「高難易度:ダブルクロス」という名前のクエストがあるので
これでも各話のタイトル法則から外れてはいないのですよ
数日後。
空へと戻った龍識船は、これまで以上の賑わいを見せていた。
本船の周りを多くの飛行船が行き来する姿は、さながら空に浮かんだ一つの港。降りてくるのはハンターだけに留まらず、研究者やギルド職員、鍛冶師に商人の姿もある。
「バルバレからの試料来ましたー。支払いはどこに願えばいいんでしたっけ?」
「ロックラック隊の人はこちらへ。すぐにミーティングを始めます」
「タンジア隊の皆さんですね。長旅お疲れ様でした。今日はゆっくり休んでください」
大陸各地から集った研究者たちの間を飛び交うのは、「獰猛化」モンスターについての情報の数々。目撃記録や交戦記録、回収された素材サンプルやそれらを用いた研究の進捗――これまでばらばらに調査されていた内容が龍識船に集結し、共有されていく。
「モガの村行きの隊、揃ったな!気張っていくぞ!」
「ジャンボ村行きの物資と人員、全部乗りました!出してください!」
「おおっとダンナ、その船はドンドルマ行き!ミナガルデ行きはこっちだニャ!」
集まるのは「知識」だけではなく、「力」もまた例外ではない。
手強い獰猛化モンスターに対処するために、遠方から招集されたハンターたち。彼らを一度龍識船に招き、最新の研究成果や支援物資と共に送り出す。戦力と情報を効率的に分配することで、強固な迎撃体制が急速に構築されつつあった。
これまでの空中拠点としての役割を推し進め、龍識船を獰猛化モンスター対処のための司令室兼中継地点とする。それが、再起したハイメルによる提案。
「この船から旅立ち、各地に降り立った人たちが、安寧という願いを守る流星となる――『彗星』が齎す厄災に対抗するために、ボクが出した答えです」
そう語ったハイメルにより、「オペレーション・メテオシャワー」と名付けられた一大作戦によって、獰猛化モンスターの侵攻は少しづつ、しかし確実に後退していた。
そして、作戦の始動から1週間が経過した頃。
反攻の要となる最後の戦力が、龍識船に到着した。
「......姉さんはともかく、なんでボクまで」
「文句言わないの。隊長さんに頼まれたんだから」
不満げなステラをなだめながら、ルナはゆっくりと近づいてくる飛行船に合図を出す。
二人が何故狩りにも出ず甲板に立っているのかと言えば、この飛行船......正確にはこれに乗ってやって来るある人物を出迎えてほしいという、ハイメルからの依頼を受けたためだ。
とは言え二人はその人物について、名前はおろかハンターなのかそれ以外の乗員なのかすら教えられていない。元々人見知りなステラは言うに及ばず、ルナも何故こんな謎めいた依頼をされたのか気にはなっていた。
飛行船が動きを止め、龍識船側の船員によって固定される。そして......
「お、着いたか。先導どうも!......って、あれ?」
「出てきたわね。ようこそ龍識船......へ......」
「こ、こんにち......は......!?」
ルナは、噂に聞いたその容姿で。
ステラはそれより少し早く、ついこの間まで聞いていたその声で。
飛行船から現れた人物は、すぐ目の前に居た見覚えのある少女の姿で。
三者三様に、驚愕することとなった。
「あ、貴方はドンドルマの......!」
「ガイアさん!」
「おう!元気してたか、お嬢さん!」
その身に纏うは[風翔龍]より勝ち取った防具。
背負うは、龍撃都市の技術の粋を集めて復元された古の龍殺し。
ドンドルマの守護神と謳われる狩人は、同業者の盛大なリアクションに、満足そうに破顔した。
「はは、誰の出迎えと思えばいつかのお嬢さんとは!」
「ステラ、あなたこの人と知り合いなの!?」
「う、うん。ジャンボ村で色々助けてもらって」
さらりと語られた衝撃的な事実に、ルナは本気でめまいを覚えた。
ドンドルマのガイアと言えば、大陸でその名を知らぬ狩人は居ないほどの超一流のハンター。遺群嶺調査隊への招聘を「街を守るほうが大事」の一言で蹴ったほどの人物だ。
「すると、その人が例の姉さんか?狩りの師匠だっていう」
「は......はい。ベルナ村、龍歴院所属のルナです......」
「......ぷぷっ、姉さんビビり過ぎだよ」
のしのしと歩み寄って来たガイアへと、完全に萎縮した様子で答えるルナ。
ステラはそれを見て、思わず噴き出してしまった。普段の威厳ある(とステラは思っている)ルナの背中が、こうも頼りなく見えてしまう日が来るとは。
「おーいガイアさん、あまり他所の方を怖がらせないでくださいよ」
……と。
少し遅れて、飛行船の中からもう一人、ステラにとって見知った顔が出てくる。
美しい青い甲殻に覆われた防具を纏い、兜だけを小脇に抱えた眼鏡姿の美青年。フル装備で出てきたガイアと比べると、余程親しみのある雰囲気の同業者だ。
「フォスさんも......!お久しぶりです!」
「そちらもお元気そうで何よりです。ギルドに言われて、みんなで駆けつけましたよ」
「えっ......それって」
「はい。勿論『彼』も来ていますよ」
ステラは思わず、ルナを押しのけて前に出た。
彼女の意図を察し、ガイアは足早に桟橋を渡り道を開ける。フォスもそれに続いた。
そしてステラの目の前で、ジャンボ村からの最後の援軍は、とてとてと姿を表した。
フォスの腰元程度......ステラを基準で見ても、胸元にも達しないような小さな身体。
高空の風を受けてぴこぴこと動く三角耳に、緊張しているのかせわしなく動く長い尻尾。
艶のある青みがかったトラ模様の毛を風に揺らし、一匹のアイルーが龍識船に降り立った。
「ニャー......こんにちはですニャ、ステラさん」
「アルマ、くん......!」
「えへへ......意外と早く、再会できちゃいましたニャ」
丸い手で額を撫でながら、照れた様子で挨拶を返すアルマ。
ステラは漸く、自分たちが出迎えを任された意味を理解した。龍識船は未開領域の探索という危険な任務であるため、各ハンターのオトモアイルーの同行が禁止されている。「オペレーション・メテオシャワー」発動以前は、船に居るアイルー自体数えるほどだった。
つまりは彼を出迎える人物は、彼の事情をよく知る人物であるべきという判断だろう。
「その子は......ガイアさんのオトモ?連れてこれないって話だったんじゃ」
「違うよ姉さん。アルマくんは『ニャンター』だから。ね、アルマくん?」
「はいですニャ。何とかお願いして、ハンターとして乗船させてもらいましたニャ」
「向こうも想定してなかったみたいで、ちょっとモメましたけどね。まあ、知り合いは多いほうが良いでしょう?」
そのフォスの言葉に、ステラは満面の笑みで頷いた。
ずっとガイアにビビっていたルナも、驚きとともに思い知る。
ただ、獰猛化モンスター鎮圧のために呼ばれたというだけでなく。彼らは自分たちの意思で、3人揃って駆けつけてくれたのだ......他ならぬ、ステラのために。
「さて、隊長さんに挨拶しなくちゃな。お嬢さん、案内してもらえるか?」
「は、はい!......でも、みんなで来ちゃって良かったんですか?ジャンボ村は......」
「そのことならご心配なく。近くで暴れてた奴らはもう、来る前にガイアさんが全部退治しちゃいました。後は例の作戦で来てくれるハンターに任せて大丈夫でしょう」
「人手や情報が一気に増えたおかげで、ジャンボ村も何とか持ちこたえられていますニャ。龍識船の皆さんのおかげですニャ」
朗らかに話しながら歩いて行く5人を、ルナは敢えて何も言わずに見送った。
あのステラが、いつもルナの側に居たステラが、平然と他人に心を開いている。
きっかけは、とても過酷なものだったとしても――その成長が、今は何よりも嬉しかった。
「......クエストについての説明は、以上の通りです」
晴れ渡る青空が照らす、龍識船の甲板。
数日前までの雑踏はそこにはなく、代わりに立っているのは8人の狩人。
ベルナ村の「双星」――ルナとステラ。
「ユクモの英雄」とその仲間たち――ヒロ、ヴィータ、リゼ。
「ドンドルマの守護神」と、彼が率いる最後の援軍――ガイア、フォス、そしてアルマ。
集結したハンターたちの前で、ハイメルは落ち着いた様子で言葉を結んだ。
作戦発動からはや1ヶ月。各拠点の連携強化、多くのハンターたちの活躍によって、獰猛化モンスターの侵攻はほぼ完全に食い止められていた。獰猛化の原因となったバルファルクの龍鱗も、モンスターの脅威が減少したことで、順調に除去作業を進められるようになっている。
そんな中で、さながらバルファルクの最後の抵抗であるかのように、それは現れた。
ベルナ、ユクモ、ポッケ、ココットの4拠点の近傍に出現した、ひときわ凶暴な獰猛化個体。これらの拠点が何れも比較的規模が小さく場所も奥地であったことで、万全な迎撃体制を築けないまま、苦戦を強いられていた。
これより始まるのは、「オペレーション・メテオシャワー」最後の大一番。
この状況を打開し、[天彗龍]が齎した厄災に決着をつけるため、8人のハンターによる4拠点同時狩猟が敢行される。
「敵は確かに強大ですが......恐れる必要など無いと、ボクは確信しています。ここに集まった皆さんは、奴らに立ち向かえるだけの力を、そして絆を持っている。そのことを知っていますから」
ジャンボ村と龍識船、それぞれの戦いの中で生まれた絆。
月と星に導かれ、交差した4人の思いが生み出した、2つの希望は今、重なり合い。
彗星が齎した[厄災]を退ける、大いなる力となるだろう。
そう信じて、この特別作戦を、ハイメルはこう名付けた。
「では、これより特別作戦『オペレーション・ダブルクロス』を開始します。皆さんの無事と健闘を祈ります!」
「アルマくん、ステラをよろしく!ステラ、思いっきりかましてきなさい!」
「うん......行ってきます!」
別れと再会を約束する言葉を残して、ステラはアルマと共に走り出す。
ルナとは別の方向、ルナとは別の飛行船へ。
そのほんの少しの別離に、最早恐れも躊躇いも無かった。
通常個体とは言え暴れる四天王を全員一人で狩猟に行かせた
原作の隊長中々鬼だよな......と書きながら思ってました。