クモ行き怪しく!?   作:風のヒト

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クモ、強風に流される1

「兄貴……」

「その通り」

 

 試合の始まりと共に針男から一気に能面系長髪男子となったギタラクル改めイルミは、淡々としてる様でどこか独特な調子の言葉のチョイスと共に手を上げる。

「オレを連れ戻しに来たのか?」

 頬に流れる汗を拭う余裕も無くキルアは問う。

「んー、そういう訳でもないよ? オレが試験に参加したのは偶然、むしろキルとトールがいてオレの方が驚いた位さ」

 さりげなくも無く会話に名が挙がったトールをキルアは反射的に見る。

「俺も試験参加したの言ったと思うけど偶然だから、つーか俺の方が驚いた自信がある」

 胃もたれした様な調子で答える。

「いや二次試験のときノ―ヒントで正体見破られたときの方がオレ驚いたよ」

 謎の張り合いを見せるイルミと、おいそんな最初から気付いてたのかよという類の感情が込められた視線をキルアとレオリオから感じる。というかレオリオに至っては「気付いたなら言えよ!」と怒られた。

「それはオレが内緒にして欲しいって頼んだからね、トールは約束守る人だし」

 アンタが何するか分かるんならすぐばらすけどな! とトールは心の内で訂正する。

 

 イルミはその独特な雰囲気のままキルアに家へ帰る様に…… 殺し屋へ復帰する様に説得と言う名の追い込みをする。

 

 おまえは熱を持たない闇人形…… 何も欲しがらず、望まず…… 唯一の歓びは人の死に触れたとき……

 

 イルミのその台詞はキルアを一歩また一歩と追いつめる様に這いずる蛇の様に絡んでいく。

 

―― もう一戦やろうぜトール! いまのであったまったからオレのコンボが火をふくぜ!

―― なぁトール! もっと薄くて軽くて丈夫な服作ってくれよー、今度の訓練きついぜー暑いぜー

―― っしゃあ! レアドロップ! この快感があるからやめらんねーんだよな!

 

 と、同時にいや嘘こけよと約一名がその言葉を真っ向から否定する思い出が頭を過る。

 

「大人げないぞ」

 トールの口からそんな言葉が出た。

 それは台詞があからさまに追い込むための物であるということよりもう二つの理由。

 

―― オーラぶつけるのは威圧もいいところだろうに……

 

 念使いでない常人にそれは素肌に熱風をぶつける様な、深海に裸で潜る様な行為に匹敵する。

 そしてもう一つ。

 

―― それでキルアが【念】に目覚めたらどうすんだってーの

 

 シルバとゼノとの約束である。

 言った後別にこれで目覚めても自分の責任ではないと気付いて少し後悔したが。

「ああ、確かにちょっとアレだったねごめんごめん」

 針の数本は飛んでくるんではないかと身構えたが、予想に反してイルミは素直に意図を察したかのようにオーラでの威圧をやめた。

 

 

 しかし、それでもイルミは止まらない。

 キルアはもう尋常ではない発汗量であり、呼吸も荒い。

 それでもキルアは口にする、もう人殺しはしたくないと。

 自分の意志で歩きたいと。

 

「ゴンと…… トールとクラピカと、レオリオとも友達になって…… なってみたいんだ……」

 

 そう振り絞って言った言葉に、レオリオがとっくにオレらはダチだろうがと啖呵を切る。

「そっか、友達ね…… なら君達を皆殺しにしよう、友達なんて邪魔なだけだもの」

 その軽い様な提案をポンと手を打って出した瞬間、トールは三節棍を構えた。

 

 たかだか二年ほどの付き合いだがそれでも分かる…… コイツは本気である、と。

 

 一触即発な状況、その状況は長く続くかと思いきや意外な援護射撃がそれを一瞬で消す。

「それはやりすぎなんじゃないかな?」

 構えるトール達の前にヒソカは何でもない様に移動していた。

「それに今皆殺しなんてしたらキミが不合格になっちゃうよ? 不合格って以外と凹むんだよね♣ 経験談だから間違いないよ♠」

 ヒソカの言葉に「そっかオレが落ちちゃキルが合格になっちゃうなー」と言って手の針を戻した。

 

 イルミはもう一度キルアと向き合う。

 そして攻撃するでもなく頭を撫でた。

 

 ただそれだけ…… しかし、そこから流れはイルミに取ってベストな結果と言えるものであった。

 

 

 

 イルミとの試合はキルアの敗北、後に行ったレオリオ対ボドロ戦に割り込んだキルアの拳がボドロの内臓を幾つか破裂させ骨を砕いた。

 他受験生を戦線復帰不可能にまで追いやったとしてキルアは不合格、そのまま強制送還となった。

「おかしいなー?」

 その凄惨な状況で呟かれた兄の声を聞いたのは一匹の蜘蛛だけだった。

 

 その結果を目覚めたゴンが聞いた結果、合格者の講習会に飛びこむように来てからのイルミとの対峙である。

 

「キルアの所に行く! それでキルアを連れていく!」

 半蔵に幾ら痛めつけられてもまいったと言わなかった時より強い輝きでイルミを真っ直ぐ見る。

「これこれ、言いたいことは色々あるじゃろうがまずは講習を受けてからにせんかの?」

 やんわりとしかし、しっかりとネテロは制止する。

 

 会長の一声でとりあえず講習は問題なく続く。

 

 ライセンスを渡された時は流石に緊張した。

 コレ一枚を貰うにこれだけ必死なのにさらに高みを目指しているアルゴ達はやはり色々な意味抜かしても凄い存在なのだと改めて感じた。

 

 その講習も終わると同時にゴンはイルミに詰め寄った。

 ゴンに関しては半蔵の件から合格者全員が心の内で満場一致でだろうなと思うのはこれで二度目である。

「キルアの居場所を教えてもらうよ」

「それ、トールに聞いた方がいいんじゃない?」

 まさかのキラーパスである、が良く考えなくても確かにそうだ。

「トール! 教えて!!」

「ホント良い空気吸ってんな御前……」

 レオリオが呆れ気味に突っ込んだ。

「ならトールと一緒に行けば?」

 キラーパスどころかオウンゴールである。が、よくよく考えてそれだとコイツと同じチームにいることになってしまうとハッとした。

 驚くトールにイルミはさらに続ける。

「ていうかそこの三人はどうでもいいとしてトールは絶対家に来てもらうよ、嫌だっていうなら実力行使も問わないけど……」

 なるべく傷つけたくないんだという言葉で〆た割に構えた針の数は多かった。

「ちょっ、まだ行く時期じゃないだろ!? なんだ絶対って!?」

「そういえばトール、もしかして試験中一回もケータイ見てない? というより持ってる?」

 慌てるトールを置いてけぼりにするかのようにイルミは全く関係ない様な質問をする。

「不意に鳴ったりして不利になったら嫌だし、集中してたから忘れてて電源一回も付けてないけど……」

 これとの会話で一々質問に答えろだ何だ言っても疲れるだけだと学んでいるトールは、なにをおいてもその質問にまず答えた。

「それじゃ付けてみなよ、そこに多分答えがあるから」

 さぁさぁほらほらとイルミにしては珍しく急かしてくる上に出すまで待ってるつもりらしいので、大人しくトールは割とどうなってるのか構造が気になる袖から妙にリアルな蜘蛛型のケータイを取り出し……

 

…… た、と同時に身体が真上に跳ねた。

 

「クラピカ! ストップ! ストップだ!!」

「今それされると会話が進まないからやめて落ち着いてクラピカ!!」

 急に発動した【俺の代わりに僕が踊ろう】(タランチュラ)に驚いて原因を見れば、なんとクラピカが蹴りの姿勢かつ爛々と緋色の眼を輝かせているのをレオリオと、さっきまで落ち着いて無かったゴンが落ち着けと必死に止めていた。

 一体何事かと聞けば、何でも蜘蛛を見るとブチギレて手がつけられなくなるそうだ。

 

―― 恐ッ!? なんでそんな狙い澄ましたかのような特徴持ってんの!? よく俺無事だったな……

 

 何度目かになる膝を抱えて闇を背負うクラピカを横目で見て今まで自分が無事だったという奇跡を感じながら、トールは改めてケータイの機種変を強く心に誓い電源を付ける。

 懐かしく思えるアルゴ達との一場面の待受けが映し出され……

 

「うお!?」

 

 そこに記された着信履歴100件と1000件の未開封メールの知らせ

 

 恐る恐るメールの一つを開く、そこにはたった一行「来て」や「待ってる」等とだけ書いてあった。

 さらに震える手で操作しそれらを調べると、全て同一人物からのモノであった。

 

 携帯一列全てを埋め尽くす、『カルト』の文字

 

「見た? 分かった?」

 正直分かりたくなかったと口にさえ出せなかった。

 電源を切って大体20日弱、着信・メール履歴を一杯にするとして最低ノルマ大体三十分に一回の通信。

 最も怖いのはもう保存件数を超えているので今現在本当は何件目なのか分からない所である。

 とりあえずこれから向かう旨をメールで伝えようと操作をする、がイルミにケータイを取り上げられそれは出来なかった。

「今メールしようとしたでしょ? 駄目だよ…… 今のカルトにそんな余計な刺激与えたらちょっとどういう行動するかオレも分かんないし」

 そう言ってケータイを返してくるが受け取り損ねたとしても通常の反応だろう。

「『兄さんは必ず帰ってくるけどトールは分からないから確実にボクの所に無事生きた状態で連れてきて!』これがオレがトール達の居場所が分かったことを連絡したとき母さんの電話を引っ手繰って言った言葉ね」

 

―― 何処行くか分からんって…… 放浪癖でもあんのか俺は

 

 あまりにもあれなのでイルミ側が折れて『依頼』という形で落ち着いたのだと言う。

「でもオレこのまま仕事で家に帰れないからどうしようかと思ってさ、丁度いいやって」

 キルアの件は最優先事項だろうがカルトの件はもうここらへんで投げやりになってきてると確信した。

「で、いつ行く?」

 行くよね? じゃないところに物凄い強制力を感じた。

 

「すいませんヒソカ様、イルミ様、そしてトール様はこちらの方へ」

 

 そして畳み掛ける様にビーンズがトールの精神を削る為だけに選んだような人選で別室に案内する。

 「もう、好きにしろよ……」レオリオ達はそんな悲壮な幻聴を聞いたという。

 

 というか幻聴と思う事にした様である。

 

 

「おぬし達に裏ハンター試験合格を言い渡す」

 部屋にいたネテロはそんな事を言った。

 ネテロの言うにはさっきのハンター試験合格はその実半分ほど、言うなれば半人前の状態であり本当のハンターになるにはその後【念】を習得しなければならないらしい。

「なるほど♣ ボク達は既に【念】を習得してるからそっちも合格ってことね♠」

「そうじゃ、その通知と【念】の習得という裏ハンター試験の内容を大々的に言ってはならんと釘を刺す為に呼んだ訳だな」

 このメンバーにどんな共通点があるんだと必死に逃れる為に考えていたその答えは彼の最終試験・裏試験の内容と同様実にあっさりとしていた。

「ま、それだけだから解散っちゅーことで…… あ、トール君はちょっとまだ話あるからの」

 三節棍を手に持って無かったら顔からコケたであろう見事なタイミングでネテロは一人だけ待ったをかけた。

 二人が退室し、ビーンズが茶を持って来た所でネテロは何かを企んだ悪ガキの様な楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「さて話というか、わしからのお願いなんじゃが……」

 

―――――――――

 

「トール! …… 大丈夫?」

 今か今かとトールの帰りを待っていたゴンがその姿を見つけ駆け寄り、心配した。

「まさか試験終わった後が一番疲れるとは思わなかったよ」

 ゆっくり椅子に座るトールはかなり年上に見えたという、実際年上だが。

「一体あのメンツで集められて何があったんだ?」

「それまだ言えないんだよね、会長直々のお口チャック」

 レオリオが聞くが言えない為に遠い目をして秘密の旨を言う。

「よし、じゃあこのままキルアの所にいくか!」

 からのまさかの出発宣言である。

「いや、もう少しゆっくりしても罰は当たらんと思うぞ?」

 扉を開けながらそう言ったのは缶ジュースを持ったポックルだった。

「いやまだいたのか? みたいな顔されてもな、あんな世話になったのに何も言わずにさよならするほど恩知らずじゃないし」

「ポックル……」

 それに友達だろうがと缶ジュースをトールに渡して言う。

「その通りだぜ? 透」

 同じノリで半蔵も何かの包みを渡す。

「半蔵……」

 開けるとそこには六個の兵糧丸があった。

「この兵糧丸、試験分の余りだろ?」

 あ、バレた? と頭を掻いて笑う。飲み終わった缶をゴミ箱に捨てに行ってくれたが返品は受け付けてくれなかった。

「まぁでもこのままキルアの家に行くのは考え合ってだからさ…… 休憩挟むとさらに厄介になることと、ここで止まったらそのままズルズルいくって確信してるから」

 追い込み漁張りの逃げ場の無さである。

 若干不安ではあるが他の三人がいるなら大丈夫だろうとポックルと半蔵は互いに頷く。

 二人ともそれぞれの道を歩むために立ちあがる。

「ポックルはこのまま秘境にでも行くのか?」

 そう言う半蔵にポックルは笑って首を横に振る。

「いや、少し自分を鍛え直す事にするよ…… 結局誰にも勝てないままだしな、ハンゾーはどうするんだ?」

「オレは一旦国に帰るさ、でも何かあったら遠慮なく呼んでくれよ?」

 半蔵はクラピカ達に紙を渡す、ホームコードが記載された物の様だ。

 続いてポックルも渡す、ここでゴンがホームコードとは何ぞやという状態であったことが発覚した。

 トールは既に二人と、トランプ調の無駄に凝った紙と共にヒソカのホームコードを渡されている。

 

 そして二人と別れたトール達はパソコンの前にいた。

 ゴンは試験官のサトツに何か用があるみたいで行ったが、直ぐに帰ってくるようである。

 

―― とうとう自分でパソコンがめくれる日が来るとはなぁ……

 

 とりあえずゴンが来るまでにトールは自分のナンバーなどを設定しておくことにした。

「おーい!」

 そして丁度設定し終わったのを確認したかのようなタイミングでゴンが用事を済ませてやって来た。

 

 

 

「それでキルアはどこに住んでるの?」

「パドキア共和国のデンドラ地区にある標高三千七百越えの山、ククルーマウンテンってとこだな」

 どうしても自分の中で踏ん切りつくまでライセンスを使いたくないゴンを考慮して一般のビザでも行ける国だよーと言いながら地図をめくり表示する。

「此処割と近かったんだな、飛行船で三日ってとこだ…… 予約はこれでいいか?」

 すぐに予約を済ませる。

「そうそう、ハンターのページでジン=フリークスってめくってくれない?」

「え? いいけど……」

 不思議な顔をしてトールは言われた通りジンの頁をめくった。

 

「え?」

「ああ、やっぱり」

 そこにはクエスチョンマークと極秘情報の文字だけで構成された様な画面があった。

「俺の先生兼友達な人から聞いたことがあるんだけど、ジンって言えばハンター界の伝説(レジェンド)的人物だそうで」

 ちなみに電脳ページでこうなっている場合は余程の身分か権力を持っていないと情報のやり取りは出来ない。

「直接会って話すか会った人の話を聞くのが一番だな」

 トールの横でそのページを見ているゴンは、純粋に凄いモノを見る少年のそれであった。

 

 

 

「…… って訳でアーちゃんのお守りの御蔭もあって無事合格したけども……」

『なるほどねー、それで今ゾルディックさんのところに』

「まさか試験後間髪いれずに行く羽目になるとは思いもよらなかったって」

 パドキア共和国に向かう飛行船の船内、トールは久しぶりにアルゴと連絡を取った。

「出来れば電話じゃなくて直接会って合格を報告したかったけど」

『それが実は私も今忙しくてねぇ、トールちゃんが大丈夫でも結局私の方が時間取れなかったと思うわ』

 心底残念そうな声音である。

「そんな今忙しいのかアーちゃん?」

『詳しい事は言えないけどクソ忙しいったらないのよ! …… あらやだ私ったらお下品だったわねごめんなさい』

 アルゴが忙しそうにするとなると十中八九何でも屋に近い状態になっているとトールは今までの経験から推測する。

「そっか、俺もハンターになったし何か手伝えることあったら遠慮なく程々に頼ってくれよ!」

『その自分に出来る範囲なのを先に考慮して欲しいのやんわり言うトールちゃんダイスキ! それはそうと服屋さんの方はどうするの?』

 トールの夢と身分のためにハンター試験に送り出したアルゴは、その肝心の夢がどうなっているのかはやはり気になる。

「んー色々考え中でね、最初らへんは胸を借りるかもしれないけど…… いいかな?」

『勿論大歓迎よ! 借りるというか飛び込んできて良いわ!』

 そんなことすれば首骨がへし折れるか【俺の代わりに僕が踊ろう】(タランチュラ)が発動するだろうなと浮かぶ。

「ま、それとは別件でもう胸をというか知恵を借りたいんだけどさ」

『あらん? なにかしら』

 一旦言葉を切り、【円】をだしてさらに周りを見回す。

 そしてその者がいないと分かりようやくトールはその内容を口にする。

 

 

『それじゃあ私もう行かなきゃ! トールちゃん、困った時は迷ってから私に相談するのよ! イイ男絡みなら反射レベルで電話してオッケー!』

「自分で考える事を放棄させない台詞からのイイ男ハンターとしてそのぶれない姿勢さっすがー! それじゃあな」

 なんだかんだ息ピッタリの奇妙な二人は電話越しでもやはり息ピッタリであった。

 

 電話を切ってふと見た窓から見慣れた国の景色が見え、トールは深く息を吐いた。

 

―――――――――

 

「あっ! あの山がそうなんだねトール?」

「そうそう」

 近くの町まで行く列車で靴を脱いで席の上に膝で立って山を指差すゴンにそうだとトールが頷く。

 が、トールはその様子を全く見ておらず買った駅弁を掻っ喰らっていた。

「もう昼食は食べたし夕飯時にはまだ早いぞ? その昼食もかなりの量ではなかったか」

「おやつ! いやなんかここ数日妙に腹が減ってさ」

 ビシッとマイ箸でクラピカを指しながら断言する。

「まぁ何でもいいけどよ、町に着いてからどうやってあの山に行くんだ?」

 呆れながらの質問にトールは一緒に買ったペットボトル入りのお茶を飲み干し答える。

「っぷは! …… 町に着く時間からして日に一本の観光バスに乗れるはずだから、それに乗るのが一番手っ取り早いね」

「観光バス!?」

 まさかの移動方法予定にレオリオは驚きの声を上げる。

「うん、あの山っていうかゾルディック家はこの国有数の観光スポットだからな」

 改めて口に出して言う事で再度あの一家がおかしいことを思い出す。

 

 

『えー、本日は号泣観光バスを御利用いただきまして…… それではこの地区が生んだ伝説の暗殺一家の説明を……』

 

「マジで観光の名所だし滅茶苦茶有名じゃねーか……」

「な、おかしいよな? 普通の暗殺者ってこう…… いや暗殺者に普通も何も無いのか?」

 事実に何と言っていいか分からない顔をするレオリオにトールも同意するが、やや毒されていたようである。

「だが、本当に山に行くようだな。我々の後ろにいる人物、明らかに一般人ではない」

 こっそり後ろを見るゴン達が見たのはどちらかと言えばハンター試験を受験していそうな顔をした強面二人組であった。

 そしてバスは予定通りのコースを走り、遂に見慣れた馬鹿でかい門の前でバスは止まった。

「こりゃまたでけぇな」

 

『えー、これはゾルディック家の正門でして、ここから先全てがゾルディック家の私有地となっております』

 

 庭のスケールでかすぎだろ!? とレオリオは突っ込んだ。

「俺、未だに迷うんだよな……」

「それは仕方ないんじゃないのか?」

 クラピカはそう言うが、トールの致命的な方向音痴ぶりは執事が焦って捜索隊を結成して探すレベルである。(放っておくと帰還を諦めてサバイバル生活をしだす事も含める)

 余りに一人で出歩いては迷って野生に帰りかけるのでミルキが半ギレになりながらも私有地内にいれば反応する発信機を作って持たせている始末だ。

 

『そしてこの門は別名黄泉への扉と言われており入れば最後、生きて帰る事はないとされておりまーす』

 

「その扉を何遍も出入りしてる俺は何なんだよ……」

 そのぼやきを聞いたレオリオはツボに入ったのか「ブッフォ!」等と吹き出した。

「ねぇトール、結局どうやってこの中に入るの?」

「ん? あそこにちっちゃい扉と小屋があるだろ、そこにその扉の鍵があるんだけど…… でもあそこはね」

 指差すその小屋には先程のガラの悪い二人組がずかずかと近づいて来ていた。

 一体何ぞと思い言葉を切って近づいてみると、あろうことか男達は中にいた中年の首根っこを掴んでどかし掛けてあった鍵を奪うと、気楽な調子で笑いながら扉を開けて入って行った。

「ゼブロさん! 大丈夫ですか!?」

「おお、トール君…… あのバスに乗って来てたのかい?」

 駆け寄るトールに気付いてゼブロは服の土を払いながら立ちあがる。

「後ろの子達は?」

「えーと、話すと長くなるんでとりあえず……」

 と、そこで先程男達が入って行った扉がゆっくりと開く。

「うおッ!?」

「あれは、さっきの!?」

 そこから僅かに覗く異形の腕が外に放り投げた物が、先程の男達の白骨となり果てた物が五人の前に落ちる。

 

「…… チリトリ取ってきますね?」


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