クモ行き怪しく!?   作:風のヒト

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予測不能、修行荒模様は続く

「……」

「……」

 大蜘蛛と父ちゃん坊やの安いコントが繰り広げられた同時刻、家の中は互いに紙をする音だけが聞こえていた。

 一方は読書、一方は切絵…… しかし、残された二人は己の限界を高めるべく現在も修行をしている。

 トールが裁縫でそうした様にクラピカは読書中、カルトは切絵の制作最中は【堅】をし続けている。

 といっても残り十分が限界であろうが。

 窓辺の椅子で本を読むクラピカと、反対側を向く様にテーブルで切絵を作るカルトの間には会話も視線も無い。

 初日であればカルト側が不快だと隠しもせず表に出すだろうがクラピカが素直に非を詫びた以降、無干渉程度に態度が微妙に軟化された。

 

 しかし、その関係は予兆も無く一瞬で崩壊した。

 

 

―― え?

 

 カルトの手が止まり、持っていた紙が落ちる。

 それほどまでの何か、怒気や殺意で説明のつかない重圧が自分の後方から発せられたのだ。

 これは一体何だとオーラを過度に出さずベストの状態まで持って行き、テーブルの上に乗りつつ後ろを振り返る。

 

 そこは、窓…… 光が差し込み逆光となるそこに一つの握り拳ほどのシルエット。

 この距離から分かるやや大型の蜘蛛だと判断出来るが同時にその蜘蛛がこの底知れないオーラを発している者でないとも即座に分かる。

 原因はその蜘蛛を凝視する人物、落とした本も気にせずただじっと鋭い目付きでされど異常なほどのオーラを纏って見ているクラピカだった。

「え!?」

 原因が分かると同時にカルトの眼がまた大きく開かれる。

 その異様なオーラ量に驚いた訳でもない、もっと単純にして最も訳が分からない現象に驚いたのだ。

「その眼!?」

 その燃える様な眼にカルトは思わず声を上げる。

「…… 知っているのか? この眼を」

 それに対するクラピカの反応は底冷えする様な冷酷なモノ。

 カルトのそれがこの眼を知っていてのことだと分かったからだ。

 

 だが、次の言葉をどうすれば予想出来ただろうか……

「…… トールと、同じ眼」

「なッ!?」

 今度はクラピカが驚愕に眼を見開く番となった。

 反対に鋭くなるのはカルトの眼。

「その眼、トールとどういう関係性があるの? 言ってもらうよ……」

 何をしてでもね、と【練】の域にまでオーラを発し、脅しの意味を込めて蜘蛛に針を投げ殺す。

 例え一戦交える事になっても絶対に聞いてやるとカルトは久々に殺気立ったのである。

「それは……」

「え?」

 ふらりと力なくクラピカがその場から立ち上がった。

「それは本当か!?」

「ええ!?」

 そして自分を遥かに凌ぐ喰いつき方でこちらに詰め寄って来た。

 二回目の虚を突く反応にカルトはただ混乱するだけであった。

 

―――――――――

 

「っくしッ!」

 地面に右足の跡がくっきり浮かんだ。

 

―― 風邪?

―― いや砂塵とかじゃね?

 

 労る様に大蜘蛛のビジョンは顔部分を上げる。

 それを心配するなと手拭で汁を拭いながら返事をした。

 

―― ま、それはそうと僕と何を話したいの? って分かり切ってるけどね

―― このところドイヒーの一途を辿る食欲についてが主だ。

 

 今こうして話してはいるが、実際はテレパシーの様に話している為現実のトールの口は物入れてモゴモゴ動いている。

 

―― そうは言ってもなんかお腹減るんだよ、なんというか満たされない感じ?

―― それは俺も確かに感じてる、確かに俺も食い意地張ってる方だがこっち来る前には兄に負けてたしここじゃオマエに負ける、けど何て言うか満足出来ないんだよなぁ

 

 あれだけ豪華な飯喰ってたのにとゾルディック家での食事情を思い出す。

 

―― まず腹が異常に減りだしたの何時頃だよ?

―― えーっと僕がちょくちょく干渉出来る位に置き始めた頃だから、ハンターの四次試験位だね! 本格的に食欲が増してきたのはその後からだけど

―― はい今原因分かりました、アナタです

 

 一分にも満たない原因の特定であった。

 

―― え? まっ、まって待って! 僕!? 僕こそが原因なの?

―― 時期がピタリと当て嵌まってんじゃねーか

 

 その程度の事じゃ完璧に僕のせいと決まった訳じゃない! と抗議の意味合いを込めて人の様に器用に立ちあがって浮いた足をわしゃわしゃ動かす。

 

―― 俺の推測ではこう、一つの身体に二つの意識が内包されて二倍エネルギー消費してるとかそこら辺を想像してたんだけどさ…… さらっと最初に言葉にしてみた『満たされない感じ』と当て嵌まらねぇんだよな

―― それなに? つまりこう精神的な問題ってこと?

 

 あー、そんな感じと適当な調子で何かの果物を食べながら相槌を打つ。

 脳内で繰り広げられるどこか緩い調子の話し合いであるが傍から見ると虚ろな眼をして一心不乱に食べ続けている少年にしか見えないので不気味としか言い様がない。

 

―― じゃあ逆に満たされてお腹いっぱいってときは最後いつだった?

―― その調子だと自分は覚えてる感じだな…… 多分俺も覚えてるな

 

 せーので言ってみる!? アラーニェはこのフレーズが言える日が来ると思わなかった様で急に凄く嬉しそうに、ギチギチと牙と鋏の中間の様な鋭利な歯を鳴らして、多分笑っていた。

 そして了承取らずに「せーのね!」と勢いよく言ってくるアラーニェにトールは、ああこいつは友達が家に来た時嬉しすぎて滅茶苦茶おもてなしして友達委縮させるタイプだと判断しながら頷いた。

 

―― せーの!

 

 

―― 蛙を食べていたとき!

 

 この瞬間、周囲の鳥が一斉に羽ばたいた。

 

―――――――――

 

「トールが私と同じ眼をしていた事は本当か?」

 眼の色も戻り幾分か落ち着きも取り戻した調子で再度クラピカはカルトに問うた。

「待った、ボクも色々聞きたいんだひとつ質問したら対価でこっちも質問することにしたい」

「…… 分かった」

 カルト側も冷静さを戻したようで、ゾルディック家独特の取引を持ってくる事が出来た。

「では三度目になるが言う、トールが私と同じ眼をしていた事は本当か?」

「うん、一度だけしか見てないけどそれでもハッキリとね」

 余程聞きたかった答えに、クラピカの反応は無言である。

「次はボクの番、その眼は何?」

 カルトはその眼という繋がりの前に眼そのものを聞く。

「クルタ族と言う種族特有の眼、感情の昂りによって赤く変化することから『緋の眼』と呼ばれている…… その緋色は世界七大美色の一つでかなりの価値があるそうだ」

 最後の呟く様な説明には、声量と裏腹に想像を絶する怨嗟が込められていた。

「トールの眼が変化したときの状況を教えろ、私の様なトリガーがあるならともかく不意に出るなら激昂でもしなければ変化しないはずだ」

「特に怒ってる様子は無かったよ、そういうキミだって言う程怒ってる訳じゃないね? …… 見たのはキミ達が来た日だ、多分脈絡も無いか急いでキミ達のところから飛んでいく様に出てったんじゃない?」

 頷くクラピカにカルトは少し嬉しそうに眼を細めた。

「その道中、ボクと鉢合わせしたんだけどそのときには既に眼が緋の眼とやらになってたみたいだよ」

「そうか……」

 

―― トールもオレと同じ様になにかトリガーを引いてこの眼になったのか?

 

 唐突に過去の経験を思い出し緋色になる事もあると聞いたが、それ以外にも自身の様に特定の物事(トラウマ)で反射的になってしまうケースもある。

「じゃあボクから最後の質問、その眼にどういう力があるの?」

「…… 力?」

 思いがけぬ言葉がクラピカの耳に届いた。

 

―――――――――

 

―― そうか、そうなっちゃうのか……

―― どこかどうだっていうことは頭の内で理解していたみたいだけど、実際言葉にしてみると案外凹むものだね

 

 鳥が羽ばたいた後、暗くなる静寂の森ではただ咀嚼の音がするだけだ。

 

―― まぁでもこれである程度は食欲制御出来るんじゃないか?

―― だね、ところでもう一つの疑問なんだけどさー

 

 あくまでも緩い調子で一人と一匹は話し続ける。

 

―― 君は戦いとか苦手な、というかぶっちゃけ細胞レベルで拒む感じだけど最近はどこか好戦的じゃない? 新技の修行開始したりして

―― 俺が嫌なのはドッキリだからね? 不意な攻撃とか失禁ものだよ

 

 それは嫌だなと自分のからでもあるそれが公衆の面前で噴水状態という失態を侵す日が来るかもしれない未来に割と本気で恐怖した。

 

―― でも、ね…… なんか知らないけどやっとかないといけない気がしてならない、半分使命感で動いてるんだよな

―― 天啓って言うヤツかい? 変な壺を買ったり買わせたりするんじゃないだろうね? それとも守護霊の働きかけ?

―― しねーよ、あと守護霊のポジションオマエじゃん…… なんというか漠然と死なない為にというより生きる為に必要な気がする? そういう感じだなもう半分

 

 どうやら本人でもよく分からない感覚らしい、トールの返答は要領を得なかった。

 

―― なんだ…… それでもこの三つともう一つはなんとかモノにしたいんだけどさ

―― そのうちの一つと半分は僕がいなきゃあれだしね、最後の一つに関しちゃ確かにこんなとこでもないと危ないしね

 

 その会話の終わりと同時に袋の食料が尽きた。

 そうするとトールの身体はおもむろに立ち上がる。

 

―― じゃあさっそくもう一つの方を

―― おまけからやっていくあたり君と僕の相性がなんでよかったのかすっごく分かるねこれ

 

 最後まで緩い調子を崩さず話した脳内で訪れる暫しの無言、その代わりの行動は上半身の服を脱ぐという行為となる。

 

 そして、身体をほぐす様に動かし精神統一の様に眼を閉じる。

 次の瞬間、彼の頭部が赤く光った。

 否、彼の髪に隠れ閉じていた複眼が一斉に開きだしたのだ。

 

―― それじゃあ……

 

「いきますか」

 

 そう言って開いたその眼は――――

 

―――― 左のみが緋色であった。

 

―――――――――

 

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ、キミ達は眼が赤くなるとどういう力が発現するかを聞いてるんだよ」

 クラピカは考える、この眼になって特別なことがあったかと。

「…… 直接の関係は無いが、筋力のリミッターが解除されて怪力になる。それくらいだ」

 その答えにカルトの目付きは鋭くなる。

「それだけじゃないでしょ? だったらそのオーラは何? あのときのトールもその眼になっていた時の動きもオーラの感じも違ったよ」

「…… オーラが?」

 緋の眼になってからのオーラを改めて感じた事は無い、それもそうだ特に何も影響がないと思っていたのだから。

「トールのときボクはまだまだ【念】を使いこなせなかったからハッキリとは分からないけど、今なら分かるよキミのオーラはあのとき明らかに普段より倍以上オーラが出ていたし、なにより感じが変わっていたよ」

 その指摘にクラピカは何かに気付いた様にハッとし台所へ駆ける。

 そうして持ってきたのは水をなみなみ注いだコップと野草の葉であった。

 そして、次にはあのオーラがクラピカから溢れ出た。

 一体何をしているのか、クラピカに隠れて見えない何事かを見るべくカルトは位置を変えて手元を見ようとする。

 

―― ボクの殺した蜘蛛?

 

 クラピカがじっと見ていたのは針が脳天に刺さった蜘蛛、先の質問からそれがクラピカの言う『トリガー』なのかと推測する。

 では何をしているのか、その答えはクラピカの翳した掌の先。

 

―― 水見式? 今さら?

 

「あれ、でもこれ?」

 具現化系と聞いていた反応と目の前のソレを合わせた違和感に気付く……

 

 そしてまた同時にとても濃厚な血の臭いにも気付いた。

「ただいまー!!」

 そして開くドア

 そこにいたのは何かの頭蓋骨をヘルメットの様に被り陽気に此方へ手を振る上半身血濡れかつ下半身の服はボロボロな腰みの状態という悲惨な何かであった。

「? トール? えっ!? 何、どうしたの!?」

「…… 一体何がどうしたらそうなるんだトール?」

 大混乱と困惑を二人に与えたかろうじてトールと分かるスカルヘッドは、なにがそんなに楽しいのかケタケタ笑いながらこっちに来た。

 あまりに濃い血の臭いに、慣れていないクラピカは思わず顔をしかめながら後ろに下がる。

 そのとき腰が当たり縁に置いていたコップが落ちて割れたがそれどころじゃない為、落とした当人は無視したがトールが気付いたらしくさらに近づいてコップの破片を取った。

「ダメじゃん割れたら拾わなきゃ!」

 言って小器用に破片を取るとボロボロな腰みのと化した服を漁り、赤黒い斑点だらけの元・白い手拭を取り出すとガラス片を包む。

「後で掃除しとけよー」

 指差し目線を合わせて初めて気付いた。

「トール、眼が……」

「うわっしょい!?」

 指摘された瞬間、トールは妙な声を出しながら眼窩から覗く赤い目ではなく何故か頭を抱える様に手をやって目深に骨を被り直した。

「…… 見た?」

 頭を押さえながら不安げにカルトと、特にクラピカを怯える様に見つつ聞く。

 そのとき二人の心情は一致した。

 

 肝心の部位である眼を隠さないでどうすると……

 

「…… いや、そのなんだ見えなかった。それよりシャワーを浴びてきたらどうだ?」

 なんというか今自分の目的が揺らぐような大きな物事の前に立っている、という事実が吹き飛ばされたクラピカはとうに色の戻った眼を疲れた様に瞑りながら悩みの種になっている緋色の内、洗い流せるほうをどうにかして来いと言えるだけだった。

「じゃあそうさせてもらおうかな!?」

 いまだ頭を骨ごと押さえながらそそくさと風呂場の方へ移動するトールは、廊下の扉の前でああそうだと言いながらピタッと止まった。

「俺、夕飯いらないから! お腹一杯だし直ぐ寝る!」

 そうして閉められた扉を前に、残された二人は信じられない言葉を聞いたと思わず無言で眼を合わせた。

 

「…… ふぅ」

 

―― クラピカがノータイムで()りに来ない辺り、見えてなかったみたいだな……

 

 脱衣所でトールは間一髪だったと力なく息を吐いた。

 ちゃっちゃっと風呂に入るかと、脱いだ頭蓋骨の中から露わになった彼の頭部は髪が血で固まってはいたがとっくに爛々と輝いていた複眼は閉じ切っていた。

 

 

 トールが早々に就寝し、それでも疲弊する食事も終わり風呂も入り終わった後、クラピカは何をするでもなく定位置になった窓際の場所で月を見ていた。

 いや、それは恰好だけで実際は思考の中を見ていた。

 有耶無耶になったとはいえ自分と同じ存在が、しかも先人がいた事に心の整理が追いつかなかったのだ。

 その問題の先人はその実なんの関係なく、ある種それよりも希少な存在であるのだが……

 自分の中にある情報だけで補填されたそれは軽く実態も何もないものであるが確実にクラピカを揺らした。

 

 そのとき、不意にクラピカのケータイが震えた。

 

 ディスプレイにはレオリオからの着信の文字。

「もしもし」

『よークラピカ! オレだ元気か?』

 電話越しのレオリオは今日のトールまでとはいかないがそれでも陽気だった。

「やけに陽気じゃないか、酒でも飲んでいるのか?」

『いやー、結構いい酒貰っちゃってよぉー』

 顔は見れないが何時かの様に下品な調子で笑っているのがすぐに浮かんだ。

「そうか」

 それだけ言ってクラピカは電話を切ったが、十秒経たない内に再度電話は鳴った。

「…… 何か用なのか? 私は酔っ払いの相手をしているほど暇ではないのだよレオリオ」

 額に青筋を浮かべ、持つケータイはミシリと音をたて始める。

『んな怒るんじゃねぇって…… 用ならあるさ、お前の【念】の師匠役がどんなのか知りたくってよ』

「その物言い、そうか教授する人間にあったか…… しかし、私ではなく教授する側の素性を気にするのは何故だ?」

 初日のトールの説明で試験合格者にこっそり【念】を教える裏試験官がいることを説明されている。

『おうよ、つーか今飲んでる酒が師匠のツテで入った酒でよ! 今グースカ寝ちまってるが寝る前に『裏試験官になんのも御免蒙るのにそのうえ担当まで急遽変更だと』って愚痴っててな、詳しく聞けば師匠が最初頼まれたのはクラピカだったそうだ』

 なるほど本当にトールが自身の担当になったのは突発的だったのだと裏付けされた。

『でよ、師匠がすげぇ良い人だからよぉ変えられたクラピカの師匠役がどんなヤツなのか気になってな、変な奴なら協会に文句言うの協力してやるぜ!』

 どうやらレオリオはその持前のコミュニケーション能力で師匠なる人物とかなり打ち解けたらしい。

 だがここで良い指導者に巡り合ってよかったで終わらず、もしや割を食ったかとすぐさま心配し確認してくるところこそが彼が好かれる本当の理由なのかもしれない。

「そうか、しかし私の師匠役はレオリオの心配する様な人ではないさ…… まぁ変という定義には当て嵌まるやもしれんが、その気持ちは受け取っておく」

『マジか? なーんか落ち込んでねぇか?』

 嘘には直ぐ引っかかる癖にこういった機微には鋭い人物なのだなとクラピカは再認識した。

「いや、落ち込んでいると言うより困惑している…… 自分の進む道が少し霞んだ気がしてな」

『余程じゃねーか、一体何があった?』

 レオリオの声に酔いの気が無くなっていた。

「まだ言えるほど整理がつかない、しかし悪い事では無い…… のかもしれん」

 確認する様に言うクラピカに電話越しのレオリオは黙って聞いていた。

『そうか、お前が悪くねぇってんならそれでいい…… でもよ、今度五人で会うときには笑える様にしとけよ? 沈んだ顔してたらゴン辺り何するか分かんねぇぜ?』

 そのときクラピカは、最初にあった船で放り出された人を助ける為に何の躊躇いも無く荒れた海に飛び込もうとしたときを思い出した。

「確かに、何をしでかすか分からんな」

 そして今はそんな存在がもう一人いる、コレは確かに分からないと同意したクラピカはフッと口元が緩んだ。

『だろ? んじゃあオレはこの辺で…… ヨークシンで会おうぜ? じゃな』

「ああ、それではな」

 

―― 確かに何をするか分からんな……

 

 気が付けばクラピカはある番号に電話を掛けていた。

 

『もしもし、クラピカ?』

「ああ、突然すまないな」

『いやいーけどさ何か用?』

 電話の相手はあの日番号を渡しあったキルアであった。

「その用と言えるほど大層な事ではないが近況を知りたくてな」

『あー、そのなんていうかすっげー強くなってるぜ? オレもゴンも!』

 濁す様な言い方だがそれが【念】の体得を指す事は直ぐに分かった。

「そうか、今何処にいるんだ?」

『天空闘技場ってとこ分かる? そこで闘ってる』

 確か世界第四位の高さを誇る建物にして勝ち上がるごとに上の階層へと進むシステムで闘技者が闘う、格闘のメッカであると頭の中の本を開く。

「そこで日夜戦ってる訳か」

『そ、でも四分の三くらい温い闘いだけど最近は骨のある奴増えてさ、ゴンのヤツまた腕へし折られたんだぜ? ハンゾーのときより手酷くやられたくせにもうとっくに治ったけど』

 電話から『キルアー! 誰と電話してるのー?』とゴンの声が聞こえた。

 どうやら本当に治ってピンピンしている様だ

『ああ、クラピカだよ』

 そう言えばゴンはかわってくれと、多分引っ手繰る勢いでそれを叩いたバチンという音も拾った。

『じゃあ後はゴンにかわるけどさ、オレが言うのもアレだけど悩みがあったら遠慮なく言えよ?』

 そう言って電話をゴンに投げ渡した様な音が聞こえた。

 

―― どうやらレオリオじゃ無くとも分かるほど覇気がないみたいだな

 

 困った様に髪を掻いた。

『もしもしクラピカ? 元気?』

「こっちの台詞だよゴン、聞けばまた腕を折ったらしいじゃないか?」

 クラピカの言葉にアハハ…… とゴンは何とも言えない調子で笑った。

『あっ! そうだクラピカ、こっちにさヒソカがいたんだ! っていうかオレ達の跡をつけてたみたいだけど』

「ヒソカが……」

 全ての情報元である戦闘狂…… そしてゴンの当面の課題たるあの底冷えする笑顔が浮かぶ。

『トールのことも追いかけようとしたみたいだけどトールの方が一枚上手だったみたいで断念したとも言ってた』

 確かトールはライセンスを詳しくは知らないがかなり巧妙なタイミングで使ったらしく、本業の暗殺者の追跡をも妨害させていた、事になったそれを思い出す。

 当人はただクラピカを追いかける事のみを考えていただけであるが。

「それで、奴に挑むつもりなんだな?」

『うん、明日対戦を申し込むつもり』

 きっとそうする筈だと思ったクラピカの言葉にゴンは答える。

『と言っても対戦の日時は暫く後だけどね』

「まったく…… 無茶ばかりしてる様だな? かなりキルアに怒られているんじゃないか?」

 図星の様でまるでボディーブローでも喰らったかのような声が漏れた。

『…… 実は、オレ達偶々闘技場で教授してくれる人に会ってさ…… 腕折ったとき凄い怒られたんだ、ビンタされたし』

 きっと裏試験官なのだろう、そしてその人もまた人格者なのだともゴンの態度から伝わってくる。

「だが、それでも止まらなかった…… だろう?」

「うん、止まったらジンがまた遠くなりそうだもん」

 ジン=フリークス、彼の父親にして目標である。

 

―― 目標…… か

 

「なぁ、ゴン」

『なに?』

 ここで一旦切るが、再度喋る。

 

『父親に会ったら、その後はどうする?』

 

―――――――――

 

「寝る時間は違うのに起きるのは同じ時間なんだ?」

「この程度で俺の腹時計は狂わんさ」

 割烹着姿で何かのスープの味を調えていたカルトが、絶妙なタイミングで起きてテーブルの椅子を引くトールに話しかける。

「ところでクラピカは? 寝坊?」

「さっき起きて顔洗ってた、ワンぺナでお昼の料理するのはアイツだけでいい? あとこの割烹着のウェイト増やしていいよ?」

 どっちも構わないけどソイツは珍しいなと顎に手を置くトールの横の扉が開く。

「本当にすまなかった、久しぶりに深く寝てしまってな…… あとトールにこの後で話がある」

 謝るクラピカは残る配膳と食器洗いも引き受けることを了承した。

 

 

「で、話ってなに?」

 すっかり馴染んだ重り入りのこちらはエプロンを用も終わり、置き場に畳んでおいたクラピカが来る。

「ああ具現化したいものが決まったんでな…… いや、実は最初から頭に思い浮かんでいたんだが、決めかねていた」

「へぇ! で、どんな物?」

 スッとケータイを取り出しながらトールは心なしかワクワクしながら聞く。

 

「鎖、だ」

 

 クサリ、つまりチェーン? と何故か言い直して聞き返すトールの言葉にクラピカは頷く。

「鎖ねぇ、ちなみに理由は?」

 多分自分だったら十割何となくと言いそうな男が何気なく聞く。

 

「そうだな……」

 

―― ジンに会ったら? …… うーん、正直考えたことないから分からないけどさ……

―― きっと、まだ歩いてると思う。今度はジンと一緒にさ!

 

―― だってそこで終わりじゃつまんないでしょ?

 

―― 出来ればキルアとレオリオとトールとクラピカも一緒に!

 

「得た繋がりを決して断たない様にしたいから…… だろうな」

 

 まるで自分に言う様なその言葉は何故だかとても印象に残った。

 

 

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