スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第13話「激闘! ミケーネ七大将軍!」

—ゲッターエンペラー艦内—

 

 

甲児

「まさか、ミケーネの奴らがいきなり仕掛けてくるだなんて……」

 

 日本への帰路を急ぐエンペラーの艦内。休憩室の一画で甲児は呟いた。両手にコーラとハンバーガー。それを一気にかっ喰らう姿は、戦時中では日常茶飯事となっていたのを、同じくパイロットスーツのシャア・アズナブルは思い出す。かつてシャアが経験した戦争でも、モビルスーツから出ても戦闘服を脱ぐ余裕もない。すぐにまた出撃することになる。そんな散発的かつ長期的な戦闘が相次いでいた。そんな中での、一時の休息。自販機から排出される冷えたコーラとハンバーガーの配給は、パイロット他乗組員達が僅かな時間で食事を整えるための必需品。時代や時空が違っても、そういった需要は変わらないということを、今の甲児の姿は雄弁に物語っている。

 

アラン

「……もしかしたら、奴らは地上侵攻作戦における重要な拠点を手に入れたのかもしれん」

「拠点?」

シャア

「敵が大攻勢に出たということは、つまり盤石な体制を整えたということだろう。一年戦争で地球軍は、ジオンの宇宙要塞ソロモンを陥落させそこを拠点に最終拠点ア・バオア・クーへ侵攻した。それと同じように、敵地へ切り込むための重要な拠点を手に入れた。そう考えていいだろうな」

 

 そう言うと、シャアは先ほどまで食べていたハンバーガーの包み紙を捨て格納庫に急ぐ。それを追うようにトビアと、槇菜も続いた。

 

槇菜

「星一号作戦……。国連軍のその作戦が、一年戦争の決め手になったんですよね?」

シャア

「詳しいな。結果としてソロモン、ア・バオア・クーの二大拠点と指導者ザビ家のデギン、ギレン、キシリアを失ったことで、それ以上の戦争継続は困難となった」

トビア

「…………その戦争を、あなたやアムロさんは生き抜いた」

 

 槇菜もトビアもこうして話していると、改めて思う。シャア・アズナブルという人物は、彼ら彼女らが“歴史”としてしか認識していないものを“体験”として経験している。その背中は、30少しの青年とは思えないほどに成熟し、老成しているように感じられた。そこには教科書に書かれているような絶大的なカリスマ性……或いは、人を惹きつけながら遠ざけるような複雑さは感じない。むしろ、落ち着いた父性を感じられる。

 しかし、それはやはり槇菜が“歴史”として知る英雄であり、政治指導者でもあるシャアとは違うものだった。

 

槇菜

「……シャアさんって、あのシャア・アズナブルなんですよね?」

 

 教科書や伝記小説に書かれている人物像とのギャップを改めて認識すると、そこに戸惑いを感じてしまう。そのギャップを埋めるかのように槇菜は訊いた。するとシャアは、そんな槇菜に視線を移す。

 

シャア

「……今の私は、義勇兵のシャア・アズナブルだ。それ以上でも、それ以下でもない。ただ、バイストン・ウェルの世界で恵まれたこの命を、私を産み落としてくれたこの地球の平和のために使う。それ以上のことは考えていないよ」

槇菜

「バイストン・ウェルに恵まれた命。ですか?」

シャア

「ああ。私もアムロも、あの世界で頭を冷やさなければならなかった」

 

 頭を冷やす。それはどこか世俗的な言い回しで、やはり槇菜の思い描いていた“シャア”という人物からは少し遠い。しかし、それがバイストン・ウェルの恵みということなのかもしれない。そうとも、槇菜は思っていた。

 

シャア

「私もアムロも、少し落ち着いて自分を見つめ直す時間が必要だった。そして、それを済ませたからこそ今ここにいる。それだけのことだよ」

 

 シャアはそう言うと、また前を向き百式の待つ格納庫へ向かっていく。それの後ろ姿を見つめながら、槇菜は小さく呟いた。

 

槇菜

「……かっこいい」

トビア

「……そうだな」

 

 槇菜もトビアも、兄貴分には恵まれている方だと自覚している。しかし、シャア・アズナブルという人物は兜甲児とも、エイサップ鈴木とも、キンケドゥ・ナウともどこか違う魅力に溢れていた。それは、挫折を経験した大人だけが持つ色気なのかもしれない。槇菜が想像していたものとは違うがやはり、シャア・アズナブルという人物の持つカリスマ性というものは槇菜達が思っている以上に、健在だった。

 しかし、2人がそんなシャアの後ろ姿に見惚れていると突如艦内にサイレンが鳴り響く。

 

トビア

「敵襲……!?」

槇菜

「まだ、日本にはついてないのに!?」

 

 驚く2人。後方から駆けるアムロ・レイが、2人を追い越していく。

 

アムロ

「2人とも急げ! 戦闘獣の軍団が、エンペラーの進行方向に展開されている。待ち伏せだ!」

 

槇菜

「えっ……!?」

 

 驚く槇菜。しかし、考えれてみればあり得ない話ではない。現在、ネオホンコン及び中国はミケーネの襲撃を受けている。そして、現在エンペラーはネオホンコンの領海近辺を飛行しているのだ。

 敵の規模を考えれば、それはもはや敵地を突っ切るかのような暴挙である。そして、ミケーネ帝国の七大将軍にとっても、それを許す道理はない。

 

トビア

「急ごう!」

槇菜

「うん!」

 

 

 

 槇菜達が格納庫に到着した時、既に百式はドダイに乗り、カタパルトデッキに入っていた。そして、背中のブースターが轟音を上げ、飛んでいく。

 

槇菜

「あ、エイサップ兄ぃ!」

 

 百式、Zガンダムに続くようにナナジンらオーラバトラーも出撃準備を終えたものから発進していく。出撃前に声でもかけようかと槇菜が手を振ろうとしたがしかし、その手はナナジンのコクピット前に立つ不思議な和服の少女の存在に気付き止まる。

 

リュクス

「エイサップ……!」

 

 ナナジンへ乗り込むエイサップを、リュクスが不安げに見つめていたのだ。

 

エイサップ

「大丈夫。リュクスはここで待っていてくれ」

リュクス

「私だって、オーラマシンの操縦くらい!」

エレボス

「リュクスのオーラバトラーは、持ってきてないでしょ?」

 

 エレボスが言うと、うぐっとリュクスは黙り込む。その様子を槇菜は遠目に、見つめていた。

 

槇菜

「リュクスさんとエイサップ兄ぃ、か……」

 

 少し、もやもやする。エイサップ鈴木との付き合いは、自分の方が長い。しかし、そんなエイサップの視線の先にはいつもリュクスがいるようになっていた。

 それがどういう感情なのか、槇菜はわからない。寂しい、というのは少し違う。それとも、リュクスに嫉妬しているのだろうか。

 ウジウジ考えている場合ではないし、きっと考えたところで答えは出ない。そう思い直し、槇菜は愛機の下へ走る。ゼノ・アストラが槇菜の存在を認めると、子宮に位置するコクピット・ブロックが降りてくる。そのシートに座り、槇菜は一瞬、目を閉じて深く深呼吸した。

 

槇菜

「……よし。行こう、ゼノ・アストラ!」

 

 目を開き、一歩を踏み出す。ジャコバ・アオンやムゲ・ゾルバドスが『旧神』と呼んだ槇菜の相棒は何も応えない。しかし、ミケーネという敵の存在に闘志をみなぎらせている事を槇菜はシート越しに感じていた。

 

 

……………………

第13話

「激突! ミケーネ七大将軍!」

……………………

 

 

—ネオホンコン上空—

 

 ネオホンコン。第12回ガンダムファイト優勝国であり、荒廃する地球の中において栄華を極める繁栄の都市。そのネオホンコンの空を覆うように、異形の鳥獣軍団が跋扈している。

 

バーダラー

「やはり来たか!」

 

 怪鳥将軍バーダラー。ミケーネ七大将軍のうち鳥獣戦闘獣軍団を束ねる大空の覇者は、彼の指揮する戦闘獣軍団の先頭に立ってゲッターエンペラーを睨んでいた。

 

ミチル

「あれが戦闘獣……!」

早乙女

「…………」

 

 鬼とはまた違う異形の存在に、エンペラーのコントロールルームでミチルが叫ぶ。早乙女博士は、それを無言で見据えていた。

 

鏑木

「データ照合。敵は飛行型の戦闘獣を束ねる怪鳥将軍バーダラーと確認しました」

村井

「戦闘獣……機械獣よりも強いんですよね?」

 

 暫定でエンペラーのオペレーターを担当することになった特務自衛隊の2人。彼女らにとっても、戦闘獣単体ならともかく、軍団というのは初めての相手である。2人の表情に、緊張が走る。

 

バーダラー

「足止めも満足にできぬとはやはりザビーネなど、信用できんな。だがお前達を倒せば、我らミケーネに敵はいない! かかれっ!」

 

 バーダラーの号令。それを合図にして猛禽のような姿の戦闘獣オベリウス、鳥人戦闘獣トルケーンの軍団がエンペラーへと飛びかかる。それと同時、エンペラーの格納庫から最初に出撃したのはSFS(サブ・フライト・システム)ドダイ改に搭乗した金色のモビルスーツだった。

 

シャア

「シャア・アズナブル、百式出るぞ!」

 

 両肩に「百」の刻印が施された派手なマシンが、敵陣を切り込んでいく。ビーム・ライフルの光がオベリウスの行く手を阻み、そして次の瞬間、百式のビーム・サーベルは戦闘獣を切り裂いていた。

 

シャア

「昔取った杵柄というものを、見せてやろう!」

 

 そう言うと、百式はドダイからジャンプ。背中のスラスターとバーニアで姿勢を整えながら、空を飛ぶ翼を持つ戦闘獣の中へと飛び込んでいく。

 

戦闘獣

「Gaaaaaaa!!」

 

 オベリウスのうち一機が、その口から破壊光線を発した。しかし、百式はそれを交わすとそのままオベリウスの背中に飛び移る。そして、ビーム・サーベルをその脳天に突き刺す。

 

シャア

「まずは1機!」

 

 叫ぶと同時、百式はまたジャンプする。その直後、刺されたオベリウスは爆散。百式はそのまま次のオベリウスを目指してビーム・ライフルを発射した。しかし、戦闘獣の頭脳は馬鹿ではない。シャアの動きを見ながら、少しずつ学習を重ねている。ビームの光は、オベリウスの目の前を掠めて粒子に消えていく。

 

シャア

「なるほど、ただの木偶ではないということか!」

 

 しかし、その動きをシャアも学習している。既にビーム・ライフルの光を避けた先にはクレイ・バズーカの弾頭が飛んでいたのだ。

 

戦闘獣

「!?」

 

 ビームと実弾を同時に発射すれば、自然とビームが速く飛ぶ。その弾速の違いを利用した時間差攻撃。オベリウスがそれを避けた先に、バズーカの弾丸がくるようにシャアは最初から計算して攻撃していた。

 ただの木偶ではなく、戦闘用の頭脳を持つ相手にだからこそ通用する戦術。それをシャアは、この僅かな交戦時間の間に編み出している。そして、瞬く間に2機目のオベリウスを撃破。

 

シャア

「次だ!」

 

 そう言うと百式は空を飛ぶドダイに着地。ドダイに乗ったまま、さらにもう一機のオベリウス目掛けて飛ぶ。そして頭部のバルカン砲を撃ちまくりオベリウスの目を潰し、すれ違い様にビーム・サーベルで両断した。

 

バーダラー

「馬鹿な。モビルスーツで鳥獣戦闘獣を相手に、空で渡り合うなど!?」

 

 モビルスーツは、白兵戦のために作られたマシンだ。ミノフスキー粒子という発明によりレーダー類、通信機器の信頼性が極度に落ちた戦場では、旧世紀のように数キロ先の敵目掛けてミサイルを撃ち合うような戦争は時代遅れの代物となり、戦場の主役は機械の鎧を着込んだ機動戦士達のものへと回帰していった。

 ドダイやベース・ジャバーと呼ばれるSFSは、そんなモビルスーツの弱点のひとつ……空中での自由行動が著しく制限されるという点を解消するために研究が進められたモビルスーツ用の下駄である。当然、本体で制御しているわけではない以上空中での白兵戦には著しく制限がかかる。自由に遊泳できる宇宙と違い、地球の重力はモビルスーツをも押し潰してしまうのだから。

 だが、今のシャアは地球の重力からも自由だった。

 

 重力から解き放たれているのは、シャアの肉体でもなければ百式という器でもない。他ならぬシャア・アズナブルの魂である。

 かつてシャア・アズナブルという男は優れたニュータイプの素質を持ちながら、その魂を地球の重力に引かれ解脱できないでいた。だが、今のシャアは違う。

 魂の故郷バイストン・ウェルで彼の魂は浄化され、ただ純粋な心だけが残った。

 それはかつて、シャア・アズナブル自身が理想としたニュータイプの姿なのかもしれない。だがそんなことは目の前の敵にもそして、シャア自身にも最早関係のないことだった。

 

戦闘獣

「Gaaaaaaaa!!」

 

 迫る4機目のオベリウス。その鋭い嘴を構えて百式目掛けて突撃する。戦闘獣の嘴は、マジンガーZの超合金Zすら穴だらけにしてしまうほど鋭利かつ強力。一撃でも受ければ、百式などはひとたまりもないだろう。しかし、その一撃が届かないことをシャアは知っている。百式がドダイから飛び降り落下すると、オベリウスはそれを追う。しかしその瞬間、強力なビーム砲がオベリウスを飲み込み、蒸発させた。

 

シャア

「それでこそ私の友だ。アムロ」

アムロ

「シャア、よくやる!」

 

 Zガンダム。かつて、シャアがクワトロ・バジーナとして戦っていた頃共に戦った戦友カミーユ・ビダンの愛機。それを駆るアムロの攻撃へ、シャアはオベリウスを誘導していたのだ。

 急速に落下する百式をドダイが捕まえ、再び上昇。そして、航空機形態のZガンダム……ウェイブライダーと並んだシャアは、遅れて出撃する仲間の存在を感じていた。

 

甲児

「マジーン・ゴー!」

 

 甲児のマジンガーZ。それに続くグレートマジンガー、ダンクーガ、ゲッター1、ヴェルビン、ダンバイン、ナナジン、風雲再起に乗るゴッドガンダムに、光の翼を携えたゼノ・アストラ。空戦能力を持たない部隊も、エンペラーの艦板で待機しているのが見える。ベース・ジャバーに乗った白と青のF91が、エンペラーの周囲を待機していた。

 

バーダラー

「マジンガーZ、それにグレートマジンガー! ようやく現れたか!」

鉄也

「怪鳥将軍バーダラー、今日こそ息の根を止めてやるぜ!」

 

 啖呵を切る鉄也。その声は武者震いか、いつもの冷徹さはなりを潜めその奥に眠る熱い闘志に燃えている。そして、スクランブルダッシュで加速するグレートマジンガーが、シャアと入れ替わるように戦闘獣軍団へ飛び込んでいく。グレートの全身に備わる武装……ネーブルミサイル、アトミックパンチ、グレートタイフーン……数々の必殺パワーを秘めた攻撃が、戦闘獣軍団を蹴散らしていった。

 

シャア

「流石はスーパーロボット.モビルスーツでは、こうはいかん」

鉄也

「フン、よく言うぜ。そんな旧式のマシンでここまで戦っておきながらな!」

 

 軽口を叩き合うシャアと鉄也。シャア・アズナブルを相手にそんな態度で接する人間はそうはいない。かつてはそんな口が利けるのはアムロくらいのものだった。だが、今は違う。

 

シャア

「フッ……。よし、陸戦部隊は降下し、地上の歩兵部隊を掃討する。私に続け!」

 

 

 シャアの合図と共に、待機していたモビルスーツ隊やゴッドマジンガーにシグルドリーヴァらが降下していく。

 背中を預けられる存在がいる。その心強さをシャアは久しぶりに感じていた。

 

鉄也

「ならば、空戦部隊はここでバーダラーと突破する!」

 

 百式と入れ替わるようにフォワードになるグレートマジンガー。それに続くのはマジンガーZとゲッター、ダンクーガ、それにオーラバトラー達とゼノ・アストラ。

 

竜馬

「鉄也の野郎に遅れるな! 俺達も行くぞ!」

ドモン

「おう!」

「へ……てめえらを倒さなきゃこの先は進めねえってことか。面白え、やってやるぜ!」

槇菜

「うん。……こいつらをやっつけて、日本に戻るんだ!」

 

 日本へ到着する前に、このネオホンコンを蹂躙するミケーネ軍団を掃討する。そのためのミッションが始まった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—ネオホンコン/地上—

 

 ネオホンコンは、現在の地球圏最大の経済特区でもある。戦死した前首相ウォン・ユンファの手腕により贅の限りを尽くした繁華街。その中央に聳え立つ摩天楼。しかし、その背景には激しい発展の裏側で忘れられた廃墟……ガンダムファイトや度重なる戦乱の中で人類が築き上げた負の遺産とも言うべきものが存在していた。

 シャア達が降下したのは、そんな廃墟。人の業とでもいうものが、彼の目の前で積み上がっていた。

 

ジョルジュ

「かつて、マスターが絶望した光景。ですが……」

チボデー

「ああ。いつ見てもいい気はしねえな」

 

 その光景を、ジョルジュやチボデー達シャッフルの戦士たちは知っている。かつて、東方不敗マスターアジアは自らがガンダムファイトの覇者となった直後、この惨状を目の当たりにした。そして、地球を守るためには人類を滅ぼすしかないと結論を急ぐきっかけとなった。

 

シャア

「これは…………」

 

 かつてのシャアなら、やはりこの光景こそ人類に絶望する根拠としていただろう。しかし、今のシャアは違う。

 

シャア

「……人間もまた、天然自然の中から生まれたもの。ならば、この行いも自然の中で起きたことと考えるべきか」

アムロ

「シャア……」

 

 奇しくも、それはかつて今空で戦うドモンが師に説いたものと似た結論だった。そして、シャアの隣で肩を並べる友はかつて言った。“人の英知はそんなものだって乗り越えられる”と。

 

シャア

(人の革新。それを私は急ぎすぎた。こんなものを見ることになるのも、その報いかもしれんな……)

 

 だが、だからと言ってここでやることは変わらない。ドダイを低空飛行させながら、シャアは進む。

 

シャア

「各機はツーマンセルで、ミケーネの機動兵器を各個叩け!」

 

 この地が人の業により生まれた代物だとしても、それは今を生きる人間が死して贖うようなものではない。そう即断してシャアは進んでいく。そして、摩天楼を目指し進軍する機械獣の軍団を捕捉した。

 

シャア

「よし……。アムロ、援護しろ!」

アムロ

「了解した。無理はするなよシャア!」

 

 Zガンダムがビームライフルを放つ。その粒子の光は、頭部に鎌を持つ機械獣ガラダK7に命中し、戦いの狼煙となる。こちらの存在に気づいた機械獣軍団が、一様にターゲットを変えたのだ。

 

シャア

「よし……行くぞ!」

 

 ドダイから飛び降り、百式が駆ける。ビームライフルを撃ちまくりながら、機械獣へと斬り込んでいく。百式のビームライフルは、的確に機械獣の頭脳を撃ち抜いていった。

 

シャア

「やはり、戦闘獣に比べれば大したことはないか」

 

 そう呟いた直後、百式の背後に殺気が走った。蟷螂のような鎌が、百式の背中を襲う。

 

シャア

「何ッ!?」

 

 機械獣ドグラS1。間一髪、その攻撃を避けた百式だったが、背中のバックパックを真っ二つにされてしまう。

 

アムロ

「シャア!? ……ちぃっ!?」

 

 援護のために飛び出そうとしたアムロのZガンダム。しかし、Zガンダムは両手をスピアにした機械獣マグラF2の攻撃を受け、百式へ近寄れない。

 

アムロ

「奴ら、2対1組の機械獣か!」

 

 ゼータの腕に内臓されるグレネードランチャーを放ち、マグラF2を攻撃するアムロ。その攻撃は確かにヒットするも、マグラはドグラに呼応するように引き寄せられていく。

 

アムロ

「チィ! 距離を取られたか!」

 

 舌打ちし、アムロはハイパー・メガランチャーを取り出しそれを狙う。しかし、メガランチャーは大振りな分、なかなか照準が定まらない。機械獣ドグラ、マグラのように奇怪な動きをする敵を相手取るには隙の大きな武器だった。

 

シャア

「アムロ、右だ!」

アムロ

「いや、左かっ!?」

 

 ドグラ、マグラは今度は両方で同時にZガンダムへ飛びかかる。逃げ道を塞ぐための2対1。いや、

 

シャア

「アムロをやらせはせんよ!」

 

 咄嗟にビームサーベルを抜き、シャアがドグラの懐へ飛び込んだ。巨大な蟷螂鎌の攻撃を受けながらも、百式はドグラを食い止める。

 

アムロ

「シャア! このぉっ!?」

 

 マグラのスピアのリーチを見切ったアムロは瞬間、ウェイブライダーへ変形しマグラを躱していく。そして、ドグラに追い詰められている百式の前で再びモビルスーツ形態へ変形すると、百式の腕を掴みドグラから引き離した。

 

機械獣

「……………………」

 

 ドグラ、マグラに呼ばれたかのように、各ブロックを制圧していた機械獣がアムロとシャアの下へ集まっていく。見せられたデータの中で確認したものもあれば、そうでないものもいる。ともあれ、窮地であることだけはデータなどなくても理解できた。

 

シャア

「クッ……。すまんな、アムロ」

アムロ

「いや、助かった……。だが、百式は」

 

 百式は、高性能モビルスーツではあるが既に旧式。Zガンダムのように機動力に特別秀でているというわけでもない。そんなマシンを乗り回しながらシャアは、この短時間で戦闘獣を4機、機械獣を数機落としている。それは、快挙と言ってもいい。

 だが、それは明らかに百式の限界を越えた挙動でもあった。

 

シャア

「マシンの消耗が激しい、か……」

 

 かつての戦いでも、シャアは自分の機体よりも高性能のマシン2機を相手に百式で対応を迫られたことがある。パイロットの能力も自分と互角だろう強敵2人を相手にその時、1機を相手に引き分けに持ち込むのがあの時のシャアの精一杯だった。だが、今ならば。

 

シャア

「……こちらシャア・アズナブル。メガ・バズーカ・ランチャーを射出してくれ」

 

 エンペラーに通信を送る。数秒後、エンペラーからメガ・バズーカ・ランチャー……モビルスーツ用の巨大なバズーカランチャーが射出されて百式の前に落下した。それを拾い、百式はランチャー砲に自信のエネルギーコンバーターを接続。

 

アムロ

「シャア、どうするつもりだ?」

シャア

「このまま戦っていても埒が明かん。メガ・バズーカ・ランチャーで敵を掃討する」

アムロ

「…………わかった。それまでは俺が敵を引き付ける!」

 

 Zガンダムは再び変形し、ウェイブライダーで敵陣へ突っ込んでいく。敵の攻撃を避けながら、機械獣を百式の……シャアの攻撃射線上に集めていく。言わば、囮の役割を果たしていた。

 

シャア

「…………もう少し、もう少しだ」

 

 メガ・バズーカランチャーの射線上に集まっていく敵。アムロはそれを悟らせまいとあえて混戦状態を装っていく。実際、アムロとZガンダムは獅子奮迅の戦いを見せていた。

 

アムロ

「シャア、こっちも残弾が少ないんだ……急げよ!」

 

 そう言って、ビームライフルでアブドラU6を撃ち抜く。続けてダブラスM2を狙うも、そこでビームライフルはエネルギーを尽き果てメガ粒子の搾りカスを放出するのみだった。「チィッ!」と舌打ちし、グレネードランチャーに切り替える。ランチャーの弾丸が、機械獣の目を潰す。そして、

 

アムロ

「!? 今だ!」

シャア

「やってみるさ!」

 

 ウェイブライダーに再度変形し飛び上がるZガンダム。それを見上げた機械獣軍団を、メガ・バズーカランチャーの一撃が飲み込んでいった。

 

機械獣

「!?!?!?!?」

 

 爆炎を上げ、破壊されていく機械獣の群れ。しかし、その攻撃を受けながらドグラ、マグラの2体は紙一重で致命傷を避け、Zガンダム目掛けて飛び上がっていた。

 

アムロ

「何ッ!」

シャア

「アムロ!?」

 

 ドグラとマグラ。有名なミステリー小説から名前を取られた2体は、背中同士で合体し機械獣ドグラ・マグラとなる。ドグラ・マグラはジェット噴射で飛び上がりながら、Zガンダムに迫った。

 

アムロ

「やられる……!?」

 

 アムロが叫ぶ。それと同時、ウェイブライダーにドグラ・マグラは飛び込んでいく。変形しても間に合わない。

 だが、その時は永遠にこなかった。

 

シャア

「…………」

 

 百式のビームライフルが、合体したドグラ・マグラを撃ち抜いたのだ。

 

機械獣

「……………………」

 

 沈黙し、爆発を起こす機械獣ドグラ・マグラ。百式はドダイに拾われ、アムロに並走する。

 

アムロ

「シャア、助かった……」

 

 Zガンダムの死角を着いた攻撃を前に、わかっていてもアムロはなす術がなかった。それを助けたのは、他ならないシャア・アズナブル。

 

シャア

「問題ない。だが……互いにほとんど武器を使い果たしたようだな」

アムロ

「ああ、一時エンペラーに帰投し補給を済ませよう」

シャア

「了解した」

 

 そう言って、アムロとシャアはエンペラー目指し上昇していく。シャアが空を見上げれば、空戦部隊と怪鳥将軍バーダラー率いるミケーネ軍団の戦いは激しさを増していた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

マーベル

「エイサップ、大丈夫?」

 

 地上の空は高い。天に海が広がるバイストン・ウェルよりも。エイサップ鈴木は改めて、空の高さを感じていた。

 

エイサップ

「大丈夫です。俺にだって、オーラ力は宿っているんだ」

 

 心配するマーベルへ気丈に応え、ナナジンはどこまでも飛べそうな空を飛んでいた。空戦型の戦闘獣・パーピィの追撃を振り切るように、ナナジンは攻撃を避けて戦場を飛ぶ。

 

エイサップ

「このっ!?」

 

 目の前に飛び出したオベリウスを、ナナジンはオーラソードを抜き、まるですれ違い様に斬り伏せる。その動きは、まるで時代劇の剣劇ヒーローさながらだった。それだけの動きができる。それは開放感に繋がる。しかし、その開放感にエイサップは、只ならぬものを感じていた。

 

エイサップ

「オーラマシンがこんなに自由に動けたら、危険すぎる……!」

エレボス

「エイサップ……?」

 

 人間がモビルスーツという鎧を得て、既に一世紀になる。その間にも、人類の文明には様々な発明が登場した。今、最前線で戦闘獣軍団を切り開いているマジンガーZとグレートマジンガーを代表とするスーパーロボットこそが、その代表だろう。

 人はマシンに乗り込むことで、人間にはできなかったことができるようになる。それは、等身大の人間の脳に凄まじい全能感を齎すことになる。或いはそれこそが、神にも悪魔にもなれる力というものなのかもしれない。

 今、地上に出たことでナナジンはより強くオーラの力を吸収するオーラバトラーへ変質していた。それはマーベルのダンバインや、ショウのヴェルビンも変わらない。死の世界とも呼ぶべきバイストン・ウェルよりも、生の世界とでも呼べる地上の方がオーラの力に満ちているのかもしれない。その実情はどうあれ、地上に出たオーラバトラーは本来の性能を超えた力を発揮できてしまう。ショウが言っていた言葉を今、エイサップは体感で理解していたのだ。

 

エイサップ

(この力がショット・ウェポンやサコミズ王に野心を抱かせてしまうものだというのなら、それを理解できてしまう……。地上の空の高さよりも、俺にはそれが恐ろしい!)

 

 戦闘獣の放つミサイルが、ナナジンの真正面に迫った。しかしエイサップはそれを恐れもせず、オーラソードを振るう。高まったエイサップのオーラ力は、オーラソードに炎を宿す。オーラフレイムソード。その炎を壁にして、ナナジンはミサイル攻撃を受け流しすすむ。そして、

 

エイサップ

「そこだっ!」

 

 一閃。炎を纏ったオーラの剣は、翼を持つ翼竜のような戦闘獣を真っ二つにする。

 

マーベル

「エイサップ、すごいわ……」

ショウ

「ああ。オーラ力の高まりに飲み込まれず、制御してみせている」

 

 その心の有り様は、ショウやマーベルら熟練の聖戦士からも目を見張るものがあった。

 

槇菜

「エイサップ兄ぃ。凄い……」

 

 感嘆する槇菜。ゼノ・アストラは巨大な盾で敵の攻撃を防ぎながら、主力空戦部隊を守っている。現在、敵に突出する形でグレートマジンガーとマジンガーZが将軍バーダラーと戦い、その周囲の強力な戦闘獣をゴッドガンダム、ゲッター1、ダンクーガが引きつけている。ゼノ・アストラとオーラバトラー3機は、敵へ斬り込みをかけながら場を撹乱する役割だ。雑魚を蹴散らし、必要に応じて主力へ加勢する機動力。それが槇菜とオーラバトラー乗り3人に課せられた役割だ。

 そしてその戦いで、エイサップのオーラ力は急激に高まっている。

 

ショウ

「そうか、サコミズ王を止める。その使命感がエイサップを驕らせないんだ」

 

 敵の戦闘獣を斬り裂く深緑のオーラバトラー・ヴェルビンの中でショウ・ザマが呟いた。

 

マーベル

「彼にとって、それだけサコミズ王という存在は強大?」

ショウ

「リュクス姫のお父上でもあるからね」

 

 リュクスの父。その言葉にマーベルは、「ああ」と納得する。

 

槇菜

「どういうことですか?」

 

 よくわかっていないのは、槇菜だけだった。しかしそんな槇菜もだいぶ戦いに慣れたようで、そんなことを言いながらもゼノ・アストラは盾で戦闘獣に体当たりしている。そして、弾き飛ばされた戦闘獣を舞い散る羽根が追い詰めていく。最早、ただの戦闘獣ならば槇菜達にとっても敵ではなくなっていた。

 

マーベル

「どうって……槇菜、あなたエイサップとリュクスのことどう見ていて?」

 

 オーラショットを敵に浴びせ、撃墜を確認したマーベルが問う。槇菜は、「えっ?」と素っ頓狂な声を上げて小首を傾げていた。

 

槇菜

「仲良いな……とは思いますけど」

 

 実際、仲がいいというよりも二人の距離感は恋人同士のそれだ。それは槇菜にもわかっていた。しかし、未だにあまり実感できないでいるのも事実。

 

槇菜

「あ、そっか……!」

 

 エイサップにとって、サコミズ王は既に他人ではない。そのことにようやく思い至り、槇菜は自分の鈍さに腹が立った。その苛立ちをぶつけるように、ゼノ・アストラの盾は戦闘獣を思い切り殴りつける。

 

エイサップ

「よし、ショウさん。次はあっちです!」

ショウ

「わかった。俺とマーベルで行く。エイサップは槇菜と地上部隊の援護に回ってくれ!」

 

 そう言って、ヴェルビンが飛翔する。続くダンバイン。ショウとマーベルは、息をも乱さぬ連携でダンクーガの背後に迫っていた戦闘獣と斬り結ぶ。ゼノ・アストラとナナジンは、地上で戦うトビア達の援護のために降下していく。そんな中でも、ナナジンは速い。

 

エイサップ

「槇菜は防御に、俺が切り開く!」

槇菜

「うん!」

 

 加速するナナジン。その背中を見つめながら、槇菜は思う。

 

槇菜

「エイサップ兄ぃの背中。ずっと見てきた。だけど、こんなに頼れる背中だったんだ……」

 

 どこか頼りない、だけど優しい兄貴分だったエイサップ。彼はハーフで、自分はクォーター。だから、少しだけ彼の抱えているものを理解できると思っていたし、事実としてお互いにそういう部分に近親感が湧いていたんだろうと思う。槇菜の薄い銀髪は、好奇の目で見られることも多かった。自分とお姉ちゃんは、周りのみんなと違う。そういう意味では、日本人的な黒髪を羨ましいとすら思ったこともある。

 だけど、小学校に上りたてのある日に隣に越してきたのは、自分の銀よりも鮮やかな金髪と青い瞳のお兄さんだった。

 エイサップ鈴木。日米ハーフの男の子。その存在は自分が決して異質ではない。と、そう教えてくれているような気がして……気付けば、槇菜はエイサップに懐くようになっていた。

 そんなエイサップが、今日はどこか遠くに感じてしまう。

 

槇菜

「…………うん!」

 

 もしかしたら、あの幼い日に抱いた感覚は無自覚な初恋だったのかもしれない。しかし、だからどうしたというのだろう。槇菜は正面を見据え、敵に飛び込んでいくナナジンを守るように盾を構える。ナナジンを狙う機械獣ジェノバの狙撃は、ゼノ・アストラの盾に防がれた。そして、飛び散る光の羽根が機械獣を捉える。

 

槇菜

「このっ!」

 

 そして盾を持たぬ左の指をワイヤーで射出。鋭利な爪が、機械獣を貫いた。

 

槇菜

「エイサップ兄ぃにはエイサップ兄ぃの。私には私の使命が、人生があるんだ。たかがこんなことで、私たちが変わるもんか……!」

 

 まるで自分に言い聞かせるようにして、槇菜は叫んでいた。

 

 

 

エレボス

「ねえエイサップ、槇菜少し元気なくない?」

 

 ナナジンのコクピットで、ミ・フェラリオのエレボスはそんな槇菜の様子を察知しエイサップに訊いていた。

 

エイサップ

「気のせいだろ。それより、行くぞ!」

 

 にべもなく返し、ナナジンが加速する。そして、ナナジンの乱入に混乱する機械獣にできた隙を突くようにして、トビアのスカルハートはピーコック・スマッシャーで機械獣にトドメを刺した。

 

トビア

「助かったよ、エイサップ」

エイサップ

「ああ。俺はまた空に上がる。気をつけろ!」

 

 そう言って、縦横無尽に駆け回るナナジン。それは、オーラバトラーというマシンの強大さを見せつけるのに十分な活躍だった。

 

トビア

「オーラバトラー……凄いマシンだ」

 

 話には聞いたことはあった。しかし、スペースコロニーで暮らしていたトビアはその存在を生で見るのはこの戦いで出会ったショウやエイサップ達のものが初めてでもあった。

 実際にデータを見ただけではわからない。オーラバトラーの強力さ。そして、強力なマシンに身体を委ねる全能感に支配されない心の強さ。

 

トビア

「エイサップさん、凄い人だな……」

 

 改めて、トビアは感じたままを口にする。

 

槇菜

「そうなの。エイサップ兄ぃは普段ちょっと頼りないけどすっごく強くて、優しいんだ!」

 

 スカルハートに並ぶゼノ・アストラ。現状、陸戦部隊は防御が手薄になっている。そこを補うように味方の盾になり、体制を整える時間を作る。

 全体を見極め斬り込むショウたち同様、槇菜の役割もまた個人的な感情に支配されていてはいけないものだった。そして、槇菜はそれをやってのけている。

 

トビア

「……優しい、か。そうだな。その優しさがなきゃ、マシンに乗る資格なんてないのかもしれないな」

槇菜

「トビア君……?」

 

 機械の鎧は、人に全能感を与える。その全能感に驕らず、正しく在ろうとする姿。それこそが聖戦士なのかもしれない。トビアの鋭敏な感性は、それを感じ取っていた。そして、その優しさを腐らせない行動力。

 リュクスとの出会いが、エイサップにそれを与えたのだとしたらやはり、エイサップ鈴木という聖戦士を形作っているものは、リュクスへの想いなのだろう。

 

トビア

「……あの人の気持ちは、少しわかる。エイサップさんを見てるとなんか、応援したくなるというか……他人のような気がしないんだ」

 

 そういって、上空のエンペラーを見やるトビア。エンペラーでトビアの帰りを待っている少女……ベルナデット・ブリエットの顔が一瞬、槇菜の脳裏に浮かぶ。

 

槇菜

「そっか……ねえ、トビア君」

トビア

「ん?」

槇菜

「後でさ。ベルナデットさんのこと、たくさん聞かせてね!」

 

 そう言いながら、槇菜はゼノ・アストラの巨大な盾で機械獣トロスD7の突撃を受け止める。

 

トビア

「え? は? え?」

 

 トビアは顔を真っ赤にしながら、ビーム・ザンバーでトロスを真っ二つにする。慌てている姿はコクピット越しで見えないが、それでも声だけで槇菜にも理解できるほどの動揺が見てとれた。

 

槇菜

(トビア君、案外オクテなんだ……)

 

 面白い。そう思う槇菜だった。

 

 

…………

…………

…………

 

 ネオホンコンの陸路を進むシグルドリーヴァ。神経接続スコープ越しに映る敵にミサイルを撃ちまくりながら、マーガレットは進む。

 

マーガレット

「……おかしい。主力は空で戦っているとはいえ、敵の将軍級が出ているのよ」

 

 それにしては、あまりにも歩兵部隊は手薄。無論、こちら側の陸戦部隊は歴戦のモビルスーツ・パイロットや伝説のシャッフル同盟が中心になっている。敵の軍団に見劣りしない一騎当千の強者だ。しかし、それにしても。

 

ハリソン

「…………何を考えているんだ?」

 

 ツーマンセルで編隊を組むハリソンのF91。彼が前衛に出て敵を引きつけ、シグルドリーヴァで敵を撃ち落とす。その陣形を取りながら、マーガレットとハリソンは進んでいた。

 

マーガレット

「……妙です。いくらマジンガーやダンクーガが空で戦っているとはいえ、地上侵攻部隊はこんなに手薄になりますか?」

 

 火力の過積載とでも言うべきシグルドリーヴァは、避難民のいる場所では余計な犠牲を生み出しかねない。それはヴェスバーを持つF91もそうであり、彼らが進んでいるのはあくまで既に攻め落とされている市街地。しかし、それにしては敵が手薄だと、マーガレットは感じていた。

 

ハリソン

「言われてみれば……」

 

 ハリソンは、ミノフスキー粒子の反応が薄いのを確認すると、他の陸戦部隊へ通信を送る。

 ミノフスキー粒子を撒布しての白兵戦は、戦場の主役をモビルスーツという鎧を纏う機動戦士にしてしまった。しかし、ミケーネ帝国はミノフスキー粒子の技術を持っていないらしくそれを使わない。だが、一世紀に渡る機動戦士達による戦いの歴史は、広域通信を使用する電波誘導兵器の技術を完全に過去のものにしてしまっていた。

 だが、結果だけを言えば堅牢な装甲を持つ戦闘獣を相手に弾道ミサイルのような兵器は通用しないと言える。彼らの頭脳、心臓。そういったウィークポイントを狙い確実に叩く必要があるからだ。その点で、モビルスーツは結果的に最良の兵器だった。

 そして、今は通信もクリアに使える。すぐにキンケドゥとトビア、ジョルジュとチボデー、アルゴとサイ・サイシーらはハリソンの通信に応えてくれた。

 

チボデー

「ああ、俺も気になってた。この程度なら、デスアーミーの大群の方がよほど脅威だぜ」

キンケドゥ

「敵の大物をアムロさん達が倒した影響もあるだろうが……妙だな」

 

ハリソン

「何かの罠か……それとも」

 

 そう呟き、青いF91が瓦礫の中に足を踏み入れたその時だった。

 

トビア

「なっ……!?」

キンケドゥ

「これは……!?」

 

 勘の鋭い2人が、真っ先に声を上げる。それに続いて、チボデーも、ジョルジュも、サイ・サイシーも、アルゴも、ハリソンも、マーガレットも強烈な頭痛に襲われるのだった。

 

マーガレット

「何、これ……!?」

 

 重い。あまりにも重い。まるで万力で頭を締め付けられるような感覚。はじめて感じるほどの頭痛に、操縦桿を離し、頭を抱えるマーガレット。

 

ハリソン

「み、ん、な、っ……?」

 

 ようやく、ハリソンはそれだけ呟いた。頭痛の影響なのか、目が霞む。とても戦える状態ではない。次第に数多だけでなく、腕も、脚も、身体全体が重くなっていく。

 倦怠感。まるでインフルエンザに罹り、高熱にうなされている時のような感覚。いや、それよりも遥かに辛い。

 

アルゴ

「………………ヌッ!」

 

 皆が膝を折り頭を抱える中、アルゴ・ガルスキーだけは立ち続けていた。しかし、それでも量の腕を掲げるだけで額にジワリとした汗が流れる。

 

キンケドゥ

「な……何が、起こって?」

 

 キンケドゥの呟きと同時……彼らの脳裏に、不気味な声が響き渡る。クスクスという笑い声。頭の中に反響し、小さくこびり付く笑い声は次第に大きくなる。まるで呪い歌のように、声はキンケドゥ達を追い詰めていく。

 

???

「ケケケ…………」

 

 霞む視界の中で、キンケドゥが見たのは死神だった。死神。そうとしか形容のできない巨大な影。窪んだ眼窩と命を刈り取る巨大な鎌を持つそれは、キンケドゥ達を嘲笑っていた。

 

キンケドゥ

「な、何者だ……?」

 

 F91はビーム・ライフルを構える。しかし、もうそこにはいない。残像、幻覚。そんな言葉が一瞬脳に溢れるが、それ以上キンケドゥの意識は続かなかった……。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 その異変は、空で戦うメンバーにも表れはじめていた。最初に違和感を抱いたのは、ドモン・カッシュだった。

 

ドモン

「風雲再起……!?」

 

 愛馬が、震えている。そしてけたたましく吠え、何もいない所を威嚇する。こんなことは、はじめてだ。風雲再起は、元々師匠・マスターアジアの愛馬としてよく訓練されている。どのような戦場でも常にマスターアジアの、そしてドモンの指示に従い互いの信頼を示す愛馬だ。それが、こんなところで気を散らすなど。

 

鉄也

「どうした、ドモン……!?」

 

 鉄也が叫ぶ。と同時、鉄也の身にも異変が起きていた。

 

鉄也

「ヌッ…………!? く、ウォ……!」

 

 胸が、痛む。まるで心臓に杭を打ちつけられたかのような痛みを受け、鉄也は咄嗟に胸を押さえてしまう。

 

バーダラー

「隙ありだっ!」

 

 怪鳥将軍バーダラーの鋭い鉤爪が、一瞬動きを止めたグレートマジンガーに襲い掛かった。決して避けられない攻撃ではない。しかし、それは操縦桿を握り、戦闘に集中している時の話。今の鉄也ではその攻撃を避けることも、受け止めることもできなかった。バーダラーの鉤爪はグレートマジンガーの肩を抉り、強烈な回し蹴りを炸裂させる。無防備なグレートは、それをもろに受け地上へ急速に落下していく。

 

甲児

「鉄也君!? グッ……!」

 

 その異変は、マジンガーZの兜甲児にも起きていた。胸の痛みに喘いだ瞬間を、鳥獣型戦闘獣の群れがマジンガーZを呑み込んでいく。

 

槇菜

「甲児さん、鉄也さん……!? っ!?」

 

 援護に回ろうとする槇菜。しかし次の瞬間、槇菜は首を絞められたかのような急激な圧迫感に襲われる。

 

「どうしたんだ……どうなってやがる!?」

 

 叫ぶ忍。忍もまた、不思議な閉塞感を感じ全身に鳥肌を立てていた。

 

バーダラー

「ククク……。どうやら、成功したようだな」

 

 バーダラーが言う。すると、バーダラーの隣に茫、と影が浮かび上がった。髑髏のような眼窩と、死神を思わせる鎌を持つ戦闘獣……。

 

ハーディアス

「ケケケケケケ! 貴様らは、この悪霊将軍ハーディアス様の術にかかったのよ!」

 

 悪霊将軍ハーディアス。ミケーネ七大将軍が一人。その不気味な姿と共に、エンペラーの後方を悪霊戦闘獣の軍団が迫っていた。

 

早乙女

「…………バーダラーは囮、本命はお前達と言うわけか」

 

 エンペラーの艦長席で、早乙女は忌々しげに呟く。鳥獣型戦闘獣との戦いで、戦力のほとんどを展開しているエンペラーの背後はまさに手薄。今から後方に主力を下げようにも、ハーディアスの悪霊術で士気は大幅に低下している。

 早乙女自身も、その影響を受けているのか顔色はどこか青い。

 

ハーディアス

「ケケケケケケ! その通り、もはやお前達は生贄の羊同然。さぁて、どう料理してやろうかしらねえ!」

 

 不気味なハーディアスの嗤い声が、耳に障る。

 

槇菜

「なっ……はっ……?」

 

 首を絞められる圧迫感に喘ぎながら、槇菜はゼノ・アストラに念じる。動いて、と。操縦を必要とするマジンガーと違い、ゼノ・アストラはそれでもある程度の操作ができた。しかし、纏まらない思考ではそれ以上の指示はできない。ただ、漆黒の機体は目の前に現れた二人目の将軍を見据える。しかし、槇菜の意識が薄れるにつれて、次第に光の翼が消えていく。翼を失い、ゼノ・アストラはその巨体を地上へと落下させていった。

 

エイサップ

「槇菜!? ……くそっ!」

 

 ナナジンが助けようとするが、エイサップも激しい嘔吐感に苛まれている。目の前の戦闘獣の相手をするのにも梃子摺る始末で、とてもじゃないがゼノ・アストラを追いにはいけない。

 

ハーディアス

「ケケケケケケ! 旧神の巫女、それに兜甲児と剣鉄也。この3人には予め呪いがかかっていたのよ。戦闘獣ダンテの呪いがね!」

甲児

「ダンテ、だと…………?」

 

 ダンテ。以前甲児と鉄也、それに槇菜が倒した戦闘獣軍団のリーダー格。どうやら、奴は最期に3人に呪いをかけていたらしい。

 

ハーディアス

「そう。お前達の心臓は、ダンテのかけた死後の呪い……それを私が強化し、発動させたのさ。その術式の準備に少々手間取ったけどね!」

 

竜馬

「きったねえ真似を使いやがって。男なら正々堂々勝負したらどうだ!」

 

 そう叫びながら、トマホークで戦闘獣を破砕するゲッター1。しかしグレートとゼノ・アストラを助けに行こうとしようにも、すぐに次の戦闘獣が襲い掛かる。ゲットマシンに分離し掻い潜ることもできたが、あまりの乱戦の中でそれは敵に背中を見せるのと同義だった。

 

バーダラー

「よくやったハーディアス。これで連中の戦力は半減。そして憎きマジンガーと忌まわしき旧神はもはや倒したも同然。これで我々の勝利は確実となった!」

 

 バーダラーが叫ぶと共に、彼の率いる鳥獣型戦闘獣軍団も嘶く。そして迫る、ハーディアスの悪霊型戦闘獣軍団。

 

ドモン

「おのれ……!」

 

 頭痛や嘔吐感。あらゆる不調に苛まれながらも、戦闘獣を撃破していくゴッドガンダム。しかし、ドモンもハーディアスの呪いの影響を受けているのかその技のキレに精彩を欠いていた。

 今の状態では、必殺の石破天驚拳はおろか、爆熱ゴッドフィンガーの使用もままならない。いや、この状態で必殺技を撃てば、それだけでドモンの気力を大きく削ぐことになる。

 

沙羅

「忍!」

「ああ……。こういう野郎の相手ははじめてじゃねえ。みんな、気を強く持て!」

 

 叫ぶ忍だが、ダンクーガの動きも重い。パルスレーザーを斉射し敵を迎撃しているが、それもいつまで持つか。

 

ミチル

「左舷、ゲッタービーム弾幕薄いわ。何やってるの!?」

 

 過酷な状況に慣れているパイロット達でも辛い呪いの空間。研究が中心の早乙女研究所所員達の不調はそれ以上のものだった。エンペラー乗組員達の中で今まともに意識を保っているのは早乙女博士とミチル、それに特務自衛隊の面々だけである。

 ゲッターエンペラーといえど、乗組員がまともに機能しないのであればその性能を十分に生かすことはできない。やがてエンペラーは、悪霊型戦闘獣の集団に包囲されていた。

 

戦闘獣

「…………!?」

 

 戦闘獣ズカールの舌がエンペラーの顔を舐める。溶解液を纏う戦闘獣の舌は、エンペラーの装甲を爛れさせた。

 

早乙女

「…………ウッ!?」

 

 口元を抑え、呻く早乙女博士。

 

ミチル

「お父様……!?」

早乙女

「ワシのことはいい……! エンペラーの操舵を急げッ!」

 

 機銃の弾幕を掻い潜る戦闘獣軍団に追い詰められるエンペラー。敵の攻撃は勢いを増し、自軍の戦力は次第に弱まっていく。

 

鉄也

「グッ…………」

槇菜

「ウ、ウゥ……」

甲児

「クッソッ……」

 

 今、彼らは最大の窮地に立たされていた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 その窮地を、一人の男が静かに見据えていた。

 

チャップマン

「…………なるほどな」

 

 ジェントル・チャップマン。デビルガンダムの力で蘇り、そしてゲッター線の光で蘇った男。チャップマンはその鋭い眼光を光らせながら、エンペラーの通路を歩いていた。

 エンペラーに収容された後、チャップマンは一時的に医務室に運ばれ、身体検査を受けていた。その結果はまだ出ていないが、DG細胞の影響を受けて蘇生した身体は、生前に彼を蝕んでいた病からは解き放たれている。それを、チャップマンは感じている。

 加齢と激闘で弱ったはずの身体に、全盛期と違わぬ闘気が満ち満ちている。それが、今のチャップマンだった。

 

チャップマン

(しかし……デビルガンダムの影響かゲッター線の影響かはわからぬが、私は呪いとやらに耐性を持っているらしい)

 

 或いは、ハーディアスの生者を蝕む呪いは死者には効かないのかもしれない。それはともかく……チャップマンは今、この状況で数少ないまともに動ける一人だということだ。

 そして、もう二人。

 

シャア

「……どうやら、君も呪いとやらの影響を受けていないようだな」

チャップマン

「…………お前達は」

 

 シャア・アズナブルとアムロ・レイ。機械獣との戦いで消耗したマシンの補給のために一時帰投していた二人もまた、チャップマン同様にハーディアスの呪いを強く受けずに行動できている。2人は、補給を終えたZガンダムと、予備機としてべギルスタンでエンペラーに搬入されたモビルスーツで再び出撃しようとしていた。

 

アムロ

「……どうやら、まともに動けるのは俺たちだけらしいな」

チャップマン

「ああ。しかし……」

 

 どの道、3人で倒せる相手ではないだろう。この状況で彼らがやるべきことは、ハーディアスの呪いをどうにかする。その一点になるだろう。

 

シャア

「奴は、術式の準備に手間をかけたと言っていたが……」

アムロ

「それを破壊すれば、呪いは止まると思うか?」

 

 チャップマンもそうだが、アムロもシャアも“呪い”などという現象の対処はしたことがない。それでも、ハーディアスの言葉の端々からヒントを類推することはできる。

 

アムロ

「……機動力の高いゼータで、ハーディアスを撹乱する。その間にシャアは、術式を解除してくれ」

シャア

「わかった。やってみよう」

 

 そう言って再びウェイブライダーに乗り込むと、アムロはまた発進する。悪霊戦闘獣の攻撃を避けながら、ウェイブライダーは敵陣を突っ切っていく。それを見送りシャアも、予備機のモビルスーツに乗り込んでいく。

 シャアの乗る赤いモビルスーツは、多国籍軍で持て余していた機体だ。武装は強力だが、扱えるパイロットがいなかったという。百式が使っていたドダイ改を履き、赤いモビルスーツはそのモノアイを光らせる。

 

シャア

「シャア・アズナブル、出るぞ!」

 

 そして発進したシャアを見送り、残るはチャップマン1人。

 

チャップマン

「さて……。昔取った杵柄というものを、若僧共に見せてやろう!」

 

 ジョンブルガンダムに乗り込んだチャップマンは、エンペラーの上に立つ。そして大型のビームライフルを構え、エンペラーの周囲を取り囲む戦闘獣ズカール。その眉間に一撃。

 一瞬の間に頭部を撃ち抜かれた戦闘獣は、力なく落ちていく。さらに別の戦闘獣目掛けて、チャップマンは狙撃。ゴッドガンダムの背後を取っていた戦闘獣はその一撃を急所に受けて瞬く間に爆散していく。

 

ドモン

「チャップマン……!」

チャップマン

「まだ動けるか若僧。俺が援護する」

 

 かつて、ドモンのシャイニングガンダムを苦しめた強敵・ジョンブルガンダム。それが今、ドモンの後ろを、エンペラーを守るために戦っている。その強さを、ドモンは誰よりも知っていた。

 

ドモン

「チャップマン……恩に切るぜ!」

 

 渾身の力を振り絞り、目の前の戦闘獣をゴッドスラッシュで切り裂いたゴッドガンダムは、落下するグレートマジンガーとゼノ・アストラを追い降下していく。

 敵の攻撃を必死で振り切ったナナジンも、ゴッドガンダムに続いていく。それを追おうとする怪鳥将軍バーダラーを、ヴェルビンとダンバインが必死に抑えていた。

 

バーダラー

「ええい、小賢しい羽虫どもめ!」

ショウ

「くっ……オーラ力が上がらない!」

チャム

「ショウ、押されてるわよ!?」

 

 バーダラーの翼が、ヴェルビンを薙ぎ払う。しかし、その隙を突くようにマーベルのダンバインがワイヤークローでバーダラーを抑える。

 

マーベル

「ショウ……っ!?」

 

 しかし、ショウもマーベルも呪いの影響か満足にマシンの性能を引き出せないでいた。今できるのは、時間を稼ぐことくらい。

 

ショウ

「頼むぞ、エイサップ!」

エイサップ

「はい……!」

 

 ゴッドガンダムに合流したナナジン。それぞれにグレートマジンガーとゼノ・アストラを追い加速していく。

 超合金で作られた機体は無事でも、この高度で落下すればかかるGでパイロットは無事では済まない。なんとしてでも、助けなければ。

 

ドモン

「頼むっ! 間に合ってくれ!」

エイサップ

「待ってろ!」

 

 加速に加速を重ね急降下する2機。呪いの影響をダイレクトに受け、意識を保つこともままならない鉄也と槇菜を助けるために急ぐ。

 そして、2機の魔神が大地に激突するその直前。ナナジンの腕はゼノ・アストラを、ゴッドガンダムはグレートマジンガーをそれぞれに掴んでいた。

 

…………

…………

…………

 

シャア

「ゲーマルク……。よくこんな機体が残っていたものだな」

 

 ゲーマルク。かつてハマーン・カーン率いるネオジオン軍で開発されたニュータイプ専用の重モビルスーツ。その巨体に、戦闘獣が迫る。しかし、敵意を敏感に感じ取るシャアの感性は戦闘獣の攻撃をその巨体に似合わぬ華麗な動きで交わし、腹部のメガ粒子砲を浴びせる。ビーム・ライフルなどとは比べ物にならない強力な粒子砲を内蔵するゲーマルクは、旧世代モビルスーツでありながら火力に関しては最先端のモビルスーツ……それこそF91をも凌駕する超高火力、高出力モビルスーツ。

 ゲーマルクで敵陣に穴を開けながら、シャアは再び地上へ降下していく。地上では、ゴッドマジンガーが単騎で機械獣の軍団と戦っていた。

 

ヤマト

「クッ、みんな……目を覚ましてくれ!」

 

 ゴッドマジンガーの加護を受けているのか、ヤマトは他の面々に比べて軽症のようだった。しかし、ゴッドマジンガーの動きはやはり、やや鈍い。シャアはゲーマルクの指の中に仕込まれている拡散メガ粒子砲を放ち、ゴッドマジンガーに群がる機械獣を次々と撃ち落としていく。

 

ヤマト

「た、助かった……!」

シャア

「ヤマト君、君は無事か?」

ヤマト

「ああ。だけど地上部隊のみんなは、旧に意識を失っちまったみたいで……」

シャア

「……なるほど」

 

 シャアは推測する。とすれば、呪いを増幅している仕組み。この場合術式とやらが付近にあるのかもしれないと。

 

シャア

「よし、ヤマト君。私と共に来てくれ」

ヤマト

「どうするんだ?」

シャア

「おそらく、近くに敵の呪いを増幅する依代があるはずだ。それを叩く」

 

 ドダイの補助を受けて進むゲーマルク。それに続くゴッドマジンガー。ゲーマルクの備える圧倒的な兵装の数々は、2機に迫る機械獣を次々と粉砕していく。普通のパイロットなら、こんなことはできない。生半可なパイロットでは、多種多様な武装を持つゲーマルクの性能を半分も発揮できず、機械獣に取り付かれて終わるだろう。ゲーマルクという機体は、それほどに多種多様な装備を持ち、その選択肢の多さで強みを押し付けるモビルスーツだ。有効打になる一撃を瞬時に選び、最大限の効果を発揮できるパイロットでなければ、まともに使いこなすこともできない。

 しかも、その機体制御にはサイコミュが使われている。サイコミュに適応し、瞬時に的確な判断で敵を追い詰めることのできるエースパイロット……つまり、シャア・アズナブルでなければ、こんな機体は使いこなせなかった。

 ドダイに乗るゲーマルクが先行し、ゴッドマジンガーが続く。進んでいくと、膝を折り屈むドラゴンガンダムと、ボルトガンダムを2人は発見した。

 

ヤマト

「おい、お前ら!」

シャア

「よせ、気を失っているだけだ。しかし……」

 

 シャアの五感を刺激する瘴気。やはり、この奥にハーディアスの呪いを増幅する何かがある。そう、シャアは直感した。

 

ヤマト

「しかし、なんて嫌な感じだ。マジンガーの加護がなかったら、俺も危ないところだったぜ」

シャア

(だが、私とアムロ。それにチャップマンはさほど感じてはいない。これは……)

 

 と、その時だった。シャアの踏み込んだ先……瓦礫の山になっている繁栄の暗部。その奥に、小さな洞窟があるのを発見する。洞窟に近寄れば近寄るほど、瘴気は濃くなっていく。

 

シャア

「…………ここだな」

ヤマト

「お前も感じたのか?」

 

 どうやら、ヤマトも同じように何かを感じたらしい。ゲーマルクのモノアイとゴッドマジンガーの目が合い、シャアとヤマトは頷き合う。

 

シャア

「…………よし、洞窟へ突入する!」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

——???——

 

鉄也

「う…………。ここは……?」

 

 鉄也の視界が戻った時、そこに広がっていたのは燃え盛る業火だった。業火の中、グレートマジンガーが燃えている。その熱さを感じ、鉄也は呻く。

 

???

「剣鉄也……お前は地獄に落ちたのだ」

鉄也

「何、地獄だと……?」

 

 業火はさらに燃え盛る。さらに髑髏の兵士達が現れ、グレートマジンガーを取り囲み骨の杭でグレートを叩きつけていた。

 

鉄也

「ふざけるな。地獄だと? 貴様ら悪党こそ地獄へ戻れ!」

 

 叫び、グレートマジンガー必殺のブレストバーンで髑髏の兵隊を焼き払う。しかし、どれだけ撃退しようと敵は現れ続け、グレートの胸に骨の杭を打ち続ける。

 

???

「剣鉄也……。お前が落ちたのは嫉妬の大罪。お前は人を妬み、呪い、その穴に落ちたのだ……」

鉄也

「ふざけるな……俺が一体、誰を妬んでいるというんだ!」

 

 必死に抵抗するが、炎は燃え上がるばかり。謎の声は、鉄也の抗議を一笑した。

 

???

「わからぬか? ふっふっふっ……ならば教えてやろう!」

 

 炎の中に、顔が浮かび上がる。鉄也が妬み、呪う相手の顔が。

 

鉄也

「な…………。バカな……」

 

 その顔は、兜甲児。共に戦う兄弟同然の存在。甲児を中心にまとまっていく仲間達の姿。そして……自らを戦闘のプロフェッショナルとして鍛え上げてくれた兜剣蔵博士。

 それらは全て、鉄也が全幅の信頼を置く者達だ。

 

???

「わからぬか鉄也。お前は、兜甲児を呪っている……父同然に慕う兜剣蔵の実の息子。お前は、甲児に剣蔵を奪われることを恐れている。そして、血の繋がる親兄弟を持つ者達を妬んでいるのだ!」

 

 アレックス・ゴレム大佐の息子であるエイサップ鈴木。彼は親と反目しているが、鉄也には反目できる親もいない。

 ライゾウ・カッシュ博士の息子であるドモン・カッシュ。彼は父を取り戻すために地獄の日々を味わった。だが鉄也がどれだけ地獄を見ても、両親と出会うことなどでできはしない。

 櫻庭槇菜。姉の櫻庭桔梗と大喧嘩している真っ最中だが、鉄也には喧嘩できる兄弟もいない。

 そして、弟も父もいる兜甲児。鉄也から見れば、甲児はあまりにも恵まれている。

 

鉄也

「俺は…………」

 

 敵の言葉に、鉄也は言い返す言葉を持てなかった。それは全て、内心どこかで思っていたことだからだ。

 

鉄也

(だから俺は……常に周囲に壁を作っていた。親兄弟のいる恵まれた奴らに負けたら、俺のこれまでが否定される。そんな気がしていた……)

 

 認めてしまえば、呆気ない。嫉妬の業火に焼かれながら、鉄也は目を閉じてしまう。

 

鉄也

(こんな思いを抱えたまま戦えば、俺は必ず過ちを犯す。ならばいっそ、この呪いに焼かれて死ぬべきかもしれない……)

 

 そうして目を閉じ、呪いの炎に焼かれていく鉄也。

 

???

「フハハハハ、そうだ剣鉄也。お前はその嫉妬の炎に焼かれて死ね!」

 

 鉄也の脳に響く声が大きくなる。しかし、その声をかき消すような叫び声が、鉄也を目覚めさせた。

 それは。

 その声は。

 

???

「ふざけんな、そんなことで地獄に落とされてたまるかよ!」

 

 兜甲児。剣鉄也が妬み、呪う。その中心にあるある存在だった。

 

 

…………

…………

…………

 

—洞窟内—

 

 鉄也が呪いに苦しんでいるその頃、シャアとヤマトの2人は洞窟内を進んでいた。薄暗い洞窟内を、ゲーマルクのモノアイが照らす。

 

シャア

「熱源反応があるな……」

ヤマト

「ああ、マジンガーもそれを感じてる」

 

 薄暗い洞窟。そこには瘴気が立ち込め、マシンの鎧なしには人が進むことも憚られる。やがてその奥に、仄かな灯りが灯っているのをシャアは見た。

 

シャア

「…………邪気か!」

 

 ゲーマルクの装備は、狭い洞窟内では危険なものが多い。メガ粒子砲などはもっての外。下手をすれば生き埋めになるだろう。ゲーマルクは、肘に格納されているビーム・サーベルを展開し、突入する。

 そこでシャアが見たのは、グレートマジンガーとマジンガーZ。それにゼノ・アストラを模った人形に杭を撃つ長い髪を持つ、この世の全てを憎む老婆のような形相の戦闘獣。

 戦闘獣サイコベアーはゲーマルクの存在に気付き、その髪からニードルを放つ。シャアはビームサーベルでニードルを斬り払うとバックパックに格納されている兵器に思念を送った。

 

シャア

「ファンネル、その邪気を撃て!」

 

 ファンネル。ニュータイプ特有のサイコ・コントロールで遠隔操作される特殊兵器。本来、地上ではそのコントロール範囲が大きく狭まるが、狭い洞窟内で戦うのならばそれは問題にならない。

 ゲーマルクから展開された二基のマザー・ファンネルがサイコベアーの周囲を飛び回り口を開ける。そして、マザー・ファンネルの中に格納されている小型のチルド・ファンネルが飛び回り、四方、八方と戦闘獣を取り囲む。そこから放たれるビームの多重攻撃。メガ粒子砲に比べれば一撃の攻撃力は低い。しかし、無数のビームガンが雨霰のように飛び回るその攻撃は、サイコベアーの身動きを封じることで、ビームの波状攻撃を有効に使っている。それが、ファンネルという兵器の特徴だった。

 ビームの雨を受けながら、サイコベアーは一瞬、竦む。しかし、髪の中に忍んでいた蛇の頭ような尾を展開すると、そこから放たれた火炎がファンネルを焼き払う。

 

シャア

「チィッ!?」

 

 舌打ちするシャア。それと入れ替わりに飛び出したのは、ヤマトとゴッドマジンガーだった。

 

ヤマト

「戦闘獣め、相変わらず卑怯な手を使いやがるぜ!」

 

 魔神は剣を抜き、戦闘獣へ飛びかかる。そして、一閃。

 

戦闘獣

「…………!?」

 

 サイコベアーの老婆のような目が、ヤマトを睨んだ。念力。呪眼。憎しみを込めた瞳が、ヤマトの五感を奪っていく。しかし、

 

ヤマト

「そんな手が、俺とマジンガーに通じるか!」

 

 ヤマトは、気力でマジンガーに指示を与えていた。ムー王国の守り神ゴッドマジンガーは、その力の依代たるヤマトの心を守っている。無論、完全ではない。ヤマトもまた、ハーディアスの呪いを受けているのだ。しかし、それでも気力を振り絞りゴッドマジンガーを操縦するのに支障はない。

 荒ぶる魔神が金色に輝き、その口を開いて咆哮する。魔神パワー。ゴッドマジンガーの力が、神通力が、ヤマトを襲う呪いを吹き飛ばしていく。そして、ついに魔神の剣は、戦闘獣の顔を真っ二つにした。

 

戦闘獣

「オ、ノ、レ。“光宿りしもの”めぇ…………!」

 

 呪いの言葉を吐き、戦闘獣サイコベアーは沈んでいく。サイコベアーが溶けて消えていくと同時。グレートマジンガーとマジンガーZ、ゼノ・アストラの人形もまた物言わぬ泥人形へと変わり果てていった。

 

 

…………

…………

…………

 

鉄也

「ウ……。俺は?」

 

 剣鉄也が目を覚ました時、最初に見たのはゴッドガンダムの姿だった。悪い夢を見ていたのを、鉄也ははっきりと覚えている。

 

ドモン

「気がついたか……!」

 

 ドモンを襲っていた倦怠感も、急速に晴れていくのをドモンは感じていた。それと同時、全機に通信が入る。

 

シャア

「こちらシャア・アズナブル。敵の呪いを増幅していた術式を破壊した。みんなはどうだ?」

鉄也

「あ、ああ。気分爽快だぜ」

 

 グレートは立ち上がり、スクランブルダッシュを展開する。そしてゴッドガンダムと共に、激戦の空へ駆け上がっていく。

 

鉄也

「……ドモン・カッシュ」

ドモン

「何だ?」

 

 その僅かな時間の中、鉄也はドモンに訊いた。

 

鉄也

「お前は、仲間を羨ましいと思ったことはあるか?」

ドモン

「そんなことか」

 

 ドモンは恥ずかしそうに笑って言う。そして、言葉を続けた。

 

ドモン

「母は死に、父は冷凍刑。そして兄と師匠を失った。俺はいつだって、不幸のどん底にいるような気分だったぜ。周りの人間全員が、幸せなボンボンに見えて仕方がなくなるんだ」

鉄也

「…………」

 

 それは、まさに今の鉄也と同じ。鉄也が羨ましく思っていたその人が、同じ苦しみを抱いている。その事実を鉄也は、無言で受け入れる。

 

ドモン

「だが、そんな俺を救い出してくれた仲間がいる。そして……そんな俺だから手に入れることができた、小さな幸せがある。俺が戦うのは、シャッフルの使命だけじゃない。そんな小さな幸せを、堂々と受け入れられる男になるためだ!」

 

 叫び、ゴッドガンダムの背中に日輪が射した。日輪の光を浴び、ゴッドガンダムは金色に輝き始める。

 神々しい。それを鉄也は、素直に受け入れていた。

 

 

 

エイサップ

「槇菜、気づいたか……!」

槇菜

「う……。エイサップ兄ぃ?」

 

 それと同じ頃、ゼノ・アストラの槇菜も目を覚ます。ナナジンのキャノピーを降ろし、エイサップは槇菜を見つめていた。

 

エイサップ

「大丈夫か?」

槇菜

「う、うん……」

 

 暗転した意識の中、槇菜もまた呪いに苛まれていた。ゼノ・アストラ。荒れ狂う旧神の巫女として、槇菜は悪夢の中で全てを滅ぼしていた。

 日常の象徴だった学校も。仲の良かったクラスメイトも。エイサップのバイトしていたカフェも。共に戦っていたはずの仲間達も。それに、大好きなはずの姉・桔梗も……。

 

槇菜

「こわい……」

 

 悪夢が。ではない。その悪夢を現実にしてしまう可能性がだ。事実、ゼノ・アストラは中学校の体育館を潰し、怒りに任せて槇菜は姉と戦った。

 旧神。そう呼ばれたゼノ・アストラもまた、神にも悪魔にもなれる力なのだ。いや、人の心と身体を守る鋼鉄のマシンは、平気で守るはずの人間から人間性を奪う。

 槇菜が今まで槇菜らしさを失わずにいられたのは、「この力で誰かを守れるのなら」そんな思いがゼノ・アストラを守護神にしていたからだ。だが、この力に驕れば人は瞬く間に悪魔になる。

 悪夢という形で現実を直視し、槇菜はそのことに思い至っていた。

 

エイサップ

「…………そうだよな。怖いよな」

 

 エイサップは、そんな槇菜の思いを感じ取ったかのように相槌を打つ。彼の履く“リーンの翼の沓”を一瞥し、それからナナジンを見やる。

 

エイサップ

「俺も怖い。オーラマシンは、人の生体エネルギーを力にすることができる。だけどそれは、怒りや憎しみ。そんな負の力までも原動力にしてしまうってことなんだ」

槇菜

「うん…………」

 

 理解できる。ゼノ・アストラもそうなのだから。エイサップは、意を結したように頷くと、槇菜の目を見て言葉を続ける。

 

エイサップ

「俺が、憎しみや怒りに飲み込まれないで今日まで戦えたのは別に、聖戦士だからとか、リーンの翼の力とか、そんな大それたもんじゃない。現にリーンの翼は、俺が出ろと念じてもまるで言うことを聞かないんだ」

槇菜

「エイサップ兄ぃ。それは……」

エイサップ

「俺は摩訶不思議なものに選ばれたから戦ってるんじゃない。例え何があってもエイサップ鈴木でいる。そのために、戦うんだ」

 

 そう言うと、エイサップは槇菜の下を離れナナジンへと戻っていく。ナナジンは、再びミケーネの大将軍との戦いへと翔び立った。槇菜は、そんなエイサップの背中を見送りながら彼の言葉を反芻していた。

 

槇菜

「どこにいても、エイサップ鈴木でいるために……」

 

 リュクス、エレボス。ショウやマーベルに、ジャコバ・アオン。それにリーンの翼とサコミズ王。エイサップの周囲には、気づけば様々なものが増えそして、エイサップにそれぞれの思いを託している。

 そんな中にあって、誰かのためではなく自分が自分でいるために戦う。それは、自らを戦うためだけのマシンにしてしまわないための、エイサップなりのゲッシュなのだ。そう、槇菜は気付いた。

 

槇菜

「もうっ……!」

 

 エイサップ鈴木という青年は、やはり優しいのだ。その優しさで殺生が絡む戦いに身を投じているのだ。しかし、エイサップは。

 

槇菜

「どれだけ遠くに行っても、エイサップ兄ぃは私の大好きなエイサップ兄ぃのままでいてくれるんだ……」

 

 彼がリュクスに想いを寄せていることなど、それに比べればどれほどの些事だろう。そして、自分の前で背中を見せて戦ってくれる優しい青年を見れば、自分にだってという気持ちが沸く。

 

槇菜

「ゼノ・アストラ。私はあなたの巫女なんかじゃ……あなたの意志に支配される存在じゃない」

 

 櫻庭槇菜は。

 

槇菜

「私は、あなたの相棒。相棒なら相棒らしく……一緒に戦おう!」

 

 ゼノ・アストラに刻まれる邪悪なる敵と。

 櫻庭槇菜の愛する世界を脅かす脅威と。

 ゼノ・アストラの瞳に、再び光が宿る。そして、虹色の翼を広げ、旧神は飛翔した。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

ハーディアス

「何と……何ということだ!?」

 

 悪霊将軍ハーディアスは、自らの編んだ術を破られた事を悟り驚愕していた。呪いが解け、士気を取り戻したスーパーロボット軍団は圧巻の強さで戦闘獣軍団を蹴散らしていく。

 

「行くぜみんな! 断空砲フォーメーションだ!」

 

 「OK忍!」沙羅、雅人、亮の声が重なると同時、ダンクーガの背中に背負う巨大な砲門と、腰から展開された二門。そして胸のパルスレーザーの全てが開かれ、超高出力の一撃が鳥獣型戦闘獣の軍勢を焼き払っていく。

 

ドモン

「超級! 覇王! 電影弾!?」

 

 金色に輝いたゴッドガンダムは、自らを巨大な竜巻に変えて突っ込んでいった。その勢いは悪霊型戦闘獣の集団を薙ぎ払い、一掃していく。そして、撃ち漏らした敵を次々と撃ち落としていくものがいた。

 

チャップマン

「どうやら、うまく行ったようだな」

 

 チャップマンのジョンブルガンダムだ。ジョンブルガンダムの性格無比な狙撃は、確実に戦闘獣の頭脳を撃ち抜いていく。

 

アムロ

「ああ。奴が“やる”と言ったなら必ずやってくれる。信じていたぞ、シャア」

 

 怪鳥将軍バーダラーの攻撃を避けながら、Zガンダムはグレネードランチャーをばら撒く。グレネードを受けたバーダラーは、その煙幕で一瞬視界を失う。

 

バーダラー

「おのれ、小賢しい!?」

 

 羽撃きで煙幕を振り払った時、バーダラーの目の前に飛び込んできたのは真紅の赤鬼だった。

 

竜馬

「随分とナメたことしてくれたな。こいつはお返しだ!」

 

 ゲッター1の腹部に、エネルギーが収束する。そして、一気に放射。

 

竜馬

「ゲッタァァァァッッビィィィィィッム!」

 

 ゲッタービーム。超高熱の光をモロに浴び、バーダラーの鎧が溶け爛れていく。

 

バーダラー

「クッ!? こんなはずでは……」

 

 ビームを振り払い逃げた先……そこに、待っていたのは、人の生体エネルギーを吸い強くなる異世界のマシンだった。

 

ショウ

「マーベル、合わせろ!」

マーベル

「よくってよ、ショウ!」

 

 深緑のオーラバトラー・ヴェルビンと、藤色のオーラバトラー・ダンバイン。オーラ力を増幅させ、握る剣にオーラを込める。2機のスピードは、ミケーネ最速を誇るバーダラーに追随し、そして追い越した。

 

バーダラー

「ば、バカなッ!?」

チャム

「いっけぇぇぇぇぇっ! ハイパーオーラ斬りだぁっ!?」

 

 ヴェルビンのオーラソードに蓄えられたオーラ力が放出される。それにより実体以上の質量を凝縮されたオーラソードが、怪鳥将軍バーダラーを貫いた。そして、

 

マーベル

「これで、トドメ!」

 

 ヴェルビンが串刺したその直後、ダンバインがさらにオーラ斬り。ショウとマーベル。2人のオーラ力が重なり合い、凄まじいオーラの奔流がバーダラーを襲う。その一撃は、確実にバーダラーの心の臓を貫いていた。

 

バーダラー

「おのれ……人間どもめ。我らミケーネに、この大空をぉォッ!?」

 

 断末魔の悲鳴と同時、剣を振り抜くヴェルビン。爆炎に包まれるバーダラーを、ショウは憐れむように見つめていた。

 

ショウ

「この空は、奪い合うものじゃないんだ。奪い合い、殺し合うことで全てを手に入れようとする……俺は、お前達のその邪念を断つ!」

 

 

 

ハーディアス

「バーダラー……!?」

 

 おのれ。そう呟いた瞬間、ハーディアス目掛けて飛び込んできたのはロケットパンチだ。ハーディアスはそれを躱し、憎きマジンガーZを見やる。

 

甲児

「よくもやってくれたな、悪霊将軍ハーディアス!」

 

 光子力ビームを放ちながら、紅の翼を広げマジンガーZは飛ぶ。ロケットパンチが戻ってくる僅かな時間を生かし、ドリルミサイルの斉射。ハーディアスは盾でそれを防ぎ、マジンガーZ目掛けて鎌を投げた。しかし、その鎖鎌は届かない。

 

鉄也

「グレートブーメラン!」

 

 偉大な勇者・グレートマジンガーのグレートブーメランが、鎖を断ち切ったのだ。ハーディアスは鎌を拾うために動くが、その動きを見切ったかのようにネーブルミサイルが飛び、命中する。ミサイルが爆ぜ、ハーディアスの身体に大きなダメージを与えた。

 

ハーディアス

「兜甲児、剣鉄也……!」

 

 それでも鎌を拾い上げ、ハーディアスは怨敵を睨む。

 

甲児

「鉄也君……!」

鉄也

「話は後だ甲児君! 今はこいつに、引導を渡す時だぜ!」

 

 マジンガーブレードを構え、グレートが飛ぶ。マジンガーZもそれに続き、ハーディアスを2対1で追い込んでいく。

 

鉄也

「ブレストバーン!」

甲児

「ブレストファイヤー!」

 

 2体のマジンガーは、胸の放熱板から超高熱を発射した。それを受け、ハーディアスは怒りと憎しみに窪んだ眼窩で魔神を睨め付ける。

 

ハーディアス

「どういうことだ、お前達は互いに憎み合っている。私の呪いでそれを自覚したはずだ!」

鉄也

「……黙れっ!」

 

 ハーディアスの言葉を遮り、グレートマジンガーはブレストバーンの出力を上げる。マジンガーZの甲児も、ハーディアスには完全に頭に来ていた。

 

甲児

「確かにな、鉄也君は俺とシローがおじいちゃんと暮らしていたその頃に、お父さんと暮らしていたんだ。それが羨ましいと思ったさ!」

鉄也

「甲児くん……」

甲児

「だけどな、お父さんはお前達ミケーネと戦うために、家族の幸せを捨てたんだ! 俺は、そんなお父さんの力にもなれず、お父さんを殴るしかできなかった!」

 

 自分に、シローに寂しい思いをさせた父。甲児だって、その父が生きていたからと言って心の整理ができていたわけではない。あの時、だから一発だけ殴る。それしか自分と父の関係を清算する手段を思いつかなかった。そんな不器用な自分が歯痒い。甲児の中で渦巻いていた思いはやがて、その間ずっと剣蔵と共に過ごしていた鉄也への羨望に変わっていた。

 

甲児

「俺も、鉄也君も、みんながみんな苦しんでたんだ! それをてめえ、弄びやがって!?」

 

 貴様だけは絶対に許さない。甲児の怒りに応えるように、マジンガーZはスペック以上の力を発揮し、ハーディアスを追い詰めていく。

 

ハーディアス

「調子に、乗るなぁぁっ!?」

 

 ハーディアスは、ブレストファイヤーとブレストバーンの波状攻撃から消えるようにして脱出すると、マジンガーZの背後に回り込んだ。

 

甲児

「何っ!?」

ハーディアス

「俺は悪霊将軍ハーディアス! 悪霊の実体は、掴めねえんだよぉっ!?」

 

 鎌を大きく掲げ、マジンガーZへ振り下ろすハーディアス。しかし、その右腕に突如として突き刺さる破邪の爪。

 

槇菜

「だったら……これならどう!?」

 

 ゼノ・アストラ。旧神の爪がワイヤーで伸び、ハーディアスの腕に突き刺さっていたのだ。痛みに呻くハーディアス。

 

ハーディアス

「旧神の印が刻印された爪、だとぉ……」

槇菜

「そんなの、知らない。私は……あなたを絶対に赦さない。だから!」

 

 ゼノ・アストラの虹色の羽根が羽撃き、舞い落ちた羽根は悪霊将軍ハーディアス目掛けて飛ぶ。一枚一枚が、邪悪なものを滅する熱を伴う羽根。その羽根を受けて、ハーディアスは絶叫した。そして、

 

エイサップ

「今だっ!」

 

 飛び込んだのは、燃え盛る剣を構えたオーラバトラー・ナナジン。ナナジンはその小さな体躯でハーディアスの周囲を飛び回る。小賢しい。そう言ってハーディアスは窪んだ眼窩からビームを放ち迎撃するが、ナナジンはそれを交わしていく。

 

エイサップ

「不意打ち騙し討ちで、心を踏み躙る輩が!」

 

 ナナジンのオーラフレイムソードが、ハーディアスの右目を潰した。

 

ハーディアス

「ギャァァァァァァァァッ!?」

 

 さしもの悪霊将軍も、目を潰されれば絶叫する。もはやハーディアスの命運は、尽きていた。

 

ハーディアス

「こうなったら兜甲児。貴様だけでも道連れにしてやるぅぅぅっ!?」

 

 鎖鎌にありったけの呪詛を込め、ハーディアスはその鎌でマジンガーZ目掛けて飛びかかった。ゼノ・アストラの刻印で実態を消す力を失い、もはやハーディアスの命は風前の灯。それでも、ドクターヘルの代から続く怨敵兜甲児だけでもと鎌を掲げたその一瞬。

 

鉄也

「マジンガーブレード!」

 

 偉大な勇者が、ハーディアスの胴体を一閃した。

 

ハーディアス

「カ、ハ…………」

 

 真っ二つになり、悪霊将軍ハーディアスは血を吐いた。そして、潰れた目で甲児、鉄也を睨みつける。それは、この世の全てを呪う邪悪な形相だった。しかし、甲児も鉄也も今更そんなものに怯みはしない。

 

鉄也

「悪霊将軍ハーディアス、礼を言うぜ」

 

 グレートの頭上に、暗雲が生まれる。そして、落ちてきた雷を避雷針が吸収し、そのエネルギーを指先に集めていく。

 

鉄也

「俺は、お前のおかげで自分自身の弱さに気づけた。俺は、まだまだ強くなれる!」

 

 そして放たれたサンダーブレーク。その雷は、今度こそハーディアスを焼き尽くしていく。悪霊将軍ハーディアス。ミケーネ七大将軍の一人。その最期を、鉄也達は見届けた。

 

ハーディアス

「お、のれ……。お許しください暗黒大将軍。そして、ミケーネに栄光あれ……」

 

 それが、悪霊将軍ハーディアス最期の言葉だった。それを聞き届け、甲児は「へっ」と吐き捨てる。

 

甲児

「この世に悪が栄えた試しはねえんだ。一昨日来やがれ!」

槇菜

「……うん。そうだよね」

 

 兜甲児もまた、どこまでも兜甲児だ。甲児の言葉で槇菜は、そう認識する。

 

鉄也

「甲児君。俺は……」

甲児

「いいんだ鉄也君」

 

 何かを言おうとした鉄也を、甲児は制した。

 

甲児

「俺達は兄弟だ。同じお父さんを持つ、血よりも深い鉄の兄弟。それでいいじゃねえか。な?」

 

 そう言って笑う甲児。その笑顔を見て鉄也も、フッと笑う。その笑いはいつものどこか斜に構えたような笑顔ではない。心の底から、すっきりとした笑みを鉄也は浮かべていた。

 

鉄也

「ああ、そうだな。急ごう甲児君、俺達のお父さんが危ない!」

甲児

「ああ!」

 

 ガシッ、と腕を組むグレートマジンガーとマジンガーZ。ミケーネ戦闘中軍団を屠り、部隊を回収したエンペラーは再び日本へ急ぐのだった。

 




次回予告
みなさんお待ちかね!
科学要塞研究所に迫る超人将軍ユリシーザー。それを迎え撃つのはビューナスAとボスボロットですが、彼らではユリシーザーに歯が立ちません!
急げ鉄也、甲児! 大事な人を救うために、今こそダブルマジンガーが協力し、ミケーネと戦う時なのです!

次回! 「死闘! 暗黒大将軍!(前編)」に、レディ・ゴー!
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