いまいち筆が乗らず更新を延期してたら
今月ずっと忙しくて全く書いてるヒマが無く......
何とかスムーズに更新できるよう邁進してまいります。
雲より高い空の上でも、夜は来る。
星明りだけが灯る遺群嶺の静謐な夜空に、大きな光の花が咲く。
商業船や酒場船を桟橋で繋ぎ、橙色の灯火に彩られた龍識船は、さながら空の上の
笑顔で酒を酌み交わすハンターたち。
本日の成果物を携え、遺群嶺の環境について議論する研究者たち。
彼らに労いの言葉をかける、船の運航を取り持つ船員たち。
龍識船が拠点化してからの数日で来航した第六・第七合流船のメンバーも加わり、船上を行き交う人の数は出航時とは比べ物にならないほどに増えている。
そして、龍識船に増えたものがもう一つ。
甲板の一角を占有する、ベルナ村から派遣されたアイルーが仕切る屋台である。
「はぁ......わたし今最高に幸せです」
「そ、そう。それはよかった」
つやつやのチーズがかかった串焼きを手にうっとりと笑うヴィータの横で、若干ぎこちない笑みを浮かべるルナ。
少女が座る席の前には、軽く山になる量の木串が積みあがっていた。
「ここに出店する屋台がベルナ村のお店に決まったって話を聞いてから、ずっと楽しみにしてたんですよ......!地元の人たちはちょっと落ち込んでましたけど......」
「地元って、もしかして『シー・タンジニャ』?あそこも立候補してたの?」
「そうなんです。タンジア鍋をもっと広めるチャンスだって張り切ってたんですけどね」
こんがり焼けた肉の刺さった串を片手に、ルナは少し思案した。
ルナの故郷であるベルナ村がチーズで有名なように、ヴィータの故郷であるタンジアの港は海産物で有名だ。チーズくらいでそこまで喜ぶものかと思っていたが、考えてみれば港町出身のヴィータにとって、ベルナ村のような農村の特産物は珍しいのかもしれない。
それにしても凄まじい食べっぷりである。いったいこの小さな体の何処に入っていくのか。
「ニャハハ、初日からこんなに美味しそうに食べてくれるお客さんが来てくれてボクも嬉しいですニャ。どんどん食べていってくださいニャ」
「はいっ!ささ、ルナさんも」
「はいはい。いただきます」
ヴィータにとっては憧れていた名産品でも、ルナにとっては食べ慣れた故郷の味。
出航してからさほど期間は立っていないはずなのだが、不思議なことにそれでも懐かしさがこみ上げてしまう。
「そういえば、ステラも細っこいのによく食べる子だったわ......」
半ば口を滑らせたように出てきた言葉を聞いて、ヴィータの食べる手がぱたと止まった。
「ステラさん、って......ベルナ村から同乗されてたハンターさん、ですよね......?」
「ん?ええ、そうよ。ただの同業者ってわけじゃなくて、妹分みたいなものでね......身寄りが無かったから、ウチで面倒見てたのよ。狩人としての技術も、私が教えてたわ」
「妹分......大切な人だったんですね......」
「まあ、そうね......自分も頑張るんだって、凄い張り切ってたのに......」
龍識船の誰もが、「彼女」の話を避けていることを、ヴィータは分かっていた。
仲間の死を押して戦い続けようとするルナのことを、みんな心配していたから。
けれど......俯き語るルナを見て、居てもたってもいられなかった。
「......ルナさん」
「何?」
「......辛いのなら、無理はしないでください」
それが正解であれ、間違いであれ。
躊躇いなく誰かに手を差し伸べようとできるのが、ヴィータという少女の「強さ」だった。
ルナは一瞬、呆気にとられた表情を浮かべ......すぐに、それを柔和な微笑みに変えた。
「なんか勘違いしてるみたいだけど、大丈夫よ」
「大丈夫、って......」
「方針検討の時にも話したでしょう?ステラのためにも、私はこの調査を何としても成功させるって......辛いからこそ、前に進むの」
こちらを見つめるルナの顔には、迷いも翳りも一切ない。
その表情を見てようやく、ヴィータは気づく。
彼女の言葉は気休めなんかじゃない。彼女は、本気なのだと。
「......強いですね、ルナさんは」
「まあ、長い事ハンターやってるとね、背負うものが増えるのよ。
貴女はこんなに背負いこまなくていいようにしなさい。ただでさえちっちゃいのに大きくなれないわ」
「あ、頭撫でないでください......」
恥ずかし気にぺしぺしと手を払うヴィータを見て、ふっと笑みがこぼれ出る。
狩人たちの夜は、穏やかに過ぎていく。
そんな賑わいから少し離れたところで、少年は夜空を眺めていた。
ほのかに届く優しい灯りの中で、高空の夜風が黒髪をふわりと揺らす。
空色の瞳が見上げる先にあるのは、満天の星空。
雲より高いこの場所で、その輝きを邪魔するものなど何もない。
「綺麗だなあ......」
思わず呟いたヒロに、背後から歩み寄るハンターが一人。
「おーい、何やってるんだー?」
声をかけられ振り向いた先にいた人物の姿を見て、ヒロは肩をすくめた。
ぶんぶんと手を振りながら歩いてきたのは、防具を脱いだ平服姿のリゼだった。しかもヒロにとってはなじみ深い、ユクモ村の民族衣装だ。ユクモを訪れたときに土産に買っていたという話は聞いたことがあったが、龍識船に持ち込むほど気に入っているとは意外だった。
高いところは嫌いだと言っていた割に、リゼは甲板のへり近くにいるヒロの傍まで平然と歩み寄ってくる。ぽうっと赤らんだ顔を見るにどうやら酒が入っているようで、あー、酔っぱらって気が大きくなってるんだなとヒロはすぐに察した。
「星空が綺麗だったんで眺めてたんですよ。リゼさんこそ、酒場船に行ってたんじゃ......」
「いやーそれがさあ、まだ準備中だから入れないって追い払われて。なんか今は持ってきたお酒をこっちに回してる状態らしいんだ。しょうがないからこの間来たハンターさんたちと屋台の方で飲んできた」
「屋台......?ああ、今日から営業を始めたっていう、ベルナから来たアイルーさんの?」
「そうそう。ヒロも行った方がいいぞ?ベルナ産のチーズを使った料理が、今日は開店記念で食べ放題!」
酔いのせいかいつもより少し砕けた口調で、上機嫌に話しかけてくるリゼ。
傍から見れば、小柄な少年が年上の女性ハンターに迫られているなかなかに危ない絵面なのだが......しかしヒロはまったく動じることなく「後で行きますよ」とあしらってしまう。
適当に返されて興がそがれたか、はたまた夜風に当たって酔いが覚めてきたのか、リゼはそろそろと後ずさりして階段の端に腰を下した。
「......つれないなあ」
ヒロに聞こえない程度に、ぼそっと呟く。
とは言っても実のところ、これが本来のヒロなのである。
普段の社交的で積極的な姿は、あくまでハンターとしてのもの。本当はどちらかといえば1人で居る方が好きな、控えめで物静かな少年。それがヒロだ。
尤もリゼがそれを知ったのも、つい最近――湯治ついでにヒロに会いに行ってやろうと思って、ユクモ村に遊びに行った時なのだが。
(ヴィータには秘密でお願いしますね......?)
何度も念を押してきた、それこそが彼の本音なのだろう。
「ユクモの英雄」として名が広まってしまった以上、その名声に相応しい狩人で無ければいけない......そんな、若さゆえの使命感。
そしてリゼは何も言わずに、彼のやり方を尊重することを選んでいる。
でも、それは最善じゃないんじゃないか、とも思う。
このモヤモヤした気持ちをどう伝えればいいかは、分からなかった。
「みんな、楽しそうなんだけどなー」
「......そうですね。あんなことがあったとは思えないくらい」
「そうだなー。みんな思うところはあるだろうけど、今は何よりも調査を成功させようってことなんだろうな。キミもそうだろ?」
ヒロは小さく頷いて、そこで初めて空に向けていた視線を足元に落とした。
「......ルナさんも、そうなんでしょうか」
「......当然だろ。そもそも調査の続行を言い出したのはあの人だぞ?」
「それはそうです、けど......やっぱり、心配で」
この短い期間の間に、ヒロは何度も見てきた。
選ばれた狩人として、使命を全うしようとする、ルナの姿を。
大切な人を失った彼女の悲しみは、他の誰よりも深い......そのはずなのに。
「誰にも何も言えないまま、凄く無理をしている気がして......それだけが、ちょっと不安なんです」
「それは君も同じだよ」と言える勇気を、リゼは持っていなかった。
自分でも弱点だと自覚しているのですが
絶望的なまでに曇らせが下手