分かったあなたは相当なやりこみハンターかもしれません。
少し、これまでの話をしよう。
「天彗龍」バルファルクの襲撃を受けた龍識船は、空中拠点としての運用をひとまず断念。
遺群嶺の安全地帯に駐留し、調査の準備と先遣隊との合流を優先することにした。
前者については第五次合流船が持ってくる筈だった資材を失ったことで計画に多少の修正は入ったが、調査の続行については問題ないという判断が下される。
後者については先遣隊が「桃毛獣」ババコンガに襲われるというアクシデントがあったものの、龍識船の4人のハンターによって狩猟され、無事に合流に成功した。
そして数日後、改めて龍識船の拠点化計画が立案される。
龍識船のもう一つの役割「各拠点からの空路を繋ぐ中継地点となる」こと――既に今か今かと出発の時を待っている次の人員のためにも、これは外せない任務だった。
研究班と運航班による協議の末、当初の予定より高度を下げ、よりモンスターの襲撃を受けにくい空域に駐留することが決定される。
未開を拓く旅人たちは、己に課せられた使命へと挑んでいく。
かつーん。かつーん。
リズムよく何かを打ち据える音が、遺群嶺の山道に響き渡った。
露出した岩肌の前に仲良く並んだ、大小2つの狩人の背中。
方や、旅人のような黒い胴着に三度笠。方や、頑健な
2人は金属製のピッケルを振りかぶり、何度も何度も目の前の岩盤に叩きつけていた。
「こんなもんかしら」
「そうですね。デカいのを幾つか見繕っていけば十分かと」
地面に散らばった岩盤の破片の中から漏れ出す、真紅の燐光。
ルナとヒロが拾い上げたそれは、紅く輝く鉱石だった。
「赫星石」と名づけられたこの石を集めてくるのが、今回ハンターたちに与えられた
一見珍しそうだがこの山ではありふれた鉱物らしく、こうしてそれらしい岩肌を叩いてやると簡単に出てくる。龍歴院が見つけた古文書によれば、古代文明はこれを装飾品に加工していたという話だ。
「さて、帰りますか。そっちの袋も預かるわよ」
「あっ......ありがとうございます」
「いいのいいの。その代わり露払いはお願いね」
採取物が詰まったずた袋2つを小脇に抱えて、山道を下り始める。
前を行きますと駆けだしたヒロの背中を、ルナは歩きながら眺めていた。
「ユクモの英雄」ヒロ。遠く離れたベルナ村でも、古龍に挑み打ち勝ったというその名声を知らぬものはいない。
そんな人物に実際に会ってみれば、この年若い少年だったのだから......正直な感想を言ってしまえば、かなり驚いた。
名声に似合わぬ容姿に、ではない。
その容姿に似合わぬ、狩人としての貫禄に、である。
「っと......ルナさん、前方にジャギィの群れが」
「あら、お願いしていいかしら」
「委細承知。ちょっと待っててくださいね」
こちらに気づき警戒心剝き出しで騒ぎ始めた鳥竜種の群れへと、双剣を抜いて突っ込んでいく少年。雷狼の力を宿した剣が翻るたびに、斬り裂かれたジャギィが骸となって吹っ飛んでいく。
鮮やかな手並みと言うほかなかった。先の狩りでコンガの群れへと突っ込んでいった時もそうだったが、一対多の状況でも全く物怖じせず、敵の攻撃の間をすり抜けるように躱している。身体の小ささがすばしっこさに繋がっているのは言うまでもないが、ここまで正確な見切りの技術は天性のものでもあるのだろう。
最後のジャギィを片付けると、ヒロは武器を仕舞い、いそいそと剥ぎ取りナイフを取り出した。
この程度の獲物なら切り捨ててしまいそうなものだが(勿論ハンターとしては褒められた行為ではないのだが)、律儀なものだ。
若さゆえの真面目さに微笑みながら、ルナも袋を置いてその横へとしゃがみ込んだ。
「手伝うわ。こっちのは任せて」
「あっ、じゃあそっちの分は持って行っちゃっていいですよ」
「あらそう?ありがとう」
上手く剝ぎ取れた皮や鱗を回収し、残った骸へ短く祈りを捧げる。数時間もすればすぐに、土壌の分解者によって自然の中へ還されるだろう。
その後は小型モンスターに喧嘩を売られることもなく、2人は順調に山道を降りて行った。
以前にも訪れた開けた遺跡のあるエリア......下層で採掘を行っている、他の2人との合流地点へと到着する。
「まだ向こうは来てないみたいね」
「そろそろ合流する時間のはずなんですけどね......とりあえず信号弾でも打ち上げておきますか」
下層組に送るサインの準備を始めたヒロをよそに、ルナは今自分が歩いてきた山道を見上げた。
「山道」というものは通常、山の中を切り拓くように形成される。しかし遺群嶺のそれは、自分の歩いている場所を観察しながら進んでいくと、山の周囲を沿うように伸びていることがわかる。まるで、山を中心とした螺旋階段のように。
この奇妙にも思える地形は、遺群嶺そのものの形状に由来するものだ。
丁度ベースキャンプのあたりから、この山は綺麗な円柱状に山肌が伸びていくようになる。
まるで、誰かがそう削りだしたかのように。
......現状、まだ最上層への調査計画は立っていない。
しかしいつか頂を目指す事になった時、果たしてその道のりに何が待っているのか。考えずにはいられなかった。
「おーい!2人とも!」
「やっと来たわね......って、『巨竜殺し』1人?他の皆は?」
「まだ下にいる。ちょっと来てくれないか、凄いものが見つかったぞ!」
リゼのただならぬ様子を見て、どうしたどうしたと駆け寄る2人。
そのままリゼの案内で彼女たちが採掘を行っていた下層へ向かうと、ヴィータと数人の研究者たちが、何かを取り囲むようにして眺めていた。
「これって......」
「モンスターの鱗、ですか?それにしたって......」
地面をめくり上げるようにして形成された、小さなクレーター。
その真ん中に突き刺さっているのは、黒く灼けたモンスターの甲殻と思しき欠片。
異様な光景に、ルナは思わず息を呑んだ。
「やはり、ハンターさんでもこういうのは初めてですか」
「自然の中でモンスターの素材が落ちてることはありますけど......こんな風にして見つけることなんてないですよ」
「高空を飛行するモンスターから脱離したんでしょうか......それにしたって、こんなクレーターが出来るなんて聞いたことはありませんけど......」
話し合う面々の横で、ルナはクレーターの中まで歩み寄る。
「ルナさん?気を付けてください、まだ熱を持ってるかもしれない......」
声をかけてきた研究者を無視して、地面に突き刺さった甲殻の前に歩み寄る。
暫くその黒く灼けた表面を見ていたルナは、何かに気づいたように目を見開くと、防具のポケットから小さな黒い欠片を取り出した。
それはバルファルクの強襲を受けた後、龍識船の甲板に落ちていた欠片。
恐る恐る手を伸ばし、突き刺さった甲殻の表面を撫でて、ついに確信する。
目の前の灼けた甲殻とこの欠片は、全く同じ質感をしていた。
「......これはきっと、バルファルクの甲殻よ」
「ええっ!!?」
どよめく一同に、ルナは手の中の黒い欠片を見せる。
それが龍識船の甲板に落ちていたことを伝えると、研究者は暫しの思考の末、ルナに向き直った。
「......これが本当にかの[天彗龍]の構成物であるならば、奴の生態を探る大きなヒントになるかもしれません。お手柄です、ルナさん」
「掘り出して持って帰りましょう。ハンターさんたち、手伝ってもらっていいですか?」
「了解。『巨竜殺し』ー、ちょっと手伝いなさい」
「えっ、なんであたし?」
「貴女が一番腕っぷしが強そうだからよ。他の2人はモンスターが来ないか見張っててもらえるかしら」
「了解ですー」
研究員から採取用のシャベルを受け取り、甲殻の周りを堀っていくルナ。リゼもしぶしぶといった様子でそれに習う。
「なー、このまま引っこ抜いちゃダメなのか?」
「どこまで刺さってるか分からないし、手で掴んだら危ないかもしれないでしょう?こういうのは周りの土ごと持って帰るのよ」
「もしかしたら周りの土にも影響を及ぼしてるかもしれませんからねー」
「分かった、分かったよ......」
周りを掘っていくと、随分と深くまで刺さっていることが分かった。クレーターを作る勢いで突き刺さっていただけのことはあるようだ。
甲殻を傷つけないように慎重に掘り進めていると、不意に横合いからリゼが話しかけてきた。
「ところで、さっきまでヒロと一緒にいたよな?どうだった?アイツ」
「どうだったって、そうね......まだ子どもなのに、ハンターとしてあれだけ人が出来てるのは、素直に凄いと思ったわ」
「ははっ、アイツ真面目だからなあ。もうちょっとカッコつけたっていいだろうに」
シャベル片手にニコニコと笑うリゼを、ルナは複雑な顔で眺めた。
確かに、あの少年は天才的だ。しかしその腕と名声に、性格が追い付いていないようにも感じる。
彼がこの龍識船調査に参加したのは、勿論使命感もあるのだろうが......この空の上の世界に、彼は別のものを求めているように見えた。
「――皆さん!退避の準備を!!」
少年の叫び声が、ルナの思考を止める。
声の方へと振り返ると、ヒロとヴィータの目の前に、一頭の巨鳥が舞い降りていた。
「こいつは......!」
「[毒怪鳥]か!全く何でもいるなこの山は!」
「それだけ生態系が豊かってことでしょうよ。研究班、もうほとんど掘り出してるからそっちは任せるわ!気を引いてるうちにそれ持って逃げて!」
「りょ、了解です!」
ばたばたと準備を始める研究者たちを背にして、武器を抜きながら前進する。
迫るルナたちに気づき、咆哮を上げる[毒怪鳥]――ゲリョス。
襲い来るモンスターへと、狩人たちは怖気づくことなく立ち向かう。
彼らの旅路は、まだ始まったばかりだった。
龍識船ストーリーは元々ソロ用なので
クエストを複数人でやってるようにアレンジするのに意外と頭使います