スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第10話「戦乙女の末裔」

—科学要塞研究所—

 

サイ・サイシー

「なんだって! ベラ姉ちゃんが、ザビーネの野郎に!?」

 

 東京と大阪を襲うミケーネ帝国の二面作戦の最中に起きた出来事を報告し合う中、キンケドゥとアルゴから聞かされた事実にサイ・サイシーは驚愕の声を上げた。

 

アルゴ

「それだけではない。チャップマン……デビルガンダム四天王の奴も復活していた」

キンケドゥ

「どうやら、DG細胞を奪ったのはザビーネだったらしい……」

 

 ザビーネと直に対峙していたアルゴと、キンケドゥが答える。その声色は深刻で、特にキンケドゥからは焦燥感を隠しきれずにいた。

 

甲児

「そのベラっていうのは、みんなの知り合いなのか?」

 

 そう訊ねる甲児に、さやかが呆れたようにため息をつく。

 

さやか

「ベラ・ロナ……。10年前のコスモ・バビロニア建国戦争で、貴族主義を否定しマイッツァー・ロナと対立したロナ家の後継者のことですよね?」

キンケドゥ

「ああ。戦後、俺とベラ……セシリーは木星帝国の陰謀を知り、死を偽装して月のサナリィや、貴族主義のシンパを味方につけて新生クロスボーン・バンガードを組織した。そして、デビルドゥガチとの戦いの後また俺とベラは、シーブックとセシリーに戻り横浜で小さなパン屋を経営していたんだがどうやら、ザビーネに掴まれていたらしい」

 

ナスターシャ

「ザビーネ・シャルは貴族主義信奉者の中でもかなりの過激派だ。コスモ・バビロニア建国戦争ではベラ・ロナの側についたがそれは、ベラをこの世界を統治すべき貴族と見做してものだった。奴はどうやら今でも、貴族主義の復活を諦めていないのだろう」

 

 アルゴの傍に立つ軍服の女性ナスターシャが続ける。ベラ・ロナとはナスターシャも何度か面識があり、何よりガンダム連合を結集する際に彼女が世界へ呼びかけてくれたことはアルゴ達シャッフル同盟にとっても大きな借りであると言えた。そんなベラ・ロナ……セシリーの窮地とあっては、サイ・サイシーもいてもたってもいられない。

 

サイ・サイシー

「じゃあ、早くベラ姉ちゃんを助けにいかねえと!」

 

 椅子から立ち上がり、サイ・サイシーは大きく屈伸する。そんなサイ・サイシーの背後に、ヌッと気配が2つ増えた。

 

恵雲

「待つのだ、サイ・サイシーよ」

瑞山

「ザビーネの居所はまだ掴めていないのだぞ」

 

 2人の僧侶、太った狸顔の僧侶を恵雲。細身の狐顔が瑞山という。2人はサイ・サイシーのお目付役兼サポートスタッフとして、第13回ガンダムファイトの際には常にサイ・サイシーと行動を共にしていた優秀な僧侶達だ。

 

サイ・サイシー

「う、うわぁっ!? じっちゃん達いつからいたんだよ!?」

 

 突然の再会に、驚き飛び上がるサイ・サイシー。恵雲と瑞山は、そんなサイ・サイシーに呆れながら言葉を続ける。

 

恵雲

「我らの気配も感じとれぬとは!」

瑞山

「修行が足りぬぞサイ・サイシー!」

サイ・サイシー

「あー、せっかく口うるさいじっちゃん達がいなくて楽ができると思ったのに……」

 

 サイ・サイシーは露骨に悪態を吐き、恵雲と瑞山はショックを受けたように「なっ……!」と声を揃えて驚く。

 

恵雲

「瑞山!」

瑞山

「恵雲!」

瑞山・恵雲

「ガンダムファイトが終わってから、サイ・サイシーは弛んでいる。これでは亡き師に申し訳が立たぬ。よよよよよ…………」

 

 さめざめと泣き始める2人の僧侶を、一同は妙な目で見つめていた。

 

竜馬

「……僧侶ってのは、どいつもこいつも変な奴なのかもな」

隼人

「へっ、違いないな」 

弁慶

「て、てめぇらそいつはどういう意味だ!?」

 

 遠回しに「変な奴」呼ばわりされ、弁慶は竜馬の胸倉を掴む。そんな暴力的な光景も、既に日常茶飯事になり甲児達は慣れてしまっていた。彼らが「そういうコミュニケーションをするチームである」という認識で既に、皆の間で統一されている。

 

さやか

「また始まったわね……」

 

 言い換えるなら、諦められてしまっていた。そんなバイオレンスなコミュニケーションで会話する竜馬と弁慶の煽り合いが次第に乱闘の模様を見せ始め、一同はそそくさと会議室を退出する。こうなったら、気が済むまで暴れ回らせるしかない。というのが、甲児達がここ数日で学んだ竜馬達ゲッターチームへの対処法だった。

 

竜馬

「にゃろう、殴ることはねえだろうか!」

弁慶

「うるせえ! 今日という今日はもう我慢ならねえ!?」

 

 弁慶の丸太のように太い腕が、竜馬の腹を抉るように押し込められる。しかし、竜馬も鋼鉄のように硬い腹筋でそれを押さえ込み、弁慶のパンチから踏みとどまった。

 

竜馬

「この野郎!」

 

 そして、竜馬の蹴りが炸裂する。弁慶の頭に思いっきり叩き込まれる踵落とし。常人なら頭蓋骨が割れるそれを受けて弁慶はしかし、「痛えじゃねえか!」とより闘志を漲らせた。

 

ナスターシャ

「…………な、野蛮人か?」

 

 新入りのナスターシャは、そんな竜馬と弁慶の乱闘に絶句する。

 

アルゴ

「…………なるほど、いい蹴りだ。デカイ方のタフぶりもいい」

 

 ネオロシアのガンダムファイター・アルゴはそんな2人の乱闘を観察し、ファイターとして評価していた。だが、デスクが真っ二つに割れ破片がナスターシャへ飛んだのを見て、アルゴもまたそのずっしりとした剛腕でナスターシャを抱き抱え、破片からナスターシャを護る。

 

アルゴ

「……大丈夫か?」

ナスターシャ

「あ、ああ……」

 

 ナスターシャを下ろすと、アルゴはその巨体をズシンと動かし絶賛乱闘中の竜馬と弁慶へ向かっていく。

 

弁慶

「なんだてめぇ、やる気か!?」

竜馬

「邪魔するんじゃねえ!?」

 

 竜馬と弁慶の攻撃対象が、アルゴへと向かう。竜馬の強烈な蹴りと弁慶の拳が、同時にアルゴへ叩き込まれる。

 

ミチル

「いけない!」

鉄也

「あんなものをまともに喰らったら、死ぬぞ!?」

 

 ドスンという鈍い音が2つ、同時に響いた。しかし、打たれた本人……アルゴはビクともしない。まるで蚊か何かにでも刺されたかのように、まるで動じない。

 

アルゴ

「……………………」

竜馬

「なっ……!?」

弁慶

「お、俺たちの一撃を受けて無傷だと!?」

 

 竜馬は明らかに、急所を狙って蹴りを入れた。弁慶も、渾身の怪力で殴りつけた。それらは生半可な人間どころか、鬼すらも殺す必殺の攻撃だ。だが、だがしかし。アルゴの頑丈な肉体は、それを受け付けなかったのだ。

 

アルゴ

「少し、静かにしろ」

 

 210㎝を誇る長身が、無表情で竜馬と弁慶を睨む。そして、2人の頭を大きな腕が掴むと、思い切り2人の頭と頭をまるで、卵の殻を割るかのように叩き付ける。

 

竜馬

「ッッッッッ!?」

弁慶

「ォォォォォォォッ!?」

 

 強烈な痛みが、竜馬と弁慶を襲う。アルゴはそれで2人を解放すると、腕を組み2人を睨み付けた。

 

アルゴ

「……わかったな?」

竜馬

「……チッ、仕方ねえ。今日のところは手打ちにしてやるぜ」

弁慶

「お、覚えてろよ!?」

 

 そんな捨て台詞を吐いて、おずおずと竜馬と弁慶は退いていく。それをアルゴは静かに見守っていた。その光景を部屋の外へ退避しながら観察していた甲児は、まるで信じられないものを見たかのように絶句している。しかし、やがて事態を飲み込むと、「す、すげえ……」と小さくつぶやいた。

 

甲児

「……あのゲッターチームの乱闘を終わらせちまった」

キンケドゥ

「アルゴは俺達と違って、根っからの宇宙海賊だからな。肝の据わりも尋常じゃない。それに……」

 

 キンケドゥが続ける。

 

キンケドゥ

「あいつはあれで心根が優しい奴だからな。野生動物に慕われるんだ」

 

 それを聞き、隼人がプッと吹き出した。

 

隼人

「するってぇとあいつらは野獣か? まぁ、言い得て妙だな」

 

 そんな時である。「ワンワン!」と鳴きながら走る仔犬と、それを追いかける金髪の少女が彼らの前へやってきたのは。

 

ローラ

「ベッキー、待って!」

 

 飼い主であるローラを振り切り走り回るベッキーは、トコトコと駆け回りやがて、アルゴの足下へやってくる。

 

アルゴ

「ム……?」

ベッキー

「クゥン……」

 

 甘えるような声で鳴くベッキーをアルゴは抱き上げると、ゆっくりと歩き出し廊下でその様子を見ていたローラの下へ行く。そして膝を屈めて210㎝の巨体を下ろすと、アルゴはその手から仔犬をローラの下に差し出した。

 

アルゴ

「…………腹が減っているようだぞ」

ローラ

「えっ、もうベッキーってばさっきおやつ食べたばかりなのに」

 

 仔犬を抱き抱え、ローラは呆れたように言う。その様子を見守りながら、アルゴはそのゴツゴツした大きい手で、ベッキーの頭を優しく撫でた。

 

アルゴ

「…………大事にされているんだな」

ベッキー

「ワン!」

 

 そんなアルゴの手を、ベッキーはペロリと舐める。ベッキーはすっかり、アルゴに懐いているようだった。サイ・サイシーがそんな様子を意外そうに見つめていると、「あ、」とローラは何かを思い出したかのように声を上げる。

 

ローラ

「そうだ。おじちゃんが言ってたわ。パイロット各員を管制室に呼んできてって」

甲児

「よし来た、行こうぜ鉄也君!」

 

 もしかしたら、行方不明になった仲間のことで何か分かったのかもしれない。そんな気持ちが甲児を逸らせ、甲児は一目散に管制室目掛けてかけていった。

 

さやか

「あ、甲児君! もう……」

 

 そんな甲児の背中を見送りながら、さやかが毒付く。

 

さやか

「甲児君、槇菜やドモンさん達が心配だから少し焦ってる風に見えるわ」

サイ・サイシー

「だね。焦ってもどうにもならないのに……」

 

 さやかとしても、気持ちはわかるつもりだ。特に槇菜は、あんなものに乗って戦うのを自分の領分にしているような子じゃない。

 今までは自分や甲児の目が届くところで戦っていたが、今は……。それを考えるだけでも、居ても立ってもいられないのだろう。だが、その焦りが窮地を招いてしまうのではないか。そんな不安がさやかにはあった。

 

竜馬

「へっ、心配なんざ必要ねえよ」

 

 そんなさやかを見かねてか、竜馬が呟く。

 

さやか

「竜馬さん……」

 

 アルゴに思い切り制裁された頭を摩りながら呟く姿はいまいち締まらないが、それでも竜馬達3人も、思えばこの世界では異邦人であることをさやかは思い出した。ともすれば、今消えてしまった仲間達と同じような境遇にゲッターチームはいる。だが、

 

さやか

「竜馬さんと違って甲児君も槇菜も、繊細なんです!」

 

 ぴしゃりと言い切り、さやかは甲児を追い行ってしまった。

 

竜馬

「お、おいそりゃあ……俺はガサツってことか!?」

 

 

…………

…………

…………

 

 科学要塞研究所の管制室。その大型スクリーンに映し出されていたのは、前線で戦っていた彼らには見覚えのない男だった。しかし、兜剣蔵と葉月孝太郎の2人は、その男に睨みを効かせている。その、不穏な空気の中でジュンが息を呑んでいた。

 スクリーンの男は黒髪を短く刈り揃え、仕立てのいいスーツを着た男。しかし、その目は爬虫類のように無機質で、値踏みするようにこちらを眺めていた。

 

一清

「……そこで、貴方達の戦力をべギルスタンに派遣していただきたい」

剣蔵

「それは……日本政府の命令ということですか?」

一清

「いえ、豪和の独断です」

 

 豪和一清。日本において絶大的な権力を誇る豪族・豪和一族の長男は有無を言わせぬ態度で、剣蔵に出撃要請を依頼していた。

 

葉月

「我々は、人類への脅威を前に集結したのです。べギルスタンの大量破壊兵器所持疑惑や謎の爆発事故に関しては我々も承知していますが、戦争のために集まっているわけではないと理解していただきたい」

 

 葉月が眼鏡を光らせながら言う。一清はしかし、そんな葉月の言葉を鼻で笑った。

 

サイ・サイシー

「あいつ……!」

アルゴ

「…………」

 

 そんな一清の態度が気に入らないサイ・サイシーをアルゴが制す。一清は、そんなものは目に入らないとでも言うような態度を崩さずに言葉を続けた。

 

一清

「べギルスタンに派兵されたアメリカ軍が全滅したという話は、承知していますか?」

葉月

「…………ええ」

一清

「これは極秘に入手した現地の写真なのですがこれを見れば、貴方達もベギルスタンが人類への脅威たらしめるものであると理解するはずです」

 

 そう言って、一清は一枚の画像をスクリーンに映し出す。そこに映されていたのは、星条旗のマーキングが施されたジェガンタイプのモビルスーツ部隊。しかし、彼らの前に立ち塞がっているのは巨大なガンダムの頭部だった。

 

アルゴ

「ガンダムヘッド……!?」

キンケドゥ

「デビルガンダムが、べギルスタンにいるのか!?」

 

一清

「フ……」

竜馬

「…………」

 

 予想通り、という笑みを一清は浮かべていた。その含みのある笑みを竜馬は睨め付ける。

 嫌悪感。それが、竜馬が一清に抱いた第一印象だった。

 

一清

「デビルガンダムが相手となれば、通常兵器は役に立たないでしょう。スーパーロボットやシャッフル同盟の皆様の力を借りたいと考えるのは、無理からぬことと思いますが?」

剣蔵

「…………それは、そうでしょうが」

 

 デビルガンダム細胞を奪った犯人は、木星帝国残党とも繋がっていると確認されている。もし、べギルスタンが用意していた極秘兵器がデビルガンダム細胞を使用した兵器であるとすれば、無視するわけにもいかなかった。

 腕を組み、剣蔵は熟考する。

 

甲児

「お父さん……」

鉄也

「所長……」

 

 やがて、剣蔵は静かに口を開いた。

 

剣蔵

「わかりました。うちの部隊をべギルスタンへ派遣しましょう。ですが、べギルスタンへの攻撃ではなくあくまでデビルガンダムの調査のため、です」

 

 その決定に一清は、満足そうに頷いた。

 

一清

「現地には、特自が派遣されています。万が一、特自がデビルガンダムの脅威に晒された場合は救援を頼みたい。それはよろしいですね?」

剣蔵

「無論です。相手がデビルガンダムであるのならば、ですが」

 

 「それでは、よろしくお願いします」そう言って、一清は一方的に通信を切ってしまった。

 後に残されたのは、しばしの沈黙。

 

鉄也

「……よかったんですか、所長。あれは、豪和でしょう?」

隼人

(豪和……!)

 

 隼人が、険しく眉根を寄せる。以前、横浜基地でハッキングを試みた時に見た名前だった。豪和一族、骨嵬、ガサラキ……。

 それは、ゲッター線の秘密を追っている隼人が手に入れた、この世界におけるゲッターの秘密に関わる鍵。それを握る人物が、先ほどまで目の前にいた。そして、その豪和も何かを企んでいる。それが隼人にはわかる。

 

隼人

(どうやら、豪和もゲッターの存在に気づいたようだな……)

 

 豪和が科学要塞研究所に直接依頼する理由は、それしか考えられなかった。恐らくは、エンペラーの出現が豪和に行動させたのだろう。だとすれば、

 

隼人

(べギルスタンとやらにも、豪和の目的に関わる何かがあるということか……?)

 

 そこで、ゲッターに何かをさせたい。それが、豪和の目論みであると隼人は推測する。

 

剣蔵

「……デビルガンダムが絡んでいるとなれば無視もできんよ。早乙女博士、エンペラーを出してくれますか?」

早乙女

「うむ、エンペラーなら通常航行でも数時間でべギルスタンへ到着する。もしミケーネとやらの攻撃があっても、すぐに日本に戻れますからな。エンペラーを母艦に、機動部隊を編成し出撃しましょう」

 

 そう言うと、早乙女博士は踵を返し、下駄の音を立てながらコツコツと歩き出していく。

 

早乙女

「何をしておるお前達。エンペラーへ急げ」

 

 そう吐き捨てて、早乙女はすぐに行ってしまった。

 

サイ・サイシー

「……デビルガンダムとあっちゃ、オイラ達も無視はできないな。行くぜおっちゃん!」

アルゴ

「……ああ」

 

 サイ・サイシーとアルゴも続く。さらに鉄也とキンケドゥも、歩き出していった。

 

甲児

「……竜馬さん?」

 

 鉄也に続こうとした甲児は、気に入らないとでも言わんばかりにジーンズのポケットに手を突っ込む竜馬を見かねて声をかけた。

 

竜馬

「あの野郎……あれは何か企んでる目だったぜ。晴明と同類だ」

 

 そんな奴の言いなりになるのはゴメンだ。言外にそう言って竜馬はそっぽを向く。

 

弁慶

「……確かに、あれは悪党の人相だったな。だが、デビルガンダムが出てくるとあっちゃ黙ってるわけにもいかんだろう」

隼人

「……そういうことだ。それに、奴の目論見が別にあると言うなら、それも踏み越えてぶっ潰せばいい。お前ならそういうと思ったがな」

 

 隼人が、挑発するように言う。一瞬、竜馬は隼人と視線を交わし合った。そして……。

 

竜馬

「気に入らねえが、お前の言う通りだな。あの野郎が何か企んでるっていうなら……その企みごとデビルガンダムをぶっ倒してやりゃあいい」

 

 鮫のように笑い、竜馬はスクリーンの向こうにいた爬虫類のような男へ敵意と、闘志を燃やしていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

—べギルスタン空港—

 

 べギルスタン共和国。シチルバノフ大佐が全権を握る軍事国家として知られるこのアジアの小国に今、マーガレット・エクス少尉は足を運んでいた。栗毛色のなだらかな髪を覆うフードつきのコートを身にまとい、サングラスをかけた姿は一見すれば、観光客だろう。しかし、マーガレットはここにある人物が潜伏しているという噂を聞きつけ、単身ここにやってきたのだ。

 べギルスタンは、未来世紀へと年号を改め、コロニーに首脳陣が移された後日増しに治安が悪化していった。ガンダムファイトでも目立った成績を出したことがないべギルスタン政府は、国連の中でも立場が弱く、地球に残された人々を纏めるだけの行政能力は既に死滅している。

 そんな中、頭角を表したのがシチルバノフ大佐だった。シチルバノフ大佐は、軍事によってこの小国をまとめ上げ、強行的な政策で民衆をまとめあげた。軍事独裁政権。旧世紀から宇宙世紀にかけて呆れるほどに見たそれを、べギルスタンは今でも実践する数少ない国だった。

 

マーガレット

(アメリカも或いは、このくらい強権的だったら……)

 

 マーガレットの故郷アメリカは、その広大な土地を州という形で分け、州単位の地方自治を統治運営する合衆国制度を導入した国だ。その心臓部をコロニーに移した後、地球のアメリカはひどい荒れようだった。それは、マーガレットの故郷であるニューヨークもそうだった。

 ニューヨーク。旧世紀には栄華を極めたスラムで生まれたマーガレットの半生は、過酷を極めるものだった。州という、いくつかの国を纏めた統治機構を失ったアメリカは脆かった。暴動、強奪、強姦、殺戮……。ありとあらゆる悪徳が蔓延る無法地帯と化したニューヨーク。マーガレットは、そんな世界で生きてきた。

 それと比べれば、軍事力で統治されていたものであったとしても最低限の治安が守られているべギルスタンはマシなものに見える。そんなことを考えながら、マーガレットはべギルスタンの街を歩き、やがて観光客はまず来ない路地裏へ足を踏み入れた。

 陽の光も差さない路地裏には、古びた襤褸を纏った浮浪者が、ギラついた瞳でこちらを見ている。マーガレットは、サングラスの中に隠した瞳をなるべくそんな浮浪者達を見ないようにして進む。道中、鼠がマーガレットを横切った。

 

マーガレット

(ここは、ニューヨークとそう変わらないか……)

 

 そんなことを思いながら、マーガレットは進む。路地裏のその先には、小さな店がある。その看板には、『義理編』と漢字で記されていた。べギルスタンの現地民には、その漢字が何を意味するかなど理解できない。そして当然、マーガレットも。だが、マーガレットは携帯端末に保存されているスクリーンショットを確認すると、そこに描かれてる三文字の漢字を確認し、ひとつ頷いて店の暖簾をくぐる。

 『義理編』と記された謎の店。その店主は、褐色肌に金髪の、長身の男だった。男は、来客に対してもさして興味を示さずに本を読み耽っている。その皮装丁の表紙で編まれた古本の世界に没頭する男の前に、マーガレットは立った。

 

マーガレット

「ルー・ギリアム博士。アメリカ軍少尉、マーガレット・エクスです」

 

 マーガレットは男の前に立ち、敬礼する。

 

マーガレット

「探しました、ルー・ギリアム博士」

 

 ルー・ギリアム。そう呼ばれた男は、そこで初めてマーガレットの存在に気づいたように本から視線を上げる。

 

ルー博士

「オー、海兵隊が私に何の用デスか? 私はもう、軍とは関係のない身デース」

 

 開口一番、ルー博士はそう言って本を閉じ、マーガレットを見ていた。

 

マーガレット

「貴方が開発したマシン……ゼノ・アストラについて。聞きたいことがあります」

ルー博士

「オー、まさかゼノ・アストラの起動に成功したのデスか! 頭の硬い軍の連中に動かせるわけがないと思っていましたが、なかなか見所ある奴がいるものデスネー!?」

 

 ゼノ・アストラ。その名前にルー博士は眉根を寄せ、椅子から飛び上がって喜んでいた。

 ルー・ギリアム。その名前をマーガレットが知ったのは、ゼノ・アストラに関する資料を謹慎中にかき集めていた時のことだった。ゼノ・アストラの開発者として名を連ねるルー博士は、しかし同時に科学者としてはほぼ無名の存在であった。

 そんなルー博士が何故ゼノ・アストラを、ヴリルエネルギーを開発することが出来たのか。マーガレットは、ゼノ・アストラの謎に迫る中でそんな疑問に辿り着き、独自にルー・ギリアム博士の捜索を開始していたのだった。

 

マーガレット

「今、ゼノ・アストラは日本人の女の子が乗っています。我が軍の……いいえ、私のミスで、無関係な女の子を一人、過酷な運命に巻き込んでしまった。だから、教えてほしいんです。あれが一体、何なのか」

 

 サングラスを外し、マーガレットは言う。ルー博士はその瞳を見て、しばし黙り込んだ。それから、「ふぅ」と息を吐いて椅子に座る。

 

ルー博士

「…………あれは、正確には軍が、私が開発したものではありまセーン。そもそも私の専攻はアーキアロジー……テクノロジーは私の領分じゃないのデース」

 

 そう言いながら、ルー博士は、机の下から一冊のファイルを取り出し、マーガレットへ渡す。それを受け取り、マーガレットはファイルを開く。そこには、クレーンで引き上げられた人型起動兵器の骨組のようなものの写真が挟み込まれていた。

 

マーガレット

「……まさか、これが?」

ルー博士

「イエース。ゼノ・アストラとは、私がマチュ・ピチュの遺跡で発掘したオーパーツにつけたコードネームなのデース。ですが、軍はそれを徴収し、軍事用のスーパーロボットとして再利用する計画を立てたのデス。私はそれに腹を立て、プロジェクトから離脱し今はしがない古本屋デース」

マーガレット

「…………ルー博士。今、ゼノ・アストラを起動した少女は過酷な運命の中にいます。あなたの知識を、彼女のためにも貸して頂けないでしょうか」

 

 ルー博士はその言葉を聞くと腕を組み、再びマーガレットの目を見つめる。値踏みされている。そう、マーガレットは感じていた。当然だろう。ルー博士は、マーガレットの所属している軍に愛想を尽かして出国したのだから。値踏みされるのは好きではない。だが、マーガレットはそれを受け入れてルー博士の目を見返していた。

 やがて、ルー博士は溜息を吐くと椅子をくるりと回し、後ろの書棚から一冊の本……フレイザーの「金枝篇」を引き抜いた。すると、それを合図に床のパネルがパシンと跳ねる。

 

マーガレット

「これは……!?」

 

 地下への隠し階段。ルー博士は気付けばマーガレットの隣まで歩いてきており、そこで白い歯を見せて笑う。

 

ルー博士

「イエース。どうやら貴方は、信用できる人物とお見受けしました。私の秘密基地へ案内しマース!」

 

 そう言って、ルー博士は階段を降りていく。マーガレットもそれに続く。石造りの階段を、コツコツという音を立てて降りる。中は籠っており、足音は大きく反響している。

 

マーガレット

「地下に、何があるんですか?」

ルー博士

「私は、ゼノ・アストラを軍に奪われた時からずっとこの日を待っていたのかもしれまセーン。ゼノ・アストラ……あれは、私の仮説を証明する存在でした」

マーガレット

「仮説?」

 

 階段を降りながら、言葉を交わす2人。ルー博士の言葉を聞き、マーガレットは返す。

 

ルー博士

「イエース。マチュピチュの遺跡でゼノ・アストラのフレームを発見した。その事はお話しした通りデース。ですがその時既に、ゼノ・アストラの動力炉は生きている状態でした……」

マーガレット

「…………!?」

 

 ゼノ・アストラの動力炉。ヴリルエネルギー。20世紀初頭に提唱され、一笑に付された永久機関。それが、古代には既に開発されていたというのだろうか。

 冷たい汗が、マーガレットの頬を伝う。地下特有の冷気故だろうか。それとも、

 

ルー博士

「そもそも、私がマチュ・ピチュの遺跡発掘調査隊を組織したのは古代文明……アトランティス、ムー、ルルイエ……それらの存在を証明する為でした。そしてマチュ・ピチュは、そんな超古代文明の存在を示唆する重要な場所であると考えていたのデース」

マーガレット

「そして、ゼノ・アストラとヴリルエネルギーを見つけた……」

ルー博士

「その通り。思えば十蔵博士も、太古に存在したミケーネ帝国の存在を半ば確信していました。そして、ミケーネ帝国が現実に存在するのならば、ミケーネと同様の文明が他にあってもおかしくありまセーン」

 

 ミケーネ帝国。今現実として人類に迫る危機。思えばゼノ・アストラの暴走も、ミケーネ帝国の復活に呼応したかのようだった。そこまで考え、マーガレットは今のルー博士の話からあることに気付く。

 

マーガレット

「ジュウゾウ……兜十蔵博士のこと?」

ルー博士

「駆け出しの頃、私は十蔵博士のバードス島調査に同行させてもらいまシタ。あのバードス島との出会いが、今の私を作っていると言っても過言ではないでしょう……」

 

 そう語るルー博士の横顔は、まるでヒーローに憧れる子供のように純粋な目をしている。そうマーガレットは思った。そして、そんな瞳をする人を見ると、つい思い出してしまう。

 

マーガレット

(紫蘭も、そういう目をすることがあったな……)

 

 紫蘭・カタクリ。新宿で死んだマーガレットの恋人。紫蘭が軍に入ったのは、マーガレットと同じく生活のためだった。

 あのアメリカで生きていくには……強い力が必要だった。それは武力でも権力でも財力でも知力でも何でもいい。事実、ネオアメリカ代表のガンダムファイター・チボデーはそのボクシングの腕ひとつで成り上がり、アメリカンドリームをもう一度、国民に見せてくれた。

 だが、現実として夢を掴む人がいる裏で、アメリカという国は波乱と動乱にまみれている。紫蘭は、いずれはそんなアメリカを動かしてみんなに平和と夢を与える男になりたい。そうある夜、マーガレットに語ってくれた。

 同じ夢を見ていたい。それが、マーガレットが紫蘭に惹かれた理由かもしれなかった。

 だが、そんな紫蘭はもういない。

 

マーガレット

(…………紫蘭。貴方が生きてたらこんな時、どうしたのかしらね)

 

 そんな物思いに耽っていると、やがて階段を降り切る。そして、ルー博士が「アマテラス」と合図すると、その合言葉に呼応する様にして地下室の扉が重々しく開かれる。そこにあったのは、巨大なスーパーコンピューター。連結する3つのディスプレイは目まぐるしく世界中のあらゆる箇所を映し、そして常にルー博士の興味、関心にヒットする現象を録画保存を続けている。

 

マーガレット

「これは……?」

ルー博士

「世界の秘密に迫るため、私が準備していたシステムデース。世界中のニュースをリアルタイムに観測し続け、常に情報を更新し続けるシステムを構築しているのデース」

 

 個人レベルで、研究所並のコンピューター・システムを構築している。その事実に、マーガレットは驚愕した。それほどの情熱が、ゼノ・アストラを発掘するまでに至ったのだろうか。   

 マーガレットが感心しながら地下室……秘密基地を見回す。そこには確かに、表にあった古書とはまた違う趣の本が並ぶ書棚があった。旧世紀以前の海図や地図。それに、アトランティスやムー大陸といった古代文明に纏わる本。それは確かに、ルー・ギリアム博士の夢とロマンの詰まった部屋だ。

 

マーガレット

「凄い……」

 

 感嘆とする。ルーの夢はマーガレットには理解し難いものであったが、その夢に駆ける情熱は本物であった。それは、現実を生きるのに必死だったマーガレットにとってはある種の憧れと、羨望に近い感覚がある。そんな視線に、ルー博士は得意げに鼻を鳴らしていた。

 

ルー博士

「それだけではありまセーン。この秘密基地には秘密へ……」

 

 ルー博士が何かを言いかけた時だった。激しい震動が2人を襲う。グラグラと、天が揺れるのを感じてマーガレットは咄嗟に壁に背をもたれさせた。

 

マーガレット

「何っ!?」

ルー博士

「待ってくだサーイ、今外の様子を確認しマース!」

 

 そう言って、ルー博士はスーパーコンピュターを操作しカメラモニタを切り替えていく。そこには、べギルスタンの街並みが映し出されている。そして、その奥……街から離れて広がる荒野に、それは広がっていた。

 黄色い体躯。棍棒を構える一つ目の鬼械。それが群れをなし行進する。その光景を、マーガレットは知っていた。

 

マーガレット

「あれは……!?」

 

 デスアーミー。かつて新宿を、ギアナ高地を地獄に変えた騎兵部隊。デビルガンダムの手足として増殖し、行進するゾンビの群れが、べギルスタンの市街地を目掛けて歩いていた。

 

……………………

第10話

「戦乙女の末裔」

……………………

 

—べギルスタン—

 

 

 荒野を埋め尽くすように行進するデスアーミー。その姿は、市街地に暮らす人々にまでしっかりと見えていた。怯え惑う市民。べギルスタン軍はしかし、動こうとしない。それがさらに、市民の混乱を募らせる。

 

市民

「どうしてシチルバノフ大佐は、軍を出してくれないんだ!?」

市民

「国を守るのが軍人の責務じゃないのか!?」

 

 そんな国民の悲鳴にしかし、軍は答えない。

 

マーガレット

「どうして、デスアーミーがこんなところに……?」

ルー博士

「もしかしたら、これを探しているのかもしれまセーン」

 

 そう言ってルー博士は、モニタの横にあるリモコンを拾い、そのボタンを押す。すると、シャッターが静かな音を立てて開かれ、その奥にあるものがマーガレットの前に姿を現した。

 

マーガレット

「モビルスーツ? いや、これは……」

 

 緑色の、人型機動兵器。しかし、ガンダム・タイプのモビルスーツやマジンガーZのようなツインアイでもなく、新兵の頃マーガレットが乗っていたジェガン・タイプのようなバイザータイプでもない特殊な頭部をしている。

 言うなれば、スコープがそのまま露出しているかのような無骨な外観。人間的な表情を持つマシンが数多く製造されている現在、それは徹底的に人型機動兵器という鉄の塊に人格を見出さず、『道具』として割り切る開発者の思いが現れているようにも思えた。

 しかし、それ以上に特徴的なのはそのマシンが持つ右腕である。右腕だけが異様に大きく膨れ上がった左右非対称のマシン。その膨れた腕だけが、そのマシンの徹底機的に排除された人格性の中で唯一、人格を有しているようにマーガレットには見えた。

 

ルー博士

「これはシグルドリーヴァ……。開発凍結したヴァルキリアシリーズ、その最後の一機デース。廃棄予定だったそれを、私が買い取って組み上げマシタ」

マーガレット

「シグルドリーヴァ……」

 

 勝利を促す者。そう名付けられた戦少女の名を持つ騎兵。マーガレットは駆け寄り、その戦少女の胴体を弄ると、ガシャンという音とともにその上半身が開封される。その中には、マーガレットにも見知ったコクピット・シートがある。シートの上には、マシンとコードで繋がれたゴーグルが置かれていた。マーガレットはそれを拾うとシートへ座り、ハッチを降ろす。

 閉められたコクピットの中は、完全な闇だった。その闇の中で、ゴーグルだけが仄かに光っている。

 

マーガレット

「神経接続型か……」

 

 そう呟くと、マーガレットはゴークルをかぶる。ゴーグルを通して、マーガレットの視界とシグルドリーヴァの視界が一致していく。それは、不思議な一体感だった。

 

ルー博士

「ミス・マーガレット。シグルドリーヴァをあなたに託しマース。あのデスアーミーどもを、コテンパンにしてくだサーイ!」

 

 そんな陽気な英語が、マーガレットの耳に響く。それにマーガレットは、シグルドリーヴァは膨張している右腕を折り曲げ、敬礼のポーズを作って応えた。

 そして、エレベーター式のコンベアが起動しシグルドリーヴァを地上へと引き上げていく。それに合わせて、べギルスタンの街並の一部分が割れていく。スラム街から少し離れたゴミ焼却炉。その隣にある小さな空き地が開き、モスグリーンの戦乙女がべギルスタンを守るように姿を現すのだった。

 

ゾンビ兵

「…………!?」

 

 デスアーミー達の一つ目が、一斉にシグルドリーヴァを見た。そして、一足乱れぬ歩調でシグルドリーヴァへ向かい歩き出す。

 

マーガレット

「本当に、奴らの狙いはシグルドリーヴァなの? なら……」

 

 マーガレットがマシンのペダルを踏むと、シグルドリーヴァの脚部。その踵に取り付けられたキャタピラが回り、走り出す。街を離れ、荒野目掛けて。デスアーミーの狙いがシグルドリーヴァなら、街に被害を出さない方法は簡単だ。自分が囮になればいい。単純な思考回路のゾンビ兵達は、シグルドリーヴァを追い動く。そして、棍棒の先端に内臓されているビームライフルを構え、緑の戦乙女へ斉射した。

 

マーガレット

「危ないっ!?」

 

 しかし、その熱は機体に触れる前に霧散し、装甲に触れることはない。ビームコート。光学兵器に対して有効な特殊なカーボンコーティングを纏ったその装甲は、ビームの熱が届く前に霧散させてしまうのだ。

 ヴェスバーのような超高出力ビームか、或いは至近距離で集束を続けるビーム・サーベルのような兵器でなければシグルドリーヴァの装甲は、光学兵器を弾く。

 それは、モビルスーツの登場から常に課題となっている“小型化したビーム兵器への対策”という軍事上の課題において、常に付き纏っていた問題をこのマシン……シグルドリーヴァは解決していることを意味していた。

 

マーガレット

「凄い……」

 

 久しぶりに乗る鉄の棺桶の、むせ返るような匂いの中でマーガレットは、このシグルドリーヴァの性能を試すように走らせる。キャタピラのついた脚はどんな荒地でも速度を落とすことはなく、装甲はビームを寄せ付けない。後は、武装……それを確認しながら、マーガレットは荒野を走りデスアーミーを有効射程へ誘い込む。

 

マーガレット

(背中のマトリクスミサイルに、腰のファランクスミサイル……重装砲撃型か)

 

 悪くない。ライフルしか持たない屍の軍団を相手するのに、この装備は向いている。マーガレットはスコープ代わりのゴーグル越しに狙いを定め、試しにファランクスミサイルのボタンを押した。シグルドリーヴァの腰部から放たれた2発の弾頭。それがデスアーミー軍団目掛けて飛びそして、破裂する。耳を裂くような音とともに爆炎を上げるファランクスミサイルが、デスアーミーを焼いていた。

 

マーガレット

「これなら、やれる……!」

 

 続けて、シグルドリーヴァはミサイルを放つ。畳み掛けるような多重爆撃。普通のモビルスーツなら、これだけの重量砲撃のためには足を止めなければならないだろう。しかし、シグルドリーヴァは違う。キャタピラの脚は姿勢を変えることなく、ミサイル兵器を放ち続ける能力を人型機動兵器に与えていた。

 やはり、この機体……ヴァルキュリアシリーズの開発者は、マシンに機能以上のものを求めていない。ただの道具として、徹底的に効率を突き詰めて設計された歩行戦車。それが、マーガレットの抱いた第一印象だ。

 それは、神性を帯びているようにすら感じられるマジンガーZや、その神話を人々に語られ続けるガンダムとは根本から設計思想が異なる事を意味している。だが、それが却ってマーガレットには心地いい。

 

マーガレット

(私は、今を生きるために必死に戦い続けてきた。英雄も、神話も私には無縁。こういう方が、私にはいい!)

 

 それは、マーガレット・エクス少尉がパイロットとなりはじめて“愛機”を得た瞬間だった。

 

マーガレット

「ファイア!」

 

 背中に格納されていたマトリクスミサイルが展開され、火を吹く。次の瞬間には、ターゲットは塵となる。デスアーミー、ゾンビ兵。もの言わぬ屍達。かつて、自分の恋人が陥った末路。その思い出を振り払うように、マーガレットはミサイルを撃ち続けた。

 爆煙と土煙が、咽せるほどに広がる荒野をシグルドリーヴァは、マーガレットは往く。戦乙女を前に、デスアーミーなど相手にならなかった。だが、土煙の向こう。デスアーミーでは決してあり得ない速度で走る何かの存在を、シグルドリーヴァの計器が捉えていた。

 

マーガレット

「何っ!?」

???

「……………………!?」

 

 疾風の如く速さ。いや、疾さ。一瞬で土煙の向こうからやってきたそれは、血のように赤い。いや、赫い。そして、一打。徒手空拳で戦う髑髏のような頭部を持つ赫い魔神が、戦乙女の前に立ち塞がった。

 

マーガレット

「しまっ……!?」

 

 避けられない。咄嗟に右手で急所をカバーするが、そのパンチは風を切るように疾く、そして重い。突き飛ばされ、シグルドリーヴァは大きく後退してしまう。それでも体勢を崩さなかったのは、マーガレットの操縦技術によるものだろう。

 

マーガレット

「お前が、親玉ってわけ……!」

 

 左手にシザーナイフを構え、シグルドリーヴァは赫いマシンと相対する。赫いマシンも武術の型と思われるポーズを取り、身構えた。

 

マーガレット

(ボクシング……? いや、あの構えは……)

 

 マーガレットは知っている。それは、東洋のバリツと呼ばれる格闘術だ。旧世紀、イギリスの名探偵がこの格闘術を修めていたがために九死に一生を得たという逸話があり、英米圏では人気が高い。軍隊格闘でも、その基礎の型は習うことになるので、マーガレットも一応の心得はあった。

 だが、その構えを見ればわかる。敵はマーガレットよりも遥かにその心得に通じているのだと。

 

マーガレット

(相手は達人、遠距離砲撃を得意とするシグルドリーヴァじゃ不利か……?)

 

 いや、むしろどんな達人でも一発の銃弾の前には敵わない。シザーナイフを囮に、本命を叩き込む。そうすれば……。自分の心臓の音がドクン、ドクンと耳を刺激する狭い棺桶の中で、マーガレットはその時を待っていた。1秒、2秒、3秒……やがて、赫いマシンは大地を蹴り、シグルドリーヴァへ迫る。

 

マーガレット

「今だっ!?」

 

 叫び、マトリクスミサイルを放った。だが赫いマシンはその拳の裏に仕込まれていたレザーブレードで、ミサイルを叩き割る。

 

???

「甘い……」

マーガレット

「そんな……っ!?」

 

 マーガレットに迫る拳を、シグルドリーヴァは避け切れない。やられる、そう思った次の瞬間、無数の薔薇が宙を舞い、花弁を散らすように舞い踊った。

 

ジョルジュ

「そのまま吹き飛ばせ! ローゼス・スクリーマーァッ!?」

 

 ローゼス・スクリーマー。その叫びとともに舞い散る薔薇は勢いを増し、赫いマシンを取り囲む。そして、まるでスクリューのように旋回し、その風圧で赫いマシンを持ち上げ、吹き飛ばすのだった。

 

マーガレット

「あれは……!?」

 

 デスアーミー軍団と赫いマシン……その間を遮るように、2体のガンダムがいつの間にか戦場に姿を現していた。一機は、中世の騎士のような出立ちをしており、巨大な盾が左手を覆い、右手にはフェンシングに使うものを思わせるサーベルを構えている。もう一方は、赤い装甲をアメリカンフットボールのユニフォームのように着込み、二丁拳銃を構えるガンダム。

 

ジョルジュ

「お怪我はありませんか、マドモワゼル?」

チボデー

「俺達が来たからには、もう安心だぜ!」

 

 そう!

 皆さん、長らくお待たせしました!

 一方はネオフランスのガンダムファイター、ジャック・イン・ダイヤの称号を持つ誇り高き騎士ジョルジュ・ド・サンドとガンダムローズ!

 そしてもう一方はマーガレットも憧れる、アメリカンドリームを叶えた男!

 クイーン・ザ・スペードの称号を持つドリームスター、チボデー・クロケットとガンダムマックスター!

 ドモン達と行動を別にしていたシャッフル同盟の2人が、マーガレットのピンチに颯爽と駆けつけたではありませんか!

 

チボデー

「デビルガンダムの反応を追ってべギルスタンくんだりまで来てみりゃ……ビンゴ! ってな。助太刀するぜ!」

 

 ガンダムマックスターの装甲がパージされ、両腕に集まっていきます。ボクサーモード。ガンダムマックスター最大の特徴のひとつである用途に合わせて変形するユニフォームが、今度は高速格闘モードを選択したのです。チボデーが右手を大きく構え、突き出します。一見すれば、それはただのパンチ。ですが、そのパンチひとつで頂点に輝いた男の拳は値千金!

 

チボデー

「食いやがれ、バァァァニング・パンチ!」

 

 その名の通り、燃え上がる拳が衝撃波となりデスアーミー達を次々と破壊します。あれだけいたゾンビの軍団。それを一瞬で壊滅させる拳のキレは間違いなく、昨年のガンダムファイト決勝トーナメントの時よりも遥かにキレが増していると言ってよいでしょう!

 

ジョルジュ

「流石、野蛮な戦い方に関しては貴方の右に出るものはいませんねチボデー……ハァッ!?」

 

 ネオフランスのジョルジュも、負けてはいません。ガンダムローズの主兵装……変幻自在のローゼスビットが先ほどまでマーガレットを襲っていた赫いマシンを追い詰めます。四方八方からのオールレンジ攻撃。それをニュータイプと呼ばれる超感覚ではなく、ガンダムファイターとしての天性のセンスのみでこうも操れるものかと誰もが息を呑み、恍惚としてしまう美しい戦い方。ジョルジュもまた、前回のガンダムファイトからさらに力をつけていました。

 

マーガレット

「す、すごい……」

 

 マーガレットがあれだけ苦戦していた強敵を前に、ジョルジュは完全に圧倒していました。忽ち、赫いマシンは装甲にヒビが入りはじめます。

 

ジョルジュ

「今です! さあ、決着は貴女の手で!」

マーガレット

「は、はいっ……!?」

 

 ジョルジュに押され、マーガレットはダメ押しにマトリクスミサイルを放つ。その一撃はローゼスビットの支援もあって今度こそ赫いマシンに命中し、その装甲を爆風で吹き飛ばした。

 吹き飛ばした装甲は、コクピットハッチをこじ開け中身を露出させる。

 そこにいたのは、背の高い男だった。

 日系の血と北米の血が混じっているのを思わせる、彫りの深い精悍な顔立ちをした男が、全身をチューブ状の触手に繋がれている。その瞳に生気はなく、瞳孔は開き、虚空を見つめている。

 

マーガレット

「嘘…………」

 

 だが、それでも。それでもマーガレットには、それが誰だか判別できた。

 忘れたことなど、今日まで一度もない。共に軍学校で学び、夢を語る彼の横顔を目に焼き付け、そして身体を重ね合わせたのだから。

 彼は死んだ。そう、聞かされていた。彼の形見として受け取った銃は、槇菜に預けていた。自分が、過去に縋らないために。

 それなのに、それなのにどうしてその過去が、自分の前に現れるというのか。

 

マーガレット

「どうして、どうしてあなたが……紫蘭!」

紫蘭

「…………」

 

 紫蘭・カタクリ。新宿でデビルガンダムに殺され、そしてその尖兵として人格の全てを剥奪されたはずの恋人が、その髑髏のような眼窩でこちらを見つめていた。

 

…………

…………

…………

 

 

 デスアーミーを粗方片づけたガンダムマックスターが、ガンダムローズに並ぶ。しかし、2機は只ならぬ気配をマーガレットと、紫蘭の間に感じとっていた。

 

チボデー

「こいつは……」

 

 露出するコクピットから見える紫蘭の姿は、どこかデビルガンダムの生体ユニットとなっていたキョウジ・カッシュを連想させる。だとしたら、もう助かる見込みはない。それは、誰の目から見ても明らかだった。

 

マーガレット

「紫蘭。あなた、どうして……?」

 

 それでも、マーガレットはトドメを撃ち込むことができないでいる。それを好機と判断し、動いたのは紫蘭の乗る赫いマシンの方だった。

 

紫蘭

「…………!」

 

 無言のまま加速し、その拳でマーガレットのシグルドリーヴァを狙う。

 

ジョルジュ

「不味い、ローゼスビット!?」

 

 ガンダムローズの放つ薔薇の花弁が、空を舞い、赫いマシンを狙い撃った。しかし、みるみるうちに再生していく赫いマシンは、その装甲表面を復元しローゼスビットを防ぐ。

 

ジョルジュ

「再生能力!?」

チボデー

「やっぱりあれは、デビルガンダムの手先か!」

 

 ガンダムマックスターが、手にグローブのようにして装着した装甲をパージし今度はサーフボードへ変形させる。サーフボードに乗ったマックスターはそのまま加速し、ホバー移動で赫いマシンとシグルドリーヴァの間に割って入った。

 

紫蘭

「……死ね!」

 

 ようやく、それだけを口にする紫蘭から放たれ拳。それに割り込んだガンダムマックスターは、瞬時に装甲をシールドに変化させてシグルドリーヴァを庇い受けるのだった。

 

チボデー

「おい嬢ちゃん、ボサッとしてんじゃねえ!?」

マーガレット

「で、でも……」

 

 赫いマシンはそうしている間にも、拳を連打しガンダムマックスターを追い詰めていく。攻撃に転じることができれば返せるが、このままではそうもいかない。

 

紫蘭

「二アグルース……撃て!」

 

 ニアグルース、そう呼ばれた赫いマシンの右拳に、黒い力が集まっていった。それは、チボデーにも伝わるほどの暗いエネルギー。もし、この世に悪霊という存在があるとしたら、それはこの力を呼ぶのだろう。そう、チボデーは直感する。

 

チボデー

「Jesus!?」

 

 恐怖のあまり思わず、チボデーは叫んだ。しかし、一歩も引かない。むしろシールドの裏から拳銃……ギガンティックマグナムを撃ち込み、反撃に出る。しかし、その銃撃は黒い力に弾かれてしまう。

 

マーガレット

「紫蘭……!」

 

 マーガレットの知る紫蘭は、そんな力を使わない。ならば、

 

マーガレット

「お前は……紫蘭じゃない!」

 

 マーガレットがそう叫んだ時、シグルドリーヴァの右腕……ヴァルキュリアよりもタイタンとでも呼ぶべき膨張した右腕が、ひとりでに動き出していた。

 

紫蘭

「……!?」

マーガレット

「これは……!?」

 

 あの時と同じ。マーガレットがパブッシュで、ゼノ・アストラの機動実験を行った時。あの時、ミケーネの存在に引き寄せられるように暴走したゼノ・アストラと同じように、シグルドリーヴァの右腕は敵を求めるかのように突き動かされている。

 まるで、二アグルースの邪悪な魂に反応するかのように、シグルドリーヴァの右腕はマーガレットのコントロールを離れ始めていた。

 

マーガレット

「……シグルドリーヴァ、私の言うことを聞きなさい!」

 

 今のお前は、私の道具だ。道具が意思を持って勝手なことをするな。そんな怒りが沸々と湧いていた。

 

マーガレット

「そんなに、お前がアレをやりたいのなら、私の言うことを聞け! 私の大事な人を殺すのは、私だ。お前じゃない!」

 

 叫び、マーガレットはシグルドリーヴァを前進させる。

 

マーガレット

「そんなに、殴りたいなら殴らせてやる! だけどそれはお前の意思でじゃない。私が、私の意思で紫蘭を殺す。そのための道具だ、間違えるな!」

 

 キャタピラが動き、シグルドリーヴァが二アグルースの懐に入り込んだ。そして、その不釣り合いな右腕で邪悪なる魂を……その怨念を祓うように、殴りかかる!

 

マーガレット

「紫蘭!?」

紫蘭

「……!?」

 

 咄嗟に、二アグルースは両腕をクロスさせてその拳をガードした。しかし、その重いストレートはニアグルースを突き飛ばして殴り抜ける。

 

チボデー

「ヒュゥ。すげえなあの姉ちゃん。ナイスなパンチじゃねえか」

チボデー

「レディは見かけに寄らないということですよ、チボデー」

 

 防御姿勢を取る必要がなくなり、ガンダムマックスターは装甲を再びボクサーモードにチェンジする。そして、ガンダムローズと共に吹き飛ばされたニアグルースへと近づいていく。

 確実にトドメをさす、その為に。

 

ジョルジュ

「さあ、天に還りなさい」

 

 ガンダムローズが、シュバリエサーベルを構えてニアグルースの前に躍り出た。コクピットを潰す。それが、この男の為だと。だが、そんなガンダムローズの介錯を前に、突如として舞い落ちる黒い羽根が鋭利な刃となってガンダムローズを襲った。

 

ジョルジュ

「なっ……!?」

 

 その瞬間に、ニアグルース……紫蘭は距離を離し飛び上がる。

 

マーガレット

「紫蘭!?」

 

 シグルドリーヴァが、ミサイルを放とうとした。だが、紫蘭の飛んだ先……そこに舞い降りた黒い翼を持つ、赤い、髑髏のような眼窩を持つもう一機のマシンに、その目を奪われる。

 

ライラ

「ダメよ……私の可愛いお人形を壊したりしたら」

 

 邪霊機アゲェィシャ・ヴル。バイストン・ウェルで槇菜達が遭遇した邪悪な魂と、それを操る少女ライラが、マーガレット達の前に姿を現したのだ。

 

 邪霊機アゲェィシャ・ヴル。その存在感は明らかに、ニアグルースとは格が違った。チボデーとジョルジュが身構え、マーガレットはその存在をきつく睨む。存在そのものから放たれる、猛烈な悪意。それを前に歴戦のシャッフルの戦士2人は、迂闊な動きが出来なかった。

 

ライラ

「……シャッフル同盟。こっちでも私たちの邪魔をする」

ジョルジュ

「こっちでも? まさか……」

 

 行方不明になっているドモンの行方を、この少女は知っているのではないか。そんな疑念が、ジョルジュの脳裏を過った。

 

チボデー

「おい嬢ちゃん。悪いことは言わねえ、とっととママのところに帰りな?」

 

 チボデーが挑発する。そんな安い挑発に乗るようなタイプではないと、そう判断した上での挑発だった。しかし、ライラはその言葉を聞くと、憮然とした態度を露骨に出してしまう。思っていた以上に、精神的には幼いのかもしれない。そう、その空気の変化からチボデーは判断するが、だからといってこれほどまでの邪念を一身に背負っている子供がまともなわけはない。

 

ライラ

「…………帰りたくても、帰れない」

 

 小さく呟くライラの声は、掠れて聞き取れなかった。

 

マーガレット

「…………紫蘭を、こんな風にしたのはお前なの?」

 

 そんな中、1人マーガレットはライラと対峙する。その怒りの形相に、ライラは面白いものでも見たかのようにパァッと笑顔を取り戻した。

 

ライラ

「そうだよ、この人はね。魂だけの状態で暗黒の海を漂ってた。それを拾って、私だけのお人形にしたの!」

 

 お人形。そう言ってライラはアゲェィシャ・ヴルの指を使いニアグルースのコクピットに繋がれている、紫蘭の身体を撫でるように擦る。紫蘭は、何も答えない。

 

ライラ

「この人……ううん、これはね。私の命令に忠実に動く死人形。可哀想な魂を拾って、私の思うがままに動かす。あはは、羨ましいでしょ!」

 

 無邪気な笑みが、木霊していた。だが、その無邪気さは邪気がない。という意味ではない。邪悪の判断すらできないほどの幼稚さ。そう、3人にイメージづけさせる。

 

ジョルジュ

「死霊使い、ということですか……」

チボデー

「勘弁してくれ……。俺はピエロとお化けは大っ嫌いなんだよ」

 

 冗談を言いながらも、チボデーは拳を構えていた。臨戦態勢を崩すことはない。それだけ、目の前の邪霊機と、邪霊とでも呼べる少女を警戒しているのだ。

 

マーガレット

「許さない……」

 

 一方、シグルドリーヴァのマーガレットは憎しみの瞳をライラへ向けている。その視線をライラは、心地良く感じながらマーガレットへ返すのだった。

 

ライラ

「そっか……これ、あなたの大事な人なんだ!」

 

 あくまで、無邪気に。

 

ライラ

「でも残念だったね、返してあげないよ。だってこれ、とっても使えるんだもん。ゾンビ兵っていうんだっけ。身体を改造された死体の兵隊さん。あれになったおかげで、他のピグマリオンと違って自分の意思がまるでない! 私の命令通りに動く。こんな便利なお人形、あなたには勿体無いわ!」

 

 ライラがそう言い切るより早く、マーガレットは動いていた。マトリクスミサイルとファランクスミサイルの多段攻撃。無言で放たれたミサイルの束が、邪霊機を襲う。しかし、邪霊機は指をクルクル回すと剣を抜き、怨念の力を集めたその黒く輝く刀身を翳すことで、結界のようなものを作り出しミサイルを弾いていた。

 

ライラ

「フフ、お姉さん可愛い……。うん、お姉さんが死んだら、私の死人形にしてあげる」

マーガレット

「黙れ……!」

 

 最愛の人の、死後の尊厳を奪われていた。その事実が、マーガレットの意思を憎しみの炎で焼き尽くす。しかし、その熱を心地よく受けながらライラは、マーガレットへ笑顔を向けていた。

 

ライラ

「今から遊んでもいいけど……今日の私は疲れてるの。だから、あなた達の相手はこの子がしてあげる!」

 

 ライラがそう叫ぶと同時、再び大地が揺れる。

 

チボデー

「こいつは……!」

ジョルジュ

「ええ、先程のデスアーミーといい間違いありません!」

 

 そう! チボデーとジョルジュが言い終えると同時、それは姿を現しました!

 長い触手のような身体にガンダムの顔を生やした、不気味な植物のような存在・ガンダムヘッド! そして、そのガンダムヘッド達を根とするならば、その幹に当たる巨木……!

 

マーガレット

「デビル……ガンダム……!」

 

 デビルガンダム。マーガレットの最愛の人を殺し、ゾンビ兵に貶めた悪魔のガンダムが今、彼らの前に立ち塞がったのです!

 

 

…………

…………

…………

 

 デビルガンダムの巨体は、横浜に現れたものよりも遥かに大きく成長していた。その悪魔を思わせる凶悪な顔がマーガレットを、チボデーを、ジョルジュを睨め付ける。それと同時にガンダムヘッド達が同時に、彼らに襲いかかった。

 

チボデー

「シット!」

 

 毒づきながらも、ガンダムヘッドの突進をチボデーはボクシングの要領で躱していく。ガンダムローズのジョルジュも、フェンシングの要領でそれを捌いていた。しかし、シグルドリーヴァはそれを避けるので精一杯。反撃に転じる隙を、デビルガンダムは与えない。

 いつの間にか、ライラと紫蘭はいなくなっていることにマーガレットは気付いた。

 

マーガレット

「待て、逃げるな! 紫蘭! 紫蘭をっ!?」

 

 そう叫んだ瞬間、ガンダムヘッドの体当たりをモロにくらいシグルドリーヴァは突き飛ばされてしまう。衝撃で、マーガレットは大きく頭を打った。鈍痛が、マーガレットの感覚を支配していく。

 

マーガレット

「紫蘭を……返してよ……」

 

 その言葉とともに、マーガレットから漏れた嗚咽。それを聞く余裕のある者など、いなかった。

 

チボデー

「クソッ、こうなったらジョルジュ!」

ジョルジュ

「ええ! 一気に片付けましょう!」

 

 2人の右手に、シャッフルの紋章が光り輝く。その眩い光とともに、2機のガンダムは金色に輝き出した。

 

チボデー

「テメエらがどれだけ束になろうが、俺はこの一発で全てを吹き飛ばす!」

 

 ガンダムマックスターがパンチを構える。しかし、金色に輝く今のマックスターは、今までとは違った。

 

チボデー

「豪熱ゥゥゥゥゥゥッ! マァシンガンパンチ!!」

 

 一発のパンチ。それが同時に10回放たれ、その全てが別々のガンダムヘッドへ叩き込まれていく。豪熱マシンガンパンチ。その名の通り、一瞬の間にマシンガンの如く繰り出される同時パンチは、的確にガンダムヘッドを潰していく。そして、ガンダムヘッドが倒れたその先に、デビルガンダムは大きく君臨していた。

 

ジョルジュ

「その隙を見逃すほど、私はお人好しじゃあありません!」

 

 ローゼスビットが再び放たれ、デビルガンダムを取り囲む。しかし、今度の薔薇達は先ほどとは一味違う。高速で回転する薔薇の花弁は、その速度で竜巻を作り上げていくのだ。

 

ジョルジュ

「ローゼス・ハリケェェェェェン!?」

 

 ジョルジュの全集中力を振り絞って生み出されるローゼスハリケーン。竜巻の中に放り込まれたデビルガンダムは逃げ出すこともできず、ローゼスビットによる波状攻撃を受け続けていく。

 四方八方などというレベルではない。台風の目に放り込まれた獲物は、逃げることなどできないのだ。

 

マーガレット

「…………」

 

 チボデー・クロケット。アメリカンドリームを実現し、全アメリカ国民に『夢は叶う』と教えてくれた男。

 ジョルジュ・ド・サンド。誇り高き騎士道と共に在り、移り変わる時代の中で古き良きを守り通す男。

 2人の男の背中をマーガレットは、呆然と見守っていた。

 

チボデー

「このまま押し込むぞ、ジョルジュ!」

ジョルジュ

「ええ! ハァァァァァッ!?」

 

 スーパーモードと化したチボデーとジョルジュ。2人のシャッフルの紋章が熱く輝く。その熱は、彼らの使命を……世界を守るというシャッフル同盟の使命を体現していた。そして、

 熱く燃えるシャッフルの紋章に呼応するように、大地が再び輝き始めるのだった。

 

マーガレット

「これは……!?」

 

 空間、時間、次元、時空。あらゆるものが、畝りを上げている。それは、ここにいる2人の男が起こした奇跡だろうか。それとも、

 その畝りの中から最初に姿を現したのは、深緑の虫型マシンと、藤色の甲虫騎士だった。

 

ショウ

「空に星がある! 地上だ!」

マーベル

「やったわね、ショウ!」

 

 ヴェルビンのショウ・ザマと、ダンバインのマーベル・フローズン。それに続くように次々と、戦士達が浮上する。

 

トビア

「ここは……?」

アムロ

「随分と様変わりしたな。これが今の地球なのか……?」

 

 クロスボーン・ガンダムとZガンダム、続くように青いF91と百式が。

 

雅人

「やったよ忍! 俺達、帰ってきたんだ!」

「へっ、あたぼうよ!」

 

 超獣機神ダンクーガ。それにブラックウィング。その巨体はべギルスタンの荒野を雄々しく飛んでいた。

 

リュクス

「ここも、地上……?」

エイサップ

「そうだよ、リュクス……。僕達は、ここでやるべきことをやる。それが、君のお父さんを止める道に繋がると信じて」

 

 ナナジンは、リーンの翼をその両足から展開していた。命が燃えるような熱を帯びた翼はやがて、地上の空気の中で溶けて消えていく。

 

槇菜

「戻って……来れたんだ……」

 

 ゼノ・アストラは光の翼を展開し、空を舞った。地上の空は、バイストン・ウェルとは何もかも違う。バイストン・ウェルの空は深いが、地上の空はどこまでも、広い。それを槇菜は、ゼノ・アストラの翼で感じていた。

 

ヤマト

「地上……。戻ってくるのは、どのくらいぶりなんだ?」

 

 ゴッドマジンガーと一体化する少年・火野ヤマトが呟いた。そして、最後に浮上したのは……

 

ドモン

「これは……デビルガンダム!?」

 

 ドモン・カッシュとゴッドガンダム。愛馬風雲再起に跨り駆けつけたその先で最初に見たものは……因縁の敵。そして!

 

ドモン

「チボデー、ジョルジュ!?」

 

 同じ使命を持ち、別々の夢のために戦った強敵達の背中!

 

チボデー

「ドモン!? どうしてここに……」

ドモン

「シャッフルの紋章が……お前達が、俺達を呼んでくれた。お前達の魂に、俺達は導かれたんだ!」

 

 風雲再起から降り、ゴッドガンダムも戦列に加わる。そして、その右手を突き出し、勝利を掴めと轟叫ぶ!

 

ジョルジュ

「そういうことでしたら……行きますよ、ドモン!」

ドモン

「おう!」

 

 魂の炎が、極限まで高まっていく。倒せないものなど、何もない。そう、ドモンは確信していた。

 

ドモン

「行くぞ! ばぁぁぁぁぁぁくねつ!」

チボデー

「やるぜ! ごうねつぅぅぅぅぅぅ!」

ジョルジュ

「行きましょう、ロォォォォォォォォゼスぅ!」

 

 ゴッドガンダムの右腕に、莫大なエネルギーが集まっていくのを、ドモンは感じていた。それは、チボデーとジョルジュの魂の炎。それを日輪が自らの力に変え、ゴッドガンダムの性能を高めている。

 師匠……マスターアジアと共に放った究極! 石破天驚拳と原理は、同じだった。

 

ドモン、チボデー、ジョルジュ

「ゴォォォォォッド・フィンガァァァッ!?」

 

 強烈なエネルギーが、ゴッドガンダムから放たれる。その光の中に、デビルガンダムはたちまち呑み込まれていく。そして、

 ドモンは確かに、掴んだ。デビルガンダムの、心の臓を。

 

ドモン

「ヒィィィィィィト・エンド!?」

 

 ヒート・エンド。その叫びと共に忽ちデビルガンダムは爆砕していく。シャッフルの炎の中で、デビルガンダムはその全身を焼き焦がしていった。

 

マーガレット

「これが……シャッフル同盟の力……」

 

 呆然と呟くマーガレット。しかし、

 

槇菜

「まだ、生きてる!?」

 

 槇菜が叫ぶ。それと同時、デビルガンダムの肩部から放たれた収束粒子砲が、ドモン達を襲った。

 

ドモン

「何っ!?」

 

 確かに、倒した。その手応えがあった。にも関わらずデビルガンダムからの反撃を受け、ゴッドガンダムは、マックスターは、ガンダムローズも、その場から離散する。

 もし直撃を受けていれば、危なかった。デビルガンダムの威力を誰よりも知るドモンだからこそ、素直にそう感じることができた。

 

ドモン

「逃げたか……!」

 

 光と爆煙が収まった後、もうそこにデビルガンダムはいなかった。あとはただ、戦いを終えた戦士達が、そこに立ち尽くしていた。

 

マーガレット

「ゼノ・アストラ……」

 

 突如として現れたゼノ・アストラを、マーガレットは見つめている。槇菜も、マーガレットのマシン……シグルドリーヴァを見つめ、そしてその右腕に、ゼノ・アストラが反応していることに気付いた。

 

槇菜

「あの右腕だけ大きいマシン……ゼノ・アストラが気にしてる」

 

 しかし、ゲッターロボやゴッドマジンガー、邪霊機を見た時のような強い反応ではない。もし、はじめて乗った時の頃の槇菜なら見逃していただろう小さな反応。故に、槇菜はそのマシンが気になった。

 

槇菜

「あの……大丈夫ですか?」

 

 恐る恐る、シグルドリーヴァへ声をかける。そして返ってきたのは、聞き覚えのある声だった。

 

マーガレット

「ええ、無事よ槇菜……。久しぶり」

 

 その大人びた女性の声。しかし、どこか疲れているような、そんな余裕のない声色。その声色のせいで、槇菜は一瞬それが誰かわからなかった。しかし、やがて声の主に思い当たり……。

 

槇菜

「え……ま、マーガレットさん!?」

 

 そんな風に、驚いてしまったいた。

 

マーガレット

「ごめんなさい……無様なところを見せちゃって。でも……」

 

 今、マーガレットの中にあるのは虚脱感だった。大切な人を奪われた虚しさ、悲しさ。奪ったものへの怒り、憎しみ。そして、それに囚われてやるべきこともできなかった自分への腹立たしさ。それらがない混ぜになって生まれたその感情をマーガレットは、虚脱感だと形容していた。

 

アラン

「みんな、気を抜くな。何かが近づいてくる……この反応、大きいぞ」

 

 ブラックウィングのアランがそう伝え、一同は空を警戒する。やがて、それは姿を現した。

 

トビア

「な、なんだあれ……?」

槇菜

「大きな……ゲッターロボ?」

 

 巨大なゲッターロボ。そうとしか言えない何かを見て唖然とする槇菜達。しかし、すぐにその唖然は安堵へと変わっていく。巨大なゲッター……ゲッターエンペラーから飛び出してきたのは、あの鉄の城だったのだから。

 

甲児

「ま……槇菜、槇菜なのか!?」

槇菜

「甲児さん!?」

 

 激戦で傷付きながらも応急修理を施されたマジンガーZは、遠目に見てもその姿は痛々しい。どれほどの激戦が、槇菜達がバイストン・ウェルにいた間に繰り広げられていたのだろうか。そう、誰もが想像してしまう。だが、当の兜甲児はいなくなったメンバーが1人も欠けていないことを確認すると、安堵の表情を浮かべてはにかんでいた。

 

甲児

「ドモンさんも、ハリソンさんもいる……。それに、ダンバインってことはショウ、ショウ・ザマもいるのか!?」

ショウ

「俺はこっちだよ、甲児。また会えて嬉しい」

 

 ヴェルビンが、マジンガーZへと羽ばたいていく。そして、その黒鉄の拳とヴェルビンのアームを、まるで拳と拳を合わせるように重ねるのだった。

 

チャム

「ショウったら、子供みたい」

ショウ

「うるさいな……!」

 

 そんなやりとりの後、笑い合う。そんな彼らの下に一台のジープが近づいてきていた。

 

ルー博士

「ミス・マーガレット! やりましたネ、グレイトデース!」

 

 ルー・ギリアム博士。彼は自慢のスパコンと大事な資料一式にジープに詰め、秘密基地の“引っ越し”をはじめているかのようだった。

 

マーガレット

「…………シグルドリーヴァのおかげよ博士。私は……」

 

 しかし、今はそんな陽気なネイティブ英語が耳に障る。ルー博士は、そんなことを気にもせず突如浮上したスーパーロボット達を見回し、感嘆の声を上げていた。

 

ルー博士

「オー、十蔵博士の遺産マジンガーZだけではありまセーン。アメリカンドリームの象徴ガンダムマックスター。それにゼノ・アストラが動いているところをこの目で見れるなんて感激デース!」

 

槇菜

「ゼノ・アストラを……知ってる?」

チボデー

「おいおい……その口調は何なんだ? アメリカ英語を何だと思っていやがる!?」

 

 槇菜とチボデーが、そんなマイペース全開のルー博士に別々の反応をしていた。しかし、そんなルー博士は既に彼らの興味を失っていた。ルー博士の視線の先にあるもの。それは……

 

ヤマト

「な、なんだ……?」

ルー博士

「great…………」

 

 ゴッドマジンガー。動く石像とでも言うべきそれに、ルー博士は自らのロマンの世界へ完全に、入り込んでしまっていた。

 

甲児

「…………とにかく、ここにいつまでもいるわけにもいかねえ、みんなをゲッターエンペラーに収容するぜ」

槇菜

「はい!」

 

 笑顔で答える槇菜。こうして、二つの世界に分かたれたスーパーロボット達は今またこうしてひとつとなったのだ。

 

 




次回予告
 奇しくもべギルスタンで集ったスーパーロボット軍団。
 しかし、この国の謎は槇菜達すらも戦火の中へ呑み込んでしまう。
 突如、エンペラーへ攻撃を開始する謎の部隊。その中には、槇菜の最愛の姉・桔梗の姿があった。
 一方、ユウシロウもまた、運命の出逢いをする……。

次回「接触(触れ合い)」

 鎧われて 確とは見えぬ 君なれど
 たがいの傷に 接触た感あり
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