恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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☆9初期のしょぼくれ隊長可愛くて好きですけど
あまりにも唐突にガン萎え状態になるもんだからちょっと驚いた思い出


第十九話「絆の証」

クルプティオス湿地帯を舞台に繰り広げられた、[天彗龍]バルファルクの討伐作戦。

結果こそ痛み分けのような形で終わったものの、激闘をくぐり抜け生還したハンターたちは、ココット村に待機していた「龍識船」本船へと無事に帰還した。

 

「......あーッ!あのエンブレム!!」

 

声を上げたのは、飛行船から降りて振り返ったヴィータだった。

龍識船一行を送り届けたのは、ステラが戦場に駆けつけた際に乗っていた飛行船。大きな気球部分には、龍識船のものとは違う、夜明けを抽象化したような紋章(エンブレム)が描かれていた。

 

「どうしたのヴィータ、突然大声出して」

「どうしたもこうしたも無いですよヒロ!ベースキャンプで乗り込んだときから、見覚えがあるような気がしてたんですけど......『暁の団』の飛行船ですよ、これ!」

 

広い大陸を行き来するために、同じ目的を持った人々がキャラバンを結成することは珍しくない。「狂竜ウィルス」を巡る事件で活躍した「我らの団」あたりが有名だが、「暁の団」もハンターの間ではその名を知られる集団の一つだ。

 

理由としては彼らが「ハンター輸送業」......各地のギルドと契約し、飛行船を用いたハンターの狩り場への移動を担う専用のチームを持っている点にある。ベテランの操縦士を多数抱える彼らへの信頼は、ギルド直営の輸送船に勝るとも劣らない。

海運が盛んなタンジアではあまりお目にかかれない彼らに出会えたことで、珍しくはしゃいでしまうヴィータだったが......

 

「あれ、気づいて無かったんだ」

「まあ疲れてたし無理も無いだろ。あたしだって乗る時に気づいたけど驚く気力も無かったし」

 

ヒロとリゼに平然と返され、ヴィータの白い頬が真っ赤に染まった。

 

「う、うぅ......普段から世界を飛び回ってるお二人には、わたしの気持ちなんて分からないですよ」

 

負け惜しみに近い台詞をこぼしながら、ヴィータは足早に船の方へと歩き出した。ヒロとリゼもやれやれと肩をすくめて、それに続く。

 

そんな3人から、少し遅れて。

飛行船から降りたルナは、自分の左腕を抱きしめるものに気づいた。

緑の竜鱗に覆われた防具――遠い海の向こうで作ってもらったという装備を身に着けたステラが、不安そうにこちらを見つめている。

 

ルナは何も言わずに頷いて、ステラを庇うようにしながら船を降りた。

戦靴を纏った2人の足が、地面に優しく受け止められる。

左腕を抱きしめる力が少し弱くなったことに気づき、ルナは安堵の息を吐いた。

 

「行こっか」

「......うん」

 

龍識船のすぐ側まで歩いたところで、ふとルナは立ち止まり振り返った。

遠くなった飛行船の下、自分たちをここまで送り届けてくれた操縦士が、被っていた帽子を上機嫌に振っている。

ルナは小さく笑みを浮かべて、操縦士に敬礼を返した。

立ち止まったルナを不思議そうに見上げていたステラも、ルナの視線の先に気づき、嬉しそうに手を振り返した。

 

 

龍識船へと乗り込んでいく人々の中に、狩人たちの姿も飲み込まれていく。

彼らをここまで運んだ飛行船の操縦士――「暁の団」の団長は。

降りてきた副操縦士にどやされるまで、2人の娘へと手を振っていたのだった。

 

 

出発準備が続く龍識船に乗り込んだ時、ルナは何か違和感を覚え、すぐにその正体に気づいた。

調査隊の隊長が......ハイメルが出てこない。いつもなら帰還したハンターを、いの一番に出迎えに来るというのに。

 

「おーい、ルーチェちゃん」

「はいはーい!何でしょう?」

 

ルナが声をかけたのは、甲板の屋台近くに座っていた受付嬢。ギルドから派遣されている彼女だが、ルナのチームは遺群嶺探索のような龍識船からの直接のクエストばかり引き受けているため、あまり仕事で関わったことはない。寧ろ暇な時に世間話をする時間の方が多かったくらいだ。

 

「隊長さんは?珍しく出てこないけど」

「あー、そのーたいちょーは......研究室に居ると思います、はい」

 

普段は鬱陶しいほどにテンションの高いルーチェが、珍しく歯切れの悪い返事を寄越す。

 

「ところで、その後ろのかわいい狩人さんはどなたです?」

「あー、後で話すわ。今はちょっと隊長さんに会ってくる」

 

自分も連れのことを誤魔化しつつ、ルナはステラと共に船内の研究室へ向かう。

薄暗い研究室は、一見すると誰もいない状態だった。物珍しそうに周囲を眺めるステラをよそに、ルナは奥へと進んでいく。

決して広くない部屋の隅。

大きな天球儀の裏に隠れるようにして、小さな背中がしょぼくれていた。

 

「隊長さん?」

「ひゃいっ!!?」

 

ルナが声をかけると、ハイメルはビクッと顔を上げた。

おずおずと振り返った顔は、目元が少し腫れぼったくなっている。

どうも、今の今まで泣いていたらしい。

 

「どうしたの?こんなところで、一人で」

「あ、いえ、その......すいません、出迎えもせず」

 

天球儀の裏から出てきたハイメルを、ルナはひとまず近くの机に座らせる。

 

「皆さん無事に帰ってこれたみたいで、本当に良かったです......えっと、後ろの方は?」

 

尋ねようとしたハイメルは、ルナの横にぴったりと立つ少女の顔を見て目を見開いた。

見紛う筈もない。龍識船調査隊に名前を連ねながら、今まで共に旅をすることが出来なかった、唯一の人物。

 

「......ステラさん?ステラさんですか!?どうして......!!?」

「まあまあ落ち着いて。長くなるから本人に話してもらうわ。ステラ、大丈夫?」

「う、うん」

 

ルナと一緒に適当に床に腰を降ろしたステラは、自分の身に起きたことを一通り語った。

ゴア・マガラの背中に落下したことで命が助かったこと。そのままジャンボ村に漂着したこと。向こうで現地のハンターたちに助けられたこと......そしてバルファルクの発見を聞き、討伐のために舞い戻ったことを。

 

「奇跡、ですね......龍の背中に落ちて助かったなんて、聞いたことありません」

「ボク自身、今でも信じられません。ただ......地上に流れ着いた後、たくさんの人に助けられて、こうして戻ってこれた。それは事実です」

「......そうですね。何はともあれ、生きて戻ってきてくれた。それが何よりです」

 

朗報を聞いて、幾分か元気を取り戻した様子のハイメルに、ルナは改めて問いかけた。

 

「聞いても良いかしら。どうして、こんな所で一人で居たの?」

「それは......」

 

気まずそうに目をそらすハイメル。

その口からぽつりと告げられたのは、ルナたちがバルファルクと戦っている間に届いたという、ギルドからの通告だった。

 

「龍識船調査隊を、撤退させる......!?」

「はい......バルファルクの凶暴性が想像以上であったこと、『獰猛化』モンスターの脅威が大きくなっていることから、追跡調査を中断すると。皆さんには拠点に戻り、獰猛化モンスターの対処を優先して欲しいということでした」

「龍識船組を呼び戻したいほど、地上は切羽詰まってるってことね......」

 

元々龍識船に呼ばれているのは、各拠点から選りすぐった精鋭だ。獰猛化モンスターの被害が増えつつあるとなっては、遺群嶺なんか放っておいて戻ってこいと言われるのも納得はできる......が。

 

「悔しいわね。大本を叩けるかもしれないって時に、対症療法を強いられるなんて」

「でも、仕方ありません......ココット村から参加したハンターにも負傷者が出てしまった以上、ギルドがバルファルクへの警戒を強めたのも妥当な判断です」

 

答えたハイメルの表情もまた、悔しさとやるせなさに満ちていた。

 

「ボクが功を焦らなければ、こんなことには......」

「......ううん。貴方の判断は間違ってなかった」

 

声を上げたのは、それまで静かに話を聞いていたステラだった。

 

「ステラさん......」

「あの龍が全ての元凶である以上、狩りのチャンスを見逃すべきではなかった。責任があるとすれば、仕留められるチャンスを逃したボクたちの方です」

「そんな......全く経験のない古龍を相手に、生きて戻ってこれただけで十分ですよ」

「......だったら」

 

胸に手を当てたステラの表情は、ルナが今まで見たことが無いほどに凛々しく、力強いものだった。

今までの、他人に自分を委ねて生きてきたステラとは違う。

自分の大切なもののために戦う覚悟を決めた、本物の狩人の表情だった。

 

「今度こそ、奴を狩って見せます。そのために今は、成すべきことを成すんです。

......そうだよね、姉さん」

「......そうね、落ち込んでる場合じゃないわ。やることは何も変わらない。

邪魔をする全てを退けて、私たちは今度こそ、あの龍に追いついて見せる」

 

それぞれの故郷を守るため。そして今度こそ、かの龍を打ち倒すため。

狩人たちの戦いは、まだ終わらない。

 




受付嬢さん、なんと今回が初登場です。
忘れていたわけじゃないんです。スト―リーへの絡ませ方が全く思いつかなかっただけなのです......
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