白い雲が、ゆったりと風に乗って流れていく。
遠くの空を、大きな飛竜の小さな影が飛び去って行くのが見える。
上を見ても、横を見ても、下を見下ろしても、無限に広がっていくような蒼穹。
「すげぇ......ホントに飛んでる」
空の上からの視界を、
頭に被った三度笠に、身に纏うのは黒く染められた胴着と袴。
一見すると、東国からの旅人にも見える装い。しかし知識のある者が見れば、それは頑丈なモンスターの皮と堅牢な木の繊維を織り合わせて作られた、立派な防具であると気づくだろう。
そして何よりも目を惹くのが、腰に携えた2振りの短剣。
美しい蒼白の帯電毛と、磨き上げられた黄土色の甲殻で造られた鋭利な刀身は、
それがかの「雷狼竜」ジンオウガの素材を使った双剣であることを物語っている。
同時に、少年がそれだけの実力を持ったハンターであるということも。
「『龍識船』......本当に、凄いものですね」
背後からの声に、少年は振り返る。
長い銀髪を空の涼風になびかせながら、丈夫な木材で組まれた甲板の上を、一人の少女が歩いてきた。
少年もハンターとしてはだいぶ小柄な方だが、それに輪をかけて背が低い。しかし、優雅なドレスを思わせる紅色の鎧という装いが、彼女もまたハンターであるということを証明している。陸の女王と称えられる「雌火竜」リオレイア......その亜種たる「桜火竜」の素材を使った防具だ。
「大陸を股にかけ、未知の領域を切り拓く空飛ぶ拠点。『龍歴院』まで乗ってきた飛行船とは、大きさも性能も段違いです」
「龍識船」。それが、彼らが乗るこの船の名前だ。
世界にあまた存在するモンスターの生態・脅威を調査する「龍歴院」が、ハンターズギルド各拠点を空路を用いて繋ぐため、そして今まで人の力では到達しえなかった未開の地へと降り立つために建造した、大型飛行船。
その処女航海にして初の実地調査となるこの旅には、龍歴院に所属する多くの調査員と、各地から集められた選りすぐりのハンターたちが参加していた。
「ヴィータ、挨拶回りは終わったの?」
「はい。先日連結された商業船の方にも行ってきました」
ヴィータと呼ばれた少女は頷きながら、また空を眺め始めた少年に眉をひそめる。
「......ヒロもせめて、研究室くらいには顔を出したらどうですか?出航してからずっと空を見てばかりじゃないですか」
「あはは、地上じゃ絶対に楽しめない景色だから、つい。船長さんには乗るときにちゃんと挨拶したし」
最早振り返りもせずに返事しだしたヒロに、ヴィータはもう、と呟いて歩み寄る。
笠の下にもぐり込むようにして真横に現れた少女に気づき、ヒロは目を丸くした。
「うわっ、ヴィータ?」
「そんなに言うなら、私もここで眺めさせてもらいます。いいですよね?」
むすっとした顔で宣言され、おずおずと頷くヒロ。
少年と少女、2人の小さな狩人は、並んで空旅の景色を眺め始めた。
静かに、時間が流れていく。
ヒロはちらりと、隣に立つヴィータの横顔に視線を向けた。
2人はハンター活動の拠点こそ違うが、ここで初対面というわけではなかった。ヴィータの故郷である「タンジアの港」を襲った古龍を鎮圧するため、ギルドの命でヒロが派遣された時からの付き合いだ。
当時のヴィータはまだ、かけだしのハンターだったが......こうして龍識船に招集されたこと、そして紅色の美しい鎧が、今の彼女の実力を物語っている。
「......ヒロ」
「な、何?」
不意に、こちらへ向き直るヴィータ。透き通った桜色の瞳と、綺麗に目が合ってしまう。
「私、頑張りますから。ここで、貴方に追いつけるように」
物静かな少女が見せた、野心溢れる狩人の目。
その決意に応じるように、ヒロは深く被っていた三度笠を脱いだ。
青空に、曇りのない黒髪が晒される。
「......ああ、期待してるよ」
笠の下から現れたのは、澄み渡る空と同じ色の瞳。
同じ狩人からの挑戦を、少年は笑顔で受け取った。
「おうおう、お熱いですなご両人」
......と。
そんな空気を放り捨ててしまう、軽い声音がもう一つ。
2人がぎょっとして振り返れば、船室に繋がる下り階段の手すりにもたれるようにして、一人の女性ハンターがこちらをにやにやと眺めていた。
フル装備の2人に対して、こちらは上半身の防具を脱いで、半分インナー姿になっている。
「り、リゼさんいつの間に......」
「ん?ちょっと前からここにいたぞ?仲いいなあと思いながら見てた」
少しくせのついた長い赤銅色の髪を片手でくるくるといじりながら、平然と答えるリゼ。
彼女も龍歴院によって選抜されたハンターの一人であり、また2人の知り合いでもある。
「はぁ......ところで、こっち来ないんですか?」
「え?いや、その......あたし高いところ苦手で」
気まずげに目を逸らすリゼ。よく見れば平然としているように見えて、空いた右手はがっしりと手すりを掴んでいる。
ヒロは苦笑しながら、ヴィータを連れて階段の方へと歩み寄った。
「3人揃うのはいつぶりですかね。前にガムートを狩りに行ったとき以来?」
「あー、もうそんなになるのか。かっこよかったなぁあのデカブツ!」
「相変わらず、大型のモンスターには目がないんですね。流石は『巨竜殺し』と言ったところでしょうか」
「おっヴィータちゃん!その名前、もうタンジアでも通じてるの?嬉しいなぁ!」
ヴィータの出した単語に反応したリゼが、たちまちぱぁっと笑顔になる。
彼女はモンスターの中でも特に巨大な種を好んで狩るという、変わった嗜好を持っている。
そもそもヒロやヴィータと出会ったきっかけも、砂漠の町ロックラックに接近した超巨大古龍、「峯山龍」ジエン・モーランの撃退作戦に共に参加したことだ。かのモンスターを一目見ようと、キャラバン隊に同乗を願ってまでロックラックにたどり着いたという話は、年若いヒロやヴィータには衝撃的だった。
そうして超大型モンスターに挑みまくり、ついでにやたらと都市防衛にも貢献することになり、いつの間にかついたあだ名が「巨竜殺し」。彼女はこう見えても、ハンターの中では結構な有名人なのである。
「そういえば今回の調査って、未開拓領域に住むっていう古龍種の調査が第一目標でしたっけ......そりゃあ、何だかんだと古龍と戦いまくってるリゼさんにお声がかかるわけだ」
「そういうことかもね。おまけに『ユクモの英雄』ヒロ様までお呼びとなっては、こりゃあ龍歴院も相当本気だよ」
「やめてくださいよリゼさん。僕はただの村付きのハンターです」
困った顔を浮かべたヒロを見て、リゼは何をいまさら、と肩をすくめる。
「ユクモ村近辺に居付いた雷狼竜を討ち取って、おまけに霊峰を占拠してモンスターを村の方へと追いやっていた古龍まで退けたんだろ?龍歴院の連中からすれば、君はまさに対古龍戦の切り札なんだろうさ」
リゼが語ったことは事実である。
ヒロの故郷、ユクモ村を襲った、モンスターの増加と原因不明の大嵐。
彼はその元凶となった古龍、「嵐龍」アマツマガツチをその身ひとつで追い払い、若くして「ユクモ村を救った英雄」とまで呼ばれていた。
確かに龍歴院にしてみれば、今回の調査に同行するハンターとしてヒロを選ばない理由はないと言えた。
「これは噂話に過ぎませんが、ドンドルマの歴戦のハンターが一人、乗船を辞退したとも聞きました。同行を快諾してくれたハンターがいたことは、彼らにとってまさに僥倖だったのでしょう」
「それは......そうなのかもしれないけど」
右手に握っていた三度笠を抱え込み、俯く。
しばしの逡巡の後に、もう一度2人を見据える。
「......分かった。もとより、僕に出来る限りのことはするつもりだよ」
「ははっ、それでこそ君だ。あたしも負けてられないな!」
「それはこちらの台詞ですよ、リゼさん。私だって強くなったことを見せてやります」
朗々と笑うリゼ。いつもと変わらぬ静かな口調のまま、闘志を燃やすヴィータ。
口々に言い合う狩人たちを見て、ヒロはふっと微笑みながら、三度笠を被り直す。
カランカランと、小気味よい鐘の音が鳴ったのはその時だった。
その鐘の意味を、3人は承知していた。この龍識船に新しい船員を運ぶ、合流船が近づいてきた合図だ。ヒロとヴィータは出航時から乗船していたが、リゼは数日前にこの合流船で到着していた。
「今日合流するハンター、何処の人だっけ」
「ベルナ村の代表という話でしたが......龍歴院のお膝元なのに、途中合流なんですね?」
「あーそれ、なんかベルナのハンターズギルドが緊急クエストを発令したらしくて、それに駆り出されて遅れたんだってさ。今回来るハンター、そのクエストでだいぶ活躍したらしいよ」
手すりに掴まったまま、リゼがんー、と遠くを見るように身を乗り出す。
ほどなくして、船首方向から丸い影が近づいてきた。
「お、見えてきたぞ......って、おい、あれ!」
嬉しそうに飛行船へ指をさしたリゼは、真っ先にその異常に気づき瞠目した。
合流するにしては速すぎる速度。明らかにふらついた危うい動き。
そしてだんだんと近づく飛行船にとりつくように、周囲を飛び交う黒い影。
船首に駆け寄ったヒロとヴィータも、すぐにその意味するところを察知した。
「リゼさん!?あれって!」
「あぁまずい......飛行船がモンスターに襲われてる!」
リオハートとかいうMHXX未登場の防具が思いっきり出てきてますが、
ゲームでも各地からハンターが乗って来てますしこういうのもアリかなと。
性能的には他作品(4Gとか)の上位相当と考えてくださいませ。