—???—
オーラロードは、極彩色の景色を彼らに見せる。しかし、それがどこへ通じる道なのかは誰にもわからない。オーラロードが地上とバイストン・ウェルを繋ぐ道である以上地上へ出るのが道理だが、リーンの翼は時折、記録を見せる。それは、生命のメモリーとも呼ぶべきものだ。ゼノ・アストラ……もとい、エクス・マキナの記憶とリーンの翼の記録が反響しあうことで垣間見ることになった“厄祭戦”然り。そして、その記録或いは記憶に誘われるようにしてエイサップ鈴木とサコミズ王。そしてアルカディア号に収容されたVanitybustersの面々は、星々の輝きを瀬にする暗闇……宇宙空間を彷徨っていた。
エイサップ
「ここは、どこだ!?」
サコミズ
「おお、あれは地球だというのか!?」
彼らの周囲には、多数のモビルスーツが展開し撃ち合いをはじめている。ジェガン・タイプの初期型モデルを中心したモビルスーツ群と、モノアイタイプの緑色のモビルスーツ……ギラ・ドーガと呼ばれるマシンを中心とした部隊の激戦。それをアルカディア号の中でアムロ・レイとシャア・アズナブルはまじまじと見つめている。
シャア
「この光景は……」
アムロ
「間違いない。あれはラー・カイラム……。俺達ロンド・ベルと、シャアのネオ・ジオン軍の戦いだ」
今から70年近い昔。静寂の宇宙を激しい音で掻き鳴らした戦いがあった。その現実を生きたアムロとシャアにとって、この光景はつい昨日のことのように思い出せるもの。
鉄也
「なら、あれがアクシズ……!」
鉄也が指差す先にあるのは、青い星へと迫る大きな、大の字に近い風貌の巨大な石。それは少しずつ、ゆっくりと地球へ向かい進行を続けており、石に取り付けられた核パルスエンジンがジェットを噴き出している。
アクシズ。ジオンの資源採掘用小惑星であるとともに、この大戦末期においてシャア・アズナブルが計画した地球寒冷化作戦の切り札。スペース・コロニー10基分にも勝る質量を持つこのアクシズを地球へ落とすことで、地球を人の住めない星にする人類粛清計画。今彼らはまさに、その渦中を垣間見ていたのだ。
シャア
「そうだ。私はあれを地球に落とそうとした……」
今にして思えば、ゾッとする。そのことでどれだけ多くの人が死ぬことになるのか考えなかった訳ではない。しかし、それでもその時シャアを突き動かしていたのは、忌まわしい記憶だった。
アムロ
「シャア……」
トビア
「こんなことを、シャアさんは……」
今、彼らの仲間として戦うシャア・アズナブルからは、想像できない。そうトビアは思う。歴史に名を残す重罪人であるという事実と、頼もしい仲間であるという現実がどうしても、一致しないのだ。
東方不敗
「……そうか。シャア・アズナブル。お主が」
マスターガンダムから降りた東方不敗が、そんなシャア・アズナブルを見据える。
シャア
「……東方不敗。話には聞いていたがそうか、あなたが」
東方不敗
「……ワシに、お主を裁く権利はない。何しろワシも大罪人よ」
巨大隕石が迫る中で、白いモビルスーツと赤いモビルスーツが戦っているのが見えた。νガンダムとサザビー。今なおアムロとシャアの愛機として活躍し続ける、彼らの生涯最期の時を共にしたマシン。νガンダムの拳がサザビーの頭部にめり込み、しかしサザビーも負けじとνガンダムを蹴り上げる。
『貴様がいなければ、アムロ!!』
『シャア! うぉぉぉぉぉっ!!』
他者を寄せ付ける隙のない、圧倒的な強者と強者の戦い。しかし、広がり続ける戦場は次々と悲劇を招き続けていた。槇菜の視線の先にあったのは、大型のモビルアーマー。脚部全体を巨大なブースターと化し、十字架のようなシルエットを持つマシーン。αア・ジールと名付けられたそれに、一機のジェガンが付き纏っている。しかし、αア・ジールはそれを攻撃せず、振り払おうと躍起になっている。だがそれに張り付いて離れないジェガン。そこに、傷ついたモビルスーツが近づいていた。傷ついたモビルスーツは、危険な敵から味方を遠ざけようとグレネードを撃つ。その弾道はあまりにも素人の撃つそれで、敵へ向いていない。このままの軌道を行けばジェガンへ直撃するだろう。それを射撃に関してはまるで素人の槇菜にすら、予想させてしまうへっぴり腰の弾丸。だが、そうはならなかった。
『ハサウェイ、離れなさいッ!?』
巨大モビルアーマーは、ジェガンを庇うように自身をずらした。そしてミサイルの直撃軌道へ入り込み……。次の瞬間、爆炎が巻き起こる。ただその中に消えていくモビルアーマーと、呆然とただそれを見つめるジェガン。
槇菜
「敵を庇って、死んだの……?」
その光景がただ、槇菜の胸を突いて離れない。それは、敵味方に分かれたパイロット同士が既知の関係でなければ起こり得ない場面だった。
悲劇。そう言ってしまうのは簡単だ。だが、残されたパイロットのことを思うとやり切れなさが槇菜の胸の中に渦巻き続けていた。
マーガレット
「槇菜……」
槇菜
「ここだけじゃない……。きっと世界中にこんな悲しみが広がるんだ」
こうして戦った人々のうち、どれほどの人間が生きて帰ることができたというのだろうか。彼らの帰りを待つ家族や友人は、帰らぬ者達に心を痛めることになる。
シャア
「どれほどの理想を掲げた戦いであろうと、その後に残るのは悲しみに覆われた宇宙という現実。これが……」
シャアの反乱。そう呼ばれたものの正体。シャアがそう呟いた直後、宇宙が歪む。
エイサップ
「!?」
オウカオー
「オーラロードは、リーンの翼は、まだ何かを見せようというのか!?」
サコミズ王が叫び、そして……。
…………
…………
…………
次に彼らが見たのは、地球のどこかだった。心地の良い陽射しに照らされながら、戦禍の爪痕の激しく残る景色。その中で唯一、比較的無事な様相を保つ建物の中で銃声がした。口髭を蓄えた男性が、その音にピクと耳を立てる。アムロは、その男の名前を知っていた。
アムロ
「ブライト……」
ブライト・ノア。アムロ・レイと生涯共に戦った戦友。ブライトは立ち上がり、自分に充てがわれた部屋を出ると、30代ほどに見える若い士官の元へ伺う。
『……どうでしたか?』
『……潔い、立派な最期でしたよ』
アムロ・レイは知らない。これがブライト・ノアという人間の連邦軍最後の任務であることを。そして、この後にブライト・ノアは……その家族は人生最大の悲劇に直面することを。だが、ブライトと対面するその士官の面持ちはどこか思い詰めているようでもあり、まるでブライトに何かを隠しているのではないかという気をアムロに起こさせる。それと同時、それが悪意や欲望からのものではなく、純粋にブライト・ノアを思ってのことであることも、アムロは見抜いていた。
アムロ
「…………ブライト」
この時、ブライトの支えとなれなかったことが悔やまれる。もし、自分があの時、シャアと共にメビウスの宇宙の向こうへ消えずに生還していたなら或いは。そう思わずにはいられない。だがそれも束の間。オーラロードはまた景色を変えていく。畝りを上げるように、魂を呑み込むように。それは或いは、リーンの翼というものが見せる宇宙の、命の記憶。
この宇宙が生まれる前から、リーンの翼は命の記憶を吸いながら羽ばたき続けてきた。“前の宇宙”の“厄祭戦”その記憶すらもリーンの翼は備えている。
しかし、それは本来全ての命が生まれ出るその時まで克明に記憶し、そしてこの地上に生を受けた瞬間に忘れてしまう性を持たされたものだ。
それをリーンの翼は、彼らに見せ続けている。それがいかなる奇跡によるものなのか。或いは呪いなのか。それは定かではない。
しかし、次に彼らが見た光景もやはり……現実に起きた出来事だった。
…………
…………
…………
—アルカディア号/医務室—
カミーユ・ビダンの意識は混濁の中にありながら、それを魂で感じ取ることができた。リーンの翼が見せるそれは網膜を通して他者へ訴えるものではない。本質的には、人の霊魂へ直接語りかけるものであるからだ。
故に、震えながら譫言のように叫び続けるカミーユに、ジュドーはどうすることもできないでいる。
カミーユ
「ダメだ、それは……。そんなことをしたら、ダメだ……」
ジュドー
「カミーユ……。わかる、わかるよ……」
ジュドーには、カミーユのシャープな感性にはこの光景は……リーンの翼が見せる生命の散る瞬間瞬間の景色は刺激が強すぎるように思う。自分でさえ重く、堪えるものがあるというのに。ましてや今のカミーユの心は、抜き身なのだから。
リーンの翼が見せる、地球にコロニーが落ちる瞬間。それを、ジュドーとカミーユは心で見ていた。一年戦争と呼ばれる宇宙世紀最大の戦争。その象徴とも言える大災害にして大虐殺。人々の生命が焦熱と砂塵の中に消えていく光景を2人は追体験していた。おそらく、アルカディア号に乗船する他のメンバーもそれを見ていることだろう。
カミーユ
「うわぁっ! ああぁぁっ!?」
そしてその光景は、カミーユのような強い感受性を持つ人間にはあまりにも、刺激が強すぎるのだ。
カミーユ
「いけない……。空を落とすのは、ダメだ……」
今も尚、カミーユ・ビダンは戦っていた。その心が受けた傷は癒えず、宇宙に漂う無念の魂達に耳を傾けながら、彼の心はそれに寄り添い続けている。
肉の身体を持ちながら、少年の魂は限りなく彼岸へと歩みを寄せ、魂の慟哭に心を痛め続けている。
そんな少年にとって、リーンの翼が見せるその光景はあまりにも、刺激が強すぎるものだった。
…………
…………
…………
—???—
暖かな木漏れ日が差し込める中で、少女は目を覚ます。なだらかな栗色の髪をした、まだ12、13ほどの少女だ。ベッドから起き上がった少女は、パジャマ姿のままカーテンを開く。暖かな陽射し。海の香り。それは、少女の毎日を象徴するルーティーンだった。
少女
「あれ……?」
しかしその日は、どこか空が騒がしい。少女はそれを怪訝に思いながら空を眺めていた。そして、次の瞬間。まるで天地が裂けたかのようなけたたましい怒号。そして窓辺に見える建物から煙と火の手が上がり、耳を裂くようなサイレンの音が鳴り響く。
火事。そんな言葉が少女の脳裏を過り、そして……。
少女
「お父さん……!?」
今まさに燃え盛る建物……そこで働いている父親の顔を思い出し、金切り声を上げる。何が起こっているのか、まるで理解できない。しかし、今まさにその渦中に放り出されてしまった最愛の父親を思いいても立ってもいられなくなった少女はパジャマのままサンダルを履き、家を飛び出していた。
自分に何ができるかなど、少女にはわからない。行ったところで足でまといにしかならないなど、考える余裕もない。ただ、少女は心配だったのだ。だから、なだらかな髪を振り乱すように駆け、燃え盛る建物を目指す。走れば走るほど、動揺する周囲の喧騒も耳に入るがしかし、それすらも掻き消してしまう轟音が空を裂き、そして爆音が鼓膜を刺激する。それでも尚少女は走り、そして……。
少女
「あ……?」
突如として巻き起こる爆風。その衝撃と共に押し寄せる分厚い鉄の板が、少女の視界を覆う。鉄板は少女の全身を押し出すように飛び、華奢な身体は宙へと弾き出された。
その一瞬、少女の視界に映ったのは空高く飛ぶ、日の丸の旗だった。そしてびゅう、と風が吹き……少女の身体は燃え盛る炎の中へと落ちていく。まるで血のように赤い炎。それが、少女の見た最期の景色だった。
マーベル
「この海、この陽射し……!?」
トッド
「間違いねえ。ここはハワイ・オアフ島だ。空軍学校の頃に何度か行ったことがある!」
その悲惨な光景を、リーンの翼は映し出していた。ハワイ州オアフ島。自然豊かなこの地の青を赤く染め上げた凄惨な事件。空を駆ける日の丸の航空機は、その日を正確に指し示している。
槇菜
「真珠湾攻撃……」
マーガレット
「パールハーバーの悲劇……!」
リーンの翼が見せる幻影は宇宙世紀を遡りそして、旧世紀を辿っていたのだ。揺らめく炎。その中に投げ出された少女。マーガレットはそれの光景に、ギリッと奥歯を噛む。
マーガレット
(今のは……まさか)
邪霊機の少女ライラは、ハワイ州を故郷と呼んだ。マーガレットの、母方の血筋はここにある。その奇妙な縁がそうさせるのか、マーガレットには炎の中に消えた少女とライラが重なって見えた。
そんなマーガレットの下に、黒髪の少女が駆け寄る。不安そうな瞳に涙を浮かべながら、少女はマーガレットへと抱きついた。
カンナ
「マーガレット……!」
マーガレット
「大丈夫、大丈夫だから……」
カンナを……妹を抱き止めながらマーガレットはそれでも、戦火に包まれるハワイの海を見やる。リーンの翼が見せるその光景を焼き付けながら、マーガレットが思うのは邪霊機の、あの鴉のような羽根だった。
マーガレット
「アウマクア……」
ハワイに伝わる先祖神。先祖の守護霊が、動物の形を取って守ってくれるという言い伝え。母から聞かされたマーガレットの家系に伝わるアウマクアも、鴉だった。それを象徴するお守りを……鴉のキーホルダーを握りしめるカンナの髪を優しく漉くように撫でながらしかし、マーガレットの心は掻き乱されている。
カンナ
「マーガレット……?」
そんなマーガレットの動揺を察知したのか、不安そうにカンナは、マーガレットを見上げていた。それに気付き、マーガレットは微笑を作る。
マーガレット
「大丈夫。カンナは私が守るから」
そう言って、少女を抱く腕に力を込めるマーガレット。今は、この光景から抜け出して地上へ出ることを考えなければ。そう、思いを新たにした。
その一方で、リーンの翼の導きを先導する2機のオーラバトラーもまた、その光景に圧倒されていた。
サコミズ
「これは……。こんなことを日本軍は!?」
オウカオーの中で、サコミズ王が呻く。彼の信じた日の丸が、一方的に海を焼く光景。太平洋戦争の引き金ともなったこの事件の折、若き迫水進次郎はまだ、前線に出てはいなかった。
彼が初めて最前線に出撃したのは対戦末期。特攻機「桜花」に乗ってのことである。当時、快勝と報じられたその戦はしかし、今のサコミズ王には違う形に映る。
エイサップ
「サコミズ王?」
サコミズ
「この豊かな海を、大地を、炎の中に沈めてしまうのが戦争であるというのか!」
バイストン・ウェルで彼が経験した戦は、まだオーラマシンが建造される以前の……生身の戦いだった。当然、不意打ち騙し討ちも経験したし、自分だって清廉潔白な戦士だったとは言わない。
だが、鉄の機械で一切の慈悲も呵責もなく敵地を焼くそれは、戦などではありはしない。
サコミズ
「これでは、虐殺であろうが!」
これが、かつて自分が信じた大日本帝国なのか。握り拳を振り上げる場所もないサコミズは、慟哭することしかできない。
エイサップ
「サコミズ王……!」
やがて、オーロラ光が立ち込める。その先へと突き進むオウカオーとナナジン。それにアルカディア号。次に広がった景色は、赤い夜空だった。
赤い夜空。そう見えるのは夜景の下、地上が赤く燃えているからだ。空を埋め尽くすものは、星のマークをあしらった航空機。ミノフスキー粒子の発明と、モビルスーツの開発共に戦場の主役を交代したマシン。戦闘機だ。
両翼のプロペラを回し、圧倒的な数で徒党を組み夜空を赤く染め上げるそれを、エイサップは知っている。いや、エイサップだけではない。
桔梗
「あれは、B-29?」
今となっては歴史……それも旧世紀史の教科書や、戦争博物館で展示されているものくらいしかお目にかかることができなくなった当時のアメリカ軍の主力戦闘機B-29。B-29から投下される爆弾が燃やすのは、これもまた今となっては資料でしかお目にかかれない木造の建築物が立ち並ぶ街。そして、なだらかに流れる河がそこを、東京の街であると告げている。
サコミズ
「あ、あれが隅田川なら……これは昭和20年。
3月か5月の東京大空襲だ!」
東京大空襲。それは、積み重なり、積み上げられゆく歴史の中で語られなくなった事件だ。旧世紀史をハイスクールで学んだ桔梗も、日本旧世紀史を取らなければ知ることのなかった。
ハーロック
「……赤ん坊や、老人もいるというのか!」
竜馬
「戦場でもねえ所に、爆弾をばら撒いてやがるのか!?」
隼人
「この爆発の規模は、おそらくはナパーム弾だろうな。爆発じゃねえ。相手に着火させて燃やすってやり方だ」
弁慶
「ひでえ……ひでえぜ!」
トッド
「マジかよ。アメリカはこんなことをしたっていうのか……!」
先に見せられた真珠湾の悲劇を考えれば、その気持ちは理解できた。しかし、東京の街を焦土と化すこの作戦は、トッドの戦士としての部分を逆撫でる。それは、トッド・ギネスなりに聖戦士と煽てられ、自身もそうであると思い込み戦ったことで生まれた自尊心だろう。
アイザック
「……当時の世界大戦は、お互いに矛を収めるタイミングを失いつつあったものと聞いたことがある。この攻撃も、そのひとつだったのかもしれん」
冷静に言うアイザックだが、その表情は険しい。
キッド
「……俺が国連軍を抜けた理由、納得してくれるかい?」
ハリソン
「……こんなものを見せられてはな」
生々しい戦争の現実。それはどれだけ社会倫理が発達しようとも変わらない。軍人として、最前線に立っていたものですら客観的な視点でそれを見てしまえば、理解もできる。幸運なことに、ハリソンはこのような無差別攻撃作戦に参加したことはなかった。だが、自分の代よりも昔……。それこそアムロやシャアの世代では大量破壊兵器を使用する作戦が幾度となく決行されている。コロニー落とし、アクシズ落としと呼ばれるものもそのひとつだ。
シャア
「私は……私は人の革新を夢見て軍を率いた。だが、今こうして見せられている一連のものは……」
アムロ
「シャア……」
自分が決行したアクシズ落としが、人類史に残る悪行であるという自覚はあった。だが、こうしてまざまざと見せ続けられれば、自分の愚かさにも敏感になってしまう。
リーンの翼が導く旅路は、シャア・アズナブルという男にとってはあまりにも酷なものだった。
燃え上がる街並み。大衆食堂の屋根が崩れ、逃げ惑う人々が押し潰される。屋根の重量か、燃え盛る炎か。どの道、助かりはしないだろうその絶望的な光景。今すぐにでも駆け出し、助けに行きたい衝動に駆られながらしかし、それは無駄なことだった。
ナナジンがオーラソードでB-29を斬り伏せても、瞬く間に斬り裂かれた戦闘機はまるで、糊で接着するようにくっついてしまう。
エイサップ
「なんで……!」
サコミズ
「過去の事実は……リーンの翼を持ってしても変えることはできん。世界が違うのだ……!」
まるで自分に言い聞かせるように、サコミズ王が叫ぶ。その声は上擦り、普段の威厳と貫禄に満ちたものが擦れている。
リュクス
「父上が……」
エイサップ
「泣いている……?」
やがて、燃え盛る東京の街から何か、白いものが浮かび上がるのをエイサップとサコミズ王は見た。白く、優しく、しなやかであり柔らかなそれは、羽根だった。
エイサップ
「羽……?」
羽根はサコミズ王へ、エイサップへ何かを語りかけるように舞い、そして消えていく。ナナジンのコクピットへ迷い込んだ羽根をエイサップが手に取ると、赤子の泣く声が聞こえた気がした。
サコミズ
「おお、リーンの翼よ……。これは、お前が見せているというのか!」
サコミズ王が叫ぶと同時。再び視界がオーロラ色に染まる。そして次の瞬間に浮かび上がる景色は、青空だった。
澄み切った青い空。そして青い海とのどかな街並み。エイサップは、その景色をどこかで知っている気がする。それに、槇菜と桔梗も。
槇菜
「これ、瀬戸内海……?」
桔梗
「宮島……岩国?」
岩国。桔梗と槇菜の姉妹にとっては生まれ故郷であり、エイサップも長く暮らしている街。しかしそののどかな空にも、B-29の姿があった。
エイサップ
「ここにも、B-29?」
そのB-29をまじまじと見つめるエイサップ。その機体には、東京大空襲の時に見たものとは違うマーキングが施されていた。達筆のアルファベット。何かの単語だろうか。
ハーロック
「文字を拡大しろ!」
アルカディア号のモニタに、拡大された文字が浮かび上がる。「ENOLA GAY」その文字を見て、槇菜は血の気が引いたように悲鳴を上げた。
ヤマト
「お、おい!?」
槇菜
「エノラ・ゲイ……それじゃあ、ここは……」
それが意味するものを、エイサップも理解していた。エノラ・ゲイ。特殊なシルバープレート改造が施されたB-29のうち一機。瀬戸内海。快晴。それが意味するものは一つしか存在しない。
それを理解した瞬間、エイサップは飛び出した。ナナジンでエノラ・ゲイを斬り伏せても歴史は、世界は変わらないことは重々理解している。しかし、それでも駆けることをエイサップはやめることができなかった。
エノラ・ゲイの機体下部から、一基の爆弾が落ちる。東京大空襲の時のような、大量の攘夷弾ではない。たった一機が、一発の爆弾を落とす。これはそれだけの作戦なのだ。
エイサップ
「リトルボーイは、ダメだァァァァッッ!」
エノラ・ゲイを突っ切り、落ちる爆弾……原子力爆弾リトルボーイへと迫るナナジン。しかし、空中から落下するリトルボーイは広島の空で、光った。
エイサップ
「────ッ!」
サコミズ
「────ッ!」
眩い光に呑み込まれるナナジンとオウカオー。そしてアルカディア号。その瞬間にエイサップが、サコミズ王が見たものは光の中に熔けていく何もかも。長閑な街並みも、平和な朝も。全てを無へと還す光。爆煙を上げるキノコ雲。そして、空へと舞い上がりサコミズ王に、エイサップに群がる無数の羽根達。
エイサップ
「この羽根……!」
サコミズ
「鈴木君!?」
呆然とするナナジンの手を掴み、オウカオーが羽ばたく。光の中へと消えていくナナジンとオウカオー。そして、核の光と共に訪れる強烈なオーロラ光が、アルカディア号を呑み込んでいく……。
ラ・ミーメ
「これは……キャプテン、コントロールが効きません!?」
トチロー
「これは、何か引力みたいなものに吸い寄せられているのか?」
ハーロック
「全員、命を賭けろ。この先に何が待っているのか、誰にもわからん!」
アルカディア号の操舵を握りながら、キャプテンハーロックはその鷹のように鋭い隻眼で光の先を見据えていた。
…………………………
第25話
「桜花嵐(前編)」
…………………………
—東京—
日本の首都でも東京は、昨年のオーラバトラー事件や新宿事件等様々な災禍に襲われながらも、未だ首都としての機能を果たしていた。旧世紀に作られた東京タワー。今や電波塔としての役割を果たさぬこの“象徴”はしかし、人々の心を繋ぎ止めていたのだ。
今、この東京タワーを見上げる男が1人。西田啓。彼は刀傷で失った双眸でこの狂騒を静観していた。
西田
「これが、答えか……」
現在、東京の街は戦火の只中にある。突如東京湾に現れたオーラ・バトル・シップ。そこから出撃したオーラバトラー。彼らは東京の街を飛び回り、無差別に攻撃を仕掛けていた。
広川
「西田さん、避難を!」
側近の広川参謀に急かされるが、西田は首を横に振る。
西田
「私には、見届ける義務があります。中佐、あなたはお逃げなさい」
西田が言うと、広川は諦めたようにひとつため息をを吐く。
広川
「……いえ、私もお供させてください」
西田の画策した計画は、いつしか西田本人も預かり知らぬところで暴走を始めていた。“ゴッドマザー・ハンド計画”。エメリス・マキャベルによって主導されているそれは、いつの頃からマキャベルの野望の走狗へと変わり果てていた。その見極めが、僅かに遅かったと西田は思う。
現在、マキャベルの独立宣言によりコロニーはおろか、地球全体が揺らついている。彼の計画に賛同するか、否定するか。この混乱の中に現れたオーラバトラーによる東京侵攻。そして現在、東京湾では不時着したオーラ・バトル・シップにエメリス・マキャベルが交渉のために赴いていると聞く。これらの混乱を収める力は、西田にも、或いは世界中のどこにもなかった。
こうなる前に、手を打つことができたはずだ。それが、西田の後悔になる。だから西田は、自らの屋敷からその狂騒をただ、見守っていた。
東京上空を飛び回るオーラバトラー。シンデンに乗るロウリと金本の2人は、興奮していた。
ロウリ
「ハハハハハ! すげえ、地上に出てからオーラエンジンが、急激に出力を増してやがる!」
金本
「地上のオーラ力を吸って強力になるっていうのは、本当だったんだ! 我慢した甲斐があるってもんだね、ロウリ!」
火矢を撒き散らす金本。燃え盛る炎はビル街を焼き尽くし、瞬く間に火の海を作り上げる。それはまるで、昭和20年の再来であるかのように。
ロウリ
「ああ! コドール女王の東京壊滅作戦、手柄の立て放題だぜ!」
サコミズ王とはぐれたホウジョウ軍は、その指揮権を女王コドールに移した。コドールはサコミズ王の当初の計画に便乗する形で日本の首都・東京への無酒別攻撃を敢行。その先陣を切っているのが、地上人のロウリと金本である。
地上へ上がった彼らのオーラバトラーは、ヘリコンの地で反乱軍と戦っていた時よりも飛躍的に上昇している。戦艦キントキ並びにロウリ、金本の率いるオーラバトラー部隊。それが今、東京の街を襲っていた。
ロウリ
「アハハッ! 日本人! 平和ボケの目を覚ませやァッ!」
防衛のために出撃するモビルスーツ・ジェガンでは、オーラバトラーなどまるで相手にならない。ベース・ジャバーの支援なしに空中戦のできないマシンでは、空を自由に飛び回るオーラバトラーを前に攻撃を当てることすらままならないのだ。今も金本のシンデンが放った火矢が、ベース・ジャバーを沈める。それだけで、ジェガンは足を失い地上へと落下。旧世紀に作られたテレビ局へと落下し、歴史ある建造物は真っ二つに折れてしまう。そして、折れたビルはさらに逃げ惑う人々を下敷きにする。
それは、地獄のような光景だった。
ショット
「コドール女王の命令である。敵の本拠たる東京を焼き払うのだ!」
キントキの艦長席を任されたショットの号令。キントキの艦長であるコットウ・ヒンは現在、女王陛下と共にコンタクトを取ってきた地上人……エメリス・マキャベルと会談している。マキャべルは、レンザンのガルン司令を保護し、彼を指揮下に置いていたらしい。そして、ガルンを通しての会談。それがどのようなものになるかは大方察しはつく。故に、それにショットは興味を持たなかった。
ショット
(所詮、狐と狸の化かし合い。好きにさせればいい。その隙に、俺は……)
ショット・ウェポンの心臓は、邪霊機の少女が握っている。かつての戦争で死に、輪廻からも弾かれた大罪人であるショットはしかし、ライラの呪術により再び肉の身体を得ることができた。
ライラから任された使命はひとつ。バイストン・ウェルと地上。その双方を混沌へ導くこと。そのためにショットは地上人・サコミズ王の下へ潜り込み、地上へと還る手段を仄めかした。それがホウジョウ国のオーラマシン建造を急がせる結果となり、そして今まさに地上は炎の中に包まれている。
ショット
(だが、まだだ。それでは奴の手駒でしかない。俺は俺の目的を達成するために、自ら奴の奴隷になる道を選んだのだから)
オーラバトラーの猛攻で崩れ落ちるビルを眺めながら、ショットは思う。生涯最大の敵のことを。
ショウ・ザマ。ショットの野望を打ち砕き、そして今なお彼に仇なさんとする聖戦士。ショットはかつての戦いにおいて、ひとつだけ大きな後悔を抱いていた。
ショット
(ミュージィ……。私の為に命を投げてくれた女よ。私は今度こそショウに勝ち、お前の献身に報いよう)
ミュージィ・ポー。ショット・ウェポンの恋人であり、ショットの野望の走狗として自らを激しい戦場の中へと追いやった女。ミュージィはショウを討てず、ショットは野望を叶えることができなかったことは少なからず、彼の心を苛んでいた。
せめて、この第二の生をミュージィの献身に報い、彼女の死を意味あるものにしてみせる。そのためにはショウを討ち、そして自らが世界の王にならなければ。今のショット・ウェポンを突き動かす野心は全て、亡きミュージィのためにある。故に、
ショット
「ライラなどに負けてくれるな……。ショウ・ザマ、早く来い!」
ショット・ウェポンは叫んだ。怨敵の名を。自らの野望を潰えさせ、そして愛するものを奪った者の名を。それは、ショットのオーラ力がそうさせたのかもしれない。オーラ力とは、精神の力だ。煮えたぎるショットの闘争心、野心、復讐心、或いは戦渦を齎すもの達の狂騒。それに巻き込まれる者達の悲鳴。それらが渦巻く東京は、オーラ力の磁場を生んでいるといっても過言ではない。
その闘争と狂騒のオーラ渦巻く戦場を指し示すように、あかときいろの極光が空を射す。
ロウリ
「なんだ、ありゃぁ!?」
ショット
「来たか……!」
オーラの光。魂を浄化するバイストン・ウェルよりの光。その光の彼方より現れたのは、巨大な髑髏だった。髑髏の船体を持つ緑色の艦。海賊船アルカディア号が帆を張り、光の中よりその姿を見せるのだった。
…………
…………
…………
ハーロック
「く……ここは、地上か!」
照りつける日の光。それが生の肌感覚を通し、ハーロックに告げる。ここが、地上であると。しかしそこに映る光景は、凄惨な有り様を示している。
マーベル
「あれは、ホウジョウ軍のオーラバトラー?」
トッド
「あいつら、地上でドンパチ始めやがったのか!」
東京の被害は、目に見えるほどひどい。それをやっているのは、オーラバトラー。その光景はショウに、あの日を連想させる。
ショウ
「貴様達……何をしているのかわかってるのか!」
ダンバインとバストールが地上へと浮上した日。2機のオーラバトラーの戦いはやはり、東京の街に壊滅的な被害を齎していた。だが、今ここで起きているのはその比ではない。
ロウリ
「うるせー! 戦争じゃ沢山ポイント稼いだ方が勝ちなんだよ!」
喚くロウリの声。アルカディアはその声をキャッチし、一同の顔は嫌悪に染まる。
鉄也
「奴ら、戦いを遊びだと思っているのか!」
トビア
「戦争をゲームだと思っているだなんて……!」
トビア達が先ほどまで見せられた戦いの歴史。それは悲惨という言葉も生温い光景だった。それを見てしまえば、今のロウリがどれだけ的外れなことを言っているのかなど、子供にも理解できる。
リュクス
「あの艦はキントキ……ならば、コットウか!」
リュクスはキントキの無線周波数へ繋ぎ、怒鳴りつける。しかし、現れたのはコットウ・ヒンの禿頭ではなく金髪の青年。
ショット
「姫様、エイサップ鈴木君と共に消息を絶ったと聞いていましたが……」
リュクス
「ショット・ウェポンか!」
ショット・ウェポン。シャピロ同様、父サコミズの野心に油を注いだ地上人。リュクスの顔は嫌悪に染まり、ショットを睨む。
ショウ
「ショット・ウェポン! また地上を戦場にする気か!」
ショット
「これはコドール女王の命でもある。作戦遂行の邪魔をするならば、お前たちも死んでもらうことになるぞ」
そう言って、キントキの主砲をアルカディア号へ放つショット。アルカディア号はそれを回避しようと舵を取る。しかし、ここが大都市の只中であるという事実がハーロックの判断を鈍らせ、アルカディア号の船体をオーラキャノンが襲う。
ハーロック
「クッ……!」
アルカディア号の背後。キントキの射線上にはスカイツリーが聳え立っていた。今アルカディア号があれを避ければ、スカイツリーに命中し甚大な被害が出る。それを避けるため、ハーロックはあえて命にも等しいアルカディア号の船体で受けたのだ。
ショット
「ほう……」
感心するように、ショットの声が漏れる。ショットは、あえて民間人を巻き込むような攻撃を敢行したのだ。それを悟り、ハーロックの鋭い眼光はショットを睨める。
ショウ
「いい加減にしろ、ショット!」
ショウの叫びと共にダンバインとライネック、そしてヴェルビンがアルカディア号から出撃した。それに続くように、空中戦を得意とするマシン……ゲッター1やブライガー、それにエクス・マキナが発進する。続くように、モビルスーツを中心とした部隊も展開。と、そこで槇菜は先陣を切っていたはずのナナジンと、オウカオーがまたしてもいないことに気付いた。
槇菜
「エイサップ兄ぃ……?」
リーンの翼が見せる過去の戦争の光景。その中から弾き出された槇菜達。ならば、エイサップとサコミズ王は今も、あの中にいるのだろうか。エクス・マキナは答えない。その漆黒と両翼はしかし、不思議と槇菜に寄り添っているように、槇菜には感じられた。
槇菜
「……そっか、エイサップ兄ぃとサコミズ王はまだ、あの世界で戦ってるんだ」
ならば、自分達も負けるわけにはいかない。エクス・マキナはその両翼を広げ、駆ける。目指すは悪意の源。オーラシップ・キントキ。キントキはオーラキャノンを放ち、エクス・マキナを襲う。しかしエクス・マキナのシールドはそれを受けると、それを忽ちオーラへと還元していく。
ショット
「成程。あれが“旧神”か……!」
ショット・ウェポンも、ライラから知らされてはいた。旧神。この世界の輪廻を守りしものと。
マーガレット
「照準内に入ったわ!」
槇菜
「お願いします、マーガレットさん!」
エクス・マキナは右手にハンドガンを召喚すると、素早くそれをキントキへ撃ち放つ。銀の弾丸。悪しき魂を屠るもの。銀の弾丸はキントキを射抜くように、真っ直ぐに飛んでいく。
槇菜
「こんな戦い、意味はありません!」
ショット
「意味などは自ら作るものだ!」
エクス・マキナのハンドガンから放たれた銀の弾丸はしかし、キントキの周辺を覆うオーラバリアによって弾かれてしまう。地上に出たオーラマシンは、地上のオーラ力を吸い急激に出力を上げる。それはオーラ・シップすら例外ではなかった。
槇菜
「っ!」
ショット
「旧神と言えど、オーラコンバーターを改良したこのキントキの前では。オーラ砲、撃て!」
キントキから放たれるオーラ力を熱へと変換した砲撃。エクス・マキナはシールドでそれを防いで見せるがしかし、キントキとオーラバトラー部隊の防衛網を前に攻めあぐねていた。
マーベル
「槇菜、地上のオーラ・シップは核熱すら耐えてみせるの。ここは私達が!」
槇菜
「マーベルさん、ショウさん!」
エクス・マキナと入れ替わるようにフォワードに入るダンバインとヴェルビン。キントキの周囲を守るように発進する量産型オーラバトラー・ドラムロを蹴散らしながら聖戦士が往く。
マーベル
「ショット・ウェポン! あの時、確実に倒していれば……」
マーベルが歯噛みする。あの時、差し違えて倒したはずのショットが今ここに立ちはだかっている。それは彼女の生を賭けた戦いを侮辱するに等しいものだからだ。オーラショットを撃ちまくりながら、ダンバインがとぶ。今のマーベルのオーラ力ならば、雑兵のドラムロなど歯牙にも掛けない。しかし、ショット・ウェポンとなれば話が違う。
ショット
「マーベル・フローズン、思えば貴様だ。貴様さえいなければ!」
キントキのオーラバリアがオーラショットを防ぎ、反撃のオーラキャノンをダンバインはかわしていく。しかし、ショットのオーラ力は以前にも増して強力になっているのを、マーベルは感じていた。
マーベル
「このオーラ力、本当にショットなの……?」
トッド
「あいつだって地上人の、アメリカ人だぜ!」
ダンバインの行く手を遮るように展開されるドラムロを、トッドのライネックがオーラバルカンで牽制する。その間にマーベルはショウのヴェルビンと合流し、今度はショウが前に出た。
ショウ
「マーベルは援護を! ショットは俺がやる!」
マーベル
「ショウ!」
そんなヴェルビンを前に、舌舐めずりするものがいた。ロウリと金本の乗るオーラバトラー・シンデン。両手に持った二刀流のオーラソードを掲げ、ロウリが見栄を切る。
ロウリ
「お前が噂の聖戦士か! 撃墜マークにしてやるよぉ!」
チャム
「ショウゥゥ! うるさいのがきたよ!」
ショウ
「うるさいよチャム!」
目の前で飛び回るチャムを左手で払い除ける。すると既に目の前に飛び込んでいたシンデンに、ショウは自身の迂闊を呪った。
ショウ
「迂闊なっ!」
ロウリ
「どこ見てやがる!」
ロウリのシンデンのオーラソードが炎を纏い、ヴェルビンと鍔迫り合う。そして、回り込むようにして金本のシンデン。
ロウリ
「金本、あれやるぞ!」
金本
「ああ!」
両手のオーラソードをクロスさせ、垂直に突っ込むシンデン。オーラソードの重ね斬りが、ヴェルビンに迫る。
ロウリ
「ダブル!」
金本
「ディスパァーッチ!」
しかし、その大振りな動きはショウほどの聖戦士にしてみれば、あまりにも杜撰なものだった。4本のオーラソードは見事に空を切り、ヴェルビンはロウリと金本の包囲網を抜けてキントキを目指す。
ショウ
「現実の見えていない攻撃になんか、当たるかよ!」
チャム
「あっかんべーっだ!」
ロウリ
「あのフェラリオのガキ……!」
チャムの煽りに、ロウリは青筋を立て追撃をかけようとした。しかし、シンデンの動きは突如現れたビームの帯に阻まれる。そこにいたのは、そう!
東方不敗
「フン、貴様らも地上に出ておったか!」
東方不敗・マスターアジア! そして彼の乗機マスターガンダムが、威風堂々とビルの上に立っていたのです!
ロウリ
「で、出やがった!?」
金本
「マスターガンダム!?」
バイストン・ウェルでの戦いで幾度となく辛酸を舐めさせられてきたその黒い機体の登場に、全身から鳥肌が噴き出るロウリと金本。東方不敗は彼らのその、言うなれば肝っ玉の小ささを看破すると同時にビーム帯を振り回し、シンデンを絡め取ります。
東方不敗
「世直しを掲げておきながら、自分より強いものに立ち向かう意志を持たぬとは……だからお前らは、浅いのだ!」
ロウリ
「ひ、ひぇぇぇぇぇっ!?」
振り回され、投げ飛ばされるロウリと金本。地上に出てオーラエナジーの活性化を感じながらも、本能的な恐怖心はそう簡単に克服できるものではないのです。そして、
東方不敗
「聖戦士を名乗るならば、たかがジジイに臆するではないわぁっ! ダァァァクネス・フィンガァァァッ!」
マスターガンダムから放たれる紫紺の気弾が、ロウリと金本のオーラバリアを突き破り爆発!
ロウリ
「お、覚えてやがれ!」
ボロボロになりながら、何処かへと逃げていくシンデン。それを、ブライガーのかみそりアイザックは見逃さなかった。
アイザック
「キッド、ブライスターだ。奴らの後を追う」
キッド
「了解、ブライシンクロン・アルファ!」
ブライガーは瞬く間に高速機・ブライサンダーへと変形する。ブライスターは星間距離すらも移動する脅威のマシン。以下に高速機動を可能とするオーラバトラーとて、ブライスターならば逃さない。
ボウィー
「それじゃ、久々に俺ちゃんの出番ってわけね!」
お町
「まあボウィーさん、主役をキッドさんに取られちゃうのを気にしてらっしゃる?」
ボウィー
「まさかまさか、ロボットアニメの主人公なんて俺ちゃんには似合いませんよ!」
軽口を叩きながらも、ボウィーはアイザックの意図を汲んでいた。ピッタリとくっつくのではなく、レーダーの反応を拾えるギリギリのライン……ミノフスキー粒子散布下ではそれも難しいが、ホウジョウ軍はミノフスキー粒子の技術は持っていない。
ブライサンダーでないのは、オーラバトラーの襲撃により道路は瓦礫にまみれ、悪路と化していたからだ。加えて、逃げ遅れた人がいた場合ブライサンダーのスピードでは轢いてしまう可能性もある。
アイザック
「キャプテン、おそらく奴らは拠点へ向かったものと思います」
ハーロック
「ああ。J9は奴らを追跡し、敵の拠点を突き止めてくれ!」
ボウィー
「と、いうわけで皆さん、この場は任せますよっと!」
いつもの調子を崩さず、飛ばし屋ボウィーは空を駆ける。その軽口はしかし、頼もしさすら感じられた。
ショウ
「そっちの聖戦士は片付けた、残るは貴様だショット!」
ヴェルビンのオーラソードを翳し、ショウが叫ぶ。ショット・ウェポン。彼は地上とバイストン・ウェルの双方に災いを為す諸悪だ。生かしてはおけない。そう、ショウは自分に言い聞かせていた。
ショット
「フッ……フフフ……。ショウ・ザマ。この私が何の策も講じていないとでも?」
ショウ
「何ッ?」
しかし、ショットは不敵に笑う。そして次の瞬間。アルカディア号のラ・ミーメはそれを捉えた。
ラ・ミーメ
「西南より接近する物体あり。これは!?」
ラ・ミーメが驚愕の声を上げる。その機体は、エイハブ・ウェーブの周波数を発していた。つまり、ラ・ミーメやハーロック、竜馬、三日月らと同じ『B世界』の機体ということになる。だが、驚いているのはそれだけではなかった。そのエイハブ周波数を、ラ・ミーメは知っていた。
ラ・ミーメ
「この周波数……モビルアーマーです!」
オルガ
「何だと!?」
モビルアーマー。オルガ達のいた『B世界』において、“厄祭戦”で暴れ回ったとされる機動兵器。そして、“前の宇宙”と邪霊機の少女が呼んだ“厄祭戦”においても、その姿を映し出されていた存在。それと同質のエイハブ・ウェーブを感知していた。
ショット
「驚くのも無理はない。このマシンは私一人では組み上げることができなかった。そう……君達の言う『B世界』の技術なしには完成し得なかったろうな」
竜馬
「ウダウダ御宅を並べやがって! 何が来ようが俺とゲッターが捻り潰してやるぜ!」
叫び、竜馬はゲッタートマホークを握る。そして投擲。トマホークブーメランは緑色の輝きを放ちながら、モビルアーマーと推定されるマシンへと放たれる。だが、その方向から降り注ぐ無数のビームが、トマホークを弾き返した。
竜馬
「何ッ!?」
迫り来るものの影が、ようやく見え始める。それは、異様な存在感を放っていた。紺色のモビルアーマー。いや、あれは本当にモビルアーマーなのだろうか。竜馬の記憶にあるモビルアーマー……ハシュマルとは似ても似つかない姿をしている。
全体的なシルエットは、三角錐とでも言うべきだろうか。頭頂へ近づくほどに小さくなっていく姿形はどこかクリスマスツリーのようにも見える。しかし、そんな楽しげなものでは一切ない。
シャア
「あの機体は……!?」
ベース・ジャバーに搭乗し、主力部隊の支援に回っていたシャアが驚愕の表情を浮かべる。そして、アムロも。
アムロ
「バカな、そんなことがあるはず……!」
ショット
「そうか。伝説のニュータイプならば知っていて当然か。見せてやろう。私の技術と、『B世界』より齎されたモビルアーマー技術の集合体を!」
それは、圧巻の巨体だった。オーラバトラーなどとは比べるべくもない。ゲッターロボにも迫るほどの迫力を持ってそのクリスマスツリーは動き、そしてぐるりと回る。
ドモン
「まさか、あれは!」
三日月
「……ガンダム?」
クリスマスツリーのような姿をしたそれから脚が生え、手が伸び、V字型のアンテナが顔を覗かせる。しかし、アムロのνガンダムや、トビアのクロスボーンなどとは顔の雰囲気はまるで違う。むしろ、三日月のバルバトスに近い、悪魔めいた容貌を醸し出していた。
アムロ
「サイコガンダム……!?」
サイコガンダム。かつてアムロやシャアが戦った悪魔のマシーン。悪魔じみたその形相と紫色の機体色は、アムロの記憶の底に深く刻みつけられていた。
トチロー
「……データが出てきたな。サイコガンダムMk-Ⅱ。宇宙世紀時代に作られたニュータイプ専用モビルスーツ。だが、どうしてこいつからモビルアーマーと同じ周波数が?」
ハーロック
「まさか、ゾーンか!」
『B世界』の技術を持ち得る人物として、真っ先に思い至る存在といえばMr.ゾーンだ。ゾーンはゲッターチームやハーロックを個人的に恨んでもいる。ゾーンならば、『B世界』における禁断の技術をこの世界に齎したとしてもあり得ない話ではない。そう断じたハーロックにショットは、不敵な笑みで返す。
三日月
「何でもいいよ。あれがあのカニの仲間なら、ここで潰す」
サイコガンダムMk-Ⅱの巨体を、三日月は恐れなかった。ガンダムバルバトス・ルプスレクスはコンクリートを蹴り上げ、飛び上がる。そしてテイルブレードで風を切りながら、ロングメイスを振り上げてサイコガンダムに迫った。サイコガンダムの胸部から放たれる無数のビームの雨。まるで土砂降りのように叩きつけられるそれを避けながら、バルバトスが一番槍を叩きつける。
三日月
「そこ…………!」
しかし、サイコガンダムの前腕、手首から巨大なビーム・ソードが展開されると同時、メイスを叩き込まんとするバルバトスをまるで、仔犬のように振り払った。
三日月
「!?」
オルガ
「ミカッ!?」
マーガレット
「三日月!?」
戦場を自由自在に駆ける狼王。ルプスレクスはその一撃に突き飛ばされ、しかしテイルブレードを使いなんとか、体制を立て直していた。
三日月
「アイツ、ヤバいな……」
ヤマト
「まるで全身が凶器かよ。飛んだバケモンだぜ」
思わぬ強敵の出現に戸惑う中、アムロはしかしどうにもサイコガンダムへの違和感を拭えないでいた。
アムロ
「いや……あのサイコガンダムを俺もシャアも、感じられなかった。あれは、俺たちが戦ったサイコガンダムとは何かが違う……?」
シャア
「三日月達の世界では、モビルアーマーは無人機だったときいた。まさか、あのサイコガンダムも無人機なのか?」
ビームショット・ライフルを撃ち込むシャアだが、ビームの光はIフィールドによって掻き消されてしまう。そして、反撃とばかりに全身から放たれるメガ粒子砲。その流れ粒子がビルを溶かし、崩れ落ちていく。
トビア
「やめろ! ここは人が生きる場所なんだぞ!」
サブフライトユニット“ノッセル”に搭乗し、モーターボートのように空を駆けるクロスボーン・ガンダムが、サイコガンダムMk-Ⅱの周囲を飛び回り、トビアが叫ぶ。しかしそれに聞き耳を持たないサイコガンダムは、クロスボーンめがけて指からメガ粒子砲を放った。
トビア
「なんだ? こいつ?」
トビアが違和感を抱いたのは、その動き。まるで生きている人間のように滑らかにサイコガンダムは指を動かしている。モビルスーツは人が乗り操縦する兵器である以上、必然的に動作にはラグがある。「撃とう」と思った時に撃っても、そのコンマのズレが致命傷になるのが戦場だ。そのラグはパイロット達に取って常に抱える問題であり、アムロのように先読み能力に長けたパイロットは重宝され、ドモン達ガンダムファイターや特務自衛隊のTAのように人機一体のアプローチは常に需要がある。
そう、人機一体。このサイコガンダムの動きは闇雲にメガ粒子砲をばら撒いているだけのように見えて、滑らかな動きでトビアや三日月の攻撃に対応しているのだ。
そしてそれと限りなく近い動きをする仲間が、トビアの周りには一人、いる。
トビア
「ま、さ、か?」
それに気付いたのは、トビアだけではなかった。
ハーロック
「あのマシン……阿頼耶識システムを搭載しているのか!」
オルガ
「何だとッ!?」
阿頼耶識。三日月・オーガスがバルバトスと繋がる悪魔の契約。未成年の子供にだけ僅かの確率で定着する外科手術を介し、マシンとの一体化を促す禁じられた技術。
阿頼耶識強化兵
「……………………」
ショット
「フ、フフフ……」
ショット・ウェポンは、悪魔の技術に魅せられていた。Mr.ゾーンから提供された技術……阿頼耶識の素晴らしさは、パイロットの五感を直接マシーンに繋ぐことにある。それを応用することで、人間の生体エネルギーを直接マシーンへと接続する。これにより、特殊な感覚を持たないパイロットでもサイコミュ・モビルスーツの操縦が可能になるのではないか。そう、ショットは直感した。
すぐさまショットは、秘蔵していたマシーン……サイコガンダムMk-Ⅱを用意しそして、Mr.ゾーンら買ったヒューマンデブリの少年兵に阿頼耶識手術を施した。それが今、東京で暴れ回るサイコガンダムの正体である。
シャア
「阿頼耶識だと! ええい!」
ショット・ウェポンの天才的な頭脳は、阿頼耶識システムのなんたるかをすぐに理解した。阿頼耶識とは即ち、人間と機械の完全なる融合であると。オーラ・エンジンを開発する過程でショットが研究していたもののひとつ。サイコミュ・システムの完成形。それは人間の超感覚を兵器へと転用するものだが、超感覚を鍛えた兵士を阿頼耶識で機体と接続することで、より完全なマシンと人間の融合は果たされることになる。
今、暴れ狂うこのサイコガンダムはまさに、そのためにショットが生み出した決戦兵器と言って差し支えなかった。
槇菜
「ひどい……!」
マーガレット
「…………!」
何をしたのかを悟り、槇菜は呻き、マーガレットは下唇を噛む。
ユウシロウ
「パイロットは、実験動物か……」
豪和でユウシロウがそうであったように。それをまざまざと見せつけられて、ユウシロウは嫌悪感を露わにする。
竜馬
「ど腐れ外道め……なんて真似しやがる!」
忍
「許せねえ……人間を何だと思ってやがるんだ!」
ストレートな怒りが竜馬を、忍を突き動かした。
ショット
「所詮パイロットなど目的達成の道具にすぎない。このヒューマンデブリも、サイコガンダムのパーツとなることで才能を開花させたのだ。それは称賛されるべきものではないか?」
涼しげに行ってのけるショット。そのショットの乗るキントキ目掛けて、放たれるものがあった。高密度のメガ粒子。本来ならばオーラバリアがそれを弾き返す。しかし、そのビームはオーラバリアを貫き、キントキの船体を焼く。
ショット
「何……!?」
???
「そうやって人の命を弄ぶようなことはしちゃいけないって、なんでわからないんだ!」
瞬間、その声は東京の街全体に響き渡ったような気がした。それは、少年の声だった。少年の声は怒りを帯び、しかしその怒りの中には慈愛と、悲しみがある。
それは少年の放つ、巨大なオーラ力だった。オーラ力が強大なプレッシャーとなり、ビームにオーラバリアすら貫く力を与えた。そうとしか考えられない。
奇しくもそれは、ショットの考えうる生体エネルギーそのものの、物理的な力。
シャア
「お前は……!」
サザビーのシャアは、アルカディア号から発進したそのモビルスーツを見た。Zガンダム。νガンダムを手に入れる以前まで、アムロがこの戦いで乗っていたマシン。
それに乗り魂の力を体現できる少年など、一人しかいない。
カミーユ
「ショット・ウェポン! お前は生きていてはいけない存在だ。暗黒の世界に帰れ!」
カミーユ・ビダン。かつてシャアが戦いの世界に導き、そして心を壊してしまった悲しき少年が、そこにいた。
…………
…………
…………
—アルカディア号/医務室—
サイコガンダム。その悪魔のマシーンが現れた時、異変は起こった。その存在と深く関わり合いのある一人の少年にとって、その存在は許し難いものだった。
カミーユ
「うう、ああ……!」
ジュドー
「カミーユ、クッ…………!?」
カミーユの感じているものを、ジュドーもそのシャープな心を通して感じしまう。カミーユは今、死者達と会話しているのだ。
少女の声
「カミーユは、優しいね。私達のことをずっと、忘れないでいてくれるんだ」
その囁きは甘く、カミーユ・ビダンはその声に感じたときめきを忘れることができなかった。しかし、今まさに市街地で暴れ回る悪魔のマシーンに残る残留思念が、それと同時に少女の最期をカミーユに想起させ、カミーユは叫ぶ。
カミーユ
「忘れられるわけ、ないじゃないか! 君は、僕の心に入り込んで!」
少女の声
「アハハ。そんなカミーユだから、私も心を許したんだ」
女性の声
「うん。お兄ちゃんの優しさ、嬉しかった」
また違う女の声が、カミーユを蝕む。カミーユ・ビダンの人生を狂わせたファム・ファタール達の声が、カミーユの心を刺激する。
カミーユ
「違うんだ。違うんだよフォウ、ロザミィ……」
命が永遠に生き続けるのは、拷問にも等しい。それが肉の身体を持たず、現世への介入すら許されない精神のみの存在であれば尚更だ。カミーユ・ビダンの人生を狂わせた女達は今、その命の残り香をサイコガンダムを通して伝えている。カミーユにとっては、戦いと死の匂いと同義であるそれはカミーユを苦しめ、苛む。
その少女達は、カミーユが死なせてしまったも同然の少女達だ。少なくともカミーユ・ビダンにとっては、そうだ。
それがたとえ強化人間という、カミーユと出会ったその時にはもう運命が決まっていた少女達だったとしても、救えたはずだと考えてしまうのがカミーユ・ビダンだった。
そしてそれは、ジュドーもそうだ。
ジュドー
「プル……プルツー……」
その運命に縛られた悲しい少女をジュドーは、救うことができなかったのだから。
しかし、それはジュドーの傷だ。ジュドーだけが背負う、ジュドーの苦しみだ。
ジュドーはカミーユの手を握り、叫ぶ。
ジュドー
「ダメだ、カミーユ! 死んだ人間に引っ張られるな! あんたはまだ、生きてるんだろ!」
それは、まるで自分に言い聞かせるかのような叫びだった。
カミーユ
「ウ……。ア……」
ジュドー
「死者達の言葉に、身体を預けちゃダメだ。カミーユ、あんたはまだ生きてる。生きて帰らなきゃいけないんだよ!」
カミーユ
「!?」
瞬間、カミーユ・ビダンの脳裏を過ぎったのは、常にカミーユの隣で世話を焼いてくれた。時には心を摩耗させていくカミーユの支えとなり続けてくれた少女の顔だった。
カミーユ
「ファ……」
その呟きが契機だろうか。カミーユ・ビダンの意識は覚醒し、寝台から起き上がる。その瞳にはしっかりと、ジュドー・アーシタの顔が映っていた。
ジュドー
「カミーユ……」
カミーユ
「君は、たしか……。ファとアーガマを守ってくれた、ジュドー・アーシタか」
ジュドー
「あ、ああ。意識が戻ったのか?」
カミーユ
「……ずっと、意識はあったさ。だけど、意識の広げ方がわからなくなってたんだ。シロッコめ」
意識を彼岸へ預けながらも、カミーユは現実を認識していた。カミーユは立ち上がり、そして歩き出す。
カミーユ
「急ごうジュドー。あの悪魔のマシーンは、俺達が止める!」
ジュドー
「ああ、格納庫にゼータがある。それを使ってくれ!」
…………
…………
…………
そして今、カミーユ・ビダンは戦場に戻ってきた。愛機Zガンダムのコクピット・シートはかつてカミーユが使っていたそのままで、まるでカミーユの帰還を待っていたのではないかという感覚がある。しかし、目の前の戦場は宇宙世紀とはまるで違う。
シャア
「カミーユ、本当にカミーユ・ビダンなのか?」
カミーユ
「はい。貴方にも言いたいことはたくさんありますよクワトロ大尉……。いえシャア・アズナブル」
カミーユ・ビダンは、その心を痛めながらもずっと見ていた。刻の涙の流れる瞬間を。だから、漠然とだが理解していた。今ここにいる自分は、本来の時間軸の人間ではないことも。それはシャアやアムロ、ジュドーも同じだろう。
何者かの意図によるものか。或いは偶然か。何にせよ、宇宙世紀の宇宙を駆けた哀しき戦士達が今、この瞬間に集っている。
槇菜
「カミーユ・ビダンって……」
槇菜が以前読んだ、シャアの伝記小説の後半に登場する人物。それが今、シャアと共に戦場に立っている。
アムロ
「カミーユ、やれるのか?」
カミーユ
「はい。僕も戦います。それがきっと、この世界に迷い込んだ理由だと思うから」
だが、それ以上の問答を待っていてくれるほど戦場は都合のいいものではない。サイコガンダムMk-Ⅱの両腕が飛び、Zガンダム目掛けて突き進む。
鉄也
「ガンダムにロケットパンチだと!?」
正確にはロケットパンチとは違う。有線式サイコミュ・ハンド。νガンダムやサザビーのファンネルと同様の脳波コントロール兵器。有線接続の分ファンネルよりはコントロールが難しくないという特徴を持つ一方で、完全なコントロールにはやはり特殊な超感覚を必要とする兵器だ。
かつてカミーユが、ジュドーが対決したサイコガンダムMk−Ⅱは薬物投与やマインドコントロールで強化されたパイロットを乗せることで解決していた。しかし、今回のそれはさらに違うアプローチが行われている。
ショット
「阿頼耶識で繋がったパイロットは、もはやサイコガンダムと一体化している。ニュータイプ能力などなくとも、完成された阿頼耶識ならばサイコミュを自分の身体のように操れるようになるというわけだ!」
三日月
「……………………!」
それと同じものと、以前三日月は戦った記憶があった。
トチロー
「前に戦った……ギャラルホルンのグレイズアインと同じってことか」
サイコガンダムMk-Ⅱの有線式サイコミュ・ハンドが、Zガンダムへと迫る。捕まればそのまま握りつぶされてしまいそうなほどの大きな手。しかしカミーユは、怯みはしなかった
カミーユ
「そこだっ!」
カミーユの肌に染み付いた記憶は、Zガンダムの性能を100%熟知していた。ゼータの腕部に搭載されたグレネードランチャーを撃ち込むと同時、瞬時にウェイブ・ライダーへ変形。カミーユはサイコガンダムMk−Ⅱ目掛け駆ける。それを援護するように、二門のビーム・ライフルがサイコミュ・ハンド目掛けて飛んだ。
ジュドーのダブルゼータである。
ジュドー
「カミーユ、行け!」
ショット
「ええい目障りな蝿め。サイコガンダムよ! 全てを灰にしてしまえ!」
ショットが叫ぶと同時、一瞬苦痛に歪んだかのようにサイコガンダムMk-Ⅱのカメラアイが曇ったかに見えた。しかし、その次の瞬間サイコガンダムの背後から無数のリフレクター・ビットが展開される。
阿頼耶識強化兵
「あぁ、アァァァァァァァッ!!」
そして、サイコガンダムの全身から放たれるメガ粒子砲。ウェイブ・ライダーはそれを回避して突き進むが、リフレクター・ビットはメガ粒子砲を反射しカミーユの背後を襲う。
カミーユ
「しまった!?」
だが、そのビームはウェイブ・ライダーには届かない。三角形を描くように展開された3枚の板が磁力バリアを作り、カミーユを守るのだ。
アムロ
「迂闊だぞカミーユ! 背後にも目をつけろ!」
カミーユ
「アムロさん……!」
アムロ・レイ。彼の乗るνガンダムには、敵のビーム攻撃から身を守るIフィールドを発生させる仕組みが存在していた。それを使い、カミーユの死角を庇うアムロ。しかし、無数に偏向するビームと、さらに放たれるビーム。ビームの滝に打たれるかのような重圧をカミーユは感じていた。
カミーユ
「クッ、ロザミィ……!」
サイコガンダムMk-Ⅱに近づけば近づくほど、カミーユにのしかかるのは別のプレッシャーだ。ロザミア・バタム。かつて、救ってあげることのできなかった強化人間の少女兵。あの悪魔のマシーンに囚われてしまった少女の幻影がカミーユを捕らえて離さない。
ロザミィ
『私はロザミア・バタムッ! Zガンダムは、空を落とす私の敵だッ!』
そんな声が、サイコガンダムから聴こえるのだ。それは、幻聴などではない。少なくとも、この時この場の戦いで命を賭けている者達にとっては。
ショウ
「これは、ハイパー化しているのか……!?」
40mを超えるサイコガンダムの巨体が、さらに巨大化していくようにショウには見えた。それは、あの赤い髪の女や、今際のバーン・バニングスらと同じようにエゴを肥大化させているというのか。否。
シャア
「あのマシンに残る強化人間の残留思念が、阿頼耶識で一体化したパイロットを介して伝わっているとでもいうのか!」
サイコガンダムという存在の恐ろしさは、パイロットを縛り付ける呪いの力にある。それは、死などでは到底払拭することのできない存在の呪縛と言っても過言ではない。
槇菜
「どんどん、大きくなってく……!」
桔梗
「化け物ね……!」
やがてサイコガンダムはゲッター1すら見下ろすほどの質量へと変貌していく。まさにハイパー・サイコガンダム。そのマシンに囚われて死んでいった女達の妄念が、阿頼耶識を介して物理的な力を得た存在。
ショット
「フフフ、これこそが私の野望の器。そうだ、サイコガンダムと阿頼耶識。この力があれば!」
阿頼耶識強化兵
「アァァ、ァァァァッッ!」
阿頼耶識により物理的に繋がったパイロットの中に、サイコガンダムの記憶が流れ込む。それは、拷問にも等しいものだった。自分の中に自分でないものの、意識ですらない何かが入り込み自分を支配しようとしている。それに耐えられる人間などいようものだろうか。
ユウシロウ
「恐怖……」
そんな中、ハイパー化を続けるサイコガンダムを静かな、しかし強い意思を秘める眼差しで見つめる男がいた。
…………
…………
…………
骨嵬の中で、ユウシロウは巨大化していくハイパー・サイコガンダムの姿を見据える。あのなかにいるのは、自分だ。自分と同じ存在だ。そう、ユウシロウは直感していた。
ユウシロウ
「……受け入れるな。自らを支配する恐怖など!」
故に、ユウシロウがそう叫んだのは、鏡像を見てのものかもしれない。そう、“恐怖”そのものともいうべき器・骨嵬。その正体はユウシロウもまだ確信には至れていない。これを操ることが、兄達の野望に加担することなのかもしれないという疑念はある。だが、嵬などという運命に支配されることだけは、断じて認めるわけにはいかない。骨嵬。その器を通してユウシロウは刀を握り、大きく跳躍する。だが、リフレクター・ビットにより無尽蔵に跳ねるビームにさ遮られ、ただでさえ大きく、高いハイパー・サイコガンダムに届かない。
ユウシロウ
「クッ!」
竜馬
「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁっ!!!」
地へと叩き落とされそうになる骨嵬を庇うように飛翔するものがあった。ゲッター1。骨嵬はゲッターウィングを掴み、その肩に乗って風を切る。
竜馬
「ユウシロウてめえ、先走るんじゃねえ!」
隼人
「フッ、ユウシロウもお前だけには言われたくないだろうよ」
弁慶
「ああ全くだ」
軽口を叩きながらしかし、ゲッターはハイパー・サイコガンダムの頭部のあたりまで飛翔すると、今度こそと骨嵬はそこから飛び出す。
ユウシロウ
「お前は、支配されている。恐怖に! 呼び起こすな、恐怖など……逆に支配しろ!」
まるでそれは、自分に言い聞かせるかのような言葉だった。骨嵬が刀を振るえば、ゲッター線の光が斬撃の後に吹き荒ぶ。ゲッター斬りはハイパー・サイコガンダムのリフレクターを打ち砕き、しかしハイパー・サイコガンダムにその声は届かない。
阿頼耶識強化兵
「ああ、空が……空が落ちる!」
そう叫ぶと同時、ハイパー・サイコガンダムはまるで錯乱したかのように腹部の拡散メガ粒子砲を撃ち放つ。何を狙うわけでもない。ただ、目の前にある全てを破壊しなければ気が済まない。目に映る全てのものが、今彼か或いは彼女か。それすらも定かではないものには空を落とす敵に見えてしまうのだ。
ユウシロウ
「ダメか……!」
カミーユ
「ロザミィの心を歪めたマシーンが、また人の心を弄ぶのかよ!」
その光景はカミーユ・ビダンにとっては許し難いものだった。いや、カミーユだけではない。
トビア
「泣いてる、のか……?」
ジュドー
「ああ。そうだ、あのマシンはパイロットの命を、涙を吸って強くなるんだ。そんなの、許せるかよ!」
三日月
「…………」
クロスボーン・ガンダムが、タブルゼータが、バルバトスがビームの雨を掻い潜り、ハイパー・サイコガンダムへ迫る。そしてピーコック・スマッシャー、ダブル・ビームライフル。テイルブレードでの攻撃。だがそれらは本体には届かず霧散してしまう。
Iフィールドバリアと、ハイパー化によって発生する質量の増大が攻撃をブレさせているのだ。
ショット
「フッ、どれほどの戦力を集めたところでハイパー・サイコガンダムは止まらん!」
その巨体からメガ粒子砲を乱射するハイパー・サイコガンダム。メガ粒子の光は東京の街を地獄へと変えていく。これ以上の被害を出さない為にも、一刻の猶予もない。
アムロ
「だがどうする? コクピットだけを狙えるのか……」
ただでさえ強固なIフィールドに守られ、そして常にメガ粒子の弾幕を展開する巨大な機動要塞。その頭部が脱出ポット兼任のコクピットになっていることは、データで知っている。だが、核融合炉を誘爆させずにコクピットを潰すのは、アムロやシャアですら至難の技。
シャア
「……できるかもしれん」
そう言ったのは、シャアの方だ。
アムロ
「シャア、策があるのか?」
シャア
「分の悪い賭けかもしれんがな。カミーユ!」
Zガンダムの前に立つサザビー。メガ粒子砲の直撃を避けながら、マシンの回線越しにカミーユに言葉を送る。
シャア
「すまなかったな。カミーユ……。それだけは、伝えさせてくれ」
それは、作戦中に出る言葉ではなかった。戦闘中においては常に厳しかったクワトロ・バジーナ大尉……いや、シャア・アズナブルの姿を知るカミーユは、シャアがらしくないことを考えていると悟る。
カミーユ
「クワトロ大尉、何をする気ですか!」
シャア
「サザビーのサイコフレームを磁場暴走させ、サイコフレームの共振を起こす」
カミーユ
「!?」
サイコフレーム。νガンダムとサザビーのコクピット周りに使用されている特殊なフレーム。かつて、このサイコフレームの磁場暴走により奇怪な現象が起きたことがある。
槇菜
「それって、アクシズを地球から遠ざけたっていう……」
シャア
「詳しいな。そうだ。あの時起きたことを、もう一度起こせないわけはない!」
サザビーの乗るベース・ジャバーが、メガ粒子砲を受けて爆散した。シャアは即座に飛び降り、機体のブースターで飛翔する。サザビーは他のモビルスーツよりも高い推力を発揮するマシンだ。馬力に関してはνガンダム以上のものがある。サザビーはバックパックからファンネルを展開すると、6基のファンネルはハイパー・サイコガンダムのリフレクターを攻撃する。ひとつ、またひとつリフレクターを破壊しながら、シャアは突撃する。
アムロ
「バカな真似はやめろ、シャア!」
サイコ・フレームの磁場暴走。それを起こすということは即ち、サザビーを爆発させるということ。シャアは自らハイパー・サイコガンダムの至近でメガ粒子砲を喰らい、サザビー諸共爆散するつもりなのだ。それをわかるのがアムロだ。
シャア
(アムロ、お前も悟っているのだろう。私達はあの時、既に……)
未来への礎となるならば、それこそが自分の役目。シャア・アズナブルに迷いはなかった。しかし、
カミーユ
「ふざけないでくださいよ!」
突撃するサザビーを遮り、前に出るものがある。ウェイブ・ライダー。カミーユの乗るZガンダムの航空形態がサザビーを追い越し、前に出たのだ。
シャア
「カミーユ!?」
カミーユ
「そういうやり方じゃダメなんですよ! いい加減にわかれ、シャア・アズナブル!」
前に出たウェイブ・ライダーは瞬時にZガンダムへと変形し、そしてサザビーを踏み台に跳躍。
シャア
「私を踏み台にするか……」
それは屈辱的であったがしかし、シャアはどこかに安心を覚えていた。
カミーユ・ビダンが、間違いなく自分を越えた存在になっているのだと、今ならば確信できたからだ。
…………
…………
…………
ハイパー化したサイコガンダムMk-Ⅱ。その存在感は全てを恐れさせる。しかし、カミーユ・ビダンはそれを恐れはしなかった。悪魔のマシーンに囚われた、悲しき魂を救わなければない。今はただ、それだけを考えて。
ロザミィ
『お兄ちゃんは! お兄ちゃんはどこ!』
阿頼耶識強化兵
「ァァァァァァァァッ!!」
カミーユは感じていた。サイコガンダムMk-Ⅱの中に存在するロザミアの呪縛。阿頼耶識でサイコガンダムと、ロザミアと繋がってしまったパイロットは死者の声に引きずられている。
それは、あの時の自分と同じだ。
カミーユ
「ロザミィ、フォウ……。みんな、みんなが死んで、俺はここにいる。俺はみんなに生かされたんだ!」
だからこそ、あの最後の戦いでカミーユは死者達の声を聞き、パプテマス・シロッコを倒した。
そして、死者の声に引きずられてカミーユの心は、彼岸を見てしまった。
だが、今カミーユはここにいる。
遥か未来の戦場で、あの時できなかったことをするために。
阿頼耶識強化兵
「ァァァァァァッ! ァァァァァァァァッ!!」
ハイパー・サイコガンダムの両腕から、極大のビーム・ソードが伸びる。目指す相手はZガンダム。
ジュドー
「カミーユ!?」
危ない。そうジュドーが叫んだその時しかし、ビーム・ソードは瞬く間に霧散していく。
赤く輝くZガンダムに触れた途端、ビームが弾け消えていったのだ。
ショット
「バカな!?」
キントキでそれを見たショットは、驚愕の声を上げる。そんなことは、ショットの計算上起こり得ないことだ。しかし、今まさに起きているのはデータを越えた現象。
カミーユ
「あの時と同じ……だけど、あの時とは違う!」
あの時、カミーユは死者達の声に身を委ねすぎた。だが、今は違う。
シャア
「カミーユを通して溢れる力。これは……」
シャアも、知っているものだ。サイコ・フレームの共振。あの時感じた温かさ、安らぎ。それを今、カミーユは体現している。
ジュドー
「カミーユの思いを、Zガンダムが守ってるんだ」
三日月
「ガンダムにも、色々あるんだな」
カミーユの魂を通して発生した光。赤い輝きは瞬間、緑色に光った。ライムグリーンの、温かな光。それを受けたハイパー・サイコガンダムに、異変が起きた。まるでもがいているかのように、ハイパー・サイコガンダムが苦しみ出す。いや、金縛りにされている。
ドモン
「奴の動きを止めたのか!」
ショット
「な、何が起こっている!?」
天才的な頭脳を持つショット・ウェポンをして、その現象が何なのか一見では、理解できないでいた。ただ、赤く輝くZガンダムのオーラが一瞬、緑色に発光したのをその場にいた誰もが見た。それだけだ。
カミーユ
「お前にはわかるまい! 戦いを道具にして楽しんでいる……貴様のような奴には!」
ショット・ウェポンこそが、今倒すべき敵。それをカミーユは本能的に察知している。だが、それよりもまずは。
今ここでガンダムの呪縛に苦しめられている囚人を、解き放つのが先だ。
Zガンダムが再びウェイブ・ライダーに変形すると、ハイパー・サイコガンダムへ突っ込んでいく。Zガンダム全体を守るように展開される光が、ハイパー・サイコガンダムの動きを完全に止めていた。
ショット
「ど、どうしたというのだ! 動けサイコガンダム! お前は、究極の人機一体を……」
三日月
「そんなもの、あるわけないだろ」
仮にそれが存在するとすれば、人と機械。その双方の弱点を併せ持つ存在であることになる。サイコガンダムをハイパー化させる人の意識。それを通して今ハイパー・サイコガンダムは恐怖を感じてしまっていたのだ。
阿頼耶識強化兵
「ァァ、ァァッ!」
カミーユ
「もう還るんだ、ロザミィ!」
ウェイブ・ライダーは加速し、動けないハイパー・サイコガンダムへと迫る。そのフロントノズルが、ハイパー・サイコガンダムに突き刺さると同時、カミーユは少女の声を聞いた気がした。
ロザミィ
『見つけた……お兄ちゃん!』
その声と同時、ハイパー・サイコガンダムのコクピットはウェイブ・ライダーの突撃により潰れる。コントロールの中枢を失ったハイパー・サイコガンダムはその質量を縮小させそして、完全に沈黙した。
カミーユ
「フォウ……ロザミィ。僕もいつかはそっちへ行く。だけど、」
それは今じゃない。カミーユは操縦桿を握る腕に力を込めて、前を向いた。
…………
…………
…………
ショット
「ば、バカな……。こんなことがあるはずがない!」
生体エネルギーであるオーラ力。それを阿頼耶識を通して直に吸い上げるサイコガンダムは、技術系統こそ地上のものを使用しているが究極のオーラマシンだった。モビルフォートレスでありながらハイパー化を果たしたことこそ、その証拠だ。
だが、敗れた。
それは、あってはならないことだ。
ショウ
「もうやめろショット!」
ヴェルビンから、ショウ・ザマの声が届く。
ショット
「ふざけるなショウ・ザマ! 悉く私の邪魔をして……!」
今はその声も憎々しい。だが、得るものはあった。
ハイパー・サイコガンダムは、パイロットの残留思念がオーラ力を増幅させる現象を見せた。そして阿頼耶識を通して、その意識は声という形で具現するに至った。
ショット
「ふ、ふふふ……。そうか、これを実用化すれば!」
ミュージィを取り戻せるかもしれない。
サイコガンダムの中に残った少女の残留思念。そのようなものが実在するならば、きっとミュージィの魂もどこかに残っているはずだ。それを手に入れ、復元することができるならば。
ショット
「私は、まだ終わるわけにはいかん!」
キントキの周囲に展開されたオーラバトラー達に指示を出す。後退の時間を稼げと。ここでサイコガンダムを失ったのは手痛い。しかし、まだショットにはやるべきことが残っている。ここで無駄に戦い死ぬのはナンセンスだ。そう判断する理性が、ショットには残っていた。
マーベル
「逃げる気!」
チャム
「ショウ、追いかけなきゃ!」
ショウ
「ああ!」
ドラムロの放つフレイボムを掻い潜りながら、ヴェルビンはキントキを追う。しかし、敵の後退線は厚く、高機動を誇るヴェルビンでさえもそれを掻い潜るのは難しい。だが、ここでショットを仕留めなければ。
ショウ
「ショットを生かしておけば、必ず次の悲劇が生まれる……ここで終わらせる!」
ヴェルビンのオーラソードに、ショウのオーラ力が宿る。吸い上げたオーラを纏い、ヴェルビンは加速する。
チャム
「ショウ、やっちゃえぇぇっ!」
ショウ
「チャムのオーラ力も貸してくれ!」
迎撃するドラムロをオーラの風が振り払い、戦雲となってショウが往く。
ショット
「ショウ・ザマ!?」
ショウ
「ショット、お前は蘇って何を得た!」
ドラムロを突き抜け、キントキへと張り付く
ヴェルビン。ショウのオーラ力を纏うその剣が、キントキへ突き刺さる。
ショット
「力と狡猾さ。そして執念だ! ……さすれば、貴様などに!」
こうなれば、せめてもの。ショットが復讐を遂げるべく相手がそこにいる。ショットは、ヴェルビンを道連れにせんとキントキのオーラエンジンを臨界まで上昇させていく。
だが、
ショウ
「俺は人は殺さない……その怨念を断つ!」
ヴェルビンのオーラソードを介し、ショウのオーラ力がキントキの中に流れ込んだ。オーラの奔流。ショウのオーラ力を介し、あかときいろの煌めきがキントキを包んでいく。
ショット
「これは、このオーラ力は!?」
ショウ
「ヴェルビンは、シーラ様から賜った剣。シーラ様の祈りが、この剣には宿っているんだ!」
聖少女シーラ・ラパーナの祈り。それが何を意味するものかショットが理解するのに、数瞬を要した。そして、
ショウ
「シーラ・ラパーナ、浄化を!」
オーラの煌めきが爆発し、キントキが、ショットがオーラの中に溶けていく。
ショット
「こ、これは…………!」
自らの命を繋ぐ何かが、抜けていくのをショットは感じた。邪霊機の少女ライラから与えられた第二の命。ショットの身体が、光へと還っていく。
だが、不快感はなかった。
それは、ショットを呼ぶ声が聞こえたからかもしれない。
???
『ショット様……』
その懐かしい響きを、忘れることなどありはしない。
ショット
「あ、ああ……ミュージィ。そこにいるのか!」
ミュージィ
『はい。このミュージィ、ショット様を探しておりました』
ミュージィ・ポー。遠い異卿の地であるバイストン・ウェルで愛し合った女。そうでありながら野望の道具にしてしまった女性。ミュージィは、ショットの側にずっといたのだ。ただ、ショットがそれに気づいていなかっただけで。
ショット
「そうかミュージィ。お前と共にいられるというなら、悪くない……」
そのことに気付き、ショットの中から黒いものが抜けていく感覚があった。欲望、野心。執念、復讐。それらの雑念を捨てた先にあるものを。
最期の瞬間、ショットは自らの身体をミュージィの肢体に預けるようにして、そしてキントキと、周囲のドラムロ達はオーラの光の中へと消えていった。
ショウ
「ハァ……ハァッ!」
ヴェルビンは健在。剣を引き抜き、鞘へと戻す。シーラの“浄化”。ヴェルビンはそれを小規模ながら起こす力を持っていた。それは、ショウ・ザマの聖戦士としての覚悟を通してのみ発現する奇跡であると言ってもいい。
槇菜
「すごい……」
カミーユ
「あれも、ゼータと同じく命を体現するマシンなのか……」
或いはそれは、ショウの為に祈ったフェラリオの……チャム・ファウの起こした奇跡なのかもしれない。チャムは力が抜けたかのようにショウの肩に座り込むと、ショウの顔を見上げる。
チャム
「ショット笑ってたよ。どうして?」
ショウ
「いいんだチャム。誰だって、死んでまで苦しむ必要はない」
ショット・ウェポンは確かに、許されない悪を働いた。だが、そんなショットであったとしてもその魂は救われるべきだ。そう、ショウは思った。
だが、息を吐く間もない。
ラ・ミーメ
「キャプテン、重力場の異常を感知!」
ハーロック
「何!?」
ラ・ミーメの計測した方位を見ると、オーロラ色の光が突き抜け、伸びるのが見えた。
オーラロード。このタイミングでオーラロードより現れるものがあるとしたら一つしかない。
リュクス
「父上とエイサップ!」
槇菜
「エイサップ兄ぃだ!」
…………
…………
…………
—東京湾—
オーロラの光とともに吹き上がる水飛沫。その中から現れたのは、2機のオーラバトラーだった。オウカオーと、ナナジン。ナナジンの機体色は赤く染まり、2機の周辺では無数の羽根が飛び散り消えていく。
その様子を、フガクの中でコドール・サコミズは驚愕の表情を浮かべて見ていた。
コドール
「お、オウカオー……! まさか王も、地上界に辿り着いた……」
マキャベル
「あれがサコミズ王……」
アレックス
「オウカオーとかいう……」
対峙する2機のオーラバトラー。オウカオーは周囲を見回し、困惑の表情を浮かべていた。
サコミズ
「こ、ここは……」
エイサップ
「東京……東京湾です!」
かくして。
リーンの翼が導く御伽噺は今、佳境を迎えようとしていた。
みなさんお待ちかね!
日本へ戻ってきたサコミズ王。ですが変わり果てた日本に絶望し、オウカオーは暴れ始めてしまいます! そしてコドール女王の野心、マキャベルの陰謀が渦巻く戦場で、ロウリと金本は禁断の兵器に手を染めようとしてしまうのです!
次回、第二部最終回!
「桜花嵐(後編)-MY FATE-」に、レディ・ゴー!