恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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大変お待たせ致しました。
先月後半学業が忙しく全然作業できなかったところに、
面白い筋書きがなかなか思いつかずに気づけば半月......
年も明けたのでこれから頑張って進めていきたいと思います。


第二章「☆8 生命ある者へ」
第九話「闇より現れし者」


きっかけは、ほんの些細なことだった。

他人よりもちょっと、狩りの才能があっただけ。

他人よりもちょっと、自分の居場所を守りたい気持ちが強かっただけ。

その気持ちのままに突っ走って、突っ走って、突っ走って。

気が付いたら、「英雄」と呼ばれていた。

 

それを重荷と感じたことはあっても、苦痛と感じたことは無かった。

誰かに憧れ、誰かに想いを託すことは、人として当たり前のことだから。

ただ、1つだけ心配なことがあったとすれば。

自分がその「託されるべき存在」なのか、ということだった。

 

だから、ずっと探し続けている。

信じてくれる誰かを、裏切りたくなくて。

そんな自分自身すらも、信じ切れなくて。

ありもしない「英雄の証」を、今日も探し続けている。

 

 

「......ロ、ヒロ」

 

とんとんと頭を小突かれ、ヒロは微睡みの中から目を覚ました。

 

「ふあっ!?......なんだヴィータか」

「なんだ、って何ですか。珍しいですね、ヒロがこんなところで寝ぼけてるなんて」

「寝ぼけて......あぁ、寝そうになってたのか僕......」

 

立ち上がった拍子に頭から落ちそうになった笠を、慌てて受け止める。

ヒロが座っていたのは、龍識船のちょうど中央あたり。船を浮かせる巨大な気球内を温める、加熱器(バーナー)台の根元に新設されたベンチ。

先日ユクモ村から船の補強材に提供された特産品の木材の余りを使って、船大工にも手伝ってもらいながら、ヒロ自身が拵えたものだ。

 

「この木の感じが懐かしかったのかな。つい安心しちゃって」

「気持ちは分かりますけど、そろそろミーティングですよ。急いでください」

 

とてとてと小走りで先を行く黒髪の少女を追って、船内への階段を降りていく。

下った先に広がっていたのは、船内前方のスペースを利用した資料室――乗員には「研究室」と呼ばれている場所だ。壁の一面を丸々使った本棚にはぎっしりと書物が詰め込まれ、古いものから新しいものまで集められた世界地図や、ヒロの背丈ほどもある大きな天球儀も置かれている。

 

既に部屋には、数人のハンターと研究員の姿。勿論、ヒロと同じチームである3人の顔も。

集まった面々の前では、調査隊隊長と一匹のアイルーが、せっせと何かを準備していた。

 

「これでよし、と。そろそろ時間ですけど、全員集まってますか?ヒロさんとヴィータさんが来てなかったような」

「いますっ、ここにっ......!」

「そんなぴょんぴょんしなくても見えるって。すいません、遅くなりました」

 

背の高いハンターの後ろから必死に顔を出そうとするヴィータに苦笑しながら、横合いからハイメルの方へ手を振る。

 

「......揃ったみたいですね。それではミーティングを始めます。とは言っても、また必要資材の説明になりますが」

 

ハイメルの口から説明されたのは、現状の龍識船の状況、そしてこれから必要になるものについての調達依頼だった。

ユクモ村から提供された木材によって船体を補強した後、龍識船調査隊は動力部の改良に着手した。豪雪地帯であるフラヒヤ山脈麓の「ポッケ村」で採れる、常に冷気を発する特殊な鉱石と、原生林近くで採れる逆に常に熱を発する鉱石の2つを使い、バルファルクを追跡するに足る推進力を得ようという計画だ。

 

そしてそのためにさらに必要になるのが、機関部や船体を強化するためのモンスターの素材だった。

 

「[迅竜]ナルガクルガ、[氷牙竜]ベリオロス、[溶岩竜]ヴォルガノス、[水竜]ガノトトス。これらのモンスターの素材が必要になります」

「ネコ2匹と魚2匹ってわけか......」「いやリゼさん、その例えはちょっと」

 

リゼの雑すぎる比喩にツッコミを入れながら、ヒロは思案する。

4体のモンスターは生息域もバラバラ、しかも全員がそれなりに強敵だ。

 

「長期戦になりそうですね。4体とも都合よく現れてくれるとは限りませんし」

「我々もそう考えていましたが、意外とそうでもないかもしれません」

「......と、言うと?」

 

ヒロの問いにハイメルが答える代わりに見せたのは、数枚のギルドからの依頼書だった。

 

「現在、フラヒヤ山脈にベリオロスが、渓流地帯にナルガクルガが目撃されており、狩猟依頼が出ています。特にこのナルガクルガが曲者のようでして......近傍のユクモ村が単独では対処が難しいと判断し、龍歴院に依頼を出す事態になっています」

「――!!」

 

ヒロは目を見開いた。

元々ユクモ村はモンスターによる被害が少なかったこともあり、他の拠点と比べてハンターによる防備が手薄な村だった。ジンオウガが渓流に出現した一件以降常駐するハンターは増えていたはずだが、それでも手に負えないということか。

 

「千載一遇のチャンスであり、同時に危険な狩りになるかもしれないってことですね」

「その通りです、ヴィータさん。なので我々としては、精鋭パーティを編成して順番に狩猟していければなと......」

「待ってください、ハイメル隊長」

 

ハイメルの提案を、ヒロは途中で遮った。

 

「ヒロさん?」

「ナルガクルガの討伐は......僕に行かせてください」

 

突然の申し出に、驚いた面々の視線がヒロに集まった。

 

「ど、どうしたんだヒロ?別にいつも通り4人で行けば......」

「現状の村のハンターだけで対処しきれない状況になってしまったなら......それは留守にした僕の判断ミスです。僕は、村を守りたくてハンターになったのに......!」

 

声が震える。

自分の不甲斐なさに、拳を固く握りしめる。

 

――言うまでもなく、ヒロの自分への怒りは見当違いなものだ。

ユクモ村だって「ヒロ抜きでも大丈夫」と判断して彼を龍識船へ送り出している以上、この事態はギルドの判断ミス、あるいは誰も予想できなかった、純粋なイレギュラーでしかないのだから。

だが少年の青臭い――あるいは純朴な正義感は、自分自身を許すことが出来ずにいた。

 

「お、おいヒロ......」

「......勘違いしないで、ヒロ君」

 

鋭く飛んだ声に反応する間もなく、目深にかぶった三度笠が無理矢理どかされる。

広がった視線の先でこちらを覗き込んでいたのは、ルナの藍色の瞳だった。

 

「本当に故郷を助けたいって言うなら、使える物を使わないでどうするのよ。

それであなたが負けたら、その時が一番情けないわ」

「......ルナさんの言う通りですよ、ヒロ。チームのことをもっと信じてください」

 

ヴィータの言葉を聞いた拍子に、すっと顔の熱が引くのを感じた。

やるせなさの代わりに気恥ずかしさが頭をもたげ、思わず笠で顔を隠してしまう。

 

「皆......ごめんなさい。僕が軽薄でした」

「ははっ、たまにはそういう時もあるさ。ヒロの時々素直すぎるところ、あたしは好きだぞ?」

「いや、何言ってんですかリゼさん......」

「......こほんっ。えーっと、方針は決まったみたいですね」

 

割り込んだハイメルが、全員をもう一度見渡した。

 

「渓流に居座っているナルガクルガの討伐は、ヒロさんたちのチームに担当してもらいます。フラヒヤ山脈のベリオロスは、残りの面々で編成を決めましょう」

 

現状最も強いチームが、強敵と目される迅竜の狩猟に向かう。ハイメルの決定に異論は出なかった。

 

「それでは......お願いしますよ、ヒロさん、皆さん」

 

4人の狩人は、力強く頷いた。

 

 

ユクモ村周辺に広がる渓流地帯は、狂暴なモンスターの出没が比較的少ないということもあり、他の狩場に比べて人間の行動領域の趣が強い。豊かな森林から得られる木材が、温泉を活かした観光業と並び、ユクモ村を支えていることからも分かるだろう。

しかし、大自然は何の予兆もなく牙を剥く。

突如として襲い来る災禍により、生活領域が奪われるということもまた、歴史の中で繰り返されてきたことだ。

 

「空は変わらず快晴、か。こんな時にナルガクルガが現れるとも思えませんけど」

 

呟いたヒロが寄りかかっている、崩れた住居の跡。

かつてここにあった人の営みが、何らかの理由で奪われたことを伝える名残の1つだった。

 

「まあ、居るとしても奥の森の中でしょうね」

「戦うなら相手のテリトリーの中でってことか......面倒だな」

「こちらが侵攻、あちらが防衛、仕方のない事です」

 

警戒を怠らないようにしながら、狩人たちは森の奥へと進んでいく。

快晴の昼間であっても、奥まった森の中は暗い。発達した聴覚を武器とするナルガクルガにとっては格好の縄張りだろう。

敵の姿は見えずとも、もうここは戦場だ。ヒロは無意識に、双剣を握る手に力を込めた。

 

そして。

目指していた「敵」との邂逅は、思いがけない形で訪れた。

 

「なあ、おい......あれって......」

 

熟練のハンターであるはずのリゼが、声を震わせていた。

 

「間違いない、けど......」

 

武器を構えることも忘れ、ルナが眼前の景色に瞠目していた。

 

「何ですか......何なんですか、あれ......!?」

 

片手剣を握りしめるヴィータの手は、小さく震えていた。

 

深い森の奥。

林立する頑丈な木々が、悉くなぎ倒され、切り裂かれていた。

辺りに転がった木肌を彩るのは、紅いモンスターの鮮血と、砕かれ飛び散った蒼い甲殻。

広がった破壊の跡の、その中央。

血塗れで倒れた「青熊獣」アオアシラの亡骸に前脚をかけるようにして、辺りを見回す1頭の迅竜。

その強靭な翼脚は、不気味な紅い炎を纏っていた。

 

そんな、明らかに異常な暴威の光景を前にして――ヒロは一歩、踏み出した。

 

「お、おいヒロ......!」

「臆してる場合じゃありません!あれは、このまま見逃しちゃいけない......!」

 

それは狩人としての直感であり、確信だった。

眼前の竜が例え何者であろうと、ここで止めなければならない。

大切な故郷を、守るために。

 

「くそっ、分かったよ!ヴィータ!怖かったらあたしの前!盾くらいは出来るだろ!」

「は、はい......!」

「私はヒロ君と前に出る!ヒロ君、斬り込み役は頼めるかしら?」

「......勿論ですよ、ルナさん」

 

双の雷剣を抜き放ち、少年は叫んだ。

 

「僕は......『ユクモの英雄』だ!」

 

飛び出した狩人を前に、迅竜が風を切るような咆哮を上げる。

戦いが、始まった。

 




「ベリオは☆9では?」と思われたかもしれませんが、
たぶん後々で話に盛り込む尺がないというのと
この段階で本格的な船体強化までやりきっててもいいんじゃないかと思って
もうこのタイミングで突っ込んじゃいました。
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