武器はいいのですが防具の銘(ハイメタSシリーズとか)って
名前からしてゲーム的事情が強そうなので本作では明言しないようにしてるのですが、スパイオシリーズとか通じなさそうなのがなんとも......
青空を行く飛行船が、流れる白い雲を追い越していく。
人気のない甲板。
申し訳程度に置かれた貨物に腰かけて、一人のハンターが空を眺めている。
身に着けているのは、「毒クモリ」という小型昆虫種を中心に造られた、美しい艶のある青黒い装甲が特徴的な女性用防具。まるで他人に顔を見せたくないかのように、フード状の頭具を深く被っている。
背には、折り畳まれた重弩。
朗らかとした飛行船の中で一人だけ物々しい雰囲気を放つ彼女に、声を掛ける者はいなかった。
「ステラー?」
否、一人だけ。
遠慮なく名前を呼ぶ明るい声に、ステラは肩越しに振り返る。
甲板に上がってくる、長い金髪の女性ハンターの姿。纏う防具はステラのそれが素材を活かした流麗なデザインなのに対し、堅牢な
「そろそろ龍識船との合流地点よ。忘れ物とか、ない?」
「......大丈夫だよ、姉さん」
ぽつりと一言だけ答えて、またぷいっと視線を戻してしまうステラ。
「姉さん」と呼ばれたハンターはつかつかとステラに歩み寄ると、後ろからフードを捲りあげた。
青空に、綿雲よりも白い髪が晒される。
驚いた様子でこちらを見る紅色の瞳に、少し怖い顔をして見せる。
「ステラ、そんなんじゃ龍識船で迷惑かけちゃうわよ?向こうにはもう大勢のハンターが待ってるんだから」
「......別に、来たくて来たわけじゃないし」
「うぐっ......」
反論になっていない反論だが、思わず口をつぐんでしまう。
実際、彼女を無理に連れてきたのは事実なのだ......そもそも、ステラはまだ「下位」ハンター。しっかりと龍歴院の審査を突破できた程度の実力はあるとしても、「上位」ハンターである自分の推薦があったことで乗船を認められた部分も大きいのだろう。
それでも彼女を連れてきたかったのには、しっかりとした理由があったのだが......
「おーいルナさん、ステラちゃんは見つかったかい?」
自分の名前を呼ばれて振り向くと、船室へ繋がる階段から一人の男性が顔を出していた。2人の拠点であるベルナ村から、ここまでこの船を運んできた操舵手の1人だ。ルナにとっては何度かクエストでお世話になった知り合いでもある。
ルナはまた空を眺めだしたステラの方を一瞥すると、やれやれと肩をすくめた。
「ずーっとあの調子よ。誰とも話したくないみたい」
「そうかい......空ばかり見て何が楽しいんだか」
「空ばかり見てる、ってわけじゃないみたいなのよね。ほら」
そう言ってルナが示したのは、ステラの視線の先。
肉眼でもシルエットが分かる程度の距離を、大きな飛竜が飛び去って行く。
「......飛んでるモンスターを見てるのか?」
「研究熱心よね。人付き合い悪いしまだまだ経験は足りないけど、狩りに対する熱意は本物だと、わたしは思ってるわ」
「ふむ......そういうもんかねえ」
「だからこそ、この調査で色々と勉強して貰いたいんだけど......ところでステラ、そろそろ船室に戻った方が」
ルナが声をかけた、その瞬間。
不意に、飛行船が爆風に煽られ大きく揺れた。
「うわあっ!?」
「ステラ!?大丈夫!?」
貨物から転げ落ちたステラを、自分も転びながらなんとか受け止める。
「ぼ、ボクは大丈夫だけど......!」
「どうなってんだ!?この辺の空域にこんな気流は......!」
「違う......今、何かが上を掠めていった!」
ステラの発言に、瞠目する2人。
状況を確かめる間もなく、再び急流が船を襲う。
「くそっ、何だってんだ......っ!?」
ふらつきながら立ち上がった操舵手が、絶句する。
決して小さくない飛行船を、太陽を遮って覆う影。
陽光の代わりに辺りを照らし出す真紅の輝きとともに、それは唐突に現れた。
空を覆い、赫耀を放ち続ける巨大な翼。
鋭い黒銀の甲殻に覆われた体躯。
それは、絶対なる強者の証。
それは、荒ぶる災厄の化身。
モンスターが――1頭の「龍」が、そこに居た。
「あぁ......ああっ......!」
甲板にへたり込んだまま、ステラは一歩も動けずにいた。
いかに新米とて、ステラは一人のハンターである。
どんなモンスターと対峙しようが恐れてはいけないと、生きるために戦わなければいけないと、その心に刻みつけていた。
飛竜程度が襲ってきた程度では屁でもないと、そう思っていた。
だが眼の前の「龍」は、ステラの知るどんな生物とも違った。
纏う覇気が違う。放つ殺意が違う。
生物としての「位階」すらも違うのではないか――そう思えてしまうほどに。
そして確信してしまう。
只人には、彼らの暴威に立ち向かう事すら許されないと。
絶望に飲み込まれた心が、迫りくる破滅を受け入れようとして――
「何やってる!立てステラ!!」
どんっと、何かに突き飛ばされる感覚。
一瞬置いて、ステラが座っていた場所が、直撃した紅炎によって爆散する。
何とか起き上がって――防具の装甲にめり込んだ、先ほどの衝撃の正体と思われる弾丸に驚愕して――ステラは目の前の光景に目を奪われた。
「操舵!龍識船まで飛ばせ!この船を囮に向こうへ退避する!」
「わ、分かった!船員の避難も急がせる!あんたは!?」
「決まってるだろう、ここで迎撃する!」
そこにあったのは、仲間へと檄を飛ばしながら、雄々しく立つ一人の狩人の姿だった。
吹き飛んだ貨物の中から引っ張り出したボウガンを携え、その銃口を空を舞う龍へと向けている。
「姉さん!」
「この荷物が火器類だったのが幸いだったな......何やってるステラ!お前が背負ってるのは飾りか!」
「!!!」
弾かれるように、背中の武器を掴む。
折り畳まれた砲身を伸ばし、ステラの脇に携えられるのは、黄色い装甲に彩られた重弩。
同時に防具の裏に仕込んだ弾帯――大量の麻痺弾をボウガンに繋ぎ、そのまま甲板の上にしゃがみ込んだ。
「麻痺弾で拘束する......!」
「よし、こっちでも援護する!ぶっ放せ!」
銃身を、上空で咆哮する巨龍へと向ける。
龍識船と合流するため、飛行船は一気に速度を上げている。しかし龍を振り切れる気配はない。このままでは、龍識船も巻き込まれる可能性がある。
後ろからルナが撃ちまくっている牽制射の中に紛れるように、ステラはボウガンの引き金を引いた。
「行けえっ!!」
弾帯から次々と弾丸が送り込まれ、麻痺毒を込めた特殊弾を連射していく。
龍の方が船を追うことに意識を向けていることもあり、外れる弾は少ない。あるいは竜種の強靭な甲殻を以てすれば、この程度の弾丸など歯牙にもかけないということか。
ならば、それは強者故の油断でしかない。
弾帯の最後の一発が突き刺さった時、龍の身体が大きく傾いだ。麻痺毒が効いたのだ。
「よっし!」
「よくやったステラ!後は一気に――」
振り切って、と続こうとしたルナの言葉は、それより速く届いた爆炎にかき消される。
突然龍の翼から噴き出した紅炎が、飛行船の甲板を薙ぎ払った。
防具のおかげで痛手にこそならなかったものの、2人の身体は大きく吹き飛んだ。
「くあっ......!」「うぐっ!」
再び甲板の上を転がり、階段の手すりに身体を打ち付けられるステラ。
痛みに耐えてなんとか前方を見やる。巨龍はふらつきながらも飛行を続け、あの紅炎を再びこちらに向けていた。
今度こそ、やられる――そう確信した、その時だった。
「もう、ダメ......!」
「いや、よく耐えた、ステラ!」
風を切る音。
2人の頭上を何かが飛翔し、巨龍へと突き刺さる。
今にも火を放とうとしていた龍の胸に刺さったそれは、一本の大きな矢だった。
ヒロは、目の前で起きたことに唖然としていた。
上半身未武装のままで龍識船の甲板に立つ、女狩人が一人。
その手に握られているのは、一切の装飾を排した朱塗りの大弓。
何が起こったかは、もう言うまでもないだろう。
リゼが龍識船の舳先から放った矢が、見事にはるか遠方の龍へと命中したのだ。
「っしゃあ当たったぁ!!......ダメやっぱ高いとこ怖い!」
「あ......あの状況でマジで当てますか!?」
「2人とも下がって!合流船が突っ込んできます!」
巨龍は完全に体勢を崩し、雲海の中へと落ちていく。合流船のハンターが麻痺弾を撃っていることに気づいたリゼはあちらの作戦を察知し、念のため麻痺ビンから毒を塗った矢を用意していたのだが、それがとどめになったようだ。
直後、龍識船全体を衝撃が襲った。合流船が船首に激突したのだ。
「船員は直ぐにこちらへ!ハンターさんも速く!」
船長である龍歴院の研究者が、合流船へと声を張り上げる。
激突した合流船は、龍識船の頑丈な舳先部分に思いっきり突き刺さってしまっていた。
このままでは、船体が崩れてもおかしくない。
龍識船側の調査員やハンターの手を借りて、合流船の乗組員は次々と飛び移っていく。
操舵手、船員、お手伝いのアイルーたち。船尾で応戦していた2人のハンターも、少し遅れて退避を始めた。
「ステラ速く!」
「う、うん!」
立ち上がったステラは、合流船が小さく揺れたのを感じた。
いよいよ崩れ始めたようだ。重量のかさばるボウガンを断腸の思いで放り捨て、ルナを追って走り出す。
次々と、舳先から龍識船飛び移る船員たち。ステラもそれに続こうとして、砕けた床板に足を取られて躓いてしまう。
気づけば、目の前に伸ばされているルナの手。また助けられてしまうことに申し訳なさを覚えながらも、その手を取ろうとして。
キィン、と。
何かが、空を切って飛ぶ音を聞いた。
「――!」
「......ステラ!?」
足が止まる。
さっきまで合流船を襲っていた揺れが、ぴたりと止まっていることに気づく。
視線を上げる。
ルナが驚いた表情で、こちらに手を伸ばしている、その先。
真昼の空に、紅く輝く星が瞬いていた。
直後。
天より降り注いだ彗星が、飛行船を粉々に粉砕した。
「えっ......!?」
足元の感覚が消える。
目の前で落ちていくルナの手を、駆け寄った少年が紙一重で掴み上げる。
だが、少年が間に合ったのはそこまでだった。
真っ逆さまに落ちていったステラの体は、崩れていく飛行船の瓦礫の下に消えた。
「す......ステラあああああああああっ!!!」
ルナの悲鳴が、雲の搔き消えた蒼穹に溶けていった。
MHXXをやったことのある方はすぐに気づいたと思いますが、
このプロローグはOPムービーの後半パートが基になっています。
あの時、彗星に襲われた飛行船。
一見みんな龍識船へと逃げ切れたように見えましたが、もしそこに逃げ遅れた狩人が居たら。
そんな思い付きから、この小説は走り出しました。