スーパーロボット大戦VB   作:元ゴリラ

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第27話「運命の申し子! 出撃ゲッターロボアーク!」

—アルカディア号/格納庫—

 

 

ミハル

「これは……」

 

 ミハルの眼前にあるのは、骸の武者。骨嵬。月面での戦いで、アルカディア号の前に立ち塞がったものだ。ユウシロウの乗っているものと同じ、“恐怖”を呼び起こす器。“シンボル”が探して求めているオリジナルともいうべきものが、ここにあった。

 

トチロー

「俺にはこいつが何なのか、さっぱりわからなかった。だけどユウシロウが乗ってたやつ。それとあんた達の話を信じるならこいつは、あんたなら使えるんだろ?」

 

 ミハルの無表情が、微かに強張る。確かにミハルには、骨嵬を操る才能があった。だがそれは、ミハル自らが望んで手に入れた力ではない。むしろ嫌悪し、恐れている力。“恐怖”を呼び戻す器……。この骨嵬は間違いなく、ミハルの理性を蝕む代物だ。

 

ミハル

「私は……」

 

 ミハルの胸の奥が、ざわざわとざわめき立つ。記憶。ミハルではないミハルの記憶が、彼女の中で流れては消えていく。

 あるミハルは、フランス革命期の時代に乙女と呼ばれ、神の遣いたるこれを使役していた。

 骨嵬を巡り、あらゆる時代、あらゆる土地で“恐怖”は蘇り……たくさんの悲劇が生まれた。その全てを思い出せるわけではない。

 ちらりとミハルは、隣にいる豪和ユウシロウへ視線を映した。

 

ユウシロウ

「…………」

 

 このもう一つの骨嵬の存在は、アルカディア号へ訪れてからずっと、ミハルもユウシロウも問題を先送りにしていたものだ。ユウシロウは骨嵬に乗り、そして骨嵬からの支配に自らの意志で打ち克った。骨嵬とは、嵬を鬼そのものへ変貌させる力。だが今のユウシロウと骨嵬は言わば、鬼を調伏し自らの式神としている。そういう関係にある。

 それでも尚、ユウシロウの感情を“恐怖”に塗り潰そうとするのが骨嵬の恐ろしさだ。骨嵬の中には入っている間、石舞台で舞っている時のような高揚感がユウシロウを支配する。その中で、自らの理性を塗り潰さない強靭な精神力。ユウシロウは、それを発揮することができた。

 だが、それと同じことをミハルに強いるのはユウシロウの本意ではない。

 

ユウシロウ

「……この骨嵬は、月にいたのか」

トチロー

「ああ。月の不可侵宙域に眠っていたんだ。まるで、俺達と木星軍の戦いがこいつを呼び起こしちまったみたいに突然出てきて、暴れるだけ暴れた後はウンともスンとも言わねえ」

 

 月。何千年と昔から地球を、人々を見下ろし続けてきた星。宇宙世紀に入り、人類が月を植民したとしてもそれは変わらない。夜空を照らし続ける月と共に、この骨嵬は人類の営みを見てきたのかもしれない。

 

ユウシロウ

「この星で、この宇宙で起き続けてきたことをお前は、月と共に見てきたのか」

 

 人が変わり、星が変わろうとも。月は変わらずに。ならば、月に問えば答えは出るのだろうか。そんなことをふと、ユウシロウは思った。

 だが、そんなものはユウシロウの夢想に過ぎない。月に埋没していた骨嵬に何を問うてもユウシロウが、それにミハルが求める答えなど返ってこようはずもない。

 

ミハル

「…………これは、“恐怖”を呼び起こす偽りの神。“恐怖”を、呼び起こしてはいけない。その心は、今も変わらない」

 

 辿々しく、ぽつりぽつりとミハルは呟き始めた。もし、ミハルが骨嵬に乗り込んだことで、ミハルの意識が“恐怖”に塗りつぶされてしまうとしたら。その時、ミハルがどうなってしまうのかわからない。

 

竜馬

「ケッ。てめえも結局、ビビってんのか?」

 

 そんなミハルの様子を見かねたのか、竜馬が悪態をついた。コツコツと足音を立てながら、ユウシロウとミハルの背後に近付く竜馬。竜馬は心なしかピリピリしているようで、眉間には皺が寄っている。

 

ユウシロウ

「竜馬さん……」

竜馬

「偽りの神とやらが怖くて、ビビってんなら乗らなきゃいいだけじゃねえか。んなことで一々考え込んでるんじゃねえ」

ミハル

「……!」

 

 言い方は乱暴だが、竜馬の言うことは決して暴論ではない。「逃げたければ逃げてもいい」そう、竜馬は言っているのだ。それはミハルにとっては、救いにも近い言葉だった。

 

ミハル

「……変えられぬ刻などない。変わらない定めなどない」

 

 ミハルの脳裏に過ったのは、かつての……遠き過去の誰かだったユウシロウの言葉。ミハルの心に、記憶の中に残り続ける刻印。

 ミハルはひとつ頷いて、ユウシロウへと向き彼の瞳を見つめる。

 

ミハル

「……私達がこれに乗り続ける限り、またたくさんの悲劇が生まれてしまうかもしれない。私達がいては、終わらない」

ユウシロウ

「…………」

 

 ユウシロウは、何も言わない。ただ、ミハルの言葉を受け入れそして、視線で彼女の全てを包み込む。それ以外に、できることなどなかった。

 

ミハル

「私達は、死ぬべきなの」

ユウシロウ

「…………ああ」

 

 頷くユウシロウ。だがたとえミハルとユウシロウが死んだとしても、連綿と続く輪廻の中でふたりはきっと出会ってしまう。それでも、次に起こる悲劇、惨劇を引き延ばすことはできるだろう。

 

ミハル

「だけど、できない。私は、あなたを……」

 

 この胸の内に宿る感情の名前を、ミハルは知らない。恋などという言葉で片付けるものでは断じてなく、しかしユウシロウは、ミハルの中に入り込んでしまっている。

 

ユウシロウ

「……もし俺が骨嵬に乗ることで“恐怖”を、悲劇を起こしてしまうとしても」

 

 ゆっくりと、ユウシロウは口を開く。

 

ユウシロウ

「俺が悲劇を起こす前に、きっとみんなが止めてくれる。それを、俺は信じている」

 

 そう、ユウシロウは言い切る。その様子を見ていた竜馬は、満足げに頷いた。

 

竜馬

「安心しな。もしお前らが骨嵬に……ゲッターに取り込まれちまったとしても、その時は俺が殺してやるよ」

 

 のっぴきならないことを言う竜馬。だが、その言葉とは裏腹に彼の言葉には親愛の情が込もっている。或いは、それは同族意識なのかもしれない。

 竜馬もまた、嵬……。或いは、ゲッター線という運命の囚人。しかし、だからこそ。

 

竜馬

「運命に立ち向かうのも運命だって、誰かが言ってたぜ。そいつに乗るも乗らねえも、てめえの勝手だ」

 

 流竜馬は悩まない。いや、悩むだけでは何も解決しないことを知っている。だからこそ、竜馬は行く。立ち塞がるものがいる限り。たとえそれが、運命だとしても。

 そんな竜馬の言葉に、ユウシロウも頷く。

 

ユウシロウ

「……変えられぬ刻などない。変わらない定めなどない。俺達を(とら)える運命があるとしたら、俺はその運命に立ち向かう。俺はここにきて、その覚悟を学んだのかもしれない」

ミハル

「私は……」

 

 たとえ、運命の囚われ人であったとしても。

 今のユウシロウと共になら。

 運命を変えられるかもしれない。

 

ミハル

「トチローさん。骨嵬の肩にマーキングをお願いします。鈴蘭の絵を」

 

 鈴蘭。それはミハルのメタルフェイクに刻印されている彼女のパーソナルマーク。

 

トチロー

「了解した。それじゃあこの骨のバケモノ……骨嵬の処遇に関してはお前らに一任するぜ」

 

 そう言ってトチローは丸眼鏡を掛け直して骨嵬へと向き直る。それからユウシロウのものと、これからミハルが乗るそれを見比べて言った。

 

トチロー

「そういや、どっちも骨嵬って呼び方だと紛らわしいな。何かないのか?」

 

 二つの骨嵬は、よく似ている。だが、瓜二つというわけではない。ユウシロウが乗っているものは刀を持ち、鎧兜を纏った戦武者の姿をしている。一方でこれからミハルのものとなるそれは黒く、般若のような面をしている。また、だらんとと伸びる腕は異様に長い。そして、両刃のついた長槍を持っていた。

 

ユウシロウ

「……………………」

ミハル

「……………………」

 

 言われてユウシロウとミハルは、不思議そうに首を傾げる。トチローが何を言っているのか理解できていないと言う風に。

 

トチロー

「あのな……名前だよ。どっちも骨嵬じゃ紛らわしいだろ」

ユウシロウ

「……あ、」

 

 言われてはじめて気づいたかのように、ユウシロウもミハルも、ポカンと口を開けていた。

 

竜馬

「ヘッ。そういう物騒でケッタイなもんなら、ミチルの鬼娘か亮の奴にでも相談してみたらどうだ?」

 

 冗談めかして、竜馬が言う。それと同時、竜馬を呼ぶ声が耳に届いた。

 

弁慶

「おい何油売ってやがる竜馬!」

隼人

「やる気がないなら、イーグル号は自動操縦でいいんだぜ」

 

 隼人と弁慶。2人は既に自分のゲットマシンに乗り込んでおり、竜馬が来るのを待っていた。

 

竜馬

「おう、悪ぃな。それじゃあ俺はこれで行くぜ!」

 

 そう言って竜馬は駆け出し、イーグル号へと飛び乗った。エンジンに火を入れ、アクセルを踏み込む。

 

竜馬

「遅れんなよ。隼人、弁慶!」

弁慶

「それはこっちの台詞だ!」

 

 乱暴な言葉と共に、ゲットマシンはアルカディア号を発進。けたたましいブースターの音が、ユウシロウ達の耳に伝わる。ユウシロウにはそれは、荒武者の叫びにも似ている気がした。

 

トチロー

「ったく……騒がしい奴だよ」

ユウシロウ

「……そういえば、ゲッターはマチュ・ピチュへ先行するんですね」

トチロー

「ああ。それとグレートマジンガーもな。マチュ・ピチュの様子を先に見てもらうのが目的なんだが……。あいつらで大丈夫かねぇ」

 

 トチローの小さな身体は、全身で溜息を吐いていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

—アルカディア号/ブリッジ—

 

 

 

 Mr.ゾーンを追いマチュ・ピチュを目指すアルカディア号には現在、VBの半数が搭乗している。艦長たるキャプテンハーロックの一行と鉄華団。それに鉄也、ヤマト、竜馬達ゲッターチーム、ユウシロウとミハル、ショウ達オーラバトラー隊。それに槇菜とマーガレット、それに桔梗らが今アルカディア号に乗船していた。

 現在、アルカディア号に先行してゲッターチームとグレートマジンガーがブリッジでは他の主要メンバーが顔を合わせている。話題の中心は当然、これから行くマチュピチュという土地についてのものが中心となっていた。

 

 

槇菜

「マチュ・ピチュって、そういえばどんな場所なんですか?」

 

 そんな、何気ない槇菜の一言が話の発端だった。

 

ショウ

「ペルーに存在する、空中都市だな」

 

 ショウが答える。空中都市。それはスペース・コロニーが現実のものとなる未来世紀においても、不思議な魅力を放つ言葉だった。

 

三日月

「空に街があるってこと?」

槇菜

「ほぇ……」

 

 三日月も槇菜も、不思議な想像を膨らませている。その様子に苦笑しながら言葉を続けるのは桔梗。

 

桔梗

「空中都市といっても、ラピュタみたいに空に浮かんでるわけじゃないわ。マチュピチュは標高2400mの高地に作られた都市なの」

ルー博士

「その通りデース。マチュピチュはその高さからか、時のスペインからの攻撃を逃れたとされるインカの古代遺跡。人々が何故そんな場所に都市を作ったのか。その目的は何か。それらは未だ謎に包まれていマース」

 

 桔梗に続いて、ルー博士が饒舌に語り始める。槇菜も三日月も、それを聞いては頷き、時々質問を挟んでいた。

 

三日月

「そんなところで、何食べて暮らしてたの?」

ルー博士

「それも不思議の一つデース。マチュピチュにはジャガイモやトウモロコシの畑があったと考えられていマスが、どのような理由で作られたのか、それは歴史のミステリーなのデース」

 

槇菜

「ルー博士は、マチュ・ピチュの遺跡を調査してゼノ・アストラ……エクス・マキナを発見したんですよね。じゃあ、エクス・マキナはマチュ・ピチュと関係があるかもしれない……」

ルー博士

「そう考えるのが自然デスネー。あの場所で見た“厄祭戦”の記録が事実なら、マチュ・ピチュには“厄祭戦”に関する事実も眠っているのかもしれまセーン」

 

 質問に答えながらも、ルー博士の瞳は輝いている。それは、彼が生粋の考古学者であることを雄弁に物語っていた。

 

オルガ

「……お前ら、遠足に行くわけじゃねえんだぞ」

 

 そんな三日月と槇菜、それにルー博士に呆れるようにオルガがボヤく。

 

ハーロック

「いいじゃないか。これから行く場所に対して何も知らないよりは、少しでも知識がある方がいい」

オルガ

「そりゃあ、そうだが……」

 

 それにしても、緊張感がないようにオルガには感じられる。

 

ヤマト

「オルガさん、ビビってるの?」

オルガ

「なわけねえだろ。だがよ、あのゾーンが出向いてるとなるとどんな罠が張り巡らされてるかわからねえ」

 

 忌々しげに、オルガが吐き捨てる。

 

マーガレット

「そんな卑劣な男なの? そのゾーンって」

オルガ

「ああ。元々あいつはギャラルホルンのエンジニアで、モビルスーツや戦艦の開発に関わっていたんだ。だが……」

アトラ

「地球がイルミダスに占領された後、あの人は率先してキャプテンを追い詰めるため鉄華団とも敵対したんです。私はあまり詳しいことは知らないけど、キャプテンに恨みがあるらしくて」

ハーロック

「…………」

 

 フェーダー・ゾーンとハーロックの間にある関係。それはゾーンの逆恨みといっても過言ではないものだった。しかし、そのきっかけを作ってしまったのは他ならぬハーロックであることは事実。ハーロックはその隻眼を細める。彼の瞳の奥底にあるものを窺い知る事は、この場にいるもの達にはできなかった。それができるのは今機関室と格納庫を往来している親友大山トチローと、それに同志ともいうべき女海賊エメラルダスだけである。

 

ハーロック

「フェーダー・ゾーン。あの男は俺がギャラルホルンの軍人だった頃、指揮を取ったある艦の設計者だった。たしかに、奴の作った艦は強力な武装を持ち、戦果を上げることはできた。だが……乗艦する乗組員の安全を無視した、命を預けるに値しない艦だった」

 

 この一点において、ゾーンの艦はトチローが設計したこのアルカディア号や、軍属時代のハーロックが愛艦としたデスシャドウ号と決定的に違っていた。ハーロックという男にとって……いや、航海するものにとって艦とは家であり、自らの命を預けるものだ。時として乗組員は、艦と命を共にしなければならない時もある。

 ハーロックはこのアルカディア号と共に命を散らすのならば、それこそ我が天命なのだと思うことができる男だ。だが、ゾーンの設計した艦はとても、命を預けることができない。そう、あの時ハーロックは感じていた。

 

ハーロック

「俺はゾーンに突き付けた。お前の艦には命を預けられない。乗組員への配慮が足りないと。それを大勢の前で怒鳴り散らしてしまったからだろう。ゾーンはエンジニアとしての、出世の道を断たれてしまい……俺を恨んでいる」

 

 今思えば、ハーロックも配慮が足りなかったのかもしれない。ハーロックの一言がゾーンの自尊心を傷つけ、そして彼のキャリアを決定的に破壊してしまったのだから。だからこそ、ハーロックは何度も敵対しながら、ゾーンという男を憎めないでいた。

 

ヤマト

「ヘッ、なんでえ。ハーロックを付け狙うっていうんだからどんな奴かと思えば、随分器の小さい野郎じゃねえか」

 

 とはいえ、それはハーロックの……当事者の感傷に過ぎない。客観的な話を聞けば、ゾーンの行為は逆恨みだ。

 

ショウ

「だが、ゾーンは傷付いたプライドを取り戻すためにキャプテンと戦い続けている……。その執念は余程のものだと思うな」

 

 ショウの脳裏に過ったのは、かつての好敵手。力と狡猾さを手に入れるため、騎士としての誇りを捨ててショウに挑んだ黒騎士バーン・バニングス。ある意味一番の強敵だった男の執念を、ハーロックの話からショウは思い出し身震いした。

 

マーガレット

「そうね。理由はどうあれ、ゾーンはキャプテンを倒すことで自らの自尊心を取り戻そうとしている。そうだとしたら、強敵だと思う」

 

 そう言って、マーガレットは腕を組みトントンと数回、足踏みする。

 

カンナ

「マーガレット……」

 

 マーガレットが苛立っているのを、カンナは漠然とだが感じる。カンナにとってマーガレットは、優しくて強い姉。姉になってくれた人。身寄りのない彼女にとってたった一人の家族だった。そのマーガレットが、カンナの前では決して見せなかった苛立ちと焦りの顔。マーガレットはあの時以来、時折そんな表情を覗かせている。

 

マーガレット

(紫蘭は、自らの意志であの子を……ライラを助けた。私じゃなく、ライラを)

 

 紫蘭が物言わぬリビングデッドに成り果て、あの赤い少女に隷属している。マーガレットはずっとそう考えていたし、事実そうだった。だが、あの“厄祭戦”の墓場で起きた戦いの最中、紫蘭は自らの意志でライラを救い、マーガレットに……恋人に牙を向いた。少なくともマーガレットには、そう見えた。

 その感覚はマーガレットにとってショックであり、屈辱であり、そして何よりライラへの憎悪をより募らせる。それは戦士として、兵士として以前の……女としての屈辱だ。

 

マーガレット

(ともすれば、今の私もそのゾーンという男と同じなのかもしれない)

 

 キャプテンハーロックから受けた屈辱を晴らすために、悪の道を突き進む男。ハーロックらの口から語られるその姿はどこか、愛する男を奪われた憎しみを研ぎ澄ます自分自身とに通っているようにマーガレットは感じていた。

 

カンナ

「…………」

 

 そんなマーガレットの手を、ギュッと握る小さな少女。カンナは不安げな表情で、マーガレットを見上げている。それに気付き、マーガレットは柔らかな笑みを作って膝を屈め、カンナに視線を合わせる。

 

マーガレット

「大丈夫、ごめんね?」

カンナ

「ううん。マーガレット、辛そうだったから」

マーガレット

「……うん」

 

 今のマーガレットは、孤独な女ではない。そのことを思い出し、マーガレットは嫌な思考の坩堝に陥っていた自分を恥じる。少なくとも、この子だけは。カンナだけは手放してはいけない。自戒を込め、マーガレットはカンナの髪を優しく撫でる。

 

槇菜

「マーガレットさん、お姉ちゃんみたい」

 

 そんな様子を眺めながら、槇菜が小さく呟いた。

 

桔梗

「え?」

槇菜

「私が小さい頃、私がいじめられたりして泣いてると、お姉ちゃんもよくお姉ちゃんに撫でて貰ったよね」

 

 それは槇菜にとって、大切な記憶。桔梗お姉ちゃんと共に過ごした日々。今のマーガレットとカンナのやりとりが、槇菜にとってはそんな、優しい記憶を思い出させる。

 

桔梗

「そんなことも、あったかしらね」

 

 桔梗は長い銀髪を弄りながら、照れくさそうに呟いた。桔梗にとってもそれは、大切な思い出だったからだ。

 

桔梗

(だけど、槇菜はもう強い子に育った……)

 

 桔梗の中にあった槇菜の印象は、その頃のままずっと、固定されていた。弱くて泣き虫で、夢見がちな妹。だけど、そんな槇菜はもう過去の幻影に過ぎない。

 

桔梗

(槇菜は強い。強くなってる。私がいなくても、きっと大丈夫なくらい……)

 

 それは本来、喜ばしいことなのかもしれない。しかし桔梗はそのことを思うと、胸の奥が軋むような感覚を覚えてしまう。

 

桔梗

(思えば私は、たぶん日本の……世界のことなんて考えてなかった)

 

 何も考えてなかったから。だからこそ深く日本を、世界を憂い行動に移した西田啓に感銘を受け、彼の計画に賛同したのだと今になって桔梗は思う。

 考えていたのはいつも、妹の……槇菜のことだけだ。

 槇菜が将来、夢を叶えられる世界。それを作るためには現在の地球とコロニー間に存在する経済格差は無視のできるものではない。ならばこそ、地球は地球。コロニーはコロニーで社会を完全に分断するという“ゴッドマザー・ハンド計画”は槇菜のためにも必要なことと考えていた。

 全ては槇菜がこれから先、苦労なく生きていくために。槇菜が幸せであることこそが、自分自身の幸福。使命。いつしか桔梗は、槇菜のためと言って全てを犠牲にする詭弁ばかり覚えてしまっていた。

 だが、槇菜は違う。槇菜はそんな詭弁に舗装された未来、将来など望んでいない。そのことに気付くのに、桔梗は時間がかかりすぎてしまった。

 

桔梗

(だけど、今更生き方を変えるなんて私には……)

 

 この命の全ては、槇菜のために。むしろ国家や秩序という建前を打ち砕かれた今、この気持ちはより強いものになっている。そう、桔梗は

思う。

 桔梗は無意識のうちに、槇菜の右手に自分の指を絡める。槇菜の手は、温かい。

 

槇菜

「お姉ちゃん?」

 

 きょとん、とした表情で桔梗を見つめる槇菜。その顔も、桔梗には愛おしい。

 

桔梗

「薪菜、私は……」

 

 桔梗が何かを言いかけた、その時だった。アルカディア号のモニタに、剣鉄也の顔が映し出される。鉄也の顔は、心なしか焦りのような色が垣間見えた。

 

鉄也

「こちらグレート。アルカディア号聞こえるか!」

ハーロック

「問題ない。そちらの様子はどうだ?」

 

 ハーロックが訊く。それに応えたのは轟く爆音。それは爆発物の音だ。

 

鉄也

「俺達は嵌められたんだ! マチュ・ピチュにはミケーネの軍団が待ち伏せていやがった!?」

 

 鉄也の怒声が、ブリッジに響き渡った。

 

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

—マチュ・ピチュ—

 

 

竜馬

「こいつは……どうなってやがる!?」

 

 マチュ・ピチュ。標高約2400mの高山地帯に作られた古代都市。そこは今、戦場と化していた。ゲッター1へ群がる翼竜の群れ……メカザウルス・バド。メカザウルス達は憎しみの視線をギラつかせ、ゲッターへ次々とミサイルを撃ち放つ。堅牢な装甲を持ち、卓越した操縦センスを持つゲッターと流竜馬でも、次々と誘爆し続ける無数のミサイルによる波状攻撃を避け続けるのは至難の業だった。

 

隼人

「竜馬、オープンゲットだ!?」

竜馬

「クソッ、オープンゲット!」

 

 瞬間、真紅の機体は3つの戦闘機へと分離。表面積を小さくし、各々の操縦センスに任せてミサイルを回避し続ける。

 

弁慶

「うわっ、おっと!? 南無三!?」

竜馬

「おい弁慶、よそ見してんじゃねえぞ!?」

弁慶

「してるわけないだろうが! だがこのままじゃ、ジリ貧だぜ……!」

 

 3台のゲットマシンを追い詰めるように、翼竜達はそれぞれに分散していく。それは好都合だった。一瞬の隙を突き再びゲッター1へ合体すれば、ゲッタービームの一撃でカタはつく。しかし、

 

隼人

(その隙を……作れればだがな!?)

 

 敵の攻撃は容赦がない。まるでゲッターを憎んでいるかのように、メカザウルス達はゲッターロボを集中的に狙う。

 

鉄也

「竜馬、隼人、弁慶!?」

 

 そんな窮地に陥ったゲッターを助けようと、偉大な勇者グレートマジンガーは剣を握っていた。しかし、グレートの前に君臨しているそれは、容易く鉄也の思い通りにはさせてくれない。

 

地獄大元帥

「ククク……これで終いよ。撃て!」

 

 グレートの眼前にいるのは、巨大な顔。ミケーネの万能要塞ミケロスや、ジオン公国軍のザクレロのような怪物めいた顔を前面に押し出す怪物だった。その威圧感は、さしもの鉄也ですら身震いさせる。それだけの執念、憎悪。そして執着がその顔には込められている。

 その名も、無敵要塞デモニカ。ミケーネ帝国の新たなる前線指揮官・地獄大元帥の旗艦として作られた新型移動要塞だった。

 デモニカの口のような部分が開き、放たれる巨大なミサイル。ミサイルそのものがグレートに匹敵する質量。猛攻に晒される鉄也は、それを回避できない。グレートの胴体に命中すると、巨大なミサイルは爆音と共に爆ぜる。鉄也の鼓膜を突き破る轟音。そして爆発と共に飛び散る熱と破片が、グレートをそして鉄也を襲った。

 

鉄也

「ぐぉぉぉっ!?」

 

 衝撃と共に、忽ち吹き飛ばされるグレートマジンガー。プレーンコンドルの堅牢なキャノピーにヒビが入り、突き破られたガラス片は鉄也の顔を襲う。咄嗟に顔を守るように屈んだおかげで、ガラスが大事な鉄也の肌を襲うことはなかった。しかし、強化スーツもヘルメットもメチャクチャだ。ガラスを受けてくれたヘルメットに守られていなければ、鉄也は即死だっただろう。超合金ニューZのグレートマジンガーを以てしても苦戦必至のその威力に、鉄也は戦慄する。

鉄也は思い出す。敵……ミケーネ帝国が、どれほど強力な相手だったかを。

 

地獄大元帥

「まだだ、デモニカのこの巨体に踏み潰されるがいいマジンガー!」

 

 汗と血を拭う暇もない。すぐさま無敵要塞デモニカの巨体は、鉄也の眼前に迫っていた。

 

鉄也

「クッ、こんなものをモロに受けたら、グレートでもバラバラだ!」

 

 受けるわけにはいかない。咄嗟にスクランブルダッシュを展開し、マジンガーは翔ぶ。しかし、それを見越したかのようにデモニカからは無数の火砲が開き、グレート目掛けて放たれた。

 

鉄也

「なんだと!?」

地獄大元帥

「グハハハ。兜甲児の前に、まずは貴様を血祭りに上げてやる!」

 

 超合金ニューZでできたグレートマジンガーの装甲をものともしない強力な攻撃。その衝撃を受けながら鉄也は思う。

 元々これは、Mr.ゾーンを追って彼の目的を明らかにし、場合によっては阻止するという任務のはずだった。そのために、特に推力の高いグレートマジンガーとゲッターロボが先行したのだ。

 だが、現実はどうだ?

 フェーダー・ゾーンの影などどこにもない。あるのはミケーネの無敵要塞と戦闘獣。そしてメカザウルスによる待ち伏せだった。

 

鉄也

「まさか……あの男は……!?」

 

 ゾーンの情報を齎した男……豪和一清の爬虫類のような視線を思い出す。この事態を一清は知っていて、その上で伏せていたとしたら。

 

鉄也

「俺達は……嵌められたのか!?」

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

—一時間前/マチュ・ピチュ—

 

 

 

 神秘の地マチュ・ピチュ。グレートマジンガーとゲッターロボが到着するより一時間前。そこには夥しい数の戦闘獣がひしめいていた。そしてその奥に鎮座するのはフェーダー・ゾーンの光子戦闘艦と、その隣にはゾーンの艦よりさらに大きく、全てを威圧する無敵要塞デモニカ。地獄大元帥が旗艦とする、文字通り無敵の強さを誇る移動要塞だった。

 

地獄大元帥

「…………とすれば、現在に東京湾に停泊している軍艦には原子爆弾が残っているというのだな?」

 

 デモニカの艦長席に座る地獄大元帥は、正確にはその頭部に繋がれる科学者ドクターヘルは通信モニタにうつるサングラスの男……ゾーンの言葉を聞き、興味深そうに聞き返す。

 

Mr.ゾーン

「はい。パブッシュ艦隊のクーデター計画はオーラバトラーの内乱に巻き込まれる形で頓挫。現在、日本政府の管理下にパブッシュ艦は置かれています。おそらく、エメリス・マキャベルは戦争犯罪人として裁かれることになるでしょう。そして、マキャベルのクーデター計画を隠れ蓑として暗躍する組織……“シンボル”についてもいずれ明るみに出る」

地獄大元帥

「フム……」

 

 Mr.ゾーンを名乗るこの男がミケーネ帝国へコンタクトを取ってきたのは、つい先日のことだった。ゾーンはマジンガーの同胞……ゲッターロボやキャプテンハーロック達のいた並行世界からの使者であり、彼らに個人的な憎しみを抱いているという。そして、その恨みを晴らすべくマキャベルと木星軍に協力している。

 

ヤヌス侯爵

「地獄大元帥、如何致しましょう」

地獄大元帥

「この男の言うことが本当ならば、核兵器は利用できる。だが……」

 

 地獄大元帥は、ゾーンを睨み沈黙した。薄いサングラスに隠れてよく見えないが、男の顔には野心の炎が見て取れる。恐らく、彼の本質は恨みや憎しみに燃える執念よりもそちらなのだろう。そう、地獄大元帥は感じ取っていた。野心故の行動力。それはまさしく、かのバードス島で機械獣を発見し、世界征服の野望に燃えたかつての自分自身と同じだからだ。

 だが、Mr.ゾーンは若い。青二才と呼んでも差し支えない青年の野心に満ちた瞳は、それを隠すことができないでいる。そういう意味で、彼はわかりやすい男だった。

 

地獄大元帥

「いいだろう。フェーダー・ゾーン。木星軍の新総統とやらに伝えるがいい。(ゼウス)の雷計画とやら、我々ミケーネ帝国も手伝おう。とな」

 

 そう告げると、地獄大元帥は通信を切る。それを合図として、Mr.ゾーンの艦は発進する。彼には彼の、次の仕事があった。

 そうして残るのは無敵要塞デモニカ率いる、ミケーネ帝国の一団。

 

ヤヌス侯爵

「よろしいのですか?」

 

 ヤヌス侯爵が怪訝な顔をするのも、理解できる話だった。Mr.ゾーンの語る(ゼウス)の雷計画は、地球という星そのものを破壊し、宇宙全体に影響を与えかねない危険な計画だ。それが理解できない地獄大元帥ではない。

 

地獄大元帥

「フン、問題ない。奴らの言う“巨神”とやらの力がどれほどのものであろうと……いや、闇の帝王が拾ってきたあの男を利用し、“巨神”を手に入れるというのも面白い」

ヤヌス侯爵

「あの男……ザビーネはまだ使えるのですか?」

地獄大元帥

「フフフ……」

 

 ザビーネ・シャル。地獄大元帥の見立てではあの哀れな男は既に、限界だった。そうでありながらDG細胞により無限に再生し動き続ける人形。いずれ遠くないうちに、彼はゾンビ兵へと成り果ててしまうだろう。

 だが、地獄大元帥……いや、Dr.ヘルは知っていた。DG細胞……その大元であるアルティメット細胞が本来、地球環境の絶対なる守護者として生み出されたものであると。

 

地獄大元帥

「おそらく、“巨神”とやらは純粋な生命力をエネルギーに変えるものだろう。そうでなければ理論上のエネルギーに説明がつかぬ。それも人間一人レベルの生命力ではないぞ。全ての命が持つ、“生きたい”と願う意志の力……」

 

 科学者としての頭脳は、Mr.ゾーンから得た僅かなデータから多くを推論し、仮説していく。その仮説が正しければ、“巨神”を完全に操ることなどできはしない。そう地獄大元帥は考えていた。だからこそ、利用できるかもしれないとも。

 だが、今大事なのは“巨神”の話ではない。Mr.ゾーンから齎された情報の中でも、最も優先すべき情報……VBが、マジンガーがここに現れるというものだ。

 

地獄大元帥

「よし、戦闘獣とメカザウルスの出撃準備を済ませろ。奴らがこの地へ踏み込んだ瞬間に、総攻撃で畳み掛ける!」

 

 地獄大元帥の号令と共に、無敵要塞から次々と機械の獣が、機械の竜が雄叫びを上げた。

 

 そして今……彼らの思惑通り。偉大な勇者グレートマジンガーは、そしてゲッターロボは最大の危機に立たされていた。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

竜馬

「クソッ、こいつら……寄ってたかってゲッターを狙いやがって!」

 

 翼竜型メカザウルスの群体によるゲッターへの、ゲットマシンへの波状攻撃は今なお続いていた。竜馬、隼人、弁慶の3人はそれぞれにミサイル弾を回避し飛び続けているが、マチュ・ピチュまでの飛行で燃料も大幅に消耗している。ゲッター炉心により供給され続けるとはいえ、長時間飛び続ければその分パワーダウンもする。本来ならばそれを考慮してもハイパワーを誇る二大スーパーロボット……即ちゲッターと、グレートマジンガーが切り込み役にやる事でその負担を減らす手筈だったが、アルカディア号よりも先行したことがここにきて仇となっていた。

 

弁慶

「なんとか合体のタイミングを見つけねえと、このままじゃ嬲り殺しだぞ!?」

竜馬

「わかってらぁっ! こうなったら隼人、弁慶。全速力で突っ切るぞ!」

 

 燃料は残り少ない。だが、ゲッターロボに合体すればまだチャンスはある。ギリギリの燃料を燃やし、竜馬のイーグル号が加速する。

 

弁慶

「お、おい竜馬!」

隼人

「弁慶、こうなったら竜馬の無茶に乗るしかねえ!」

弁慶

「ええい、南無三!」

 

 奥歯を噛み締め、ジャガー号が走る。合掌と共に、ベアー号が駆ける。最大戦速。ゲットマシンのスピードは、ミサイルの雨を掻い潜りながらも上がっていく。そして、

 

竜馬

「見えた! チェェェェンジゲッタァァァァッッワンッ!」

 

 空を震わせる叫びと共に、今再び3つの心は一つとなる。ゲッター1。合体の瞬間、全身から緑色の輝きを放ちメカザウルス達を威圧する。その光に、メカザウルスは恐怖にも似た叫びを上げた。

 

隼人

「こいつら……?」

竜馬

「ヘッ、ゲッターにビビってんのかよ、おらぁっ!」

 

 ビビらせついでとばかりに、腹部から緑色の熱光線……ゲッタービームを照射するゲッター1。その熱を受けた翼竜達は悲鳴のような声を上げ、みるみるうちに蒸発していく。

 

竜馬

「おい隼人、アルカディア号が到着するまであと何分だ?」

隼人

「およそ3分といったところだ。それまでゲッターのエネルギー残量が持つかどうか……」

 

 今のゲッタービームにも、相当量のゲッターエネルギーを使用した。ゲッタービームは撃ててあと1発が限度。冷静に分析しながら隼人は残るメカザウルスを睨み付ける。

 

竜馬

「だったら話は早え。残り3分、暴れるだけ暴れてやるぜ!」

 

 それでも竜馬の判断は、迅速だった。トマホークを展開すると、ゲッターはそれで次々と、メカザウルスの首を掻っ捌いていく。青い血とオイルの混ざった液体が噴射するメカザウルス。血に塗れながら、ゲッターは荒れ狂う。

 

弁慶

「竜馬、右だ!」

竜馬

「わぁってらぁっ!」

 

 右から飛来するミサイル。それをゲッターは背中のウィングを展開し風を切り、そして右手のゲッターレザーでミサイルごと真っ二つにし直進する。そしてミサイルを放ったメカザウルスをそのままゲッターレザーで切り刻み、そして翼を削ぎ落とす。

 竜馬の、ゲッターの戦いはあまりにも、荒れ狂っている。そのコクピットの中、隼人は一人冷徹に分析を続けていた。

 

隼人

(やはり、そうだ。 新型炉心に変更して以来、ゲッターは竜馬の叫びに呼応して出力を飛躍的に上昇させている……!)

 

 元々、ゲッターロボは3人のパイロットが心を合わせなければ真の性能は解放されないはずだった。しかし、今のゲッターは竜馬一人だけでも、今までのそれとは比べ物にならない力を発揮している。

 

隼人

(竜馬が、嵬だからか? だとしたら、ユウシロウとミハル。もし奴らがゲッターに乗れば……)

 

 余計な思考は、ゲッターを鈍らせる。それでも尚鬼気迫る強さを見せつける竜馬とゲッター1の姿は、隼人を戦慄させる。だが、今は余計なことを考える場合ではない。

 目の前の爬虫類は隼人の、いやゲッターの命を奪おうと死に物狂いで襲ってくるのだ。ならば、自分達も死に物狂いになるしかない。

 

隼人

「ぶちかませ、竜馬!」

 

 覚悟を決めて、隼人は叫ぶ。

 

竜馬

「おう! トマホゥゥゥゥク・ブーメラン!」

 

 放り投げられたトマホークが回転し、翼竜を叩き切る。血とオイルの混じった液体を吹き出しながら、メカザウルスは倒れていく。しかし、多勢に無勢。いつまでも優勢が続くわけはない。

 

地獄大元帥

「よし、対空部隊の増援を出せ!」

 

 地獄大元帥の号令でデモニカより発進する翼竜型メカザウルス達が更ゲッターへ向かい、ミサイルによる波状攻撃。激闘の中で消耗するゲッターに、それを捌き切る余力はなかった。

 

竜馬

「うぉっ!?」

弁慶

「おい、竜馬!?」

 

 サーカスのように飛び回るミサイルの軌道。さらに自爆覚悟で突っ込んでくる手負いのメカザウルス達。それらを前についに、ゲッターは被弾する。その衝撃に揺さぶられ、急降下するゲッター。

 

鉄也

「ゲッター!?」

 

 助けに行こうと反転するグレートをしかし、無敵要塞デモニカは見逃さない。

 

地獄大元帥

「逃さんぞマジンガー。デモニカ突撃!」

 

 デモニカの巨大な質量が、グレートマジンガーを襲う。衝撃に突き飛ばされ、グレートも再び体勢を崩してしまう。

 

鉄也

「クッ……。お前が、ミケーネの新たな指揮官だな。正体を現せ!」

 

 怒鳴り、ブレストバーンを発射する鉄也。ブレストバーンの高熱はジリジリとデモニカを焼いていくがしかし、今までの戦闘獣とデモニカでは装甲の厚さが違う。焼かれながらもデモニカは、まるで無傷かのように超然としていた。

 

地獄大元帥

「グフフ……。よかろう、この顔を見るがいい!」

 

 そう言って、地獄大元帥はデモニカの通信モニタをグレートの周波数と繋いだ。ミノフスキー粒子の薄い今、その顔はくっきりと見える。

 

鉄也

「お、お前は……!?」

 

 直にその顔を見たことはなかった。しかし、写真や映像で何度も目にしている。そいつは戦闘獣のように頭部と別の位置に、本体とも言うべき顔があった。それは頭のさらに上部に存在し、その部分はまるで水槽のようになっている。

 しかし、泳いでいるのは魚ではない。コードのようなものに繋がれた、人間。まるで死人のように青白い肌をした、老人。

 

鉄也

「ドクターヘル……!?」

 

 ドクターヘル。かつて、兜甲児とマジンガーZによって倒された悪の科学者。

 

地獄大元帥

「フフフ……はじめましてだな。剣鉄也君。ワシの名は地獄大元帥。マジンガーへの憎しみにより蘇った。地獄への案内人よ!」

 

 その目は、憎しみと悪意に満ちている。まるで地獄の底から鉄也を、マジンガーを沼底へ引き込もうとしている地縛霊のように。鉄也は戦慄する。それと同時に、一つの可能性に思い当たる。

 

鉄也

「貴様もあのライラとかいう小娘の力で蘇ったのか? あのザビーネやミケロ、ショット・ウェポンのように……」

 

 死者を蘇らせる力。それを持つ者がいる。ならば今目の前ににいるドクターヘルも、それと同じなのではないか。そう、鉄也は考えた。しかし、地獄大元帥……もといドクターヘルは戦闘獣の頭を大仰に振ることでそれを否定する。

 

地獄大元帥

「あの小娘の力は確かに強力だ。だが、ワシは違う。ワシは闇の帝王によりこの戦闘獣の身体と、お前達マジンガーへの憎しみを与えられて蘇ったのだ!」

鉄也

「地球がミケーネの、闇の帝王のものになってもいいというのか!? お前は自分自身で世界を征服したかったんじゃないのか!」

地獄大元帥

「黙れ! その野望を潰したのは貴様らマジンガーに他ならん。ワシの世界征服は剣鉄也、そして兜甲児への復讐を果たしてからでなければ始まらんのよ!」

 

 地獄大元帥の叫びと同時、デモニカの口が開く。再びのミサイル攻撃。本来なら躱せる攻撃。しかし地獄より蘇ったドクターヘルという存在が、鉄也の精神を揺さぶる。

 その動揺は、一瞬の隙となった。

 

鉄也

「まずい!?」

 

 咄嗟にレバーを引き、グレートを加速させる。だが、間に合わない。それを鉄也は戦士の勘で理解すると、グレートの両腕で防御の姿勢を取る。

 もう一度あんなものを喰らえば、いかにグレートとて。万事休す。そんな言葉が浮かんだ

ではいたが、何もしないよりは万に一つの可能性に賭けるしかない。鉄也はその一瞬の間にそう判断し、グレートの耐久力を信じることを選んだのだ。

 

地獄大元帥

「いかにグレートマジンガーと言えど、デモニカのミサイルを二度も耐えられるものか!」

鉄也

「どうかな、やってみなくちゃわからないぜ!」

 

 そうは言うものの、デモニカのミサイルがメガトン級の破壊力を誇っていることは一撃目で実証済み。たとえグレートが無事でも、鉄也が無事で済む保証はどこにもない。

 それでも、覚悟を決めるしかなかった。

 

鉄也

「命を燃やす時が来た。どこからでも来やがれ!」

 

 例え鉄也が死んだとしても、グレートマジンガーさえ無事ならば問題ない。きっと第二第三の剣鉄也が、今ネオジャパンコロニーにいる兜甲児と共にこの戦いを引き継いでくれる。

 ならばこの命、ここで燃え尽きても構うまい。鉄也は操縦桿を握り、ミサイルを耐えるべく歯を食いしばる。

 地獄大元帥は確信している。このミサイルをグレートは耐えられないと。そこに隙がある。例え腕を捥がれ脚を失おうとも、グレートの全身には無数の武器がある。

 そのありったけをぶちかます隙。

 それはこのミサイルを耐えた先にしか存在しないからだ。

 だが、そうはならなかった。

 

鉄也

「何だ、レーダーに熱源反応……!?」

 

 急速で接近する機影。あり得ないスピードだった。まるで稲妻を描くようにマチュ・ピチュへ接近するそれを、グレートのレーダーは観測する。

 いやグレートだけではない。デモニカ艦内でもその不穏な影は捕捉されている。

 

ヤヌス侯爵

「地獄大元帥、これは!?」

地獄大元帥

「あり得ん。この速度でこの軌道を描けば、全身がバラバラになるはずだ!?」

 

 天才科学者の頭脳を持つ地獄大元帥ですら驚愕する速度。物理法則を無視した軌道。それは瞬く間にグレートへ……否、グレートへと迫るミサイルの真上に飛来する。

 

拓馬

「うぉぉぉぉぉっ、地獄へのエレベーターだぁぁぁぁっ!?」

 

 天の鬼。まるで悪鬼のような凶悪な形相をし、

背中に生える棒状の9枚羽根を広げる赤き鬼神。巨大なマサカリを構えるその姿は、そして赤い体躯の所々に緑色に輝く光は。

 

弁慶

「お、おいあれは!?」

隼人

「俺の知らない、ゲッターだと!?」

 

 ゲッターロボ。竜馬、隼人、弁慶が今まさに乗りメカザウルスと熾烈な戦いを繰り広げる赤鬼。機体の形状こそ大きく違うがそこから発せられるイメージ、その機体が纒うゲッター線の輝き。

 

竜馬

「あのゲッターは……!?」

 

 ドクン。と竜馬の心臓が鳴った。それは、彼の知らない未知のゲッター……いや、その中に宿る心に感応したのかもしれない。

 

「ぶちかませ、拓馬!」

拓馬

「うぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 未知のゲッターロボは右手に持つマサカリ……ゲッタートマホークを振りかぶり、ミサイルを叩き切る。

 

地獄大元帥

「何だと!?」

鉄也

「あの質量のミサイルを、叩き切った!?」

 

 全てのマシンが不可能なわけではない。事実、ダンクーガは大型ダインスレイヴ弾頭を切り裂くことに成功しているし、遡れば一年戦争でアムロ・レイはガンダムで水爆ミサイルを斬り捨てている。

 だが、デモニカのミサイルを瞬時に斬り裂くそのスピードは鉄也の常識には存在しない。

 

拓馬

「へっ、どうやらここが地獄のど真ん中らしいな!」

カムイ

「ああ、ゲッター線の反応を辿り来てみれば、ドンピシャだったらしい」

「俺の予感も、どんぴしゃだ」

 

 未知のゲッターのコクピット……それぞれのゲットマシンの中。それぞれのパイロットが声を上げる。

 

カムイ

「これは……メカザウルスだと?」

拓馬

「カムイ……」

 

 その内の一人。赤い瞳に金髪の少年は周囲を見回し、苦々しく呟く。カムイと呼ばれたその少年はゲッターロボからこちらへ視線を変える翼竜達を見て、目を細める。

 

カムイ

「いや、いい。例え同胞が相手でも俺は、俺の使命を……贖罪を貫く」

拓馬

「ああ。そうだな」

 

 未知のゲッター。その存在に恐怖するかのようにメカザウルス達は一斉に、その標的を未知のゲッターへと変えた。翼を広げ、ミサイルの雨をたたみかけるように放つメカザウルス。

 

鉄也

「あ、危ない!?」

 

 だが次の瞬間、未知のゲッターは背中の棒状のウィングを広げる。ミサイル攻撃を避けようともせずに。ウィングを広げたその姿はどこか、絵に描かれた鬼……鉄也も見たことのある、雨雲に乗り太鼓で雷を起こす鬼のように見えた。

 そして、棒の一本一本から放たれる閃光。それは鉄也には馴染みのあるエネルギー。

 

鉄也

「あの背中の全てが、サンダーブレークなのか!?」

 

 サンダーブレーク。グレートマジンガー最大の必殺技であるそれと同等か、それ以上のエネルギーを一瞬で溜め込み、放出する。竜馬達のゲッターにはないそれこそが。

 

拓馬

「サンダァァァァッッボンバァァァァッッ!」

 

 サンダーボンバー。竜馬達のゲッターには存在しない超高熱のプラズマ攻撃が、ミサイル諸共次々とメカザウルス達を焼き焦がしていく。悪鬼が如きその形相と相まって、未知のゲッターはまさしく伝説に残る鬼そのものとも言うべき存在感を放っていた。

 

地獄大元帥

「バ、バカな。一撃でメカザウルスの過半数を壊滅させただと!?」

 

 メカザウルスは戦闘獣に比べ、一体一体が強力なわけではない。しかし、群れを成しての戦闘力には目を見張るものがある。それをたった1機で壊滅に追い込むその力に、地獄大元帥は驚愕する。

 

隼人

「お前は……何者だ。何だ、そのゲッターは!?」

 

 隼人が叫ぶ。未知のゲッターは二振りのトマホークをひとつに合体させ、その視線はデモニカを見下ろしている。

 

拓馬

「こいつはゲッターアーク。俺の名は、流拓馬!」

弁慶

「ながれ、だと!?」

隼人

「まさか、お前は……!?」

竜馬

「!?」

 

 未知なるゲッターロボ。ゲッターアークは巨大なトマホークを振り上げ、デモニカへと駆けていく。

 

拓馬

「親父の名は、流竜馬だァァァァァァッ!!」

 

 

 

……………………

第27話

「運命の申し子!

 出撃ゲッターロボアーク!」

……………………

 

 

 

 

竜馬

「俺の……息子?」

 

 あり得ない。竜馬の額に一瞬、冷や汗が浮かぶ。

 

弁慶

「竜馬、お前……ちゃっかりやることやってたのか!?」

竜馬

「なわけねえだろ!? てめぇじゃあるめえ!」

 

 大体、自分の子供だとしたら余計にあり得ない。今の竜馬は二十歳。対してゲッターアークに乗る少年……拓馬はモニタ越しだしヘルメットもしているが、精々が十代半ばに見える。

 子供がここまで成長しているとするならば、竜馬の子供が出来たのは、多少遅く見積もっても竜馬が5、6歳の頃と言うことになる。

 

隼人

「どうだかな。俺達が黒平安に迷い込んだ時、3人の時間は全て微妙にずれていた。ゲッターの関わる時間軸では、何が起こっていてもおかしくねえ」

竜馬

「隼人てめえまで!?」

 

 何とかして誤解を解かなければ。そんな焦りが竜馬の中で生まれていた。このバカ二人だけならいい。だがVBの面々……ユウシロウやドモン、槇菜。それに三日月やオルガ、ハーロックらにまで誤解されたらと思うと焦りで操縦感を握る手が震えてしまう。

 しかし、今はそれどころではない。ゲッター1はアークの側まで移動すると、トマホークを構え背中合わせの陣を作る。

 

竜馬

「てめえ、一体何の目的だ!?」

拓馬

「この声……」

 

 親父。拓馬が以前、ゲッターエンペラーの中で聞いたそれと同じ声がする。細部こそ違うが、ゲッターの形状も親父が乗っていたというゲッター1に近い。拓馬は確信する。目の前にいるゲッターのパイロットが、流竜馬であると。

 

カムイ

「…………俺達は、早乙女博士からの伝言を受けてこの地にきた」

隼人

「何ッ!?」

「敵が来る。地球を……全ての生命を無へと還す強大な敵が」

弁慶

「まさか……」

 

 巨神。木星で目覚めを待つというその存在を弁慶は感じ、戦慄する。

 

拓馬

「だが、そんなものは関係ねえ。俺達は、俺達自身が運命を切り拓くためゲッターに乗っている」

竜馬

「……へっ。なるほどな」

 

 拓馬達が、ゲッターアークが何のためにここに現れたのか。その理由を竜馬は直感していた。

 

竜馬

「いいぜ。お前らがお前ら自身の運命と戦うっていうなら、信じてやるよ。ゲッターアーク!」

拓馬

「……恩に切るぜ、親父!」

 

 次の瞬間、アークが加速した。

 

「どうやらあのデカブツが、メカザウルスどもの要塞らしいな!」

拓馬

「事情はわからんが、今ゲッターを破壊させるわけにはいかねえ!」

 

 双刃のゲッタートマホークを振りかぶり、アークが吼える。自分よりも遥かに巨大な無敵要塞デモニカに向けて。

 

地獄大元帥

「ええい何をしておる! 対空砲火を絶やすな!」

 

 突然の乱入者を前にし、そして驚異のパワーを前にしても地獄大元帥は怯まなかった。むしろ怯む部下を叱咤し、自ら指揮を執る。火砲をアークへ向けて放ちまくりながら、迫るアークから離れるように距離を取っていく。

 

ヤヌス侯爵

「地獄大元帥?」

地獄大元帥

「機を見て撤退する。今の戦力であのゲッターアークまで相手にはできん!」

 

 無敵要塞デモニカの戦力は、まだ十分に残っている。しかしここでゲッターアークを相手にすれば、アルカディア号との対決に不安が残る。

 何より、アルカディア号の到着までにグレートマジンガーとゲッターロボを血祭りに上げ、奴らの戦意を削ぐのが当初の作戦だった。その作戦はアークの乱入により失敗に終わったと言っていい。

 ならば、Mr.ゾーンから齎された核兵器の情報や木星軍の「(ゼウス)の雷」計画。それらを利用し新たな作戦を立てたるべき。そのためには、今ここでやられるわけにはいかなかった。

 

鉄也

「逃げる気か!?」

拓馬

「逃すかァッ!」

 

 ゲッターアークが吼える。デモニカの火砲を避けながら、一気に距離を詰めていく。

 まるでUFOのような軌道を描き、アークの戦斧がデモニカの間近へ迫った。次の瞬間にはその一振りが降ろされる。誰もがそれを確信した。その時だった。

 血のように赫いオーラを纏う青いマシン。この世の悪意を形にしたかのようなそれがアークの前に立ちはだかる。髑髏のような眼窩を持ち、全てを憎む邪霊。

 

紫蘭

「その男をやらせはしない」

 

 邪霊機ニアグルース。その魂魄を穿つ漆黒の拳が、トマホークを受け止めていた。

 

カムイ

「何!?」

拓馬

「こいつは……!」

「気をつけろ拓馬。このマシンはヤバい!」

 

 三者三葉の言葉を発し、邪霊機と対峙するゲッターアーク。その後方で、デモニカはマチュ・ピチュを離脱せんと戦闘空域を離れていく。

 

地獄大元帥

「貴様、なぜワシを助ける?」

 

 地獄大元帥からしたら、自分が助けられる理由がない。だが、この場において渡りに船なのも事実。

 

紫蘭

「……お前には役目がある。お前の憎しみは糧になる」

地獄大元帥

「…………」

 

 紫蘭が、邪霊機が、邪神の輩が何を考えているのかなど、地獄大元帥には知る由もなかった。だが、紫蘭のその言葉には言外の意味を感じ取る。即ち、利用価値があるから助けたと。

 

地獄大元帥

「……それもよかろう。だが覚えてけ邪神の輩よ。ワシが貴様達の思い通りに動くとは思わぬことだ」

紫蘭

「俺には興味のない話だ」

 

 吐き捨てた捨て台詞も、紫蘭には効果がない。それを確認し地獄大元帥は、万能要塞デモニカはマチュ・ピチュから遠ざかっていく。

 

鉄也

「待て、地獄大元帥!」

竜馬

「てめえ、逃げる気か!」

 

 グレートとゲッター1がデモニカを追おうと加速する。しかし次の瞬間、ニアグルースから放たれる瞬足の蹴り。脚圧が衝撃波となり二機を足止めする。

 

鉄也

「何だと!?」

隼人

「データにない攻撃か!」

 

 ゲッターアークを中心に左右にグレートマジンガーとゲッター1。3機と対峙しながらニアグルースは一切隙を見せない。それは今までの、もう一つの邪霊機を駆る少女・ライラの人形だった頃の紫蘭とは別次元の存在感を……言うなればプレッシャーを醸し出していた。

 

竜馬

「どきやがれ! さもなきゃ地獄へ送ってちゃるぜ!」

 

 ゲッターの肘部に内蔵される刃、ゲッターレザーを構え竜馬が怒鳴る。

 

紫蘭

「ゲッターロボ……流竜馬。無限地獄を彷徨うのは、お前の方だ」

竜馬

「!?」

 

 無限地獄。かつて安倍晴明に吐かれた呪いの言葉。まるでゲッターに選ばれた者の運命とでも言うかのように、その言葉が竜馬の耳に残る。

 

竜馬

「黙りやがれ! 地獄だろうが何処だろうが関係ねえ!」

 

 ゲッターレザーを展開し殴りかかるゲッター1。それをニアグルースも、肘の刃で受け止め、すかさずの回し蹴り。ゲッターはそれをオープンゲットで回避すると、瞬時にゲッター2へ変形。ドリルストームを繰り出し、竜巻がニアグルースへと迫った。それと同時、ニアグルースの腹部が穴を穿つように展開する。その中心点……血に濡れたその機体色よりさらに赤黒い部分にエネルギーが収束していく。そして、照射。

 

隼人

「でぇゃっ!」

紫蘭

「吹き荒べ……瞬黒!」

 

 瞬黒。そう呼ばれた黒いエネルギー砲がドリルストームの嵐とぶつかり、せめぎ合う。それはやはり、今までのニアグルースには存在しなかった機能だ。

 

隼人

「チッ!」

紫蘭

「暗黒の海に呑まれて、溺れろ!」

 

 ニアグルースの放つ漆黒の波動が、ドリルの嵐を突き破りゲッターへと迫る。しかし、その漆黒はゲッターへは届かない。飛来する銀の弾丸が、闇を祓ったのだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 

マーガレット

「紫蘭……!?」

 

 銀の弾丸が飛んできた方角から、光焔の翼を広げて迫るものがある。エクス・マキナ。旧神と呼ばれ、邪なる者を灼く機神。その後方には巨大な髑髏の旗を掲げる海賊艦アルカディア号。

 

ハーロック

「竜馬、隼人、弁慶、鉄也、無事か!」

鉄也

「アルカディア号! みんなが来てくれたか」

竜馬

「来るのが遅せぇんだよ!」

 

 エクス・マキナに続き、続々と出撃するマシン達。アッカナナジンにヴェルビン、ビルバイン、ゴッドマジンガー。ガンダム・バルバトスルプスレクス。アシュクロフト。

 

三日月

「オルガ、あの蝙蝠みたいなのは何?」

オルガ

「俺が知るかよ。見たところ、ゲッターに似ているが……」

 

 ゲッターアークの存在を確認し、バルバトスはテイルブレードを振りながらアークを睨め付ける。まるで、群れの中に入り込んだ部外者を警戒する獣のように。

 

弁慶

「待て待て。三日月、そいつは味方だ」

隼人

「ああ。ミケーネの攻撃で窮地になっていたところを、俺達はゲッターアークに助けられた」

三日月

「そっか」

 

 隼人、弁慶から説明され、バルバトスは警戒する相手を変える。“厄祭戦”の墓場の世界でエクス・マキナと戦っていたマシン。ニアグルースへと。

 

チャム

「ショウ、あの敵……!」

ショウ

「ああ。以前に戦ったよりも深い、嫌なオーラ力を纏っている」

エイサップ

「でも、あの赤い女の子の方とは違う。憎しみと絶望のオーラ力じゃありませんよこれ」

 

 今まで対峙したニアグルースは、確かに悪意のオーラを纏っていた。しかし、それは邪霊機というマシンが放つオーラ。今回のそれは違う。

 

 

紫蘭

「マーガレットか……」

 

 紫蘭。そうマーガレットが呼ぶ男の放つ存在感。そのオーラ力が明確な悪意と害意を伴って、こちらを睥睨する。ニアグルースを駆る紫蘭は構えを解かずしかし、エクス・マキナとの距離を開いた。まるでマーガレットから逃げるように。

 

槇菜

「……マーガレットさん、あのマシン」

マーガレット

「…………」

 

 その動きは、以前に戦ったニアグルースとは違う。確かな意志を持つ者の動きだ。

 

マーガレット

「紫蘭、あなた……自分の意志を取り戻したの?」

紫蘭

「ああ。無論、この身体は生前と全く同じと言うわけではない。今の俺はさしずめ、生きた死体というわけだな」

槇菜

「リビングデッド……」

 

 生ける屍。ライラは、ザビーネやミケロをそう表現していた。今の紫蘭は、それらと同じと言うことだろうかと槇菜は考える。しかし、銃を握るマーガレットには、そんな余裕はない。

 

マーガレット

「だったらなんで、こんなことをするの。私の知ってる紫蘭は……」

 

 紫蘭・カタクリという男はマーガレットにとって、大きな夢を見せてくれる男だった。貧しく沈んでいくアメリカにあって、夢と平和を人々に与えたいと語ってくれた夜をマーガレットは一夜たりとも忘れたことはない。

 そんな紫蘭の心を踏み躙り、悪の尖兵にしたライラを許すことはできない。それが、ただの兵士だったマーガレットを戦士として歩ませてくれる原動力だった。

 それなのに、今の紫蘭は自らの意思で悪魔の手先をやっている。

 

紫蘭

「お前の知っている俺、か……」

 

 紫蘭はどこか、昔を懐かしむように遠い目をした。その一瞬、ニアグルースの構える拳が緩んだように見え、マーガレットは無言で銀の弾丸を撃ち込む。だが、それはニアグルースの掌から放たれる気弾に阻まれ、本体には届かない。

 

紫蘭

「お前に語った言葉。そこに嘘や偽りはない。俺は今でも、俺の夢のために戦っている」

マーガレット

「嘘をつくな! だったら……だったらどうして」

 

 どうして私の隣にいない。

 どうして私に、愛を囁いてくれない。

 どうして、どうして、どうして。そんな思いばかりがマーガレットの思考を圧迫する。圧迫された思考は正常な判断力を失わせ、マーガレットの照準を狂わせる。2発、3発。何度撃ち込んでもエクス・マキナの銀の弾丸は、ニアグルースに届かない。

 

マーガレット

「どうして、どうして!」

 

 どうして当たらない。どうして届かない。どうして紫蘭は私のところに帰ってこない。どうして紫蘭は、あの少女を選ぶ。

 

槇菜

「マーガレットさん、落ち着いて!」

マーガレット

「ッ!?」

 

 槇菜の叫びに、正気に返る。それと同時に、猛烈な羞恥心がマーガレットを襲った。

 

槇菜

「あの人のことを、私は知りません。だけど、マーガレットさんの大切な人なら……」

 

 戦いたくはない。できることなら説得したいという気持ちが槇菜にはあった。同じコクピットに乗り、命を預け合うマーガレットにはそれが理解できる。だが、しかし。

 

マーガレット

「……無理よ。紫蘭は本気で私と袂を分かった。だから、せめて」

 

 せめて、私の手で殺す。それだけが、マーガレットが恋人としてしてやれること。

 

槇菜

「そんなの……」

 

 悲しすぎる。そう言おうとして槇菜は口を噤む。だが、それでも。

 

槇菜

「……わかりました。マーガレットさんがそれを望むなら、私も力を貸します」

 

 目の前にある邪霊機を滅することにも、その核として活動する紫蘭を屠ることにも躊躇うつもりはない。槇菜は、エクス・マキナは盾を作り出しニアグルースを見据える。

 しかし、対するニアグルースの紫蘭は、不敵な笑みを浮かべていた。

 

紫蘭

「残念だが……ここでお前達は死ぬことになる。そして、それは俺の手による死ではない」

 

 そう、紫蘭が呟いたその瞬間。時空が震え、空が揺れる。

 

ラ・ミーメ

「時空振動を感知。これは……!」

ハーロック

「リーンの翼が共振した時と同じ、いや……それ以上の振動だと?」

 

 それと同時、天から後光が射す。その光を、竜馬達は……あの時、豪和の里にいたメンバーは知っている。

 

槇菜

「これって……」

ヤマト

「来やがったか!?」

 

 後光から舞い降りるそれは、神々しい姿をしていた。黄金に輝く神仏。その神々しさとは裏腹に、敵意に満ちた視線で彼らを睨めるもだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

多聞天

「そうか……旧神は覚醒し、リーンの翼の沓までも揃っていたか」

 

 神。以前そう名乗りゲッター線の、それに選ばれた種族である人類の根絶を謳った四天王の最後の一人である多聞天。だが、以前戦った時とは違う。

 

カムイ

「なんだ、あれは……?」

拓馬

「ウザーラよりもデケぇ……」

 

 天空遺跡とも言うべきマチュ・ピチュの大地に降り立たず、標高2400mの高知から上半身を覗かせる。

 

隼人

「バカな。そんな質量……重力崩壊を起こすはずだ!」

多聞天

「お前達をこの地で完全に屠る。その為に四天王の力を結集したのだ!」

 

 それこそが神の御業であるとでも言いたげに、多聞天は荘厳な眼差しでゲッターを睨む。

 

紫蘭

「神。宇宙の進化を見守る者……人間はそれすらも敵に回したというわけだな。ククク」

マーガレット

「何を言って……!」

紫蘭

「静寂の宇宙に、人間はもはや不要ということだ」

 

 ニアグルースが空を蹴り、飛び上がる。エクス・マキナはハンドガンから放たれる銀の弾丸でそれを追撃するが、破邪の銀は多聞天の放つオーラ……或いは念力、神通力のようなものに阻まれ落ちていく。

 

多聞天

「人間に味方するというならば、旧神とて容赦はできぬ」

槇菜

「っ……!?」

マーガレット

「待て、紫蘭!?」

 

 マーガレットの叫びを無視するように紫蘭は、ニアグルースは空を駆けていく。まるで、彼女の声など聞く耳持たぬかのように。

 

紫蘭

「マーガレット」

 

 だが最後に、紫蘭は小さく囁いた。

 

紫蘭

「お前を愛したのは、紫蘭・カタクリという人間の本心だ」

マーガレット

「な……!?」

 

 その言葉が、マーガレットの照準を鈍らせる。それでも、

 

紫蘭

「だが今は……一人の人間の感情など、塵芥にも等しい」

 

 次に放たれるのは、拒絶の言葉だった。

 そしてニアグルースは、マチュ・ピチュの空から消えてしまう。マーガレットの心を残し。

 

マーガレット

「紫蘭……」

 

 それでも、マーガレットはその銃口を今度は多聞天へ向ける。泣いている暇などどこにもないと、彼女も理解していた。

 

マーガレット

「お前が神だと言うなら、何故紫蘭を助けた!」

多聞天

「この宇宙に静寂と安寧を。その志において我らとかの邪霊は同志と言える。この宇宙から喧騒と暴虐を取り除く。その目的は一致しておる」

 

 そう言って左手を翳す多聞天。その瞬間、エクス・マキナの全身に強烈な重力がのしかかる。明らかにその一点のみに発生する超重力が、セラフィムの翼すらも跳ね除けエクス・マキナを落下させ、大地へ押し付ける。

 

槇菜

「ァッ……ァァッ!?」

マーガレット

「息が……重い……!」

 

 念動力。或いは神通力。そうとしか言いようのない得体の知れない力で、多聞天はエクス・マキナを抑えつけていた。

 

三日月

「マーガレット!」

竜馬

「野郎!」

 

 ゲッター2からゲッター1にチェンジし、竜馬が行く。トマホークブーメランが緑色の輝きを纏い、多聞天へと迫る。しかしトマホークは多聞天へ命中する事なく、その直前で加速を失い落ちていく。

 

隼人

「あれは、念動力によるバリアみたいなものか?」

ハーロック

「あの質量を維持しているのも、バリアによるものかもしれん」

鉄也

「…………」

 

 その一連の光景を見ながら、分析する3人。一方で、トマホークを投げた張本人。流竜馬は神……多聞天へ啖呵を切り、ゲッターはその巨体へ迫っていた。

 

竜馬

「さっきから黙って聞いてりゃ、言いたい放題言いやがって! てめぇら神様はどいつもこいつも、余計なお世話なんだよ!」

 

 注意がゲッターへと向いたその瞬間、一瞬だけ弱まった重力波からエクス・マキナは光焔の翼を広げ飛び立ち離脱。すぐ様シールドを召喚し、再び多聞天へと向き直る。

 

槇菜

「あなたが神様ならどうして、人間を滅ぼそうとするんですか。そんなに、人間は悪いことしたんですか?」

多聞天

「ゲッターの進化は、その起源はここで断たねばならん。ゲッター線に選ばれし種族……人間もまた宇宙の静寂を乱す存在。“発動”の時を回避するためには、人類をその歴史ごと消し去らねばならぬ」

竜馬

「ケッ、もっともらしい御託を並べようとな。こっちだってはいそうですかと殺されるわけにはいかねえんだ!」

 

 ゲッターが、多聞天と対峙する。その体格差……否、質量差は一目瞭然。ゲッターに残ったエネルギーも決して多くはない。そうでありながら、竜馬の闘志は衰えない。むしろ煮えたぎり、それに応えるようにゲッターの力も増していく。

 

カムイ

「…………」

 

 その様子をゲッターアークの中で、カムイは複雑そうに見守っていた。

 

拓馬

「カムイ……」

 

 ゲッターの撲滅。それはかつて、カムイ自身も掲げたこと。そして今でもそれは正しいと認識している。

 

カムイ

「俺達の宇宙では遥かな未来、ゲッターと人間は宇宙を侵略する怪物と化した」

「ああ……」

カムイ

「だが俺は今こうして再びゲッターに乗り、無限の宇宙を渡り歩くお前達の旅に加わっている」

 

 故に、多聞天の……神を名乗る者の理屈は認められるものではない。アークもまたトマホークを握り締め、多聞天の巨躯に挑む。

 

拓馬

「そうだな。俺達は俺達の力で運命を切り開く。誰かの勝手で滅ぼしたり、滅ぼされたりするのはもう真っ平ごめんだ。そうでなきゃ、俺達にはどんな未来だってありはしねえんだ!」

 

 高速の軌道で、多聞天へと迫るアーク。振り上げた一撃はしかし、多聞天の眼光より発される念力により阻まれてしまう。

 

多聞天

「異なる宇宙のゲッター。いや、多元宇宙の放浪者か」

カムイ

「俺達が何者かなど、お前には関係ない。今ここで死ぬお前にはな!」

 

 念動力を受けながらも、馬力で進んでいくアーク。その頭部に光が灯るのを、多聞天は見逃さない。

 

拓馬

「ゲッタァァァッビィィィィム!!」

 

 叫びと共に、ゲッター線の光が神を襲う。念動障壁を突き破り、アークのゲッタービームが多聞天の肩に命中した。

 

多聞天

「これは……!」

拓馬

「アークの力はこんなもんじゃねえぜ。カムイ!」

カムイ

「ああ。オープンゲット!」

 

 瞬間、3つのゲットマシンに分離したアーク。ゲットマシンの状態で多聞天へと突撃し、ゲッタービームがこじ開けた小さな穴に突っ込んでいく。

 

カムイ

「チェンジ! ゲッターキリク!」

 

 現れたのはゲッター2に似た、しかし右腕のドリルとは別に巨大な鋏を持つゲッター。ゲッターキリクは滑空しながらブーストし、その超高速の機動で多聞天の周囲を旋回する。

 

カムイ

「見せてやろう。これが司令直伝の、0.01秒の世界!」

多聞天

「ヌゥ……!」

 

 目にも止まらぬスピードの旋回。その間にキリクはドリルで、鋏で、多聞天の各部を切り刻んでいた。普通の動体視力では何をしているのかすらわからない攻撃。しかしその攻撃は着実に、多聞天へのダメージを蓄積させる。

 

多聞天

「だが、効かぬ! そのような攻撃が神に効くと思ったか!」

 

 多聞天はその巨大な右腕で、ゲッターキリクを振り落とす。質量差は歴然。並のモビルスーツならそれだけでバラバラに落とされるだろうはたき落としにより、ゲッターキリクが落下していく。

 

「カムイ、オープンゲットだ!」

カムイ

「ああ。オープンゲット!」

 

 衝撃をものともせず、タイミングよく分離するゲットマシン。そして次の瞬間、ゲッターは巨大なスパイクタイヤに変形していた。

 

「チェンジ、ゲッターカーン!」

 

 ゲッターカーン。ゲッター3に似た重量級。しかしスパイクタイヤ形態への2段変形機能により、ゲッター3にはない突進力を実現した機体。そのスパイク形態による突撃・スパイククラッシャーが多聞天の腹へとぶち込まれる。

 

「おぅりゃぁっ!」

多聞天

「こやつら……!」

 

 怒髪天を突く。多聞天は怒りの形相と共に念力を発し、ゲッターカーンを弾き飛ばす。

 

「うぉっ!」

 

 今の多聞天は、神の力により質量を無尽蔵に増加させた最終形態。この惑星で戦える限界のサイズにまで自らの質量を変化させたことにより、通常の人型兵器の攻撃など塵芥にも等しい。故にゲッタービームも、ドリルアタックも、スパイククラッシャーも多聞天に致命傷を与える一撃には至る事はなかった。

 しかし、もし以前と同じ姿で戦っていたら。自分も広目天や増長天、持国天と同じ末路を辿っていただろう。そう確信するのに十分な力をアークは持っている。

 

多聞天

大日如来(アーク)千手観音音菩薩(キリク)不動明王(カーン)などと……神仏の名を使うか。ゲッターが!」

カムイ

「名付けたのは俺たちじゃない。文句は神司令に言うんだな」

 

 減らず口を叩くカムイ。そして次の瞬間だった。

 

多聞天

「何……?」

 

 猛スピードで神へと突っ込む、白銀の翼。それが多聞天を守るバリアへとぶち当たる。

 

多聞天

「これは、魔神の翼か!」

鉄也

「そうだ、名付けてグレートブースター。どんなものでも貫き砕く、勇者の翼をお見舞いしてやるぜ!」

 

 偉大な勇者、グレートマジンガー。グレートの放つ必殺兵器が、神の護りへと飛び込みそして、貫いたのだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

鉄也

「アークのゲッタービームが、敵の懐に穴を開けたか!」

ハーロック

「どうやら一定以上の出力でバリアを破れば、敵の懐へ飛び込めるらしい」

 

 その瞬間を、剣鉄也は見逃してはいなかった。そしてそれはキャプテンハーロックの隻眼も同様である。

 

エイサップ

「でもどうするんです? ダンクーガやブライガーがいればともかく、今の俺達であのバリアを突破できるのは……」

 

 新型炉心に切り替えたゲッターなら、可能かもしれない。しかし、ゲッターはここまでの戦いでかなり消耗しているのも事実だった。

 

槇菜

「エクス・マキナには、あそこまでの出力を一度に放出できる力はないし……」

ヤマト

「ゴッドマジンガーもだ。クソッ!」

三日月

「…………」

 

 一瞬、バルバトスのリミッターをさらに一段階解除するという選択肢が三日月に浮かび上がった。しかし、右手に巻きつけられたアトラのミサンガが視界に入り、その思考を棄却する。

 恐らく、これ以上リミッターを外せば今度こそ、三日月は戻って来れなくなる。そうなった時、自分がどうなってしまうのかを三日月は本能的に理解しそして、忌避していた。

 

鉄也

「……キャプテン。俺に考えがある」

 

 そんな中で、突破口を見出したのが鉄也だった。

 

ハーロック

「鉄也。まさかあれを使う気か?」

 

 出立の際、兜剣蔵博士から渡された秘密兵器。その名もグレートブースター。グレートマジンガーのスクランブダッシュを遥かに越える加速力を有し、その加速とマジンガーとの分離、合体機能を掛け合わせることでブースター自身を直接敵にぶつけることが可能な特攻兵器。

 

トチロー

「無茶だ。まだ一度もテストしてないんだぞ?」

 

 グレートブースターの速度はマッハ5。もし合体中に衝突事故でも起きようものなら、グレートマジンガーとてバラバラになってしまうだろう。

 

鉄也

「だがグレートブースターの最大出力ならば、あの訳のわからんバリアを破れるかもしれん!」

 

 鉄也の目に、迷いはない。迷いや恐れを捨てた心。明鏡止水。ドモン・カッシュとの修業の中、鉄也自身は何度も己の心を見つめ直してきた。

 

鉄也

「以前の俺なら、自分の力を証明するために無茶をやっちまったかもしれない。だが、今は違う。これは全員で生き残り、明日を掴むための最善手だ」

 

 命を捨て、命を燃やす。その果てにこそ明日を切り拓くことができる。捨て鉢の特攻とも取れるこの提案は鉄也が、そして皆がこの場を生き抜く為の決断だった。それをハーロックは、鉄也の目を数秒見つめ、確信する。

 

ハーロック

「わかった。グレートブースター射出準備。各機はブースターと敵の衝突後、アルカディア号を中心に一斉に敵の懐へ飛び込む!」

 

 ハーロックの指示の下、ゲッター1、ビルバイン、ヴェルビン、ライネック、アッカナナジン、バルバトス、それにエクス・マキナとアシュクロフトがアルカディア号の周りへと移動する。そして、その中央にはグレートマジンガー。

 

ハーロック

「よし……行くぞ。ブースター射出!」

 

 ハーロックの合図とともに、アルカディア号から発進するグレートブースター。その加速圧は凄まじく、その周辺を飛んでいたライネックは一瞬、風圧で飛ばされそうになる。

 

トッド

「うぉっ!?」

マーベル

「なんて速度なの!」

 

 それがグレートブースターだった。熱核にすら耐えるオーラバリアを持っていても、物理的な衝撃までは防ぐことはできない。それを今鉄也は、グレートマジンガーは自分のものとしようとしている。

 

鉄也

「…………」

 

 鉄也にも、緊張が走っていた。失敗すれば命はない。そしてコンマ1秒の狂いも許されない。

 

槇菜

「鉄也さん……!」

竜馬

「心配は無用だぜ、槇菜」

 

 しかし流竜馬は、確信していた。

 剣鉄也という男は、やると言ったことは必ずやり遂げる男だと。

 それはグレートブースターの射出から、実際には1秒にも満たない時間だった。だが、その時が来るまでのは、永遠のようにも感じられる。

 マジンガーがブースターと並走し、そして鉄也は一瞬のタイミングを見極める。そして、

 

鉄也

「装着完了!」

 

 グレートのスクランブルダッシュが格納され、超高速のグレートブースターから展開されたベルトがグレートマジンガーを掴む。僅かな空気抵抗すらも致命傷となる一連の動作を、鉄也は確実にやり遂げた。あとはその加速を自分のものにするため、鉄也はブースターを目一杯加速させながら上昇する。そして、

 

鉄也

「喰らえ、グレート・ブースター射出!」

 

 ドッキングを解除したグレートブースターが、多聞天目掛けて飛んでいったのだ。

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

 グレートブースターが多聞天の障壁をぶち破ったのと同時、その風穴目掛けて突入するものがある。アルカディア号。巨大な髑髏を掲げた海賊艦。巨大化した多聞天の顔よりも大きな髑髏のマークが、多聞天の眼前へと飛び込んだ。

 

多聞天

「不遜な旗を掲げるか。人間よ」

ハーロック

「海賊旗は自由の旗だ。たとえ神にだって、この旗に込められた誓いを否定することはできん!」

 

 アルカディア号の全砲門が、多聞天へと火を噴いた。並の戦艦ならば木っ端微塵にしてしまえるアルカディア号の全火力。そのありったけを叩きこむハーロックの眼光は鋭く神を射抜く。

 

多聞天

「…………この男は!」

 

 瞬間、多聞天は恐怖していた。キャプテンハーロック。その偉大な男の眼光に。

 

ラ・ミーメ

「カノン砲、チャージ完了」

ハーロック

「よし、カノン砲発射。続けて機動部隊のありったけを目標に浴びせる!」

 

 アルカディア号の主砲。3連装のパルサーカノン砲の集中砲火。その威力を前に多聞天の巨体が一瞬、揺らいだ。

 

ハーロック

「今だ! 機動部隊、突撃!」

 

 キャプテンの号令と同時、次々とアルカディア号から多聞天へと飛び込んでいくマシン達。その一番槍を買って出たのは、ウィングキャリバーに騎乗するヴェルビン。ショウ・ザマとマーベル・フローズン。二人の聖戦士だ。

 

マーベル

「ショウ、この距離なら!」

ショウ

「わかった! 合わせろマーベル!」

 

 ヴェルビンがウィングキャリバーからジャンプし、高く飛び上がる。それと同時、ウィングキャリバーは真紅のオーラバトラー・ビルバインへと姿を変える。

 

マーベル

「これで!」

 

 ビルバインはオーラバトラーとしては高機動と重装備を併せ持つ特殊なマシン。オーラキャノンを撃ちまくり、多聞天の動きを牽制していく。その間に、ヴェルビンが多聞天の間近へ迫る。

 

チャム

「ショウ!」

ショウ

「わかってる!」

 

 ヴェルビンのオーラソードに、ショウのオーラ力が宿る。だが、一人のオーラ力で神に勝つことなどできはしない。

 

マーベル

「ショウ、これを!」

 

 

 

 瞬間,ビルバインがオーラソードを投げた。ヴェルビンはそれをキャッチし、両手にオーラソードを掲げる。

 

多聞天

「聖戦士か。地上とバイストン・ウェル。二つの世界の調和のため戦う者が何故、神に剣を向ける」

ショウ

「俺が守るのは、命が生きる場所だ。それを奪おうとするならお前とは、戦ってみせる!」

 

 二本のオーラソードに聖戦士のオーラ力が宿り、オーラの奔流が起こった。オーラシュートとでも呼ぶべきその現象は、オーラ力の渦となり多聞天へと走っていく。

 

多聞天

「愚かな。ゲッターを放置すれば、やがて人間そのものが宇宙を喰らう存在に進化するぞ!」

ショウ

「その時は、俺がゲッターを斬る。それは人間が、この世界で生きる者がやるべきなんだ!」

 

 オーラ力の渦を受けながら、多聞天の表情に小さな苦悶が見えたのを、ショウは見逃さなかった。

 

ショウ

「エイサップ!」

エイサップ

「やってみます!」

 

 アッカナナジン。まるで桜花のように赤い七福神が、神の背後を取った。そして、

 

エイサップ

「落ちろよぉ!」

 

 オーラソードの一振り。エイサップのオーラ力を炎の形に具現化するナナジンのオーラフレイムソードは吹き荒ぶ炎を纏い、その剣圧は多聞天に届く。

 

多聞天

「リーンの翼。宇宙の輪廻を見届けてきた命の羽根に選ばれておきながら、神に刃向かうか!」

エイサップ

「俺はそんなものに選ばれちゃいない。リーンの翼が顕現するのは俺が選ばれたからじゃない。世界がそれを必要としているからだ!」

 

 多聞天が腕を振り上げると、巨大なエネルギーが剣の形を作る。体積差は歴然。喰らえばひとたまりもないそれが、アッカナナジンへと振り下ろされる。だが、当たる事はない。

 

槇菜

「エクス・マキナ。お願い!」

 

 エクス・マキナの召喚したシールド。一つ一つの粒子がセラフィムでできた命の護りがナナジンを庇うように前に出て、多聞天の攻撃を防ぐ。

 

多聞天

「旧神の護りか!」

槇菜

「まだ、終わりじゃない!」

 

 攻撃を受け切ると同時、シールドが形を変えていく。セラフィムの羽根が盾の形から巨大なハルバードへと変化し、エクス・マキナの槍になる。

 

槇菜

「ハァッ!」

 

 槍の形を取る光炎の輝き。その一振りが多聞天を飲み込んでいく。だが、それで倒れる神ではない。

 

多聞天

「ぬぅん!」

 

 その気迫で、エクス・マキナの攻撃は弾き返されてしまう。しかし、十分な牽制にはなっている。エクス・マキナが、ヴェルビンとビルバインが、アッカナナジンが気を散らせたその隙に、動き出すものがあった。

 それは、アルカディア号の甲板上。

 

ユウシロウ

「……………………」

ミハル

「……………………」

 

 骨嵬。そのひとつがいが、剣を携え神を見据えていた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

ユウシロウ

「……ミハル、大丈夫か?」

ミハル

「ええ。だけど……」

 

 動悸が治らない。きっとユウシロウもそうなのだろう、とミハルは思う。骨嵬は嵬の精神を擦り減らし、“恐怖”へと誘う機神。自らが鬼へと成り果ててしまうような恐怖を、ミハルはその胎内で鋭敏に感じ取っている。

 

ユウシロウ

「……安心しろ。もしお前が“恐怖”に取り込まれて、鬼になってしまったのならその時は、俺がお前を殺してやる」

ミハル

「ユウシロウ……」

 

 それはだが、逆も然り。

 

ミハル

(できない……。私にはきっと、ユウシロウを……)

 

 殺せない。彼を知る前ならばともかく今の自分では、ユウシロウを殺す事などできない。例え“恐怖”を具現化する鬼そのものに成り果ててしまったとしても。

 その時が来ないことを願いながら、ミハルは……骨嵬は歩み進んでいく。

 

──いざや。

──いざ往かん。

 

 そんな歌声が、ミハルの脳に直接響く。それは幾千年の歳月を越えて、少女の中に受け継がれしもの。

 

ミハル

(ユウシロウ、あなたの運命を私は……)

 

 この思いすらも、幾千年の月日に定められたものだとしたら。それが己の運命だとしたら。

 

ユウシロウ

「──それでも俺は、お前と共に生きたい」

 

 小さな呟きが、ミハルの耳に届いた。

 

ミハル

「えっ……?」

 

 それと同時、ユウシロウの骨嵬……朱天と名付けられた鎧武者が、剣を構える。

 

ユウシロウ

「俺の運命は俺が決める。例え神にだって、俺は従わない」

 

 剣の一振り。ユウシロウという嵬が乗り込んだ骨嵬の剣圧は、緑色に発光しその剣圧が多聞天に届く。

 

多聞天

「嵬……。“恐怖”を呼び起こすか!」

ユウシロウ

「俺は“恐怖”の奴隷になどならない」

 

 それはユウシロウの、決意の言葉。

 

ミハル

「……………………」

 

 やはり、ユウシロウは強い。自分にはやはり、そこまでの決意はできない。それでも、共に生きたいという気持ちだけはミハルも同じだった。故に、ミハルの骨嵬……克天と名付けられたそれも、長刀を振り上げる。

 

多聞天

「二つの骨嵬。二人の嵬。合わされば殺し合う運命を持つ者が、何故神に逆らう」

ミハル

「…………」

ユウシロウ

「己の運命を、越えるためだ」

 

 骨嵬。その起源にゲッター線を持つもの。ゲッターに選ばれ、しかしゲッター線の進化の中で振り落とされたまつろわぬ民・ガサラキの力の片鱗たるそれが、神に挑む。

 

多聞天

「わかっているのか。その力に呑まれれば、お前達は晴明のように鬼へと堕落する。それが嵬。呪われた血は、絶たねばならぬ!」

 

 多聞天の眼光が光を放つ。しかし、骨嵬の前に立ち塞がる巨神像ゴッドマジンガーが、黄金の輝きでその光を相殺していく。

 

ヤマト

「そうやって何でもかんでも否定するのが神様なのかよ! 神様なら、そういう奴らだって救って見せろよ!」

多聞天

「“光宿りしもの”か。だが魔神こそが、争いに明け暮れるムー王国を沈めたのだ。それと同じことを我はやろうとしているに過ぎぬ」

 

 ヤマトの知らない、ゴッドマジンガーの記憶。それを多聞天は知っている。しかし、だからと言って。

 

ヤマト

「過去は過去だ。俺はアイラと共に生きる未来のためなら、例え神にも悪魔にも従わねえ!」

多聞天

「それが、ゴッドマジンガーに選ばれた者の言うことか!」

 

 人間のエゴというものは度し難い。やはり滅ぼさねば、宇宙の安寧は守られない。

 

多聞天

「やはり人間は……ゲッター諸共滅ぶべきだ!」

 

 多聞天の右肩に聳える塔のようなものから、無数の光が放たれる。全てを滅する仏滅の光。孔雀状に放たれた光がゴッドマジンガーを、エクス・マキナを、アルカディア号を襲う。

 

マーガレット

「クッ……!」

槇菜

「シールド……!」

 

 セラフィムのイメージを広げ、全てを護るように展開するエクス・マキナ。しかし、イメージを広げれば広げるほど槇菜の脳は焼け付くような痛みを受ける。

 

桔梗

「槇菜!? このっ!」

 

 アシュクロフトのビットガンが、多聞天へと飛んだ。しかし、今更そんな攻撃の一つでどうこうできるものではない。それは体積差だけでなく、存在感の圧。プレッシャーで感じてしまう。

 

多聞天

「旧神の巫女……。哀れなり。全てを護ろうとすれば、その分巫女の霊力を吸うのが神というものだ」

槇菜

「っ……。それでも、エクス・マキナは全てを護る力がある。私の思いを通して、みんなを守るために、この力はあるんだ!」

 

 エクス・マキナの背中からアシンメトリーな光焔の翼がさらに広がっていく。神の攻撃を一身に引き受けながら、槇菜は歯を食い縛る。

 

多聞天

「神の威光を愚弄するその驕り。貴様は巫女に相応しくない」

 

 エクス・マキナにトドメを刺そうと、多聞天の放つ光がさらに強くなる。しかしその時、

 

三日月

「それを決めるのはお前じゃないんだよ」

 

 神仏の意向など見向きもしない、真に獰猛な孤狼が多聞天の左肩に乗り上げていた。ガンダム・バルバトスルプスレクス。その目を赤く滾らせ、巨大なロングメイスを振り上げる異形のガンダム。

 

多聞天

「貴様は……。何だ、その歪な器は」

三日月

「は?」

 

 多聞天が、神が狼狽する。

 

多聞天

「供仏に魂を入れてはならん! 貴様、その器に取り込まれようとしているのか!?」

 

 それは即ち、ゲッター線の齎す同化と同じこと。機械の器の中に、意志を宿す。その結果齎されるのは理性の崩壊。悪魔の所業。

 

多聞天

「ゲッター線に導かれずとも、人間は悪魔を造り出してしまう。やはり、生かしてはおけぬ!」

三日月

「だからさ。それを決めるのはお前じゃないって言ってるだろ」

 

 多聞天が振り上げるエネルギーの集積した剣。バルバトスはそれをくるりと回避する。普通のマシンではできない動き。しかしバルバトスは自分の……三日月の神経を尻尾に集中させることで尻尾の筋肉で飛び、テイルブレードを旋回させて空中でバランスを取りながら躱す。そして、

 

三日月

「……………………」

 

 思い切り、ロングメイスを叩き付ける。

 

三日月

「お前みたいな奴を、何人も見てきたよ」

 

 三日月・オーガスにとって、自分達の権利を、生命を上から踏み潰そうとする者は敵であることに変わりはない。それが権力と汚職、差別と偏見に塗れた大人達であろうと、厳粛な正義と秩序を掲げる神や仏であろうと、こちらの生きる権利に見向きもしない者に何の違いもありはしない。

 

三日月

「オルガ、次はどうすればいい?」

 

 故に、三日月はオルガに訊く。返ってくる返事が、わかっているから。

 

オルガ

「ああ。そいつは俺達の敵だ。俺達の命を、ネズミ以下のちっぽけなものだと見下す奴だ」

 

 アルカディア号から、オルガの言葉が通信越しに聞こえる。それが三日月には気持ちいい。やはり自分達は、二人で一人なのだと思えるから。

 

オルガ

「俺達の生きる場所を守れ、ミカ。そいつには、落とし前をつけてもらう!」

三日月

「了解」

 

 渾身の一振り、また一振り。ロングメイスの一打一打が、多聞天へと振り下ろされる。

 三日月には、共に戦う仲間がいる。オルガも、マーガレットも。三日月には、帰るべき場所がある。鉄華団。元の世界に残した家族達。三日月には、行かなきゃならない場所がある。アルカディア。例えどれほど遠くとも、共に見つけようと髑髏の旗に誓った場所。三日月には、共に生きるべき人がいる。アルカディア号で待つ、アトラの声を思い出す。右手に撒かれたミサンガの感触も、バルバトスに乗っている時なら感じることができる。

 だから、

 

三日月

「お前、邪魔だよ」

 

 たとえ神であろうとも、三日月・オーガスには関係ないことだった。いつもと同じように、降りかかる火の粉を払う。自分の、仲間の、家族の命を奪おうとする者は徹底的に叩く。今回はただ、的がでかいだけ。

 

多聞天

「このっ……悪魔がっ!」

三日月

「それは言われ慣れてる」

 

 三日月は生まれてからずっと、祈る神など持ってはいなかった。神という存在を概念では知っているが、三日月の知る限りその座を目指す者も、その座についた者もろくな奴がいない。だから悪魔と呼ばわれることにも三日月は、何の感情も湧かなかった。むしろこんな風に他人を見下し、生存の権利すら一方的に否定するのが神というものならば。

 

三日月

「悪魔でいいよ、別に」

 

 ロングメイスが多聞天の目を、耳を、鼻を潰す。徹底的に潰す。友の、隼人の得意技を三日月なりに真似てやっている。敵の図体がでかい分、潰しがいがあった。

 グサリ。という音と共に多聞天の右の目が潰れ、三日月がメイスを引き抜く。

 

多聞天

「つけあがるな、悪童が!」

三日月

「!?」

 

 しかし次の瞬間、多聞天の全身から放たれるオーラ……神通力とも言うべき謎の力学により、バルバトスは弾き飛ばされてしまう。

 

マーガレット

「三日月ッ!」

 

 エクス・マキナがハンドガンから銀の弾丸を撃ち込み、多聞天を迎撃する。しかし、銀の弾丸は不思議な重力を伴い多聞天へ届く前に落ちていく。

 

多聞天

「銀の弾丸とは、悪しき者を滅する力。神に届くことはない」

マーガレット

「な……ッ!?」

 

 吸血鬼、屍人、亡霊、悪鬼羅刹。邪悪なる魂を屠る銀の弾丸では、正真正銘の神を倒すことはできない。至極当然のことを突き付ける多聞天。次の瞬間、バルバトスに潰された目が、鼻が、耳が復活していく。

 

三日月

「あいつ……」

 

 尻尾をうまく使い、なんとかアルカディア号に不時着するバルバトス。あいつは、ヤバい。今まで戦ってきた誰よりも。三日月の直感がそう告げる。

 

多聞天

「もはや児戯は終わりだ。滅せよ人間!」

 

 多聞天の右腕に収束したエネルギーが、再び刃の形を取る。その渾身の一振りならば、質量差で全てを吹き飛ばし、バラバラにしてしまうだろう。

 

エイサップ

「クッ……!」

ラ・ミーメ

「あ、ああ……!」

槇菜

「エクス・マキナ! みんなを護らなきゃ……クゥッ!」

 

 エクス・マキナの光焔の翼が揺らぐ。

 

桔梗

「槇菜!?」

 

 エクス・マキナは、ゼノ・アストラをより本来の姿に近いもの変貌させた機神。性能も飛躍的に上昇しているが、同時に槇菜の精神力を著しく消耗しているのだ。

 今まではそれでも、どうにかなっていた。しかし、神という強大な力を前に槇菜の精神は限界に達そうとしていた。

 今はまだ、なんとかエクス・マキナの操縦自体はできている。しかし翼も盾も出力が下がり、銀の弾丸を敵は受け付けない。

 

マーガレット

「このままじゃ……!」

 

 万事休す。そんな言葉が浮かぶマーガレット。しかし、

 

槇菜

「ま、まだ……!」

 

 槇菜はまだ、諦めていない。

 

ヤマト

「そうだ。エクス・マキナが限界なら、俺とゴッドマジンガーがみんなの盾になる!」

ショウ

「俺達のオーラバリアも健在だ!」

 

 ゴッドマジンガーが吼える。ヴェルビンが、ビルバインが、ライネックが、アッカナナジンがエクス・マキナの前に出てオーラバリアを展開する。

 

マーガレット

「みんな……!」

マーベル

「槇菜には、みんな助けられているわ」

エイサップ

「ああ。だから今度は、俺達が盾になる!」

鉄也

「そうだ。ここで命を燃やさなきゃ、どこで燃やす!」

ハーロック

「全砲門用意。オーラバリアで攻撃を防ぎ、敵の攻撃が終わった後反撃に出る。グレートとアシュクロフト。骨嵬はその攻撃に加われ!」

 

 アルカディア号も、キャプテンハーロックもまだ戦いを諦めてはいなかった。

 

カムイ

「これは……」

 

 その光景を、ゲッターアークのコクピットでカムイは見る。

 

「どうやらこの世界にも、命を燃やしてる人たちがいるみたいだな」

拓馬

「ああ。俺達も続くぞ!」

 

 ゲッターアークが、オーラバトラー達の防壁に加わる。いや、アークはその中で尚攻勢に出ようとしていた。

 

多聞天

「愚かな。全員纏めて塵芥と化すがいい!」

拓馬

「させるかよぉっ!」

 

 アークの肘に搭載される刃が伸びる。バトルショットカッター。あらゆるものを両断する獰猛なる刃が、神の一打を食い止めんと展開される。しかし多聞天は質量も、体積も、全てにおいてアークよりも上。肉弾戦で勝てる相手ではない。

 

竜馬

「あいつら……」

 

 その光景は、竜馬の闘志に火をつけるのに十分だった。

 

 

…………

…………

…………

 

 

隼人

「アークが燃えている……!」

 

 目の前で神の一撃を受け止めるアーク。残りのエネルギーもわずかのゲッター1。満身創痍の仲間達。そんな中でも竜馬は真っ直ぐに、敵を見据えている。

 

竜馬

「隼人、弁慶。俺達も行くぞ」

弁慶

「だが、ゲッターの残りエネルギーは……」

 

 先のメカザウルスとの戦い。ニアグルースとの戦い。そして続いて現れた神。連戦の中でゲッターは消耗していた。

 

隼人

「これは……?」

 

 消耗していた、はずだった。隼人がメーターを確認すると、ゲッターエネルギーの残量が僅かだが回復している。元々、ゲッター線は右中から降り注ぐエネルギー。当初は完全無公害を謳い開発に取り組んでいたとは早乙女から聞いているし、新型炉心には自己回復能力が備わっている。しかし、こうも短時間で回復するとは。

 

隼人

(まさか、アークの影響か? それとも……)

 

 竜馬の闘志に応じて、ゲッター線も力を振り絞っているのか。真相は定かではない。だが、考えている時間もない。

 

竜馬

「ゲッタァァァッウィング!」

 

 ゲッター1の背中がマントのように広がり、そして飛ぶ。そしてゲッタートマホークにエネルギーを集約させると、多聞天のそれと同等のサイズに巨大化したトマホークで多聞天の攻撃を受け止める。

 

竜馬

「拓馬、てめえは下がりやがれ!」

拓馬

「んだとぉ!」

 

 言い合いながら、アークとゲッター1は渾身の力で多聞天の攻撃を押し返していく。まるで、ゲッター線同士が共鳴し合っているかのようにゲッター1の、アークのパワーが上がっていくのを多聞天は理解する。

 

多聞天

「クッ。猪口才な!」

竜馬

「いつも後出しでこっちを潰しに来るてめえが言うんじゃねえ!」

 

 竜馬が叫ぶと共に、ついにトマホークが多聞天を押し返す。この戦いではじめて、多聞天は膝をよろつかせた。

 

多聞天

「ゲッター線が活性化している。生きようとする人間どもの意志に答えているというのか!?」

竜馬

「だとしたら、それはゲッター線の力じゃねえ。俺達の、人間の力だ!」

 

 

 啖呵を切り、竜馬が行く。巨大化したトマホーク……ファイナルゲッタートマホークを振り回し、多聞天とあり得ないチャンバラを演じている。

 

多聞天

「ならば滅せよゲッター。我らの宇宙を汚させはせん!」

竜馬

「うぉぉぉりゃぁぁぁっ!」

 

 多聞天の剣圧がアルカディア号や仲間達に届かないのは、その全てをファイナルゲッタートマホークが受け止め相殺しているからだ。だが、そんな無茶な戦いはいつまでもは続かない。スタミナの面で、ゲッターが不利なことは火を見るより明らかだった。

 しかし、その火は別の魂に更なる火を起こす。

 

カムイ

「……人間の、いや生命の生きる力。即ち本能か」

拓馬

「ああ。そしてそれは、人間だけが持つ者じゃない。カムイ、お前にだって」

カムイ

「拓馬……。そうだな」

 

 わかっている。だからこそ今拓馬の、カムイの、獏の心は一つになっている。

 

拓馬

「よし、ありったけのゲッターエネルギーをあいつにぶち込む。ペダルを踏むタイミングを合わせるだ!」

カムイ

「おう!」

「おう!」

 

 叫ぶと同時、天高く飛ぶアーク。日輪を背に受けそして、全てのエネルギーを解放し多聞天へと突撃する!

 

拓馬

「ゲッタァァァッシャインッ!」

多聞天

「な……馬鹿な!」

 

 ゲッターシャイン。心を一つにしたゲッターにしかできぬ最終奥義。多聞天はその神通力で、アークに乗る者のうち一人は人間でないと見抜いていた。故に、ゲッターシャインはできない。そう考え、本来の滅すべき敵……竜馬達のゲッターを最重要目標と定めていた。

 しかし、そうではなかった。

 

カムイ

「確かに、私とこいつらでは銀河に描く理想の色は違う」

「だがな。共に戦い、運命を切り開く。その為に俺達は集まった」

拓馬

「神だかなんだか知らねえが、受けて見やがれ。アークシャイン・ボンバァァァァッッ!」

 

 アークシャイン・ボンバー。3つの心をひとつにすることで、アークのサンダーボンバーの威力をさらに3乗に上乗せし一点へと突撃するアーク最終奥義。光の速さで迫るそれに、多聞天は対応することができなかった。

 

多聞天

「グ、グォォォォォッ!?」

 

 ゲッターエネルギーの超爆発。それをモロに受け、多聞天は苦悶の叫びを上げる。

 

多聞天

「供仏に魂を入れてはならんのだ。ゲッター線は、ゲッターロボはぁっ!」

竜馬

「訳のわからねえことを言ってんじゃねえ!」

 

 多聞天の叫びを遮り、竜馬が吼える。ゲッターの残エネルギー。その全てを放出する最大出力のゲッタービームが放たれ、アークシャインボンバーを受けた多聞天の腹に直接、流し込まれた。

 

竜馬

隼人

弁慶

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

 竜馬が、隼人が、弁慶が。全身全霊の叫びに応えるようにゲッタービームのフルパワーも上がっていく。既に、ゲッターロボの残エネルギー量を越える出力のゲッター線を、フルパワーのゲッタービームは放出していた。

 マチュ・ピチュに残された遺跡群諸共、多聞天はゲッタービームに呑み込まれ、吹き飛ばされていく。やがてビームの光が止み、エネルギーメーターの振り切れたゲッターロボが残された。そして、

 

多聞天

「………………今回は、我々の負けということになるか」

 

 身体がバラバラに砕け、心の臓を失い、顔と肩だけになった多聞天が空から舞い散っていた。

 

槇菜

「ゲッターが……あの神様を倒したの?」

 

 エクス・マキナは答えない。誰もがその視線を、2機のゲッターと多聞天へ向けている。

 

多聞天

「だが、お前達は後悔することになる。ゲッターの進化は……。人類の存在は、全ての命を消し去る“発動”を早めることになる」

カムイ

「!?」

 

 “発動”。意味深なその言葉にカムイは眉根を寄せた。

 

カムイ

「やはり、そうか。この世界の『巨神』は……!」

鉄也

「『巨神』だと!?」

 

 木星帝国が手に入れたという『血まみれの巨神』。『(ゼウス)の雷』計画の中心に位置するその存在が多聞天と、それにカムイの口から出てきたことは少なからずVBの面々に動揺を与えていた。

 

槇菜

「知ってるの。『巨神』について……」

オルガ

「待て、“発動”って何だ。何のことを言ってやがる!」

 

 しかし、多聞天は答えない。代わりに返ってきたのは、不気味な笑い声だった。

 

多聞天

「この宇宙は滅びる。ゲッター、お前達の所業によって。フフフ、フハハハハハ!!」

 

 脳裏に響く笑い声は、永遠にも感じられた。しかし、実際には1分と経ってはいないだろう。それが止んだ時、既に多聞天の姿はどこにもなく、砂となり崩れた土塊が風に乗ってどこかへ消えていくのみだった。

 

 

 

 

…………

…………

…………

 

 

─アルカディア号/格納庫─

 

 

 

拓馬

「よいっしょと」

 

 そんな気の抜けた声と同時、ゲットマシンから拓馬が顔を出した時、待っていたのは熱烈な歓待だった。

 

隼人

「おい」

拓馬

「ん? ……えぇっ!?」

 

 拓馬の前にやってきた男を見たその瞬間、拓馬の肝っ玉は縮み上がる。拓馬だけではない。獏、カムイもまた少なからず、その姿に驚きを隠せないでいた。

 

カムイ

「神司令……」

 

 拓馬達が知るそれよりも幾分若いが、見間違えようもない。何よりその異様な存在感を、誰かと勘違いするはずもない。

 神隼人。彼は間違いなく、拓馬達の知る早乙女研究所・所長であり彼らに戦いの何たるかを教え、地獄を見せた男だった。

 

隼人

「拓馬、怪我を見せろ?」

拓馬

「え? ああ……」

 

 実際、多聞天との激しい攻防の中で頭を打った。メット越しでも血が出ているのは伝わる。しかし、戦いの中ではそれに頓着する余裕もなく、拓馬は後頭部から血を流していた。

 

拓馬

「こんなのケガのうちに入らねえ。放っときゃ治るよ」

隼人

「怪我を見てるんじゃねえ。血だ。竜馬から受け継いだというゲッターの血。それをもっと俺に見せろ」

 

 自分達の世界の神隼人とも、似たようなやり取りをした記憶が拓馬にはある。しかし、この神隼人は神司令よりも常軌を逸した目をしているのを、拓馬は皮膚感覚で感じていた。

 

隼人

「ヒ、ヒヒ。これがゲッター線の申し子の血か……」

拓馬

「お、おいカムイ、獏。助けてくれ〜!」

 

 拓馬の悲鳴が、格納庫に響く。

 

「お、おいカムイ」

カムイ

「あのバカが大人しくなるなら、それもいい。今から私はこの世界の事情を聞きにいく。返ってくるまで神さんの相手をしていろ」

 

 カムイの、爬虫類のように冷たい声。「そ、そんな殺生な……」という拓馬の断末魔と、興奮した隼人の笑い声が格納庫に響いていた。

 




次回予告
みなさんお待ちかね!
マチュ・ピチュでゲッターアークと合流したアルカディア号。一方その頃、国連軍極東基地に危機が迫っていました。父の窮地に駆けつけるアラン駆るブラックウィング。そして今、天翔る竜と最後の戦士が目覚めようとしていたのです!
次回、「獣を越え、神を越え、出でよ最後の戦士ファイナルダンクーガ」に、レディ・ゴー!
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