恐れ見よ、冥き燼滅の亡霊を   作:燼滅刃とっきい

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(2021/12/19)
大規模な改稿を行いました。


第四話「漆黒に染まる心」

「ボクを、狩りに連れて行ってください」

 

突然の申し出を聞いて、フォスは目をぱちくりさせた。

 

「......ダメですか?」

「いや、ダメと言いますか、その......」

 

身を寄せてきた線の細い少女の身体に、思わずそっぽを向いてしまう。

昼の酒場に人通りは少ない。カウンターの隅でこそこそと話し合う私服姿のハンター2人を、気にする者など誰もいない......というわけでもなく。

 

「おうフォス、仲良さそうだな!」

「あ、あはは......」

 

通りすがった鍛冶屋の店員に声をかけられ、苦笑いでごまかす。

まあ、村付きのハンターがこの間保護された身元不明の人物―しかもけっこうな美少女である―を連れていれば、奇異の目を向けられるのも当然だろうが。

ちらりと少女の方を見ると、当の彼女は平然とパティから貰った水の入ったグラスに口をつけていた。昨日フォス相手にあれだけビビっていたのと比べると、まるで人が変わったようだ。

 

「......話を戻しますけど、正式にクエストを受注、あるいは同行したいのであれば、パティさんを通したギルドへの申告は必須です。しかしそのためには当然、貴女の名前や所属の証明が必要になります......ですが貴女には、身元を証明できるものが何もない」

 

こくっと、少女は頷く。

であれば、残念ながら結論は一つだ。

 

「となると、やっぱり難しいと思います」

「......まあ、そうなりますよね。ダメもとで聞いてみただけです」

 

くたっと机に突っ伏す少女を見て、フォスは1人思案する。

期待薄だとは思っていたようだが、それでも頼んできたのには理由があるのだろうか。

 

「......それ、何とかできると思うわよ?」

 

と。

フォスの思慮を全てひっくり返す美声が、2人の頭上から聞こえてきた。

 

「うわっ......!?な、何ですか!?」

「こんにちは、お2人さん。彼女の身の振り方の話でしょう?」

「き、聞いてたんですか......?」

「聞いてたも何も、昨日パティちゃんから全部聞いたわ。貴方が帰った後で」

 

ぽかんと口を開けるフォスをよそに、竜人族の美女は少女を見下ろす。

 

「見ての通り、この村はハンターの拠点としては小規模だし辺境よ。1人同行するくらい、誤魔化したってバレやしないわ」

「で、でもっ、ハンターには狩猟した対象の報告義務が......」

「そんなの、あの子の手柄にでもすればいいじゃない。ね、アルマ君?」

 

丁度そばを通りかかった1匹のアイルーが、「ニャ!?」と声を上げて振り返った。

整った銀のトラ模様は確かにアルマだ。パティの仕入れに連れていかれていたのが、いつの間にか戻って来ていたらしい。

 

「んな無茶な......」

「まあ、これは冗談としても。貴方とアルマ君の2人で狩るのと、そこに彼女1人加わるの、大した差じゃないでしょう?」

「それは、そうですけど......」

 

ギルド職員が派遣されていないこの村で、ハンター稼業の管理をしているのは彼女とパティだ。

その2人の協力が得られるのなら、彼女1人の隠蔽など確かに簡単なのかもしれないが......

 

「だけど、どうしてそこまで?」

「健気なハンターを応援したい......じゃ、ダメかしら?」

 

フォスは眉をひそめた。絶対裏がある。

 

「......という話ですけど。どうしますか?」

「......お願いします。ボクにも、戦わせてください」

「ふふっ、決まりね。適当なクエストがあったら知らせるから、それまで武器防具の準備でもしておきなさいな」

「そういえば工房の人が話してましたニャ。例の子の防具、一応直しておいたって」

「ありがとう。ちょっと、見に行ってきます」

 

少女は頷くと席を立ち、酒場の反対側にある工房へと向かっていく。

残されたフォスは隣の1人と一匹をみやって、やれやれと首を振った。

 

 

数日後、機会は存外早く訪れた。

ゴア・マガラによって原生林から追い払われ、フォスがオケラで帰る原因になった「雌火竜」リオレイア......その同一個体と目される竜が、ジャンボ村にほど近い場所にある「テロス密林」に居座ってしまったのである。

密林地帯に飛竜が現れる事自体は珍しくないが、この個体は一度ゴア・マガラに痛手を受けたこともあってかなり神経質になっており、縄張りに迷い込んだ人間はおろか近辺の小型モンスターにも見境なく襲い掛かる状態になっていた。村民の安全も考慮し、速やかに狩猟する運びとなったわけである。

 

ギルド公認の緊急狩猟任務(クエスト)という形で発令された依頼をフォスが受注し、表向きには単独で、実際は2人での狩りとなった。アルマの姿が見えないのは、発見者としてゴア・マガラの狩猟隊に連れていかれてしまったからだ。

 

「接岸しますよ。少し揺れるので気を付けてください」

 

一艘の船が、大滝を拝む白い砂浜の前に泊まる。

密林の入り口ともいえるこの海岸は、ジャンボ村からのアクセスの良さの割にモンスターにも気づかれにくいという、拠点を置くにはもってこいの場所。ここに直接船を泊め、前線基地(ベースキャンプ)を作るのが、密林での狩りの基本だ。

 

操舵室から外へ出たフォスの目に真っ先に飛び込んできたのは、甲板の上で立ち尽くす少女の姿。格好こそ原生林で見つかった時と同じ青黒の防具姿だが、頭部を覆うフードを脱ぎ、一面に広がる大自然の光景を見渡しているように見えた。

少女は操舵室から出てきたフォスに気づき、振り返る。

 

「......綺麗な所ですね」

「人間だけじゃなくて、モンスターにとっても良い所なんですよ。おかげでこんな依頼も舞い込んできてしまうわけですけど」

 

肩をすくめたフォスは、少女の背負った無骨な重弩に視線を移した。

「アルバレスト改」。武器を持っていなかった彼女のために、工房が貸し出したものだ。大型モンスターの素材を使わない汎用型のためどうしてもパワーは不足するが、それでもリオレイア程度の飛竜には渡り合えるよう改造されている辺りは、流石はジャンボ村の職人技術と言うべきか。

 

「ところでそのボウガン、使えそうですか?」

「試し撃ちはさせてもらったので、大丈夫ですよ」

「いえそれよりも、ヘビィボウガン使うんだな......って」

「あぁ......気づいたらこれを手に取ってました。身体が覚えてたみたいで」

 

それは良かったと、フォスは笑顔で頷いた。

ハンター1人が扱う武器は大体1種類、多くても2種類の場合が殆どだ。武器種を増やせばそれだけ必要な知識や技術、費用も増えるからである。

フォス自身、腰に提げた短剣と右腕の盾......俗に片手剣と言われる構成を専門にしている。

ちなみにフォスの防具は、火山地帯に生息する「鎌蟹」と呼ばれる大型甲殻種の素材を使ったもの。白い砂浜の中で、独特の蒼い甲殻に覆われた鎧が良く目立っていた。

 

「じゃ、行きましょうか......くれぐれも、無理はしないでくださいね」

「了解です。後ろは任せといてください」

 

2人の狩人は、密林の奥へと進んでいく。

飛竜の巣である奥地の洞窟へと進む、フォスの足取りは少しだけ重かった。

相手は手負いで狂暴化した大型飛竜。記憶喪失の狩人など連れて大丈夫なのだろうかと、フォスは不安を抱えたままクエストへ赴いたが......しかし。

 

数時間後、地に伏した巨大な飛竜の亡骸を、フォスは呆然と見下ろしていた。

結論から言えば、狩りそのものはこれ以上なく順調に進んだ。順調すぎるほどに。

 

(だけど、これは......)

 

眼下に転がった、「雌火竜」の頭部。

甲殻を砕かれ、鱗を剥がされ、片目を貫通された惨状。フォスの獲物である剣による斬撃でも、打撃に特化した槌でもこうはならない......明らかに、弾丸による集中的な射撃によって生じるもの。

剣士であるフォスにはガンナーの知識は専門外だが、それでもここまで冷酷に撃ち込めるガンナーはそうそういないことはわかる。技術的な意味以上に......精神的な意味で。

 

フォスは視線を上げた。

フォスから離れたところに立つ、1人のハンター。

大型のボウガンを手に提げ、少女は無感動に竜の死体を見つめていた。

 

――思い出したことがあるんです。ボクの命を奪おうとした龍の姿を。

 

あの日の少女の言葉を思い出して、気づいてしまう。

今の彼女に残されたのは、自身を襲った古龍への恐怖、怒り......あるいは憎しみだけなのだと。

 

「そんなの......まるで亡霊だ」

 

竜の血のにじむ地面へ吐き捨てるように、フォスは1人呟いた。

 




ジャンボ村のヘビィボウガンといえばアルバレストな印象
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