—???—
何処ともしれぬ闇の中、闇の帝王と呼ばれ恐れられるミケーネ帝国の王は、その時を待っていた。
闇の帝王
「恐怖を呼び起こす者……」
ガサラキ。太古より伝わる全知全能。それを受け継ぎしものが人間であるということが、闇の帝王には気に食わない。それは宇宙すら滅さん力を宿す、人間の身に余る劇物なのだから。
???
「二つの世界のガサラキが、邂逅を果たした」
闇の帝王の耳に伝わるのは、神の声。神。自身やジャコバ・アオンと起源を同じくする超越者。思えばドクターヘルが世界征服の野望を抱いたのも、そしてミケーネ帝国が目覚め、地上制圧を開始したのも、神の意思によるもの。しかし人間という種族は愚かにも、神の意思に離反し繁栄を極めようとする。
かつてムー大陸が、アトランティスが、どうして滅んだのか人間どもに教えねばならない。そしてその果てに、人間どもがどれだけのまつろわぬものを滅ぼしてきたかも。
闇の帝王
「ガサラキ。あれを手に入れようなどと人間はやはり愚かしい」
???
「しかし、時を越えてガサラキの何たるかに触れてしまったものがいる」
茫、と影がひとつ、またひとつ増えていく。闇の帝王は自らを取り囲む四つの影に見向きもせず、言葉を待っていた。
???
「それこそが、早乙女博士。彼方の世界でその真理に到達し、ゲッター線という名前を与えた賢者……いや、愚者」
???
「早乙女博士はゲッター線を解析し、そこに形を与えてしまった」
???
「それこそが、ゲッターロボ……そしてゲッターエンペラー」
代わる代わる言葉を紡ぐ影達。ゲッター。その名を口にする時彼らの声色は確かに、憎悪に満ち溢れているのを闇の帝王は感じていた。それは人が闇を恐れるように……或いはミケーネの者達が魔神を恐れるように、神たる彼らもゲッターを恐れている。
闇の帝王
「だが、今ゲッターと嵬の血を引くものは一つの場所にいる」
???
「ゲッターエンペラー……。悍ましい殺戮者になる未来を背負いしもの。宇宙を破壊するもの」
闇の帝王
「エンペラーは暗黒大将軍との戦いで、全力を使えずにいる。今ここで、エンペラーが真の覚醒を果たす因子は全て潰さねばならん」
闇の帝王を形作る、暗黒の炎がメラメラと揺らめいた。そして、燃える陽炎の中から一人の男が現れる。男は……長く伸びた金髪を持つ、端正な顔立ちの美丈夫だった。しかし、その目は醜く歪みまるで悪徳と欲望に満ちているかのような目。
その者こそがエルド王子。かつて、ミケーネ帝国の傘下にあったドラゴニア王国を率いてゴッドマジンガーと戦ったその人であった。
闇の帝王
「エルドよ。お前にゲッターロボとガサラキの因子を持つ者の排除を命じる」
エルド
「は、ははっ……。闇の帝王様の威光にかけて必ずや果たしましょう!」
心にもないことを言うものだ。そう、闇の帝王は感心した。エルド王子。彼は欲望と野心のために実父を陥れ、アイラ・ムーを手篭めにし王として君臨しようとした経歴がある。そんな者の忠誠を、素直に受け取れるほど闇の帝王は人が、もとい神ができていない。
エルド王子を蘇らせたのは、彼の記憶にある恐竜プラントを目覚めさせるためだった。暗黒大将軍の決起で、ミケーネは戦闘獣の多くを失った。新たな戦闘獣を作るよりも、残っているメカザウルスを復元する方が効率的。そう判断せざるを得ないほど、あの時ミケーネ帝国が受けた傷は大きかったのだ。
そして何よりも、あの邪神の巫女の少女がやったのと同じように死者を蘇らせる……ドクターヘルを地獄大元帥として蘇らせる前に、術の実験をしておきたかったというのもある。そしてエルド王子はその呪われた眠りから目覚め……復活を果たしたのだ。
闇の帝王
「よいかエルド。ゲッターロボはゴッドマジンガー……火野ヤマトと行動を共にしている」
火野ヤマト。その名前にピクリ、とエルドは頬を引き攣らせる。無理もない、と闇の帝王は思った。火野ヤマト。それはエルドを地獄へと送り出した怨敵の名前なのだから。
闇の帝王
「火野ヤマトとアイラ・ムー。奴らは我らの復活を察知し、この時代へ送り込まれたのだ。ゴッドマジンガーによって」
エルド
「ほう……。つまり、アイラ・ムーもヤマトと共にいると?」
それは僥倖。エルドの頬は醜く歪む。
エルド
「闇の帝王、それは即ち……ゲッターロボと嵬の血を引くもの。そしてゴッドマジンガーを倒した暁には、アイラ・ムーを好きにしてもよろしいということですか?」
エルドという男にあるのは、野心と欲望のみ。それを闇の帝王はよく知っている。アイラ・ムーを手篭めにしたい。そんな性欲とも所有欲ともつかないものが、エルドの本性なのだ。
闇の帝王
「好きにするがいい。それは勝者にのみ与えられた特権だ」
闇の帝王からすれば、エルドの欲望など微塵も興味がない。アイラ・ムーなど、ゴッドマジンガーのおまけでしかない。しかし、その欲望がエルドを駆り立てるのならば、それを使わない理由はなかった。
闇の帝王
「エルド。輪廻の輪から弾き出され、暗黒の海を彷徨っていたお前に再び肉の身体を与えたのが誰か。忘れるでないぞ!」
エルド
「はっ!」
威勢のいい返事と共に、エルドは闇の中へと消えていく。しかし、闇の帝王にはわかっていた。エルドでは所詮、彼らに勝てないであろうことを。
エルドは所詮、リビングデッドに過ぎない。ゴッドマジンガーだけならいざ知らず、現代のマジンガーやスーパーロボット。旧神の巫女に聖戦士、そしてゲッターロボとガサラの記憶を受け継ぐ者……全てを相手にできるような器ではない。
故に。エルドは所詮斥候。
本命は、闇の帝王の傍らで囁き続ける影なる者達。
???
「では、我々も征くとしよう」
影なる者が、再び口を開いた。
???
「宇宙の安寧のため、人間には消えてもらわねばならぬ」
???
「でなければこの星の生命も鬼や、爬虫人類、そして蟲どもと同じ末路を辿ることになる」
???
「それだけは、阻止せねばならぬのだ」
ひとつ、またひとつ。神の影が闇の帝王の周囲から消えていくのを、帝王は気配で感じていた。
闇の帝王
「動くか、四天王……」
かくて、神風は吹こうとしていた。
それは奇しくも、アルカディア号の班がダインスレイヴキャノンの発射を阻止するための戦いに出たのと、同じ頃合いだった。
そして、運命は更なる畝りを上げて流転し、再びもつれあう……。
…………
…………
…………
—豪和邸—
美鈴
「…………お兄様!」
豪和美鈴が屋敷に戻った時、最初に聞いたのは天気輪の回る音だった。天気輪。天気を占うその道具で美鈴と兄ユウシロウは、よく遊んだものだった。あの日、べギルスタンへの派兵へ行ったきり兄はここには戻っていない。日本に戻ってきている。そう聞いてはいた。ようやく、帰ってきてくれた。そんな気がして美鈴は走り出す。しかし、待っていた人はそこにはいない。あったのはただ、風に回る天気輪。それだけが、寂しく庭に置き去りにされている。
まるで、去ったものを名残り惜しむかのように。
雪乃
「……ユウシロウさんは、行ってしまいました」
そんな美鈴の背後に、義母が立っていた。豪和雪乃。豪和乃三郎の後妻であり、清楚な佇まいの初老の女性だった。美鈴は振り返る。普段、厳しい表情と言葉で美鈴やユウシロウに接する雪乃だが、この時はどこか寂しそうな顔をしていた。それは、美鈴もはじめて見る義母の顔だった。ユウシロウを、美鈴を哀れむ女性が、そこにいた。
美鈴
「お母様……」
雪乃
「ユウシロウさんは、もうここに戻ることはないでしょう……」
美鈴が戻る数刻前、確かに豪和ユウシロウはここに足を運んでいた。しかし、彼が求める真実はもうここにはない。そう告げたのは雪乃だった。ユウシロウは、豪和を離れた。己の真実に迫るために。
美鈴
(お兄様は、私の……)
美鈴にとって、兄ユウシロウはこの家で唯一心を許せる存在だった。一族の悲願。それに邁進するあまり豪和家は、家族という形を忘れているとさえ思う。前に、ユウシロウに言われたことがあった。「自分達は、家族である以前に一族なんだ」と。しかし、一族の悲願だからといってユウシロウを犠牲にするようなやり方を、美鈴は認めたくなかった。
一清をはじめとして、兄達はユウシロウを実験動物のように扱う。清次は何かと気にかけてくれているようだが、それでも扱いそのものは変わらない。そんな中で、それを運命と言わんばかりに受け入れるユウシロウが、美鈴には悲しかった。
美鈴はただ、ユウシロウと兄妹でいたいだけなのだ。学友には、ブラコンと茶化されたこともある。そうなのかもしれない。しかし、美鈴にとっての真実とは、ユウシロウの中にしかない。
天気輪だけが、カラカラと回っている。義母と天気輪を、美鈴は交互に見つめてそして気付けば、豪和美鈴は走り出していた。兄が行くところなど、決まっている。ユウシロウの記憶の中に、家族以外のものがあるとするならばそれは、舞のことに他ならない。
ユウシロウと、伝承の舞。それ繋ぐ場所はひとつしか存在しなかった。
…………
…………
…………
—鬼哭石の里/ゲッターエンペラー艦内—
ゲッターエンペラーは今、ユウシロウの過去の記憶に繋がるルーツ……石舞台がある鬼哭石の里に着艦している。一面を森に覆われた小さな里に、エンペラーの巨大な身体、その異様はあまりにも悪目立ちしていると言ってよかった。
現在、エンペラー艦内ではいくつかの班に分かれている。ユウシロウと、彼を護衛するために数人のメンバーが現在、ユウシロウの故郷とも言うべき石舞台……その管理を任されている空知に会いにいっている。その中には、あのミハルという少女もいた。もし逃走を図るとしても、動向班にはドモンやゲッターチームがいる。そう簡単にはいかないだろう。何より、ミハル本人もユウシロウの真実を知りたい。そう希望してのことだった。
そして今、櫻庭桔梗はパブッシュ艦隊メンバーの代表として、尋問という名の質疑応答を受けている。それは何度か休憩を挟み、立会人を変えつつ行う形式となっていた。
先ほどまでは剣鉄也が尋問し、エイサップ鈴木が立ち会っていた。鉄也はここにいない兜剣蔵博士や葉月博士の代理として、彼らからの質問を読み上げる形での形式的な尋問だった。そして、改めてその内容から確認事項を質問する……今行われているのは、そのフェイズだ。
アルゴ
「……なら、お前は本当にこれ以上の情報は持っていないんだな」
桔梗
「ええ。私が話せるのはこれが全てよ」
槇菜
「お姉ちゃん……」
今、この小さな尋問室にいるのはアルゴ・ガルスキーとナスターシャ。そして槇菜。桔梗を含めた4人が、神妙に顔を合わせている。
ナスターシャ
「では、お前はあくまで一兵士であり、計画の全容までは把握していない。そういうことか?」
桔梗
「ええ。ただ、最終目標は地球をコロニーの支配から独立させ、地球国家政府を樹立させることにある。それが、“ゴッド・マザー・ハンド計画”だと教えられているわ」
アルゴ
「…………」
神の手。そう名付けられた計画の目的はわかった。だがそれが何故べギルスタンの戦争を裏で操り、そして豪和総研を襲撃することに繋がるのか。それがわからない。
桔梗
「……計画賛同者も、一枚岩じゃないということよ。パブッシュ艦隊のマキャベルも、“シンボル”も。みな共通の目的を持ちながらその水面下で牽制しあっている。私達は彼らの特命を受けて動く実働部隊だった」
ナスターシャ
「……我々も、彼らの組織背景についてはある程度調べている。櫻庭中尉、君はマキャベルの背後に“シンボル”だけでなく、ヌビア・コネクションが存在していることはご存知か?」
ヌビア・コネクション。その名前に桔梗はピクリと眉根を寄せた。
桔梗
「冗談を言わないで。マキャベルは野望の男だけど、高潔な軍人よ。犯罪結社なんかとつるんでいるっていうの?」
そう、櫻庭桔梗にとってエメリス・マキャベルは高潔な軍人だった。第二次カオス戦争と呼ばれる戦いを若くに経験し、その戦争を裏で操る犯罪結社と戦った軍人。マキャベルはその戦争を機に、コロニーの支配から脱却するこの計画を提唱したと……そう語り、だからこそ西田は桔梗をこの計画に遣わしたのだから。
そのマキャベルが、犯罪コネクションのヌビアなどと繋がっているなどあってはならない。それは、彼についてきた兵士達への裏切りだ。
アルゴ
「…………だが、事実らしい」
寡黙なアルゴが、口を開く。そして桔梗に見せたのは、1枚の写真だ。
桔梗
「これって……」
そこに映っているのは、恰幅のいい中年男。口髭を蓄えたエメリス・マキャベル。そして、アイシャドーを施し、蛇の飾りをつけた帽子を被る男……それは、桔梗も危険人物リストで見たことがある。ヌビア・コネクションの新たな総帥カーメン・カーメン。
ヌビアは、アフリカを中心に勢力を強めている犯罪結社だ。カーメン・カーメンの指示のもと、暗殺や恫喝、抗争……あらゆる手段で世界の裏側に手を伸ばすマフィア。地球の治安を悪化させている諸悪の根源とも言うべき存在。それとマキャベルが、握手を交わしている写真。それは、J9のエンジェルお町が潜り込み撮影したものだった。
桔梗
「嘘よ……」
だとしたら、マキャベルはひどい裏切りをしていることになる。西田は、このことを知っているのだろうか。或いは、“シンボル”もヌビアと同じように根深い悪で、パブッシュは当初の理想を失いつつあるのだろうか。
アルゴ
「残念ながら、信頼できる筋からのものだ」
槇菜
「…………」
普通、尋問の際に身内を置くようなことはしない。しかし槇菜は、桔梗の口から真実を聞きたいとそう願い出て……彼女の尋問に同席させてもらっている。そんな槇菜にとっても、目の前で打ちのめされている桔梗を見るのは辛いものがあった。
槇菜
「ねえ、お姉ちゃん」
それが辛くて、たまらなくて。槇菜は口を開いてしまう。
槇菜
「お姉ちゃんは、世界を変えるために動いたんだよね」
桔梗
「…………ええ」
槇菜
「私、そんなお姉ちゃんのことはすごいと思う。だって、私……ずっと自分のことばかりだったんだもん」
自分が教師になりたいという夢を持ち勉強に励んでいた頃、桔梗は世界を変えるために戦っていた。それそのものは、すごい覚悟だと槇菜は言う。
桔梗
「槇菜…………」
だが、実際にはそれは違う。桔梗が得たかったのは、槇菜の幸福。それを保証してくれる世界なのだ。そのために流れる血の犠牲に目を瞑り、槇菜が夢を叶えられる世界を作りたかった。たったそれだけの小さなエゴ。
べギルスタンは、桔梗のそんなワガママを正当化するために犠牲になったといっても過言ではない。
槇菜
「だけどね、お姉ちゃん」
槇菜は続ける。桔梗に……姉に少しでも、わかってほしくて。
槇菜
「世界を変えることができるのは、こんな力じゃないんだって私思うの」
桔梗
「え……?」
優しく、諭すように。昔泣き虫だった自分をお姉ちゃんが慰めてくれた時のように……槇菜はそう意識しながら言葉を、声色を探って、少しずつ話し続ける。
槇菜
「だって、世界ってたくさんの人が集まってできてるんだよ。私も、お姉ちゃんも。甲児さんやさやかさん、エイサップ兄ぃ、ドモンさん、鉄也さん、ユウシロウさん、トビア君、ヤマト君、ショウさん。マーガレットさん。それに竜馬さんや三日月さん、ハーロックさん。たくさんの人が集まって、いろんな意見や考えがあって……それで時々はケンカしちゃったりもするけど。でも、そうしてたくさんの人が少しずつ動かしていくものが世界なんだって思う」
桔梗
「槇菜、あなた……」
槇菜
「だから、お姉ちゃんたちが世界を変えるんだって思って何かをはじめるのも大事なことだと思う。だけど、それで変わるのってほんの少しのことだと思うの」
ジャコバ・アオンはリュクスに言った。“世界と人を知れ”と。それは、世界とは人であり、人こそ世界だからなのだと今の槇菜は考えている。急激に何かが変わり、世界に革命が起きるのではない。少しずつ、亀の一歩を一人一人が繰り返すことでしか世界とは変えられないのだと。
槇菜
「私……お姉ちゃんとあんなに大喧嘩したの生まれてはじめてだった。お姉ちゃんと喧嘩して、ショウさんやヤマトくんに止めてもらって。あの時、お姉ちゃんを殺さないで済んでよかったってそう……思った」
桔梗
「それは、それは私もよ。トッドが止めてくれなかったら、私……」
槇菜
「お姉ちゃんの言う革命は……お姉ちゃんが手に入れたい世界はきっと、必ず実現するよ。少しずつ、ゆっくりでも。それが世界ってものなんだって、世界が変わっていくってことなんだって私、今なら言えるから」
桔梗
「だけど、それじゃ……」
何年先か、何十年、何百年先かわからない。そんな果てしない先では、槇菜はその世界を生きられない。それでは、桔梗にとっては何の意味もなくなってしまう。
それなのに。
槇菜
「だからお姉ちゃん。私は戦うの。世界を……今を必死に生きてる人達を守るために。そうして世界が回って、歴史ができるんだから」
最愛の妹は、迷いなくそう言い切ってしまう。そんな槇菜が。
桔梗
「槇菜……」
槇菜
「ん?」
桔梗
「少し、背……伸びたんじゃない?」
しばらく見ない間に、妹は随分と大きくなったのかもしれない。そんなことを、桔梗は思っていた。
…………
…………
…………
ショウ
「…………」
ゲッターエンペラー内の食堂で今、ショウ・ザマは好敵手だった男と合間見えている。トッド・ギネス。このいけ好かない金髪のアメリカ人とショウは、因縁浅からぬ関係だった。
トッド
「そんなに睨むなよショウ。俺だってここが敵地のど真ん中だってことくらいはわかってるんだ。野蛮なジャップと違ってカミカゼアタックなんかゴメンだね」
そう言いながら、ハンバーガーを貪るトッド。トッド・ギネスは豪和市でのグランドマスターガンダムとの戦いにおいて、真っ先に加勢に入った。それは櫻庭桔梗を救出するためでもあったが、結果として艦内である程度の自由行動を認められている。それはショウやマーベルからの希望でもあり、同時に常に監視をつけるという条件付きでのものではあった。しかし、それに悪態をつくほどトッドも無思慮ではない。今はこうして監視役を兼ねているショウ・ザマとふたり、ランチをいただいている。
ショウ
「お前を疑ってるわけじゃないさ。むしろ、トッドが仲間になってくれるなら心強い」
トッド
「ヘッ、甘ちゃんなところは相変わらずだね。言っておくが、お前さんと馴れ合って友達ごっこをするつもりはないんだぜショウ」
ランチテーブルで向かい合いながら言うトッド。その減らず口に、ショウの隣を飛んでいるチャムは思わずムッとしてしまう。
チャム
「何よわからず屋!」
ショウ
「こら、チャム。……けど、お前はミケーネ帝国の総攻撃の際、あの桔梗さんって人と七大将軍と戦ってくれていた」
トッド
「アメリカは、俺の故郷だ。腐った国でも故郷を焼かれるのを黙って見過ごせるほど、俺も大人じゃないってことさ。それに……」
ボストンには、母がいる。母に危害が及ぶようなことはしないしさせないというのがトッド・ギネスがパブッシュ艦隊へ合流する際に交わした約束だ。しかし、エメリス・マキャベルは最悪の場合アメリカ本土を核攻撃することでミケーネの脅威を取り除くことを示唆していた。それは、トッドにとって裏切りにも等しい行為だ。
トッド
「あの桔梗って姉ちゃんはまあ、嫌いじゃねえ。だがな、もうあの艦隊に従う義理もねえってことさ」
ショウ
「トッド、お前……」
向かい合い、睨み合う2人。そんな時、トッドの背後に立つ男がいた。
チボデー
「いいじゃねえか。俺はコイツを気に入ったぜ」
トッド
「あんたは……!」
チボデー・クロケット。ネオアメリカ代表のガンダムファイターであり、その拳ひとつでアメリカンドリームを叶えた男。その名前と顔を知らないアメリカ人などいない。それは、トッド・ギネスも例外ではなかった。
チボデー
「ヘッ、嬉しいねえ。俺のことを知ってるか」
トッド
「あんたを知らないアメリカ人なんかいたら、そいつはモグリだぜ」
トッドの額に緊張の汗が流れるのを、ショウは見た。それは、ショウにはわからない感覚だった。ショウにとってのチボデー・クロケットは、共に戦う仲間のひとり……それ以上でもそれ以下でもない。そこに友情や信頼はあるが、憧憬というものはない。だが、トッドは違う。
マーベル
「緊張してるのなら、無理もないわね。私も最初のうちはどう話せばいいかわからなかったもの」
そんな様子を見ていたマーベルが、茶化すように言う。実のところ、ここにはいないがマーガレットとも以前、マーベルはそんな話をしていた。
ショウ
「そんなに凄かったんだ。チボデーって……」
アメリカンドリームを叶えた男、チボデー・クロケット。第13回ガンダムファイトにてゴッドガンダムに敗れて尚、再起し続けるその姿は全アメリカ人の希望の象徴だった。
トッド
「お前……! チボデー・クロケットの功績を知らねえのかよ!?」
だからこそ、全アメリカ人の希望であるチボデーに対して敬意を感じないショウの態度に、トッドは驚愕する。
トッド
「チボデーはな。貧しいニューヨークで生まれ、母と離れ離れになりながらもひとりでコロニーに上がったんだ。当時まだ10にもならない子供の頃だぜ。そりゃあもう辛く、寂しい旅路だったに違いねえ!」
チボデー
「お、おいおい……」
トッド
「けどなぁ、そこからボクシングの腕一本でチャンプにまで上り詰め、今や誰もが知るスーパースターになったんだ。こいつぁ並のタフネスじゃ、ラックじゃ成り上がれねえ。けどチボデーは俺たちアメリカ人に“夢は叶う”と教えてくれた。俺たちアメリカンの希望なんだよ、ショウ!」
早口で捲し立てるトッド。ショウは助けを求めるように、周囲の人を探し……エイサップ鈴木と目が合った。
ショウ
「は、ははは……。そういえばエイサップは、日本人とアメリカ人のハーフなんだよな」
エイサップ
「……ええ。そうですけど」
エイサップ。その名前にトッドはピクリと眉根を寄せる。
トッド
「あの時、俺を倒した名無しのハーフ野郎か!」
エイサップ
「っ! 初対面の人間に、そういう口の利き方はないでしょう!?」
怒鳴るエイサップ。普段温厚なエイサップの口から出たとは思えない怒声が、食堂に響く。
トッド
「……チッ。気にしてるなら悪かったな」
エイサップ
「……いえ、俺も怒鳴ったりしてすいません」
そう言って、逃げるように食堂から出ていくエイサップ。ショウはその後ろ姿を、神妙な表情で見つめていた。
トッド
「……随分とナイーブな聖戦士がいたもんだな」
ショウ
「お前がガサツすぎるんだよ。すまないマーベル、チボデー。トッドは任せる」
そう言って立ち上がるショウ。ショウはエイサップを追って食堂を後にする。
ショウ
(エイサップ……何か思い詰めているのか?)
ショウには、エイサップのオーラ力が揺らいでいるように感じられていた。
…………
…………
…………
—ゲッターエンペラー艦内/通路—
エイサップ
「……………………」
正直なところ、エイサップ鈴木は気が立っていた。その理由は、いくつかある。
エイサップ
(槇菜は、桔梗さんと仲直りできただろうか……)
一つが、桔梗のこと。今アルゴとナスターシャの尋問に槇菜が立ち会っているようだが、どうなることか。勿論、仲直りしてほしいと思っている。エイサップにとっても桔梗は顔馴染みの存在で、槇菜は妹分だ。心配になってしまう。だが、エイサップの心を騒がせているのはその桔梗の口から聞いたパブッシュ艦隊の内情だ。
桔梗
『パブッシュ艦隊はエメリス・マキャベルを最高司令として置き、旗艦パブッシュの艦長を務めているのはアレックス・ゴレム大佐。彼はマキャベルの理想に同調し、クーデター計画に関わっているわ』
エイサップ
(どういうことだよ、親父……!)
アレックス・ゴレム。エイサップの父親であり、生粋のアメリカ軍人。岩国基地の司令官をやっていたはずの父親が、パブッシュの艦長を務めているという情報はエイサップの心を騒つかせるのに十分な衝撃だった。
ショウ
「おい、エイサップ!」
エイサップ
「……ショウさん」
立ち止まり、振り返るエイサップ。ショウも悪気があってエイサップに話を振ったわけではないことくらい、彼にもわかっている。しかし、今クーデター計画の中心にいる男の血が自分の中に流れているという事実が、エイサップに冷静さを欠かせていた。
それでもエイサップは自制のできる男だ。あそこでトッドが暴言を吐かなければ、理性でそれを制することができただろう。だからエイサップはショウの方を向き、「さっきはごめんなさい」と謝罪する。
ショウ
「いや、いい。悪かったのは俺とトッドの方だ。……エイサップ、気になるのか?」
エイサップ
「そりゃあ、自分の父親と戦わなきゃいけない可能性があるんだ。気にならないわけないでしょう」
リュクスがサコミズ王に立ち向かうように。自分もまた、父アレックスを諌めるために剣を抜かなければならない。そんな予感が沸々と、エイサップの中に湧き出ている。ショウはそれを理解すると、穏やかな顔でエイサップと対峙する。
ショウ
「…………親っていうのは、いつだって困ったものだよな」
エイサップ
「ショウさん?」
ショウ
「槇菜には前にも話したんだけどさ。前の戦争で俺が地上に戻ってきた時、オーラバトラーで戦う俺を両親は拒絶したんだ。『あなた宇宙人なのよ』だってさ。おふくろひどいよな」
ショウ・ザマにとって、両親との思い出は苦い記憶である。家庭を顧みず仕事に明け暮れる母と、不倫している父。ショウのことは、家政婦さんの方がよく見てくれていたくらいだ。そんな家庭からの反発で、ショウは危険なバイクレースに明け暮れるようになった。そしてある日……バイストン・ウェルへと誘われることになった。そんなショウだから、内心はエイサップやリュクスのことを羨ましいとすら思っている。たとえ今は対立していても……いや、対立しているからこそ親子で、向き合うべき時があるのだから。
ショウ
「親父にとってもおふくろにとっても、俺は迷惑な存在だった。だから、俺は家族と訣別して……バイストン・ウェルに戻った」
思えば、ショウ・ザマが真の意味で聖戦士となれた理由はあの時現世に……地上に一切の未練がなくなったからかもしれない。あの時、母親の言葉で地上人ショウ・ザマは死んだのだ。生きながら死んだ魂だから、地上人でありながらバイストン・ウェルはショウを祝福する。聖戦士として。
ショウ
「エイサップ。お前は……決着をつけてくれ。どんな形でもいい。親子の呪いに」
エイサップ
「……ショウさん。どうして俺にそんな話を?」
ショウ
「どうしてだろうな。けど……俺はお前に、新しい聖戦士に期待してる。それは間違いない」
エイサップ
「……俺は、そんなもんじゃありませんよ」
そう言って、エイサップの視線は足下を……ジャコバ・アオンに言われるまま履かされたリーンの翼の沓を見つめていた。
エイサップ
「この沓だって結局、あれから一度も何も起こしてはくれない。俺は、摩訶不思議なものに選ばれるような者でも、聖戦士なんて大それた肩書きを背負えるような奴でもないんですよ」
そう言いながらしかし、エイサップの口調からは自嘲的な響きはなかった。むしろ、それでいい。それで当たり前だとでも言うかのように平然と言う。
ショウ
「……そうか」
しかしショウには、そんなエイサップが頼もしくさえ思った。慢心、野心、復讐心。そういった負の心はオーラを増長させ、どれだけ精錬な心を持つ聖戦士でさえも瞬く間に鬼道へ落とす。ハイパー化。そう言われる現象を間近で見てきたショウからすれば、エイサップのそんな心はむしろ心強い。
エイサップ
「トッドさんには、後で俺から謝ります」
ショウ
「いや、いいんだ。あのヤンキーにはいい薬だよ」
だからショウはこうして、エイサップと笑い合うことができた。
…………
…………
…………
—鬼哭石の里—
空知
「これは……」
突如として着陸した巨大な戦闘母艦ゲッターエンペラー。その存在感に空知は気圧されていた。石舞台からでも、その威容はありありと見ることができる。そのくらいに巨大。そしてそれが、ユウシロウに新たな運命の時が近づいていることを空知に予感させる。
空知
「ユウシロウ……」
もし、ここにユウシロウが来るのならば。彼が行くところは一つしかない。空知はその唯一の心当たり……石舞台へ赴きそして、舞うユウシロウを見つけるのだった。
ユウシロウ
「…………俺の原初の記憶。それは、ここで舞っていた記憶だった」
しかし、踊りながら生まれてくる人間などいない。ここでこうして舞う前にも、ユウシロウはどこかで産声を上げ、生を受けたものがする数多のことをしていたはずだ。
ドモン
「…………その記憶がないっていうのは、不思議なものだな」
ユウシロウの護衛についていったメンバーの一人。ドモン・カッシュが呟く。ドモンもまた、思春期を師匠の厳しい教えの下で修業に費やした武闘家だ。しかし彼の原初にある記憶は父と母。それに兄と共に過ごした優しい時間。そしてレイン・ミカムラとの甘酸っぱいひと時。そういった自身のルーツを、ユウシロウは持たないと言う。
レイン
「……記憶喪失。ということなのかしら?」
医学的に考えるなら、とレインは付け加える。しかし、調べてみてもユウシロウの脳に問題はない。身体的には、至って健康な状態である。
隼人
「……ユウシロウはここで能を舞っていた。そしてここには、ゲッターエネルギーが満たされる何かがある」
以前の戦い。そこで起きた未知のゲッター線増幅現象。べギルスタンでもそれは起きた。この場所に、豪和に、ユウシロウに何があるのか。神隼人はその答えを求めてユウシロウに同行している。そして、隼人は考える。あらゆる因果関係を結ぶ糸を。
弁慶
「しっかし……そんな演目見たことねえなぁ」
弁慶がボヤく。
隼人
「弁慶、お前能なんかわかるのか?」
弁慶
「俺は詳しくねえが、和尚が好きだったのよ。だから、寺では数少ない娯楽として能を親しむ奴もいたし、俺も何度かは見た。けどよ……」
頭をポリポリと掻く弁慶。その様子を竜馬は鼻で笑う。
竜馬
「大方、見ながらいびきかいて眠っちまったんだろ?」
弁慶
「何だとぉ!? いや、その通りなんだが……情けない」
ミハル
「…………」
ミハルはといえば、そんなユウシロウの舞をずっと、見つめている。
安宅
「ミハルちゃん、だっけ?」
ミハルの監視を兼ねて同行していた安宅が、そんなミハルを見て悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
ミハル
「はい」
安宅
「ユウシロウのこと、好きなの?」
あまりにも単刀直入に訊くので、ドモンとレインは思わず「お、おいっ!」と声を荒げていた。しかし、ミハルは少し困ったような表情をして押し黙り……やがてポツリと、
ミハル
「ユウシロウは、私と同じなんです」
と、それだけ答える。そんな時だった。カン、と石舞台を叩くユウシロウの足踏み。それと同時にユウシロウは、近付く足音に振り返った。
ユウシロウ
「……師匠」
空知。ユウシロウに舞を教えた老人が、舞台へと歩みを進めている。敵意はなかった。あればすぐにでもドモンか竜馬、隼人あたりが空知を仕留めていただろう。
空知
「…………ここには、何もありますまい」
それだけ、静かに告げる空知。
ドモン
「……この声、この威厳。たしかにあんたは、ユウシロウの師匠らしいな」
空知
「……ユウシロウ様の、お客人ですか」
ドモンらを一瞥し、空知は改めてユウシロウを見やる。
ユウシロウ
「俺の原初の記憶は、ここで舞っていたことだけだ。幼い頃から、師匠の厳しい教えで」
空知
「舞こそユウシロウ様のなさるべきこと。それ以外の記憶など必要ございますまい」
そう言い放つ空知。しかし、ユウシロウが聞きたいのはそのような形式的な言葉ではなかった。
ユウシロウ
「死んでいれば、記憶など初めからない」
ミハル
「…………」
死。豪和ユウシロウは既に死んでいる。ミハルが突き止めた真相。それが、今のユウシロウを突き動かしている。
空知
「ない記憶を掘り起こして……いかがなされたいのですか?」
ユウシロウ
「俺は、俺自身が誰なのかを知りたい」
真っ直ぐに、空知を見据えてユウシロウは言う。その目は既に、空知の知る豪和ユウシロウの目では……兄や父の意志に従う人形の眼ではなかった。
一人の、人間。自らの意思でこの場所にくることを選択し、真実に挑む者の目。その目を見れば、今のユウシロウになら告げられるとわかる。
空知
「……あちらをご覧ください」
空知が向いた先には、小さな蔵があった。周囲を木々に覆われ、その蔵はあちこちに苔が生している。忘れ去られた蔵。時の中に置いて行かれた場所。そんな印象を、ユウシロウは受けた。
空知
「この鬼哭石の里は豪和の元屋敷があったところ。今の御本家は一千年前に移ったものです。けれど元屋敷のこの御倉だけは、移さずこの地に残しました。いえ、残すしかなかったのです」
ユウシロウ
「御倉……?」
空知
「蔵は過去を仕舞い込む場所でございます。ユウシロウ様。
そう語り、空知は歩き出した。無言で空知についていくユウシロウ。
弁慶
「お、おいユウシロウ」
竜馬
「へっ、何が何だかわからねえが……面白そうじゃねえか。おいおっさん! 俺達も連れて行けよ」
ピタリと足を止め、空知は振り返る。そこにいるの見るからに野蛮な男達。しかし、彼らはユウシロウが認めた人物なのだろう。それだけは、空知にも理解できる。
空知
「……よいでしょう」
彼らがユウシロウの仲間なら。ユウシロウの運命を分かち合う存在ならば。彼らにも豪和のことを知る権利はある。空知はそう認め、頷くのだった。
…………
…………
…………
—鬼哭石の里/豪和の御倉—
狭い蔵の中はしかし、一見すればわからないほど長く通路が伸びている。暗く、狭い道を空知、ユウシロウ、ミハル、安宅、ドモン、レイン、竜馬、隼人、弁慶は一列になって進んでいた。そこに仕舞われている物品の数々は、歴史的な価値のあるものだと素人にもわかる。刀剣や巻物は中には、莫大な金銭価値を持つものもあるだろう。しかし、そんなものには見向きもせずに空知は進む。やがて、蔵の突き当たりに小さな階段があった。
空知
「こちらです」
ユウシロウ
「…………」
地下。人間は本質的に暗闇を嫌う。光刺さぬ場所は本来、人の生きる場所ではない。しかし地下階は蔵の中とは思えぬほど涼しく、そして仄かな照明が闇を消していた。
竜馬
「こいつは……」
そこに並ぶ光景に近いものを、以前竜馬は見たことがある。早乙女研究所で、鬼の死骸を保管していた部屋だ。鬼をホルマリンにつけ、ケースの中に保管していたあの場所と同じように、この部屋にはたくさんのカプセル状の、人間大サイズのケースが並んでいる。
レイン
「人……?」
中に入っているのは、人間だった。ホルマリンではなく、冷凍処置が施されている。この部屋が肌寒いほどに涼しいのは、この設備のためかもしれない。
レインが見たのは、端正な顔立ちをした長髪の男。その遺体だった。
空知
「それは、私の息子……空也でございます」
安宅
「自分のお子さんを、こんな風に……!」
信じられない。とでも言いたげな目を安宅が向ける。そこには明らかに、軽蔑の色があった。
隼人
「…………なるほど。死体すらも貴重なサンプルってわけか。もしユウシロウが死んだら、ここに並んでコレクションのひとつになってたわけか?」
皮肉げに隼人が言う。それに、空知は答えない。答えないまま、空知は進む。
ユウシロウ
「…………これは、」
その中にひとつ、他よりも小さなカプセルがあった。膝を屈ませ、蒸気で曇ったガラスを手で拭くとそこには、10歳ほどのこどもが眠っていた。
ユウシロウ
「お前が……憂四郎なのか?」
豪和憂四郎。8年前に死んだとされる、本物のユウシロウ。その死。その事実が今、ユウシロウに突き刺さっていた。ユウシロウ、空也。彼らは何のためにここに保管されているのか。そして、自分もそうなるのか。疑問は尽きない。それでも、「豪和憂四郎は8年前に死んでいる」その事実を認識することができただけでも、価値はあった。ユウシロウは一人頷き、空知の言葉を待つ。
空知
「……私に言えること。それはユウシロウ様も、その者達もガサラキの神事を行う者。嵬の一族だということです」
隼人
(嵬…………)
それは、隼人の追い求めるゲッター線の謎とどう関わっているのか。隼人は険しく、眉根を寄せる。
ユウシロウ
「嵬の一族……」
空知
「ユウシロウ様。あなたは嵬としての素質があった。嵬とは連綿と記憶を受け継ぎながら世代を重ねる人々。ユウシロウ様、時折自分の知らない自分を感じたことはございませぬか?」
ユウシロウ
「!?」
ミハル
「…………」
自分の知らない自分。ミハルと出会っていた自分。ここではないどこかで戦う自分。それは、受け継いだ嵬の記憶?
ならば、自分もミハルもその受け継いだ記憶に縛られて生きているということなのか。
空知
「かつてこの地に生きた人の心にも……嵬の記憶は受け継がれている。そして……」
空知はさらに最奥の扉。鬼のような壁画の描かれた扉を開き、それをユウシロウたちに見せるのだった。
ユウシロウ
「————!?」
ミハル
「あ、ああ…………!」
そこに鎮座していたのは、鬼だった。全身を甲冑に覆われた骸の鬼。骸の鬼が、魂の宿らぬ瞳で彼らを睥睨している。
弁慶
「こ、こいつは……!」
鬼。それは弁慶の恩師の仇でもある。思わず警戒の声を上げる弁慶。
隼人
(ついに、出やがったか……!)
以前ハッキングした時に見たそれを、隼人ははっきりと覚えている。これとゲッター。鬼と晴明。そして……。疑問は尽きない。だが、真実の一端に触れようという感触を、隼人は空気で感じていた。
空知
「嵬とは、骨嵬を目覚めさせ、操る者。ユウシロウ様は、これを操るために生まれてきたのです」
静かに、厳かに空知は告げた。
竜馬
「……………………どういうことだ?」
絶句するユウシロウの代わりに口を開いたのは、流竜馬だ。恐れるものなど何もない、怖いもの知らずの竜馬でさえ骨嵬の姿に脂汗を滲ませている。だが、竜馬が恐れているのはこの姿ではない。
竜馬
「……俺はこいつを、知っている?」
ユウシロウ
「な…………!?」
竜馬がべギルスタンで見た幻影。黒平安を舞台に、鬼どもを薙ぎ払い晴明と対峙する。そして、その最中……。
竜馬
「俺は、こいつに乗っていた……?」
隼人
「何だとッ!?」
驚愕の声を上げる隼人。しかしその直後、急激な地鳴りの音が蔵を襲う。
ドモン
「何だッ!?」
同時、隼人の通信端末からミチルの声が響いた。
ミチル
「神君、至急エンペラーに戻って!」
隼人
「何があった?」
ミチル
「敵がきてるわ。ミケーネのメカザウルス軍団よ!」
…………
…………
…………
—ゲッターエンペラー艦内—
ゲッターエンペラー。早乙女研究所そのものを改造して生み出された宇宙戦闘艦。その奥には早乙女博士以外に立ち入ることを禁じられた区画があった。時折、早乙女博士はそこに一人籠り思案を試みている。ゲッター線とは何か。かつて、安倍晴明は何故ゲッターロボを倒すために暗躍したのか。竜馬達が迷い込んだという、黒平安京とは何なのか。何故、敵はゲッターを狙うのか。なぜこの世界にもゲッター線は降り注いでいるのか。これまでの戦い、ゲッター開発を巡る犠牲。それらに意味はあったのか。
早乙女
「達人……」
早乙女博士は、今は亡き息子の名を呟く。早乙女達人。ゲッター開発計画において、鬼との戦いにおいて、自らを犠牲にしてゲッターを、竜馬を、早乙女博士を守った男を。
夢に見ない日はない。非情な人物に見える早乙女博士も、人の心がないわけではない。むしろ、誰よりも犠牲に心を痛めいているのが早乙女博士だった。
だが、そんな感傷では何も生み出すことはできない。ゲッター線の意味も、ふたつの世界の関わりも。
早乙女博士がエンペラーの開発を可能とした膨大なゲッター線。早乙女研究所の地下にある日忽然と生まれた地獄の釜。そこには、無限にも等しいゲッターエネルギーがあった。この特殊区画は廃棄されたゲッターロボの墓場であり、地獄の釜の採掘場。この場所には通常の20倍近いゲッター線がある。
ゲッター線は、時折早乙女博士に不思議な夢を見せる。死んだ息子……達人の夢。ゲッター計画の過程で死んでいったパイロット、研究員。スタッフ。彼らの夢だけなら、早乙女博士も受け入れることができただろう。しかし、釈然としないものも、早乙女博士に語りかけるのだ。
???
「早乙女博士……」
例えば、今この場で早乙女の隣で語らう者。全身が鱗に覆われ、無機質な目で早乙女を睥睨するハチュウ人間。彼は、別の世界のゲッターに滅ぼされたと語っている。
早乙女
「何の用だ。恨み言なら聴く気は無いぞ」
そもそも恨み言を吐かれる筋合いがない。トカゲ人間がゲッターに滅ぼされたのだとしても、滅ぼしたゲッターは、早乙女博士は少なくともこの世界の早乙女博士でも、ゲッターロボでもないのだから。
???
「フフフ、恨み言など吐きますまい。ゲッター線と同化し、ひとつになる……。それはとても心地のいいものなのだから」
早乙女
「…………」
ゲッター線との同化。それが何を目的とする現象なのか、早乙女もわからない。そもそもゲッター線には、わからないことが多すぎる。しかし、ゲッター線が明確に意思のようなものを持っていることを、早乙女は既に確信していた。
???
「……博士、間も無く敵が来ます」
敵。そもそもゲッターエンペラーは今、ミケーネ帝国を中心したこの世界の脅威と戦っているのだからその言葉に不思議なことはない。だが、ゴールの言う敵がそれと……つまりはミケーネ帝国と同じものを指しているのか、早乙女博士にはわからなかった。
早乙女
「……急がねばならんか」
達人が、ハチュウ人類の幻影が見えるようになったのは、アルカディア号が宇宙へ旅立ってからだ。それから早乙女博士はこのエンペラー開かずの間で、時折思索に耽るようになった。
ゲッターロボの整備や点検、それに艦の運営もミチルがいれば問題ない。竜馬、隼人、弁慶の3人は……この世界に来て己のやるべきことをやっている。ならば、
早乙女
「今が、その時なのかもしれんな……」
ゆらり、とまるで亡霊のように早乙女博士は立ち上がった。ゲッター線の立ち込めるこの蒸し暑い地獄の釜の入り口で、早乙女博士は……。
……………………
第23話
「DEEP RED」
……………………
—鬼哭石の里—
ゲッターエンペラーを包囲するように、空には翼竜型メカザウルス・バド。そして地には緑色の装甲に覆われたメカザウルス・ギロ。それらを率いて進む、巨大な恐竜戦艦の姿がそこにはあった。
ミチル
「メカザウルス……あれは本当に、ミケーネの手先なの?」
ミチルが疑問を抱くことには、理由がある。ミチルや竜馬らは「B世界」と呼ばれるもう一つの世界……パラレルワールドからの来訪者だ。故に、彼女達の母艦ゲッターエンペラーも本来この世界のものではない。しかし、ゲッターエンペラーのゲッター線値はこのメカザウルスと遭遇戦を繰り返す度に、上昇していたのだ。まるでメカザウルスと戦い、倒すことをゲッター線が喜んでいる。そんな、あり得ない想像をしてしまう程に。しかし、それ以上に問題なのは。
ミチル
「エンペラーの出力は、まだ回復しないの?」
所員
「すいません。どうもゲッター線出力が不安定で、まだエンペラービームはチャージできません」
ミチル
「仕方ないわね……。自動防衛システムを作動させて!」
ゲッターエンペラーの相次ぐ機能不全。本来ならば次元を越えることすら可能なゲッター炉心を搭載しているこのエンペラーだが、ゲッター線には未知の部分も多い。まるで、何者かの意志が働いているかのようにここ最近のエンペラーは、弱体化していた。
所員
「早乙女博士じゃないと、これ以上のことは……」
ミチル
「……引きこもりの老人に何を言っても無駄よ。あの人は自分の研究のことしか頭にないんだから」
何よりも問題だったのは、本来指揮官として前線に立っているはずの早乙女博士が急に職務を放り出し、引きこもりはじめたことだ。チャップマンの定期検診の時だけふらりと顔を出したかと思えば、すぐに開かずの間に引きこもっている。それをアルカディア号と別れてから、ずっと繰り返していた。
父の気まぐれなど、珍しいことでもない。だが、今は勘弁してほしい。頭痛に頭を抑えつつ、ミチルは父に代わりエンペラーの指揮を取る。
ミチル
「神君達は、まだ戻らないの?」
所員
「は、はい……」
頭痛の種が尽きない。チッとミチルが悪態をついた時だ。レイン・ミカムラの通信端末から、エンペラーへの呼びかけがあったのは。ミチルはすぐに繋ぐと、レインに状況の報告を促す。
レイン
「ミチルさん、大変なの!」
ミチル
「何があったの!?」
レイン
「それが…………きゃぁっ!?」
レインの悲鳴と共に、プツリと回線が落ちる。あちらの状況は不明のまま。
ミチル
「……とにかく、整備の終わってる機体から順次出撃して!」
そんな、当たり障りのない指示を出すことしか今のミチルにはできなかった。
ヤマト
「メカザウルスが出たんなら、俺の出番だ。行くぜ、ゴッドマジンガー!」
エンペラーを飛び出し、火野ヤマトは腰に携えた剣を掲げる。するとたちまちヤマトの身体は光に包まれそして守護神……ゴッドマジンガーと一つになっていた。古代ムー王国の守り神。守護神マジンガー。その大いなる姿を認めると、メカザウルス達はヤマトに注目する。
ヤマト
「メカザウルスども! ここで会ったが百年目、成仏させてやるぜ!」
魔神の剣を構え、ヤマトは前方のメカザウルス……ギロの部隊に突貫した。ゴッドマジンガーが咆哮し、大地が唸る。太古の世界を生きた恐竜と、古代ムー王国の守り神。時を越えた神話の戦いがこの鬼哭石の地に再現されようとしていた。
鉄也
「俺達も出るぞ!」
キッド
「了解!」
ゴッドマジンガーに続くように、グレートマジンガーとブライガー、ヴェルビン、ナナジン、ゼノ・アストラも出撃する。さらに……
トッド
「ヘッ、恐竜どもか。バイストン・ウェルでは随分世話になったな!」
ライネック。トッド・ギネスの乗るオーラバトラーも、その翼を広げ戦線へと加わっていた。
ボウィー
「本当にいいのかね。あのタレ目の兄ちゃん」
ブライガーのコクピットで、ボウィーがボヤく。
お町
「あら、あの子なかなか可愛いと思いませんボウィーさん」
ボウィー
「いやはや、エンジェルお町がああいうのが好みとは思いませんでしたよ僕ちゃん。お町ってばもっとこう……実直そうな人がタイプじゃなかったっけ?」
キッド
「無駄話は後にしてくださいよみなさん。ここは俺たちで踏ん張らなきゃいけないんですからね!」
ゴッドガンダム以下モビルファイター部隊は、出撃に時間を要している。グランドマスターガンダムとの戦いを最前線で戦ったダメージがまだ回復していないのだ。なので、比較的ダメージの少なかったスーパーロボットとオーラバトラーが、今回は先陣を切っていた。つまり責任重大。
アイザック
「キッド、周囲の被害を考えるとブライカノンは使えない。いいな!」
キッド
「任せろ!」
ブライガーの右腕に、どこからともなくブライスピアが転送される。シンクロン原理。多元宇宙を利用して質量保存の法則を無視することで、ブライガーは莫大なエネルギーを取り出すことが可能な機体だ。ブライガーの持つ武装……。ブライスターや、ブライサンダーではどこにも本来収納できないそれらは、多元宇宙より召喚され真なる持ち主であるブライガーの手に渡る。
キッド
「まずは、一番槍だ!」
ブライスピアを投げるキッド。それはしかし、メカザウルス・ギロに命中することはなく虚空を刺す。
キッド
「何ッ!」
ボウィー
「キッドちゃんもっとよく狙って!」
メカザウルスは反撃にとばかり雄叫びを上げると、腹部の装甲を開く。すると、胸部から放たれる竜巻がブライガーを襲うのだった。
アイザック
「まずい!」
キッド
「わかってますよ!?」
竜巻の直撃を避け、ブライソードを召喚するキッド。投げ槍が通用しないならば、今度は白兵戦とばかりにブライガーは飛び込んでいく。しかし、ギロは素早く、ブライソードを振り上げる前にブライガーの背後へと回り込んでいく。
槇菜
「危ない!」
ブライガーの背後に迫る鉤爪と一撃。ゼノ・アストラは2機の間に回り込みその巨大な盾で鉤爪を受け止める。
槇菜
「ッ……! 今エンペラーには、お姉ちゃんも乗ってるんだ。絶対、通すもんか!」
指のワイヤーを射出するゼノ・アストラ。しかしその瞬間には既にギロは遠くへと下がり、ゼノ・アストラの射程内から離れていく。
鉄也
「あのメカザウルス、とんでもない速さだ!」
アイザック
「ああ。今計算してみたところあのトカゲは、ゲッター2並のスピードを誇っている」
キッド
「何だって!?」
森林地帯に囲まれる特殊な状況下では、ビームや火器を使えば延焼を起こす。そうなればこの地は瞬く間に火の海と化してしまうだろう。故に、面制圧の攻撃はできない。そんな中で超スピードを誇るメカザウルス・ギロが4機。その圧倒的な速度と突風攻撃がブライガーに、グレートに、ゼノ・アストラに、そしてゴッドマジンガーに迫った。
槇菜
「ぁっ!?」
鉄也
「クッ!?」
森林地帯で無闇にブレストバーンやサンダーブレーク、セラフィムフェザーによる攻撃を行うわけにはいかない。強力な武器を封じられているグレートとゼノ・アストラに迫る竜巻。ゼノ・アストラはシールドを傘にして本体を守っているが、この強風では満足に動けない。
鉄也
「こうなったら……どちらの竜巻が上か勝負だ! グレートタイフーン!」
グレートマジンガーの口にある排気ダクトから、同じように突風が巻き起こった。グレートタイフーン。時速150kmの竜巻がぶつかり合い、激しい音を立て対消滅。その隙を、剣鉄也は見逃さなかった。
鉄也
「ここだ、グレートブーメラン!」
ブレストバーンを使うわけにはいかない。しかし、胸部放熱板には他にも使い道がある。放熱板を取り外したグレートはそれをブーメランにして、メカザウルス目掛けて投げつける。しかし、超スピードのメカザウルス・ギロは向かってくるブーメランを軽々と躱し、グレートマジンガーへと迫っていく。雄叫びのような咆哮を上げ、グレートの眼前へとギロは踊り出た。しかし、それこそが鉄也の狙い。
鉄也
「今だ!」
この距離ならば、たとえどんなに速い敵でも外さない。鉄也にはその自信がある。戦闘のプロとしての誇り、鍛え抜いた根性がある。そして何より。
鉄也
「修行の成果、見せてやるぜ!」
ドモン・カッシュらと共に叩き抜いた新必殺。グレートの肘から、スパイクが展開される。そしてスパイクのついた肘蹴りを、思い切り叩き込む!
鉄也
「ニーインパルス・キック!」
避けきれず、悲鳴を上げるメカザウルス。機械の音と同時に、青黒い血飛沫がグレートを染め上げていく。ニーインパルス・キック。以前、暗黒大将軍との戦いで損壊したグレートマジンガーは、新たな力を得て生まれ変わっていた。その一つが、ニーインパルス・キック。アトミックパンチ、グレートブーメラン、ブレストバーン、サンダーブレーク、ネーブルミサイル。グレートマジンガーのあらゆる装備は一つ一つが強力だが、その全てが上半身に集中している。つまり、下半身を重点的に狙われた際グレートは迎撃手段を持ち合わせていないという弱点があった。それを克服するために追加されたのが、ニーインパルス・キックだ。
当然、超合金ニューZの塊である足自体が、強力な鈍器である。しかし、そこに鋭利なスパイクが加わることで破壊力を増したキック。それを使いこなすためにも鉄也自身に抜群の体術センスが要求された。
鉄也自身、戦闘のプロだ。厳しく鍛えぬ痛み身体はヤワじゃない。しかしドモン・カッシュとの修行を耐え抜くことで今の鉄也には、さらなる自信が漲っている。それこそが、生まれ変わりより強くなったグレートに必要なもの。
蹴り飛ばされるメカザウルス。その背後から飛んでくるのは、先ほど投げたグレートブーメラン。背中からの攻撃を避けきれず、ギロは真っ二つになる。
鉄也
「行くぞグレート、まだまだ戦いは始まったばかりだぜ!」
グレートマジンガーの瞳が輝き、排気ダクトの音はその声に応えるかのように唸り声を上げていた。
ヤマト
「さすが鉄也さんだ。俺達も負けらんねえぜ!」
しかし、ゴッドマジンガーは超スピードのギロを前に苦戦を強いられていた。元々ゴッドマジンガーは、力押しを得意とする機体。魔神の剣であらゆる敵を薙ぎ払う大魔神。しかし、グレートやブライガーのように、手数を持っているわけではない。ゴッドマジンガーが、火野ヤマトが持っている本質的な武器。それは、
ヤマト
「敵が速いなら……ハァッ!」
ヤマト自身に他ならない。ヤマトは、ゴッドマジンガーと一体化を続けるうちに魔神の依代として……“光宿りしもの”として覚醒していった。ヤマトの反射神経そのものをダイレクトに反応し、ゴッドマジンガーは動く。それは、神通力で繋がった阿頼耶識といっても過言ではない。
ヤマト
「そこだっ!」
元々、ラグビー部のエースを任されているほどにヤマトの運動神経、動体視力は抜群だ。たとえ敵が速くても、それを追う力をヤマトは持っている。ゴッドマジンガーとひとつになっている今なら、尚のこと。風よりも速く走るギロに追随し、ゴッドマジンガーは剣を振るう。
一刀両断。忽ちメカザウルスは青黒い血飛沫と断末魔の悲鳴を上げ、絶命する。敵を倒しながら、ゴッドマジンガーの中でヤマトは感じていた。ヤマトを射抜くような憎悪の視線。それは倒したメカザウルスからではなくその先……巨大な恐竜戦艦から投げかけられている。それをヤマトは己の第六感で感じていた。
ヤマト
「へっ、このやり口……。いるのはわかってるんだ。出てこいエルド!」
ヤマトが叫ぶ。その叫びに応えるように、クツクツとした暗い笑い声が森林地帯にこだまする。それは、遠くに鎮座する無敵戦艦から響く声だった。
ショウ
「なんだ、このオーラ力は……?」
空中のメカザウルス・バドを両断しながらもショウは、その憎しみに満ちた声を聞く。
チャム
「ショウ、怖いよ……!」
エレボス
「エイサップ……!」
エイサップ
「大丈夫だ、エレボス……しかし、」
人間が、ここまでの憎しみを抱けるものなのか。エイサップは戦慄する。それは、エイサップ鈴木の知らない感覚だった。
エルド
「フフフ……久しぶりだな、火野ヤマト!」
メカザウルス部隊を率いる無敵戦艦ダイから、通信映像が映し出された。そこにいるのは、長い金髪に長身の美男子。しかし、その瞳は黒く濁り切り、その美形を台無しにしていた。
アイラ
「エルド……!」
リュクス
「あれが、アイラ殿とヤマト殿の宿敵……!」
エルドの視線が、アイラ・ムーを捉える。
エルド
「アイラ・ムー。お前を取り戻すために、私は地獄より蘇ったのだ」
アイラ
「な、何を……! 恥を知りなさい!?」
そう言い放つアイラに、エルドはニヤリと笑みを返す。
エルド
「その気丈さ。やはりお前は私の妃に相応しい」
いけしゃあしゃあとそう返すエルド。アイラは顔を真っ青にし、ブルブルと首を振る。身体全身で表現する嫌悪。それをエルドは鼻で笑い、そしてまじまじと視線を泳がせる。
エルド
「ほう……。アイラほどではないにせよ、なかなかよい女が揃っているものだな」
リュクス
「は?」
口をついて出てきたのは、そんな言葉。
エルド
「クク、よいぞ。火野ヤマトを倒した後は、揃えて妾にしてやろう」
ミチル
「……この男は、何を言っているの?」
意味がわからない。そんな風にミチルはアイラに訊ねる。しかし、アイラは侮蔑の意味を込めた視線をエルドに投げかけるのみだった。それが答えだとミチルは、リュクスは悟る。
エルド
「だが、それも全ては火野ヤマト。お前を倒し闇の帝王へその首を土産にしてからの話だ!」
ヤマト
「勝手に決めるんじゃねえ! てめえなんかに、アイラは渡さねえぞ!」
無敵戦艦ダイ目掛けて、ゴッドマジンガーは走る。剣を構え、大魔神が咆哮する。
エルド
「死ねぇ、ヤマト!」
それを迎撃するように、無敵戦艦ダイから放たれるミサイル弾。ゴッドマジンガーはそれを斬り裂き、高く飛び上がる。
ヤマト
「行くぞ、ゴッドマジンガー!」
ヤマトの叫びに呼応するかのように、ゴッドマジンガーは黄金色に輝き始めた。“光宿りしもの”火野ヤマトと守護神ゴッドマジンガーのシンクロが高まり、ゴッドマジンガーは神の如き力を発揮する。言わば魔神パワーとでもいうべきものをゴッドマジンガーは解き放ち、宿敵エルドへと挑む。
エルド
「フフ、バカめ!」
だが、そんなことはエルドも百も承知だった。エルドは幾度と火野ヤマトと戦い敗れてきたのだから。無敵戦艦ダイの口から火球が放たれる。火球。火の玉。それが狙うのはゴッドマジンガーではなく……。
ヤマト
「なっ!?」
竜馬やユウシロウたちの向かった、鬼哭石の里。ゴッドマジンガーは咄嗟に手を伸ばすが、火球には届かない。
ヤマト
「てめえ、卑怯だぞエルド!?」
エルド
「ハハハハハ! 卑怯もらっきょうもあるものか! 私に下された指令……それはもとより嵬の抹殺だ!?」
高らかに笑うエルド。しかし、その火球は里までは届かなかった。巨大な盾を構える、全てを守らんとする意志が飛び込んでいたのだから。
槇菜
「っぅ!?」
ゼノ・アストラ。漆黒の旧神。少女の意志に、願いに応えるがままに現出するその盾が火球に触れると、燃えながら蒸発していく。
エルド
「何……!?」
槇菜
「そんな卑怯な手でしか戦えない人なんかに、誰もやらせはしない!」
槇菜が叫ぶ。それと同時にゼノ・アストラのツインアイが赤く、輝いていた。
エルド
「ほう……」
槇菜
「な、何ですか?」
エルドは、ゼノ・グラシアの中で啖呵を切る槇菜を見つめていた。その値踏みするような視線を感じ、槇菜は一歩後ずさる。
エルド
「ふっ、未成熟だかなかなかよい。お前も殺さず、妾の一人に加えてやろうではないか!」
槇菜
「……は?」
カチン。何かを踏んだ音を、その戦場にいた誰もが聞いた気がした。そして次の瞬間、ゼノ・アストラのハルバードがエルドのいる艦首部分目掛けて振り下ろされる。距離の概念を超越した高速移動。既にゼノ・アストラは、無敵戦艦ダイの喉元に喰らいかかっていた。
槇菜
「冗談でも、そういうこと言うのはやめた方がいいと思いますよ!?」
エルド
「女ごときが、この私に楯突くか!」
戦艦ダイは、巨大なメカザウルスを馬車のように連結させた要塞だ。故に、巨大な首長竜は格闘戦も可能としている。二頭の首による頭突きが、ゼノ・アストラを襲う。
槇菜
「っ!?」
歯を食いしばり、耐える槇菜。光の翼が不思議な重力でゼノ・アストラを支え、巨竜の体当たりを堪える。だが、それだけでは終わらない。
槇菜
「あったま、きた!」
このエルドという男は、女の敵だ。槇菜の本能がそう叫ぶ。次の瞬間、ゼノ・アストラは左手でハルバードを思いっきり、ぶん投げた。まるでゲッターロボのトマホークブーメランのように飛ぶハルバード。加速する刃が、巨竜の首を一つ落とす。生々しい悲鳴を上げて、戦艦ダイの左首が断末魔の悲鳴を上げた。しかし、それでもまだ戦艦ダイは生きている。
エルド
「ははは、気丈な女はさらに好みだ。よいぞよいぞ!」
槇菜
「そういうの、セクハラっていうんですよ!」
ゼノ・アストラの左の指が、ワイヤーとして射出された。ワイヤーは肉巨竜の肉に食い込み、そして破邪の熱が戦艦ダイを襲う。
エルド
「こ、これは……!?」
その時になり、エルド王子ははじめてその機体の意味に気付いた。旧神。繰り返す世界における特異点。
ヤマト
「俺を忘れるんじゃねえ、エルド!」
そしてすかさず、ゴッドマジンガーが剣を振るう。もう片方の首を斬り裂き、守護神が吼える。
エルド
「火野、ヤマト!?」
双頭を潰された無敵戦艦ダイ。メカザウルスとしての格闘能力を奪われたダイは足を止め、狼狽えながらミサイル弾を乱射する。とこと構わず放たれるミサイル。それは周囲を森林に囲まれたこの地帯では、最悪の兵器。
槇菜
「そんなもの!?」
しかし、ゼノ・アストラのセラフィムフェザーが広がり、ミサイル弾を包み込むようにして受け止める。邪悪なるものを祓うその羽根は、ミサイル弾を爆発する前に次々と分解していく。無機物が生まれる前に、分子の世界へ。
エルド
「き、旧神の力を取り戻しかけているというのか!? ええい、なんということだ!」
旧神。古き神。遥かな太古より……世界の輪廻を見守ってきたもの。その存在をエルドは、父であるドラドから伝えきいたのみである。しかし闇の帝王の傘下で勢力を伸ばしたドラゴニアにおいても、その名はゴッドマジンガー同様に轟いていた。
しかし、旧神はまだ未覚醒。そうエルドは闇の帝王に教えられていた。だがこれはなんだ。話が違う。狼狽するエルドに、ゴッドマジンガーが突撃する!
ヤマト
「でかした槇菜! さあエルド、ここがお前の墓場だ!」
エルド
「ぬ、ぬぅ……!」
金色に輝くゴッドマジンガー。“光宿りしもの”として覚醒したヤマトの威光は、戦艦ダイの動きを完全に封じていた。このままでは負ける。エルドの本能がそれを知覚する。それは恐怖だ。だが、恐怖の中にありてもエルドは狡猾に、事態を見極めようとしていた。
エルド
「そ、そうか……! 闇の帝王は、この俺を捨て駒にしたのか。奴らの力を見極めるための!」
そのために、死の淵から蘇らせた。その確信はエルドという男にとって、屈辱だった。
エルド
「ぬ、ぬぅ……。おのれ闇の帝王。この俺はただでは死なん。必ずや、貴様に復讐してやる!」
憎悪と怨嗟の言葉を吐きながら、エルドは逃げる。エルドが艦首を脱出するのと、ゴッドマジンガーの剣が無敵戦艦ダイを一刀両断するのはまさに、紙一重のタイミングだった。
ヤマト
「エルドの奴、逃げたか……!」
しかし、追う暇はない。生き残りのメカザウルス達が、まるでエルドを庇うようにゴッドマジンガーに、ゼノ・アストラに襲い掛かる。
槇菜
「この恐竜、やりにくい!」
首を飛ばせば血飛沫が飛ぶメカザウルス。それは殺生に慣れていない槇菜にとって、非常に気味の悪い相手でもあった。倒せば、生き物を殺した実感が後からやってくる。だが、やらなければこちらが……守るべき人達がやられる。それは、殺し合いの感覚だ。エイサップもヤマトも、「そんなものに慣れる必要はない」と言ってくれる。しかし降りかかる火の粉ならば払うしかないし、先ほどのエルドのように許せない相手なら尚更だ。
それでも、ハルバードに伝わる血と肉の感触は槇菜を迷わせる。
槇菜
「手加減なんて、できないんだからね……!」
それでも、メカザウルス・ギロをハルバードで一突きにするのを槇菜は躊躇わなかった。黒い体躯が、青い血飛沫に染まる。その感覚はやはり気持ち悪い。それでも、ここで戦わなければ槇菜の決意は揺らいでしまう。だから、戦う。
槇菜
「お姉ちゃんだって、見てるんだ。絶対に、負けるもんか!」
槇菜の叫びが天に届いたのか。それはわからない。しかし槇菜の叫びと同時、天を裂くかのような雷鳴が轟いた。
トッド
「何だっ!?」
雷は空中のメカザウルスを焼き焦がし、空で戦うオーラバトラー達は己の直感でそれを避ける。紙一重の回避を重ねながら、ミ・フェラリオ達は只ならぬ恐怖を感じていた。
エレボス
「エイサップ、これ怖いよ!?」
エイサップ
「この雷、俺達を狙ってるのか!?」
チャム
「ショウ!? ショウなんとかしてよ!?」
ショウ
「邪魔だよチャム!?」
眼前で視界を塞ぐチャムを後ろに払い除けつつ、しかし戦慄がショウを襲う。
ショウ
(これは……このオーラ力は何だ?)
エイサップ
(ワーラーカーレンの、ジャコバ・アオンなのか? だとしたら、なぜ……)
エイサップが感じたように、それはジャコバ・アオンのオーラ力とよく似ていた。しかし、二つの世界の調和を誰よりも重視するジャコバが、地上の戦いに干渉するとは思えない。
???
「やはり、そうか。これがゲッター線に選ばれた種族」
空から、言葉が響いた。声ではない。まるでそこにいる者達の頭の中に直接響かせるような言葉。その言葉の圧だけで、誰もが畏怖してしまう重い言葉と共に……天は割れ、後光が射す。
ボウィー
「今度は何だっていうの!?」
キッド
「あれを見ろ!」
後光が射した後、降りてくるものがあった。金色の、神像。そうとしか呼びようのない巨大がキッドの、鉄也の、ヤマトの、ショウの、エイサップの、槇菜の眼前に舞い降りる。
槇菜
「かみ……さま?」
思わず、槇菜が呟く。
鉄也
「馬鹿を言うな! 神だとしたら、何故俺達の邪魔をする!?」
咄嗟に否定する鉄也。しかし、その威圧感。神という言葉で形容できるのならば、納得してしまっても無理はない。鉄也がそれを否定したのは理性を、闘志維持するためだった。……もし、これらが敵ならば。神であるなど認めるわけにはいかない。しかし、降臨した神像はそんな鉄也の意志を打ち砕くが如く鼻で笑う。
多聞天
「フン……。旧神の巫女なだけあって、純粋な感性を持っているとみえる。いかにも、我らはお前達の言葉で翻訳するならば、神と呼ぶべき存在だろう」
トッド
「我ら……だと?」
オーラソードを構えながら呟くトッド。その直後。さらに後光が増えていく。そして、
広目天
「いかにも」
スキンヘッドに、桃色の肌を保つ神像が。
持国天
「我らは神である」
青い体色の、寡黙な雰囲気を纏う神像が。
増長天
「宇宙の安寧のため、我らはお前達に裁きを下すのだ」
爬虫類のような長い顔と、錫杖を持った黒い神像が。
多聞天
「全ては、この宇宙のため。ゲッター線の真なる覚醒を阻止するために」
神。それを名乗る四天王が今、槇菜達の目の前に降臨した。圧倒的な威圧感。圧倒的なまでの力の差。剣を交えなくても、それが伝わってしまう相手だった。オーラも、スケールも、全てが違いすぎる。あれほど苦戦した暗黒大将軍や、グランドマスターガンダムなどこの四天王に比べれば子供騙しに過ぎない。嫌でもそれが、伝わってしまう。それに、何よりも。
槇菜
「ゼノ・アストラ……。あれを知ってるの?」
ゼノ・アストラのコクピット内にまた、象形文字のようなものが流れ始める。槇菜の脳に直接響くようにして、ゼノ・アストラの言葉がダイレクトに槇菜へと伝わっていく。
槇菜
「四天を司る守護神……。四天王……?」
多聞天
「ほう……」
呻くような槇菜の声を、金色の神像……多聞天は聞き逃さない。
多聞天
「旧神はやはり、我らの存在を記録しているか」
槇菜
「っ! 貴方達も……ゼノ・アストラを、この子をしっているの!?」
クツクツと嗤い、四天王は答えない。それが、槇菜を苛立たせる。ゼノ・アストラはハルバードを構え、セラフィムを展開すると四天王の一角……多聞天へと飛びかかる。
槇菜
「答えてっ!?」
しかし、槇菜の飛んだ先に多聞天はいない。代わりにそこに立っていたのは青い体躯の持国天。
持国天
「知る必要はない。お前達はここでしぬのだからな!」
持国天は剣を抜くと、ゼノ・アストラのハルバードを受け止める。そして力任せにゼノ・アストラを振り落とした。
槇菜
「ゃぁっ!?」
エイサップ
「槇菜っ!?」
助けに行こうと、ナナジンが駆ける。しかしナナジンの前に立ち塞がるのは、禿頭の巨神・広目天。
エイサップ
「邪魔を、するなっ!?」
広目天の巨大を避けるようにして、ナナジンは飛ぶ。しかし、広目天はどこからか取り出した巻物を広げ印を結ぶと、広がる巻物がナナジンを捕まえ蛇のように纏わりつく。そして、
広目天
「破ァッ!」
エイサップ
「う、うわぁっ!?」
広目天が叫ぶと同時、巻物は爆発。爆炎に巻き込まれたナナジンも落下していく。オーラ力は生体エネルギー。エイサップの心の乱れを察知してナナジンのオーラ力も弱くなる。しかし、落下しながらも必死に意識を取り戻したエイサップは、渾身で機体を乗りこなし姿勢を安定させた。
広目天
「ほう……さすがは聖戦士いったところか」
エイサップ
「俺は、そんなもんじゃない!」
まるで自分に言い聞かせるように、エイサップは叫ぶ。姿勢を立て直したナナジンは再び広目天へと向き直るが、そこに立っているのは黄金の多聞天。
鉄也
「どういうことだ。奴ら、瞬時に居場所を入れ替えているのか?」
アイザック
「互いの立つ位置同士なら、いつでもシフトチェンジできる……。なるほど、四天王を名乗るだけのことはある」
ブライガーの中でアイザック・ゴドノフは冷静にその特性を分析していた。原理原則は不明でも、その特性が事実として存在するのならばそういうものとして戦うしかない。そう、受け入れるために。
キッド
「でも、どうする? こう一々瞬間移動されちゃさすがのブラスター・キッドでもお手上げだぜ?」
アイザック
「…………」
分析を専門とするアイザックだが、キッドの言う通りだった。そもそも敵……四天王の力は、名だたるスーパーロボット軍団を集結させた“Vanity Busters”のどのスーパーロボットよりも上に見える。少なくとも敵の瞬間移動能力だけでなく、ゼノ・アストラを一撃で叩き落とす持国天の剣技。ナナジンを一瞬で捉える広目天の秘技。そのどれもアイザックには理解不能だった。敵が生きた有機体なのか、メカザウルスのように機械仕掛けの部分を持っているのかすら不明。弱点など、調べようもない。
ヤマト
「クソッ! てめえら、何が目的だ!」
魔神の剣を掲げながら、ゴッドマジンガーの中でヤマトが叫ぶ。天高くに居座る四天王を前に、その声はまるで遠吠えのようでもあった。
多聞天
「知れたこと。お前達は、宇宙の調和を見出す存在だ」
鉄也
「何だと?」
それは、聞き捨てならない言葉だった。
多聞天
「不思議に思わないのか。光子力、ゲッター線、シンクロン原理……。ひとつひとつが宇宙の原理原則を捻じ曲げてしまうやも知れぬ危険な力が、何故ひとつのところに集まるのか」
アイザック
「…………」
多聞天
「そして、お前達人間は再び“恐怖”を呼び起こそうとしている」
ショウ
「……恐怖?」
広目天
「左様。ガサラキの神事は、目覚めさせてはならぬもの」
槇菜
「ガサ、ラキ……?」
ガサラキ。はじめてゲッターロボがこの時空に現れた時にゼノ・アストラが示した言葉。それが何を意味するのか、結局のところ何もわかっていない。木々に激突しながらも起き上がり槇菜は叫ぶ。
槇菜
「知ってるのなら、教えてください。ガサラキって、何ですか。ゲッターと関係があるっていうんですか!」
多聞天
「何も知らぬのか……」
多聞天は口を開かない。ただ、神通力で言葉を発する。しかし、その声には哀れみのような感情が乗っているのを槇菜は感じた。
多聞天
「冥土の土産だ。教えてやろう。ガサラキとは遥かな昔。この宇宙に飛来した無限の力を得た種族。しかし、その力を破壊と闘争……即ち“恐怖”のために浪費し、最終的に肉体を失った成れの果てだ。だが、ガサラキは己の叡智をこの星に生きる人類種の祖先へと託したのだ」
アイザック
「肉体を失った生命……。その遺伝情報が太古、人類の祖先に与えられたということか」
多聞天
「左様。ガサラキ……即ち先史高度文明人によって齎された遺伝情報。宇宙を喰らい尽くす悪魔の遺伝子を受け継ぐ種族。それが、人間だ」
キッパリと、そう多聞天は言い切る。
エイサップ
「何だと…………!」
多聞天
「なぜ人間は徒党を組み、同族同士で殺し合う。なぜ人間は他の生き物を滅ぼす。それらは全て……ガサラキの遺伝子に定められた刻印。恐怖……静寂たる宇宙に、災厄を齎すものは早急に立たねばならん」
ショウ
「それが……それがお前達が、人類を滅ぼそうとする理由だっていうのか」
多聞天
「そうだ。この宇宙を食い尽くす醜い化け物……それがお前達だ」
槇菜
「そんなの……」
勝手に決めつけないで。そう槇菜は言おうとした。しかし、言葉を発することができなかった。人間が争いを繰り返す種族であるという事実は、槇菜の好きな歴史が何よりも証左となってしまうからだ。
宇宙世紀……いやそれ以前から、人間は醜い争いを続けてきた。今でこそ共に肩を並べているアムロとシャアも。あのサコミズ王も。連綿と続く争いの歴史の被害者だ。そして、何よりも。
槇菜
(お姉ちゃん……)
槇菜が敬愛している姉ですら、その火種を生もうとしていた。そして槇菜は、それと戦ったのだ。
槇菜が学習し、そして将来に伝えたいと思い抱いている人類史は、戦いの歴史であると言って過言ではない。そしてムゲ帝国のような地球外の存在や、ミケーネのような過去より現れし敵とまで人類は戦争している。
そんな人類が、他の生命にとって“恐怖”以外の何だと言うのだろう。そんな思いが過り、槇菜は言い返すことができなかったのだ。
多聞天
「茶番は終わりだ。逝くがよい」
そう言って、多聞天は右手を振り翳した。そして、次の瞬間。地鳴りと共に、地下よりそれは目覚める。
チャム
「!? ショウ、怖いよ!?」
その存在を感じ、チャム・ファウは震えることしかできなかった。全身を震わせながら、恐怖を紛らわせるようにショウへと引っ付く。
ショウ
「このオーラ力は、何だ……?」
ミ・フェラリオのチャムほどではないにせよ、ショウ・ザマもそれを感じていた。背筋が凍るほどの寒気。目の前に君臨する神からではない。背後から……全てを屠る恐怖を纏いしものが、迫っている。
槇菜
「ゼノ・アストラが……怖がってる?」
槇菜は、それが何なのかわからなかった。しかし、その本質をゼノ・アストラは語る——恐怖、と。
それは。
武者のような鎧兜を纏っていた。しかし、その顔は鬼面。その面が全身の雰囲気を、“骸骨”のように想起させる。
骸骨。まさにそれは恐怖の象徴。
骨嵬
「……………………」
骸骨武者は上空に聳え立つ“神”を見やると、カタカタカタと全身を震わせる。それは、武者震いだった。剣を抜き、一目散に“神”へと飛びかかる骸骨武者
ユウシロウ
「……………………」
多聞天
「やはり、出たな……ガサラキの器。人の造りし、恐怖の傀儡。骨嵬!」
骨嵬。そう呼ばれた骸骨武者は手近にいた“神“……黒い体躯の増長天へと斬りかかった。
…………
…………
…………
—鬼哭石の里/豪和の古蔵—
“神”が降臨する少し前。メカザウルスとの激闘が続いている最中に話は遡る。古蔵にも招かれざる客が押し寄せていた。この世のどんな生物よりも黒い肌。膨張した筋肉と剥き出しの牙。そして頭部から生える異形の角を持つ怪物。鬼。押し寄せる鬼の軍勢を前に、竜馬達は白兵戦を強いられている。
隼人
「ヒッ、ヒヒッ!?」
引き攣った笑みを浮かべながら、鬼の頭を手刀で潰す隼人。その鋭利な爪は鋼鉄のように硬い皮膚を持つ鬼を容易く抉り、生々しい血の感触と共に隼人の神経を研ぎ澄ませていく。
弁慶
「こいつらには指一本触れさせねえぞ! 大雪山おろしぃぃぃぃ!?」
非力な安宅やミハルを守るように前に出て、迫り来る鬼を次々に投げ飛ばしていく弁慶。投げ飛ばす際に、首を折るのを弁慶はそれでも忘れていない。頭を壊さなければ、鬼達はすぐに息を吹き返してしまう。まるで、映画に出てくるゾンビのように。それを弁慶は、自身の恩師たる和尚や、兄弟弟子達の末路で知っている。鬼は、弁慶にとって彼らの仇だ。だから弁慶は、一切の容赦無く呵責なく、鬼を次々と潰し続けていた。
ドモン
「超級! 覇王! 電影だぁぁぁぁぁん!」
自らを台風の目にすることで、荒れ狂う嵐に自らを変質させる超級覇王電影弾。ドモンはそれをガンダムに乗らず、生身のままでも使用することができる。次々と迫る鬼を前にこのままでは埒があかないと判断したドモン・カッシュは、必殺の奥義を以て鬼を殲滅ていた。
竜馬
「クッ、おいジジイ! ここから逃げる道はねえのかよ!?」
強烈な回し蹴りで鬼の首を吹き飛ばしながら、竜馬が言う。
空知
「この蔵はあくまで一本道。来た道を戻るしかございますまい」
つまりは、今まさに鬼の群れが押し寄せる中を突破する以外に道はないということ。
竜馬
「面倒な造りしやがって! おいユウシロウ、てめえもなんとかいいやがれ!?」
ユウシロウ
「…………」
怒鳴り散らす竜馬。だがユウシロウは迫り来る鬼の群れを前に……そして自分の後ろにある鬼の鎧を前に、茫然としているのみだった。
隼人
「だが、何故鬼どもが今になって!?」
鬼を操っていた黒幕・安倍晴明は倒したはずだ。まさか晴明がまだ生きている。その可能性を隼人は疑ったが、すぐに破棄する。エンペラーのゲッタービームを吸収し放ったシャインスパークを受けて、無事であるわけがない。
弁慶
「こいつら、ユウシロウを狙ってるのか!?」
その進軍を阻止しながら、弁慶は敵があまりにも一直線に、棒立ちのユウシロウへ向かおうとしていることに気付いた。無論、近寄らせるわけにはいかない。
安宅
「クッ、こいつら銃が効かないの!?」
竜馬
「そんなもんで、こいつらがくたばるかよ!」
裏拳で頭部を粉砕し、竜馬が言う。
ミハル
「……ユウシロウ?」
ユウシロウ
「…………ク、ガイ」
この危機的状況の中、ユウシロウは無造作に右手を振り上げる。そして……カタン。石舞台でやったように大きく踏みつけ、その場で舞を踊り始めるのだった。
ユウシロウ
「……………………」
淡々と舞うユウシロウ。しかし、その鼓動が次第に加速し心拍数を大きく跳ね上げる。
——今宵ぞ。今宵ぞ。
ユウシロウの心のどこかから、声が聞こえる。今宵ぞ。今宵ぞ。不思議な唄が、ユウシロウの舞を加速させる。
——飢沙羅の鬼と、相成らん。
ユウシロウの舞に呼応するかのように。その背後に鎮座するモノが、動き始めた。
空知
「お、おお……!」
隼人
「骨嵬が、動き出しただと……!」
ゆっくりと、ゆっくりと、ユウシロウの舞に合わせて立ち上がる骨嵬。甲冑に覆われた腹部がパカリと開く。その中は肋骨のような形をしたものに守られており、しかし人一人が入ることのできる余地がある。
ミハル
「ダメ、ユウシロウ!? やめて!?」
ユウシロウ
「…………」
ユウシロウは、答えない。まるで心ここに在らずという風に舞い続け、そしてユウシロウは骨嵬へと飛び乗った。ユウシロウの存在を認めると骨嵬は再び甲冑を、骨を閉じる。
ミハル
「それは……それは恐怖を呼び起こす、偽りの神!?」
わけのわからない状況の中で、ミハルだけがユウシロウへ呼びかけ、叫んでいた。なぜ、そんなことを知っているのかミハルにもわからない。しかし、それでもミハルの中にいるいくつものミハルが叫ぶのだ。『呼び起こさないで、恐怖を』と。
ユウシロウ
「今宵ぞ……今宵ぞ……。飢沙羅の鬼と相成らん」
しかし、その叫びもユウシロウには届かない。ユウシロウは、まるで骨嵬に支配されているかのように呟きそして、骨嵬の空な瞳に、赤い光が灯った。
骨嵬
「……………………!?」
閉ざされた口を開き、骨嵬が吼える。その咆哮は狭い蔵を震撼させ、襲い掛かる鬼達を畏怖させる。
竜馬
「骨嵬……!?」
ドクン。竜馬の中にある記憶が、また呼び起こされた。流竜馬は確かにあれに乗り、安倍晴明と戦っていた。そんな記憶が確かにある。いや、それだけではない。
その記憶の中には、天草四郎を名乗る妖術使いと戦う流竜馬がいた。忍者の支配する世界で、立ち向かう流竜馬がいた。恐竜軍団と戦う流竜馬がいた。宇宙から来たインベーダーと戦う流竜馬がいた。遥かなる宇宙の意志と一つになり、奇形の獣との永遠の戦いに挑む流竜馬がいた。
それらの、流竜馬であって流竜馬ではない記憶。動き出した骨嵬はそんな現実とも幻覚ともつかないビジョンを想起させ、竜馬を困惑させる。
竜馬
「俺は……何だっていうんだ?」
空知
(骨嵬がこの男の中に眠る、記憶を呼び起こしている……。とすれば、この青年は、嵬だというのか?)
しかし、竜馬の疑念も空知の疑問も今はそれどころではない。目覚めた骨嵬は、一歩また一歩と歩き出す。鬼達は動き出した骨嵬を前に、狂ったように飛びかかる。しかし、
ユウシロウ
「…………」
骨嵬は一瞬のうちに抜刀し、その刀で次々と鬼の首を刎ねるのだった。まるで平安絵巻に記された源頼光のように。いや竜馬の記憶にある……これはれっきとした、竜馬自身が体験した記憶の中にいる源頼光のそれ以上の荒武者ぶりを骨嵬は、ユウシロウは披露していた。
隼人
「……!?」
骨嵬の振るう剣が、鬼を次々と滅ぼしていく。その様を凝視しながら、隼人はあることに気付いた。
隼人
(あの剣……。僅かだが、ゲッター線を纏っている?)
黒平安世界で源頼光が所有していた愛刀は、眠っていたゲッタートマホークを削って作られたものだった。それは、竜馬達がタイムスリップしたことで生まれたタイムパラドックスの産物であると言ってもいい。しかし、ここは竜馬や隼人の世界ではない。この世界の平安時代に、ゲッターは……。
隼人
(いや、まさか。この世界と俺達の世界を繋げたのがゲッター線だとしたら。黒平安世界とは……こちら側の世界だったということもありうるのか?)
そうであれば、時空を越えた晴明を追ってゲッターロボが、この世界にたどり着いたことにも説明がつく。だが、今はそれどころではない。
ユウシロウ
「…………!」
骨嵬
「…………」
鬼を斬り、骨嵬は進む。そして、骨嵬は敵の存在を感知していた。鬼を使役する、真なる敵の存在を。骨嵬は鬼を蹴散らして進む。地上目指して。そこに、敵がいる。敵の首を落とすために。飢沙羅の鬼。今ユウシロウは間違いなく、鬼と化していた。
弁慶
「あれは……人のまま鬼になる器なのか」
戦慄する弁慶。
ドモン
「ユウシロウ……!」
竜馬
「……行くぞ。隼人、弁慶」
自らの見たビジョンを振り払い、竜馬が言う。敵が来ている。そしてユウシロウは敵に向かっている。それは間違いない。ならば、
隼人
「竜馬……」
竜馬
「……俺が何であの鬼の化物を知ってるのか、正直わからねえ。だがな、俺達は戦うためにここにきた。そしてユウシロウの運命があの化物だって言うなら、ユウシロウもあれに勝たなきゃならねえ!」
ミハル
「勝つ……骨嵬に?」
それは、ミハルにとっては俄に信じられない言葉だった。だが、竜馬の目は本気だ。
竜馬
「ああ。俺も、ユウシロウも……それにおめえもだ。運命なんてもんが立ち塞がるなら、運命に勝つ。それしか生きる道はねえんだからよ!」
ユウシロウ
(勝つ……。運命に……?)
鬼を蹴散らし荒れ狂いながらも、骨嵬の中でユウシロウは、その言葉を聞いていた。ミハルの声も、聞こえる。それでも、まるで本能に支配しされるようにユウシロウは無心で鬼を潰し、敵を求めて突き進んでいく。骨嵬はやがて御蔵の扉をこじ開け、外の光へと躍り出た。
…………
…………
…………
増長天
「やはり……目覚めていたか。骨嵬。人の作りし“恐怖”」
骨嵬
「……………………」
蔵の前にいたのは巨大な……黒い人形。まるで爬虫類のように長い貌と鋭い目。そして錫杖のようなものを武器に持つもの。
“神”の一柱、増長天は骨嵬を前に錫杖を抜き身構える。鬼を遣わせ、あわよくば骨嵬と嵬を亡き者にする……その目論見が破産したことを、目の前で荒れ狂う骨嵬は物語っていた。
ならば、やはり当初の予定通り自分達で始末をつけねばならない。
骨嵬
「……………………」
敵。その黒い神像をそう認識して骨嵬は跳躍。手に持つ刀で大きく振りかぶる。
増長天
「遅い!」
しかし、数々の鬼を屠ったその一刀は神に届かず。錫杖の一振りで骨嵬は大きく跳ね飛ばされてしまう。
ユウシロウ
「…………!?」
大地に激突し、狭い機内でユウシロウの内臓が大きく跳ねた。しかし、痛みをものともせず立ち上がり、剣を構える骨嵬。竜馬達が蔵の外へと辿り着いたのは、そのタイミングだった。
竜馬
「な、なんだあれは……?」
竜馬達が見たのは、鬼とは似ても似つかない、神々しさすら感じられる存在。“神”を名乗る四天王はしかしユウシロウを、そして鉄也やヤマト、槇菜達を攻撃している。つまり、敵。
隼人
「あれは、生命なのかメカなのか……?」
その呟きに答えるものはいない。しかしその直後、隼人の通信端末がエンペラーからの発信を受領する。
早乙女博士
「全員、揃っているな?」
隼人
「早乙女?」
早乙女博士
「今、ゲットマシンをそちらに射出する。すぐに戦列に加われ」
有無を言わせぬ早乙女博士の言葉。それに弁慶が反論する。
弁慶
「ま、待ってくれ! ここに無人のゲットマシンを送るのか?」
早乙女博士
「そうだ。そこからゲットマシンに飛び乗り、空中で合体しろ」
低空スレスレを超スピードで駆けるゲットマシンが、既に目視できるところまで迫っていた。つまり、失敗すればゲットマシンに潰されて南無。
竜馬
「ヘッ、面白えじゃねえか。やるぞ隼人、弁慶!」
隼人
「フッ……」
既に、竜馬と隼人はやる気十分。
弁慶
「お、おいお前ら!?」
竜馬
「何だ弁慶、ビビってんのか?」
こうなったら竜馬は誰の話も聞かないことを、弁慶は長い付き合いで知っている。弁慶は「クソッ!」と悪態を一つつくと、両手で合掌のポーズを取る。
弁慶
「今度ばかりは、情けないなんて言ってられんな……南無三!」
弁慶も覚悟を決め、迫り来るゲットマシンと向き合う。
安宅
「ちょっ、あなた達!?」
ドモン
「いや、あいつらならできる」
止めようとする安宅を制し、ドモン。ゲッターチームとゲットマシンが衝突するまで、あと1秒もないだろう。0.01秒。そのコンマの世界を3人は見極め、そして。
竜馬
「うぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!?」
3人同時に、ジャンプ。ゲットマシンへと
飛び乗り手動でハッチを開け、マシンの中へと入っていく。
竜馬
「ヘッ、くたばってねえだろうな隼人、弁慶!」
弁慶
「ヘッ、何度テメエの無茶に付き合わされたと思ってやがる!」
隼人
「同感だ」
命懸けの大スタントショーをやってのけながらも、軽口を叩き合う3人。本来のパイロットにコントロールが移ったゲットマシンは空高く舞う。そして、
竜馬
「早速行くぜ、チェェェェンジゲッタァァァァァッ1!?」
若い怒りが一直線に並んだ時、神をも恐れぬ赤鬼がその姿を現すのだった。
…………
…………
…………
竜馬
「こ、こいつは……!」
ゲットマシンの操縦桿を握りながら、流竜馬は戦慄する。新しいゲッター炉心。今までのゲッターとはあパワーも、スピードも何もかもが違う。いや、それどころではない。
槇菜
「ゼノ・アストラ……どうしたの、怖がってるの? ゲッターを?」
ゼノ・アストラの画面モニタがゲッターロボを観測し、真っ赤に染まった警告音を放ち続ける。しかし、それまでは言葉は理解できなくとも意味を理解できたゼノ・アストラのそれを、今回は理解できない。まるで、ホラー映画のスプラッタシーンを見てしまった多感な年頃の子供の如く、ゼノ・アストラが泣き叫んでいるように槇菜には感じられた。
多聞天
「出たな……」
重々しい声が、竜馬達に響く。
多聞天
「出たな、ゲッターロボ!」
その声はやはり、口からは発されず脳へと直接怒鳴りつけるような独特の響きを持っていた。明らかな敵意を向けられ、ゲッターはすかさずトマホークを抜く。
隼人
「こいつらは……」
鉄也
「わからん。だが、自らを“神”と名乗り……暗黒大将軍以上の力を一人一人が持っている」
竜馬
「へっ、自分から神を名乗る奴にロクな奴はいねえ。こいつらが敵だって言うなら、神だろうが鬼だろうが関係ねえ!?」
叫び、ゲッターが飛ぶ。新型炉心によって齎された圧倒的なスピード。まるでワープでもしたかのように瞬時に多聞天の眼前へ躍り出たゲッター1。
竜馬
「早速ぶちかましてやるぜ! ゲッタァァァァァッビィィィィィム!」
ゲッターの腹部から、緑色の光が放たれる。それと同時、ゲッター1の装甲が緑色に輝く。それは、今までのゲッターロボにはなかった現象だ。新型炉心は、有り余るゲッターエネルギーを放出しより高度のゲッタービームを可能としているのだ。周囲の空気すらもゲッター線が気化させ、大気を震わせる。それは、今までのゲッタービームではない。
隼人
「これほどのパワー……!?」
弁慶
「お、おい……!?」
弁慶が動揺する。ゲッター線の放出が、周囲に高熱を発生している。イオン化した待機は空を焼き、イオン化した熱は空気を伝い森を発火させるのだ。
アイザック
「これは……!」
鉄也
「なんてことだ……!?」
森林火災。ブライガーやグレートマジンガーが危惧し、全力で戦うことができなかった原因。それをゲッターは、有り余る力で起こしてしまったのだ。敵は空高く聳え立つ神。本来、空に放ったゲッタービームで地上を焼くなどあり得ない。あり得なかった。以前のゲッターでは。今までのゲッタービームなら、そこまでの出力はなかった。余熱の排出でこれほどまでのゲッター線が放たれることもなかった。だが、これは。
弁慶
「こんな力を使い続ければ……」
隼人
(本当に、これはゲッター炉心を変えただけでここまで変わるのか?)
隼人の脳裏によぎるのは、今ゲッターのメインコントロールを操る男の顔。
隼人
(竜馬が……ゲッターを強くしているのか?)
だが、だがそれでも。
多聞天
「ゲッターロボ……哀れなり!」
聳え立つ神に、その攻撃は届かない。ゲッタービームを霧散させ、多聞天は剣を抜く。そして、一振り。その衝撃がゲッターロボを吹き突ばし、ゲッターは大地へと激突する。
隼人
「クッ……!?」
竜馬
「っまだまだぁっ!?」
立ち上がり、再び多聞天へと飛びかかるゲッター。しかし、既にそこに多聞天はいない。代わりに現れたのは、青い神像……持国天。
持国天
「ゲッターロボ……ここで貴様を倒す!」
竜馬
「何ッ!?」
持国天の剣捌きは風よりも疾く、ゲッターが持つトマホークを弾き落とす。そして連続で繰り出される斬撃が、ゲッターを追い詰めていく。
竜馬
「チッ!?」
隼人
「スピード勝負なら俺が行く。竜馬、俺と変われ!?」
竜馬
「おう、オープン・ゲット!?」
瞬時にゲットマシンへと分離したゲッターは、さらに空高く飛ぶ。そして、
隼人
「チェンジ! ゲッター2!?」
右腕のドリルを回し、天から突き抜けるゲッター2と、持国天がぶつかり合う。2つ青が激突し、ドリルと剣が火花を散らす。
隼人
「うぉぁぁぁぁっ!?」
今、隼人の中にあるのは不安。恐れ。そして恐怖。竜馬が、竜馬だけがゲッターに選ばれた理由。それは竜馬が空知の言う、ユウシロウやミハルと同じ“嵬”だからなのか。それを確信できるものはどこにもない。しかし、それでは。
隼人
(俺では……俺ではダメだと言うのか! 俺ではゲッターの真理に、辿り着けないと!?)
それを認めるわけにはいかない。そんな隼人のプライドが、執念が、ゲッター2の力を更に引き立てる。
持国天
「……その驕りが、欲望が。全ての生命を呑み込む渦となる!」
次の瞬間、持国天の姿は禿頭の神像……広目天へと変化する。瞬時に自らの位置を入れ替える四天王の能力。ゲッターはそれに、翻弄されていた。
広目天
「爆ぜよゲッター……破ァッ!?」
広目天が経文を広げると、広がった経文がゲッターを縛り付ける。そして韻を結ぶ。すると雷鳴が轟き、轟音と共にゲッターの頭上に雷が降りかかる。その電圧は、あのグレートマジンガーのサンダーブレークすらも凌駕する。電熱
がゲッターを焼き、中のパイロットすらも襲う。
隼人
「うぉぉぁっ!?」
隼人が、竜馬が、弁慶が叫びを上げる。
鉄也
「隼人、弁慶、竜馬!? クソッ……!」
グレートマジンガーが走り、広目天へと迫る。しかし、次の瞬間広目天を庇うように現れる持国天。マジンガーブレードと持国天の剣が
激しく鍔迫り合い、そして突き放される。
持国天
「魔神の操り手。何故ゲッターを助ける」
鉄也
「何故かだと? 笑わせるな! 友を助けるために戦うことの何が悪い!」
刹那の会話。しかし、そこには剣鉄也という男の意地があった。
鉄也
「お前達が何者で、ミケーネとどんな関わりがあるかは棚上げだ! お前達が神であろうが、友を傷付けるのなら立ち向かうまで!」
剣戟の最中、グレートはブレストバーンを開放する。グレートの必殺技。メカザウルスとの戦いでは、森林への影響を考えて使えなかった。しかし、空高くに立つ神を前に……一人一人が間違いなく、暗黒大将軍以上の強敵である四天王を前に、出し惜しみはしてられない。
鉄也
「ブレストバーン!」
しかし、その熱は持国天へと届かなかった。持国天はグレートの攻撃を受ける直前、多聞天へと入れ替わる。そして、多聞天の周囲に突如発生した結界のようなものが、ブレストバーンを打ち消したのだ。
多聞天
「無駄だ。我らは神。お前達に勝てる道理はない」
鉄也
「いや、マジンガーは神にも悪魔にもなれる力。お前達が神ならば、グレートと俺の技もまた神に届く!」
誰もが、神という存在に圧倒されている中。
剣鉄也は戦う意志を失っていなかった。
広目天の振り上げる巨大な剣が、グレートを押しつぶすように迫り来る。しかしグレートはスクランブルダッシュでそれを振り切った。剣を振った衝撃で吹き起こった突風が、燃える木々を吹き飛ばしていく。
それは、もはや森羅万象そのものが脅威となり鉄也達に牙を剥いているに等しい暴力。
鉄也
「どうした、俺はここだ!?」
それでも、鉄也の闘志は衰えない。その姿勢が、偉大な勇者の背中が、仲間達を後押しする。
ショウ
「そうだ……。こんなところで、負けるわけにはいかない!」
エイサップ
「神様だからって、命を奪うのは悪行だ。それを許してはいけないんだ!」
トッド
「生憎、俺は典型的なアメリカンなんでな。信仰してる神様は1人だけなんだよ!」
ヴェルビンが、ナナジンが、そしてライネックが翔ぶ。聖戦士達のオーラ力を吸収し、オーラソードに光が走る。それを抑えたのは、持国天。
持国天
「聖戦士。“死の世界”と“生の世界”の調和を保つ者よ。既に事態はお前達の負える者ではないのだ!」
エイサップ
「俺は、そんな大それた存在じゃない。一人の人間、エイサップ鈴木だ!」
ナナジンの炎を纏うオーラ斬りが、ついに持国天の剣に届く。
エイサップ
「一人の人間として、俺はあんた達を斬る!」
その叫びを聞き、ライネックのトッドはニヤリと笑っていた。そして、オーラバルカンで持国天を牽制する。
トッド
「いい啖呵じゃねえか!」
エイサップ
「トッドさん……?」
トッド
「さっきは悪かったなエイサップ。お前は日本人、アメリカ人、聖戦士。それ以前にお前か。気に入った!」
トッド・ギネスのオーラ力が増幅し、持国天の攻撃をオーラバリアで防ぐ。神の一撃すらも、人の魂は受け止めることができる。それをトッドは……ショウ・ザマと同格の聖戦士は、自ら証明していた。
ショウ
「よし……トッド、オーラ力を合わせるんだ!」
そしてヴェルビン。ショウ・ザマは幾度となく剣を交えたトッド・ギネスの技量を誰よりも知っている。その操縦のクセも。だからこそ、普段マーベルとやっているのと同じように、トッドとも合わせることができる。ショウはそう確信していた。
トッド
「他人に指図するほど、歳を取ったのかよショウ!」
憎まれ口を叩きながらも、トッドはオーラバルカンで持国天を牽制しつつ、反撃の隙を与えず火力を集中させる。全てはヴェルビン……ショウ・ザマが斬り込む一瞬の隙を作るために。
持国天
「ぬ……ん!?」
ショウ
「このぉっ!?」
次の瞬間。ヴェルビンのオーラソードは輝き、そして大きく伸びたかのように持国天には見えた。オーラ力。人間の持つ生体エネルギーがそう見せているのだとわかっていても、それは神の所業。その域に人間が届きつつある証。
持国天
「やはり人間は……危険だ!」
ショウ
「それを決めるのが、お前達であるものかよ!」
チャム
「ショウ、やっちゃえぇぇぇぇっ!」
その瞬間、ヴェルビンの放ったオーラの力は確かに持国天に届き、その姿を斬り裂いた。青い神像が、虚像のように消えていく。
多聞天
「持国天!?」
鉄也
「余所見をする暇はないぜ!」
黄金の輝きを放つ多聞天。そこに再び迫り来るグレートマジンガー。魔神の拳が、空を裂く。
鉄也
「ドリルプレッシャー・パンチ!」
ドリルプレッシャー・パンチ。ゲッタードリルを参考に、アトミックパンチを改造した更なる力。元々超合金ニューZの塊でもあったアトミックパンチは、非常に強力な貫通力を持つ質量兵器だった。しかしこのドリルプレッシャーパンチは拳を守るように鋭角グローブ展開され、さらに回転を加えることでアトミックパンチ以上のパワーを与えている。その分、コントロールも難しい。だがそれを、剣鉄也は難なく使いこなす。
多聞天
「愚かなり……」
多聞天はそれを、再び結界のようなバリアで防ごうとした。しかし、鋭角の回転はそれを突き破り、多聞天の顔面へと迫り来る。
多聞天
「何と!?」
鉄也
「ドモン・カッシュとの修行の成果……伊達じゃないぜ!」
ドモンとの修行の中で、鉄也は学んでいた。相手の動きを見るということの重要性。自分でもわかっているつもりだったそれを、最強の武闘家でもドモンは自分の想像する遥かに上の次元で行っていたことを、鉄也は短い修行の中
見抜いていた。
鉄也
「お前の結界は確かに強固だ。だが、その発生から完成までにコンマ2秒を要するようだな!」
その2秒を狙った、直撃。それを鉄也はやってのけたのだ。
広目天
「おのれ人間……。だが!」
未だゲッターを拘束し、雷撃による攻撃を続ける広目天。その背後に迫る、ウルフのマーク。
アイザック
「キッド、出し惜しみはなしだ!」
キッド
「了解、ブライソード・ビーム!」
銀河旋風ブライガー。クールに決めるニクいヤツ。ブライソードの剣先から放たれた一条の光が、広目天に迫ります。
広目天
「ええい!?」
咄嗟にゲッターへの攻撃を中断し、巻物をブライガー相手に振り回す広目天。しかしそこはコズモレンジャーJ9。くぐった修羅場の数ならば、神の所業と言って差し支えない四人組。
アイザック
「キッド、コントロールをボウィーに回せ!」
キッド
「あいよ!」
巻物が届く直前、ブライガーの体積が急激に小さくなっていく。ブライスター。宇宙の星々を駆け抜けた万能航空形態に変化したブライガーは、脱兎の如きスピードで広目天の攻撃を避けていく。
ボウィー
「ヒュー! 久々にかっ飛ばしますよ子猫ちゃん!」
お町
「あら、いつでもトップスピードが飛ばし屋ボウィーさんじゃなくて?」
お町の茶々に「違いない違いない」と冗談めかしながら、スティーブン・ボウィーは突き抜けていく。ブライスターは広目天の周囲をうるさく飛び回り、煽るように駆け抜ける。飛ばし屋ボウィー。その真骨頂に広目天は振り回されていた。
広目天
「グヌヌ……おのれ!」
広目天の口から、青黒い墨のようなものが噴出される。しかし、その攻撃はブライスターに届かない。
槇菜
「やらせない……絶対に!」
ゼノ・アストラ。ゲッターロボに、骨嵬に恐れ慄いていた旧神はそれでも、槇菜の意志に応えるように立ち上がっていた。ゼノ・アストラのシールドが、広目天の攻撃を抑え込みブライガーを守る。
広目天
「旧神の巫女か。邪魔をするな!」
槇菜
「そんなの、知らない! ゼノ・アストラが何者で、私にどんな使命があるのか。その答えを私は知らないもん。だけど……!」
ゼノ・アストラの光の翼……セラフィムが輝きを纏い、広がっていく。破邪の翼。
槇菜
「私は、私の大切な人を守る。相手が神様だったとしても!」
広目天
「その狭い視野が、宇宙を食い尽くす悪魔を生み出すとしてもか!」
槇菜
「だとしても、それを食い止めるのは人間がやるべきなんです。ただの神様なんかが、口を挟まないで!」
槇菜の叫びに応えるように、ゼノ・アストラの瞳は赤く輝いていた。
…………
…………
…………
ドモン
「フッ……。鉄也のやつ、完全に迷いは晴れたようだな」
その戦いの様子を見上げながら、ドモンが呟く。ゲッターチームの出撃の後、ドモンとレイン、安宅、ミハルの4人はエンペラーへ帰投していた。そして格納庫から、仲間達の戦いを見守っている。しかし、その時間も終わりだ。
チボデー
「ヘッ、あのトッドってガキもなかなか根性据わってやがる」
サイ・サイシー
「オイラたちのガンダムも、出撃準備できてるぜ」
しかし、そんなドモン達を押し退けるようにしてエンペラーのカタパルトから射出されていく機体がある。鈴蘭のマーキングが施されたメタルフェイク。イシュタルMk-Ⅱだった。
ミハル
(ユウシロウ……)
言い出したのは、他ならないミハルだ。『ユウシロウを、止める』と。まだ、ミハルを完全に信用できているわけではない。しかし、彼女がユウシロウを止めたいとそう思っていることを、疑うものはいなかった。
ユウシロウは今も、荒れ狂う骨嵬の中で“神”を名乗る増長天と戦っている。しかし、骨嵬の影響で荒れ狂う今の状態は長く続かない。それをミハルはわかる。
ミハル
「ユウシロウ。あなたは…………!」
少女は、その鉄の身体で走り出す。変わらぬ運命などないと教えてくれた人の下へ。それがたとえ、お互いの持つ前世の記憶だったとしても。そこでたしかに、ユウシロウとミハルは出会っているのだから。
…………
…………
…………
ユウシロウ
「ハッ…………ハッ…………」
骨嵬。それが何なのか今もユウシロウは理解できずにいた。しかし、この中は不思議な心地よさがある。暑く、狭く、息苦しいそこはまるで胎内にも似ていて、内なる己を通して聴こえる声に耳を傾けることの安心感にユウシロウは身を委ねていた。
骨嵬
(懸首せよ……懸首せよ……)
目の前の敵を滅し、その首を掲げよ。そして都に、天下に轟かせるのだ。恐怖を。
ユウシロウ
「恐怖…………」
どこかで、声がする。懐かしい声が。声を背に受けながら、ユウシロウは“恐怖”を与える偽りの神に身を委ねていく。
増長天
「ム、ヌゥ……!?」
骨嵬
「……………………」
増長天の錫杖を押し込み、骨嵬は荒れ狂っていた。カタカタカタと歯を震わせ、嗤うように剣を振るう。まるで、恐怖を拡散するように。
増長天
「だが、その力こそがこの宇宙を滅ぼす。根源的な恐怖を生む!」
増長天の持つ錫杖から放たれる竜巻。それを受けて吹き飛ぶ骨嵬。しかし、それでも骨嵬は止まらない。
増長天
「人が作りし、人を喰らう鬼……。やはり人間は、滅ぶべし!」
“神”を名乗る黒竜は、明らかな侮蔑の眼差しを骨嵬に……それを作り出した人間へ向けていた。しかし、ユウシロウは止まらない。
骨嵬
「……………………」
ヤマト
「あれ、ユウシロウなのか……?」
ゴッドマジンガーの中で、火野ヤマトはその存在を感じていた。骨嵬。恐怖を呼び起こすもの。あんなものははじめて見た。だが、ゴッドマジンガーは知っているかのように、唸り声を上げている。
ヤマト
「マジンガー、お前は……っ!?」
あの“神”を名乗る四天王が現れてから、ゴッドマジンガーの様子がおかしい。まるで、“神”の言葉に同調しているかのような雰囲気すらヤマトには感じられる。瞬間、ヤマトの脳裏に映像が浮かぶ。それは、荒れ狂うゴッドマジンガーの姿だ。ムー王国の全てを破壊し、海の底へと沈めていくマジンガー。それは、あってはならなないことだ。
“ヤマト、人間は争いを繰り返す。融和や和解を拒否し、殺し合いを続ける”
マジンガーの声が、ヤマトに響く。
ヤマト
「今のは……だからお前は、ムー王国を沈めたのか?」
そんな記憶は、思い出はヤマトにはない。ならば、今のヴィジョンは何だ?
“宇宙は、繰り返し輪廻する。それはまるで螺旋階段を降りるように深く、深く続く繰り返し。今のは、そんな輪廻の一つ”
重く、静かなゴッドマジンガーの声。それはまるで、ヤマトに選択を迫っているかのように続く言葉を待っていた。それをヤマトは、心で感じる。ゴッドマジンガーは、最古のマジンガーだ。神の器に、人の心。ゴッドマジンガーを
通して、ヤマトは神にも悪魔にもなることができる。
ヤマト
「……マジンガー。俺の心は決まってる!」
だから、火野ヤマトは叫ぶ。
ヤマト
「俺の敵は、俺の愛する者を……アイラと生きる世界を奪おうとする全てのものだ! 例えが人間が間違った生き物でも、関係ねえ。アイラと、アイラが生きる世界を奪うものが神でも悪魔でも、俺は戦うぜ!」
ヤマトの叫びに応えるように。
再び、ゴッドマジンガーは金色に光り輝く。そして、神の咆哮が神なる者を恐れさせた。
増長天
「何、“光宿りしもの”か……!」
ユウシロウ
「……………………!」
そのゴッドマジンガーの輝きを、骨嵬の胎内でユウシロウは見ていた。怒れる神。それはまさしく、恐怖に他ならない。しかし、不思議なことにその咆哮にユウシロウは、恐れを抱かなかった。それは、骨嵬という“恐怖”の器に乗り込んでいるから感覚が麻痺しているのかもしれない。だが、ともかく。その一瞬骨嵬の動きはピタリと止まり、増長天の視線もゴッドマジンガーへと注がれることになる。
その一瞬の間に、骨嵬の前に躍り出るものがあった。
ミハル
「ユウシロウ…………!」
鈴蘭のマーキングが施されたメタルフェイク。戦場で出会い、銃を向け合った機体。それをユウシロウの眼窩は骨嵬を通して認識し、骨嵬はそれを敵と判断し、引き抜いた剣をミハルのメタルフェイクへと突き立てる。
ミハル
「…………ッ!」
骨嵬
「……………………」
ユウシロウの耳に、苦しみ呻くミハルの息遣いが聞こえる気がする。戦場で相対する時、二人はいつもこうだ。自分の息遣いも激しく、高揚していることがわかる。
ミハル
「呼び起こさないで……恐怖を」
必死に呼びかける声は、あの時と同じ。
ユウシロウ
(恐怖……)
その刹那、ユウシロウの脳裏に浮かんだのはいくつもの光景だった。今よりも遥か昔の日本……東京の夜空を、航空機が埋め尽くす光景。それは次の瞬間、東京の街は火の海と化していく。それをユウシロウは、知っている光景な気がした。炎。火。全てを燃やす劫火から連想された次なる光景は、火炙りにされる女性だ。神の啓示と嘯き、悪魔の教えを広めたとして断罪される聖女。その女性の顔を、ユウシロウは知っている気がした。
ユウシロウ
(ミハル…………?)
嗚呼、これが嵬という生き物か。ユウシロウは、空知の言葉を反芻する。前世の記憶を持ち、骨嵬を操る資質を持つもの。悲劇はいつの世も、恐怖によって呼び起こされるのだろう。そして、その引き金こそが嵬。恐怖。人の根源的感情。恐怖は悲劇を生み、惨劇を繰り返す。だからこそ、“神”は恐怖を生み出すものを許さないのかもしれない。
だが、だがそれでも。
ユウシロウ
「恐怖とは……」
骨嵬は剣を引き、ミハルの前から一歩後ずさる。そこに、今までのように荒れ狂う姿はない。
ユウシロウ
「恐怖とは、人が人の意志で乗り越えるもの」
ミハル
「ユウシロウ……?」
目の前の少女が、自分が。嵬と言われる何かであったとして。“恐怖”を呼び起こすものだとして。人が人であるならば、乗り越えられぬ恐怖などないはずではないか。ユウシロウの心は、恐怖に勝るものを手に入れそして今、“恐怖”そのものとでも言うべきものを操っている。
ユウシロウ
「骨嵬は人が作り出した、恐怖を呼び起こす器。だが、人が作ったものならば……」
骨嵬は、ユウシロウは走り出す。手に携えた剣は仄かに緑色に輝いている。それがゲッター線の光なのかどうか、ユウシロウにはわからない。だが、しかし。
ユウシロウ
「運命とは、人が人の意志で切り拓くものだ!」
既にユウシロウの心は、決まっていた。
骨嵬は、TAとさほど変わらぬほどに小さい。“神”たる増長天とは比べ物にならないほどに。しかし、人工的にそれを再現しようと作り上げられたTAよりもはるかにその動きはしなやかだった。TAではできない立体機動。それをユウシロウは、己の意志でやっている。骨嵬より遥かに大きい増長天を前にして、骨嵬はその剣を“神”の腹部へと突き立てる!
増長天
「グゥァァァァァァッ!?」
増長天の呻く声が、耳に響く。そして、ゴッドマジンガーもまた“神”へと剣を振り下ろす!
ヤマト
「そうだ! 人は人の意志で、困難を乗り越えられる。お前らの判断で、可能性を潰されてたまるかよ!」
増長天
「まさか……。骨嵬に、ガサラキに同化されずに……己の意志で骨嵬を操ったと言うのか……」
ユウシロウ
「たとえ神であろうが、己であろうが、俺は屈しない」
神と鬼。二つの剣が重なり合いそして、増長天の黒き神体が二つに裂かれていく。
増長天
「まさか、このような……!」
黒い身体が霧散していく。倒した。そんな手応えをユウシロウは確かに感じていた。
…………
…………
…………
広目天
「持国天、増長天…………!」
多聞天
「やはり、人間は危険すぎる……。そして、ゲッター線は……!」
残る二柱の“神”。広目天と多聞天は、“神”すら打ち砕くその力に戦慄を覚えていた。広目天の前にはブライガーとゼノ・アストラ。多聞天の前にはグレートマジンガーとそして、ゲッターロボ。さらに持国天を倒したオーラバトラーが、神々の前に迫る。
竜馬
「ヘッ、ユウシロウの奴やりやがったか!」
隼人
「喜んでる場合じゃねえぞ。竜馬!」
竜馬
「わかってらぁっ!」
黄金の多聞天は、明らかに他の神よりも格が違う。おそらく、奴こそが四天王のリーダーなのだろう。竜馬は動物的な勘でそれを見極め、多聞天に攻撃を集中していた。広目天と多聞天が互いに入れ替わろうにも、どちらにも張り付くようにスーパーロボットによる攻撃が降り注ぐ。故に多聞天は、ゲッターを自ら迎え撃つことに決定していた。
多聞天
「愚かなり。その傲慢が……恐怖すら支配できるという傲慢が、鬼を生んだ!」
隼人
「鬼、だと……!」
ゲッタートマホークを指先で受け止めながら、多聞天は叫ぶ。
槇菜
「鬼…………」
忘れもしない。あの日のことを。岩国に突如現れた鬼としか言いようのない化け物。槇菜の日常を奪った怪物を。
多聞天
「そう。鬼とはゲッター線の促す進化の袋小路で淘汰された生命。まつろわぬもの。ゲッターが、人類がある限り、鬼のようなものが生まれ続ける。だからこそ!」
だからこそ、人類はここで滅ぼさねばならない。多聞天は指先に力を込め、ゲッターを放り投げた。しかし、
竜馬
「大層なこと抜かしてんじゃねえ! てめえらは要するに、ゲッターにビビってる肝っ玉の小さい小物じゃねえか!」
そんな理屈。流竜馬には関係なかった。力任せのゲッタートマホークが届かないならば、今度はトマホークブーメランで。それでもダメならゲッタービームで。立ちはだかる壁を前に竜馬が行く。
弁慶
「竜馬、お前……!」
隼人
「新型炉心の影響なのか……!?」
ゲッター1の戦いぶりは、まるで無茶苦茶だった。強い。ひたすらに強い。だがこの強さは。
多聞天
「…………哀れな」
竜馬
「てめえが何者だろうが関係ねえ! 俺は、俺は! 俺は!」
竜馬の脳裏にあるのは、無数の戦いの記憶。自分の20年余りの生涯では決して体験できぬ戦い。あらゆる時代、あらゆる宇宙。あらゆる世界を流竜馬は見ていた。そして、常に竜馬の眼前には戦いがあった。
竜馬は今、自分自身と戦っている。自らの記憶の中にある“恐怖”と。それに比べれば、“神”など恐れるに足らず。
隼人
「冷静になれ、竜馬!」
弁慶
「どうしちまったんだ!?」
ゲットマシンの中で、隼人と弁慶が叫ぶ。だが、届かない。周囲への被害などお構いなしに放たれるゲッタービームが、空気をイオン化させていく。
鉄也
「竜馬、どうしたんだ!?」
エイサップ
「これじゃ……ダメだ!」
槇菜
「竜馬さん……!」
そんな中、静かに動き出そうとしているものがあった。ゲッターエンペラー。その巨体が唸りを上げ、上昇していくゲッター戦闘艦。その艦首に、よろよろと現れた早乙女博士。博士は静かに艦長席へ座り込むと、ジャガー号、ベアー号へ通信を入れる。
早乙女
「…………隼人、弁慶」
隼人
「!? 早乙女……」
早乙女
「竜馬は今、自らの記憶に……ゲッターの記憶に取り込まれようとしている」
弁慶
「何だと!?」
驚愕する弁慶。しかし隼人は憎悪の目を剥き出しに早乙女を睨め付けていた。
隼人
「早乙女……お前は、竜馬の秘密を知っていたのか!?」
竜馬がゲッター線に選ばれていることは、隼人も承知していた。しかし、選ばれすぎている。そして、豪和の蔵で見せた反応。それらの辻褄を合わせることができるとしたら、答えは一つ。
骨嵬とゲッターロボは同じルーツを持つものであり、竜馬こそが嵬であるということ。
早乙女
「全ては知らなんだ。だが、予感はあった」
全く悪びれずに、早乙女は言う。
早乙女
「いいか隼人、弁慶。これよりエンペラーのゲッターエネルギーを、ゲッターと一つにする」
隼人
「何っ!?」
かつて、晴明を倒した時と同じ。エンペラーのゲッター線を浴びたゲッターは、爆発的な力を発生させ本来ならば存在しない機能・シャインスパークで晴明を葬り去った。新型炉心に換装された今のゲッターならば、あの時以上のパワーを発揮するに違いない。だが、
弁慶
「今の竜馬に、そんな量のゲッター線を与えたら……!」
何が起こるかわからない。しかし、だからこそと早乙女は言う。
早乙女
「竜馬の心を引き留められるのは、お前達だけだ。隼人、弁慶。任せたぞ」
それだけ言って、早乙女からの通信は一方的に切れる。そしてゲッターロボの後方に、超高密度のゲッターエネルギー。エンペラーが、ゲッター線のチャージを開始していることを告げるアラートが鳴り響く。
竜馬
「俺は! 俺は!! 俺は!!!」
そんなことはお構いなしに、竜馬は、ゲッター1は多聞天へと殴りかかっていた。多聞天はしかしそれを受けて尚まるで動じず、冷静にゲッターの攻撃を受け流していく。
鉄也
「クッ、これじゃあ援護に入ることもできん!」
獰猛すぎるゲッターの全身の動きもそうだが、多聞天はまるで隙を見せていない。迂闊な攻撃をすればフレンドリーファイアは免れられない。鉄也が舌打ちする。せめて、竜馬に連携する意思がなければと。
隼人
「こうなったら、覚悟決めるぞ弁慶」
弁慶
「ああ。…………南無三!」
合唱し、弁慶も肝を据える。それと同時、エンペラーから高出力のゲッタービームが放たれた。それを背に受け、吸収していくゲッターロボ。ゲッターの全身が、緑色に輝いていく。
ユウシロウ
「竜馬さん……!」
ショウ
「馬鹿な、何をする気なんだ!?」
誰もがその、不可解な行動に目を奪われていた。
竜馬
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!?」
エンペラーの放つ多量のゲッター線を浴びながら、竜馬は叫ぶ。今竜馬はまさに戦っている。自分自身の記憶と。ゲッター線と。運命と。
運命の終着点。竜馬はゲッターロボとひとつになっていた。ゲッターと共にどこまでも、どこまでも新しい戦場を駆け抜けていく。終わることのないサバイバル。魂の記憶。赤い血が求める欲望。意識を越えた先にあるもの。それは本能。怒りさえ喜びへと変わる。そこにあるのは無限の闘争。こんなに気持ちのいいものはない!
戦う意味など知らず、衝動のまま。それこそが生きるということ。そんな世界を見せられ……否、魅せられていた。だがこれほどまでに渇望するものを目の前に出されながらも竜馬の心はしかし、抗っていた。ゲッターの力で得られる無限など、それは本当に竜馬自身が求めているものなのか。
竜馬
「俺を…………舐めんじゃねぇぇぇぇぇっ!?」
否。断じて否。与えられた戦場など意味がない。ゲッターが、竜馬を介して何かをしようと言うのならばゲッターすら竜馬の敵だ。そして、一方的な尺度でこちらを悪と断罪する神など以ての外。だから竜馬は歯を食いしばり、エンペラーのゲッター線を浴びより強大に進化していくゲッターの力に溺れながら、抗い続けていた。抗い、抗い、抗いそして……。
弁慶
「クッ……!」
隼人
「取り、込まれるな……」
隼人・弁慶
「竜馬!!!!!」
共にエンペラーの光を浴び続ける友の、声を聞いた。
竜馬
「…………!?」
それと同時、これまでただ乱雑に荒れ狂っていたゲッターの動きがピタリと止まる。まるで、我に返ったかのように。
槇菜
「ゲッターロボ……?」
一瞬、死んだのかと槇菜は思った。だが、違う。そこにある命の煌めきはまるで衰えることなく、今も真っ赤に燃え続けているのだから。
多聞天
「ゲッター線との同化を意図的に促し、力を増幅させているのか……」
広目天
「なんと、愚かな……!」
やはり人間は、ゲッターは滅ぼさねばならない。このような蛮行を許してはならない。多聞天の持つ剣が高々と掲げられたその時だった。エンペラーのゲッターエネルギーを浴び、膨大なゲッター線の本流を受けながらも突き進み“神”へとにじり寄っていく。
竜馬
「へっ……。おい隼人、弁慶! 起きてるだろうな!?」
その中にはたしかに。流竜馬という男一匹。
隼人
「竜馬!」
竜馬
「へっ……。てめえらが大声出すもんだから、起きちまっただろうが!」
弁慶
「けっ、口の減らねえ野郎だぜ」
罵り合いながらも、ゲッターの操縦桿を握る3人の呼吸は完全に合っていた。故に、エンペラーの放つゲッター線の光をゲッターロボは完全に吸収して、多聞天へと突き進む。
竜馬
「隼人、弁慶。ペダルを踏むタイミングを合わせるぞ!」
隼人、弁慶
「おう!」
そう。たとえ竜馬がゲッターに選ばれた血を持つ男であったとしても。ゲッターロボとは三つの心がひとつにならなければ真価を発揮できないマシンなのだ。全身を緑色の輝きに包んだゲッター1。その全身はまさに、ゲッター線そのものといっていい。
自身を巨大なゲッターエネルギーの塊へと変換させての体当たり。その熱量を持って起こすビッグバン。その名は!
竜馬
「シャィィィィン・スパァァァァァック!!」
それを正面に受けた多聞天。今までずっと表情を変えなかった“神”はこの時、はじめて表情を苦痛に、苦悶に歪める。そして、
多聞天
「ぬぅ、ぬぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
天地を揺るがすほどの絶叫が、鬼哭石の里全体に響き渡る。“神”の怨嗟、慟哭、驚愕。それらを突き抜けるほどの、男達の叫び声。
多聞天
「この力! この力が宇宙を喰らい尽くす! ゲッター、お前は……!」
竜馬
「黙りやがれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
多聞天を突き抜け、ゲッター線が爆発する。圧倒的な力。それは“神”すらも飲み込み破裂した。だがゲッターの放出する圧倒的な熱量。それは多聞天だけでなく、その場に生きる全てのものに降り注がれる。
鉄也
「こ、これは……!」
ゲッター線の光を受けて、グレートが異常をきたしている。コントロールが効かない。このままでは不味い。それを鉄也は悟る。まだ、勝敗は見えない。しかし、それを見届ける前に自分の命すら危うい状態にある。
槇菜
「ゼノ・アストラ……!?」
ゼノ・アストラが何かを伝えようとしている。それを槇菜は狭い子宮の中で感じていた。ゼノ・アストラ。古くを生きる者達から“旧神”と呼ばれるもの。それは骨嵬を、ゲッターを知っている。そして、ゲッターの目覚めを恐れている。それを槇菜は、旧神の巫女は託宣される。だが、槇菜は巫女である以前に一人の少女であり、ゼノ・アストラは神である前に槇菜の相棒だった。少なくとも槇菜はそう信じ、そう信じて行動する槇菜に、ゼノ・アストラは応えてくれる。
槇菜
「うん、やるよ。ゼノ・アストラ……!」
セラフィムを全開にして翔ぶゼノ・アストラは、ゲッターとエンペラーの背後を取る。翼をはためかせ、飛び散る羽根のひとつひとつ。それが、降り注ぐゲッター線を吸収していた。
早乙女
「…………」
ミチル
「ゼノ・アストラが、ゲッター線を受け止めている?」
もし、このゲッター線がすべて放出されれば鬼哭石の里は大惨事となるだろう。それは、ユウシロウの心にある故郷が焼かれるということだ。誰かの故郷が焼かれるのを、槇菜はもう見たくはなかった。その思いに応えるように、ゼノ・アストラは余剰のゲッターエネルギーを吸収していく。
広目天
「愚かな、そんなことをすれば貴様が同化される!」
槇菜
「か、まう……もんか!」
ゼノ・アストラを包む黒い鎧が、次第に焼けて溶け始めているのを槇菜は感じていた。それに合わさるように、セラフィムは大きく広がっていく。ゲッター線の光を浴びて燃え、そして大地に落ちる前に燃え尽きていく羽根の一枚一枚。槇菜は今、全身でゼノ・アストラの痛みを感じている。それでも。
槇菜
「これは私が……私の意志で決めた戦いなんだ!」
誰かを守るための戦い。心を守るための戦い。滅ぼすことだけが、倒し倒されることだけが戦いではないと槇菜は知っている。ゼノ・アストラが与えてくれた盾はそのためのものであり、翼はその意志をどこまでも広げてくれるのだから。
エイサップ
「槇菜、ひとりでは無茶だ!」
そんなゼノ・アストラに続くように、ナナジンが翔ぶ。脚部から展開される翅がゲッター線の光を遮り、エンペラーとゲッター、そして“神”の領域を塞ぐように壁を作る。
槇菜
「エイサップ兄ぃこそ、無茶しないで!」
エイサップ
「無茶でもなんでも、やらなきゃいけないことなんだろ!」
ナナジンの装甲表皮が、ゲッター線を浴びていく。それを受けてエイサップの履く靴が、リーンの翼の沓が何かを感じたかのように、蝶のような翅を広げていく。
エレボス
「エイサップ!?」
エイサップ
「リーンの翼が!?」
何が起きているのか、エイサップにもわからない。いや、わかるものなどこの場にはいなかった。ゲッターとエンペラーの放つゲッター線の奔流。それを外へ漏らさぬよう、羽根を広げるゼノ・アストラ。そして、ゲッター線を吸収して発現するリーンの翼。
多聞天
「これは、路が拓くか……!」
爆発の中多聞天がそう呟いた次の瞬間、鬼哭石の里を包み込むようなオーロラの光が、大地と空の狭間より伸びる。その光景を槇菜は、ショウは、エイサップは知っている。
ショウ
「これは、オーラロード!?」
槇菜
「また、呑み込まれる…………!?」
エイサップ
「リーンの翼が……いや、それだけじゃない。何かがオーラロードを開いたのか!」
ミハル
「何……この光?」
ユウシロウ
「……俺達を、誘っている?」
もし。もしオーラロードを拓いたものがここにいるとすれば。
エイサップ
「こうなったら、覚悟を決めるしかない!」
聖戦士の羽根だろうか。
槇菜
「うん。前の時だって戻れたんだ。今度だって!」
旧神の巫女の、祈りだろうか。
早乙女
「…………」
それとも。
竜馬
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁっ!?」
宿命を前に戦い続ける。男達の叫びだろうか。
答えを知るものは、どこにもいない。
だが、その光が全てを飲み込み、御伽噺の世界へ人を誘うことを誰もが知っている。
全てを呑み込む光はやがて大きくなり、そして……。
…………
…………
…………
その光が収まった時、鬼哭石の里で戦いの意志を持っていた全てのものは、その光の中に消えていた。それを蔵の前で見守る男が一人。
空知
「……ユウシロウ」
ユウシロウと骨嵬もまた、オーラの輝きの中に消えていった。それもまた、彼の運命なのだろう。空知は一人、石舞台のある屋敷へと戻る。何事もなかったかのように。
それから数時間の後、一人の少女が空知の下を訪ねる。黒髪を長く伸ばした美しい、しかしまだどこか幼さの残る顔立ちの少女だった。
美鈴
「……おじさま」
豪和美鈴。豪和の末娘であり、ユウシロウの妹。美鈴がひとりでここにくるとは珍しい。そう思ったが空知は、なにも言わなかった。ユウシロウを心から慕う彼女がここに来た理由など、聞くまでもない。
空知
「……ユウシロウ様は、旅に出られました.ご自身の、誠を求めて」
だから静かに、空知はそう応える。
美鈴
「……おじさま。お兄様は本当に、私の兄なのでしょうか」
美鈴は、ずっと心のどこかで燻っていた疑問を吐き出した。もし、兄ならば。なぜユウシロウにこうまで心ときめいてしまうのか。美鈴はずっと、それが疑問だった。血の繋がった兄を思慕する。それは当然だとずっと美鈴は思っていたがしかし、この気持ちは兄への思慕だろうかと。
空知
「あなたのお兄様、本物の憂四郎様は8年前に実験中の事故で亡くなっています」
そんな美鈴を哀れに思いながらも、空知は正直に告げることしかできなかった。
空知
「今のユウシロウ様は替わり身。豪和一千年の野望のため、生前の憂四郎様の記憶をある人物に転写したのです」
これは、ユウシロウにも告げることができなかった真実。それを空知が……本当のユウシロウの祖父である空知には、伝えることができなかった真実。
美鈴
「わ、私は……」
美鈴の頬に、雫が溜まっているのを空知は見た。だが、どうすることもできない。
美鈴
「お兄様が何者であろうと、私は私の真を貫くのみです……」
そう言う美鈴を、強い娘だと空知は思った。そして、空知は月を見やる。幾千年もの間、月は人の営みを見下ろしてきた。この愚かな営みに月はなにを思うのだろう。
空知
(二人の……いや、三人の嵬が出会ってしまった。これも運命だと言うのか。ユウシロウ……お前は私の孫である以前に、嵬なのだ。私には、見送ることしかできぬ……)
夏の月は高く、高く……星の近い夜空が、光に消えた者達を探しているように空知には見えていた。
…………
…………
…………
—科学要塞研究所—
ゲッターエンペラーロストの報告を受けたその直後、兜剣蔵博士は月でアルカディア号をロスしたとの報告を受け頭を抱えていた。
剣蔵
「なんと言うことだ。鉄也……」
葉月
「兜博士、嘆いている場合ではないようです」
サイボーグの剣蔵以上に冷徹にしている葉月博士もしかし、内心穏やかではないだろう。研究所に残っているジュンやボス、ローラ、それに特自の面々への示しもある。ここで弱気な顔をしていられないことは、剣蔵自身もわかっていた。
剣蔵
「ああ。まさかこのような形で動くとはな。エメリス・マキャべル……」
今、剣蔵と葉月が見ているモニターには、ひとりの恰幅のいい男が堂々と、演説していた。その声には、強さがある。人を従わせてしまう強さだ。エメリス・マキャベル。パブッシュ艦隊の創立者。
…………
…………
…………
—西田の屋敷—
西田
「まさか、このような手に出るとは……」
広川
「ええ。編入させた櫻庭中尉とも連絡が取れません……」
西田啓が、“ゴッドマザー・ハンド計画”に賛同したのは、それが最も効率よく世界を変えることのできる手段だと思っていたからだ。しかし、西田はマキャベルという男を見誤ったのかもしれない。そう、内心で歯噛みする。
西田には目が見えない。しかし、その分本質を見抜く“目”がある。それを持ってしても見抜けなかった。或いは。
西田
(力を手に入れて変わったか。マキャベル……)
…………
…………
…………
—クイーン・エメラルダス号—
女海賊エメラルダス。キャプテンハーロック、大山トチローと友誼を交わした美女は今、独立部隊バンディッツと協力関係にあった。バンディッツの当面の目的。それはミケーネ帝国火山島基地を発見すること。そして発見次第ゲッターエンペラー、アルカディア号と合流し総攻撃をかける。その時トチローと再会するのをエメラルダスは内心、楽しみにしていたのだ。しかし、
エメラルダス
「この男……正気なのですか?」
ブロンドの長髪に切長の瞳。そして顔に大きな傷を持ちながらもその美貌に一切の損ないを持たない美女・エメラルダスは忌々しげにその放送を眺めている。脳裏に過るのは、あの侵略者イルミダス軍だ。人々の自由を奪い、隷属させる支配者。今モニタに映る男……エメリス・マキャベルからはそれと同じ匂いがする。
アラン
「…………パブッシュ艦隊。裏で動いていた真相はこれか」
キンケドゥ
「こいつは……」
アラン・イゴールとキンケドゥ・ナウも、その放送に目を細めていた。
アレンビー
「なにさ、まるでコロニーの人間がみんな悪者みたいじゃないか!」
キラル
「少なくとも、あの男の目にはそう映っているのだろう。我々がガンダムファイトで齎した破壊を考えれば……無理もありますまい」
盲目の男キラル・メキレルが言う。しかし、それを認めることは断じてできない。ゴーグルの奥に隠された心眼が、そう言っていた。
…………
…………
…………
—太平洋上/パブッシュ艦隊—
アレックス
(これで、いいのだろうか……)
アレックス・ゴレム大佐は今、迷いの中にあった。エメリス・マキャベルの全世界放送。威風堂々と演説するマキャベルの傍に整列しながらもアレックスの脳に過っているのは、逡巡だ。
月面で木星軍残党が起こしたダインスレイヴキャノンによるテロ。これは明らかに地球への利敵行為だ。しかし、今マキャベルが演説するそれは口実でしかないことをアレックスは知っている。
マキャベル
「——然るに、宇宙コロニーに住む連中は地球に価値があることを理解している。広く、自然豊かで、文化に溢れる星は地球を置いて他になく、コロニーや月ですらその代用は望めないからだ! にもかかわらず宇宙に住む者達は地球を代理戦争の場として使い、あまつさえ地球が抱える問題に対しては棚上げしてばかりである! 責任を持たず、利用する。それは侵略以外の何者でもないと私は考える。そう、ガンダムファイトとは地球への国際テロに他ならないのだ! 故に、我々パブッシュ国は、地球の鎖国を宣言するものである! 宇宙から地球を支配する時代は終わりを迎える。もしそれを断ると言うのならば、パブッシュの軍事力……そう、旧世紀。今コロニーでのうのうと暮らす者達の祖先が後先考えずに作り出した核弾頭を以て応える所存である!」
未来世紀62年8月。夏の暑さは今ピークに達しようとしていた。
次回予告
みなさんお待ちかね!
月で行方を眩ましたアルカディア号。そして鬼哭石の里でオーラロードに消えたゲッターエンペラー。彼らがたどり着いたのは無数のロボット達の残骸が朽ち果てる、廃棄場のような世界でした。
バイストン・ウェルでの戦いで此方に飛ばされてしまったオウカオー、マスターガンダムと協力し脱出を試みる槇菜達。しかしそこに、再び邪霊機の少女が襲い掛かるのです! 絶体絶命のピンチ!
そして、少女の秘密と共に解き明かされる世界の謎!
果たしてリーンの翼とは、旧神とは!
次回
「EX MACHINA」に、レディ・ゴー!