—科学要塞研究所—
敵の出現を知らせるサイレンはけたたましく鳴り続けている。科学要塞研究所もまた、ミケーネ帝国の猛攻に晒されていた。
ローラ
「おじちゃん!」
ローラ・サリバンは管制室で、葉月博士に抱きつくようにして不安がっている。そんなローラを慰めるように、愛犬ベッキーも寄り添っていた。所員達は慌ただしくコンピューターをいじり、葉月博士はそれに指示を出している。そうしながらも、不安がるローラを宥めるように、葉月博士はその左手でローラの手を握る。
しかしその目は常にモニタの向こうにいる戦闘獣を睨み、思案していた。
葉月
「よりによって、藤原達のいないこの時を狙ってきたか……」
おそらく、それもミケーネの作戦のうちなのだろう。と葉月博士は考える。ミケーネ帝国を中心とした人類の脅威を前に、マジンガーとダンクーガを中心とした人類最強の戦力を集結させる……その考えが、仇になった。
葉月
「兜博士、エンペラーは到着まであとどれくらいかかりますか?」
剣蔵
「エンペラーもどうやら、ミケーネの攻撃を受けているらしい。こうなれば、彼らが戻るまで我々だけで耐え切らねばなりますまい」
そんな話をしているうちに、相模湾を越えて戦闘獣は科学要塞研究所へ迫っていた。右腕にハーケンを持つ、緑色の悪魔めいた戦闘獣。戦闘獣ガラリア。それにどことなくマジンガーに似ているがパイルダーのある部分に戦闘獣の顔を持つ戦闘獣グレシオス。彼らは、超人将軍ユリシーザー直々にこの科学要塞研究所へ放たれた刺客。
ジュン
「所長、私がビューナスで時間を稼ぎます!」
剣蔵
「ああ、頼むぞジュン!」
頷き、管制室から駆け出していくジュン。その後ろ姿を、ローラは不安げに見守っていた。
ローラ
「おじちゃん、ジュンお姉ちゃん行っちゃうの?」
剣蔵
「あ、ああ。ジュンもまた、ミケーネと戦うための訓練は受けているからね。大丈夫だよ」
不安そうに瞳を揺れさせるローラに、剣蔵は諭すように言う。実際のところ、ジュンの訓練での成果は鉄也には及ばないものの決して劣っている数値ではない。場合によってはグレートマジンガーの操縦を任されていたのは鉄也ではなく、ジュンだったかもしれないというくらいには、日々身体を鍛えているのだ。
不安材料があるとすればジュンではなく、ビューナスAの方だ。ビューナスAはあくまで支援機として製造されたマシンであり、グレートマジンガーに比べれば装備も心許ない。
剣蔵
「光子砲、光子ミサイルの準備を急げ! ジュンとビューナスの援護をする!」
所員に指示し、剣蔵は出撃するビューナスAのパイルダー……クイーンスターを見送ることしかできない。
今はジュンの奮闘と、そして日本に向かっているはずの鉄也、甲児達が間に合うことを信じるしかできなかった。
ジュン
「クイーンスター、イン!」
白いパイルダー……クイーンスターが研究所から発信する。それと同時、海中に隠されていた女性型のロボットがジュンを迎えるように迫り上がった。ビューナスA。どこかジュンに似た褐色肌を持つ女性型ロボットは、この時のためにジュンに用意されたマシンである。ジュンのクイーンスターがビューナスの頭部に収まると、海から上がった戦女神は研究所の滑走路を走る。そして、研究所から射出されたビューナススクランダーを装着し、戦闘準備完了。
ジュン
「行くわよ、ビューナス!」
ビューナスAは空を舞い、迫り来る悪魔、地獄の使い目がけて飛んでいく。
ジュン
(私だって、訓練は受けてるもの。鉄也がいなくたって!)
炎ジュン。彼女の闘志は沸き立つように燃えていた。やがて、ビューナスの視界が2体の戦闘獣を捉える。2対1。それだけでも既に、ビューナスには不利な状況だった。しかし、
ジュン
「来たわね、光子力ミサイル!」
ビューナスの女性的に膨らんだ胸部から、2基のミサイルが放たれる。一回撃つたびに、ビューナスの胸部にすぐさま新たな乳房……ミサイルが装填され、それをジュンは間髪を入れずに斉射する。
戦闘獣2体を相手にするとなれば、ビューナスでは手に余ることはジュンも理解していた。だからこそ、相手に反撃の隙を与えぬ連続波状攻撃。それが、ビューナスAの勝算だった。
ジュン
「ミサイル! ミサイル! ミサイル!」
ミサイルの連続斉射で立ち込める爆炎。やった。そう、ジュンは思った。しかし次の瞬間、爆煙の中から飛び出してきたハーケンがビューナスを襲う。
ジュン
「ああっ!?」
戦闘獣ガラリアが手に持っていたハーケンを、ブーメランのように投げつけたのだ。その攻撃を受け、ビューナスの装甲に大きな切り傷ができる。右腕を抑えるビューナス。そして、その瞬間に戦闘獣グレシオスが飛び出す。
ジュン
「そんなっ!?」
戦闘獣は、まるで無傷。急激な無力感が、ジュンを襲った。グレシオスは、ビューナスに覆いかぶさるように掴みかかる。そしてグレシオスは、その拳をビューナスの腹部へ思い切り叩き付けた。
ジュン
「きゃぁぁぁっ!?」
腹を殴られたのはあくまでビューナスだ。ジュンが痛みを受けたわけではない。しかし、その衝撃がクイーンスターを大きく揺らしジュンを襲う。
戦闘獣グレシオス
「フフフ、こんなものか!」
ジュン
「ウ……な、何……?」
グレシオスは自らの腹部のハッチを解放する。そして、ビューナスの頭部を掴み、クイーンスターを引き抜こうとする。
ジュン
「なっ!?」
必死に抵抗するビューナス。しかし、グレシオスの怪力にじわじわと押されていく。
戦闘獣グレシオス
「このグレシオスの腹の中は、拷問部屋になっているのだ。貴様を捕らえ、剣鉄也達への人質としてやる!」
ジュン
「そんなこと……!」
させるものですか。そう言おうとしてしかし、明らかにビューナスがパワー負けしていることを自覚し口籠る。
ジュン
(ダメ……。こんなところで捕まったら、鉄也達の足を引っ張っちゃう。それだけは!)
そのくらいなら、今ここで舌を噛んで死のう。そう、ジュンは覚悟を決める。だが、ただで死ぬ気はない。ジュンは、クイーンスターのスコープ越しに戦闘獣の頭部を確認する。そこに、戦闘獣の本体とでも言うべき“脳がある顔”があることを確認し、ジュンはニヤリと笑んだ。
ジュン
「光子力ビーム!」
戦闘獣グレシオス
「グァァァァァッッ!?」
ビューナスの目から放たれた光は、戦闘獣グレシオスの頭部……その奥にある戦闘獣頭脳を持つ顔に見事に命中した。ここまで密接されているのだ。外す方が難しいぜ。と、鉄也なら言うだろう。そう思って、ジュンはフンと鼻で笑う。
ビューナスを離し、思い切りのけぞるグレシオス。どうやら、トドメにはならなかったらしい。だが、十分だ。おかげで勝機ができたのだから。ジュンはビューナスにファイティングポーズを取らせると、ビューナスは駆ける。そして、回し蹴り。
ジュン
「よくもやってくれたわね! このお礼は、たっぷり100倍にして返してやるわ!」
さらに続け様に拳骨。掌底。極め付けは脳天目掛けてチョップ。怒涛の格闘技の連続。今度こそやった。ジュンはグレシオスの戦闘獣頭脳を潰した手応えを感じ、ビューナスをジャンプさせる。
ジュン
「これでトドメよ、光子力ビーム!」
そして放たれた光子の光。それを受けて、今度こそ戦闘獣グレシオスは完全に息絶えるのだった。
ジュン
「ハァ……ハッ……!」
息を切らすジュン。しかし、まだ敵は残っている。ハーケンを構える戦闘獣の荒くれ者。戦闘獣ガラリアが、既にビューナスめがけて迫っていた。
ジュン
「間に、合わないっ!?」
グレシオスを倒し、一瞬だけ安堵してしまった。そこに、隙があった。ジュンが敵に意識を向けたその時にはすでに、戦闘獣ガラリアはビューナスの回避が間に合わないところにまで迫っていたのだ。そして、次の瞬間……。
???
「待てぇぃ!?」
突如として戦場に割り込んできた、丸くてずんくりした、不恰好なロボット……もといボロット。ボロットは巨石を持ち上げ、戦闘獣目掛けてぶん投げた。
戦闘獣ガラリア
「……何ッ!?」
体積だけで言えば、戦闘獣よりもはるかに巨大な岩石が突如として目の前に現れ、戦闘獣ガラリアは咄嗟に身を引き岩石をやり過ごす。しかしその結果、ジュンが戦闘獣の射程から逃れる時間を作ることができた。
ボス
「ジャンジャジャーン! ジュンちゃぁ〜ん! このボスボロット様が助太刀するぜ!」
ジュン
「ボス!?」
いつもなら足でまといのボスボロット。しかし、今はその加勢に心の底から感謝する。
ジュン
「ボス、鉄也と甲児君が戻ってくるまで、私達で研究所を守るのよ!」
ボス
「ガッテンだ! 行くわよヌケ、ムチャ!」
ボスが合図すると、ボスボロットは両腕を大きく掲げるように上げる。そして右手をグルグル回しながら、戦闘獣目掛けて突っ込んでいった。
ボス
「うぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁっ! 必殺の、ボロットパンチだわさ!」
叫び、殴りかかる。その瞬間。コツン、という音がした。
ムチャ
「あい?」
ムチャが変な声を上げる。それは、ボロットが投げた巨石。そこから崩れ落ちた小さな小石に、ボロットの足がつまづいた音だった。
ボス
「あら?ありゃ?りゃりゃりゃりゃ????」
小石につまづいた衝撃で、ボスボロットの足はポロリと取れる。そして、平衡感覚を失ったボスボロットは、片足立ちのまま勢いを殺せずに横転。そして丸い図体がゴロゴロとボールのように転がり始めてしまう。
ヌケ
「ボシュー、目が回りますよー!」
ムチャ
「おいどうにかしろよ!?」
ボス
「そ、そんなこといったって、あら、ららららららぁっ!?」
転がるボスボロット。ボスボロットの転がる先にいたのはビューナスA。ビューナスも当然ボロットを避けようとするが、先ほどボロットの投げた巨石に阻まれそして……
ジュン
「ああっ!?」
ボロットは案の定、ビューナスAに激突してしまった。
ジュン
「もう! 何してんのよ!?」
これには堪らずジュンも叫ぶ。ボロットと追突し尻餅をつくビューナス。そして足を失ったスクラップ同然のボスボロット。ジュンが見上げれば、戦闘獣ガラリアはそのハーケンを高々と掲げ再びこちらに迫っていた。
ボス
「あわ、アワワワ!?」
ジュン
「もうっ、ボス早くどいて!?」
迎撃しようにも、ボスボロットが邪魔でミサイルが使えない。ボロットも片足を失い機敏には動けない。万事休す。そんな言葉が、ジュンの脳裏を過る。覚悟を決めたその瞬間、戦闘獣に突如としてビームの雨が降り注いだ。
ナスターシャ
「主砲、一斉射撃だ。ビューナスとボロットを援護しろ!」
現れたのは、モビルスーツを5機ほど積載できる大きさの海賊船ゴルビー2。指揮を務めるナスターシャの指示に、海賊の荒くれどもが「おう!」と応える。
ジュン
「ゴルビー2、来てくれたのね!?」
ナスターシャ
「ああ。アルゴ達が戻るまで、私たちも死ねないからな」
ゴルビー2の主砲が、戦闘獣ガラリアを襲う。怯む戦闘獣。その隙にビューナスはボスボロットをどかし、再び立ち上がる。
ジュン
「よくもやってくれたわね! 光子力ミサイル!」
再び、胸部からミサイルを放ち戦闘獣に打ち込んでいく。それが命中し、やり返すとばかりに戦闘獣ガラリアはビューナスへハーケンを投げつけた。
ジュン
「危ない!」
咄嗟にボスボロットを持ち上げ、盾にするビューナス。
ボス
「どっひゃぁーっ!?」
あまりの扱いに、ボロットの頭が飛び上がった。ハーケンはボロットの腹部に突き刺さるとそこにめり込み、ビューナスはそれを引き抜くとボロットを投げ捨てる。
ボス
「毎回扱いが雑なのよさ〜!」
ジュン
「ボス、このくらいの仕事はして頂戴よね。でも、おかげでいいものを手に入れたわ!」
戦闘獣ガラリアが愛用するハーケンカッター。それが今、ビューナスの手にある。ビューナスはハーケンを構え、そして走り出した。
戦闘獣ガラリア
「ぬぅ!?」
ジュン
「散々ビューナスを痛めつけてくれたわね! ビューナスの、乙女の痛み……お前にも味合わせてやるわ!」
ビューナスAはハーケンを乱暴に振るい、戦闘獣の顔目掛けて突き刺す。それは、ミケーネ人の頭脳を中枢に使用する戦闘獣にとって致命傷に当たる一撃だった。強烈な痛みに呻く戦闘獣。ビューナスはハーケンを引き抜くと、今度は顔目掛けて膝蹴りをぶちかます。ビューナスAの膝が顔面に減り込み、超合金性の皮膚が戦闘獣の強靭な皮膚を貫き頭脳を破壊する。たしかな手応えをジュンは感じていた。
ジュン
「光子力ビーム!」
トドメとばかりに、光子力ビームを放つ。光子の光を浴びた戦闘獣は、たちまち爆散。そして、ビューナスAはまだ立っていた。
ジュン
「やったわ……! 鉄也の助けなしで、戦闘獣を2体も!」
思わずガッツポーズを決めるジュン。夢のような勝利だがしかし、その直後科学要塞研究所から通信が入りジュンは意識を現実に引き戻す。
剣蔵
「ジュン、よくやった!」
ジュン
「所長。このくらい私とビューナスなら楽勝よ!」
気丈に言ってウィンクしてみせるが、実際にはボスボロットやナスターシャに助けられなかったら死んでいた。それをジュンは理解している。しかし、だからこそ気丈に振る舞うのが炎ジュンという女だった。
剣蔵
「ジュン、ビューナスのダメージも大きい。ゴルビー2に予備パーツを積んであるから、そこで応急修理を……」
そう話す剣蔵の言葉を遮ったのは、再び鳴り響く敵襲を示すサイレンの音だった。ビューナスの通信越しにそれを聞いたジュンも、咄嗟に確認する。
ジュン
「あ、あれは……!」
ナスターシャ
「なんということだ……!」
科学要塞研究所へ迫る巨大な影。飛行要塞グール。かつて、ドクターヘルの腹心あしゅら男爵、ブロッケン伯爵が指揮していた巨大な要塞だった。そしてその艦首で指揮を取っているのは……。
ユリシーザー
「戦闘獣2体を撃破するとは……敵ながら褒めてやろう!」
超人将軍ユリシーザー。ミケーネ七大将軍の一人であり、超人型戦闘獣軍団を率いる猛将だった。
…………
…………
…………
剣蔵
「なんということだ……」
超人将軍ユリシーザーの出現により、戦局は一変した。ビューナスAは倒れ、両手両脚をもがれたボスボロットは地に横たわる。そして、飛行要塞グールから次々と出撃する機械獣、戦闘獣の数々。ゴルビー2は機銃を機械獣へ向け放ち続けていた。
ナスターシャ
「クッ、数が多い! 弾幕を絶やすな!?」
恵雲
「任された、恵雲ビーム!」
瑞山
「瑞山レーザー!」
ゴルビー2の機銃を運用する、ネオチャイナの坊主2人は自分の名前を叫びながら機銃を撃ちまくる。しかし、多勢に無勢であることには変わりない。
ナスターシャ
「クッ……。せめてビューナスとボロットを救出しなければ。だが……」
ゴルビー2には、まともに動けるモビルスーツも残っていない。敵陣に突っ込むという手段もあるが、果たしてユリシーザーがそれを許すかどうか。いや、よしんばできたとしても最悪共倒れだ。
ゴルビー2の攻撃をものともせず、機械獣軍団は進む。そしてその中央、超人将軍ユリシーザーは威風堂々と戦場を闊歩していた。
ユリシーザー
「ハッハッハッ! マジンガーのいない人類など所詮この程度か!」
ユリシーザーは、七つの軍団を滑る将軍達の中でも猛将の異名を持つに相応しい男だ。その果敢な攻勢は、かつてミケーネ帝国の名を地上に轟かせドラゴニアや多くの国々を侵略、支配する足がかりとして貢献した。そして、そのユリシーザーが今、科学要塞研究所を……そして日本を我が物としようとしている。彼らミケーネの宿敵・マジンガーの本拠である日本に送り込まれたという事実が、ユリシーザーは暗黒大将軍からも高く評価される将軍であることを伺わせた。
ジュン
「このっ……! フィンガーミサイル!」
倒れ伏しながらも、ビューナスは指に隠されているミサイルを発射しユリシーザーを牽制する。しかし、生半可な戦闘獣相手ならば十分に戦えるミサイル攻撃もユリシーザー相手では玩具同然。ユリシーザーは指ミサイルによる攻撃をまるで蚊にでも刺されたかのような風に受け流すと、ゴミでも見るかのような視線をビューナスへ注ぐ。
ジュン
「そんなっ!?」
ボス
「ジュン、逃げろ!?」
ジュンの悲鳴。ボスの叫び。それを遮るように、ユリシーザーは自らの足を伸ばし、ビューナスを蹴り飛ばす。
ジュン
「ああっ!?」
ユリシーザー
「フン! 敗者に用はない。マジンガーが来るまで持ち堪えることもできぬ貴様らなど相手にする価値もないと思っていたが……歯向かうのならば容赦はせん!」
ユリシーザーはナイフを構え、蹴り飛ばされたビューナスAへと少しずつ歩を進める。確実に、クイーンスター内部のジュンにトドメを刺すべく。
ジュン
「ここまで、なの……?」
ジュンは必死に操縦桿を握るが、ビューナスは動かない。クイーンスターの脱出機能も、今の衝撃でいかれたらしい。死の一文字が脳裏を過り、ジュンは絶望する。
ナスターシャ
「クッ、主砲をユリシーザーに!」
宇宙海賊
「ダメです、機械獣が盾になってて届きません!?」
ボス
「あわわわわわ……ジュン〜〜ッ!?」
ボスボロットは涙を流し、ゴロゴロと転がりジュンを救おうとした。しかし、ユリシーザーの配下にある戦闘獣がまるでボールのようにボロットを蹴り飛ばし、ボロットは明後日のように転がっていく。
ボス
「あら、あららららぁ〜〜!?」
やがてユリシーザーはビューナスの眼前にまで迫り、高々とナイフを掲げ……振り下ろす。
ユリシーザー
「死ねっ!」
ジュン
「鉄也ァッ!?」
ジュンが叫ぶ。その直後、突如として飛び出した剛腕。その拳が握る魔神の剣が、ユリシーザーの握るナイフを弾き飛ばした。
ユリシーザー
「これはっ!?」
ジュン
「鉄也ッ!?」
間違いない。マジンガーブレードを握ったアトミックパンチ。鉄拳の降り注いだ方をユリシーザーは、ジュンは見る。その向こうには、真紅の翼を広げて迫り飛ぶ、偉大な勇者の姿があった。
ユリシーザー
「グレートマジンガー……。おのれ、バーダラーとハーディアスは失敗したか!」
鉄也
「そういうことだ、超人将軍ハーディアス」
グレートマジンガー。ミケーネ帝国の野望を悉く潰えさせた怨敵の登場。応急修理を終えたグレートは、エンペラーから先行して科学要塞研究所へと駆けつけたのだ。しかしユリシーザーは醜くその口角を歪めると、満身創痍のビューナスを掴み持ち上げる。
ジュン
「あっ!?」
鉄也
「ジュン!?」
人質。肉の盾。言葉にせずともわかる。ユリシーザーがグレートマジンガーを前にビューナスを盾のように翳すと、グレートは動きを止める。
ユリシーザー
「フン、わかっているようだな剣鉄也。貴様が歯向かうならば、この女を殺す!」
改めて宣告するユリシーザー。アトミックパンチがグレートの手に戻り、剣を構える姿勢になりながらも鉄也は、動けないでいた。
ジュン
「鉄也、私に構わずユリシーザーを倒して!」
鉄也
「ジュン、しかし……!」
ユリシーザーの腕は、ビューナスのコクピット……クイーンスターを掴んでいる。もし、鉄也が一瞬でも不穏な動きを見せればその瞬間にもジュンは殺される。それを理解しているからこそ、鉄也は動けない。
ユリシーザー
「フン、所詮は血の通った人間。それが貴様らの弱さだな剣鉄也……!」
勝ち誇ったように言うユリシーザー。グレートマジンガーは……鉄也は苦々しげにマジンガーブレードをその手から落とす。それを見て、ユリシーザーは満足げに顔を歪めた。ユリシーザーは、戦闘獣部分の頭部を左手で持ち上げるとそれを投げ、グレートマジンガーの周囲に飛ばす。
ユリシーザー
「ハハハハハ! 覚悟を決めろ。地獄の業火に焼かれて死ぬがいい、鉄也!」
ユリシーザーの兜から発される火炎が、グレートマジンガーを焼いていく。灼熱地獄に落とされる鉄也。鉄也は呻き声を上げながらも、ユリシーザーを睨め付ける。その目には、決して服従したわけではないという反抗の意志がしっかりと宿っていた。しかし、ジュンを人質に取られてしまった今、鉄也はその瞳を燻らせるしかない。
鉄也
「クソッ……! どうする……」
どうにかして、ジュンを助けなければ反撃のしようもない。ユリシーザーの火炎に炙られながら、鉄也はその時を待ち続けていた。だが、その時は一向に訪れない。ユリシーザーは、暗黒大将軍からこの日本の征服を一任された猛将である。その動きには微塵の隙もなく、鉄也を警戒しつつビューナスを締め付けていた。グレートマジンガーの全力を以てすれば、この地獄の業火も破れないわけではない。だが、ジュンの命がかかっている。その重圧が、鉄也の判断を鈍らせる。
そんな鉄也に呼びかけるのは、育ての親でもある兜剣蔵その人だった。
剣蔵
「鉄也、戦え! 戦うんだ!」
鉄也
「しかし、所長……」
まだ躊躇いを見せる鉄也。それを制するように、剣蔵は続ける。
剣蔵
「いいか、奴らは君がジュンの代わりに死んだとしても、その後にジュンを殺す。奴らはそういう悪魔だ! ジュンのことは死んだと思って戦ってくれ!」
鉄也
「……!?」
それは、非情な宣告だった。ジュンもまた、剣蔵に育てられた子供同然の存在。その犠牲を覚悟して戦えと剣蔵は言う。だが、そんな非情な言葉を肯定するのは、他ならないジュンだった。
ジュン
「そうよ鉄也、私に構わず、ユリシーザーを倒して!」
鉄也の覚悟を促すように叫ぶ2人。そんな姿に、ユリシーザーの表情に焦りの色が見え始める。
ユリシーザー
「こいつら……余計なことを! ええい、戦闘獣グレートマンモス! 研究所を叩き潰せ!」
ユリシーザーが叫ぶ。すると、グールから人型の上半身にマンモスの下半身を持つ歪な戦闘獣が姿を現し、研究所目掛けて飛び出していく。
ナスターシャ
「まだ、隠し球があったか!」
しかし、ゴルビー2は既に機械獣の相手で精一杯。研究所の防衛に回れない。グレートマンモスは研究所の防衛ミサイルをものともせずに進み、額からミサイルを放つ。
鉄也
「あっ、所長!?」
グレートマンモスのミサイル攻撃は、科学要塞研究所に命中し、爆煙が待った。グレートマジンガーの通信機は、所員達の悲鳴を漏らさずにキャッチし鉄也の耳に届ける。剣蔵だけでない。科学要塞研究所の所員たちは皆、鉄也にとっては家族同然の仲間なのだ。彼らはそれでも怯まずに防衛用の光子ミサイルを撃ち続け、戦闘獣を迎撃している。
皆、命を賭けて戦っているのだ。鉄也やジュンのように、ロボットに乗り戦う戦士ではない。しかし、剣蔵や葉月、それに研究所の所員達は皆巨大な悪に立ち向かうため一丸となっている。ジュンもそうだ。
鉄也
「…………わかったぜ、所長」
だからこそ、鉄也も覚悟が決まるというものだった。グレートマジンガーは頭部の排気口から竜巻を生み出し、ユリシーザーの放つ火炎を吹き飛ばす。そして、
鉄也
「すまんジュン、先に地獄で待っていろ!?」
偉大な勇者・グレートマジンガーは大空を駆け、垂直に降下していく。目指すのは、大地に足を降ろしビューナスを締め付ける超人将軍ユリシーザー。鉄也は今、グレートの全速力でユリシーザーへと迫っていた。
ユリシーザー
「バ、バカな! 人質の命が惜しくはないのか!?」
ユリシーザーに敗因があったとすれば、ここでそのような問答に出たことだろう。ユリシーザーは、驕っていた。人間は血の通った生き物。仲間、肉親、親兄弟。そのような情が剣を鈍らせ、鉄也は判断を誤ると。しかし、現実はどうだ。
偉大な勇者・グレートマジンガーは仲間の死という可能性を受け入れて、猛進しているではないか。
ユリシーザー
「ええい構わん! 死んでもらうぞ炎ジュン!?」
ビューナスを握る手に力を込めるユリシーザー。ビューナスの頭部が割れ、中のクイーンスターに手が届く。
ジュン
「鉄也……!?」
ジュンは覚悟を決め、目を閉じた。そして次の瞬間、クイーンスターを握るユリシーザーの右手に猛烈な痛みが突き刺さる。
ユリシーザー
「何ッ!? ……こ、これはぁ!?」
ユリシーザーが痛みを知覚し右手を見ると、手首から先がパックリと切断されていた。そして、ユリシーザーの手ごとクイーンスターを救出しているのは、8m程の小さなマシン。その機体は虫の羽根のような翼を広げ、大気中のオーラを吸い上げながら加速するオーラバトラー。
ショウ
「鉄也、人質は救出した!」
ヴェルビンが、音に見まごう速さのオーラ斬りでユリシーザーとグレートの間を突き抜け、超人将軍の腕を斬り裂いたのだ。そしてオーラソードを一度放り投げ、クイーンスターを両手に抱え飛んでいる。
ジュン
「た、助かったの……?」
目を開き、自分の無事を確認するとジュンは深く溜息を吐く。ショウはクイーンスターを安全な場所まで移動させると、研究所を襲う巨象目掛けて再び飛翔した。
ユリシーザー
「まさか……まさか!?」
鉄也
「そういうことだ、お前こそ覚悟を決めるのが少し遅かったな、超人将軍ユリシーザー!」
動揺するユリシーザーに飛びかかり、グレートマジンガーの鉄拳がユリシーザーの顔面に炸裂。そしてそのまま至近距離からのアトミックパンチ。
ユリシーザー
「ぬぅぅ、おのれぇっ!?」
弾き飛ばされながら、ユリシーザーは空に迫る巨大なゲットマシンへ怨嗟の言葉を吐いた。
ゲッターエンペラー。ミケーネの仇敵たる魔神の巣となっている戦闘母艦へ。
…………
…………
…………
ゲッターエンペラーから、次々と機動兵器が出撃していく。その中に、ユウシロウ達第三実験中隊のTAの姿もあった。
ユウシロウ
「ミケーネ帝国……」
思えば、ユウシロウの戦いのはじまりも、ミケーネの襲撃からだった。それまで実験や演習を中心としていたTA計画は、ユウシロウがTAで奴らと戦った時以来実戦へと変わっていったのだから。
安宅
「ユウシロウ、大丈夫?」
フォーカス2の安宅大尉が、民間人であるユウシロウを気遣うように言う。しかし安宅も、北沢も高山も。戦闘獣との戦いには慣れていない。
ユウシロウ
「……大丈夫です」
むしろ、ユウシロウの方が今は自然体であると言ってよかった。それを認識し、階級が一番高いフォーカス3の高山は北沢、安宅、ユウシロウに指示を出す。
高山
「よし、我々はTAの機動力を持って研究所付近のミケーネスを掃討し、主力となるスーパーロボットの手助けをすることだ」
北沢
「了解!」
しかし特務自衛隊は元々、このような非常時を想定した自衛隊である。大きな動揺を見せるものもなく、スムーズに作戦は開始された。
舗装された陸路は、TAにとってもっとも快適な進行ルートである。人工筋肉「マイル1」を使用するTAは、人間のように繊細な動きを可能とする一方、人間のように足場を選ぶという弱点があった。べギルスタンにおいて、砂塵がTAのトルクを奪ったのもそういったマシンの弱点であると言える。しかし、この場所ではそのような事態はまずない。
フォーカス3の高山少佐とフォーカス4の北沢大尉を後衛に、フォーカス2の安宅大尉とフォーカス1のユウシロウを前衛にして、TA部隊は進む。目指す先は、科学要塞研究所。
研究所を襲う巨象……戦闘獣グレートマンモスが、その存在に気付き視線を向ける。そして先ほどと同じように迎撃ミサイルを放つが、オーラバトラーよりもさらに一回り小さいTAは、オーラバトラーに負けない機敏な動きでそれを回避し進軍する。
北沢
「ヒュー。当たればタダじゃ済まねえな」
高山
「ああ。豪和大尉も注意しろ!」
ユウシロウ
「了解」
グレートマンモスを無視して進むTA部隊。その先にあるのは、ミケーネ戦闘員……ミケーネス達が搭乗する爆弾戦車と、ミケーネスの歩兵部隊だった。
ユウシロウ
「……ファイア」
低圧砲を発射し、爆弾戦車に浴びせていく。一機一機は機械獣や戦闘獣ほど強力ではないが、中の戦闘員を運搬する役割を兼ねた戦車部隊を研究所に近づけるのは危険だった。内部で白兵戦になれば、犠牲は避けられない。
ミケーネス
「なんだ、あの小型ロボットは!?」
「あんな小さいマシン、我々の敵ではない!」
戦車部隊の注意がTA部隊に引きつけられる。しかし、それこそがTA部隊の狙いだった。
ユウシロウの放った低圧砲が、爆弾戦車の動力炉に命中し、爆弾戦車はその名の通り大爆発を起こす。付近のミケーネスや機械獣を巻き込んでの爆発。これは、敵機動兵器を巻き込む自爆メカとしての性質を併せ持つ戦車部隊だ。
だからこそ、射程の長い低圧砲で撃ち落としていく。まかりまちがっても研究所を巻き込むような爆発をさせるわけにはいかない。
ユウシロウ
「…………ロックオン!」
再び低圧砲を発射し、爆弾戦車をまた一機撃破する。そんな中にあっても、ユウシロウの胸中にはべギルスタンで出会ったあの少女のことが深く突き刺さっていた。
ユウシロウ
(ミハル……。俺は、僕は、あの子を知っている?)
そんなはずはない。ミハルのことなど知らない。しかし、彼女を見ていると胸の奥が切なく締め付けられそして、見たことのない景色が脳裏を過ぎる。
今、ミハルはエンペラー内に充てがわれた部屋に待機させている。当然、監視はついている。しかし、ユウシロウは兄や速川中佐達にミハルを「現地で出会い、ミケロに追われていた少女」としか話していない。ミハルが敵TAのパイロットだと知っているのは、ユウシロウだけだ。
ユウシロウ
(ようやく手に入れた、俺の真実に辿り着くためのヒントかもしれないんだ……!)
それは、今まで人形のように兄や父達の命令に従うばかりだったユウシロウにはじめて生まれた欲望だった。
自分のことが知りたい。だからあの子がほしい。その感情が何なのか、ユウシロウは知らない。しかし、ミハルという存在は確かに、ユウシロウが手に入れた鍵なのだ。
ユウシロウの心音が、ドクンと脈打つ。呼吸が荒くなり、“マイル1”が機敏になる。それに合わせて、僚機のTAも性能が上昇していく。
北沢のTAが、低圧砲を命中させまた爆弾戦車を誘爆させていく。その様子を、エンペラー内部で清継と清春は興味深そうに観察していた。
清継
「機能相転移の兆候が見られるな……。どうやら、機能相転移によって照準性能も上がっているらしい」
清春
「急遽エンペラーに乗ることになったからね。一機15億もするヘリをべギルスタンに置いていったんだ。その分データは取らせてもらわないと」
北沢
「…………」
清春の不謹慎な言動に、北沢や村井らが眉を顰める。しかし、それを注意する暇もない。彼らは彼らで、最前線で戦う仲間達に指示を出し、オペレートするという大事な任務があるのだ。
村井
「フォーカス3、フォーカス4。敵機械獣部隊がそちらに向かっています。気をつけてください!」
鏑木
「フォーカス1、フォーカス2。機械獣が接近しています。迎撃準備を!」
村井、鏑木のオペレートは正確で、ユウシロウ達は敵の接近をすぐに確認する。ユウシロウと高山が安宅、北沢と背を預け合う形で機械獣の方へ向き、機械獣部隊へ低圧砲を放った。
高山
「フォーカス2とフォーカス4は、そのままミケーネスの殲滅を。俺とフォーカス1は機械獣の迎撃にあたる!」
ユウシロウ
「了解!」
ユウシロウのTAは一歩踏み出し、機械獣部隊めがけてグレネード弾を放った。髑髏のような機械獣ガラダK7に命中し、その窪んだ眼窩でユウシロウを睨む。
ユウシロウ
「!?」
髑髏。鬼面。鬼。骨嵬。不思議な連想ゲームがユウシロウに中で働いていく。ドクン、とユウシロウの心臓が高鳴った。
——呼び戻さないで。恐怖を。
ミハルの言葉が、ユウシロウの脳裏を過ぎる。無意識にユウシロウは、ガラダ目掛けて飛び込んでいた。
高山
「豪和大尉!?」
北沢
「お、おいっ!?」
基本的に、TAは歩兵の延長に存在する兵器だ。モビルスーツが主流となった現在における歩兵の役割。それを、機動兵器に搭乗しながら行うことのできる言わば、パワードスーツに近い。従来のパワードスーツとは一線を画す柔軟な機動性こそがTAの真髄であり、戦場における存在価値である。
歩兵は、重戦車とは戦わない。戦うためにはそれ相応の準備が必要となる。機械獣を相手に白兵戦ができる歩兵など、存在しないのだ。
しかし、ユウシロウのTA……壱七式雷電は機械獣を相手に白兵戦をやってのけている。ガラダK7が頭部から取り出した鎌は、直撃すればTAの全身をズタズタにするほどの火力を持っている。しかし、ユウシロウは脚部のアルムブラストを吹かすとTAをジャンプさせ、その射線を飛び越えていく。
ユウシロウ
「恐怖など……!」
恐怖を飼い慣らし、我がものとする。鬼になど、喰われてたまるか。ユウシロウは、鬼のような姿の機械獣を相手にまるで演舞するように立ち回り、グレネード弾を浴びせていく。機械獣の頭脳を守る頭部の装甲を、至近距離のグレネード弾は弾き飛ばした。そして、
ユウシロウ
「俺は……!」
膝蹴りを喰らわせ、機械獣頭脳を潰す。それは、TAというマシンの仕様から逸脱した戦い方だった。しかし、ユウシロウはそれをやってのけ……機械獣を一機、撃破した。
安宅
「ユウシロウ、無事!?」
ユウシロウ
「はい……。まだ、やれます」
能を舞った後のような疲労感を覚えながら、ユウシロウは再び小隊に合流し、低圧砲を構える。
ユウシロウ
(恐怖の軍団ミケーネ……。俺は、負けるわけにはいかない!)
ユウシロウは、まだ何も知らないのだから。自分自身という存在の答え……それを得るまで、ユウシロウの戦いは終わらないのだから。
…………
…………
…………
科学要塞研究所の間近で暴れる戦闘獣グレートマンモス。それを相手に立ち回る聖戦士ショウ・ザマは、全神経を集中させながら巨象と対峙していた。
マンモスの鼻を大きく振り、ヴェルビンを薙ぎ払う戦闘獣。それを掻い潜りながら、ヴェルビンは戦闘獣へ近づいていくが、迎撃ミサイルを避けてヴェルビンは振り出しに戻されていく。
チャム
「もうっ! ショウちゃんとしてよ!?」
ショウ
「邪魔だよ!?」
ショウの眼前を煩く飛び回るチャムを払い除け、ショウは戦闘獣の攻撃を避けて飛び回る。
ヴェルビンが攻勢に転じ切れていないのは、科学要塞研究所を守りながらの戦いであるという点が大きく関与していた。グレートマンモスほどの巨大な質量を持つものが爆発を起こせば、研究所はひとたまりもない。しかし、最初の攻撃で研究所は潜水機能にダメージを受けていた。
ローラ
「おじちゃん、研究所を海に潜らせられないの?」
葉月
「ああ。今所員が必死に修理しているが、うまくいくかどうか……」
研究所を巻き込むわけにはいかない。ヴェルビンが苦戦しているのは、その一点が大きかった。オーラソードで戦闘獣の攻撃を受け止めながら、ヴェルビンは飛び回る。
ショウ
「なんとか、戦闘獣を研究所から引き離したいが……」
ショウが呟いたその瞬間、薔薇の花弁が飛び回り戦闘獣を包囲する。
ジョルジュ
「でしたら、その役割は私達に任せてください!」
ガンダムローズだ。グレートとヴェルビン、TA小隊に続いて準備を終えた機体が次々とエンペラーから出撃していく。ガンダムローズに続いてマックスター、ドラゴン、ボルトガンダムも戦場に降り立っていく。
ローゼスビットにまとわりつかれ、グレートマンモスはそれを弾き飛ばそうと鼻を伸ばし、振り落としていく。しかし、ローゼスビットは目眩し。
アルゴ
「ヌンッ!」
既にグレートマンモスの足元にまで近づいているボルトガンダムを気づかせぬための。ボルトガンダムは戦闘獣の右足を掴むと、その怪力を発揮し持ち上げる。ガンダムの倍以上の大きさを誇る戦闘獣グレートマンモスが、宙に浮いた。
アルゴ
「ヌゥォォォォッ!?」
そのまま背負い投げる。投げ飛ばされたグレートマンモスの、その先には既に燃え上がる拳を構えた、ガンダムマックスター!
チボデー
「バーニィング・パァンチッ!」
炎を纏う、灼熱の右ストレート。続け様に黄金の左。一撃一撃が急所を的確に狙うボクサーパンチが、戦闘獣に叩き込まれる。だが、それすらも囮。
サイ・サイシー
「本命はこっちさ、フェイロンフラッグ!」
ドラゴンガンダムだ。肩に装備される計12本の白棒が戦闘獣を取り囲み、そこからビームの旗が展開される。戦闘獣は、完全に足を封じられた。そこからさらに、ドラゴンガンダムの両腕に装備されるドラゴンクローから火炎が放射され、フェイロンフラッグの中を火炎地獄に変えていく。
サイ・サイシー
「宝華教典・十絶陣!」
まさに象の中華鍋。灼熱地獄に炙られながら、戦闘獣はフェイロンフラッグを鼻で薙ぎ払っていく。だが、もう十分だった。チボデー、サイ・サイシー、ジョルジュ、アルゴの連携で戦闘獣グレートマンモスは既に研究所から大きく遠ざかっている。ここでなら、遠慮する必要はない。
そのことに戦闘獣が気付いた時、既に眼前にヴェルビンが飛び込んでいた。迎撃のミサイルをオーラバリアで弾き飛ばしながら、ショウのオーラ力を吸い上げて、ヴェルビンはオーラ力を増幅させていく。増幅されたオーラ力が剣に宿っていく。オーラ力とは、即ち気の力。気とは此、生命の力。自らを戦闘獣という機械の身体に置き換えた者達には決して宿らぬオーラ力が、オーラマシンを通して発露する。
ショウ
「ミケーネ帝国! 世界の均衡を乱す者を、俺は断つ!」
強大なオーラ力を宿す剣が、戦闘獣を斬り裂いていく。ヴェルビンの何倍もの巨大を斬り開きながら、聖戦士が戦雲を斬っていく。
バイストン・ウェルの伝説に伝わる聖戦士。ドレイク・ルフトは地上人をそう持て囃し、ショウもそうして利用されてきた1人だった。
だが、今のショウは違う。
世が乱れた時、それを正す為に遣わされる聖戦士。ショウは、バイストン・ウェルから地上に遣わされた聖戦士となっていた。
オーラ力を宿した剣が戦闘獣グレートマンモスの胴体に突き刺さり、深々と刺さっていく。そして、剣先からオーラ光が膨張し戦闘獣を飲み込んでいく。
戦闘獣
「……!?」
ショウ
「その機械の鎧を脱ぎ捨てて、ワーラーカーレンへ還れ!?」
浄化。かつてシーラ・ラパーナが太平洋全体のオーラマシンに行ったそれを今、ショウはやってのけていた。戦闘獣。ミケーネ人の頭脳を守るために作られた機械の鎧。それを脱ぎ捨てたミケーネ人の魂は浄化され、そして生命に還っていく。
ワーラーカーレン。地上とバイストン・ウェルを繋ぐ命の還る場所。ジャコバ・アオンの管理するその世界に、戦闘獣の魂が帰っていく。
ショウ
「……生まれ変わって、やり直すんだ」
全ての命がそうであるように。輪廻の輪から外れ、機械の身体で永遠の命を得た者を解き放つ。この地上で、ショウは戦う理由を見つけていた。
…………
…………
…………
ユリシーザー
「バカな、グレートマンモスがッ!?」
ユリシーザーの戦力の中で、グレートマンモスは最強の戦力だった。それが倒された今、ユリシーザーは窮地に立たされた。
鉄也
「余所見をする暇はないぜ、グレートブーメラン!」
放熱版を外し、ブーメランにして投げつけるグレート。ユリシーザーはナイフを構えそれを弾き、グレートマジンガーへ向き直る。
ユリシーザー
「おのれ、グレートマジンガー! こうなれば、グールの全火力をぶつけてやる!」
ユリシーザーの合図とともに、飛行要塞グールが進路を科学要塞研究所へ向ける。特攻、その2文字が鉄也の脳裏を過った。
鉄也
「何だとっ!?」
ユリシーザー
「グールには、メガトン級の爆薬を積んでいる。貴様らの研究所もろとも、それを吹き飛ばしてやるのだ!」
加速し、研究所へ迫る飛行要塞。空爆のための爆弾全てを本体もろとも突進させる。しかし、その突撃は届かない。
強烈な光が、グールを飲み込んだのだ。光の中で、飛行要塞が消えていく。光の中に融けていくグール。それは、ゲッター線の光。
ゲッターエンペラー。巨大なゲッター炉心そのものを動力源とするゲッター要塞。その口から放たれたエンペラービームは、かつてマジンガーZを苦しめた飛行要塞グールを一呑みで消滅させてしまう。
早乙女
「エンペラービーム再チャージ準備。その間、防衛システムフル稼働!」
ミチル
「防衛システム機動完了。エンペラー、戦闘空域を制圧するわ」
巨大なゲットマシン・エンペラーは空の戦闘獣、機械獣を蹴散らしていく。要塞を失い混乱する敵は、その巨大なゲッターの存在にさらに狼狽する。
ユリシーザー
「ば、バカな……!」
エンペラーの強さは、ミケーネの想定を遥かに超えていた。ユリシーザーの全戦力を持ってしても、及ばない。勝てない。ユリシーザーの脳がそれを理解してしまう。だが、それを理由に引くわけにはいかなかった。
ユリシーザー
「俺は、俺は超人将軍ユリシーザー! 暗黒大将軍から最も信頼されるミケーネ七大将軍が一人だ! ミケーネに、撤退はない!」
ナイフを構え、突撃する猛将ユリシーザー。その狙いは一つ……グレートマジンガーの、剣鉄也!
鉄也
「来るかッ!?」
マジンガーブレードを構え、グレートが迎え撃つ。激突する鋼と鋼。マジンガーブレードはユリシーザーの腹を貫き、ユリシーザーのナイフは、グレートの肩に突き刺さる。
ユリシーザー
「ゴフッ……! だ、だが……!?」
ユリシーザーの頭突き。グレートマジンガーの頭部ブレーンコンドルが激しく揺れる。
鉄也
「クッ……!?」
ユリシーザー
「剣鉄也! 私はここで死ぬ……。だが、貴様も道連れだ!」
グレートを膝蹴りし、突き飛ばす。ナイフを刺した肩から機械が飛び、火花が飛び散る。そしてもう一度、ナイフを高々と掲げユリシーザーは突撃する。今度こそ、グレートマジンガーにトドメを刺すために。
ユリシーザー
「これで終わりだ! 剣鉄也!?」
鉄也
「ユリシーザー……覚悟ッ!」
グレートマジンガーへと飛び込んでいくユリシーザー。ナイフの斜角は間違いなく、そのまま突き進めばブレーンコンドルのコクピットを貫くことができた。しかし、ユリシーザーはその一瞬、飛び込んでしまったのだ。
鉄也
「そこだ! ネーブルミサイル!?」
グレートの腹部から放たれるミサイル。ネーブルミサイルはユリシーザーの胴体……その中央にある本来の顔に命中し、破裂する。
ユリシーザー
「グァァァァァッッ!?」
顔面でミサイルが爆発し、焼け爛れるユリシーザー。鉄也は間髪入れず、そこにアトミックパンチを叩き込む。そして、マジンガーの胸の放熱板が赤く輝いた。
鉄也
「ブレストバーン!?」
ユリシーザーの全身を、高熱が包み込んでいく。万全の時ならともかく、顔を潰された今ブレストバーンの熱波はユリシーザーにとっては致死の一撃だった。
全身を焼かれ、断末魔の悲鳴を上げるユリシーザー。死の淵にありながら潰れた顔面で、ユリシーザーは鉄也を睨んでいた。そして、
ユリシーザー
「み、見事なり……。勇者マジンガー……」
その一言と共に、ユリシーザーは爆炎に包まれる。超人将軍ユリシーザー。その最期を鉄也は見つめていた。
鉄也
「超人将軍ユリシーザー……強敵だったぜ」
ユリシーザーの敗北。それで雌雄は決した。そう、誰もが思った。だが、しかし。
アムロ
「…………何だ、このプレッシャーは?」
戦場の気配は、むしろ緊張感を増している。強大なプレッシャーを感知し、アムロが呟く。それは、ニュータイプという超感覚だけが感じられるような生優しいものではない。
忍
「将軍を倒したっていうのに……。震えが止まらねえ」
ドモン
「ああ……。この凄まじい闘気は、そこからか!?」
ゴッドガンダムの指差す先。猛烈な悪意を持った何かが押し寄せてくる。一同の視線が、そこに集まっていく。
マーガレット
「…………何、この感じ」
マーガレットの呟きと同時。ズシン、ズシン。そんな地響きと共に、その悪意の輪郭が姿を現していく。
黒く、巨大な姿。そこに鬼のような2本の角。剣を構え、こちらを睨んでいる。
竜馬
「ッ!?」
竜馬がトマホークを構える。その悪意……闘気の塊に。ドモンも、エイサップも、トビアも。その脅威を敏感に感じて構えていた。
甲児
「あいつが……!」
ヤマト
「ああ、間違いない……!」
ヤマトは知っている。この強烈なプレッシャーの主を。ヤマトは、それと戦うために古代ムー王国へ呼び寄せられたのだから。
槇菜
「ゼノ・アストラ……?」
ゼノ・アストラもまた、最大級の警戒を槇菜に知らせている。邪霊機や、ムゲ帝王の時と同じ。邪悪の根源ともいうべき存在。
その名は。
その名は!
暗黒大将軍
「我が七大将軍を3人も倒したことを、まずは褒めてやろう。だが、ここが貴様達の墓場と知るがいい!」
暗黒大将軍。ミケーネ帝国地上侵攻軍の総司令。暗黒大将軍率いる軍団が、科学要塞研究所へ押し寄せていた。
……………………
第14話
「死闘! 暗黒大将軍!」
……………………
次回予告
みなさんお待ちかね!
圧倒的な力を有する暗黒大将軍を前に、スーパーロボット軍団は窮地に追い込まれてしまいます。さらに、邪霊機の少女ライラが、ミケーネへ加勢するのです!
グレートマジンガー、命を燃やす時がきたぞ!
次回、「死闘! 暗黒大将軍!(後編)」にレディ・ゴー!