恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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久々の更新でございます。
こっからはまたジャンボ村のターン。


第十一話「災厄を刻む彗星」

澄み切った快晴の空に、天高く昇る太陽。

臨海の村に降り注ぐ強い日差しに照らされて、緑銀の鎧が小さな煌めきを放つ。

 

「どうですか?合わないところとかありませんか?」

 

鍛冶師の青年に尋ねられ、軽く手足を曲げ伸ばす。

関節部が身体に合わせて問題なく動くことを確認して、狩人の少女は小さく頷いた。

 

「......うん。大丈夫」

「良かった。では最後にこれを」

 

革のグローブをつけた手で受け取るのは、小さなゴーグルのついた緑色の戦帽(キャップ)。純白の髪を覆い隠すようにして、それをかぶる。

こちらに合わせて鍛冶師が向けた姿見に視線を映して、少女は思わず目を見開いた。

 

ドレスと甲冑を融合させたような、力強さと美しさが同居する鎧。ガンナーの使用を想定して利き腕側の装甲は最小限になっており、全体として左右非対称のシルエットを描いている。鉄鋼のフレームを基礎として全身に配された緑色の甲殻は、言うまでもなく[雌火竜]リオレイアのものだ。

少女は後ろへ振り返ると、気恥ずかしそうに肩をすくめた。

 

「あの......似合って、ますか?」

「......控えめに言って最高に」「勿論ですニャ!超かっこいいですニャ!」

 

嬉しそうに肉球のついた手を叩くアルマの横で、何故か天を仰ぐフォス。

装備の新調をしようという提案は、彼らによるものだった。ただでさえ武器を無くしていた上、発見されたときに着ていた防具も修繕こそしたものの、ダメージが大きくいつまた壊れるか分からなかった。

何度か狩りに同行し、分配された報酬で必要な素材を確保......そして、今に至る。

 

「こんなにかっこいい防具、似合わないんじゃないかと思ったけど......」

「ほっ!何を言うかね。雌火竜を狩れる実力のハンターに、雌火竜の防具が似合わないわけないだろう?」

 

鍛冶師の青年の傍らで、使い込まれたスミスミトンをつけた小柄な老婆が笑う。

彼女こそこの工房の主であり、人の身にして竜人族の加工技術を受け継いだことで知られる熟練の鍛冶師だ。この防具を仕立てたのも彼女である。

 

「『毒クモリ』の防具も悪くはないが、この辺りで使うには湿っぽすぎるからね。

リオレイアはまたの名を『陸の女王』、その鱗の緑は大地の緑さ。景色にも溶け込める。

……さて、あっちの方も持って来てもらおうかね」

 

老婆の合図で、弟子の鍛冶師が工房の奥へと引っ込んでいく。

しばらくして弟子が持ってきたのは、赤い甲殻に覆われた一丁の重弩だった。

 

「アルバレストの外装を怪鳥の素材に置き換えた『イャンクック砲』です。どうですか、師匠?」

「ふむふむ......うむ、合格だよ。武器の方は任せきりにしてたけど、これなら問題ないだろうさ」

 

「いよっし!」と小さくガッツポーズする弟子をよそに、少女は加工台に置かれた重弩へと手をかける。

「アルバレスト」と比べると細身だが、フレームを構成するのは耐火性に優れた[怪鳥]イャンクックの素材。耐久性と最大火力は、あちらとは比較にならないだろう。

 

「リオレイアに比べたら箔は落ちるかもしれませんが、火力だけなら勝るとも劣りませんよ。修理も簡単ですしね」

「その代わりに反動は大きめだがね。けっこうなじゃじゃ馬だが、使いこなせるかい?」

「大丈夫ですよ。ボクの『スタイル』には、このボウガンが丁度いい」

 

「イャンクック砲」を受け取り、そのまま背負う。

木材フレームのボウガンと昆虫素材という組み合わせだった以前の装備と比べると、総重量はかなり増えている。だが、これは言うなれば信頼の重さなのだろう。

記憶を失った身であるにも関わらず、装備から確かに感じられる「力」......それを感じ取れるのが、やはり自分は狩人なのだという確信を、少女に与えていた。

 

「怪鳥のボウガンに雌火竜の防具。なんだか一気にジャンボ村のハンターらしくなりましたニャ」

「えへへ......ありがとう、アルマ君」

 

照れ気味に微笑んだ少女は、隣のフォスへと向き直った。

 

「フォスさん、早速なんですけど」

「分かってますよ。狩りに行きたいんでしょう?とはいえ装備を変えたばかりなら慣熟訓練も必要ですし......そうだ、ちょっと待っててください」

 

そう言い残して、酒場の方へと走っていくフォス。

酒場と工房は村の中心を挟んで正反対の位置だが、そこまで広いわけでもないジャンボ村、それでも大した距離にはならない。

少しして戻ってきたフォスは、パティから借りてきたと思しき1枚の依頼書を抱えていた。

 

「狩猟依頼じゃないんですけど、龍歴院から変わった依頼が来てまして」

「龍歴院......?ギルドとは違うんですか?」

「ギルドと連携して、モンスターの生態調査を行ってる研究機関ですニャ。それで、龍歴院さんが何の依頼ですかニャ?」

「最近、狩場に見慣れないモンスターの鱗が落ちてることが増えたらしいんです。未発見だった古龍が落としたものかもしれないので、集めて欲しいとのことです」

 

言いながら、フォスが依頼書を見せる。

指定された狩場はテロス密林。内容は、特異な落着物の調査及び回収。

クエスト詳細が書かれたスペースの端には、龍歴院が見つけた新種の古龍――紅い翼を広げた黒き龍の紋章(エンブレム)が、小さく描かれていた。

 

 

晴天に恵まれた、昼の「密林」。

燦燦と日差しが照らす白い砂浜に、戦靴の足跡が刻まれていく。

 

アルマと共にベースキャンプに到着した後、2手に分かれて海岸側・山側を調査することとなった。フォスは別件で同行できなかったため、アルマと別れたら1人だ。

 

ぽつりと砂浜を歩く少女の頬を、潮風が撫でて行く。

時折砂の中から顔を出すヤオザミ――密林に住む小型の甲殻種だ――を避けながら、岸壁に挟まれた海岸を進んでいると、不意に拓けた場所に出た。

 

「うわぁ......」

 

辺りに広がる景色に、思わず声が出る。

澄み切った海に面した砂浜。生い茂る木々の間から口を開く洞窟の入り口。

テロス密林という地域をぎゅっと凝縮したような、美しい海岸......その一角に、少女の視線は否が応でも吸い寄せられた。

 

これ見よがしに砂浜のド真ん中に開いた、小さなクレーター。

中央にはまるで誰かがわざと置いていったかのように、一本の細長い鱗が突き刺さっている。

 

「フォスさんが言ってたのはこれか......」

 

景観を思いっきり害する落着物に少し顔をしかめながら、クレーターへ近寄る。

数歩歩いたところで足元の振動に気づき、少女は慌てて飛び退いた。

少女の足音に反応したのか、近くからもさもさとヤオザミが顔を出し......どういうわけかすぐに引っ込んでしまった。

 

「あれっ?もしかして、この鱗のせい......?」

 

改めて鱗に近づき、日差し避けのゴーグル越しに観察する。

片手で運べそうなほどのさして大きくもない鱗......しかしよく見れば、黒く灼けた表面の亀裂から、紅い輝きが漏れている。

 

「......触って大丈夫なのかな、これ」

 

フォスに見せられた依頼書には、可能であれば回収、とあった。

いったん様子を見ようと、恐る恐る左腕の籠手先で鱗に触れた......その時だった。

 

「......っ!?うああっ!」

 

紅い光が僅かに強まったと同時に、耳鳴りが少女を襲う。

耐えきれず、砂浜に膝をつく。視界も眩む中、誰かの声が聞こえた気がした。

 

『向こうにはもう大勢のハンターが――』

『何やってる!お前が背負ってるのは飾りか――』

 

「この、声は......っ!?」

「....い、おーい!」

 

止んでいく耳鳴りに変わって、聞きなれた声と砂浜を踏む音が重なる。

正面を見ると、鋼の防具に身を包んだアルマの姿があった。凄いスピードでこちらに駆け寄って来ている。

 

「アルマ、君......!?」

「危ないニャ!そこを離れるニャ!!!」

 

「えっ......!?」と返事をする間もなく、突然強い風が吹き付ける。

動けなくなる前に反射的にその場を離れ、少女は振り返った。

 

「これって、まさか!?」

「よりによって、一番厄介な奴が来やがりましたニャ......!」

 

大翼の羽ばたきが巻き起こす風と共に、それは砂浜に舞い降りた。

イャンクックにも似た、巨大な鳥を思わせるシルエット。

しかしその体躯は[怪鳥]よりも一回り大きく、全身を覆う鱗は闇夜の如き黒紫色。

 

「イャン、ガルルガ......!」

「イャンガルルガ......!?うっ!」

 

アルマの口からこぼれでた名前を聞いた途端、再び耳鳴りが少女を襲う。

 

『――気をつけろ、ただの怪鳥と同じだと思うな』

『私が引き付ける!遠慮なくかませ、■■■――!』

 

記憶の奥底から引き戻される、何者かの声。

否、知っている。

この声の記憶は。黒き巨鳥との対峙の記憶は。

紛れもない、自分のものだった。

 

呆然とする少女の頬に、仄かな炎熱が当たる。

人語を失い獣の咆哮と化したアルマの本気の悲鳴が、少女を現実へと引き戻す。

巨鳥の放った爆炎のブレスが、こちらへと真っすぐに迫っている――危機を認識したはずの心が、恐ろしいほどに凪いでいた。

煩わしい耳鳴りは、既に消えていた。

 

「そうだ、ボクは......!」

 

迫る火炎を前にして――ステラは、背負ったボウガンを抜き放った。

 

「こんなところで......止まれないんだ!」

 

炸裂の刹那。

身をかがめた狩人は、手にした重弩で爆炎のブレスを受け止める。

人の身では到底耐えられないはずの衝撃と熱――その全てをイナシ、無力化する。

次の瞬間には、飛び退いた狩人の真横を爆炎が過ぎ去っていた。

 

「ニャ......」

 

爆炎の余波で軽く吹き飛ばされていたアルマの大きな瞳が、立ち上がる少女の姿を映す。

力強く大地に立つ、「陸の女王」の鎧。

自身よりも遥かに強大なモンスターへと向けられる、紅蓮の砲。

それは彼が一匹のオトモとして見てきた、偉大なる先達たちと同じ姿。

大自然に真っ向から立ち向かう一人の”狩人”が、そこに居た。

 




謎の美少女ガンナー改めステラの新装備ですが、
ジャンボ村なのでMHP2G以前のレイアシリーズの外見でお考え下さい。
MHXXで言えばEXレイアシリーズですね。
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