早速遅れてんじゃねーかと言われそうですが、前回は実質2話投稿だったので
それで許してください......
第一話「切り裂かれた2人」
「......積もる話はありますが、まずはご挨拶をさせてください」
龍歴院の制服姿の少年が、恭しく一礼する。
「僕はハイメル。龍歴院より、この龍識船の指揮及び『遺群嶺』調査隊の隊長を任されています。
......改めて、龍識船へようこそ。皆さん」
数人の乗員の間に、困惑を含んだざわめきが流れるのを、ルナは感じた。尤も彼の容姿を見れば、それも自然なことだろうが。
ステラとどっこいどっこいの背丈から、こちらを見上げる幼顔。どう見ても龍識船の船長など出来るとは思えない人材だが、彼のとがった耳――竜人族の証が、その浅はかな考えを切って捨てていた。
竜人族。
とがった耳と、竜脚のような逆向きの脚関節が特徴的な亜人種――これはあくまで人間を基準とした場合の表現だが――の一種。諸人よりも深く自然を、歴史を識る彼らは、遥か昔からモンスターと戦う術を養い、その知識と技術を受け継いできた。
また彼らは、人の数倍の時を生きる長命種でもある。この少年も実際のところ自分よりうんと年上だったりするんだろうなと、ルナはつい考えてしまった。
「本当はこの船の案内や、調査についての説明をしっかりとしたかったのですが......そうも言っていられない事態になりました」
ハイメルは深刻な面持ちで、甲板に集った面々を見渡す。
龍歴院の研究者たち。
ギルドから受付嬢として派遣された職員。
各地から招聘されたハンターたち......そして、ルナ。
「皆さんも知っての通り、先日来航した第五次合流船が、未確認のモンスターによって撃墜されました。合流船は大破・墜落し、乗船したハンターが1名、消息不明となっています」
「ステラ......」
雲の中に消えていった少女を思い出し、悔しさに唇を噛み締める。
「消息不明」と表現したのは、高空からの転落で遺体が見つかる可能性が低いからか、はたまたルナを気遣ってか。
どちらにせよ生存は絶望的であることは、甲板の全員が理解していた。
「本来、この龍識船は高空域に駐留し、港の役割を果たしながら必要に応じて場所を変える予定でした。しかし、かの龍の追撃が予想される現在、空中に留まるのは危険だと考えます」
そう言いながら、ハイメルは一枚の地図を広げる。
それは「遺群嶺」下層の地形を示した地図。この本格調査以前に、龍歴院とギルドが協力して送り出した先遣調査隊が齎したものだ。ルナも出発前に、ベルナのハンターズギルドに提示されていたものを見たことがあった。
「そこでまずは、近辺の安全地帯へ速やかに接弦。ベースキャンプの構築ののち、本格的な調査を開始します......何か質問は」
声を上げたのは、ルナの隣に立っていた背の高い女性ハンターだった。
「ちょっと待ってくれ。合流船の撃墜をギルドに報告しなくていいのか?」
「それは......当分、ギルドと龍歴院には伏せることとしました。龍識船を破壊しかねない驚異の存在が判明すれば、即刻の撤退が命じられる可能性が高いからです。龍歴院は虎の子の龍識船の処女航海を未開拓領域にすることに、かなり慎重な姿勢を示していましたから」
「だからって......!人が一人死んでるんだぞ!?」
「待って!これはわたしの提案なの!」
声を荒げるハンターを制したのは、他ならないルナ本人だった。
「君は、あの子と一緒にいた......」
「ベルナハンターズギルドのルナ。あの時は援護射撃、ありがとう」
「するべきことをしたまでだよ。けど、君がどうして......」
「それは......わたしがあの子を、ステラを連れてきたからよ」
力なく俯いて、ルナは答える。
「わたしがあの子を無理に連れてきたから、あの子はこんな目に遭った......もうこれ以上迷惑はかけたくないの。わたしは一人の狩人として、役目を果たして見せなきゃいけない」
「......分かった。他ならぬ君がそう言うんなら、受け入れるよ」
「こちらとしても、危険な賭けなのは分かっています。納得がいかない人もいるかもしれませんが......龍識船のためにも、お願いします」
ハイメルの呼びかけに、異議を唱える者は居なかった。
この場にいる全員が、危険を承知でこの調査に参加している。今最も辛いであろうルナの覚悟を見せられたことで、僅かな迷いも消え去った。
龍識船の進路は、ただ一つ。雲の合間を裂いてそびえる、天を衝く巨嶺へと向けられる。
「事前に書面で説明した通り、これから我々が向かう『遺群嶺』はその標高と地形故、今まで本格的な調査が出来ていなかった未開拓領域です。
そして龍歴院は古文書の解読により、この遺群嶺の遥か上層に済むとされる一体の『古龍』の情報を手に入れていました。
その内容と照合した結果......我々が遭遇したかの龍こそが、この古文書に記された古龍であると結論付けました」
竜人族の――悠久の歴史を受け継ぐ、大地の民の少年は語る。
曰く、かの龍は災厄の象徴。
曰く、かの龍は空を駆ける赫星。
「彗」が如く「天」を往く「龍」――即ち。
「古文書の記述に則り、龍識船調査隊はかの龍をこう呼称します。
『天彗龍』、バルファルクと」
「バルファルク......」
ルナはその名を反芻し、ちらりと左手を見る。
その中にあったもの......龍識船に残されていた黒銀の甲殻の破片を、ルナはぎゅっと握りしめた。
陽光に照らされた水辺を、てちてちと小さな足音が駆け抜けていく。
大陸南東に広がる、広大な湿原地帯――原生林。
その入り口ともいえる明るい湿原を走っているのは、一匹のアイルーだった。
それも、アイルーと言われて人々が想像するような野生種ではない。まるで人間のハンターの真似をしているかのように、金属で出来た鎧を身に着け、背中には小ぶりなナイフを背負っている。
「......ニャ!?」
何かに気づいたように、突然立ち止まるアイルー。
直後、辺りを大きな影が覆う。
大きな丸い瞳が空を見上げれば、目に映るのは飛び去って行く巨大な飛竜の姿。
大翼を広げ、逞しい4本の脚を後ろに向けた黒いシルエットは、まさしく彼が追っていた存在の姿だった。
「ゴア・マガラ......」
アイルーの口から出た流暢な人語が、一体のモンスターの名をそらんじる。
「黒蝕竜」ゴア・マガラ。人獣を蝕む狂気の媒介者にして、天を廻る大いなる古龍の幼体である、黒き竜。
存在するだけで人里を脅かしかねないその存在は、ギルドによって厳しく監視の目が巡らされている。村の近くに現れた個体を追跡し、ただ通過するのか、それともこの原生林を縄張りとして居着いてしまうのかを確認するのが、このアイルーの受けた命だった。
アイルーは黒蝕竜を追いかけるように、原生林の奥へと進んでいった。
景色は、鬱蒼とした森の中へと変わっていく。
大木の根が折り重なって出来た天然の屋根の間を縫って、暖かい木漏れ日が辺りを照らす。固有種である花々の紅い花弁がひらひらと流れていく川は、普段であれば美しい自然の色彩で、人々やモンスターを楽しませるのだろう。
……黒紫の鱗粉によって覆いつくされ、黒蝕竜の縄張りとなっていなければ。
アイルーは咄嗟に、川の中へと飛び込んだ。ゴア・マガラに補足されないようにするため......何より、この鱗粉を吸わないようにするためだ。
目から上だけをそろりと水面に出し、慎重に辺りを見回す。こうして大気中に鱗粉をまき散らしているのは、ゴア・マガラがこの一帯を自身の縄張りと定めた証拠......なのだが、肝心の主の姿が見えない。食料でも探しに行っているのだろうか。
ともかくこうなった以上、ゴア・マガラが原生林に居座ってしまう可能性は高まった。
一先ず報告に戻ろうと、踵を返そうとしたアイルーの目に、それは映った。
「ニャ......ニャ!!?」
ざばりと水面から飛び出し、鱗粉まみれの地面を全力で疾走する。
川の上流、ごうごうと流れ落ちる、小さな滝の根本。
浮き上がった大木の根にもたれかかるようにして、一人のハンターが倒れていた。
「あ......あんた大丈夫ですかニャ!?」
ハンターのもとへ駆け寄り、呼びかける。こちらの声に反応する様子はない。
顔を隠している頭部防具のフードを取っ払うと、黒い鱗粉に塗れた血の気のない顔が顕になった。
思わず息を呑んだ。間違いない、「狂竜症」と呼ばれる、ゴア・マガラの鱗粉を大量に吸い込んだことによる中毒症状だ。
ゴア・マガラと戦っていて、返り討ちに遭ってしまったか。だとすればその割には、防具に目立った損傷が無いのが不可解ではあるが……
「ちょいと、失礼しますニャ......!」
ともかくゴア・マガラがいつ帰ってくるか分からない以上、一刻の猶予もない。
アイルーはハンターの身体を持ち上げると、そのまま担ぎ上げて走り出した。
1m程度の小柄な獣人であっても、侮ってはいけない。時に自分より大きなタル爆弾を投げつけてくる野生種がいるように、アイルーは見かけによらず力持ちなのだ。
アイルーはすぐに汚染された森を抜け、先ほどの開けた湿原まで戻って来ていた。
「げほっ、ごほっ......!」
「ニャ!目が覚めたニャ!?よかった......!」
頭上で激しい咳とともに身体が揺れるのを感じ、アイルーは安堵した。
狂竜症は人間やアイルーのように神経が発達した生物が発症した場合、鱗粉から離れることで症状が自然と緩和する。かなり衰弱しているためまだ安心は出来ないが、一先ず山場は超えられた。
「急いでキャンプへ戻るニャ、もうちょっと耐えてくれニャ!」
「う、うん......」
弱弱しいが確かに聞こえた返事に力を貰うように、自慢の脚にスパートをかける。
そうやって走るのに集中していたから、頭の上で揺れるハンターの防具から何かが落ちたことには気づけなかった。
地面で鈍い銀色の光を放った、灼けた甲殻の欠片に。
龍識船のショタ船長の名前は、MHXXの限定盤に付属していた
プロダクションノートに記載されている公式の情報に基づきます