スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第9話「ゲッター線、その意味」

—東京タワー—

 

 

 東京。度重なる騒乱で傷ついたこの街は日本有数の無法地帯となっていた。新宿に潜伏し、先兵となるゾンビ兵を増殖していたデビルガンダムとドモン・カッシュの戦い。そして異世界バイストン・ウェルから帰還したショウ・ザマの招いた諍い。それら様々な戦乱の中心となり、旧世紀においては日本の首都となり栄華を極めた東京という街は大きく衰退した。

 そんな東京だが、今だに日本国民の心の拠り所となっている。その証拠に東京タワーはそれだけの被害を受けながらも煌びやかに着飾られ悠々と聳え立っていた。

 旧世紀の、高度経済成長を象徴する日本の東京タワー。それは言わば、厳しい日々を生きる日本人の……東京人の心の拠り所でもあった。

 

一清

「意外ですね。あなたがこの東京タワーにそれほどの拘りを持っていたとは」

 

 東京タワーの最上階。そこで豪和一清は1人の男と会見していた。盲目の、初老の男性。目を潰す刀疵が顔を覆いながらも、その心の眼光の鋭さに一清すら気圧される。

 圧倒的な存在感を持ちながら、荒々しさよりも清らかさを感じる男……西田啓。一清は、自らの背後にいる西田の存在感を受けながらも東京タワーからの景色を見つめていた。

 

西田

「私自身は、さしたる思い入れがあるわけではありません。ですが、日本国民の荒んだ心に安らぎは必要なのです」

 

 安らぎ。その象徴としての東京タワー。幾度となく続いた戦乱の中で、西田はこの東京タワーを守り続けてきた。

 『東京タワーの周りは、不可思議な力に護られている』そんな、神風信仰にも似たものが信心深い人々の間ではまことしやかに囁かれていた。西田の思惑はそこにこそある。

 人類が宇宙へ進出することで生まれたニュータイプ論。地球への回帰を是とする地球史上主義。宗教の失われたこの時代に、人々は新たな宗教を求めていることを西田は、時代の空気として察していた。

 新たな信仰を、新たな神を求める世界。そんな時代の中で、日本人達の心を繋ぎ止めるものがあるとするならば。西田はそう考えた末に、自らは唾棄するほど嫌悪する旧世紀の高度経済成長期を象徴するこの建造物に神話的な意味を見出させようと、この東京タワーを自らの所有物とした。

 

西田

「必要なのは、心です。形ではない。ですが……形なきものには心も宿りません」

 

 日本人の心を集める柱。それはこの東京タワーに他ならない。そう、西田は結論付け……資材を投げ打っていた。

 

一清

「フフ……形なきものには心も宿らない。ですか」

 

 そんな西田のロマンチストな部分を、一清は好ましいと思っている。なぜなら西田は、そのロマンチズムに拘泥せず、自らの使命に徹する覚悟を持っている。

 それは、豪和二千年の悲願という野心を秘める一清にとってシンパシーでもあった。

 

西田

「しかし、この国は……いえ、この星は心を失いつつある。世界各国は首脳部をコロニーに移し、故郷である地球は今やガンダムファイトのリングとしてしか扱われず、行政の手も届かぬ無法地帯が増えるばかり」

一清

「現に、ミケーネ帝国の挙兵に対しても各国コロニーの首脳陣は対応を後回しにするばかり。ネオジャパンのカラト首相はよくやっている方ですが……」

 

 一清は、東京タワーから見える景色を一瞥する。東京は今、火の海に包まれていた。

 

西田

「太古よりの使者、ミケーネ帝国……」

 

 東京を戦火に包むミケーネの戦闘獣を相手に、自衛隊のモビルスーツ部隊は応戦している。しかし、旧式のジェガンでは焼け石に水。両刃の斧を持ち暴れ狂う戦闘獣グレシオスを相手にビーム・ライフルを撃っても、まともなダメージを与えられず逆に撃破されるばかり。

 

一清

(ユウシロウ達特務自衛隊は今、べギルスタンへ出兵している。通常の陸自では、戦闘獣の相手にはならんか……)

 

 一清の視線。その先にいたのは戦闘獣を指揮する陰陽師。そして、陰陽師の操る鬼獣。

 

一清

(骨嵬を起動し、ガサラキへ至る道。それは豪和の悲願。嵬の血を持つユウシロウだけが、その道だと思っていたが……)

 

 現代に現れた鬼。そして、ユウシロウの身に起きたメンタルバースト。それらは、一清の知らぬ「嵬」への道を開く鍵かもしれない。

 

一清

(この東京タワーには、西田が作ったバリアが備えられている。しかし、それで安全とは限らない。だが……)

 

 それでも、あの陰陽師に接触したい。一清の野心は燃え盛っていた。

 

 

……………………

第9話

「ゲッター線、その意味」

……………………

 

 

—東京都—

 

 一清が東京タワーから睥睨する先……ミケーネ帝国の戦闘獣と、それを指揮する陰陽師・安倍晴明。太古の時代よりの使者達は今、東京という街を再び地獄に変えようとしていた。

 晴明の目的はひとつ。ゲッターロボ。そして、流竜馬。

 

晴明

「ハハハハハ! さあ、早く来いゲッターロボ! お前達が手をこまねいている間にも、この街は鬼の棲家へと変わっていくのだぞ?」

 

 晴明は、鬼獣の傍に乗りながら地獄へ変化していく東京を眺め、愉しんでいた。しかし、この東京という街の名前は気に入らなかった。東京。東の都。京の都を差し置いて、京を名乗るなど片腹痛い。

 いっそこの街に住む人間を1人残らず鬼に噛ませてしまおうか。そんな思考が脳を過ぎる。それは、とても愉しい戯れになる。そう、晴明は想像し舌なめずりした。

 

晴明

「フフフ、面白い。今日この日より、この都は黒東京都と化すのだ!」

 

 晴明はそう叫び、高らかに笑う。それに合わせて鬼獣は、東京都庁へ向かう。そして鬼獣は、都庁ビルへその剛腕を思い切り叩きつけた。倒壊するビル。人々の断末魔の悲鳴が心地よく晴明の耳を撫でる。それだけで昂ってしまうほどに、晴明は興奮しその目を激らせていた。断末魔をあげた人間どもの死骸を鬼の餌とし、そしてまた鬼を増やす。そして、この東京は鬼が支配する黒東京都となり、その永生都知事として安倍晴明が君臨する。そんな戯れを夢想し悦に浸る。だが晴明の傍らに侍る2人の侍女はしかし、そんな晴明の様子を嗜めるように見つめていた。

 

侍女

「晴明様、ゲッターを甘く見てはなりませぬ」

侍女

「遊びが過ぎますぞ晴明様」

 

 意識を現実に引き戻され、そう囁く侍女を晴明はひと睨みする。侍女はそれだけで押し黙ってしまった。

 侍女も理解しているのだ。晴明に何を言っても無駄であると。そもそも、女官の姿を模して戯れに晴明に作られた鬼でしかない自分の意見を、晴明が聞き入れるはずがなかった。

 精々、不興を買って嬲り殺しにされる程度の興味しか、晴明は侍女に対して感情を抱いていない。その証拠に、すでに晴明の視線は既に侍女にはなかった。

 

晴明

「出たな……」

 

 晴明の視線。その先にいるのはトマホークを掲げた赤鬼。ゲッター1が、晴明の前に迫っていた。

 

晴明

「出たなゲッターロボォッ!」

 

 歓喜の声を上げ、晴明が吼える。ゲッターロボに続いて、紅の翼を広げた魔神・マジンガーZが東京に姿を現す。マジンガーZとゲッターロボ。その雄々しき二大スーパーロボットの登場に、戦闘獣達も待ちかねたとばかりに声を上げた。

 

甲児

「こりゃひでえ……」

 

 マジンガーZの頭脳、兜甲児は戦闘獣によって広がる被害をその目に焼き付けて闘志を滾らせる。

 

甲児

「テメエら! この街は、これからを生きる人達の希望なんだ! それをこんなになるまで……許さねえ!」

 

 紅の翼は加速し、戦闘獣グレシオスへ突っ込んでいく。グレシオスは両刃の斧を振りかざすもマジンガーはそれを潜り抜け、戦闘獣の懐へ飛び込んだ。

 

甲児

「スクランダー・カッターッ!」

 

 赤の翼が、戦闘獣を両断する。その勢いは戦闘獣の強靭な装甲すらも貫きそして、真っ二つにしたのだ。

 

甲児

「竜馬さん、戦闘獣は俺が引き受けた!」

竜馬

「頼んだぜ甲児!」

 

 戦闘獣を突っ切り、ゲッターロボは空高く飛ぶ。真紅の姿は天へと昇り、そして。白い体躯と巨大なドリルが、都庁ビルの上に陣取る晴明と鬼獣目掛けて垂直落下した。

 

隼人

「地獄へのエレベーターだっ!」

晴明

「日輪に紛れ、ゲッターチェンジしたかっ!」

 

 ゲッター2のドリルが、重力加速を乗せて鬼獣へと迫った。晴明は護符を放つとそこに五芒星を展開し、ゲッター2のドリルを防御する。五芒星のバリアに受け止められたゲッターはしかし、次の瞬間には3機のゲットマシンへ分離。回り込むようにして鬼獣の背後を取る。

 

弁慶

「チェンジ! ゲッター3!」

 

 ゲッター3の腕が伸び、五芒星の後ろから鬼獣を掴んだ。そして必殺の、大雪山おろし。都庁ビルを踏み潰す鬼獣を力尽くで持ち上げ、投げ飛ばす。

 

晴明

「ヌッ!?」

弁慶

「くたばれ晴明! ゲッターミサイル!」

 

 ゲッターミサイル。一発一発にゲッターエネルギーを込められたミサイル弾が鬼獣へ雨霰のように放たれ、爆発する。しかしゲッターはその爆発を確認するよりも早く再びオープンゲットし、爆炎の中から姿を現す鬼獣へと向かった。

 

竜馬

「チェェェェンジ・ゲッタァァァァッッワンッ!」

 

 宇宙を震撼させるその合図とともに、真紅の赤鬼が姿を現す。鬼獣は両腕の鎌を構えたが、ゲッターは愛用のトマホークをブーメランのように投げ、それを突き刺す。その痛みに鬼獣が吼えた瞬間、ゲッター1は鬼獣の真正面に躍り出た。

 

竜馬

「晴明! 今日こそてめえに引導を渡してやるぜっ!」

晴明

「ほざけ流竜馬! 無限地獄に堕ちるのは、貴様の方よ!」

 

 晴明の合図とともに、鬼獣はその鎌を振り上げる。それと同時、天から降り注ぐ雷がゲッター目掛けて炸裂する!

 高度に圧縮された熱エネルギーの塊とも言える雷は、メガトン級の衝撃にも耐えうるゲッターの装甲を焼き焦がし、中のパイロット3人にまでダメージを与えていた。

 

弁慶

「グォォォォォ!?」

隼人

「これも、晴明の呪術か!」

 

 しかし、その程度で折れるようなヤワな奴らなら、とうの昔に死んでいるだろう。まともな人間なら、恐怖心で既に心停止している。しかし弁慶も、隼人も、そして竜馬も雷程度で戦意を折られはしない。竜馬はキッと晴明と鬼獣を睨み付け、そして勢いよく飛び出した。

 

竜馬

「こんなもんで……俺達をやれると思うなよ!」

 

 勢いのまま、ゲッタービームを放つ。竜馬の叫びに呼応するように、ゲッタービームは威力を増し、晴明の五芒星による結界を打ち破った。

 

晴明

「何っ!?」

 

 ゲッター線の熱が、鬼獣を、晴明を焼き尽くす。晴明の隣に侍らされていた侍女達も、ゲッタービームの熱でその化粧を剥がされ醜い鬼面を顕にし、そして断末魔の悲鳴とともに爆ぜていく。

 

晴明

「ゲッター……ゲッターロボ! そうか、この力がぁぁぁっ!?」

竜馬

「うだうだ言ってんじゃねえ! とっとと地獄に落ちやがれ!」

 

 ゲッタービームに飲み込まれ、晴明は溶けていく。ゲッター線の光の中へ。鬼獣も既に爆ぜ、晴明は自らの運命を悟っていた。

 

晴明

「流……竜馬ァァァァァッ!?」

 

 爆発の中、竜馬は晴明の最期の声を聞いた気がした。

 

竜馬

「粘着野郎……。あの世で頼光に詫びやがれ!」

 

 吐き捨て、竜馬は都庁と共に爆煙を上げる晴明の断末魔を見据えていた。

 

甲児

「やったか、竜馬さん!」

 

 甲児とマジンガーZも戦闘獣を倒し、ゲッターに並ぶ。

 

竜馬

「ああ……これで奴との腐れ縁もこれまでよ」

隼人

「…………待て、竜馬!」

 

 隼人が叫ぶ。その直後、爆煙の中から一本の触腕が伸びてゲッターロボを襲った。まるで蟷螂のような触腕は、その腕だけでゲッターロボに匹敵する大きさを持ち、その腕力にゲッターは大きく弾き飛ばされる。

 

弁慶

「うぉっ!?」

竜馬

「クソッ、何だ!?」

 

 やがて爆煙が収まると、それは姿を顕していく。巨大な、蟾蜍のような下半身に、昆虫のような脚。あの触腕はその前脚なのだろうと隼人は推測する。そして上半身には、男の裸身。その貌浮かぶ姿は間違いなく……。

 

竜馬

「晴明…………てめぇっ!?」

晴明

「ゲッターロボ! よもや、よもや私にこの姿を晒させるとは……その罪、万死に値する!」

 

 巨大・安倍晴明。そうとしか形容できない異形の陰陽師が、ゲッターとマジンガーの前に立ち塞がった。

 

竜馬

「ケッ、コケ脅しじゃねえか。そんなんで、ゲッターに勝てるかよ!」

 

 ゲッター1は飛び上がり、トマホークを構えて振りかぶった。しかし、巨大晴明の両腕から生える鞭のような触手が伸びてゲッターを掴む。

 

晴明

「無駄無駄無駄ァッ!」

隼人

「竜馬、俺に代われ!」

 

 

 「おうっ!」という竜馬の返事と同時、ゲッター1はトマホークを投げ捨てる。そしてオープンゲットで3機のゲットマシンに分離した竜馬達は、今度はゲッター2へチェンジ。

 

隼人

「晴明、俺が引導を渡してやる!」

 

 ゲッター2のサブアームがチェーンで伸び、トマホークをキャッチする。そして。鎖を振り回してトマホークを乱舞。

 

隼人

「こいつが、ゲッター2のトマホークスペシャルだ!」

 

 しかし、その乱暴なトマホーク乱舞は巨大な晴明の念で放たれる五芒星に阻まれる。人間大の時以上の呪力を込められた巨大晴明の呪符が

爆ぜ、ゲッターを巻き込み燃え上がる。

 

弁慶

「うぉっ!?」

甲児

「クソッ、この野郎!」

 

 ゲッターロボと入れ替わるように、マジンガーZが巨大晴明へ挑む。腕の中に隠されたドリルミサイルを放ちながら飛び回り、マジンガーZは晴明を牽制する。

 

甲児

「晴明、俺が相手だ!」

 

 巨大化した晴明はゲッターよりも遥かに大きい。そのゲッターよりも小さいマジンガーZが巨大晴明の前を飛び回る姿は、さながら一寸法師のごとく。巨大化した晴明はマジンガーに鞭のような触手を振るうが、甲児の操縦センスはそれをひょいと避け晴明の正面を取った。

 

甲児

「喰らえ晴明、ブレストファイヤー!」

晴明

「兜甲児、暗黒大将軍は貴様とマジンガーを警戒しているが……私はお前に興味はないのだよ!」

 

 マジンガーの胸に備わった放熱板が熱を放つ。しかし、晴明はやはり五芒星の呪符に式神を宿し本体へのダメージを防ぎ、高熱は街へと受け流されてしまう。「やべぇ!」という声と共にブレストファイアーを解除する。そして、その直後。晴明は一枚の呪符を取り出す。

 

晴明

「オン キリキャラ ハラハラ フタラン パソツ ソワカ……」

 

 重く、冷たい声と共に唱えられた呪文。それと同時に放り投げられた呪符は形を得て、晴明の式神として変質していく。

 

晴明

「この地に眠る、マジンガーZへの憎しみに燃える魂よ。我が術により蘇り、恨み晴らすがいい!」

 

 晴明の叫びが天高く響き、式神に雷が走った。燃える魂の依代として、晴明の式神が姿形を変えていく。その姿は……。

 

甲児

「まさか……そんな……」

 

 紫色の体躯。そして白塗りの貌を持つ機械獣。その姿を、甲児は忘れたことはない。

 

あしゅら男爵

「フフフ……久しぶりだな、兜甲児!」

 

 あしゅら男爵。かつてドクターヘルの腹心としてマジンガーZを、兜甲児を誰よりも追い詰めた者の声が、甲児の脳裏に響いた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

甲児

「あしゅら男爵。てめえ……!」

あしゅら男爵

「このドクターヘルに頂いた身体……ジェットファイアーP1もまた、マジンガーへの恨みに満ちておる。故に、安倍晴明の呪術により蘇ったのよ!」

「ホホホホ、お前を呪い殺すためにね!」

 

 機械獣ジェットファイアーの姿を得た、あしゅら男爵の怨念。その存在に甲児は気圧される。ジェットファイアーは、マジンガー目掛けてミサイルを放つ。

 本来ならば避けられる攻撃。しかし、あしゅら男爵の復活という異常な現象に脳の理解が追いつかない甲児はそこに隙を見せ、ミサイルの直撃を受けてしまう。

 

甲児

「うわぁっ!?」

 

 大火力の爆発がブレストファイヤーを発射する放熱版を吹き飛ばし、超合金Zの装甲を持つマジンガーZに大きなダメージを与える。

 

甲児

「クソッ……!」

 

 光子力ビームで応戦するも、ジェットファイヤーはそれをひょいと避け、今度は目から破壊光線を放つ。

 

あしゅら男爵

「ハハハハハ! 死ねぇぃ兜甲児!」

甲児

「ま、まだだ!」

 

 スクランダーを加速させ、マジンガーZはそれを避けてみせる。しかし、続け様に放たれるミサイル攻撃を受け今度こそマジンガーZは大地へ落下していった。

 

竜馬

「甲児ッ!」

 

 そんな甲児を助けるように、ゲッター1が動く。ジェットファイアーとマジンガーの間に割り込むようにゲッターチェンジで駆けつけ、ゲッター1の右腕がマジンガーを掴んだ。

 

甲児

「ウ……。竜馬さん?」

竜馬

「馬鹿野郎! 死にてえのか!?」

 

 そんな甲児に、竜馬は一喝する。

 

竜馬

「一度殺した奴に恨まれてるくらいで、怖気付いてるんじゃねえ!」

甲児

「なっ……!?」

 

 無茶苦茶な理屈だった。しかし、迷いなく言い切られてしまえば甲児も言い返せない。

 

隼人

「フッ、珍しくいいことを言うな竜馬」

弁慶

「ああ。……いいか甲児。殺生は人間の最も深い罪だ。それはわかるな?」

 

 珍しく、諭すような口調で弁慶が言葉を発した。その穏やかだが、有無を言わさぬ圧力に甲児は押し黙る。

 

弁慶

「俺達人間は、他の生き物を……そして誰かを殺めずには生きていけねえ。その罪を自覚しない限り、人間は前には進めねえんだ」

甲児

「罪の自覚……」

 

 そんな言葉が弁慶の口から出るなど、甲児には予想もできなかった。しかし、諭す弁慶の言葉には優しさがある。それを感じるから、甲児は反論もしなければ茶化しもしない。ただ、弁慶の言葉を受け入れる。

 

弁慶

「俺達は生きる限り、殺生から逃れることはできねえ。だが、だからこそだ。殺した奴に対しては、“俺が殺した”とそう……胸を張って言えるようになりやがれ!」

甲児

「…………!」

 

 弁慶の言葉を受け、甲児は……マジンガーZは再びあしゅら男爵へ向き直った。ブレストファイアーは半壊し威力半減。だがまだ十分に武器を残している。

 何より、甲児の闘志は再び燃え滾っていた。

 

甲児

「来い、あしゅら男爵! この兜甲児が、マジンガーZが、もう一度お前に引導を渡してやる!」

 

 そう……あしゅら男爵は甲児が倒したのだ。それは世界の平和のためであり、愛する人達の命を守る為。そして、ドクターヘルの野望成就のためにその命を賭けたあしゅら男爵もまた、誇りを持って甲児と闘いそして、死んだのだ。

 

甲児

「お前を、もう一度倒す! それが、俺がお前にしてやれるせめてもの花向けだ!」

あしゅら男爵

「面白い……面白いぞ兜甲児!」

「お前を地獄への道連れとし、ドクターヘルへの土産にしてくれよう!」

 

 

 その言葉を合図とし、あしゅら男爵と兜甲児は激突する! 

 マジンガーZの腹部が開き、大型のミサイルパンチが飛べば、ジェットファイアーは破壊光線でそれを撃ち落とす。ジェットファイアーのミサイル群をマジンガーは機敏に掻い潜り、その胸倉目掛けてアイアンカッター。寸でのところであしゅら男爵はそれを回避。

 

甲児

「やるな、あしゅら男爵!」

あしゅら男爵

「兜甲児、貴様もな!」

「それでこそ、倒し甲斐があるというもの!」

 

 ぶつかり合う黒と紫。2体の魔神が激しく殴り合う。マジンガーの剛腕は、的確にジェットファイアーP1の顔面を殴り抜いていた。

 

甲児

「いいか、あしゅら男爵! お前の顔はもう見飽きるほど見てきたんだ!」

 

 殴ると同時に放たれるロケットパンチが、ジェットファイアーP1の、あしゅら男爵の白面を大きく抉り飛ばし、あしゅらの絶叫が響く。しかし甲児は、攻撃をやめない。

 

甲児

「いい加減に成仏して、あの世で寝てやがれ!」

 

 ロケットパンチに続いて放たれた冷凍ビーム。続け様にサザンクロスナイフ。マジンガーZの搭載するあらゆる武器をありったけ叩き込む。ジェットファイアーへ、あしゅら男爵へ。かつての宿敵の亡霊を鎮めるために。

 

あしゅら男爵

「うわぉぉぉぉぉっ!?」

甲児

「何度蘇ろうと、お前なんかこの兜甲児様とマジンガーZの敵じゃねえんだ。おとといきやがれ!」

 

 あの頃のように、甲児はあしゅら男爵を退治する。それが、悪しき陰陽師に蘇らされたあしゅら男爵への……戦友への手向けになると信じ、甲児はもう一度、あしゅらを殺す。

 そこに、一切の迷いはなかった。あしゅらの憎しみを背負い、これからも甲児は悪と戦い続けるのだから。

 例え蘇るのがドクターヘルだろうと、躊躇わず甲児は引鉄を引く。その覚悟を、決めたのだから。

 

あしゅら男爵

「兜甲児……。そうだ、それでこそよ!」

 

 マジンガーZの総攻撃を受けたジェットファイアーは、既に限界を迎えようとしていた。しかし、器の限界を超えても尚あしゅらの怨念は甲児への憎しみで動き続ける。最期の力を振り絞るようにして、ジェットファイアーP1は再びマジンガーZへと向かい加速する。光子力ビームを、ブレストファイアーを受けながらそれでも怯まずに突進するあしゅら男爵。既にジェットファイアーP1は満身創痍。しかし、あしゅら男爵という怨念の器として最期の使命を果たさんとマジンガーZへ食らい付いた。

 

甲児

「あしゅら……!」

 

 その執念に、改めて甲児は戦慄する。あしゅら男爵はアンバランスなハーモニーを奏でるようにクツクツと嗤い、甲児の脳裏に響かせる。

 

あしゅら男爵

「ホホホホ、兜甲児。肝心なことを忘れてないかしら」

「このジェットファイアーP1が何を目的として造られた機体か!」

甲児

「な…………っ!?」

 

 マジンガーZを羽交い締めにし、ジェットファイアーが吼える。甲児は、思い出していた。ジェットファイアーP1の全身には、爆弾が仕掛けられている。

 あしゅら男爵の姿をした、自爆装置。ジェットファイアーの体内で爆発のカウントが刻一刻と迫り、コチコチという音を立ててその時を待望する音を、甲児は聞いていた。

 

あしゅら男爵

「超合金ZのマジンガーZすらも跡形もなく吹き飛ばす全身爆薬機械獣! ドクターヘルが私への花向けに用意してくれたこの器で、今こそマジンガーを、兜甲児を地獄へと連れていってくれよう!」

「ホホホホ、お前の命はあと5秒!」

 

 必死にもがくが、ジェットファイアーはマジンガーを離さない。

 

甲児

「クソッ、ロケットパンチ!」

 

 マジンガーZの剛腕が、明後日の方向へと飛ぶ。あしゅらはそれを嘲笑い、マジンガーを締め付ける力をさらに強めていく。

 

あしゅら男爵

「ハハハハハ、どこを狙っている!」

「もう終わりだ!」

 

 3、2、1……ジェットファイアーの自爆までの秒針はそして0を指し示す。その直前だった。

 甲児が飛ばしたロケットパンチが、戻ってくる。ただし、素手ではない。

 ロケットパンチは、巨大な晴明とゲッター1の戦うその間を突っ切っていったのだ。そして、

 

竜馬

「あんにゃろぅ……!」

隼人

「フッ、甲児の奴はお前よりも戦いのセンスがあるんじゃねえか?」

 

 巨大な晴明との戦いで落としていたゲッター1のトマホーク。それを掴んで戻ってくるロケットパンチ。戦斧を持った黒鉄の拳がジェットファイアーP1の背後を狙って降り下ろされる!

 

あしゅら男爵

「な……ッ!?」

 

 ジェットファイアーP1を背後から真っ二つにするゲッタートマホークパンチ。ジェットファイアーを両断し、マジンガーはその僅かな隙間からジェットファイアーを引き剥がす。そして、

 

甲児

「あしゅら……地獄でヘルとブロッケンによろしくな!」

 

 もう片方の腕をアイアンカッターとして射出し、ジェットファイアーの胴体を貫いた。

 

あしゅら男爵

「フフフ、そうか……兜甲児!」

「ホホホ、ならば……兜甲児!」

 

 ジェットファイアーP1の体躯がバラバラに砕け散っていく。その中心……心の臓ともいえる部分に燃える、晴明の呪符を確かに、甲児は見た。

 

あしゅら男爵

「先に地獄で、待っているぞ!」

 

 その絶叫が、あしゅら男爵最期の言葉だった。ジェットファイアーに仕掛けられた爆薬が激しく燃え盛り、あしゅら男爵の怨念を現世に留める呪符を、晴明の呪いごと燃やし尽くす。

 

甲児

「今度こそ……本当に最後だぜ、あしゅら!」

 

 宿敵・あしゅら男爵を再び地獄へ送ったがしかし、マジンガーZのダメージも相当のものだった。ブレストファイヤーは半壊し、アイアンカッターの左腕はジェットファイアーと共に燃えている。

 それでも甲児は、マジンガーZは再び晴明へと向き直った。

 

晴明

「フム……。式神にしてはよく保った方と褒めるべきか」

 

 あしゅら男爵を蘇らせた張本人・安倍晴明はしかしその断末魔にさしたる興味も持たず、ゲッターロボとの戦いに興じている。魔獣のような下半身から放たれる炎をゲッターは避け、ロケットパンチから取り返したトマホークを掴み巨大晴明の上空をゲッターは飛び回る。そんなゲッターに加勢するため、マシンガーが飛んだ。

 

甲児

「ドリルミサイル!」

 

 晴明の目を潰すように、ドリルミサイルを撒き散らすマジンガーZ。晴明はミサイルの雨を煩わしげに受け止める。

 

晴明

「兜甲児! 私とゲッターの遊びの邪魔をするな!」

 

 晴明が念を込める。すると稲妻が走り、マジンガーZを撃ち落とす!

 

甲児

「うぁぁっ!?」

竜馬

「甲児!?」

 

 頭から落下し、マジンガーZはコンクリートの大地と大きく激突した。その衝撃で、パイルダーの強化ガラスが弾け飛ぶ。

 

甲児

「晴明……てめえだけは、てめえだけは許さねえ!」

 

 しかし、兜甲児の闘志は衰えない。いや、むしろより激しく燃え上がっている。その炎を感じ、晴明は眉を顰める。

 

甲児

「あしゅら男爵はロクでもねえ悪党さ。だがな! その魂をお前の好き勝手にされていい奴じゃねえんだよ!」

 

 立ち上がり、マジンガーZはロケットパンチを放つ。だが、巨大晴明はそれを鞭のような触腕ではたき落とすと、巨大な前脚で踏み潰す。

 

晴明

「フン……怨敵の為に怒っているのか。滑稽よのう。だが、よかろう!」

 

 晴明がそう言った時だ。巨大晴明の背中が膨張し、悪魔のような羽根が姿を顕す。巨大な羽根は、一翼だけでも18mのマジンガーZを越える大きさを誇り、羽撃きだけでビル街を吹き飛ばしてしまう。

 ゲッターを、マジンガーを圧倒する威容。その姿はまさに、悪鬼羅刹。

 

弁慶

「な……!」

隼人

「晴明の奴、今までは本気じゃあなかったってことか!」

 

 弁慶が、隼人が戦慄する。巨大晴明の羽撃きで発生した風圧が、ゲッター1を吹き飛ばした。

 

竜馬

「クッ、ぅぉぉぁっ!?」

甲児

「竜馬さん! みんな!?」

 

 吹き飛ばされ、ビルに衝突するゲッター。ウイングが欠け、しかしそれでも竜馬は、晴明を睨み付けていた。

 

隼人

「なんてパワーだ……ゲッターを遥かに凌駕してやがる」

竜馬

「ビビってんじゃねえ隼人!」

 

 ゲッター1は立ち上がり、トマホークを構え巨大晴明と対峙する。マジンガーZもそれに並び、相対する陰陽師を見据えている。しかし、敵の力はあまりにも強大。味方は分散され、増援の見込みは薄い。

 

甲児

(あしゅら……もしかしたら、すぐに再会するハメになるかもしれねえぜ)

 

 それは、あまりにも絶望的な戦いだった。甲児は、この戦いが自らの死地になるやもしれない。そう、覚悟を決めていた。

 しかし、だからこそこの強敵だけは倒さなければならない。差し違えてでも。

 そして、

 

晴明

「フフフ、流竜馬ァ……それに兜甲児! ここで引導を渡してやる!」

竜馬

「上等だ、晴明! 首を洗って待っていやがれ!」

 

 悪の陰陽師・安倍晴明との決戦がついに始まった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—???—

 

 その場所は、光一つ差さない闇の中だった。闇の中、それはただ進んでいる。進む先に何が待つのか。男は知らない。

 

???

「……………………」

 

 闇の中を進むそれは、男に危機を知らせていた。自らの危機ではない。この星の、この世界の、そして……決して失うわけにはいかない仲間の危機。

 

???

「竜馬……」

 

 男の見据える先。そこには闇が広がっている。しかし、男には何が見えているのだろうか。男は明らかに、闇のその先にある何かを真っ直ぐに、見据えていた。

 

???

「お父様……?」

 

 男の傍に立つ女性が、怪訝そうに振り返った。男が、ここにいない者の名を呟いたからだ。

 

???

「竜馬が戦っている。この因果の果てで……もがいていおる」

 

 男の言葉は、重圧があった。有無を言わさぬ圧力。プレッシャー。普通の男なら、声を聞くだけで失禁してしまうかもしれない。それほどの危険な重圧を放つ男。しかし、女性はその重圧を意にも介さず受け止めると、言葉を投げかける。

 

???

「この先に……流君達がいるのね?」

???

「…………うむ」

 

 男は立ち上がり、下駄の靴音を立てながら歩き出した。そして、艦にいる所員へ告げる。

 その時を待ち続け、自分に着いてきた大馬鹿野郎どもに。

 

???

「航路座標をそのまま、これより時空突破を試みる! 行くぞ……早乙女研究所、発進!」

 

 男の号令と同時、男達を乗せた艦が動き出す。すると、突如として暗黒の宇宙に光が挿した。緑色の、ゲッター線の光。ゲッター線の光を纏ったそれは、暗黒次元を突き進み加速する。少しずつ、ゆっくりと。しかし確実に加速し続けていく中で男は、静かに正面を見据えていた。

 そして、

 

所員

「次元断層、突き抜けます!」

 

 ついに、その時が来た。男の傍に立っていた女性は、他の所員達に指示を出している。計器をよく観察しろ。ここで失敗すれば2度と通常空間には戻れなくなる。そんな当たり前のことをだ。だが、その当たり前を確実に指示する姿は実に頼もしい。そう、男は思った。

 

???

「待っておれ、竜馬。隼人、弁慶……!」

 

 男がそう呟いた時。確かに、その声は時空を突き破り宇宙を震撼させたのだ。

 

『俺を、舐めんじゃねえぇっ!?』

 

 と、次元を越えた咆哮が男の耳に確かに届く。

 

???

「お父様!?」

 

 その声は、白衣の女性にも伝わっていたようだ。決して幻聴などではない。男は「ウム」とひとつ頷くと、自らの席へ戻る。ここから先、男には艦長としての務めが待っているからだ。

 

???

「ゲッターが戦っておる。時空の果てでもがいておる……」

 

 あの時、銀河決戦の際には自分達はそれを見守ることしかできなかった。できることならば、この手で助けにいきたい。そう、男は何度も思った。

 息子を失ったあの日から、いやそれ以前から、男は死を背負い続けている。

 自らのために奪われた命を、無駄にしない為にも。

 この運命のゲッターチームだけは、なんとしても助け出さなければならなかった。

 故に、男は号令する。

 大事な息子達を、助けに行くために。

 

???

「全速前進! シャインスパークでこの次元を突破する!」

 

 

…………

…………

…………

 

 

甲児

「うわぁぁっ!?」

 

 そして今、マジンガーZはその両腕を奪われ、ブレストファイヤーを発射する放熱板も半壊し、キャノピーの強化ガラスも割れて甲児のヘルメットを襲っていた。

 

安倍晴明

「脆い! 脆い! 脆いぞマジンガーZ!」

 

 圧倒的な力を誇る巨大晴明。その前脚のけたぐりでマジンガーは大きく突き飛ばされる。

 自らを巨大な鬼獣へ姿を変えた晴明は、血走った眼で敵を睥睨していた。しかし、それでもマジンガーZの、兜甲児の闘志は衰えない。

 

甲児

「ふざけんな、こんなもんでマジンガーが……負けてたまるかよ!」

 

 立ち上がり、光子力ビームを放つマジンガーZ。しかし晴明は五芒星の壁で光子の光を打ち消し、再び呪いの札をマジンガーZへ投げつけた。呪力を帯びた札はマジンガーに張り付き、爆発。その衝撃で再びマジンガーZは倒れ伏してしまう。

 

甲児

「うぁっ!?」

弁慶

「甲児!?」

竜馬

「この……野郎!?」

 

 マジンガーZ同様にボロボロのゲッター1が立ち上がり、晴明と対峙する。晴明は、五芒星を描くと呪いの光を翳しゲッター1目掛けて放った。

 

竜馬

「クッ、おわぁぁっ!?」

 

 暗黒の光がゲッターを飲み込んで、ゲッターは大きく弾き飛ばされた。

 

晴明

「流竜馬! 貴様達とゲッターとの因縁も、ここで終わらせてもらおうぞ!」

 

隼人

「クッ……竜馬、俺に代われ!」

竜馬

「ゲッター2のパワーじゃ、アイツには敵わねえ……!」

 

 歯を食いしばり立ち上がるゲッター。竜馬達は今、窮地に立たされていた。だが、トマホークを構えて巨大な晴明を睨み、見据える。

 

竜馬

「晴明……俺を、舐めんじゃねぇっ!?」

 

 流竜馬の、命の叫びが今この街に木霊する。その時だった。突如として空が割れる。緑色の光が灯ると同時に霧散し、暗雲を突き破る。

 そこから顕われたのは、巨大な貌だった。

 貌。そうとしか形容できないそれは、ゲッターロボを遥かに凌ぐ巨大晴明よりも尚大きい。

 

甲児

「な…………」

 

 なんだ、あれは。

 誰もがその存在に、目を奪われていた。

 巨大な貌はゆっくりと、この時空、この空間に姿を定着させていく。

 赤い体躯と、黄色い目を持つ巨大な貌。それは、見間違えようもない。

 

隼人

「ゲッター……?」

 

 ゲッター1に、酷似していたのだ。だが、そんなゲッターを隼人はしらない。ましてや、貌だけのゲッターなど。

 

弁慶

「ゲッター、なのか……?」

 

 それが、自分達の乗るマシンと同じ存在であると弁慶には俄かに信じられなかった。だが、感じている。何より、弁慶の下げている宝刀……童子切丸が激しく昂っているのだ。まるで、待ち望んだ君主の帰還に打ち震えているかのように。

 誰もが、その存在に目を奪われていた。それは、安倍晴明でさえも。

 

晴明

「バカな……! バカな!? ゲッターロボはあの次元から消え去ったはず。なのに、なのに何故あれが完成している!?」

 

 驚愕の表情を浮かべ、晴明は怒鳴り散らしていた。今までの戦いで初めて、唯一晴明は明確に恐怖の表情を露わにしている。あの、巨大なゲッターの貌を前に。

 

隼人

「晴明、貴様……!」

 

 何か、知っているのか。そう聞こうとした。だが、その声は他ならない竜馬に止められる。

 

竜馬

「隼人、今はそんなことはどうでもいい!」

隼人

「しかし、竜馬……」

 

 この中で、竜馬だけはあの巨大なゲッターよりも晴明へ視線を向けていた。トマホークを構え、再び飛び立つゲッター。

 

竜馬

「あのバカでかいゲッターが敵なら……晴明の後に倒すまでよ。だがな、まずは晴明だ!」

 

 そう、竜馬が叫んだ時。

 

???

「そうだ、よく言った竜馬!」

 

 巨大な赤いゲッターから、彼らの聞き知った声がする。その声の主に思い至り、流石の竜馬も振り返った。

 

竜馬

「てめえ、まさか……早乙女のジジイか!」

 

 早乙女のジジイ。そう呼ばれた男は通信モニタ越しに、ゲッターチーム3人にその顔を見せた。

 

早乙女

「そうだ。お前達の帰りがあまりにも遅いものだからこうしてこっちから来てやったのよ」

 

 早乙女博士。竜馬達3人をこの戦いの無限地獄へ引き入れた張本人であり……ゲッターロボ開発者。その早乙女博士がこうして、竜馬達の前に姿を現している。それも、見たこともないゲッターロボを操って。

 

隼人

「早乙女、説明しろ! そいつは一体……」

早乙女

「説明は後だ。今からエンペラーのゲッターエネルギーを、お前達のゲッターに送り込む。それを使い、敵を倒せ!」

 

 エンペラー。そう呼ばれた巨大なゲッターの口にエネルギーが収束していく。それが、ゲッタービームを放つための充填であると、隼人達はすぐに見抜いた。

 

弁慶

「お、おい! あんな出力のゲッタービームをここで放てば……この街は!?」

隼人

「ああ、東京だけじゃねえ。日本を丸々クレーターにしかねねえパワーを感じるぜ」

甲児

「なっ!?」

 

 そんなものを許すわけにはいかない。マジンガーZは立ち上がったが、翼も折れ天高くを飛ぶゲッターエンペラーに届きはしない。だが、しかし。

 竜馬のゲッター1が空高く飛び、エンペラーと垂直に並んだ。そして、その全身をエンペラーへと晒け出す。

 

竜馬

「おいジジイ! それを使えば、どうにかなるんだろうな!?」

早乙女

「どうにかするのは、貴様らの仕事だ!」

 

 言い捨てる早乙女に竜馬が「へっ」と一笑する。エンペラーのゲッターエネルギーを浴び、ゲッター1のエネルギーは急速に高まり始めていた。

 

隼人

「!?」

 

 まるで、あのとき。鬼哭石の戦いの時に起きたゲッター線の増幅現象。それと近い……いや、それ以上のゲッター線の高まり。

 

竜馬

「隼人、弁慶。気合い入れろよ!」

 

 竜馬の闘争心が、ゲッター線の高まりを増幅させている。そう隼人には感じられた。

 

隼人

(エンペラー、それに竜馬。お前達は一体…………)

 

 しかし、今は雑念を捨てる時。もし失敗すれば、自分達どころか国一つが消滅するかもしれない瀬戸際だ。

 

弁慶

「お、おいお前ら!?」

竜馬

「ビビってんのか、弁慶?」

 

 こんな危険な賭け、できるわけがない。だが、それをしなければどの道晴明を倒すことなどできない。そう竜馬は視線で弁慶に告げる。隼人もすでに、覚悟を決めたという風に一点のみを見つめていた。

 

弁慶

「こ、こうなりゃヤケだ!?」

 

 叫び、弁慶は合掌する。

 

弁慶

「南無三!」

 

 それが、合図だった。ゲッターエンペラーに集まっていくゲッター線が、熱となって収束し……

 

早乙女

「竜馬、受けとれ!?」

 

 ゲッターエンペラーの最大出力で、ゲッタービームがゲッター1へと放たれた。圧倒的なゲッター線の熱暴走。旧式ゲッターであればオーバーロードを起こし自滅していたであろう。

 だが、このゲッターロボならば。

 竜馬と、隼人、弁慶ならば!

 

竜馬

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 ゲッターロボの全身が、緑色に輝き始める。そして、そのゲッターエネルギーが暴走を始める前加速し、竜馬が行く。

 

竜馬

「ペダルを踏むタイミングを合わせろ!」

隼人、弁慶

「おうっ!?」

 

 3つの心をひとつにする。それが、ゲッター線をより高次元の存在へと進化させていく。ゲッターロボは、エンペラーから受け取ったゲッターエネルギーの熱暴走そのままに、晴明目掛けて加速していく。その勢いは、既に光速に達していた。これまでのゲッターとは違う。

 

晴明

「く、来るなぁっ!?」

竜馬

「晴明! これでおわりだぁぁぁぁっ!?」

 

 エンペラーのゲッターエネルギーと、ひとつになった3つの心。それが、ゲッター1に本来存在しない機能を与えていた。

 即ち、シャインスパーク。次世代型ゲッターロボに搭載される予定だった必殺の一撃。それと同じこと今、ゲッター1は行っているのだ。

 ゲッターエネルギーの塊となって敵に体当たりし、そのままゲッターエネルギーをぶつける必殺兵器。その体当たりを晴明は式神を展開し、五芒星の呪いで防ごうとした。しかし、無駄だ。熱き怒りの嵐が、晴明の呪いを突き破る。そして!

 

晴明

「うぅ、ぅぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 凝縮されたゲッター線の塊の中、宿命の陰陽師・安倍晴明は断末魔の悲鳴を上げていた。

 

竜馬

「てめえとの腐れ縁も、これで最後だ晴明!」

 

 竜馬が吐き捨てる。それを聞き、ククと晴明は嗤ってみせた。そして、自らの貌をゲッターロボへと向け、ニタリと嗤う。

 

晴明

「竜馬……地獄で待てぬのが心残りぞ」

 

 身体はゲッター線の熱で焼け爛れ、ドロドロに溶け始めていた。そして、その醜く歪んだ顔もまた。

 

晴明

「貴様は生きながら、無限地獄を彷徨うがいい!」

 

 呪いの言葉とともに陰陽師・安倍晴明は爆ぜ、そしてゲッター線の光のなかへ消えていった。

 

竜馬

「ケッ、さっきも言ったがよ。てめえはあの世で頼光に詫びを入れるんだな。……俺の分までよ」

 

 そして全てが終わったと同時、最初に駆け付けたのがグレートマジンガーだった。

 

鉄也

「甲児君!?」

 

 グレートは、ボロボロになったマジンガーZへと駆け寄ると、グレートの肩を貸して立ち上がらせる。

 

鉄也

「あの巨大なゲッターは……?」

甲児

「詳しいことはわからねえが……竜馬さん達の知り合いらしい」

鉄也

「知り合い? なら……味方なのか?」

 

 甲児は、その問いには答えられなかった。

 ゲッター線。それが意味するものは甲児の、そして恐らくは竜馬すらも明確な答えを出せていないのだから。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—科学要塞研究所—

 

剣蔵

「……つまり、このゲッターエンペラーは竜馬君達の世界。仮にB世界と呼ぶこととしよう。そこからやってきた。ということでよろしいのですか?」

 

 激戦の後、科学要塞研究所へ帰還した一同はその巨大なゲッター……ゲッターエンペラーの処遇について話し合っていた。簡単に測った結果だがその体積はかつてジオン軍が使用していた宇宙空母ドロスと同程度。その気になればモビルスーツ180機を搭載でき、しかもゲッターロボ以上のゲッタービームを搭載しているエンペラーは、そのまま放置するわけにもいかない代物だった。

 研究所の中にも入りきらないそれを今、科学要塞研究所が位置する相模湾に停泊させている。敷地としてはギリギリ科学要塞研究所の管轄内のもので、現状エンペラーは科学要塞研究所で管理される体となっている。

 その結果、今兜剣蔵博士と葉月博士はゲッターエンペラーの責任者という老人……早乙女博士と対面し、話し合っている。多くは、お互いの現状に対する認識の擦り合わせ。そして、これから竜馬達ゲッターチームを含め、彼らはどうするのか。

 

早乙女

「ゲッターエンペラーは、ワシらの研究所……早乙女研究所そのものをひとつのゲットマシンに改造し、そこから生まれたゲッター線を動力とする万能宇宙船じゃ」

 

 早乙女は、重々しく口を開く。ずっと早乙女は葉月と剣蔵を観察していたが、2人が政府の役人共のような脳なしではなく、理知的な人物であると判断し、説明を開始した。

 

葉月

「宇宙船? エンペラーは戦闘母艦ではないのですか?」

早乙女

「あなた方の世界が混乱に包まれているのと同じように、ワシらの世界も混迷の中にあった。ゲッターは元々、宇宙開発のために作ったものであり、無尽蔵のエネルギーを有するゲッター線は、宇宙開発において夢のエネルギーになるはずだった」

剣蔵

「…………だが、戦闘用に改造せざるを得なかった。そしてゲッター線は奇しくも、戦闘において非常に強力なエネルギーだった。そういうことですか」

 

 コクリ、と早乙女は首肯する。事実、早乙女や竜馬達のいた世界は鬼だけでなく、異星人との戦いも激化していた。その中で敵もまたゲッターエネルギーを狙い、早乙女博士は自衛のための戦力増強を、終わらない闘争と共にはじめなければならなかった。

 

早乙女

「……我々の世界。B世界における戦乱は、終息に向かっています。竜馬達が参加した銀河決戦に勝利し、侵略者を倒し、そして地球は新たなスタートを切った……。ですが鬼を操る黒幕、安倍晴明との決着だけはつかなかった。奴らは、単身で晴明の本拠へと向かい……消息を絶ったのです」

剣蔵

「そして、あなたは竜馬君たちを連れ戻すためにゲッターエンペラーの開発に着手した。そういうことですか」

早乙女

「うむ。3年ほどの歳月がかかりましたがな」

 

 3年。それだけの時間の捻れが、A世界とB世界で発生しているのか。或いは竜馬達が行っていたという晴明の本拠……黒平安京に時間の捩れの大元があるのか。答えは出ない。優秀な科学者3人が相席するこの場でも、あまりにも情報が足りなすぎた。この謎に関しては保留にするしかない。そう判断し剣蔵は話題を移す。

 

剣蔵

「それで、あなた達はこれから元の世界に帰るつもりなのですか?」

 

 順当に考えれば、そうなるだろう。元々、早乙女も竜馬もこの世界の住人ではない異邦人。早乙女は竜馬達を連れ戻すために来た。そして、竜馬達の宿敵である安倍晴明は確かに、倒したのだから。ところが、早乙女は深刻そうに首を振る。

 

早乙女

「エンペラーも万能ではない。今回は竜馬達のゲッターロボが縁を結んでうまく行ったが、世界の壁を越えるのは多くの事象や因果が重なり合ってはじめて可能なもの。すぐに帰るというわけにはいかんでしょう」

剣蔵

「では……?」

早乙女

「元の世界に戻れるきっかけを掴むまで、あなた方に協力します。それにおそらく……」

 

 おそらく。その続きを早乙女博士は黙り込んだ。剣蔵も葉月も、深くは追及しなかった。

 彼が科学者らしい気難しい気質を持っているのを、2人も既に理解していた。そして、そういう時答えを急かされるのは2人とも嫌いなのだった。

 

早乙女

「エンペラーは、戦闘母艦としての性質を持っています。最大出力を簡単に出すわけにはいきませんが、研究所防衛用の装備もそのまま残っている。ロボット軍団の母艦として使ってくれて構いません」

 

 A世界の話を聞いて、早乙女の脳内にも一つの仮説が組み上がりかけていた。

 だが、それはまだ確たる証がなく、仮説と呼ぶにも弱い憶測、妄想に近い。その確信を得るためには、エンペラーもまた竜馬達と共に戦場に出るのがいい。そう早乙女は考えていた。

 

早乙女

(鬼……。安倍晴明。おそらく奴が黒幕というわけはあるまい。晴明の背後にいたというミケーネ帝国。それに異世界バイストン・ウェルに、デビルガンダムと木星帝国。何かが、ゲッターを呼び集めているのやもしれぬ)

 

 とすれば。この世界は。

 早乙女博士の視線は、相模湾に着水するエンペラーへ向けられていた。

 

 

…………

…………

…………

 

ミチル

「久しぶりね、流君。神君。武蔵坊君」

 

 科学要塞研究所の一画。そこに降りた早乙女ミチルは、3年ぶりに顔を合わせる研究所の問題児達に懐かしげな表情を見せていた。

 

弁慶

「おおミチルさん! また会えて嬉しいよ!」

 

 弁慶が歓声を上げて、ミチルの肩を抱こうとする。しかしミチルはキッと強く弁慶を睨むと、弁慶は「おおう……」と声を上げ引き下がる。

 

竜馬

「ヘッ、鬼女……。久しぶりじゃねえか」

ミチル

「相変わらずね。全く」

 

 竜馬は悪態を吐くが、それでも決して悪い気はしない。一方で隼人は、「ム?」と声を上げる。

 

隼人

「3年?」

ミチル

「そうよ。……あなたたちが消えて、私たちの世界は3年が経過した。その間にお父様が開発したのが、ゲッターエンペラー壱号機なの」

隼人

「…………壱号機。か」

 

 腕を組み、隼人は眉根を寄せる。壱号機。という言葉が意味するのは、このゲッターエンペラーが1台のゲットマシンであるということだ。おそらく、早乙女博士の構想通りならエンペラーは3台開発され、ゲッターチェンジする。だが、単体でここまで巨大なゲットマシンだ。それを3台も用意することはできなかったのだろう。

 

竜馬

「…………にしても、ゲッターエンペラーか。ジジイのやつ、気持ち悪いモン作りやがって」

ウモン

「なあに、世の中ハッタリじゃよハッタリ。あのデカイ顔も、敵をビビらせるのには役に立つじゃろ」

 

 そんなゲッターチームの会話に入ってきたのは、クロスボーン・バンガードのウモン爺さんだった。

 

キンケドゥ

「ハッタリか……爺さんはいつもそれだな」

甲児

「でも、違いねえや。機械獣や戦闘獣なんかはハッタリが効いた見た目してるしよ」

鉄也

「ボロットも、ほとんどハッタリで空を飛んでたな」

 

 そう、次々にやってくる面々にミチルが目を丸くしていると、さやかが「みんな、困ってるじゃない」と口を挟む。

 

さやか

「大勢で押しかけちゃってごめんなさい。でも、やっぱりみんな気になってるみたいで……」

ミチル

「…………」

 

 そう謝罪し腰を曲げるさやかに、ミチルは目を丸くしていた。

 

さやか

「あの、何か?」

ミチル

「ああ、いいえ違うの。怒ってるわけじゃないわ。ただ……こんなガサツな男世帯であなた、大変でしょう?」

 

 そう、まるで自分のことのようにミチルが言う。その意図を察してか、さやかは「フフッ」と笑いが込み上げていた。

 

ミチル

「私は早乙女ミチル。考古学を専攻する学者よ」

 

 そう言って差し出されたミチルの手を握り返し、さやかも微笑んだ。

 

さやか

「私は弓。弓さやかです。普段は父の研究助手をやってます」

ミチル

「あら、あなたのお父さんも研究者。お互い苦労するわね」

さやか

「ええ、全く」

 

 すっかり打ち解け、微笑み合う2人。竜馬達はそんなミチルの穏やかな様子に目を丸くしていた。

 

竜馬

「お、鬼女が……人間みてえじゃねえか」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—???—

 

一清

(素晴らしい……)

 

 東京タワーから戦いの一部始終を見守っていた一清は今、興奮冷めやらぬ様子で豪和総研へ向かっていた。

 鬼を操る陰陽師・安倍晴明。それを討ち滅ぼした赤鬼と、それを操る男。

 それはまさに、豪和の伝承に伝わる骨嵬と、その嵬にまつわるそれを再現しているかのような光景だった。

 

一清

(あの力……なんとしても俺のものにしたい)

 

 豪和の一族の中にあるはずの嵬の血は、代を重ねるごとに薄れている。今、その血を持つのは愚弟ユウシロウのみ。

 ユウシロウを人形として、ガサラキに迫る。それこそが豪和の悲願であり、自らの野心の終着点であると一清はずっと考えていた。

 しかし、もしかしたら。

 ガサラキの真実を、無限の力を手に入れる手段はユウシロウ以外にもあるかもしれない。そんな妄想が今、一清を満たしていた。

 

???

「あの力が何か、あなたは理解していますか?」

 

 そんな一清の背後から、声がする。その声の主は姿を現さない。ただ、声だけで一清を呼び止めていた。

 本来、愚民の声になど一清は耳を傾けない。だが、この男は別だ。

 

一清

「シンボルの総帥自らお出ましとは……貴方は、あれが何かご存知なのですか?」

 

 ファントム。幽霊とだけ呼ばれる正体不明の男。豪和にとって敵とも言えるその存在はしかし、一清にとってはまた違う意味を持っていた。

 即ち……同じ真実を追い求めるもの。

 

ファントム

「あれは……ゲッター。もうひとつのガサラキですよ」

 

 クツクツと笑うファントムの声。

 

一清

「ゲッター……」

 

 口の中で反芻する。奪還者。それは、とても魅力的な響きだった。

 

ファントム

「豪和の求めるそれと、ゲッターは本質的には違う。ですが、ゲッターとガサラキは遠い昔に同じ存在だった。私はそう推測しています」

一清

「ほう…………」

 

 とすれば、ゲッターとやらに乗っているのは嵬。そういうことになるのだろうか。一清は推理する。そして、

 

一清

「ユウシロウ以外にも嵬の資質を持つ者がいる、か……」

 

 クツクツと、一清は鮫のようにほくそ笑んでいた。

 

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