恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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今作を書くにあたって色々と「ロケハン」をしてるんですけど、
まさかそのために大昔に親が買ったMH2の攻略本まで持ち出すことになるとは思いませんでした


第二話「波乱の萌芽」

さんさんと、海辺の日差しが照りつける。

晴天の下、周囲を囲む海には波もなく。

大きな港には今日も船が泊まり、多くの人やものが行き交っている。

ここはジャンボ村。

豊かな自然とともに発展を続け、今や「第二のドンドルマ」とも称される、辺境の港町である。

 

そしてその一角、酒場や港に面した広場をのんびりと歩いているのは、先日ゴア・マガラを追っていたあのアイルーだった。鎧を脱いだお馴染みのチョッキ姿に、手には近くの商店で買ったと思しき食べ物の入った袋を抱えている。

 

「あ、アルマ君!こんにちは!」

 

後ろから名前を呼ばれ、アイルー......アルマは振り返る。

声を掛けてきたのは、すぐ近くの酒場を切り盛りする看板娘だった。

どうやら広場の掲示板を貼り換えに来たらしく、手には数枚のチラシを抱えている。

 

「こんにちはですニャ、パティさん。昨日は色々とありがとうございましたニャ」

「どういたしまして。あの子、大丈夫そう?」

「うーん、体調はだいぶ回復してきてるみたいニャんですけど......」

 

煮え切らない様子で口ごもるアルマ。

それに何かを察した様子で、パティもチラシを持ったまま腕を組む。

 

「......やっぱり、様子を見るしかないのかなあ。私もなるべく手伝えるようにするから、じっくりしっかりお願いね」

「了解ですニャ。それじゃあ、また」

 

パティと分かれ、アルマは村の中央へと向かう。

生い茂る熱帯の木々の影に建っているのは、村所属のハンターに用意された住居。

アルマは器用にドアを開け、マイハウスの中へ入っていく。

 

「戻りましたニャ―」

 

荷物を持ったまま、部屋の奥に置かれたベッドへと声を掛ける。

その上では一人の少女が、身を起こした姿勢でぼんやりと窓の外を眺めていた。アルマが先日助けた、あのハンターの少女である。

少女はアルマに気づいて振り返ると、少々力ない笑顔を見せた。

 

「あっ……お帰りなさい」

「はいですニャ。体調はどうですかニャ?」

「おかげさまで、大分元気になったよ。でも……」

「……やっぱり、何も思い出せないんですかニャ?」

「ごめんなさい、あなたの上で目を覚ますより前は、さっぱり」

 

二人そろって、ため息がこぼれてしまう。

彼女が何とか回復した後で立て続けに発覚したのが、この記憶喪失だった。

何らかのショックで直近の記憶が欠けているのであればまだしも、自分の名前が思い出せないというから打つ手がない。助言を求めて学のある村人に尋ね回っても、「今は様子をみるしかない」以上の答えは出なかった。

 

「とりあえず、こればかりは考えていても仕方ありませんニャ。ごはんの支度をするから、ちょっと待っててニャ」

「ボクも手伝うよ。任せっきりなんて悪いし......」

「気にせず寝ててくださいニャ。メシ炊きもできないオトモなんて半人前ニャ」

 

キッチンアイルー用の厨房に買ってきた食材を並べ、いつものように鍋を火にかける。

料理はアルマの特技だった。オトモアイルーにとって簡単な煮炊き技術は必須科目ではあるのだが、前の主人はアルマの腕を気に入り、日々の食卓を任せきっていたほどだ。生まれつき人里で暮らしていたせいで、舌の好みが人間に近づいていたのもあるのだろう。

 

「アルマ君はオトモアイルー......なんだよね?ご主人のハンターは?」

「今はドンドルマ......ここの港から行ける大きな街でハンターをやってますニャ。というか、オトモのことは分かるんですかニャ?」

「えっ?ホントだ。何でだろう」

「やっぱり、一度詳しい人に見てもらった方がいいかもしれませんニャ。街まで行けばお医者さんもいらっしゃるんですかニャ......」

 

そんな会話をしているうちに、鍋に投げ込んだ肉や野菜がいい具合に煮え始めた。

部屋の中を流れていく芳香に気づいたようで、ベッドの上の少女が心地よさそうに目を閉じる。

 

(ニャ―……)

 

そんな少女を、アルマは大鍋越しに眺めていた。

吹き込む暖かい風に揺れながら、夕景の中に浮き上がる白髪。

まだ少し元気がないように見えるが、それでも一切の曇りなく瞬く紅色の瞳。

感情表現の薄い愛らしい顔立ちは、まるで等身大の精緻な人形がそこにあるのではないのかとも思えてしまう。

 

(本当に、綺麗な人ですニャ……っと、集中集中)

 

いつの間にか見とれてしまっていた自分に気づき、ぺちぺちと肉球のついた手で頬を叩く。

もうすぐ料理も出来上がる。今一度大鍋へ向き直ろうとしたその時、控えめなノックの音が部屋に響いた。

もういいだろうと先に火を止め、キッチンから入口へと駆け寄る。

 

「はいはい、どなたですかニャ」

「えーっと、私ですけども......」

 

ドアを開けると、そこには防具姿の青年が立っていた。眼鏡をかけた凛々しい顔が、当惑した様子でこちらを見下ろしている。

 

「誰かと思ったらフォスさんでしたニャ。お帰りくださいだニャ」

「えーっと、今のは私の聞き間違いですよね?ここ、私の家なんですけど」

「今は病人を看護してるとこですニャ。緊急事態故致し方なしですニャ」

「聞いてます、それはパティさんから聞いてますけど......!」

 

腰元程度しかない小さなアイルー相手に、腰低くツッコミを入れる青年。

フォスはこのジャンボ村専属のハンターであり、何よりこのマイハウスの本来の主でもある。少女が担ぎ込まれた段階ではまだ狩りから戻ってきていなかったため、留守を任されていたアルマの独断で、マイハウスは少女の静養のために使われていた。どうやら戻って来てからそれを知り、慌てて飛び込んできたらしい。

 

「どうせ滅多に戻ってこないからいいかと思ったんですニャ。こんなに早く戻ってくるとは思いませんでしたニャ」

「ターゲットだったリオレイアが、君が見つけた例のゴア・マガラに追い払われてしまったんですよ......おかげで素材は手に入らないし報酬もなしです」

「え、そうなんですかニャ!?それはお疲れ様でしたニャ......」

 

がっくりと項垂れるフォス。

獲物が他のモンスターに横取りされてしまうという事態は、珍しいことだが皆無ではない。それに、今は原生林にかの黒蝕竜が居着いてしまっている異常事態。街から狩猟隊が派遣される手筈にはなっているらしいが、しばらくは落ち着かない状態が続くだろう。

適当にあしらっていたアルマも、流石に申し訳なくなってきた。

 

「......じゃあ、お夕飯くらいは食べていきますかニャ?今ちょうど出来上がったところですニャ」

「それでもお夕飯だけなんですね......まあ、頂きます」

 

フォスを連れ、部屋の中へと戻る。

 

「ハンターさん、ここの主人が戻って来ちゃいましたニャ。一応あいさつさせてくださいニャ」

「”来ちゃいました”って......まあいいです。その、お加減は大丈夫ですか?」

 

そろりとベッドの方へ近寄った2人は、揃って目を丸くした。

少女はどういうわけか掛け布を抱き寄せ、ベッドの隅でふるふると震えていた。

 

「ひっ......!」

「あ、あの?大丈夫ですか......?」

「......フォスさん、ちょっとあっち行っててくださいニャ」

 

言われるがままに、部屋の隅へと追いやられるフォス。

アルマはぴょんとベッドの上へ飛び乗り、怯えた様子の少女へと呼びかける。

 

「大丈夫ですニャ。落ち着いてくださいニャ。あの人はああ見えてボクにも頭が上がらないへなちょこですニャ」

 

人里に生まれ、人間の社会の中で育ったアルマには、少女の怯えの意味はよく分かっていた。

それは同じ恐怖でも、モンスターを前にした時のような生理的なものとは違う。

それは不信、不安、あるいは、絶望と呼ばれるもの。ヒトとヒトとのつながりを否定され、裏切られた者が抱く感情に他ならない。

ならば、アルマができることはひとつだけ。

 

すっと、小さな手を差し出す。

恐る恐る、少女が自分の手を乗せる。それを両手で挟み込むようにして、そっと握った。

 

「ボクらは、同じハンターですニャ。仲間を助けるのは当たり前ニャ」

「......どうして、そこまで?」

「そう、ご主人に教わったニャ」

 

そう答えたアルマの右手に、ほんのわずかに重さが乗る。

少女は、アルマの手を握り返していた。

白い手の震えは、止まっていた。

 

「......落ち着いたなら、ご飯にしようニャ」

「......うんっ」

「おっ、では私も......」

「フォスさんは後でニャ。ハンターさんが食べ終わるまで待つニャ」

 

またも辛辣な扱いを受けてしまったフォスは、やれやれと言った様子で防具のポーチに手を伸ばす。

 

「じゃああの、ご飯の前に私からも一ついいですか?あぁ、その位置からで構いませんので」

 

何となく距離を置いたまま、テーブルに何かを置くフォス。

アルマが近寄って手に取ると、それは黒く煌めくモンスターの甲殻だった。

 

「ニャ?何かのモンスターの素材ですかニャ?」

「さっきこちらへ戻ってくるときに、工房の職人から受け取ったものです。そちらのハンターさんが着ていた防具の隙間に挟まっていたそうなのですが、何かヒントになるかもしれないから持っていってほしいと」

「そういうことなら早く言って欲しいニャ......どうですかニャ、何か思い出せそうですニャ?」

 

ベッドのそばに戻り、甲殻を少女の傍らに置く。

少女は物珍しそうに甲殻を手に取ると、顔の上に翳した。

窓から射した夜灯の光が甲殻に当たり、きらりと紅い煌めきを放った。

その輝きを見て――少女は、目を見開いた。

 

「―――!」

 

身体が震える。

少女の脳裏に、天空の光景がフラッシュバックする。

 

「あ、あぁ......!」

「ハンターさん!?」

「だ、大丈夫ですか!?」

 

空を覆う赫光。

届くことのなかった手。

自分から全てを奪った、黒き「龍」――!

 

「あああアァァァーーーッ!!!」

 

日の沈んだジャンボ村に、少女の絶叫が響き渡った。

 




アルマ君がお料理できるのは
2ndGのオトモがキッチンアイルーにも転職できる設定を反映してます。
こうして考えると多芸ですよねオトモアイルー......
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