恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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第二章、最終回です。
今更ですけどけっこうその場のノリで書いてるので
当初と予定が変わってるところも多々あったりする、という裏話。


第十六話「彗星の前に現るは」

砂浜に、魚竜の断末魔が響き渡る。

傷ついた狩人たちの前で、ガノトトスはついに力尽き倒れ伏した。

 

「はあっ、はあっ......全く、手こずらせやがって」

「ぜぇぜぇ......いや、これはもうこっちのヤツのせいでしょう......」

 

剣を背負い直したガイアの横で、フォスが物言わぬガノトトスを見やる。

魚竜と並んでそこに鎮座している、巨大な甲虫の死骸。

「獰猛化」していた[重甲虫]ゲネル・セルタスだ。ガノトトスが逃げているうちにこちらを何とか仕留めきれたものの、当然ガノトトスも狩猟する必要があり......大型モンスターとの連戦は、ベテランのフォスでさえも中々にハードな仕事になった。

 

「さーて、遠慮なく剥ぎ取らせてもらおうか」

「納品依頼されてるぶんを忘れないでくださいね。アルマ君ー、依頼書持ってきてますよねー?」

「......ニャッ!?は、はいですニャ!」

 

激戦に疲れ、砂浜でうたた寝しそうになっていたアルマは、フォスの呼ぶ声で跳ね起きる。

渡されていた小さな書類をポーチから取り出し、ガノトトスの方へ駆け寄ろうとした、その時だった。

 

「うっ......」「ニャ?」

 

がしゃりと、重い鎧が膝をつく音。

アルマが振り返ると、ステラがボウガンを手放して倒れ込んでいた。

 

「「ステラさん!?」」「お嬢さん!?」

 

アルマが上げた悲鳴を聞いて、フォスとガイアも慌てて駆け寄ってくる。

ステラの顔を隠す狙撃用キャップを、荒っぽくむしり取るガイア。中から出てきたステラの顔は焦点が合っておらず、朦朧としていた。

 

「す、すいません......ちょっとふらついて......」

「暑さにやられたのかもな。先にキャンプで休んでてくれ。フォス、運べるか?」

「そうですね......アルマ君にボウガンだけ運んで貰えれば」

「了解ですニャ!」

「あの、ボクは大丈夫ですから......!」

「言ってる場合ですか!ちょっと失礼しますよ!」

 

あれよあれよと言う間に担ぎ上げられ、ベースキャンプへと運ばれていくステラ。

ガイアは険しくもどこか心配そうな顔で、しばらくその様子を眺めていた。

 

 

「......わかった、じゃあお前が話をつけろ」

「はいですニャ。後は任せてくださいニャ」

 

短い会話と、誰かが出ていく音で、目が覚める。

ステラが起き上がると、最早見慣れたマイハウスのベッドの上だった。

いつになく、身体が重い。頭がうまく動かないまま、きょろきょろと薄暗い部屋を見渡す。

やがて意識がはっきりしてくると、右手からこちらを覗き込む小さなシルエットに気づいた。

 

「......大丈夫ですニャ?」

「......うん。ごめんね、何度も迷惑かけて」

 

ベッドの上で、がっくりと項垂れる。

ハンターを始めてから今まで、クエスト中に倒れるなどということは無かったのに。

今の自分の不甲斐なさに、目の前の小さな仲間にも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「まだ、本調子じゃないのかな......」

「ガイアさんは『無理しすぎだ』って言ってましたニャ」

「そんなつもりは無いけど......」

 

言いながら何気なく背伸びしようとしたステラだったが、両肩に走った鈍い痛みに顔をしかめる。

触ってみると、少し腫れて熱を持っている。モンスターの攻撃にやられた覚えはないのに。

 

「そういうことですニャ。ヘビィボウガンは大の大人でも持て余すような重量武器、それを細い腕であれだけ振り回せば、負担がかかって当然ニャ」

「で、でもここまで酷くなったことなんて無かったよ?」

「それは多分、普段より前に出ていたからですニャ。今日のステラさん、なんならこの間のイャンガルルガと戦ったときよりも積極的でしたニャ。いつもあんな感じなんですニャ?」

 

アルマに尋ねられ、ステラははっとして顔を上げた。

ベルナ村に居た頃は、ずっとルナのサポート役として動いていた。ルナが敵を引き付けているところに、強烈な射撃を叩き込む......それが、2人の常套手段だった。

 

「ううん、いつもは......仲間が居たから。ひとりじゃ無かったから、戦えてた」

「それなら、前の狩りだってボクやフォスさんや、ガイアのダンナがいましたニャ」

「それは......」

 

アルマの何気ない返答に、急に口ごもるステラ。

しばらくの逡巡の後に、ステラは観念したように口を開いた。

 

「......なかった」

「ニャ?」

「みんなのことを......信じきれなかった。あの時は......ううん、この村に流れ着いた時から、ずっと。ボクは、ただの余所者だから」

 

だから、ムキになって前に出たのだと。

震える声で白状したステラを見て、アルマは少し考えてから、ベッドの上に飛び乗った。

驚いた顔のステラの紅い瞳と、視線を合わせる。

 

思えば、はじめてフォスと会った時、彼女は妙に怯えた様子だった。

それ以降そんな素振りを見せなかったから、すっかり忘れてしまっていたが......きっと彼女は、本質的に他人を信じきれない性格なのだろう。それこそ、家族のように大切な人でもない限り。

どうしてそうなってしまったのか、ただのアイルーであるアルマには検討もつかない......だが、今は。

 

「......ちょっと、昔のことを話しますニャ。ボクがオトモアイルーになったばかりのころですニャ」

「アルマ君......?」

「ボクは生まれてからずっと人里の育ちで、ニンゲンと一緒に暮らしてきましたニャ。それでもやっぱり外からの人は怖くて、雇ってくれたハンターさんの前ですっごく緊張しちゃったんですニャ」

 

ガイアのことだと、ステラはすぐに悟った。

 

「そしたらそのハンターさん、なんて言ったと思いますニャ?」

「なんて......言ったの?」

「『俺はお前のことを何も知らん。だが、お前のことを信じてお前を雇いたい。だから、お前も俺のことを信じてくれ』って」

 

何も知らないから、怖がるのではなく。

何も知らないからこそ、信じることから始めてほしい。

それが、アルマとガイアの最初の約束。

 

「ステラさんにも居るはずですニャ。そうやって、信じてほしいと願った人が」

「姉、さん......」

 

脳裏に浮かんだのは、一人の狩人の姿。

復讐の亡霊となっていた少女は、思い出す。

諦めずに、がむしゃらに、前に進もうとした本当の理由を。

 

「ボクは、あの『龍』に勝ちたかった......ううん、『龍』に立ち向かう姉さんの力になりたかった。だから、ひたすらに強くなろうとした......だけど」

「その努力を否定はできませんニャ。ただ、もっと仲間を信じてほしいですニャ。少なくとも、ボクはそうやってここまで来ましたニャ。

ひとりじゃたどり着けない場所でも、きっとみんなでならたどり着けますニャ」

 

そう言われて、ステラは気づいた。

狩人は、決して一人で戦っているのではないーールナからも教えられたその言葉は、目の前のアイルーであっても変わらない。

小さな胸を張る彼は。ドンドルマ管内初のニャンターという、偉大な先導者たる彼は。

多くの人に助けられながら、ここまで登り詰めたのだ。

 

「だからステラさんも......ニャ!?」

 

アルマの言葉は、ステラの唐突な行動に遮られた。

少女の細い腕が、アルマの小さな身体を抱きしめていた。

 

「......あったかい」

「す、ステラさん......?」

「ごめん、ちょっとだけこうさせて......急に寂しくなってきちゃって」

「......わかりましたニャ」

 

何も言わずに、アルマはその身を少女に委ねる。

流れ落ちた小さな雫が、アルマの艶やかな毛をわずかに濡らした。

孤独だった少女が初めて、誰かを求めて流した涙だった。

 

遠い遠い、空の彼方で。

亡霊となった狩人は、その心の檻を破り。

闇を払う確かな希望を、手に入れることができた。

 

 

そして、事態は唐突に動き出す。

ステラが狩ったガノトトスの素材が、無事龍識船に引き渡されて、しばらく後のこと。

ココット村東部に広がるクルプティオス湿地帯にて、天彗龍と思しきモンスターの出現が確認された。

 

「さて、改めて流れを確認するぞ」

 

村のハンターが集結した酒場の席で、ガイアは告げた。

 

「[天彗龍]の出現を受けて、龍識船はココット村に急行するだろう。そこにお嬢さんも乗り込むんだ。ヤツを叩きに行くなら、それが一番手っ取り早い」

「私、その辺の事は何も聞いてないんですけど。ガイアさん、まさか彼女を狩場に乱入させる気じゃないですよね?」

「馬鹿野郎、俺でもそんなことは考えねえよ。ただ少し頭を使うだけだ。アルマ、『根回し』は終わってるんだろうな?」

「村長代理やパティさんに手伝ってもらって、ばっちりですニャ」

「ちょっとトントン拍子に話が進みすぎて、ボク的には気持ちが乗り切れてないですけど......覚悟は、出来てます」

 

不安げながらも、ステラは力強く言い切った。

正直、自分がどこまで変われたかは分からない。

だけど今は、今なら、前に一歩踏み出せる気がする。そう思っていた。

 

「私達もついていきたい気持ちはありますが......今は村の防衛が第一ですので」

「俺も正直、これが続くのはゴメンだからなあ。とっとと退治してきてくれや」

「また適当な......ステラさん、本当に一人で大丈夫ですニャ?」

「心配いらないよ、アルマ君。これは、ボクの戦いだから」

 

しゃがみ込んで頭をなでてやると、小さな友人はこくっと頷いた。

 

その後、酒場を去り中央の広場へ向かうと、ステラを支えてくれた村の人々が待っていた。

 

「貴女なら大丈夫よ。強くなったところ、龍識船の皆に見せつけてやりなさい」

「準備は全部済ませてありますから、心配せずに行ってきてください!」

「ほっ!見込みのある狩人に出会えて嬉しかったよ。頑張って来な!」

「ココット村への定期便は今夜だ。何か準備があれば俺たちに言ってくれ」

「皆さん......本当に、ありがとうございました!」

 

村長代理、受付嬢のパティ、工房の女主人、港の親方。

見ず知らずの遭難者を拾ってくれた優しき村民たちに、ステラは頭を下げた。

 

「それじゃあ......行ってきます!」

 

臨海の村に別れを告げ、狩人は前に進む。

ようやく気づくことができた、絆の本当の意味を携えて、かけがえのない人の元へ。

因縁の「龍」が待つ、決戦の地へ。

 




[次章予告]

下界を蝕み始めた「天彗龍」の脅威。
各地で暴れ出した大型モンスターを鎮圧するため、狩人たちはそれぞれの故郷に赴く。

はじまりの地、ココット村。
空を引き裂く「電竜」に挑むは、決意の刃を携えた剣斧使い。

氷雪の里、ポッケ村。
地を踏み鳴らす「巨獣」に挑むは、勇猛なる「巨竜殺し」。

霊泉の都、ユクモ村。
清流を乱す「泡狐竜」に挑むは、若き英雄とその朋友。

そして、蒼穹を抱く高原、ベルナ村。
落星の狩人は、全てを焼き払わんとする「燼滅の刃」と対峙する。

第三章「☆9 大敵への挑戦」

――燃やせ、その魂
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