恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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どうもお久しぶりです。
「大人しく4話/4話で区切れば良かったかも」と若干後悔しつつ、
今回はまた龍識船組のターン


第十三話「舞うは霹靂、奏でるは祭夜の調べ」

ユクモ村近郊の渓流地帯に出現した、狂暴化した[迅竜]ナルガクルガ。

直衛のハンターを返り討ちにし、村の安全を脅かしていた狂える竜は、

龍識船から舞い戻った狩人の尽力によって、辛くも討ち倒された。

そして、功労者たちがその後どうしたかと言うと――

 

「......はぁ」

 

暖かいお湯が、傷だらけの矮躯に沁み通る様だった。

ユクモ村が誇る名物――強力な薬効を持った、良質な温泉。

龍識船一行は少しの間ユクモ村に留まり、湯治を兼ねた療養をすることになった。

特に深手を負ってしまったヒロの、心身をしっかりと癒すために。

 

(久々に入ったけど、やっぱ気持ちいいなぁ......)

 

湯けむりの中でぼんやりと、湯船の小さなせせらぎに身をゆだねる。

ユクモ村に居た頃、足繫く通った温泉。その薬効はよく知っている。

無理がたたってだいぶボロボロになってしまったが、これなら早く復帰できるだろう。

有耶無耶になってしまったナルガクルガの素材確保も、村のハンターの協力で遺骸から無事に採取され、龍識船に送られている。ひとまずの役目は果たせたといったところだ。

 

――ヒロ的に今、唯一気になることがあるとすれば。

 

「......リゼさん、大丈夫ですかね?思いっきりのぼせちゃってましたけど」

「だ、大丈夫じゃないかな......ルナさんもついてるし」

 

湯浴みタオル1枚で隣に座る、小柄な少女の存在だろうか。

この温泉、昔からずっと混浴なのである。さっきまではリゼとルナも居たが、リゼが湯船に持ち込める晩酌セットで一杯やっていた結果のぼせてしまい、ルナに助け出されて出て行ってしまった。

ついでに言えば今、2人以外にこの薬湯に客はいない。というのもユクモ温泉はつい先日まで改修工事中で、[迅竜]狩りから帰還したころに丁度工事が終わった段階だった。正式に再開するのは明日だったのだが、村長の計らいで先に使わせて貰えることとなったのだ。

 

4人でいるうちは、まだ傷が癒えないこちらを心配してか、3人で少し離れたところに居てくれた。

しかし2人きりになった途端、何か距離が近くなった、気が、する。

 

「......ヒロ」

「な、何?」

 

突然声をかけられ、若干動揺しながら振り返る。

こちらを真剣に見つめる、整った童顔と桜色の瞳......長湯のおかげで顔の紅潮がバレないのが唯一の救いだった。

 

「先の狩りでは......不甲斐ないところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」

「んなっ......そ、そんなことないって!あんな化け物相手にして、冷静でいろってのが無理な話だよ......」

「でも、でも......わたしが最後まで怖がっていたせいで、貴方を傷つける結果になってしまって......!」

 

自分の未熟さに、悔しさを滲ませる少女。

ヒロは意を決して、少女に歩み寄り、その右手をとった。

 

「!!」

「......それでも、君は最後に勇気を振り絞ってくれた。君の剣が、あのナルガクルガにとどめを刺したんだから」

「そ、それは......貴方が吹っ飛ばされた瞬間、身体が勝手に動いていて......」

「えっ」

「えっ」

 

まるで伝染したかのように、ヴィータの顔も真っ赤に染まる。

次の瞬間、ヴィータは握られたままの右手を振りほどき、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 

「い、今の無しで!何も聞かなかったことにしてください!」

「え、ちょっ......」

 

これ以上話すことは無いと言わんばかりに、口まで湯船に沈めてしまうヴィータ。

結い上げられた黒髪の周りにぶくぶくと泡が立つのを見ながら、ヒロは必死に言葉を続ける。

 

「え、えっと......じゃあ、これだけは言わせて。

い......いつもありがとう。ヴィータには、本当にずっと助けられてるから!」

 

正直全く意味も真意も込められていない、本当に思いついたまま出た一言だった。

しかしそれを聞いた少女は、数秒の間を開けて。

こくりと、小さな頷きだけを返した。

 

その後はまた会話を交えることなく、静かに温泉を堪能して。

そろそろ上がろうかと考え始めたころに、ヒロはふと呟いた。

 

「......ところでなんだけど、僕らこんなにのんびりしてていいのかな」

「......本当に真面目ですねヒロは。心配いりません。龍識船からも、貴方が元気になるまで休んでてくれって言われていますから。それに......」

「それに?」

 

背を向けたまま言葉を濁したヴィータに、首を傾げるヒロ。

ヴィータの言葉を引き継いだのは、湯船へと戻ってきたルナだった。

 

「それにね、ヒロ君。村長から頼まれてるのよ。『君が守ったものを見せてあげて欲しい』って」

「僕が......守ったもの?」

 

本気で困惑するヒロを見て、ルナは愉快そうに微笑んだ。

 

 

ヒロがルナの言葉の意味を知ったのは、それから数日後のことだった。

 

「ユクモ村がナルガクルガの狩猟を急いだのは、

村の安全確保のためというのは勿論だけれど――」

 

明るく照らされた街並みに、どこか浮かれ調子な喧騒。

すっかり日が暮れたユクモ村に、いつもとは違う賑わいが訪れる。

 

「村の『収穫祭』のために、観光客の航路を守り抜くためだったのよ」

 

朗らかに語るルナの背後で、一筋の火の玉が打ち上がる。

数瞬の間をおいて夜空に咲いた大輪の花火に、あちこちで大歓声が上がった。

 

平服姿のヒロは半ば呆然と、ハンター用の共用拠点(マイハウス)前からの景色を眺めていた。

この「収穫祭」は、歴史の長いものではない。数年前、ある一人のハンターが村の危機を救ったことを祝い開催された祭りが、そのまま年に一度の祭事として定着したものだ。

その村の危機とは、[雷狼竜]ジンオウガの渓流への進出。

かの竜を打ち破った狩人とは――他ならない、ヒロである。

 

「そっか......そういえば、もうそんな時期でしたね」

 

全てを悟ったヒロは、観念したように肩をすくめた。

龍識船のハンターとしての仕事ばかりを気にして――何より、「今年は空の上だから観に行けないだろう」などと考えていたせいで――開催自体をすっかり忘れてしまっていた。

 

「『僕が守ったもの』ってのは、これのことだったんですね」

「その通り。村長さんが何を思って、この景色を見て欲しいと思ったのか......ヒロ君には、もう分かってるんじゃない?」

 

ヒロはしばし祭りの景色を眺め、やがて小さく頷いた。

 

「......初めてジンオウガに挑んだ時、僕の中にあったのは、村を助けたいという使命感だけでした。あの頃の僕は、本当に真っすぐだった。

『ユクモの英雄』と呼ばれるようになって、その名に恥じない狩人になろうと必死になって......いつの間にか忘れてました。あの頃のひたむきさを」

 

まだまだですねと自嘲するヒロの肩に、ルナはぽんと手を乗せた。

見上げる藍色の瞳と、視線が合う。

 

「そんなことないわ。君は誰よりも真っすぐに、ハンターという生き方と向き合えてる。

大切なのはね、ヒロ君。誰かの望んだ自分じゃなくて、自分の望んだ自分になること。

何と言われようと、自分を貫き通した奴が勝ちだって、私は思う」

「そう......ですね。僕もそう思います」

 

首肯したヒロの前で、ルナの顔が僅かに俯く。

 

「......願わくば、ステラにもそうあって欲しかった」

「えっ......?」

 

こぼれ出たその言葉を聞き返そうとしたヒロの声は、割り込んできた2つの影に遮られた。

 

「おーいヒロ!見ろよこれ!そこの射的で当ててきたぞ!」

「リゼさん凄かったです!まさに百発百中の腕前で!!」

「ふ、2人とも、ちょっと落ち着いて」

 

両手に景品を抱え上機嫌なリゼと、頭に木のお面をつけたヴィータ。

はしゃぎまくっている2人を何とか宥めようとするヒロだったが、元々押しが弱い少年が、完全に祭りの空気にあてられた彼女たちに叶うはずもなく。

 

「ヒロ!龍識船へのおみやげ、どれにしますか!?」

「あたし等じゃよくわかんないからさ、地元民のチョイスで頼む!」

「わっだからちょっと待てって......すいませんルナさん、また後で――!」

「え、えぇ......気を付けてね......」

 

仲間たちに連れられて、ヒロはあっという間に雑踏の中に消えていく。

一人残されたルナだったが、すぐに彼女に声を掛ける者がいた。

 

「お楽しみ頂けていますか?龍識船のハンター様」

「......はい、村長さん」

 

歩み寄ってきたのは、魔除けの色とされる紅色の打掛を纏った、竜人族の美女。

彼女はこのユクモ村の村長であり、ユクモ温泉の女将も兼任している。

傷ついたハンターたちを村で療養させるにあたって、色々と手を回してくれたのが彼女だ。

 

「すっかりお世話になっちゃって。何から何まで、本当にありがとう」

「こちらこそ、村の子たちでも手を焼いたナルガクルガを狩っていただいたこと、感謝しておりますわ。それよりも、あの子......ヒロの様子は?」

「村長さんの目論見通りだったわ。ひとまず、元気は貰えたみたい」

「ふふっ、それは良かった。あの子には村の人々の笑顔が、何よりの薬になると思いましたの」

 

「あぅあぅ!ヒロお(めぇ)、良く戻ってきてくれたなぅ!」

「ああオジちゃん、お久しぶりです......」

「あー!ヒロ兄ちゃんがいるー!!お空の上どうだったー!?」

「あ、後で話すから!あーもうみんなちょっと落ち着けって!」

 

仲間たちの次は顔馴染みの村人たちにつかまってもみくちゃにされる、小さな狩人の後姿を見ながら、村長は静かに語りだした。

 

「あの子の両親は、名うてのハンターでしたの。ですが街を守るため、ロックラックを襲った古龍の暴威に挑み......彼がまだ幼い頃に、命を落としてしまったのですわ」

 

ルナは目を丸くした。

ヒロの過去について、何も聞いていなかったが――彼もまた、「龍」の被害者だったとは。

 

「ヒロは村の人々に育てられた、村そのものの子のようなものですの。元々あの子の両親は、狩りのために村を空けることが多かったものですから。

……だからなのでしょうね。ハンターになったばかりのころから、あの子は人一倍使命感が強い子で。村の内外での活躍を聞くたびに、勿論嬉しくはありましたけど......同時に少し心配でしたの。皆の期待に答えようと、無理をしているのではないかと」

 

結論から言えば、彼女の危惧はおおよそ当たっていた。

若くして「英雄」と呼ばれてしまった少年は、その名声に報いるべく無理を重ねて、いつしか己の本懐をも忘れようとしていた......けれど、今は。

 

「大丈夫よ。今の彼ならもう、理想のために自分を殺すようなことはしないわ。

もしまた同じことをしようとしたら、私たちが止めてあげるから」

「ふふっ、頼りになりますわ。

わたくしの村の不束者を......よろしくお願いしますわ。ハンター様」

 

夜空にまた、大輪の焔の花が咲く。

祝祭の夜は、賑やかに過ぎていった。

 




ゲーム中だと大人の事情で入れませんでしたけど、
ユクモ村出るならやっぱ温泉は出さなきゃねと。
温泉回なのに文字数ととっきいの勇気が足りなくて
お約束な雰囲気は殆ど出せなかったのは内緒。

あとサブタイトルなんですけど
ポジティブな方向での転換点に
敢えてあのクエストの名前を持ってきたのは
今回のちょっとしたこだわりポイントです。

(今更ですけど各話のサブタイはXXに存在するクエスト名をもじってます)
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