恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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第一章、最終回です。
キリがいいんでクエストレベル(村☆7~10)ごとに章で区切ることにしました。


第八話「斬鉄の剣、不壊の意志」

自分の狩りを支える物は何か。

ハンターたちにそんな質問をすると、おおよそ半分は「自分自身の技術だ」と言い、もう半分は「鍛え上げた武器だ」と答えるという。

強靭な爪や牙もなく、火炎や雷撃を操れるわけでもない脆弱な人間が、強大なるモンスターと同じ地平に立って戦う。そのために、武器や防具がどれだけ重要であるかは言うまでもないだろう。

故にそれらを造り上げる鍛冶師たちもまた、狩人たちとともに技術を磨き、進化し続けてきた。

 

その代表ともいえるのが、技術革新によって生み出された、過去になかった全く新しい性質を持つ武器たちだ。

長大な槍に砲撃能力を備え、飛竜の放つ火焔すらも再現して見せた銃槍(ガンランス)

狩りを助ける「操虫」と共に、空中を利用した立体戦闘を実現した操虫棍。

剣と盾を合体させ大戦斧とし、属性の力を込めた規格外の一撃を叩き込む盾斧(チャージアックス)

そして剣と斧、2つの姿を切り替えることで、止めどない連続攻撃を可能とした可変武器――それこそが、剣斧(スラッシュアックス)と呼ばれる武器である。

 

「こんにちは。例のヤツ、受け取りに来たわ」

「おう、来たか!待ってたぞ!」

 

龍識船に隣接し、空中拠点としての一翼を担う飛行商船「ウリカイ」号。

その中に設けられた空中工房を訪れたルナを、加工屋の鍛冶師は豪気な笑顔で出迎えた。

 

どうやら要件は言うまでも無いらしく、鍛冶師の号令で店員が慌ただしく動き出す。

店の奥から持ち出され、加工台の上に載せられたのは、布にくるまれた巨大な武器だった。

 

「それじゃあ、見せてもらおうかしら」

 

ルナの手が布にかかり、その中身を露わにする。

中から姿を表したのは、折り畳まれた一本の剣斧だった。

基部(フレーム)は吸い込まれるような漆黒。左右に取り付けられた斧刃と剣刃には羽根を思わせる細かい刃が並び、その先端だけが純白に染まっている。

刀身に転用された鋭い刃翼は、「迅竜」ナルガクルガのものだ。

 

「これが......動かしてみても?」

「おう、精度調整も済ませておいたぞ」

 

両手で剣斧を掴み、持ち上げる。

そのまま手元のロッキングレバーを引くと、日差しを受け鋭く輝く刀身が、頑丈な軸部の両側を勢いよく駆け上がっていく。

2つの刃が先端で組み合わさることで、折り畳まれていた武器は瞬く間に大斧へと転じた。

 

先端に一気に重さが寄った武器を取り落さないように気を付けながら、ルナは続けて変形機構を作動させる。

斧刃が根本へと戻っていくと同時に、剣刃は先端から回り込み、斧刃と同じ側のレールを駆け下りていく。2つの刃が並んだところで刀身の向きをひっくり返せば、そこには紛うことなき大剣が現れていた。

これこそが、剣斧の変形機構――その特性の根幹を担うシステムである。

 

「どうだ?」

「文句なし。素晴らしい出来だわ、ありがとう。これで漸く本気の狩りが出来る」

 

新しい武器の出来に頷きながら、ルナは答えた。

 

ルナが今まで使っていたスラッシュアックスは、飛行商船が販売していた量産品を、有り合わせの素材で加工屋に補強してもらったような代物だった。というのも、搭乗していた合流船がバルファルクに墜とされた際、持ち込もうとしていた武器類も全て喪失してしまったのである。

 

龍歴院お墨付きの質のいい武器とはいえ、所詮は量産品。なるべく早く新調したかったが、素材を集めようにもそもそもこの武器で大したモンスターを狩れる気もしない。

そこでルナが思いついたのが、定期便を利用してベルナ村の拠点から素材を取り寄せ、それで龍識船の加工屋に武器を作ってもらおう、という計画だった。

 

「なんせあの『白疾風』の素材だからな。加工屋の腕の振るいどころってもんだ」

「そいつはどうも。ベルナから取り寄せて正解だったわね」

 

今回このスラッシュアックスを造るのに使われた素材は、ただの迅竜のものではない。

迅竜の中でも特段に高い俊敏性と膂力を誇る個体――その漆黒の体表に走る白い紋様から「白疾風」の二つ名を冠する特別なナルガクルガから得られたものだ。

 

「しかし、白疾風はかなりの強敵だって聞くぞ?よく狩れたな」

「仲間のおかげよ。私がアイツを引き付けているうちに、横合いからドン、とね」

 

ボウガンを撃つそぶりをして見せると、鍛冶師は愉快そうに笑った。

 

「そいつは、頼りになるガンナーがいたもんだ」

「......えぇ、本当に。あの子には何度も助けられたわ」

 

武器を置き、小さくため息をつく。

 

龍識船で過ごした、たった数週間の日々の中で。

ルナはもう数えきれないほど、あの少女の面影を思い出していた。

別に忘れようとしていたわけではない。ただ、思い知らされた。

ステラの存在はルナにとって、それだけ大きいものだったのだと。

 

もし、己の狩りを支えるものは何かと問われれば......ルナは迷わず「仲間」だと答えただろう。

龍識船に乗ったことで、ルナは沢山の新しい「仲間」を得た。

それと同時に、長く苦楽を共にしてきた大切な「仲間」を失った。

けれど、残されたものは確かにあったのだ。

 

「それじゃあ、こいつは貰っていくわ。また頼むと思うから、その時はよろしく」

「応とも。何時でも待ってるぜ」

 

だから、狩人は未開の空を往く。

新たに得たものを、失くさないために。

残されたものを、守り抜くために。

 

 

空に浮かぶ龍識船に、今日も一隻の飛行船がやって来る。

出航当初は2人しかいなかったハンターも、合流船によって徐々にその数を増やし、狩場と龍識船を行き来する便の数も増えていた。

 

小型船から龍識船の甲板へ乗り移るハンターたちの元に、研究服姿の少年は駆け寄っていく。

狩人の旅立ちを見送り、そして帰還を出迎える。年若い調査隊の隊長は、その2つを欠かさないことを信条にしていた。

 

「お帰りなさい、皆さん」

「あ、ハイメル隊長、出迎えどうも」

「お疲れ様です。『土砂竜』ボルボルスの狩猟、無事完了しました」

 

最初に降りてきたのは、ユクモ村から来た少年ヒロと、タンジアの港出身の少女ヴィータ。

龍歴院のお膝元であるベルナ村の代表が乗り遅れてしまったことから、出航時から乗船しているハンターはこの2人だけだった。

 

ヒロはユクモ村を襲った古龍の脅威を退け、若くして「ユクモの英雄」とも称えられる一流の狩人だ。今回の調査隊の切り札として、ハイメルも期待を寄せている。

ヴィータは一見、ハンターとは思えないほど小柄で可憐な少女。だが幼いころからハンターに憧れ磨き続けたという技術、そして何よりその誇り高い狩人としての意識は本物だ。数年前タンジアを襲った煉黒龍の脅威にも、恐れることなく立ち向かったと聞いている。

 

「いやーお疲れお疲れ。しかしなかなか強かったじゃないか、そのスラッシュアックス」

「みんながしっかり武装してるのに、私だけいつまでも間に合わせってわけにはいかないもの。これなら当面は、何が相手でも大丈夫だと思うわ」

 

続けて話しながら歩いてくるのは、2人の熟練の女性ハンターだ。

大弓を担ぐのは「巨竜殺し」ことリゼ。その異名通り超大型のモンスターの狩猟を愛し、都市の防衛戦にも何度も貢献していることから、ギルドからの推薦を受けて第一次合流船で調査隊に加入した。話してみると思っていたよりもフランクで驚いたが、先のバルファルクを撃ち抜いた時といい、その名声に違わぬ弓の腕前には驚かされるばかりだ。

 

そしてリゼの横にいる剣斧を担いだハンターが、ベルナ村出身のルナ。

ベルナ村近くに現れた古龍『骸龍』オストガロアの討伐作戦で、弟子であるステラというハンターと共に活躍したという。

2人は揃って第五次合流船で龍識船に来る手筈だったが、今ここにいるのはルナ1人のみ。

第五次龍識船をバルファルクが襲った際、ステラは脱出に間に合わず、そのまま行方不明となってしまったのである。

 

彼らはバルファルクとの遭遇戦で偶然にも共闘した後、そのまま4人のパーティとして狩りを続けていた。個々の錬度の高さもあり、もう龍識船の主力チームのようになっている。

 

「お疲れ様でした。皆さんが狩りに行っている間に、龍歴院とギルドからの返答が来ました」

「おっ、どうでした?」

「バルファルクの追跡調査及び、そのための龍識船改造の許可が降りました。もっと慎重になると思っていましたが......意外とあっさりで」

 

これからこの龍識船は、空中拠点としての役割を続けつつ、バルファルク調査に向けて改良されていくことになる。今は操船担当や研究員、後はハンターくらいしかいないこの船だが、これから資材や技師も増えていく予定だ。

 

「ここからが本番、ということですね」

「船の改良にはモンスターの素材も必要になるので、その時はまた狩りをお願いすると思います」

「ふふっ、任せとけ。どんな大物でも狩ってきてやるぞ」

 

盛り上がる一同。その中で、ルナだけは静かにハイメルの報告を受け止めていた。

 

「......隊長。バルファルクの追跡許可が出たってことは、あの件も話したのよね?」

「......はい。後腐れを残すわけにはいかなかったので。

空中拠点としての運用を続けて安全を示したうえで報告するという、ルナさんの案で正解でした。ですがステラさんに関しては......公式に、死亡と判断されました」

「......分かったわ。ありがとう」

 

一言だけそう返して、ルナは船室の方へと歩いていく。

 

「そうだよなあ。確かにこうして拠点として成立しちゃえば『危ないから帰ってこい』なんて言えないよな......」

「ルナさん、そこまで考えて今は黙っていてくれって......」

 

リゼとヴィータが呟く傍らで、ヒロは黙ってルナの去っていった方を見つめていた。

彼女のために、自分には何ができるか。

何度空を見上げ考えてみても、やはり答えは一つだった。

 

「ヒロさん」

「隊長......」

「ルナさんは、立ち止まらずに進み続けることを選んだ。

なら僕たちも、迷わずに進みましょう」

「......はい」

 

だから、狩人は未開の空を往く。

課せられた使命を、果たすために。

託された遺志に、報いるために。

 

 




[次章予告]
未だ届かぬ天の頂へと挑むため、必要なのは龍識船の改良。
船体強化のための素材を求めて、ルナたちは空で結ばれた拠点を巡る。

さらなる力を得るために。かの龍への復讐を果たすために。
我武者羅に前へ進もうとするステラに、大自然は過酷な洗礼を下す。


抗うことを諦めるな。
可能性を手放すな。
絶望の夜が明けるときに、希望の星はきっと灯るのだから。

第二章「☆8 生命ある者へ」


――駆け抜けろ、滾る本能のままに
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