クモ行き怪しく!?   作:風のヒト

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クモは観測出来ても予報は出来ず

「ん~、まだ痛むけど…… 担がれるほどじゃないかな?」

 残り時間僅かとなり、スタート地点まで歩くトールは動作確認の様にその場を軽く跳ねる。

「頼むからそんなはしゃがないでくれよ?」

 そんなトールを見てレオリオは繊細な物を扱うかの様に言う。

 心なしかクラピカも少し離れてるように見える。

「いやだから誤爆誘爆の類はないから安心してってば……」

 何度目かになる否定の末、スタート地点に着く頃ようやく納得してくれた。

 

 スタート地点に着いたとき丁度良いタイミングで汽笛が鳴り響く、それと同時に試験終了と今から一時間を期間猶予とする旨の連絡が島中に響き渡る。

 と言ってもプレートを集めたらしい合格者達は五分としない内に集合したが。

「おーい! みんなぁ!」

 その声に三人が振りむくとそこには手を振りながらこちらに来るゴンと何処か不機嫌そうなキルアがいた。

「ようゴン、その様子だとあの変態野郎からプレートを掻っ攫ったみてぇだな?」

「ん、まぁね…… レオリオもあれからプレート取れたんだ?」

 ヒソカという存在からプレートを取れたにも拘らずその表情は何処かぎこちなかったが、今気付いたが当の本人がそこで愉快そうにこちらをみているからかとトールは判断した。

 そしてプレート取られてもちゃっかり合格してることにがっかりもした。

 

―― プレート取られたんだからそこは惜しくも敗退でいいだろうに……

 

 そう思うトールだが、自分から自身のプレートを渡した上に自力で狩った一枚以外は譲られたあげく、その内の三点分は自分のターゲットから三枚プレートを貰うことによって得たという訳の分からない戦績のコイツに思われたくは無いだろう。

「よっ! 無事合格ってとこだな透?」

「無事六点取れたんだな? スゲーな、こっちはお前の善意を無駄にしない様に隠れるので精一杯だったよ」

 トールに声を掛けてきたのはポックルと半蔵だった。

「二人も合格おめでとう」

 笑いあって握手する三人は男友達という言葉がしっくりきた。

 

 

「で、何でキルアはそんな不機嫌そうに俺を見るんだ?」

 あれから来た飛行船に乗り数分、島でもじっと見てきたキルアだが飛行船に乗る前に係の者に自分の苦労と合格の証である六枚のプレートを渡した辺りからますます視線がきつくなったため、今ようやくトールはその口を開いた。

「正直少し腹立ってる……」

「俺なんかしたか!?」

 まさかの立腹宣言に大きく仰け反るトール。

「いや確かにトールが原因っちゃそうだけど…… どっちかと言えばオレ自身にムカついてる」

 そう言われどう返していいか分からずに「そ、そうか」とどもり気味に言うだけで、場には何とも言えない気まずさが広まったとトールは感じた。

「だぁーもう! やめだやめ!!」

 と次の瞬間には何かを爆発する様にキルアが大きな声を出す。

「トール!」

「なに!?」

 ビシッと音が出る様な…… 否、本当に突き刺さりそうな威力と音でもってトールの名を呼びながら指差す。

 それに何か地雷でも踏んだのかと困惑の表情で原因をトールを探すが一向に原因は見つからない。

「お前は今から憩いじゃなくてオレのライバルに決定! 拒否権はねーかんな!!」

 言い切った、そんな満足げな顔でキルアはその場を去って行った。

 

―― え? ライバル宣言? 何で? つーかその前の『憩い』ってなに!? 俺はリラクゼーション効果かなんかあったの!?

 

 後に残ったのは訳が分からないと疑問符ばかり浮かぶ訳の分からない生物であった。

 その混乱は自分が機内放送で呼び出されるまで続いた。

 そして結局自分にゴンと共に自分に対して質問があったのではないのかと聞くことは叶わなかった。

 

 

「っちゅー訳で今からおぬしに幾つか質問をするが、最終試験に少し影響する程度で合否には直接関係ないもんでな、正直に答えてくれんか?」

 

 疑問の檻から解放したのは別の疑問ではあったが、それでもいけば分かる単純なものであった為に指定された部屋の襖風の扉を開け、まさかの会長と一対一で話す事になると思わなかったトールは正座の姿勢で背をピンと伸ばし現在に至る。

 あまりキョロキョロしたくは無いが、和室と言う他に言えない内装の部屋で一番目に付くのは「心」という一字である。

「では最初の質問じゃが、おぬしは何故ハンターになりたいのかのう?」

 そのストレートな質問にトールは、ここまで来るのに辿った日々や感じた事をまるで巻き戻すように思い出す。

「私は、そうですね……」

「別に採用試験って訳でも、まぁある種そうだが別に敬語とかはいらんよ? 慣れた口調の方が言いやすいじゃろ」

 飛行船で会った時もそんな畏まらんでもと思うとったしとネテロは笑う。

 それじゃあお言葉に甘えましてと、トールも姿勢も胡坐をかくように崩して答える。

「俺は別にハンターは目指してません、資格があればやりたいこと出来るし身分のこれ以上ない保証にもなる」

「ほう、やりたいこととは何かね?」

 若者の将来語りを楽しそうに聞く老人の図がそこにあった。

「平たく言えば『服屋』です、まぁここに来るまではしっかり都市に店建てる感じを思い描いてましたが……」

「この試験でなにかそれを変える経験でも?」

 髭を撫でるネテロは興味深そうに聞く。

「そんな感じで。まだ構想を練ってる段階なんで言葉で説明するとしっちゃかめっちゃかになりそうだけども」

「そりゃ気になるのう、しかし時間がそれを許さぬようで…… 次の質問といこうか」

 ネテロはクリップボードに挟んであった写真…… 自分を除きここまで合格してきた九名の写真をテーブルに並べる。

「この中で一番注目しているのは誰かね?」

 ああそういう感じ? と口には出さず思うとその代わり「一番かぁ……」と漏れた。

「一名だけじゃ無くていいと言ったらどうかね?」

「この191番のおじさん以外全員ですね、ヒソカとイ…… ギタラクルは眼を離したらヤバイという意味ですけど」

 この一名を除く全員と面識のあるトールは迷いなくそう答えた。

 そうかそうかと何かにその旨をネテロは記す。

「ではこの中で戦いたくないのは誰かの?」

 先の質問で悩むだろうと踏んでネテロは『一番』という言葉を外す。

「そりゃよっぽどのことでもなければ全員…… まぁ絶対戦いたくないのはさっきの二人がそうですね、特にヒソカとは戦闘どころか金輪際会いたくも無いです…… ギタラクルはまぁギリギリ数年に一回くらいなら許します」

 

 誰が聞いても本気のトーンであったと、トールの戦いたくない人物の項目に小さくされど存在感を放つ『備考・本気』の文字が記載された。

 

 

―― ああ~、【絶】気持ちええのぉ~

 

 面談も終わり、最終試験までの三日間割り当てられた自分の部屋でシャワーを浴びた後、ベッドに横たわるトールはそんな極楽気分だった。

 クラピカとレオリオの入る手前、そこにいるのにいきなり存在感希薄になった上にグースカ寝るとかある種のホラーなので自重していたそれを一気に解放したのだ。精孔は閉じているが。

 オーラの過剰放出が痛みの原因の為、精孔を閉じる【絶】は色々な面で効果的なようであった。

 

 一番嬉しいのは温かく、豊富な料理の提供であるが。

 

「おいしいなぁ…… 特に温かいのが良い、森じゃ火を使ったら場所バレそうだし使わず生で食べてたからやっぱ物足りなかったなぁ」

 大食堂で合格者は三日間バイキング形式の食事の為全員集合の中、人一倍皿に料理を盛って食べるトールは嬉しそうに食べる。

「そういえばトールってオレ達が木の実とか採って一緒に食べるまでそれ食べた事無かった感じだったけど何食べてたの?」

「生のカエル」

 

 場が凍りつく。

 

 彼なりの冗句か何かだろうかと思いこもうとするクラピカ達の期待を、キッチンを借りて自炊した料理を食べながら話を聞いてた半蔵が証人となり、しかも食べ方が踊り食いだといういらぬ補足説明と共に判明してしまった食堂は暫く静かだった。

「そういうときは水で高温になって湯を沸かせたり出来る道具とか持ってると便利だぜ?」

「なにその魔法みたいな道具欲しい」

 半蔵の言葉で眼を輝かすトールに今度はポックルが懐から何かを取り出す。

「こういう粉末状の物だけど、頼むから人間としての何かを売るのはやめてくれよ……」

 こんな状況下でトールにアドバイスした男二人はトールにとって掛替えの無い財産だろう。

 

―――――――――

 

 そして三日後、飛行船は最終試験会場に無事到着する。

 場所は荒野やら山奥を予想していた者が多い中、委員会の経営する宮殿風のホテルと最後まで多くの受験生の予想を裏切り続けた。

 その大広間で、横一列に並べられた受験生達の前にこれまでの試験官及び黒服とサングラスを着用した試験官達がいた。

 その中に一名見覚えのある人物がいた、トールが四次試験初日にテンパって殴り掛かった人物である。

 

 最終試験はネテロの説明によれば『負け上がりトーナメント』と言うべき代物であった。

 一勝すれば合格、負ければトーナメント表の上へ上へ…… そして試験敗北者は一名のみ。

 ルールは相手が「まいった」と言えば勝敗が決することと相手を死に至らしめた時はその人物が失格となる以外は時間さえも制限の無い勝負……

 トーナメント表の組み合わせの不公平さは今までの試験の成績を公平に判断した結果らしい。

 採点は極秘内容だがネテロ曰く『身体能力値・精神能力値・印象値』の三本柱からなり、特に最後の印象値なるハンターとしてのはかれない資質と言うべき何か…… それのウェイトが最も高いのだと言う。

 それは納得のいく説明だ、しかしである……

 

―― ハンター志望で無いオレの資質、はかれないとはいえ間違いすぎでは!?

 

 ボードに貼り付けられたトーナメント表にあった自分の番号の場所から分かる自分の戦闘回数は五回、つまり最多戦闘回数である。

 ゴンは分かる、あの年でという贔屓目を除いたとしても何というか惹きつけられるそれこそはかれない『なにか』を持っている。

 半蔵も忍者で本来ハンターとなるのが目的ではない事は知っているが、器が完成しているという面では素晴らしい。

ポックルはあの塔で語った夢はまさにハンターの夢であった。

 

 そしてそれに並ぶ自分、ぶっちゃけ訳が分からない。

 

 しかし「ちょっと俺の評価間違ってません?」等と言う訳にもいかず、第一試合となる半蔵とゴンの始まりの為、そのままわきに追いやられてしまった。

 

―――――――――

 

 ゴン対半蔵の試合は一方的であった。

 スピード、パワー、テクニック…… 全てが半蔵の方が上であった。

 しかし、ゴンの遥かに勝る負けん気が試合時間を一時間、また一時間と引き延ばしていった。

 そして三時間、体感時間はその倍…… 当人はさらに倍は感じたであろう地獄の様な時間。

 

 それでもゴンが「まいった」と言う事は無かった。

 

 それどころか何故か左腕をへし折られながらも試合はゴンのペースとなってゆく。

 結局のところ彼の敗因は「親父に会いに行く」と言ったときのあの真っ直ぐな眼だと思った、「会いたい」ではない自分から「会いに行く」と言い切ったあの眼、それを止められなかったから負けたのではなくそれを気に入ったからこそ、半蔵は『まいった』のだろう。

 それでも納得いかずに勝負しろと言うゴンにアッパーカットを決めて意識を沈めたのは御愛嬌だろう。

 大の字に眠るゴンを黒服がゆっくりかつ丁寧に運んでる最中、半蔵はネテロにアイツが起きたら合格を絶対取り消すと言う。

 だろうなとその場の殆どの人間が思っていた。

「そこは心配するな、合格は例えそれが不満な結果であろうが辞退を申請しようが覆せぬ事実じゃ」

 つまりゴンは不合格となる事態は無いので試合はこのまま進行するというわけである。

 

 そうこのまま、第二試合トール対ポックルが始まるのだ。

 

―― これ、使い捨ての武器じゃなければ爆発するもんでもないんだけどなぁ

 

 握り直すのはこの三日間でまた新たに作った三節棍である、広間の真ん中でこれを構えたときにクラピカとレオリオが三歩ほど後ろに下がったのは流石に苦笑いした。

 対するポックルは静かに眼を閉じている。

「では両者準備は整った様ですね?」

 トールにとって準備は三節棍を構える事ではない、ポックルと戦うことを覚悟する事である。

 その台詞にトールは頷く…… そしてポックルは閉じた時と同様静かに目を開いた。

「それでは第二試合、トールVSポックル!」

 

 黒服の声による試合の始まり、さてどうくるかと構えるトールを前にゆっくりとポックルは片手を上げた。

「始め!!」

 

「まいった」

 

 その声は別に張り上げた訳でもないのにいやに大きく聞こえた。

「え? あっ! 勝者、トール!!」

 流石の黒服も予想外の展開だったらしく一瞬呆けた声を出してすぐさま勝利宣言をする。

「……」

「なんでって顔だな?」

 まさにその通りである。

「オレさ、あの島でハンゾーに会ったとき戦いたいって言ったんだ」

 あの忍者相手によく正面から言えたなとトールは驚いた。

「三次試験のとき戦闘面ではハンゾーにおんぶにだっこでさ、そのときはオレの専門外だと思ったけど…… ハンターを目指す以上そうは言ってられない、このままじゃオレ試験も合格出来なければ万一合格してもすぐ死んじまいそうなそんな気がしたんだ」

 恐らくポックルは受験生の中で最もハンターという職業に真面目に向き合っている人間なのだとトールは感じた。

「だからオレはハンゾーに挑戦したい、前に進むためにも! それとオレに前に進むチャンスをくれた友人に恩も返したい!」

 友人と言われ、もうトールは満足だった。

 故に言葉に詰まったトールが出来た精一杯は手を差し出すだけだった。

「合格おめでとう」

 硬く手を握り言ったポックルの言葉はトールの中で眠るもう一匹にも届いた様な熱を持っていた。

 

―――――――――

 

 そんなある種清涼感すら感じさせる試合のあとだからこそヒソカとクラピカの試合は何処か不穏な雰囲気でヒソカの負け宣言で幕を閉じた。

 会場内に散らばる鎖鎌や投げナイフ、布槍…… 暗器の数々が少ない時間の中クラピカが全力で戦った跡があった。

 それらの猛攻を涼しい顔で片手で数えられるトランプだけで捌ききり、近づいて切り裂くかと思いきや行った耳打ちからの余裕をもった敗北宣言。

 

 しかし、その異様な雰囲気も気にしない受験生が二人……

 

 極度に高められた集中力によって互いが互いしか見ていない。

「第四試合、ハンゾー対ポックル!」

 二人とも武器らしい武器は持っていない。

 しかし、半蔵はゴンとの試合は体術のみかつ仕込み刀があることが分かっているがそれ以外の『本来の戦い方』は不明。

 ポックルとてメインが弓矢と分かるが、この局面でそれを使うかは分からないし、そも先の試合で彼は戦っていない。

 

 二戦目でありながら互いに手の内が分からないという状況。

 

「始め!」

 

 開始が宣言された瞬間、同時に行動を起こしたのはポックルであった。

 勢いよく腕を上から下に振る。

 それだけ、しかしそれだけの動作だからこそ忍者相手に先手を取れた。

 腕を振った結果放たれたのは一本の矢、短く金属製のそれは弓で弾くタイプではなく投擲するタイプのそれ。

「あめぇ!」

 眼前に迫る矢は危なげなく回避される。

 だが、次に半蔵が捉えたものは広範囲に広がる煙……

 

―― 忍者相手に煙幕かよ!

 

 そうは思うが慣れてるとはいえ数秒は有効な手、本来じっと息を殺し見つかる前に獲物を狩るポックルにとって障害物の無い地形かつ真っ向勝負は門外漢である。

 だからこそ彼は数秒だけとはいえ自分の領域を作り上げたのだ。

 

 そこから矢の一発でも放たれそうであるがそれは無かった。

 それを行えば自身の位置が一発でばれる。

 

―― 逆に考えれば一撃で行動不能にされる可能性がたけぇ

 

 そう考えた半蔵の予想を斜め上に物理的にいくように、なにかが煙の中から放物線を描くように飛び出た。

 握り拳ほどのカプセルだと判別した半蔵は爆弾の類かと推測すると同時にここまで山なりに投げて当たる訳も無いと、大きく後ろに退く為足に力を込める。

 しかしそのカプセルが半蔵の身長より二倍ほどの高さにあるときそこに唐突かつ急速に接近する影を見る。

「うお!?」

 着弾を前提に考えていた半蔵の動きの裏をかくようにそれはポックルが後から放ったであろう矢によって空中で破壊される。

 しかしカプセルの中身は爆発物の類で無く粉末状の何かであり、ダメージこそなかったが半蔵に多くが振り掛った。

 とっさに顔全体を庇った為顔面こそ何も無かったが、その身体には多くの粉が付着した。

 

―― んだこの粉?

 

 その疑問に答える事は無いが、煙幕が晴れたとき白い世界から戻りかけたポックルが大きく振りかぶってそれを投げた。

 それは今度は放物線を描くどころかさらに伸び、半蔵の斜め上あたりで天井に着弾する。

 着弾と同時にその周囲で先程と同じ様に煙が広がる。

 どうやら煙幕であったようだ。

 なぜそこに煙幕を放ったのか? その疑問の答えは半蔵がこの会場を目視で全て確認し、そこにある物をみていた彼の脳内でその答えが浮かぶ。

 その瞬間、常人のそれを遥かに超えた反射の領域でポックルの意図に気付いた半蔵は、その速度をそのまま身体で体現するかのようなスピードで翔ける。

 

 天井の煙幕はそのトリガーを引いた。

 

 直後、部屋全体に雨が降った。

 

「スプリンクラー狙い、んでオレにぶっ掛けた粉は水で高温になるヤツ…… だろ? ポックル」

 部屋全体が水浸しになる中、ポックルの背後に半蔵がいた。

「正解、良いアイデアだと思ったんだがな」

「全身大火傷必須となりゃ負け宣言してすぐに医者に掛からねーとやべぇけどよ! えげつねぇなこんにゃろう!」

 余裕で喋っているようだが、ポックルの腕は完全に半蔵が極めており少しでも捻ればゴンと同様折れるだろうと分かる。

「だが、あと一歩だったな」

「その姿でカッコつけられてもなぁ……」

 溜息混じりに言う通り、半蔵の今の恰好は真っ赤な褌一丁というなんとも言えない姿であった。

 あの一瞬、このままでは大参事だと半蔵は服を脱ぐというより脱皮の域でそのまま突っ込んできたのである。

 スプリンクラーからの水が自分に到達するその僅かな時間で起こした早業…… 凄いがこの姿だとイマイチその凄さが伝わらなかったりする。

「うるせぇ! 一分一秒無駄に出来なかったんだっての、水で分からんと思うがぶっちゃけ冷や汗ハンパねぇ」

 その言葉にウソ偽りは無い様だ。

「…… ま、今度は冷や汗じゃなくて泡吹かせてやるさ」

 一瞬だけ悔しそうに顔をしかめた後、今度は実に晴れ晴れとした顔で彼は『まいった』と口にした。

 

 

 

「びっくりするぐれぇしっくりくるな…… 何で甚平なのかは分かんねぇけど」

 浅葱色の甚平を着る半蔵はそんな感想を言う。

 試合も終わり、鉄部分以外ボロボロとなったために褌一丁で服を取りに廊下を走る半蔵というのも勝者なのにどうだと思い少し外に出て【蜘蛛の仕立て屋】(アラクネー)で甚平を仕立てたのだ。

 浅葱色なのは一番染料が余っていた事と甚平なのは、何となく似合ってそうだからである。

「あの短時間でどうやって仕立てたんだっつーの」

 キルアの最もなぼやきは全員の疑問の代弁だったが、トールは下手な口笛を吹くばかりである。

 キルアからの追及をされたくないのにパッとした思いつきで駄目にしそうにするあたり抜けていた。

「ほれ、次はキルアの番だぞ?」

「わーってるよ、ったく」

 

 スプリンクラーの水も拭き終わった様で広間の真ん中に黒服が立つ。

 それを見たトールがキルアを促す、そして彼と同じくして動いた人物を見て……

 

―― うわちゃー……

 

 その対戦カードが狙ったかのようなソレだと今気付いた。

 




トールのポイントが高い主な理由
・トリックタワー最速クリア
・自分のプレートを譲ってからまさかの合格
・その多くのプレート獲得理由が譲渡というある種の人徳
・プレート獲得後も協力の姿勢を見せ能動的に活動
総評-四次試験でやらかし過ぎた
初戦ポックルだった理由
・ボドロが子供とは戦えぬとゴン達と一緒に指名したため
・ヒソカとギタラクルにしても『備考・本気』で刹那にまいったと言う可能性が高い
総評-死の恐怖と変な肉体のポテンシャルの生んだ喜劇

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