スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第22話「豪和憂四郎」

—???—

 

 

 

 闇の中、1人の男が叫んでいた。苦悶の表情を浮かべ、男は憎しみと怒りを喚き散らしている。

 

ミケロ

「ああ! ああ! 許せねえ、許せねえ!?」

 

 ミケロ・チャリオット。かつてドモン・カッシュに敗れたガンダムファイターであり、現在は謎の少女・ライラの命令に従うリビングデッドがひとり。ミケロの全身を覆うのは銀色の鱗。DG細胞。自己進化、自己再生、自己増殖の三大理論により成長する機械・デビルガンダムの細胞が今、ミケロの身体を復元していた。

 

ライラ

「…………」

 

 その様子を、赤い髪の少女は面白くもなさげに眺めている。

 

ミケロ

「クソォ!? 殺せ! 俺を殺せぇッ!?」

ライラ

「嫌よ。まだあんたには使い道があるんだから」

 

 ライラが蘇らせたリビングデッドは、6人。シャピロ・キーツ、ショット・ウェポン、ザビーネ・シャル、ジェントル・チャップマン、ミケロ・チャリオット。そして、

 

紫蘭

「…………」

 

 ライラを膝に乗せ、無感動な瞳でその光景を眺める紫蘭・カタクリ。

 

 そのうち現在も活動しているのはショット・ウェポンと紫蘭のみ。チャップマンはゲッター線の力で支配を脱し離反。シャピロはムゲの空間で消息を絶ち、ザビーネは修理に時間がかかる。再強化の必要もあるだろう。それらの事情を鑑みて、ミケロ・チャリオットの修復作業はライラにとっても優先だった。

 

ライラ

「お兄さん、情けないよね。本当にガンダムファイターだったの?」

 

 退屈なので、苦しんでいるミケロを嘲ることで時間を潰す。ミケロは今にも殺さんばかりの視線をライラに投げつけながらも、急速に自身を支配するDG細胞の増殖に呻いている。

 

ミケロ

「て、テメェ! 俺をどうするつもりだ!?」

ライラ

「お兄さんとデビルガンダムの親和性を高めるの。それで、お兄さんにはシャッフル同盟を殺してもらう」

 

 シャッフル同盟。その言葉にミケロはピクリと耳を立てた。

 

ミケロ

「クッ、クックッ。俺に、ドモン・カッシュを殺してくれってことかぁ!?」

ライラ

「そう。今代のシャッフル同盟は間違いなく、歴代最強。それを殺せるほどの力よ」

 

 赤い少女は妖艶に笑う。それは、死と隣り合わせの艶だ。或いは、生きている人間にはできない表情。人は古来より、死というものにある種の幻想を抱いてきた。そして、文学や絵画、映像。その他あらゆる芸術で死を表現し、その恐怖と奥底に潜む美を描き出そうと苦心し続けてきた。

 ライラの笑顔は、それら死の芸術全てが霧散してしまうほどに蠱惑的な、死んだ笑顔だった。

 推しむらくは、ここに芸術を解する教養を持つ者がいないことに尽きる。死人形としてライラに隷属する紫蘭も、そしてミケロ・チャリオットにも、その美しさを理解しない。ただ、ミケロはその動物的嗅覚でライラの発する死の匂いを感じ取りそして……歓喜した。

 

ミケロ

「ヒャ、ヒャハハ……そいつはいい! ドモン・カッシュをぶっ殺す力! そいつは……最高だ!」

 

 細胞が細胞を呼ぶようにして、ミケロの全身と彼のガンダムヘブンズソードはDG細胞の中に溶けていく。まるで芋虫が蛹を作るように、今ミケロはDG細胞の海とひとつになっていた。

 

 そんな時である。ライラの脳裏に、声が響いたのは。

 

ライラ

「月の静寂が……破られる?」

 

 月。静寂を約束された場所。前の宇宙からずっと、そこは約束の地。

 月に眠るものを、蘇らせてはいけない。

 恐怖が、全てを包み込んでしまうから。

 ライラが立ち上がると、紫蘭も続く。残されるのは、ドロドロに溶けたミケロ。

 

ライラ

「……ミケロ。生まれ変わったらまず、豪和に行って」

 

 ライラは告げる。もし、恐れていたことが現実に起こるなら、破壊しなければならないものは鍵だ。嵬を殺め、ガサラキの降臨を阻止する。返事はない。だが問題ない。リビングデッドは結局、ライラの命令には逆らえないのだから。ライラと紫蘭は自らの邪霊機へ乗り込むと、その場から消える。まるで最初からそこにいなかったかのように。

 

ミケロ

「………………クク、キャキャ」

 

 ドロドロに溶けた思考で、ミケロは自らの中に芽吹く力に歓喜していた。

 

 

 そして、夜は更ける。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—科学要塞研究所—

 

 

 アルカディア号を見送った後、地球に残った面々は散発的なミケーネ帝国の攻撃を撃退しながら彼らの帰りを待っていた。ミケーネのやり方は、明らかに暗黒大将軍の時から変わっている。今までのような果敢な攻撃は鳴りを潜め、現在ミケーネ帝国は消極的な破壊活動に終止していた。

 

鉄也

「ミケーネめ。一体いつまでこんな戦いを続けるつもりだ」

 

 戦力としては、明らかに暗黒大将軍が指揮していた頃よりも弱くなっている。しかし、まるでこちらの力を確かめるようにゆっくり、ゆっくりと続く攻撃は何か意味のあるようなものに思え、鉄也は下唇を噛んでいた。

 

ヤマト

「……気になるのは、メカザウルスだな」

 

 ヤマトが呟く。メカザウルス。光子力研究所を襲撃したゴーゴン大公以降、定期的にミケーネが使役するメカ恐竜。ヤマトはそれを、古代ムー王国で戦ったドラゴニア帝国のマシンと呼んでいた。

 

アイラ

「メカザウルスまで、この時代に現れるなんて……」

ヤマト

「ああ。俺は古代ムー王国で、闇の帝王の配下達と戦った。その時、メカザウルスは全て倒したはずなんだがもしかしたら、俺達の知ってる奴もこの時代に蘇ったのかもしれねえ」

槇菜

「それって……」

 

 一呼吸し、ヤマトが続ける。

 

ヤマト

「エルド皇子。ドラゴニア王国の皇子で、卑怯な手で俺達の仲間を何人も殺したやつだ。あいつが生きてるっていうなら、俺たちがこうしてこの時代に戻ってきた理由も納得だ」

 

 ヤマトとゴッドマジンガーは、バイストン・ウェルの最奥……闇の世界でシーラ女王の魂を守り続けていた。そして、地上人である槇菜達と合流しヤマトは現代に帰還した。だが、それすらも真の目的ではないとしたら。

 

ヤマト

「……もしかしたら、闇の帝王やエルドと決着をつけるために、俺は現代に戻ってきたのかもしれない」

アイラ

「…………」

 

 わかりきったことではあった。古代ムー王国の守り神であるゴッドマジンガーが、何故現代の戦いに介入することをよしとしたのか。それは、ヤマトとアイラにも無関係の話ではないからだと。しかしドラゴニア王国の皇子エルド。その名前を出しただけで、アイラは身震いしてしまう。

 

槇菜

「……アイラさん、そのエルドって人と何かあったんですか?」

 

 恐る恐る、槇菜が訊いてみる。

 

アイラ

「あの男は、私を強引に自分の妃にしようとしたんです」

 

 吐き捨てるように、アイラが言う。妃。それが何を意味しているのかわからない槇菜ではないが、強引にというのはあまり聞いていても気持ちのいいものではなかった。

 

チャム

「妃って、アイラはそのエルドと結婚しちゃったの!?」

ショウ

「コラ、チャム!?」

 

 下世話なことを無邪気に喚くチャムに、ショウがデコピンする。

 

アイラ

「あの男は、野心と欲望の塊です。もし生きているというのなら、どのような卑劣な手を打ってくるか……」

ヤマト

「なぁに、心配するなって。その時は俺とゴッドマジンガーが、またあいつを倒すだけだ」

 

 アイラを励ますように、ヤマトが胸を張る。その様子にアイラは少し安心したように、小さく頷くのだった。

 

リュクス

「……野心と欲望の塊。まるでガロウ・ランのようなものですね」

 

 そんな話を聞きながら、リュクスがぽつりと呟いた。

 

槇菜

「がろーらん?」

アルゴ

「そんな名前のガンダムファイターがいたような気がするが……」

 

マーベル

「バイストン・ウェルに棲む、粗野で野蛮な種族のことよ。私達がいた西の大陸では、ガロウ・ランは徒党を組んで山賊まがいのことをしてる連中もいれば、騎士や貴族の小間使いをして小銭を稼いでいる者もいたわ」

ショウ

「一概にガロウ・ランといっても、見た目も人間と変わらないし話が通じないわけじゃない。中には義理堅い奴もいたよ」

 

 バイストン・ウェル。海と大地の間にあると言われる別世界。そこでは地上侵攻を目論むサコミズ王の軍と、アマルガン・ルドルの反乱軍が今も戦いを続けている。そして、その戦いの渦中にはあの男がいる。

 

ドモン

(師匠……)

 

 東方不敗マスターアジア。彼の魂は今、バイストン・ウェルに暫しの猶予を与えられていると言っていた。こうしている今でも、師匠の下に駆けつけたい。そう考えてしまうドモンだった。

 

アイザック

「……そして、無国籍艦隊か」

 

 原子力空母パブッシュを中心とする無国籍艦隊。その裏には陰謀が渦巻いていることを、アイザック・ゴドノフ達J9は調べ上げている。秘密結社“シンボル”や、B世界からの転移者でもあるMr.ゾーンを招き入れて独自に戦力を強化しながら、未だに無国籍艦隊は表だった動きを見せていない。

 

アイザック

(裏で糸を引いている黒幕……カーメン・カーメン。今度こそ奴の尻尾を掴んでみせる)

 

 “ヴァニティ・バスターズ”に参加する以前から、コズモレンジャーJ9は何度かカーメン・カーメンの率いる犯罪組織「ヌビア・コネクション」と対決していた。急速に勢力を増すマフィアであるヌビア・コネクション。しかし、その動きには妙なものがあるとアイザックは確信している。

 

アイザック

(ただ勢力を強くしていくだけではない。カーメン・カーメン。奴の意志にはもっと底の知れぬものを感じるのだ)

 

 確証はない。だが、様々な戦いの中心となるここでなら、彼の核心にもたどり着けるかもしれない。既にアイザックには、近い将来実現するであろうカーメン・カーメンとの対決が見えていた。

 

槇菜

「…………無国籍艦隊」

 

 表だった動きは見せていないが、その傘下と思われる部隊とは何度か交戦している。そのうち一つが、べギルスタンの謎の部隊。TAとオーラバトラー、そして槇菜の姉・桔梗が所属していた部隊。桔梗は自分達の活動を「革命」と称していた。だが、ミケーネのような脅威が目前に迫っている今それをする必要がどこにあるというのだろうか。

 

槇菜

「お姉ちゃんと、戦わなきゃいけないのかな……」

 

 槇菜にとって、桔梗は自慢の姉であり大好きな存在だ。両親がいなくなってから、姉はずっとひとりで槇菜を守ってくれた。感謝もしているし、できれば戦いたくないというのが本音だ。だが、それでも桔梗が悪事に加担しているというのならば、自分自身の手で止めるしかない。そういう風に考えるのが、槇菜でもある。

 

リュクス

「槇菜……。私も父と対立している身。その辛さはわかるつもりです。でも……」

 

 もし、最愛の人が決定的に間違えてしまうのなら。命に変えてでも止めなければならない。リュクスはこれまでの戦いを見てきて、そういう思いを固めている。

 

リュクス

「地上に生きる人々も、バイストン・ウェルに生きる者も変わらない。みんな、今日という日を必死に生きている。それを奪う権利は、どこにもありはしない」

 

 ミケーネ帝国の侵攻で、地上は大きく傷ついた。それを、リュクスは自分の目で確かめた。今父がやろうとしていることがそれと同じならば、それを止めるのは自分の役目だと。

 

エイサップ

「……それじゃ、ダメだ」

 

 しかし、同じものを見てきたエイサップ鈴木は、違うことを考えていた。

 

リュクス

「エイサップ?」

槇菜

「エイサップ兄ぃ?」

エイサップ

「流血の繰り返しじゃきっと……何も変わらない。俺達が戦うのは、それで傷つく人を守るためだ。だけど、親殺し子殺し、兄弟殺しなんていうのは悪を成す者の考え方だ」

 

 だから、それではダメだとエイサップは言う。

 

ドモン

「……そうだな」

 

 そんなエイサップを聞いて、ドモンは静かに頷き席を立った。その様子を、シャッフル同盟の仲間達は複雑な表情で眺めている。

 

レイン

「もうっ、ドモン!」

 

 そんなドモンを、レイン・ミカムラが追いかけていった。

 

槇菜

「ドモンさん……?」

 

 当人である槇菜やリュクス以上に、今のエイサップの言葉にドモンは深刻な表情をしていた。それを不思議に思う槇菜。

 

ジョルジュ

「……そういえば、あのことは世間には公表されていないのですね」

サイ・サイシー

「ドモンのアニキはさ、前のガンダムファイトでデビルガンダムの生体コアになった実の兄を……キョウジ・カッシュをその手にかけたんだ」

槇菜

「お兄さんを……!?」

 

 信じられない。という風に槇菜の表情が歪む。兄の命を奪った。その気持ちは槇菜には想像もつかない。

 

エイサップ

「そうか……。それは、悪いことを言ったかもしれないな」

 

 気まずそうに、エイサップが呻いた。

 

アルゴ

「……気にするな。あいつも気を悪くしたわけじゃない」

チボデー

「ああ。キョウジ・カッシュは、デビルガンダム事件の被害者でもあった……。あいつは、介錯してやったんだよ。デビルガンダムの呪いから、尊敬する兄貴をな」

チャップマン

「…………」

 

 チボデー達シャッフル同盟は、その戦いを間近で見守っていた。チャップマンはその時、デビルガンダムの配下として操られていたが、それでもドモン・カッシュの魂の鼓動は感じていた。解放され、命を得た今でも時折疼くDG細胞の名残。それはチャップマンの精神力が抑えつけることができるほどに微弱なものだが、あれに取り込まれた時に感じた力は、甘美なものだったと理解してしまうのも確かだった。

 

チャップマン

「……あの若僧は、立派に使命を成し遂げた。それだけのことだ」

 

 即ち、兄殺しを。

 

槇菜

「はい……」

リュクス

「…………」

 

 再び、押し黙ってしまうふたり。そんなふたりに、チャップマンは言葉を続ける。

 

チャップマン

「……だが、ドモンの兄は本当の意味で末期だった。殺す以外の選択肢がなかった。そうだろう?」

ジョルジュ

「ええ。長くデビルガンダムの生体コアとして肉体と精神を侵蝕された彼は、もはや屍当然でした。それでも尚、デビルガンダムは脅威的な強さだった……」

チャップマン

「お前達は、まだ他にも選択肢がある。それを忘れるな」

 

 そう言って、チャップマンも席を立つ。定期検診の時間だった。彼の身体は一度死に、DG細胞で甦った。そして、ゲッター線の光を受けてDG細胞を焼き殺し……復活した。そんなチャップマンの身体には、まだ謎が多い。ゲッター線の影響、DG細胞の後遺症。それらを調べるために早乙女博士に呼び出され、定期的に診察を受けている。

 

チボデー

「……ヘッ、あいつも不器用な奴だね」

ジョルジュ

「ですが、彼なりに貴方達を気遣ったのでしょうマドモワゼル・槇菜、マドモワゼル・リュクス」

リュクス

「はい……」

槇菜

「うん。エイサップ兄ぃとチャップマンさんのおかげで、少しだけ気持ちが楽になった気がする」

 

 そう言って、槇菜が人懐っこい笑みを浮かべた、その時だった。鳴り響くサイレンの音。それまで雑談に花を咲かせていた者たちの顔が、一瞬で険しいものへと変化する。

 

鉄也

「ジュン、何があった!」

 

 観測室にいるジュンに、鉄也が通話を繋いだ。

 

ジュン

「豪和総研で火災発生。例のTAと、アサルトドラグーンの姿が確認されてるわ」

 

 豪和総研。特務自衛隊の一員であり、彼らの仲間でもあるユウシロウがいる場所。そして……

 

槇菜

「アサルト・ドラグーン……お姉ちゃん!」

 

 櫻庭桔梗。彼女が動き出したと知り、槇菜は真っ先に駆け出していく。それに続くようにしてエイサップやショウも。

 

隼人

「奴らの目的は……ユウシロウか?」

竜馬

「かもしれねえな。隼人、弁慶、俺達も行くぞ!」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—豪和総研—

 

 

 数時間前。豪和ユウシロウは総研に充てがわれているベッドに横たわりながら、これまでのことを思い返していた。鬼哭石の里で、舞を踊ったあの日から続く、少女との因縁。

 

ユウシロウ

(ミハル……。俺はあの子を知っている。そしてあの子は、俺の知らない俺を知っている)

 

 それは、幾千年の時を越えた因縁。恐怖とは何か、呼び起こすものとは。全ては、己の血の中に宿るもの。それを巡り、兄達は策謀を巡らせていることはユウシロウも知っている。恐らくはミハルの背後にいるシンボルという組織や、ユウシロウとミハルを狙い現れたミケロ・チャリオットもそうだろう。ユウシロウの運命を狙う黒い意思……その存在を、あのべギルスタンでの戦いで彼は確信していた。

 

ユウシロウ

(俺は、知りたい。俺の運命を操るものの正体を。そして……)

 

 考えていても、答えは出ない。頭の中ではぐるぐると思考が巡っていても、答えのない問いばかりがユウシロウの脳内を駆け巡っていく。意味の無い、取り止めもない思考の渦がユウシロウの脳を疲れさせ、やがてユウシロウは微睡の中に落ちていく…………。

 

 

ユウシロウ

「TA……?」

 

 夢の中、ユウシロウはTAのコクピットにいた。息苦しさも肌触りも、まるで現実のような夢。そうでありながらユウシロウがこれを夢であると自覚できたのは、自分の声が幼い子供のそれだったからだ。そして目の前に立っている少女趣味な鈴蘭のマーキングが施されたTAに乗っているのが、誰かもわかっている。しかし夢の中でユウシロウは、言葉を交わすこともなくTA同士を激突させていた。無言のまま、アームをぶつけ合わせるTA。拳を合わせる度に、ドクンと胸が脈打つのをユウシロウは感じる。それは、あの鬼哭石での舞や、べギルスタンでの戦いに近い。あの時のような高揚感を夢の中で、ユウシロウは浴びていた。

 

ユウシロウ

(俺の中に、いくつもの俺がいる……。僕の知らない僕が。千年以上前から続く、血の轍。それをこの夢は、俺に伝えているのか?)

 

 血。DNA。塩基。それが人というものを形作る設計図だというのならば、それを作ったものがいる。それは科学的には父や母。自身の血統と呼ぶべきものだろう。先祖代々から受け継がれてきたもの。その起源を辿れば、どこかにユウシロウの血の起源がある。

 だとしたらこれは、先祖返りなのだろうか。ユウシロウの中にいる無数のユウシロウ。ミハルの中にいる無数のミハル。幾千の世代を越えた記憶の奔流。ユウシロウが見ている夢は次第に溶けていき、目の前にいるはずの鈴蘭の模様もどろりと姿を変えていく。

 ユウシロウの意識もまた闇の中へ、さらなる微睡の中へと誘われ、そして……。

 

 

 

 

ユウシロウ

「——っ」

 

 気付けばユウシロウは、どことも知れぬ閑散とした平野を一人、歩いていた。意識は連続している。先ほどまで見ていた夢の内容も、思い出せる。だが、これは知らない。知らない景色だ。どこまでも続く、長い路。それをただひたすら歩くユウシロウ。見覚えのない道。しかしユウシロウの脳は、記憶はその道を知っている。

 

ユウシロウ

(この道は……嵬の道)

 

 カイノミチ。不思議と浮かび上がったその言葉と共に、ユウシロウは進む。やがて、道の先に仄かな光が見えた。その光に導かれるように、ユウシロウは歩く歩けば歩くほど、光が遠ざかっていくような錯覚を覚える長い路。しかし夢の中でも、道は無限には続かない。

 

ユウシロウ

(…………あの光は、月か?)

 

 月。月の光に導かれているとでもいうのだろうか。古来より人を照らし出す光。幾千、幾万もの悠久の時人々を見守り続けてきたその光が、ユウシロウを誘ったのかもしれない。

 ユウシロウは、歩き続ける。歩き続けて、やがて……。

 

少女

「お立ち去り、ください」

 

 声を、かけられた。まだ十代半ばほどの少女が気付けば、ユウシロウの後ろにいる。幼い顔立ちに、全てを諦めたような目をした少女だった。どことなく、あの子に似ている。そう、ユウシロウは感じる。

 

ユウシロウ

「この先に、俺の求めているものがある。そんな気がする」

 

 ユウシロウがそう答えると、少女は押し黙る。しかし、やがて少女の全身が纏うオーラが強くなっていくのをユウシロウは背中で感じた。これは、本当に夢なのだろうか。

 

ユウシロウ

「——っ!?」

 

 思わず振り返り、今一度少女を見やる。しかし、そこに少女はいない。いたのは、鬼だ。

 鬼。そうユウシロウが判断したのは、能舞台を舞う際に被る鬼面のような貌を、少女だったそれは被っているからだ。全体のシルエットはむしろ、骸骨に近い。さしずめ巨大な妖怪の骸が、鬼の面を被っている。そんな印象を受ける。

 

「ユウシロウ、お前の望みは何だ!? 鬼を滅することか。それとも……天下を統べる我が力か!?」

 

 鬼は問う。望み。自分自身の求めるもの。それは……。

 

ユウシロウ

「俺は……俺自身が何者なのかを、知りたいだけだ」

 

 迷いなき瞳で、鬼を見据えるユウシロウ。しかし、その答えに鬼はクツクツと嗤う。まるで、ユウシロウの求めるそれに、価値がないとでも言いたいかのように。その昏く、重い嗤い声をユウシロウは不快に思う。

 

「クッ……クッハハハ……。貴様自身が何者かだと。では問おう。人とは何だ!?」 

 

ユウシロウ

「何……?」

 

 瞬間、ユウシロウの脳裏には連想ゲームのようにたくさんの言葉が浮かんでは消えていった。人。自分。他人。男。女。ユウシロウ。ミハル。だが、それは全て、「人とは何か」というという問いの答えにはなり得ない。ユウシロウは、押し黙る。

 

「人は何処から来て、何処へ行くのだ? 答えられぬか。フフフ……ならば、お前は!」

 

 鬼が何を言おうとしたのか、ユウシロウにはわからなかった。彼の夢は、突如鳴り響いたサイレンの音と共に醒めそして、ユウシロウの意識は急速に、現実へと引き戻されてしまったからだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

ミハル

「…………」

 

 豪和総研ビルの内部を、鈴蘭のマーキングを施されたメタルフェイクが走る。隔壁を破壊し、ミハルは総研のコンピューター・ルームに辿り着いた。マニピュレーターから細いコードが伸び、巨大なコンピューターに侵入を試みる。ミハルの目的はただ一つ。豪和ユウシロウ。

 

ミハル

(彼は、一体何者なの……?)

 

 私の脳裏に過ぎるヴィジョン。言葉。それらの中には全て、あのべギルスタンで初めて出会ったはずの少年がいる。ミハルは、自分が何者なのかを知らない。“シンボル”の尖兵として、この機動兵器を操る兵士であり、操り人形。そういう運命にあると思っていた。だが、運命は変えられる。そう、教えてくれた人がいる。

 

ミハル

(あれは、本当にユウシロウ? それとも……)

 

 ここには、答えがある。或いは、答えに辿り着くための何かが。メタルフェイクのモニターに、コンピューター内に保管される重要機密のデータが映し出されていく。ミハルはそれを、無感動な瞳で読み解いていく。豪和ユウシロウ。彼のデータは、豪和総研の最重要秘密事項となっていた。それは、予想通りであると言える。だからミハルはそれに構うことなく、侵入を進めていく。すると、モニター内にはユウシロウの出生簿のようなものが表示された。だが、そこに記されている事項はあまりにも少ない。

 

ミハル

(豪和憂四郎……。未来世紀46年生まれ。未来世紀54年……死亡?)

 

 死亡。ユウシロウは、8年前に記録上死んでいる。それが嘘ではないことを、この豪和総研という場所と、厳重な秘匿レベルが示していた。疑う余地など、ありはしない。

 だが、だとしたら……。

 その疑念を口に出す間も無く、外が騒がしくなっていることにミハルは気づく。それと同時、外で待機している櫻庭桔梗から、通信が届く。

 

桔梗

「フェイク1。すぐに帰投して。例の部隊が近づいてる」

 

 例の部隊。べギルスタンで交戦し、そしてミケーネ帝国との戦いの中心になった彼らのことだろう。ミハルはそう理解する。

 

ミハル

「了解」

 

 そう答え、ミハルはコードを引き抜いてメタルフェイクを再び起動させる。そしてマシンを走らせようとしたその直後、背後に人の気配を感じた。正確には、彼の気配を。

 

ユウシロウ

「ミハル……!」

 

 ユウシロウ。ミハルの心を奪い続ける少年。同じ運命を共有し、真実を探すもの。ミハルはメタルフェイク……イシュタルMk−Ⅱのコクピットハッチを開け、叫んだ。

 

ミハル

「ユウシロウ! 貴方は……貴方はもう死んでいるのよ!」

ユウシロウ

「何……?」

ミハル

「8年も前に……貴方は、貴方は誰なの!?」

 

 それだけを吐露し、ユウシロウを見やる。死んでいるはずの少年。それは今もたしかに、実体を伴ってミハルを見つめていた。死んでなど、いるはずもない。ユウシロウは確かに、ここにいる。

 ならば8年前に死んだユウシロウは誰で、ここにいるユウシロウは何だ?

 わからない。渦を巻いてミハルの思考を奪う疑念、懸念、雑念、恐怖。それらから背を向けるように、ミハルはコクピットハッチを再び閉め、ユウシロウを後にするのだった。

 

 

 

……………………

第22話

「豪和憂四郎」

……………………

 

 

—豪和市—

 

 

 豪和市。豪和のお膝元であるこの街は、東京でも有数の治安で守られた街だった。デビルガンダム事件で新宿が崩壊し、その余波を受けて東京近辺は2年前、かなりの被害を受けている。その結果として独自のスラムを形成し、東京は首都としての機能をほぼ完全に失った。それでも尚、日本国内の政治機能を司るのは東京である。それは真の首都でもあるネオジャパン・コロニーが地球という場所を軽視しているという見方もできるが、日本の場合この豪和市を支配する豪和一族のように、独自の権限を持つ豪族が存在していたことも大きいだろう。

 だが、そんな豪和市は今炎に包まれている。豪和総研を襲った謎の機動兵器群。その中に、櫻庭桔梗と愛機アシュクロフトはいた。

 夜の街の静寂を引き裂く機動兵器のエンジン音と耳を裂くサイレン。櫻庭桔梗は今、アシュクロフトのコクピットで静かに敵を見据えていた。桔梗は、待っている。あの子が来るのを。

 

桔梗

「槇菜……」

 

 櫻庭槇菜。桔梗にとってただ1人の大切な妹。槇菜は、あんなもの乗って戦うような子ではない。だけど、べギルスタンで会敵したあの子は本気だった。

 本気で、自分と対決するつもりだった。

 

桔梗

(……どうして、わかってくれないの)

 

 この世界が、あまりにも危うい均衡で保たれているということはここ10年で誰の目にも明らかなことだった。

 コズモ・バビロニア建国戦争、ムゲ・ゾルバドス帝国の襲来、ドクターヘルの挙兵、デビルガンダム事件と木星戦役。バイストン・ウェルからの東京上空事件とそして、今回のミケーネ帝国の侵略。これらのような大きな事件だけではない。宇宙世紀時代の戦争で汚染された地球はエリート達から捨てられ、4年に1度行われるガンダムファイトの舞台として使われるばかり。そうして見捨てられ、酷使される地球に桔梗も、槇菜も住んでいる。

 コロニー国家は、地球を軽視している。それは桔梗だけでなく、地球に住む住人の多くが実感として感じているものだった。

 

桔梗

(それなら、地球の統治はコロニーに任せるべきではない。私はそんな、西田さんの思想に共感した)

 

 だからこそ、桔梗は西田の意向に沿って“ゴッドマザー・ハンド計画”に賛同し、その先兵となった。エメリス・マキャベルのことは好きではないし、“シンボル”の思惑も知ったことではない。ただ、「日本を、世界をより善い形に導きたい」という西田の信念は本物だと、桔梗は確信している。

 槇菜が生きる世界は、よりよいものであってほしい。その一念で、桔梗はこの計画に参加したのだ。

 

 日本は、他国に比べて遥かにマシである。それは前回ガンダムファイト優勝国ネオジャパンのカラト首相が、地球の福祉を他の国家元首より多少は考えているからだろう。だが、それだけだ。他国よりマシというだけでしかない。

 ドクターヘルをはじめとした侵略者の脅威も、地球圏が一丸となって立ち向かえばあれほどの被害を被ることはなかった。両親が死に、槇菜に寂しい思いをさせる必要もなかった。そう、桔梗は思っている。

 

桔梗

「それなのに……」

 

 段々と、それは肉眼で確認できるまで近づいてきていた。夜空に紛れて黒い体躯は見えにくい。しかし光り輝く翼を羽撃かせるそれを、桔梗が見間違えるはずもない。

 

桔梗

「どうして、お姉ちゃんのいうことを聞けないの。槇菜!?」

 

 ゼノ・アストラ。漆黒の巨神に身を包む最愛の妹が、桔梗のアシュクロフト目掛けて飛び込んでいた。

 

槇菜

「お姉ちゃん……!?」

桔梗

「槇菜、まだそんなものに乗って!」

 

 ビットガンを構え、ゼノ・アストラと対峙するアシュクロフト。まだ、その引鉄は引かない。今回の目的は、戦いではないのだから。

 

槇菜

「お姉ちゃん、答えて! こんなことをして何の意味があるの!?」

桔梗

「…………!」

 

 桔梗はその答えを、持っていない。この作戦は、マキャベルの背後にいる組織“シンボル”からの優先任務だ。桔梗や、彼女が心酔する西田啓の思惑からもズレていた。

 

桔梗

「意味を作るのは、私じゃない。私は、作戦を進めているに過ぎないわ」

 

 だから桔梗は、取り繕った答えで妹を威嚇する。しかし、槇菜は桔梗が思っているよりも聡かった。そんな欺瞞が通じる妹ではない。

 

槇菜

「誤魔化さないでよ! お姉ちゃんが武器を取ることで、一体どれだけの人が傷つくと思ってるの。それがお姉ちゃんの掲げた革命なの?」

桔梗

「なっ……!」

 

 ゼノ・アストラの右手には、巨大な盾が握られている。盾を構え、銃を取るアシュクロフトと対峙する。盾。それは守るための武器だ。対するアシュクロフトは今、最愛の妹に銃口を向けている。桔梗が、誰よりも健やかに、安らかに過ごしてほしいと願ってやまない妹に。

 べギルスタンで槇菜と交戦し、それからも計画に参加している時点でいつかこうなる日が来るのは覚悟していた。だが、それでも不服なのは槇菜が機動兵器に乗り、戦いなんかをしているという事実だ。

 

桔梗

「槇菜……。あなたこそそんなものに乗って、調子に乗ってるんじゃないの?」

 

 その強大な力が、槇菜を変えてしまったのではないか。だから、槇菜が自分に楯突くのではないか。そんな疑問をずっと、桔梗は胸の内に抱いていた。もしそうなのだとしたら、姉として正さなければならない。元の優しくて可愛い槇菜を、取り戻すために。

 

槇菜

「そんなこと……!」

桔梗

「だって、そうじゃない。あなたがそんなもので戦う理由がどこにあるというの!?」

 

 余計なことをせず、私に守られていてほしい。槇菜はそういう子のはずだ。桔梗は叫ぶ。しかし、それは姉の驕りでしかない。

 

槇菜

「お姉ちゃんの……バカッ!?」

 

 櫻庭桔梗は、槇菜がゼノ・アストラに乗ることになった経緯を知らない。ワーラーカーレンでジャコバ・アオンと話したことを知らない。ゼノ・アストラと共に、どれだけの戦いを潜り抜けたのかを知らない。どれだけの怖い思いをしながら、守るために戦うことを決意したのかを知らない。

 とどのつまり、櫻庭桔梗は櫻庭槇菜のことを何も知らないに等しい。それなのに、桔梗のなかで槇菜は幼いまま時間を止めている。

 それは桔梗の、槇菜への侮り。いつまでも姉に守られてばかりの妹だと思われている。その事実を認識し槇菜は……頭にきていた。

 

桔梗

「ま、槇菜……?」

 

 妹の剣幕に、桔梗は一瞬たじろぐ。

 

槇菜

「お姉ちゃん。私の目の前で、学校が潰れたの。たくさんの人が、私の目の前で死んだの。それだけじゃない。ミケーネ帝国が攻めてきて、たくさんの人が死んでいったんだよ?」

桔梗

「だから、私は……」

 

 そんな世界を少しでも良いものにするために。そのために、この道を踏み出したのに。

 

槇菜

「お姉ちゃんは、自分達のやってることを正しいって思ってないんでしょ。仕方がないって諦めてる。だから、そうやって誤魔化すんじゃないの!?」

桔梗

「————っ!?」

 

 言い返す言葉が、見つからなかった。全ては槇菜のために。槇菜が健やかに暮らす世界のために。その一念でこの計画に加担ししかし、そこで桔梗が行なっているのはこうしてテロリスト紛いの犯罪行為に他ならない。

 だが、それを認めてしまえば。桔梗がこれまで槇菜のためとやってきた全ては。

 

ミハル

「…………」

 

 姉妹が対峙する中、小型の機動兵器が燃え上がるビルの中からこちらへ駆けてくるのを、桔梗は確認する。ミハルのメタルフェイク。ミハルを回収次第直ちに退却する。それが、命令だった。しかし、

 

槇菜

「お姉ちゃん!」

 

 槇菜のゼノ・アストラが、それを阻む。退路を塞ぐようにアシュクロフトとの距離を詰めていくゼノ・アストラ。ジリジリと、2機の距離は近くなる。既にビットガンの射程内に、ゼノ・アストラはいる。しかし、それは桔梗も同じ。ゼノ・アストラはセラフィムフェザーを展開し、その羽根を今にもこちらへと射出できる姿勢だった。

 

ミハル

「…………!」

 

 そんな時、ミハルを追ってさらに。燃え上がる建造物から1人の少年が駆けてくる。

 

ユウシロウ

「ミハル……!」

 

 豪和ユウシロウ。特務自衛隊実験第三中隊に大尉階級で所属することになった民間人。特自に所属していた人間として、彼のことは桔梗も記憶していた。彼が、豪和一族に名を連ねる存在であることも。

 桔梗は、“シンボル”からの具体的な命令は聞かされていない。パブッシュ艦隊の同盟者でもある“シンボル”からの依頼任務……それに桔梗が充てがわれただけのことだ。べギルスタンでロストしたミハルが日本にいる……その情報を知らされ、回収に向かうのが最初の任務だった。だが、“シンボルの男”を名乗る何者かがミハルを回収したとの報告が入り……“シンボル”から新たな作戦を依頼されたに過ぎない。

 

ミハル

「ユウシロウ……」

ユウシロウ

「…………」

 

 正直、ミハルと豪和ユウシロウの間にどのような関係があるかなど、桔梗からすればどうでもいいことなのだ。だがミハルはこれでも桔梗にとって、べギルスタンを共に戦った戦友でもある。

 

槇菜

「ユウシロウさん……無事だったんだ!」

 

 そしてそれは、槇菜にとってのユウシロウも同じ。

 

ユウシロウ

「あれは……エンペラーにいたマシン。彼らが近くに来ているのか」

 

 だがたとえエンペラーが来たとして、ここで戦闘になることはない。そう、桔梗は考える。豪和総研は市街地から少し離れた位置にあるが、エンペラーが戦うのであれば街中に大きな被害が出ることになる。それはお互い、避けたいはずだ。

 

桔梗

「……槇菜、ここは引いて。お願いだから」

 

 だから、今どうにかしなければいけないのはゼノ・アストラのみ。

 

槇菜

「ヤダッ! お姉ちゃんが私の話を聞いてくれないなら、私は引かない!」

 

 しかし、槇菜が頑固なところがあるのは桔梗もよく知っている。全く、誰に似たんだか……桔梗は観念し、ビットガンの銃口。そのスコープを覗き込んだ。その時、

 

 

桔梗

「急速に接近する機影!?」

槇菜

「な、何ッ!?」

 

 そう! その時だったのです! 巨大な翼。巨大な脚。まるで隼のようなシルエットを持つそれが、豪和市の上空から舞い降りたのは!

 

ミケロ

「ヒャヒャ……ヒャァーッヒャヒャヒャ!?」

 

 ミケロ・チャリオット! そしてその愛機ガンダムヘブンズソード! あの時、科学要塞研究所での戦いで倒した強敵が再び立ち塞がったのです!

 その翼から放たれるヘブンズトルネード! 竜巻が、桔梗達4人のいる方向へ放たれました。突風は瓦礫や砂利を巻き込み、物凄い速さで迫ります。マシンに乗っている槇菜、桔梗、ミハルはともかく生身のユウシロウがこれを受ければ、命はありません!

 

ミハル

「ユウシロウ!?」

 

 咄嗟に、ミハルの乗るイシュタルMk-Ⅱが、ユウシロウに覆いかぶさるように屈みました。ミハルのマシンにしがみつくようにして、ユウシロウはその竜巻に備えます。ですが、華奢なメタルフェイクでは、強化されたヘブンズソードの突風を耐えられません!

 

桔梗

「こんな時に……ッ!?」

 

 咄嗟に、ビットガンを構えるアシュクロフト。ですが物凄い風圧がアシュクロフトを襲い、狙いが定まらない。万事休す、その時!

 

槇菜

「もうっ!?」

 

 漆黒の天使が、ゼノ・アストラが飛びました。光の翼を広げ、巨大な盾を構えます。ガンダムヘブンズソードの突風を跳ね除けるように、ゼノ・アストラ自身が巨大な風除けとなりユウシロウを、ミハルを、そして桔梗を守るのです!

 

槇菜

「今は大事な話をしてるの。邪魔しないでよ!」

ミケロ

「テメエこそ、俺の邪魔するんじゃねえ!? そいつらを殺したら次はメインディッシュがぁ……ドモン・カッシュが待ってるんだからよぉっ!?」

 

 竜巻に炎を混ぜ、ガンダムヘブンズソードは怒り狂ったかのようにその羽根を広げました。対するゼノ・アストラも、光の翼から舞い落ちたセラフィムをヘブンズソードへと突き立てていきます!

 

桔梗

「槇菜……!」

槇菜

「私が守ってる間に、早くユウシロウさんを助けて!」

ミハル

「…………」

 

 コクリ。とミハルが頷く。

 

ミハル

「入って」

ユウシロウ

「……ああ」

 

 イシュタルのサイドポケットに、ユウシロウを入れる。TA同様、メタルフェイクのコクピットも人を一人強制固定するように造られている。中に一緒に入れるわけにはいかない。だが、特殊な任務で回収品を保護する時などに使われるサイドポケットが丁度、今は空いている。少なくとも、戦火で野晒しになるよりは安全だろう。機密保持とかそういうことは、この時ミハルの頭から抜けていた。今はただ、ユウシロウを守らなければ。そんな気がしたのだ。

 

ミケロ

「チッ、埒があかねえ! こうなりゃ……こいつをお見舞いしてやらぁっ!」

 

 瞬間、ガンダムヘブンズソードは空高く飛び上がった。そして猛禽の脚を変形させ、豪脚を伸ばす。それは、ミケロ・チャリオット必殺の!

 

ミケロ

「ハイパー銀色の脚スペシャラァァァァァァッ!?」

 

 繰り出される銀色の脚が槇菜を、ゼノ・アストラを襲います! かつて、シャッフル同盟すらも圧倒したそれに対し、シールドを展開し耐え続ける槇菜。ですが、守ってばかりでは勝つことはできません!

 

槇菜

「反撃、しなきゃ……!」

 

 セラフィムフェザーを飛ばし応戦するゼノ・アストラですが、そのヘブンズソードの敏捷はオーラバトラー並か、それ以上! 耐えながらなんとかやっているような攻撃ではミケロに届くことはないのです! 危うし槇菜!

 

ミケロ

「これでぇぇぇっ、終わりヤァァッ!」

 

 再び銀色の脚スペシャルが、ゼノ・アストラを捉えました。万事休す、その時!

 

桔梗

「槇菜!?」

 

 アシュクロフトが、動きました。最愛の妹を助けるために。ビットガンを放ち、ヘブンズソードの軌道を僅かに逸らしたのです!

 

ミケロ

「チッ、雑魚が邪魔するんじゃねえ!?」

 

 再び猛禽形態に変形し、ヘブンズトルネードによる竜巻攻撃に切り替えるミケロ。それは、かつてのランタオ島での戦いの時とは比べ物にならないほどの出力でした!

 

槇菜

「ッ、キャァっ!?」

桔梗

「ァッ!?」

 

 圧倒的な力に、ゼノ・アストラとアシュクロフトはなす術もなく吹き飛ばされてしまいます。大きく飛ばされ、その巨体をコンクリートへ叩きつけてしまう2機。その力の差は、歴然と言っても過言ではないでしょう。

 

ミケロ

「すげえ! すげえすげえ! この力だ。この力があれば今度こそ俺は、あいつを倒せる!」

 

 今までにないほど、ミケロ・チャリオットの力は強くなっていました。舞い上がり、ミケロは有頂天だったのでしょう。故に、

 

ミハル

「…………今なら」

 

 5mにも満たないメタルフェイクなど、見えてなかったのかもしれません。ミハルのイシュタルMk-Ⅱから放たれた低圧砲が、ヘブンズソードの脚部を狙い撃ったのです。

 

ミケロ

「ぁあん?」

 

 ですが、そんなものは焼石に水。ミケロは次の標的をミハルに……いえ、本来のターゲットであるミハルとユウシロウに、狙いを定めました。

 

ミケロ

「そんなカトンボみたいな機体で、このデビルガンダム様の力を得た俺に勝てるかよッ!?」

 

 猛禽形態のまま、猛スピードで降下するガンダムヘブンズソード。いかに小回りの効くメタルフェイクでも、猛スピードで突っ込んでくるものを避けるのは至難の技。しかも今機体の中には、ユウシロウがるのです。

 

ミハル

「ハッ……ハッ……!」

ユウシロウ

「…………!」

 

 ヘブンズソードの猛追を躱し続けながら、2人の心拍数は急激に上昇していきました。まるで、あの時のように。血液が沸騰し、目の前が真っ赤に染まるような感覚を覚えながらミハルは無心で、ヘブンズソードの猛追から逃れ続けます。ですが、機体性能の差は歴然。

 

ミケロ

「死ねよやぁッ!?」

 

 瞬間、ヘブンズソードの翼から放たれるメタル手裏剣。その軌道を、ミハルは読み切ることができませんでした。

 

ミハル

「やられる……?」

 

 こんなところで。ユウシロウとふたり。死の恐怖が、ミハルの眼前に迫ります。その時ミハルが感じたのは、それも悪くないか。という諦めの心です。

 

 ある日、中国大陸で起きた飛行機事故。機内唯一の生存者であったミハルは、それ以前の記憶を持っていません。“シンボル”に回収され、“インヴィテイター“と彼らが呼ぶ特殊な才能を持つが故に、メタルフェイクのテストパイロットを続け……いつしかミハルは、“シンボル”の先兵となっていました。

 そんなミハルの記憶のどこかに棲み続けていた男……ユウシロウ。

 自分とユウシロウがどういう存在なのか、ミハルはまだ答えを得たわけではありません。ですが、ここで終わるのなら。

 

ミハル

「それも……」

ユウシロウ

「ダメだ!」

 

 そんな諦念を打ち破ったのは、ユウシロウです。

 ミハルの諦めを察知したかのように、ユウシロウは叫びます。

 

ユウシロウ

「俺はまだ、俺が誰なのか知らない。ここで終わるわけには、いかない!」

ミハル

「ユウシロウ……?」

 

 そう、豪和ユウシロウは、まだ諦めてはいませんでした。彼自身の運命。その決着がこんなものでいいはずがないと、彼は叫びます。そして!

 

???

「よく言ったぜ……ユウシロウ!」

 

 彼の叫びが天に届いたのか。それはわかりません。ですが、あの男がやってきたのです!

 爆熱の拳を高らかに掲げ、掌底から放たれた熱波がメタル手裏剣を燃やし尽くします。

 そう!

 真っ赤に燃える掌は爆熱の如く!

 

桔梗

「あ、あれは……」

 

 白馬を自在に操り、背中に輝く日輪と共に現れた彼は!

 

槇菜

「ゴッドガンダム……ドモンさん!」

 

 

ドモン

「ああ。待たせたな槇菜、ユウシロウ!」

 

 みなさんお待ちかね!

 風雲再起に騎乗したゴッドガンダムを筆頭に、シャッフル同盟のガンダムファイター軍団!

 さらに後方には、ゲッターエンペラーがその勇姿を現しました。我らがヴァニティ・バスターズが到着したのです!

 

ドモン

「ミケロ・チャリオット……やはり生きていたか!」

 

 ユウシロウを助けた後、ゴッドガンダムは再びガンダムヘブンンズソードへと向き直りました。かつて倒した敵。ミケロ・チャリオットへ。

 

ミケロ

「へ、へへへ……ドモン! ドモン・カッシュゥゥゥゥゥゥッ!」

 

 対するミケロは、ゴッドガンダムの登場に歓喜の声を上げます。殺意に狂った感性が、ドモンの耳に障りました。

 

チャップマン

「ミケロか……。哀れな奴め」

ジョルジュ

「奴も相当、しぶといですね」

チボデー

「ヘッ、だが今更ミケロなんざ、俺達の敵じゃねえ!」

 

 ジョンブルガンダムのロング・ビーム・ライフルが、続け様にヘブンズソードを狙撃します。それを避けるミケロ。ですが、彼の回避ルートには既にゴッドガンダムが回り込んでいます!

 

ドモン

「ミケロ! 今度こそ、地獄に送り返してやる!」

 

 ゴッドガンダムの掌が、ヘブンズソードの顔面を掴みました。そして、ドモン・カッシュの愛と怒りと哀しみを乗せて、燃え上がるのです!

 

ミケロ

「ド、ドモン!?」

ドモン

「ガンダムファイト国際条約第一条。頭部を破壊されたものは失格となる! ミケロ、お前は最初から、このリングに立つ資格はない!」

ミケロ

「あ、あァァァァッッ!?」

 

 爆熱ゴッドフィンガー! ゴッドガンダムの十八番が、ヘブンズソードを焼き尽くしていきます。その高熱を間近で浴び、ミケロは地獄の責め苦でも受けたかのような叫びを上げました。彼は、思い出していたのです。あの時のことを。

 イタリアマフィアのボスだったミケロ・チャリオットは、その腕っ節を買われネオイタリア代表ガンダムファイターとなりました。ガンダムファイターという、国の威信と名誉を賭けた存在になることで、ミケロは事実上イタリアを手に入れたといっても過言ではなかったのです。

ですが、そんな彼の人生を狂わせた存在……ドモン・カッシュ!

 

『ガンダムファイト国際条約第一条。頭部を破壊されたものは失格となる!』

 

 彼のシャイニングガンダムを前になす術なくやられたミケロ。あの時既に、僅かばかり残っていたガンダムファイターとしての矜持はボロボロに崩れ落ちたのでした。

 

ミケロ

「ドモン! ドモンテメェっ!?」

ドモン

「うるさいっ!」

 

 そんなミケロの恨み言など、聞く耳を持つドモンではありません。ファイターとしての誇りを失い、デビルガンダムの尖兵となった者にドモンができることは……介錯の二文字のみ!

 

ミケロ

「ドモン! ドモンァァァァァァァッ!?」

 

 叫びと共に、ミケロ・チャリオットとガンダムヘブンズソードは燃え上がりそして、堕ちて行きました。

 

 

サイ・サイシー

「やったの?」

ドモン

「…………いや、まだだ」

 

 ですが、ドモンは感じていました。ミケロの中のDG細胞が、まだ増殖を繰り返していることを。故に、ドモンは構えを解きません。これからが本当の闘い。そう、ドモンの直感が言っているからです。

 そして!

 

ミケロ

「ハハハハハ……ヒャハハハハハハハハ!?」

 

 ミケロ・チャリオットの笑い声が、豪和市に木霊しました。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 エンペラーから出撃したヴェルビン、ダンバイン、ナナジン、グレートマジンガー、ゴッドマジンガー、ゲッターロボ、ブライガーも、豪和市に降り立ちました。ですが、ミケロの笑い声は尚も止みません。

 

ショウ

「これは……」

チャム

「ショウ、これ怖いよ!」

 

 ショウ・ザマは、ミケロの中で肥大化していく野望のオーラ力を敏感に感じとっていました。それは、かつてショウとマーベルが戦ったシェリル・クチビのそれにも似た不快感を伴い、ショウを襲います。

 

鉄也

「何が起きているんだ……?」

ヤマト

「何か……来るっ!?」

 

 最初にそれを感じたのは、ゴッドマジンガーの火野ヤマト。ゴッドマジンガーは魔神の剣を構え、それを待ち受けます。

 

エレボス

「エイサップ、これ!?」

エイサップ

「わかってる。これはでも、おかしいでしょ!?」

 

 エイサップの敏感なオーラ力も、それを感じ取りました。肥大化する怨念。巨大化する野望。燃え堕ちたガンダムヘブンズソードを中心に、金属でできた鱗のようなものが増殖をくりかえしていました。そう!

 

ドモン

「あれはッ!?」

ジョルジュ

「デビルガンダム三大理論……!」

 

 自己再生、自己進化、自己増殖。ヘブンズソードのDG細胞はこの短期間にそれを繰り返し、中のミケロごと新たな存在へ作り替えているのです!

 全身を金属の鱗に覆われたヘブンズソード。その体躯が膨張し、巨大化していきます。そして、あわられたものは!

 ドモン達のガンダムよりも、遥かに大きい。そう、全長だけでゴッドガンダムの10倍以上はあろう巨体!

 背中に砲塔、巨大な翼。さらに尻尾のように巨大なガンダムヘッドを備えたそれを、ドモン達は知っていました。

 

サイ・サイシー

「おいおい、ウソだろ……?」

ジョルジュ

「まさか、これは……」

 

 グランドガンダムを彷彿とさせる全身のシルエット!

 背中から生えたガンダムヘブンズソードの翼と爪!

 尻尾を形成するウォルターガンダム!

 そして、マスターガンダムの頭部と両腕!

 

チボデー

「Jesus Christ!?」

アルゴ

「……グランドマスターガンダム、だと!?」

 

 グランドマスターガンダム!

 かつて、デビルコロニー内部での決戦の際、全ての黒幕ウルベ・イシカワが乗り込んだデビルガンダム四天王全ての特徴を兼ね備えた最強のモビルファイターに、ヘブンズソードは進化していたのです!

 

ミケロ

「ハハハ……ハハハハハハハ!!!」

 

 なんということでしょうか。全身をDG細胞に侵されながら、ミケロ・チャリオットは笑っていました。

 

ボウィー

「おいおい冗談じゃないぜ。ブライガーやゲッターよりデカいガンダムなんて、ありえないでしょ常識的に」

キッド

「つまり、奴さんは常識外れの存在ってことだよボウィーさん」

 

 軽口を叩きながら、ブラスター・キッドも戦慄していた。グランドマスターガンダムは、ゴッドガンダムはもとよりブライガーやゲッターロボよりも遥かに大きく、醜い姿を晒している。しかし、その醜さはそれそのまま威圧感となっていた。

 

桔梗

「グランドマスターガンダム……。以前の戦いでは、シャッフル同盟が倒したんでしょう?」

ドモン

「ああ。だが奴はデビルコロニーを完全に落とすまで、再生を続けていた。もしあれが、あの時と同じなら……」

 

 即ち、今のミケロにはデビルコロニーと同等のDG細胞量が備わっていることになる。無尽蔵に増殖を繰り返すデビルコロニー。その動力炉でもあったグランドマスターガンダム。それは、真の意味で決着をつけることのできなかった強敵でもあった。

 

槇菜

「危ない、ドモンさん!?」

 

 槇菜が叫ぶ。それと同時、ウォルターガンダムの凶悪なガンダムヘッドがゴッドガンダムへ迫った。咄嗟に風雲再起を引かせ、距離を離すドモン。しかし、執拗に迫るガンダムヘッド。捕まればひとたまりもないことは、前回の戦いで身を以て思い知っている。故に、ドモンは既に、明鏡止水の心を開眼していた。

 

ドモン

「ハァァァァァッ!」

 

 風雲再起から飛び降りるゴッドガンダム。必殺のゴッドスラッシュ・タイフーンでウォルターガンダムへと飛び込んでいく。獰猛な歯を並び立てる口内目掛けて、飛び入るドモン。

 

鉄也

「ドモン!?」

ヤマト

「どうする気だ!?」

 

 2本のビーム・サーベル……ゴッドスラッシュでウォルターガンダムの牙と戦いながら、ドモンは叫ぶ。

 

ドモン

「この化け物を倒すには、俺達の力を結集する必要がある! みんな、力を貸してくれ!」

 

 つまり、あの時と同じように。

 

ミケロ

「無駄だ無駄だァッ! この力は無限なんだよぉドモォォォン!?」

 

 全身を機械の鱗に覆われながらミケロが叫ぶ。しかし、そんなものはドモン・カッシュにとっては笑止千万!

 

ドモン

「力に溺れる者など……俺達の敵ではない!」

 

 竜巻のように駆け抜けるゴッドスラッシュ・タイフーンがついに、ウォルターガンダムを突き抜けました! 怨嗟の雄叫びを上げながら、グランドマスターガンダムの尻尾……即ちウォルターガンダムが沈みます。そして、立っているのはゴッドガンダム!

 

チボデー

「へっ、ジャパニーズの言う通りだ。みんな、一気に行くぜ!」

サイ・サイシー

「おう!」

 

 ゴッドガンダムを先頭に、ガンダムマックスター、ドラゴンガンダム、ガンダムローズ、ボルトガンダムらも続きます。そう、シャッフル同盟。かつてグランドマスターガンダムと激戦を繰り広げた彼らが、先陣を切ったのです!

 

チボデー

「まずは軽いジャブだ。豪熱ゥゥ、マシンガンパンチ!」

 

 ボクサーモードのマックスターから放たれる連続パンチ! 一度に10発の拳を同時に繰り出すマシンガンパンチが炸裂します! ですが、圧倒的な質量を誇るグランドマスターガンダム。チボデー渾身の拳を受けながら尚、平然と立っているのです!

 

ミケロ

「弱え! 弱え弱え!?」

 

 グランドマスターガンダムの巨大な足が、マックスターを踏み潰さんと動きました。圧倒的な質量差。モロに受ければ致命傷は避けられません。事実、この踏み付けにかつてチボデーは苦しめられたのです。ですが、そこにすかさず割り込むものがいました。

 

アルゴ

「ヌンッ!」

 

 ボルトガンダム! シャッフル同盟最強のパワーを持つアルゴ・ガルスキーが、その脚を受け止めたのです!

 

アルゴ

「クッ……!?」

 

 しかし、その力の差は歴然。いかにボルトガンダムといえども、このままでは踏み潰されてしまうのは時間の問題。ですが、その隙に敵の攻撃から逃れたガンダムマックスター。その隣にはガンダムローズ!

 

ジョルジュ

「チボデー、攻撃を合わせましょう」

チボデー

「ああ。行くぜぇッ!」

 

 マックスターのバーニングパンチ! 炎を纏いしその拳が、薔薇の咲き誇る竜巻……ローゼスハリケーンと共に放たれました! 完全に息を合わせたその波状攻撃。普段は反目し合いながらもチボデーとジョルジュは互いを完全に信頼しているのです。だからこそ、放てる一撃! しかし、その攻撃はグランドマスターガンダムの背中から放たれたヘブンズトルネード……ガンダムヘブンズソードのそれをさらに強化した突風に相殺されてしまいます!

 

サイ・サイシー

「お次はオイラだ! 天に竹林、地に少林寺。目にもの見せるは……最終秘伝!」

 

 高く舞い上がったドラゴンガンダム。その機体が胡蝶の如く霧散していきます。

 

サイ・サイシー

「真・流星胡蝶けぇぇぇぇぇん!?」

 

 己の命を燃やすことでのみ放たれる少林寺最終奥義、真・流星胡蝶拳! 自らを胡蝶へ姿を変えたドラゴンガンダムが、グランドマスターガンダムへと飛び込んでいきました!

 

ミケロ

「ウゼェ! ウゼェんだよてめえらぁっ!?」

 

 しかし、グランドマスターガンダムは尚も再生と増殖を続けています。グランドガンダムの砲塔でドラゴンガンダムを迎撃し、寄せ付けません。それでも尚、飛び込んでいくドラゴンガンダム! そして!

 

アルゴ

「ヌゥォォォォッ!?」

 

 グランドマスターガンダムの脚を支え続けていたボルトガンダムの怪力が、いよいよグランドマスターガンダムを持ち上げたのです!

 

ミケロ

「な、何ぃッ!?」

 

 姿勢を崩し、砲撃の照準をずらしてしまったミケロ。そこに!

 

サイ・サイシー

「破ァァッ!?」

 

 真・流星胡蝶拳が、かつてゴッドガンダムすら打ち破った最終奥義がついに、グランドマスターガンダムに届いたのです!

 

 

ミケロ

「ウォァァッ!?」

ドモン

「今だッ! 流派、東方不敗が最終奥義……」

 

 ゴッドガンダムの右腕が、烈火の如く燃え上がります。愛と怒りと悲しみを超越した、必殺の!

 

ドモン

「石破ァッ、天驚けぇぇぇぇっん!?」

 

 真・流星胡蝶拳と、石破天驚拳。シャッフル同盟が誇る2つの究極奥義が、グランドマスターガンダムに炸裂したのです! その威力に、グランドマスターガンダムは爆煙を上げてしまいます。ですが!

 

エイサップ

「やったのか!?」

ショウ

「いや……」

 

 やがて爆煙が治まり、そこには無傷のグランドマスターガンダムが立っているではありませんか!

 

ドモン

「む、無傷だと……!?」

サイ・サイシー

「化け物かよ……!」

 

 圧倒的な強さを誇るグランドマスターガンダム。しかし、その無傷はただノーダメージというわけではないようです。

 

桔梗

「あのガンダム……受けたダメージを瞬時にDG細胞が再生させているというの?」

 

 そう、デビルガンダム三大理論。このグランドマスターガンダムは、デビルガンダム四天王4機の集合体でもあります。そのDG細胞の量は、デビルガンダム最終形態にも匹敵するまでに膨れ上がっているのです!

 

ミケロ

「ククク、ヒャハハハハ!」

 

 

…………

…………

…………

 

 

槇菜

「あれっ!?」

竜馬

「ガンダムヘッドが、次々湧いてきやがる!?」

 

 グランドマスターガンダムを中心に、自己増殖を繰り返すDG細胞。それが無数のガンダムヘッドを生み出している。大地を割り、コンクリートを突き破り現れたガンダムヘッド。巨大、獰猛、凶悪なそれは、火の手が上がる街中で暴れ回る。豪和のお膝下とも言うべき東京有数の治安を誇る豪和市は今、阿鼻叫喚の地獄へと変わろうとしていた。

 

桔梗

「これは……っ!?」

 

 桔梗は、知っていた。これは新宿で起きたデビルガンダムによるデスアーミーのパンデミック。その再現。そんなものを許してはいけない。アシュクロフトは収束粒子砲を展開し、グランドマスターガンダムに狙いを定める。

 

槇菜

「お姉ちゃん、危ないッ!?」

桔梗

「えっ!?」

 

 しかし照準を定める前に、再生したグランドマスターガンダムの尻尾……即ちウォルターガンダムが、アシュクロフトの背後を取っていた。凶悪な牙が、アシュクロフトを襲う。

 

桔梗

「ァァッ!?」

槇菜

「お姉ちゃん!?」

 

 ウォルターガンダムに噛みつかれ、アシュクロフトの機体全身が悲鳴を上げていた。それと同時に牙より放たれる雷撃が、機体を通して中の桔梗を襲う。

 

槇菜

「お姉ちゃんを、離して!」

ミケロ

「離すかよォッ!?」

 

 ゼノ・アストラは左手にハルバードを作り、アシュクロフトを助けんと飛んだ。しかし、グランドマスターガンダムの両腕から放たれるダークネスショット……あのマスターガンダムのダークネスフィンガーと同等以上の威力を誇る闘気弾が、ゼノ・アストラへと降り注ぐ!

 

槇菜

「キャァッ!?」

 

 咄嗟に盾を構える槇菜だが、ダークネスショットの威力を前にゼノ・アストラは再び大きく吹き飛ばされてしまう。

 

桔梗

「ま、槇菜……逃げて!」

 

 そんな時でも尚、桔梗は槇菜が戦うことを拒んだ。自分を助けようとして苦しむくらいなら、見捨ててほしい。槇菜が傷つくところなど見たくはない。そんな思いが桔梗の中で、張り裂けんばかりに大きくなっていた。

 

桔梗

「私は、大丈……」

 

 抵抗しようと操縦桿を握る手が痺れて、力が入らない。目が霞んでよく見えないが、危機的状況を知らせるアラームがずっと、アシュクロフトのコクピット内では鳴り響いている。

 

槇菜

「い、嫌だ……」

 

 立ち上がり、再びグランドマスターガンダムを睨むゼノ・アストラ。しかし、鉄壁の防御力を誇り暗黒大将軍との戦いですら耐え抜いてみせたゼノ・アストラも満身創痍。

 

槇菜

「お姉ちゃんを見捨てて逃げるなんて、できない。それで助かっても、私は絶対後悔する!」

 

 だから、助ける。そう叫ぶ槇菜。丸い眼鏡の奥にある瞳は、桔梗の知っている甘えん坊の目ではない。 

 

桔梗

「……バカ」

 

 この時、櫻庭桔梗はようやく理解した。

 櫻庭槇菜は、守られるだけのお姫様では決してないと。

 

槇菜

「だから、逃げたりなんてするもんか!」

 

 傷付きながらも、ゼノ・アストラが飛ぶ。それを近づけんと、無数のガンダムヘッドが立ち塞がった。口内から粒子砲を放つガンダムヘッド。ゼノ・アストラはそれを、堅牢な盾を用い防いでいく。

 

槇菜

「邪魔、しないで!」

 

 光の翼がはためき、舞い散る羽根が刃となりガンダムヘッドに突き刺さった。それでも尚、無限に数を増やしていくガンダムヘッド。

 

ミケロ

「ハハハハハハハ! ハハハハハハハ!!」

 

 狂ったように笑うミケロ・チャリオット。そこにはもはや、正気は存在しない。

 

ドモン

「ミケロ……!」

 

 DG細胞に感染しながら、表面上の性格に変化がなかったのがミケロ・チャリオットの恐ろしいところだった。それが生来の残酷さ、非道さ故のDG細胞との親和性によるものなのか或いは、ミケロの精神力によるものなのかは定かではないが、DG細胞に侵されたものは須く正気を失う。それを見てきた中でミケロは、数少ない例外でもあった。それが、今や見る影もない。

 

チャップマン

「……俺も、ああだったのか」

 

 かつて、デビルガンダム四天王の一人としてその身体を利用されていたチャップマンが呻く。そこには明確な、嫌悪の感情があった。

 

アイザック

「! キッド、ブライスターだ!?」

キッド

「アイザック?」

 

 アイザックの指示で、ブライガーは航空飛行形態ブライスターへと姿を変える。メインのコントロールをボウィーに移し、大空を駆けた。それを追い回すガンダムヘッド。

 

アイザック

「やはりそうか。ガンダムヘッドの狙いは、我々を分断し戦力を集中させないことにある!」

 

 ミケロは狂いながらも冷徹に勝利のためにデビルガンダム細胞を動かしていた。無造作に現れているかに見えたガンダムヘッド。それは一見すればデビルガンダム細胞の力を誇示しているだけのようにも見えた。しかし、所狭しと暴れ回るガンダムヘッドはいつしかダンジョンのように壁となっていたのだ。

 

ヤマト

「なっ、しまった!?」

 

 既にゴッドマジンガーの周囲もガンダムヘッドに埋めつくされ、上空を飛ぶオーラバトラーやゲッターロボも多数のガンダムヘッドに追い回されその対応に追われている。

 戦力を集中すれば、グランドマスターガンダムも倒せるかもしれない。しかし戦力を分断され個々の対応を追われている状況はまずい。

 

ミケロ

「ハハハハハ! テメェらはどの道全員ここで死ぬんだよぉッ!?」

桔梗

「クッ……ッ……!?」

 

 アシュクロフトを噛み砕かんとする牙は、その装甲の奥深くにまでめり込んでいる。激痛が桔梗を襲い、彼女を守るコクピットは今にも無惨に砕かれようとしている。歯を食いしばり、桔梗はしかしアシュクロフトの火器をウォルターガンダムの口内で放ち続けていた。だが、焼け石に水。

 

槇菜

「お姉ちゃん!?」

ミケロ

「行かせねえよ!?」

 

 グランドマスターガンダムから放たれる雷撃が、再びゼノ・アストラを襲う。純粋なエネルギー熱の集合体でもある雷は、シールドでは全てを防げない。

 

槇菜

「ァァッ!?」

 

 衝撃がゼノ・アストラを通して槇菜を襲う。堅牢な守りを誇ったゼノ・アストラだがしかし、今槇菜は誰よりも救いたい人に手が届かないでいた。

 

槇菜

「お姉、ちゃん……」

 

 超高圧のサンダーボルト。そんなものを受ければ本来人間はひとたまりもない。今、槇菜や桔梗が辛うじて生きているのはひとえに精神力で持ち堪えているに過ぎなかった。だが、それも長くは続かない。やがて、ゼノ・アストラは光の翼を失い、空から墜ちていく。墜ちれば待っているのは蠢くガンダムヘッド達。このまま墜ちればひとたまりもないことは明白だった。

 

エイサップ

「槇菜!?」

エレボス

「まずいよエイサップ!」

 

 助けに行こうとするナナジンも、ガンダムヘッドに阻まれてしまう。ナナジンは燃え盛るオーラソードでそれを切り伏せていくが、キリがない。誰もが諦めかけた。しかし、そんな中ガンダムヘッドを突き抜けていくものがいた。

 

チャム

「ショウ、あれ!」

ショウ

「あの機体は……!」

 

 緑色の、オーラバトラー。高機動、軽装備タイプのヴェルビンと対を成す重武装。オーラキャノンを撃ちまくりながら推進するパワー型オーラバトラー・ライネック。

 

トッド

「腑抜けてる場合かよ、ショウ!」

 

 トッド・ギネス。ショウと幾度と剣を交えた好敵手であり、命懸けの友がそこにいた。

 

ショウ

「トッド、手伝ってくれるのか!?」

トッド

「手伝うも何も、今あそこでもがいてる奴は一応仲間ってことになってるんでな!」

 

 ライネックが指差す先にいるのは、アシュクロフト。トッド・ギネスは軽薄な男だが、決して薄情者ではない。岩国での戦いの後、桔梗に助けられたことに恩義は感じている。それに、

 

トッド

「ハンバーガーの借りは、これでチャラにするぜ!」

 

 叫び、ライネックは突貫する。ライネックの開けた穴に続くようにヴェルビンとダンバインも。

 

ミケロ

「カトンボが、よるんじゃあねえ!」

 

 グランドマスターガンダムは、ヘブンズソードの風切羽をメタル手裏剣にしてオーラバトラー達に射出する。ガンダムヘッドのような密度はないが、その分鋭利な攻撃。ライネック、ヴェルビン、ダンバインの3機はオーラバリアでそれを防ぎつつ、敵陣を切り込んでいく。そんな激戦。

 

エイサップ

「クッ、ゼノ・アストラは!?」

エレボス

「エイサップ、見て!」

 

 激戦の渦中。ガンダムヘッドが蛇のように蠢く大地へ墜ちていくゼノ・アストラに、一匹のガンダムヘッドが喰らい付こうとしていた。しかし次の瞬間、旧神のツインアイに赤い光が宿る。そして指先から射出されたワイヤーで、迫り来るガンダムヘッドを斬り裂いていた。

 

槇菜

「ま……だッ!」

 

 櫻庭槇菜という少女は、それまでずっと守ってもらってばかりだった。幼い頃から大好きなお姉ちゃんに。エイサップ鈴木に、兜甲児に。或いは、人間誰しもそういうものなのかもしれない。誰かに、何かに守られて生きている。

 それは、櫻庭槇菜が過ごした15年という歳月で得た一つの真実だ。人は一人では生きられない。誰かに助けられ、守られて生きている。

 だから、誰かが守り切れないと人は簡単に死んでしまう。あの日、槇菜の目の前で潰えた沢山の命も。数年前、機械獣の襲来でいなくなってしまった両親も。

 しかし、だからこそ。

 

槇菜

「私は……せめて、大切な人だけでも守れる自分でいたい。力を貸して、ゼノ・アストラ!」

 

 瞬間。ゼノ・アストラの消えかけていた翼が煌めきと共に、広がっていく。まるで、槇菜の命に応えるように。

 

ミケロ

「しゃらくせえ、しゃらくせぇッ!?」

 

 そんなゼノ・アストラに、再び雷撃が襲う。しかし、命の色に煌めく翼がそれを弾き飛ばす。いや、雷を吸収していた。

 

ショウ

「槇菜、ここは俺達が抑える。お前はお姉さんを!」

 

 ヴェルビンが、ダンバインが、ライネックがオーラバリアを展開し、グランドマスターガンダムの攻撃を防いでいた。その間にもナナジンが、ブライガーが、ゴッドマジンガーが、グレートが、ゲッター1がガンダムヘッドを迎撃し続けている。

 

ヤマト

「槇菜、今あの人を助けられるのはお前だけだ!」

キッド

「援護くらいは、してやるけどね!」

竜馬

「だから、しくじるんじゃねえぞ!?」

 

 それぞれの言葉。それは槇菜を信じて投げかけられた言葉。それを背に、ゼノ・アストラは飛ぶ。悪魔に囚われた、姉のもとへ。

 

槇菜

「待ってて、お姉ちゃん!」

 

 光の翼でガンダムヘッドを振り切り、ゼノ・アストラはグランドマスターガンダムの尻尾……即ち、ウォルターガンダムに取り付いた。ハルバードの一振りを、巨大なガンダム頭へと叩きつける。ガンダムに痛覚があるのかはわからない。しかし、邪悪を祓うその戦槍の一撃は重く、ウォルターガンダムは叫びを上げた。

 

桔梗

「このっ!?」

 

 大口を開けたその一瞬に、アシュクロフトは加速する。ウォルターガンダムの拘束から解き放たれたアシュクロフト。肩に格納されている収束粒子砲を展開し、桔梗はその撃鉄を引く。瞬間、多重に収束された高熱粒子の波がウォルターガンダムを呑み込んだ。溶かされていくウォルター。強化されたDG細胞はすぐに再生をはじめるだろう。だが、粒子熱を浴びせられ溶け爛れた金属の塊となったそれの再生には、暫しの時間を要するだろう。

 粒子砲を空中で放った反動で、アシュクロフトはガンダムヘッドの蠢く地面へ落下をはじめる。しかし、ゼノ・アストラがその手を掴んだ。

 

桔梗

「槇菜……」

槇菜

「お姉ちゃん……」

 

 よかった。安堵したその瞬間、ひどい疲れが全身を襲う。ゆらり。ゼノ・アストラの黒い体躯がよろめき、機体が揺れる。だが、今眠るわけにはいかない。ゼノ・アストラはアシュクロフトを抱えたまましかし、周囲をガンダムヘッドに埋め尽くされた地上では、どこも安全地帯とは言えない。いや、唯一安全な場所はひとつ。

 

槇菜

「お姉ちゃん、まだ戦える?」

桔梗

「ええ。無論よ」

 

 実際のところ、ゼノ・アストラもアシュクロフトももうボロボロだ。だが、槇菜も桔梗も戦う意志は衰えていない。アシュクロフトを抱えたまま、ゼノ・アストラは飛ぶ。そして、グランドマスターガンダム目掛けてセラフィムフェザーを放ちながらゴッドガンダムのすぐ隣に着地するのだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

ドモン

「槇菜! 大丈夫なのか!?」

 

 槇菜が見つけた安全な場所。そう、それはグランドマスターガンダムとの闘いその最前線。無数のガンダムヘッド蠢く地帯に降り立つよりもここの方が安全だと判断したのだ。

 どこにいても、死ぬ確率は変わらない。ならば敵の懐に飛び込み倒すことで、少しでも生存率を上げるしかない。僅かな時間に槇菜はそれだけ考えた。剣鉄也なら、流竜馬なら、きっと同じことをするだろうという確信のもと。そして、今最速でそこに辿り着けるのは間違いなくゼノ・アストラだったのだ。

 

槇菜

「まだ、やれます!」

桔梗

「援護くらいならできるわ。シャッフル同盟。この化け物を倒して!」

 

 シールドを構えるゼノ・アストラ。ビットガンを構え、照準を合わせるアシュクロフト。そんな2機の前に、鈴蘭のマーキングが施されたメタルフェイク……イシュタルMk-Ⅱが合流する。

 

 

ミハル

「…………」

ユウシロウ

「……呼び戻さないで、恐怖を。お前はあの時、そう言った」

 

 恐怖。今ユウシロウの目の前に立ちはだかるグランドマスターガンダムは、まさに恐怖そのものの具現化とでも言うべき存在。それを前に、臆することなくユウシロウは見据えている。

 

ユウシロウ

「……豪和憂四郎は、もう死んでいる。なら俺は誰なのか。俺は、その答えがほしい」

 

 はっきりと、ユウシロウは言った。それは、自分自身の意志。ユウシロウの言葉に応えるように。ミハルのイシュタルMk-IIは駆動する。低圧砲を撃ち放ち、グランドマスターガンダムの脚を狙う。

 

ミハル

「私も、貴方のことが知りたい。それが、私自身を知ることにも繋がる筈だから」

ユウシロウ

「お前も……」

 

 イシュタルMk-IIの携行武器では、グランドマスターガンダム相手に決定打になることはない。しかし、敵も人型機動兵器である以上明確に弱点は存在する。そのひとつが、脚部だ。

 人型機動兵器が軍事の主役になった背景には、ミノフスキー粒子の発明による電子戦の衰退がある。レーダーに頼れない戦いでは、航空機や戦車は前時代の遺物となり……モビルスーツを筆頭とする、手足を持ち人のように動くマシンの戦いになった。TA、或いはメタルフェイクと呼ばれるそれもそんな時代故に生まれた、より柔軟な動きを可能とする小型歩兵と位置付けられる。

 しかし、人型をしている以上マシンの全身を支えるのが脚部だ。脚を奪われれば、どれだけ強力なマシンもその機動力を奪われる事になる。飛行機における翼。戦車のキャタピラ。それが、人型機動兵器の脚部だ。

 今、ミハルはイシュタルMk-IIの全火力を、グランドマスターガンダムの脚部に集中している。攻撃力の低いフェイクの火器が、強大なグランドマスターガンダムに通用する箇所があるとすればそこは脚部に他ならない。そう判断してのことだ。おそらく、ユウシロウも同じ状況でTAに乗っていれば同じことをしただろう。

 

ミハル

「…………」

ミケロ

「ウゼェ! ウゼェウゼェ、ウザってえんだよ!?」

 

 しかし、そんなミハルの攻撃は却って、ミケロの逆鱗に触れる。グランドマスターガンダムはその巨脚を振り上げると、華奢なイシュタルMk-IIへ蹴り付けようとした。

 

ミハル

「!?」

槇菜

「危ないッ!」

 

 咄嗟にシールドを構え、ゼノ・アストラが防御に入る。だが、体積差は歴然。再び大きく突き飛ばされるゼノ・アストラ。

 

桔梗

「槇菜! よくも……!?」

 

 アシュクロフトはファイヤダガーを斉射し、ビットガンでグランドマスターガンダムへ放った。それらの一撃一撃は、グランドマスターガンダムを屠るには至らない軽微な一撃だ。だが、それら巨象に挑む蟻のような攻撃はミケロの神経を逆撫で、キレさせる。

 

ミケロ

「テメエら、ファイトの邪魔するんじゃねえ! これは俺と、シャッフル同盟の……殺るか殺られるかのガンダムファイトなんだよォッ!?」

チャップマン

「…………」

 

 ガンダムファイト。ミケロ・チャリオットの口から放たれるその言葉にチャップマンは目を細める。

 

チャップマン

「ミケロ、お前も囚われているのだな。ガンダムファイトと言う名の牢獄に」

 

 ジェントル・チャップマン。かつて、ガンダムファイト3連覇という偉業を成し遂げた伝説のファイター。不敗神話を築き上げた彼はしかし、ガンダムファイトという枷に囚われながら晩年を過ごしたと言ってもいい。

 ジョンブルガンダムのロング・ビームライフルがグランドマスターガンダムの中央……マスターガンダムの胴体へと放たれた。しかし、グランドマスターガンダムはダークネスショットでそれを相殺する。

 

ミケロ

「チャップマン! 裏切り者のてめえにも、地獄へ落ちてもらうぜァァァッ!」

チャップマン

「俺の罪はいずれ地獄で償おう。だが、お前を野放しにしたままにはできん!」

 

 ガンダムファイトに呪われた者。その呪いを解き放つために。ジョンブルガンダムは狙い撃つ。その性格無比な狙撃はしかし、圧倒的なパワーとDG細胞の再生能力を誇るグランドマスターガンダムを前には、焼石に水。

 

槇菜

「つ、強い……」

 

 強すぎる。と槇菜は思った。暗黒大将軍のそれをはるかに上回る、無尽蔵の再生能力からくるタフネス。そして狂気のままに荒れ狂う暴走。デビルガンダム細胞。地球を滅ぼしかけたそれを今、槇菜は目の当たりにしている。

 

ジョルジュ

「…………まずいですね。ミケロは完全に、DG細胞に支配されている。それに、グランドマスターガンダムの自己増殖はこのままでは、東京をデビルコロニーにしてしまいかねない」

チボデー

「ケッ、さしずめデビルトーキョーってことか。笑えねえぜ」

 

 そうなれば暴走と増殖を続けるDG細胞は更なる増殖を続け、やがて日本を、世界を、地球をDG細胞で覆い尽くしてしまうことだろう。

 

桔梗

「……デビルジャパンなんて、許すわけにはいかない」

アルゴ

「全くだ。こうなれば……」

 

 跡形もなく、グランドマスターガンダムを破壊するしかない。二度と再生できぬまで、完膚なきまでに。だが、急速な自己再生と自己増殖を続けるDG細胞を前にそれができるかどうか。

 

ミケロ

「ドモン、ドモン・カッシュ! 俺と……俺とファイトしやがれぇぁっ!?」

 

 荒れ狂うグランドマスターガンダムが叫ぶと共に、さらにガンダムヘッド達が蠢き始める。豪和市全体が今や、デビル包囲網と化していた。そんな悪夢の空を突き抜けて、ヴェルビン、ダンバイン、ライネックの3機がグランドマスターガンダムへと突っ込んでいく。

 

ショウ

「俺達のオーラ力で、グランドマスターガンダムを封じ込む!」

マーベル

「やれるの?」

トッド

「やるんだよ!」

 

 3機のオーラバトラーが纏うオーラ光。ショウの合図と同時に、それを一気に放出する。オーラの波が重なり、より大きく響き合う。言わば、オーラ・エクステンション。かつて太平洋上のドレイク軍との決戦の際、女王シーラ・ラパーナが行った“浄化”それと同じことを三人の聖戦士は今、行おうとしていた。

 

チャム

「ショウ、がんばれー!」

ショウ

「チャムのオーラ力も貸してくれ!」

 

 ヴェルビンから放たれるオーラがさらに、大きくなる。オーラの波を受けるグランドマスターガンダムはしかし、怒り狂ったかのように暴れ回る。

 

マーベル

「効いてない!?」

 

 オーラシュートを全開するダンバインも、もはや限界に近い。これ以上の“浄化”は命に危険が伴うことをマーベルは悟る。それこそ、全てのオーラマシンを“浄化”したシーラ・ラパーナは命と引き換えにそれを行ったのだ。同じことがマーベルに、ショウにトッドに起こらないとは言い切れない。

 

ドモン

「いや……グランドマスターガンダムの再生速度が、弱くなっている!」

 

 これなら、今ならいける。ドモン・カッシュは……ゴッドガンダムは背中に背負った日輪を輝かせ、グランドマスターガンダムへと飛び込んでいく。続くようにガンダムマックスター、ドラゴンガンダム、ガンダムローズ、ボルトガンダム。彼らシャッフル同盟の力を結集させ、今こそ勝負の時。

 

ドモン

「決着をつけるぞ、ミケロ・チャリオット!」

ミケロ

「こいやァァッ、ドモォォォォォォォン!」

 

 ミケロ・チャリオット! 彼は第13回ガンダムファイトにおいて、初のガンダムファイトを……戦いのゴングを鳴らしたファイターであります。その際の対戦相手はそう……我らがドモン・カッシュ!

 今ここに、あのガンダムファイトからはじまる彼らの因縁に、決着の時が訪れようとしているのです!

 

 それでは!

 ガンダムファイト!!

 レディ・ゴー!!!

 

 

…………

…………

…………

 

 

 みなさん、この豪和市では今変則的なガンダムファイトが繰り広げられています!

 ドモン・カッシュ率いるシャッフル同盟と、ミケロ・チャリオットの乗るグランドマスターガンダム! この戦いは、地球の存亡を賭けた戦いであると言っても過言ではありません!

 

ミケロ

「死ねよやぁドモン! グランド銀色の脚スペシャルゥァァッ!?」

 

 グランドマスターガンダムの巨体が飛び上がり、銀色の脚が炸裂します! 一撃でも受ければ、忽ちゴッドガンダムは踏み潰されてしまうでしょう!

 

ドモン

「甘い! 分身殺法……ゴッドシャドー!」

 

 しかし、ゴッドガンダムは一瞬で10体に分身。10体のゴッドガンダムが、無尽蔵に繰り出される銀色の脚を受け止めながら突き進んでいきます!

 

ジョルジュ

「ドモンの道は、私達が切り拓く! ローゼス・スクリーマー!」

 

 ガンダムローズの左肩から展開されるローゼスビット。薔薇の花弁は渦を作りだし、グランドマスターガンダムの脚を封じ込めます!

 

ミケロ

「なっ、てめぇ……!?」

ジョルジュ

「今ですアルゴ!」

アルゴ

「おう! 砕け、ガイアクラッシャァァァッ!」

 

 グランドマスターガンダムの動きが止まったその一瞬、今度はボルトガンダムが動きました。大地を叩きつけ、地割れを起こすガイアクラッシャー。割れた地面からはアルゴの気迫を受けた土が隆起し、グランドマスターガンダムへ襲い掛かります!

 

ミケロ

「効かねえ、効かねえ! 効かねえって言ってるんだよぉッ!?」

 

 炸裂したガイアクラッシャーを受けて尚、グランドマスターガンダムは健在! ですが、薔薇の渦潮と隆起する大地を踏み越えたその先には……。

 

チボデー

「次はこっちの相手もしてもらうぜミケロ!」

 

 ガンダムマックスター! アメリカンドリームを叶えた男・チボデーが待っていたのです!

 

チボデー

「豪熱ゥゥゥマシンガンパンチ……100連発だ!?」

 

 一度に10発のストレートパンチを叩き込む豪熱マシンガンパンチ。その100連発。即ち一度に1000発のストレートが、ミケロ・チャリオットを襲うのです! それに加えて……

 

サイ・サイシー

「こいつもついでに、くらいやがれ!」

 

 背後を取ったドラゴンガンダム! 伸縮自在のドラゴンクローが、グランドマスターの背中……即ちガンダムヘブンズソードの翼へと迫ります。それを追い払うように、メタル手裏剣を飛ばすグランドマスターガンダム。ですが、もうドラゴンガンダムは止まりません!

 

ミケロ

「テメェらァァッ!?」

サイ・サイシー

「フェイロンフラッグ、行け!」

 

 サイ・サイシーの叫びと同時、6本のフェイロンフラッグがグランドマスターガンダムに突き刺さりました。そして、ドラゴンクローら

放たれる火炎地獄!

 

ミケロ

「うがぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ゴッドガンダム、ガンダムマックスター、ドラゴンガンダム、ガンダムローズ、ボルトガンダム。彼らの奥義を立て続けに受け、ついにミケロは絶叫しました。DG細胞の再生が、追いついていないのです!

 

ミケロ

「俺は負けねえ! 俺は強い強い強い強い! 俺は、俺で、俺だ! だから俺は負けねえんだよぉぁっ!?」

 

 燃え上がる機体の中で、ミケロ・チャリオットが叫びます。それは、ミケロなりのプライドが吐いた言葉なのかもしれません。ですが、既に彼は正気ではありません。

 

ドモン

「……今、楽にしてやる」

 

 かつて、DG細胞に汚染され正気を失った者達をドモンは何人も見てきました。その末期……自らの兄・キョウジもその一人だったドモンはそんなミケロの姿を前に、静かに言い放ちます。そう、それこそがシャッフルの紋章を受け継いだ者の、宿命なのです!

 金色に輝くゴッドガンダム。それに続くようにしてガンダムマックスター、ドラゴンガンダム、ガンダムローズ、ボルトガンダムもその機体を金色に輝かせました。そして、その胸に輝くは彼らの受け継いだ、シャッフル同盟の紋章!

 

ドモン

「キング・オブ・ハート! ドモン・カッシュ!」

チボデー

「クイーン・ザ・スペード! チボデー・クロケット!」

サイ・サイシー

「クラブエース! サイ・サイシー!」

ジョルジュ

「ジャック・イン・ダイヤ! ジョルジュ・ド・サンド!」

アルゴ

「ブラックジョーカー、アルゴ・ガルスキー!」

 

 彼らは、己の感情をより高次へ高めるために言葉を紡ぎ始めました。そう、言葉には力があるのです。己の限界を、超えたパワーを発揮するための言霊が!

 

 『この魂の炎、極限まで高めれば!』

 『倒せないものなど、何もない!』

 『我らのこの手が、真っ赤に燃える!』

 『勝利を掴めと、轟き叫ぶ!』

 

 そして! ゴッドガンダムの掌に5つの紋章が集約されていきます。シャッフル同盟。彼らの限界まで高めたこの力を結集して放たれるそれは!

 

ドモン

「ばぁぁくねつ! シャッフル同盟けぇぇぇぇぇん!?」

 

 5機のガンダムの、ガンダムファイターの魂を結集した一撃。その爆熱が、グランドマスターガンダムを飲み込んでいきます!

 

ミケロ

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」

 

 絶叫と共に、ミケロ・チャリオットは焼かれていまいた。限界を超えた、魂の炎に。

 

ミケロ

「ア、アアアアアハアッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 そんな中でも、狂ったようにミケロは笑っていました。笑って、笑って、笑い続けてそして。

 

ミケロ

「……いい夢、見せてもらったぜ」

 

 自分が今、ガンダムファイターとしてリングの上で死ねることに思い至り、笑いながら逝ったのです。

 

トッド

「これが、いい夢なものかよ……!」

 

 その最期を、吐き捨てるようにトッドは見守りました。まるで、自分自身を見つめているように。

 グランドマスターガンダムが消滅し、マザーであるDG細胞が消滅したことで次々とガンダムヘッド達も息絶えていきます。さながら、脳の死と同時に起こる細胞のアポトーシス。

 

槇菜

「終わった、の……?

桔梗

「ええ……」

 

 そう、我らがシャッフル同盟が……

 ドモン・カッシュが、勝ったのです!

 

ドモン

「ミケロ・チャリオット……。先に地獄で待っていろ」

 

 爆炎を上げ燃え落ちていくグランドマスターガンダム。そして、ミケロ・チャリオットの亡骸を背に、ゴッドガンダムはその勇姿を見せつけます。チボデー、サイ・サイシー。ジョルジュ、アルゴ。それは、戦い抜いた男の後ろ姿に他なりません。

 その背中は、勝利者達の挽歌を高らかに謳っていました。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—ゲッターエンペラー艦内—

 

 

 ゲッターエンペラーに収容されたユウシロウを迎えたのは、ドモンや竜馬達……共に激戦を繰り広げた戦友達だった。それに、特自の安宅大尉も、ユウシロウを出迎えてくれている。

 

ユウシロウ

「安宅大尉……?」

安宅

「速川中佐からの指示でね、私はエンペラーに同乗させてもらうことになったの。それで……」

 

 ユウシロウを乗せていた鈴蘭のメタルフェイク。それにアシュクロフトとライネックも今、ゲッターエンペラーに収容されていた。彼らは豪和総研に襲撃をかけただけでなく、べギルスタンでも特自と戦闘行動を行っていた所属不明軍。

 

ミハル

「…………」

 

 鈴蘭のTAから降りてきたのは、まだ十代半ばほどの少女だった。べギルスタンで、ユウシロウと逃げていた少女。

 

安宅

「ユウシロウ、あんたは知ってたの?」

ユウシロウ

「……はい」

 

 ユウシロウの返事を聞き、安宅は面倒臭そうに髪を掻いた。それから、「……ま、そんなことだろうとは思ってたけど」と呟く。そんなミハルや、彼女と共に収容された槇菜の姉……桔梗の姿には、目を引かれる者がいた。

 

ボウィー

「おやおや、なかなか可愛らしいお嬢さん方じゃないですことキッドさん」

キッド

「そうですねボウィーさん。けど、見てみなさいよ」

 

 桔梗は今、エンジェルお町に装備を預けている。軍用のナイフと、マグナム銃。その銃は銃口が3つついている特注品だった。

 

お町

「ボウィーさん、襲い掛かろうものなら穴だらけになってたかもね」

ボウィー

「うっへぇ〜。おっかねえ」

 

 実際、あれは機械獣やモビルスーツを相手にすることを想定している特別な装備だ。訓練をすれば使いこなせるとか、そういうレベルの代物ではない。それを携行している桔梗に、ボウィーは身震いする。

 

竜馬

「それで、なんでお前らはユウシロウを狙ったんだ?」

ミハル

「……ユウシロウのことを、知りたかったから」

 

 真顔で言うミハル。

 

桔梗

「……私達は、命令で豪和総研を襲っただけです。その真意までは、知らされていません」

隼人

「…………ほう」

 

 隼人が値踏みするように、桔梗を睨む。

 

槇菜

「隼人さん……!」

 

 そんな隼人を非難するように、槇菜が抗議の声を上げる。しかし、隼人は意に返さない。

 

桔梗

「いいのよ槇菜。少なくとも、捕虜としての扱いなら、甘んじて受けるつもりです」

 

 そう言い切る桔梗。そんな彼ら彼女らの元にやってきたのは、几帳面に髪を揃えた長身の美丈夫……アイザック・ゴドノフ。

 

アイザック

「失礼。いくつか確認したいことがあります」

桔梗

「……あなたは、たしか」

アイザック

「かみそりアイザック。そうお呼びください。あなた方に指示を送っていた者。それは“シンボル”で間違いはありませんか?」

桔梗

「…………!?」

 

 “シンボル”歴史の表舞台には決して出ないその名前を口にしたアイザックに、桔梗は目を見開く。

 

桔梗

「……そう。そこまで調べがついているなら、私が知っている情報であなた達が知らないことはほとんどないんじゃないかしら」

アイザック

「いえ、そうとも限りません。例えば……豪和総研を襲撃し、貴方達が何を得たのか」

 

隼人

「…………」

 

 一層、隼人の眉根が険しくなる。

 

ミハル

「ユウシロウのことです」

 

 桔梗を庇うように、ミハルが発言する。隼人やアイザック、それに桔梗ら全員の視線が、ミハルに集まった。

 

ミハル

「ユウシロウに関するデータの収集。それが、“シンボル”の指示でした。そして……ユウシロウは、8年前に死んでいると知りました」

槇菜

「え……?」

 

 首を傾げる槇菜。

 

弁慶

「どういうことだ。だってユウシロウはここにいるだろ?」

ユウシロウ

「……俺も、それが知りたい。俺が誰で、何者なのか」

 

 そのために、ユウシロウはここにいる。真実に近づくために。豪和憂四郎はもう死んでいる。ならば、ここにいるユウシロウは何者なのか。

 

ユウシロウ

「……鬼哭石へ、行かせてください」

桔梗

「鬼哭石?」

 

 以前、晴明の操る鬼の襲撃を受けて戦った場所。そして、石舞台でユウシロウが伝承の舞を踊った場所。

 

ユウシロウ

「……俺の一番古い記憶。そこで俺は、舞っていました。師匠の厳しい教えを受けて」

ドモン

「師匠との、思い出の地か……」

 

 思い出の地。そう呼ぶのは違和感があったが、他に適当な言葉も思いつかず、ユウシロウは頷いた。何しろユウシロウの中で鮮烈な記憶として残っている場所は石舞台と、べギルスタンくらいのものなのだから。

 

ユウシロウ

(思えば……)

 

 ユウシロウは、隣のミハルを一瞥した。石舞台で最後に舞ったあの日にも、べギルスタンの神殿にも。ユウシロウの記憶にある場所はどこにも、ミハルがいたような気がする。もしかしたら、ユウシロウ自身も気付かない間にミハルと何度もすれ違っていたのかもしれない。ユウシロウの記憶の中に、これほどまでに強くこびりつく少女。

 

ユウシロウ

(自分自身が何者なのか……。それを知らないのは、ミハルも同じなのかもしれない)

 

 ふとユウシロウは、窓辺に映る月を見上げる。幾千年もの間、地球を見下ろしていた月ならば答えを知っているのだろうか。そんなロマンチックなことを考えている自分を、意外に思った。それは、ミハルとの出会いで自分も変わりつつあるということなのかもしれない。それに、悪い気持ちはしなかった。




次回予告

みなさんお待ちかね!
ユウシロウの真実を知るため、鬼哭石の里に向かった一同。鬼哭石の御蔵には、豪和一族の仕舞い込んだ過去が遺されていました。
骨嵬。ユウシロウとミハルの記憶の中にある恐怖そのものを狙い現れるミケーネ帝国。封印を解かれ荒れ狂う骨嵬。そしてガサラキとゲッターロボをこの宇宙から消滅させるため、神の四天王が降臨するのです!

次回、「DEEP RED」に、レディ・ゴー!
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