スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第19話「戦士、再び……」

—サナリィ月面第二実験場—

 

 

 月面に本拠を置く研究機関サナリィ。その第二実験場に着艦したアルカディア号はでは今、人々が忙しなく行き交っていた。アルカディア号から降ろされる一機の魔神を、エンジニア達が垂涎の眼差しで眺めている。マジンガーZ。天才科学者兜十蔵博士の手によって作られた元祖スーパーロボットであり、鉄の城の異名をほしいままにする超技術の集合体。そのオーバーホール作業に携われるというのだから、技術者としてまたとない経験になるのは間違いなかった。ジョンと呼ばれるプロジェクトチーフの老人が、若いエンジニアたちに発破をかける。それに返事し、エンジニア達が整列。マジンガーZのオーバーホール作業の主任を務めるのっそり博士、せわし博士の両名とマジンガーZのパイロット・兜甲児を迎え入れていた。

 

のっそり博士

「それにしても、サナリィはすごいねぇ。こんな整った設備があるなんて思わなかったよ」

せわし博士

「では諸君、さっそくだが作業に取り掛かってもらうよ!」

 

 ゆったりしたのっそり博士と忙しないせわし博士のテンションの落差に巻き込まれながらも、サナリィのエンジニア達は博士達の指示に従いながら少しずつ、マジンガーZのオーバーホール作業に取り掛かっていく。その様子を、兜甲児は神妙な面持ちで見つめていた。

 

甲児

「みなさん、マジンガーZをよろしくお願いします」

 

 そう言って、深くお辞儀する甲児。そんな甲児にジョンと呼ばれたプロジェクトチーフの老人は「任せてください」と柔和な声で言う。

 

プロジェクトチーフ

「甲児さん、マジンガーZは責任を持って我々が修理します。そして、前よりも強く、前よりも大きな存在にして必ず、あなたの下にお返しすることを約束します」

甲児

「はい……!」

 

 力強く頷き、甲児はチーフと握手を交わす。もうすぐ、ネオジャパン行きの定期便が発つ時間だった。さやかと甲児はすぐにでも、それに乗る手筈になっている。

 

さやか

「甲児くん、そろそろ時間よ」

甲児

「ああ。わかってる」

 

 さやかの下へ急ぐ途中、甲児は一度だけマジンガーZへと振り返った。マジンガーZ。祖父の形見であり、もはや自分自身の半身と言っても過言ではない掛け替えのない相棒。

 

甲児

(待っててくれ、マジンガーZ……。お前が復活する時、俺も今よりもっと強く、お前にふさわしい男になって帰ってくるからな!)

 

 誓いを新たに、兜甲児はネオジャパンコロニーへと旅立つ。それを見送るのは、旧知の仲でもある獣戦機隊だった。

 

「甲児、もう行くのか」

甲児

「ああ。トビアやアムロさん達には、よろしくって伝えておいてくれ」

 

 戦場で、何度も共に戦った仲。2人は静かに視線を交わすと、互いの拳を突き出し交差させる。

 

甲児

「頼んだぜ忍」

「任せろよ」

 

 

 そんな、短いやり取り。それだけかわし甲児とさやかの2人はエレカに乗り空港へと出発する。それを、忍達4人は見送っていた。

 

雅人

「……甲児のやつ、さやかちゃんと2人でコロニーに留学かぁ。羨ましいぜ」

沙羅

「あんたね……。甲児達は勉強に行くんだ。別にデートじゃないだよ」

 

 軽口を叩く雅人に、呆れる沙羅。

 

「……藤原、気付いてるか?」

 

 そんな中、亮は一人真剣な面持ちをしていた。

 

「んだよ亮。どうしたんだ?」

「……明らかに、警戒任務に出ているモビルスーツの数が多い」

 

 そう言って亮は天上を指差す。ガラス張りの向こうに、ジェガン・タイプのモビルスーツが多数。恐らくは二個小隊ほど。サナリィといえばモビルスーツを中心に新技術の開発を支える研究機関。周辺警護も仕事のうちだが、コロニー国家間の中継地点でもあり国際法で不可侵宙域とされる月面都市としては確かに、その数は多く見えた。

 

沙羅

「……たしかに。ガンダムファイト期間や戦時中ならわかるけど、平時にこの数は少し多いね」

 

 たしかに地球は今、ミケーネ帝国の脅威に晒されている。しかし宇宙でも大きな騒ぎがあったという話を沙羅は知らない。

 

「まあ、サナリィといやぁ秘蔵の技術がごまんとあるんだ。もしかしたら、アナハイムのスパイを警戒してるのかも知れねえぜ?」

 

 冗談めかして忍が笑う。しかし、その目は笑っていなかった。何かが起きている。それを忍は、獣並の嗅覚で感じ取っていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

オーティス

「何をしにきやがったこの疫病神どもぉっ!?」

 

 トビア・アロナクスの顔を見るなり、サナリィ月面第二実験場の責任者でもあるオーティスはスパナを構え今にも飛びかからんばかりにトビアへ怒鳴りつけた。

 

ミューラ

「お、オーティスさん落ち着いてください!」

 

 秘書であり、エンジニアでもある女性ミューラ・ミゲルが、そんなオーティスの腕を抑えまるで赤子を宥めるように落ち着かせる。その様子に、月面基地への代表として足を運んだトビアとオンモ。それにハーロック、オルガ、マーガレットの5人は呆気に取られていた。

 

オルガ

「…………あんたら、取引先なんだよな?」

トビア

「サナリィは木星戦役の時、僕達に武器を提供してくれた企業なんです」

 

 しかし、オーティスの怒気はまるで留まることを知らない。かと思えば力無くへなへなと項垂れてオルガへ手を伸ばす。

 

オーティス

「ああ、前髪のお兄さん聞いてくださいよ。我らモビルスーツを作るものとしては、実戦データは何より重要なんでさ。そら戦場が遠い木星と来れば、多少非合法でも手を貸しますわな……」

オルガ

「お、おう……」

 

 勢いに釣られて頷いてしまったオルガ。彼も火星で鉄華団という組織を運営し、経営していた身である。オーティスの言い分は理解できた。一方で、火星で生まれた少年兵というオルガの生い立ちからすると、「知らぬ存ぜぬ」で通せるという魂胆には少々複雑なものがあるのだが。しかしオルガもそこまで子供ではない。内心はどうあれ、オーティスの続きの言葉を待つ。

 

オーティス

「だけど、戦火が地球に飛び火したどころかガンダムファイトにまで関わるもんだからF97を国連にも各国家コロニーにも売れなくなっちまったんでさ! 海賊に手を貸したのがバレるから……。あれだけ投資したのに、全然赤字……」

 

 ふらふらとまるで幽霊のように揺れるオーティスを、オルガもハーロックもどう反応すればいいのかわからず戸惑っていた。今まで黒い商人とはそれなりに付き合いがあったオルガも、こんなタイプの情緒不安定な人物の相手をするのは初めてだ。あえて近いタイプを言えば、トドのおっさんに似ている気がする。そんなどうでもいいことを考えてオルガは、やりすごしていた。

 

ハーロック

「ご老人、お気持ちはわかりますが今回は合法な取引のはずです。少なくとも、兜剣蔵博士から責任を持ってこの量産型グレートマジンガー生産計画書を預かってきたのですから」

 

 量産型グレート。その言葉にオーティスの耳がピクと動いた。それから数秒の後……

 

オーティス

「いやぁ〜〜兜博士をもお目が高い! 量産型グレートマジンガー。人類の希望を背負うこの計画をサナリィに任せてくれるのですから!」

 

 露骨に笑顔になり、ハーロックの右手を掴んでブンブンと握手する。その変わり身の早さはまるで電光石火のごとく。そんな様子にミューラ女史は溜息を吐き、マーガレットは呆れ返ったようにオンモへ囁いた。

 

マーガレット

「この人……大丈夫なの?」

オンモ

「まあ、なんていうかわかりやすくていい人なんだよ……」

 

 元々、そういう人らしい。余計にマーガレットはこの人を信用していいかわからなくなった。

 

トビア

「そ、それで補給の件なんですが……」

 

 そう、そもそもトビア達は替えの効かないクロスボーン・ガンダムの予備パーツの補給のためにこのサナリィへ足を運んでいるのである。オーティスの愚痴を聞くためではない。しかしオーティスはギロりとトビアを睨みつけ……ハァと溜息をつく。

 

オーティス

「地球のことは聞いてるよ。あんたらが今は一応、科学要塞研究所の預かりってことになってることも。ほんとはあんたら疫病神に渡せるもんなんかネジ一本ありゃせんって追い返したいところじゃが……既にF97用の予備パーツやその他諸々、用意してある」

 

 本当は渡したくないんだがな! そう、オーティスは念を押して言った。

 

トビア

「は、ははは……。ありがとうございます」

 

 実際、サナリィには多大な迷惑をかけていることに間違いはない。それでもこうして応じてくれたことに関して、実際トビアは感謝している。そんな時だ。トビア達が面会している応接室の窓ガラス越しに、真紅のモビルスーツが駆け抜けているのをトビアは見る。

 

トビア

「あれが、開発中のF99ですか」

オーティス

「うむ。F99レコードブレイカー。マザー・バンガードの“光の帆”をより小型・高性能化した“光の翼”を持つモビルスーツ。そのテストヘッドだ」

マーガレット

「“光の翼”……」

 

 その光は、ゼノ・アストラが飛翔する際に放つ輝きとは違う。あちらが得体の知れない何か……恐らくはヴリルエネルギーと、そうマーガレットに教えられていた機関で現出しているのだとすれば、レコードブレイカーの“光の翼”はむしろ、マーガレットに馴染み深い光であると言える。即ち、ビームの光。

 

オルガ

「……この世界のモビルスーツは、ビームの技術が進んでるんだな」

ハーロック

「ああ。俺達の世界では、こんな技術はあり得なかった」

 

 オルガ達の世界にも、一撃でコロニーすら沈めてしまうほどの強力なビームライフルのようなものは存在した。しかし、ナノラミネート装甲を前提とするモビルスーツ戦において、逆に言えばビームはそれほどの超高密度でなければ役に立たなかったのである。

 それと比べると、この世界のビーム技術の発展は兵器としての進歩以上に、文明としての進歩を象徴しているようにハーロックには見えていた。

 

マーガレット

「“光の帆”……たしか海賊軍の旗艦が搭載していた、ミノフスキー・ドライブユニットのことね。理論上、光速に達する航行能力すら可能になると言われていた」

 

 それを小型化し、モビルスーツ・サイズにする……それは並大抵の技術ではない。しかし、それを可能にしたのがサナリィであると言われれば、マーガレットも納得せざるを得なかった。

 

マーガレット

(さすがモビルスーツの小型、高性能化を実現した技術のパイオニア・サナリィといったところかしら)

 

トビア

「それにしても、すごい技術の進歩ですね。レコードブレイカー、こいつのスピードなら……」

 

 地球という重力圏の戦いの中で、トビアはいくつか思い知ったことがある。一つは、重力下での戦いは宇宙のように、機体を360度自由自在に動き回らせるというわけにはいかないこと。考えてみれば当たり前のことだが、マジンガーZのスクランダーやダンクーガのフライトユニットのような技術を搭載するにはモビルスーツという機体の強度は高くない。そして、オーラバトラーのオーラコンバーターは、完全に地上人には解析不可能な未知の技術だった。それらを相手に、モビルスーツで立ち回るのは至難の業と言わざるを得ない。

 

トビア

(アムロさんやシャアさんはそれをやってのけるんだから、ほんと参っちゃうよな……)

 

 それも、ベース・ジャバーの下駄履きや時代遅れの可変モビルスーツでだ。彼らにとってはそれが現役時代の主戦術なのだから慣れでしかないというかも知れないが、トビアは一生かかってもあんな操縦技術は身に付かない。とそう断じていいほどに2人の操縦技術は卓越している。

 もし、そんな2人がレコードブレイカーのような最新鋭モビルスーツに乗ったらどうなるだろう。いや、自分やキンケドゥ、ハリソンでもいい。少なくともベース・ジャバーというモビルスーツによる空中戦の絶対的なウィークポイントからは解放される。

 光の翼で、自由に空を飛び回るモビルスーツ……それはもはや、オーラバトラーやスーパーロボットに近い存在であると言えた。

 の、だが……。

 そんな興奮した眼差しのトビアを制するように、オーティスはトビアを睨め付ける。

 

オーティス

「やらんぞ。レコードブレイカー……F99は我が社の黒字の希望! お前達には絶対やらんからな!」

 

 ブンブンと首を振るオーティスに、トビアも「あはは……」と苦笑いするしかない。

 

トビア

(さすがに、レコードブレイカーを一台ください。とは言えないよな……)

 

 それが図々しいにも程のある要求だとは、トビア自身理解しているのだ。それに、クロスボーン・ガンダムの予備パーツやその他の補給物資だけでも有難いことだった。

 そんなやりとりを尻目にミューラ・ミゲル女史がアルカディア号へ搬入する予定の物資のリストをオンモへ渡し、オンモもそれに目を通す。

 

オンモ

「……うん。たしかに確認したよ」

ミューラ

「では、こちらが領収書です」

 

 事務的なやりとりを済ませると、オンモはアルカディア号に格納されているリトルグレイへ通信を送る。納品された物資の積み込み、そしてクロスボーン・ガンダムの修復作業を急ぐようにという命令だ。

 

オルガ

「それじゃあ、取引成立……ってことでいいんだな?」

 

 念を押すようにオルガが訊く。するとオーティスは、「あー……」と何やら申し訳なさそうに口を開いたその時だった。騒がしく廊下を駆ける音と共。それと共にバタンと扉が開かれる。そこにいたのは、巨漢の青年だった。人の良さそうな雰囲気を顔に醸し出している青年の名はドレック。レコードブレイカーの、テストパイロットチームの一員である。

 

オーティス

「どうしたのだねドレック君。そんなに慌てて」

ドレック

「そ、それが……月との往復定期便がたった今、海賊に襲撃されたらしいんです!」

 

 海賊の襲撃。その言葉にハーロックは鋭く目を細める。

 

トビア

「海賊が? 月の往復定期便を?」

 

 宇宙海賊。それはトビアやハーロックのような所謂“義賊”のことだけを指す言葉ではない。むしろ、何かしらの理由で社会からはみ出たならずものの行き着く先であり、暴力によって無辜の市民から財産や命を奪う悪党。そういう海賊の方が世間では一般的な“宇宙海賊”だ。しかし、そんな海賊達にもある種のしきたりと、繋がりがある。デビルドゥガチとの戦い以降、トビア達クロスボーン・バンガードやネオロシアのアルゴ・ガルスキーらはそんな無法者達をまとめ上げ、無法の海賊達にある種のルールを齎していた。

 その中の最も大きなルールの一つが、民間人を狙わない。巻き込まないというもの。それは海賊軍として世間に大きく認知されたクロスボーン・バンガードの旗と、シャッフルの紋章という大きな存在により齎されたはぐれ者達の秩序だ。

 

トビア

(俺達が地球に行ってから、まだそんなに日は経ってないはずだけど……。ギルドにも加盟していない本物のならず者か?)

 

オンモ

「だけど、海賊だろ? コロニー国家軍も国連軍も、この辺は睨み聞かせてるはずだ」

ドレック

「それが……その……。その定期便にはアナハイムに出向してたうちのスタッフ2人と、シェリンドン・ロナ嬢が乗っているらしいんです」

トビア

「シェリンドンさんが!?」

オルガ

「知り合いか?」

 

 驚くトビアに、オルガが訊く。トビアは深く深呼吸すると、ゆっくりと口を開いた。

 

トビア

「シェリンドンさんは、前クロスボーン・バンガード代表のベラ・ロナさんの従姉妹で、前の戦いでも僕達を支援してくれた後援者の1人です」

 

 厳密には、シェリンドンが支援していたのは貴族主義の旗印たるクロスボーン・バンガードだった。今のクロスボーンとは、シェリンドンは無関係の存在である。それでも、シェリンドンの身に何かがあればベラ艦長は悲しむだろうし、自分も後味が悪い。だから助けに行かなくちゃ。そう、トビアは拳を握りしめる。

 

オルガ

「なるほどな……」

 

 そんなトビアの様子を見て、オルガは静かに踵を返した。

 

オルガ

「要するに、そのシェリンドンってのはお前らの家族みてえなもんなんだろ。仲間の家族だっていうなら、命賭けて助ける。俺達、鉄華団がな」

 

 家族。その言葉を口にする瞬間オルガの声は僅かに上擦っていた。そこにどのような思いがあるのか、トビアには伺い知れない。しかし瞳をギラつかせ、鮫のようにニヤリとオルガは笑っていた。それに頷くようにしてハーロックもまた、オルガに続く。

 

ハーロック

「私も行こう。海賊のつけた不始末は、海賊がつける」

トビア

「俺達も行きます。シェリンドンさんには、まだ生きててもらわなきゃ困る!」

 

 

 

……………………

第19話

「戦士、再び」

……………………

 

 

 

—月軌道宙域/民間輸送船—

 

 

 

シェリンドン

「…………」

 

 シェリンドン・ロナは今、気丈にも宇宙海賊達の前に立っていた。緩やかにウェーブのかかったブロンドの髪。大きな瞳の中に淑やかさを持つ彼女はこの船を襲撃した海賊達へ、「関係のない民間人を巻き込むよりも、自分を人質にするべきだ」と名乗り上げたのである。

 海賊達……見るからに荒くれた、厳しい男達はそんなシェリンドンを気に入り、自分達の海賊船へと連れていこうとしている。その男達の影に隠れるように、銃で武装した十代前半の、或いは十にも見たないであろう少年たちは意志のない瞳でシェリンドンを眺めていた。そんな時である。

 

シェリンドン

(サナリィに着く前に、こんなことになってしまうとは……迂闊でした)

 

 本来なら、自分達の船で向かうべきだったのだ。しかし今回は秘密裏に、サナリィにあるものを運び込むという目的のために民間船を選んだ。それが、仇に出た。

 地球上の混乱は、宇宙にいても耳に入る。そして、その混乱の渦中を戦う宇宙海賊……クロスボーン・バンガードの旗を掲げる者達の活躍も。今彼らは、貴族主義とは無縁の身。表立って支援をすれば、コスモ・バビロニア貴族主義者の間でどのような風評が立つかもわからない。そういったリスクを考慮して、今回シェリンドンはあえて民間の輸送船に同乗していたのだ。

 もし、一年前の自分ならばそのようなことは、考えもしなかったろう。旧人類を切り捨て、ニュータイプによる理想国家の設立を夢見ていた一年前のシェリンドン・ロナならば。それはシェリンドン個人としては成長なのかもしれない。しかし今この窮地を招いていたのは間違いなく、その成長したが故の判断だった。

 

シェリンドン

(賊に“あれ”を奪われたりしたら、ここまで根回ししたことも全て無駄になってしまう。どうにかしないと……)

 

 サナリィに、トビア達に届けるはずだった積荷。それをこの海賊に奪われることだけは避けたい。そして貴族主義の、コスモ・クルツ教団のあるべき姿として尊き貴族は下々を守らなければならない。そんな思考の果て、シェリンドンは自ら身分を明かし、人質になることを宣言したのだ。

 海賊の頭……豚のような鼻を持つでっぷりとした腹の男はシェリンドンをマジマジと見つめ、そして醜く表情を歪ませる。

 

ブルック

「フン、威勢のいい嬢ちゃんだ。気に入った」

シェリンドン

「約束してください。他の方々には一切の手を出さないと」

 

 まるで信用できる顔ではない。しかし、今はこうして時間を稼ぐしかない。

 

シェリンドン

(コロニー軍でも、国連宇宙軍でも構わない……誰か、助けが来るまではこうしていないと)

 

 そんな時だった、輸送コンテナを物色していた海賊達が顔を出す。

 

クダル

「お頭、ちょっと見てくれ。なかなか面白いもんがあるぜ」

シェリンドン

「…………!」

 

 気付かれた。それを奪われるわけにはいかない。シェリンドンは咄嗟に「待って!」と声を上げ、海賊の副リーダー格と思われる筋骨隆々にピアスの男……クダル・カデルへ食ってかかった。

 

シェリンドン

「それらの積荷は、民のためにあるものです。奪うのならば私だけにしてください!」

 

 言っても聞かない輩なのは、シェリンドンにもわかっている。しかし、それ以外にシェリンドンに選択肢はない。

 

クダル

「あぁ? ……ケッ、おい嬢ちゃん。何か勘違いしてないか?」

 

 クダルはそんなシェリンドンの豪奢なドレスを乱暴に掴み上げると、そのままシェリンドンの華奢な身体を壁へと押し付ける。ドン、という鈍い音とと、シェリンドンの微かな呻き声が静かな船内に響き渡った。

 

クダル

「あんたはなぁ、商品としての価値があるからこっちで買ってやってるんだ。品物が、人間様に口ごたえすんじゃねえ!」

シェリンドン

「ッ……!?」

 

 痛みと衝撃。シェリンドンの細い身体に走るそれはしかし、彼女の心にまでは響かなかった。

 

シェリンドン

「……かつて、友達に言われたことがあります。自分は人間だ。人間でたくさんだと」

 

 シェリンドン・ロナは、ニュータイプ原理主義者である。人が宇宙に出てニュータイプへと進化し、優れた感性を持つニュータイプ達が次の世代を背負う尊き血……貴族となれば世界はより善い方向へ向かうはずだと。シェリンドンは今でもそう、信じている。だが、シェリンドンが見た誰よりもニュータイプに近い少年は、その未来を求めていなかった。

 

シェリンドン

「彼にはきっと、あの時の私は今のあなた達と同じように映っていたのかもしれませんね」

 

 そうなら、断られても仕方ない。そうシェリンドンは、貴族という概念から最も遠く下賤な賊と対話することで得心していた。だが、自分は貴族だ。ニュータイプだ。善き時代へと民を導くことこそ、自分の使命なのだ。

 

シェリンドン

「あなた方のような者に、渡せるものなどここにはありません!」

 

 毅然と叫ぶシェリンドン。その振る舞いは、恐怖に負けんとする声は、クダルの嗜虐心をそそらせる。大きくクダルがその拳を振り上げたその時。クダル目がけて何かが飛来した。

 

クダル

「っぉっ!?」

 

 突然飛び出してきたそれを敏捷な動きで避けるクダル。コロン、という軽く鈍い音と共にタイルに落ちたそれは、スパナだった。鉄の塊。機械整備に使う工具。それがもし自分の頭に当たっていたら、瘤くらいにはなっていたかもしれない。そのことに思い至ると、クダルはスパナの投げられた方を睨み叫ぶ。

 

クダル

「誰がッ! この俺に! こんな危ねえもん投げやがったのよぉっ!?」

 

 怒りのままにスパナの飛んできた方へと走るクダル。しかし、そこには誰もいない。

 

クダル

「ネズミが……! すぐにブチ殺してやるァッ!?」

 

 完全に頭に血が上ったクダル。その様子をシェリンドンは呆然と眺めていた。しかし。

 

???

(早く、こっちに!)

 

 そんな、少年の声がシェリンドンの頭に響く。その声はまるで、魂から魂へと直接叫んでいるかのような、そんな命の体温を伴った声だった。

 

シェリンドン

(あなたは……!)

 

 トビア。いや違う。トビアよりももっと、深い。少年らしい熱さのなかに、どこか老生したものを感じる。そんな声に導かれるようにして、シェリンドンは駆け出していた。

 

ブルック

「なっ……! おいクダル、ネズミは後回しだ!?」

 

 思いの外、シェリンドンは素早い。醜く太ったブルックの腕をすり抜け、シェリンドンは駆けていく。そして、声の示す方角……貨物室の中に入り込むと、警護に当たっていた海賊達は既にのびていた。

 

シェリンドン

「これは……あなたが……?」

 

 いたのは、少年だ。それと背の低い老人。声は少年のものだと、シェリンドンは直感的に理解する。

 

ジュドー

「全く、おつかいの帰りにこれなんだから、参っちゃうよもう」

ミノル

「ここの見張りは、僕達が片付けたからね。さあ、とっととお暇しよう」

シェリンドン

「お、お待ちになって!」

 

 どんどん話を進める2人を制すように、シェリンドンが声を上げた。2人は「ん?」とシェリンドンの方を向くが、その後方には厳ついマッチョが走っているのが見える。あまり待ってはいられないと判断し、ジュドーはシェリンドンの手を引いた。

 

シェリンドン

「あっ」

ジュドー

「残念だけど、待ってはいらんないかな。少なくとも、こいつに乗るまではさ!」

 

 シェリンドンの手を引いたまま走るジュドー。その先には、一機のモビルスーツ。既にミノルは自身のモビルスーツ……クロスボーン・ガンダムとよく似た姿をしているが、バイザー・タイプのカメラアイをしている所謂「ジム顔」と呼ばれる機体に乗り込んでいる。

 

ミノル

「先に行くよ、ジュドー君!」

ジュドー

「あいよ任せて。おじいちゃんも無理しないように!」

 

 軽口を叩きながら、ジュドーも自らのモビルスーツのコクピット・ブロックへと乗り込んでいた。その後部シートにシェリンドンを乗せ、ハッチを閉じる。

 

ジュドー

「へへ、まさかここまで復元してくれるなんて……サナリィも随分太っ腹だよね」

 

 ジュドー・アーシタがサナリィに雇われたことには、一つの条件があった。それは、彼が乗っていたスクラップ同然のモビルスーツにある。サナリィのエンジニア、ミューラ・ミゲルは一目でそのモビルスーツの正体を見抜き、競合他社であるアナハイム・エレクトロニクスにコンタクトを取った。このモビルスーツを復元させるためだ。アナハイムはミューラの持ちかけた話を飲み、このモビルスーツの復元作業に取り掛かった。

 それは、アナハイム・エレクトロニクス社の中でも半ば伝説と化しているモビルスーツ。モビルスーツの恐竜的進化の過程で生まれた、常識外の超馬力。超火力。超推進力。それを全てクリアした、ある種の芸術品。

 小型・高性能化を是とする現代のモビルスーツ開発事情から対極に位置するその機体はしかし、失われつつあるアナハイム・エレクトロニクスの威厳を復活させる希望だったのだ。

 そして、今や幻の機体として一部のマニアの間にのみ語られるその機体は復活した。生まれ故郷である、アナハイムの技術の粋を結集して。

 「幻のモビルスーツを復活させる」そこにはある種の、マニアめいた執念があったのかもしれない。少なくとも、その機体には犬猿の仲であるアナハイムとサナリィにある種の協力関係を約束させるほどのものだったのだから。

 ともかく……。

 

ジュドー

「さあ、久しぶりに全力で暴れるとするか。ジュドー、ダブルゼータ。行くぜ!」

 

 巨大な砲塔を頭部にもつ、大型のガンダム。その火力、パワーは現時点でもモビルスーツ界最強クラスと言われ、しかしその派生としての技術の系譜は数年でピタリと止まってしまった幻の機体。それ故に、今では一部では「当時の軍関係者の間で生まれた都市伝説」とまで揶揄される機体。ΖΖガンダム。ダブルゼータのツインアイがギラリと輝くと、その剛脚が動きそして輸送船を飛び出していく。宇宙世紀時代に生まれた怪物が今、復活したのだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

ミノル

「ジュドー君、その機体は大丈夫なのかい?」

 

 量産型F97。通称フリントと呼ばれる機体のコクピットの中で、見たことのない重モビルスーツを相手にしつつミノル・スズキはジュドーを気にしていた。ジュドー・アーシタ。ある日突然サナリィにやってきた不思議な少年。その不思議な少年が乗ってきたモビルスーツ……ダブルゼータはミノルの目から見れば明らかに骨董品だ。小型・高性能化を実現した現在のモビルスーツの常識からは明らかに逆行している。しかし、21m級の大型、重武装モビルスーツ最盛期に生まれたそのコンセプトは、現役マシンを操縦するミノルからしてみれば不安そのものであると言ってもよかった。

 

ジュドー

「大丈夫大丈夫。こいつの操縦は、慣れたもんだからね!」

 

 しかし、ミノルの心配をよそにジュドーは海賊達の重モビルスーツ……マン・ロディのサブマシンガンをものともせずに追突し、マンロディを突き飛ばしていく。圧倒的なパワー。現代のモビルスーツでは発揮できない力を、ダブルゼータは有していた。

 

宇宙海賊

「あいつ、この世界のガンダムフレームか!?」

 

 マン・ロディに乗る海賊達は、ダブルゼータの持つ特徴的なV字アンテナに注目する。ガンダム。その名前を持つモビルスーツを象徴するツノは、どんな時代どんな世界でも敵の注意を引きつけ……そして恐怖させるのだ。恐怖に打ち勝つために、海賊達はガンダムを狙う。ガンダムを落とせば、それだけで名が上がる。海賊達の間でのヒエラルキーも同様だ。そんな男達のギラついた野心を、ダブルゼータのコクピットに座るシェリンドンは敏感に感じ取る。

 

シェリンドン

「ッ!?」

 

 気持ち悪い。そんな率直な感想を抱くシェリンドン。ジュドーはそんな彼女をちらりと横目で見て苦笑する。

 

ジュドー

「無視しなよお嬢ちゃん。ああいう、汚い大人はさ!」

シェリンドン

「はい……?」

 

 ジュドーも、同じものを感じているのかもしれない。そんな感覚がシェリンドンの中にあった。そして、何よりもシェリンドンが感じていたのはジュドーという少年の、意志の強さだ。

 

シェリンドン

(この人は……私とも、トビアとも違う。ニュータイプなの?)

 

 シェリンドン・ロナは、ニュータイプと呼ばれる独特の感性の中で生きている少女だ。その感応能力は彼女と同じように独自の感性を持つ人々を嗅ぎ分けていた。その第六感が告げている。ジュドーは他のニュータイプとは違うと。

 

シェリンドン

(繊細さと頑固さを併せ持ったような、私の知らないニュータイプ……)

 

 シェリンドンは、知らない。

 このジュドー・アーシタという少年は歴史にこそ名を残さなかったが、歴史の大きな分岐点に立ち会ったニュータイプであるということを。歴史に名を残さずに埋没した名機・ΖΖガンダムと同じようにジュドーもまた、人々の知らない戦いを繰り広げ、そして歴史の中に消えていった存在なのだ。

 

ジュドー

「少し、我慢しててねお嬢さん!」

 

 ジュドーは、ダブルゼータを加速させる。それを追うようにして、マン・ロディも続く。

 

宇宙海賊

「行け行け! ガンダム・フレームなら腕の一本でも遊んで暮らせる金が手に入る!」

 

 野心と欲望に混ざった海賊達のサブマシンガンが、ダブルゼータの装甲を掠めていく。しかし、そんなものではビクともしない。

 

ジュドー

「すっごい感動の嵐! ダブルゼータって、なんて丈夫なんでしょう!」

 

 茶化すようにおどけるジュドーはしかし、そこでダブルゼータを反転させる。そして肩に装備していたビームサーベルの柄を抜くと同時、そのスイッチを入れた。強烈な熱エネルギーをミノフスキー粒子で固定化するビームサーベル。しかし、ダブルゼータのそれは規格外のサイズだ。身の丈の半身ほどの長さと、腕丸々一本ほどの太さを伴ったビームの刃。まさにハイパー・ビームサーベルとでも言うべき刀身。

 

ジュドー

「あんまり、殺したくはないんだよね。だからさ!」

 

 ダブルゼータのハイパー・ビームサーベルが勢いよく、マン・ロディの一機へと迫る。

 

宇宙海賊

「ビーム兵器!? だが……!」

 

 マン・ロディは、ナノラミネート・アーマーと呼ばれる装甲に守られている。この装甲は光学兵器を霧散させる特徴を持ち、ビーム熱に対しては優れた防御性能を有していた。それ故か、海賊はそれを避けようとはしなかった。むしろビームを受け、そのまま左手に持つ斧で斬り裂く。そう判断してのことだ。

 肉を切らせて骨を断つ。マン・ロディの重装甲ならばそれができる。そう判断してのことだった。しかし、受けようとして出した右腕はそのままビーム熱に焼き切られる。それは、海賊達の常識にはない現象だ。

 

宇宙海賊

「な、何ィッ!?」

 

 ありえない。そんな叫びをよそにダブルゼータはさらにV字にマン・ロディを斬る。両手両足を奪い達磨となったマンロディは、宇宙空間の中でまるでボールのように浮くしかできない。

 

宇宙海賊

「バカな、ナノラミネートだぞ? どうしてビームで……」

 

 マン・ロディはロディフレームと呼ばれる汎用フレームをギリギリまで重装甲、重武装にすることで補給線の薄い海賊活動での使用に耐えうるように構築した機体だ。その重装甲を、まるでナイフでバターを切るかのように容易く焼き切るビームサーベル。それは、彼らの常識にはあり得ない装備だったのだ。

 

ジュドー

「言っとくけど、ダブルゼータの本気はこんなもんじゃないよ!」

 

 ハイパー・ビームサーベルの威力に恐れをなしたのか、マン・ロディ達が固まった。その一瞬、ジュドーはダブルゼータの推進を蒸し、暗闇の宇宙を突き進む。フリントが他の敵をいなしながら退路を確保しているのが、シェリンドンには見えた。だが、それではシェリンドンの用意した荷物が海賊に奪われてしまう。それは、それだけはシェリンドンは避けたかった。

 

シェリンドン

「ねえ,待って!」

ジュドー

「さっきから何よもう!」

シェリンドン

「あの輸送船には、海賊に渡しちゃいけないものが入ってるの。だからお願い!」

 

 フリントとダブルゼータを追うマン・ロディが4機。それは倒せない数ではなかったが、それでも骨は折れる。それを、シェリンドンは涙ながらに訴えていた。

 

シェリンドン

「お願いジュドー……ジュドー・アーシタ。あの無法者を、追い払って!」

 

 それを聞くと、ジュドーは「ああもう!」と毒づきそして再び機体を旋回させる。

 

ミノル

「ジュドー君!?」

ジュドー

「あいつらを放っておいちゃいけないってことくらい、俺もわかってるよもう! ミノルさんは応援を呼んでくれ。俺は……ギリギリまでこいつらを食い止めるからさ!」

 

 実際、この場を逃げ果せたとして取り残された乗客の命は全く保証できない。それよりは、目の前にある「お宝」をぶら下げて海賊どもを引きつけておいた方がいい。そうジュドーも理解している。

 命が、勝手な理屈で奪われる。それはジュドーにとっても看過できないものだった。

 

ジュドー

「お嬢さん、言ったからには付き合ってもらうからね!」

シェリンドン

「え……?」

 

 ダブルゼータはブースターを全開で蒸すと、マン・ロディへと迫っていく。圧倒的な推進力は一瞬でマン・ロディへと喰らい付きそして、ハイパー・ビームサーベルで次々と斬り伏せていく。だがしかし、ダブルゼータは一機足りともマン・ロディのコクピットだけは潰さなかった。堅牢なマン・ロディの装甲をナノラミネート越しにでも斬り裂く高出力ビーム・サーベル。海賊たちもそれを警戒してかダブルゼータから距離を取り、サブマシンガンでの射撃攻撃に切り替えていく。

 

宇宙海賊

「化け物めっ!」

 

 マン・ロディのサブマシンガン斉射をダブルゼータはもろに受け、しかし尚その進撃を止めることはない。

 

ジュドー

「んなくそぉっ!?」

 

 コクピットを攻撃しないのは、ジュドーなりの慈悲だった。ジュドー・アーシタはかつて、ひどい戦争を経験している。大人達の都合に振り回され、彼の目の前で数多くの命が散っていった。中には、ジュドーを慕うものもいた。あんな戦いは2度とゴメンだ。そんな思いからジュドーは、極力敵を殺さずに無力化するように心がけるようになっていた。だが、そんなジュドーの感傷は海賊達には関係ない。むしろ、海賊達からすれば命を取ろうとしないのは侮辱であるとすら言えた。自分を脅威とすら認識していない。脅威だと思っているのなら、迷わず殺すはずだ。そういう倫理の中で生きてきた無法の海賊達からすれば、どこの馬の骨ともしれないガキに手加減されたなど、あってはならないのだ。

 だから、どれだけパワーに差があろうとマン・ロディに乗る海賊達はダブルゼータから逃げるという選択肢を持たない。そのつまらないプライドを、ジュドーは鋭敏に感じ取っていた。

 

ジュドー

「そんなだから、そんな勝手な理屈が通ると思ってるから、あんた達はダメなんだよ!」

 

 屈してなるものか。ジュドーの心は海賊達の敵意に当てられて、怒りに燃えていく。そんな風に、自分の都合ばかり押し付ける大人がいなくならないから。だから、いつもどこかで誰かが悲しい目に遭うんじゃないか。

 ダブルゼータ距離を取りながらサブマシンガンを撃ちまくるマン・ロディを前に、ハイパー・ビームサーベルをしまう。代わりに取り出したのは、砲身が二つドッキングしたダブル・ビームライフルだ。

 

宇宙海賊

「ガキに何がわかる! 俺たちだってなぁ、好きで海賊やってるわけじゃねえんだ!」

ジュドー

「わかるさ! あんた達にも事情があることくらい。けどね、そうやって力でなんでも解決しようってやり方は、古臭いんだよ!」

 

 二門の砲身に、メガ粒子の圧縮されたビームの光が灯る。その光が何なのか、海賊達は一瞬、理解できなかった。

 

宇宙海賊

「何だ、エイハブ・ウェーブが何かと干渉しているのか?」

 

 そう呟いた直後、高熱の光が二線、マン・ロディを撃ち抜いていく。ナノラミネートを貫通し、内部のフレームまでもをズタズタにしてしまう高熱。ハイパー・ビームサーベルと同等以上の出力が飛んできた。その事に海賊は気付くことはない。なぜなら撃ち抜かれたマン・ロディは爆炎を上げ、一瞬で火花と散ったからだ。

 

ジュドー

「あんた達がそのつもりなら、こっちだってやってやる。けどさ!」

 

 こんなつまらないことで仲間が死んで、お前達は本当にそれでいいのかよ。そう問い詰めたくて仕方ない。そんな思いを噛み殺し、ジュドーは再びダブル・ビームライフルをマン・ロディに向けた。だが、その時。輸送船の隣に錨を下ろす海賊艦からさらに一台のモビルスーツが飛来するのを、ジュドーは見た。

 

シェリンドン

「あれは?」

ジュドー

「新手だ!」

 

 そいつの見た目はマン・ロディに似ている。しかしマン・ロディよりもどこかゴツく、何より武装として持っている巨大なハンマーは、モビルスーツとしてもさらに異質に見える。何より、ジュドーはそのモビルスーツから感じる醜悪な、狂気にも似た凶暴性を感じ恐怖していた。

 

クダル

「おいテメェら! ボサボサしてんじゃねえっ!」

 

 クダル・カデル。海賊達の副リーダー格と思われる筋骨隆々にモヒカン。そしてピアスをした爬虫類のような男のプレッシャーだった。クダルの乗るモビルスーツ……ガンダム・グシオンが今、ダブルゼータを猛追する。

 

ジュドー

「何なんだよこいつ!」

 

 純粋な凶悪。悪徳というなの狂気。狂気という名の本能。そんな、ジュドーも知らない醜悪なエゴが、ジュドーという人間を飲み込まんとするのを、ジュドーの感性は鋭敏に感じてしまう。それは、陵辱にも似た不快感だ。ジュドーは咄嗟にダブル・ビームライフルを撃ちまくりグシオンを迎撃するが、クダル・カデルの乗るガンダム・グシオンはそれを避けると、おおきく振りかぶりダブルゼータをハンマーの射程圏内へと捉えた。

 

クダル

「アンタみたいなガキはねぇ、嫌いなのよ! 嫌い! あの生意気なガキを思い出して、はらわたが煮え繰り返って仕方ねえんだよ!?」

ジュドー

「そんなの、知らないよ! 勝手に俺を巻き込まないでよね!」

 

 ダブル・ビームライフルを構え、ジュドーはクダルを狙い撃つ。しかし、ガンダム・グシオンの重装甲はビームをものともせずに突き進む。グシオンは、マン・ロディを遥かに凌駕する堅牢な装甲を有しているのだ。

 

ジュドー

「嘘でしょ!?」

 

 ジュドーの常識に、ダブル・ビームライフルを耐えられるようなモビルスーツは存在しない。強いて言うならば、ダブルゼータよりも遥かに大型かつIフィールド発生装置を持つクィン・マンサやサイコガンダムMk-Ⅱクラスのものだった。それに匹敵する重装甲を、18m級のガンダム・グシオンは持っているのだ。

 

クダル

「効かない効かない効かねえ! そんなもんがぁ、このグシオンに効くもんかよぉっ!?」

 

 ダブル・ビームライフルを弾いて突き進むのは、ナノラミネートでコーティングされた装甲の力だ。だが、それはマン・ロディも同じ。それでもダブル・ビームライフル相手に無傷で突き進むグシオンに、ジュドーは驚愕していた。そして、驚愕するジュドーの一瞬の隙にグシオンはダブルゼータの懐へ飛び込む。

 

クダル

「死ねよ! 死んで、死になさいよぉっ!?」

 

 鈍重なハンマーの一撃が、ダブルゼータを突き飛ばした。

 

シェリンドン

「キャァッ!?」

ジュドー

「うわぁっ!?」

 

 衝撃がジュドーと、後部のシェリンドンを襲った。シートにしがみつくようにしていたシェリンドンが、今の衝撃で手を離し、狭いコクピットの後部に背中を打ち付けてしまう。鈍く、重い音がジュドーの耳に障った。

 

ジュドー

「大丈夫!?」

シェリンドン

「え、ええ……」

 

 目に涙を溜めながらも、気丈にシェリンドンは眼前のグシオンを睨んでいた。強い子だ。とジュドーは感心する。しかし、それを口にしている余裕はない。すぐさまミサイル・ランチャーで迎撃し、グシオンとの接近戦を演じなければならなかった。

 

クダル

「ああもうウゼェ! ウザったいったらありゃしねえっ!」

ジュドー

「それはこっちのセリフだよもう!」

 

 ガンダム・グシオンのハンマーが、ダブルゼータの装甲を大きく叩いた。再び振動で、ダブルゼータが大きく揺れる。舌を噛みそうになって、シェリンドンは思わず歯を食いしばった。

 

ミノル

「ジュドー君!?」

 

 ミノルのフリントが、助けに入ろうとビーム・ライフルを構え、グシオンを狙い撃った。だが、ナノラミネートにコーティングされた装甲を前に、ビームライフルは無力。

 

ミノル

「あのモビルスーツ、全身がIフィールドを展開しているのか?」

 

 ダブルゼータほどの馬力を、フリントは有していない。それを見た海賊達はダブルゼータをグシオンに任せ、フリントへ攻撃を集中する。しかしミノルは、卓越した操縦技術でフリントを操り、マン・ロディの攻撃を一撃たりとも機体へ当てなかった。それは、軍属を定年で引退し、再雇用先としてサナリィに配属された老人の操縦とは思えないほどの機体捌きだ。ビーム兵器が通用しないとわかるとミノルはライフルをしまい、頭部バルカン砲による迎撃のみで寄り付くマン・ロディの重装甲の、その奥に眠るフレームの接続部へ当て続けていた。

 

宇宙海賊

「このチビ……!?」

ミノル

「ただの海賊にしては、装備が特殊だ。なんだこいつら……?」

 

 そんなミノルの疑問に応えるように、戦場に接近するものがあった。海賊達はそれを、エイハブ・ウェーブの周波数で認識し、ミノルとジュドーも周辺のミノフスキー粒子濃度が上昇していることを示す通信映像の乱れで感知する。

 

宇宙海賊

「あ、ああ……!」

 

 そのリアクター周波数が何を意味しているのか、荒くれ者達は知っている。鉄華団の悪魔。誇り高き海賊旗。それらは彼らにとって、恐怖の象徴。それ以外の何者でもない。

 

ブルック

「アルカディア号……それに、あの悪魔は!?」

 

 忘れもしない。宇宙海賊ブルワーズに多大な損害と、屈辱を与えた白い悪魔。血染めの華を背負う鉄の鬼神。

 

オルガ

「あれは、ブルワーズのモビルスーツだ!?」

 

 アルカディア号で、オルガ・イツカは忌々しげにその名を叫ぶ。

 

マーガレット

「知ってるの?」

 

 アルカディア号の艦上に陣取るシグルドリーヴァのコクピットで、マーガレットが効く。シグルドリーヴァは宇宙空間でも活動自体は可能だが、キャタピラ式の脚部による機動性は宇宙では大きく損なわれる。マーガレットの役割は、援護射撃だ。

 

トチロー

「あいつらは、俺ら世界で悪さしてた宇宙海賊だ。俺らにとっても、少し因縁のある奴らでな」

 

 トチローが呟く。その声色には、明らかな嫌悪の色が感じられた。

 

ハリソン

「……ということは、あの丸いモビルスーツ達が海賊で、クロスボーンもどきとガンダムは、それと戦っているということか」

 

 F91のコクピット内でハリソンは呟きつつ、ビーム・ライフルでマン・ロディを狙撃する。ナノラミネートの装甲がビームを弾くが、マン・ロディのパイロットがそれに気を取られハリソンの方を見た瞬間、フリントのビーム・サーベルが重装甲の継ぎ目を串刺した。

 

ミノル

「その青いF91は……。ハリソン君かい?」

ハリソン

「!? お久しぶりです。スズキ教官!」

 

 ハリソン・マディンは、事前に民間機にサナリィのスタッフが乗り合わせているとブリーフィングで聞いていた。だから、もしかしたらとは思っていた。ミノル・スズキ。かつて国連軍で“青き流星”の異名を誇った凄腕のモビルスーツ・パイロットであり、ハリソンの尊敬する人物。そうでありながら生涯一度も実戦を経験することなくパイロット人生を終えた幻のエース。それが、ミノル・スズキだった。

 

ミノル

「しかし、キミもだいぶ貫禄が出てきたなぁっ!」

ハリソン

「あなたには、劣りますよ!」

 

 初代と二代目。二つの青き流星が戦場を駆ける。F91のビーム・ライフルはナノラミネートに霧散するがしかし、マン・ロディの持つサブマシンガンを的確に撃ち抜く。そしてその隙にフリントが接敵し、装甲の間を射抜くようにクリティカルな斬撃を浴びせトドメを刺していく。そのスピードは、まさに流星と呼ぶべき早業だった。

 

 

 

アムロ

「ハリソン大尉、やるな……!」

 

 ウェイブライダーで出撃したアムロが呟く。それは純粋な、賞賛の言葉だった。アムロが現役軍人だった頃、アムロと一対一のモビルスーツ戦で勝てる相手はシャアくらいのものだった。だからこそ、アムロは前線でパイロットをするしかなかったし、シャアもアムロと戦うためにはパイロットをやっていた。

 もしあの時、ハリソンのようなパイロットがいれば自分はもう少し楽ができたかもしれない。少なくとも、作戦指揮能力やそれに合わせたモビルスーツ戦のやり方に関してはアムロよりもハリソンの方が上手だろう。ハリソンが指揮を取り、アムロがそれに従うくらいの方が効率も良かったかもしれない。

 

シャア

「アムロ、見えるか?」

 

 それに随伴するゲーマルクのシャアは、ベース・ジャバーに搭乗し宇宙空間での機動性を確保していた。彼の視線の先にあるのは、ダブルゼータ。シャアはその実物を見たことはないが、データは一通り目を通していた。あのハマーン・カーンを倒したモビルスーツ。もしかしたら、この化け物を相手にする可能性がジオンの総帥だった頃のシャアにはあったのだから意識はせざるを得なかった。

 

アムロ

「ああ。ダブルゼータ……誰が乗っているんだ?」

 

 そんな時だ。2人の魂に流れ込むように、少年の声が聞こえる。その感覚をアムロは、シャアは知っている。

 

シャア

「む……?」

アムロ

「この感じは……?」

 

 カミーユ・ビダン。クェス・パラヤ。或いはララァ・スン。そんな名前が次々と浮かんでは、アムロ達の脳裏から消えていく。クェスのような無邪気さと、カミーユのような激情と、ララァのような慈愛。それらを内包した彼ら彼女らではない誰かが、この戦場にいるのを2人は感じ取っていた。

 

ジュドー

「何、この感じ……!?」

 

 アムロとシャアの存在を、ジュドーも確かに感じていた。精神の感応とも言うべきこの現象を、ジュドーもまた知っていた。その懐かしさもまた。

 

ジュドー

「アムロ・レイ……?」

アムロ

「ジュドー……ジュドー・アーシタか!?」

 

 本来、この時間にはいないはずの2人。それが今、同じ宇宙にいる。咄嗟にミサイルを撃ち込んでグシオンを振り払い、ダブルゼータはZガンダムへと合流した。

 

アムロ

「なぜ、君がここに?」

ジュドー

「細かい話は後々! とにかく、今はこいつらをどうにかしなきゃさ!」

 

 ダブルゼータを追うマン・ロディを迎撃するように、アムロはゼータの手首に搭載されるグレネードランチャーを放つ。グレネードはマン・ロディの装甲と装甲の繋ぎ目に命中し、大きく爆ぜる。爆炎で吹き飛んだ装甲。そこにゲーマルクがメガ粒子砲叩き込む。

 

宇宙海賊

「なっ……!?」

 

 爆発。メガ粒子がマシンの閉鎖空間で暴発し、ナノラミネートでコーティングされる装甲を内部から破砕したのだ。

 

シャア

「なるほど。三日月達の世界のモビルスーツを相手にする方法が見えたな」

 

 ガンダム・バルバトスの基礎スペックを聞いた時点で、アムロとシャアはビーム兵器を主流とする自分達の世界のモビルスーツでナノラミネートを攻略する方法を常に頭の片隅で考えていた。そして今、それを無言の間に披露したのだ。

 ナノラミネート・アーマーは、光学兵器を霧散させる特性を有している。ダブルゼータやF91のヴェスバーほどの火力ならいざ知らず、Zガンダムやゲーマルクでは、対応するのも難しい。しかし、ナノラミネートは装甲の表面を覆っているに過ぎない。装甲を破壊し、機体の内部へ高密度のビームを浴びせればいい。そう、アムロもシャアも結論を出しそして、実行した。

 口で言うのは簡単な理屈だ。だが、動いている相手に対しそれを阿吽の呼吸でやってのけるのは並大抵の技術ではない。

 アムロ・レイとシャア・アズナブル。この2人だからこそできる卓越した操縦技術が、それを可能としていた。

 

アムロ

「シャア、ゲーマルクは実弾武器が殆どない。俺とジュドーが装甲を破壊する!」

 

 ゼータが駆ける。ほとんど牽制用のビーム・ライフルを右手に構えつつ、本命のグレネードを急所へ叩き込むために。シャアのゲーマルクはそれに追随し、アムロの開けた穴へ確実に、トドメの一撃を刺していった。

 

ジュドー

「シャア? シャアって……」

 

 シャア・アズナブル。その名前を知らないジュドーではない。そして、アムロ・レイがここにいて自分もこの姿になっている以上、シャア・アズナブルが蘇っていてもおかしくないと、すぐにジュドーは理解した。だが、それでもジュドーの中には、一抹の疑念が過ぎる。

 

ジュドー

(ハマーンの寂しさを放って、地球潰しをやろうとした人が……どうしてアムロさんと一緒にいるんだ?)

 

 だが、そんな疑念は雑念でしかない。少なくとも戦いの場では。それをジュドーも理解しているから、ダブル・ビームライフルをマン・ロディに撃ち込んだ。先ほどまでとは違う。相手を殺めることも辞さない狙撃。ジュドーの正確な狙いと高出力を前に、ナノラミネートごとマン・ロディは弾け飛ぶ。

 

ジュドー

「アムロさん、ダブルゼータならこのくらい余裕余裕!」

アムロ

「ダブルゼータ……さすがの火力だな」

 

 事実、ダブルゼータの火力はゼータやゲーマルクよりも凄まじいものがあった。その超火力はナノラミネートすら打ち破るほどに。小型・高性能化を追求しコンパクトさと機動力を重点に置く現代のモビルスーツでは、ダブルゼータの火力に追随できるものはない。それは、最新鋭機であるクロスボーン・ガンダムですら同様だった。

 

シェリンドン

「アムロ・レイ。シャア・アズナブル……」

 

 ダブルゼータのコクピットの中で、シェリンドンは2人の名前を小さく口にしていた。伝説のニュータイプ。彼らの帰還こそが、シェリンドンがこの事態を前に立ち上がった原因であるのだから。だが、彼らに剣を届けるためにはまず、この無法者達を退けなければならない。しかし、シェリンドンは既に勝利を確信していた。

 

シェリンドン

「彼も、来てくれたのですね……!」

 

 アムロ達の乱入に紛れて輸送船に着艦した、マントを羽織ったガンダム。髑髏の紋章が刻み込まれたクロスボーン・ガンダムX1。それに乗る誰よりも強く、優しい瞳の少年をシェリンドンは知っているのだから。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

クダル

「テメェは……テメェは!?」

 

 クダル・カデルにその白いボディは、魂を刈り取る死神に見えていた。黄色い、大きく突出したツノはまさに象徴としての悪魔そのものに。それに、何よりもそのツインアイは、阻む者全てを叩き潰す強靭な意志力に満ちている。

 

三日月

「…………それ、昭弘のだろ。どうしてお前らが持ってるんだよ」

 

 ガンダム・バルバトスルプスレクス。三日月・オーガスと阿頼耶識で繋がった獰猛なる獣の王は戦場へ駆けつけると同時、ロングメイスでマン・ロディを叩き潰す。そこには、ジュドー・アーシタのように“殺さないで済ませよう”などという意思は介在していなかった。断末魔の悲鳴を上げる間もなく、海賊達のマン・ロディは次々と圧殺されていく。立ち塞がる者は全て一切の容赦なく。三日月はまるで、野生の狼のような目でグシオンのクダル・カデルを睨んでいた。

 バルバトスの介入に、グシオンはまるで先ほどまで戦っていたダブルゼータの存在を忘れたかのように標的をバルバトスへと変え飛び込んでいく。まるで、長年ん探し求めていた怨敵と出会ったとでもいうかのように。

 

クダル

「てめぇ! テメェもこっちにきてやがったか! また俺達の商売の邪魔をする気かよぉっ!?」

三日月

「どうでもいい。そのグシオンはどうしたんだよ。ねえ」

 

 ガツン。と鈍い音がした。バルバトスのメイスがグシオンの重装甲を叩く音だ。クダルの喚く声に耳を貸さず、三日月は、バルバトスはグシオンを追い詰めていく。

 

三日月

「おい、どうしたんだよそのグシオン」

クダル

「っ、のォッ……!」

 

 ルプスレクスのテールが、鞭のように畝りをあげた。そして刃のようにグシオンの重装甲を確実に痛めつける。ナノラミネートのコーディングが施された装甲は、熱光学兵器に対し強い耐性を誇っている。それ故に、彼らの世界のモビルスーツは光学兵器をほとんど搭載していない。

 彼らにとって、モビルスーツ同士の戦いとは打撃と刺突による接近戦なのだ。超重量のロングメイスとハンマーがぶつかり合うその様は、ジュドー達の知る機動戦士達の戦いよりも遥かに重苦しいものだった。戦士の誇りもなければ、兵士の矜持もない。あるのはただ、そこにある敵を殺すという意志だけ。それは、無法者同士の戦い……いや、潰し合いだった。

 

三日月

「答えろよ」

 

 今、三日月・オーガスはキレていた。クダル・カデルが搭乗しているその機体は三日月の、鉄華団の大事な家族である昭弘・アルトランドのものだ。それをなぜ、このクズが乗っているのか。

 

クダル

「知りたきゃ教えてやるわよぉっ! こいつはなぁ、レプリカよ! エイハブ・リアクターの出力だって本物には及ばねえ! けどな、テメェを殺るにゃあ十分すぎるくらいよぉっ!?」

 

 どうやら、昭弘から奪い返したわけではないらしい。それを理解すると、三日月は「なんだ、そっか」と呆けたように呟く。だが、その太刀筋に一切の鈍りはない。

 

三日月

「じゃあ、もういいや」

 

 途端に、クダルへの興味を失った三日月はロングメイスを思い切りグシオンへ突き立てる。かつて、クダル・カデルはその攻撃で右半身に大怪我を負った。そのことを思い出ししかし、クダルは怯まなかった。冷徹に、グシオンの装甲の最も硬い部分で受け切りそして、バルバトスを蹴り飛ばすとその反動で跳躍する。

 

クダル

「ああもう! 相変わらず思い通りにならねえガキだ!」

三日月

「チッ」

 

 サブマシンガンを撃ちまくりながら、グシオンは後退する。それが撤退の合図だと、三日月はすぐに理解した。敵が馬鹿ではないことを知っているからだ。

 

三日月

「逃すと思ってるの?」

 

 それを追う三日月。しかしグシオンはサブマシンガンの銃口を人質とも言える民間機へ向けた。

 

クダル

「動くなテメェら! こっちには人質がいるのよ!」

 

三日月

「……は?」

 

 関係ない。そう吐き捨てようとする三日月。しかしその動きは「よせミカ!」というオルガの叫びに制止される。

 

オルガ

「ブルワーズの奴ら、相変わらず狡い手を使いやがる」

トチロー

「だな……」

 

 額からを流しながら、ゆっくりとオルガは敵を……グシオンを睨んでいた。そして、その先にある海賊船を。

 

シェリンドン

「なんて卑劣な!」

シャア

「姑息な手を使う……!」

 

 それぞれに、クダルへ非難の言葉を浴びせる者達。そんな中でマーガレットは1人、無言でアルカディア号の艦体の上からスコープを覗き込み、グシオンに照準を合わせていた。

 

マーガレット

「……シグルドリーヴァなら、狙える。どうする?」

オルガ

「いや、まだだ」

 

 ここでグシオンにヘッドショットをかましても、次の瞬間海賊船からの報復があるだろう。今、オルガ達がやるべきことは仲間を信じることだった。

 

オルガ

(頼んだぜ……キャプテン!)

 

 アルカディア号。キャプテンハーロックの魂と言うべきその船の艦長席に立つオルガ・イツカは、慎重に“その時”を待っていた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—民間輸送船・船内—

 

 

 

 宇宙海賊ブルワーズの頭ブルック・カバヤンは、自分達の海賊船へと戻る準備を着々と進めていた。片手にマシンガンを持ち、乗客を威圧的に見回しながら、彼はコツンコツンと歩を進める。乗客達は皆、頭を屈めて目を合わせないように怯えている。だが、怯えているのは乗客達だけではない。ブルック・カバヤン本人も、その心臓はドクンドクンと高鳴り、脂汗で額を浸していた。

 

ブルック

「よし、なんとか時間を稼げよクダル」

 

 宇宙海賊ブルワーズ。彼らは自分達の世界において、異星人イルミダスと契約をかわし合法的に略奪を行なっていた。だが、その蜜月も長くは続かなかった。宇宙海賊。それはいつしか自由と希望のために戦う戦士達にこそ相応しい言葉となっていたからだ。

 アルカディア号と鉄華団に何度も辛酸を舐めされられたブルワーズは、いつしかイルミダスの小間使いのような存在にまで落ちぶれてしまっていた。そんな彼らにチャンスをくれたのが、フェーダー・ゾーンである。

 Mr.ゾーンと共にこの世界にやってきたブルワーズに課された仕事。それは、海賊として宇宙の治安を荒らすというものだった。それが彼にどれほどの価値のある仕事なのか、ブルックは知らない。興味もない。ただ、暴力で全てを解決してよいという太鼓判は、ブルワーズにとっては何よりも魅力的だった。

 しかし、それが、まさか。

 

ブルック

「またあいつらの相手をするなんて、冗談じゃねえ……!」

 

 キャプテンハーロック。そして鉄華団。それは彼らブルワーズにとって、二度と相手にしたくないほどの悪夢なのだ。

 だが、それを理由に尻尾を巻いて逃げるなど海賊としての、略奪者としてのプライドが許さない。せめてあのお宝……。積荷の中にあった白と赤の2つのモビルスーツは、奪っておきたかった。

 

ブルック

(わかんねえのはずっと待機してるあのガンダム・フレームか。何しでかすかわからねえが……)

 

 窓越しに見えるのは、輸送機の上に鎮座するクロスボーン・ガンダムを睨んだ。この世界のガンダム。油断はできない。だがグシオンが旅客機に銃を向けている以上下手な真似はできないはずだ。そう考え、ブルックは手下達へ怒声を浴びせる。

 

ブルック

「てめえら! 早くしろ!」

 

 積荷の運搬を任せている手下を叱責するべく、首を伸ばし唾を吐いた。だが、答えはない。

 

ブルック

「…………」

 

 何かが、おかしい。ブルックはこの時になってはじめて、それに気付いた。今までは戦闘の騒音で意識しなかった部下達の無音。それが何を意味しているのか、ブルックは嫌な予感と共に、貨物室の扉を開けた。

 

ブルック

「なっ!?」

 

 そこにいたのは、眼帯の男。そして、1人の少年。少年の顔ははじめて見る顔だ。そもそも、子供など商売道具にしかすぎないブルックにとって顔の区別などつかない。だが、眼帯の男は違う。その顔。その眼光。その全てをブルックは知っている。覚えている。忘れようがない。

 

ブルック

「キャプテンハーロック……」

 

 宇宙の海に生き、自由と正義の為に全てを賭ける男。全ての支配者の、略奪者の、弱きものを虐げる全ての天敵が、そこに立っていた。

 

ハーロック

「久しぶりだな、ブルック・カバヤン」

 

 ハーロックの全てを射抜く鷹のような瞳に睨まれて、平静でいられる人間などいるだろうか。逃げるように視線を逸らすブルック。その視線の先には、降伏し両手を上げている手下達の姿。彼らはブルックを非難するような視線を向けていた。

 

トビア

「ヒューマンデブリかぁ……。全く、酷いことするよな」

 

 ハーロックの隣にいる少年がボヤく。そして、ブルックを睨む。はっきりと、軽蔑の眼差しで。

 

ハーロック

「ブルック・カバヤン。子供達の未来を、人生を搾取しゴミ同然に扱い奪うその所業。許してはおけん!」

 

 ヒューマンデブリ。人身売買でゴミ同然の値段で売り買いされる子供達。ブルワーズは大人の兵隊の他にも、多数のヒューマンデブリを買い叩き、道具として教育することで手足としていた。その鬼畜の所業を断罪するかのように、ハーロックは重力サーベルをブルックへ向ける。

 

ブルック

「く、クソッ!?」

 

 お宝など知ったことか。命あっての物種だ。ブルックは、そのカバのような巨体で豚のように息を上げつつ、しかし馬のように駆けた。彼の人生で、ここまで早く走ることができたのはこの時が最初で最後であろう。ハーロックを避け、トビアを無視し、ブルックは走る。脱兎の如きその速度でランチに辿り着いたブルックは1人、輸送機を後にし海賊船へ乗り移っていく。

 

トビア

「な、待て!?」

ハーロック

「いや、これでいい」

 

 追おうとするトビアを、ハーロックが制す。

 

ハーロック

「今は人質となっていた人々を解放するのが先だ」

 

 そう、依然としてこの船は、グシオンのサブマシンガンの射程にある。逆上したブルックが攻撃指示を出せば人溜まりもない。だから、最後の仕上げが必要だった。

 

トビア

「っと。そうでした。それじゃあキャプテン!」

 

 床を蹴り、無重力に任せ飛び上がるトビア。彼は自分とハーロックを乗せてきたコア・ファイターに飛び乗ると、そのまま輸送船を後にした。

 実のところ、クロスボーン・ガンダムの修復作業は今もアルカディア号内部で続いている。今、輸送機の上に着陸しているのはダミーバルーンで作った偽物だ。それに、ある細工を施して本物に近い重量を持たせている。そのクロスボーン・ガンダムに気を取らせている間に、トビアとハーロックはコア・ファイターで機内に潜入したのだった。

 トビアの仕事は終わり、次の仕事へ取り掛かかるためアルカディア号へ戻っていく。残されたのは、ヒューマンデブリの少年達と、そしてキャプテンハーロック。

 

ヒューマンデブリ

「キャプテンハーロック……」

 

 その名前は、ヒューマンデブリとしてゴミ同然に扱われる少年達の間にも伝説となっていた。自由を求め、支配者に抗い続ける者。真の宇宙海賊。いつか、キャプテンハーロックがヒューマンデブリを人間に戻してくれる。そんな信仰じみた伝説が流布されていることを、ハーロックも聞き及んでいる。

 その隻眼の男の伝説は、ブルワーズの“備品”として買われたヒューマンデブリの少年達からその眼力だけで戦意を喪失させ、そして降伏させたのだ。

 「キャプテンハーロックの伝説は本物だったのだ」という、淡い夢に縋るように。

 ハーロックは少年達の周囲を見回す。周囲には、警備員と思われる大人の男2人の死体が転がっていた。毛布に包まれて見えにくくされているが、血の匂いは隠せない。恐らく、少年達がやったのだろう。ヒューマンデブリとして、教えられたままに。本来ならば武器の使い方を知るよりも先に、まだ覚えなければならないことがたくさんある年齢の少年達だ。ハーロックは、そんなヒューマンデブリ達に一瞬、哀れむような視線を向ける。

 

ハーロック

「……残念だが、俺は君達を人間に戻す魔法使いではない」

 

 しかし、ハーロックの口から出た最初の言葉はそんなヒューマンデブリの少年達を失望させるものだった。露骨に肩を落とす少年達。だが、キャプテンハーロックはそんな少年達を決して見捨てはしない。

 この男は、そういう男なのだから。

 

ハーロック

「君達をゴミと呼ぶ者達は、俺が責任を持って始末しよう。その上で、君達がゴミのまま終わるか人間に戻れるか……それは君たち次第なんだ」

 

 優しく、諭すようにハーロックは言う。その言葉に少年達は最初、キョトンと目を丸くした。しかし、やがて1人の少年が静かに口を開く。

 

ヒューマンデブリ

「……わかったよ。俺、人間になるよ」

 

 少年はそう言うと、客室の方へと歩き出した。それから客室のドアを開く。バンという音と共に、怯える乗客達はビクリと心臓を跳ね上げた。

 

ヒューマンデブリ

「みんな、もう大丈夫だ!」

 

 少年は叫ぶ。それは、支配者への反逆の言葉。

 

ヒューマンデブリ

「僕たちも、みんなも、自由なんだ!」

 

 自分に言い聞かせるように、そうであれと願うように少年は叫んだ。ヒューマンデブリ。二束三文で売り買いされる奴隷などではないと。そして彼らも、もう怯えなくていいのだと。

 その少年の言葉を聞き、他のヒューマンデブリの少年達も次々と、声を上げる。

 

ヒューマンデブリ

「あんな海賊なんて、嘘っぱちだ!」

ヒューマンデブリ

「本物の海賊は、自由なんだ!」

 

 声高に叫ぶ少年達。それを貨物室から見つめるキャプテンハーロック。それは、人権を奪われ人であることを諦めた子供達が、自ら“ヒューマンデブリ”から“人間”に戻った瞬間だった。ハーロックは1人静かに笑み、そして機の向こうで銃を構えるガンダム・グシオンを見据える。そして、小さく呟いた。

 

ハーロック

「もういいぞ。オルガ」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 命からがら自分の海賊船へたどり着いたブルックは、深く息を吐く。こんなにも全力疾走したことはない。それができるということに、自分の体躯がまだ生きようとしていることに感謝しながらしかし、ブルックは怨敵の存在に腑を沸繰り返していた。

 

ブルック

「クソッ!?」

 

 だが、命は繋がった。そして怨敵の1人キャプテンハーロックは、輸送船の中。これを逃す手はない。ブルックは通信機を弄ると、ガンダム・グシオンのクダル・カデルを呼び出す。

 

ブルック

「クダル、もういい! その輸送船ごと、あの忌々しい奴らをやっちまえ!?」

 

 それだけ吐き捨てると、ブルック・カバヤンは自らの海賊船を輸送船から少しずつ引き離す。それは、撤退の意味。これは戦略的な撤退だ。こちらはモビルスーツを複数失っている。一刻も早くアジトへ戻り、ゾーンに武器の提供を依頼する必要がある。それに、最近略奪したガキどもをどこかのマフィア・コネクションにでも売り捌けばいい稼ぎになるだろう。今はとにかくポジティブにものを考えるべきだ。自分に言い聞かせるように、ブルックは皮算用を続ける。そして、艦長席に深く腰をかけるとまた、大きく息を吐いた。

 

 

 

クダル

「へっ、了解!」

 

 クダル・カデルはその通信をキャッチしたのと同時、サブマシンガンの引き金へ手を伸ばした。撃つのは一瞬だ。躊躇うことなどない。自分を散々コケにしたガキどもの悔しがる姿を想像すれば、ここのお宝ごと沈めるのも悪くない気さえする。いやむしろ、たくさんの人が自分の指先ひとつで死んでしまうというその快感は、何者にも代え難い宝であると言えた。

 コクピットの中から、トリガーを引くその一瞬。その一瞬でこいつらは絶望と怒りに塗れるだろう。その想像はクダルの嗜虐心を刺激し、興奮させる。

 だが、そうはならなかった。

 

オルガ

「今だッ!」

 

 オルガ・イツカの号令と共に、ベース・ジャバーで輸送船に着地し待機していたクロスボーン・ガンダムのABCマントが弾け飛ぶ。そこから現れたのは、黒き翼を持つ猛禽。イーグルファイター。

 

「へっ、ずいぶん待たせやがって。遅えんだよ!」

 

 藤原忍。獣戦機隊のリーダーにして、野生の本能そのものに戦う男は、ずっとこの時を待っていたのだ。

 オルガの立てた作戦は、つまりこうだ。

 アルカディア号の到着と同時、アムロ、シャア、三日月のモビルスーツ隊は敵機動兵器の迎撃。そしてアルカディア号からシグルドリーヴァによる援護射撃を行う。その間にマントに隠したイーグルファイターをベース・ジャバーとクロスボーン・ガンダムで運搬し、輸送機内部にトビアとハーロックが潜入。機内の制圧を完了次第、イーグルファイターが奇襲をかける。

 全員が命を賭けて動かなければ、成立しない。何より、少数人数で敵を鎮圧するためにはキャプテンハーロック自らが輸送機に乗り込まなければならなかった。その間、全員の命をオルガは預かり、チップを賭けた。

 イーグルファイターの翼が、忍の野性を力に変える。神速。そうとしか呼べない動きでグシオンに迫るイーグルファイター。その存在にクダルは一瞬、気を取られてしまう。そして、人間なら誰でも持っている自己防衛本能が、マシンガンの銃口を輸送機からイーグルファイターへと移させた。

 

クダル

「く、くるんじゃねえぇっ!?」

「黙りやがれ三下野郎!?」

 

 その覚悟の無さが、忍の神経を苛立たせる。ケンカがしたいならいくらでも買ってやる。だが、人質を取り、あまつさえ窮地に落ちればこうして動転する。そんなチンピラに、狩られていい命などあってたまるかと。

 イーグルファイターから放たれるバルカン砲が、グシオンを撃ちまくる。それを避けようとして、後退するグシオン。イーグルファイターの風切り羽は熱を高め、グシオンへ迫る。

 

クダル

「クッ、クソがァッ!?」

 

 ガンダム・グシオンの強靭な装甲を以ってしても、受けきれない。クダルは一瞬でそれを理解し、背中のブースターを全速で噴かす。だが、野生の鷹に狙われて逃げ果せることができるものなど、いるだろうか。ましてやここには。

 

三日月

「逃すわけないだろ……!」

 

 孤高なる狼の王までもが、君臨しているのだから。

 猛スピードでグシオンに迫るイーグルファイターとバルバトスルプスレクス。鷹と狼。空と陸に覇を成す孤高の猛獣に狙われた哀れな獲物となったクダル・カデルはしかし、生きるのを諦めはしなかった。彼もまた、弱肉強食の世界を生きてきた獣である。たとえ相手が空と陸の王であったとしても、どこまでも狡猾に生き残る。それが、蛇の戦い方だ。

 

クダル

「ああもう! ああもう!」

 

 頭に血が昇りながらも、クダルは生き残るための最善を尽くす。ハンマーをバルバトスに投げつけ、まずは三日月の注意を引く。

 

三日月

「…………!」

 

 ルプスレクスはその鋭敏な尻尾で、グシオンハンマーを振り払った。それも、クダルの計略通り。クダルはそのままハンドガンをバルバトスに向かい撃ちまくるが、このままではイーグルファイターの攻撃を防げない。そこでクダルは宙域に転がる仲間の遺骸……マン・ロディの残骸を盾にしながら、イーグルファイターとバルバトスの迫る前方へ手榴弾をばら撒いた。

 

「危ねぇッ!」

三日月

「……!」

 

 残骸の中で爆発する手榴弾は、マン・ロディの残骸を吹き飛ばしそれを三日月と忍へとぶち撒ける。バルバトスもイーグルファイターも、そういった物理的な衝撃への耐性は決して高いわけではない。一方で、超がつくほどの重装甲に固められたグシオンは爆発の中をものともせず、海賊船への軌道を進んでいた。

 

「野郎ッ!」

三日月

「……ッ!」

 

 それを追おうとする鷹と狼。しかし、「深追いするな!」というオルガの一声で、二機はピタリと動きを止めた。

 

「……どういうことだよ。もう少しであいつを倒せたんだぜ?」

オルガ

「奴らは、俺たちの世界から来た海賊だ。……おそらく、何者かの支援を受けて悪さしてるに違いねえ」

マーガレット

「……今叩けば、尻尾を掴めなくなる。そういうこと?」

 

 アルカディア号の船上でマーガレットが訊くと、オルガは首肯する。

 

オルガ

「おそらく、連中のアジトはそう遠くねえはずだ。今は輸送機の保護を優先し、準備を済ませてから改めて奴らを追う」

アムロ

「そうだな……。それに、色々と現状を確認したいところだ」

ジュドー

「…………」

 

 ともかく、ブルワーズ海賊団による民間輸送船襲撃事件は、同じ海賊船アルカディア号の介入により未遂に終わった。人質となった機内員、乗客計42名の中に死者がでなかったことは、ブルワーズの残虐さを加味すれば奇跡とも呼べる出来事だと言えるだろう。この奇跡を起こしたのが偶然機に乗り合わせたシェリンドン・ロナのノブレス・オブ・リージュと、アナハイム・エレクトロニクス社への出向から戻るために搭乗していたサナリィ社員2名の勇気ある行動の賜物であることは、公式的なニュースには記されていない。

 

 

…………

…………

…………

 

 

—アルカディア号—

 

 

シェリンドン

「トビア! トビア・アロナクス!」

 

 ダブルゼータから降り、シェリンドンが真っ先にその少年へと飛び込んでいった。無重力の宇宙空間で、人工的に作られた重力が身体を大地へと押してくれる感覚がある。それは生粋のスペースノイドであるシェリンドンには少し違和感があった。

 

トビア

「シェリンドンさん。よくご無事で」

 

 そんなシェリンドンの無事を確認し、トビアはほっと息をおろした。シェリンドンは、今にもトビアに抱きつくのではないかというほどの勢いで迫り、しかしその背後に控えているベルナデット・ブリエットの存在を認めるとハッ、と顔を真っ赤にして首を振り、改めてトビアへ向き直る。

 そこには年頃の少女のものではなく、毅然とした貴族の顔があった。

 

シェリンドン

「話は聞いています。ベラが……攫われたのですね」

トビア

「はい……。今キンケドゥさん、仲間が全力で捜索に当たっています」

 

 シェリンドンとベラ・ロナ……セシリーは従姉妹に当たる。たとえロナ家と縁を切った者であったとしても、シェリンドンにとってベラは大事な従姉であることに代わりはないのだろう。そう、トビアは素直に思った。

 

シェリンドン

「地球にも、コスモ・クルス教団の信徒はそれなりにいます。私も彼らに命じて情報収集にあたっていますが……そうですか」

トビア

「でも大丈夫です。ベラ艦長は強い人だ。それにキンケドゥさんも。だから……」

 

 シェリンドン・ロナの思想。その根底にある「ニュータイプの世界」というものには正直、トビアは懐疑的だった。だが、それはシェリンドン自体を嫌悪しているわけではない。こうして話してみれば、案外話のわかる人だともトビアは思っている。そういう意味で、トビアはシェリンドンに対してはある種、気を許していた。そして、教団のトップであるシェリンドンに対しこのようにフランクな話し方をする“友人”はシェリンドンにとっても、トビアくらいのものだった。

 

ジュドー

「おお、誰かと思えばトビアじゃん! 元気にしてたか!?」

 

 そんな2人の会話に割り込むように、トビアへ気さくな挨拶をするジュドー。トビアは一瞬、ポカンとした顔をして、ジュドーを見つめていた。

 

トビア

「あ、あの……。どこかで会ったことありましたっけ?」

ジュドー

「え!? あ!?」

 

 やべっ。そう口に出そうになり、ジュドーは思わず口をつぐむ。

 

ジュドー

「あ、あはは。ゴメンゴメン。知り合いに似ててさ。間違えちゃったよ……」

 

 誤魔化すように捲し立て、ジュドーはそそくさとその場を離れていく。その様子を、トビアはただ見つめていた。

 

シェリンドン

「トビア、ジュドーと知り合いなのですか?」

トビア

「いや……初対面のはず、です、けど」

 

 はじめて会った気がしない。どこかで会ったような気がする。そんな不思議な既視感は、たしかにあった。だが、少なくともあんな顔の少年をトビアは見たことはない。

 

トビア

(強いて言えば、癖っ毛の感じがストーク卿に似てた気がするけど……もしかして、ストーク卿のお孫さんとかかな?)

 

 そんなことを、ぼんやりと考えるトビアだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

ジュドー

「ふぅ……。危ない危ない」

 

 トビアの前から逃げるように立ち去り、ジュドーは深く息を吐いた。トビア・アロナクス少年や宇宙海賊クロスボーン・バンガードとは、少しばかり縁がある。だが、それはグレイ・ストークという“木星じいさん”としての人間関係であり、今ここにいるのはジャンク屋上がりのサナリィスタッフ・ジュドーでしかないのだ。

 

ジュドー

「説明しろって言われたら、色々面倒だもんだ……」

 

 そうボヤきながらアルカディア号の格納庫をブラつくジュドー。その肩を、何者かがポンと叩いた。

 

アムロ

「俺にくらいは、説明してもらえるかな?」

 

 アムロ・レイ。かつて、宇宙世紀の戦いで一度だけ、共に戦った戦友であり、若いジュドーにとっては数少ない「尊敬できる大人」だった人物。

 

ジュドー

「アムロさん……」

 

 そのアムロが、当時と同じ姿でここにいる。それと、もう1人。

 

シャア

「そうか。君がジュドー・アーシタか……」

ジュドー

「…………!」

 

 シャア・アズナブル。その金髪と青い瞳に、ジュドーはあの寂しい女性の面影を見ていた。

 血の呪いに縛られた、悲しい女性。その悲しみをジュドーは受け止めてあげることができなかった。この男ならば、あの人にあんな悲しい目をさせずに済んだのではないか。そんな、勝手な怒りが沸いてくる。

 

ジュドー

「シャア・アズナブル……。アンタが地球潰しをしようとしたってことは、木星にまで話が伝わってましたよ」

 

 だから、ジュドーはシャアへ最大限の敵意を込めて見返す。見返してしまう。

 それは、トビアやマーガレットのような現代人。或いはハーロックや三日月のような異世界人では持ち得ない怒りだった。

 

シャア

「…………ハマーンを倒した少年の話は、私も聞いている。君が、そうなのだろう?」

ジュドー

「倒したくて倒したわけじゃないよ。アンタがやらなきゃいけなかったことを、みんなが押し付けられただけでしょうが」

シャア

「そうだな。その事は、謝って許されるものではない」

 

 だが、ジュドーはこのシャアという男を憎めなかった。憎みきれなかった。血の呪いに縛られてしまった哀しい女性と、エゴと呪いに塗り固められた哀れな男。そこに何の違いがあるのだろうかという気がしてしまうからだ。

 それに、自分はそんな地球の重力から逃げて木星へ旅立った。自由に生きるために。それでも結局、木星でもドゥガチ総統のような悲しい独裁者が生まれ、悲劇の歴史は繰り返されてしまう。それが人が人である故の性なのだと、年老いたグレイ・ストークの理性が理解してしまうのだ。

 だが、今ジュドーの身体に流れる血は若き日のジュドー・アーシタのものだ。それが未知なるものに与えられたものだとしても、その血は叫びを上げてしまう。

 老人の理性と若者の血潮。そのアンバランスの中でジュドーは、シャア・アズナブルへ握った拳をただ、虚空へ向かい突き上げることしかできなかった。

 

シャア

「……ハマーンのことで恨んでいるのなら、私を殴ってくれても構わんよ。私が犯した罪は、その程度で償えるものでないことは理解しているつもりだ」

ジュドー

「いや、あんたを殴ったって俺が虚しくなるだけだ。それは、俺が一番よく知ってる」

 

 昔、ジュドー・アーシタに対してよく接してくれた大人がいた。ジュドーが大人の不甲斐なさを嘆き、怒り、叫んだ時。彼は「ダメな大人」を代表してジュドーに殴られてくれた。

 それでジュドーの胸がすっきりしたかといえば、そんなことはなかった。むしろ虚しさや、悲しさの方ばかりが広くなっていた。だから今ハマーンのことでシャアを殴っても、きっとジュドーは同じ気持ちになるだろう。そう、ジュドーは理解していた。だからジュドーは虚空へ突き上げた拳を下ろし、その手を解く。そして、その手をシャアに差し出した。

 

ジュドー

「わかりました。あなた達には話しますよ。でも、代わりに話してよね。2人がどうして、こんなところにいるのかを」

 

 シャアはそんなジュドーの腕を握り返し、深く頷く。

 

シャア

「今を生きる者達の世界を、宇宙世紀のようにしたくはない。そのために私もアムロもここにいる。それだけは、理解してほしい」

 

 握手を交わし、見つめ合うジュドーとシャア。そこにはもう、憎しみや怒りの感情はなかった。

 

ジュドー

(憎しみや呪いの連鎖は、いつか地球を食い潰す。悲しみは俺たちの代で終わりにしなきゃいけない。そうだろう、ハマーン……)

 

 ふと、ジュドーは1人は少年の名前を思い出していた。もし、この場に彼がいたら何を言うのだろう。運命のバトンをジュドーへ渡してくれたあの少年は。

 

ジュドー

(俺にアムロ、シャアまでいるんだ。案外、あの人もどこかで戦ってるのかもしれないな……)




次回予告

ジュドー
「ブルワーズを追い詰めるため、アルカディア号は再び出発した。だけどあいつら、木星軍なんかとつるんじゃってさ。ほんとやんなっちゃうよ。だけど、シェリンドンのお嬢ちゃんが持ってきたモビルスーツと、トビアの生まれ変わったクロスボーン・ガンダムが大活躍しちゃうんだよね。えっ、ちょっとまって俺の活躍はどうなっちゃうの?
 次回、『猿の衛星』
ニュータイプの修羅場が見れるぜ!」

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