クモ行き怪しく!?   作:風のヒト

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刺客は視覚で死角でしょう1

 

「ここにいたのか、トール」

「今度は絶壁に作られた何かの巣? お腹減ったなら言えば何か作るよ修行にもなるし」

 森の中から盛り上がる様に出た岩山に空いた穴の一つにクラピカとカルトは、互いに別々のルートで来たにも関わらず迷いなくそこにいた迷っていたトールを見つけ出した。

「ふぉめんほー、ほら飛んでた…… んぐ、空飛んでたのが目に入って夢中で追い掛けてたらこんなことに」

 プテラノドンの様な何かをまるで飛行機を追う子供みたいなレベルで追い掛けたトールはそのまま執念の追跡の末に巣まで行き、腹が空いたのでそれを食べていた。

 そして食べながらも、足の糸が切れて家どっちだっけと思い始めた所で二人がやって来た。

「それじゃあ帰るよ」

 そう言って背を向けるカルトと、トールより下がってカルトと挟む形で位置を取るクラピカの腋にはここの巣にあった巨大な卵がちゃっかりあった。

 二人ともすっかり食料の調達を基準にした生活形態が出来あがっていた。

 

―― 末恐ろしいよな

 

 だが恐怖したのは決してそっちの方ではない。

 二人とも自分だけの【念】を確立した事についてだ。

 特にクラピカ、あの後本当にアルゴの言った通り直ぐに特殊な能力を鎖に付加していた。

 それも五つも。これで【念】に関して言えばカルトとクラピカに差が完全になくなった。

 いや、クラピカの方がこのままカルトを抜いて行くだろうと推測する。

 それは才能ではなく単純な年齢差による肉体の発達加減によるものであるが。

 

 それよりトールが恐怖している事項が一つ。

 

 クラピカの能力の一つ、【導く薬指の鎖】(ダウジングチェーン)そしてカルトが新たに付加した紙の探知……

 

―― これ、俺のせいじゃないよな?

 

 二人ともサーチ系の能力を持っている事に自分の影響が大きいのではないかということである。

 

 

「…… ん?」

 家に着いた三人は卵を一旦置くべく台所に向かう。

 そのテーブルに何か見慣れぬ物があると、台所に詳しいトールが僅かな違和感で台所に完全に入る直前に視界の端に捉えて気付いた。

「なんじゃこりゃ?」

 それはテーブルの上に置かれたまな板に包丁で刺す事で止まっていた一枚の紙。

 紙が置いてあるだけ、あるいは包丁で刺さっているだけならばある種の恐怖や異様な雰囲気を演出するだろうが、わざわざまな板の上に置かれたことでどこか滑稽な雰囲気となってしまったそれ。

「…… あ! 侵入者!」

 故に、誰かが留守中に侵入してきたという重大な事実に気付くのにトールはともかくカルトもクラピカも数秒掛かってしまった。

 頭をようやく切り替え、紙吹雪を部屋全体に行き渡る様に撒く。

 次いで窓という窓を器用に紙で開けながら紙吹雪を更に外に拡散させる。

 数秒後、少し落胆した調子になるカルトの周りに紙が戻って来た。

「駄目だ、やっぱりもうここらにいないみたい……」

 いた方が逆に恐怖を感じるほど、既にその場には人っ子ひとりいなかった様だ。

 ので早々に置かれていた紙に書かれていた内容を読むため一応念の為【凝】で視てから問題ない事を確認し、包丁を引き抜き、紙を手に取った。

 

―――― 爬虫類渦巻く森での修行、いかがお過ごしでしょうか?

 我々二名は数日前にアルゴ=ナウタイが言った刺客の者でございます。

 明日、午後二時より奇襲を掛けることを前もって連絡しておくべく筆を取りました。

 突然の事でございましょうが、どうか身体・精神共に良好な状態で挑まれる事を望みます。

 奇襲につきましては明日の午後二時になり次第その瞬間に仕掛けますので場所等の要望御座いましたら前もって移動していただけたら幸いです。

 

 追伸、まな板及び包丁の代金は弁償します。

 

―――― アーノ=キュコウ ノウン=キュコウ

 

「……」

 無言でまな板を動かすトールはまな板の下に千ジェニーが一枚あるのを見つける。

 次いで一緒に紙を読んでいた二人に視線を合わせる。

 カルトが紙をトールの手からそっと奪うと、にこりと微笑み…… 直ぐ様怒りのソレに変え

「何なのコレ!?」

 

 盛大に紙を破った。

 

「あっ、俺の友達兼師匠が二人の【念】が一応の完成を見せたら連絡してくれって言って連絡したときに模擬試合やろうとか言ってたなそういえば」

「何で忘れてるんだそんな重要な事……」

 畳み掛ける間抜けなコンボにクラピカは頭痛がした様に米神をおさえて目を瞑る。

「そこはいいよトールだし、問題はコレだよ! 奇襲予告って何!? バカにしてんの、それとも向こうがバカなの!? あとなんで態々まな板に包丁で刺してこんなの置くの!?」

 紙を物凄い速さで細切れにしながら一気にツッコミどころをぶちまける。

 キルアといいミルキといい、この手のそれにツッコミを入れる様はゾルディック家が案外まともな常識を教えている事を感じさせる。

 あれで案外長男みたいな存在が例外なのかもしれない。

 

「まぁ何はともあれ最終修行実戦ってことだな、皆! 気合い入れていこう!」

 

 全てを放棄して〆に掛かったその言葉の前に怒りの紙と鎖が飛んできたが、腹立たしい事に掠りもしなかった。

 

 

 

「…… さって、もうそろそろ時間だな」

 家の近くの比較的木の少ない場所で、奇襲を待つという訳の分からない状況の中やるべき事を終えて待つ三人。

 トールは切株の上に置いた時計を見てそう呟く。

「ボクの紙には何も反応ないね」

「焼け石に水程度だが私の【円】にも反応がない」

 それぞれ奇襲するであろうアルゴからの刺客的な何者かを探す術を使うが発見出来ない、もしくはまだ範囲にいない様であった。

「アレ使わないのか?」

 薬指を指しながら言うアレとはクラピカの【導く薬指の鎖】(ダウジングチェーン)の事だ。

「…… 実はまだ完璧な物で無い、居場所の特定は実際に顔を見た人物かつ中規模の町程度の範囲にいなければ分からない状態だ。しかも詳しい仕組みも分かっていないからな、何か自分も知らない条件があるやもしれん」

「まぁ、能力の仕組みとかそもそも能力なのかも怪しいのだってあるし気長に付き合ってみるっきゃないよな、アハハ……」

 

―― 例外的に何度も探し続け、能力体得時から近くにいるトールならば更に広範囲でより明確に分かるだろうが……

 

 事前準備が可能かつむこうが向かってくるならそんなトールでもかなりの範囲を感知する【円もどき】(蜘蛛の巣)を持ってはいるがあくまで二人の修行なので手を貸しては意味がないと珍しく師匠的な立場から厳しくも妥当な判断をし、特に何もせずこの場にいるだけである。

 そして時計の針が一時五十五分を指したその時である。

「ッ!?」

「トール!?」

 トールが何の前触れも無くその場でカルトの身長より高く上に、何故か大股を開いて跳んだ。

 しかし、二人の眼はトールではなく別の物を見る。

 それは彼の後ろにあった木…… トールが跳んだ瞬間、木の表面がまるで爆ぜる様に飛び散ったのである。

 

―― こ、股関節が……

 

 事前準備なしで一気に動いた反動でそこが鈍く骨の軋む嫌な音を立てたが、表面上特に問題なく着地する。

 そんなトールの事など分かる訳も無く、カルトは周りに潜ませる形で撒いていた紙を操作し、トールと木の直線状に位置する空間を中心に紙吹雪を放つ。

 一方のクラピカもその方向を目視しつつ、【円】で後方も警戒する。

 

「いやー、紙はそのままにしていた方が良かったんじゃないでしょうか?」

「え?」

 

 突然の横からの声、振り向いたと同時に見たのは硬く握られた拳を自分に向ける男、そして衝撃。

 

 カルトが殴られ木に叩きつけられたと気付いたとき、クラピカは即座に地を蹴りカルトを殴り飛ばした男の頭を狙った一撃を繰り出す。

「この場では【円】より【凝】の方が正解さね!」

「なッ!?」

 その声と共にクラピカは突如目に見えない硬い何かが自身の側面に強く当たり、気付けばカルトと同様木に当たるまで止まらなかった。

 

―――――――――

 

「とりま、奇襲成功ってことでいいさね?」

「ですね兄さん」

 

 割と陽気なノリでハイタッチをかます男二人の前にクラピカとカルトは地面を転がっていた。

「そこのキミィ! キミがアー姐さんの友達で弟子でなんかもう家族的な、言葉で言い表せない関係のトール君だね?」

 そのうちの兄さんと言われた軽い雰囲気の男がトールを指差す。

「確かにトールですけど、その言い回しでアーちゃんとの関係まとめないでくれないか?」

 とりあえず杖代わりにしたいが三節棍は持っていないので股関節を休める意味を込めて切株に座っていたトールはそのままそこの部分だけは嫌そうに訂正を求めた。

「すみません、兄さんは言葉だけは適当なもので…… ええと、私達はもう察しているかもしれませんがアルゴお姉様がアナタ方の修行の総仕上げとして送った者でして、私がノウンで兄がアーノです」

 礼をして丁寧に説明する優男、改めノウン=キュコウ

「これはどうも…… じゃなくて!」

 流石にトールもおかしいだろうと声を上げる。

「おね…… いや呼称はこの際どうでもいいとして、まだ二時になってないんですけど!?」

「…… 違う、そこじゃないよトール……」

 立ちあがったカルトに指摘されるが、そうかな? という顔をした。

「えー? 五分前行動って常識じゃあないかい?」

「まぁ、確かに一理あるけど…… それ実際のとこ国によっちゃ逆に急かされてるみたいでマナー違反らしいぜ?」

 うんうんと頷いた。

「そうではなくて奇襲をあらかじめ予告した点と、こうして悠長に話をしているところが一番の問題点だろう!」

 次いで立ちあがったクラピカの渾身の叫びに答えたのはノウンだった。

「す、すみません! 戦闘において奇襲を防ぐという行動は重要だと思いましたが、やはり急にお会いするのも失礼かと思ったもので……」

「ちなみにあの包丁とまな板は?」

 力が抜けてもう一度地面にキスをしかけたところを踏ん張って耐えるクラピカに代わってトールが気になっていた謎を聞く。

「そりゃ恐怖の演出さね! 狙われているっていう緊張感を与える為に考案したんだけども、テーブルに穴あけるってのもどうかと思ってよぅ、なんか一杯あったまな板と包丁を失敬した次第さね」

 つまり変に礼儀正しく、そして変に凝った考えを持っているが故の奇怪な行動であった。

「あれホントみたいだね、あの二人ボクらのことバカにしてるんじゃなくて逆だからこそあんなことしてるし、筋金入りの変人だよ」

 呼吸も整えたカルトは既にダメージを受けた形跡はほとんどなかった。

「オレら変かねぇ? それとも遠回しな予告無し奇襲を受けたいと言うちょっぴり危険な向上心の表れ?」

「恐らくどっちもでは? それよりあの二人、【念】の戦闘経験は本当に素人でしょうが相当な原石というヤツですよ兄さん」

 前者に関してはすっとぼけもいいところだが、ノウンの一見柔和に見える顔つきからかけ離れた鋭い観察眼は二人に土埃だけで外傷が見られない事を見抜いた。

「そうさね、お前もオレも一旦注意引きつけたとはいえちょいと意識飛ばそうかって位にはオーラを込めたんだけど、ぶっ飛ばすだけに留まっちまったさね」

 へらへら笑っているアーノも油断なく構える、これ以上手加減していればこっちがやられてしまうと分かったからだ。

「あれ? 同じ流派じゃあないんですか?」

 その構えにトールが殆どない緊張感を更に無くす疑問の声を上げる。

「…… 逆にキミはアー姐さんと同じ流派なんか?」

 はいと返事をして構えれば物凄く驚かれた。

「私達は確かにアルゴお姉様をそう呼び慕ってますが、流石に…… あの流派はちょっと、その……」

「ぶっちゃけ初級の型に『椅子に座って食事しているときにやってきた敵を椅子を使用し撃退する型』なんぞが平然とある流派にはいれるかって話さね……」

 結構簡単なんだけどねぇと呟くトールであるが、クラピカとカルトにも教えようとしたがきっぱり断られている。

「えーっと、流派云々はどうでもいい話として…… 今日は二人の事宜しくお願いしますね」

 律儀にトールはお辞儀をする。

 

「はいはい、任されたさね …… でも、だ!」

「ええ、貴方も気を付けた方がいいですよ!」

 

 トールの言葉と礼に返って来たのは膝辺りを狙うアーノの念弾、そしてその念弾を跳べばあたる挟み打ちの形でトールの首へと向かうノウンのラリアットであった。

「ッ!?」

 だが驚きの声が出たのは後ろの二人。

 トールは【俺の代わりに僕が踊ろう】(タランチュラ)によってお辞儀の姿勢から足を揃えて後ろへけり上げる。

 それは言うならば青い全身タイツの超人ヒーローが空を飛ぶときの姿勢に酷似していた。この世界にその実写や漫画があるかは分からないが……

 とにかくトールは横に跳ぶでもなく二人の挟み撃ちとも言うべき攻撃に出来た僅かなスペースに身体を潜り込ませて回避した。

「うひゃー! あれをああいう風に躱すのさね!? なーらばノウンー!!」

 アーノが名を叫ぶと、すぐさまノウンは近くの草むらに入る。

 しかし、追えたのはそこまで…… 気配さえ消えてしまった。

「弟の行方は気になると思うけども、今はオレをだいちゅうーもーっく!!」

 アーノの声に振り向けば彼は既に数十メートルは上空に跳んだ。

 無邪気に笑いながらこちらに張り手でも繰り出すのかと言いたくなるほど勢いよく掌を此方に向けた。

「念弾だ!」

 カルトがそのオーラの集中具合に気付き声を出すより一歩早く、その場に念弾の雨が降った。

 

 

「おー、おー…… キミら相当センスいいさね! 【隠】で隠した念弾も多々あったのに、【凝】って熟練者でも忘れちまうってのは知らんのさね?」

 

―― 最も、このトールってのが見切りに重きを置いてる様だからその辺抜かりない様さね

 

 木々が爆ぜ、地面が無数に抉れた地面に降り立ったアーノが見たのは多少息が上がっているものの目立った外傷がやはりないクラピカとカルト、そして何を見ているのか分からないトールがいた。

 【凝】の修行が多めなのは、アルゴがそう指示をしたせいである。

 トールは理由はよく分からないが常時【凝】の様な状態であり、体質レベルで何か他人と違うであろうことをアルゴは知っている(トール自身は初めからそんな状態なのであまり分かっていない、アルゴにしても半分人間でない影響だと思っている)

 よって逆に【凝】の重要性が理解出来ていないと分かってもいる為、常時【凝】してるというとんでもかろうじて人間と同じになれと出来る訳の無い事を言うより【凝】の修行はちゃんとしっかりねちっこく丁寧にやりなさいとアルゴは念を押していたのだ。

 それが互いに【隠】か【凝】をするにらめっこという形で行ったのは訳が分からないが。

「いや、そのなんで……」

 「何で俺まで?」そこまで言えずにトールはその場から一気に跳んだ。

「…… これも回避しますか」

 そこには何時の間にか拳にナックルをはめたノウンがいた。

 

―― そんな!? この距離で分からないなんて!

 

 そこはカルトにとっても死線と言うべき位置、そこを容易く超えて彼はトールを攻撃したのだ。

 しかしそう驚くもカルトは直ぐ様忍ばせていた針を放つ。

 とっさ故に【周】をする暇は無かったが、そこは問題ではないとした。

 

―― 多分、アレは【絶】!

 

 【凝】をしている自分が見てもオーラが見えない、つまりオーラを纏わずだからこそ武器を使ったのだと判断したのだ。

「兄さん! 一旦集中してやりましょう!」

「え!?」

 だが、針はまるで小蠅をはらうかのように叩き落とされた。

 ナックル部分を特に使わない素手の所で、だ。

「了解さね!」

 本当に何でもない一撃だったようでそのままノウンはアーノの念弾とうまく連携し、避け続けるトールを見る見るうちにカルト達から離して行った。

「くそ!」

「待て! 無闇に追いかけるのは危険だ!」

 そのまま追い掛けようとするカルトをクラピカが止める。

「でもあいつらボクらの修行で来たくせに肝心のボクらを無視してトールを集中狙いしたんだよ!?」

 無策で突っ込むのは危険、しかしそうは言ってもこの状況は予想外だ。

「分かっている! だが、挟み撃ちになる様に移動し紙を操作して周りを更に囲むくらいは出来るだろう?」

「…… 分かったよ」

 コイツに言われるのは凄い癪だが今は素直に従う事にカルトはした。

 

 約三分、即席とはいえ早々出れない陣形を作り上げる。

 

 だが、この陣形はあっさり崩れ去った。

 原因は直接的攻撃にあらず……

「ぐ…… ぅ、ううう……」

 

「トール!?」

 

 目をおさえ無様に地面を転げ回るトールの姿、それを見た動揺は紙全体に伝わったのだ。

 

―――――――――

 

「あららのらぁー…… ノウーン、ちょっとやり過ぎじゃあないさね?」

「いえ、その…… まさかここまでとは思っていませんでして」

 この状況、どうやら向こうとしても予想外の事態だったようだ。

 

「ぬぐぁあああッ!?」

 戸惑う雰囲気を見せる二人の間を転げ回るトール、中々にシュールだがその実ピンチである。

 

「そりゃこんなんなる奴オレも初めてみたさね、それでもねぇ…… あ、よいしょ!」

 気の抜ける掛け声をいきなりアーノが言ったと思えば、カルトの背に物凄い衝撃が走った。

「ぐッ!?」

「なにッ!?」

 それは同時にクラピカにも起こったらしく、目の前の木から受身を取る事も出来ず腐った果実の様に地面へ落とされた。

「師匠役がこんなんなった衝撃はやっぱあれだろうけ、ど! それでも【念】が途切れないとかマジでキミら破格の成長スピードさね羨ましい」

 

―― 今のはこの男の念弾? やはり一発目の念弾と同じだ…… ()()()()()()()()()()()から撃たれた!

 

「ひー、ふー、みー…… まだいけるさね」

 何かを指折り数えたアーノはそう言うといまだ悶絶するトールに身体を向ける。

「目ぇがぁあああ!!」

 物凄い勢いでその場を転げ回るが気にせずアーノは口を開く。

「そこの二人と自分自身が不思議に思ってる様だからネタばらしっぽく言うけどね、アー姐さんはキミに対してオレら兄弟に『トールちゃんも修行が足りてないようなら遠慮なくやっちゃって♥』と言われてるんさね!」

 肝心の本人は目になにやらダメージを負ったらしく聞いちゃいないが、構わずアーノは念弾を放つ。

 しかもクラピカやカルトに放ったそれより小さくそれでいて勢いとオーラを込めた一撃だった。

「ああ、眼がぁあ――――」

 その瞬間、彼の声はピタリと止まりしっかりした足取りで起き上がり危なげなく念弾を躱わした。

「ありゃ!?」

「油断しすぎですよ兄さん!」

 言うと同時にノウンは起き上がったトールに直ぐ様蹴りを入れる。

 しかし、蹴りは上半身を後ろに大きく逸らすことで回避された。

「む!」

 それは想定内、そう頭の中でノウンは言うと足を地面に着けずにそのまま連続で蹴りを行う。

 

「……」

 だが

 それら全てはまるで自らの蹴りで起こる風に漂う木の葉の如き動きで全て避けられた。

「こなくそ!」

「あっ! 駄目です兄さん!」

 ノウンの制止も虚しく、アーノの念弾は放たれた。

 

 その掌からではなく、トールの()()から

 

 しかし、それですら危なげなく顎と上半身を引いて回避される。

「仕方ないッ!」

 そのまま虚しくアッパーから唯空中に向かうだけとなる筈だった念弾を、ノウンは傍から見て何もオーラを纏っていないその手で裏拳を放ち、念弾を直角にトールの引いた顔面に向かう様に軌道を修正した。

 その念弾がトールの胸元に吸い込まれる、そのときトールはその体勢のままなんと足を軸にまるで視えない遊園地のコーヒーカップにでも乗っているかのように回転して回避した。

 

「……」

 場は完全にトールの無言で支配された。

 

「…… 目がぁああああ!!」

 支配時間僅か四秒、猛威をふるった【俺の代わりに僕が踊ろう】(タランチュラ)が解除され、そのまま後ろに倒れると再びトールは目をおさえてその場を転がり回った。

 

 場の空気は完全にトールに支配された、訳ではなかった。

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