スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第11話「接触−ふれあい−」

—原子力空母パブッシュ—

 

 

 

 槇菜達がバイストン・ウェルへ誘われていた頃のことだ。太平洋上に浮かぶ原子力空母パブッシュ。アメリカ軍の管轄にありながらそれを離れ、世界中の賛同者と共に無国籍国家として独立しようとしているこの艦隊に、一隻のオーラ・バトル・シップが合流していた。艦隊の黒幕でもあるエメリス・マキャベル司令は、1人の男と握手を交わしている。そのスキンヘッドの男こそが、オーラ・バトル・シップ……レンザンの作戦司令、ガルン・デンだった。

 

ガルン

「まずは、オーラロードを出て地上界を迷っていたレンザンを拾っていただいたことに、お礼を申し上げましょう」

マキャベル

「いえ、昨年に起きた東京上空事件以降……地上でもあなた方バイストン・ウェルの人々の存在と、オーラマシンへの関心は高まっていました。一人の地上人として、感服致しております」

 

 心にもないことを言う。そう、ガルンは内心でマキャベルを見下しながらもパブッシュ艦隊に従っていた。強いものに従う。それは、地上でもバイストン・ウェルでも一定の定石とも言える処世術だった。

 何より、バイストン・ウェルへ戻れずに漂流しているならば、しているなりに地上でやるべきことがある。

 

ガルン

「パブッシュ国……まさに、建国の真っ最中と聞いていますが?」

マキャベル

「我々は、軍事力に特化した強力な軍事政権こそがこの先の時代に生き残る唯一の国家としての在り様と確信していまして……その第一段階とでもお考えください。喚くだけの文民など、我が国には必要ないのです」

 

 そう力強く説くマキャベル。そこには、一定の信念があることをガルンは感じていた。おそらく、マキャベルの傍らに立つ艦隊司令……アレックス・ゴレムという男は、そんな彼の考え方に共感し賛同したのだろう。そう、ガルンは想像する。しかし、どうにも空が騒がしい。

 

ガルン

「これは、空中戦でもしているのか?」

 

 その問いに答えたのはマキャベルの側近と思わしき男。アレックス・ゴレムだった。

 

アレックス

「あれは米国の哨戒機です。米国も我々と同じように、レンザンに興味を示しています」

ガルン

「ブホッ。我々は降伏などしておらん。無論、貴公らに対してもな」

 

 牽制の意味を込めて、ガルンはそう言葉を強くした。それに対しマキャベルは、ニヤリと口元を歪めて熱いコーヒーカップを手に取る。

 

マキャベル

「だからこそ、我々は同盟交渉がしたいのですよ」

 

 ガロウ・ランめ。ガルンは内心でそうマキャベルを侮蔑しながらも、その交渉に応じていた。それは、ホウジョウの軍人として勤めを果たすべき。そう、ガルン独自の判断でのことだった。

 

マキャベル

「無論、居住地は提供させていただきます。あなた方の地図にあるホウジョウ国と照らし合わせて、このあたりの土地ならば問題ないでしょう」

ガルン

「大陸のようですな……。これなら、サコミズ王もお喜びになるでしょう」

マキャベル

「国連も事態を了解すれば、交渉のテーブルを開いてくれるでしょう」

 

 ホウジョウ軍が地上に侵攻した際、スムーズにことを運ぶ準備……それが、この地に残されてしまったガルンの役割だった。それはひいては、地上における自らの立場の確保という意味もある。

 もし、永遠にバイストン・ウェルへ戻ることも、サコミズ王の本軍が地上へ来ることもなかったとしても、この交渉さえ成立すればレンザンは孤立することだけはないのだ。それは、自らの保身だけでなく兵の命を預かる身としても当然、すべきことだった。

 

 交渉がまとまり、レンザンはパブッシュ国の同盟者としてこの艦隊に組み込まれる。両者の合意を得て後は、調印を残すのみだった。

 アレックスは、レンザンの艦板に立つオーバトラー・ライデンを改めて見やる。

 

アレックス

「しかし、すごい技術だ……」

 

 人間の生体エネルギーの解明は、宇宙世紀時代からの命題のひとつだった。しかし、地上ではそれを完全に解明し、技術として一般化させるには至っていない。

 サイコミュと呼ばれる脳波コントロール・システムや、ガンダムファイト代表ガンダムに使われていたという感情エネルギーシステム。それにムゲ帝国との戦いで活躍したという獣戦機……。それらは全て、特殊な才能を持つ人間のみが実用化できる代物であり、オーラバトラーのようにこうして量産、普及化できたものはない。

 

アレックス

「この力が我が艦隊に加われば、我々の政権は揺るぎないものになりますね」

 

 それは、ひいては祖国アメリカや、妻や息子の暮らす日本の安全にも大きく貢献することになる。そんな興奮を、アレックスは口走っていた。

 

マキャベル

「アレックス、思わんか。オーラマシンの力と、我々の保有する大量破壊兵器が加われば……両界を支配する王になることも可能だと」

アレックス

「…………し、司令!?」

 

 「冗談だ」そう言って笑ってみせるマキャベルだったが、小さく漠然とした不安感がアレックスの胸中を覆っていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

—???—

 

メス

「実験場は、完全に制圧されたか。フム……」

 

 “シンボル”の幹部の1人、メスはそう呟くと、顎に手を添えて考えるような仕草をして、黙り込んだ。

 日本の特務自衛隊の作戦により、べギルスタンに存在する“シンボル”の実験場……“神殿の丘”は完全に制圧された。しかし先に起きたインヴィテイター・ミハルの異常兆候と、それに伴う爆発事故……米国政府はこれを「大量破壊兵器の実験」と決めつけてかかり、べギルスタンに派兵した。以降、既に重要な資材や実験資料は引き払い、パブッシュに移送している。今更“神殿の丘”を制圧されたところで、特に痛手はない。

 

メス

「とはいえ、強引すぎるやり口だな……ミハルは?」

連絡員

「安定しているとのことです」

メス

「何にせよ、ミハルはすぐにでもべギルスタンから脱出させたほうがいいだろう」

 

 今、べギルスタンに残っているもので敵に奪われるのが痛手になるのはミハル以外は特にないのだから。それに、形式上べギルスタン軍に派遣している戦力はミハル以外にも強力な戦力が揃っていた。

 “ゴッドマザー・ハンド計画”。米国から独立を図る無国籍艦隊のエメリス・マキャベルの手には、既に各国からその賛同者が集い、独立勢力としての力を強めている。そこには当然、“シンボル”による戦力、資金の提供もあり……そこに国家レベルで全面協力の姿勢を見せるべギルスタン政府には、秘密裏に戦力を提供していた。

 それらは無論、“シンボル”の裏工作によるところも大きい。“シンボル”としては“神殿の丘”での実験が終わった以上ここに大した価値もなく、マキャベルの計画においてもべギルスタンの存在価値はさして大きくない。機を見てここを放棄するのは既に既定路線だったが、万が一のこともある。

 

???

「待て。豪和のフェイクがそこまで仕上がっているということは……その部隊やもしれぬ」

 

 しかし、「F」。音声のみで幹部に指示を送る“シンボル”総帥はそんなメスの判断に異を唱えた。

 

メス

「ミハルが……精神融合しようとした……!?」

 

 豪和のインヴィテイター。恐らくは、ミハルと同等の力を持っている。そう、メスらは推測している。TA部隊の機動習熟度を見れば、それは十分にありうる話だった。

 

???

「接触させてみるのだ……」

メス

「しかし……それは!?」

 

 危険すぎる。そう異を唱えようとしたが、すぐにメスは思いとどまった。「F」に意見できるものなど、“シンボル”には存在しないのだから。

 それは、自己保身の心であるとメスは自覚していた。しかし、それを恥ずべき事とは考えなかった。

 

メス

(そうだ……ミハルはあくまで実験体だ。私にとっても、“シンボル”にとっても。それ以上でもそれ以下でもあってはならない。ならぬのだ)

 

 ならば、ミハルと豪和のインヴィテイターを接触させ、その反応データを計測するのは確かに有意義なことである。

 

連絡員

「それと、たった今入った情報ですが……日本の科学要塞研究所の機動兵器部隊が、べギルスタンへ上陸したと報告がありました」

メス

「何? ……そうか、デビルガンダムか」

 

 デビルガンダムの存在には、“シンボル”も手を焼いていた。米軍主体の多国籍軍との戦闘に乱入し、デビルガンダムは全てをめちゃくちゃにして忽然と消えていったのだから。

 

???

「連中の中には、豪和のフェイクが特殊な反応をしたというマシン……ゲッターロボがいる。これは、面白いことになるかもしれんな……」

メス

「そう、ですか……。はい、承知しました」

 

 ミハル。豪和のインヴィテイター。それにゲッターロボ。それらが“神殿の丘”に揃うことにメスは、漠然とした不安を抱えていた。しかし、長年追い求めてきた秘密に迫る絶好の機会である。それは、確かだった。

 

 

 

…………

…………

…………

 

—ゲッターエンペラー内部—

 

 

槇菜

「ふぅ…………」

 

 ゼノ・アストラを降り、槇菜は深い溜息をついた。海と大地の狭間の世界バイストン・ウェル。そしてムゲ帝王の居城となっていた暗黒の世界カ=オス。槇菜の常識には存在しない、存在しなかった世界。その旅は槇菜の世界観を大きく揺るがすのに十分な、衝撃だった。

 ゼノ・アストラの子宮が下がり、槇菜を揺らす。そして立ち上がりコンクリートの床に脚をつけた時……夏用に買ったお気に入りのサンダルは既に、ボロボロになっていることに気付いた。

 

槇菜

「お姉ちゃんと一緒に選んだ、お気に入りだったんだけどな……」

 

 思えば、姉の桔梗と最後にあったのももう何ヶ月も前になる。地上に戻ってきたと同時、姉の笑顔を思い出し……急に恋しくなってしまう。

 しかし、落ち込んでいられる時間はそう長くはなかった。

 

さやか

「槇菜!」

槇菜

「さやかさん……!」

 

 槇菜へ駆け寄るさやか。はじめてゼノ・アストラで戦った時にも、似たようなことがあった……そう、槇菜は遠い昔を思い出すように感じていた。

 

さやか

「無事でよかった……。大丈夫、怪我はない?」

槇菜

「はい……」

 

 さやかに抱き寄せられ、温かな感触が肌を伝う。お姉ちゃんみたい。そう思うと余計に、姉の桔梗が恋しくなってしまう。

 

槇菜

「う……うぅ……」

 

 さやかの胸の中で、槇菜は暫くの間そうしていた。しかし、そんな時間を長く続けるわけにいかないことは誰よりも槇菜が知っている。

 

槇菜

「さやかさん……私、戦います」

さやか

「槇菜……?」

 

 バイストン・ウェル、ワーラーカーレン、カ=オス。リーンの翼。邪神の使徒。邪霊機。そして旧神。

 微妙なバランスで均衡を保っていた世界は、大きく揺らぎはじめている。それを槇菜は知ってしまった。そして、ゼノ・アストラもその世界の均衡を作る一部。そのゼノ・アストラに選ばれたことの意味。それは、槇菜の中で明確に“戦い”というものの意味を作り始めていた。その決意が偽りのものでないことくらいは、その目をみればさやかにもわかる。

 

さやか

「まったく、一度決めたらテコでも動かないのは相変わらずね……」

槇菜

「えへへ。お姉ちゃん譲りで、頑固なんですよ?」

 

 そう言って笑ってみせる槇菜。喫茶店で、一緒に勉強をしていたあの頃よりも少しだけ、その笑顔は痛々しいものにさやかには見えていた。

 

 

 

 同じ頃、2人の男が熱い抱擁を交わしていた。兜甲児と、ショウ・ザマである。

 

甲児

「ショウ、よく無事だったな」

ショウ

「甲児こそ!」

 

 2人はバイクの趣味を通じた仲であり、そして数奇な運命を経て共に戦った戦友でもある。しかしショウは、太平洋上でのドレイク軍との戦いを最後にこの地上から姿を消していた。

 

ショウ

「バイストン・ウェルに戻った俺は、聖戦士としてあの世界に残ったオーラマシンを全て破壊するために戦い続けていた。そしてバイストン・ウェルの東の大陸で、かつてのドレイクと同じようにオーラマシンによる地上への侵攻を目論むホウジョウ軍……サコミズ王と戦っていたんだ」

甲児

「ホウジョウ軍……か。バイストン・ウェルも地上も、大変なことになってるんだな」

 

 バイストン・ウェルはホウジョウ軍の侵攻と反乱軍による動乱。地上はミケーネ帝国の挙兵と木星帝国の残党。まるで、パズルのピースを弄ぶかのように世界の混迷は連鎖している。そう、甲児には思える。そんな話をショウと交わしていると、ヴェルビンの隣に格納された巨神がみるみるうちに、物言わぬ石像へ姿を変えていく。そして、ゴッドマジンガーの足下に1人の少年が降り立った。

 

ヤマト

「ようやく戻ってきたと思ったら、地上も随分様変わりしたんだな……」

 

 そう言って、物珍しそうに周囲を見回す少年は甲児には見慣れぬ人物だった。その少年の傍らに、寄り添うように白いワンピースを着た少女が駆け寄る。

 

アイラ

「ヤマト!」

 

 火野ヤマトとアイラ・ムー。ムゲの世界と化したカ=オスで、朽ちたグラン・ガランを守りショウ達の勝機を作った少年と、シーラ・ラパーナの魂を守っていた少女。ショウはそんな2人に向き直り、一例する。

 

ショウ

「まだ、礼を言ってなかったな」

ヤマト

「いいんだよ、俺はアイラを守ってた。そのついでみたいなもんだ」

 

 そう言って、鼻先を擦るヤマト。アイラはショウにお辞儀をし、改めて自己紹介をする。

 

アイラ

「私はアイラ・ムー。ムー王国の女王です」

 

 ムー王国。そんな突拍子もない言葉が出てきてショウは目を丸くした。

 

ショウ

「ムー王国って……あのムー大陸のか?」

ヤマト

「ああ。俺は二万年前のムー王国に、ゴッドマジンガーの操縦者として召喚され、闇の帝王率いるドラゴニア帝国と戦っていたんだ」

 

 それは、バイストン・ウェルという世界の存在を認識していなければ信じられないだろう言葉だった。しかし、ゴッドマジンガーの石像の周りをチョロチョロと飛び回っているチャムが、ヤマトの言葉は肯定する。

 

チャム

「ショウ、この石像……マジンガーからはすごい力を感じるわ」

甲児

「マジンガー? 二万年前のムー王国に、マジンガーがあったっていうのか!?」

 

 甲児にとって、いや地上に住むすべての人達にとってマジンガーとは兜甲児のマジンガーZがオリジナルであり、そして剣鉄也のグレートマジンガーとマジンガーZの兄弟こそが、その名を冠する人々の希望だった。驚く甲児だが、グレートから降りた鉄也はしかし、違う感想を抱いていた。

 

鉄也

「いや……前に言ったろう甲児君。君のお爺さんは、バードス島を調査した時にミケーネ帝国の存在を知り、そしてミケーネ帝国を打ち倒した“光宿りしもの”の名からマジンガーという名前をつけた。そう話しただろう。その少年が言っている事が本当なら……兜十蔵博士が知った“光宿りしもの”とは」

 

 そんな鉄也の言葉を聞き、頷いたのはアイラだった。

 

アイラ

「はい……。“光宿りしもの”。それは古代ムーの秘宝であり、正しき心を持つヤマトと一体化したゴッドマジンガーそのもののことでした」

ヤマト

「へへっ。まさか俺とマジンガーの戦いが、こんな形で現代にまで影響を与えてただなんてな」

 

 ゴッドマジンガーと闇の帝王の戦い。それがバードス島の伝説として残り、マジンガーZを生み出した。それは、奇妙な運命というに他ならない。

 

甲児

「ヤマトは現代の地上人なんだろ。その戦いが俺たちのマジンガー誕生に関わっていただなんて……」

ヤマト

「もし、闇の帝王が“光宿りしもの”を手に入れていたらこの時代にまで暗黒の世界を作り、世界の全てを支配していたはずなんだ。その未来を変えるため、俺は戦った」

甲児

「そして、ヤマトが勝ったから俺たちはマジンガーと出会った。まるでバタフライ・エフェクトだな」

 

 そう言って、甲児は物言わぬ石像を見上げる。その姿は壮大で、魔神という言葉が相応しいと甲児にさえ感じさせる。

 

甲児

「俺と鉄也君のダブルマジンガーが兄弟なら、ゴッドマジンガーはさしずめマジンガーのご先祖様だな……」

鉄也

「ああ、違いない」

 

 その姿は、マジンガーZやグレートマジンガーとは似ても似つかない。しかし、そこに宿る荒ぶる神の魂は、確かにマジンガーに受け継がれている。そう、甲児には感じられた。

 

甲児

「神にも悪魔にもなれる力。か……」

 

 ムー大陸は、伝説によれば洪水で滅んだと言われている。それももしかしたら、このゴッドマジンガーが悪魔のように人々に牙を剥いたからかもしれない。勿論、そんなことをヤマトとアイラに訊ねる気にはなれなかった。しかし、このゴッドマジンガーもまた、神にも悪魔にもなれる力なのだ。そう甲児は肌で感じていた。

 太古のムー王国にとって、それは神の依代だったのかもしれない。そして、それは現代の人々にとって科学の進歩が齎したものなのだ。

 

ショウ

「どんな世界でも、人の身に余る巨大な力というのは存在する。オーラマシンも同じなんだ」

 

 そんな甲児の思いを察したのか、ショウが呟く。その呟きに、1人の男が頷いた。

 

シャア

「そうだな……。だからこそ、マシンというものは人の心を体現する」

 

 シャア・アズナブル。かつて、人類粛清を唱え挙兵したジオンの総帥。そしてその宿敵であるアムロ・レイも、シャアの隣で頷いていた。

 

アムロ

「それはいつの時代、どんな時でも変わらないかもしれないな」

 

 そう言って、甲児達の前に歩いてくる2人。それに甲児と鉄也、ヤマト……それだけではない。多くの面々が、注目していた。

 

鉄也

「……どういう、ことだ?」

 

 アムロ・レイとシャア・アズナブル。2人は鉄也達の認識では遠い昔の人物だ。それがどういうわけか、近代史の教科書に載っている写真そのままの姿でここにいる。

 

甲児

「アムロ・レイと、シャア・アズナブル……!?」

 

 2人は70年前、地球に落下しようとしていた小惑星アクシズと共に行方不明になっていた。そんな伝説の人物達が、こうして目の前にいる。それは、古代ムー王国や異世界バイストン・ウェルという遠い世界のことではなく、ほんの少しだけ身近な歴史であるからこそ、甲児や鉄也達を動揺させていた。

 

アムロ

「それについては、説明すると長くなるんだが……」

シャア

「私達にも、現代の情勢というものを教えてくれないだろうか。今が何年でなのかすら、私達には見当がつかない。浦島太郎のような状態なのだからね」

 

 

 

 そうして、アムロとシャアの希望もあって現在、エンペラー艦内では現在の情勢についての擦り合わせと講習を兼ねた会議が開かれていた。それを講師しているのはハリソンとアラン。それに……

 

ルー博士

「……と、いうわけで現在、ここべギルスタンはかなり危ういバランスで成り立っているのデース!」

 

 マーガレットが連れてきた怪しいアメリカ人のルー・ギリアム博士。ハリソンとチボデーは、彼の怪しいアメリカ英語に頭を抱えていた。

 

竜馬

「…………」

隼人

「どうした、竜馬?」

竜馬

「いや、元の世界の知り合いを思い出しただけだ。なんでもねえよ」

 

アムロ

「…………なるほど。俺達の戦争の後、国連連邦組織は解体され、旧来の国際連合とコロニー国家が形成されたのか」

シャア

「……スペースノイドの悲願が、こんな形で叶っていたとはな。しかし、ガンダムファイトか……」

 

 ガンダムファイト。それはコロニー国家間に新たな経済格差を生み出し、そして戦争で汚染された地球を更に荒廃させる結果となっている。シャアは渋面を作りながらも、その歴史を受け入れるしかできなかった。

 

アムロ

「ともかく、現在の情勢は理解できた。まさか、俺達の時代から70年も経っていたとは思わなかったが……」

 

リュクス

「父は……サコミズ王もバイストン・ウェルへ来てから70年。しかし、父のいた時代はアムロ殿、シャア殿の時代よりも遥か過去に思われます」

槇菜

「そうだよね。あの人は宇宙世紀よりももっと前の時代の人だし、バイストン・ウェルって時間の流れが不確かな世界なのかも」

ショウ

「…………」

 

 バイストン・ウェルという世界が魂の安息の場所というのならば、アムロもシャアも、そしてサコミズ王もそれだけの安息が必要だったのかもしれない。そんなことをショウは、考えていた。しかし、答えは出ない。

 

シャア

「だが、私とアムロがやるべきことはこれではっきりしたな」

 

 シャツの袖を捲り上げたシャアは、静かに口を開く。そして、迷いなき瞳でアムロを見つめていた。

 

アムロ

「ああ。俺達は、もうこの世界の人間とは言い難い。それでも、俺とシャアにできることがあるとするならそれは、君たちと共に戦い世界を守ることに他ならないだろう」

 

 それが、過去の戦乱で死した者たちへの……傷を負った者たちへの手向けになるのならば。それが戦いの中心にいた2人の贖罪であり、使命である。今のアムロとシャアにはそう、素直に確信ができた。

 

アラン

「そして、ガンダムファイトで大きな成果を挙げられない国はコロニーも、地球の土地も衰えていく。そんな政府を見かねて軍事政権を樹立したのが、べギルスタンのシチルバノフ大佐だ」

 

 そんなアムロとシャアへ頷き、アランが話を戻す。国連加盟国でありながら、元々べギルスタンは国連間での立場も非常に危うい国家だった。そんなべギルスタンがもし、国連と戦争ができるほどの力を持っているとするならば……。

 

ベルナデット

「強権的な軍事政権……ですか」

トビア

「…………」

 

 ベルナデットの表情に、翳りが見えたのをトビアは見逃さなかった。おそらく、父クラックス・ドゥガチのことを思い出しているのだろう。だから、トビアは無言でベルナデットの手を握り、その瞳を見つめる。

 

トビア

「シチルバノフって人は、君とは関係ないよベルナデット。だから、大丈夫」

ベルナデット

「…………うん」

 

槇菜

「……それで、どうして皆さんはべギルスタンに?」

 

 バイストン・ウェルにいた槇菜がそこで、手を挙げる。

 

マーガレット

「私は、アメリカ軍から離れ独自でゼノ・アストラについて調査を開始して……ルー博士がここに潜伏していることを突き止めた。そしたら、デビルガンダムの襲撃を受けたの」

キンケドゥ

「元々は、みんながバイストン・ウェルへ消えた直後に起きた爆発事故がきっかけだった。アメリカ軍はそれを大量破壊兵器の実験と考え、国連の承認を得て多国籍軍の派遣を行った。しかし、小国家であるべギルスタン軍は、多国籍軍をほぼ壊滅状態まで追い込んだ。その戦闘の最中に、デビルガンダムと思われるものが写る写真が提供されて、俺達もデビルガンダムの調査に派遣された」

ジョルジュ

「そして私とチボデーも、独自にデビルガンダムを追いここにやってきました」

 

 全ての線を繋ぐ糸……デビルガンダム。それを裏で操っているのが木星帝国のザビーネであるということも、彼らの表情を暗くさせる。

 

トビア

「…………みなさんは、べギルスタンがザビーネ達とデビルガンダムを、匿っていると思いますか?」

ドモン

「わからんな。だが、事実としてデビルガンダムは俺達の前に姿を現した……」

 

 全くの無関係。そうは言い切れない。そうドモンは言う。

 

エイサップ

「地上界も、こんなことになっていたのか……」

 

 話を聞きながら、エイサップは呻き声を上げる。リュクスも、不安そうにエイサップの顔を見ていた。

 

マーベル

「それで、べギルスタンと多国籍軍の動きはどうなっていて?」

ルー博士

「ええ。どうやら、ジャパンの特自が多国籍軍と合流して、爆発事故の現場……“神殿の丘”の調査に乗り出したらしいデース」

 

 特自。特務自衛隊。その名称に槇菜はハッと顔を上げる。

 

槇菜

「特自ってことは、もしかしてお姉ちゃんも来てるのかも!」

甲児

「そういえば、桔梗さんは特自に編入されたって言ってたな」

 

 櫻庭桔梗。槇菜の姉は元々航空自衛隊のパイロットであり、ドクターヘルの機械獣と戦うマジンガーZは何度か共闘したことがある。甲児達と槇菜は、その頃からの縁でもあった。

 

ルー博士

「そこまではわかりまセーン。ですが、私のスパコンで観測したところ、特自はタクティカル・アーマーという新兵器でべギルスタン軍のデザート・ザク一小隊を撃破し、“神殿の丘”を制圧したらしいデース」

 

ハリソン

「日本の自衛隊が、国外へ侵攻か……」

 

 在日米軍基地に所属していたハリソンも、その事実には複雑な心境だった。

 

エイサップ

「…………」

槇菜

「お姉ちゃん……」

 

 特務自衛隊。海外派遣を主目的とした第四の自衛隊。日本の領土防衛を主目的とするそれまでの自衛隊とは違う趣の特自は、デビルガンダム事件の後に組織された。国家の枠を超えた活動を、これからの自衛隊には求められる。そう主張され生まれながら、特自は今日まで国内では「税金の無駄遣い」とまで言われる始末だった。しかし、槇菜の姉……桔梗が空自から特自へ異動することを槇菜に伝えた日のことは、槇菜もよく覚えている。

 桔梗は言ったのだ。「日本だけを守るのではない。世界を守らなきゃいけない」と。そして、その言葉通りに世界は今混乱に包まれている。そんな中で、桔梗もきっと戦っている。そう、槇菜には思えてならなかった。

 

ルー博士

「ここだけの話デスが……多国籍軍が壊滅状態に追い込まれたのはデビルガンダムのせいですが、べギルスタン軍は他にも新兵器を持っているみたいデース」

 

 そんな中、ルー博士が口にした言葉は聞き捨てならないものだった。

 

アルゴ

「…………どう言うことだ?」

ルー博士

「これをみてくだサーイ。観測衛星をハッキングして、入手した画像デース」

 

 そう言って、ルー博士はスパコンから印刷した写真を一同へ回す。解像度は低く、夜間なのもあり映りは悪い。特に戦場はミノフスキー粒子が濃く、遠くからの電波はうまく届かないのが常だった。そんな中で撮影されたものなので、写真写りはかなり悪い。しかし、目を凝らして見ると確かに、写っていた。

 

隼人

「こいつは……!」

 

 タクティカル・アーマー。鬼哭石の土地で戦闘獣と戦っていた小型機。それとよく似たマシン。それだけではない。空を飛ぶ虫の羽根のような翼を持つマシンも、薄ぼんやりと見える。

 

チャム

「ショウ、これ!?」

ショウ

「間違いない、ショットが開発したオーラバトラーだ」

 

エレボス

「でも、地上のオーラマシンは全部浄化されたんじゃないの?」

 

 エレボスが口を挟む。確かに、ショウはあの戦いでシーラ・ラパーナがバイストン・ウェルのものを“浄化”したのを感じていた。ならば、これは。

 

チャム

「でも、私はシーラ様の“浄化”を受けなかったわ。同じような生き残りがいてもおかしくないわよ!」

 

 ショウの耳元で、チャムは姦しく喚いた。しかし、その言葉には一理ある。

 

ショウ

「地上にオーラバトラーが残っていて、しかもべギルスタンの軍隊みたいなことをしている……」

 

 その事実はショウにとっても、看過できないものだった。

 

マーガレット

「それで、これからどうするの?」

 

 そんな中、続きを促すようにマーガレットが言う。

 

マーガレット

「べギルスタンと多国籍軍の戦争そのものは、あなた達とは関係がない。デビルガンダムが関わっているのなら別だけど、今のままじゃ確証もないわ」

槇菜

「あ……そっか」

 

 遠い異国の地で立ち往生になっているというのが、彼らの現状だった。その結果として偶然異世界へ消えていた組と合流できたのは行幸だったが、これからどう動くべきかを決めなければならない。

 

ハリソン

「ともかく、特自と合流して事情を説明するのが先決だろうな」

 

 ハリソンの呟きに、早乙女博士が首肯する。

 

ハリソン

「……よし、先発部隊を組織し、“神殿の丘”とやらの特自と合流しよう。指揮は俺が執る」

キンケドゥ

「大尉。もし、デビルガンダムや木星軍の動きがあるようなら……」

ハリソン

「ああ、すぐエンペラーへ連絡を入れる。本隊にはお前やアムロさん、鉄也君達がいれば大丈夫だろう」

 

 そう言って話を進める大人達の前で、ヤマトが挙手する。そこには、自身に溢れた瞳があった。

 

ヤマト

「そういうことなら、俺も行くぜ。ゴッドマジンガーは、俺の呼び掛けでいつでも召喚できる。こういう時は身軽な奴が行くべきだろ?」

甲児

「へえ。ゴッドマジンガーって、便利なんだな」

 

 ヤマトに続いて、恐る恐る手を挙げたのは槇菜だった。

 

槇菜

「ゼノ・アストラも、私の呼びかけで来てくれます。それに……特自がいるならお姉ちゃんについてにも何かわかるかもしれませんし。行かせてください」

マーガレット

「槇菜が行くなら、私も行くわ。現地での交渉にルー博士にも来てもらいたいけど、いいかしら?」

 

 マーガレットが訊くと、ルー博士は白い歯を見せてスマイルを浮かべていた。

 

ルー博士

「イエース。私が発掘したゼノ・アストラに、古代ムー王国のゴッドマジンガー。是非私もその勇姿をこの目に刻みたいのデース!」

 

ショウ

「俺も行こう。ヴェルビンの機動力なら、何かあった時すぐに駆けつけることができる」

ハリソン

「よし、出発は20分後としよう。私とヤマト君、ショウ君、槇菜君とマーガレット少尉。それにルー博士はすぐに準備に取り掛かってください」

 

 ブリーフィングを終え、少数精鋭の先発部隊がゲッターエンペラーを出発することとなった。各員が準備に取り掛かる中、槇菜はどこか心ここに在らずという感じでルー博士の運転するジープに、ハリソンのF91とシグルドリーヴァを搬入する手伝いをしている。

 

槇菜

「…………お姉ちゃん」

 

 べギルスタンに派遣された部隊というのは、姉・桔梗のいる部隊なのだろうか。だとしたら、姉は大丈夫だろうか。

 何より、自分の無事をお姉ちゃんに伝えたい。そうすれば、きっとお姉ちゃんは安心するはずだ。そんなことを一人でぐるぐる考えていると、ポロロンという羽音とともに30㎝ほどの女の子が、槇菜の前に飛んでくる。

 

チャム

「ねえ、どうしたの? 元気ないみたいだけど」

槇菜

「ひゃっ!? ……び、びっくりしたぁ。お姉ちゃんのこと、考えてたの」

チャム

「お姉様?」

 

 そう言って小首を傾げるチャムはどこか小動物のような可愛らしさがあり、それを見ていると槇菜の胸中は少しだけ、穏やかな気持ちになっていた。

 

槇菜

「うん。お姉ちゃんはね、かっこよくて優しくて、私の憧れのお姉ちゃんなの。チャムには、兄弟っているの?」

 

 それは、何気ない好奇心だった。その言葉を聞いてチャムは、「うん! いるわ」と返し、槇菜の耳元で姦しく話し始める。

 

チャム

「私達ミ・フェラリオにとっては、エ・フェラリオがお姉様なの。だから、私にもお姉様はたくさんいるわ」

槇菜

「エ・フェラリオ?」

 

 聞き慣れない言葉だった。チャムや、エレボスとは違うのだろうか。

 

チャム

「そうよ。何年も修行したフェラリオだけが、エ・フェラリオになれるの。背格好も、人間の大人と同じくらいまで成長するのよ」

槇菜

「ふーん……。ジャコバさんは違うんだ?」

 

 ジャコバ。その名を出した途端、チャムは「ヒッ」と声を上げて槇菜の側を離れていく。

 

チャム

「ジャコバ様は、エ・フェラリオのお姉様達よりずっとすごい存在なのよ! もし悪口なんか言ったら、食べられちゃうかもしれないんだから!」

 

 そう言って飛び去り、ショウの下へ駆けていくチャムの背中を見送りながら、槇菜は「今のは悪口じゃないのだろうか」とそんなことをぼんやりと思っていた。

 

 

…………

…………

………… 

 

 

—豪和邸—

 

美鈴

「お兄様……」

 

 豪和美鈴。豪和兄弟において唯一の女性である末妹は、心ここに在らずという風に空ばかりを見るようになっていた。

 理由はひとつ。兄・ユウシロウのことである。

 

美鈴(一清兄様達は、ユウシロウお兄様を実験動物のように扱って、わけのわからない舞踊をやらせたり、兵器に乗せて戦場へ出したり……。どうして、お兄様だけがこんな風に扱われるのでしょう)

 

 美鈴にとって、歳の近い兄であるユウシロウは一番の遊び相手でもある。美鈴の記憶の中には、ユウシロウとの思い出が詰まっている。

 豪熱の屋敷の庭には、天気輪がある。明日の天気を占うための車輪。幼いユウシロウはそれを回して願い事をすると願いが叶うとそう無邪気に信じていた。

 しかし、そのことを話してもユウシロウは心ここに在らずという感じだった。もしかしたら、ユウシロウはそのことを覚えていないのかもしれない。とすら思えるほどに。

 「美鈴には、何か願い事はないのか?」と、そう優しく問いかけてくれたが、それに美鈴はうまく答えることができなかった。

 美鈴の願い……それは、ユウシロウと兄妹として過ごす日々が訪れること。しかし、それは豪和家として生きる限り無理であると理解しているのだから。

 兄のことを母や父、兄らに問うてもまともな答えは返ってこない。だから、余計に心配になってくる。

 兄……ユウシロウのことをつい考えてしまい、習い事の生け花にも身が入らない始末だ。

 

美鈴

「お兄様は…………」

 

 お兄様は……そこまで口にして、自分が何を言おうとしているのかもわからなくなってしまう。

 

美鈴

「お兄様は、私の……」

 

 お兄様は、私の何? そんな疑問を胸の中に抱きながら、美鈴は今日も空を見上げていた……。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—べギルスタン/神殿の丘—

 

 

 

 べギルスタン政府軍の戦力は、旧式のジオン製モビルスーツを中心とした一小隊。それは、

特務自衛隊実験第三中隊の敵ではなかった。彼らの乗る機動兵器……タクティカルアーマー・壱七式雷電は、小型故の機動性でそれを翻弄し、瞬く間に“神殿の丘”を制圧した。

 

速川

「…………大量破壊兵器など、その痕跡すら存在しなかった」

 

 第三実験中隊を率いる速川保中佐は、この不可解な状況に困惑していた。何より、それを加速させるのは遅れてこの場にやってきた茶髪にロン毛の男と、中肉中世に黒縁眼鏡をかけた男……豪和清継と、清春の存在だった。

 

ユウシロウ

「兄さん達……どうしてここに?」

 

 壱七式のコクピットの中、ユウシロウはその様子を見守っている。速川中佐はジープから降り、豪和の2人へ詰め寄った。

 

速川

「まさか、豪和の方がここに来るとは思いませんでした」

 

 豪和の三男……清春は、眼鏡を吊り上げながら答える。その視線は、明らかに速川を見下しているニュアンスが含まれていた。

 

清春

「兄は根っからの研究者でしてね。僕は、そのコーディネートをしているだけです」

速川

「…………」

 

 豪和の人間が、自分達兵隊を見下すのは構わない。関係ない。そう理性で理解しつつも、問題は別にある。

 

速川

「我々は……いえ、世界中がここで大量破壊兵器の実験が行われていると思っていました。しかし、事実は違っていた」

 

 ならば、この派兵の意味は何だ?

 この戦争は、何が目的で仕掛けられたものなのか。

 

速川

「そして貴方達は、予めそれを知っていた! いったい、何を知っているのですか。そして、我々に一体何をさせようと言うのですか!」

 

 速川中佐は、部下の命を預かる責任がある。そして、この派兵も世界平和のためであると理解した上で参加していた。

 タクティカル・アーマーの開発も、豪和が主導となって行われている。そして、その第一テストパイロットであるユウシロウは、TA起動実験のためだけに特務自衛隊に編入され、大尉階級を与えられているほどにまで豪和は、TA計画にも特務自衛隊の存在にも大きく関与していた。

 そしておそらく、この派兵にも。

 民間人である豪和ユウシロウを部隊に組み入れての実戦など、本来は許されることではない。それを豪和は、その影響力で成し遂げた。

 そうまでして、一体何を豪和は求めているのだろうか。それを知る権利くらいは、付き合わされている速川達にもあるはずだ。

 しかし、清春はそんな問いかけを意にも返さない。

 

清春

「失礼ながら中佐、貴方にはその質問をする権限はないはず……。聞かなかったことにしておきましょう」

速川

「…………!」

 

 そんなやりとりをしていた時だった。速川中佐達の耳を裂くようなヘリの音が、耳を裂く。

 

速川

「何だっ……!?」

 

 速川中佐が言うと同時、壱七式で待機していたユウシロウは構えていた。

 

ユウシロウ

「ハァ……ハァ……」

 

 戦場で気分が高揚しているからではない。特殊な昂りが、ユウシロウを襲う。この“神殿の丘”へ来てからというもの、ユウシロウはずっと能を舞いたくて仕方がなかった。それを理性で我慢しながら、ユウシロウはただ空を見ていた。

 空の向こうには、月がある。月はずっと、此方を見ている。千年、二千年。それとも万年。それ以上の悠久の時を、月は何も言わずに見つめている。

 月に思いを馳せながら、或いは馳せていたから、ユウシロウは気づいたのかもしれない。

 

ユウシロウ

「来る…………!」

 

 この感覚は、石舞台の舞と同じだと。

 あの日、石舞台の舞で感じた高揚感。そして……何かを伝えようとする声。

 その声をユウシロウは、月を介して聴いていたのだ。

 

——呼び戻さないで。恐怖を。

 

 ユウシロウのTAが低圧砲を空へ向ける。その光景に、同僚のTAパイロット達……フォーカス2を担当する長い黒髪が特徴的な女性・安宅大尉。フォーカス3の無骨な角刈りの男性・高山少佐。フォーカス4、軽薄な印象を受ける長身の北沢大尉が不思議そうな反応をする。

 

安宅

「ユウシロウ?」

高山

「豪和大尉?」

北沢

「おかしくなったのか……?」

 

 チームの面々が口々にそう言う中、ユウシロウは鋭く、叫んでいた。

 

ユウシロウ

「答えろ…………恐怖とは、何だ?」

 

 銃口を向ける先……空には、ヘリに輸送される機動兵器部隊と、緑色のオーラマシンが飛んでいる。特自や、多国籍軍のものではない。明かなイレギュラー。それが、ユウシロウ達のいる、“神殿の丘”へ向かっていた。

 

 

 

……………………

 

 鎧われて 確かとは見えぬ 君なれど

 たがいの傷に

 接触(ふれ)た感あり

 

第11話

「接触」

 

……………………

 

—べギルスタン/神殿の丘—

 

 

トッド 

「全く、こいつは一体どういう作戦なんだ?」

 

 緑色のオーラバトラー・ライネックの中でトッド・ギネスはひとりごちた。岩国での戦いの後、櫻庭桔梗と西田啓に拾われたトッドは、桔梗と共に彼らの「計画」とやらの手伝いをしている。しかし、どうにも解せないことが多い。べギルスタン軍に協力するというこの作戦もそのひとつだった。

 

桔梗

「そうね……そろそろ、話しておいてもいいか」

 

 そんなトッドの愚痴が周波数に乗り、それを拾った桔梗は自らの乗機アシュクロフトの中で、そう呟く。そして、トッドのライネックへ個人回線を開いた。

 

桔梗

「この作戦の最終目的は、無国籍艦隊の存在を世界に知らしめることにあるの」

トッド

「どういうことだそりゃ?」

桔梗

「べギルスタンは、大量破壊兵器の実験をしていて、アメリカを中心とした多国籍軍はそれを口実にべギルスタンへ侵攻。私達はべギルスタン軍の一員としてそれを迎撃した……こうなると、国連はいよいよべギルスタンを無視できなくなり、世界はべギルスタンの情勢に注目を集めていくことになる」

トッド

「…………読めたぜ。あんたらの親玉が、その後でべギルスタンを制圧するって腹か」

 

 トッド・ギネスは学が高い出身ではないが、頭はいい。桔梗の説明から、すぐに先を読む力は持っていた。その反応に、桔梗は「そう」と頷く。

 

桔梗

「そうすれば、世界はパブッシュ無国籍艦隊の存在を容認せざるを得なくなる。それが、このべギルスタンでの活動の目的よ」

トッド

「なるほどな……。あんたらの上にいる奴、随分狡い手を使うわけだ。お前もそう思うだろ、フェイク1?」

ミハル

「……………………」

 

 フェイク1……そう呼ばれたTAパイロットの少女・ミハルはそれには答えない。ミハルは、何かを懐かしむように“神殿の丘”を……その先にいる誰かへ、視線を吸い寄せられていた。

 

トッド

「……チッ、無愛想な女だ。とっととジャップなんか、追い出しちまおうぜ!」

 

 ジャップ。明かな蔑称をトッドは、桔梗や東洋人と思われるミハルへの皮肉を込めて使った。それに桔梗は一瞬、憮然とした顔をする。しかし、それがトッド・ギネスなりのレクリエーションなのを知っているので、黙って受け流し主力歩兵部隊……。“シンボル”なる組織から貸し与えられた歩兵・メタルフェイク部隊へ指示を出す。

 

桔梗

「フェイク1からフェイク4、進軍開始。目標は、特自TA……のメタルフェイク部隊!」

ミハル

「了解」

 

 桔梗の掛け声と共に、4機の人型歩行兵器……シンボルに「メタルフェイク」と名付けられたタクティカル・アーマーとよく似た、いやほぼ同じシステムを構築したマシン。その試作型であるイシュタルMarkIIが、運送用ヘリからパージされ“神殿の丘”へ降り立つ。

 先頭を行くイシュタルの肩には、鈴蘭のマーキングが施されていた。それが、4機のイシュタル部隊の隊長機なのだろう。やがて、特自のTA部隊へと迫り、そして交戦する!

 

 

 

 

高山

「なんだ、TAだと!?」

北沢

「なんで敵がTA持ってるんだよ!?」

 

 特務自衛隊実験第三中隊の第二小隊……フォーカス3、フォーカス4のコードネームで呼び合う高山少佐と北沢大尉は、その奇襲に声を上げる。その様子をモニタリングするジープ内でも、実験中隊の面々は騒然としていた。

 

村井

「敵所属不明TAと交戦状態に突入!」

徳大寺

「定石通りの奇襲だ。敵のデータはこちらと同レベルと仮定しろ!」

鏑木

「待ってください、他にもアンノウン2機確認……機体称号。これは、オーラバトラーとアサルト・ドラグーン!?」

 

 1年前の騒動で記憶されていたオーラバトラー。そしてアサルト・ドラグーン。桔梗の乗るアシュクロフトの存在は、ジープ内にさらなる混乱を齎した。

 

速川

「どういうことだ。アサルト・ドラグーンシリーズは……」

村井

「はい。時期主力兵器トライアルにおいてTAに敗北し、制式採用は見送られたと聞いています」

徳大寺

「全て消え去ったはずのオーラバトラーといい幽霊、か……? 面白くない冗談だ」

 

 大柄な中年男の徳大寺大尉がボヤく。しかし、現にアサルト・ドラグーンは後方から“神殿の丘”を見守っている。おそらく、あれが敵部隊のボスだろう。

 

清春

(アサルト・ドラグーン……あれは、豪和が圧力をかけて計画そのものを潰したはずだがな。恐らくは、“シンボル“か)

 

 特自のジープに避難し、ユウシロウのデータを観測する豪和の兄弟も、アサルト・ドラグーンの存在には目を光らせていた。

 

清継

「恐らく、奴らは我々の想像以上に深いところにまで根ざしているのだろう。今は動きを見せていない以上、TAの方に注視すべきだな」

 

 機継が言う通り、ジープの外ではタクティカル・アーマー同士の……正確にはタクティカル・アーマーとメタルフェイクの熾烈な格闘戦が始まっていた。

 TA同士の戦闘は、今まで訓練でもやっていない。TAの技術を独占しているのは日本のみであり、その技術は国防のために使われると教えられてきた。そのため、実験中隊は今まで都市部での対テロや、TAよりも大型のマシン……即ち、モビルスーツや機械獣といった存在を相手にする立ち回りを中心に訓練していた。“神殿の丘”攻略作戦も、対モビルスーツ戦の訓練が大きく生きた結果だ。

 だが、これはTA対TAの戦闘。今までの教本にも勿論、人類史にも存在しない新たな歩兵の戦い。そのスタートラインだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 吹き荒ぶ砂塵が、視界を遮る。そんな中でもハリソンは双眼鏡越しに、その異常を確認していた。

 “神殿の丘”と呼ばれる場所が、遠目に見てみてもドンパチ賑やかになっている。それを目の当たりにしたショウは、オーラバトラーで先行することを提案する。

 

ショウ

「俺が先に行って、確かめてくる!」

ハリソン

「わかった。無理はするなよ!」

 

 そんな短いやりとりの後、ヴェルビンは加速する。地上に溢れるオーラ力を吸ったヴェルビンは、バイストン・ウェルでのそれよりも更に速くなっていた。その後方、F91とシグルドリーヴァを搬入したジープが、砂埃の酷いべギルスタンの砂漠地帯を走る。

 

ハリソン

「ルー博士、何か見えますか?」

ルー博士

「ノー。ここからではどうにもできまセーン」

 

 ハリソンは歯噛みする。この砂漠地帯では、F91は満足に機動力を発揮できない。短時間なら低空飛行できるが、それでもオーラバトラーのように、空を飛ぶという機能に優れているわけではなかった。

 

マーガレット

「……シグルドリーヴァなら、このくらいの砂塵でも問題なく動けます。私も出ましょうか?」

ハリソン

「いや、マーガレット少尉も足並みを揃えた方がいいだろう」

 

 この砂塵では、下手に動くと迷子になりかねない。空戦能力の高いメンバーならともかく、陸戦メンバーは当分ジープでの進行がベスト。そう、ハリソンは判断する。

 

ヤマト

「しかし……何があるっていうんだろうな」

槇菜

「うん……。なんか、胸騒ぎがする」

 

 胸騒ぎ。槇菜はこの先に待つものに漠然とした不安を抱いているようだった。そんな様子を見かねて、マーガレットは槇菜の手を握る。

 

マーガレット

「大丈夫……。あなたは強い子でしょう?」

 

 実際、マーガレットが最後に見た時よりも遥かに槇菜は逞しい子になっている。そう見えた。バイストン・ウェルという世界で槇菜が何を見たのか。それは知らない。しかし、マーガレットの知っている弱々しくて、それでも気丈に誰かを守ろうとしていた少女はもう、立派な戦士に育ちつつある。そう、マーガレットには見えていた。

 

槇菜

「マーガレットさん……」

マーガレット

「ゼノ・アストラは、あなたを守ってくれる。あなたが、みんなを守ろうとする限り。だから大丈夫」

 

 ゼノ・アストラ。ルー博士曰く、「マチュ・ピチュの遺跡から発掘したオーパーツ」それに槇菜が選ばれたことには、必ず意味がある。マーガレットは、そう思っていた。自分ではなく、槇菜が選ばれたことに。

 ならば、自分にできることはせめて、この弱々しくも強い女の子を守り、いつか日常に返してやることだけだろう。それが、今のマーガレットの行動原理だった。

 

槇菜

「うん……ありがとうございます。マーガレットさん」

 

 マーガレットの手を受け入れて、落ち着いたように槇菜ははにかむ。やがて、“神殿の丘”と呼ばれる場所の全体像が肉眼でも確認できるようになる。

 

槇菜

「これ……!」

ルー博士

「Jesus! ここは文化財デスよ!?」

 

 槇菜達が神殿の丘に辿り着いた時、そこは既に戦場となっていた。小型の人形機動兵器……タクティカル・アーマー同士の戦闘。しかし、タクティカル・アーマーより一回り大きい青い機動兵器と、緑色のオーラバトラーの存在が、特自側を不利へ傾けていた。

 

マーガレット

「あれが、べギルスタン軍……?」

 

 べギルスタンの戦力は、モビルスーツと重戦車が主力とされていた。しかし、これらは違う。何かがおかしい。そう、マーガレットはシグルドリーヴァのスコープ越しに認識する。一方、先行していたショウは空中で飛び回り特自を威嚇するオーラバトラーの存在に、嫌な汗をかいていた。

 

ショウ

「あのオーラバトラー、ライネックか!」

チャム

「ショウ、こっち来るよ!?」

 

 ライネック、ドレイク軍の誇る高性能オーラバトラー。ショウの愛機だったビルバインにも引けを取らない機動性と武装を誇る強敵の登場に、ショウは身構える。ライネックはヴェルビンの方へと向かっていた。

 

ショウ

「よせっ! 戦いに来たんじゃない!?」

 

 ショウの叫びを無視して突き立てられるオーラソード。ヴェルビンは風のような速さで抜刀し、それを受け止めていた。

 

トッド

「この居合い、ショウか!?」

 

 ライネックから聞こえたのは、懐かしい声だった。トッド・ギネス。ショウと同じくしてドレイク軍に招かれ、そしてショウがバイストン・ウェルへ帰還した時にはホウジョウ軍の傭兵をしていた聖戦士!

 

ショウ

「トッド!? 生きていたのか!」

トッド

「おかげ様でな! お互いに新型に乗り換えたんだ……第二ラウンドと行こうぜショウ!」

 

 空中で、トッドのライネックとショウのヴェルビンが激しくぶつかり合う。地上に出たオーラバトラーは、バイストン・ウェルの時とは比べ物にならないほどパワーを増すという性質を持っていた。爆弾一つとっても、地上の都市に致命的な被害を与えかねない。そんなものを、無闇に使わせるわけにはいかない。とショウはヴェルビンの武装をオーラソードのみと制限している。一方で、ライネックはフレイボムやオーラキャノンを装備する重装備タイプ……。

 

ショウ

「トッド! 地上でのオーラマシンは、危険なんだ。やめろ!」

トッド

「お前を倒してから、そうさせてもらう!」

 

 オーラソードの一振りを躱し、ライネックはオーラバルカンを放った。それを避けるのはショウには造作もなかったがしかし、その流れ弾だけでもこの場所を地獄に変えかねない。そう思ったショウはあえて避けず、ヴェルビンで受け止める。ショウのオーラ力に呼応するように発現したオーラバリアはトッドのオーラバルカンを霧散させていく。

 

トッド

「チッ、ショウめ!」

 

 オーラバリアの強固さを再認識し、ライネックは再びオーラソードを構えた。飛び道具で余計な被害を出すよりは、この方がいい。そうショウも安心し、オーラソードを構えて受けて立つ。

 

チャム

「ショウ。あんな分からず屋のタレ目、今度こそやっつけちゃおう!」

ショウ

「耳元で怒鳴るなチャム!」

 

 ヴェルビンは確かに強力なオーラバトラーだ。しかし、強力という点ではライネックも決して引けを取るわけではない。それも、トッド・ギネスが乗っているというのなら尚のこと。

 光のような速さの世界で、2機のオーラバトラーの剣戟の音だけが静かに鳴り響いた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

ユウシロウ

「味方か……?」

 

 敵の援護をするかのように、空を飛んでいたマシンが別のマシンへとぶつかっていったのを、ユウシロウはそう判断した。味方か、或いは敵の敵。どちらにせよ、有難い。今、ユウシロウは窮地に立たされているのだから。

 同僚のTA部隊は、既に戦闘続行不可能。砂漠地帯という本来TAには向かない特殊な地形と、この砂嵐がTAの脚部を故障させ、今戦えるTAはユウシロウのみ。にも関わらず、敵のTAは3機が健在の状態だった。

 そのうちの1機が、ユウシロウへ迫る。

 

ユウシロウ

「鈴蘭……?」

 

 肩に鈴蘭のマーキングを施されたTA。それは明らかに、他とは動きが違った。

 

ミハル

「…………!」

 

 ユウシロウは、その敵TAのパイロットの息吹を確かに感じていた。全てが解け合いそうな感覚。自分が自分でなくなるような、世界と自己とのせめぎ合い。それを感じていたのだ。

 

 

——恐怖を、呼び戻さないで。

 

ユウシロウ

「っ!?」

 

 あの時……鬼哭石の石舞台で聞いた声。それが今、はっきりと聞こえる。その声が、その息遣いが、ユウシロウを興奮状態へ導いていった。

 

 

清継

「これは……。ユウシロウに伝播干渉しているのか。いや、共鳴現象?」

 

 特自のジープの中で、清継はそのデータを計測し感嘆の声を上げる。その様子に、速川中佐は眉根を寄せる。自分の弟を、まるで実験ネズミのように扱っている。その姿勢を、決して快くは思えない。一方で清継の弟でもある清春は、さらに別の感想を抱いているようだった。

 

清春

「シンボルがここまで仕上げていたとはな……」

 

速川

(シンボル? べギルスタン軍ではないのか……)

 

 やはり、豪和は何かを知っている。そう確信してはいるが、ここで問い詰めても決して口を割らないだろう。そう、速川は確信して通信を開いた。

 

速川

「こちら特務自衛隊実験第三中隊・速川保中佐だ」

 

 その通信を、ルー博士のジープが拾いハリソンが応える。

 

ハリソン

「こちら、科学要塞研究所所属独立機動部隊。私は岩国在日米軍基地のハリソン・マディン大尉です。我々はこの地に現れたというデビルガンダムの調査に来ました。交戦の意思はありません。ですが……見過ごすわけにもいきません」

 

 科学要塞研究所のことは、速川中佐も承知していた。それに、デビルガンダムの存在は特自としても懸念材料だった。この場は、協力してことに当たるのが正道。そう判断し、速川中佐はハリソン大尉に返信する。

 

速川

「協力、感謝する!」

ハリソン

「すぐに我々も駆けつけます!」

 

 有難い。そう思ってハリソンとの通信を切る。目の前にいるスポンサー達よりも、遥かに信頼できる人柄感じる米国人であるハリソン大尉の存在は、この危機的状況に願ってもない助け舟だった。

 

速川

「聞いたか豪和大尉。科学要塞研究所の部隊と協力し、この場を切り抜けてくれ!」

ユウシロウ

「…………!」

 

 返事はない。ユウシロウは、目の前の鈴蘭のマーキングが施されたTAとの戦いに夢中になっていた。

 

速川

「豪和大尉……」

清継

「ユウシロウ……」

 

 ユウシロウのTA……コードネーム・フォーカス1のモニタリングを担当する女性士官の鏑木大尉は、フォーカス1の生体データを睨みながら叫ぶ。

 

鏑木

「豪和大尉の運動伝達系、規定値を180%超えている!?」

速川

「どういうことだ!?」

 

 TAは、その特殊性故にパイロットの身体に著しい負荷をかける。モビルスーツのようにコンソール・パネルと操縦桿で動かすのではなく、神経を繋げて自らの肉体としてマシンを操るのだから、その負荷は激しいものだ。

 しかも、ガンダムファイト用のモビルファイターのように、肉体の動きをパイロットが追うのではない。パイロットの反射神経を、手足の代わりにマシンの人工筋肉が模倣する。そんなものを実用化するのには、様々な課題が存在していた。

 とどのつまり、実験中隊にとってもタクティカル・アーマーには、わからないことが多すぎるのだ。

 

村井

「フォーカス4、フォーカス3共に戦闘続行不能!」

 

 歳若い女性士官の村井中尉の声が響く、脚部に入り込んだ砂がTAの駆動部を著しく痛めつけ、歩行不能の状態に陥っている。それでも必死に携行武器で応戦するが、最大の武器でもある機動性を失った状態の人型兵器など、戦車以下の存在だった。

 

速川

「仕方ない。フォーカス3、フォーカス4は機体を放棄!」

 

 速川の指示により、フォーカス3、フォーカス4の壱七式雷電から、パイロットが降りていく。残るはフォーカス2の安宅大尉と、フォーカス1の豪和大尉のみ。

 

 狭い軍用の通信ジープの中で、速川中佐はユウシロウ達の戦いを見守るしかできなかった。それが、指揮官としての速川中佐の役目だった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

安宅

「ユウシロウ、そのTAは回避して!」

 

 実験中隊唯一の女性パイロット・安宅燐が叫ぶ。豪和ユウシロウの相対する鈴蘭のマーキングが施されたTA……正確にはメタルフェイク・イシュタルMarkII。そいつだけ、明らかに動きの練度が違っていた。

 しかし、ユウシロウは答えない。鈴蘭のTAと、まるで演武でも舞っているかのようにユウシロウは、戦っていた。

 

安宅

「クッ……こうも足場も、視界も悪いと!」

 

 TAは、満足な挙動ができない。それは相手も同じはず。そうでありながら、あの鈴蘭はフォーカス3、フォーカス4を行動不能に追い込み今、フォーカス1……ユウシロウを倒そうとしている。

 

ユウシロウ

「…………っ!」

 

 ユウシロウの乗る壱七式雷電は、咄嗟に脚部の粉砕機構・アルムブラストを噴射し足場の砂を噴射する。

 

ミハル

「っ!?」

 

 鈴蘭のイシュタルMarkIIは、その砂塵に視界を奪われて一瞬、足を止めた。その一瞬が、ミハルの隙となる。

 

ユウシロウ

「…………ターゲット!」

 

 壱七式雷電が、グレネードランチャーを放つ。咄嗟にそれを回避した鈴蘭のイシュタルMarkIIは、ユウシロウの壱七式雷電へ回り込んで右のマニピュレーターを伸ばし、格闘戦へ持ち込んでいた。

 

ユウシロウ

「くっ……!?」

 

 首を締め付けられるような感覚が、ユウシロウを襲う。対するユウシロウも、肩部のウィンチを展開し、ミハルのイシュタルへ突き刺していた。

 

ユウシロウ

「…………お前は」

ミハル

「貴方は…………」

 

 対峙する2人。TAという函の中にいながら、2人には互いの顔がよく見えていた。まるで、遠い昔から知っているように、互いの顔を認識できる。

 ユウシロウの首を掴む、少女。それはまるで、演舞の中の世界。2人きりの演舞を、観客のいない静寂の世界で待っているような感覚。

 それは、舞の高揚感。ユウシロウも、少女……ミハルも、その高揚感に満たされていた。

 

ユウシロウ

「……お前は、誰だ?」

ミハル

「…………」

 

 ミハルは答えない。ユウシロウの求める答えを、ミハルは提示できない。だから、代わりに疑問を投げかける。

 

ミハル

「——どうしても、恐怖を呼び戻したいの?」

ユウシロウ

「俺は……俺が誰なのか知りたいだけだっ!」

 

 恐怖など、駆逐するもの。その先に、求めている答えがあるのならばいくらでも踏み越える。そのために、ユウシロウはTAに乗るのだから。

 

 ユウシロウの壱七式雷電と、ミハルのイシュタルMarkIIはそうしている間にも格闘戦を続けていた。明らかに格闘戦を想定されていない華奢な機体であるTAはしかし、この2人が乗ることにより鬼のような強さを発揮している。

 それは、明らかに他のTAとは一線を画す壮絶な戦いだった。砂が入り込み、脚部のトルクが上がらないのは他と同じはず。そうでありながら、2機は足の不自由をものともせずに戦っている。

 

ユウシロウ

「はっ……はっ……!」

ミハル

「はっ……!?」

 

 腕のマニピュレーターをぶつけ合い、リフティングウィンチで動きを制限する。そんなぶつかり合いの中で、2人の心拍数は、急激に上昇していた。

 

桔梗

「ミハル?」

 

 その異常に、桔梗も顔を顰める。同じように、特自のジープ内でもその異常を感知していた。

 

鏑木

「豪和大尉の心拍数、異常値に入ってます!?」

 

 鏑木の報告に、清継は計測画面の表示を喰い入るように見つめ始める。

 

清継

「まさか特異点が? ガサラの舞と同じことが起きているのか?」

清春

「この地が石舞台と同じ効果を持っているとしたら……あり得ますね」

 

 そして、その異常な均衡を崩したのはユウシロウだった。

 

ユウシロウ

「ハッ……ハッ……!」

 

 脚をかがめたTAは、膝蹴りの容量でミハルのイシュタルMarkIIを蹴り上げる。そして、TAの脚部に内蔵されるアルムブラスト。本来は立体的な地形を移動するための手段として使う気化爆弾をそこで爆裂させ、イシュタルMarkIIの腕を引き裂いたのだ。

 

ミハル

「う、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 絶叫。それと同時にイシュタルMarkIIの腕を引き千切って、ユウシロウの壱七式雷電は飛ぶ。その姿は、さながら平安の時代に京で起きた武者と鬼の戦い。源氏武者の渡辺綱は、鬼の腕を奪ったと伝えられている。イシュタルMarkIIの右腕を引き抜いたユウシロウの姿はまるで、源氏の武者さながらだった。

 

ミハル

「あなたの、望みは……何?」

 

 痛みを堪えながら、ミハルは問いかける。

 

ユウシロウ

「俺の、望み……?」

 

 答えはない。答えられない。

 

桔梗

「ミハル、その損傷では無理よ。戻りなさい!」

 

 2人の世界を割くように、桔梗の指示がミハルへ飛んだ。

 

ミハル

「…………了解」

ユウシロウ

「!?」

 

 頷き、イシュタルMarkIIは脚部のアルムブラストを爆裂させ、ユウシロウの視界を奪う。その光が収まった時、既にあの鈴蘭のマーキングが施された機体はユウシロウの前から姿を消していた。

 

ユウシロウ

「俺の、望み……?」

 

 望み。自分の求める答え。その問いかけをユウシロウはずっと、反芻し続けていた…………。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 ユウシロウとミハルの戦いが終わった。しかし、敵はまだ全てが退いたわけではない。残されたTA部隊と青いマシン……アシュクロフトを前に依然として特自は、不利な防衛戦を続けている。その戦場にもう一台のトレーラー式ジープがたどり着き、その中から1人の少年が顔を出す。

 

ヤマト

「今回の仕事は人助けだ。行くぜ、ゴッドマジンガー!」

 

 そう叫ぶと同時、ヤマトの身体が光に包まれていく。そしてヤマトの光り輝く身体を吸い込むようにして、巨大な魔神が姿を現した。その姿は、遥か上空で私闘を繰り広げるアメリカ人と日本人にもしっかりと映っている。

 

トッド

「な、何だあれは!?」

ショウ

「ゴッドマジンガー! ヤマトが来てくれたか!」

 

 驚くトッドが見せた一瞬の隙を突いて、ヴェルビンはライネックを蹴り飛ばす。

 

トッド

「クッ、ショウ!?」

ショウ

「トッド! 地上での争いを広げるつもりなら、お前でも斬るぞ!」

 

 ライネックも負けじと旋回し、再びヴェルビンを追う。空中でぶつかり合う2体のオーラバトラーの戦いは、既に他者の入り込む余地のないものとなっていた。

 そして地上では、唸るような咆哮を上げてゴッドマジンガーが大地を踏み締める。その振動だけで、小型マシンであるTAは脚部にダメージを受けかねないほどの地鳴り。シンボルのフェイク乗り達は、その存在に気圧されていた。

 

シンボル兵

「な、なんだ!?」

安宅

「味方、なの……?」

 

 メタルフェイク部隊はその存在感に圧倒される。安宅大尉の壱七式雷電は、その隙に退路の確保へ急ぐ。メタルフェイク部隊はゴッドマジンガーにグレネードを放つが、巨神にそんなものは通用しない。ヤマトは、目の前で展開される小さな戦いに目を丸くしていた。

 

ヤマト

「これが、現代の機動兵器なのか……」

 

 ゴッドマジンガーからすれば明らかに小型。恐らくは5mもないだろうTAは、ゴッドマジンガーの体積なら簡単に踏み潰せそうだった。その小ささはまるで、歩兵を相手にしているようでヤマトには気が引ける。しかも、そのTAとフェイクは、砂に脚部をやられてうまくトルクを発揮できていないらしい。なのでヤマトはあえてそれを見逃すようにして、それらより多少は大型の青い人型機動兵器……アシュクロフトへその視線を向けた。

 

桔梗

「データにない機体……。これも、スーパーロボットって奴かしら?」

 

 それに気付き、後方で指揮を取っていた桔梗は気を引き締める。

 

桔梗

(増援の要請をするべき? いや……そもそもこの作戦は犠牲を増やす価値のあるものじゃない……)

 

 撤退。その言葉が桔梗の脳裏に浮かぶがしかし、トッドも宿敵とも呼ぶべきものを前に興奮しているような素振りをみせている。このまま言うことを聞いてくれるかと言えば、桔梗にも自信は無い。

 

ヤマト

「アンタが大将だな。ここは引いてくれ! 今は人間同士で争っている場合じゃ無いってことくらい、わかるだろ!」

 

 大魔神……ゴッドマジンガーから声が伝わる。それは集音マイクが拾った声だ。恐らく、あの魔神が電波を介さずに搭乗者の声を外に伝える仕組みがあるのだろう。と桔梗は理解する。また、少年の言葉に一理があるのも事実だった。

 

桔梗

「……我々は、敵に奪われた拠点を奪い返すために作戦行動をしているに過ぎません。これ以上の介入は、国際法違反ですよ?」

 

 しかし、正論には正論で抵抗する。それが桔梗の流儀。

 

ヤマト

「なっ……こんな戦争をしてる場合かよって、俺は言ってるんだ!」

 

 それは、子供の理屈だった。桔梗の中で、ゴッドマジンガーの少年への失望がみるみるうちに増していく。

 

桔梗

「……話になりません。これ以上近付くなら攻撃の用意があります」

 

 宣言し、桔梗はアシュクロフトの右手に持つビーム・ガンを構える。剣を持つゴッドマジンガーに対して、銃火器を装備するアシュクロフトはリーチの点では有利と言えた。しかし、ゴッドマジンガーのデータを持たない以上、アシュクロフトの武装が通用するかは未知数。ゴッドマジンガーも、剣を構えたまま動かず、睨み合っている。その間にも、桔梗はゴッドマジンガーの後方にあるジープへサブカメラを向けていた。恐らく、モビルスーツクラスのマシン2機は積載できるだろうトレーラー式のジープ。荷台には大きな布が被されており、その凹凸は明らかにマシンを搭載しているように見える。その布が剥がされ、中から緑色のマシンと、青いガンダムが姿を表す。出撃の準備が整ったということだろう。

 しかし、それ以上に桔梗の目を惹きつけたのは、ジープから出てきた一人の女の子だ。自分とおなじような薄い銀髪に、桔梗にも馴染みのある地元の中学校指定のセーラー服を着た、眼鏡の女の子。べギルスタンに……いや、戦場にいれば嫌でも目立つ。見逃すはずがない。

 何より、その姿を桔梗は幼い頃からずっと、見てきたのだから。

 

桔梗

「槇菜……!?」

 

 櫻庭槇菜。桔梗が溺愛してやまない妹。日本で暮らしているはずの妹が、なぜべギルスタンに?

 

槇菜

「…………来て、ゼノ・アストラ!」

 

 その声に呼応するかのように時空が歪み、空間が割れる。ゼノ・アストラ。パブッシュで報告されていた「海賊に奪われたはずのマシン」に、最愛の妹が乗り込む光景を桔梗はその目に焼き付けてしまっていた。

 

桔梗

「槇菜、どうして……?」

 

 どんな因果で、よりによって槇菜が機動兵器なんかに乗ってべギルスタンにいるのか。桔梗にはまるで見当もつかない。ゼノ・アストラは巨大な盾を召喚すると、ゴッドマジンガーへ並ぶ。

 

槇菜

「お願いです。攻撃をやめてください!」

桔梗

「…………!?」

 

 間違いない。集音マイクが拾う音声も槇菜のものだ。姉である自分が、聞き違えるはずがない。桔梗はキッとゴッドマジンガーとゼノ・アストラを睨みつけ、ビーム・ガンの銃口をゼノ・アストラへ向ける。

 

槇菜

「っ!? 来る……」

 

 ゼノ・アストラはその盾を構え、アシュクロフトの攻撃へ備えた。しかし、動きはない。やがて一歩、また一歩とアシュクロフトは、ゼノ・アストラへ近づいていく。

 

槇菜

「な、何っ……?」

 

 相手の行動の、意図が読めない。それは槇菜にとって、恐怖だった。しかし、先に撃てばそれはまさしく、交戦の証。できることなら、人間相手の戦いはしたくない。

 それは、槇菜の中にある甘えだったのかもしれない。そしてその甘えは、槇菜の隙となる。

 

桔梗

「……!?」

槇菜

「えっ……きゃぁっ!?」

 

 ブースターを噴かし、加速するアシュクロフト。その勢いに気圧され、槇菜は飛ぶのを一瞬、忘れてしまった。そして、瞬く間に盾の裏側……背後を取られてしまう。

 

桔梗

「……槇菜。槇菜なのね?」

槇菜

「えっ…………?」

 

 槇菜だって、忘れたことはない。その優しい声は、いつだって槇菜を支えてくれた。戦災で両親を失った槇菜と2人、支え合って生きてきた。大好きな……。

 

槇菜

「おねえ、ちゃん……?」

 

 櫻庭桔梗。大好きなお姉ちゃんが、べギルスタン軍の一員として本来お姉ちゃんが所属しているはずの特務自衛隊に牙を剥いている。

 槇菜は、目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。

 

ヤマト

「お姉ちゃん……って」

マーガレット

「槇菜の、お姉さんが乗ってるの……?」

 

 槇菜の言葉を聞いて、ヤマトとマーガレットが口々に言葉を漏らした。しかし、自衛隊にいるはずの槇菜の姉が、自衛隊攻撃の指揮をしているこの光景に、マーガレットは訝しむ。

 

マーガレット

(……とすれば、この軍はべギルスタン正規軍じゃない?)

ハリソン

「…………どうにも、キナ臭くなってきたな」

 

 同じことを、ハリソンも考えているようだった。

 

マーガレット

「ええ。私は槇菜のフォローに回ります」

ハリソン

「頼む!」

 

 そんな短いやり取りの後、ジープからシグルドリーヴァが発進し、ミサイルの照準をアシュクロフトへ向けた。しかし、ゼノ・アストラと密着するアシュクロフトへの実弾攻撃は、槇菜を巻き込みかねない。

 

マーガレット

「やってくれる……!?」

 

 狭いコクピットの中で一人、マーガレットは毒吐いていた。その間にも、アシュクロフトの中で桔梗は必死に槇菜へ呼びかけている。

  

桔梗

「どうしてそんなものに乗っているの!? 危ないからすぐに降りなさい!」

槇菜

「お姉ちゃんこそ、どうして!? お姉ちゃんは、自衛隊なんでしょ! どうしてべギルスタン軍にいるの!?」

 

 後ろに食らいつくアシュクロフトを槇菜は必死に振り払いそして対峙する。アシュクロフトはシグルドリーヴァの照準を避けるように回り込みながら、ビーム・ガンを向け照準を合わせている。いつでも、こちらを撃つことができる。そういうポーズだった。

 

槇菜

「お姉ちゃん……何で!?」

 

 納得がいかない。お姉ちゃんはみんなを守るために戦っているはずだった。そんなお姉ちゃんが好きだった。それなのに、槇菜の目の前にいる桔梗は、味方であるはずの特務自衛隊を襲い、そして今槇菜に銃を向けている。

 

桔梗

「槇菜……。あなたもそんなものに乗っているのならわかっているでしょう。今、この世界は混迷の中にあることくらい」

槇菜

「…………ッ!?」

 

 その通りだ。ミケーネ帝国の侵略。それだけではない。異世界バイストン・ウェルからも地上侵攻を目論む者がいて、デビルガンダムを奪った木星帝国の残党も動いている。そして、邪霊機。ムゲ帝王と同じ邪神の使徒。その侵略は、すぐそこまで迫っていた。

 しかし、だからこそ。

 

桔梗

「私達は、その混迷を正す新しい秩序の為に戦っている。これは、革命なの」 

槇菜

「そんなのっ、おかしいよっ!?」

 

 今の桔梗は、我慢ならなかった。

 ゼノ・アストラの持つ盾が、みるみるうちに変質していく。ハルバード。目の前の全てを撃ち砕く、戦槍。

 

マーガレット

「あれは……!?」

 

 アシュクロフトへの牽制のために照準スコープを見つめていたシグルドリーヴァのマーガレットは、ゼノ・アストラの変化を目の当たりにし声を上げる。

 

ハリソン

「槇菜君!?」

 

 ゼノ・アストラは、常に前に立って仲間の痛みを引き受け続けてきた。その大いなる盾で、自らが傷つくことも厭わずに。しかし、今のこれは違う。

 怒り。憤り。そんな負の思念を発散させるかのように、戦槍を構えたゼノ・アストラは咆哮する。

 

ショウ

「槇菜、ダメだ! 怒りのオーラ力は、自分を見失わせてしまう!?」

 

 その咆哮に、ライネックと鍔迫り合うショウも、負のオーラ力を感じ声を上げた。しかし、それを感じていないのか或いは無視しているのか、トッドはそんなショウを追い詰めようとワイヤークローを放ち、ヴェルビンの右腕を掴む。

 

トッド

「余所見をしている暇があるのかよ、ショウ!」

チャム

「もう、少しは空気を読んでよこの分からず屋!」

 

 チャムが怒鳴る。それを煩わしく感じながらも、ショウは槇菜の中に宿っている負のオーラ力に只ならぬものを感じ、トッドのライネックと取っ組み合う。

 

ショウ

「トッド、わからないのか! 血を分けた姉妹同士が、殺し合おうとしているんだぞ!?」

トッド

「そんなこと……!?」

 

 知ったことか。そう言おうとして、トッドは口籠る。トッドに兄弟はいない。しかし、肉親はいる。誰よりも優しく、厳しくトッドを育ててくれた母親が。

 だから今、桔梗の身に起ころうとしていることが悲劇であることくらいはトッドにも、理解できた。

 

ショウ

「たとえ分かり合えなかったとしても、肉親が肉親を殺す。そんな悲劇は、繰り返しちゃいけないことくらいはお前にもわかるだろ、トッド!」

トッド

「チッ……! お前に言い負かされるとは、オレもヤキが回ったぜ!」

 

 ワイヤークローを収縮し、ライネックはヴェルビンから離れる。そして、ヴェルビンとライネック。2体のオーラバトラーが、空中で加速し、降下を始めていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

ヤマト

「なんだ、マジンガー。何を言っているんだ……?」

 

 荒ぶるゼノ・アストラ。その姿に、ゴッドマジンガーは何かを警告するかのような言葉をヤマトへ発していた。

 

マジンガー

『ヤマト、旧神は荒ぶる神。巫女の心を乱すでない……』

ヤマト

「そんなこと言ったって……!」

 

 しかし、それで確信するものもある。やはりゴッドマジンガーは、ゼノ・アストラを知っているのだ。それも、ヤマトが搭乗者として選ばれるよりも遥かな昔に。

 ゼノ・アストラ。その黒衣の外装の奥に潜むものは今、巫女の荒ぶる心を薪にし、咆哮を上げる。戦槍を掲げ、光の翼を闇色に染め上げ空を舞った。

 

桔梗

「槇菜ッ!?」

槇菜

「お姉ちゃんなんか……お姉ちゃんなんか嫌いだっ!?」

 

 槇菜が叫ぶと、その叫びに呼応するようにゼノ・アストラはアシュクロフト目掛けて急降下し、その戦槍を振るう。アシュクロフトはそれを後方に下がることで避けると、咄嗟に脚部に積載されているミサイルを放った。

 

桔梗

「槇菜、お姉ちゃんの言うことを聞きなさい!」

槇菜

「嫌だっ! お姉ちゃんこそ、私の言うことを聞いてよ!?」

 

 アシュクロフトの放つ弾頭をモロに受けながら、ゼノ・アストラは走る。剥き出しの怒り。その感情を受けて、旧神は吼える。まるで、魔神のように。

 

桔梗

「言うこと聞かないなら……お姉ちゃんも怒るからね!?」

 

 そう叫び、アシュクロフトのビーム・ガンの引金を引く。ミサイルと違い、ビームは簡単には防げない。荒ぶるゼノ・アストラはそれを弾けず、装甲表面を焼き焦がしていた。しかし、それにも構わず戦槍を振るい、駆け走る。それをしているのが桔梗にとって最愛の妹であるという現実に、桔梗は苛立ちながら叫んでいた。

 

桔梗

「槇菜……いい加減にしなさい!」

 

 そう叫び、取り出したのは背中に格納されていた巨大な砲身だった。対戦闘獣を想定している圧縮粒子砲を、妹目掛けて構える。それに怯みもしない妹が、桔梗をさらに苛立たせる。

 

槇菜

「どうして、どうして平気で人にそんなもの向けるの!?」

 

 桔梗のその態度はしかし、余計に槇菜の怒りを逆撫でていた。

 

槇菜

「そんなものを向けながら、お姉ちゃんぶらないでよ!」

桔梗

「なっ……!?」

 

 櫻庭桔梗は、完全に見誤っていたのだ。妹の、槇菜のことを。

 素直で可愛い妹などと、桔梗は内心で槇菜を見下していた。自分の所有物のように思っていた。だから、こうして強い我を見せつけられて今、桔梗は動揺を隠せずにいる。そして、それは槇菜も同じだった。

 

槇菜

「お姉ちゃんは……お姉ちゃんはこんなことしないもん!?」

 

 優しくてかっこいいお姉ちゃん。そんな風に理想化した姉の姿しか見ていなかった。だから、姉が本当はどのように考えていて、何をしようとしているのか。それも一面的にしか見えていなかった。

 姉の言う「世界を守るため」というのがこういうことならば、それはサコミズ王のホウジョウ軍と何が違うというのだろうか。

 

桔梗

「……言うこと聞かないなら、本当に撃つ」

 

 動揺する心を抑えるように、アシュクロフトは圧縮粒子砲を構えていた。

 

槇菜

「私だって……こんなことをするなら、お姉ちゃんでも許さない!」

 

 ゼノ・アストラも、ハルバードを構え光の翼を広げていた。

 

ヤマト

「お、おい!?」

マーガレット

「……槇菜ッ!」

 

 睨み合う両者。その間を割って入るように、オーラの光が突き抜ける。ヴェルビンとライネック。同じように死闘を繰り広げていた両者はしかし、アシュクロフトとゼノ・アストラの間に割って入ると、ヴェルビンはゼノ・アストラへ。ライネックはアシュクロフトの方へ。両者の味方の方へ、その身を晒していた。

 

ショウ

「それ以上はよせ、槇菜」

槇菜

「ショウ、さん……?」

 

 ヴェルビンを前にして、ゼノ・アストラが召喚したハルバードはみるみるうちに消えていく。ショウはそれを、槇菜の戦意が萎えている証拠だと判断して言葉を続ける。

 

ショウ

「血を分けた仲だもんな。どうしたって許せないこともあるさ。だけど、それを理由に殺し合うのは、ガロウ・ランのやることだ」

チャム

「ショウ……」

槇菜

「…………」

 

 そう言って槇菜を諭そうとするショウの言葉は、まるで自分に言い聞かせているように槇菜には聞こえる。

 

トッド

「あんたもだ。姉妹喧嘩なら、そんな物騒なもんを持ち出すんじゃない」

桔梗

「トッド・ギネス……。家族のことに口を出さないで」

トッド

「よく知らない第三者だから言えるんだよ。今のまま戦ってたら、どっちか確実に死んでたぜ?」

 

 死。いなくなる。槇菜が。両親と同じように。その可能性をピシャリと指摘され、桔梗も冷や水を浴びせられた気分になっていた。しかし、それでも。

 

桔梗

「槇菜、私はまだ認めたわけじゃないからね」

槇菜

「……私だってこんなこと続けるお姉ちゃ、嫌いだもん」

 

 不貞腐れたようにむくれる槇菜。そういえば、機嫌が悪い時の槇菜はこんな風にそっぽを向くんだった。そんなことを桔梗は、思い出していた。

 

槇菜

「……各員、我々はこれより撤退します」

トッド

「ああ、それでいい。今はな……。ショウ、決着は預けたぜ」

 

 そう言って、アシュクロフトを掴みライネックは飛ぶ。残されたメタルフェイク部隊も、ミハルがやったのと同じようにアルムブラストを使用して、この場を撒いて行った。

 

ショウ

「トッド……」

槇菜

「お姉ちゃん……」

 

 こうして、槇菜は戦場の中で最愛の姉・桔梗と再会した。しかし、それは決して幸福な姉妹の再会ではなかった。

 槇菜の胸中に残ったのは、憤りと、怒りと、そしてただただ淋しさだけだった…………。

 

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—べギルスタン/特務自衛隊駐屯地—

 

槇菜

「…………お姉ちゃん」

 

 ルー博士のジープの中で、槇菜はひとり塞ぎ込んでいた。今、ルー博士とハリソン大尉は特務自衛隊第三実験中隊の速川中佐と情報の擦り合わせを行なっている。そんな中で、塞ぎ込む槇菜にどう声を掛ければいいのか皆、困っていた。

 

チャム

「ねえ、どうして慰めに行かないの?」

ショウ

「チャム…………」

 

 純粋ゆえに無頓着なチャムの言葉に、ショウは呆れてものも言えない。それがミ・フェラリオという種族の純粋さであるとショウも理解はしているが、こういう時だけは勘弁してほしかった。

 

ヤマト

「でも、放っておくわけにもいかないよなぁ」

 

 こういう時こそ、以前から面識のあるらしい甲児かさやかかエイサップがいるべきだろうに、よりによってその3人はまだエンペラーで待機している。しかし、槇菜の気持ちがわからないでもないヤマトだった。

 

ヤマト

「……な、なあ。あんまり落ち込むなって」

 

 だから、できる限りさりげなくヤマトは声をかけてみる。

 

槇菜

「…………うん」

 

 返事に、元気はない。当然だろう。しかし、このままでは仕方ないので、ヤマトは言葉を続ける。

 

ヤマト

「兄弟ってさ、難しいよな、俺にも妹がいるんだけどよ。あいつ普段は俺のことをバカアニキみたいに呼ぶんだぜ。そのくせ頼ろうとするから、参っちゃうよハハハ」

槇菜

「ヤマト君は……妹と仲良いんだね」

ヤマト

「う……」

 

 完全に、藪蛇だった。

 

ショウ

「……家族に、理解してもらえないのは辛いよな」

 

 だから、助け舟を出すようにショウ。

 

槇菜

「ショウさん……」

ショウ

「俺の両親はさ、バイストン・ウェルのことなんてまるで信じてくれなかった。その癖、自分の立場のことばかり言うもんだからさ。殺してやりたいとも思ったよ」

 

 そう言って、遠くを見つめるショウ。槇菜も、自然とショウの話に耳を傾けていた。

 

ショウ

「だけど、できなかった。母さんも、俺に銃を向けた。でも、殺してはくれなかった。当然恨んだし憎みもしたけど……今は、あの時あの人達を殺さなくてよかったと、そう思えるんだ」

槇菜

「……だから、私を止めたんですか?」

ショウ

「そうだな。きっと殺せば君は後悔する。それだけはわかる。だから止めた。不満か?」

槇菜

「……ううん。ありがとう、ございます」

 

 きっと、こんなつまらないことでお姉ちゃんを喪えば後悔する。それは漠然とだが、槇菜にも理解できた。

 

槇菜

「……お姉ちゃん、真面目な人だから。きっと、革命しか方法がないってそんな風に思い込んでるんだと思います。だから……私が目を覚ましてあげないと」

 

 そう言って槇菜は頷き、笑ってみせた。それは見るからに、空元気だった。それでも塞ぎ込むよりはずっといい。ショウもヤマトも、そう思っていた。

 

 そんな様子を、マーガレットはひとり無言で眺め、腕を組みながら黙考していた。

 

マーガレット

(あの部隊、間違いなくべギルスタンの正規軍じゃなかった。べギルスタンには、間違いなく背後組織が存在する……)

 

 その組織が、デビルガンダムと繋がっているのだろうか。そして、デビルガンダムにはマーガレットの恋人だった紫蘭と、紫蘭を屍人形として使うあの少女もどこかで繋がっている。

 

マーガレット

(絶対に、尻尾を掴んでみせる……)

 

 べギルスタンには、間違いなくヒントがある。マーガレットは確信していた。と、その時。通信端末が応答を求めるコールサインを掻き鳴らし、マーガレット達の耳を刺激する。それは、エンペラーからの通信だった。マーガレットが通話の承認ボタンを押すと、端末にはアランの顔が映し出される。

 一同の注目が、マーガレットへ移った。

 

アラン

「みんな、揃っているか!?」

マーガレット

「博士とハリソン大尉は、特自との会議に出席してます。それ以外は全員いるわ」

 

 沈着冷静なアランは珍しく声を荒げており、槇菜はそれだけでも只事でないと、そう悟る。

 

アラン

「たった今、べギルスタン首都カハに無国籍艦隊が空爆部隊を派遣したとの情報が入った」

マーガレット

「!?」

 

 無国籍艦隊。マーガレットも噂には聞いていた。マーガレットが所属していた空母パブッシュが、米国から独立し無国籍・独立艦隊を組織する準備をしていると。マーガレットが去った後どうやら、それは現実のものとなっていたらしい。

 

槇菜

「空爆って……!?」

アラン

「特自と一緒ならそこは大丈夫だと思うが……くれぐれも気をつけてくれ」

 

 それだけ言って、アランは通信を切る。その直後だった。駐屯地の上空。物々しい航空機の音がマーガレット達の耳を刺激した。

 

ショウ

「これは……爆撃がはじまるのか!」

 

 ショウが叫んだと同時、甲高い音がした。そして次の瞬間には耳を裂くような破裂音と、光。それが無国籍艦隊の航空部隊によるべギルスタン首都への爆撃であると理解するのに、時間はかからなかった。

 

 

…………

…………

…………

 

—べギルスタン首都カハ—

 

 べギルスタン首都カハは今、火の海に包まれていた。民間人の犠牲を厭わない爆撃。官邸も当然、その猛威にさらされていた。

 

シチルバノフ大佐

「部隊を引き上げさせただと!? どういうことだ!」

 

 そんな火急の事態にありながら、シチルバノフ大佐はモニタ越しに男へ怒鳴りつけていた。男……“シンボル”の幹部メスは、冷めた瞳でシチルバノフを見やっている。

 

メス

「遺跡発掘に関する御国の協力には、感謝しています。しかし、もう対価は十分に払った。フェイク部隊にオーラバトラー、アサルト・ドラグーン。これらは我々にも大事な戦力だ。あなたに私物化されるわけにはいかん」

シチルバノフ大佐

「なっ……!」

 

 用済み。そんな一言がシチルバノフ大佐の脳裏を過ぎる。

 

メス

「“シンボル”は、内政に干渉するつもりはありません。それだけのことです」

 

 そう言って、メスは一方的に通信を切る。残されたのは、シチルバノフ一人。

 

シチルバノフ大佐

「そ、そんな……そんなことが……」

 

 図られた。利用された。そして、切り捨てられた。それだけの単純な事実に今更思い至りながら、シチルバノフ大佐は官邸と運命を共にすることになる。

 

 翌日、べギルスタン和平派による停戦協定の申入れを多国籍軍は受け入れる。この劇的なべギルスタン紛争の終結には、太平洋上に構えられた対テロ無国籍艦隊パブッシュの速やかな軍事行動があったことを、人々はニュースを通して知ることとなった。




次回予告

みなさんお待ちかね!
平和を取り戻したべギルスタン。多国籍軍は撤退することとなりました。しかしユウシロウはひとり、少女の幻影を求めて飛び出してしまうのです!
しかし、嵬たるユウシロウは既に、多くの組織に狙われているのです!

次回、「地下迷宮の再会! 復活のガンダムヘブンズソード」に、レディ・ゴー!
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