—科学要塞研究所—
キンケドゥ
「俺に呼び出し?」
槇菜達がバイストン・ウェルの世界に誘われている頃、その混乱に乗じミケーネ帝国の侵撃は苛烈を極めていた。特にマジンガーの拠点を持つ日本は敵からも危険視されており、甲児、鉄也を中心とした迎撃部隊は日夜出撃を繰り返している。そんな激務の中、キンケドゥは葉月博士に呼び出されていた。
葉月
「ああ。横浜自衛隊基地はわかるだろう。我々の協力者のひとりから、あそこに君を呼び出してほしいと通達があってね」
キンケドゥ
「そりゃ構いませんけど、いいんですか? ミケーネの攻勢を前に俺達はただでさえ半減した戦力を二分して対応してる。そんな中で……」
今、ミケーネは東京方面と大阪方面の二面に戦闘獣を放ち、科学要塞研究所はマジンガーZを主力とする部隊とグレートマジンガーを主力とする部隊の二手に分かれて、対応を迫られていた。こうしている今も、管制室では兜所長は甲児、鉄也達に指示を出している。
スーパーロボットのような超エネルギーを動力としないモビルスーツ乗りのキンケドゥは、この状況下で基地の防衛部隊に当たっていたのだ。しかし、その呼び出しも緊急だと言う。
そんなキンケドゥの懸念を察してか、葉月博士は「心配ない」と言って眼鏡を光らせる。
葉月
「実はな。君を呼び出しているのはアルゴ・ガルスキーなんだ」
キンケドゥ
「アルゴが!」
アルゴ・ガルスキー。ドモンと同じシャッフル同盟の1人ブラック・ジョーカーの称号を持つガンダムファイター。キンケドゥとは木星戦役の終盤、デビルドゥガチとの戦いを共にしたガンダム連合の1人だった。
現在は、別行動でデビルガンダムの行方を追っていると聞かされていたが、そんな彼が駆けつけてきたとなればもしかしたら、只事ではないのかもしれない。
キンケドゥ
「……わかりました。すぐに向かいます」
葉月
「Mk-Ⅱには、フライングアーマーを用意してある。あれなら、横浜基地までそう時間もかからないはずだ。至急向かってくれ」
キンケドゥ
「了解。……それと博士、岩国で消えたトビア達ですが」
キンケドゥがそう訊ねるが、葉月博士は残念そうに首を振る。まだ、捜索は難航しているようだった。
葉月
「だが……現場の検証に当たった特務自衛隊から、オーラバトラーの残骸が発見されたという報告が入っている。おそらく、例の異世界……バイストン・ウェルに飛んだと見て間違いないだろう」
キンケドゥ
「バイストン・ウェルか……」
俄には信じ難い事象だった。しかし、こうして起きてしまえばその事実を、飲み込むしかない。
葉月
「なんとか手がかりを見つけられるよう、私も全力を尽くす。とにかく、今は……」
キンケドゥ
「わかってます。アルゴが俺に用があるって言うなら、余程のことだ」
踵を返し、キンケドゥは駆けていく。この時、既にキンケドゥの中では“嫌な予感”が立ち込めていた。じわりと、額に汗が滲むような感覚。それでいて肌寒い悪寒。それが何を意味しているのか、キンケドゥにはわからない。
ウモン
「ほれキンケドゥ。フライングアーマーの整備終わってるぞい!」
格納庫に辿り着くと、待機中のリトルグレイの中でウモンじいさんが、ガンダム用のサブフライト・ユニットの整備を終わらせてくれていた。
フライングアーマー。空中を自由飛行できないモビルスーツのために作られた、運搬用飛行ユニット。従来のドダイ型やベース・ジャバー型との違いは単体での大気圏突破能力を持つほどの耐久、耐熱性。旧世紀の戦いで使われ今でも現役のそれが、キンケドゥのガンダムMk-IIの隣に置かれていた。
ウモン
「急な呼び出しらしいが、大丈夫か? 何ならワシもモビルスーツで出撃するが」
キンケドゥ
「じいさんはもう歳だろ。あんたの腕は信頼してるが……今はその腕をメカニックの方で役立ててくれよ」
軽口を叩き合いながら、キンケドゥはガンダムのコクピットに乗り込む。Mk−Ⅱはキンケドゥが愛用していたものよりも遥かに旧式だが、最低限の機能は備えているシンプルなコクピット構造が魅力のひとつだった。
360度をCGで再現する全天周モニターの起動を確認し、朧げなグラフィックで再現されたウモン爺さんの姿に苦笑しキンケドゥは、ガンダムをフライングアーマーに乗せる。フライングアーマーのエンジンに火が入るのを確認すると、キンケドゥは正面へ向き直った。
キンケドゥ
「よし、キンケドゥ・ナウ。出るぞ!」
キンケドゥのガンダムMk–Ⅱが発進したのを見守りながら、葉月博士は深いため息をついていた。
葉月
「藤原達が消息を絶って、もう一週間。か……」
その間、地上では更に争いが激化している。ミケーネの攻勢もそうだが、べギルスタンで起きた特殊兵器のものと思われる爆発。それに対する強制捜査という体でアメリカはべギルスタンへ派兵を開始した。
世界は今、危ういバランスの上で成り立っている。わずかでもその均衡が崩れれば、世界は大きく揺れ動くことになるだろうと葉月博士は直感していた。
葉月
「バイストン・ウェルへの扉が開いたのも、それと関係があるのかもしれないな……」
以前、ムゲ・ゾルバドス帝国との戦いの際に訪れた“宇宙の調和の音”が聞こえる洞窟を思い出す。あそこに行けば、何かがわかるかもしれない。だが……。
と、思案していた時だった。会議室のドアが開かれる。葉月が振り向くとそこには、長い金髪に、スカイブルーの瞳を持つ女の子が、小さな仔犬を抱いて葉月を見つめていた。
葉月
「ローラ!」
ローラ
「おじちゃん、雅人たちまだ帰らないの……?」
ローラ・サリバン。ムゲとの戦いの中で忍が保護した避難民の少女と、その愛犬ベッキー。獣戦機隊にとって妹同然のこの少女は、心細くダンクーガの、獣戦機隊の帰りを待っていた。
葉月
「大丈夫だ。みんな必ず、無事に帰ってくる」
ローラ
「本当?」
ローラはまだ子供だ。兄姉のように慕い頼っている者達が突然消えてしまえば、不安にもなるだろう。そう葉月博士は憐れんだ。だが、感傷に浸るわけにもいかない。
葉月
「私は科学者だ。正確なことしか言わないよ。だから、私の言うことを信じなさい」
ローラ
「うん…………」
事実、バイストン・ウェルから帰還したショウ・ザマという青年の話が存在する以上はバイストン・ウェルに行った人間が2度と戻らないということはあり得ない。科学で解明できない部分が多くを占める海と大地の狭間の世界でも、データとして証明できる部分がある以上は葉月は「藤原達は必ず帰還の糸口を掴む」ことを確信していた。
なぜなら獣戦機隊はいつも、データだけでは起こし得ない奇跡を起こしてきたのだから……。
…………
…………
…………
—ミケーネ帝国—
その闇の世界に、炎は赤黒く揺らめいていた。炎。全身を闇の炎に燃やす巨大な影。ミケーネの将達に『闇の帝王』と呼ばれる存在は、腹心とも言うべき部下……暗黒大将軍の報告を聞き、感慨深く思っていた。
闇の帝王
「ほう……。それではマジンガーの仲間達の半数が、消えたと言うのだな?」
暗黒大将軍
「はっ。どうやら“死の世界”へ引き寄せられたようです」
“死の世界”……。そこに住む者がバイストン・ウェルと呼ぶその空想の根源とも言うべき世界へ迷い込んだ者は数多い。バイストン・ウェルという異界は、この地球に生命が生まれた頃よりずっと、存在しているのだから。
だが、“死の世界”を睥睨するジャコバ・アオンは静寂と安寧を望んでいる。それ故に闇の帝王と袂を分かち、破壊と混沌を望む闇の帝王は“生の世界”……地上へと進出したのだから。
闇の帝王
「暗黒大将軍、これは好機だ。“死の世界”へ仲間が落ちた今こそ剣鉄也、兜甲児の息の根を止めるために動くのだ」
闇の帝王はその瞳を鈍く輝かせる。それに暗黒大将軍は恭しく傅いた。
暗黒大将軍
「ははっ、既に奴らの拠点、科学要塞研究所のある日本の各地に戦闘獣を送り込んでおります。東京、大阪への二面作戦。奴らは戦力を分断する他ないでしょう」
暗黒大将軍曰く、こうだ。日本の自衛隊程度の戦力では戦闘獣の相手にはならない。唯一、特務自衛隊が厄介ではあるがそれでも戦闘獣を物量で繰り出せば踏み潰せる相手。そして、主要拠点がある地区を中心に同時侵攻すればマジンガー達も戦力を分散させざるを得ない。
戦力を分散させたところを、確実に倒す。暗黒大将軍はそのために自身の万能要塞ミケロスをゴーゴン大公に預けたと言っていた。
???
「フ、フフフ……。ならば、我々も動く好機となりましょう」
闇の中でもう一人、小さな影が揺らめいた。艶のある金髪に、眼帯をした人間の男。しかし影のあるその顔には狂気の笑みが零れ落ちている。そんな危険な雰囲気を全身に纏った男だった。
闇の帝王
「……ザビーネか」
暗黒大将軍
「ム? 闇の帝王様、この人間は?」
ザビーネと呼ばれた男はクツクツと笑みを漏らしながら暗黒大将軍にひざまづく。
ザビーネ
「私は……剣鉄也の仲間の一人に個人的な恨みを持つものです。卑しい人間の身分ではありますが、闇の帝王様に忠誠を誓っております」
闇の帝王
「暗黒大将軍、ザビーネは人間の側から我々の侵略をやりやすくするために活動している内通者とでも言うべき者だ。それでザビーネよ、お前は何をするつもりだ?」
ザビーネ
「ク、クク……。私の目的は、貴族主義社会の復活。そして、この汚れた地球を真に統治すべき貴族とは闇の帝王様。あなたのようなものがふさわしい……私は、そのお手伝いをするまでのこと。この地球を古くから治めていた貴方こそ、まさに貴族!」
ザビーネの瞳孔は開き、もはや正気とは呼べるものではなかった。狂気。妄執。そういうものに取り憑かれながら、貴族への崇拝を掲げそして、その掲げるべき貴族と闇の帝王を見ている。そのような人間、暗黒大将軍は見たこともない。
闇の帝王
「……よかろう、ザビーネよ。お前は好きに動け」
そんな狂人を放置する闇の帝王もまた、正気であるようには思えなかった。ザビーネは大仰に一礼すると、「ククク、クハハハハハハ!」と笑いを溢しながら闇の中へ消えていく。それを見送り暗黒大将軍は、口を開いた。
暗黒大将軍
「闇の帝王様、よろしいのですか? あのようなものを……」
闇の帝王
「何、奴は人間同士の愚かな争いで一度死んだリビングデッド。奴の心臓はワシが握っているも同然。それに……ああ見えて奴は頭が切れる。暗黒大将軍、お前が安倍晴明とかいう人間を飼っているのと同じことよ」
暗黒大将軍
「ですが……」
しかし、闇の帝王のやることに口出しできる立場ではない。そのことを暗黒大将軍自身が一番よく、わかっていた。
闇の帝王
「何、心配するな……。奴の言う貴族主義社会。よいではないか。我々ミケーネ帝国が貴族として地上に君臨し、愚かな人間全てを戦闘獣に改造してやろう。それこそが、この闇の帝王のノブレス・オブ・リージュというものよ」
闇の中を、その闇の支配者が冷たく笑う。暗黒大将軍すら背筋が凍りつくほどの冷たく、重い笑い声。それこそが、剣鉄也達の倒すべき敵だった……。
槇菜やエイサップ達がバイストン・ウェルへ降り立ち、櫻庭桔梗がトッド・ギネスを回収した……それとほぼ同じ頃の出来事である。
…………
…………
…………
—大阪—
鉄也
「アトミック・パンチ!」
グレートマジンガーの放つ豪腕が、戦闘獣を粉砕する。その背後からグレートを狙う別の戦闘獣を、ドラゴンガンダムがその腕を伸ばし破砕。
サイ・サイシー
「ミケーネの奴ら、日本中のあちこちに同時攻撃をかけてやがる!」
鉄也
「大方、俺達を疲弊させるのが目的だろう。だが、人間の意地を舐めるなよ戦闘獣! ブレストバーン!」
グレートの熱線がさらに敵を破壊する。しかし、それでも多勢に無勢。次第にグレートもエネルギーが尽きかけはじめていた。そこを狙いすましたかのように、空を飛ぶ戦闘獣……オベリウスが爆撃で畳みかける。
鉄也
「クッ!?」
サイ・サイシー
「鉄也のアニキ! こなくそぉっ!?」
ドラゴンガンダムがバルカン砲で迎撃するが、空高くから執拗に攻めるオベリウスにガンダムの武装の多くが届かない。
鉄也
「ドラゴンガンダムは、地上のミケーネ部隊の相手をしてくれ。空の敵はグレートがやる。スクランブル・ダァァァシュッ!」
グレートマジンガーが飛び上がり、オベリウスへ迫る。グレートタイフーンで足を止め、マジンガーブレードで真っ二つにする。しかし、まだ敵の攻撃は止む気配がない。
鉄也
「奴ら……本格的に消耗戦に持ち込む気か。所長! このままではラチが開きません。敵の司令塔を撃破しなければ」
科学要塞研究所へ通信を入れる鉄也。研究所もミケーネの戦闘兵士……ミケーネス達の爆弾戦車の猛攻に晒され、ダイアナンA、ビューナスAの2機が迎撃に出撃していた。
剣蔵
「鉄也君。おそらく敵の司令塔は万能要塞ミケロスだ。ミケロスは横須賀湾を進軍しながら研究所へ向かっている。ダイアナン、ビューナスでは力不足だ。向かってくれるか?」
研究所の様子がモニタに映し出されるが、所員たちが慌ただしく防衛活動に勤しんでいるのが見える。それだけ、敵も本気ということだろう。
鉄也
「ええ。ですがグレートのエネルギーも残り少ない。大阪の敵を振り切るのに、手こずりそうです」
剣蔵
「それなら、心配はいらない。心強い仲間がそっちに向かってる」
「仲間?」と鉄也が聞き返すと同時、レーダーが何かを捉えていた。ブレーンコンドルのカメラがそれを拡大し、鉄也にそれを伝える。
鉄也
「あ、あれは!?」
鉄也が見たものは紫色の、ずんぐりむっくりしたロボットだった。飛行用のブースターなどついていない。腹にいくつもの風船を括り付けたロボットが、飛行船の要領で浮遊しながらこちらに向かっている。
ボス
「じゃんじゃじゃーん! おお〜い剣! このボロット様が来たからには百人力だわよぉ!」
ボス。誰からもそう呼ばれる本名不詳の巨漢とその手下のヌケ、ムチャが乗る変なロボット・ボスボロットだ。
鉄也
「おいボス! 遊びに来たんじゃないぞ!?」
あまりにも心細い援軍に溜息を吐きながら、鉄也はボヤく。
ボス
「何をぉ!? いいか、このボロット様はマジンガーの予備エネルギータンクを持ってきてやったのよ!」
そう言うとボスボロットはグレートマジンガーへ平泳ぎのような動作で接近し、腕を伸ばす。それから腹部からエネルギータンクを取り出し、グレートマジンガーへ投げつける。それを受け取ったグレートは、すぐに腹部を開きエネルギータンクを交換した。
すぐにその効果は表れ、レッドゾーンに突入していたグレートマジンガーのエネルギー残量が、一気に満タン表示のグリーンカラーを指し示す。
鉄也
「こいつは有難い。これでグレートは百人力だぜ!」
ボス
「陸の敵はこのボロット様に任せな鉄也。お前は空の敵を振り切ってミケロスへ急げ!」
グレートへエネルギータンクを渡し終えるとボスボロットの口から一羽のカラスが飛び出した。カラスは「アホー! アホー!」とボスを罵倒しながらボスボロットを浮遊させる風船を一つずつ、鋭利な嘴で割っていく。
バカラス
「アホー! ボスのアホー! カラス遣いが荒いんだヨー!」
カラスにしてはやたら流暢な日本語でボスを罵倒しながら全ての風船を割ると、浮遊力を失ったボスボロットは垂直に落下していく。そして、ドラゴンガンダムと格闘する戦闘獣の頭上目掛けて思いっきり激突した。
ボス
「あら、あららららら〜!」
ヌケ
「ボシュ〜。両手取れちゃってますよ〜!」
ムチャ
「あーもうめちゃくちゃじゃんかよ!」
バネのような形で固定されている手足を失い、戦闘獣にぶつかった反動でボスボロットは転がっていく。
サイ・サイシー
「なんかわかんないけど、これなら!」
ドラゴンガンダムがその転がる大玉を、サッカーボールのように蹴り飛ばした。
ボス
「あら、あらららら!?」
サッカーボールの要領で蹴られたボスボロットは大きくリバウンドし、巨大なチェーンカッターを持つ戦闘獣に激突。それを弾き飛ばしていた。
サイ・サイシー
「これなら、空の敵にも攻撃できる! 行くぜ、ドラゴンシュートォッ!?」
ボス
「こんなサッカーは試合じゃなくて、喧嘩じゃねーかよぉっ!?」
ボスボロットを砲弾にして、グレートへ迫るサイコベアーを破壊するドラゴンガンダム。そして、敵がドラゴンガンダムに狙いを定め攻撃するべく陸地に降りてくれば……。
サイ・サイシー
「行けッ、フェイロンフラッグ!」
ドラゴンガンダムの得意戦術。旗を使い追い込みをかけ、必殺のドラゴンクローで敵を粉砕していくパターンに持ち込むことができる。
ボス
「み、見たか鉄也! これがボスボロットの力だぜ!」
ゴロゴロと転がりながら、ミケーネ兵を追い回すボスボロット。その様子は滑稽ではあったが、ミケーネの歩兵部隊を相手にしなくていいのはサイ・サイシーとしても気楽だった。
鉄也
「フッ、今回は助かったぜボス。サイ・サイシー、俺は司令塔を叩きに行く!」
サイ・サイシー
「ああ、大阪はオイラとボロットに任せてくれ!」
…………
…………
…………
—横浜/セシリーのパン屋—
セシリー
「…………シーブック、大丈夫かしら」
セシリー・フェアチャイルド。現姓セシリー・アノーは戦火の拡大する様子をテレビで見守りながら、スーパーロボット軍団に協力している夫・シーブックの身を案じていた。
シーブックは、正義感の強い男だ。見て見ぬふりをできなかっただろうことは想像できる。しかし、自分を置いていってしまうのではないかと不安にならないことはない。
セシリー
「あの人は、無茶をするから……」
思えば、木星戦役の前……コスモ・バビロニア建国戦争の時もそうだった。シーブックは、セシリーを助けるために多くの無茶無謀をやってのけてきたし、セシリーはそんなシーブックに惹かれたのだ。
だが、もうシーブックもあの頃ほど若くない。木星戦役の際に右腕を失って多少は大人しくなったかと思えばすぐにこれだ。しかも、今度は自分に何の断りもなく!
セシリー
「少し、トビアやドモンさんの悪い癖が移っちゃったのかしらね」
それでも、そんなふうに苦笑して夫の帰りを待つことができる程度にセシリーは、シーブックを信頼していた。それに、セシリーの店やその周囲を自衛官がいつも数名、私服で客を装いながら護衛してくれているのもシーブックが働きかけてくれたおかげらしい。
監視されている。というような嫌な感じはなかった。それはセシリーが貴族……ロナ家の娘だった頃の監視網に比べれば微々たる、プライバシーに配慮したものだったからそう感じられるのもあるだろう。
しかし、ミケーネ帝国の攻撃が続く中ここも安全とは言い切れないのが現状だった。ガンダムファイトの被害が大きい東京の復興計画予定地を中心に今、ミケーネ帝国の攻撃が開始されている。ここも、時期に避難勧告が出るだろう。セシリーは避難の準備をしながら、テレビモニタでその様子を見守っている。
戦闘獣と戦うのはマジンガーZと、赤い空を飛ぶロボットだった。それに、自衛隊の新兵器も出撃しているらしい。そんな戦場に、シーブックもいるかもしれないと思うと胸が締め付けられる思いだが、今できることはそんなシーブックの帰る場所を守ることだった。
シーブックの帰る場所。それはこのパン屋であり、自分のもとなのだ。そう奮い立たせてセシリーは避難準備に取り掛かる。そんな時だった。玄関の扉が開かれ、カランコロンと鈴の音がする。
セシリー
「ごめんなさい、避難準備をしなきゃいけないから……」
客だろう。そう思い笑顔で応対するセシリーの血の気が、その客の顔を見てみるみるうちに引いていく。
ザビーネ
「お久しぶりです、ベラ様……」
セシリー
「ザ、ビー、ネ? 生きて? いたの?」
ザビーネ・シャル。コスモ・バビロニア戦役の頃からセシリーの……いや、コスモ・バビロニア貴族主義を提唱したマイッツァー・ロナの孫ベラ・ロナの護衛として共に戦場に立った騎士。しかし、貴族主義を捨てたベラ・ロナと違い貴族主義社会の実現に傾倒するあまり木星帝国に降ってセシリーとシーブック……ベラ・ロナとキンケドゥ・ナウに立ちはだかった最強の敵が、セシリーの前に立っていた。
美麗。そういっても過言ではない金髪と整った顔立ちはしかし、狂気に歪んだ顔に全てを壊されている。壊れた人形のように「フ、フ、フ」と繰り返す姿は既に不気味を通り越し、異常。そんな異常者をザビーネであると、10年前の自分なら理解できなかっただろう。
しかし、その狂気に歪んだ夢を見る男の姿は間違いなく、ザビーネ・シャルだった。
ザビーネ
「死んでいましたよ……。ですが、キンケドゥが生き返っておきながら、私だけが生き返らないのは不公平でしょう?」
セシリー
「私の前で、よくもぬけぬけと……!」
セシリーは身構える。そもそも、警備をしていたはずの自衛隊員達がこの異様な男を無視するはずがない。そうであるにも関わらずここに辿り着いたということは……。
ザビーネ
「部下から聞いていますよベラ様。奴が……キンケドゥが、戦場に戻っていると」
セシリー
「…………」
この非常事態の混乱を利用し、隊員達を倒してここまで来ているのだろう。ザビーネの全身から放たれている臭気……血の匂いがそれを物語っていた。
セシリー
「私を、どうするつもりですか?」
ザビーネはクツクツと不気味な笑みを浮かべながら、セシリーを……ザビーネの敬愛するベラ・ロナを舐め回すように見つめる。そしてセシリーの華奢な細腕をグイと掴み、自身の下へ引き寄せる。
セシリー
「ッ!?」
万力のように力強く握られ、セシリーは構え隠していた綿棒を落としてしまう。ザビーネの狂気に歪んだ貌が、セシリーの瞳いっぱいに広がった。
ザビーネ
「あなたは、妃になってもらうのですよ。闇の帝王様のね……!」
セシリー
「な……!?」
ザビーネ
「わからないのですか。人類はミケーネ帝国に勝つことなどできないのです。人類は、太古の昔よりこの星を支配していた存在ミケーネ……即ち、貴族によって管理されるべき存在。そして、ベラ様。あなたが闇の帝王の妃として、人類を導くべきなのですよ……!」
セシリーには、ザビーネの理屈が理解できない。しかしザビーネには、それを理路整然とした理屈のように語っていた。
狂っている。そうとしか、セシリーには感じられなかった。
セシリーの腕を掴み、強引に引き寄せてザビーネは店を後にする。店のすぐ近くに、大きな布を積荷に被せたトレーラーが待機していた。その布から露出している大きな風車のようなものに、セシリーは見覚えがあった。
セシリー
「ガンダム……!」
黒いエックス。それはザビーネの愛機。クロスボーン・ガンダムX2。それのコア・ファイターが持っていたのと同じもの。正確には、より大型化しており、それ故に布で覆いきれないでいる「X」の特徴的なブースター部分が、確かに見えていたのだ。
ザビーネ
「話によれば、キンケドゥはガンダムをあの少年にあげてしまったとか。フフ、果たして今のキンケドゥが来たところで私の敵ですかな……?」
セシリー
「ザビーネ、あなたは……!」
そう、セシリーが叫んだ時だった。フライングアーマーに搭乗したモビルスーツが一機、セシリー達の方に迫っている。特徴的なV字のアンテナからそれがガンダムであると理解できる。そして、そのモビルスーツに乗る者が誰なのか、セシリーは直感で理解していた。
セシリー
「シーブック……!」
キンケドゥ
「セシリー!?」
シーブック・アノー。今はキンケドゥ・ナウを名乗る男の乗るガンダムMk-IIが、横浜の上空を飛び、駆けつけてきたのだ。
……………………
第8話
「F91ガンダム出撃」
……………………
旧世紀に栄えた横浜歓楽街。その跡地ともいうべきスラムに待機拠点を作っていた木星帝国残党軍のモビルスーツ達が、ガンダムの出現に顔を出す。いずれも、バタラ。指揮官機と思われるアラナ・バタラに乗るカマーロ・ケトルは、突如表れたガンダムの存在に驚愕していた。
カマーロ
「あのガンダム……! 今はミケーネの相手をしてるんじゃなかったの?」
バタラ達がビーム・ライフルで上空のガンダムMk-IIを狙撃する。しかし、地球の重力に慣れない木星の兵士達は旧式のフライングアーマーを相手に命中させるのにも苦労していた。
そして、それに乗るのが歴戦のパイロットであるのならば尚の事。キンケドゥはフライングアーマーから飛び降り、ビームライフルをバタラへ向けて当てていく。市街地への被害を抑えるように努力しながら、精密な射撃でバタラの駆動系を撃ち抜いていく。
キンケドゥ
「葉月博士から、横浜基地へ向かうように言われたんだ。だが……まさかまだお前達がいたとはな!」
落下するガンダムMk-IIをフライングアーマーに拾わせ、再び滑空するキンケドゥ。キンケドゥは、セシリーを強引に乗せたトレーラーを追っていた。
キンケドゥ
「待て!」
トレーラーにセシリーがいる以上、迂闊に攻撃はできない。しかし、セシリーを取り戻さなければ。そんな焦りが、キンケドゥを逸らせる。
カマーロ
「無視するんじゃ、ねえっ!?」
カマーロのアラナ・バタラが、ストリング・ガンを斉射した。たしかにカマーロは、他の雑兵よりは腕も立つ。しかし、それを察知できないキンケドゥではなかったはずだ。それなのに、フライングアーマーの左翼にストリング・ガン命中し、空中で大きくバランスを崩す。
キンケドゥ
「しまっ、た!?」
フライングアーマーを海に捨てて、ガンダムMk-IIは大地へ降り立った。その間も、住宅街や人気の多そうな場所を避けるように空中で落下場所を調整する。その間に、トレーラーは遠のいていく。
カマーロ
「私達を散々苦しめたガンダムめ、このまま無事で済むと思うなよ!」
ガンダムMk-IIの着地地点を目指し、アラナ・バタラが迫る。しかし、キンケドゥは、冷静にビームライフルを撃ち、アラナ・バタラの四肢を撃ち抜いた。
カマーロ
「なっ……!?」
キンケドゥ
「命まで取る気はないんだ。失せろ!」
「おのれ……」と吐き捨て、カマーロがアラナ・バタラを乗り捨て退散するのを確認し、キンケドゥは再びトレーラーが去っていく方を見やる。
セシリー
「シーブック、シーブック!?」
セシリーの叫ぶ声が、聞こえた気がした。
キンケドゥ
「セシリー……!?」
トレーラーが見えなくなるのと、ガンダムが海岸沿いに不時着したのは、ほぼ同時だった。そして、トレーラーの走り去った方から、何かがキンケドゥのガンダムMk-IIに迫る。
それは、黒いモビルスーツだった。巨大な槍を構え、赤い瞳でこちらを睨む漆黒の機械。その姿を、その存在を、キンケドゥは知っている。
キンケドゥ
「ま、さ、か……?」
その「x」状のブースター、それにV字のアンテナ。全てが、キンケドゥの知る者と同じだった。
ザビーネ
「ハハハハハ! また会えて嬉しいよ、キンケドゥ!?」
キンケドゥ
「ザビーネ。生きていたのかっ!?」
ザビーネ・シャル。そしてザビーネの愛機クロスボーン・ガンダムX2改。その漆黒はザビーネの所属した部隊「黒の部隊」を想起させ、その槍……ショット・ランサーは、王権に与する騎士の象徴。
コスモ・バビロニア貴族主義最後の騎士ザビーネ。キンケドゥの宿敵が、彼の目の前に躍り出たのだ。
クロスボーンX2改は、ガンダムMk-IIとは比べ物にならないスピードで街を駆ける。市街地に被害を出さないように動いていたキンケドゥと違い、下々のことなどまるで見てもいないかのように無視し、最高速度でキンケドゥのガンダムを目指していた。
ブースターの熱風が、木々を吹き飛ばす。街の信号機や道路標識もまた。それらは質量を伴った脅威となって、家屋へ激突し、民家の屋根が吹き飛んだ。それに巻き込まれて、家の中にいた住民までも。
キンケドゥ
「ザビーネ……き・さ・まぁっ!?」
その傍若無人な振る舞いに、キンケドゥは憤りを隠せなかった。ビームライフルを構え、ザビーネのクロスボーン・ガンダムへ撃ちまくる。しかし、ザビーネはそれを見切っていたかのように避け、ザンバスターを構える。
ザビーネ
「ハハハハハ!? キンケドゥ! そんな旧式で何ができるというのだキンケドゥ!?」
ザンバスターによる銃撃は、的確にキンケドゥのいるコクピットを狙っていた。Mk-Ⅱは、そこを庇うようにシールドを構える。一撃、ニ撃。高出力のビームは忽ちMk-Ⅱのシールドを吹き飛ばし、ガンダムの姿を晒し者にする。
キンケドゥ
「クソッ!?」
ボロボロになったシールドを捨て、キンケドゥはバックパックに備えられたビーム・サーベルを抜いた、そして、突撃、クロスボーン・ガンダムX2改と交差する直前にビーム・サーベルのスイッチを入れ、ザビーネのビーム・ザンバーと鍔迫り合う。
キンケドゥ
「クッ…………ザビーネ。セシリーを、セシリーをどうするつもりだ!?」
ビーム・ザンバーは、通常のビーム・サーベルよりも遥かに高密度にビームを収束させている。その威力はビーム・シールドごと敵モビルスーツを破砕できるほどのものであり、Mk−Ⅱの持つビーム・サーベルでは相手にもならない。ビームとビームが互いを攻撃し合う中で、ザビーネのビーム・ザンバーは確実にキンケドゥの喉元へ迫っていた。
ザビーネ
「知ってどうする? フ、フハハ。お前はどの道ここで死ぬのだぞ? ダメじゃないか死ぬ奴がシャシャり出てきちゃ!」
ザビーネが狂ったように笑い声を上げる。しかし、狂いながらもザビーネの攻撃は正確無比だった。ビーム・サーベルを持つ右腕をザンバーは両断し、距離を離すためにバルカンを撃つMk-Ⅱへ追い討ちをかけるようにバルカン砲を放つ。バルカンの威力すらも、クロスボーン・ガンダムが上。Mk-Ⅱのバルカンを自らの装甲で受けながら、クロスボーンのバルカンは確実に、ガンダムMk-IIの頭部に命中し、カメラやセンサーをズタズタに痛めつけていた。
キンケドゥ
「う、わぁ、ああ、あぁっ!?」
ザビーネ
「ハハハハハ! これがお前の末路だよ。さようならキンケドゥ!?」
トドメとばかりに、背中に背負っていたバスターランチャーを構えたX2改。その威力がチャージされると共に、高出力のメガ粒子がキンケドゥへ放たれた。
だが、しかし。
そのビームは突如として迫り上がる大地の壁に阻まれ、Mk–Ⅱへの直撃コースを逸れてしまうのだった。
ザビーネ
「何……?」
キンケドゥ
「これは……!?」
隆起する大地の向こう、地面に拳を撃ち付ける重苦しい雰囲気のガンダムが、そこにいたのです!
アルゴ
「…………大丈夫か?」
そう! その名もボルトガンダム! そして、それを操るはブラックジョーカーの紋章を持つシャッフル同盟が1人、アルゴ・ガルスキー!
キンケドゥ
「アルゴ……アルゴ・ガルスキー!?」
かつて、共に木星帝国と、デビルガンダムと戦った戦友の登場に、キンケドゥの顔に一瞬、光が灯りました。そして、ボルトガンダムの後方……アルゴの海賊艦ゴルビーⅡが、キンケドゥに着艦要請を出しているではありませんか!
アルゴ
「行け。こいつは、俺が相手をする」
キンケドゥ
「しかし……」
それ以上、アルゴは何も言いません。寡黙な男アルゴ・ガルスキーは、それ以上の会話は無用と判断しザビーネのX2改を睨んでいました。
その様子に、これ以上の問答は無用と認めキンケドゥはアルゴ達の母艦・ゴルビーⅡへ向かっていきます。
ザビーネ
「待て、逃げるかキンケドゥ!」
アルゴ
「ぬぅん!」
クロスボーン・ガンダムを、アルゴのボルトガンダムは剛腕で受け止めキンケドゥが離脱する時間を作ります! そのまま怪力で押し潰される可能性を見たザビーネは、ボルトガンダムを蹴り上げる。暗器として隠されたヒート・ダガーを使い、ボルトガンダムを引き剥がし再び体制を立て直す。
ザビーネ
「シャッフル……シャッフル……シャッフル同盟。なぜ、なぁぜまた私の邪魔をする!」
アルゴ
「…………お前が、平和を乱す者だからだ」
アルゴは、肩から射出した鉄球・グラビトンハンマーを構えザビーネと対峙します。そして!
ザビーネ
「は、ハハハ! いいだろう、ならば!」
アルゴ
「ガンダムファイト!」
ザビーネ
「レディ!」
アルゴ
「ゴー!」
かくして、ボルトガンダムとクロスボーン・ガンダムX2改。2機の黒いガンダムの、ガンダムファイトが始まったのです!
アルゴ
「ぬぅぅぅぅん!?」
グラビトンハンマーを振り回し、最初に動いたのはボルトガンダム! 超重量の鉄球が、ザビーネのクロスボーンへ襲いかかります! しかし、ザビーネも負けてはいません。スピードで勝るX2改は、みるみるうちに距離を離してザンバスターによる遠距離戦へシフトしました。
ザビーネ
「この距離なら、ハンマーも届くまい!」
アルゴ
「フン……!」
ガンダムMk-IIなら致命傷のザンバスターを受けてなお、ボルトガンダムは無傷。スーパーロボットに匹敵する超重装甲。超パワー。それが、ネオロシアのボルトガンダムなのです!
アルゴ
「その程度か!」
アルゴ・ガルスキーのボルトガンダムが、今度は動きます。その重量を木偶にしないためにつけられた高推進力で、一気にクロスボーンへ追いつきタックルを食らわせるのです!
ザビーネ
「ぬぅぅ!!?」
アルゴ
「ヌン!」
タックルを受け、大きく退け反ったクロスボーン・ガンダムへ、さらに追撃のグラビトンハンマー! これを受ければ、いかに高性能機であるX2改とてひとたまりもありません。しかし!
ザビーネ
「フ、フハハハハ……調子に乗るなぁっ!?」
X2改の右腕につけられた巨大な槍が、突如として飛び出しグラビトン・ハンマーを貫いたではありませんか!
アルゴ
「何ッ!?」
いくら木星帝国で改造を受けたとはいえX2に、ショット・ランサーにそのようなパワーは存在しません。それどころか、先ほど与えたダメージがみるみるうちに回復していきます!
その驚きの再生能力に、アルゴは覚えがありました。
アルゴ
「貴様…………まさか!」
ザビーネは、クツクツと笑いながら自らの眼帯を外し、金色の長髪をかきあげて見せます。そして、その姿を目の前のボルトガンダムに……アルゴ・ガルスキーにモニタを通して見せつけるのです!
ザビーネ
「フフフ……ハハハハハ!」
ザビーネの右目と、その髪に隠れた半分の顔は、まるで鱗のように銀色の機械が侵蝕しているではありませんか!
アルゴ
「デビルガンダム細胞……。貴様が生き返ったのは、そのためか!」
ザビーネ
「フ、フフフ……まさか。これは私が自らの意思で感染させたのだよ。今のままでは、私は騎士としての使命を果たすことができぬ。今度こそ、今度こそベラ様に貴族として降り立ってもらう。その時のために!」
狂気の笑みを浮かべながら、ザビーネは恍惚と語る。しかし、理由などアルゴには関係ない。
今は、目の前の悪魔を砕かなければ。そう、アルゴは覚悟を新たにする。
ボルトガンダムの全身が金色に輝き、そして!
アルゴ
「炸裂! ガイアクラッシャー!」
金色に輝く剛腕を、アスファルトへ叩きつけるボルトガンダム! アルゴの気迫が大地を揺さぶり、コンクリートで舗装された街路を突き破り大地が隆起し、クロスボーン・ガンダムX2改へと迫り来る!
大地の怒りに呑まれながら、ザビーネはクロスボーン・ガンダムの脚部から緑色の触手を生やし、同じように大地へ潜り込ませていきます。隆起するガイアクラッシャーを受けながら、ザビーネは狡猾な笑みを浮かべていました。
アルゴ
「ハァァァァァッ!!」
隆起する大地の向こうから、ボルトガンダムが突撃します! シャッフル同盟最強のパワーファイター・アルゴ渾身の一撃をお見舞いするために! ですが!
ザビーネ
「ム、ダ、だぁっ!?」
ザビーネの狂笑と共に、大地が揺れます。そして、クロスボーン・ガンダムの向こうから地鳴りが響いているのをアルゴは悟るのです!
アルゴ
「……これは!?」
地鳴りと共に、無数の砲撃がボルトガンダムを襲いました。その威力、その射程。それをアルゴは知っています!
アルゴ
「バカな……!」
土煙の向こうから表れた巨体。それは、全身に砲門と搭載した異様のガンダム。
チャップマン
「…………」
グランドガンダム。かつてデビルガンダム四天王の一角としてアルゴ達シャッフル同盟を苦戦させた強敵が、地獄の底より蘇ったのです!
アルゴ
「ジェントル・チャップマン……。再び、地獄から蘇らされたのか」
グランドガンダムを操るガンダムファイター・チャップマンをアルゴは知っています。
ネオイングランド代表ガンダムファイター。病に冒されながらも戦い抜いた誇り高き戦士。しかし、その亡骸を死後デビルガンダムを悪用するウォン・ユンファに利用されDG細胞の奴隷とされてしまった哀しき男。そのチャップマンが乗るDG細胞で強化されたグランドガンダムが、再びアルゴの前に立ち塞がったのです!
チャップマン
「…………!」
体格も、馬力も、シャッフル同盟随一のボルトガンダムを上回るグランドガンダムは、肩から伸びる巨大な二門の砲塔をボルトガンダムへ向けました。そして二門の間に強大な電磁エネルギーが集まり、電磁スパークがボルトガンダムへ放たれました!
アルゴ
「クッ……ヌゥゥゥ、ウォァ!?」
電磁砲の直撃を受け、ボルトガンダムの全身を超高圧の電流が襲いました。グレートマジンガーのサンダーブレークにも匹敵するその威力が、アルゴの全身を襲います!
モビルトレース・システム。ガンダムとファイターの神経を接続することで、パイロットの卓越した格闘術をそのまま再現するモビルファイターにも、弱点があります。それは、ガンダムが受けるダメージをファイターが痛みとして認識してしまうこと。今、アルゴは全身に電気ショックを受けているのと同じ衝撃を受けているのです!
グランドサンダーの直撃を受け、ボルトガンダムは膝を屈しました。しかし、それでもアルゴは意識を保ち……なんとか立ち上がろうと腰を上げます。
満身創痍のボルトガンダムを嘲笑うように、ザビーネのクロスボーン・ガンダムX2改が一歩、一歩と近づき……ビーム・ザンバーを抜きました。
ザビーネ
「フフフ……ガンダムファイト国際条約第1条
。“頭部を破壊されたものは失格となる”か。これでお前はもう、お・わ・りだなぁッ! シャッフル同盟ィィッ!?」
狂ったように叫びながら、X2改がビーム・ザンバーを大きく振り上げたその時!
白いモビルスーツが、風のような速さでザビーネの下に迫り来る。流れるようなフォルムの、小型のモビルスーツ。その姿にザビーネは一瞬目を奪われます。
ザビーネ
「あれは……っ!?」
キンケドゥ
「ザビーネェッ!?」
そのモビルスーツの腰から展開された2丁の大型ビームライフル・ヴェスバーの光がクロスボーン・ガンダムを狙撃したのです!
…………
…………
…………
—ゴルビーⅡ内部—
満身創痍のMk–ⅡがゴルビーⅡに辿り着き、そのコクピットからキンケドゥが出て最初に見たのは、ハンガーに寝かされているモビルスーツだった。
キンケドゥ
「こいつは……!?」
頭部に布を被され、そのモビルスーツは今か今かと主人の帰りを待ち続けていた。そう、キンケドゥは感じとる。
キンケドゥ
「だが、こいつを誰が……?」
キンケドゥがそう呟いた時、1人の女性がキンケドゥと、そのモビルスーツの下へやってくる。黒い髪を長く伸ばし、切れ長の瞳の間に険しく眉根を寄せた、丸眼鏡をかけた長身の女。
ナスターシャ
「アノー博士だよ。キンケドゥ・ナウ……いや、シーブック・アノー」
ナスターシャ・ザビコフ。かつてネオロシアの軍人として、囚人ガンダムファイター・アルゴの監視役を行っていた女性。そのナスターシャの口から出たのは、もう10年以上会っていない母の名前だった。
キンケドゥ
「ナスターシャさん……。母が、こいつを?」
ナスターシャ
「ああ。君のお母さん……モニカ・アノー博士は、あのガンダム連合の中で戦う君のX1を中継で見た時に、確信したらしい。君の生存を。そして……いつか君に再びこいつが必要になると考え、妹さんや、かつての君の学友達と共に極秘にこの機体を復元し、私に託したんだ」
キンケドゥ
「…………」
コスモ・バビロニア建国戦争。あの戦いを共に生き抜いた学友達。それに妹のリィズや、母モニカ。彼らがこの機体をキンケドゥ……いや、シーブックのために。
1人の女性とと共に生きるために、シーブック・アノーは過去を捨てた。だが、その捨てた過去は今も、シーブックとセシリーを大事に思ってくれている。その事実を認めるだけで、熱いものが込み上げてきた。
ナスターシャ
「私の仕事はここまでだ。そのマシンは元々、君のものだからな」
キンケドゥ
「……礼を言います。ナスターシャさん」
そう言い、キンケドゥは生身の左手でマシンの顔を覆う布を剥がした。そこには、2つの目とツノ型アンテナ。そして口のような廃棄ダクトを持つそのマシンを、キンケドゥは知っている。キンケドゥは、胸のコクピットハッチを慣れた操作で開くと、自分の身長体重に合わせて調整されているコクピット・シートに座り配線を確認する。
全て、10年前のあの時のままだ。だが、武装が多少増えている。それも、とびきりのやつが。だが、これくらい強力なやつがあった方がいい。と今のキンケドゥは思った。
大切な人を取り戻す為に自分が乗るマシンは、やはりこいつに限るとも。
バイオ・コンピュータが正常に稼働していることを認識し、キンケドゥは機体を起こす。このマシンの機動力なら、フライングアーマーはいらなかった。ブーストをかければ、即座に戦場に戻れる。そのくらいのパワーがこいつにはある。
キンケドゥ
「よし……F91は、キンケドゥ・ナウが行く!」
F91。ハリソンが乗っているガンダム・タイプのそのマザーマシン。かつて、シーブック・アノーという少年が搭乗し、大切な女の子を守るために戦い抜いた鉄の鎧を今キンケドゥは、再び身に纏っていた。
…………
…………
…………
ザビーネ
「キンケドゥ……。キンケドゥ!?」
ヴェスバーの直撃を受けて尚、クロスボーン・ガンダムは健在だった。DG細胞がマシンを復元していく。自己進化、自己再生、自己増殖能力を備える細胞を受けたクロスボーン・ガンダムとザビーネは、憎しみの眼光を激らせてキンケドゥの乗るF91を睨みつける。
キンケドゥ
「ザビーネ……。まさか、DG細胞のサンプルを奪ったのは、お前かっ!」
ザビーネ
「ク、ク、ク……。そうだ。この力、この力があれば貴様なぞぉぉぉっ!?」
X2改はバスターランチャーを構え、F91を狙う。木星帝国で改修され、さらにDG細胞でパワーアップした高出力が放たれた。しかし、放たれた先にF91はいない。ビームが命中したと同時に、霧のように霧散してしまう。
ザビーネ
「質量を伴う、残像だとっ!?」
キンケドゥ
「なんとぉーっ!?」
F91のバイオ・コンピュータは通常、機械の性能をパイロットの技量、精神同調に合わせてリミットをかけている。だが、キンケドゥはそのリミッターを自然と解除させ、モビルスーツという兵器の誇る最高性能をマシンに引き出させていた。
フルスペックを発揮したF91は過剰な発熱を伴って駆動する。その際に装甲の塗装が剥がれ落ちながら機動し、直前までそこにいた場所に残る塗装の剥げが熱を持ったまま敵機のモニタに、“そこにいる”と錯覚させる。しかし、そこにあるのは所詮塗装の残滓。コンピュータが質量の存在を認めそこにF91がいると誤認させる。
故に、“質量を持った残像”。かつて鉄仮面……カロッゾ・ロナが翻弄されたそれに、ザビーネもまた翻弄されていた。
ザビーネ
「キ、ン、ケ、ド、ゥッ!?」
クロスボーン・ガンダムのセンサーは、F91を捉えることができない。ザンバスターで迎撃しながらも、F91の実像を捉えることができない。しかし、確実にザビーネに迫っていることだけは、確実に近づくF91の残像が示していた。
キンケドゥ
「ゲームオーバーだ、ド外道!?」
F91は既に、クロスボーン・ガンダムの眼前にまで迫っていた。ビーム・ランチャーを構え、ザビーネのいるコクピットへ構えている。
ザビーネ
「キンケドゥゥゥゥゥゥゥッ!?」
コクピットへの、直撃。それを受けながらクロスボーン・ガンダムX2改は大きく吹き飛んだ。
チャップマン
「…………!」
チャップマンのグランドガンダムも、脅威の存在を認め動く。小型・高性能モビルスーツの金字塔とも言うべきF91よりも遥かに巨体なグランドガンダムは、その体格差を生かして格闘戦を持ち込もうとしていた。大きな足が、F91へ迫る。
アルゴ
「さ、せ、る……かぁっ!」
しかし、その右足をボルトガンダムが受け止める。シャッフル同盟随一の怪力が、デビルガンダム四天王最恐の怪力を抑え、F91を守っていた。
アルゴ
「今だ……キンケドゥ!」
キンケドゥ
「アルゴ……! わかった!」
質量を持った残像を撒き散らしながら。F91はグランドガンダムの前から下がり飛び上がる。そして、腰から展開される二門と、肩から展開される二門。計四門の強力すぎるビーム砲・ヴェスバーの銃口が、グランドガンダムに狙いを定めた。
キンケドゥ
「この武器は強力すぎるが……お前くらいの相手には丁度いい!」
ツイン・ヴェスバー。シーブック・アノーが乗っていた頃よりも2倍の数を搭載された強化型ヴェスバーの一斉射が、グランドガンダムを呑み込んだ。
チャップマン
「…………!?」
現行のモビルスーツ搭載兵装の中でも最高の威力を誇るヴェスバー。それの四連斉射を前に超重装甲を誇るグランドガンダムの装甲を溶かしていく。その威力が、グランドガンダムの進撃を止め、DG細胞の奴隷となっていたチャップマンを怯ませたのです!
アルゴ
「今だ……。ぬぉぉぉぉぉぉっ!?」
ボルトガンダムが大地を叩き、ガイアクラッシャーが炸裂! グランドガンダムの巨体にヒビが入り、そして!
チャップマン
「ぬ、うぅ、ぅぉぉぉぉぉぉっ!?」
あの怪物、グランドガンダムが爆炎を上げ咆哮します! そして、爆発!
シーブック
「やったか!?」
アルゴ
「いや、あの爆発に紛れて逃げた……。ザビーネもな」
見れば、コクピットを撃ち抜いたはずのX2改がいなかった。生きている。それがデビルガンダムの力であると理解しつつも、キンケドゥの背筋が凍りつく。
キンケドゥ
「ザビーネは、セシリーを奪い去っていった。取り戻さなくては」
アルゴ
「わかっている」
しかし、リミッターを外し最高性能を発揮したF91と、ハイパーモードを解放したボルトガンダムは共にエネルギー残量も多くない。既に見失ったトレーラーをこのまま追うのは、不可能だった。
ナスターシャ
「2人とも、とにかく一度艦に戻れ。今科学要塞研究所から連絡がきた。どうやら、ミケーネの司令塔の万能要塞ミケロスを、グレートマジンガーが追い払い、大阪方面の戦闘獣はドラゴンガンダムとボスボロットが撃破したようだ」
キンケドゥ
「そうか……なら、残るは東京方面の敵と甲児達だが」
そう、F91は東京の方角を向く。その時だった。
東京の、空が歪む。時空を捻じ曲げ、巨大な顔が姿を表していた。
アルゴ
「な……!」
ナスターシャ
「なんだ、あれは……?」
あまりにも大きな貌。その異様な風貌に気圧される3人。その時だった。
鉄也
「みんな!」
科学要塞研究所から、グレートマジンガーが飛んでくる。遅れてリトルグレイも見える。恐らく、リトルグレイはドラゴンガンダムとボスボロットを回収に向かい、戻ってきたのだろう。そして、彼らが目指すのは。
キンケドゥ
「鉄也! 東京方面の様子は?」
鉄也
「わからん。だが、あの化け物を無視するわけにはいかん!」
グレートが先行し、東京へ急ぐ。F91とボルトガンダムもゴルビーⅡへ戻り、リトルグレイと共に東京へ向かった。
キンケドゥ
「とんでもないプレッシャーを感じる……。何が、起こってるんだ?」
急ぐ中、キンケドゥはひどい重圧を感じていた。甲児は、竜馬達は果たして無事なのか。胸騒ぎがする。
キンケドゥ
「無事で、いてくれよ…………?」
…………
…………
…………
—東京—
甲児
「うわぁぁっ!?」
キンケドゥがザビーネと死闘を繰り広げていたのと同じ頃、兜甲児は窮地に立たされていた。マジンガーZはその両腕を奪われ、ブレストファイヤーを発射する放熱板も半壊し、キャノピーの強化ガラスも割れて甲児のヘルメットを襲っていた。
安倍晴明
「脆い! 脆い! 脆いぞマジンガーZ!」
対するは安倍晴明。ミケーネ帝国の暗黒大将軍に仕える陰陽師。晴明は、自らを巨大な鬼獣へ姿を変え血走った眼で敵を睥睨していた。しかし、それでもマジンガーZの、兜甲児の闘志は衰えない。
甲児
「ふざけんな、こんなもんでマジンガーが……負けてたまるかよ!」
立ち上がり、光子力ビームを放つマジンガーZ。しかし晴明は五芒星の壁で光子の光を打ち消し、再び呪いの札をマジンガーZへ投げつけた。呪力を帯びた札はマジンガーに張り付き、爆発。その衝撃で再びマジンガーZは倒れ伏してしまう。
甲児
「うぁっ!?」
弁慶
「甲児!?」
竜馬
「この……野郎!?」
マジンガーZ同様にボロボロのゲッター1が立ち上がり、晴明と対峙する。晴明は、五芒星を描くと呪いの光を翳しゲッター1目掛けて放った。
竜馬
「クッ、おわぁぁっ!?」
暗黒の光がゲッターを飲み込んで、ゲッターは大きく弾き飛ばされた。
晴明
「流竜馬! 貴様達とゲッターとの因縁も、ここで終わらせてもらおうぞ!」
隼人
「クッ……竜馬、俺に代われ!」
竜馬
「ゲッター2のパワーじゃ、アイツには敵わねえ……!」
歯を食いしばり立ち上がるゲッター。竜馬達は今、窮地に立たされていた。だが、トマホークを構えて巨大な晴明を睨み、見据える。
竜馬
「晴明……俺を、舐めんじゃねぇっ!?」
流竜馬の、命の叫びが今この街に木霊していた。
次回予告
真の姿を現した晴明。窮地に立たされる竜馬。
竜馬の叫びが空を裂き、そして次元を突き破る。
若い命が真っ赤に燃えて、怒れ竜の戦士よ!
次回、「ゲッター線、その意味」
悪の野望、叩き潰せ!