休みの食堂、あこを諭しながら燐子はうどんを食べさせていた。このうどんは、昨日の戦いで使われた最高級の讃岐うどん。戦いの後、無事に回収され、釜揚げうどんにされていたのだ。

 

あこ「もぐもぐ……こんなに美味しいうどんに興味を示さないなんて、バーテックスに知性があるっていうのは嘘なんじゃないかな…。それよりりんりん…右手は使えるから、自分で食べれるよ?」

 

燐子「片手じゃ食べにくいでしょ…?」

 

あこ「そうでもないけどなぁ…。」

 

あこはため息を吐きながらも、燐子にうどんを食べさせてもらっている。そんな二人の姿を、他のみんなは微笑ましげに見ているのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。