恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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また久々の更新になってしまいました......
肝心なところなので色々と話を練ったのですが、やはりある程度勢いに任せて書いた方がいいのかもしれませんね。


第十二話「空に猛るは黒き渦」

風を灼く爆炎が炸裂した。

砂浜を焼き尽くさんとする焔の渦の中から、無数の弾丸が空へと放たれる。

弾丸はその多くが黒紫の鱗に阻まれるが、いくつかは翼膜を撃ちぬき、空を舞う[黒狼鳥]イャンガルルガを僅かに怯ませた。

 

「ったく、何度も何度もポンポンと!」

 

熱波の残滓から逃れるように、後退するステラ。

回避動作の中でも抱える武器の砲口を獲物から離すことなく、弾倉の残りを反撃とばかりにお見舞いする。

甲殻を叩く弾丸の雨を意に介さず、[黒狼鳥]は真正面へと突っ込んできた。

 

「ちっ......!」

 

その巨体からは想像もつかないスピードで突進する暴渦を前に、ステラは回避の選択肢を捨てた。

選択されたのは、武器を盾にするように正面に構えた受けの姿勢。

次の瞬間には、ステラはその衝撃をイナし、巨鳥の背後に転がり出て――

 

「ニャ~~!!」

 

と、そこまで読んでいたステラの思考を、甲高い鳴き声が吹き飛ばした。

それと同時に、目の前で炸裂する爆発音。大量の爆薬と飛散したタルの破片に勢いを殺された[黒狼鳥]は、つんのめってよろけてしまっている。

そして巨鳥と狩人の間に着地したのは......一匹のアイルーだった。

 

「あ......アルマ君!?」

「今ですニャ!」

「う、うん!!」

 

防具に仕込んだ弾倉から麻痺弾を取り出し、砲身に叩き込む。

矢継ぎ早に放たれた弾丸はもがく[黒狼鳥]の口内に飛び込み、流し込まれた麻痺毒がその動きを大きく鈍らせる。

そのまま追撃に移ろうとしたステラは、ふとアルマの方を見た。

 

「アルマ君!罠とか持ってる!?」

「お任せくださいニャ!」

 

ダメもとで飛ばしだ指示に、アルマは当然のように肯定を返した。

滑るように巨鳥の足元へと飛び込んでいく矮躯。地面をしばらくがさごそと掘り返したかと思うと、目にもとまらぬ早業で罠が設置される。

僅かなタイムラグを置いて強烈な電磁波が地面に広がり、[黒狼鳥]を完全に麻痺させた。

 

「よっし!だったら後は......!」

 

機は訪れた。不敵な笑みを浮かべ、ステラはその場にしゃがみ込む。

抱えたボウガンは、ただ弾丸を放った時以上の熱を持っていた。リロードの度に弾丸と同時に砲身に浸透させていた薬剤が、連射によって効果を示し始めた証拠だ。

防具から引っ張り出すのは、火炎弾を大量に装填した速射用弾帯。狙うのは、前方でふらふらと揺れる[黒狼鳥]の頭部。

 

「喰らえ......!!」

 

砲口が唸りを上げ、怒涛の連射を開始した。

しゃがみ撃ちによる高速射撃......薬剤によって通常のそれすらも上回る威力と速度を獲得した加速射撃(ボルテージショット)が、動けない[黒狼鳥]を焼き尽くさんと殺到する。

罠にかかった[黒狼鳥]に避けることなどできない。飛翔した弾丸すべてが直撃し、爆炎がその巨躯を彩った。

 

「やったニャ!」

「......アルマ君、下がって」

 

歓声を上げるアイルーを背後に追いやり、ステラは立ち上る砲煙の先を見据える。

ばさりと、大きく舞い上がる傷ついた翼。

罠から解放された[黒狼鳥]は、痛撃を与えた敵を赫怒の形相で睨みつける。

ステラもそれに応じるように、新たな弾倉に手を伸ばした――その時だった。

 

「!!」

「ニャ......!?」

 

キィン――と、鋭い耳鳴りがステラを襲った。

 

「今のは――!?」

 

身に覚えのある嫌悪感に、思わず振り返る。

[黒狼鳥]の暴威にさらされ、あちこちを荒らされた砂浜の中央。

クレーターだった場所に転がった黒い龍鱗に、脈動するような紅光が灯っていた。

 

「――!!」

 

ぞくりと、悪寒が背筋を走った。

その輝きは、まさにあの「龍」と同じもので――

 

「危ないっ!」「えっ......うわあっ!!」

 

アルマの声とほぼ同時に、凄まじい風圧がステラを襲った。

暴風を受けきれず、砂浜を数歩分転がされる。

慌てて立ち上がったステラの目に映ったのは、豹変した[黒狼鳥]の姿だった。

 

「なっ......なんだよ、お前......!」

 

不気味に黒く燃え立つ炎を嘴から立ち上らせ、狂鳥が咆哮を上げた。

 

 

ステラとアルマが密林へ発った、少し後の事。

村に残ったフォスは、ギルドからの通告を前にして、パティとともに愕然と佇んでいた。

 

内容は、龍歴院から齎された研究結果と、各地で起こる「モンスターの狂暴化現象」についての予測だった。

先日ユクモ村を襲ったナルガクルガをはじめとした「狂竜化」とも違う謎の狂暴化......その原因は、各地で目撃されるようになった黒い龍鱗である可能性が高いというのだ。

 

「思ったより早く結論が出ましたね。流石モンスターの生態研究の最前線。しかしこれは......」

「どう考えてもマズいですよね!?アルマ君たち、もう密林に行っちゃいましたよ!?」

「落ち着いてくださいパティさん。今後の対応についても書いてあります」

 

フォスはそう言って、別の書類に手を伸ばす。

 

「これまで通常の採取クエストとしていた龍鱗の調査依頼を、より危険度の高い特殊調査依頼に再指定。並びに龍鱗が観測されたエリアを要警戒区域とし、大型モンスターの出現が確認された場合は当該区域を管轄するギルドから早急な鎮圧を依頼......」

「そうじゃなくて、今どうするかですよ!密林の大型モンスターが暴れたりしたら......!」

「だから落ち着いてくださいって。私たちが出来ることをするまでです」

 

取り乱すパティを諫め、フォスはふうっとため息をこぼした。

 

「彼女たちが出発した段階で、密林に大型モンスターが居着いた報告はありませんでした。すぐに連れ戻しに行けば、最悪の事態は避けられるでしょう」

「連れ戻すと言っても、どうやって......」

「私がすぐに出発します。村に回ってきた依頼は他のハンターに投げてください」

 

言うが早いか、マイハウスの方へと踵を返すフォス。

パティは呆然と、その後ろ姿を眺めていた。

何とも強引だが、彼は以前からこういう人だった。押しが弱い優男に見えて、いざという時は豪胆に事態を押し切ってしまう。

 

(まるで、あのハンターさんそっくり......)

 

一人佇むパティの前を、温い海辺の風が吹き去り――

 

「......うえっ!!?」

 

視界の正面にいたフォスの頭上を、突如大きな影が覆った。

ハンターらしい見事な瞬発力で飛び退いたフォスがいた場所に、何かがゆっくりと降下してくる。

広場前の道を塞いで舞い降りたのは、ハンターズギルドの小型飛行船だった。

 

「な、なんですか......!?」

「ひ、飛行船!?ってオイ!飛行船は桟橋に泊めるルールだろうが!!」

 

あまりの事態に声を荒げたフォスは、直後聞こえた声に目を丸くした。

 

「おうすまんすまん!空でイャンガルルガにちっとばかしやられちまってな!」

 

飛行船の上からでも地面を揺るがしそうな、低く響く男の声。

それはフォスにとって、ジャンボ村の人々にとって、なじみ深い声だった。

 

「そ、その声は......でも、海路で戻って来るって......!」

「色々あってな、飛行船を使わせてもらったんだよ!いやー久しぶりだな、フォス!」

 

言うが早いか、声の主は「とうっ!」と掛け声を添えて、飛行船から飛び降りてくる。

フォスの目の前で立ち上がったのは、銅色に煌めく甲殻でできた鎧を纏った、大柄な狩人。

近くにいるだけで仄かに感じる風の力は、その鎧がかの大いなる「龍」――[風翔龍]クシャルダオラの素材で出来ている証左。

 

そう、彼こそはこのジャンボ村の発展の一番の立役者。

竜人族の村長と共に村を盛り立て、古龍の脅威を退け、ドンドルマに渡った「英雄」――

 

「......はい。お久しぶりです、ガイアさん!」

「おう!積もる話はあるが、とりあえず今はやることがあるんだろう?」

 

兜越しにかけられた言葉で、はっと我に返る。

 

「え、えっ?どうしてそれを?」

「あー、その辺も含めて中で説明する!応急修理の間に武装して乗れ!お嬢、留守は頼むぞ!」

「は......はいっ!アルマ君たちのことはお願いします!」

 

突然に帰還した「英雄」の一喝で、フォスたちは弾かれたように動き出した。

 

 

「くうっ......!」

「だ、大丈夫ですかニャ!?」

 

強烈な突進をやり過ごしたステラの下へ、アルマが心配そうな顔で駆け寄ってくる。

 

「バカ、離れて!巻き込まれる!」

「ニャ......!」

 

迂闊な行動を咎めるかのように急襲する炎弾。ステラはなんとかイナシ切ったものの、アルマは受けが間に合わず吹き飛ばされてしまう。

 

「アルマ君!クソっ......!」

 

弾丸をまき散らし敵視を誘うが、それで状況が好転するわけでもない。

兎に角、敵の動きが激しすぎる。元々[黒狼鳥]は素早い連撃(ラッシュ)が厄介なモンスターだが、突然の狂暴化でその猛撃はさらに苛烈なものになっていた。

ステラの使うイナシの技術も、完全に攻撃をやり過ごせるものではない。蓄積したダメージを回復する間も与えられないまま、ステラは狂った巨鳥の暴威に晒され続けていた。

 

「こんなんじゃ......こんなんじゃ......!」

 

砂浜から海辺へと追い詰められ、戦靴(レギンス)が塩水に濡れる。

靴底が水を含んだ砂を踏み......僅かに、足を取られた。

 

「やばっ......!」

 

思いっきり体勢を崩し、ばしゃりと尻もちをつく。

その音を聴きつけた[黒狼鳥]は、その嘴を容赦なくステラへと向けた。

 

(姉さん、ごめん......!)

 

成すすべなく眼を閉じたステラは......次には、鈍い激突音を聞いた。

 

「っォラアアアアアアア!!!」

「えっ......!?」

 

目を開けるとそこには、迫る[黒狼鳥]の鼻先に、右手の盾を叩きつける狩人の姿があって。

 

「そこを......どきなアッ!!」

 

次の瞬間には、反対側から振りかぶられた大剣が、[黒狼鳥]の頭を地面にねじ伏せていた。

 

一連の反撃を呆然と眺めていたステラは、直後起こった激しい閃光に思わず顔を覆った。誰かが閃光玉を投げたのだ。

 

「ナイスだアルマ!全員退くぞ!」

「了解!ちょっと失礼しますね......!」

「うえっフォスさ......うわあっ!」

 

聞き返す間もなく、防具ごと身体がひょいっと持ち上げられる。

あれよあれよという間に青甲の背中に背負われ、そのまま凄い勢いで砂浜を離れだした。

 

「怪我はないですか?」

「う、うん......助けに来て、くれたんだ」

 

ステラを背負う若い狩人は、「何言ってんですか」と苦笑する。

 

「ハンターなら、仲間を助けるのは当然でしょう」

「仲間......」

 

その言葉を反芻しながら、疲れ切ったステラはふっと意識を手放した。

 




ブレイヴ状態の描写ですが、大辞典wikiに書かれていた
「リロード時に何か薬剤を詰める描写がある」という情報を基に
自分なりに解釈して書いています。
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