クモ行き怪しく!?   作:風のヒト

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悪かった 割と充電 手こずった


天気は下り塔1

 

 円柱、そう言う以外にどう表現していいか分からない建造物の頂上に、飛行船は到着した。

 

「制限時間は72時間、試験内容は生きて下まで降りる事」

 ここの試験官の伝言だと言ったマーメンの言葉が終わると、彼を乗せて飛行船は去って行った。

 『トリックタワー』という名称の円柱の何処にトリックがあるのか、飛行船が見えなくなる頃には受験生達はうろうろと円柱を歩きだした。

 下まで降りる事と言われ、誰しもが考えた壁を伝って下りるという方法は既に全員の思考から外されている。

「ゲッ ゲッ ゲッ ゲッ」

 不気味な声で無く醜悪な顔をした怪鳥に、実際壁を降りた挑戦者が朝食にされたからだ。

「ねぇ、トール」

 さて何処に降りるトリックがあるのかと本腰入れて探そうとするトールに声が掛かる。

「どしたゴン?」

「この服、オレのにそっくりだけどトールの?」

 首から一部を引っ張り出して見せたのはトールが昨日仕立てた服だった。

「ああそれ俺のってかゴンに仕立てたヤツだから貰ってくれよ」

「あ、そうなの? ありがと、途中で寝ちゃったけど汗も拭いてくれたみたいだし」

 この異常者渦巻く場所でちゃんと御礼の言える純粋ないい子は貴重だなぁと、トールは思った。

 しかし、別の観点から言えば彼も()()()()()()純粋さだということでもある。

 自分の様なパンピーが…… と思っている存在も、何処か他人の干渉に左右されない自己完結的な思考を有している異常者である。

「ちょっと待てよ! オレにタオル渡す感覚で服作ったのかトール!?」

「え、うん?」

「どうやったんだよそれ、明らかにおかしいだろ!?」

 キルアのもっともなツッコミがトールを襲う。

 離れた場所であーでもないと話しているレオリオ達はともかく、実はこの中でキルアが一番常識を心得ているのではないだろうか?

「いやー…… まぁ、何だ企業秘密で勘弁してくれない?」

 対するトールは許してくれという表情で口の前で人差し指を立てる。

「オレにとっちゃ二年越しの疑問なんだぞ」

 喋ろうとしないトールにキルアは眉間にしわを寄せつつ距離も寄せる。

「いやもうホント勘弁して…… ほら! いまそれよりトリックタワーのトリックの方を解き明かさなきゃ、ね?」

「そーだよキルア、今はトールの秘密よりそっちの方を暴かなきゃ不合格だよ?」

 ゴンの助け船もあり、キルアは詰め寄る足を止める。

 それでも不満たらたらですという表情で腕を組みつつじとーっとトールを見る。

 そういう視線の様は何処となくあの母親の血を感じさせられた。

 その様子に、ゴンは少し考えると柏手一発と共に名案浮かんだ顔をする。

「そんなに気になるんならさ、トールより先にトリックタワーを降りたら教えてもらうってのはどう?」

「おっしゃそれでいこう!」

 キルアはナイスアイデアとゴンに手を向け、意図に気付いたゴンも手を出しハイタッチを決める。

「待ってろよトール! ここのトリックもお前の秘密も解き明かしてやるかんな!」

「えっ ちょと、待つ訳ねぇよ! や、そーじゃなくて!?」

 走って行くキルアとゴンにトールはズレたツッコミしか言えなかった。

 

―― 俺の意見は!?

 

 当の本人を無視し、ゴンに至ってはレオリオ達も協力を仰いでいる。

 

―― 協力求める思考の余裕あんのに俺の意見は!?

 

 それは再度トールに衝撃をもたらした。

 そもそもトールがキルアに【蜘蛛の仕立て屋】(アラクネー)を秘密にしているのは、念能力の秘匿という一般的意識の他にもう一つある。

 

 実は口止められているのだ、ゼノそしてシルバの両名から直々に……

 

―※―※―※―※―※

 

「あのぅ…… 何か私の服に不備等ありましたのでしょうか?」

 ゼノ及びシルバからの呼び出しと言うだけで何事かという話だが、今回に至っては人払いまでさせている。

 それはゼノがさらっと「イルミとカルトも仕事に出したなシルバ?」という質問から、人払いが家族まで対象に入っている異常事態であった。

「いやそういう訳ではない、キルアのことで話があるだけだ」

 シルバの言葉にそれはそれで問題だよとトールは思う。

「確認じゃがおぬしは【念】が使えるな?」

「ええ、多少は……」

 隠す必要もないので正直に言う。

「では服を作るとき、何らかの【念】を行使しているかな?」

「はい」

 これも隠す方が絶対に不味いので答える。

「ならばキルアの前では服を作ることはやめてくれないか」

 ゼノから引き継いで出たシルバの言葉は御願いだった。

「構いませんが、それは【念】の秘匿ということですよね? 一応【念】を使わなくとも裁縫そのものは可能ですけど……」

 最初の問からトールはそう判断する。

「ああ、【念】を使わなければ別に構わない。つまりは何であれ【念】をキルアの前で行使してはならないということだ」

 その言葉にトールはある事に気付き、首を傾げる。

「でも、割と遠くとはいえその場にいたのに末の子は思いっきり使ってましたけど」

 そうなのだ、カルトは何時の間にか【念】を未熟ながらも習得しており、その報告に人間ロケットと言うべきスピードでもって突っ込んで来たときの驚きは今でも覚えている。

「流石に一発殴ったわい…… まぁ、キルアだけに【念】を教えとらんことには理由があるんじゃ…… それはワシらの昔話でもある」

 言ってゼノは備えてあったコップの水を飲む、少し長い話になりそうだ。

「えっと、なにかこの家のディープな秘密に触れそうなんですが…… 私に話していいんですか?」

 なのでトールはすかさず止める機会を作る。

 初めてここを訪れた際に同じくディープな秘密に触れて殺されかけたからだ。

「よほど言いふらさなければ何もせんわい。王様の耳はなんとやらとな…… 殺人鬼である前に人間なんじゃよワシらも」

 差し詰めトールは井戸の中にいた哀れな人かはたまた穴そのものか、いずれにせよその話の様に喋ったら自分の末路は幸せで無く辛いものだろう。

 だからトールはその話ってこっちの世界にもあったんだなと思う他に自分を誤魔化す方法は無かった。

 

――― これはワシがようやく二桁の年になったときの話じゃがな……

 

―※―※―※―※―※

 

―― いかん! 思い出したらますますキルアに教える訳にはいかなくなっちまった!

 

 ゼノの遠い目まで思い出しトールはそこでようやく現在の時間軸に意識を戻した。

 とりあえず周りを見渡すと皆中心付近ではなく淵の方から何か探しているらしく、あまり動かなかったトールはポツンと取り残されたような状態だった。

 幸いなことにキルアもゴンも色々探している真っ最中だった。

 

―― 俺も探さねーと不味いな

 

 とりあえず端から端まで歩いてみるかと歩き出す。

 するとその瞬間にまるで世界レベルで妨害でもされているかの様な強烈な向い風が吹いた。

 おまけに風は砂塵を含んでおり、そういう対策をした格好でない者は皆一様に手や腕で顔を覆う。

 トールも例に洩れず、構造上大きい袖で主に目を守ろうとする。

 だが、目は守れたものの少なくない砂塵を吸いこんでしまったトールは鼻に強烈な違和感を覚えた。

 当然、体は侵入した異物を追い出そうと反応する。 

 それはトールだろうが人ならほぼ誰でも起こるものであり、珍しい現象ではない。

 

 所謂くしゃみである。

 

 しかし、くしゃみの際の動きと言うのは独特のものであり、状況等によって千差万別の軌道を描く。

 彼の場合、それは臍の高さまで上がった右膝がその独自性を物語っていた。

 

「っくしゅ!!」

 

 スタンダートの部類に入る声と共に右足が地面に勢いよく戻ったとき、何故か彼はくしゃみのことを指摘したイルミの声を思い出した。

 

 

 

 

 

「……」

 打ちつけた右足から落ちる感覚を味わい、目を開けたトールが認識したのは壁だった。

 

―― ふふん、もうワープとか頓珍漢な考えはしないぞ! あの衝撃で床が抜けたんだな? 脆い材質で出来た隠し扉ってとこかな?

 

 微妙に違う推理を脳内で披露しつつも彼なりに少しだけ成長したのか、慌てることなく今の自分の状況を認識する。

 彼の立ってる場所はこの部屋の隅っこの様で大きさは多分であるが日本人的感覚から導きだして16畳程だろうと推測する。

 大きさがあっているか、壁側からくるっと内側を見る為トールは振り向く。

 

「また会ったねトール♥」

 

 すぐさま見上げた決して高くない天井に自分が落ちた穴が無いことを確認するとトールは来世では静かなくしゃみをする人でありたいと心から強く願った。

 

「もう行こうかと思ってたけど、日頃の行いが良かったのかな? 最高のプレゼントだ♠」

 日頃何しているのか全くもって不明だが、少なくとも善行でないことだけはハッキリと分かる男は笑顔で言ってのけるとトールに近づく。

「もう行ってていいよ、いくらでも待つから……」

 恐怖等の感情が一周回って疲れになった様で、米神を押さえながら投げやり気味に言う。

「そういう訳にもいかないのさ♣ ご覧よ♦」

 指差した方を見ると扉があり、そこにプレートがかけられてある。

 

 

 この部屋では上限四名を待たずに出発してもいいし、好きな人数になるまで待ち続けてもいい。但し、来た者は例外なくこの部屋から出発しなければならない

 

 

 課題の道と銘打ったプレートにはそう説明が書かれていた。

「つまり御一人だろうが四名様だろうが構わないけど、来た奴は全員強制参加と?」

『その通りだ』

 トールの言葉に答えたのはヒソカではなく、機械越しの音声。

 声の方を見ると、天井際の壁にスピーカーがあった。

『このトラップタワーの数あるルートの一つ、課題の道ではそのプレートの様な形で各部屋ごとに課題が明示されており、その課題をこなさなければ次の部屋に進む資格が与えられない難コースだ!』

 そして諸君の健闘を祈ると定型文で締め、音声は止まった。

 説明通りならこの全員出発という部分が次の部屋に進む為の課題と言うことなのだろう。

「そういう事だから早くイこうよ?」

 ニュアンスに何か引っかかるものを感じるが、ここであと二名を待ったとしても他にどんなイルミやコイツみたいなの(ヤ  バ  イ  奴)が来るか不安なので、それなら仕方ないと彼はヒソカに続いた。

 開けた先の部屋はかなり長い長方形で、自分達の通って来た扉と向こうに続く扉まで遮蔽物も何もなく唯一風変わりなのは向こうの扉の前に細い台座と上に乗っているスイッチらしきものと、向こう側の配置に合わせるようにこちらには看板が立っていることである。

 

 向こうのスイッチを押す事、但し道具を使って押しても無効。必ず自らの体を使って押す事

 

 これは絶対このスイッチまでになにか仕掛けがある。

 そう判断したトールと同じ様な事をヒソカも考えたらしく、トランプを八枚取り出すと一斉に投げつける。

 トランプはいずれも部屋の真ん中ほどでそれぞれ左右の壁と床、そして天井に二枚ずつ突き刺さる。

 すると刺さった場所の床がどういうハイテク仕様なのか、足の親指ほどの大きさの穴がスライドで開いたかと思えば、勢いよくそこからその大きさの黒い槍が飛び出してきた。

 トールの肩ほどの長さまで伸びると飛び出す勢いと同じ速度で黒い槍は引込んだ。

 全部引込んでからヒソカは今度は空間のど真ん中ストレートコースでトランプを投げる。

 トランプはスイッチの台座に刺さったが、その軌道上に槍は一切出なかった。

「なるほど♣ 槍が出るより速く走るか何も触らないようにスイッチまで行くかの二択ってことか♠」

 検証終了♦ とトランプを投げた方の指を曲げると、放たれたトランプはまるで意思があるかのようにヒソカの手へ帰って来た。

 

「ま、正直楽かな♥」

 

 そういって小細工抜きで駈け出し、ボタンを押すヒソカにトールは内心同意した。

 

―――――――――

 

 その後五つほど課題をこなしたが、どれも一か八かというレベルではなくヒソカが交互に課題をクリアし合うことを提案し、それに同意するくらいには心の余裕もあった。(同意を得られずとも強引にそうならざるを得ない状況に彼はしただろうが)

 

―― こういう得意なのに当たり続けてるからだろうなぁ

 

 トールの『こういう』のとは木々の生い茂る植物園の様な部屋の課題で、そこに放たれているネズミを三匹生け捕りしろというものである。

 そうして今はヒソカが七つ目の課題である囚人との戦いに精を出していた。

 

 本来なら囚人四人対受験者四人という構図でこの広いステージを目一杯使い一斉に戦うのであろう。

 二分以上『相手側より戦闘可能人数が下回った状態ならば敗北』というルールなのでトール狙いの囚人も、そもそも二人なので逃げに重きを置こうと考えている囚人もいた。

 そう、『いた』

 二分と言わず二秒で囚人達は散って逝った。

 人数的不利とかこの部屋まで来る疲労とか、そういうハンデなど存在しなかった。

「まったく、ここまで来るのに時間だけ掛かっちゃって退屈だよ♠」

 

 それもそうだ常時切り札の男(ジョーカー)が最初から場に出ているのだから。

 

 

「もしかしたらこの部屋で最後かな?」

 その部屋は今までと違い、扉近くに看板や壁にプレートがかかっておらず真っ直ぐ進めと薄暗い道が続いているだけだった。

「最後くらい楽しませてくれるものだといいな♥」

 

―― その最後は俺の番だけどね☠

 

 ヒソカの言葉と場の雰囲気にラスボスという単語が浮かび、若干おかしなテンションになっている。

 一緒に歩く手前、警戒して遅く歩きたいがヒソカの歩みに合わせぐんぐん歩いているうちに道は終わる。

 何も無いのかと思った壁の下に良く見れば何かの欠片が散乱してる。

 それがズタズタに切り裂かれたプレートだと気付いた時に、目の前の壁が音を立て向こう側に倒れる。

 どうやら隠し扉の様だ。

 

「…… 待ちわびたぜヒソカ」

 

 そこには顔面に決して軽傷ではなかったであろう傷痕を持った男がいた。

 意図的でなかったら失明していない事が奇跡としか言い様のない眼は負の情念を感じさせ、その眼はある一点を見つめ続けている。

 その一点がトールを飛び越えその後ろにいる人物であることは明瞭だった。

 ヒソカがどんな表情をしているかゆっくり後ろを振り返る。

 ひどく退屈そうな顔がそこにあった。

「なにしたんだ?」

「去年の試験はもっと退屈でね♣ 早くクリアしちゃって暇だったから遊んだんだけど…… 脆すぎて少し壊しちゃった♥」

 どじっ娘ですとでも言いたげな声音だったがただ不気味なだけである。

「貴様に付けられたこの傷の恨み! それを晴らすべくオレは試験官としてではなく一人の復讐者として貴様を殺すと誓って生きてきた!!」

 

―― コイツが去年ヒソカに半殺しにされた試験官かよ!?

 

 何してくれてんだお前という気持ちでもう一度ヒソカを見る。

「試験官だから命と眼までは獲らなかったのに、気絶する寸前にボクに不合格を言い渡したんだよこの人♠」

 至って普通の判断だとトールは思った。

「酷いと思わない?」

「ああ、酷いと思う」

 同意を得て嬉しそうにヒソカは笑うがトールの酷いに掛かる対象はコイツである。

「さぁ、ヒソカ…… もう語る事は何もない! そのガキ退けて命のやり取りといこうぜ?」

 これは巻き込まれないようにしなければとヒソカを前に出す為横に一歩出る。

 しかしヒソカは前に出る事は無く、退屈そうにトランプを弄びながら

「嫌だね♣」

 と言い切った。

 

「「はぁ?」」

 その返答にトールと男の声は見事に重なった。

「だって今はキミの番じゃないか♣」

「そうだけど向こうが指名してるじゃん」

 巻き込まれたくないのでやんわりと言いつつも断る方針を変えない。

「おい、何の話だ?」

 事情を知らない男はその内血管が切れるのではないかという位青筋を立てている。

「ちょっとした御遊びだよ♦ ここは課題の道だろ? だから課題が何個もあるだろうから交互にクリアしてて、この部屋の順番がトールなのさ♥」

 男は怒りの矛先をすぐにでもぶつけたい衝動にかられ、小刻みに震えている。

 終いには爆発しそうだ。

「キミがどんなにボクと戦いたいかは分かるけど……」

「戦いたいのではない! 真っ向から挑んだ上で殺したいのだ!」

 指差し力強く指摘する男にヒソカはめんどくさいなぁ♣ とぼやきつつも再び喋る。

「キミと戦う事は本来、この部屋の課題じゃないんだろ? この部屋の前にあったズタズタのプレート…… あそこに書かれてあったであろうことこそが本当の課題のはずだ♠」

 プレートをズタズタにしたのもキミだろ? と言って聞けば男は頷く。

「部屋に設置してたカメラでボクがどの道に来たか確認して先回りしたんだろ? キミは今年復讐者として来たとか言ってるけどボクは今年も受験生なんだ、そんな勝手が通るんならこっちもある程度の自由がなくちゃ♥ プライベートでないんだから問答無用じゃいくらなんでも駄目だろう?」

 

―― コイツ、自分が原因の癖に公私混同すんなっていけしゃあしゃあとよく言いやがるなオイ

 

「ッチ! 分かった、先にこのガキ伸したら次はオマエだ。それでいいな?」

 

―― 意外と素直だな!?

 

「ん、いいよ♣」

「じゃあ一旦この部屋から出ろ、扉が閉まるが決着がつけば再び開く仕組みにしてある」

「まぁ気楽にヤりなよ? トール♥」

 流れるように、来た扉を戻るヒソカに抗議する暇は無かった。




 初期ではアルゴはツンデレぶっきらぼう系おっさん、トールは服キチじゃなくランジェリーキチでおっさんにも容赦なくブラジャー装着を迫る感じでしたが、ガイアが私にそれはやめろと囁いたのでやめました。
 しかし開始数話に女っ気が全然無かったのでアルゴをアーちゃんにした判断は正しいと思ってます(曇りない目)

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