学業が忙しく全然更新できませんでした。
ようやく落ち着いてきたので、サンブレイクでも遊びながらどんどん書き進めて行きたいと思います。
「......だったら、一緒に行こうよ!」
その声と、差し伸べられた手を、ボクは一生忘れないだろう。
舞い降る雪より白い髪と、血色の瞳を持って生まれたボクは、生まれ育った村で忌み子と呼ばれ、疎まれ続けた。唯一助けてくれた両親も幼い頃に病に倒れ、もうずっと孤独に生きていくんだと、そう思っていた......それがどうだろう。
名も知らなかったキャラバンの少女は、ああもあっさりとボクを救い出してしまった。
それから、その少女......姉さんは、ボクの全てになった。
一緒にハンターになった時も、龍歴院に身を移した時も。
彼女と共に生きていこうと、彼女のために生きていこうと、そのことばかり考えていた。
今でも、それを間違いだとは思っていないし、後悔もない。
ただ、少しだけ見えていないものもあったなと、ちょっとだけ反省はしている。
何故なら、ボクを支えてくれたのは、決して姉さんだけじゃなかったのだから。
ボクを迎え入れてくれたキャラバンの団長や、共に旅したキャラバンの仲間。
ハンターとしての生活で出会った、ギルドや他の街の人々。
姉さんだけじゃない。数え切れないほどの出会いのおかげで、今ボクは生きている。
遠い空の果て、海を越えた先で出会った人々が、そのことに気づかせてくれた。
「天彗龍」を倒す。
ボクを亡霊として蘇らせたその誓いは、最初はこの身を灼く「呪い」でもあった。
だけど、今は違う。
姉さんの思いを、龍識船の思いを、ジャンボ村の思いを背負った今ならば。
多くの人々の願いと共に目指すそれは、「希望」と呼ぶべきだろう。
だから、ボクはもう立ち止まらない。
ボクを支えてくれた、生きる意味をくれた全てに、少しでも報いるために。
この命のある限り、希望を繋いで行くために。
「......お待たせ、姉さん」
戦っていた龍の存在も、完全に忘れて。
ルナは呆然と、その声の主と相対していた。
「ステ、ラ......?」
「うん、ボクだよ。声で分かっちゃうなんて、流石姉さん」
眼の前の狩人が、頭を覆う戦帽に手をかける。
飛び去っていく飛行船が起こす風に煽られて、純白の髪が曇天にそよぐ。
あらわになった紅色の瞳が、嬉しそうにこちらを見つめる。
見間違うはずもない。
自分を妹と慕ってくれた少女。
狩人の後輩として、共に戦ってくれた少女。
天彗龍の暴威によって、空の中へと消えていった筈の少女――
「おいルナ!そのハンター、知り合いなのか!?」
鋭く飛んだリゼの声に、我に返る。
バルファルクから離れていたことで彗星の衝撃を免れていたリゼは、今や一人で正面から天彗龍を食い止めていた。連合を組んでいたハンターの殆どは撤退し、戦場に残っているのもいつもの4人だけになってしまっている。
どう答えていいか分からず、ルナは率直に、ありのままの事実を叫んだ。
「知り合いというか......この子がステラよ!」
「えっ......あーっ!!あの時のガンナーの子!!」
案の定リゼもまた、天彗龍そっちのけで声を上げた。どうやら龍識船上での戦いの時に、必死にサポートに回っていた姿を覚えていたらしい。
「ステラさん!?その人が!!?」
「本当、なんですか......!?」
駆け寄ってきたヒロも、彼に支えられている状態のヴィータも、突然の乱入者の正体に驚いていた。狩人たちを見とがめるようにすぐ近くに着弾した光弾の爆風を受け、2人揃って慌てて武器を構え直す。
「うおっと!ヴィータ、無理しないで下がって!」
「だ、大丈夫です!まだやれます!!」
双剣を手に突っ込んでいくヒロを、大盾を構えながら追いかけるヴィータ。
戦闘を再開する仲間たちを一瞥した後、ルナは小さくため息をついた。
「ね、姉さん......?」
「ちょっと事態を飲み込みきれてないけど......何というか、とんでもないタイミングで戻ってきてくれたわね、あなた」
バルファルクと戦っていて気づかなかったが、さっき飛び去っていった飛行船で、彼女はこの戦場に駆けつけたのだろう。救援依頼も出していないし、完全にただの乱入である。
「ご、ごめんなさい。どうしてもアイツと決着つけたくて......」
「......その意気やよし、ってことにしておくわ。要は狩人としてここに来た、ってことでいいのね?」
「......うん」
「なら、『いつも通り』ついて来なさい。あいつを倒して、さっさと帰りましょう!」
「......うん!」
それでも、交わす言葉はそれだけで十分だった。
「白疾風」の剣斧を構え直し、暴れ続ける天彗龍にその切っ先を向ける。
龍気の炎が彩る戦場へと、ルナは脇目も振らずに駆け出した。
「おおおおおおッ!!!」
「ルナさん!!」
ルナに気づいたヒロは横へ飛び退き、バルファルクの翼が狙う先を僅かにズレさせる。
叩きつけの瞬間がら空きになった懐へと、大斧が猛牛のごとく突っ込んだ。
後のことなど考えない力任せの吶喊は、龍の巨躯を大きく揺らすが、しかし。
「うおっ!」
バルファルクの右半身側、矢をつがえたリゼの前で、紅炎が噴き上がる。
右翼の噴射の勢いで浮き上がったバルファルクは体勢を立て直すどころか、そのまま身体を左側へと翻す。
龍気を迸らせる噴射口の先、あの槍のような翼端が、再びルナへと襲いかかった。
「危ない!」
「大丈夫!!」
翼槍がルナを射貫く直前、飛来したのは無数の弾丸。
弾幕は貫通には至らずとも、的確にバルファルクの顔面を叩き、怯ませる。
隙を晒した龍へと、すかさずルナは斬撃を叩き込んだ。
「硬い......けど!」
振り下ろした刃は、左の翼槍に阻まれる。
重さと切れ味を兼ね備え、高い破壊力を持つ剣斧とはいえ、相手が備えるのは高高度を超高速で飛び回れるほどの堅殻。
弾かれるのを覚悟で踏み込み、少しでもその翼を受け止める。それで十分。
「撃ち込め、ステラ!」
数秒遅れて、本命の火力がバルファルクへと突き刺さる。
大口径から放たれる貫通弾の雨が、ついにバルファルクの鱗を穿ち、鮮血を纏いながらその背甲を突き抜けた。
「......凄いな」
中距離で射撃を重ねながら、リゼは思わず呟いた。
あのステラというハンターが加わってから、ルナの動きが明らかに変わっていた。
これまでの、味方の背中を預かるような戦い方ではない。自身も守りを捨て、果敢に古龍を攻め立てている。
(彼女が加わったから、ですか......?)
紅炎の熱に顔をしかめながら、ヴィータもそんなことを考えていた。
バルファルクの爆撃を防いだ大盾の隙間から見える、遠くで重弩を構える乱入者の姿。
勿論、ガンナーが増えたことによる火力の増強、後衛の存在で生まれる余裕はあるだろう。
しかしそれ以上に、
(ああ、これは)
振り回される翼槍にお返しの斬撃を叩き込んだヒロは、確信していた。
それはルナとステラ、2人だけが持ちうる概念。
優れた技術でも、鍛え上げられた肉体でも、強力な武器でもない。
流れ者のリゼでは、一匹狼だったヒロでは、新米のヴィータでは手にできなかった、第四の要素。
(仲間――ううん、「相棒」か)
ヒロは思い出した。
ベルナ村のハンター、ルナは、狩りに必ず一人のガンナーを同行させるという噂。
遠い拠点の話ゆえ、彼女が龍識船に合流するとなってようやく耳に入った話だ。
かの[骸龍]をも退けたというその力の正体が、今見ている光景そのものだった。
それぞれの
1+1が2を凌駕する。
「最善」を超え、互いの「最高」を引き出しあえる
それこそがベルナ村の「双星」と謳われる、2人の狩人の正体だった。
「こちらも、負けてられないな――!」
ならば見せなければならない。あの2人に叶わずとも、自分たちだって長く苦楽をともにした「仲間」であるということを。
飛来する紅炎の弾丸を後ろに回避し、ヒロはすぐ側のリゼに声を飛ばした。
「リゼさん!」
「ヒロ!?」
「チマチマやってても仕方ありません!一発デカいのをぶつけます!」
「......わかった!牽制はこっちに任せろ!」
答えたリゼは、今までの位置取りと反対側、ステラに並ぶ位置へと駆けていく。
「よっ!久しぶりだね、勇気あるガンナーちゃん!」
「えっ......は、はい!」
声をかけられ驚くステラをよそに、リゼはバルファルクへの攻撃を再開した。
これまでの包囲陣形から一転、敵視を集めるハンターが一箇所に固まったことで、バルファルクの攻撃から広範囲爆撃という選択が消える。
その変化を確認したヒロは、置いてけぼりになったヴィータの方へと駆け寄った。
「ヴィータ!まだ飛べる!?」
「......も、もちろん!」
「わかった、僕に合わせて!一気に仕掛ける!」
バルファルクの背後から、2人はV字に走り出した。
左方へと駆けるヒロは、双剣を構え、眼前の段差を蹴り上げる。
正面でルナの相手をしていたバルファルクがそれに気づき、背後へと紅炎を放とうとするが、もう遅い。
回転をつけた斬撃がバルファルクの背中を切り刻むと同時に、ヒロの身体は更に空中へと躍り上がった。
「天翔......空破断ッ!!」
ヴィータのお株を奪う空中攻撃。強烈な叩きつけが、バルファルクの頭部を直撃する。
嘶きながら大きく怯むバルファルクだが、それでも完全には倒れない。
だが、それも想定内。ヒロの放った「必殺技」は、今回に限り前座でしかないのだから。
「後は......わたしが!!」
若き狩人が飛翔する。
バルファルクの身体を踏みつけ、空へ舞い上がる桜鋼の鎧。ヴィータの細腕に握られた大斧は、あふれんばかりに充填されたビンのエネルギーを纏っていた。
盾斧最大の強みである、ビンを使った強化斬撃。ヴィータの振るう「ブラックフルガード」に装填されているのは、名の通り激しい爆破を齎す「榴弾ビン」だ。
リゼによる誘導と牽制。
ヒロによる標的の制圧。
ベテランハンター2人がかりでバルファルクを抑え込む。それがヒロの作戦だった。
条件さえ揃えばパーティ最大の破壊力を叩き出せる、ヴィータに繋げるために。
「いっけえええええ!!」
炸裂する大斬撃。古龍の甲殻を叩き割ると同時に、ビンのエネルギーが全解放される。
時間差で生じた連鎖爆発は、今度こそバルファルクの身体を地面に沈めた。
「やったぁ!」
「気を抜くな、まだピンピンしてる!」
集結した狩人たちの前で、バルファルクがふらつきながらも立ち上がる。
小さく嘶いたその背後、傷ついた翼が再び紅の炎を宿した。
武器を構える一同。再び戦端が開かれるかと思った次の瞬間、バルファルクはその頭を天へと向けた。
「何......うわあっ!」
ステラの呟きが、爆風に掻き消される。
激しい戦闘で燃え尽きた周囲の草木を派手に巻き上げた風が止むと、バルファルクの姿はかき消えていた。
「消えた!?」
「いいえ、上よ」
驚くヒロの横で、冷静に頭上を見上げるルナ。
曇天の合間に瞬く、紅い光。空中で小さく円弧を描いたそれは、流星のように飛び去っていった。
「逃げられたか......」
「なんて加速力......あれでは、追いかけるのも厳しそうですね......」
悔しそうに口走るリゼ。ヴィータは呆然と、紅星の消えた空を見上げている。
かの龍を、取り逃がした。
こちらに大きな被害は無かったとは言え、引き分け......あるいは敗北と言っても良い結末。
「......今度は」
空へ消えた流星に目を奪われていた狩人たちは、その声に意識を引き戻された。
聞き慣れない声の主。戦場に乱入し、共に戦った、空より舞い降りた少女は。
「今度は、倒して見せる。絶対に」
誰よりも強い意思を込めた声で、そう宣言した。
ヘルブラザーズその他一般ハンターの皆さんを出してはみたものの、
扱いに困ったのでバルファルクさんにまとめて薙ぎ払って頂いたことを
ここに懺悔します。ゆるして。