スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第12話「地下迷宮の再会! 復活のガンダムヘブンズソード!」

—???—

 

セシリー

「ここは……?」

 

 ザビーネに連れ去られてからしばらくした後、セシリーは独房のような場所で目を覚ました。酸素がどことなく薄く、息苦しい。それに少し暑い。ここが人間の生存にあまり適さない場所なのはすぐに理解できた。そして小さなランタンだけが照らすそこに、寝台と簡素な毛布。自分が捕まってしまった。そんな実感がセシリーに湧いてくる光景だった。

 

セシリー

「シーブック……」

 

 孤独となると、どうしても恋しくなる。愛する人を。シーブックは、無事だろうか。ザビーネのことだ。シーブックを倒したのならば嬉々としてそのことをベラに告げるだろうが、今のところそんな気配はない。ならば、大丈夫。そう信じて、セシリーは気丈に自分を保っていた。

 その気丈さが、ザビーネの心を惹きつけてやまないのだとセシリーはしかし、気づいていない。このような状況で机上に振る舞える人物をこそ、彼は崇拝すべき貴族と考えているというのに。

 そんなセシリーの下へ近づいてくる足音があった。靴の音はしない。裸足なのだろうか。気配から察するに、子供。少なくともザビーネではない。そんな予測を立てられる程度に、セシリーは冷静だった。

 

ライラ

「へぇ……」

 

 やってきたのは、赤い女の子だった。赤い髪を長く伸ばし、赤い瞳を持つ少女。しかし、瞳に生気はなく輝かしい宝石というよりも、燻んだ石のような瞳をしている。そう、セシリーは感じる。

 

セシリー

「あなたは……?」

 

 人間だろうか。いや、人間はこんな目をしていない。何より、生きた人間から感じられるもの……血の感触を、セシリーは少女から感じなかった。

 

ライラ

「ザビーネが持ってきた荷物を見にきたんだけど、なるほどね」

 

セシリー

「……!?」

 

 ゾクリとする。背筋が凍るような感覚だった。

少女の声には、あまりにも不釣り合いな皺がれた声。少女本来のソプラノが、色褪せたような音色。老婆。と呼ぶには幼い顔立ちの少女はしかし、そんな声をしていた。

 

ライラ

「ふぅん……私をそういう風に感じられるんだ。お姉さん、凄いね」

セシリー

「あなた……!」

 

 まるで、こちらの心を見透かしたかのように囁く少女。その声は冷たく、セシリーをゾクリとさせる。しかし、セシリーはここで怯むわけにはいかなかった。

 

セシリー

「あなた、ザビーネを知っているのね。教えて頂戴。あなたとザビーネはどういう関係なの?」

 

 少女はそんなセシリーの問いを聞き、目を丸くする。それからしばらくして、クスクスと静かに嗤った。

 

ライラ

「クス、クスクス……。おかしい。気づいてるくせに」

セシリー

「……!?」

 

 間違いない。セシリーは確信する。

 この少女が、ザビーネを蘇らせたのだと。

 だが、何のために。貴族主義の復活など、この少女にはあまりにも無関係。むしろ、無軌道な殺戮。世界の全てを憎しみで満たすために燃え続けるアルコールランプ。そんな言葉が似合う少女が。

 

セシリー

「あなたの目的は何。ザビーネを使って、何をしようとしているの!?」

ライラ

「何って、あなたの思っている通りのことよ」

セシリー

「あなた……!」

 

 クツクツと陰鬱な嗤いを繰り返し、少女は言葉を続ける。

 

ライラ

「ザビーネ、シャピロ、ショット……みんなみんな、私が蘇らせた可愛いリビングデッド。みんな、未練を晴らしたいんだもの。晴らさせてあげなきゃ可哀想でしょう?」

セシリー

「そんなことをして、どうなるかわかって……!」

 

 違う。わかっているからするのだ。

 

ライラ

「勿論、好きにさせてあげる代わりに私の命令にも従ってもらうけどね。今頃、鬼寄せの捜索をしているはずだもの」

セシリー

「ものよせ……?」

 

 聞き慣れない単語に戸惑うセシリー。しかし、それが邪悪な目論みであるということだけは、理解できる。

 

ライラ

「安心してお姉さん。これは人助けなの。千年の記憶を継ぐ存在……。それは偽りの神なるものへ至る道。そんなもの、人間には不要でしょ?」

セシリー

「…………」

 

 意味がわからない。しかし、それをさも当然のように言う少女の言葉は絶対に肯定してはならない。そう、セシリーの直感が告げていた。

 

ライラ

「……と、お喋りしすぎちゃった。じゃあねお姉さん、また会いましょう」

 

 そう言うと、少女はゆらり……と消えていく。去ったのではない。消えたのだ。

 

セシリー

「…………!?」

 

 まるで幽霊のような少女だった。その幽霊少女が、死んだはずの人間を生き返らせて悪戯をしている。それは、まるで悪趣味な御伽噺のようだった。しかし、これは御伽噺ではない。セシリーの現実の中で、起きていること。

 

セシリー

「シーブック……」

 

 あまりにも弱々しい篝火だけが照らす牢の中、セシリーは1人呟いた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—ミケーネ帝国—

 

 

 暗闇の中、炎が茫と灯る。暗黒大将軍は、それが諜報部のゴーゴン大公がこの地に帰還したことを告げる合図だと理解していた。

 

暗黒大将軍

「何事だ、ゴーゴン大公?」

 

 多少のやり取りならば、通信で済ませればいい。しかし、そうはしなかった。只事ではないのだろうと、暗黒大将軍は腰を据える。

 

ゴーゴン大公

「はっ、暗黒大将軍様。直に耳にお入れしてほしい情報がございます。“光宿りしもの”……ゴッドマジンガーが、地上に現れました!?」

暗黒大将軍

「何だとっ!?」

 

 ゴッドマジンガー。その名前を耳にして暗黒大将軍は震え上がった。幾万年もの昔。まだミケーネ帝国が地上を支配していた頃。闇の帝王ミケーネは次々と侵略を繰り返し領土を増やしていった。しかし、古代ムー王国はその支配に立ち向かいそして、暗黒大将軍を押し退けたのだ。ムー王国の守り神マジンガー。そして、それを操る火野ヤマトの手によって。

 暗黒大将軍の震えは、空気をも震撼させる。そのピリついた気配を、配下の七大将軍達もひしひしと感じているようだった。

 七大将軍の中には、ゴッドマジンガーの武勇を知る者もいれば、知らない者もいる。将軍達の中でも古参の超人将軍ユリシーザーは、ゴッドマジンガーと幾度も剣を交えた仇敵でもあった。

 

ユリシーザー

「暗黒大将軍様、ゴッドマジンガーとの決着は私にお任せください!」

ゴーゴン大公

「お待ちくださいユリシーザー様。ゴッドマジンガーは今、憎きマジンガーZの兜甲児や、旧神らと共に行動しています。一人で戦ったところで……」

ユリシーザー

「何だと!?」

 

 ゴーゴン大公の慎重論はしかし、プライドの高いユリシーザーの逆鱗に触れた。その怒りを宥めるように、暗黒大将軍は口を開く。

 

暗黒大将軍

「待てユリシーザー……。ゴーゴンの言うことにも一理ある。しかし……考えようによってはこれは好機かもしれん」

ユリシーザー

「好機、ですか……?」

 

 「うむ」そう頷いて、暗黒大将軍は腹にあるその顔を歪めていた。その顔には、秘策があるとそう書いてある顔だった。

 

暗黒大将軍

「七大将軍よ、我が前に出でよ!」

 

 力強く、暗黒大将軍の声が響く。それに呼応するように、猛獣将軍ライガーン、大昆虫将軍スカラベス、怪鳥将軍バーダラー、悪霊将軍ハーディアス、魔魚将軍アンゴラス、妖爬虫将軍ドレイドゥ……超人将軍ユリシーザーを合わせ、ミケーネ七つの軍団を率いる七大将軍が姿を現し、暗黒大将軍の前に跪くのだった。

 

ゴーゴン大公

「おお……! ミケーネ最強の七大将軍が!?」

 

 一堂に会することなど、滅多なことではない。つまり、本気なのだ。暗黒大将軍は。その本気を悟り、ゴーゴン大公は感嘆の声を漏らす。

 

ハーディアス

「暗黒大将軍様。ゴッドマジンガーはこのハーディアスにお任せください!」

スカラベス

「いえ、このスカラベスめに!」

暗黒大将軍

「この馬鹿者共め!」

 

 逸る将軍達を一括する暗黒大将軍。しかし、即座に暗黒大将軍はその矛を治めると、七大将軍それぞれの顔を一瞥すると、号令を上げるのだった。

 

暗黒大将軍

「晴明を打ち破ったゲッターロボ。ドクターヘルを倒したマジンガーZと、その兄弟グレートマジンガー。それに旧神と、ゴッドマジンガー。他にも人間どもの中の猛者は、一つの場所に集中している。ゴーゴンよ、奴らは今どこにいる?」

ゴーゴン

「ハッ、奴らは今中東に集まっています。逆に言えば、奴らの拠点がある日本は手薄ということ」

 

 その報告を聞き、暗黒大将軍の腹はニヤリと嗤う。

 

暗黒大将軍

「よぅし、七大将軍よ! 今こそ地上の主要国家、主要都市を攻撃せよ!」

バーダラー

「お、おお……!」

アンゴラス

「それでは……!」

暗黒大将軍

「そうだ。奴らをべギルスタンへ引きつけ、その間に七大将軍は地上を制圧する。そして、孤立したマジンガーどもを我らの全戦力を持って滅ぼしてくれるのだ!」

 

 決戦。その宣言に七大将軍は大きくどよめく。彼らは将軍であるがそれ以上に武人、戦う者なのだ。そんな彼らが、目の前の決戦を前にして血を激らせているのだ。その熱気、その闘気を前に暗黒大将軍は満足げに頷く。

 そんな時、一人の男がクツクツと笑い声を漏らしながら暗黒大将軍の下へと近づいていく。

 金髪を靡かせた、眼帯の男。ザビーネ・シャル。その顔を見て、暗黒大将軍は怪訝そうに眉根を寄せる。

 

暗黒大将軍

「ザビーネ……何用か?」

ザビーネ

「クックックッ……暗黒大将軍様。奴らの足を止める大役。このザビーネめにお任せください」

暗黒大将軍

「ほう…………」

 

 暗黒大将軍からしたら、ザビーネはまるで信用できない人間だ。日本での二面作戦においても、人間の女を拉致し「闇の帝王様の妃とする」などとほざいて闇の帝王を困惑させていた。しかし、その実力は確かなのも理解している。

 

暗黒大将軍

「いいだろう。ザビーネ、お前の軍団にその役を任せる」

ザビーネ

「ハッ……。次なる貴族、ミケーネのために!」

 

 ザビーネはクツクツと不気味な笑顔を浮かべたまま、フラリと歩き去ってしまう。その後ろ姿を、ゴーゴン大公らは不安そうに見送っていた。

 

ゴーゴン大公

「…………よろしいのですか暗黒大将軍様。あのような者に」

 

 ゴーゴンは言う。しかし、あのような者だからこそ暗黒大将軍は、ザビーネにその役を任せたのだ。

 

暗黒大将軍

「……フン。所詮奴も人間。信用してはおらん」

ユリシーザー

「でしたら!」

暗黒大将軍

「だからこそだ。あわよくばマジンガーどもと共倒れになってしまえばそれもよし。我らミケーネの軍団には、傷一つつかずに奴らへダメージを与えることができるのだからな」

 

 言うなれば、ザビーネの役割は最初から捨て駒なのだ。ザビーネが力の拠り所としているデビルガンダムなど、暗黒大将軍からすれば子供の玩具。ミケーネの地上侵攻計画においてもゆくゆくは排除せねばならぬものだと暗黒大将軍は考えている。

 しかし、だからこそ上手く使えば、ミケーネ帝国の兵力を温存したまま敵を滅ぼすことも可能。それこそが、勝機を掴む兵法というもの。

 暗黒大将軍は、七つの軍団を束ねる七大将軍。それを統治する大将軍なのだ。暗黒大将軍は立ち上がり、腰に差した剣を抜く。そして高々と掲げると今一度、ミケーネ帝国全土に響く号令を発するのだ。

 

暗黒大将軍

「よいか七大将軍よ、ザビーネに遅れを取るなよ。これより、地上全土へ多面同時制圧作戦を仕掛ける!」

 

 

…………

…………

…………

 

—べギルスタン/多国籍軍キャンプ地—

 

 渇いた砂漠は、住むものの心を飢えさせる。ユウシロウは今、渇いていた。

 

ユウシロウ

「俺は…………」

 

 あの“神殿の丘”での戦いの後、ユウシロウの脳裏にはずっと少女の声がこびりついて離れない。

 

——呼び戻さないで。恐怖を。

 

 恐怖とは何だ。何故、あの少女のことを思うとこうも胸が苦しく、切なくなるのか。独り心の砂漠に問うても、答えはない。

 

ユウシロウ

「俺は、確かめなければならない……」

 

 あの少女と、逢いたい。それだけが、自分の中にあるものを……その答えを得る僅かな可能性なのだ。それは、恋というものなのだろうか。わからない。

 

ユウシロウ

(もしかしたら、僕は僕が生まれるよりももっと前からあの少女に……)

 

 出逢いたがっていたのかもしれない。そう思い詰めるほどに、今ユウシロウの心はあの鈴蘭の少女に占有されていた。

 ユウシロウは独り、キャンプ地の小さな施設の中で呆けていた。そんな時である。何やら賑やかな喧騒が、ユウシロウの耳に障った。

 

ユウシロウ

「何だ……?」

 

 ふと、視線を外す。そこには、見慣れない人々。特務自衛隊や、多国籍軍の人間ではない。そう、そのまちまちな服装から理解することはできる。

 うちひとりは、流石のユウシロウも知っていた。マントを羽織った日本人。ドモン・カッシュ。昨年のガンダムファイトで、ネオジャパンを優勝に導いたガンダムファイター。

 

ドモン

「お前は、一人なのか?」

ユウシロウ

「…………?」

 

 他の隊員と一緒にいなくていいのか。と、そう聞いているのだ。そう理解して、ユウシロウは頷いた。

 

ユウシロウ

「俺は、正規の隊員ではありませんから。必要な時以外は、別に……」

ドモン

「そうか……」

 

 そんなユウシロウの目をじっと見て、ドモンはユウシロウの座る席の、向かいに腰掛けた。

 

レイン

「ドモン?」

「おい、どうしたんだ?」

 

 ドモンの行動に、ドモンと一緒にいた彼の仲間達……恐らくは、先ほどキャンプ地に着陸した科学要塞研究所の戦闘母艦・ゲッターエンペラーから降りてきた人々だろう。が怪訝そうな表情をしていた。

 

ドモン

「何、ちょっとこいつが気に入ってな。お前、名前は?」

ユウシロウ

「豪和……ユウシロウです」

 

 ユウシロウ。その名前はなぜか、自分の名前のような気がしない。17年もの間、ずっと使っている名前なのに。

 

ユウシロウ

(17年……?)

 

 そこで、ユウシロウは眉を顰めた。

 

ユウシロウ

(俺は、そんなに長い間『豪和ユウシロウ』だったのか……?)

 

 その自問は、あまりにも現実感を伴わない。自分が豪和ユウシロウでないのなら、自分は誰なのだ? そんな疑問が、脳裏を過った。

 

アムロ

「君…………?」

ユウシロウ

「あっ、失礼しました」

 

 アムロの声に自分のいた現実を取り戻し、ユウシロウは敬礼と共に謝罪する。

 

ドモン

「いや、俺たちは別に軍人じゃないからいいんだが……」

 

 そんなユウシロウの態度に、さすがのドモンも困惑してしまう。しかし、ユウシロウはまるで、そんな周囲に興味がないかのようにまた黙考に入り込んでしまうのだった。

 

竜馬

「…………」

 

 そんなユウシロウの何かが気に入らないのか、竜馬の形相は険しいものになっている。

 

雅人

「お、おい竜馬さん……?」

 

 いくら何でも、手を挙げたりしないよな。そんな不安から雅人が思わず声をかけた。

 

竜馬

「ケッ、心配すんな。人形なんか殴る趣味はねえよ」

 

 そう言ってソファにふんぞりかえり、行儀悪く脚を組む竜馬。その様子に眉を顰める者もいれば、やれやれと肩を竦めるものもいた。

 

ユウシロウ

「人形……?」

 

 まるで他人事のように、ユウシロウが返す。

 

竜馬

「ああ。お前さんの目……なんていうか人形みてえだぜ。晴明に操られてる鬼の方が、まだ自分の意志があった」

弁慶

「お、おい竜馬!」

 

 流石に、それは喧嘩腰すぎる。そう弁慶がキツく諭すように声を上げる。竜馬も、それは理解しているのか頭をポリポリと掻いていた。

 

竜馬

「……ケッ、前言撤回はしねえがよ。まあ、この場合悪いのは俺だわな」

 

 あくまで自分が悪い。そう理解して開き直る程度の社会性は竜馬にもあった。

 

「フッ、藤原といい勝負だな」

「んだと亮!?」

 

 そんな竜馬の様子を見ながらのやり取り。それを沙羅が「やめなよ二人とも!」と怒るまでが、獣戦機隊のコミュニケーションだった。

 

シャア

「…………アムロ、少しいいか?」

アムロ

「……ああ」

 

 シャアに呼ばれ、アムロが席を外す。二人は廊下に出ると、シャアは壁に背をもたれ掛けて口を開いた。

 

シャア

「あのユウシロウという少年、何か感じたか?」

アムロ

「ああ。まるで、空の器のような……自分という存在を完全に消された人間。強化人間かもしれない」

 

 強化人間。かつて宇宙世紀において、ニュータイプと呼ばれる特殊な資質を持つ兵士を人工的に作り出そうとして生み出された計画と、その被験者達。アムロもシャアも、その研究の被害を受けた人間は数多く見てきた。特に初期の強化人間は、著しい人格への障害が残りパイロットとしてはともかく、人間としてはとても社会生活を送れないレベルにまで人格崩壊をきたすケースも存在した。二人はユウシロウから、それと近い気配を感じていたのだ。

 

シャア

「私がジオンの総帥になった頃には、強化人間手術による人格影響は極小にまで抑えることに成功していたが……」

アムロ

「だが、それも完全ではないんだろう?」

 

 人間の頭を改造するのだ。その時大丈夫でも、どのような弊害があるかわかったものではない。シャアは首肯し、腕を組む。しかし二人が感じた豪和ユウシロウという存在への違和感は、ただの強化人間というわけでもなかった。

 

シャア

「あの少年……器のように私は感じた。そう言ったな?」

アムロ

「ああ……まるであの少年自身が何かの入れ物のような、そんな自分自身の不在だ」

 

 それが強化人間なら、そこに入るのは圧倒的な戦闘力を持つ人造ニュータイプ・パイロットということになる。しかし、ニュータイプ的な共感能力をユウシロウは有していないようにアムロには見えた。むしろ、真逆の存在。

 

アムロ

「空間把握能力を広げることで他者との共感能力、世界への認識能力を飛躍的に上昇させた存在。そうニュータイプを定義するなら、あの少年はまるで……」

 

 他者への認識能力を欠如させ、自己の内に眠るものへと全神経を研ぎ澄ませたニュータイプとは別の存在。それが何を意味しているのかは、アムロにもシャアにもあまりにも未知だった。

 

シャア

「ともあれ、豪和ユウシロウ。警戒せねばならんか……」

 

 ユウシロウ個人を、ではない。ユウシロウという存在の裏には、ユウシロウのような器を欲する何者かの意志が介在している。長い戦いの経験から、二人はそれを感じていた。それはニュータイプ能力と呼ぶべき感性の問題ではない。戦いの中で培った経験則とでも言うべきものだった。

 バイストン・ウェルという世界で安息を得ていた二人だが、その勘はまるで鈍っていない。むしろ、あの世界に触れることで二人の神経はより研ぎ澄まされ、鋭敏になっていた。

 そんな時である。廊下で話し込む二人の間に、一人の女性が通りかかった。特自の制服を着た女性士官。黒髪は短めに切り揃えられたショートボブ。村井沙生(むらいすなお)中尉だ。村井中尉はアムロとシャアの顔をまじまじと見つめ、しばらくして「本物だ!」と甲高い声を上げた。それを怪訝そうな顔で見つめる、アムロとシャア。

 

村井

「すごーい! 本物のアムロ・レイとシャア・アズナブル! 私、ファンなんです!」

 

 そう言って詰め寄り、きゃあきゃあと何やらを捲し立てる村井に、アムロもシャアも困ったように顔を見合わせる。

 

アムロ

「き、君は……?」

村井

「あ、失礼しました! 特務自衛隊実験第三中隊所属オペレーター、村井沙生。階級は中尉です!」

 

 ビシッと敬礼する村井だがよほど生アムロと生シャアが嬉しいのか表情がやけにニヤニヤしてしまっており、どうしてもいまいち締まらない。

 

村井

「ハリソン大尉から状況の説明を聞いた時から、もしかしたらアムロさんとシャアさんに会えるんじゃないかな〜って、ドキドキしてたんです。だけど、本当に会えるなんて、感激です!」

 

 そう言って捲し立てる姿は、どこかバイストン・ウェルのミ・フェラリオを思わせる。アムロもシャアも、バイストン・ウェルは気に入っていたがフェラリオは苦手だった。この村井中尉もそうだが、フェラリオは邪気がない。その無邪気さが却って二人には苦手意識に転化してしまう。

 

シャア

「中尉……? 特務自衛隊は、通常の軍隊と同じ階級制なのか?」

 

 ようやく、シャアがそれだけ口にした。

 

村井

「はいっ! 通常の陸海空自と区別するため、通常の軍隊と同じ階級を導入していると聞いています」

アムロ

「そうか……。特自は海外派兵や実験を目的とした特務のために作られた自衛隊だと聞いてはいたが、本格的なんだな」

村井

「そうなんですよ……。あっ、よければ色々説明しましょうか!」

 

 パァッと目を輝かせる村井。アムロもシャアも、弱ったとばかりに肩を竦めていた。

 

 

…………

…………

…………

 

—ゲッターエンペラー艦内—

 

速川

「まさか、敵の指揮官が櫻庭中尉だったと……?」

 

 ゲッターエンペラーの到着とともに行われた会議で、速川中佐は見知った名前の人物が敵の中にいたと知らされ少なからず衝撃を受けていた。

 櫻庭桔梗中尉。特務自衛隊の中では、物資の補給を主任務としていた航空機パイロット。空自からの異動組で、ドクターヘル率いる機械獣との交戦経験もある実力派。ともすれば、TAの実験部隊に選ばれてもおかしくない人物だが、現在は参謀本部の広川中佐の推薦で別の任務を受けているという話だった。

 

槇菜

「はい……。お姉ちゃん、いえ姉とは戦場で話もしました。間違いありません」

 

 エンペラー部隊からの先発隊にいた少女・槇菜は姉桔梗と交戦したという。嘘を言っている目ではない。

 

速川

「俄には信じがたいが……。日本に戻ったら、中尉のことは確認を取ろう」

 

 気になるのは、櫻庭中尉がべギルスタン軍に加担していたというのは背信行為なのか、それとも広川中佐から受けた任務に関連していることなのか。ということだった。

 

ハリソン

「先の無国籍軍の空爆により、べギルスタン内部では和平派によるクーデターが成立したという話です。多国籍艦隊も、じきにべギルスタンからの撤退を余儀なくされるでしょう。我々としてはデビルガンダムの調査もありますが……特自の皆さんには、現地での我々の便宜を図っていただきたいのですが」

 

速川

「それは構いませんが……ですが、多国籍軍の完全撤退までの時間。ということでよろしければですが」

 

 速川に、そこまでの権限はない。豪和の二人なら話は別かもしれないが、豪和清継と清春の兄弟は、あれからずっと籠って何やらデータの精査をしているらしい。何をしにここまでにきたのやらという気持ちにもなるが、口には出せなかった。

 

ハリソン

「十分です。調査のためにスーパーロボット1機と、何人かの隊員を向かわせます」

 

 そう言って、ハリソンが敬礼する。それに合わせて、槇菜も敬礼のポーズをする。姉妹というだけあってか、その顔立ちはやはり桔梗と似ている部分があった。

 

 

 

甲児

「しっかし、桔梗さんがいただなんてやっぱり信じられねえな……」

 

 速川中佐との面談の後、槇菜は見知った間柄の人物……つまりは甲児とさやか、エイサップにも事情を話していた。彼らにとっても、櫻庭桔梗は知らない中ではない。中でも甲児とさやかは、桔梗と共に機械獣と戦った事件が槇菜との馴れ初めなのだ。

 

エイサップ

「桔梗さん……お姉さんと、戦ったのか」

槇菜

「うん……ショウさんに止めてもらったけど」

 

 もし、あのまま戦い続けていたら槇菜はもしかしたら、姉をその手にかけていたかもしれない。或いは、姉に殺されていたかもしれない。そう思うと、ゾッとする。今でも、手の震えが止まらない。

 

リュクス

「血を分けた中で、殺し合う……」

 

 それはリュクスにとって、他人事ではなかった。

 

鉄也

「…………だが、わからないのは敵の目的だな。槇菜のお姉さんは、革命と言っていたらしいがべギルスタンの戦争が、革命になるか?」

 

 一人、鉄也は冷静に事実を確認し考えていた。それは、彼の中にあるプロ意識がさせるものかもしれない。

 

ショウ

「確かに、トッドもそうだがあの部隊はどうもベギスルタンの正規軍というわけではないようだった。傭兵……というにも、少々腑に落ちないな」

 

 雇われ傭兵をトッドがしているというのなら、それはそれで合点がいく。しかし、オーラバトラー・ライネックやアサルト・ドラグーンのアシュクロフト。それに新兵器TA。そんなものを揃えられる傭兵集団があるだろうか?

 そこで口を開いたのは、ジョルジュだった。

 

ジョルジュ

「そういう時は、この事件で誰か一番得をしたのか。そこから考えるのが筋でしょう」

エレボス

「どういうこと?」

 

 エレボスが小首を傾げる。金色のツインテールが、重力に靡いて垂れ下がった。その様子に苦笑するエイサップと、ムッとするリュクス。

 

マーベル

「まず、べギルスタンの事件は爆発事故がきっかけだった。間違いなくて?」

甲児

「ああ。そこにアメリカを中心にした多国籍軍が、大量破壊兵器の実験じゃないかって調査のために派兵された」

さやか

「だけど、多国籍軍は壊滅したのよね」

サイ・サイシー

「その時に、デビルガンダムがいたって話でオイラ達はべギルスタンへ向かったんだ」

 

 順を追うように、状況を整理していく面々。その過程でマーガレットとルー博士。そしてバイストン・ウェルへ召喚された組が合流し、今エンペラーはかなりの大御所となっている。

 

マーガレット

「“神殿の丘”で特自と敵が交戦しているのを、私達が介入した」

チボデー

「そして、その夜に無国籍艦隊の空爆があって、この紛争は終わった」

 

 無国籍艦隊。突如として現れたその存在に、一同は目を丸くする。

 

トビア

「無国籍艦隊が? 予めべギルスタンに兵員を送り? 多国籍艦隊を壊滅させた、のか?」

キンケドゥ

「そして空爆で事態を鎮火。その存在を国際社会に認知させる。マッチポンプだな」

 

 無国籍艦隊パブッシュ。マーガレットが所属していた米艦隊を母体として巨大化しているらしい対テロ艦隊。その存在を対外的に大きくアピールする。そのために、

 

槇菜

「そのために……お姉ちゃんは?」

キンケドゥ

「槇菜のお姉さん達が、無国籍艦隊の一員なら辻褄は合う。というだけの話だよ。あくまで可能性はあるってだけだ」

 

 しかし、だとしたら。無国籍艦隊は革命を望んているということになる。強大な軍事力を持つ存在が、世界の変革のために力を振るう。それは、テロリズムだ。

 

マーガレット

「……マキャベル」

 

 そんな中、マーガレットがポツリと呟く。

 

槇菜

「マーガレットさん?」

ハリソン

「……パブッシュの最高責任者か。エメリス・マキャベル。随分とタカ派の人物が来るらしいって、岩国でも話題になっていた」

マーガレット

「ええ。マキャベル司令なら、そういうことを考えるかもしれません」

 

 マーガレットは頷く。ハリソンの物言いからすると、有名人なのだろうか。と槇菜は思った。事実、アメリカ海軍のエメリス・マキャベルといえば軍事に携わる人間の間ではちょっとした有名人であった。

 

アラン

「エメリス・マキャベルか……。バンディッツの情報網でも、噂くらいは聞いていた。過激なまでの軍事思想家で、ムゲ戦争の際には常に前線で異星人と戦っていたとも」

沙羅

「だとしてもそいつ、絶対にろくな奴じゃないね。これは女の勘ってやつだけどね」

槇菜

「お姉ちゃん……」

 

 桔梗は、そんな人物のために戦っているのだろうか。槇菜は俯いて、顔を曇らせてしまう。

 

エイサップ

「……大丈夫。桔梗さんにはきっと、桔梗さんなりの考えがあるんだ」

 

 そんな槇菜を慰めるように、或いは導くようにエイサップが言った。

 

甲児

「そうそう。それになんだかんだ言ってもよ。ミケーネの奴らと違って話せば通じる。そう俺は思うぜ」

槇菜

「エイサップ兄ぃ……甲児さん……」

 

 兄貴分二人の言葉を受けて、槇菜は顔を上げる。まだ、完全に姉を信じようという顔ではなかった。むしろ、姉に対する懐疑は増幅するばかりであるのは明白。それでも、顔を上げることができたのは、槇菜自身も、大好きなお姉ちゃんを信じたい。そんな願望が残っていたからだ。

 

鉄也

「…………」

ドモン

「甘い。とでも言いたげな顔だな?」

 

 そんな様子を見て、眉間に皺を寄せる鉄也。彼の表情を読み取ってドモンが言う。鉄也はしかし、そんなドモンに食ってかかりはしなかった。

 

鉄也

「……俺だって、そういうセンチメンタルが必要な時もあるってくらい理解してるさ」

 

 それだけ言って、鉄也はトレーニングルームを目指し歩き出す。ドモンは、そんな鉄也の背中を見送りながら「フッ」と笑んだ。

 

レイン

「ドモン……鉄也君のこと随分気に入ってるのね」

ドモン

「まあ、なんていうかな。放っておけないのさ。あいつは少し、危なっかしくてな」

 

 そんな話をしていた時である。特自の制服を着た、長い髪の女性士官……安宅燐大尉が、槇菜達のいるブリーフィングルームに顔を出したのは。

 

安宅

「失礼します。特務自衛隊実験第三中隊の安宅燐大尉です」

ハリソン

「ハリソン・マディン大尉だ。どうしたんだ?」

安宅

「それが、うちのユウシロウ……豪和大尉はそちらにきてません?」

 

 大尉。同階級と知ったからか安宅の表情から少し緊張のようなものが取れたのか、少しばかり口調がフランクになる。

 

ハリソン

「いや、先ほど速川中佐が来た他にはエンペラーに搭乗した記録はないはずだが……」

安宅

「そうですか……。ユウシロウ、急にいなくなっちゃって。こっちかなと思ったんですが」

 

 急にいなくなった。許可のない無断行動は軍隊では基本、御法度である。それは当然、軍隊と根本で違う自衛隊でもそうだ。しかもべギルスタンは敵地。

 

隼人

「いなくなった……脱走ってことか?」

安宅

「それもよくわからないから、今隊のみんなで探してるのよ。中佐に発覚する前に、どうにかしたいけど」

竜馬

「へっ……」

 

 それまでソファでふんぞり返っていた竜馬がすく、と立ち上がる。皆の視線が、竜馬へ向いた。

 

竜馬

「いいぜ。俺が探してきてやる」

 

 その一言に、皆が目を丸くする。

 

アルゴ

「……さっきは喧嘩腰だったのに、どんな心境の変化だ」

 

 皆の意思を代弁し、寡黙なアルゴが口を開いた。竜馬はそれに、ニッと口元を歪めて答える。

 

竜馬

「なぁに、アイツの人形みてえな目は気に入らなかったがな。脱走したんなら、自分の意思がちゃんとあるってこった。あいつ自身の意思ってやつを、確かめてやろうと思ってな」

弁慶

「竜馬お前……」

 

 それは、獣の理論と言っても過言ではないものだった。しかし、既に皆知っている。 

 流竜馬という男は、天性の野獣であると。

 

隼人

「……わかった。俺達も捜索に協力しよう」

 

 竜馬の言葉を受けて、隼人も立ち上がった。

 

隼人

(豪和ユウシロウ……奴が“豪和”ならもしかしたら、骨嵬とやらの秘密についてもわかるかもしれないからな)

 

ハリソン

「……仕方ないか。デビルガンダムの情報収集を兼ねて、豪和大尉の捜索も並行して行う!」

安宅

「みなさん……ありがとうございます!」

 

 

 

……………………

第12話

「地下迷宮の再会!

 復活のガンダムヘブンズソード!」

……………………

 

 

—べギルスタン/首都カハ—

 

 

 

 

 豪和ユウシロウは一人、灼熱のべギルスタンを歩いていた。道ゆく人々は皆頭まで覆うほどの布を被り、テント張りの露店を行き来している。そんな中、特自の制服たユウシロウはあまりにも悪目立ちしていた。

 そんなユウシロウがここにいる理由。それをユウシロウ自身も理解していない。ただ、その理由を知るためにユウシロウは歩き出していたのだ。

 

ユウシロウ

「僕は、誰だ……?」

 

 人形。そう流竜馬は彼を評した。その通りだと、ユウシロウも思う。兄達の思い通りに動く人形。人形として命じられるまま、厳しい舞を踊り、TAを操縦する。あの日まで、ユウシロウはそれを疑問に思うこともなかった。それはやはり、ユウシロウは人形だからだろう。

 ならば、兄達は何のために人形を欲するのか。

 彼らの求める人形……ユウシロウは何ものなのか。

 

——呼び戻さないで。恐怖を。

 

 少女の声が、ずっと耳に残って離れない。あの日から、ずっとユウシロウは探している。恐怖とは何か。その答えを。

 石舞台でガサラの舞を舞った時、己の内から湧き立つものに煮えたぎっていた。TAを駆りあの少女と退治した時もだ。

 

ユウシロウ

「僕の中には……僕の知らない何かがいる」

 

 それが、恐怖なのだろうか。

 気付けばユウシロウは、カハの最奥……べギルスタンの歴史を象る神殿へ足を踏み入れていた。

 迷路のような神殿。そんな第一印象を受ける。複雑に入り組んだ螺旋構造の中をユウシロウは、ただ進む。神殿の奥……礼拝堂に一人佇む少女を目指して。

 

ミハル

「……………………」

 

 祈るように目を伏せ佇む少女は、ユウシロウの気配に目を見開いた。

 

ユウシロウ

「……………………」

ミハル

「……………………」

 

 無言の逢瀬。互いに見つめ合いながらしかし、言葉はない。数秒の沈黙が、二人の間を過ぎった。しかし、まるで千年もの凍りついた時間が、カチンと動き出したような錯覚を、ユウシロウは覚えていた。

 

ユウシロウ

(俺は、この少女を知っている……?)

 

 そんなはずはない。しかし、ユウシロウの記憶。その奥深国悲しげに笑う少女の顔がこびりいついているのだ。

 

ミハル

「……あなたも、感じたのね」

 

 静かに、少女……ミハルが口を開く。

 

ユウシロウ

「感じた?」

 

 ユウシロウの記憶の奥に、声が響く。

 ——今宵ぞ。今宵ぞ。

 

ユウシロウ

「あの時お前は言った……。恐怖を呼び戻すなと」

 

 ——餓沙羅の鬼と相成らん。

 

ミハル

「押し潰された無数の心……無念。……骨嵬」

 

 骨嵬。ユウシロウの脳裏に、鬼の面が浮かぶ。しかし、鬼よりも尚……深き深淵の恐怖。その輪郭が、ユウシロウの中で浮かんでは消えていった。

 

ミハル

「それが変わらない運命だと言うのなら、受け入れるしかない。でも……」

 

 ミハルは、ユウシロウの顔を見つめていた。懐かしむように、慈しむように、愛しむように。しかしそのどれでもない表情。

 

ミハル

「変わらない刻などない。変わらない運命などない……それはかつて、あなたが言った言葉」

 

ユウシロウ

「俺の……?」

 

 知っている。ユウシロウは、この少女を。そんな確信があった。しかし、そんなことはあり得ない。だが、この感覚は……。

 郷愁の中に、溶けてしまいそうになる。そんな感覚の中にあったユウシロウを現実に引き戻したのもしかし、ミハルだった。

 

ミハル

「…………逃げて!」

 

 突如として叫ぶミハル。ユウシロウが周囲を見回せば、二人のいる礼拝堂の周囲には、不気味な人影がひとつ。

 

???

「ククク……バレちまったら仕方がねえ」

 

 そう言って現れるのは、背の高い男だった。背と同じように髪も長く、そして鋭い目つき。明らかに、まともな人間ではない。そう、ユウシロウは直感する。

 

ミケロ

「ケケケ……。あんたらに恨みはないがよぉ.俺たちの上司がお前らを連れてこいってな。それが2人揃ってるたぁ、都合がいいぜ!」

 

 そう叫ぶと同時、男は飛び上がった。人間とは思えない跳躍力。捕まれば逃げられない。そう判断し、ユウシロウは咄嗟にミハルの手を掴んだ。

 

ユウシロウ

「こっちだ!」

ミハル

「えっ……!?」

 

 そしてそのまま迷路のような神殿を走る2人。

 

ミハル

「どうして……!?」

ユウシロウ

「まだ、聞きたいことがある!」

 

 全力で走るユウシロウ。ミハルもその手を掴まれたまま、ユウシロウと共に往く。神殿の迷路を何故か、ユウシロウは勝手知ったる風に構造を理解できていた。複雑な道を走りながら、出口を目指す。

 

ミケロ

「逃げられるものかよぉ! 俺様の、銀色の脚の前になぁっ!?」

 

 だが、ミケロの豪脚は神殿の柱を蹴り壊しながら直進してユウシロウを追いかける。人間の脚力ではない。いや、自然界に存在する動物の脚力では決してあり得ないその蹴りを見て、ミハルは呟く。

 

ミハル

「DG細胞……!?」

ユウシロウ

「何っ……!?」

 

 ミケロの銀色の脚。その突き出された右脚に輝く金属細胞。それを、ミハルは見逃さなかったのだ。そして、瞬く間に迫る豪脚。

 

ユウシロウ

(間に、合わないっ!?)

 

 内心で舌打ちをした、その瞬間。ユウシロウの正面から一条の風が吹き抜ける。すると同時、ミケロに負けぬ屈強な脚が彼の銀色の脚を受け止めていた。

 

竜馬

「どぉぉぉぉっりゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 流竜馬。暴力的な回し蹴りが、ミケロの銀色の脚を受け止めそして、振り回す。

 

ミケロ

「オ、オレ様の銀色の脚を受け止めただとぉっ!?」

竜馬

「ヘッ、何が銀色の脚だ。てめえの蹴りなんざ、隼人に比べりゃ屁でもねえぜ!」

 

 叫び、今度はその顔面目掛けてパンチ。しかしミケロも素人ではない。即座に拳の間合いを見切り身体を逸らす。だが、竜馬の乱入によりユウシロウとミハルを捕らえる機会を逃したのも事実。ミケロは廊下に唾を吐き捨て、竜馬を睨む。

 

ユウシロウ

「あなたは……どうして?」

竜馬

「ヘッ、こんなところで女と逢引きたぁ……なかなか根性あるじゃねえか。見直したぜ!」

ミハル

「逢、引き……?」

 

 完全に誤解されている。しかし、今は竜馬の加勢がありがたい。ユウシロウは、ミハルの手を握ったまま再び走り出した。神殿の出口を目指し。

 

ミケロ

「チッ……。邪魔しやがって」

竜馬

「悪いな。俺は今無性に喧嘩がしたくて仕方なかったんだ。少し遊んでもらうぜ!」

 

 言うと同時、竜馬が駆ける。しかし、ミケロはそれに付き合うつもりはない。

 

ミケロ

「こうなったら仕方ねえ。てめえらをぶっ殺すのも、オレの仕事のうちだ!」

 

 跳躍。それと同時にミケロを拾い上げるように神殿の地下から、何かが迫り上がった。ガンダム。そう竜馬が認識したのは、目のようなツインアイと、V字のツノを持っているからだ。しかし、モヒカンのように迫り上がった頭部はあまりにもガンダム離れしている。そのモヒカン頭の黒いガンダム……ネロスガンダムに搭乗し、ミケロはファイティングポーズを取る。

 

竜馬

「あいつ……ガンダムファイターだったのか!」

 

 ガンダムファイター。常識の通用しない敵。崩れゆく神殿の瓦礫の中を飛び回りながら、竜馬は常識外れの身体能力で神殿を脱出していく。

 

 

 

 

ユウシロウ

「くっ……!」

 

 神殿から出たユウシロウを待っていたのは、デスアーミーの集団だった。デビルガンダムの尖兵として使われるゾンビの兵隊。それを前に、丸腰のユウシロウとミハル。

 

ミハル

「……あれは!」

 

 ミハルが指差す先……デスアーミーの群れの中を掻い潜り、一台のジープが爆走していた。そして、そのジープにはユウシロウも見慣れた人達が乗っている。

 

安宅

「ヒュー!?」

 

 運転しているのは、安宅大尉だ。安宅は口笛を吹きながら、陽気にジープを飛ばしている。デスアーミーの足をすり抜け、一目散にユウシロウを目指して。

 

鏑木

「豪和大尉!」

 

 助手席に座る鏑木大尉が叫んだ。後方の席には、北沢大尉と高山少佐。2人は対戦車ライフルを構えながら、それぞれにデスアーミーに放っている。

 

高山

「豪和大尉、乗れ!」

ユウシロウ

「……はい!」

 

 駆けつけたジープに乗り込むユウシロウとミハル。第三小隊の面々は、ユウシロウの連れている少女を怪訝そうに見つめていた。

 

鏑木

「豪和大尉、その子は……?」

村井

「わぁ〜。豪和大尉やっるぅ〜〜!」

 

 場違いなことを言う村井を、鏑木がキッと睨む。村井も流石に不謹慎だと理解していたのかそれで押し黙った。

 

ユウシロウ

「……後で、説明します」

ミハル

「…………」

高山

「とにかく、すぐにエンペラーへ急ぐぞ!」

安宅

「オッケー!」

 

 加速するジープを単眼で追いながら、デスアーミーのうち一機が棍棒型のビームライフルを、ジープに向かい掲げた。しかし、

 

ジョルジュ

「させません! 行けっ、ローゼススクリーマーァッ!?」

 

 突如吹き荒れる薔薇の嵐が、デスアーミーの軍団を一網打尽にしたのです!

 ガンダムローズ。ネオフランスの誇り高き騎士、ジョルジュ・ド・サンドのガンダムが、ユウシロウ達を助けるべく馳せ参じました!

 

サイ・サイシー

「オイラ達もいるぜ!」

ドモン

「出ろォォォォォォォッ! ガンダァァァァッッムッ!!」

 

 パチン、と指の弾ける音と共に次々とガンダムが駆けつけます。ガンダムマックスター、ドラゴンガンダム、ボルトガンダム。そして我らがゴッドガンダム!

 

竜馬

「バッキャロウ! 危ねえだろうが!?」

 

 次々と現れるガンダム達により、瓦礫と砂塵が渦巻く中で竜馬が叫びました。しかし次の瞬間、3台の戦闘機が空を飛び、竜馬の前に駆けつけるのです!

 

隼人

「1人で突っ走るからだ!」

弁慶

「そういうことだ。少しはチームワークを考えやがれ!」

 

 隼人と弁慶のゲットマシン。自動操縦のイーグル号に竜馬が飛び乗ると、そのハッチを開けてコクピットへ飛び込む竜馬。

 

竜馬

「ヘッ……余計なお世話なんだよ!」

 

 憎まれ口を叩きながらも、竜馬と隼人、弁慶は完全に息を合わせながら3台のマシンを合体させる!

 

竜馬

「チェェェェンジゲッタァァァァァッワン!」

 

 真紅の赤鬼。ゲッター1!

 鬼よりも凶暴な鬼神が、この戦場に舞い降りたのです!

 

ミハル

「…………!?」

 

 ジープの中、ミハルはその勇姿を目に焼き付けました。瞳孔を開き、食い入るようにゲッターを見つめるミハル。ユウシロウは、そんなミハルとゲッターを交互に見遣りながら、戸惑いの表情を浮かべています。

 

ユウシロウ

「あれは……」

 

 ——今宵ぞ。今宵ぞ。

 ——餓沙羅の鬼と相成らん。

 

ユウシロウ

「どう、した……?」

ミハル

「ダメ……恐怖。鬼寄せ。骨嵬……そんな……」

 

 譫言のように、ミハルはゲッターを見ながら呟いている。その言葉をユウシロウは知らない。しかし、不思議と何を言いたいのかは理解できる。

 

ユウシロウ

(あのマシンは……鬼哭石でも共闘したスーパーロボット。あれは、なんなんだ……。僕たちは、あれを知っている……?)

 

 恐怖。それはゲッターロボのことではないはずだ。なのに、ゲッターロボから感じるこの恐怖感はなんだ。

 答えのない問いの中で、ミハルにかけるべき言葉もユウシロウには、思い浮かばなかった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

ドモン

「ネロスガンダム……ミケロ・チャリオットか!」

 

 一方、戦場では仇敵との再会に思わずドモンは声を上げていました。無理もありません。ネロスガンダムはかつて、第13回ガンダムファイトにおいてドモンが最初に倒したガンダムであり……そして、DG細胞に侵された今は亡きミケロ・チャリオットの愛機。因縁浅からぬ敵を前に、ドモンは武者震いを自覚しているのです。

 

ミケロ

「ククク。久しぶりだなぁドモン・カッシュ! 地獄の底から帰ってきたぜぇ!」

サイ・サイシー

「そんな……あいつは確かに、オイラとアルゴのおっちゃんが倒したはず」

アルゴ

「…………チャップマンも生き返った。奴が復活したとしても、おかしくはない」

 

 DG細胞で強化されたミケロは、とてつもない強敵だった。それを思い出し、シャッフル同盟の一同は身構える。

 

竜馬

「だったら、オレが先に行くぜ!」

 

 その一瞬で、竜馬が動いた。ゲッターの肩部から射出されたゲッタートマホークを掴み、ゲッターは飛ぶ。しかし、次の瞬間そのゲッターを狙い撃つようにして放たれる銃撃。

 

竜馬

「なっ!?」

 

 瞬時に回避するも、今度は回避軌道を狙い澄ましたかのような狙撃が、ゲッターを襲った。それを避けられず、ゲッターは被弾する。

 

弁慶

「クッ、どこからだ!?」

隼人

「遠い……ゲッターの索敵範囲外からの狙撃だと!?」

 

 まるで鹿か、鳩でも狙い撃つかのような狙撃を前に、なす術なく足止めされるゲッター。それならばとオープンゲットで3台のゲットマシンに分離したゲッターは、さらに天高くを飛ぶ。しかし、それすらも見越したかのような精密狙撃が、ゲットマシン3台に連続で放たれた。

 

竜馬

「うぉぁっ!?」

 

 命中し、イーグル号が落下する。このままではまずい、とジャガー号とベアー号も並走し、再びゲッター1へチェンジ。

 

隼人

「竜馬、今のイーグル号じゃゲッターチェンジは無理だ!」

竜馬

「わかってる! だが、ゲッターチェンジなしであの狙撃を掻い潜るのは……」

 

 そして、着地地点を狙い済ましていたかのように地響きと共にガンダムヘッドが大地から姿を現す。完全に、罠を貼られていた。

 

竜馬

「なろぅ!?」

 

 トマホークを投げ、ガンダムヘッドへ挑むゲッター。鬼退治に挑む桃太郎のようだが、相手は巨鬼ではなく異形のガンダム。

 

ジョルジュ

「……今の狙撃、間違いありませんね」

チボデー

「ああ。どうやら、チャップマンの奴もいるようだぜ」

 

 ジェントル・チャップマン。ガンダムファイト3連覇を成し遂げた強豪であり、死した後その身体をデビルガンダムの奴隷されてしまった男……。チャップマンのジョンブルガンダムが、どこかに潜んでいる。それだけで、足を止められているも同然だった。

 

ミケロ

「ハハハハハ! そういうことだ。ここであったが百年目だシャッフル同盟!」

 

 ミケロが叫び、ネロスガンダムは高く飛び上がる。銀色の脚。ネロスガンダム必殺の脚技が、シャッフル同盟のガンダム達へ炸裂するのです!

 

ミケロ

「受けやがれェッ! 蘇った俺様の、銀色の脚をっ!」

 

 ネロスガンダムの足蹴りが、ガンダム達を襲います。ですが!

 

ドモン

「甘いッ!」

 

 我らがキング・オブ・ハート。ドモン・カッシュは既に、その技を見切っていました!ゴッドガンダムはネロスガンダムの脚を掴み、そして大きく振り回します!

 

ミケロ

「な、ドモン!?」

ドモン

「ミケロ・チャリオット……貴様の銀色の脚など、既に見切っている!」

 

 ネロスガンダムを振り回すゴッドガンダム! そして、ネロスガンダムを盾にするようにしてゴッドガンダムは前に踏み出します。

 

ドモン

「いるのはわかっているぞチャップマン! だが、これでは狙撃できまい!」

 

 そう。今、ゴッドガンダムの正面はネロスガンダムに守られているのです。ネロスガンダムを盾にするようにして、ゴッドガンダムは進みます。背中の日輪が展開し、急加速!

 

ドモン

「ゴッドフィールド……ダァァァッシュ!」

 

 駆け抜けるゴッドガンダム! 神殿の跡地を突き抜けそして、ネロスガンダムを柔道のように背負い投げるのです!

 

ミケロ

「て、てめぇっ!?」

 

 投げ飛ばされた先から、ネロスガンダムを避けるようにして大きな影が飛び出しました。それを見逃すシャッフル同盟ではありません!

 

ジョルジュ

「そこだ!」

 

 ローゼスビットが飛び、影を捉えました。その姿は紛れもなくジョンブルガンダム!

 

チャップマン

「…………!」

 

 ローゼスビットの波状攻撃を受け、ジョンブルガンダムは激しく損傷していきます。ですが、手を緩めることはありません!

 

チボデー

「サイクロンパンチだ。吹き飛べぇ!?」

 

 ジョンブルガンダム目掛けて放たれる、竜巻のような鉄拳。それを受け、ジョンブルガンダムはまさに台風に突き上げられるように吹き飛んでいきます。

 

ジョルジュ

「どうやら、腕を上げたようですねチボデー」

チボデー

「へっ、お前もな!」

 

 そして、ネロスガンダムへも追撃のドラゴンクローが迫っていました。

 

サイ・サイシー

「コイツで、終わりだ!」

ミケロ

「チッ、しつこい!」

 

 どれだけ振り切ろうとも追い詰める竜腕。そして、ネロスガンダムが腕のクローでそれを受け止めたその瞬間、ネロスガンダムの頭上に巨大な鉄球が降り注ぐのです!

 

アルゴ

「フン!」

 

 ボルトガンダムのグラビトンハンマー! 超重量を頭から受け、ネロスガンダムは押し潰されていきました!

 神殿の跡地へ押し潰され、土煙が巻き起こります。巨大な質量を持つガンダムとハンマー。両者の激突により起こった粉塵は、視界を大きく遮りました。ですが、手応えは本物。

 

サイ・サイシー

「やったか!?」

 

 サイ・サイシーが叫びます。ですが……。

 

アルゴ

「いや……まだだ」

 

 そう。横浜での戦いでアルゴは知っているのです。彼らのガンダム……ネロスガンダムとジョンブルガンダムは、仮の姿だと。

 

ドモン

「……来るぞっ!」

 

 ドモンが叫ぶと同時、巨大な翼を持つ鈍色のガンダムが、土煙の中から姿を現したのです!

 

 

…………

…………

…………

 

 

ミケロ

「クキャキャキャキャ…………。鳴るぜぇ鳴り響くぜ! 戦いの、ガンダムファイトのゴングがよぉ!」

 

 巨大な翼を持つ異形のガンダム……ガンダムヘブンズソード。擬態を解いたネロスガンダムの真の姿。大烏のような姿を持つそのガンダムと共に、巨大な四つ足のガンダム……グランドガンダムも姿を露わにした。

 

チャップマン

「……………………」

 

 そう! DG細胞によって変質したデビルガンダム四天王の真の姿。その禍々しいガンダム達が、シャッフル同盟の前に再び姿を現したのです!

 

竜馬

「何だァ? 随分と派手なガンダムじゃねえか」

 

 ゲッタートマホークでガンダムヘッドを切り落とし、竜馬が呟く。事実、竜馬達の世界……B世界においても派手な外見のガンダムは多数存在していたが、ここまで禍々しいガンダムはそうはいなかった。例外があるとすれば悪魔の名を冠するガンダム……しかし、竜馬達の知る悪魔のガンダムよりも目の前の2体は遥かに禍々しく、怪物じみている。

 

ミケロ

「ヒャハハハハ! 派手で結構。こいつはなぁ、オレ様の最強の力さ!」

チャップマン

「…………」

 

 飛び上がったヘブンズソードは、ゴッドガンダム目掛けて急降下する。そして、その猛禽の如き脚を翳し、再びゴッドガンダムを蹴り付けんとした。

 

ミケロ

「受けやがれ、オレの虹色の脚をよぉっ!?」

 

 虹色の脚。銀色の脚を越える必殺技。蹴りが虹を描き、ドモンを襲う!

 

ドモン

「貴様が虹色の脚ならば、俺は爆熱の指!」

 

 しかし、それに怯むドモンではなかった。真っ向勝負で受けて立ち、ヘブンズソードに挑む!

 

ドモン

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!」

 

 爆熱ゴッドフィンガー。数多の戦いでドモン・カッシュを勝利へ導いた必殺技が今、再びミケロ・チャリオットへ解き放たれます!

 

ミケロ

「へへへ……ドモン! 死ねやぁぁぁぁっ!」

ドモン

「ばぁぁぁぁくねつ! ゴッド・フィンガァァァァァァァ!?」

 

 虹色の脚と、爆熱の指。2つの最強が今ここに、激突するのです!

 ゴッドガンダムの拳よりも遥かに大きなヘブンズソードの脚。その真ん中に飛び込んでいくドモン。しかし!

 

ミケロ

「へへ、だからてめえは間抜けなんだよぉっ!?」

 

 ヘブンズソードはひょいと脚を動かし、ゴッドフィンガーを躱す。そして、一枚一枚がDG細胞でできているその羽根を飛ばし、ゴッドガンダムへ叩きつけるではありませんか!

 

ドモン

「何ッ! うわぁぁっ!?」

 

 ミケロのフェイントにかかり、直撃を受けるゴッドガンダム!

 

サイ・サイシー

「アニキ!」

チャップマン

「…………!」

 

 ドモンを助けようと動いたドラゴンガンダムはしかし、グランドガンダムの巨大なキャノン砲に阻まれてしまうのです!

 

竜馬

「てめぇ……汚ねえぞ!」

 

 叫ぶ竜馬。しかし、悪魔に魂を売り渡した男達にその声は届かない。

 

ミケロ

「ヒャハハハハ! 正々堂々のガンダムファイトなんざ、もう時代遅れなんだよ!」

 

 ガンダムヘブンズソードのフェザーが、グランドガンダムの雷鳴がドラゴンガンダムを、ガンダムローズを、ガンダムマックスターを、ボルトガンダムを、そしてオープンゲットできないゲッター1を襲います!

 

サイ・サイシー

「うわぁぁぁっ!?」

弁慶

「ぐぅぅ……!」

 

 猛攻に次ぐ猛攻。絶体絶命の大ピンチ!

 

隼人

「クッ……。どうする?」

 

 ゲッター2なら、スピードで敵の攻撃を振り切ることも可能。しかし、今のゲッターは……。

 

ミケロ

「ヒャハハハハ! 最高だぜ!! 生き返って早々、てめえらを血祭りに上げられるなんてよぉっ!?」

 

 翼を羽ばたかせ、ガンダムヘブンズソードは竜巻を起こします。ヘブンズトルネード。サイクロンパンチやローゼスハリケーンをも凌ぐ勢いの強烈な突風は、もはや暴風。その脅威に晒され、竜馬は激しく頭を打ちました。

 

竜馬

「クッソ……」

隼人

「竜馬!」

弁慶

「竜馬!」

 

 これまで多くの強敵に……あの安倍晴明にさえ打ち勝ってみせた流竜馬が、膝をつく。それは、信じられない光景でした。ですが……。

 

隼人

「!? 何だ、ゲッター値が急激に上昇している?」

 

 この時、竜馬は何かを垣間見ていました。

 それを説明するには、永劫の時間が必要になってしまうかもしれません。ですが、この神殿の地。ここに眠る記憶が竜馬の中にある血を、活性化させている。並行世界の住人である竜馬にとって、あり得ないはずの現象が今、起きているのです!

 

 

…………

…………

…………

 

—???—

 

竜馬

「ここは……?」

 

 無意識の中、竜馬は夢を見ていた。それは、遠い記憶の夢。竜馬であって竜馬でない誰かの夢。

 ——今宵ぞ。今宵ぞ。

 

 声が、聞こえる。遠い深淵から、竜馬を呼ぶ声が。

 

竜馬

「誰だてめえ!?」

 

 咄嗟に、喧嘩腰で叫ぶ竜馬。しかし、それは誰に叫んでいるのだろうか。わからない。

 竜馬の視界が暗黒の中から少しずつ、赤色に染まっていく。そこは、地獄のような光景だった。

 場所は、京都だ。そう竜馬は理解する。たくさんの寺がある。ならばここは京都だと。しかし、寺院は焼け、人々は剣を持ち、弓を携え、戦っていた。

 その中に、自分がいる。流竜馬ではない流竜馬。流竜馬の記憶が流れるミームの一部。

 人間の意識は氷層に浮かぶ個別の意識が存在し、深層に潜れば潜るほど無意識の中で全ての意識は溶け合っていく。そんなことを隼人が言っていたのを不意に思い出した。それが何を意味しているのか、竜馬にはまるでわからなかった。だが、そうでなければこの現象にも竜馬が納得のいく説明がつかない。

 夢の中の流竜馬は、1人で無数の妖魔と戦っている。両手にマサカリ。マントの中にも斧に鍬、爆弾もあれば火縄銃もある。そんなフルアーマー流竜馬が1人、怪物と戦っていた。

 

???

「出てきやがれ、晴明!」

 

竜馬

「晴明だと!?」

 

 竜馬は、竜馬の言葉に衝撃を受ける。そして夢の中の竜馬の先には……あの安倍晴明の姿。

 

晴明

「よく来たと褒めてやろう! だが、ここが貴様の死に場所と知れぃ!」

???

「ぅるせぇ! 今日という今日は、てめえに引導を渡してやるぜ!」

 

 そう叫ぶと同時、夢の中の竜馬は晴明に向かい走る。そして、高く飛び上がると、人型をした鬼に飛び乗った。竜馬はそれを、ゲッターロボだと思った。しかし、竜馬の知るゲッターではない。

 平安武者のような甲冑を身に包んだ、骨でできた鬼。夢の中の竜馬は、その肋骨のような部分に入り込んでいく。

 

 ——餓沙羅の鬼と相成らん。

 

竜馬

「ク……ガイ……?」

 

 なぜか、竜馬はその名前を知っていた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

隼人

「起きろ、竜馬!」

竜馬

「!?」

 

 竜馬の意識が戻ったのは、隼人の怒声が耳を刺激した時だ。頭を打った衝撃で、血が出ている。後で、医務室へ行くことになるだろう……などと呑気なことを思った。

 だが、その血が。

 沸騰しそうな血の滾りが。

 流竜馬を、目覚めさせたのだ。

 

竜馬

「…………へっ」

 

 ペロリ。と口元まで垂れた血を舐める。全身に、闘志が漲る。それと同時に、操縦桿を握る手に力が篭る。

 

竜馬

「わりいな、少し寝坊しちまった。だが……ちょうど目覚めの運動がしたくなったところだぜ!」

 

 操縦桿を引き、ゲッターが飛ぶ。緑色の光を放ちながら、まるでUFOのような軌道を描く。

 

隼人

「クッ!?」

弁慶

「ウォォ!?」

 

 それは、圧倒的なスピードだった。デビルガンダムの力を得たヘブンズソードをも凌駕する神速。そのスピードのままに、ゲッターは……竜馬はヘブンズソードを追い抜きそして、グランドサンダーを放つ巨体。グランドガンダムへ飛び込んでいく。隼人も、弁慶も急激なスピードに耐えきれず衝撃を受けた。しかし、竜馬は違う。

 

竜馬

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 今、竜馬の中で血は沸騰し、沸き立っている。沸騰した血液はアドレナリンを充実させ、心拍数を急激に上昇させていく。グランドガンダムは、キャノン砲でそれを迎撃した、しかし、ゲッターはそれを回避する。先ほどまでジョンブルガンダムの狙撃に苦戦していたのと同じマシンとは思えない鋭敏な動きだった。

 

チャップマン

「…………!?」

竜馬

「どぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!?」

 

 ゲッターが、グランドガンダムに喰らいついた。腕の刃……ゲッターレザーで思いっきり顔面を殴りつけるゲッター。負けじとグランドガンダムも、その巨大なツノを突き出し応戦する。それを受け止め、ゲッターは踏みとどまった。ボルトガンダムすらも苦戦させた怪力と、ゲッターは競り合う。そして、投げ飛ばす。

 

チャップマン

「何!?」

 

 その時、初めてチャップマンは言葉を放った。

 

 竜馬の思うままに戦うゲッターロボ。しかし、その中で隼人と弁慶は振り回されている。

 

弁慶

「うぉっ!?」

 

 竜馬が駆るゲッターの駆動に、ついていけないのだ。

 本来、ゲッターロボは三人のパイロットがいてはじめて力を発揮する。3つの心を一つにしない限り、真価は発揮できない。しかし、今竜馬は隼人と弁慶を振り回すスタンドプレイで今までのゲッターを遥かに超えるパワーを発揮している。

 それも、ゲッターエネルギーの異常な増幅という形で。

 

隼人

「……竜馬、ゲッターに取り込まれるな!」

 

 隼人が叫ぶ。今の竜馬は、明らかに異常だった。竜馬の異常が、ゲッターを強くしているのか。それとも、ゲッターが竜馬を異常にしているのか。或いは……。

 

隼人

(この場所に……ユウシロウが導かれたこの場所に何か、竜馬とゲッターに関わる秘密が眠っているのか!?)

 

 答えはない。しかし、隼人は半ば確信していた。

 鬼哭石の地で起きたゲッター線の増幅現象。鬼。安倍晴明。豪和一族。ユウシロウ。骨嵬。それらのピースの一部に、竜馬がある。

 ならば、隼人達をこの世界へ呼び、引き寄せた存在がいる。それこそが、隼人の追い求める存在であり、そして……。

 

竜馬

「ゲッタァァァァァッビィィィィィッムッ!!」

 

 絶叫と共に、ゲッタービームがグランドガンダムを襲った。緑色に輝く光を受けて、グランドガンダムは激しく膨張していく。

 

ドモン

「これは……!?」

チボデー

「なんてこった……!」

 

 ゲッター線が、過剰な進化を促しているのだ。DG細胞の自己進化、自己再生、自己増殖の三大理論。それがゲッタービームの直射を受けて暴走し、異常な進化と増殖を繰り返していく。その先にあるものは……。

 

チャップマン

「!?」

 

 自己崩壊。DG細胞という究極のマシンセル細胞の行き着く涯てにあるもの。巨大化し、肥大化し、完全な存在になれば、自浄作用が働かなくなる。今のゲッタービームは、短時間で異常な進化を促すことで相手を進化の袋小路に追い込みそして、自滅させる滅びの光と化していた。

 

チボデー

「Jesus Christ……!」

 

 あまりにも無情な進化の果てに、チボデーが呻く。

 

竜馬

「くたばりやがれぇぇぇぇェッ!?」

 

 何者かの意志に突き動かされるように、竜馬は叫んでいた。滅びゆくグランドガンダムへ、さらにゲッタービームの出力を上げていく。

 

ジョルジュ

「チャップマン……!」

 

 ジョルジュにとって、生前のチャップマンは尊敬に値する人物だった。そのチャップマンをデビルガンダムは、無惨な形で再生させ利用した。故に、ジョルジュはチャップマンに安らかなる死を与えた。

 だが、これはどうだ?

 滅びの光の中で叫ぶチャップマンの断末魔は、断じて安らかなる死などではない。これは、これでは。

 

ジョルジュ

「やめろォォォォォォォッ!」

 

 思わず、ジョルジュは動き出していた。シュバリエサーベルを抜き、ゲッターロボへ駆けていく。

 

ドモン

「ジョルジュ!?」

チボデー

「馬鹿野郎!?」

 

 今のゲッターロボは、明らかに正気ではない。ドモンとチボデーは、友を引き止めようと叫んだ。しかし、止まらない。

 ジョルジュ・ド・サンドの騎士の誇りは、このような勝利を許すわけにはいかなかったのだ。

 ローゼスビットが展開され、ゲッターロボを包囲する。そして、波状攻撃。しかし、それをものともせず竜馬はゲッタービームの出力を上げていく。

 

竜馬

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

ジョルジュ

「!? 竜馬、あなたは……」

 

 正気じゃない。何かに突き動かされいている。それを悟ったジョルジュ。しかし、振り上げた行き場のない剣を持った騎士は叫ぶ。

 

ジョルジュ

「やめなさい! こんな蹂躙は、あなたも望んではいないはずだ!」

 

 蹂躙。殺戮。そんなものを喜ぶような男ではない。ジョルジュは、そう竜馬を信じた。だからこそ。このようなことは、あってはならない。

 

隼人

「そうだ。やめろ……!」

弁慶

「いい加減、言うことを聞け……!」

 

 ジャガー号とベアー号の中で、隼人と弁慶も必死に竜馬へ呼びかけていた。このままでは、竜馬は竜馬でなくなる。そんな確信があった。だからこそ……。

 

隼人、弁慶

「竜馬!!」

 

 魂から、叫んでいた。

 

竜馬

「…………ッ!?」

 

 隼人の、弁慶の叫びが通じたのかはわからない。だが、その瞬間。

 竜馬は自分を取り戻していた。

 

 

…………

…………

…………

 

—ゲッターエンペラー—

 

 

 

 エンペラーに収容されたユウシロウ達は、竜馬やドモン達の戦いを見守っていた。しかし、ユウシロウは嫌な胸騒ぎを感じている。恐らくは、ミハルも。

 

ユウシロウ

「ゲッターロボ……」

ミハル

「あれは、偽りの神……恐怖を受け、恐怖を力に変えるもの……」

 

 意味深なミハルの呟き。それを槇菜は聞いた。

 

槇菜

「恐怖を、力に……?」

 

 オウム返しに呟く。今、槇菜達が直接出撃できないのは一部の機体は連戦に次ぐ連戦でかなりのダメージを受けているからでもあり、戦火を広げればべギルスタン全体に被害が及ぶ可能性も危惧してのことだった。

 デビルガンダム本体が出現すれば話は別だが、現状ではゲッターとシャッフル同盟に任せた方がいい。そう、ハリソンが提案した。その一方で、キンケドゥのF91とトビアのスカルハートを中心に、比較的損耗の少ない部隊はいつでも出撃する準備が整っている。

 槇菜は、先の戦いでゼノ・アストラをかなり消耗させてしまい留守番だ。今、急ピッチでの整備を行なっているが、元が元なだけにわからない部分も多い。槇菜も修理に関しては素人だから、メカニック達が仕上げたものの調整をする番まで時間があった。だから、こうしてユウシロウとミハルの監視も兼ねて、2人を見守っている。

 

ミハル

「…………この艦もそう。大いなる恐怖を呼び覚まし、そして恐怖で世界を変える力」

ユウシロウ

「…………お前は、知っているのか?」

ミハル

「…………」

 

 ミハルは、答えない。それをユウシロウは受け入れる。故に、沈黙だけが流れていた。

 

槇菜

(ど、どうしよう……)

 

 あまりにも、居心地が悪い。ユウシロウとミハルは完全に2人の世界。かやの外は、槇菜だけだ。

 

ミハル

「…………私は、ミハル」

ユウシロウ

「……豪和、ユウシロウ」

 

 そしてまた、沈黙が流れる。この空間は、槇菜にはどうしても居心地が悪い。せめて甲児かさやかか、エイサップ。それともチャムとエレボスのフェラリオコンビや、マーガレット、ルー博士。誰でもいいからいてくれればいいのに、と槇菜はこの境遇を内心呪った。しかし、槇菜1人が気まずいだけで済むのならそれでいい。という非常事態なのもそう。

 完全に、槇菜は人身御供だった。

 

槇菜

「……あ、あの」

ユウシロウ

「…………」

ミハル

「…………」

 

 返事はない。2人とも、完全に思案の世界に入り込んでいる。

 

槇菜

「う、うぅ……」

 

 呻くしかできない槇菜を救ったのは、ゲッター線の輝きだった。

 

槇菜

「何、あれ……!?」

 

 ゲッターロボの異常なパワーアップ。ゲッター線の光を受け膨張し、自己崩壊していくグランドガンダム。その悍ましい光景に、ミハルは絶叫する。

 

ミハル

「————ッ!?」

ユウシロウ

「ミハル!?」

 

 絶叫し、失神するミハルをユウシロウが抱き止めた。

 

ユウシロウ

「……よせ」

 

 そんな中、ユウシロウがポツリと呟く。

 

槇菜

「え……?」

 

 それを、槇菜は聞き逃さなかった。ユウシロウはミハルを抱きとめたまま天井を見上げている。そして、何かを譫言のように呟いた後……叫んだ。

 

ユウシロウ

「呼び起こすな……恐怖を!?」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

——呼び起こすな。恐怖を。

 

 竜馬の中で、そんな声が木霊したのは、ユウシロウが叫んだのとほぼ同じ時だった。

 恐怖とは何だ。恐怖なんて、叩きのめせばいいだけじゃないか。竜馬の闘争本能はそう告げる。しかし、そう言う話ではないことも理解できていた。

 

竜馬

(なら……恐怖って、何だ?)

 

 闘争本能に支配される魂が、疑念を抱いた。その瞬間だった。「竜馬!」と叫ぶ、友の声が聞こえたのは。

 

 

 

竜馬

「…………ッ!?」

 

 竜馬が意識を取り戻すと同時、みるみるうちにゲッター線の出力が衰えていく。ゲッタービームも次第に小さくなっていった。

 

ジョルジュ

「!? チャップマン!」

 

 咄嗟に、ガンダムローズはグランドガンダムへと駆け寄る。もはや原型も留めないほどに膨張し、肥大化し、破裂したグランドガンダム。そのコア・ランダーを引き抜き、ガンダムローズはその手に抱える。そして、ジョルジュはコア・ランダーのハッチを開いた。

 

ジョルジュ

「これは……?」

 

 チャップマンは、無傷だった。それだけではない。身体を覆っていたDG細胞が、引いている。

 

チャップマン

「ウ…………」

 

 小さくうめき、チャップマンは目を覚ました。

 

チャップマン

「私は…………そうか……」

ジョルジュ

「チャップマン、意識が!?」

ドモン

「何だって……!?」

 

 デビルガンダムの尖兵として生まれ変わったチャップマン。そこに、生前の意識は存在しなかった。しかし……。

 

チャップマン

「どうやら、迷惑をかけてしまったようだな……」

 

 ジェントル・チャップマン。その本来の人格が、今のチャップマンの中には存在していた。

 

ミケロ

「どういうことだ、こいつは……!?」

 

 あり得ない現象に、ミケロがたじろぐ。チャップマンはコア・ランダーの中で上体を起こし、静かに話しはじめた。

 

チャップマン

「……どうやら、ゲッター線が私に詫びを入れたようだな」

隼人

「詫び、だと?」

 

 まるで、ゲッター線に意志があるかのような言葉だった。意味がわからず、隼人が訊き返す。

 

チャップマン

「……私は、デビルガンダムの尖兵として蘇った。そこのミケロと共に。そして先ほどのゲッタービームによって私の中のDG細胞は完全に焼き払われたのだ。今の私は、唯の老兵に過ぎん。だが……」

 

 そう言って言葉を区切り、チャップマンはミケロを。そしてその背後にいるものを睨め付ける。

 

チャップマン

「私の命を冒涜したその罪は重いぞ。デビルガンダム!」

ミケロ

「ッ!?」

 

 チャップマンの叫びと同時、崩壊したはずのグランドガンダムがひとつの形を作り上げていく。黒と赤のボディと、丸みを帯びた肩部。そして大型のビームライフルを構えたそれは、紛れもなくジョンブルガンダム。かつて、ジェントル・チャップマンと共に最期まで戦い抜いた愛機。

 チャップマンは、再びジョンブルガンダムに乗り込むと、その大型のロングレンジ・ビームライフルをヘブンズソードへ向ける。そして一発。構えた瞬間には、既に弾丸は放たれていた。弾丸は、ヘブンズソードの頭部……その眉間を撃ち抜く!

 

ミケロ

「な、なんだと……!」

 

 ガンダムファイト国際条約第一条。頭部を破壊されたものは失格となる。もしこれが本物のガンダムファイトなら今、ミケロは再び失格となっていただろう。かつて、ドモン・カッシュにより味合わされた屈辱。それが、ミケロの脳裏に去来する。

 

ミケロ

「てめえ、チャップマン!?」

 

 理不尽な怒りが、ミケロを支配していた。だが、しかし。「そこまでだ」という重い言葉が、ミケロを止まらせる。

 

ドモン

「何奴!?」

 

 ドモンが叫び、海の方を見た。その先……海を割るようにして現れるのは、ミケーネ帝国の万能要塞ミケロス。そして、その艦首には黒いガンダムが立っていた。

 

ザビーネ

「ミケロ、十分に任務は果たした。帰還しろ」

ミケロ

「なっ……!?」

 

アルゴ

「……ザビーネ!」

 

 ザビーネ・シャル。キンケドゥの目の前でセシリーを攫い、そしてデビルガンダムを復活させた張本人。それが、ミケーネ帝国の要塞に乗っているということは……。

 

サイ・サイシー

「お前ら木星軍は、ミケーネ帝国と繋がってたのか!?」

 

 木星軍の残党。全てではないかもしれない。しかし、木星軍残党を指揮していたザビーネがミケーネと通じているとすれば、これまでの様々な偶然に辻褄が合うのも事実だった。

 

ミケロ

「ザビーネの大将よぉ! そいつはねえぜ。せめてこの裏切り者のチャップマンだけでも、始末させてくれ!」

 

 抗議するミケロ。しかし、ザビーネはまるでゴミでも見るかのような冷淡な瞳でミケロを一瞥する。

 

ザビーネ

「感情を処理できない人間は、ゴミだと教えたはずだが?」

ミケロ

「…………!?」

 

 その無感動な目は、本当にゴミでも捨てるかのようにミケロを処理できる。そう、物語っていた。渋々頷くと、ミケロは万能要塞ミケロスへと帰投する。だがその直後、ミケロスの射線上を高密度のゲッタービームが飛ぶ。

 

ザビーネ

「何ッ!?」

 

 咄嗟に退避行動を取り、ミケロスは左舷を僅かに消滅させるに留めた。その光が射した先をザビーネが向くと、そこには巨大なゲッター母艦……ゲッターエンペラー立ち塞がっている。そして、その艦板には、ガンダムF91と、クロスボーン・ガンダムが立っていた。

 

キンケドゥ

「ザビーネ……!」

トビア

「本当に、生きてたなんて……」

 

 キンケドゥ・ナウ。それに、トビア・アロナクス。かつてザビーネの計画を完全に粉砕した2人。2人の登場にザビーネは、口角を醜く歪めて笑い出す。

 

ザビーネ

「ククク……クハハハハ! キンケドゥ! まだ生きていたかキンケドゥ!」

 

 狂気の笑みを浮かべながら、ザビーネが叫ぶ。

 

チボデー

「これで形成逆転だな」

アルゴ

「ああ。いかにデビルガンダムの力を得ているとて、俺達全員を相手にできるか?」

 

 ガンダムマックスターと、ボルトガンダムが一歩踏み出す。しかし、ザビーネは戦う意志を見せない。むしろ、煽るように笑いを続ける。

 

トビア

「何が? おかしい?」

 

 怪訝そうに、トビアが呟く。ザビーネは、さらに愉快そうに笑い声を上げた。

 

ザビーネ

「ククク……私の相手などしている暇はないぞ?」

キンケドゥ

「何?」

 

 ザビーネが言った、その直後だ。エンペラー艦内に、科学要塞研究所から緊急通信が入る。

 

剣蔵

「こちら科学要塞研究所! エンペラー応答せよ!」

早乙女

「こちらエンペラー。兜博士、どうしました」

 

 剣蔵の表情には、いつにない焦りの色が見える。見れば、研究所は攻撃を受けているようであり、所員達は必死に防衛線を展開していた。

 

鉄也

「これは、所長!?」

剣蔵

「たった今、世界各地でミケーネの七大将軍率いる戦闘部隊が一斉に大攻勢をかけてきた。日本、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、ネオホンコン。地球の主要国家への七カ所同時攻撃だ!?」

甲児

「何だって!?」

 

 衝撃を受ける面々。そして、ザビーネはさらに甲高く嗤う。

 

ザビーネ

「ハハハハハ! 暗黒大将軍様の号令により、古く悪き人類文明は滅びる! そして、生き残った人類は尊きミケーネの貴族によって正しく統治される、貴族主義世界が誕生するのだよ!」

キンケドゥ

「ザビーネ……き、さ、ま……」

 

 それは、その理屈は。

 かつて、ザビーネ自身が否定した鉄仮面の人類粛清とどこが違うというのだろうか。

 キンケドゥの中に、沸々と湧いていた怒りは今、最高潮に達していた。それは、ザビーネという宿敵に対する怒りであり、一度は背を預けあった友の堕落への怒り。怒りを爆発寸前まで煮えたぎらせながらも、キンケドゥは動けなかった。

 

ザビーネ

「そうだろう。ここで私を事を構えれば、お前達はミケーネ七大将軍と戦う余力を失うことになる。さあ、私を全力で見逃すがいい!」

 

 言いながら、しかしミケロスは引かない。背を向ければ集中砲火を浴びることなど、ザビーネもわかっているのだ。

 

キンケドゥ

「…………すぐに、救援に向かいましょう」

 

 だから、キンケドゥも今はザビーネの提案に……脅迫に乗るしかできなかった。

 

ドモン

「いいのか? 奴は……」

キンケドゥ

「わかっている! だが……」

 

 こうしている間にも、世界中がミケーネの大軍団に攻め落とされる。それを、見過ごすことはできなかった。

 

トビア

「キンケドゥさん……」

早乙女

「……機動部隊を収容。その後速やかに日本を目指し帰還する」

 

 ゲッターエンペラーの最高責任者、早乙女博士が決定する。

 

竜馬

「おいジジイ!」

隼人

「よせ竜馬。……早乙女の判断は正しい」

 

 竜馬が食い下がるが、隼人が制す。それに、異議を挟むものはいなかった。

 

ドモン

「だが……覚えておけよザビーネ。そして、ミケロ・チャリオット」

 

 帰投する直前、ドモンが呟く。

 

ドモン

「お前達のような悪は、シャッフル同盟が存在する限り栄えることはない。ミケーネ七大将軍を倒したら、次はお前達の番だ!」

ザビーネ

「ククク……お前達人類が、ミケーネ帝国を倒せたならな」

 

 全ての機動兵器を収容し、エンペラーは旋回する。それを見送る、万能要塞ミケロス。

 

早乙女

「エンペラー、最大船速。目標、ミケーネ七大将軍!」

 

 

 

 こうして、ゲッターエンペラーはべギルスタンを後にする。そこに眠る謎。残された秘密を残し。

 

ユウシロウ

「…………」

ミハル

「…………」

 

 しかし、ユウシロウの腕の中には今、いるはずのない少女が眠っていた。それは、どのような運命が齎した悪戯か。はたまた偶然か。

 

ユウシロウ

「変えられぬ刻などない。変えられぬ運命などない。か……」

 

 既に、ユウシロウの運命は大きく変わり始めていた。それは、この激動の世界の中で絡み合った幾つかの糸が網模様を描くかの如く人知れず、確実に……。

 




次回予告
みなさん、大変なことになってしまいました!
世界中に攻撃を開始するミケーネ七大軍団。エンペラーは、科学要塞研究所を救うためにべギルスタンを緊急出発しました。
しかし、ネオホンコンを攻撃する怪鳥将軍バーダラーと、中国を攻める悪霊将軍ハーディアスの部隊が、エンペラーへ挟み撃ちを仕掛けるのです!

次回、「激闘! ミケーネ七大将軍!」に、レディ・ゴー!
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