スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第18話「Vanity Basters」

—科学要塞研究所—

 

 

 

速川

「……それはつまり、我々は引き続き彼らに協力しろという命令ですか?」

 

 特務自衛隊実験第三中隊の速川中佐は、上からの命令……即ち日本政府からの指令に食い下がった。ここにいるスーパーロボット軍団とそのパイロット達は信用に値する。そうは思うが特自の本懐はあくまで日本の防衛にある。世界を守る為に飛び回るエンペラーと共に活動するのは、国防の面では本意ではない。

 むしろ、彼らの背中を……背後を守る為にこそ特自はここでエンペラーと離れ、日本の防衛につくべきだと速川は思う。上……日本政府の広川参謀の指示に、速川だけでなく鏑木や高山、安宅らも難色を示していた。

 

広川参謀

「ええ。第三実験中隊は引き続き、科学要塞研究所と共同で任務に当たってもらいたい」

速川

「…………」

 

 この指令には、裏がある。恐らくは、豪和だろうか。日本政府に対し大きな影響力を持つとされる影の豪族・豪和一族。その中枢が第三実験中隊で……TAで何かをしようとしている。速川らにもそれだけは推測することができた。

 

速川

「命令である以上、従わない理由はありません。ですが、豪和大尉は……」

広川参謀

「ええ。民間人の彼は一度豪和総研に戻ってもらう手筈になっています。すぐに迎えの車が到着するはずです」

 

 豪和総研。豪和が管理する研究施設。ユウシロウは任務のない日はほとんど総研で過ごしているという。実験動物。そんな言葉が、速川の脳裏を過った。

 

速川

「……了解しました」

広川参謀

「豪和大尉については、我々が決められることはほとんどない。そのことは中佐もご存じでしょう」

 

 広川の言葉は、事実だった。豪和ユウシロウはTAのテストパイロットとして目覚ましい活躍を見せている。しかし、彼は元々民間人だ。民間人のユウシロウを自衛隊が戦地に連れていったことが知れれば、特自はマスコミや民意を敵に回すことになるだろう。

 

速川

(それを承知で強行したのが、豪和一族の意志か……)

 

 一体、ユウシロウに何があるというのか。速川中佐には見当もつかない。広川参謀は指令だけを告げると、通信を切ってしまう。それから暫くして、ユウシロウを迎えるための豪和の車が科学要塞研究所に到着した。

 

 

 

ユウシロウ

「…………」

 

 渦中の人物、豪和ユウシロウは特自の面々に一礼すると無言で豪和の車へと歩みを進めていく。そのすぐ後ろを、清継と清春の二人が歩いている。

 

ドモン

「ユウシロウ、行くのか?」

 

 そんなユウシロウに声を掛けたのは、ドモン・カッシュだった。その傍らにはパートナーのレイン・ミカムラ。それにゲッターチームの流竜馬もいる。

 

ユウシロウ

「ドモンさん……。はい、今までお世話になりました」

 

 敬礼するユウシロウ。

 

ドモン

「畏まらなくていい。豪和大尉、あんたは……変わったな」

ユウシロウ

「変わった?」

 

 きょとんとした顔をするユウシロウ。ドモンはそんな顔を見てフッと笑う。

 

ドモン

「べギルスタンで会った頃のあんたなら、変わったと言われても気にも留めなかったと思うぜ?」

ユウシロウ

「…………!」

 

 何がユウシロウを変えたのか。考えてみれば瞭然だ。ミハル。べギルスタンで出会った、いや遠い昔からお互いを知っているようなあの不思議な少女。あの少女が、疑問を投げかけてくれたからだ。

 

 “呼び戻さないで、恐怖を”

 

 恐怖。ユウシロウの中に脈々と受け継がれている何か。それが何なのか知りたくて、ユウシロウは火中へ挑むかのようにべギルスタンの派兵へ……ミケーネ帝国との戦いに挑んでいった。

 そして一つの疑問は、新たな疑念を生み出す。

 

ユウシロウ

「俺は……俺が何者なのか知りたくて、戦っています。そして、戦いはまだ終わらない」

 

 ようやくそれだけを口にして、ユウシロウはドモンへ視線を投げかけた。その視線にドモンは静かに頷くと、今度は竜馬が口を開く。

 

竜馬

「お前が運命と戦うって言うなら、俺は喜んで力を貸すぜ」

ユウシロウ

「竜馬さん……」

 

 静かに、2人は視線を交差させる。出会った当初、ユウシロウを毛嫌いしていた竜馬。しかし、今は違う。

 

ユウシロウ

「貴方には、何度も助けられた。礼を言います」

 

 ミハルと共に、地下迷宮でミケロに追われていた時も真っ先に助けに来てくれたのは竜馬だ。思えば、竜馬がいなければユウシロウもミハルも、あそこで死んでいたかもしれない。

 

竜馬

「……お前は操り人形の目から、運命に立ち向かう人間の目になった。それがあの、ミハルとかいう女のおかげだっていうなら上等じゃねえか」 

ユウシロウ

「ミハル……。あいつは……」

 

 しかし、ユウシロウはそれには答えなかった。2人の兄が、会話を聞いているからだ。改めて敬礼し、ユウシロウは豪和の輸送車へと乗り移る。竜馬とドモン、レインの3人はそれを暫く見送っていた。

 

レイン

「……ユウシロウ、この後どうするのかしら?」

ドモン

「さあな。だが、近いうちに再会することになると思うぜ」

 

 ドモンが言う。竜馬も、同感だった。彼の運命は、戦場の中にしかない。それを竜馬は心のどこかで感じていた。

 

竜馬

「ああ。あいつの戦いはまだ始まったばかりだがな」

 

 かつて、べギルスタンで出会ったユウシロウは自分の意志を感じさせない、人形の目をしていた。兄達の命令通りにTAに乗り、実験を繰り返すための人形……。その目的の意味も、価値も理解していない、興味もないものの目。しかし、今のユウシロウは違う。運命と戦う、抗う者の瞳。今の竜馬が……かつてのドモンがそうであったように、覚悟を決めた男の目。

 そして、ユウシロウの運命は戦場の中にある。そう、竜馬は直感していた。

 

ドモン

「……ああ」

 

 それをドモンも理解しているのか、静かに頷く。

 

レイン

「……もう、やっぱりファイターってみんなこうなんだから」

 

 唯一、レインだけはそんな通じ合っている2人に僅かばかりの疎外感を覚えていた。しかし、その疎外感にも慣れたもので、レインは溜息一つでそれを発散する。

 そんなドモンを、レインは好きになったのだから。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—アルカディア号—

 

 

 

 その日の夕暮れ、アルカディア号に何人かのメンバーが集まって談話室で話に花を咲かせていた。その中心にいるのは、隼人や弁慶らゲッターチームや、三日月とオルガ達鉄華団。『B世界』と仮称される並行世界の面々は、積もる話もあるのだろう。それに、彼らの話に興味がある面々もいた。

 

弁慶

「それにしてもびっくりしたぜ。俺はてっきりお前はくたばったかと思って念仏唱えたんだが……」

オルガ

「そう簡単にくたばってたまるかよ。……ドクター蛮と、今はここにいないお節介な死神のおかげで死に底なったんだ」

 

 オルガ・イツカ。鉄華団の団長である彼は車弁慶の憎まれ口に、呆れ顔で返す。しかし、彼が本気でオルガを、鉄華団を心配してくれていたことは理解していた。だから、表情も柔らかい。

 

隼人

「だが、よかったのか? 鉄華団は……」

三日月

「心配ないよ。あっちには昭弘もいるし、ガリガリが約束してくれた。みんなには、ギャラルホルンにも不当に手は出させないって。それに……」

 

 生きていくという、たったそれだけのことが満足にできないあの世界も、少しずつ良くしようとしている人達がいることを三日月は知っている。あの危なっかしい外務次官の女の子や、三日月達と共に戦ったあの快男児もそのために尽力している。それに、クーデリア。

 「自分達を幸せにしてみせる」とそう言った少女の青い瞳には、一点の曇りもなかった。だから、信じよう。と三日月は思う。彼らが地球を、自分達のアルカディアへと変えていくその日を。

 そんな、積もる話をしている彼らの話を熱心に聞いていたのは、トビア・アロナクスだった。

 

トビア

「凄い……」

 

 並行世界という、それだけでも想像を絶している。しかし、何より凄いのは彼らの歩んだ道そのもの。

 

トビア

「異星人に支配された地球と戦う……そんな過酷な戦いを、ゲッターチームはしてただなんて」

隼人

「俺達の場合は成り行きだがな。イルミダスの連中は、ゲッター線の研究成果を早乙女から奪おうとしていた。それを渡すまいと俺たちは、鉄華団やハーロック達と共闘することになったんだ」

 

 たとえどのような理由であれ、それだけの圧政に屈することなく立ち向かった。その精神性には、感服するところだ。

 

オルガ

「……俺達の地球は、だから大丈夫だ。そう信じて俺達はハーロックについていくことにした」

槇菜

「キャプテンハーロック……」

 

 キャプテンハーロック。顔合わせはしたが、彼にはまだ素性の見えないところが多い。眼帯と長い髪に隠れた瞳には、そこの知れないものがあるように槇菜には感じられた。

 

アトラ

「槇菜さん、船長は怖い人じゃないですよ?」

 

 そんな槇菜の心情を察したのか、アトラが言う。

 

ラ・ミーメ

「あの人は、戦いで大切なものや、愛する人を失いすぎてしまったんです。ですがその根底には、誰よりも慈悲深い心があります」

 

 不思議な光沢の肌をしたアロサウルス星の生き残りの女性ラ・ミーメが続ける。彼女はイルミダス軍の士官として働いていたが、故郷を滅ぼしたイルミダスから離反しハーロックについてきたと語る。恐らく、アルカディア号の船員の多くがそんな過去を経験し、ハーロックについてきているのだろう。と、彼女の過去はそんな想像をトビアや槇菜達に働かせた。

 

ラ・ミーメ

「私も、愛する人を失いました。だから、キャプテンの悲しみは理解しているつもりです……」

槇菜

「そっか……」

 

 キャプテンハーロック。彼の眼差しは即ち、彼の歩んできた道に他ならない。その道を、槇菜は知らない。だから、ハーロックという男の壮絶な歴史を想像するしかできなかった。あの隻眼には、何が見えているのだろうかと。

 

トビア

「愛する人を失う悲しみ、か……」

キンケドゥ

「…………」

 

 表情を険しくし、窓の外を見やるキンケドゥ。その視線の先に何があるのか、トビアは聞くまでもなく気付いている。

 

トビア

(結局、あれからベラ艦長の行方を掴む手がかりは何もない。無事でいてくれればいいけど……)

 

 ザビーネによって攫われたセシリー……ベラ・ロナ。彼女のことを考えているのだろう。恐らくはミケーネ帝国の拠点に囚われていると思われるが、それ以上の進展がない。キンケドゥはその現状に、やきもきしているのだ。

 そして、やきもきしているといえばトビアもである。

 

トビア

(ガンダム、なんとかしないとな……)

 

 宇宙海賊クロスボーン・バンガードは、木星戦役の頃は月面企業サナリィのバックアップを受けることができる立場にいた。それは木星帝国という脅威に対抗するためというのもそうだが、ロナ家のバックボーンによるところも大きい。しかし、ベラ・ロナが市政の女に戻り、ベラの従姉妹シェリンドン・ロナとも疎遠になった今のクロスボーンではそうもいかない。

 これまでは予備のパーツで騙し騙し使っていたクロスボーン・ガンダムも、いよいよ予備パーツに底が見えていた。

 

トチロー

「しかし……おたくらの地球も、なかなか凄いことになってんだな」

 

 ハーロックの相棒・大山トチローが言う。このアルカディア号を一人で建造した優秀な技師でもあるトチローは、この世界のスーパーロボットを中心とした機械技術の発展に大きく目を見開いていた。

 

トチロー

「突出してるのは、生体エネルギーの解明だな。俺達の地球よりもその点では遥かに進んでる」

ショウ

「それは、俺達のオーラバトラーやサイコミュを搭載したモビルスーツ。獣戦機やゴッドガンダムの感情エネルギーシステムのことか?」

トチロー

「ああ。俺達の地球では、阿頼耶識が一番近いが……この世界では人間の方を手術で改造するのではなく、適性のある人間を選ぶことでマシンを最適化してるんだな」

シャア

「…………」

 

 厳密には、その段階に至るまでには人間の身体に手を加える強化人間手術というものも存在していた。しかし、技術の発展に伴い特殊な才能を人間に植え付けるような改造はタブー視され、そしてニュータイプという言葉とともに強化人間手術も忘れられていった。その歴史をシャアは知っている。

 

シャア

(三日月達の阿頼耶識。あれは強化人間の行き着く果てなのかもしれないな……)

 

 そんな風に、『B世界』からやってきた新たな仲間達との会話に花を咲かせていた時だ。

 

アラン

「みんな、少しいいか?」

 

 アラン・イゴール。バンディッツのリーダーであり、今日このスーパーロボット軍団を一堂に集結させた功労者の一人。今後の方針を立てるために一度ブリーフィングルームに集まってほしい。とアランは告げると、そそくさと退出してしまう。どうやら、他の面々にも声をかけて回っているらしい。

 

槇菜

「……そういえば、すっかりここも大御所になったよね」

 

 最初、槇菜以外には甲児とさやか、ハリソン、ゲッターチームしかいなかった。それが気づけば数多くの仲間が集まっている。いち国家の兵力にも匹敵……或いはそれすらも凌駕する戦力が一つの場所に集まっている。その事実には、少々怖いものすら感じられる。

 今まではミケーネの脅威と、世界を脅かすものと戦うためと理解していたが、それでもこの急激な戦力の増幅は、他者から見れば脅威に移るかもしれない。そんなことを、槇菜は思った。

 

シャア

「……キミのその感性は、正しくはある」

 

 そんな槇菜の考えを見抜いたのか、シャアが呟く。

 

槇菜

「シャアさん……」

シャア

「だが、だからこそ考えてほしい。強い力を持つということの意味を」

 

 そう言って、ブリーフィングルームへシャアは足を運ぶ。シャアの言葉には、不思議な重みがあった。

 

槇菜

「力の意味、か……」

 

 思えば、ジャコバ・アオンも同じようなことを言っていた気がする。それに聖戦士……ショウ・ザマも。槇菜はそれを、「誰かを傷つける者から、誰かを守るためのもの」であれとそう願い、盾を構え続けていた。そして、ここに集う者達は多かれ少なかれ、近い考えを抱いていると信じている。

 

槇菜

(シャア・アズナブル……。人類粛清を宣言した人、か)

 

 現世に戻ったシャアには、どのように見えているのだろう。そんなことを、槇菜は漠然と考えていた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—科学要塞研究所/ブリーフィングルーム—

 

 

ショウ

「隊を分ける?」

アラン

「ああ。暗黒大将軍が倒れ、ミケーネに大きなダメージを与えた。だが、先刻のヤヌス侯爵の奇襲……ミケーネにはやはり、大きな拠点を持っているに違いない。そこで、ミケーネの拠点を探す隊をひとつ、新たに組織する」

 

 ミケーネの拠点を探るための分隊は、アランが指揮するという。基本的な構成員はフランシスらバンディッツの面々とのこと。強力な戦力と言えるマシンは、アランのブラックウィングくらいのものだ。

 

「アラン、お前一人で大丈夫なのかよ?」

 

 必要なら付き合う。そう忍は言うが、アランは首を横に振る。

 

アラン

「この分隊の役割はあくまで偵察と情報収集だ。主力であるダンクーガを向かわせるわけにはいかん」

雅人

「そりゃそうだけどさ……」

 

 そんな獣戦機隊との会話を静かに聞いていたキンケドゥが、手を挙げた。

 

キンケドゥ

「アラン、俺一人ならついて行っても大丈夫だろ?」

槇菜

「パン屋のおじさん?」

トビア

「…………」

 

 トビアには、わかっている。キンケドゥがなぜその任務に立候補するのか。アランもキンケドゥの瞳を静かに見据え、頷いてみせた。

 

アラン

「……たしかに、キンケドゥとF91なら十分背中を預けられるか」

「お、おい! そりゃ俺には背中を任せられねえってことか!?」

 

 そりゃないぜと忍。そんな様子に、沙羅と亮は呆れ顔で頷いていた。

 

アラン

「勘違いするな藤原。ダンクーガは戦力の要だ。お前達ならば、この世界を守れると信じているからこそ、俺は行く」

「お前……」

 

 かつて、アラン・イゴールはムゲ・ゾルバトス帝国の月面基地を攻略する際、獣戦機隊に後を託して特攻したことがある。奇跡的な生還を果たしてここにいるが、一度捨てた命。世界の為に使う覚悟を、アランは既に決めている。それを忍は、この短い会話の中で悟った。

 

沙羅

「……アラン、馬鹿なことはするんじゃないよ」

 

 そんなアランに、沙羅が静かに言う。

 

沙羅

「アンタには、まだ親父がいるんだ。あんたが死んだら、私達がイゴール長官にそれを伝えなきゃならないんだ。そんなの、勘弁だよ」

アラン

「……そうだな」

 

 静かに、アランが笑った。

 

キッド

「そうだぜ、依頼主が死ぬのは寝覚めが悪い」

ボウィー

「そゆことそゆこと。だいたい、アランちゃんが死んだら報酬はどうなるのよ?」

 

 深刻な雰囲気で話す彼らを茶化すようにキッドが言う。それに続くように、ボウィーも。シリアスな雰囲気を壊すようなその言葉はしかし、その場には心地よいものだった。

 

剣蔵

「ではアラン君らバンディッツとキンケドゥ君には、偵察部隊をお願いしよう。それと、もうひとつ……隊の半数には、宇宙へ上がってもらいたい」

 

 静かに、剣蔵が口を開いた。宇宙、その言葉に一同はどよめいた。

 

マーガレット

「宇宙……。どういうことですか?」

剣蔵

「実は、月のサナリィと交渉してな。モビルスーツの補給物資を取りに行ってもらいたいんだ」

トビア

「モビルスーツの!?」

 

 海軍戦略研究機関サナリィ。国連直轄の兵器技術開発部門であり、モビルスーツ・フォーミュラナンバーの生みの親。つまりキンケドゥやハリソンのF91や、トビアの乗るクロスボーン・ガンダムを開発した大御所の兵器開発、技術機関である。

 

オンモ

「一応、元社員のアタシが必死に頭下げてね」

 

 現クロスボーン・バンガードのお頭……ブラックロー運送の社長でもあるオンモは、サナリィと個人的なコネを持っていた。それを今回は精一杯使ったと言う。

 

トビア

「オンモ艦長……」

オンモ

「あんたとガンダムは、ウチの顔だからね。今のまま放っておくわけにはいかないさ」

 

 そう言ってウィンクしてみせるオンモ。

 

ハリソン

「だがあのサナリィが首を縦に振るとはな。一体、どんな交渉を?」

 

 ハリソンの疑問に、オンモと剣蔵は一瞬視線を交わす。それから、少しだけ声のトーンを落とし剣蔵が呟いた。

 

剣蔵

「……技術提供だ。サナリィに、量産型グレートマジンガーの開発を依頼したんだよ」

 

 

鉄也

「量産型グレートですって!?」

甲児

「お父さん!?」

 

 グレートマジンガー。偉大な勇者の量産計画。それは聞き捨てのならないものだった。特に、マジンガーと共に戦い抜いていた二人にとっては。鉄也は前に乗り出し、剣蔵へ詰め寄る。

 

鉄也

「所長、グレートマジンガーは生半可な奴に乗りこなせる代物じゃない。量産化なんかしたとしても……」

 

 鉄也は、グレートのパイロットになるために厳しい訓練を積み重ねてきたプロフェッショナルだ。それこそ、訓練を受けた兵士よりもその鍛錬は遥かに厳しい。それほどの人材が、今の軍にいるとは思えないと言う。

 

甲児

「それだけじゃないよ。もしマジンガーが悪の手に落ちれば……」

 

 マジンガーは神にも悪魔にもなれる力。そう、祖父から教えられた甲児にとっても「マジンガーの量産化」という事実は衝撃的なものだった。

 

剣蔵

「…………わかっている。だが、どうしてもサナリィの手を借りなければならない事情があるんだ」

甲児

「事情……?」

 

 剣蔵の次の言葉を、甲児と鉄也は固唾を飲んで待った。やがて剣蔵は、静かに口を開く。

 

剣蔵

「先のヤヌス侯爵の襲撃で、おそらくミケーネはマジンガーZのオーバーホール計画について知ったはずだ。そこで、オーバーホールを行う場所を光子力研究所からサナリィへ移すことにしたのだ」

甲児

「…………!」

 

 光子力研究所は、科学要塞研究所ほど強力な武装は持っていない。もし、マジンガーZのオーバーホール中に襲い掛かられたら一環の終わり。剣蔵の言うことは、合理的ではあった。

 

鉄也

「……その交換条件として、グレートの量産計画の委任先としてサナリィを」

剣蔵

「そういうことだ。月なら、ミケーネも迂闊には手を出せん。そこで、せわし博士とのっそり博士をサナリィへ派遣し、マジンガーのオーバーホール計画にも協力してもらうことにしたのだ」

 

 静かな沈黙。それは剣蔵らの決定に対して不服や懸念はあれど、皆理性では必要を理解しているからだった。そんな沈黙を打ち破るように、オルガが口を開く。

 

オルガ

「取引ってことか。サナリィとやらが筋を通してくれるならそれでいいんじゃないか?」

 

 そう言って、オルガはサナリィへのコネを持つオンモへ目配せした。彼なりに助け舟を出している。そう受け取ってオンモが言葉を続ける。

 

オンモ

「……まあ、大丈夫じゃないかね。あの専務、なんていうかこう人がいいから、裏切るような真似はしないと思うよ」

 

 それを聞き、オルガは静かに頷いた。オルガはこの世界に来て日は浅い。しかし、ここに集まった面々に悪人はいない。そう感じていた。

 

トビア

「サナリィに行くなら、当然俺達が行くとして他は……」

 

 脱線しつつある話を戻すように、トビアが言う。

 

アムロ

「俺も行こう。今の宇宙がどうなっているのか、見ておきたい」

シャア

「そうだな……」

 

 まず挙手したのは、アムロとシャアだ。さらに、続くように手を挙げるのはハリソン。

 

ハリソン

「サナリィへ行くなら、俺も行きたい」

 

 ハリソンの愛機F91は、サナリィの開発した傑作機だ。その事で縁深いものがある。ハリソンが挙手したことを、不思議に思うものは誰もいなかった。

 

ハリソン

(サナリィなら……もしかしたらあの人に会えるかもしれないしな)

 

 ハリソンの胸中はしかし、期待で高鳴っている。まるで、小学生時代にお世話になった担任の先生に会いにいくかのような高揚と、不安のない交ぜになった目。

 

トゥインク

「大尉さんって、そんな子供みたいな目をするんですね」

ハリソン

「……っ!?」

 

 可笑しくなって、トゥインクが囁く。急に気恥ずかしくなったのか、ハリソンは手を下ろした。

 

ハーロック

「宇宙への航路は、アルカディア号が受け持とう」

トチロー

「ああ。アルカディア号は宇宙を旅するための艦だからな。それに、こっちの世界の宇宙海賊達の話も聞いてみたかったんだ」

 

 そう言って、トビアに目配せするトチロー。トビアは弱ったように髪を掻いて、「へへっ」と愛想笑いした。

 

オルガ

「アルカディア号が行くなら、俺達も宇宙だな」

三日月

「そっか。月に行くのか……」

 

 月。その言葉を呟いて三日月はふと空を見た。雲に隠れた満月が薄ぼんやりと、青い空に透けて見える。それを両の目で見れないことが、少しだけ残念に三日月は感じる。

 

剣蔵

「ハーロックさん、話の通りです。甲児も連れていってはもらえないでしょうか」

ハーロック

「フム……」

 

 剣蔵の提案にハーロックは暫しの間、甲児の顔を覗き込んだ。それから数秒の後にひとつ頷くと、

 

ハーロック

「わかりました。息子さんは責任を持って送り届けましょう」

 

 そう、静かな声が響いた。

 

甲児

「へへ、よろしくお願いします。キャプテンハーロック」

ハーロック

「兜甲児……。君はいい目をしている。俺の艦に乗る資格は、十分にある」

 

 ハーロックの視線を真っ直ぐに受け入れる甲児に、ハーロックは好感を抱いていた。真っ直ぐな瞳。裏表のない人格。それはハーロックが、自分の世界へ残してきた一人の少年によく似ている。

 

ハーロック

(……フフ、俺も青いな)

 

 誰にも、少なくとも親友であるトチロー以外の誰にも、そんなハーロックの内心は悟れなかった。

 

 

槇菜

「甲児さん、宇宙に行っちゃうんですか?」

甲児

「ああ、俺とさやかさんはマジンガーの修復が終わるまで、ネオジャパンのカッシュ博士の元で勉強することになったんだ」

 

 そう言って笑ってみせる甲児。宇宙。その言葉には少しだけ、槇菜の心もときめくものがあった。

 

槇菜

「ネオジャパンかぁ……」

レイン

「気になるの?」

槇菜

「はい。私……学校の先生になるのが夢だから」

 

 槇菜の元々の進路希望は、コロニーのハイスクールだ。今はそれどころではないが、もしあの時岩国に戦闘獣が、鬼が現れなければ今頃も甲児やさやかと一緒に、エイサップのバイトする喫茶店で勉強していたはずだ。

 しかし、今槇菜を襲っている現実は容赦がない。

 

ベルナデット

「槇菜さんも、宇宙へ来ますか?」

槇菜

「……ううん。私は、こっちに残る」

 

 ゼノ・アストラ。旧神と呼ばれたそれは、マチュピチュの遺跡で眠っていたという。それに邪霊機。あの少女は明確に、自分の知らないゼノ・アストラのことを知っている。そして。

 

槇菜

(お姉ちゃんのことだってある……。きっと、お姉ちゃん達が動くならこっちだ)

 

 槇菜の姉・櫻庭桔梗。姉が何をしようとしているのか、槇菜には理解できない。しかし、それでも。ミケーネと戦っていた姉は、本心から侵略者と戦っていたと……平和を愛する心は同じなのだと、信じたい。槇菜は自分に言い聞かせるように、静かに頷く。

 

マーガレット

「……なら、私が宇宙に行くわ」

 

 最後に手を挙げたのは、マーガレットだった。その意外な人物の挙手に、一同は「え?」と目を丸くする。

 

槇菜

「マーガレットさん?」

マーガレット

「宇宙に出るのは、はじめてじゃない。それに、少し気になることがあってね」

沙羅

「…………」

 

 マーガレットの横顔を、沙羅が神妙に覗き込んでいた。それから、しばらくして。

 

沙羅

「いいんじゃないか」

 

 そう、優しい声音で囁く。

 

沙羅

「アルカディア号の方は、少し後衛が少ないからね。あんたのシグルドリーヴァなら、援護くらいできるだろ」

マーガレット

「ええ。それは任せて」

 

 マーガレットなりに、何かを考えたいのだろう。そう、沙羅はマーガレットの考えを尊重した。それを理解して、マーガレットも沙羅へ微笑む。

 

「沙羅、俺たちもアルカディア号へ行くぜ」

 

 そんなマーガレットと沙羅の会話を見ていた忍が言う。それに沙羅は「えっ」と声を上げた。

 

「確かに、俺達は宇宙戦の経験もある。それに、スーパーロボットのパワーが必要になる局面もあるかもしれんしな」

 

 珍しく亮が忍の意見を肯定し、忍は「へへっ」と鼻を鳴らした。

 

 

ハリソン

「……なら、アルカディア号に乗艦するのは俺とクロスボーン、鉄華団、アムロ大尉とシャア大佐。獣戦機隊とそれに甲児くん、マーガレット少尉か」

ショウ

「こちらに残るのは鉄也君とゲッターチーム、シャッフル同盟。それに俺やエイサップ達オーラバトラー乗り。ヤマトと槇菜か。凡そ半々くらいだな」

 

アイザック

「我々は当初の依頼通り、地上で無国籍艦隊の動向を調べる関係上地上に残りましょう」

お町

「アステロイドベルトが少し恋しいけどね。お仕事優先」

 

村井

「中佐、私達はどうします?」

速川

「当面、科学要塞研究所の防衛に当たろう。彼らの作戦行動に支障が出ないようにな」

 

 実験第三中隊にとっては、日本政府からの命令が第一だった。科学要塞研究所の面々との協力。現状それが、彼らに首輪をつける行為だと速川も理解していた。だが、そんな中でもやりようはある。

 

鏑木

「研究所の防衛に就くのなら、必要に応じて国防任務に当たれる。そういうことですね」

速川

(それに、豪和の動向も気になるところだしな……)

 

 暗黒大将軍との死闘から、数日の時が流れていた。しかし、その間にも暗雲は迫っている。それを誰もが、肌で感じていた。

 

槇菜

「あ……」

 

 そんな時、槇菜が口を開いた。

 

槇菜

「そういえば、名前……決めてないですよね?」

 

 一同が、ぽかんとして槇菜を見やる。

 

エイサップ

「槇菜、お前……」

槇菜

「え、へ? 何か、おかしいこと言った?」

トビア

「いや……みんな、すっかり忘れてたから。感心してるんだよ」

 

 名前。それまでは「科学要塞研究所」「エンペラー部隊」などの名称で通していたが、大御所になり、エンペラーとアルカディア号という2つの旗艦を持っている今、組織・部隊としての名称は必要なものである。誰もがそう理解しながらも、忙しさの中で忘れていたものだった。

 

ジョルジュ

「名前、ですか……」

チボデー

「いざ決めるとなると、なかなか思いつかねえな」

サイ・サイシー

「そういやさ、竜馬のアニキ達の世界では、そういう名前ってなかったの?

 

 サイ・サイシーが、それとなく訊く。竜馬は「ああ?」と返事し、それから「そういや……」と目を宙へと泳がせた。

 

三日月

「……リベリオンズ」

 

 ポツリ、と三日月が呟いた。

 

竜馬

「ああ、そうだ。リベリオンズ。そんな名前だったな」

トチロー

「叛逆者……。なんだかんだ言って俺達にピッタリな名前だったな」

 

槇菜

「かっこいい……」

 

 叛逆者。その名を背負った者達……流竜馬、三日月・オーガス、それにキャプテンハーロックを槇菜は見やる。彼らには相応しい呼称であるかのように、槇菜には思えた。

 

三日月

「そもそもさ、俺達はどういう集まりなわけ?」

 

 不思議そうに、三日月が訊く。

 

三日月

「どうせなら、そういうのがわかりやすい名前の方がいいと思うけど」

マーベル

「そうね。私達、気付けばこうして集まって協力してるけど、元はそれぞれで戦ってたのよね」

マーガレット

「同じ敵と戦う為に、私達はこうして共にいる」

 

 無論、それだけが理由でない者も多い。しかし、世界を……或いは人々を脅かすものと戦うという意志を持たないものはここにはいない。そう、マーガレットは感じたままに言う。

 

オルガ

「あっちの俺達が“抗う者”なら、こっちの世界じゃ“撃ち破る者”……ってところか」

ハーロック

「バスターズ……。悪くない名前だな」

 

 バスターズ。そのシンプルな響きは確かに通りがよかった。だが、そこで手を上げたのはアイラ・ムーだ。

 

アイラ

「私達が戦う者は、未来を奪う者達です。過去から来た私が言うのも烏滸がましいかもしれませんが、私にはそう感じられます」

エイサップ

「未来を奪うもの、か。それはたしかに、そうかもな」

 

隼人

「……虚無」

 

 ポツリと、隼人が呟く。

 

弁慶

「どういうことだ?」

隼人

「奪われた未来に残るものを想像したんだ。死、絶望、恐怖……どれもピンと来ねえ。だが」

 

 虚無。この世のあらゆる真理、生命の意味を否定する言葉。それは確かに、“未来を奪う者”という概念にしっくりくる。そう、アイラが頷く。

 

ヤマト

「なら、さしずめ虚無を撃ち破る者……ってところか」

甲児

「ヴァニティ・バスターズ。いいんじゃねえか?」

 

 甲児が直訳する。その響きに誰も、否定意見を出さなかった。

 

ハーロック

「いいだろう……。俺達の集い、同盟をここに、ヴァニティ・バスターズとする」

 

 キャプテンハーロックが、重々しく口を開いた。その時だった。けたたましいサイレンの音が、科学要塞研究所に鳴り響く。それと同時、通信モニタが光子力研究所の弓教授の顔を映し出した。

 

さやか

「お父様!?」

弓教授

「こちら光子力研究所。現在、ミケーネの奇襲を受けている。至急援護を要請したい!」

 

 慌てた声色の父に、さやかの顔から血の気がみるみる引いていく。光子力研究所への襲撃。それは、即ち。

 

甲児

「あいつら、修理中のマジンガーZを攻撃する気か!?」

 

 剣蔵の予感は、当たっていたのだ。

 

剣蔵

「わかりました。すぐに応援を向かわせます」

 

 剣蔵が答え、通信が切れる。光子力研究所の応戦する音だけが、最後に鳴り響いていた。

 

剣蔵

「キャプテンハーロック。お願いできますか?」

ハーロック

「ええ。光子力研究所を襲う敵を撃退し、我々はすぐに宇宙へ飛び立ちます」

 

 頷き、ハーロックは剣蔵に右手を差し伸べる。握手に剣蔵は、冷たい鋼の腕で応じた。

 

ドモン

「こうしちゃいられねえ。俺達も援護するぞ!」

鉄也

「ああ。鍛え抜いた新しい技を、戦闘獣にお見舞いしてやるぜ!」

 

 

 

 

 

……………………

第18話

「Vanity Basters」

……………………

 

 

 

 

—富士/光子力研究所—

 

 

 

 光子力研究所に迫る、万能要塞ミケロス。修復を終えたミケロスを預かるゴーゴン大公は、マジンガーZの修復作業のために月へ向かう準備をしていた研究所の光子バリアを打ち破り、戦闘獣を差し向けていた。

 

ゴーゴン大公

「行け、戦闘獣ゼランギアよ! 動けぬマジンガーZを今ここで亡き者にしてやるのだ!」

 

 帰還したヤヌス侯爵によりもたらされた「マジンガーZの修復、強化」その情報はドクターヘル……地獄大元帥の瞳を醜くギラつかせていた。大元帥は、何としてもマジンガーZを倒すようゴーゴン大公を差し向けたのである。

 

地獄大元帥

「よいかゴーゴン。マジンガーZは我らにとっては仇敵。今ここで完全に破壊し、兜甲児を絶望の底に叩き込んでやるのだ!」

 

 火山島から通信で指示を出す地獄大元帥に、ゴーゴンは「ははっ!」と返す。

 万能要塞ミケロスは、この時のためにかなりの改良が加えられていた。特に、完全自動操縦システムに切り替えたことで、ミケロスはゴーゴンの指示を忠実にこなすように改造されている。ミケーネスの手違いや勘違い、指揮統制の乱れなどによる敗北は、このミケロスには発生し得ない。

 

ゴーゴン大公

「マジンガーを倒せば、俺こそが次の大将軍。その座も夢ではない……!」

 

 ゴーゴンの邪悪な笑みと共に、万能要塞ミケロスから放たれたミサイル弾が光子力研究所を襲う。その時だった。一条の熱線が、ミサイルを焼き尽くす。ブレストバーン。グレートマジンガーの強力な武器が、ミケロスの攻撃を阻んだのだ。

 

鉄也

「ゴーゴン大公! 貴様の好きにはさせないぜ!」

 

 グレートマジンガー。偉大な勇者が夜空に立つ。そして、大空に浮かび上がる巨大な髑髏。

 

ゴーゴン大公

「あ、あれは……!?」

 

 アルカディア号。七大将軍の一人を屠った巨大な海賊艦。それに続くように、ヴェルビン、ナナジン、ガンダム・バルバトスルプスレクス、ゴッドマジンガー、ブライガー、それにゼノ・アストラが、光子力研究所へと辿り着いていた。

 

三日月

「オルガ、あのクラゲみたいな化け物をやればいいの?」

 

 戦闘獣ゼランギアを指し、三日月。

 

オルガ

「ああ、景気付けだミカ。派手にぶちかませ!」

 

 オルガの返事に、三日月は少しだけ口角を釣り上げる。そして、悪魔の名を冠するガンダムはまるで獣のように瞳をギラつかせて戦闘獣へと駆けて行った。

 

ゴーゴン大公

「ううむ、こうなったら。奴らも出撃させろ!」

 

 ゴーゴン大公の怒声と共に、万能要塞から恐竜のようなロボット達が次々と現れる。明らかに戦闘獣とは異質の存在。

 

槇菜

「何、あれ……?」

エイサップ

「今まで戦ってきた戦闘獣とは違う……?」

 

 困惑する面々。しかし、そんな中でヤマトだけはその存在に驚きの表情を見せていた。

 

ヤマト

「あれは、メカザウルス……!?」

槇菜

「ヤマト君、知ってるの?」

 

 メカザウルス。そんなものは今まで聞いたこともない。しかし、ヤマトが知っている。それは即ち……。

 

ヤマト

「古代ムー王国と戦争してた、ドラゴニア帝国が使ってたマシンだ。ミケーネの奴ら、あんなものまで!?」

 

 翼竜型メカザウルスと、首長竜型のメカザウルス。それは確かに、ヤマトの知る敵の姿だった。嫌な汗が、滲み出る。

 

ヤマト

(まさか……奴もこの時代に?)

 

 メカザウルス達を操り、かつて自分と仲間達を窮地に追い込んだ強敵の影をヤマトはひしひしと感じていた。だからこそ、ゴッドマジンガーが先行する。メカザウルスとの戦いは、彼が最も慣れているのだ。ゴッドマジンガーが剣を抜き、首長竜型のメカザウルスへと向かう。

 

槇菜

「ヤマト君を援護します!」

ショウ

「了解だ。俺とエイサップは空のやつを叩く!」

 

 プテラノドン型のメカザウルスへと、飛翔するニ機のオーラバトラー。オーラの光が夜空に煌めき、剣の一撃がメカザウルス達を屠っていく。

 

チャム

「ショウ、あんな強獣もどきやっちゃえ!」

 

 ショウの耳元で、チャムが姦しく叫ぶ。元々、バイストン・ウェルのコモン界にはああいう怪物が沢山存在していた。それともショウはやり慣れている。だから、翼竜の動きはよく知っている。ヴェルビンの剣撃が、メカザウルスの右の翼を裂いた。

 

メカザウルス

「!?!?!?!?」

 

 悲鳴のような雄叫びが、ショウとチャムの耳元に響く。どうやら翼竜の雄叫びは、超音波になっているらしい。音波攻撃は、オーラバリアでも防げない。思わぬ強敵に、ショウは苦戦を強いられていた。

 

エレボス

「エイサップ、ショウを助けなきゃ!?」

エイサップ

「わかってる。行くぞ!」

 

 ヴェルビンを助けるように、青いオーラバトラーが翼竜めがけて翔ぶ。燃え上がるオーラソードを振りかざすと、逆巻く炎が翼竜型のメカザウルスへ降り掛かる。炎を浴び、メカザウルスの翼が焼かれていく。

 

チャム

「今よショウ!」

ショウ

「ええい、ままよ!」

 

 炎を中を駆け抜けるヴェルビン。深緑のオーラバトラーの翼が、炎を裂いて夜空を駆ける。そして、手にしたオーラソードにショウのオーラ力が宿り、黄金色に輝いていく。

 

ショウ

「ハァッ!!」

 

 必殺のオーラ斬りが、翼竜型のメカザウルスを斬り裂く。断末魔の悲鳴を上げて、爆発するメカザウルス。

 

ショウ

「助かった。すまないエイサップ!」

エイサップ

「ショウさん、次が来ます!」

 

 仲間を倒された翼竜型のメカザウルスが、仇を見るようにショウとエイサップを睨んでいる。

 

ショウ

「背中は任せた。行くぞ!」

エイサップ

「はい!」

 

 オーラ光を夜空に煌めかせ、聖戦士達の戦いは第二ラウンドが始まった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

ヤマト

「来い、メカザウルス。ゴッドマジンガーが相手だ!」

 

 地上に押し寄せる、首長竜型のメカザウルスと対峙するゴッドマジンガー。メカザウルスの背中から放たれるミサイルの猛攻を受けながら、魔神は咆哮する。

 

ヤマト

「でやぁっ!!」

 

 ゴッドマジンガーが手にする魔神の剣が、メカザウルスの首を刎ねた。有機体とメカの混じり合った独特の感覚。それをムー王国でヤマトは嫌というほど斬ってきた。今、現代でそれと同じ感覚を味わうことになろうとは。

 

ヤマト

(闇の帝王の野望を打ち砕き、“光宿りしもの”を守り抜いた……。だけど、やはりまだ戦いは終わりじゃねえってことか!)

 

 闇の帝王の尖兵・ドラゴニア王国との死闘の日々。それはヤマトとって忘れ難きものである。突然、太古の世界にタイムスリップし、そしてわけのわからない軍団と戦う勇者となったのだから。

 竜の首を刎ねたゴッドマジンガーに、別のメカザウルスが襲い掛かる。その火炎攻撃はしかし、堅牢な盾によって阻まれた。

 

槇菜

「ヤマト君、大丈夫!?」

ヤマト

「ああ、助かった!」

 

 ゼノ・アストラ。思えばゴッドマジンガーはこいつを知っているようだが、ヤマトはそんなものをあの戦いで見たことがない。ゼノ・アストラの破邪の力を持つ翼が舞い、メカザウルスを焼き祓っていく。こんな奴が近くにいたのなら、古代の戦いももう少し楽ができたはずだ。ともヤマトは思う。

 

ヤマト

「ゴッドマジンガー、お前はゼノ・アストラを知っているのか?」

 

 知っているのなら、答えてほしい。しかし、マジンガーは答えない。マジンガーはいつも、意味深な託宣だけをヤマトに告げる。

 

ヤマト

「ちぇっ、わかったよ。……だったら、その真実は俺が見つければいいんだろ!」

 

 ヤマトの叫びと共に、ゴッドマジンガーが黄金に輝き始めた。“光宿りしもの”太古の神話にそう記された魔神の力。メカザウルス達の、恐怖と畏怖の入り混じった咆哮が聞こえる。そう、彼らにとってはゴッドマジンガーこそが破壊者なのだ。

 

メカザウルス

「オオ、オオ…………!?」

 

 首長竜型のメカザウルスが、そんな感情をない混ぜにした呻き声と共にゴッドマジンガーへと突進する。それをヤマトは無言で受け止め。そして。

 

ヤマト

「ハァッ!!」

 

 ゴッドマジンガーの剣を、その心臓目掛けて垂直に振り下ろした。たちまち絶命するメカザウルス。ヤマトはその死骸を振り払い、迫り来る次のメカザウルスへと剣を構える。

 

槇菜

「これ、何? メカなの? 恐竜なの?」

 

 盾を構えながらも戸惑いの言葉を吐く槇菜。無理はないとヤマトは思う。メカザウルスは、機械獣や戦闘獣とは根本的に別のものだ。ミケーネ人の頭脳をより屈強な機械の身体に移植して作られる戦闘獣と違い、メカザウルスはあの時代自然に生きていた恐竜を改造して作った存在。有機体とメカの比率が逆なのだ。

 

槇菜

「……嫌な感じ」

 

 それは、槇菜に「生き物を殺している」ような感覚を与えていた。厭な嘔吐感。罪悪感。それらがない混ぜになった感覚を今、槇菜は覚えている。

 

ヤマト

「槇菜、無理はするなよ」

 

 戦いの中で、普通は忘れてしまうその感覚を覚えていられる槇菜は優しい子なのだとヤマトは思った。

 

槇菜

「ううん。みんなを守るために戦うんだもん。私だけが弱音なんて吐けないよ!」

 

 それでも、気丈に振る舞う槇菜。ゼノ・アストラはその大きな盾を構え、迫り来るメカザウルスの群れへと飛翔する。

 

槇菜

「ヤマト君。お願い!」

ヤマト

「おう、任せろ!」

 

 ゼノ・アストラはその堅牢な盾を前面に押し出し、メカザウルスへと突進する。単純な質量攻撃。しかしそれは、有機体とメカの化合物であるメカザウルスを押し退けるパワーを秘めていた。

 

槇菜

「やぁっ!!」

 

 背中の羽根が輝き、舞い散るそれが刃となってメカザウルスの皮膚を切り裂いて行く。そこにできた傷へ、ゴッドマジンガーが剣を突き刺していく。

 

ヤマト

「さあ来いトカゲ野郎ども! ゴッドマジンガーの怖さ、たっぷりと思い出させてやるぜ!」

 

 剣を掲げ、ゴッドマジンガーが咆哮した。その神とも悪魔とも呼べる力を顕現させ、怒りの眼がメカザウルスを見つめている。

 隣で盾を構える心優しい少女に、これ以上殺生の苦しみを与えたくはない。だからヤマトは、敵を引きつけるように吼えていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

三日月

「なに、こいつ……?」

 

 戦闘獣ゼランギア。全身がぶよぶよの軟体に覆われた戦闘獣は、戦っても手応えを感じない。バルバトス得意のメイスを叩きつけても、ぐにゃりと曲がるのみで押し潰すまで達せないのだった。

 

ゴーゴン大公

「ハハハハハ! これこそ戦闘獣ゼランギアの恐ろしさよ」

三日月

「あいつ、五月蝿いな……」

 

 バルバトスの尻尾が、威嚇するようにブンブンと揺れ跳ねた。しかし、空高くにいるミケロスに尻尾の攻撃が当たるわけもない。とにかく、今は戦闘獣をどうにかするのが先だ。蛸のような戦闘獣の触手が、バルバトスのメイスを奪い取ろうとする。それをバルバトスはネイルで防ごうとした。しかし、その軟体はやはり攻撃の手応えがない。

 

三日月

「やりにくいな……」

 

 今まで戦ってきた相手はどいつもこいつも、真っ正面から叩き伏せてきた。だが、こいつはどうも、闇雲に戦ってもこちらの体力を消耗するだけらしい。

 

三日月

「どうにかして、ぶよぶよの奥に届かせないといけないか」

鉄也

「それなら、俺に任せろ!」

 

 バルバトスに代わるようにして、グレートが行く。ネーブルミサイルを叩き込み、そして必殺のアトミックパンチ。暗黒大将軍との死闘を駆け抜けたグレートマジンガーは、既に万全に蘇っていた。

 

ゴーゴン大公

「フフフ、バカめ!」

 

 しかし、ゴーゴン大公もこの時になんの備えもしていなかったわけではない。ゼランギアの蛸のような触手がアトミックパンチを絡め取る。

 

鉄也

「何ッ!?」

ゴーゴン大公

「剣鉄也、マジンガーの強力な武器は、腕を使う! アトミックパンチも、サンダーブレークも、両腕を奪われたお前には使えない!」

 

 そう、ゼランギアのこの軟体はまさにグレートマジンガーの強力な武装の数々と、そしてそれの要になっている腕を封じ込めるための装備だったのだ。グレートの腕を呑み込み、ゼランギアはさらに触手を伸ばす。

 

鉄也

「こうなったら、ブレストバーンッ!」

 

 腕がなくても、グレートマジンガーには強力な放熱機構がある。鉄也は胸のブレストバーンを放つも、戦闘獣ゼランギアの軟体は熱を受け流していく。

 

鉄也

「どういうことだ……?」

 

 物理的な攻撃を流すのは、理解できる。しかし、熱までも通用しないとなるとあの戦闘獣には軟体以外にも何かカラクリがあるはずだ。それを見極めるため、鉄也はもう一度ブレストバーンを放つ。

 

ゴーゴン大公

「バカめ! ブレストバーンが効かないことくらい、わかっただろうに!?」

鉄也

「…………!」

 

 わかっている。わかっているが、その絡繰を解かない限り勝利はない。鉄也はゼランギアが攻撃を受け流す一連の動きを、鋭く見つめていた。そして、

 

鉄也

「!? そうか……!」

 

 ブレストバーンを受ける際、ゼランギアは8本の触脚を全て地面につけていた。そして、しばらくすると地面の、コンクリートが溶けていく。

 

鉄也

「奴の脚は、エネルギーを吸収し、下へ受け流す能力を持っているのか!」

 

 ならば、あの脚をどうにかする必要がある。両腕を奪われたグレートマジンガーは、不恰好にバランスをとりながらスクランブルダッシュ

飛翔する。

 

鉄也

「奴の触手を破壊するんだ。そうすれば、奴に与えるエネルギーは逃げられない!」

 

 それを聞き、バルバトスのカメラアイが赤くギラついた。

 

三日月

「やってみる」

 

 それだけ言うと、バルバトスはまるで獅子のような速度で地を蹴り、駆け上がる。飛び跳ねて距離を取ろうとするゼランギアの触脚の一つに、自らの尻尾を引っ掛ける。

 

ゴーゴン大公

「何ッ!?」

三日月

「へぇ、そうなってるんだ」

 

 粘着く脚は、気持ち悪い。三日月はバルバトスの爪を立て、抉るように触脚のひとつへ突き刺した。ブスッ、という鈍い音と共に、青黒い液体が噴出する。それが戦闘獣のオイル混じりの血液であることなど、三日月には関係ない。

 

三日月

「そっか、叩いてダメなら、刺せばいいのか」

 

 成程、と三日月が頷く。それに合わせてもう一本の触脚に尻尾を突き刺すバルバトスルプスレクス。戦闘獣の絶叫が、三日月の耳に響いた。

 

三日月

「うるさいな……」

 

 だがバルバトスに乗っている時、阿頼耶識に繋がっているこの時だけ、三日月の右半身は自由。だから三日月・オーガスは、強い。

 阿頼耶識。人体と機体の完全なる人機一体を実現するこのシステムは、三日月の人間性を限りなく奪っていく。『コクピットから降りた後の、動かない身体』よりも、『モビルスーツに乗っている時の自由な身体』の方を本当の自分の身体であると感じてしまうのは、無理からぬことだろう。そして、人間性を捨て去り獣として本能のままに戦っている時こそ三日月は、自由になれるのだ。

 だからこそ、機械の獣になど三日月が負ける道理は存在しなかった。

 次々と、バルバトスの鋭利な爪が、尻尾が戦闘獣の触脚を引きちぎっていく。4つ、5つ。残るは3つ。無我夢中で引き裂くバルバトスと、なんとしてでも脱しようとあがく戦闘獣。既に、形勢は逆転していた。

 

三日月

「……………………」

ゴーゴン大公

「な、なんだというのだあいつは……!?」

 

 獣の本能のままに、戦闘獣を引き裂いていくバルバトス。悪魔。そうとしか言いようのないその獰猛な戦いぶりは、ゴーゴン大公をも戦慄させていた。

 

ゴーゴン大公

「あ、悪魔だ……。奴は悪魔だ!」

 

 放置すれば、必ずミケーネに災いを齎す悪魔。戦闘獣をズタズタに引き裂いていく三日月には、そんな姿を幻視してしまう。

 

 ズタズタにされた戦闘獣ゼランギアが必死に脱出したその直後、逃げ出した先に待っていたのは偉大な勇者。

 

鉄也

「さっきはよくもやってくれたな。もう一度ブレストバーンを喰らえ!」

 

 グレートマジンガーの灼熱が、戦闘獣ゼランギアを襲った。今度はその触脚で熱を受け流すこともできない。今度こそ、戦闘獣は絶叫し爆散した。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

ゴーゴン大公

「あ、悪魔め……。ここは一先ず、撤退を……」

 

 もはやマジンガーZどころではない。自分の命を守らねばならない。そう、心に決めたゴーゴンがミケロスを転身させようとしたその時、地獄大元帥の声が鳴り響く。

 

地獄大元帥

「どこに逃げる気だゴーゴンよ」

ゴーゴン大公

「地獄大元帥、今のままでは勝てません! ここは撤退を……」

地獄大元帥

「ならぬ。貴様はここで奴らと戦い死ね」

 

 無慈悲に告げる大元帥。その頭部の奥にあるドクターヘルの顔が、ゴーゴン大公へ憎しみに満ちた眼差しを向けていることにゴーゴン大公はこの時、はじめて気付いた。

 

ゴーゴン大公

「な…………っ!?」

地獄大元帥

「ゴーゴン。お前のミケロスには既に時限式の爆薬が積まれている。どの道あと3分で貴様はミケロスの爆発に巻き込まれて死ぬことになるのだ」

 

 爆薬。何を言われているのかゴーゴン大公は一瞬、理解できなかった。表情を強張らせ、ゴーゴン大公は「は……?」とそれだけ口にする。

 

ゴーゴン大公

「な、何故……。何故、そのようなことを?」

地獄大元帥

「貴様はバードス島での決戦を前にして、ワシの前から忽然と姿を消した。よいかゴーゴン。ワシは裏切りは決して許さぬ!」

 

 それだけ言って、地獄大元帥はプツリと通信を切ってしまう。残されたのは、ゴーゴンただ一人。

 

ゴーゴン大公

「地獄大元帥は、このオレを殺すためだけにミケロスを改造し、捨て駒にしたというのか…………!?」

 

 ゴーゴン大公は、みくびっていたのだ。ドクターヘルという人間の執念を。かつては同じマジンガーZ打倒という目的のために協力した同志。しかし、ドクターヘルに勝利なしと見限りミケーネ帝国へと帰還した。そのことを戦闘獣へ改造された今となって尚恨んでいたのだ。あと3分と言われたミケロスの中で、カチと音がする。1分が経過したと、ゴーゴン大公は悟る。

 

ゴーゴン大公

「こうなれば……ミケロスで貴様らも、マジンガーZももろとも吹き飛ばしてくれる!」

 

 死なば諸共。たとえ地獄大元帥の捨て駒としてこの生涯を終えるのだとしても、憎むべき敵が目の前にいるのという事実に変わりはない。

 

ハーロック

「ム……。敵艦の動きが妙だな」

 

 そんなミケロスの動きの不審に、ハーロックは真っ先に気付いた。

 

トチロー

「おいハーロック。あいつ、こっちに突っ込むつもりじゃねえか!?」

 

 特攻。トチローはその艦の動きが命を捨てたものであることを、間髪入れずに見抜いていた。

 

ハーロック

「よし……全艦、これより対艦戦に突入する!」

 

 艦と艦のぶつかり合いならば、引くわけにはいかない。そこにはキャプテンハーロックの、船乗りとしての意地があった。トチローは頷き、舵を取る。

 

トチロー

「よし、ミサイル発射だ!」

 

 アルカディア号の側面から、6発のミサイルが放たれる。全弾がミケロスに命中。しかし、まるで怯みもせずにミケロスはアルカディア号へ迫る速度を緩めない。

 

エイサップ

「なんだ、この気迫は……!」

エレボス

「エイサップ、あれ怖いよ!」

 

 メカザウルスを一通り撃退したオーラバトラーの2機が、アルカディア号を援護しようと夜空を舞う。しかし、ミケロスの対空砲火にその行く手を遮られ、小型のオーラマシンはミケロスから感じるプレッシャー……ゴーゴン大公の執念を感じざるを得ないでいた。

 

ショウ

「あれは、カミカゼをやるつもりか!」

エイサップ

「特攻を?」

 

 特攻。バイストン・ウェルでサコミズ王に見せられた桜花の佇まいが、エイサップの脳裏によぎる。

 

エイサップ

「命を捨てるような戦いは、ダメだ……!」

エレボス

「エイサップ……?」

 

 それがたとえ敵であったとしても、命を投げ出すような真似を認めるわけにはいかない。だからナナジンは、ミケロスの対空砲火を掻い潜り艦橋へと躍り出た。

 

ゴーゴン大公

「何をっ!?」

エイサップ

「よせ! そんなのは戦いじゃない!」

 

 戦いをする気があるのならば、こんな戦い方はやめてくれ。エイサップは敵であるゴーゴンにそう叫ぶ。

 

鉄也

「エイサップ……!」

槇菜

「エイサップ兄ぃ……!?」

 

 無謀とも言える行動に出たエイサップ。鉄也のグレートマジンガーがそれを制止しようとナナジンの側へと飛び寄った。

 

鉄也

「よせ、そいつは悪魔だ。お前の話を聞くような奴じゃない!」

エイサップ

「だからと言って、こんなやり方を認めてしまえば、俺達だって同じになる!」

 

 こういう時、エイサップ鈴木という青年は頑固だった。ナナジンはミケロスに張り付くようにして、エイサップは声を上げる。

 

エイサップ

「こんな命を無駄にするような戦いは、やっちゃダメだってわかれよ!」

 

 叫ぶエイサップ。その声が聞こえたのか、ゴーゴンは笑う。いや、嗤う。

 

ゴーゴン大公

「…………ク、ククク」

 

 嗤うしかないのだ。地獄大元帥に捨て駒にされた自分に、もはやミケーネでの居場所などありはしない。ここで尻尾を巻いて逃げたところで、行く場所などない。

 いや、何よりもミケロスの自爆プログラムは止まらないのだ。ならば……。

 

ゴーゴン大公

「人間の中にも、お前のような奴がいたとはな……」

 

 敵であるゴーゴン大公の命を、尊ぶものが。しかし、そんなものに安らぎを覚えることは結局、ゴーゴンの武人としての誇りが許さなかった。

 

ゴーゴン大公

「オレに残された名誉はただ一つ! このミケロスと共に貴様らを地獄への道連れにすることだけなのだ!」

エイサップ

「……っ!?」

 

 ミケロスから放たれるミサイル弾。対空砲火の嵐を抜け、ナナジンはミケロスの射程から脱出する。

 

エイサップ

「命は……命はおもちゃじゃないんだぞ!?」

ゴーゴン大公

「だからこそ、賭ける意味があるというものだ!」

 

 聞く耳を持たぬとゴーゴン。エイサップは歯噛みする。その時、アルカディア号が動いた。

 ナナジンとグレートの前を横切り、アルカディア号は万能要塞ミケロスへと接近する。艦と艦。その巨体同士のぶつかり合いは、機械の中越しに見ても圧倒的なまでの迫力を醸し出していた。

 

ハーロック

「……名前は何と言う?」

 

 そんなアルカディア号の舵を取る、隻眼の男の声。

 

エイサップ

「エ、エイサップ鈴木……。日本人です」

ハーロック

「そうか……。エイサップ、お前は戦場の中で、誰もが正しさと優しさを見失う地獄の中で、その優しさを見失わない心を持っている」

 

 そんな少年には、最大限の期待をかけたくなるのがハーロックという男だった。だから、エイサップの行動を咎めるようなことはしない。そして。

 

ハーロック

「だからこそ、介錯は俺の……海賊の仕事だ!」

 

 アルカディア号から伸びたサブアームが、ミケロスへと取り付いた。サブアームはミケロスの装甲にくっきりと穴を開け、そしてミケロスの内部で開かれる。

 

ゴーゴン大公

「き、貴様は……!?」

 

 アームの中から現れたのは、キャプテンハーロック。アーム越しに、自らの足でこの男は、敵の中心に乗り込んだのだ。

 

ハーロック

「海賊のやり方で、ケリをつけさせてもらう!」

 

 重力サーベルを翳し、一閃。サーベルから放たれたレーザー光線が、ゴーゴン大公の心臓を貫いた。

 

ゴーゴン大公

「カ、ハッ……!」

 

 血を吐き、項垂れるゴーゴン大公。それをハーロックは、憐れみの眼差しで見据えていた。

 

ゴーゴン大公

「これで、勝ったと思うなよ……。ミケロスには爆薬が積まれている。あと1分でミケロスは自爆し、この研究所ごと貴様らを吹き飛ばすのだ」

ハーロック

「何ッ!?」

 

 捨て石。最初からゴーゴン大公はそのために用意されていた。そのことを悟り、ハーロックの目つきがより険しくなる。そのような非道の作戦を立てる、ここにいないミケーネの幹部に対して。

 

ハーロック

「こうしてはいられんか!」

 

 アルカディア号へ駆け戻り、ハーロックは全員に告げる。ミケロスには自爆プログラムが仕組まれている、と。

 

エイサップ

「そんな……!」

槇菜

「自爆って……!」

 

 あと1分。今からでは避難もままならない。

 

鉄也

「クソッ! ミケーネめ。汚ねえ手を使いやがる!」

 

 しかし、鉄也はこの作戦に違和感を感じていた。ミケーネ帝国はたしかに冷酷非道だが、今まで平気で味方を捨て石にするような作戦は使ってこなかった。それどころか、七大将軍も、暗黒大将軍も仲間内での結束は強く、今まで鉄也はそれに苦しめられていたと言うのに。

 

鉄也

(敵のやり方が変わったのか。それにしても、急すぎる……!)

 

ハーロック

「とにかく、ミケロスに仕掛けられた爆薬ごと完全にミケロスを吹き飛ばすしか生き残る道はない」

トチロー

「だがどうやって。今ここにいるメンバーに、そこまでの火力はないぞ?」

 

 トチローが言うように、今ここにいる面々……アルカディア号、グレートマジンガー、バルバトスルプスレクス、ヴェルビン、ナナジン、ゴッドマジンガー、ゼノ・アストラでは、ミケロスほどの質量を持つ物質を一瞬で消滅させてしまうほどの火力は搭載されていない。万事休す。誰もがそう思った時だ。

 

ボウィー

「あのさ、誰かを忘れちゃいませんこと?」

 

 陽気な声が、場違いに響く。スティーブン・ボウィー。“飛ばしやボウィー”の名を持つレーサーと、その仲間達J9。

 

アイザック

「この始末……我々J9が引き受けましょう」

 

 アイザックが、静かにそう宣言した。それに追随するように「イェイ!」というJ9メンバー達の合いの手。

 

槇菜

「でも、どうやって?」

 

 槇菜はたしかに、ブライガーの強さをその目で見た。強力なマシンであることは理解しているが、それほどの火力があるとは思えない。

 

お町

「もう、急かさないの急かさないの。……そろそろ来る頃よ?」

鉄也

「おい、ふざけてる場合じゃ……。何、急速でこちらに接近する機影?」

 

 グレートが振り向くと、そこには輸送機と思しき機影が一つ。輸送機が口を開くと、そこからキャノン砲のようなものが射出された。

 

ポンチョ

「お〜い、みなさんお待たせしましたでゲスよ〜!」

 

 輸送機から、やる気のない声が響く。その声を受けて、ブライガーがサムズアップした。

 

キッド

「遅いぜポンチョ。だが、ちょうどいいタイミングだ」

アイザック

「キッド、ブライカノンだ!」

 

 ブライカノン。そう呼ばれたキャノン砲が、ブライガーの背中に装着される。そして、肩から突き出す形で二門の砲身が伸び、今にも自爆せんとカウントを続けるミケロスへと向いた。

 

アイザック

「一刻の猶予もない。決めろキッド!」

キッド

「ブライカノン、発射!」

 

 

 キッドの掛け声と同時、ブライガーの砲門ら

二条の光が伸びた。光は万能要塞ミケロスを飲み込んでいく。ブライガーのエネルギー……シンクロン原理の応用で生み出される無限のエネルギーを砲塔という形に圧縮して放たれるそれは、まさに無限の熱量を誇っている。どれだけ大きな体積を誇るミケロスでも、ブライカノンの前には粒子と消えるのが定めだった。

 

ショウ

「なんてエネルギーだ……」

 

 核爆発にも等しいその光に、ショウは唖然とする。しかも、周囲の放射線に目立った上昇はない。完全にクリーンなエネルギーで、ブライガーはそれを実現していた。

 

槇菜

「すごい……」

ヤマト

「ああ……」

 

 誰もが、ブライカノンの圧倒的な出力に目を奪われていた。あと数刻遅ければ、皆ミケロスの爆発に巻き込まれて死んでいたかもしれないというのにだ。

 

トチロー

「……ありゃ、一種の次元連結装置ってことか」

 

 そんな中、技師であるトチローは冷静にブライガーのメカニズムを推測する。

 

ハーロック

「わかるのか?」

トチロー

「おそらくブライガーは、多元宇宙論に質量保存の法則を適応してるんだ。そんなことが可能だとは到底思えないが、実物が目の前にあるなら信じるしかないだろう」

 

 トチローが何を言っているのか、ハーロックには半分も理解できなかった。ただ、「あり得ないとしか考えられなかった原理を現実にしている」と、そう言いたいのだとハーロックは理解する。

 

アイザック

「悪党に、情け無用……!」

 

 粒子となり消えたミケロスのいた場所を見つめ、アイザックが静かに宣告する。それが、戦いの終わりの合図だった。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—光子力研究所—

 

 

 

 のっそり博士とせわし博士。そしてマジンガーZを迎えてアルカディア号は、宇宙へ飛び立った。それを今、槇菜達は見送っている。

 

槇菜

「甲児さん達、大丈夫かな……?」

 

 宇宙。その闇の世界を槇菜は知らない。生で見たことはない。この未来世紀という時代において、地球とは荒廃し、エリート層から見放された土地だという。そこで生まれ、そこで育った槇菜にとって宇宙とは、憧れこそあれど未知の領域だった。

 

エイサップ

「心配ないよ。みんなもついてるしそれに、甲児君もさやかさんも強いからな」

 

 そんな槇菜の心配を察してか、エイサップが笑って言う。エイサップの胸中には、あの艦を預かるキャプテンハーロックの言葉が今も胸に響いていた。

 

エイサップ

(地獄の中で、優しさと正しさを見失わない心か……)

 

 買い被りすぎた。そう言おうと思った。だが、ハーロックという存在から感じるプレッシャーに、声が出なかった。

 

エイサップ

(俺は、どんな時でもエイサップ鈴木でいる。それだけだ)

 

 それだけが、リュクスを……大切な女の子を悲しませない方法なのだとエイサップは、強く拳を握る。

 

ヤマト

「しかし、メカザウルス……あんなものまで出てくるだなんて」

 

 ゴッドマジンガーから降りたヤマトは、先ほどまで戦ってきた古く、懐かしい敵の感触を思い出していた。

 

ヤマト

「……まさか、あいつもこの時代に蘇ったりしてねえだろうな」

 

 考えるのは、愛する少女を賭けて戦った仇敵のとだ。エルド。あの卑劣な皇子の奸計にかかり、古代ムー王国の仲間達も多くを殺された。その怒りを、悲しみをヤマトは今、思い出していた。

 

ヤマト

(来るなら来い、エルド。お前がその気なら……俺も容赦はしねえぞ!)

 

 ヤマトの握る拳は、闘争心に満ちたものだった。最大の敵。その影がまた、ヤマトの前を横切った。ヤマトという少年の中にある闘争本能……それをメカザウルス達は、刺激していた。

 そんな風に、それぞれがそれぞれの思いに馳せていると、輸送機から素っ頓狂な声が飛ぶ。

 

ポンチョ

「いやぁ皆さん危機一髪でゲしたねぇ。アッシも心臓がビクビクしてますよホホホホ」

 

 下品な笑い声でおべっかを使う片眼鏡の老人……パンチョ・ポンチョである。ポンチョは輸送機ブライキャリアにブライサンダーを格納すると、中から降りてきたかみそりアイザックにゴマを擦っていた。

 

槇菜

「何、あの人……?」

 

 今まで見たことのないタイプの人物の登場に、若干槇菜が引いている。明らかに場違いな人物。それ故に、ポンチョは悪目立ちしていた。

 

アイザック

「ポンチョ、ご苦労だった」

ポンチョ

「いえいえアイザックさん達J9の危機となれば、このポンチョたとえ火の中水の中。それででゲスね。このポンチョの大活躍を見込んで報酬を少しばかり……」

 

 露骨に胡麻を擦ってる。そんなポンチョの様子を槇菜だけでなく、ショウやエレボスらも呆れ顔で見つめている。そんな中、アイザックが口を開いた。

 

アイザック

「報酬……そうだな。それは前回、フランシスからピンハネした上前分をチャラにしてほしい。そういうことかな?」

 

 鷹のように鋭い目が、ポンチョに突き刺さる。

 

ボウィー

「あー! お前またそんなことしてたのか!?」

お町

「相変わらずだこと」

 

 アイザックだけでない。ボウィーやお町、キッドからの非難の視線。それがポンチョに集中する。

 

ポンチョ

「ゲゲェッ!? いやいやそんなことするわけが……」

 

 言い訳がましく何かを捲し立てるポンチョ。そこには説得力という言葉は一切ない。アイザックが鞭を振るうと、ポンチョの来ていた上着が裂けた。そして、その中から300万ボールはあろう紙幣の束がパラパラと零れ落ちていく。

 

アイザック

「もう一度言う。……ポンチョ、その上前をチャラにしてほしいというのなら、今回は免じてやろう」

ポンチョ

「は、ハハハハハ……」

 

 愛想笑いを浮かべ、そそくさと立ち去っていくポンチョ。彼もまた、コズモレンジャーJ9の愉快な仲間だった。J9の4人がコロコロと笑う。それは、このやりとりが彼らにとってある種の様式美であることを表していた。

 やがて笑い終えたアイザックは一人、月を見上げる。雲に隠れ、月の光は強くは届かない。しかし、アステロイドベルトで長く暮らしていたJ9にとって、地球から見る月はそれでもとても美しく、輝いて見えるものだった。

 

アイザック

(ミケーネ帝国も再び、本格的に動き出してきたか。おそらくは無国籍艦隊も動くだろう。豪和、“シンボル”、そしてカーメン・カーメン……。奴らはこの事態、どう動く?)

 

 月は、何も答えない。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

—豪和ビル—

 

 

 東京という都市には、光と闇がある。ガンダムファイト優勝国たるネオジャパンの恩恵を受けるこの島国において、首都・東京の一等地とは即ち繁栄の只中にあり、人々の生活も豪奢なものになっている。この豪和市は、その東京の“光”の部分を一身に受ける都市である。

 豪和市の象徴・豪和ビル。その最上階に居を構える豪和一族の長・豪和乃三郎は、鷲のように鋭い眼光で長男・一清を睨め付けていた。

 

乃三郎

「最初はワシも今回の派兵が、TAの新たな一面を切り拓くきっかけになるという……お前の言葉を信じていた。だが……」

 

 一清は無言で、父の言葉を受けている。その瞳に何が写っているのか、乃三郎には窺い知れない。その窺い知れなさが、乃三郎には恐ろしい。

 

乃三郎

「違う。それだけではない。決してそれだけではないと何かが告げているのだ」

一清

「…………」

 

 思えば、今回のべギルスタンへの派兵は不可解な点が多い。ミケーネ帝国という目下の危機がありながら、日本の防衛を無視してべギルスタンへの派兵を強行する必要などなかった。いや、むしろ。

 

乃三郎

「科学要塞研究所のスーパーロボットまでもをべギルスタンへ差し向けた。一清、その行動が結果として我が国の防衛にも大きな手傷を負わせたことになる」

 

 無論、それは結果論だ。乃三郎としてもそれは問題ではない。国防について口を出すのは、国防の専門家がやればいいだけのことだ。乃三郎も一清も、国防の専門家ではない。だが、それが火遊びだとすれば、注意を促すのは父の役目でもある。

 

乃三郎

「自らを窮地に追い込むほどのリスクを冒してまでの何が今回の行動にあるのだ。謎のTAによる焦りか? しかし、世界に先駆けて開発に成功したとしても、黒い商人として財を成すのが関の山……」

 

 そして、その程度の泡銭ならば困ることはない。現状でも十分な財を持っている。しかし、人の欲望が飽くなきものであるということを乃三郎は身を以って知っている。そして、同じ血を引く一清も。

 

乃三郎

「……ガサラキか?」

 

 ガサラキ。その言葉に一清は僅かだが眉を険しくした。図星だろう、と乃三郎は確信する。   

 ガサラキ。豪和の祖先が手にしていたという無限の力。しかし、祖先はその力を放棄した。そして今の豪和に世界を動かすほどの力はない。所詮はただの経済成金に過ぎない豪和にとって、伝承に語られる力を取り戻すことは一族の悲願でもあった。

 しかし。

 

乃三郎

「最近になり、ワシは一千年の昔“嵬の一族”がその力を捨て去り、自らを歴史の闇に葬り去ったのかわかるようになってきた」

 

 恐怖。力を振るうものが齎す。或いは力を求め、力に溺れるものが齎す恐怖。野望の為に若き日は邁進した乃三郎の手を止めるのは、恐怖に他ならなかった。

 

乃三郎

「夢を見るのだ。憂四郎の夢、空也の夢……。この手で奪った二つの命の夢を。それだけでない。愚かな欲望のため幾多の命が失われていった。最初から求めてはいなかったのだ。無窮の力を捨て去ったからこそ、“嵬の一族”は今まで生きてこれたのだ。捨て去ったものを、取り戻そうなどと……はじめから間違っていたのだ」

 

 その意味を、今こそ改めて問わねばならない。乃三郎は後継者たる一清に、自らと同じ業の道を行ってはほしくない。そう、願っている。しかし、それに気付いた時には……即ち今となっては、もはや全て遅いのかもしれない。そう、乃三郎は一清の視線の中に見え隠れする、僅かな軽蔑の色から感じ取る。

 

一清

「自らを焼く業火。ですか……」

 

 ようやく、一清はそれだけを口にすると、鋭い視線を乃三郎に投げかける。一清は、若い頃の乃三郎によく似ている。よく似ているからこそ、わかる。一清は、この程度の説教で野望を捨てるような男ではない。

 

一清

「べギルスタンから科学要塞研究所までの、TAの戦闘データです」

 

 そういって封筒に入れられた書類を置き、一清は背を向ける。要は済んだとばかりに。

 

一清

「……三界また火宅のごとし、といいます。自らを焚く日こそ、この世の本質なのではないでしょうか」

 

 それだけ言い捨て、一清は乃三郎の部屋を退出した。その後ろ姿を、乃三郎はただ睨めることしかできなかった。

 

乃三郎

「血は争えぬ、か……」

 

 野望に塗れ、親兄弟を追い落とした若き日の自分と、今の一清が重なって見える。自分は老いたのだろう。だから、野望に邁進する一清の若さが怖いのかもしれない。

 その若さは紛れもなく、親殺しすら躊躇わぬ苛烈さと同義なのだから。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—神奈川県某所—

 

ミハル

「ハッ……ハッ……」

 

 科学要塞研究所を後にしたミハルは一人、沿岸沿いを彷徨っていた。研究所から追っ手は来ない。ユウシロウがミハルについて何も話さなかった以上、あそこにミハルの正体を知るものはいない。それを考えれば、ミハルの捜索が後回しになるのは当然のことだろうと……そう、ミハルは考える。

 だが、行く当てもない。結局のところ“シンボル”以外の世界を知らないミハルだ。この日本で行動、生活するために先立つものは、何も持っていなかった。

 そんなミハルの前に、一台の車が停まる。銀色の外国産車。それに乗る金髪の青年と、目が合った。

 

ファントム

「……どこへ行くつもりですか?」

ミハル

「…………」

 

 その眼光に、ミハルは警戒の色を示す。全てを見通すかのような瞳。しかし、その奥にはそこ知れぬものが渦巻いているのを感じたからだ。

 

ファントム

「よければ、あなたの帰るべきところへお送りしましょう」

ミハル

「あなた……」

ファントム

「ええ。“シンボル”ゆかりのものです」

 

 “シンボル”その名前を口にする男は、明らかにミハルを知っている。知っていて、迎えにきたのだろうか。

 

ミハル

(運命には、逆らえない……)

 

 そんな言葉が、ミハルの胸の内に去来する。ミハルは頷き、男の車へと足を踏み入れ、シートに腰掛けた。

 ミハルがシートベルトを装着したのを確認すると、車は再び走り出した。高速道路に乗り、スピードを上げる。風を切って走る外国産車の窓からミハルが外を見ると、雲に隠れた月が全てを見透かしたかのように浮かんでいる。

 

ミハル

(月は……あの月は、全てを見てきた。何千年も昔から)

 

 月ならば、知っているのだろうか。ユウシロウと自分の全てを。問いを投げても、月は答えない。月とは、ただそこにあるものなのだから。

 

ファントム

「……第二幕の、はじまりですか」

 

 男の呟きが、ミハルの耳に届いた。第二幕のはじまり。戦いはまだ終わらない。ユウシロウの戦いも。自分とユウシロウの運命も。

 

“変わらない刻などない。変えられぬ運命などない”

 

 いつかどこかで、ユウシロウから聞いた言葉を思い出す。しかし、あれは本当にユウシロウの言葉なのか。それとも。

 

ミハル

「ユウシロウ……」

 

 高速道路を降りた車はやがて、都内の市街地の片隅に駐車されている一台のトラックの前に停まる。大きなトラックだ。メタル・フェイクが2機は格納できるくらいの大きさだとミハルは判断する。車のドアが開き、ミハルはトラックの前で降りた。トラックには、見覚えのある人物が載っている。

 薄い銀髪を長く伸ばした日本人……櫻庭桔梗。桔梗は運転席で煙草を吸いながら、ミハルを一瞥する。

 

桔梗

「フェイク1……。ミハル、無事ね?」

ミハル

「はい」

 

 どうやら、作戦が待っているらしいことだけはミハルにも理解できる。この日本で、やるべきことがあるのだと。

 

桔梗

「フェイク1。ここに作戦のデータが入ってる。見ておきなさい」

ミハル

「…………」

 

 桔梗からUSBメモリを受け取って、ミハルはトラックの荷台へと歩き出す。そこにはミハルの愛機でもある鈴蘭のマーキングが施されたメタル・フェイクが待機している。ミハルはフェイクのコクピットに乗り移ると機体を立ち上げ、桔梗からもらったUSBメモリを差し込んだ。

 

ミハル

(目標は、豪和総研……。豪和のフェイクについてのデータを回収すること?)

 

 豪和のフェイク。ユウシロウのことを指しているのは間違いない。ユウシロウ。その名前を思い浮かべると、ツンと胸に狂おしいものが蘇る。

 

ミハル

「ユウシロウ……。あなたは……」

 

 あなたは、誰?

 この胸のざわつきは、苦しさは。何?

 恐怖とは何か。その答えも、彼は持っているのだろうか。

 もとより拒否権などミハルにはない。だがこの命令を拒否する理由は、ミハルには何もなかった。

 

ミハル

「ユウシロウ……」

 

 かくして、第二幕は始まろうとしていた。

 




次回予告

トチロー
「しかし、宇宙か……。やっぱりアルカディア号には宇宙の海が似合うよな。ん、俺がアルカディア号を作り上げたなんて信じられない? 失礼な。アルカディア号は俺とハーロックの、友情の船なんだぞ。この海賊旗にも、俺達の命を賭けた友誼が詰まってるんだ。次回、『戦士、再び……』ニュータイプの修羅場が見れるかもな」
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