クモ行き怪しく!?   作:風のヒト

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トールのいるゾルディック家の日常と侵入者のいる非日常


クモ、強風に流される3

 何十台と並ぶPCモニターにその他の機器。

 それらとそして何より自分を冷やすためにエアコンの効いた部屋で、まるでホラー映画の様なおどろおどろしい曲が鳴り響く。

『やっほーミル元気?』

 軽い調子の言葉であるが、どこか熱と言う物を感じさせない抑揚の無い声がケータイから聞こえた。

「今、少し機嫌が悪くなったけど元気っちゃ元気だよ」

 少し小腹が減ったから何か食べるかと思って立ちあがりかけたときに鳴った為、ミルキは素直にそう言った。

『あっそう、元気なら良かったよ』

「何なんだよさっさと要件あるなら言ってくれ」

 長兄のマイペースぶりに最も長く付き合っている兄弟は一々付き合ってられないと早々に電話をした目的だけ聞こうとする。

『キルも元気?』

「とりあえず電気椅子に座らせてるだけだからスッゲー元気…… で要件は何?」

 ここでソレが要件の可能性が浮かんだが、キルアの事に関しては今回分かり切った事に兄の頭で分類されるだろうと踏んで要件を聞く。

『うん、カルトどれくらい暴れたっていうかトール生きてるー?』

 どうやらこれが本題らしい。

「それね、初日に数分庭で争っただけで後は何も無いぞ」

『え? 庭の木々が広範囲で刈り取られたとかその程度?』

「ねーよ、針刺さっただけで一本も折れてなければ斬れても無いぞイル兄」

 庭に幾つか設置されている監視カメラの映像を視ていたため正確に言える、そもそも監視カメラで観ているからこそイルミはミルキに電話した訳であるが。

『今回その程度で済んでよかったよ、どうしてイライラしてるかすら分からなかったし』

「それイル兄の言えた台詞じゃないよ……」

 まだキルアが腹にいた頃、理不尽を受けていたことからくる言葉の重みである。

『ミルはなんでカルトがあんなになったのか分かるの?』

「そりゃある意味似た者同士だしな」

 ミルキの発言に電話の向こうで「今度鏡でもプレゼントしよう」と呟かれたそれをミルキは聞き逃さなかった。

「そーじゃなくて中身の話だ!」

 額に青筋立てて思わず立ち上がる。

『中身?』

「そう、オレもカルトも気に入ったものがあれば全部知りたがったり欲しがったりするタイプだ」

 ドスンと音を立てミルキは座り直した。

「だからそれについて知らない事があったり眼を離したすきに新しいことがあると凄いイライラする、オレはそれが嫌だから部屋で見てるけどアイツはそこら辺甘いからな、そこが出来なくてイライラするんだ」

 ちらりとモニターをチェックしつつミルキは話を続ける。

「まぁ実際に見ようとする姿勢は評価するけどな、でもその癇癪を周りにぶつけるのは勘弁してほしい」

『なるほど、欲張りだなー』

 

―― 過程飛ばしてモノだけ手元に置こうとするイル兄が言うセリフじゃホントにないけどな……

 

 その豊かな腹の中にその言葉は溜まった。

「だけど理想が高すぎるっていうか自分のエゴを押しつけるところは駄目だな、その点オレはそれはそれとして別に叶う物を見つけるからいいけど、というか興味が人とか他の動物に向いてるのがそもそもナンセンスってヤツだよ」

『ミルは本当に点は高いのに残念だよねぇ、オレ用事あるからじゃあね』

 聞くだけ聞き、言うだけ言って電話は切れた。

 

「なんでオレの評価はいつも最後に落とされるんだよ!」

 

 ついでに次男もキレた。

 

―――――――――

 

「トールって器用だよね」

「というか型紙切ったりするからじゃないか?」

 その頃トールとカルトは何人もの人が連なる切紙を作っていた。

 

 あれからトールはカルトの要望に出来るだけ応えていた。

 自分がキルアを独占したようにでも見えたのだろうと、これをやろうと言われれば共にやり、これを書こうと言われればとりあえず詐欺だけはやめてくれと一緒にいる旨の誓約書に血判を押した、痛かった。

 というか二週間位経つが一回も独房から出てこないのは流石に大丈夫かと心配しているがミルキが色々担当しているとしか聞いていない。

「何考えてるの?」

「ん?」

 そのときその硝子みたいな目が自分を視ているのに気付き、ここでキルアの名前出すとまた面倒くさい事になると考えたトールは内心慌てて内容を考える。

「ほら、もう二週間経つしあいつらもそろそろ扉を開ける頃かなって」

「ああ、侵入者の事? 来ない方がいいのになぁ…… というか早すぎない?」

 切紙で作った人形の首を三つ切った所に忘れていない強い何かの想いを感じた。

 トールの予想ではあと一週間位経ってから来るだろうとその頃には悪感情も少しは薄れるだろうなと、期待もする。

「その読み、中々ですわね」

「お母様?」

 突然の背後からの声に振りかえるとそこには最近磨きのかかったゴシック調の服を着るゾルディック家の母がいた。

「侵入者達は今しがた一旦外に出てから自力で門を開けて入って来たんですの」

 どんなドンピシャなタイミングだとトールは少し脱力した。

「それでもうそろそろ執事見習いが守るラインに入る頃でしょうから様子見に、ね」

 外行きの帽子を被っているので本気でいくつもりなのだとファッションから推測する。

 同時にそういえば入って来たという事は怪我したゴンも含めて単独で開けられるようになったのだろうと、考えが辿り着き一体どんな成長だと更に脱力して深々と座り直しせざるを得なくなった。

「カルトちゃんと一緒にその友達を名乗る侵入者を観に行こうと思うのだけれど、その様子ではどうやら辞退するみたいね」

 カルトがついてくる事前提の部分は別に疑問は無かったがどうして自分が辞退なのか痛烈な疑問を残して去って行った。

 その様子、出掛けるかを問うのに深く座り直す人間に出掛ける事を聞くほど彼女の察しは悪くないはずである。

 

―――――――――

 

「じゃあこの縦編みのセーターは?」

「ああ、やっぱりそこは所謂乳袋が無い方がいい」

 トールは今、ミルキの部屋にいた。

 そこにあるのは等身大の何かのキャラのドールが一体。

「こう、さ何回も洗ってヨレた感じが欲しい訳よ」

「母子家庭四姉妹の長女で貧乏だからな、下の方一旦ほつれさせて手縫いしようか?」

 実は服の依頼で地味に多いのはミルキのそういった関係のものである。

 凝り症との相性が相当いいのか、互いに共鳴し合うのか細部にこだわる為にミルキがキャラに関する資料や漫画アニメその他を用意し、本の虫な側面を持つトールが毎度律儀に読み通す為遂にその手のコンテストで受賞する域に来ていた。

「その手縫い、結局ほつれを悪化せる方向にしてくれないか?」

「え? でも流石にやりすぎで…… ああ! 母親の方が!」

 何に納得したのかポンと手を打つ。

「分かってんじゃん! ここで家事不万能の母親がでしゃばるお決まりが無いと成立しないんだよ!」

「なら下のジーンズ部分に猫のアップリケは必須か?」

「それだ! 即発注な、デザインは14巻のおまけのデフォルメでいくか!」

 きっとこの広大な敷地内でこの二人にしか理解出来ないやりとりを繰り広げる。

 材料を取りに行くのとほぼ同タイミングで服を仕立てあげることも相乗効果で加わり、本日もトールの懐は温かくなった。

 

 ゴン達が覚悟と意地でカナリアに挑み、キルアが父親と話している間の出来事であった。

 

 やりきって心なし肌がつやつやしている状態で廊下を歩くトールが曲がり角を曲がると、一人の老人がいた。

「おお、もうおぬしも行くのか?」

 何処に? というのもどうかと思い曖昧に笑う。

「ま、苦労するだろうが孫を頼んだぞ」

 そのタイミングでゼノの後ろ、トールに向かい合うように見えたキルアが此方に気付き手を振る。

 リュックを背にしていることから出発のお許しが貰えたのだとトールはホッとする。

 

―― なるほど、ね

 

「ええ、任せて下さい」

 友達だものと心で誇り、胸を張る。

 その自信にゼノは満足したのか一礼して歩いて行った。

 

 後にそれの意味を理解するのと後悔するのは、半年もかからなかった。

 

 

「ふぅー、ここまで来れば流石に追ってこないだろ?」

「だからって廊下を走らんでも……」

 キルアはトールと会えた喜びと父親から公認されたことの相乗効果で母親に発見される前に家を飛び出していた。

 家が木々に隠されてきてようやくゆっくりと歩く。

「ったく豚君もさー、脇腹とっくに治ってんのにしつこいったらないぜ」

「ああ、それ確かミルキがやったんだっけか?」

 母親の傷が未だ治っていないのは彼女曰く息子のプレゼントという認識で一年くらいはこの傷の痛みを味わいたいためにわざと治癒を遅らせているそうだ。

 食事中にする方もする方だが、食欲が変わらない方も方である。

 

 二人は他愛もない話をしながら歩いて行く。

 他愛もないと言ってもここ二週間の互いがどういう風に過ごしたかであるから、鞭打ち電気椅子や熱湯鉄板云々不穏な単語が混じるが。

 事前にゴン達が向かっているとされてた執事達の住まいに行く間、キルアは実に楽しそうであった。

 しかし、その話題の振り方に不自然さを感じたトールは口を開く。

「なぁ、なんでゴン達がどうしてたのか聞かないんだ?」

 今まで聞いてきたのはトールがここでどう過ごしたかだけで、必要最小限度しかゴン達の名前はでなかった。

 その言葉にキルアはピタリと止まると顔を伏せる。

 

―― これはなんか踏んじゃったか!?

 

 カルトの件でやらかしている為に物凄く警戒し、トールは後悔する。

 だが、顔を上げたキルアは殺気立つどころではなかった。

「…… だって、それ本人から聞きたいじゃんか」

 全体的に白いカラーのキルアだからこそ、頬が赤い事が目立った。

 

―――――――――

 

「トール! こっち!」

 辺りも暗くなった頃、キルアはトールの手を掴むというより腕ごと抱え込むレベルで引っ張っていた。

「大丈夫だから! ほんともうただ一緒に歩むだけの機械と化すから引っ張らんで! それか糸だすから!」

 ミシミシいう腕が脱臼や骨折その他能力発動のスイッチまで起きぬよう、トールは必死について行った。

「一緒だから大丈夫とか油断してたぜ、ヒシタとゴトーの苦労が良く分かる……」

 

 8回…… この数字はトールがはぐれた回数である。

 

 珍しい茸や、染料に使えそうな花々を見る度にそこへふらっと行ってその後にキルアが見えなくなり勘で動く為、その度どこかに消えて行くのである。

 ゾルディック家で高祖父あたりまで方向音痴でなく放浪癖と認識されている状況、その中のキルアのみが例外なはずもなく凄く自由な人認定され、流石に片手で数えきれなくなったあたりで一発殴った。

 しかしそれを難なく回避され、その後の何かの顔も三度までに来て遂にこうなった。

 

 そんなこともあり、執事の住まいが見える頃にはすっかり辺りが暗くなってしまった。

「ったく、最初に走った分見事にチャラだぜ…… おーい! ゴン!! レオリオ! クラピカ!」

 

「あっ! キルア! トールも!」

 執事が察して開けたドアの向こうではゴン達がソファーに座っていた。

「皆様方お揃いですし、実はお泊りの用意をしておりまして……」

 そのゴンの顔面がズタボロであったのを見てトールは一体どんな鍛え方をしたのか? もしや顔面から激突して扉でも開けたのかと点で的外れな想像をする。

「あとほんの少しで準備が整う所で」

 ありゃあ痛そうだと、再会にはしゃぐ姿を見ながらトールは思った。

 

 見回すと怪我をしているのはゴンだけでなくもう一人いた。

「なので、もう一戦だけゲームを…… 安心して下さい本当に戯れですので」

 

―― あれ? カナリアちゃんも怪我してるぞ

 

 頭の包帯に気付く。

「今度の参加者は…… トール様、どうでしょうか?」

 

―― なるほど、あそこで互いに大クラッシュしたな!

 

 一人納得して頷くトールに周りから拍手が上がる。

「…… ん?」

「素晴らしい、所謂エキシビジョンと参りましょう!」

 一体何ぞと思う中、執事が十数人ゾロゾロと一体どこから湧いたのかと疑問が生じる隙を与えないほどスマートに囲むように集まった。

 

「では……」

 そう言ったゴトーを慌てて見れば何かを弾く……

 

 そして屋敷中の執事がまるでそういう幾何学的デザインの機械かと思うほどに全員の手が複雑怪奇かつ尋常でないスピードで交差し合った。

 その様に呆然としていれば次には何事も無く全員が同じ両手を握りこぶしにする姿勢で止まった。

「さて、どうでしょうか?」

 

―― いや、どうしたんですか?

 

 話を聞いていなかったトールは今のパフォーマンスの感想を聞いているのかはたまた別の事なのか、そもそもドーナツ状になっている所悪いがゴトーの顔を見てたので正直何してたのかも良く分からなかったと答えるべきなのか……  この家に来てから本当に困惑する事に困らないと、頭を掻き毟りたくなった。

 

―― とりあえず誰か、助けてくれ!

 

 ゆっくり誰ぞ助け船を出せる者がおるかと回る。

 レオリオは口をあんぐり開け、クラピカも眼を見開いて驚いている。

 それはゴンも同様であり残念ながら助けは出来なさそうだとキルアを見るが、ニヤニヤ笑ってこっちをみるばかりでありこの顔はゲームで自分の敗北が確定寸前か分の悪い賭けをしているときの顔だとすぐさま浮かび、こりゃ無理だとさらに体を回す。

 さてもう一周してしまうというところでトールは一人の男と目があった。

 もう、この人に聞くしかない…… 呼ぶときこそあれだが穏便に対処してくれるだろうと全幅の信頼を寄せて名前を呼ぶ。

 

「ヒシタさん!」

「御名答!」

 

 何故か名前を呼んだらゴトーが反応し、執事邸は拍手で包まれた。

 一体全体今度は何事だとヒシタを見れば、晴れ晴れとした笑顔でコインを見せていた。

「こりゃまたお前の眼の凄さを見せつけられたな」

「ああ、本当に素晴らしい」

「あれー? その向かいの人かと思ってたのに」

「フェイント五回位いれたろ? オレも引っ掛かりかけたぜ」

 

―― だから何なんだって!!

 

 それに応える声も拍手だけで、トールが分かった事は執事邸の食事もおいしかったという事だけであった。

 

―――――――――

 

「あーそれずっこい!!」

 町に着き、とりあえず腰掛ける場所に着いたときゴンはクラピカを指差して声を上げた。

 なんだなんだと話を聞けば、去り際にコイントスでイカサマをされてそれをクラピカが実践して説明していたようだ。

 そのゴトーはどうやらゴンに世の中正しい事だけじゃないという事を軽く体感させて教えたかったらしい。

 あの人は本当にキルアの事を考えている保護者の様な人だしと、トールはゴトーの顔を思い出すが出てきた顔はアルゴにウインクされて青ざめた表情だったが。

 トールがまともなゴトーの顔を思い出している間にゴンとキルアはなにやら言いあっていた。

「お前なぁ…… ヒソカにプレート譲られたのが納得出来ないのは分かるけどさ、一発ぶん殴ってプレート返すまでライセンス使わねーとか頑固云々以前にどんな縛りプレイだよ!?」

「だって一発殴るまで絶対使わないって決めたんだ! それを軽々撤回だなんてオレには出来ないよ!」

 この頑固さでハンター試験を合格したとも言える彼にそれを改めさせるのは再度ハンター試験を受ける方が簡単じゃないかと、トールも他のメンバーも似たような感想を抱いた。

「ああもう『まいった』…… オレの負けだぜゴン」

 その試験の様にキルアは引き下がる。

「それで、肝心の殴る相手(ヒソカ)は何処にいるのか分かってるのか? ゴン」

 髪をくしゃくしゃと掻きながら基本的な部分を聞くが、返って来たのは口を開けてポカンとした間抜け顔だった。

「薄々そんな気がしてたぜ……」

 気が抜けた連中に代わってレオリオは眼を軽く伏せながら言った。

 さてどうしようか、そんな微妙な空気が流れる。

「…… ヒソカが今何処にいるかは知らないが、いつ何処に行くのかは私が知っているよゴン」

 問題解決の法を持っていたのはクラピカだった。

 提起はあの最終試験の耳打ち…… そこからクラピカは講習後の僅かな時間に大分多くの事を彼から聞いた様だ。

「…… それが旅団(クモ)についてって事か?」

「ああ、旅団(ヤツら)旅団(クモ)と呼んだヒソカの話だ…… 『九月一日、ヨークシンシティで待つ』そう言って去って行った」

 空気は先程の緩みと違い、冷たさを感じる。

「ヨークシンシティって言えば一日から十日までの間、世界最大規模とか言われるオークションが開催する期間じゃねーか」

 世情に通じるレオリオがその日付と場所にその一大イベントを思い出す。

「あー、そういうところにそういう人達が来るってのは想像しやすいな」

「だね」

 ゴンとキルアも納得し合う。

「えっと、じゃあ九月一日にヨークシンシティに集合の流れか?」

 戸惑い気味にトールは他四人に確認する。

 実はトリックタワーを一人違う道を行った弊害でクモが何なのか分からない為に若干置いてけぼりだからだ。

 その確認にそれに皆満場一致という風に頷く。

「じゃあそれまでの間……」

「おおっと、ヨークシンには行くがオレは一旦故郷に帰らせてもらうぜ?」

 手を軽く上げレオリオがトールの言葉を遮って言った。

 聞けば医大受験のために勉強する為だと言う。

「そっか、オレその間今までの分キルアと遊ぼうとか考えてたのが少し恥ずかしいや」

 頬を軽く掻きながらゴンは言う。

「ハァ!? お前遊ぶつもりだったのか!?」

 その発言にキルアは信じられないとゴンに詰め寄る。

「ええ!? でも……」

「このままじゃヒソカに一発入れるどころかそこのトール(大飯食らい)にも拳の一発当たりゃしないぞ!?」

 言われてゴンはショックを受けた様でツンツンした髪でさえ元気が無いように見えるほどしゅんとした。

「そんなしょげるなよゴン、オレが強くなるとっておきの場所に連れてくからさ?」

「ホント!?」

 次の瞬間、さっきの倍ぐらいの元気で復活を果たした。

「それでトールはどうするんだ、暇なら一緒に来る?」

「え、俺? …… ちょっと頼まれ事をね、うん…… 暇じゃない」

 しどろもどろな返答に、なんじゃそりゃとキルアは首を傾げる。

「いやもう俺の事はいいじゃん、それよかクラピカはどーすんの?」

 露骨な話題逸らしだが、さして気にせずにクラピカは答え始める。

「ヒソカの情報もある通り来る可能性があるのだ、より深く関わる為にオークション参加のための資金集め兼コネクションを得る為に雇い主を探しハンターとして活動するつもりだ」

「…… ハンターとしての仕事かぁ、ソレどうやって見つけるの?」

 コンビニの求人誌? と聞いたトールにやや脱力しながらもクラピカは真面目に回答する。

「ハンターやその道の者向けに隠された斡旋所があるんだ、それを見つければ一般では請け負えない仕事を紹介してもらえる」

「へぇ、所謂ギルドがあるのか」

「割とゲーム好きなんだなトール」

 クラピカの説明をそう言い変えたトールにレオリオが呟く。

 

 

「それじゃあ九月一日にヨークシンで!」

 フライトの時間が迫る空港で、ゴンはさよならと言わずそう高らかに言う。

 ゴンとキルアの二人以外皆バラバラの目的地であったが、飛行『機』でなく飛行『船』である都合上そのフライトの時間は同時であった。

 そしてそれぞれの搭乗口にて五人は手を振り合い分かれて行った……

 

―― 急げ!

 

 皆が飛行船に乗り掛ったとき、トールは走っていた。

 しかも先程の和服姿ではなく地味な洋服と目深にニットの帽子を被るという彼にしてはかなり珍しい出で立ちだ。

 別れた瞬間、腹痛に見せかける様に前屈みかつ腹を抑える姿勢でトイレに駆け込んだトールはその場で服を脱ぐと自分を包むように【蜘蛛の仕立て屋】(アラクネー)を発動、そして元々用意していたニットの帽子を被ると先程空港内で買ったバッグの中に先程まで来ていた和服を突っ込み、そのまま彼が乗るはずのゲートを無視して受付へ走る。

「ふー…… すみません、五分後のロカリオ共和国行きのチケットを購入した者ですがそれをキャンセルしまして…… えーと、これ! この四分後のこの飛行船に乗りたいのですが!!」

「いえ、その…… キャンセルは出来ますが急に乗船は無理が……」

 渋る受け付けにトールはバッグを開けるとそこから少し和服を引っ張りごそごそと何かを探す。

「これ! これでどうだ!?」

 探り当てたそれを余程慌てているのかまるでどこかの御隠居のおともが印籠を出すかのように見せたそれは、ハンターライセンスだった。

「え!? しょ、少々お待ちください!」

「少々待てないんで急いで下さい!」

 受け付けのマニュアルの最重要事項に記載されていた特徴と一致したそれを見せられ焦りながらも受け付けは何かを取り出す。

「はい申し訳ございません、失礼します!」

 取り出したカードリーダーにライセンスをスキャンさせ、数回タッチパネルを弄ると震える手でライセンスと機械から出てきた感熱紙をトールに返す。

「これでご希望の飛行船に、番号はそちらの紙に記載されていますので!」

「ありがとうございましたー!」

 言うや否やトールは飛び出して行った。

 

―― いーそーげー!

 

 身体検査パスポートのチェックetc.…… 全てを先に通知されていた為パスして僅か数十秒でゲートに辿りつく。

 

 

 椅子に座り、どちらかと言えば心労から肩で息をするトールは飛行機の様に狭い室内でなく本当に良かったと感謝する。

 

―― 嘘吐くのが下手なのは認めるけど、森でもないのに尾行するのは得意じゃねーんだよ……

 

 ようやく余裕が出来て買った缶ジュースを飲みながら、トールは文句の一つは言いたいと思っていた。

 

―― これ、予想以上に前段階で苦労しますよ…… ネテロ会長

 

 「そいつはすまんかったのう!」飄々と笑って髭を撫でる老人をトールは幻視したという。

 


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