真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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一時の休息を楽しむ勇者達。だが、異変がすぐ側まで近付いている事に気付く者はまだ誰もいなかった。




予兆-よちょう-

 

友希那「ふぅ……身に染みるわね…。」

 

夜空の下、友希那は温泉に浸かりながら呟いた。年が明け、一月初旬。友希那達は温泉へとやって来ていた。

 

バーテックスとの戦いも幾度目かを終えた頃、神託があり暫くは襲撃が起こらない事が告げられた。その為友希那達は休養として、貸切の温泉旅館で過ごす事が許可されたのだ。

 

リサ「ふふ。蕩けてるね、友希那。」

 

友希那「そうね…。」

 

二人が湯に浸かっていると、あこ達四人がやって来る。

 

あこ「やっぱり先に入ってた!あこが一番風呂になろうと思ってたのに!」

 

燐子「あこちゃん…走っちゃダメだよ…。」

 

いつもの六人め、温泉旅館に泊まるーー人数は少ないが、ちょっとした修学旅行気分である。

 

 

 

 

香澄「そういえばみんな、お医者さんの検査で、おかしなところは無かった?」

 

湯に浸かりながら香澄が全員に尋ねた。

 

紗夜「おかしなところですか?」

 

香澄「うん。私達って、戦いの度に検査されてるから、みんな大丈夫かなって。私は"一目連"の力を使った後、疲労が溜まってるって言われただけで、後は健康そのものらしいけど。」

 

勇者達は医療機関で、定期的に身体状況を調べられている。特にバーテックスの襲来が始まって以降、戦いの度に綿密な検査が行われていた。勇者の力を使うことが人体にどんな影響を及ぼすのか、まだ不明瞭な部分が多いためだ。

 

あこ「あこは異常無しだって。この前の脱臼だってすぐに治ったし。」

 

燐子「私も異常無しだそうです…。」

 

友希那「私もよ。戦いの時も擦り傷以外は負っていないし。」

 

リサ「そうだね。友希那に何かあれば、アタシがすぐ気付く筈だし。」

 

香澄「紗夜ちゃんは?」

 

今の時点で、精霊の力を使ったのは香澄と紗夜のみ。その為二人は、特に入念に調べられていた。

 

紗夜「私も問題はありません…。沢山バーテックスを倒さなければならないんです。怪我などは気にしてられません。」

 

 

 

友希那(紗夜は変わったわね……。)

 

以前の紗夜なら、勇者の活動には乗り気でなかった。それが変わったのはいつ頃からだろうか。

 

友希那(確か……バーテックスの二度目の襲撃があった頃…。)

 

その前後に何があったかは友希那は知らない。しかし、今の紗夜は勇者としての自覚を持ち、訓練にも積極的に参加している。そしてその事を明確に示す出来事が一つ。

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

今年の元旦のこと。勇者がバーテックスとどう戦うかを、一般の人々に披露するという催し事が行われた。藁の束や看板をバーテックスに見立て、勇者装束を纏った勇者達が武器を振るって壊していく、一種の演舞の様なものである。

 

この演舞を見る為に、四国各地から大勢の人々が集まった。ただのお祭りイベントだが、勇者を神聖視する四国の人々にとっては、意識昂揚に大きな効果があるらしい。勇者という存在を、滅亡に瀕した人類の希望にするという大社の目的は充分に達成出来ていた。

 

演舞を行ったのは友希那とあこ、そして紗夜。香澄と燐子は大勢の人前に立つのが恥ずかしいと言って辞退した。

 

あこは物怖じしない性格だし、このイベントに乗り気なのは予想出来た。だが紗夜が参加した事は友希那にとって意外だった。かつての紗夜なら、こんなイベントには絶対参加しなかった筈だ。

 

当然一番目立ったのは友希那だ。だが紗夜は僅かに映っていた自分の演舞と友希那の演舞を、静かに見比べていた。まるで自分と友希那がどう違うのかを確かめるかの様に。

 

 

 

ーー

ーーー

 

 

友希那(私達の中で、勇者としての自覚が一番強いのは、紗夜なのかもしれないわね…。)

 

紗夜「どうしたのです?私をじっと見て。」

 

友希那「紗夜は勇者ねと思っていただけよ。」

 

紗夜「……当然です。あなたもそうでしょ?」

 

少しムッとしながら紗夜が答える。紗夜に言われ友希那も考えてみた。確かに自分は勇者としての自覚を強く持っている。だが、紗夜程には自分の置かれている立場に適応出来ていない気がしているのだった。

 

 

 

 

 

あこ「はぁ……満腹だよ!」

 

部屋に戻り夕食を食べた後、あこは畳に寝そべった。

 

香澄「ご飯、すっごく豪華だったね。値段を考えると怖いけど。」

 

香澄の言う通り、旅館が用意した食事は、食べたことのない様な高級な食材がふんだんに使われていた。

 

リサ「やっぱり、勇者への特別待遇なんだろうね…。丸亀城にも、四国中から私達に様々なものが贈られてるって聞いてるし。」

 

友希那「そうね。最初は何かの宣伝目的の贈答品かと思っていたけど……違うわね。」

 

あこ「それに、温泉旅館が完全貸切っていうのも、破格の待遇だよね。」

 

燐子「こんな凄い扱いをされると…なんだが政治家や有名芸能人みたいだね…。」

 

紗夜「むしろ当然の待遇ですよ。私達は政治家や芸能人には到底出来ない事をやっているのですから。」

 

紗夜は淡々としているが、友希那はまだこの状況には慣れていなかった。友希那が勇者として戦う理由は、命を奪われ、傷付けられた人々の怒りと悲しみに報いるため。人類が受けた痛みを、必ずバーテックスに返す為に刀を振るっている。

 

だから周囲から持ち上げられる事は友希那は望んでいないし、この状況は想定していなかった。

 

あこ「さて、温泉も入ってご飯も食べたし、ゲームでもやりませんか?」

 

リサ「良いね!アタシトランプ持ってきたんだ。」

 

紗夜「ゲームでしたら……。」

 

紗夜が目をやった方向には、既にテレビに繋がれたゲーム機があった。

 

燐子「他にも、人狼だったら紙とペン、スマホのアプリがあれば出来ますね…。」

 

あこ「よーし、全部やろう!そして、全部あこが勝つ!!」

 

 

 

 

 

 

あこは全部勝てなかった。

 

正確に言えば、勝っていたのは紗夜だけだった。まさに紗夜無双である。テレビゲームを始め、トランプ、人狼、あらゆるゲームで紗夜に敵う者は誰一人いなかったのである。

 

香澄「紗夜ちゃん、凄い!」

 

紗夜を尊敬の眼差しで見つめる香澄。うっすらと紗夜の口元が緩む。一方あこは負け続け完全に自信を喪失し、部屋の隅で体育座りをしながら燐子に慰められていた。

 

しかし、その状況にもやがて変化が起こる。ゲームをあまりやらない友希那は、始めは負け続けていたのだが、次第にコツを掴むようになり、紗夜と互角の勝負を繰り広げていた。

 

今二人はトランプのスピードで勝負をしている。無数のゲームをやり込み、卓越した動体視力と判断能力を持つ紗夜に対し、武術によって鍛え上げられた、凄まじい反射神経と集中力を持つ友希那。三回勝負で、現在一勝一敗。

 

紗夜「負けません……絶対に…湊さんには……!」

 

 

友希那「…………。」

 

その呟きはただの相手への戦意の表れに過ぎない筈なのだが、友希那にら何かそれ以上の意味があるように思えた。二人の手が目まぐるしく動く。僅かながら友希那の札の方が減りが速い。このままいけば友希那が勝つ。見ている誰もがそう思ったのだがーー

 

 

 

 

 

 

 

ぬいぐるみ「にゃあー。」

 

リサが猫の声が出るぬいぐるみで友希那の注意を引いたのである。

 

友希那(はっ、にゃーんちゃん!)

 

友希那の目線が一瞬ぬいぐるみへ移る--

 

紗夜「今です!」

 

紗夜はその隙を見逃さず、トランプを全て出し終え勝利した。

 

高嶋「優勝は、紗夜ちゃーーん!!」

 

香澄が紗夜の右手を上げ優勝宣言する。

 

リサ「力抜いて。ゲームなんだからそんな怖い顔しないで楽しまないとね。」

 

友希那「反則よ……リサ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。沢山遊び、疲れたせいかみんなはすぐに眠ってしまう。だが友希那は中々寝付けず、窓から夜に沈む街を見下ろしていた。街の向こうには、夜闇に沈んで黒く染まった海が広がり、その海の先には四国を守る"壁"が広がっている。

 

四国が本土と断絶してから三年と数ヶ月。壁の向こうは果たしてどうなっているのだろうか。

 

連絡が途絶えた諏訪はどうなっているのだろうか。

 

友希那(美竹さん……。)

 

リサ「友希那。」

 

声をかけられて振り返ると、リサが立っていた。

 

友希那「ごめんなさい、起こしてしまったわね。」

 

リサ「ううん、アタシも少し眠れなかったからさ。」

 

リサは友希那の隣に座った。

 

リサ「海を見てたの?」

 

友希那「ええ。丸亀城から離れても、この習慣は変わらないみたい。」

 

三年前のあの日を決して忘れないように。

 

壁の向こうの世界を決して忘れないように。

 

友希那は少なくても一日一回は、瀬戸内海とその向こうの壁を眺めている。

 

リサ「…………友希那は…。」

 

友希那「え?」

 

リサ「友希那は遠くばかりじゃなくて、もっと近くを……自分の周りの人達を見てあげた方が良いかもしれないよ。」

 

友希那「どういう意味?」

 

リサ「今日だって……。」

 

リサの言葉は途中で止まり、その先は闇夜に消えてしまう。部屋が暗いせいで、リサが今どんな顔をしているのか、友希那には窺い知れなかった。

 

リサ「……………いや、これは友希那が自分で気付かないと意味ないね。友希那も早く寝なね。夜更かしは体に悪いから。」

 

そう言ってリサは立ち上がり、再び布団に戻ってしまった。

 

 

 

 

 

友希那は、その言葉の意味を間も無く知る事となるーー

 

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