恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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こっからはまたジャンボ村のターン
大人しく4話ごとで区切ったほうがよかったかな...(5ヶ月ぶり2度目)


第十五話「銀星は沈まない」

テロス密林に現れた、狂暴化したイャンガルルガ。

通常のモンスターとは明らかに違うその危険性を鑑み、ドンドルマハンターズギルドは密林を一時的に禁猟区域に指定。鎮圧のため、ベテランハンター向けの緊急クエストが提示された。

 

そして、新たな脅威の裏では。

アルマによってゴア・マガラの縄張りから救出された女性ハンター......ステラが、ひょんなことから記憶を取り戻していた。

 

「えーっと、ベルナハンターズギルドのステラさんで、本当にいいんですよね?」

「はい」

「昇格申請中だった『下位』ハンターで、龍識船に合流予定だったと」

「間違いないです......あの、何でこんな取り調べみたいな雰囲気なんですか」

「あっ、す、すいません。怖がらせちゃいましたか?」

「あーあ、まーたフォスの真面目すぎるとこが出てますニャ」

 

日が沈み、ランプの明かりに照らされたマイハウスのダイニングで、フォスはステラとアルマを前に尋問、もとい確認作業をしていた。

3人で読めるよう片付けられた食卓に置かれているのは、以前フォスが一人で目を通していた、ギルドを通して龍識船から届いた調査報告書。そこには招聘されたハンターの一人として、確かに眼前の少女が紹介されていた。

 

「ステラさんとアルマ君の話を統合すると......合流船が古龍に襲われてステラさんはそのまま落下、偶然通りかかったゴア・マガラの背中に落ちて、そのまま原生林まで運ばれたところを、偵察に出ていたアルマ君が発見したと」

「そうなる、と思います......信じられませんよね、こんな話」

「信じるも何も、それくらいしか考えられませんし......実際、アルマ君に助けられた時は重度の狂竜症だったんですから」

 

経緯の真偽はともかく、少女の身元と彼女に何が起こったかは判明した。

フォスはため息をついて、龍識船のレポートに視線を落とす。[天彗龍]バルファルクの命名と調査の開始を綴った号の隅には、小さくこう綴られていた。

――搭乗していたハンター1名が、不慮の事故により行方不明となった。

ステラのことで間違いない。行方不明と書かれてはいるが、この状況では龍識船側は死亡したと判断していることだろう。

 

「分かりました。とにかくギルドを通して龍識船に報告しなければいけませんね」

「えっ......ま、待ってください!」

 

資料をまとめて立ち上がろうとしたフォスを、ステラは血相を変えて引き止めた。

 

「ステラさん?」

「えっと、その......ボクのことはまだ、ギルドには秘密にできませんか」

「秘密って、どうしてそんな」

 

バタンと、ドアが開く音がしたのはその時だった、

3人がそろって振り向くと、入り口から大柄な男性ハンターが顔を出していた。

狩場で纏っていた赤銅色の鎧を脱ぎ去り、日に焼けた強面の顔がこちらを見ている。

 

「うわっ、なんだガイアさんか......」

「ようフォス、遅くなった。そっちのお嬢さん、調子はどうだ?」

「お、おかげさまで大丈夫です......」

 

思わぬ来客に萎縮してしまったのか、ぼそぼそと答えるステラ。

ガイアはガイアで少女が怖がっているのに気づいたのか、そのまま離れた位置の小さなテーブル席で腰を下ろす。いかつい割に妙なところで丁寧な仕草も、フォスにとっては久々だが見慣れた光景だった。

 

「驚かして悪かったな。俺はガイア。ドンドルマでハンターをやってるんだが、今は野暮用でこっちに戻ってきてる」

「知ってます。『ドンドルマの守護神』ガイアの名前は、ベルナ村でも有名でしたから」

「......おいフォス、俺はこの子は記憶喪失だって聞いてたんだが?」

「えーっと、実はなんかの拍子に記憶が戻ったらしくて......」

 

フォスからことの経緯を聞いたガイアは、「なるほど」と短く答えた。

 

「俺としても、まだお嬢さんのことは伏せておいてもらいたいな」

「ちょっ、ガイアさんまで何で......」

「まあ聞け、フォス。俺がジャンボ村に戻ってきた理由にも関わる話だ。これ見てみろ」

 

そう言って、ガイアは懐から何かを取り出し、テーブルに置いた。

3人で近寄って見てみれば、それは暗い紫色のモンスターの鱗――[黒狼鳥]イャンガルルガの鱗だった。通常のそれよりも明らかに黒ずみ、光沢を失っている。

 

「この間お嬢さんが戦った、狂暴化したイャンガルルガの鱗だ......ギルドは『獰猛化』と呼んでるらしいが。密林の安全確保を頼まれて、昨日仕留めてきた」

「あのイャンガルルガを一人で......!?」

「見たことも無えような暴れっぷりだったもんだから、それなりに手こずったがな。んで、こいつはどうも例の古龍のエネルギーを受けて変質したものらしい。『獰猛化』の原因もそれだろう」

「例の古龍......龍識船が見つけたっていう[天彗龍]のことですね?」

「[天彗龍]......」

 

無言で頷くガイアの横で、ステラはその名前を反芻した。

[天彗龍]バルファルク。フォスに見せられたレポートにもあった名前。

災厄を齎すと古文書に語られる存在であり――ステラをルナたちから引き剥がした、憎むべき龍。

 

「そのバルなんとかが落とした鱗のせいで、『獰猛化』したモンスターの情報があちこちから入って来てる。ついにジャンボ村の管轄区域まで来たもんだから、ドンドルマのギルドが言ってきたんだよ。調査も兼ねて故郷の防衛に戻って欲しいって」

「いや、故郷も何もガイアさんの生まれはたしかメゼ......」

「細けえことはいいんだよ。とにかく俺がドンドルマで聞いたところじゃ、龍識船はこれ以上の被害を防ぐために、本腰を入れて[天彗龍]の追跡に当たってるんだそうだ。そこにお嬢さんの話が漏れちまえば、調査にどんな影響が出るか分からないだろ」

「それは......そうかも知れませんが」

 

そこまで言ってから、ガイアはステラの方を見た。

 

「まあ、ここまでは俺の勝手な推測だ。実際のとこはどうなんだ、お嬢さん?」

「姉さんに......龍識船に迷惑をかけたくないのは本当です。でも、ボクは......」

「ボクは、何だ?」

「ボクは、もっと強くなって帰りたい。あの[天彗龍]を倒すために。今のままじゃ、また姉さんの足を引っ張ってしまうから......」

「なるほど......姉さんってのが誰だか知らんが、よっぽど大切な人なんだな」

「あっ、そ、その......狩りの師匠です」

 

どうやら無意識に名前を出してしまっていたらしい。色白な顔をぱっと赤らめたステラを見て、ガイアは愉快そうに笑った。

 

「分かった分かった。そこまで言うなら、この村で鍛えていけば良いさ」

「また勝手に......分かりました。酒場にはこちらから話をつけておきます」

「仕方ないですニャ。世話焼きモードのガイアのダンナはもう止められないですニャ」

「何だよ、本人が強くなりたいって言ってるんだからいいだろう?」

 

やいのやいのと騒ぎ出す2人と1匹を見て、ステラは思わず笑みをこぼした。

どこか懐かしい、恋しい喧騒だった。

 

 

そして、数日後。

[黒狼鳥]の災禍が過ぎ去り、普段通りの景色を取り戻そうとしていた密林には、再び戦火の音がこだましていた。

 

「また潜った......!ステラさん!」「分かってる!!」

 

白砂に覆われた海岸。

身構えるフォスとアルマの前で、ステラは構えたボウガンを翡翠色の海へと向ける。

狙うのはただ1つ。眼前を高速で泳ぎ回る巨躯から、水上に伸びている大きなヒレだ。

 

「行けえっ!」

 

巨砲から連射された火炎を帯びた弾丸が海中に飛び込むと同時に、大きな影が水中から飛び出してくる。咄嗟に突進をいなしたステラの後ろで、飛び出してきた「それ」は二本の足を伸ばし、立ち上がった。

巨大な魚を思わせながら、その足で地面を踏みしめる異様なシルエット――[水竜]、ガノトトス。ステラたちの今回のターゲットである。

 

「また戻る前に叩く!アルマ!」

「言われずともニャ!」

 

フォスの声に応じたアルマが、アイルー伝統の爆弾をガノトトスの顔面に放り投げる。

視覚、嗅覚、聴覚を同時に塞がれたガノトトスが、動きを止める。その瞬間、フォスが巨躯の足元へと飛び込んだ。

フォスの手に握られた片手剣が、ガノトトスの脚部へと突き刺さる。その刀身に生えた牙は、麻痺毒を有する「ゲネポス」のもの。間を置いてガノトトスは突如体勢を崩し、その場に倒れ込んだ。

 

「このまま一気に......!!」

 

ガノトトスの正面に滑り込んだステラは、そのまま火炎弾の弾帯をボウガンに叩き込む。

弱点をついた一斉射撃が、魚竜の頭部を穿たんとした、その時だった。

 

「ぐ、うおおおおおおおお!!!」

「う、うわああああ!?ガイアさん何連れてきてるんですか!!」

「クッソすまん!引き離せなかった!!」

 

けたたましい咆哮とともに突っ込んできたものを見て、ステラは言葉を失った。

重厚な甲殻に覆われた4本足を地面を踏み鳴らし、海岸を暴れまわる巨大甲虫。その平たい背中には何故かガイアが乗っかり、背甲に突き刺した大剣を掴んで必死に踏ん張っている。

[重甲虫]ゲネル・セルタス。今回のもう一体のターゲットである「彼女」が、海岸に近づいてくることは殆どない。故にガイアが引き離して、単身で狩猟する作戦だったはずだ。

 

「ゲネル・セルタス!どうしてこんなところに.....!?」

「ステラさん離れて!突っ込んできます!!」

 

慌てて退避した3人の前で、ゲネル・セルタスはガイアを載せたまま、起き上がろうとしていたガノトトスに突っ込んだ。

 

「が、ガイアのダンナ~~!!?」

「ゲホッ、ゲホッ、砂が.....大丈夫、俺は無事だ!!」

 

砂まみれになった大剣を引きずって、衝突現場から逃げてくるガイア。

ゲネル・セルタスはこちらに構う様子もなく、再びなぎ倒されたガノトトスを威嚇する。

振り上げられたその大きな尻尾は、黒紫色にゆらめく炎に覆われていた。

 

「あれって......!!」

「ああ、さっき山の方で例の鱗も見かけた。どうもあてられちまってたらしい」

「『獰猛化』......面倒なことになりましたね」

「あっ、ガノトトスのやつ逃げてくニャ!」

 

敵わないと悟ったか、ふらつきながら立ち上がったガノトトスが海へと飛び込んでいく。

残されたゲネル・セルタスはゆっくりとその場を旋回し、対峙した狩人たちへ咆哮を放った。

 

「まあ、ガノトトスが逃げてくれたのは好都合だ。ゲネルに喰われて素材が採れなくなったらことだからな。お前ら、先にこっちを片付けるぞ!」

「ステラさん、無理せず後ろに。ガイアさんと合流できたなら彼に任せても構いません」

「お断りです......ボクだって、狩人なんだ」

 

フォスの呼びかけを一蹴し、ステラは重弩を構え直す。

これ以上、何にも負けないために。

今度こそ、仲間たちに追いつくために。

覚悟を込めた砲口が、狂える巨虫へと向けられた。

 




なんでゲネル・セルタスだったかというと
ゲームにおいてガノトトスと滞在エリアが1つしかぶらず、
かつ獰猛化してくれるモンスターだったからなんですねえ
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