スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第24話「EX MACHINA」

 少女は思う。みんな、死ねばいいのにと。

 炎ような赤い髪を長く伸ばし、血のような緋い瞳を持つ少女。ライラと名付けられたその少女の中に渦巻くのは赫赫ととした憎しみの焔。絶望の吐息。邪霊機に取り込まれたその日から、消えることのない炎こそが、少女の糧だった。

 月の静寂を破るような愚かな行為を働くのだから、やはり人間などという生き物は滅ぶべくして滅ぶのだ。そして、何もない虚無の世界だけが残ることこそ、救いなのだ。少女は暗闇の中……邪霊機の胎内で瞳を閉じ、強く思う。

 邪霊機。その中で少女はまるで、磔にされているかのように両手両脚を伸ばしている。それは、ここが罷り間違っても子宮などではないことを意味していた。

 あえて言うのならば、処刑台。これから火刑に処されるものの姿。見るものに炎を思わせるほどの赤い少女は、そういう姿勢でいる。それこそが、少女の本来の姿だった。簡素な赤い襤褸を纏い、これから火刑に処される魔女。或いはその炎を、世界へと向けるもの。

 ライラは思う。やはり人類の歴史は終わるべきだと。

 ライラは思う。やはり輪廻など、あってはならないと。

 ライラは思う。ここまで人を憎めてしまうのは、自分がもう人ではないからなのだろうかと。

 だが、そんな疑念疑問はすぐに朱い憎しみに燃やし尽くされ、灰も残らない。それが、邪霊機アゲェィシャ・ヴルの贄となった少女・ライラのさだめだった。

 

ライラ

「……ッ、ァ……ッ!」

 

 邪霊機が、邪神と呼ばれるものが、ライラを呼んでいる。全身に迸る焼けるような痛み。それは、この宇宙に木霊する断末魔の悲鳴そのもの。

 今日もどこかで人が死んだのだろう。寿命や病気などではない。生まれた命が次の命へとバトンを渡す為でもない。ただの無意味な死。ライラがこの姿を手に入れた旧世紀の1941年12月。その日から今日までずっと、ライラを焼き続ける痛み。ワーラーカーレンへ還ることもできず、永遠に苦しみ宇宙に漂い続ける無念の命。その断末魔を少女は、一身に背負い続けていた。

 

ライラ

「こんな……痛み。苦しみ……」

 

 なくなってしまえばいい。世界や宇宙などという器ごと。痛みに悶え苦しみながら今も少女は、地獄の劫火を心に燃やしつづていた。

 新しい輪廻など、いらない。それは再び魂を、地獄の苦しみに満ちた現世へ送り届けるということなのだから。人類という種の根源に“恐怖”という感情と、それ故に手放すことのできない業がある限り、この痛みは消えることなどないのだから。

 

ライラ

「消えてしまえばいい……」

 

 だから、今度こそ。

 髑髏のような眼窩と鴉のような翼を持つ赫い機体……邪霊機アゲェィシャ・ヴルの瞳に、暗い光が宿った。それと同時、アゲェィシャ・ヴルの隣に傅くように待機していたニアグルースも立ち上がる。

 

紫蘭

「…………」

ライラ

「心配、してくれるの……?」

 

 そんなことはあり得ないとわかっていながらも、ライラは呟いた。紫蘭の何も映さないはずの瞳の中に、仄かに優しさを感じたからだ。それは、無念の死を遂げた者同士の憐憫なのかもしれない。今まで蘇らせたリビングデッド達……シャピロ・キーツやザビーネ・シャル、ミケロ・チャリオットらと違い意識そのものが死んでいる紫蘭は、ライラに従順だった。物言わぬ骸でしかない紫蘭が、心強く……側にいるだけで温もりを感じてしまう。それは或いは、邪霊機の贄として巫女となったライラの中に残る少女性の現れなのかもしれなかった。

 だが、そんなものはどうでもいい。

 重要なのは、これからライラが為すべきことだ。

 この宇宙を終わらせる程の業火があるのならば、それは創生から……いや、かつて存在し今は消えた宇宙の数々においても燻り燃え続ける魂を焦がす灼熱に他ならない。

 今こそライラは、灼熱となるのだ。

 ゲッター線。ガサラキ。シャッフル同盟。リーンの翼。それに旧神。そんな者たちを纏めて焼き払い、しまいには宇宙すらも終わらせ輪廻の円環をも灰にする。そのために、戦うのだ。

 

 そうして、暗闇の世界を2機の邪霊機は翔ぶ。ここは輪廻の墓。幾度となく繰り返された“厄祭戦”の行き着く場所。そして、無数の宇宙の分岐の中で死んだ世界の廃棄物が辿り着く世界。

 ライラは全ての因果の糸を、この場所に集結するように仕組んだ。オーラロードを歪め、魂の辿り着く場所を書き換えた。

 だから、ここには今ライラが倒すべき全てのものが集結している。

 

ライラ

「フフフ……待っててね。全部壊してあげるから!」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—オーラロード—

 

ショウ

「クッ……。みんないるか!?」

 

 オーラロードに呑み込まれ、海と大地の狭間を泳ぐ。この感覚は何度経験しても、気持ちのいいものではない。最初は本当に、訳がわからなかった。しかし既に2回、3回とそれを経験しているショウ・ザマはオーラ光の中でも意識を保ち、仲間達を誘導する。ショウの声を聞き、仲間達は互いに所在を確認し合っていた。

 

槇菜

「全員、います!」

竜馬

「だが、あの神気取りの野郎共がいねえ……!」

 

 どこに行きやがった。そう言って獰猛な視線をギラつかせる竜馬。しかし、今はそれどころではない。ゲッター1の腕をブライガーが掴み、敵を求める竜馬を引き止める。

 

キッド

「ちょい待ち竜馬さん。こんなところではぐれたらヤバいって」

アイザック

「ここはエンペラーに帰投するべきだ」

竜馬

「チッ……わかったよ」

 

 正論を吐かれ、渋々了解する竜馬。しかし、どこまでも続く極光と波の音はどうしても心を騒つかせる。

 

エイサップ

「この道は本来、生きた人間が通っちゃいけない道なんだ……!」

 

 エイサップ鈴木の履くリーンの翼の沓は熱く、熱を伴って輝いていた。翅が切り拓いたオーラロード。それが何を意味するものなのか、知るものはいない。まるでオルフェウスの冥府下り。魂の修練の場でもあるバイストン・ウェルは、本来肉の身体に包まれたものが迷い込んではいけない世界。このオーロラ光と、生命の原初を連想させるヴィジョンは物質世界に生きるエイサップにすら、否が応でもそれを感じさせてしまうものだ。

 

槇菜

「だけど、この感じ……前に通ったオーラロードと違うよ」

 

 そんな中、槇菜は漠然とした不安感に苛まれていた。じんわりと滲む汗が冷たい。ゼノ・アストラの全力を解放すればするほど槇菜の体力は吸い取らせ、しかし意識は鋭敏に研ぎ澄まされていく。マラソン選手が感じるランナーズハイに似た感覚だが、そこに恍惚感はなかった。

 

ドモン

「ああ。この先には何か、どす黒いものを感じる」

 

 ドモン・カッシュの格闘家としての神経も、それを肯定する。その時だった。オーロラ光がさらに強くなり、濁流が押し寄せる。濁流は飛沫を上げて、その中からマシンが姿を現すのだった。

 

東方不敗

「ぬぅ!?」

サコミズ

「こ、ここはオーラロードか!?」

 

 マスターガンダムと、オウカオー。先ほどまで剣と拳を交え合っていた両機。

 

リュクス

「父上!?」

ドモン

「師匠!?」

 

 それは、あまりにも突然の再会だった。オウカオーは即座にマスターガンダムから離れると、前方を飛ぶナナジンの存在を認める。

 

サコミズ

「それはナナジンの鈴木君か!」

エイサップ

「サコミズ王こそ、どうしてこんなところに!」

サコミズ

「オーラロードを突き抜けるための、リーンの翼なのだ。そうであろうが!」

エイサップ

「それはそうでしょうが!」

 

 機体同士が触れ合う距離で、口論を始めるエイサップとサコミズ王。叫んでいる言葉はどこか要領を得ていないが、空気で何を伝えようとしているのかを感じている。そんな会話だった。

 

エイサップ

「だいたい、どうして王の下にリーンの翼があるんです!」

 

 今、リーンの翼の沓を履いているのはエイサップ鈴木に他ならない。そうでありながらサコミズ王のオウカオーも、オーラの翅とは別に光の翼のようなものを脚から顕現させていた。エイサップには、それはリーンの翼だとわかる。

 

サコミズ

「リーンの翼のサンダルは、形見なのだ!」

エイサップ

「サンダル? 形見って何よ!?」

 

 エイサップは、知らない。今サコミズは履いているこのサンダルは、若き日……アマルガン・ルドルと共にヘリコンの地を平定していく中で出会った女王、リンレイ・メラディから譲り受けたものであると。そしてリンレイは、アマルガンの凶刃からエイサップを庇い命を燃やし、そのサンダルの翼の中に還って行ったことを。実の娘であるリュクスや後妻のコドールですらこのサンダルのことは知らないのだ。それを地上人の婿が知るはずもない。だが、それは本筋ではない。

 

サコミズ

「エイサップ鈴木君! ホウジョウの婿になる話は、考えてくれたか!」

エイサップ

「そんな場合ですか今は!?」

 

 そんな、感情だけで叫び合うような会話を続けるエイサップとサコミズ王。二人の履くリーンの翼の沓は近く、ナナジンがオウカオーの足を小さく蹴る。その瞬間、二機の翅が突如としてさらに大きく開いていくのを、ゼノ・アストラの中で槇菜は見た。

 

エイサップ

「これは……!?」

サコミズ

「ぬ、うぉぉぉぉっ!?」

 

 二対四枚の翅が広がり、ナナジンとオウカオーを包んでいく。エイサップとサコミズ王。二人の聖戦士はそのまま光の球となりそして、まるでシャボン玉が弾けるようにしてその場から霧散してしまうのだった。

 

槇菜

「エイサップ兄ぃ!?」

リュクス

「父上、エイサップ!?」

 

 槇菜とリュクスが叫ぶ。その声と同時、濁流がさらに押し寄せそして…………。

 

ショウ

「オーラロードの先が……見えた!」

 

 激流に押し出されるようにして、光の先へと突き進む一同。光が大きくなり、先が見え始めるにつれてゼノ・アストラは何かを伝えるように、アラートを発し続ける。

 

槇菜

「ゼノ・アストラが……怒ってる?」

 

 何に怒っているのか。それはわからない。しかし、この光の先に待ち受けるものがゼノ・アストラにとって敵であることだけは、槇菜にも理解できた。光の中に消えたエイサップも心配だが、今は探しにいく余裕がないのも事実。槇菜はきつく唇を噛み締めながら、光を見据えていた。

 

槇菜

「こうなったら……!」

 

 セラフィムを展開し、ゼノ・アストラは前進する。前を行くヴェルビンに続き、オーラロードを切り拓くように進む黒い体躯と光の翼。

 

ショウ

「槇菜?」

槇菜

「この先、たぶん敵がいます。だから!」

 

 そして、オーロラ光は全てを呑み込んでいく。それが、オーラの道の終着点であることを槇菜もショウも理解していた。故に、ゼノ・アストラはシールドを構えるのだった。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—???—

 

 

 その場所は、一言で言えば奇妙なところだった。天には何も映さない暗い空が広がり、地には見渡すばかりに機動兵器と思しきものの残骸が転がっている。機動兵器。つまりはモビルスーツやオーラバトラーに、マジンガーやゲッターのようなスーパーロボット。果ては機械獣や戦闘獣のように見えるものまでその種類は千差万別。それらを「兵器の残骸」とマーガレットが認識できるのは、例えば今彼女の目の前に横たわるそれにはV字型のツノがついているように、どこか彼女達の知るそれと似通ったパーツを持っているものが多かったからだ。

 

マーガレット

「…………けど、使えそうにないわね」

 

 作業用のモビルワーカーに乗りながら、今マーガレットはそんな残骸部品達から使えそうなパーツをかき集めている。マーガレットだけではない。ジュドーと、トチローもモビルワーカーで同行していた。

 

トチロー

「それにしても、妙な世界だなここは」

 

 まるで、スーパーロボットの墓場。そんな表現を思いつく。とすれば今自分達がしていることは墓荒らしなのかもしれない。

 

ジュドー

「このモビルスーツもダメだな。なんていうか、俺たちのと似てるけど中身が全然違う」

マーガレット

「私達の世界のモビルスーツと、三日月達の世界のモビルスーツみたいに?」

 

 何気なく訊いてみたマーガレットだが、ジュドーはそれに頷くしかなかった。

 

ジュドー

「俺も機械いじりを生業にしてたし、ジャンク屋稼業もやってたけどさ。こんなに違うのはまるで、別世界のモビルスーツとしか思ないよ。あのガンダムみたいなやつだって、軽くいじってみた感じ全然知らない技術でできてるみたいだし……使えそうな部分なんてまるでないってくらい完全に死んでる」

トチロー

「別世界の、ロボット達の墓場か……」

 

 長くメカニックをやっているトチローには、ここにある機体のどれもが戦いの中で朽ちていったものであることを既に見抜いていた。だが、とすれば自然と次の疑問に行き着く。

 

トチロー

「……こいつらは何と戦って、いやどこで戦ってこんな風になっちまったんだろうな」

 

 一通り、調べてみてここで朽ちている機体にはある共通点があった。それは、パイロットがいないということ。無人機と思われる機体も数多く存在したがそれ以上に、コクピットが存在するものもその中がもぬけの空なのだ。

 戦いの果てに力尽きたマシンであるというのならば、パイロットも運命を共にすることもあるだろう。しかし、少なくともトチロー達が確認した限りにおいては、コクピットには死体はおろか人がいた形跡も残っていない。長い年月で風化し、骨も残らなかったという可能性はある。しかし、無造作に打ち捨てられたこれらのマシンはむしろ、この場所に流れ着いたかのようにトチローには映っていた。

 

マーガレット

「……私達も、そのうちこうなる?」

トチロー

「かもな。だが、今は生きてここを出ることだけを考えよう」

 

 思考を切り替え、年長者のトチローの指示でモビルワーカーは引き返す。どこまでも続く、マシンの墓場。不時着しているアルカディア号を目指して。

 

“どうして、どうしてこんな戦いばかりを繰り返すんだ!”

 

ジュドー

「…………!?」

 

 ジュドーがそれを感じたのはまさに、その最中だった。ジュドーの心を触るような、啜り泣くような声が彼の脳裏に響く。その感覚はどこか懐かしく、そして悲しい。その声はまさに、慟哭だった。

 

 

ジュドー

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

 運転するマーガレットを引き留め、モビルワーカーから飛び降りるジュドー。その不可解な行動にトチローとマーガレットは顔を見合わせる。

 

トチロー

「お、おいジュドー!?」

 

 ジュドーは廃棄されたマシンの上を、一目散に走っている。まるで、その先に何かがあるのを知っているかのように。それはトチローやマーガレットには持ちえない皮膚感覚故のものだった。その感覚は、宇宙という広い空間で長くを過ごし、そして子供に顕著な瑞々しい感受性から与えられるもの……人によってはそれをニュータイプと呼ぶが、そんな言葉は今はさして重要ではない。重要なのはジュドーの第六感が感じたそれを、トチローもマーガレットも感じることができなかったという一点にある。

 

マーガレット

「ジュドー・アーシタ……不思議な子ね」

 

 モビルワーカーを転身させ、ジュドーを追いながらマーガレットは呟いた。

 

トチロー

「そうだな。ああいうのをこの世界じゃ、ニュータイプっていうんだっけな」

マーガレット

「さあ、私は哲学や宗教、人文学には興味ないから。ただ、宇宙世紀の時代にはああいう感性を持ったエースパイロットをニュータイプと呼んだそうよ」

 

 宇宙世紀末期には、ニュータイプ神話は飽和していたという。それはアムロ・レイやシャア・アズナブルを筆頭としたニュータイプと呼ばれた人々が歴史の表舞台から姿を消し、やがて未来世紀へと年号を改め数年後にはニュータイプという言葉は大した意味を持たないものになった。「人の革新」というジオン・ダイクンの言葉を信じるものは今でもいる。シェリンドン・ロナらがそうだった。しかし、衛星Eで戦ったサルはそんな「人間の先に来るもの」という概念を破壊してしまったと言っていい。

 

マーガレット

「ただ、ジュドーの感性……直感力は本物だと思う。それがニュータイプなのかどうかは、私が決めることじゃないわ」

 

 もしニュータイプという存在が本物であるのなら、それはきっとその人だけのものなのだろう。そう、マーガレットは考えていた。ジュドー・アーシタも、アムロ・レイも、彼らの持つニュータイプはきっと彼らだけのもの。だからきっと、その言葉には意味が無い。ただ、ひとつ確実なのはジュドーもアムロも、その本質を見抜く確かな目を持っている。それだけは、信じることができた。

 

ジュドー

「聞こえる。たしかに……」

 

 ジュドーが聞いたのは、まるで生まれたての赤ん坊のようにか弱い声だった。誰かがその手を取らなければ、死んでしまうほどに弱い声。こんな墓場みたいな場所に置き去りにしてはいけない声。それを無視できる心を、ジュドーは持ち合わせていなかった。頭部に髪の毛のようなものを持つマシンの残骸を踏み越え、元々はスーパーロボットのものだったであろう巨腕を潜る。やがて、モビルスーツと思われるマシンの朽ちた胴体が、ジュドーの視界に入る。

 

ジュドー

「この感じは……あそこからか!」

 

 ジュドーの走るスピードが速くなる。声が、段々強く感じられるようになる。やがて、言葉がはっきりとジュドーには聞こえるようになった。

 

「暗いな……ここ、どこなんだろう。あ、星が見える。あれはなんだろう、彗星かな?」

 

 その声を、ジュドー・アーシタは知っている気がした。とても昔、どこかで……。それは運命を変えるような出会いだった。だけど、

 

「暑苦しいな……ここ、出られないのかな? おぉーい、出してくださいよ。ねえ!」

 

ジュドー

「そんな、バカな……!」

 

 あり得るはずがない。ジュドーがそのマシンにたどり着いた時、真っ先にコクピットブロックの開閉スイッチに手を伸ばしていた。数秒の後にコクピットは開かれそして、少年を守っていた殻は破られる。

 

少年

「……………………」

 

 まるで不思議なものでも見るかのように、少年の視線がジュドーと合った。そして、少年の心がまるで洪水のようにジュドーの中へ押し寄せていく。それは、ジュドーがその少年とはじめて出会った日と同じ感覚だった。

 

ジュドー

「何でだよ……なんであんたが、ここにいるんだよ」

 

 少年の腕を掴み、肩で支える。少年は抵抗しない。されるがままの少年の瞳には何が映っているのか、無感動な、しかし決して無表情ではない瞳をキョロキョロさせていた。

 

ジュドー

「カミーユ……。どうして」

 

 カミーユ・ビダン。Zガンダムのパイロットとして宇宙世紀時代を戦ったエースパイロット。多くの死を目の当たりにし、そのシャープな感性を磨耗させ心を砕いてしまったニュータイプ。戦士であるには、優しすぎた少年。しかし、彼はジュドーが本当に少年だった時……つまり、宇宙世紀に生きた人間だ。それが何故、このような場所で。少年の姿のまま。あの時と同じ虚ろな瞳で虚空を見つめているというのか。

 

マーガレット

「……人がいたの?」

 

  マーガレットの運転するモビルワーカーがジュドーに追いつく。ジュドーはカミーユを肩でおぶり振り返った。

 

ジュドー

「うん。この人、ちょっと訳ありみたいでさ。アルカディア号まで連れて行きたいんだ」

 

 カミーユ・ビダンという名前を知っていることは、ジュドーはあえて言わなかった。アルカディア号にいけば、アムロとシャアもいる。遅かれ早かれわかることだった。

 

トチロー

「勿論だ。こんなところに置き去りにするのは、寝覚が悪いからな」

 

 二つ返事で返すトチローに、マーガレットも頷く。二人の善性にジュドーは感謝しつつ、カミーユをモビルワーカーに乗せるとシートベルトを締めてやる。しかしカミーユは無言のまま、虚ろな瞳を揺らすのみだった。

 

マーガレット

「この人……」

ジュドー

「うん。詳しいことは診てもらわなきゃわかんないけど」

 

 カミーユ・ビダンは何も言わない。しかし、ジュドーにはこの少年が自分の知るカミーユ・ビダンその人であると確信していた。魂の共鳴とでも呼べるだろうものを、ジュドーは彼に感じていたからだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—アルカディア号/格納庫—

 

 

 意味不明な場所へ辿り着いたアルカディア号だが、だからといって休養を取れるわけではなかった。いや、むしろ格納庫では今までにないほどの忙しなさに満ちている。

 ここがどういう場所かわからない以上、いつでも出撃できるようにはした方がいい。モビルスーツを中心とした機動兵器部隊の整備は、メカニック達や果てはパイロットまで駆り出されての大騒動だった。

 

ウモン

「それにしても、こいつはなんなんじゃろな……」

骨嵬

「…………」

 

 中でもメカニックたちの頭を悩ませているものは、月面に突如現れた骸骨武者。月で一通り暴れ狂った後、この鬼神はピクリとも動かなくなってしまっていた。それをアルカディア号で回収し、調べているのがウモンらである。

 

エウロペ

「そいつは、私の部下達を……」

トビア

「でも、なかに人もいないし電子頭脳みたいなものが乗ってるわけでもない。なんなんでしょうねこいつ」

 

 憎しみを込めて睨むのは、ベルナデットの義母というエウロペ・ドゥガチ。彼女もこの非常事態の中、アルカディア号の面々と協力している。現在の木星の情勢。その話はこの危機を切り抜けてからだ。そう割り切っているように見えていたがしかし、それでも監視つきだ。その監視を買って出ているのが、木星圏ではお尋ね者のトビア・アロナクスなのだから奇妙な縁もある。そうエウロペは感じていた。

 

「ケッ、気味悪いったらありゃしねえ。じいさん、そんなもんとっとと捨てちまおうぜ」

雅人

「お、おい忍! そんなことしてバチでも当たったらどうすんのさ!」

 

 バチが当たるかどうかはわからないが、現状廃棄は得策ではない。だが再び暴れられては困る。そういった事情のもと、骸骨武者はハンガーに固定されさらに両腕を鎖で繋ぐような形で保管されることが決定していた。今は、その最中。

 

トビア

(だけど、なんだろう……)

 

 鬼神の目を見つめていると、肌が泡立つような感覚を覚える。おそらく、それはトビアだけではなかった。ウモンやエウロペ、そして忍までもが鬼神を眺めながらも決して目を合わせようとはしていない。それにトビアは気付いていたからだ。

 或いはそれは、人のDNAに根付く根源的な“恐怖”なのかもしれない。そんなことを思いながらしかし、トビアはそれを口に出すことはなかった。

 

 

 

 

 そんな格納庫にアルカディア号のメカニックチーフでもある大山トチローが戻ってきた時は、まさに騒動の真っ最中といったところだった。一緒に外の偵察任務に出た面々も、マーガレットは既に愛機シグルドリーヴァの方へ向かっており、ジュドーは救助した少年を医務室へと運んでいる。その際にシャアとアムロと何やら話をしていたようだが、3人の話はトチローにはよくわからないものも多い。

 

トチロー

「三日月、バルバトスはどうだ?」

 

 報告のためハーロックの下へ向かう途中、トチローの目に止まったのは、まるで臍の緒のようにガンダム・バルバトスルプスレクスと阿頼耶識で繋がっている三日月・オーガスだった。三日月は、バルバトスのコクピット内でアトラのお手製サンドイッチを食べている。整備中はいつも外に放り出されている三日月がこうしているということはどうやら、バルバトスのメンテナンスは終わったのだろう。

 

三日月

「ん、大丈夫だと思う。っていうかバルバトス、なんか調子いいんだよね」

トチロー

「調子いい……か」

 

 バルバトスには、ガンダム・フレームにはトチローにもわからないことが多い。どのように動いているのかの原理は理解できても、時折バルバトスにはバルバトスの意思のようなものがあるように感じられる時すらトチローにはあった。それは、この機体が“厄祭戦”という過去の遺物であることも関係しているのかもしれない。

 

トチロー

(とすると、この場所が“厄祭戦”と関係があるってことか……?)

 

 “厄祭戦”トチローや三日月達のいた「B世界」において、300年前に起こったとされる終末戦争。一説では無人機モビルアーマーの暴走と、72機のガンダム・フレームの戦いだったと言われている。

 

三日月

「そういえば、外はどうだったの?」

トチロー

「ん、さっぱりわけわからなかったな。スクラップの山も、スーパーロボットやモビルスーツににてるのはわかるが、正確な機種までは判別できないものばかりだった」

三日月

「そっか」

 

 それだけ呟くと、三日月は特に興味もなさそうにサンドイッチを口へと運び、視線を向かいのハンガーに立てかけられたシグルドリーヴァへ移す。そこではトチロー同様、偵察から帰ってきたばかりのマーガレットがルー博士と、二人の少女に話しかけていた。

 

マーガレット

「シグルドリーヴァ、悪いの?」

 

 アトラ・ミクスタからスポーツドリンクとタオルを受け取りながら、マーガレット。シグルドリーヴァのメンテナンスを受け持つルー博士は難しそうな顔をしながら、マーガレットへ視線を向けた。

 

ルー博士

「右腕の動きが、ぎこちないデスネー。こんなのははじめてのことデース」

マーガレット

「右腕が?」

 

 シグルドリーヴァの“右腕”。ルー博士曰く、出自不明のオーパーツ。マーガレットが動かしているときにも、あの邪霊機の少女を前に“右腕”が疼き出すような感覚があった。それは、マーガレットには不快なものでもある。一方で、その剛腕は長距離砲撃機であるシグルドリーヴァの死角を補う活躍を見せてもいた。

 

カンナ

「すごく、消耗してるみたい」

 

 コクピットの中で、カンナが呟く。カンナは小さな手でレバーを握るが、“右腕”は上がらない。

 

マーガレット

「カンナ、わかるの?」

 

 意外そうに、マーガレットは目を丸くする。

 

カンナ

「機械いじりなら、少しだけパパとママに教えてもらったから」

 

 顔も思い出せない、カンナの両親。この技術のせいでブルワーズでは酷使されていたが、今はその技術をマーガレットのために使うことができる。それは少しだけ、カンナには誇らしいものだった。

 

ルー博士

「カンナはメカニックの才能がありマース。ご両親の教えもよかったのショウ」

 

 ルー博士にも褒められて、カンナはどこか嬉しそうに頬を赤らめる。その様子は、マーガレットにとっても嬉しいものだった。

 

アトラ

「カンナ、凄いなぁ……」

 

 そんなカンナを、アトラは羨ましそうに見つめていた。アトラ・ミクスタは、メカはもとより戦いに関することに関しては何もかもが素人以下だ。戦場で命のやりとりをする三日月達のためにできることは、炊事洗濯家事全般くらいしかない。

 

マーガレット

「……アトラは、誰よりみんなの役に立ってるでしょ」

 

 そんなアトラに、マーガレットは肩を竦める。「へ?」と声を漏らすアトラ。

 

マーガレット

「ここにいるのは戦うことしか脳のない奴らばかりよ。アトラみたいなことができる人の方が少ないんだから」

アトラ

「マーガレットさん……」

マーガレット

「だから、アトラももう少し胸を張りなさい。それに……」

 

 向かい側のバルバトスから、そんなやりとりを眺める三日月・オーガスにとって、アトラという少女がかけがえない存在であることは、間違い無いのだ。それこそニュータイプ的な感性を持ち得ずとも、誰の目にもわかるほどに。

 

三日月

「……ん、何?」

 

 マーガレットから横目に視線を投げかけられ、不思議そうに首を傾げる三日月。その右の目にも、今は光が宿っている。阿頼耶識システムを介し、バルバトスに奪われた右半身の感覚。バルバトスと繋がっている今なら、それもある。

 

マーガレット

「何でもないわ。それ、アトラのお弁当?」

三日月

「うん。あんたも食べる?」

 

 そう言ってバスケットを持ち上げると三日月は、まだ手をつけていないサンドイッチを見せる。以前あげたチョコレートのお礼。ということだろうかとマーガレットは思ったが、首を横に振った。

 

マーガレット

「お腹は空いてないから、大丈夫よ。それ、おいしい?」

 

 そんな、他愛もないやりとりの最中。突如としてアルカディア号艦内けたたましいサイレン音が、三日月の返事を遮る。

 

三日月

「……敵か?」

 

 一瞬で、戦いの目になる三日月。その変わり身の速さは頼もしくもあり、危うくもある。それをマーガレットは、三日月・オーガスという少年と関わる中で強く感じていた。

 

マーガレット

(……やっぱり、アトラみたいな子が必要なのよ。三日月には)

 

 それが、三日月を人間に留めている。あまりにも獣じみた嗅覚と才覚を持つ、狼王としての三日月に残された純朴な人間性。それを失わせないためにもやはりアトラには、三日月の側にいてほしい。そう感じながらマーガレットは、カンナからシグルドリーヴァの座席を交代する。

 

カンナ

「マーガレット……」

 

 どこか不安そうな面持ちで、マーガレットを見つめる瞳。そんなカンナの黒髪に、マーガレットは優しく手を伸ばす。

 

マーガレット

「……ルー博士、アトラ。カンナをお願い」

 

 既に三日月のガンダム・バルバトスルプスレクは発進の準備を整えている。カタパルトへ乗り出したバルバトスの瞳が、静かにギラついていた。即ち、戦いの合図。それを理解しているルー博士は静かに頷くと、カンナの小さな手を取ってシグルドリーヴァから離れていく。

 

ルー博士

「グッドラックデース!」

カンナ

「マーガレット……」

 

 それでも、不安そうな面持ちのカンナに背を向けて、シグルドリーヴァも動き出した。確かに、“右腕”の挙動が鈍い。しかしこの機体は腕を使わなくても、火力で戦うことができる。その特性を信じ、マーガレットはコクピットに備えられたバイザーを被る。視界が開いていくのを、マーガレットは感じていた。今、マーガレットの目はシグルドリーヴァの目と一体化している。そういう感覚。それは高揚感を高鳴らせ、次第にマーガレットは戦場に赴く戦士の顔つきになっていく。モビルワーカーの運転では、味わえない感覚だ。

 

マーガレット

(鎮まりなさい。私……)

 

 高鳴るものを抑えつつ、シグルドリーヴァもカタパルトへと移動する。そして、急加速する重力と共に戦乙女が、海賊船から飛び出して行った。

 

 

 

……………………

第24話

「EX MACHINA」

……………………

 

 

 

—???—

 

 

 アルカディア号が警戒体制を発令したのは、その空……青も黒も映さない。一切の色彩から隔絶された無色の天上に大きな歪みが見え始めたからだ。

 

ハーロック

「我々をこの場所へ誘ったオーロラ光と、似ているようだが……?」

 

 とすれば、ここへ何かが迷い込もうとしている。或いは明確に、アルカディア号を狙っての行動かもしれない。それがわからない以上、警戒する以外の選択肢はない。

 

三日月

「…………」

 

 甲板上に、既にモビルスーツを中心とした機動兵器群が出撃していた。スカルハート、F91、νガンダム、サザビー、そして三日月のガンダム・バルバトスルプスレクス。

 

ハリソン

「アムロ大尉、ジュドー君は?」

 

 ZZガンダムの姿がないことに気付き、ハリソンが訊く。

 

アムロ

「ああ。先ほど外で救助した男性を医務室に運んでいたからな。その関係で遅れているのかもしれない」

シャア

「…………」

 

 ジュドーが運んだ男性、カミーユ・ビダンはアムロとも、シャアとも因縁浅からぬ相手だった。特にシャア・アズナブルは、彼のシャープな感性を武器に仕立て上げてしまった張本人であると言ってもいい。その事実は、シャアの気分を重くさせる。

 

シャア

(言い訳など、できようもないが……)

 

 カミーユ・ビダン。シャアが未来を期待し、しかし絶望するきっかけともなってしまった少年。彼がどうして、こんなところにいるのかはわからない。まるで、運命か何かが引き合わせたとしか思えない再会に、シャアの心は泡立っていた。

 

オルガ

「ミカ、どう思う?」

三日月

「なんていうか、ざわざわする」

 

 三日月の心を騒つかせるのは、色のない天か。歪むオーロラか。ともかく三日月は今、狼のような嗅覚で敵意を感じている。

 

三日月

「……来る」

アムロ

「ああ。キャプテン、下だっ!」

 

 アムロが叫んだ直後、アルカディア号の不時着した地面……正確には無数の機動兵器が打ち捨てられた瓦礫の山が、地鳴りを上げる。スクラップ達が蠢き、この世のものとも思えぬ雄叫びが、耳へと響いた。

 

ハーロック

「ッ!? こ、これは……!」

ラ・ミーメ

「あ、ああ……!?」

 

 まるで、死霊の慟哭。怨嗟の声が大きくなるにつれて、異変は起きた。ガタガタと震えながら、スクラップ達が起き上がる。中に誰かが乗っているわけでもない。無人の残骸。それらが人型を模るように集まり、寄り合わさり、次々と立ち上がっていくのだ。それは、旧世紀に流行ったと言われるゾンビ映画のような光景だった。

 

アムロ

「この凄まじい邪念は……!?」

 

 覚えがある。ライラ。邪霊機の少女。あの少女が纏うそれとよく似たしかし、違う念。

 

マーガレット

「何よ、こいつら……!?」

 

 出撃したシグルドリーヴァの中でマーガレットも、それを見る。続いて出撃する獣戦機隊にとっても、その光景は異常なものに見えた。

 

雅人

「うわぁ、お化けなんか勘弁だよ!」

沙羅

「冗談言ってるんじゃない!」

 

 訳のわからない存在を前に、既に獣戦機はダンクーガに合体している。しかしそれでも尚、沙羅の肌に泡立つこの感触は拭えない。戦いの熱気でも、空調の涼しさでもない。まるでインフルエンザを罹患した時のように、身体の中から怖気が走っているのだ。

 

トチロー

「こんなもの、さっきまではなかったぞ?」

ハーロック

「何者かが、ここに朽ちている機体を操っているのか……?」

 

 ハーロック達のいた世界では、無人機に関する技術はこの世界以上に発達していた。高性能モビルスーツの無人化に成功したことで、戦いは次のステージへ進んだとも言えるほどに。だが、これはそういった無線通信や或いは、サイコミュで動かしているようなものとは違う。それはハーロックの鷹の眼でなくとも明らかなことだ。

 寄り合わさった機械の部品。その一つはバラバラで規則性もない。しかし、色褪せて風化したマシンの中央部にはいずれも茫、と仄啖い光が灯っていた。その姿はまるで、亡霊のよう。そんな亡霊達が、何も映さない死んだ瞳を一斉に、アルカディア号へ向ける。そして、オォォォという叫びと共に、ゆらり、ゆらりと歩き出した。

 

トビア

「こいつら……!」

三日月

「…………」

 

 恐怖に身が竦むこともなく、真っ先に飛び出したのはバルバトスだ。ロングメイスを握りながらも、より速く敵へと届くテールブレードが亡霊マシンの頭部を斬り裂く。

 撥ねられた首は、大きく吹き飛びそして、瓦礫の山へと激突する。

 

三日月

「ん……?」

 

 しかし、首を跳ね飛ばされた亡霊マシンはそんなことまるで気にもしてないかのように、ゆらり、ゆらりと歩を進める。そして存在しない、しかし確かにそこにあるとわかる眼窩でバルバトスを……三日月を見つめていた。

 

死霊

「…………」

三日月

「なんだ、こいつ……?」

 

 今まで戦ったことのない感覚。切った手応えなく、感情のない視線を向け続ける敵。今まで三日月・オーガスは、あらゆる感情を敵から向けられ続けてきた。それは恐怖や侮蔑、憎しみや畏怖。それらがいくつも混じり合った感情の視線。しかし、これらは違う。

 無だ。それも、無人機のように感情を持たないタイプの無ではない。感情と呼ぶべきものを持ちながら、今まで三日月が……いや人類が向けられたことのない感情を向けているのだ。それは、感情と読んでいいものなのだろうか。

 

アムロ

「……シャア、感じるか?」

シャア

「ああ。奴らはまるで……」

 

 それは、人間には理解不能の生命体が人間の理解を越えた感情を向けている。そう感じてνガンダムはハイパー・バズーカを構える。

 

アムロ

「三日月、離れろ!」

 

 νガンダムから放たれたバズーカの弾頭が亡霊マシン目掛けて飛ぶ。それと同時にバルバトスがジャンプし、バルバトスのいたその位置を弾頭が突き抜けていく。弾丸が頭部を失った亡霊マシンに直撃し、破裂する。それと同時に、纏っていたスクラップ部品が弾け飛んでいく。だが、その人型はまるで無傷とでもいうかのように無言で、ただ無言で今度はアムロに視線を向けた。

 

死霊

「…………」

アムロ

「!?」

 

 視線を向けられた瞬間、本能的にアムロは理解する。あれは、既に死んでいる魂。その成れの果てであると。だが肉の身体から解脱し魂だけの存在になった、意思を持つ霊などではない。この世界に、この宇宙に漂う魂の残り香。そういうものだと。人らしい意思を感じながら、人間的な感情を感じないのも当然だ。これらの魂は、既に壊れている。壊れても尚そこにあり続ける魂。ワーラーカーレンへ還ることも叶わず、このマシンの墓場に置き去りにされ、成仏することも輪廻することも解脱することも叶わずに存在を鈍化させ続けたモノ。

 それに、形を与えることができるものをアムロは知っている。

 

アムロ

「そうか……あれはリビングデッドか!?」

マーガレット

「!?」

 

 リビングデッド。その言葉にマーガレットの白い肌が泡立った。それが意味するものは、ひとつしかない。その存在を意識すると同寺、自然のマーガレットはスコープ越しに、それを探しそして……アルカディア号の前方。亡霊マシン達の蠢くさらにその奥に。彼女の存在を見出した。

 

マーガレット

「いるのはわかっている……出てきなさい!」

 

 マーガレットの叫びに応えるように、空間が歪む。歪んだ先から黒い翼が生え、大きく羽ばたく。そして中から窪んだ眼窩を持つ、髑髏のような貌の赤いマシン……邪霊機アゲェィシャ・ヴルと、青い体躯のニアグルースが姿を現すのだった。

 

ライラ

「バレちゃったならしょうがないか。もう少し、お姉さんの怖がる顔を見ていたかったけど」

紫蘭

「……………………」

 

マーガレット

「誰が、怖がるものか!」

 

 まるで自分を焚きつけるように、マーガレットは叫ぶ。それと同時、シグルドリーヴァはファランクスミサイル、マトリクスミサイルを次々と亡霊マシンたちへと叩き込む。次々と巻き起こる爆炎。爆煙。爆宴。亡霊マシン達が纏う機械の鎧が次々に爆ぜていき、しかしそこにある虚ろな仄暗い光は健在。そして、弾け飛んだ機械が少しずつ、仄暗い光へと集まっていく。

 

ハーロック

「……成程な。正体が見えたか」

 

 その一部始終を、キャプテンハーロックは見逃さなかった。三日月が破壊しても健在。マーガレットが吹き飛ばしても、仄暗い光を中心にまた機械部品が集まっていく。原理原則は不明だが、事実だけを抜き出せばそういうことだ。

 

ハーロック

「各員、敵機動兵器はおそらくあの光が本体だ。そして、この場所にあるガラクタを無尽蔵に吸い上げて鎧にしている。以降あれをポルターガイストと呼称。各員はあの光と、それを操る邪霊機を迎撃せよ!」

トビア

「了解!」

 

 ハーロックの号令と同時、次々とモビルスーツを中心とした機動兵器達が飛び出していく。その先頭に立つのが、トビアの乗るクロスボーン・ガンダムX1パッチワーク。髑髏のマーキングが施された胴体をマントに隠し、海賊のガンダムは走る。

 

トビア

「敵がお化けでもなんでも、戦い方さえわかれば!  ……って、言ったはいいけど!」

 

 とはいえ、敵は機械のパーツを次々と組み合わせて変質する騒霊軍団。どうしたものかとトビアは独言る。目の前に立ち塞がるのは、まるで蛸のように脚を無数に増やした歪な姿をしたポルターガイスト。その手にはどこから拾い上げたのか、大きな銛のような武器を持っている。

 

死霊

「ォォォォォォッ……ォォォォォッッ!」

 

 そんな叫び声が、トビアの脳に響く。それがどのような感情から迸る絶叫なのか、トビアには理解できない。ただ、わかっていることは一つ。

 

トビア

「う、わ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、っ!?」

 

 蜘蛛のように広がる脚を大きく掲げられると、人は生理的に恐怖を感じてしまうということ。金切り声をあげながらしかしトビアは、冷静にピーコック・スマッシャーの引鉄を引く。多重構造のビーム・ライフルは、一度に多面的な攻撃を可能とする。ピーコック・スマッシャーは言わば、拡散メガ粒子砲をビーム・ライフルサイズで作り上げたような代物った。まるで孔雀のように広がるビームが、広がる脚を焼く。だが、これでは敵の核……仄暗い光へは届かない。だが、それでいい。

 クロスボーン・ガンダムは、シザー・アンカーを展開するとそれを百足のようにも見えるポルターガイストの腹部へと食い込ませた。そして、力任せに引き抜く。ガリッ、という音とともに敵の鎧に穴が空いた。そして、中から見える黒い光。

 

トビア

「そ、こ、か、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、っ!」

死霊

「ォォォォォォォッ!」

 

 ピーコック・スマッシャーに焼かれた脚がクロスボーン・ガンダムを掴むのと、トビアがビーム・ザンバーを光目掛けて突き刺すのはほぼ同時だった。光を突き刺した瞬間、トビアが感じたのは水風船に針を刺した時のような鋭い感触。パシン、という何かが弾ける音を、トビアは聞いた。それと同時に黒い光は霧散し、纏っていた機械が崩れ落ちていく。まるで、魂を失った肉体が倒れ伏すように。

 

トビア

「ッ!?」

 

 クロスボーン・ガンダムは崩れ落ちる機械の雪崩に飲み込まれそうになりながらも、間一髪退避した。だが、敵を倒したその瞬間にトビアが感じたものは……。

 

トビア

「殺したのか? 魂を?」

 

 それは、拭い去りたい感覚であり、忘れられない刺激だった。モビルスーツという機械の身体越しに殺人をした時よりも、もっと生々しい死の感触。それがトビアの心に染み付く。だが、それは所詮エゴでしかない。そう自分に言い聞かせて、トビアは正面を見据えた。敵はまだ、残っている。

 

トビア

「みんな、さすがだな……」

 

 ポルターガイスト達は、その霊魂を機械の鎧が守っている存在。霊魂を破壊しない限り何度でも再生する。その特性を理解すれば、彼らとっても対応は簡単だった。

 νガンダムのフィン・ファンネルが敵の四方を包囲し、装甲を破壊。破壊したその都度バルバトスが霊魂を叩き潰す。或いはνガンダムと同じようにファンネルで敵を牽制しつつも、本命は自身の質量を生かしたキックを叩き込んでいるサザビー。ダンクーガなどは断空剣で、装甲ごとその霊魂を叩き切っている。

 

ハリソン

「スカルハート、無理はするな!」

 

 F91で敵陣に切り込みながらハリソン・マディンは、トビアを気遣っていた。

 

トビア

「ハリソン大尉……」

ハリソン

「こいつらがただの敵でないことくらいは、俺にもわかる。倒せばドッと汗が出るこの感覚は、正直身体に悪い」

 

 そう言いながらも、ザクのような一つ目をしたポルターガイストにヴェスバーを浴びせるハリソン。焼け爛れた装甲が復活する前に、バルカン砲とマシンキャノンを撃ちまくりながら接敵し、隙を与えずビーム・サーベルでその霊魂を斬り裂いていく。それは実戦で叩き上げられた、スマートな戦い方だった。

 

トビア

「いえ、ここで僕が戦わない。なんてわけにはいきませんよ」

 

 苦笑しつつも、トビアはそんなハリソンの気遣いに感謝する。自分だって木星戦役を戦い抜いた歴戦の自覚はある。しかし、こういう時はやはり正規の訓練を受けた軍人というものは心強い。戦うための心構えというものがしっかりしている。そう、民間人上がりのトビアには見えた。

 

ハリソン

「……なら、君は装甲の破壊に集中してくれ。核の撃破は俺が受け持つ!」

トビア

「了解!」

 

 そして次の瞬間、クロスボーン・ガンダムのザンバスターが火を吹き、迫る双刀のポルターガイストの胸部を弾く。そこにF91がビーム・バズーカを叩き込み、ポルターガイストを起こす黒いオーラは忽ち霧散した。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

「気分を悪くしても仕方あるまい。生きている人間を殺すのではなく、一度死んだ命をもう一度殺しているようなものだぞこれは」

 

 激闘の続く中、チーム最大パワーを誇るダンクーガはその力を遺憾無く発揮し、次々とポルターガイストを破砕していた。鉄拳を繰り出し霊魂を叩き潰しながら、亮が呻く。

 

雅人

「それ、やっぱりこいつら悪霊ってことかよ!」

「へっ、悪霊共の親玉なんか、ムゲ野郎の相手で慣れてらぁっ!」

 

 ブーストを噴かし、突進するダンクーガ。胸部のパルスレーザーを撃ちまくりながら、目指す場所はただ一つ。赤い邪霊機アゲェィシャ・ヴル。そして、それを操る赤い髪の少女。

 

ライラ

「やっぱり獣だよね……お兄さん達!」

 

 アゲェィシャ・ヴルの握る剣に、黒いオーラが宿った。そして、振り抜く一閃。次の瞬間には邪霊機は、断空剣と鍔迫り合っている。

 

「やいてめえ、ダンクーガを紛い物とかほざきやがって! どういう意味か、説明しやがれ!」

ライラ

「知る必要ないよ。お兄さん達もすぐに、ここに朽ちるんだから!」

 

 ダンクーガの巨体から繰り出される剣撃を意図も容易く受け切り、今度はライラが反撃に出る。剣に纏うは邪霊。遍く世界に眠りしまつろわぬ魂。怨念、怨恨、悔悟、憐憫、そして憎悪。あらゆる負の魂を纏う剣の一撃が、ダンクーガを襲った。

 

沙羅

「ァッ!?」

 

 サイズ差ならば、ダンクーガの方が圧倒的に大型。しかし邪霊機の剣圧は、一振りでダンクーガすらも吹き飛ばす。

 

「沙羅!? こんにゃろぅ!」

 

 しかし、ダンクーガも負けてはいない。剣での戦いを不利と判断した忍はすかさず背中のキャノン砲……断空砲を展開。そのまま発射する。邪霊機を呑み込まんばかりの光。しかしその直後、アゲェィシャ・ヴルの周囲に黒いオーラが靄のように立ち込める。

 

ライラ

「ラ・レフア」

 

 少女の呟きと同時、靄は突如として発火。断空砲の光とぶつかり、合わさりそして、爆発。怒号のような爆音、爆風がダンクーガに襲いかかった。

 

「うぉぁっ!?」

沙羅

「忍!?」

 

 吹き飛ばされ、大きくよろけるダンクーガ。その隙を少女は逃さない。邪霊機は一瞬でダンクーガへと接近し、その刃を振り上げた。

 

ライラ

「これでまず、一人!」

「野郎!?」

 

 刃が振り下ろされるのは、ダンクーガの頭部。コントロールの中心にあるイーグルファイターをライラは、的確に狙っていた。しかし、振り下ろされる直後、邪霊機目がけて放たれる弾丸の雨。

 

ライラ

「チィッ!?」

マーガレット

「やらせるものかよ!」

 

 マーガレットのシグルドリーヴァ。全身に格納されるミサイル弾を叩き込み、キャタピラつきの脚部で進む戦乙女が、そこにいた。

 

ライラ

「お姉さん、生意気!」

 

 舌舐めずりし、邪霊機はターゲットをシグルドリーヴァへと変更する。邪霊機が剣を掲げると、3つの球体がゆらゆら、ゆらゆらと揺らめきながらシグルドリーヴァへと向かっていく。プラズマ光。或いは、人魂。不思議な重力を伴ってシグルドリーヴァに迫るそれは、確かな熱を持っていた。

 

マーガレット

「黙りなさい、小娘!」

 

 その熱を、シグルドリーヴァはビームコーティングが施された装甲で受け止める。ビーム熱と原理は違えど、熱は熱。シグルドリーヴァはプラズマ熱を耐え切り、再びミサイルの照準をアゲェィシャ・ヴルに合わせる。そしてファイア。4発のミサイルが火を吹き、弧を描く。しかし、赤い邪霊機に目掛けて飛んだはずのそれは、青い邪霊機の膝蹴りに叩き伏せられてしまう。

 

紫蘭

「…………」

マーガレット

「紫蘭……!」

 

 紫蘭・カタクリ。ライラによって蘇り、屍人形として傅くかつての恋人がマーガレットに立ちはだかる。紫蘭の邪霊機ニアグルースは拳を構え、無感動の瞳でシグルドリーヴァへと駆けた。ニアグルースの攻撃その切れ味を、マーガレットは知っている。熱エネルギーを伴う攻撃ではない物理的な打撃に対しては、シグルドリーヴァは脆い。攻撃を受け止めるために、“右腕”を上げようとしたがしかし、上がらなかった。

 

マーガレット

「こんな時にっ!?」

 

 視界を真っ赤に染め上げてしまうほどの敵意を前に失念していた不調。それが今、裏目に出た。防御しきれない打撃の嵐が、マーガレットを襲う。

 

紫蘭

「……ニアグルース、やれ!」

マーガレット

「紫、ら、ん……!?」

 

 掌底。肘撃ち。回し蹴り。次から次へと繰り出される攻撃の数々は、マーガレットに防御の隙も、反撃のタイミングも与えない。一撃、また一撃とシグルドリーヴァはそれを喰らい続ける。ビームコーティングされた装甲が弾け飛び、機械が露出する。露出したセンサー類へ、抉り込むような拳が伸びる。コクピットごと潰れかねない剛腕が、シグルドリーヴァを貫いた。

 

マーガレット

「あ、う…………っ!?」

 

 狭いコクピットの真横。マーガレットの右肩を掠めるような位置をニアグルースの拳は通り過ぎていた。衝撃で、コクピット内の様々な機器が弾け飛ぶ。精密な電子部品の数々が燃えるような熱さのまま、マーガレットへと飛び散った。パイロットスーツを着ていなければ、火傷していただろう。しかし、どこかが焼けるように熱いのをマーガレットは感じる。もしかしたら、パイロットスーツが破けたのかもしれない。だとしたら、危ない。しかし、神経接続スコープに映る景色が揺れ、視界が安定しない。今マーガレットができるのは、せめて舌を噛まぬように唇を噛み締めることだ。だが、それでも衝撃と痛みで息が漏れる。

 

沙羅

「マーガレット!?」

ライラ

「あなた達は、こっち!」

 

 助けに行こうとするダンクーガを、赤い邪霊機は離さない。黒いオーラを纏う剣から放たれる一条の光が、ダンクーガを焼いた。

 

雅人

「クソッ、このままじゃ!」

「忍、もっと出力を上げろ!」

「やってらぁっ!」

 

 ブースターを噴かし、光の中から脱出するダンクーガ。しかし、それを狙い澄ましたかのように背後から3体のポルターガイストが迫り来る……!

 

リビングデッド

「ォォォォォォ……ォォォォォォ!!」

 

 両手がギロチンのような刃になっているポルターガイストがその両手を大きく掲げ、ダンクーガへと振り下ろす。その瞬間だった。

 天上に鎮座する空間の歪みが大きく畝り、そこから一条の光が差し込む。そして、ダンクーガとリビングデッドの間へと光は颯爽と飛翔する。そのオーラは強く、そして強固な意志を持ってこの空間へと乱入する深緑の光。

 

ショウ

「はぁぁぁっ!」

チャム

「ショウ、いっけぇぇぇぇぇっ!」

 

 ヴェルビン。聖戦士ショウ・ザマが聖少女シーラ・ラパーナの祈りと共に手にしたオーラマシン。ショウのオーラ力は、オーラ光を撒き散らしそして、この空間に漂う怨念に取り憑かれたマシンを断つ。

 

ライラ

「やっときた……聖戦士!」

 

 斬り込むヴェルビンと共に、もうひとつ光の翼が舞った。舞い散る羽根はポルターガイスト達の装甲を焼きつくし、そして飛翔するそれから放たれるワイヤーは、邪霊機ニアグルースの拳に深々と突き刺さった。

 

紫蘭

「!?」

槇菜

「マーガレットさんに、ひどいことするな!」

 

 ゼノ・アストラ。黒き機神は破邪の熱を伴う翼を広げそして、盾を構えてワイヤーを引っ込める。深々と刺さったニアグルースがワイヤーに吊られそして、ゼノ・アストラの盾に衝突した。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

マーガレット

「ゼノ・アストラ……槇菜なの?」

 

 ニアグルースの放つ打撃は重く、シグルドリーヴァのカメラモニタの数々を潰していた。今、マーガレットは神経接続型スコープ越しに赤く染まった視界を見ている。そんな中でも、見間違えようない光の翼と、全てのものを守ると誓った堅牢な盾を持つ機神の存在は、見間違えようもない。

 ゼノ・アストラ。旧神と呼ばれる黒き機神は邪霊機ニアグルースを振り落とし、そして槇菜は改めてその場所を見る。

 

槇菜

「マーガレットさん……それにみんなも。ここは?」

 

 空のない天上。廃棄されたマシンの墓場から次々と湧き上がる騒霊。そして邪霊機。ゼノ・アストラのモニタに、象形文字のようなものが浮かび上がる。

 

槇菜

「“厄祭戦”……輪廻の坩堝。どういうこと?」

 

 “厄祭戦”その言葉は以前聞いたことがある。竜馬やハーロック、三日月達のいた世界でかつてあったとされる大戦争。その名前だ。しかし、それがこの場所とどう関係あるというのか。

 

 ショウ、槇菜に続くように大きく時空が歪み、畝りが起きる。畝りの中から顔を出す巨大なゲッターロボの顔が、万物を睥睨していた。ゲッターエンペラー。そのあまりにも巨大な存在感が、戦場に君臨する。

 

トビア

「エンペラー! みんなが来たのか?」

アムロ

「どういうことだ。地上でも、何かがあったのか?」

 

 迫る敵を追い払いながら、それぞれに呟くトビアとアムロ。

 

シャア

「だが、今は……ありがたい!」

 

 真正面の敵にメガ粒子砲を放ち、シャアが叫ぶ。それと同時、エンペラーからも機動部隊が次々に出撃し加勢へと回った。ゲッターロボ、グレートマジンガー、ゴッドマジンガー、ブライガー、ゴッドガンダム、マスターガンダム。それに……。

 

ユウシロウ

「…………」

 

 骨嵬。あの月面に現れた謎の鬼武者と瓜二つのメカ。

 

ハーロック

「そのマシンは……?」

隼人

「説明すると長くなる。ともかくそいつは味方だ」

 

 手短に伝えるジャガー号の隼人。そして、遅れながらエンペラーから発進する機体があった。

 

桔梗

「……システム、オールグリーン。アシュクロフト。出ます」

 

 アシュクロフト。櫻庭桔梗の乗る青いアサルト・ドラグーン。カタパルトから射出されると同時にブースターを噴かし、右手に構えたハルバードランチャーで槇菜のゼノ・アストラを狙うように迫るポルターガイスト達を次々と撃ち落としていく。

 

槇菜

「お姉ちゃん……!」

桔梗

「槇菜、私も戦うわ」

 

 空中での自由飛行のできないアシュクロフトは、ブースターを使った上下移動しか基本的にはできない。すぐに着地し、アシュクロフトはゼノ・アストラを援護するようにファイアダガーを斉射。迫るポルターガイスト達を退けていく。しかし、ポルターガイストはすぐに周囲の機械を取り込み再生を始めていく。そして黒いオーラが強まる。その不可解な現象は、やはり桔梗もはじめて見るものった。

 

桔梗

「どういうの、あれ?」

 

 迎撃しながらも、桔梗が毒付く。次の瞬間、アシュクロフトの背後に接近するポルターガイスト……百足のような多脚を有する個体の心臓を、骨嵬の刀が突き刺した。仄暗い光が霧散し、鉄の鎧はバラバラのガラクタへと変貌し崩れ落ちる。骨嵬を操る者……豪和ユウシロウは、直感的にその存在を理解しているようだった。

 

ユウシロウ

「……骨嵬。お前は知っているのか」

 

 ポルターガイスト。即ち、邪霊機に従えられた悪霊達を鎮める方法。鎧を砕き、心臓とも言うべき霊魂を斬る。それを知っているのは骨嵬か。それともユウシロウの“嵬”としての記憶か。

 

ヤマト

「ゴッドマジンガーが言ってるぜ。こいつらの中心にある黒い靄。それが本体だって!」

 

 古代ムーの守り神ゴッドマジンガーも、それを知っていた。故にヤマトには、わかる。魔神の剣で敵を斬り、剥き出しになった霊魂を魔神は握り潰していた。

 

鉄也

「なるほどな。ぱっと見は面喰らったが、そういうことなら話はシンプルだ」

東方不敗

「うむ。要するに邪念の核を破壊すればいいだけのこと。行くぞドモン!」

 

 マントを広げた黒いガンダム……マスターガンダムが飛び上がる。それに続きゴッドガンダムも風雲再起から飛び降りると、2機のガンダムは自らを超級の竜巻へと変えて戦場へ飛び込んでいった。

 

ドモン

「超級!」

東方不敗

「覇王!」

ドモン、東方不敗

「電影だぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 二つの電影弾が戦場を突き抜けていく。その爆発的なエネルギーの嵐は、周辺のポルターガイスト達を巻き込みながら爆発する。超級覇王電影弾。流派東方不敗の奥義がひとつは自らの周囲にエネルギーの渦を発生させ、それを回転させることで爆発力を高めながら突撃する面制圧奥義。マスターガンダムの電影が敵の装甲を破壊し、続くゴッドガンダムが顕になった霊魂を介錯していく。師弟の息の合った連携攻撃が、次々と炸裂しポルターガイスト達を沈めていった。

 

ライラ

「キング・オブ・ハート……! また私の邪魔をする!」

 

 その様子を、ライラは憎々しげに見つめている。電影を解除したゴッドガンダムはしかし、そんなライラの憎しみの視線などものともしない。

 この場所にエンペラーが来るようにオーラロードに細工を仕掛けたのは、ライラだ。しかし、エンペラー側の戦力が想定以上に膨れ上がっている。口には出さないが、ライラは焦っていた。オーラロードは、簡単に開かれるものではない。リーンの翼を介しても、フェラリオの祈りによっても簡単に開くことのできない神秘の扉。それをライラが月で開くことができたのは月という場所の引力と……ライラの、邪霊機の力あってのことだ。

 本当なら、アルカディア号側の面々を片付けてから呼び出し、アルカディア号の者達をリビングデッドにして戦わせるつもりだったのだ。それが、二つの部隊が合流する結果を生んでしまった。

 

ドモン

「やはり貴様か。お前にどのような理由があるのかは知らぬが、シャッフル同盟として、悪を為すものは許すわけにはいかん!」

 

 しかし、そんな皮算用こそドモン・カッシュには関係ない。ライラが、邪霊機がこの世に災いを齎す存在であるならば倒すのみ。ゴッドガンダムは邪霊機を指差し、風雲再起を呼びつける。再び騎乗すると、アゲェィシャ・ヴルへと向かっていく。邪霊機は剣に黒いオーラを纏い、ゴッドガンダムへと対峙するのだった。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

アルゴ

「あの女、いいのか?」

 

 エンペラーの甲板に立ちながら、グラビトンハンマーで敵を迎撃しつつアルゴ・ガルスキーが呟いた。あの女、とは櫻庭桔梗のこと。それに応えるのは、彼のパートナーでもあり共に尋問を担当したナスターシャ・ザビコフ。

 

ナスターシャ

「ああ。こういう事態だからな。動かせる機体は少しでも多い方がいい」

 

 そういうナスターシャの顔色には、緊張のようなものが見えた。無理もない。とアルゴは思う。あの時……“神”との戦いの中エンペラーはゲッターエネルギーの殆どをゲッター1へと放出した。今のエンペラーは、少なくともまともな戦闘行為はできない状態らしい。その中でどうにか辿り着けたのがこの空間で、そこは既に戦いの渦中なのだから。

 

アルゴ

「わかった。お前の判断を信じよう」

 

 そう言って、アルゴは再び通信を切る。今回、長射程武器を持つガンダムローズ、ジョンブルガンダムを中心に空中での自由飛行ができないモビルファイター達は、エンペラーの周囲で敵の迎撃任務に当たっている。アルゴも例外ではなく、グラビトンハンマーで近づくものは次々と薙ぎ払っていた。

 

早乙女

「ハーロック。どうやらアルカディア号は無事らしいな」

 

 そんなエンペラーの艦長……早乙女博士は今、職員の避難を急がせている。機体や資材、人員。あらゆるものを艦載機に移行させており、手の空いている者は全員、その作業に当たっていた。

 最悪、エンペラーを放棄する可能性がある。そういう判断だ。

 

ハーロック

「早乙女博士。そちらも、ご無事で何よりです」

早乙女

「いや、そうとも限らん」

 

 博士がそう言った直後、エンペラーの推進力が急激に弱くなる。空中を飛行するだけの推進能力を確保できないエンペラーはそのまま落下。艦上に展開していた機動部隊は咄嗟にジャンプするも、自由落下を余儀なくされる。激しい衝突音。それと共に、エンペラーの黄色く輝く目から光が消えかかり始めていた。

 

早乙女

「ッ!?」

 

 激しい衝撃が、エンペラー艦内を襲う。それと同時に各種の電源がショートし、照明が暗転。自動的に予備電源に切り替わり、薄ぼんやりとしたほのかな灯りが早乙女博士を照らした。

 

ミチル

「お父様、今のは何!?」

 

 格納庫からの通信で、ミチルの声が響く。それと同時に、早乙女博士は外の光景を睨み……全てを理解していた。

 

早乙女

「そうか……。そういうことだったのか」

ミチル

「……お父様?」

 

 早乙女博士は、元々気難しい気性の人間だった。しかし、ここ最近の父はそれに輪をかけて人を寄せ付けない雰囲気を放ち始めている。そうミチルですら感じるものがあった。

 

早乙女

「キャプテンハーロック。アルカディア号にこちらの人員を避難させたい。できるか?」

ハーロック

「……早乙女博士?」

 

 その早乙女の顔には、鬼気迫るものがあった。有無を言わさぬ表情。とも言える。その顔を、ハーロックは知っている。

 

ハーロック

「……わかりました。職員の命は、私が預かりましょう。トチロー、オルガ、しばらく艦を頼む」

オルガ

「あ、ああ……」

 

 そう言って、艦長席を離れるハーロック。その後ろ姿を、オルガは無言で見つめていた。おそらく、エンペラーからの搬入作業を自ら指揮するつもりだろう。だとすれば、その邪魔をさせるわけにはいかないのが彼の命でもある艦を任されたオルガの仕事だった。

 

オルガ

「ミカ、アルカディア号の防衛だ。オフェンスはダンクーガに任せて、ディフェンスに回れ!」

 

 故に、オルガは指示を出す。自らの半身とも呼べる相棒に。

 

三日月

「了解」

 

 二つ返事で頷き、三日月のルプルレクスが後退する。その最中にもテールブレードがポルターガイスト達を斬り裂き、その亀裂にνガンダムがトドメを刺す。

 

アムロ

「俺も手伝おう。νガンダムには防衛システムがある」

三日月

「わかった」

 

 三日月に続いて、後退し艦の防衛に回るアムロ。それにエンペラーから着地したガンダムファイター達が加わり、防衛網は完成した。

 

ハーロック

「バルバトスが防衛に? オルガの指示か……」

 

 その光景を、エンペラーから発信する輸送船へビーコンを出しながらハーロックは見る。オルガの指示は的確で、エンペラーとアルカディア号の中間点……。こちらの防衛網が最も薄い位置に配置されたバルバトスは鬼神の如き強さで敵を寄せ付けないでいる。敵にすれば恐ろしいが、味方にすれば頼もしい。三日月・オーガスとオルガ・イツカのコンビとは、そういう存在だった。

 故に、ハーロックも負けてはいられない。腰の重力サーベルを引き抜くと、味方機の攻撃を掻い潜る僅かな、小さなポルターガイスト達目掛けてハーロックはそれを振るう。忽ち粉微塵に消えていくポルターガイスト。キャプテンハーロックという男は、鉄騎の塊を前にしても決して怯むことはないのだ。

 やがてゴルビー2を筆頭に、エンペラーの艦載機達が目前へと迫る。

 

ハーロック

「こっちだ。急げ!」

ナスターシャ

「了解した!」

 

 ナスターシャのゴルビー2を先頭に、ミチルの指揮する輸送機と、他早乙女研究所管轄の輸送ヘリ2機がアルカディア号目掛けて続く。それを狙う百足脚のポルターガイストの装甲を叩き割るように、ガンダムマックスターの強烈なパンチ。砕けた隙間から、ジョンブルガンダムの性格無比な狙撃が入り、百足型ポルターガイストは崩れ落ちる。

 

チボデー

「ヘッ、俺たちを忘れてもらっちゃ困るなキャプテン!」

チャップマン

「敵の方から向かってくると言うなら、いっそ狙いやすい」

 

そう、頼れる仲間はオルガと三日月だけではない。エンペラー部隊からもマックスター、ドラゴンガンダム、ガンダムローズ、ボルトガンダム、ジョンブルガンダム。それにライネックやダンバインが、防衛兼遊撃部隊として戦っている。

 

ハーロック

「……ありがとう!」

 

 素直な賞賛と感謝の言葉を、海賊の中の海賊は惜しまなかった。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 エンペラー部隊の合流で激しさを増す戦いの中、ゼノ・アストラはやはり、不思議な警告を槇菜へ発し続けていた。それを聞きながら、槇菜はニアグルースの攻撃を捌き続けている。“厄祭戦”“輪廻の坩堝”そんな不気味な言葉を叫ぶゼノ・アストラの中で槇菜は、強敵と対峙しているのだった。

 

紫蘭

「フゥ……ハァッ!」

槇菜

「ッ! セラフィム!」

 

 ゼノ・アストラの光の翼……セラフィムが羽ばたき、舞い散る羽根はニアグルースへと向かう。破邪の熱を持つ天使の羽根。邪悪なる者を焼き祓うその力は、邪霊機に対しても有効だった。聖なる炎が燃え上がり、ニアグルースの右拳が燃える。

 

紫蘭

「…………!?」

桔梗

「逃がさない!」

 

 咄嗟にゼノ・アストラから距離を離す紫蘭。そこに、アシュクロフトは大型の収束粒子砲を叩き込んでいく。姉妹の息の合った連携は、確実に紫蘭を追い詰めていた。

 

マーガレット

「…………ッ!」

 

 不甲斐ない。マーガレットは下唇を強く噛み締め思う。紫蘭を殺すのは、自分だと。解放してあげるのが恋人だった自分の義務だと。なのに、このザマはなんだ。シグルドリーヴァはひどく損傷し、スコープの照準も狂っている。“右腕”の上がらないことが口惜しい。

 そして、何より。

 

槇菜

「マーガレットさん、後退してください!」

 

 槇菜にそう言われてしまうことが、悔しかった。だが、今自分がいては足手まといになることをマーガレットも理解している。

 

マーガレット

「……ええ。ありがとう」

 

 だからそう言って、シグルドリーヴァを後退させる以外にマーガレットにできることはなかった。しかし、それを簡単に許す敵ではない。ニアグルースの掌から、黒い光が放たれる。気弾とでも言うべきそれは的確にシグルドリーヴァを狙い、ゼノ・アストラはそれを庇うように躍り出る。

 

槇菜

「このっ、卑怯者!」

紫蘭

「…………」

 

 そんな罵倒も、紫蘭には届かない。それがマーガレットには悲しく、虚しい。だから、せめて楽にしてあげたいのに今はそれができない。それが、あまりにも惨めだった。

 

マーガレット

「こんな時に……私は何もできないなんて」

 

 歯痒さが、そう呟かせる。力があればと。槇菜に守られるような弱さでは、ダメなんだと。これではきっと、カンナのことも守れない。紫蘭と同じように、いつか失ってしまう。そんな思いが、マーガレットの脳裏をよぎる。その時だった。ピクリ、とシグルドリーヴァの右腕が動いた。そう、感じる。それは神経接続型の機体故のものかもしれなかったがともかく、マーガレットにはその反応を無視できなかった。

 

マーガレット

「シグルドリーヴァ……?」

 

 シグルドリーヴァが、何かを伝えようとしている。そう、マーガレットは感じた。その思いを一瞬で、くだらないと却下する。マシンはマシンだ。道具でしかない。道具とは使用者に思いを伝えるものではなく、使用者の思いを体現するためのものなのだから。

 だが、“右腕”は尚も語りかける。

 “戦う意志はあるか”と。

 

 それは。

 それは。

 

マーガレット

「当たり前だ!」

 

 言われるまでもない言葉だった。そんなことを問うているのならば、愚問も甚だしい。怒りを通り越して呆れ返るほど、それは当たり前の質問。故に、マーガレットは叫んだ。

 

マーガレット

「槇菜は、私のせいで巻き込んでしまった女の子だ。本当は、戦わなくてもいい子なんだ。その槇菜に守られるなんて、私は嫌だ!」

 

 それは、マーガレットの魂からの叫びだった。

 

マーガレット

「シグルドリーヴァ、戦う力があると言うなら私によこせ。紫蘭を貶めた、あの子を屠る力を。今もこうして、誰かを守るために傷つき続ける少女を守れる力を」

 

 そして、何よりも。

 

マーガレット

「私自身が、後悔しないための力を!」

 

 マーガレットの叫びが通じたのか。それは定かではない。しかし、そう叫んだ直後のことだった。

 天地を引き裂かんばかりの雷鳴。それと同時に、シグルドリーヴァの“右腕”が天を掴まんばかりに大きく上がる。当然、そんな動作をマーガレットは行っていない。しかし、異変はそれだけには留まらなかった。

 

槇菜

「えっ!?」

 

 ゼノ・アストラのセラフィムが広がりはじめた。まるで、この世界を包みこまんばかりに広く、大きく広がっていく光の翼。槇菜の意志で操る破邪の翼は今、槇菜のコントロールを離れて暴走を始めている。

 

ショウ

「これはっ!?」

 

 広がり続ける翼から舞い散る羽根は焔へと変わり、全てを燃やす。それは、今までのゼノ・アストラからは……槇菜が操る限り、全てのものを護る鉄壁の守護神だったゼノ・アストラからはあり得ない挙動だった。

 

ドモン

「槇菜、どうしたっ!?」

槇菜

「ゼノ・アストラのコントロールが、効かないんです……。どうして!?」

 

 異変が起きているのは、ゼノ・アストラとシグルドリーヴァだけではない。ずっと敵を屠り続けていたバルバトスの動きが、急に緩慢なものになる。

 

オルガ

「ミカッ!?」

三日月

「これ……あの時と同じだ」

 

 バルバトスのエイハブウェーブが、異常な周波数をキャッチし誤作動を起こしているのだ。それはかつて、『B世界』の火星でモビルアーマー・ハシュマルと戦った時と同じ変調。

 

三日月

「バルバトス……何かを待ってるのか?」

 

 三日月の嗅覚は、バルバトスの異変から何かを感じ取ったように呟いた。しかし、問題は今ここでバルバトスが動かなくなるのは、自分の命も危険であるということ。迫り来るポルターガイストの放つ気弾のようなものを、バルバトスの前に躍り出たフィン・ファンネルが電磁シールドを作り受け止める。

 

アムロ

「三日月、下がれ!」

三日月

「そうしたいけど、バルバトスが言うこと効かないんだ」

 

 三日月・オーガスは、自身の五感をバルバトスに預けてしまっている。バルバトスから脱出することも叶わないその身体は今、バルバトスの不調と併せて窮地に陥っていた。

 

シャア

「しかし、なんだこの胸騒ぎは……!」

 

 サザビーで敵を薙ぎ倒し、荒れ狂うセラフィムを避けつつもシャアは呻くように言う。シャアの鋭敏な感覚は、この空間に渦巻くものを感じ取っていた。そしてそれは、ライラの放つ邪悪なプレッシャーだけでは決してないことを彼は悟る。

 

ライラ

「これ……。そうか、リーンの翼が呼んでるんだ!」

 

 ゴッドガンダムの拳を躱しながら、邪霊機の少女が叫んだ。

 

ドモン

「何ッ!?」

槇菜

「リーンの翼……エイサップ兄ぃが!?」

 

 オーラロードに突如現れたサコミズ王と共に、どこかへと飛び去っていったエイサップ。槇菜がそれを意識すると、ゼノ・アストラは仄かな光をキャッチする。人だ。槇菜が画面を格段すると、モニタに映るそれは見間違えようもない。

 

エイサップ

「うぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

サコミズ

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 エイサップ鈴木と、サコミズ王。二人は自らの履く靴から生え伸びる翼の意思に操られるがまま、空を飛んでいた。

 

槇菜

「エイサップ兄ィ!?」

リュクス

「父上!?」

ショウ

「クッ……!?」

 

 それぞれに言葉を発し、ショウのヴェルビンはエイサップを助けに行こうと急行する。しかし次の瞬間、リーンの翼は眩いばかりの輝きを放ち、そして舞い燃え散るセラフィム達がそれに共鳴するように輝き始めるのだった。

 

アムロ

「これは……!?」

トビア

「な、ん、だ?」

 

 その輝きは激しさを増し、周囲全てを包み込んでいく。

 

鉄也

「クッ、この眩しさは!?」

竜馬

「チッ、前が見えねえ!?」

 

 その温かく、しかし冷たい空気が空間を、世界を支配していく。それを彼らの戦場で刺激された肌が感じる。

 

ユウシロウ

「…………!?」

ショウ

「うッ…………!?」

 

 眩さに目を細める者達。

 

シャア

「この肌寒さは……何だ!?」

三日月

「…………バルバトス。お前、知ってるのか?」

 

 今まで経験したことのない……しかしどこかで覚えている。これは、まるで輪廻の記憶。

 

ヤマト

「ゴッドマジンガー、お前……?」

キッド

「こいつは一体……?」

 

 それは人が、生物が知る原初の光なのかもしれない。あるいは人は生まれ落ちると共に、この光を忘れてしまう性を生まれながらにして持たされている。そういう性質のものだった。

 

ハーロック

「この光は、まるで……!?」

 

 アルカディア。宇宙のどこかにあるとされる伝説の理想郷。それを人が求めて止まぬのは、この光を知っているからなのかもしれない。

 

ドモン

「だが、この恐怖感はなんだ!?」

東方不敗

(これは、まるで……!)

 

 暖かな光の中に迸る冷たさ。それは生命の原初の冷たさ。或いはそれこそが、死という感覚なのかも知れない。東方不敗は、それを一度経験している。命の灯火が消える最期の熱。彼がドモンとの死闘の果てに得たものだ。それと同じ温かさと冷たさが同居するこの感覚が、世界を包んでいる。

 

槇菜

「ゼノ・アストラ、何をっ!?」

 

 その最中にありて、黒き旧神の翼が羽ばたくと、舞い散るセラフィムの炎はゼノ・アストラ

の装甲を……黒いボディを焼いていく。

 

桔梗

「槇菜っ!?」

マーガレット

「何が、起こって……」

 

 まるで自らを裁くかのような炎を浴びるゼノ・アストラ。その炎の中で少女は、櫻庭槇菜の視界には、映るものがあった。

 

槇菜

「これ……これって……」

 

 それは槇菜が知っているようで、知らない世界。機械の巨人が闊歩し、戦う光景。そしてその中で散っていく無数の命と、新たに生まれる命。

 

ライラ

「“厄祭戦”……」

 

 槇菜の見ている光景が何なのか、少女は知っているかのように呟いた。

 

オルガ

「何……?」

隼人

「“厄祭戦”だと?」

 

 その言葉を、オルガや隼人。それにハーロックら『B世界』の者達は知っている。彼らの世界において、それは伝説ともなっている大戦争を表す言葉だった。

 

ライラ

「リーンの翼が見せている光景に、旧神が共鳴しているんだ。なら……!」

 

 丁度いい。そう言って邪霊機の少女は剣を掲げ、祈るような言葉を呟く。それは、マーガレットの耳には懐かしい音を伴いそして一瞬、空間が黒く染まる。しかし、数瞬の後……。

 

 世界の光景は、塗り替えられていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

 槇菜達の目に映るその光景は、宇宙の闇だった。青い星。見渡すばかりに広がる闇。その先には槇菜達が月と呼ぶ衛星が浮かんでおり、その周辺には金色の輝きを伴う何かが無数に蠢いている。

 

エイサップ

「これは……!」

サコミズ

「リーンの翼が、この光景を見せていると言うならこれは、現実だというのか!?」

 

 サコミズの叫びに応えるものはない。やがて、青い星から一条の流星が飛んできたように見える。白く煌めく流星。その両手には決して折れない二本の剣。マシンだ。しかし、その流れるような姿形は美しく悍ましい。マシンは、赤い瞳を迸らせる。

 そのマシンを、オルガ・イツカは知っている。

 

オルガ

「バエルだと!?」

 

 ガンダム・バエル。三日月の乗るガンダム・バルバトスと同じガンダム・フレームを搭載する72機のモビルスーツがひとつであり、その第一号機のあたる機体。オルガ達鉄華団の協力者でもあったマクギリス・ファリドが革命のために欲したギャラルホルンの象徴とも言うべきマシンが、そこにいた。

 

三日月

「だけど、あれはチョコじゃない」

竜馬

「マクギリスの野郎じゃねえってんなら、誰がバエルに乗っているってんだ!」

 

 竜馬が叫ぶと同時、ガンダム・バエルはその剣を高く掲げる。まるで、革命に挑む騎士のように。そして、

 

『戦士達よ今こそ集え、アグニカ・カイエルの名の下に!』

 

 そんな、宇宙に響き渡る声が彼らの耳に去来する。アグニカ・カイエル。ギャラルホルンの創始者であると同時、このガンダム・バエルで“厄祭戦”を収めたとされるオルガ達の世界に伝わる英雄。その名前をバエルの操縦者は口にするのだ。

 それと同時、バエルに続くように集結するガンダム・フレーム達。キマリス、グシオン、フラウロス、それにバルバトス。三日月達が知っているそれらだけでなく、数多くのマシン達がバエルの名の下に集い、月を目指して進軍する。その光景は、伝説に伝わる“厄祭戦”そのものであるかのようにキャプテンハーロックには映っていた。

 

ハーロック

「そんな、ことが……!?」

 

 あり得ない。そう言いたい気持ちと、ならばこの光景はなんだという気持ちがせめぎ合う。それに答えを与えるように、邪霊機の少女は呟くのだった。

 

ライラ

「“厄祭戦”……。これはその記憶。“前の宇宙”で起きた人類の終末戦争」

ドモン

「“前の宇宙”だと?」

ライラ

「そう。人の命がバイストン・ウェルで転生し、魂の修練を積むのと同じ。世界……ううん、宇宙だって生き物だから輪廻する。これは宇宙の、前世の記憶。そして再び生まれた宇宙は、双子だった」

隼人

「…………それが、俺たちの世界とこの世界だと言うのか?」

 

 並行世界。並行宇宙。そう呼ばれる世界だと解釈していたものに、新たな答えを示される。だが、そうであると言うならば納得のいくものもある。

 

ユウシロウ

「……あれは、骨嵬?」

竜馬

「何だとっ!?」

 

 月より出でる軍団。その中にある骨嵬のような鎧武者の姿をした鬼がそれだ。骨嵬。自らを鬼へと変貌させる器。それが今、バエル率いる悪魔の名を冠するガンダム達と剣を交えている。それは、世界の垣根を越えた戦いだった。

 

隼人

(ガサラキが地球に流れ着いた過去というのは、まさかこの世界なのか?)

 

 そして輪廻は周り、しかし隔世遺伝的に嵬の一族が現れるとしたら。ユウシロウやミハルだけでなく、『B世界』の人間でもある竜馬が嵬であっても筋は通る。

 

沙羅

「忍、あれ!?」

「ダンクーガだと!?」

 

 月へ向かい集結するマシンの中に、ダンクーガとよく似た黒いマシンがあった。違いがあるとすれば、赤いマスクをかぶっていることと、背中のブースターがさらに強力に進化していること。おそらく、合体している獣戦機が4機ではなく、5機。それに向かい集まる骨嵬の軍団を前に、そのダンクーガは断空剣を抜く。そして黄金の輝きと共に、剣を振るう。

 

『断空弾劾剣!』

 

 ダンクーガから放たれる魂の一振り、重なる叫び。それは確かに人を越え、獣を越えた先に至る力。人類の希望を一身に背負いし方舟。

 

「……あの少女の言っていたオリジナルとは、こいつか?」

 

 亮が呟くと同時、次に飛び込んできたのは髪の毛のような触覚を頭部に束ねる白いマシンだ。髪の毛から光の輪を放ち、敵陣へと猛スピードで切り込んでいく。

 

鉄也

「あれは、光子力エネルギーを使ったマシンか?」

トビア

「だけど、マジンガーではない……一体あいつは

?」

 

 まるで孤高の王者の如きスピードで骨嵬を蹴散らしながら、髪の毛マシンは月に集結する金色の巨人達へと迫る。黄金はブラックホールのようなワームを発生させるが、周囲に光子の壁を作り出してそれを掻い潜る髪の毛マシンは、チェンソーのような武器にポケットから取り出した弾頭を込めていく。

 

『そっちが心を読めても、こっちにはオーバースキルがある!』

 

 髪の毛マシンがチェンソーから銃弾を放つその瞬間、まるで時間が凍りついたかのように止まったように見えた。正確には止まったわけではない。そう見えるほどに髪の毛マシンの攻撃は鋭く、冷たく、そして熱いのだ。金色の巨人に着弾した弾頭は凍りつき、真空の宇宙の中にありながら絶対零度が金色の巨人達を凍てつかせていく。

 

シャア

「まるで超人……オーバーマンか」

 

 オーバーマン。シャアにそう称されたマシンに続くように現れたのは、モビルスーツだ。一機はガンダム。しかしバエルのようなガンダム・フレームタイプと違い、むしろシャア達に馴染みの深いスタンダード・モビルスーツのように見える。白と青の体色と大きなバックパックを背負ったガンダムを援護するように、まるで華美なドレスのように見える多重砲身を持つガンダムと、シャアやジュドーが戦ったことのある純白のモビルスーツ……キュベレイを想起させる一つ目モビルスーツが宇宙を駆ける。

 純白の機体のスカートのようになっている部分がパージされると同時、ファンネルとなったスカートが次々と骨嵬を撃ち落としていく。続くように、ドレスを纏うガンダムもその砲身を骨嵬へ向け、一斉射撃。暗闇の宇宙を彩るビームの光がまるで花火のように、宇宙を彩っていく。それは、ともすれば綺麗な、引き込まれるような光だ。

 

 

『ゲッター線があなた達を選んだからって、それは他の生き物を滅ぼしていい理由にはならないでしょう!』

『それがわからないあなた達はぁーっ!』

 

 少女のものと思われる叫び声が、宇宙に響く。さらに続けて大きなバックパックを背負うウサギの耳のような特徴的なV字アンテナを持つガンダムが、月を覆う金色の巨人達目掛けてビーム・ライフルを撃った。しかし、ビームの光は不思議な重力場に打ち消され、代わりに発生するワームホールがガンダムを襲う。ガンダムはシールドを構えると、シールドはフォトン光を放って巨大化したかのようにアムロには見えた。そして、バックパックから何かが展開されると当時、螺旋を描くかのように宇宙に光が満ちる。

 

『あなた達が対話を拒むなら、使いますよ!』

 

 螺旋の先……金色の巨人達は次々と消滅し、光に還っていく。光へと還元された金色の巨人達はガンダムのバックパックに吸い込まれ、それを操る少年には巨人の声が聞こえた。

 

『あなたは、そこにいますか?』と。

 

槇菜

「!?」

 

 まるで深淵から語りかけるような冷たく、しかし優しい声。まるで胎児の夢を見ているようなその感覚に、槇菜は猛烈な吐き気を催した。

 

桔梗

「槇菜、大丈夫なの!?」

槇菜

「う、うん……。それより、これ……」

 

 今も、ゼノ・アストラは燃えている。しかし、焼けるような感覚はない。むしろシャワーを浴びている時のような心地よさすら、ゼノ・アストラの炎にはある。そうでありながら、今の声は。

 

ライラ

「……聴いたんだ。天使の声を」

槇菜

「天使……?」

ライラ

「そう、天使。宇宙の彼方から舞い降りたそれは、人類の常識を超越した高次生命体だった」

 

 それがあの、金色の巨人達なのだろうか。槇菜は再び視線を、月を舞台にした戦いに移す。金色の巨人……天使達の囁き声に呑まれた名も知らぬガンダム・フレーム達からエメラルドの宝石が伸びていく。まるで、機体の、或いは体内の構造を変換しているようなその光景は美しくもあり同時に、悍ましさを醸し出している。

 

『あなたは、そこにいますか?』

 

 その声を受けたガンダム・フレームは忽ち体内から抽出された結晶へと身体の全てを置換され、弾ける。それは死と呼ぶにはあまりにも実感のわかない消滅だった。「いなくなった」という方が適切かもしれない。

 

チボデー

「Jesus!」

 

 それは、あまりにも常識から離れた末路だった。その光景に、機能不全に陥っていた三日月のガンダム・バルバトスルプスレクスが吠え猛るように駆動音を掻き鳴らす。

 

三日月

「バルバトス、お前……」

 

 あれと戦うために、悪魔は生まれた。そうバルバトスは言っているようだった。

 

エイサップ

「俺たちの宇宙が生まれる前に、こんなことが……」

ショウ

「あれは、何だ!?」

 

 激動の宇宙を突き抜けるように、さらに二条の流星が走る。片方は純白。片方は紫根。それぞれが、あの天使達と同じような煌めきを宿している。

 

『間に合わなかったか!』

『いや、まだだ。俺がやる!』

 

 前に出たのは、白い方だ。そのマシンは手足が長く胴が細い。まるで神話に登場する竜人のようなフォルムをしていた。そしてその右腕には、結晶で固定された棒状の武器。それを振りかざすと、白い竜人は一瞬、戦場で固まった。だが次の瞬間、棒の先端が二つに分かれる。忽ち周囲のガンダム・フレーム達を襲う緑色の結晶を覆うように白い竜人を中心にして咲き乱れる結晶が、宇宙を包み込む。そして、パリン。

 

『半分は、もういないのか……!』

 

 白い竜人は、敵に侵蝕されこの宇宙から生滅しようとする者達を救ったのだ。敵の侵蝕行為を逆侵蝕することで中和し、その侵蝕を自らが引き受け逆に喰らい尽くす。

 救世主。そう名付けられし片翼は存在の力を体現する機体。そして、もう片翼。紫根の体躯を持つ竜人は、肩から伸びるワイヤーを次々と敵へ突き刺していた。

 

『貴様らぁぁぁぁっ!?』

 

 獰猛な声と共に、ワイヤーは敵を同化していく。そして、同化された敵は瞬く間にワームに呑まれ消滅。虚無の申し子。

 激闘の光景が映し出され続ける中、月が茫と輝いたのを、槇菜達は見た。そして現れるのは、金色の巨人……今までのものとは桁違いに大きく、そして明確な敵意の視線で世界を睨む憎しみの巨人だった。その姿はまるで神話に登場する堕天使アザゼルのようで、他の金色の巨人達にあったそこはかとない神々しさすら、感じられない。

 

マーガレット

「これは、何なの。宇宙の終わり?」

キッド

「だとしても、それをどうして今になって俺たちが見ることになる?」

 

 キッドの疑問に応えるように、それは現れた。天地を揺るがすほどの速度で突っ切る、3台の戦闘機。

 

竜馬

「あれは……!?」

早乙女

(やはり、そうか……!)

 

 3台の戦闘機は一つの姿へと代わり、その巨腕が姿を表す。尚も巨大なアザゼルの遥か、左上。

 

『チェェェェンジゲッタァァァァァ天!』

 

 ゲッターワン。宇宙を震撼させるその巨腕を振り上げ堕天使と戦うその声は紛れもなく、流竜馬のものだった。

 

弁慶

「どういうことだ。なんでゲッターが……」

ユウシロウ

「…………」

 

 ゲッターに続くように、次々と現れるスーパーロボット達。巨大な腕が、敵陣を突き破り飛んでいく。その姿はまさに、ロケットパンチ。

 

ヤマト

「まさか、おい!?」

鉄也

「間違いない、あれは!?」

 

 巨大な腕は姿を変えていく。空に聳え立ち、幾度となくこの世界を守り抜いた鉄の城。マジンガーZ。それと瓜二つの鋼鉄魔神が、両腕を振り上げ君臨するのだった。

 

『てめえらに地球を好きにはさせねえ、光子力ビーム!」

 

 マジンガーZの目から放たれる高出力高視力ビームが、金色の天使達を次々と消滅させていく。さらに、マジンガーZに並ぶように立つ巨人がいた。魔神の剣を構え、荒れ狂うように乱舞するその姿は見間違えようもない。ゴッドマジンガー。

 

ヤマト

「ゴッドマジンガー……。お前も、この戦いに参加していたのか?」

 

 魔神は答えない。しかし、それを肯定と受け取りヤマトはその戦いを食い入るように見つめていた。

 だが、敵は天使達だけではないようだった。遥か宇宙の彼方より、現れる機械の巨人群。その先陣を切るのは、どこか甲殻類を思わせる風貌のマシンだった。その尻尾はどことなく、バルバトスに似ている。

 

オルガ

「ハシュマルだと!?」

三日月

「……………………」

 

 ハシュマル。オルガ達の知る“厄祭戦”は、暴走した無人機モビルアーマーとの戦いだったと言われている。ハシュマルは、オルガ達の火星に眠っていたそのひとつ。ハシュマルに続くように後進するのは、無骨な外観を持つ巨人達だった。物言わぬ巨人が、破壊のかぎりを尽くすようにビームを放ち、後進する。その余波で、戦艦が一つ、二つ、また一つと沈んでいく光景が見えた。

 

ライラ

『暴走する機械仕掛けの神……。それが、この戦いをより混迷に導いた』

 

 破壊と混沌を撒き散らす無人機達。だが、その前に立ちはだかるものがあった。それは、暴走する巨人と同じような風貌を持つ機械巨人。両腕が大きく突き出たような姿を持つ巨大なる王。

 

トチロー

「あの機体、マシンの墓場に朽ちていたのに似ているぞ……!」

 

 トチローが叫ぶ。それと同時、機械の軍団に立ちはだかる大いなる王が叫び声を上げるのだった。

 

 

『これ以上暴れるのならば、力づくで止めさせてもらう! このロジャーの法が、君達を断罪する!』

 

 黒い巨人の胸部が開くと、ミサイルの雨が飛ぶ。さらに腰から射出されるアンカーがハシュマルを捉えると、黒い巨人は容赦なくハシュマルを殴り叩いた。

 

『ビッグオー、アクション!』

 

 まるで、物語に終局を齎す神の如く荒れ狂う巨人。そしてその巨人の背後。月を背に戦う白い機神がいた。背中に日輪を背負い、鏡のように透き通った装甲を持つ神々しい機体。それもまた、神話の時代から出でたような姿と、光でできた剣を握り、月より現れたモノと戦っていた

 

サコミズ

「おお! あの姿はまるで天叢雲剣!」

東方不敗

「まさに、神話の戦いか……」

 

 幼い頃に本で見た神。それをサコミズは日輪に見る。それは東方不敗も同様だった。そして剣を振るう少女達の声が届く。

 

『あなたの愛する世界を守る。そのためなら私は死ぬことだってできた……』

『うん、だけどね。わたしはこれからも、2人で一緒に生きたい。だから!』

 

 共に生きる明日のために。少女達は剣を振るう。沈み逝く月の迷いも、昇り往く太陽の迷いも受け入れ進む。例え何度生まれ変わろうと、きっとまた出会える。それは永遠の空の向こうかもしれないし、背教の果てにあるものかもしれない。それでも二人はきっと幾度と出会い、愛し合う。そう確信しながらも、今この輪廻で掴んだ運命を離さないと決意した少女達の一撃が、アザゼルを斬り伏せる。そこにできた隙に、白い竜人がランスを突き刺した。そして一瞬、堕天使アザゼルを想起させる巨体はエメラルドの結晶に包まれ、弾ける。弾け飛んだその瞬間、中から飛び出した小さな欠片を紫紺の竜人が消し去った。

 

 だが、月から出る猛攻は止まることを知らない。金色の巨人達はさらに増え続け、戦いは激化するばかり。敵も味方も損耗し尽くした、死力の戦いが宇宙では展開されている。

 

『さすがに敵のミールの中心地なだけはある……!』

 

 紫紺の竜人に乗る少年の呟き。そして次の瞬間、赤い体躯の巨神がその空間に姿に表すのだった。

 

アムロ

「あれは……!?」

 

 

…………

…………

…………

 

 

—アルカディア号/医務室—

 

 

 その光景を医務室でカミーユ・ビダンを診ているジュドー・アーシタも目撃していた。赤い巨神。それをジュドーは知っている。

 

ジュドー

「まさかだろ。お前は……」

 

 伝説巨神。かつて木星で発見され、ジュドーとアムロ・レイが協力しその覚醒を阻止した機体がその映像の中では、圧倒する力を奮っていた.全身から放出されるミサイルの雨。敵のワーム攻撃を受けながらそれを対消滅させるバリア。そして、両手から発生する無限のエネルギーをソード状に束ね、力の限り振るう。

 

『死んでたまるかよ。俺はまだ十分に生きちゃいないんだ!』

 

 銀河を揺さぶる少年の叫びが、ジュドーの心に響いた。宇宙を駆けるコスモスの色が、消えゆく魂達の慟哭が宇宙を震わせる。

 

ジュドー

「……こんな戦い、本当はあっちゃいけないはずじゃないか」

カミーユ

「あ、ああ……」

 

 その叫びを聞くものが、もう一人その場にいた。寝台で寝かされている少年、カミーユ・ビダン。カミーユの意識に、コスモスが語りかける。それは、生命の消える音。狂騒の宇宙にただ一つ、凛然と煌めくものが尽きる静寂の音。

 

カミーユ

「ダメだ……それは……」

 

 それは、やっちゃいけないことなんだ。魘されながらカミーユはそう、声を漏らす。

 

ジュドー

「カミーユ……」

 

 そんなカミーユが何を感じているのか、ジュドーにその全てがわかるわけではない。ただ、それでも彼の感じ方はあまりに過敏で、この空間は危険すぎる。それを察したジュドーはただ、カミーユの手を握るのだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

槇菜

「ゼノ・アストラは、この戦いを知っている……経験している?」

 

 映し出される光景の全ては、ゼノ・アストラとリーンの翼が共鳴して見せている現象だとライラは言う。しかし、あまりにも現実離れした“厄祭戦”の光景は、槇菜の常識を根底から揺るがす力を持っていた。

 宇宙の輪廻。それは人の想像力の遥か及ばないものであり、だが輪廻の記憶はしかし、人々の記憶の奥底にある。それをマジンガーやゲッター、ガンダムといったマシンがそこに存在していることが物語っていた。これはカートゥーンでもなければ、映画でもない。生の現実であることを。

 やがて、月を舞台にした“厄祭戦”の最中にそれは現れる。黒い体躯と、光の翼を持つマシン。細部の形状は違うがそれをゼノ・アストラであると槇菜は疑わなかった。対峙するは、血のような赤に染まり、髑髏のような窪んだ眼窩を持つ機体。邪霊機アゲェィシャ・ヴル。だが、あの特徴的な鴉翼を持たない。持っているのは、猛獣のような鋭い鉤爪。

 月面で激突する2体の機神。セラフィムが羽ばたき、舞い散る羽根が邪霊機を焼く。しかしそれにまるで物怖じせず、獰猛な爪を立てて邪霊機はゼノ・アストラと思しき機体に喰らいつく。そして、食い込んだ爪がギリギリと音を立ててゼノ・アストラの右腕を弾き飛ばした。その光景に、マーガレットの表情が凍る。

 

マーガレット

「まさか、それじゃあ……!」

 

 シグルドリーヴァの“右腕”。それは本来、ゼノ・アストラのものだと言うのならば。

 ゼノ・アストラを思しき黒い機体の、奪われた腕の切断面から筋肉のようなものが膨張し、膨らんでいく。再生能力。そうとしか表現できない現象を起こしながらも隻腕のゼノ・アストラが邪霊機へと向かっていく。尚も激しい戦いが続く“厄祭戦”の光景が広がる中、燃えるような赤い少女が呟いた。

 

ライラ

「だから……もう終わらせなきゃいけないの。こんな輪廻、みんな苦しいだけだから!」

 

 瞬間、“厄祭戦”の光景は光と弾け、凄まじい衝撃音が彼ら彼女らの耳を襲う。それは、夢の終わりのような刹那。

 

エイサップ

「うわぁっ!?」

サコミズ

「ぬぉぉっ!?」

 

 その衝撃に、吹き飛ばされそうになるエイサップとサコミズ。そんな二人を助けるように、彼らの背後に飛んでくるものがあった。ナナジンとオウカオー。彼らの愛機とも言うべきそれらは、主を守るように優しくそれぞれを手でキャッチすると、キャノピーを開き迎え入れる。

 

エレボス

「エイサップ!」

エイサップ

「エレボスか!」

 

 キャノピーを閉じ、エイサップは邪霊機を探す。邪霊機の周囲にはみるも悍ましいほどの黒いオーラ力が蠢き、邪霊機は燃え盛る炎に包まれながらその剣に暗黒を吸収させていた。負のオーラ力が、この空間には充満している。それが何なのか、今の光景でショウは悟る。

 

ショウ

「まさか、この場所は……“厄祭戦”で滅んだ世界の成れの果てなのか!」

 

 映し出された“厄祭戦”の結末は、わからない。しかし、これと同じような光景を、宇宙が輪廻する度に繰り返されているというのならば。

 

ライラ

「そう。ここは吹き溜まり。前の宇宙、その前の宇宙。輪廻する度に輪廻から弾かれた魂達がいくあてもなく彷徨い続ける宇宙の墓場。だからここは、私に力をくれる!」

 

 尚も強力に膨れ上がるライラのオーラ力。あまりにも常軌を逸した悪意の渦が、心を喰らいつくさんばかりに濁流する。

 

アムロ

「これは……!」

東方不敗

「ぬぅ……!」

トッド

「なんてこった……!」

 

 それは、信心深いものやこの世ならざるものを感じることのできる人にとってはまさに毒であり、そうでないものでも、宇宙が輪廻した分だけ蓄えられるという途方もないエネルギーは想像もつかない。それを今、ライラという少女はその身に宿し、マシンを通して体現している。

 

ライラ

「あはは……はははっ!」

 

 その身を焦がすほどに焼きながら、ライラは歓喜の声を上げた。少女が邪霊機の巫女として再誕を果たしてから、どれほどこの時を待っただろうか。宇宙の輪廻。それを断ち切ることで完全な虚無を、死の安寧を世界に齎す。それが、邪霊機の巫女の宿痾。幾度となくそれを阻んだシャッフル同盟。そして人知の及ばぬところでそれを司るリーンの翼を、旧神をこの宇宙から完全に消し去る。そうしたら、次は神を名乗る者達を。最後は木星に眠り続ける巨神と、輪廻の狭間から来る者達を。全てを消し去ることでようやく、宇宙は救われる。完全なる死と虚無によって。

 

ドモン

「させるかぁっ!」

東方不敗

「はぁっ!」

 

 ゴッドガンダムとマスターガンダムの掌が真っ赤に燃え、邪霊機へと放たれた。石破天驚拳。しかし天地すらも驚するその爆熱すら、今のライラはその身を焼く炎で打ち消してしまう。

 

東方不敗

「此奴、自らの身体を焚べておるのか!?」

ドモン

「何っ!?」

 

 あのグランドマスターガンダムか、それ以上。今のライラのプレッシャーがそうさせてしまうのだろうか。ともかく、必殺の一撃すらも軽々と凌駕する今の邪霊機は、燃えていた。自らの羽根に焼かれるゼノ・アストラと同じように。

 

「三界また火宅の如し。奴は自らを焚く炎を以て自らの中に世界を取り込んでいるというのか?」

「冗談じゃねえ! 死んだ世界なんかに、今生きてる俺たちの邪魔をされてたまるかよ!」

 

 今度はダンクーガが動く、断空砲とパルスレーザー、全砲門を一斉射する断空砲フォーメーション。だが、それも邪霊機の炎は霧散させてしまう。

 

ライラ

「うるさいよ、飛び回るなハエが!」

 

 邪魔機が燃える剣を一振りする。その斬撃は波立ち、吹き荒ぶ炎がダンクーガを、ゴッドガンダムを、マスターガンダムを襲う。

 

沙羅

「キャッ!?」

東方不敗

「ぬぅ!」

 

 今のアゲェィシャ・ヴルは、自らを燃やす炎に守られていた。それは世界を呪う炎。輪廻の輪から外れ、帰るべき場所も行くべき場所も失った魂達の、慟哭の宴。

 

シャア

「このプレッシャーは……!」

チャム

「ショウ、怖いよ……悲しいよ」

ショウ

「泣いてる……のか?」

三日月

「……………………」

 

 少女の、少女に付き従うまつろわぬ者達の慟哭が声。それは感受性豊かなフェラリオには毒となり、そうでない者にも胸を突き刺すような悲しみと怒りを想起させる。

 

ライラ

「今ここで、みんな殺してあげる。そうしたらその魂をリビングデッドにして、マシンはポルターガイストの部品にしてあげるから! アハハ、ハハハ!!」

 

 黒いオーラを、死霊、怨霊、怨念、怨恨、憎悪、執着、偏愛あらゆる悪なる意志の力を宿す邪霊機の剣が燃える。死した世界そのものをエネルギー源とするその力は今も尚無限に膨れ上がり続けている。

 

アイザック

「シンクロン原理と同じか……」

 

 ブライガーの中で、アイザック・ゴドノフは冷静に分析していた。

 

お町

「ブライガーなら、あれに対抗できるの?」

アイザック

「未知数だ。シンクロン原理は多次元世界から余剰のエネルギーを抽出し、超質量を可能とする原理だが暴走の危険を考えると長時間保たせることはできない。ブライガーの変形がブライキャリアから射出後24時間以内に限定されるのは、それが理由だ」

キッド

「けどあいつは、この空間そのものから無尽蔵にエネルギーを吸収してる。やってやれないことはないが、分が悪いってわけかい!」

 

 ブライガーが動く。この状況を打破することができる可能性があるのならばと。ブライソードを構え、邪霊機と対峙する。アゲェィシャ・ヴルと斬り結びながらしかし、その剣圧に押されつつあった。

 

ライラ

「アハハ、すごいねそのマシン。世界をいくつ取り込んでるの!」

キッド

「取り込んじゃいないさ。少しだけ、エネルギーを貸してもらってるだけでね!」

 

 軽口を叩くが、実際にはそんな余裕はどこにもない。邪霊機の放つ漆黒の意志に塗れた炎はめらめらと燃え上がり、ブライガーを圧倒するのだから。

 

ライラ

「じゃあ……死んでよ!」

 

 剣を横薙ぎ、ブライガーを蹴り上げる。その剛脚にブライガーが大きく突き飛ばされたのと同時、ライラへと迫るものがあった。

 

マーガレット

「…………!?」

 

 シグルドリーヴァだ。装甲はボロボロに砕け、視界もうまく定まらない。しかしその“右腕”を力強く掲げながら、シグルドリーヴァはライラへと殴り込む。

 

ライラ

「死に損ないのお姉さんが、よくもまあ!」

 

 “右腕”だけで戦う満身創痍のシグルドリーヴァ。ライラはその厄介な“右腕”のパンチを受け止めると、強引に力を込める。ギリ、ギリと軋む音。それと同時に、邪霊機はシグルドリーヴァの“右腕”を掴み、ギチギチという音と共に強引に引き抜くのだった。

 

マーガレット

「けど、この距離なら外さない!」

 

 シグルドリーヴァのマトリクスミサイルが火を噴き、邪霊機アゲェィシャ・ヴルへと至近距離で撃ち込まれる。爆炎が巻き起こり、それと同時シグルドリーヴァは地へと落下する。シグルドリーヴァは、元々推力の高い機体ではない。それであの高度を跳んでみせたのは、限界を越える挙動だった。それを可能としたのはシグルドリーヴァの“右腕”……ゼノ・アストラの片割れでもあったそれが、性能を超えた動きを可能としていたのだ。

 最後の悪あがき。爆炎が止み、赤き邪霊機はその姿を現す。無傷。マーガレットの悪あがきは、失敗に終わった。

 

マーガレット

「ここまで、か……」

 

 落下しながら、マーガレットは呟いた。できることは全てやった。それでも、倒せなかった。自分には、力がなかった。この高度から地面に激突すれば、機体はバラバラになるだろう。自身の命も、無事では済まない。わかっていたことだ。それでも、動かなければ気が済まなかったのだ。

 

マーガレット

(槇菜に守られるような女じゃ……嫌だもんね)

 

 ゼノ・アストラは槇菜を選んだ。それはいい。だが自分のヘマで戦いに巻き込んでしまった女の子。自分が守らなければならなかった槇菜に守られてばかりでは、情けない。だからせめて、今尚燃え続けるゼノ・アストラを守らなければならない。そういう意識が、働いたのだ。

 

マーガレット

「カンナ、ごめん……」

 

 心残りがあるとすれば、残してしまう妹になってくれた少女のことだ。あの子をまた、ひとりぼっちにしてしまうことになる。それは、申し訳ない。マーガレットがそう思い心の中で十字を切ったその時、落下するシグルドリーヴァを掴むものがあった。

 

槇菜

「ダメです。マーガレットさん、そんなの……」

 

 それは、黒い人型だった。装甲の所々が焼け爛れ、中身が露出している。人間の筋肉のように膨張と収縮を繰り返す器官と、精密機器と思われる機械が複雑に絡み合い、中からどくどくと液体を垂れ流しているが、間違いない。ゼノ・アストラだ。

 

マーガレット

「槇菜……?」

 

 セラフィムは今も燃えている。ゼノ・アストラ自身を燃やしながらしかし、槇菜はそれを使ってみせている。燃え落ちていく装甲。落ちた箇所に少しずつ膜のようなものができていく。それは、皮膚のようにも見えた。自らを焚く火の中で、旧神は本来の姿を取り戻しつつあるのかもしれない。

 だが、それは槇菜の本意ではなかった。

 

槇菜

「私、マーガレットさんに感謝してるんです。あの時ゼノ・アストラを連れてきれくれなかったらきっと、お姉ちゃんと仲直りできなかった。ううん、お姉ちゃんのことを、誤解したままだったから」

 

 自らの炎で装甲を焼き、皮膚のようなものを作り、変質しつつあるゼノ・アストラに抱かれながら、シグルドリーヴァの中でマーガレットはその告白を聞く。その腕の中で、シグルドリーヴァが変質していくのをマーガレットは理解した。長く“右腕”を使い続けたことで、シグルドリーヴァの性質もゼノ・アストラに寄って変質しているのだろうか。

 

槇菜

「だから私、マーガレットさんと一緒に戦いたいんです。マーガレットさんと一緒なら、勇気を貰えるから」

 

 セラフィムの炎が、シグルドリーヴァに燃え移るのをマーガレットを感じた。だが、熱さはない。やがて、セラフィムフェザーが弾けるように霧散し、ゼノ・アストラとシグルドリーヴァを包む混むように炎が燃え広がる。

 

桔梗

「槇菜、何が起こっているの!?」

ライラ

「ッ! やらせない!?」

 

 北欧のウィッカーマンのように芯から燃えるゼノ・アストラ。それが何を意味しているのか理解したのか、ライラは剣から黒いオーラを放ちゼノ・アストラを攻撃する。

 

ライラ

「ヘヘナ・ペレ!」

 

 漆黒の斬撃。しかしそれは吹き荒ぶ炎によって掻き消される。炎が炎を喰らうようにして強く、激しさを増す煉獄。そして、渦巻く炎が弾け、フラッシュ光が起こった。

 

三日月

「!?」

ショウ

「これは……!?」

 

 炸裂する光。その中から撃ち込まれるものがあった。それは邪霊機アゲェィシャ・ヴル目掛けて飛び、赤い邪霊機はその身に纏う炎を盾にするも、それは炎を貫き邪霊機の眉間を撃ち抜く。

 

ライラ

「何ッ!?」

 

 撃ち抜かれた箇所に、痛みが走る。撃ち抜いたそれは、銀だった。銀の弾丸。それは古来より、邪悪なるものを打ち砕くとされるもの。それが邪霊機の放つ災厄の炎を打ち破った。

 瞬間、どこからか吹き荒んだ風が纏う炎を飛ばす。現れたのは、黒い機神。しかしその細部には赤く、燃え滾るような色が残っている。そして何より、胴体や膝、肘、踵といった細部に緑色のアーマーが装備されていることだ。ゼノ・アストラ。漆黒の機神はしかし、今までのそれではない。左手に構えたハンドガン。それは、今までのゼノ・アストラにはなかったものだ。

 

マーガレット

「う…………。ここは?」

 

 意識を取り戻したマーガレットが最初に見た景色は、狭いコクピット。自分が座っているシートの股下には、槇菜が座っている。槇菜は一切の迷い一つない瞳で、邪霊機アゲェィシャ・ヴルを見据えている。

 

沙羅

「マーガレット、無事なの!?」

 

 ダンクーガから響く沙羅の声。どうやら、自分は死んだわけではないらしい。

 

マーガレット

「ええ。ありがとう沙羅。槇菜、これは……?」

 

 自分のシートの横に存在するコンソール・パネルは、シグルドリーヴァと同じものだ。そして、神経接続型スコープ。しかし先ほどまでのシグルドリーヴァと違い、視界はクリア。

 

槇菜

「マーガレットさんは火器管制と、狙撃をお願いします」

 

 困惑するマーガレットに、槇菜が言う。言いながらレバーを上げ、マーガレットへと向けるそこには、かつてマーガレットが槇菜に預けた拳銃が備え付けられていた。

 

マーガレット

「ゼノ・アストラと、シグルドリーヴァが融合した……?」

 

 シグルドリーヴァの“右腕”を、ずっと使い続けていた影響だろうか。ゼノ・アストラは今、シグルドリーヴァと一つになっていた。

 

槇菜

「私の願いに、ゼノ・アストラが答えてくれたんです。マーガレットさんと一緒に戦いたいって。そのために、生まれ変わってくれた」

 

 それは、この空間……“厄祭戦”の墓場とも言うべき特異点が齎したものかもしれない。或いはゼノ・アストラの『旧神』と呼ばれる力の片鱗なのかもしれない。その答えは、マーガレットにも槇菜にもわからない。だが、今ここで起きた変質は、融合は紛れもない現実だった。

 

マーガレット

「この機体は、ゼノ・アストラなの?」

 

 そのエネルギー総量は、テスト起動で搭乗した際の比ではない。もはやこの機体は、ゼノ・アストラではない。そう感じるほどに。

 

エイサップ

「そんなことが、起こるのか……?」

ショウ

「だが、夢じゃない。これは、現実だ!」

 

 リーンの翼のようなものが実在し、幾度と奇跡を起こしているのならば、ここで起きていることもまた現実だ。そうショウは認める。

 

ヤマト

「本来の姿に近くなった……。そうなのか?」

竜馬

「ヘッ、前よりは強そうじゃねえか」

 

 変質したゼノ・アストラが、セラフィムフェザーを広げた。片翼は虹色に輝き、片翼は灼熱に燃える二対の翼を広げ、ゼノ・アストラは……ゼノ・アストラと呼ばれていたものは飛び立つ。

 舞い散るそれぞれの羽根はポルターガイスト達を次々と焼き、敵の親玉即ち、邪霊機アゲェィシャ・ヴルの目前へと君臨する。

 

槇菜

「エクス・マキナ……」

マーガレット

「え?」

槇菜

「今、決めました。この子の名前です!」

 

 機械仕掛け。そう名付けられた漆黒の機神は、再び銃を構える。至近距離からの放たれる銀の弾丸が、邪霊機へと迫った。しかし、ライラはそれを跳ね除けるように炎の壁を作り出し、銀を燻す。

 

ライラ

「そんな虚仮威しで、今のアゲェィシャ・ヴルに勝てると思うな!」

 

 漆黒の剣を振るう赤い邪霊機。黒いオーラに全てを焼き払う炎を乗せてライラは、ゼノ・アストラ改めエクス・マキナへと大きく振りかぶった。しかしその瞬間、エクス・マキナの肩部から放たれるミサイルの雨。それは、シグルドリーヴァのものと同じ。不意を突かれ、アゲェィシャ・ヴルの動きが止まった。その瞬間をエクス・マキナは見逃さない。

 

槇菜

「そこだっ!」

 

 槇菜の叫びに応えるように、ゼノ・アストラの左手にシールドが展開された。ゼノ・アストラのものと同じ、あらゆるものを護るための力。槇菜はそれで、思い切り邪霊機をブン殴る。ゴン、という鈍い音と共に、邪霊機は大きく突き飛ばされた。だが、それで終わらない。エクス・マキナは追撃とばかりにシールドを投げる。まるでブーメランのように空中で回転するシールドが加速力を増して、アゲェィシャ・ヴルを追い討ちする。

 

ライラ

「なっ……!?」

槇菜

「まだ、終わりじゃない!」

 

 叫ぶ槇菜に合わせて、マーガレットがハンドガンの引き金を引く。ガン、ガン、ガン。3回の破裂音と共に、アゲェィシャ・ヴルの頭部に、胸に、腹部に銀の弾丸が撃ち込まれた。

 

ライラ

「クッ、ウァァァッ!?」

 

 苦しそうに呻く少女の声。少女は今、全てを業火を受けながら燃えている。銀の弾丸、それは邪悪な魂を祓う効能を確かに秘めているのだ。

 

マーガレット

「……一つだけ、答えなさい」

 

 銃口を構えながら、静かにマーガレットが口を開く。

 

マーガレット

「あなたの呪文。私のお母さんが時々口にするおまじないだった。あなたは一体、何者なの?」

 

 ライラの呪文には、ハワイ訛りがある。それを見抜くことができたのはマーガレットだけだった。ライラ。邪霊機の巫女として選ばれたという少女。死霊を操り、死者を蘇らせ、世界と人を憎悪する不思議な少女はしかし、それでも尚不敵に笑う。

 

ライラ

「故郷の言葉を使って、何が悪いの……?」

マーガレット

「……!?」

 

 やはり、そうマーガレットが思い下唇を噛み締めると同時、槇菜は虚を突かれたように目を丸くする。

 

槇菜

「え、じゃああなたも……人間?」

 

 人の姿を取る怪異などではない。邪霊機の巫女を名乗るこの少女は、人間なのだと。

 

ライラ

「ハハッ……。覚醒しても人を殺せないんだ。甘ちゃんの巫女だよね!」

 

 そんな槇菜を嘲笑うようにライラ。しかしそれに対して返すのは、マーガレットだった。

 

マーガレット

「私は殺せる。槇菜が殺せなくても、私が!」

 

 今度こそ、引導を渡す。そう心に決めて引き金を引いたその時だった。

 

紫蘭

「……ライラ!」

 

 瞬時の跳躍と共に、ニアグルースが駆ける。そしてアゲェィシャ・ヴルを押しのけるようにして、銀の弾丸の直撃を心臓に受けるのだった。

 

紫蘭

「…………!?」

マーガレット

「紫蘭!?」

ライラ

「どうして……?」

 

 何が起きたのか、ライラには一瞬わからなかった。だがたしかに言えることは、心を殺され物言わぬ屍人形と化したはずの紫蘭が、まるで自らの意志かのように動き出し、ライラを庇ったということ。

 

マーガレット

「紫蘭、ここであなたも……!」

 

 楽にしてあげる。そう言いかけた時、優しげな声がマーガレットの耳に届く。

 

紫蘭

「マー……ガ、レット……」

 

 それは、紫蘭の声だった。まるで生前のように、士官学校の食堂で聞いた声。ある時は昼下がりのハイウェイで聞いた声。ある時はベッドの上で聞いた声が、マーガレットを惑わす。

 

マーガレット

「紫蘭……。紫蘭なの?」

 

 だがその直後、ニアグルースはエクス・マキナを蹴り飛ばしそして、アゲェィシャ・ヴルの手を引いて離れていく。

 

槇菜

「キャッ!?」

マーガレット

「紫蘭!?」

 

 その一連の動きは、紫蘭を蘇らせた張本人であるライラにも、わからない挙動だった。

 

ライラ

「助けて、くれるの……?」

紫蘭

「ああ……」

 

 ニアグルースが拳を掲げると、天井が歪む。彼らは来た時と同じようにして空間の裂け目を作り出し、そこへと退避する。撤退。紫蘭は最後にチラと、エクス・マキナを見やった。

 

マーガレット

「紫蘭、どうして……」

槇菜

「追わなきゃ、ッ!?」

 

 追おうとするエクス・マキナだが、その直後、槇菜の背中に激痛が走った。集中力を途切れさせ、セラフィムの羽ばたく力が弱まっていく。その間に、2機の邪霊機は完全に消えてしまっていた。

 

桔梗

「槇菜、大丈夫なの!?」

三日月

「マーガレット、無事?」

 

 アシュクロフトとバルバトスが、エクス・マキナへと駆け寄る。槇菜は機体を起き上がらせると、「うん、大丈夫」とそう返すのだった。そして、

 

サコミズ

「ムッ、こ……これは!?」

 

 邪霊機を退けたことが何かの合図だろうか。リーンの翼が再び、輝き始めるのだった。

 

ショウ

「オーラロードが、また開くって言うのか!?」

エイサップ

「クッ、この……!?」

 

 エイサップのリーンの翼もまた、暴れている。まるで、何かを伝えるように。その光景を見守りながら、静かに早乙女博士が宣言する。

 

早乙女

「エンペラーのゲッター炉心を解放する。お前達は速やかにエンペラーから離れろ」

 

 厳かな口調でそう宣言する早乙女博士。そこには、一切の迷いの色は存在しなかった。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

竜馬

「お、おいジジイ! どういうことか説明しやがれ!」

早乙女

「説明している時間はない。エンペラーの炉心爆発ならば、オーラロードを開いた際に指針を作るはずだ」

 

 早乙女は、理解していた。ゲッター線はより強く、より過酷な闘争を本能的に求める。オーラロードが開いた時にゲッター線の爆発があれば、死と静寂の世界であるバイストン・ウェルではなく今まさに戦いの最中だろう地上へと押し戻す力があるだろうと。

 そして、エンペラーは存在してはいけないマシンであると。

 

早乙女

(ゲッターエンペラーの存在する宇宙は特異点を生み出し、エンペラー自身が閉じた宇宙を作りだしてしまう。つまり、エンペラーは宇宙の中に別の宇宙を作りだし、輪廻の袋小路を生み出してしまう)

 

 この宇宙が輪廻を繰り返すことで命を循環させるというならば、エンペラーはおそらく輪廻を超える永遠の方舟になることも可能だろう。しかし、その度にエンペラーは大きく、強く成長しやがて生まれた宇宙を喰らい続ける存在に進化する。そうなれば待っているものは、ゲッターによる宇宙の淘汰。無限の進化を目指すゲッター線の特性がしかし、その進化を阻む最大の障壁となることを早乙女博士は、あの映像の中に現れた惑星と見まごうほどに巨大なゲッターワンの存在から見抜いていた。

 

ハーロック

「早乙女博士……」

 

 神妙な面持ちで通信を送るキャプテンハーロック。おそらく、ハーロックもある程度まで理解してしまったのかもしれない。それ故に、これからやろうとしていることがどういうことか、ハーロックはわかっている。

 

早乙女

「……キャプテンハーロック。あとを頼む」

 

 既に、エンペラーに収容していた物資や

人員のアルカディア号への搬入は終わっている。エンペラーに残っているものも残すは、早乙女博士と彼の個室に立てかけられた、ミチルや達人。それに亡き妻と撮った写真のみ。

 

ハーロック

「了解した。ナナジンとオウカオーを除く各機は、アルカディア号へ帰投せよ!」

 

 ハーロックの号令に従い、マシンたちは帰投する。しかし、ゲッターロボだけは帰還せずにエンペラーの周りを飛んでいた。

 

竜馬

「おいジジイ! エンペラーを捨てるなら捨てるで、とっとそこから出やがれってんだ!」

早乙女

「……全く、少しは静かにせんか馬鹿者が」

竜馬

「んだとぉっ!? 人が心配してやりゃ……」

 

 心配。あまりにらしくない言葉に呆れたように笑う早乙女。その態度が気に入らない竜馬は、ますます腹を立てて怒鳴り散らす。だが、もう準備は済んでいる。

 ゲッターエンペラー。『B世界』の早乙女研究所をそのまま改造して要塞化したゲットマシン。このマシンの動力炉は早乙女研究所地下に偶発的に生まれた“地獄の釜”だ。危険すぎるほどのゲッター線の湧き出る釜を多くの犠牲を払って抽出し動力化したその時から、こうなることは決まっていたのだろう。

 

隼人

「早乙女、お前……!」

弁慶

「博士……!」

ミチル

「お父様!?」

 

 口々に早乙女博士を呼ぶ声。思えばミチルには、辛い思いをさせ続けたと早乙女は今になって思う。妻のことも、達人のことも。それでもこうして立派に育ってくれたことは、父として誇らしい。

 しかし、この問題児どもは。

 

早乙女

「最期くらい、素直に言うことを聞かんか」

 

 早乙女博士がそう言って、フッと笑ったその瞬間。ゲッターエンペラーに備わるゲッター炉心の、臨界がはじまった。

 

隼人

「!? 離れろ竜馬!」

 

 急激なゲッター線濃度の上昇。ゲッターロボですら危険なほどのそれを感知し隼人が叫ぶ。それと同時にオウカオーの翼が大きく広がりそして、エンペラーから光が放たれた。“厄祭戦”の墓場を包み込むほどの激しいゲッター線の光は一条の線となり、方角を指し示す。そして、ゲッター線の光を浴びたリーンの翼は燕尾色に輝き、オーロラを纏って羽ばたく。それは、オーラロードの開く音だ。

 

エイサップ

「オーラロードが……!」

サコミズ

「ここで迷えば、生き死ににもならんぞ!」

 

 飛び立つナナジンとオウカオー。アルカディア号はそれを追うようにして、出航する。

 

竜馬

「…………ジジイ」

 

 アルカディア号を追うようにして、ゲッターロボも飛ぶ。やがてアルカディア号のマストを掴むと、ゲッターは光の中に溶けゆくエンペラーを見やった。

 

早乙女

「道は開いた。もはやこれ以上ワシにできることは何もない……。竜馬、隼人、弁慶。ここから先は、道は自分で開け……!」

 

 オーラロードの彼方に消えゆく息子達を見守りながら、早乙女博士は静かにそう呟いた。そして次の瞬間、早乙女博士の意識は無限の中に溶け、大いなる意志の中に一つとなった。




次回予告

みなさんお待ちかね!
オーラロードへ戻り、地上を目指す槇菜達。しかし、リーンの翼が見せるのは、凄惨な過去の悲劇だったのです!
刻の涙に慟哭するサコミズ王。一方地上では、いち早く地上へ降りたホウジョウ軍がマキャベルと密約を交わし、破壊の限りを尽くしていました!

次回「桜花嵐(前編)」に、レディ・ゴー!



特別出演

・「機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ」より
ガンダム・バエル/アグニカ・カイエル
ハシュマル

・「ガンダム Gのレコンギスタ」より
G-セルフ パーフェクトパック/ベルリ・ゼナム
G-アルケイン フルドレス/アイーダ・スルガン
G-ルシファー/ラライア・マンディ、ノレド・ナグ

・「伝説巨人イデオン」より
イデオン/ユウキ・コスモ、イムホフ・カーシャ、ギジェ・ザラル

・「THEビッグオー」より
ビッグオー/ロジャー・スミス
ビッグデュオ
ビッグファウ

・「オーバーマンキングゲイナー」より
キングゲイナー/ゲイナー・サンガ

・「真マジンガー 衝撃! Z編」より
マジンガーZ/兜甲児

・「ゲッターロボアーク」より
ゲッター天/流竜馬

・「獣装機攻ダンクーガノヴァ」より
ダンクーガノヴァマックスゴッド/飛鷹葵、館花くらら、加門朔弥、ジョニー・バーネット、エイーダ・ロッサ

・「蒼穹のファフナーEXODUS」より
ファフナー・マークザイン/真壁一騎
ファフナー・マークニヒト/皆城総士
フェストゥム・スフィンクス型
フェストゥム・アザゼル型ウォーカー

・「神無月の巫女」より
剣神 天群雲剣/来栖川姫子、姫宮千歌音
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